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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】椎体疾患用装具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/01 20060101AFI20240209BHJP
   A61F 5/02 20060101ALI20240209BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20240209BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
A61F5/01 E
A61F5/02 K
A41D13/05 125
A41D13/05 131
A41D13/05 118
A41D13/12 145
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020138650
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034784
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000151380
【氏名又は名称】アルケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】中込 晶
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-218779(JP,A)
【文献】特開2016-036437(JP,A)
【文献】特開2019-196567(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354530(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01
A61F 5/02
A41D 13/05
A41D 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の背中を固定する背当て部と、
前記装着者の腰部を固定する腰当て部と、
前記装着者の体幹への圧迫圧を調整可能な体幹圧迫ベルト部材と、を備え、
前記体幹圧迫ベルト部材は、腰ベルト部材と、下方ベルト経由部と、第1素材を含む下方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む下方補助バンド部材と、を含み、
前記腰ベルト部材は、一端が前記腰当て部に連結され、前記下方ベルト経由部で折り返され、前記装着者の下腹部側を回り込み、他端が前記腰当て部に係着し、
前記下方牽引補助バンド部材は、一端が下方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記下方ベルト経由部に連結され、
前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性がある、椎体疾患用装具。
【請求項2】
前記第1素材は、伸縮性素材からなる、
請求項1に記載の椎体疾患用装具。
【請求項3】
前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、
前記体幹圧迫ベルト部材は、肩ベルト部材と、上方ベルト経由部と、上方補助バンド部材と、を含み、
前記肩ベルト部材は、一端が前記背当て部に連結され、他端が前記装着者の肩部周辺あるいは胸部周辺を通り、前記上方ベルト経由部で折り返され、前記胸当て部に係着する、
請求項1又は2に記載の椎体疾患用装具。
【請求項4】
前記体幹圧迫ベルト部材は、第1素材を含む上方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む上方補助バンド部材と、をさらに含み、
前記上方牽引補助バンド部材は、一端が上方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記上方ベルト経由部に連結され、
前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性がある、
請求項3に記載の椎体疾患用装具。
【請求項5】
周径方向における前記下方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の椎体疾患用装具。
【請求項6】
周径方向における前記上方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nである、
請求項4に記載の椎体疾患用装具。
【請求項7】
前記腰当て部は、腰ベルト保持部を有し、
前記腰ベルト保持部は、前記腰ベルト部材を挿通して保持させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の椎体疾患用装具。
【請求項8】
前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、
前記胸当て部は、肩ベルト保持部を有し、
前記肩ベルト保持部は、前記肩ベルト部材を挿通して保持させる、
請求項3、4、及び6のいずれか一項に記載の椎体疾患用装具。
【請求項9】
前記肩ベルト部材の剛軟度が90~800mmである、
請求項3、4、6、及び8のいずれか一項に記載の椎体疾患用装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着されて使用される椎体疾患用装具に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂猫背や腰曲がりといった脊椎が弯曲する姿勢を続けると、脊椎を構成する椎体が変形、あるいは損傷してしまう。このように椎体が変形、あるいは損傷する疾患(以下、「椎体疾患」という)としては、椎体圧迫骨折及び側弯症などの脊椎変形症や、腰部脊柱管狭窄症並びに椎間板ヘルニア等が知られている。これらの椎体疾患のうち、特に椎体が後弯する疾患においては、椎体が丸まり、上半身の姿勢が前屈みとなることから、体重が身体の前方にかかることになる。その結果、腹部が圧迫されて腹部内の圧力が高まり、これにより胃が胸部側に向けて押圧されてしまう。それ故、椎体が後弯する疾患を患うと、合併症として胃液が胃から食道へと逆流し、所謂逆流性食道炎を併発するとの事象が広く知られている。さらに、この椎体疾患の合併症として、心肺機能の低下等も認識されている。
【0003】
また、青少年期の激しい運動の結果、椎体を損傷し、腰椎の椎体と椎弓が離れてしまった腰椎分離症や分離すべり症等が、椎体疾患として知られている。
【0004】
このような椎体疾患、及びこれにより発症する合併症の予防及び/又は治療としては、上半身の姿勢を矯正し、椎体変形あるいは損傷の予防及び/又は治療を行うことが通常である。この予防及び/又は治療を実現するため、上半身用の姿勢矯正用装具が案出されている。この種の姿勢矯正用装具として、例えば特許文献1には、装着者の体幹を十分に支持し、適正な姿勢を保持させることで椎体の変形あるいは損傷を予防及び/又は治療することができる椎体疾患用装具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-036437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような椎体疾患用装具は、装着者がベルト部材を引っ張ることで体幹への圧迫圧を調整可能に構成されている。近年、このような椎体疾患用装具の装着者は、高齢者が多い傾向にある。高齢者はベルト部材を引っ張る力が弱い傾向にあるため、弱い力でも体幹への圧迫圧が調整可能な椎体疾患用装具が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、弱い力でも体幹への圧迫圧が調整可能な椎体疾患用装具を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、装着者の背中を固定する背当て部と、前記装着者の腰部を固定する腰当て部と、前記装着者の体幹への圧迫圧を調整可能な体幹圧迫ベルト部材と、を備え、前記体幹圧迫ベルト部材は、腰ベルト部材と、下方ベルト経由部と、第1素材を含む下方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む下方補助バンド部材と、を含み、前記腰ベルト部材は、一端が前記腰当て部に連結され、前記下方ベルト経由部で折り返され、前記装着者の下腹部側を回り込み、他端が前記腰当て部に係着し、前記下方牽引補助バンド部材は、一端が下方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記下方ベルト経由部に連結され、前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性がある、椎体疾患用装具を提供する。
前記第1素材は、伸縮性素材からなっていてよい。
前記椎体疾患用装具は、前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、前記体幹圧迫ベルト部材は、肩ベルト部材と、上方ベルト経由部と、上方補助バンド部材と、を含み、前記肩ベルト部材は、一端が前記背当て部に連結され、他端が前記装着者の肩部周辺あるいは胸部周辺を通り、前記上方ベルト経由部で折り返され、前記胸当て部に係着してよい。
前記体幹圧迫ベルト部材は、第1素材を含む上方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む上方補助バンド部材と、をさらに含み、前記上方牽引補助バンド部材は、一端が上方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記上方ベルト経由部に連結され、前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性があってよい。
周径方向における前記下方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nであってよい。
周径方向における前記上方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nであってよい。
前記腰当て部は、腰ベルト保持部を有し、前記腰ベルト保持部は、前記腰ベルト部材を挿通して保持させてよい。
前記椎体疾患用装具は、前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、前記胸当て部は、肩ベルト保持部を有し、前記肩ベルト保持部は、前記肩ベルト部材を挿通して保持させてよい。
前記肩ベルト部材の剛軟度が90~800mmであってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、弱い力でも体幹への圧迫圧が調整可能な椎体疾患用装具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1の模式背面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1の模式正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1を装着した状態を示す正面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1を装着した状態を示す側面斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1を装着した状態を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨の範囲内で種々の組合せ、変形及び変更が可能である。
【0012】
以下の実施形態の説明において、略平行、略直交のような「略」を伴った用語で構成を説明することがある。例えば、略平行とは、完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行である、すなわち、完全に平行な状態から例えば数%程度ずれた状態を含むことも意味する。他の「略」を伴った用語についても同様である。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0013】
特に断りがない限り、図面において、「上」とは図中の上方向又は上側を意味し、「下」とは、図中の下方向又は下側を意味し、「左」とは図中の左方向又は左側を意味し、「右」とは図中の右方向又は右側を意味する。また、図面については、同一又は同等の要素又は部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
また、本発明において、「背中」とは、両肩甲骨下縁から腰に至るまでの背面を指し、「腰部」とは、肋骨下縁から腸骨に至るまでの体軸(身長方向)に沿った体部であり、所謂側腹(脇腹)、上腹部及び下腹部を含むものを指し、「胸部」とは、鎖骨近傍から肋骨下縁に至るまでの体軸に沿った体部であり、肋骨周囲を指す。
【0015】
[(1)本実施形態の概要]
本発明の一実施形態に係る椎体疾患用装具1について図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は、当該椎体疾患用装具1を装着者の後方側から観察した背面図である。図2は、当該椎体疾患用装具1における装着者との対向面を示す正面図である。さらに、当該椎体疾患用装具1の装着状態について図3乃至図5を参照しつつ説明する。図3は、装着者の正面図、図4は装着者の側面斜視図、図5は装着者の背面図である。なお、以下の説明において、説明の便宜上、椎体疾患用装具を単に「装具」という。
【0016】
図1に示すとおり、装具1は、装着状態において装着者の両肩甲骨下縁から腰にかけて覆う背当て部2と、この背当て部2における腰部側の両側縁に連結され、略水平方向に延びる一対の腰当て部3と、背当て部2の肩甲骨側の両側縁に連結され、腰当て部3と略平行に設けられる一対の胸当て部4と、を備える。すなわち、装具1は、装着者の背中を固定する背当て部2と、該背当て部2に繋がり、装着時に背当て部2側から下腹部側に回り込んで腰部を固定する腰当て部3と、背当て部2に繋がり、装着時に背当て部2側から胸部側に回り込んで胸部を固定する胸当て部4と、を備える。
【0017】
[(2)背当て部]
背当て部2は、人体の両肩甲骨下縁から腰までを覆い得るだけの長さを有する。また、この背当て部2は、天然繊維や化学繊維よりなる織布、編布、不織布、パイル生地、あるいはプラスチックフォームなどを単独又は任意に組合せて形成される。具体的な素材としては、例えば綿、ウール、レーヨン、アクリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニリデン等の繊維を適宜組み合わせてなる、横編み布の天竺、経編み布のジャージ生地、パワーネットのような弾性糸混紡編物、ダブルラッセル生地の立体編物等がある。さらに、これらの生地とゴム発泡体(クロロプレン、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム等)、ウレタン発泡体(圧縮ウレタン)等のフォーム材料を積層した複合材料を用いることができる。
【0018】
図2に示すとおり、背当て部2において、装着者の背中と対向する正面の略中央部には、装着者の背中を保護する緩衝体21が内蔵される。この緩衝体21は、例えば連続気泡発泡体や不織布などの繊維状材料で形成したものであり、装着状態において装着者の脊椎及びその近傍を覆い得るだけの幅を有する。この緩衝体21により、凹凸のある椎体部位に対する背当て部のフィット性を高め、装具1を長時間着用した場合でも、装着者の違和感や物理刺激を軽減することが可能となっている。
【0019】
また、背当て部2には、装着者の背中を支持するための背中固定用部材2aが内蔵されている。この背中固定用部材2aは、編布等の繊維状材料を複数層積層させた基材に硬化性樹脂を保持させたものである。硬化性樹脂としては、水硬化性樹脂や光硬化性樹脂等を用いることができる。水硬化性樹脂としては、例えば、特開2000-189449号公報に開示されるような、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーと触媒、その他の添加物からなるポリウレタンプレポリマー組成物が好適に用いられる。光硬化性樹脂としては、例えば、国際公開番号WO2006/090605に記載されるようなウレタン(メタ)アクリレート樹脂が好適に用いられる。また、基材としては、編布、織布、不織布等の繊維材料が用いられることが好ましいが、発砲ビーズなどの粒状体、フォーム材などが用いられてもよい。
【0020】
なお、背中固定用部材2aの素材は硬化性樹脂を保持するものであるが、この背中固定用部材2aの素材はこれに限られず、例えばポリプロピレン製の樹脂が採用されてもよい。また、背中固定用部材2aとして、金属製板部材が採用されてもよい。
【0021】
このような背中固定用部材2aによれば、基材に保持された硬化性樹脂に対して硬化剤を添加することにより、背中固定用部材2a全体が硬化する。これにより、背当て部2は、個体差がある装着者の背中の形状に適した形状へと成形される。
【0022】
[(3)肩ベルト部材]
図1の説明に戻る。背当て部2には、装着者の両肩に掛け回される肩当て部5が含まれる。この肩当て部5は、装着者の胸椎上部から頸椎その近傍を覆い得るように形成された肩当て部本体51と、この肩当て部本体51に連結されると共に装着者の両肩に掛けられる一対の肩ベルト部材52と、を有する。
【0023】
各肩ベルト部材52は帯状に形成され、一端が肩当て部本体51の自由端側に連結され、他端は該肩ベルト部材52を胸当て部4に係合させるための第一係着体55aに連結される。このように形成された各肩ベルト部材52は上方ベルト経由部22に通され、この上方ベルト経由部22を介して折り返され、屈曲している。
【0024】
上方ベルト経由部22は、例えば肩ベルト部材52が挿通される長孔を有して輪状に形成されている。このような上方ベルト経由部22は、例えば、装着時において装着者の肩甲骨近傍に対応して背当て部2の背面に配置される。すなわち、装着時において、各肩ベルト部材52は装着者の肩甲骨近傍にて折り返されるようになっている。また、各肩ベルト部材52は上方ベルト経由部22に挿入されることでループ状をなし、このループ内に装着者の肩を通すことが可能となっている。なお、上方ベルト経由部22は背当て部2の背面に直接固定されていてもよい。
【0025】
また、各肩ベルト部材52は、長さ調整機構により長さが調整できることが好ましい。これにより、装着者の体格に合わせた装具1のサイズ展開幅を減らすことができるため、製造コストが低減される。また、装着者に応じて装具1がフィットし易くなる。長さ調整機構の一例として、バックル機構を配置した構成や、肩ベルト部材52を複数に分割し、分割した肩ベルト部材52同士を係着可能とする構成等が挙げられる。特に、肩ベルト部材52を短い部材と長い部材に2分割可能な構成にする構成が簡便である。この場合、分割された肩ベルト部材52の一方を、肩当て部本体51の自由端側に連結される短い肩ベルト部材とし、他方を、面ファスナー等の着脱手段で短い肩ベルト部材と連結可能な長い肩ベルト部材とすることができる。これにより、短い肩ベルト部材と長い肩ベルト部材の係着位置を調整することで、肩ベルト部材全体の長さを調整することが可能となる。
【0026】
さらに、各肩ベルト部材52には、肩保護部54を設けることができる。この肩保護部54は肉厚で軟質な部材からなり、装着状態において装着者の肩部の前面を覆い得るように配置され、装着者の褥瘡の防止や、装着感を向上させる効果がある。なお、この肩保護部54の構成は必ずしも設ける必要はないが、上記効果を考慮すれば、設けるほうがよい。
【0027】
肩ベルト部材52の剛軟度は、JIS L 1096に準じた測定値で90~800mmが好ましく、230~610mmがより好ましく、370~420mmがさらに好ましい。
【0028】
肩ベルト部材52の剛軟度がこのように設定されることにより、肩ベルト部材52のねじれが低減される。その結果、装着者が肩ベルト部材52に肩を通しやすくなり、装具1が装着しやすくなる。
【0029】
なお、肩当て部5は、装着者の背中、腰部、及び胸部を支持し、上半身の姿勢を矯正する上では必ずしも必要なものではない。ただし、肩ベルト部材52は肩当て部5の一部を構成し、且つ、体幹圧迫ベルト部材6の一部を構成している。このため、肩当て部5の構成を設けない場合には、装着者の上半身の姿勢変化をより確実に抑制するため、肩ベルト部材52に相当する構成を有することが好ましい。
【0030】
[(4)係着体]
装具1は、第一係着体55a及び第二係着体55bを備えることができる。第一係着体55a及び第二係着体55bのそれぞれは、装具1全体で二つずつ設けられる。第一係着体55a及び第二係着体55bは全体略半円状に形成され、二重構造をなして袋状に形成されていてよい。肩ベルト部材52の一端は第一係着体55aに挿入されて連結される。腰ベルト部材56の一端は第二係着体55bに挿入されて連結される。
【0031】
第一係着体55aは、胸当て部4に着脱自在に係着する構成であってよい。第二係着体55bは、腰当て部3に着脱自在に係着する構成であってよい。この構成を実現するために、係着体としては、例えば汎用の面ファスナー、いわゆるメカニカルファスナー、インターロック、フック、ボタン等が用いることができる。
【0032】
あるいは、それ自体面ファスナー等の性質を有する布地により第一係着体55a及び第二係着体55bが構成されてもよい。例えば、外面布地をポリアミド、ポリエステル、塩化ビニリデン等の素材でパイル状とすることで面ファスナーとして利用できる。
【0033】
第二係着体55bに連結される腰ベルト部材56は、帯状に形成されている。腰ベルト部材56は、一端が腰当て部3に連結され、下方ベルト経由部23で折り返され、装着者の下腹部側を回り込み、他端が第二係着体55bを介して腰当て部3に係着する。
【0034】
なお、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56が、一つの係着体を介して一体となるように構成されていてもよい。
【0035】
あるいは、係着体を介さず、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56が直接に係着できるよう構成されてもよい。このように構成する手段としては、例えば肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の自由端側に面ファスナーを設ける等がある。また、腰ベルト部材56も肩ベルト部材52と同様に、長さ調整機構を備えていてもよい。
【0036】
あるいは、下方ベルト経由部23は、背当て部2の背面に直接固定されていてもよい。
【0037】
[(5)補助バンド部材]
背当て部2の背面には、帯状に形成されており、装具1の固定力を補う補助バンド部材24が固定されている。この補助バンド部材24は、背当て部2の肩甲骨側に設けられる上方補助バンド部材24aと、背当て部2の腰部側に設けられる下方補助バンド部材24bと、を含む。
【0038】
上方補助バンド部材24aは、装着者の肩甲骨の下辺縁周辺にて折り返されている。この上方補助バンド部材24aの一端は、背当て部2の略中央部であって、装着者の胸椎周辺に対応する肩甲骨側の端部に固定されている。上方補助バンド部材24aの他端は、装着者の体軸に沿って一端に対して変位した位置に、且つ、背当て部2の略中央部であって装着者の胸椎周辺に対応して固定されている。その結果、上方補助バンド部材24aは背当て部2に対して略V字状に設けられ、装着者の広背筋と対向する位置に設けられる。このように形成された上方補助バンド部材24aは装具全体で一対設けられ、一対の上方補助バンド部材24aは装着者の体軸を軸線として左右対称となるように背当て部2に設けられている。
【0039】
下方補助バンド部材24bは、装着者の腰部周辺にて折り返されている。この下方補助バンド部材24bの一端は、上方補助バンド部材24aの他端と隣接するようにして、背当て部2の略中央部であって装着者の胸椎周辺に対応して固定されている。下方補助バンド部材24bの他端は、背当て部2に係る腰部側の端部の外側縁に固定されている。その結果、下方補助バンド部材24bは背当て部2に対して略V字状に設けられ、装着者の腰部と対向する位置に設けられる。このように形成された下方補助バンド部材24bは装具全体で一対設けられ、一対の下方補助バンド部材24bは装着者の体軸を軸線として左右対称となるように背当て部2に設けられている。
【0040】
なお、補助バンド部材24は装具1全体の固定力を補う部材であることから必ずしも必須の構成ではないが、装具の固定力向上の観点からすれば、この補助バンド部材24を設けるほうが好ましい。
【0041】
さらに、肩ベルト部材52、腰ベルト部材56、及び補助バンド部材24の素材は、それぞれ異なっていてよい。例えば肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の素材は非伸縮性のものが用いられ、補助バンド部材24の素材は伸縮性のものが用いられてよい。ただし、補助バンド部材24、肩ベルト部材52、及び腰ベルト部材56の素材を同一とした方が製造コストを低減できる。
【0042】
[(6)牽引補助バンド部材]
さらに、背当て部2の背面には、装着者の牽引力を補う牽引補助バンド部材25が設けられている。この牽引補助バンド部材25は、背当て部2の肩甲骨側に設けられる上方牽引補助バンド部材25aと、背当て部2の腰部側に設けられる下方牽引補助バンド部材25bと、を含む。なお、牽引補助バンド部材25は、上方牽引補助バンド部材25aを含んでいなくてもよいし、下方牽引補助バンド部材25bを含んでいなくてもよい。
【0043】
下方牽引補助バンド部材25bは、一端が下方補助バンド部材24bを介して背当て部2に連結され、他端が下方ベルト経由部23に連結される。より詳しく説明すると、下方牽引補助バンド部材25bの一端は、下方補助バンド部材24bが折り返されて屈曲する位置に固定される。
【0044】
上方牽引補助バンド部材25aは、一端が上方補助バンド部材24aを介して背当て部2に連結され、他端が上方ベルト経由部22に連結される。より詳しく説明すると、上方牽引補助バンド部材25aの一端は、上方補助バンド部材24aが折り返されて屈曲する位置に固定される。
【0045】
牽引補助バンド部材25(下方牽引補助バンド部材25b及び上方牽引補助バンド部材25a)に含まれる第1素材は、補助バンド部材24(下方補助バンド部材24b及び上方牽引補助バンド部材25a)に含まれる第2素材よりも伸縮性があってよい。牽引補助バンド部材25に伸縮性があることにより、装着者は、弱い力であっても、牽引補助バンド部材25を伸ばしながら腰ベルト部材56又は肩ベルト部材52の自由端側を引っ張ることができる。
【0046】
腰ベルト部材56、下方牽引補助バンド部材25b、及び下方補助バンド部材24bは、互いに協働して装着者の体幹に対する圧迫圧の調整に寄与し、体幹圧迫ベルト部材6を構成している。
【0047】
肩ベルト部材52、上方牽引補助バンド部材25a、及び上方補助バンド部材24aは、互いに協働して装着者の体幹に対する圧迫圧の調整に寄与し、体幹圧迫ベルト部材6を構成している。
【0048】
第1素材は、伸縮性素材からなる。第1素材は、ゴム材として、例えば、スチレン・ブタジエン系ゴム、天然ゴム、ニトリル系ゴム、クロロプレン系ゴム、ブチル系ゴム・シリコン系ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、フッ素系ゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム等が用いられてよい。
【0049】
あるいは、第1素材は、エラストマー材として、例えば、ポリウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シンジオタクチック1・2エラストマー、塩素系エチレンコポリマー架橋ポリマーアロイ、塩素化ポリエチレン、エステル・ハロゲン系ポリマーアロイ型エラストマー等が用いられてよい。
【0050】
第2素材は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド、レーヨン、アクリル、キュプラ、アセテート、プロミックス、アラミド、シリコーンなどの化繊、綿、羊毛、絹、麻、レーヨンなどの天然繊維、ポリ塩化ビニル等が用いられてよい。
【0051】
なお、上方牽引補助バンド部材25aに含まれる素材と、下方牽引補助バンド部材25bに含まれる素材は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
周径方向における牽引補助バンド部材25の引張応力は、9.1~68.7Nであり、好ましくは25.4~45.9Nである。引張応力とは、例えば下方牽引補助バンド部材25bが周径方向に引っ張られるときに下方牽引補助バンド部材25bに作用する応力をいう。周径方向における下方牽引補助バンド部材25bの引張応力が上記範囲に設定されることで、腰ベルト部材56を弱い力で引っ張っても体幹への圧迫圧が適切に調整できる。
【0053】
ここで、引張応力と圧迫圧との関係について説明する。表1は、本実施形態に係る牽引補助バンド部材25の特性を示す表である。表中、引張伸度とは、例えば下方牽引補助バンド部材25bが周径方向に引っ張られるときに下方牽引補助バンド部材25bが伸長する長さの割合を指し、下方牽引補助バンド部材25bの初期状態における引張伸度を0%とする。
【表1】
【0054】
表1に示すとおり、体幹への圧迫圧が10mmHgであるとき、下方牽引補助バンド部材25bの引張伸度が5%であり、引張応力は9.1Nである。一方で、下方牽引補助バンド部材25bが設けられていない比較例では、体幹への圧迫圧が10mmHgであるとき、腰ベルト部材56の引張応力は27.9Nである。つまり、本実施形態では引張応力が約67.4%低減されており、装着者が弱い力で引っ張ることが可能である。
【0055】
体幹への圧迫圧が20mmHgであるとき、下方牽引補助バンド部材25bの引張伸度が25%であり、引張応力は25.4Nである。比較例における引張応力は33.7Nであるため、引張応力が約24.6%低減されている。
【0056】
体幹への圧迫圧が40mmHgであるとき、下方牽引補助バンド部材25bの引張伸度が80%であり、引張応力は45.9Nである。比較例における引張応力は78.1Nであるため、引張応力が約41.2%低減されている。
【0057】
体幹への圧迫圧が50mmHgであるとき、下方牽引補助バンド部材25bの引張伸度が140%であり、引張応力は68.7Nである。比較例における引張応力は103.4Nであるため、引張応力が約33.6%低減されている。
【0058】
ここで、周径方向の引張応力の測定方法について説明する。引張応力の測定には、定速伸長形引張試験機(島津製作所製“オートグラフ(登録商標)”AG-20KNI、1kNロードセル)を用いることができる。
【0059】
牽引補助バンド部材25を所定長さに切断して試験片を作成し、当該試験片を定速伸長形引張試験機に取り付ける。この際、つかみ長さを25mmとし、つかみ間隔を100mmとする。そして、毎分つかみ間隔100mmの速度で試験片を引っ張り、各引張応力を測定する。その後、測定した引張応力をつかみ長さで割ることで、単位長さ当たりの引張応力を算出できる。
【0060】
なお、当該測定方法は一例であって、引張応力の測定方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により測定することができる。
【0061】
[(7)腰当て部]
腰当て部3は、背当て部2の腰部側の両側縁に一対固定され、該背当て部2に対して略水平方向に延びるようにして形成される。腰当て部3(第一腰当て部3a及び第二腰当て部3b)は帯状に形成され、装着時には背当て部2から装着者の側腹部及び下腹部までを覆い得るように形成される。
【0062】
腰当て部3は、引張伸度が調整された伸縮性素材が用いられることができる。具体的な材料としては、ポリウレタン等の弾性糸を入れた伸縮性織りベルト、ポリウレタン、スチレン・イソプレン・スチレン等の不織布、ポリウレタン、合成ゴム(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム等)、天然ゴム等のゴム弾性体等も使用することができる。なお、腰当て部3に非伸縮性の生地を用いる場合には、綿、アクリル、ポリエステル、ポリアミドなどを使用することができる。
【0063】
なお、腰当て部3は、背中固定用部材2aと同様の構成が配されてもよい。これにより、腰当て部3は、装着者の腰部をより確実に支持できる。
【0064】
装着者の背中と対向する第二腰当て部3bには、第一腰当て係着部31が設けられる。この第一腰当て係着部31は、第二腰当て部3bの自由端側の端部に形成され、該第二腰当て部3bの正面に固定されている。なお、本実施形態に係る装具1では、第一腰当て係着部31が第二腰当て部3bに設けられているが、第一腰当て係着部31が第一腰当て部3aに設けられてもよい。
【0065】
腰当て部3の背面には、第二腰当て係着部32が形成されている。
【0066】
第一腰当て係着部31は、第二腰当て係着部32に着脱自在に係着する構成であってよい。この構成を実現するために、係着部としては、例えば汎用の面ファスナー、いわゆるメカニカルファスナー、インターロック、フック、ボタン等が用いられることができる。
【0067】
あるいは、それ自体面ファスナー等の性質を有する布地により腰当て部3の正面や背面が構成されてもよい。例えば、外面布地をポリアミド、ポリエステル、塩化ビニリデン等の素材でパイル状とすることで面ファスナーとして利用できる。本実施形態では、係着部として面ファスナーを採用し、第一腰当て係着部31にはフック状に起毛された部材を配し、第二腰当て係着部32にはループ状に起毛された部材を配する。
【0068】
腰当て部3は、腰ベルト保持部33を有していてよい。腰ベルト保持部33は、腰ベルト部材56を挿通して保持させることができる。これにより、装具1が装着されるとき、装着者が視認可能な位置に腰ベルト部材56が配置される。その結果、装着者は、腰ベルト部材56を容易に持つことができる。
【0069】
[(8)胸当て部]
胸当て部4は、第一腰当て部3aに対して略平行に配置される第一胸当て部4aと、第二腰当て部3bに対して略平行に配置される第二胸当て部4bと、を備える。第一胸当て部4aは、装着時において背当て部2から装着者の胸部を覆い得る帯状に形成される。胸当て部4は、腰当て部3と同様に、引張伸度が調整された伸縮性素材を用いることができる。
【0070】
第一胸当て部4aの背面には、胸当て係着部41が設けられる。胸当て係着部41は、第一腰当て係着部31及び第二腰当て係着部32と同様の構成を採用することができ、本実施形態では面ファスナーを適用した例を説明する。
【0071】
第二胸当て部4bの背面には第一胸当て部4aが挿通される固着リング43が固定されている。この固着リング43は、例えば第一胸当て部4aが挿通される長孔を有して輪状に形成されている。
【0072】
腰当て部3と同様に、胸当て部4は、肩ベルト保持部4cを有していてよい。肩ベルト保持部4cは、肩ベルト部材52を挿通して保持させることができる。これにより、装具1が装着されるとき、装着者が視認可能な位置に肩ベルト部材52が配置される。その結果、装着者は、肩ベルト部材52を容易に持つことができる。
【0073】
[(9)装着手順]
装具1の装着手順について説明する。装着者は、各肩ベルト部材52が形成するループに左右の腕を入れ、各肩ベルト部材52を左右の肩に掛ける。これにより、装着者は、背当て部2を背中で負う。
【0074】
次に、装着者は、第一腰当て部3a及び第二腰当て部3bの両端を持ち、腰部を締め付けるように力を加えながらこれら第一腰当て部3a及び第二腰当て部3bが下腹部に回り込むように牽引する。そして、装着者の下腹部の前面にて第一腰当て係着部31を第二腰当て係着部32に係合させる。これにより、装着者の腰部が締め付けられる。
【0075】
次に、装着者は、腰ベルト部材56が連結された第二係着体55bを持ち、腰ベルト部材56を引っ張り、第二係着体55bを腰当て部3に係着させる。
【0076】
次に、装着者は、第一胸当て部4aと第二胸当て部4bを持ち、装着者の胸部を締め付けるように力を加えながら第一胸当て部4aが装着者の胸部を回り込むようして牽引する。その後、装着者は、第一胸当て部4aを第二胸当て部4bに設けられた固着リング43に挿通させ、さらにこの固着リング43を介して第一胸当て部4aを折り返す。続いて、装着者は、該第一胸当て部4aが有する胸当て係着部41同士を係着させる。これにより装着者の胸部が締め付けられる。この胸当て部4が装着者の肋骨下縁近傍(アンダーバスト)を締め付けるようになっている。
【0077】
次に、装着者は、肩ベルト部材52が連結された第一係着体55aを持ち、肩ベルト部材52を引っ張り、第一係着体55aを胸当て部4に係着させる。
【0078】
なお、装着手順はこの手順に限られない。例えば、装着者は、胸当て部4を装着した後に、第二係着体55bを腰当て部3に係着させてもよい。
【0079】
[(10)その他の効果]
本実施形態に係る装具1によれば、背当て部2により装着者の背中が、腰当て部3により装着者の腰部が、胸当て部4により装着者の胸部が締め付けられる。これにより、装着者の背中、腰部、及び胸部を含む体幹が一体的に固定される。装具1は、各部位の圧迫圧を高めて装着者の上半身の全体的な動きを規制できるため、脊椎に作用する負担を軽減して椎体が変形あるいは損傷するのを可及的に防止できる。その結果、椎体疾患、及びこれにより発症する合併症の予防及び/又は治療が可能となる。
【0080】
また、本実施形態に係る装具1によれば、椎体が変形するのを可及的に防止できることから、椎体の変形により発症する椎体圧迫骨折及び側弯症、後湾症、前弯症などの脊椎変形症、及び腰部脊柱管狭窄症、並びに椎間板ヘルニア等の予防及び/又は治療が可能となる。ここで、脊椎変形症の術後において、患者に対して装具を着用して術後回復を図ることが通常であるため、本実施形態に係る装具1は、各種脊椎変形症手術後の患者にも適用できる。さらに、装具1は、高頻度転倒者の歩行時のふらつき等も抑制できるため、運動器不安定症の予防及び/又は治療に適用できる。
【0081】
また、本実施形態に係る装具1は、装着者の背中、腰部及び胸部を含む体幹を一体的に固定できるため、装着者の前傾姿勢を抑制しやすく構成されている。このため、装具1は、装着者の前傾姿勢により発症する椎体圧迫骨折の予防及び/又は治療により適している。
【0082】
また、本実施形態に係る装具1によれば、肩ベルト部材52は、肩当て部本体51の自由端を始点として、装着者の胸部の上方を通り、背当て部2に設けられた上方ベルト経由部22で折り返され、胸当て部4に係着される。このため、装着者が肩ベルト部材52を引っ張ると、装着者の背中および胸部に該肩ベルト部材52を介して力が作用する、すなわち、広背筋を収縮させて背筋を伸ばすよう力が作用する。この作用によって姿勢をより正しく矯正でき、さらには装着者が前傾姿勢をとることを抑制できる。
【0083】
また、本実施形態に係る装具1によれば、腰ベルト部材56が装着者の腰部を側腹側から圧迫する。これにより、装着者の上半身の動きを確実に抑制することが可能となる。さらに、肩ベルト部材52と同様、腰ベルト部材56が非伸縮性素材からなる場合には、該腰ベルト部材56の牽引程度に応じて装着者の側腹部の締め付け力を調整できる。
【0084】
さらに、本実施形態に係る装具1によれば、装着者が第一係着体55aを引っ張ると、これに連動して上方補助バンド部材24aが引っ張られる。同様に、装着者が第二係着体55bを引っ張ると、これに連動して下方補助バンド部材24bが引っ張られる。その結果、上方補助バンド部材24a及び下方補助バンド部材24bが緊張状態となり、背当て部2の固定力が向上する。このため、装着者の上半身の姿勢をより確実に矯正できる。
【0085】
なお、本発明は、以下のような構成をとることもできる。
[1]
装着者の背中を固定する背当て部と、
前記装着者の腰部を固定する腰当て部と、
前記装着者の体幹への圧迫圧を調整可能な体幹圧迫ベルト部材と、を備え、
前記体幹圧迫ベルト部材は、腰ベルト部材と、下方ベルト経由部と、第1素材を含む下方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む下方補助バンド部材と、を含み、
前記腰ベルト部材は、一端が前記腰当て部に連結され、前記下方ベルト経由部で折り返され、前記装着者の下腹部側を回り込み、他端が前記腰当て部に係着し、
前記下方牽引補助バンド部材は、一端が下方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記下方ベルト経由部に連結され、
前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性がある、椎体疾患用装具。
[2]
前記第1素材は、伸縮性素材からなる、
[1]に記載の椎体疾患用装具。
[3]
前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、
前記体幹圧迫ベルト部材は、肩ベルト部材と、上方ベルト経由部と、上方補助バンド部材と、を含み、
前記肩ベルト部材は、一端が前記背当て部に連結され、他端が前記装着者の肩部周辺あるいは胸部周辺を通り、前記上方ベルト経由部で折り返され、前記胸当て部に係着する、
[1]又は[2]に記載の椎体疾患用装具。
[4]
前記体幹圧迫ベルト部材は、第1素材を含む上方牽引補助バンド部材と、第2素材を含む上方補助バンド部材と、をさらに含み、
前記上方牽引補助バンド部材は、一端が上方補助バンド部材を介して前記背当て部に連結され、他端が前記上方ベルト経由部に連結され、
前記第1素材は、前記第2素材よりも伸縮性がある、
[3]に記載の椎体疾患用装具。
[5]
周径方向における前記下方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nである、
[1]~[4]のいずれか一つに記載の椎体疾患用装具。
[6]
周径方向における前記上方牽引補助バンド部材の引張応力が9.1~68.7Nである、
[4]に記載の椎体疾患用装具。
[7]
前記腰当て部は、腰ベルト保持部を有し、
前記腰ベルト保持部は、前記腰ベルト部材を挿通して保持させる、
[1]~[6]のいずれか一つに記載の椎体疾患用装具。
[8]
前記装着者の胸部を固定する胸当て部をさらに備え、
前記胸当て部は、肩ベルト保持部を有し、
前記肩ベルト保持部は、前記肩ベルト部材を挿通して保持させる、
[3]~[7]のいずれか一つに記載の椎体疾患用装具。
[9]
前記肩ベルト部材の剛軟度が90~800mmである、
[3]~[8]のいずれか一つに記載の椎体疾患用装具。
【符号の説明】
【0086】
1 椎体疾患用装具(装具)
2 背当て部
22 上方ベルト経由部
23 下方ベルト経由部
24 補助バンド部材
24a 上方補助バンド部材
24b 下方補助バンド部材
25 牽引補助バンド部材
25a 上方牽引補助バンド部材
25b 下方牽引補助バンド部材
3 腰当て部
33 腰ベルト保持部
4 胸当て部
4c 肩ベルト保持部
52 肩ベルト部材
56 腰ベルト部材
6 体幹圧迫ベルト部材
図1
図2
図3
図4
図5