(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20240209BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240209BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240209BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M10/052
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021511197
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006115
(87)【国際公開番号】W WO2020202843
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019067638
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純一
(72)【発明者】
【氏名】谷 祐児
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179817(WO,A1)
【文献】特開2013-178913(JP,A)
【文献】特開2010-165471(JP,A)
【文献】特開2010-238426(JP,A)
【文献】特開2018-181539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質と、を備え、
前記負極は、負極活物質を含む負極合剤層と、前記負極合剤層を担持する負極集電体と、を備え、
前記負極活物質は、炭素材料と、シリコン含有材料と、を含み、
前記シリコン含有材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相に分散しているシリコン粒子と、を含み、
前記リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相であり、
前記シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記負極合剤層は、厚さT
0を有するとともに、厚さT
1を有する前記負極の表面側の第1領域と、前記第1領域以外の領域である前記負極集電体側の第2領域と、を有し、
前記負極合剤層の厚さT
0に対する前記第1領域の厚さT
1の比:T
1/T
0は、1/20以上、19/20以下であり、
前記第2領域中の前記シリコン含有材料の質量割合M
S2に対する、前記第1領域中の前記シリコン含有材料の質量割合M
S1の比:M
S1/M
S2は、0以上、1未満であり、
満充電時における、前記負極の開回路電位が、リチウム金属に対して、0mV超、70mV以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記M
S1/M
S2は、0以上、1/3以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記第1領域は、前記炭素材料を含み、前記シリコン含有材料を含まない、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記T
1/T
0は、1/20以上、6/20以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極合剤層は、更に、負極助剤を含み、
前記第2領域中の前記負極助剤の質量割合M
A2に対する、前記第1領域中の前記負極助剤の質量割合M
A1の比:M
A1/M
A2は、1未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記M
A1/M
A2は、1/3以上、1未満である、請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記第1領域中の前記負極助剤の質量割合M
A1が、1.0質量%以上、1.4質量%以下であり、
前記第2領域中の前記負極助剤の質量割合M
A2が、2.6質量%以上、3.0質量%以下である、請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記第2領域において、前記炭素材料に対する前記シリコン含有材料の質量比が、1/99以上、10/90以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
満充電時における、前記負極の開回路電位が、リチウム金属に対して、40mV以上、60mV以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記正極の容量Cpに対する、前記負極の容量Cnの比:Cn/Cpが、0より大きく、1未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有材料を含む非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン)含有材料の利用が期待されている。
【0003】
ところで、特許文献1は、二次電池に関して、満充電時に、負極活物質として黒鉛を含む負極の表面にリチウム金属を析出させることを開示している。負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンおよび負極表面に析出したリチウム金属が放電反応に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高容量化を図るため、特許文献1に記載の二次電池において、負極活物質にシリコン含有材料を用いることが考えられる。しかし、シリコン含有材料と、負極表面に析出したリチウム金属との副反応により、シリコン含有材料が劣化し易く、サイクル特性が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、電解質と、を備え、前記負極は、負極活物質を含む負極合剤層と、前記負極合剤層を担持する負極集電体と、を備え、前記負極活物質は、炭素材料と、シリコン含有材料と、を含み、前記シリコン含有材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相に分散しているシリコン粒子と、を含み、前記リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相であり、前記シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記負極合剤層は、厚さT0を有するとともに、厚さT1を有する前記負極の表面側の第1領域と、前記第1領域以外の領域である前記負極集電体側の第2領域と、を有し、前記負極合剤層の厚さT0に対する前記第1領域の厚さT1の比:T1/T0は、1/20以上、19/20以下であり、前記第2領域中の前記シリコン含有材料の質量割合MS2に対する、前記第1領域中の前記シリコン含有材料の質量割合MS1の比:MS1/MS2は、0以上、1未満であり、満充電時における、前記負極の開回路電位が、リチウム金属に対して、0mV超、70mV以下である、非水電解質二次電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シリコン含有材料を含む非水電解質二次電池のサイクル特性が向上する。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【
図2】
図1の非水電解質二次電池に用いられる負極の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質と、を備え、負極は、負極合剤層と、負極合剤層を担持する負極集電体と、を備える。負極合剤層は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む。負極活物質は、炭素材料と、シリコン含有材料と、を含む。シリコン含有材料は、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相に分散しているシリコン粒子と、を含み、リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相であり、シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。シリコン含有材料と炭素材料とを併用することで、高い容量および優れたサイクル特性がバランス良く得られ易い。
【0010】
負極合剤層は、厚さT0を有する。負極合剤層の厚さT0は、例えば、負極合剤層の任意の10箇所において厚さを測定し、その平均値として求めればよい。負極集電体の両面に負極合剤層が担持されている場合、厚さT0は、片面あたりの負極合剤層の厚さである。
【0011】
負極は、満充電時において、開回路電位がリチウム金属に対して0mV超、70mV以下となるように設計されている。すなわち、満充電時に、負極合剤層の表面にリチウム金属が析出するように負極が設計されている。負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンおよび負極合剤層の表面に析出したリチウム金属が放電反応に利用され、放電容量が高められる。満充電時における開回路電位は、リチウム金属に対して40mV以上としてもよく、60mV以下としてもよい。満充電時における開回路電位が低いほど、負極の利用率が高く、Siの充電深度も深いといえる。
【0012】
満充電時とは、電池の定格容量をCとするとき、例えば、0.98×C以上の充電状態(SOC:State of Charge)となるまで電池を充電した状態である。満充電時における負極の開回路電位は、満充電状態の電池をアルゴン雰囲気下で分解して負極を取り出し、リチウム金属を対極としてセルを組み立てて測定すればよい。セルの電解質は、分解した電池中の電解質と同じ組成でもよく、例えば、後述の実施例1の電池A1で用いる電解質を用いてもよい。
【0013】
ここで、負極合剤層が、厚さT1を有する負極の表面側の第1領域と、第1領域以外の領域である負極集電体側の第2領域と、を有する。負極合剤層の厚さT0に対する第1領域の厚さT1の比:T1/T0は、1/20以上、19/20以下である。第2領域中のシリコン含有材料の質量割合MS2に対する、第1領域中のシリコン含有材料の質量割合MS1の比:MS1/MS2は、0以上、1未満である。
【0014】
上記MS1/MS2が1未満である場合、負極合剤層の負極表面側でシリコン含有材料の存在割合が小さくなる。これにより、シリコン含有材料と、負極表面に析出するリチウム金属との副反応が抑制され、当該副反応によるシリコン含有材料の劣化が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0015】
MS1/MS2は、好ましくは0以上、1/3以下であり、より好ましくは0以上、1/6以下であり、更に好ましくは0以上、1/9以下である。中でも、MS1/MS2=0、すなわち、MS1=0(第1領域がシリコン含有材料を含まないこと)が、特に好ましい。
【0016】
T1/T0が1/20以上である場合、シリコン含有材料の量が小さい第1領域が十分に確保され、上記の副反応によるシリコン含有材料の劣化が抑制され、サイクル特性が向上する。T1/T0が19/20以下である場合、シリコン含有材料の量が大きい第2領域が十分に確保され、シリコン含有材料の使用による高容量化が可能である。T1/T0は、好ましくは1/20以上、6/20以下である。
【0017】
負極合剤層を、負極の表面側のT0/2の厚さを有する領域P1と、負極集電体側のT0/2の厚さを有する領域P2とに2分割する場合、領域P2のシリコン含有材料の質量割合MP2に対する、領域P1のシリコン含有材料の質量割合MP1の比:MP1/MP2は、0以上、1未満であり、例えば0以上、0.8以下でもよく、0以上、0.6以下でもよい。
【0018】
シリコン含有材料が、後述するLSX材料である場合、MP1/MP2は、例えば、以下の方法により求められる。
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥する。斜め切削装置(ダイプラウィンテス社製の装置名SAICAS)等により、負極合剤層の領域P1を削り取り、第1試料を得た後、残りの領域P2を削り取り、第2試料を得る。第1試料を、加熱した酸溶液(フッ化水素酸、硝酸および硫酸の混酸)中で全溶解し、溶解残渣の炭素をろ過して除去する。その後、得られたろ液を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で分析し、Si元素のスペクトル強度を測定する。続いて、市販されているSi元素の標準溶液を用いて検量線を作成し、第1試料中のSi元素の含有量SP1を求める。同様に、第2試料中のSi元素の含有量SP2を求める。SP1/SP2を、MP1/MP2とする。
【0019】
第1領域中の炭素材料の質量割合MC1は、第2領域中の炭素材料の質量割合MC2よりも大きいことが好ましい。すなわち、上記MC2に対する上記MC1の比:MC1/MC2は、好ましくは1より大きく、より好ましくは1.05以上である。第1領域の炭素材料の量を大きくすることにより、第1領域のシリコン含有材料の量を小さくすることができ、第1領域のシリコン含有材料の量を小さくすることによる負極容量への影響を小さくすることができる。後述の負極助剤を用いる場合、第1領域の負極助剤の量を小さくすることができる。なお、シリコン含有材料のリチウムイオン導電相が炭素相である場合、リチウムイオン導電相としての炭素相は、炭素材料の質量に含めない。
【0020】
上記の副反応によるシリコン含有材料の劣化抑制の観点から、第1領域において、炭素材料に対するシリコン含有材料の質量比は、好ましくは0/100以上、1/99未満であることが好ましい。第1領域において、炭素材料に対するシリコン含有材料の質量比は、0/100であることがより好ましい。すなわち、第1領域は、負極活物質として、炭素材料を含み、シリコン含有材料を含まないことがより好ましい。
【0021】
第2領域において、炭素材料に対するシリコン含有材料の質量比が、1/99以上、10/90以下であることが好ましい。炭素材料に対するシリコン含有材料の質量比が1/99以上である場合、高容量化し易い。炭素材料に対するシリコン含有材料の質量比が10/90以下である場合、サイクル特性を改善し易い。
【0022】
負極合剤層は、更に、負極助剤を含んでもよい。なお、ここでいう負極助剤とは、導電剤を除く助剤を意味し、結着剤および/または増粘剤を含む。負極合剤層が負極助剤を含む場合、第1領域中の負極助剤の質量割合MA1は、第2領域中の負極助剤の質量割合MA2よりも小さいことが好ましい。負極助剤と、負極表面に析出するLi金属との副反応により、負極助剤が劣化することがある。負極助剤に用いられる後述のPVDF等の高分子化合物が、還元力が強いLi金属により酸化劣化することがある。負極表面側の一定の領域で負極助剤の存在割合を小さくすることで、上記の副反応が抑制され、当該副反応による負極助剤の劣化が抑制され、サイクル特性が向上する。上記MA2に対する上記MA1の比:MA1/MA2は、1/3以上、1未満でもよく、1/3以上、2/3以下でもよい。
【0023】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)等のゴム状材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩等の塩も含む)、メチルセルロース等のセルロース誘導体(セルロースエーテル等);ポリビニルアルコール等の酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキサイド等)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
第1領域中の負極助剤の質量割合MA1は、例えば0.8質量%以上、1.6質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以上、1.4質量%以下である。第1領域中の負極助剤の質量割合MA1が1.4質量%以下である場合、負極助剤と、負極表面に析出するリチウム金属との副反応による負極助剤の劣化が十分に抑制される。第1領域中の負極助剤の質量割合MA1が1.0質量%以上である場合、負極助剤の添加による効果が十分に得られる。例えば、負極活物質粒子同士の間の接触抵抗を小さくしたり、負極活物質粒子同士の間の密着性を確保したりすることができる。なお、第1領域中の負極助剤の質量割合MA1は、第1領域中の結着剤および増粘剤を合計した質量割合を意味する。
【0026】
第2領域中の負極助剤の質量割合MA2は、例えば2.4質量%以上、3.2質量%以下であり、好ましくは2.6質量%以上、3.0質量%以下である。第2領域中の負極助剤の質量割合MA2が2.6質量%以上である場合、負極集電体と負極合剤層との間の密着性を十分に確保することができる。また、負極集電体と負極合剤層との間の接触抵抗を十分に低減することができる。第2領域中の負極助剤の質量割合MA2が3.0質量%以下である場合、活物質の充填量を十分に確保することができる。なお、第2領域中の負極助剤の質量割合MA2は、第2領域中の結着剤および増粘剤を合計した質量割合を意味する。
【0027】
正極の容量Cpに対する負極の容量Cnの比:Cn/Cpは、0より大きければよいが、1未満としてもよい。容量比Cn/Cpを1よりも小さくすることで、負極の利用率を顕著に高めることが可能になり、高容量化に有利となる。容量比Cn/Cpは、例えば0.5以上、1未満であってもよく、0.6以上、0.9以下であってもよい。容量比Cn/Cpに応じて満充電時の負極の開回路電位が変化する。
【0028】
ここで、負極の容量Cnおよび正極の容量Cpは、いずれも設計容量である。例えば、各電極の設計容量は、各電極に含まれる活物質の理論容量および質量から算出できる。理論容量とは、想定される電気化学反応において単位質量の活物質が蓄えることができる最大の電気量(容量密度とも称される。)をいう。
【0029】
以下、負極活物質について詳細に説明する。
(シリコン含有材料)
シリコン含有材料は、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子とを備える複合材料である。リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相を含む。シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。すなわち、シリコン含有材料は、シリケート相と、シリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料(以下、LSX材料とも称する。)、および、炭素相と、炭素相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料(以下、Si-C材料とも称する。)の少なくとも一方を含む。リチウムイオン導電相に分散するシリコン粒子の量やサイズを調整し易いため、高容量化に有利である。充放電時のシリコン粒子の膨張収縮に伴い生じる応力がリチウムイオン導電相により緩和されるため、サイクル特性の向上に有利である。
【0030】
LSX材料は、例えば、シリケートと原料シリコンとの混合物を、ボールミル等の粉砕装置を用いて粉砕処理し、微粒子化した後、不活性雰囲気中で熱処理することにより作製することができる。粉砕装置を用いずに、シリケートの微粒子と原料シリコンの微粒子とを合成し、これらの混合物を不活性雰囲気中で熱処理して、LSX材料を作製してもよい。上記において、シリケートと原料シリコンとの配合比や原料シリコンの粒子サイズを調節することで、シリケート相内に分散させるシリコン粒子の量やサイズを制御することができる。
【0031】
また、シリコン粒子自身の亀裂を抑制する観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましい。初回充電後においては、シリコン粒子の平均粒径は、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。シリコン粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、シリコン含有材料の構造安定性が更に向上する。
【0032】
シリコン粒子の平均粒径は、シリコン含有材料の断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を用いて測定し得る。具体的には、シリコン粒子の平均粒径は、任意の100個のシリコン粒子の最大径を平均して求められる。
【0033】
リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子は、単独または複数の結晶子で構成される。シリコン粒子の結晶子サイズは、30nm以下であることが好ましい。シリコン粒子の結晶子サイズが30nm以下である場合、充放電に伴うシリコン粒子の膨張収縮による体積変化量を小さくでき、サイクル特性が更に高められる。例えば、シリコン粒子の収縮時にシリコン粒子の周囲に空隙が形成されて当該粒子の周囲との接点が減少することによる当該粒子の孤立が抑制され、当該粒子の孤立による充放電効率の低下が抑制される。シリコン粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば5nm以上である。
【0034】
また、シリコン粒子の結晶子サイズは、より好ましくは10nm以上、30nm以下であり、更に好ましくは15nm以上、25nm以下である。シリコン粒子の結晶子サイズが10nm以上である場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じ難い。
シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0035】
高容量化の観点から、シリコン含有材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは55質量%以上である。この場合、リチウムイオンの拡散性が良好であり、優れた負荷特性を得易くなる。一方、サイクル特性の向上の観点からは、シリコン含有材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。この場合、リチウムイオン導電相で覆われずに露出するシリコン粒子の表面が減少し、電解質とシリコン粒子との反応が抑制され易い。
【0036】
シリコン粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
【0037】
シリケート相は、アルカリ金属元素(長周期型周期表の水素以外の第1族元素)および長周期型周期表の第2族元素の少なくとも一方を含む。アルカリ金属元素は、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等を含む。第2族元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を含む。シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素以外の他の元素として、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ランタン(La)、リン(P)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)等を含んでもよい。中でも、不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、リチウムを含むシリケート相(以下、リチウムシリケート相とも称する。)が好ましい。すなわち、シリコン含有材料は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料であることが好ましい。
【0038】
シリケート相は、例えば、リチウム(Li)と、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含むリチウムシリケート相(酸化物相)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2超4未満である。O/Siが2超4未満(後述の式中のzが0<z<2)の場合、安定性やリチウムイオン伝導性の面で有利である。好ましくは、O/Siが2超3未満(後述の式中のzが0<z<1)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するLiの原子比:Li/Siは、例えば、0超4未満である。リチウムシリケート相は、Li、SiおよびO以外に、上記の他の元素を微量含んでもよい。
【0039】
リチウムシリケート相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<2)で表される組成を有し得る。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、zは、0<z<1の関係を満たすことが好ましく、z=1/2がより好ましい。
【0040】
LSX材料のシリケート相の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料断面の反射電子像を得、LSX材料の断面を観察する。オージェ電子分光(AES)分析装置を用いて、観察されたLSX材料のシリケート相について元素の定性定量分析を行う(加速電圧10kV、ビーム電流10nA)。例えばLi2zSiO2+zで表されるリチウムシリケート相の場合、得られたリチウム(Li)および酸素(O)の含有量から2zと(2+z)の比を求めればよい。
【0041】
上記の試料の断面観察や分析では、Liの拡散を防ぐため、試料の固定にはカーボン試料台を用いればよい。試料断面を変質させないため、試料を大気に曝すことなく保持搬送するトランスファーベッセルを使用すればよい。
【0042】
炭素相は、例えば、結晶性の低い無定形炭素(すなわちアモルファス炭素)で構成され得る。無定形炭素は、例えばハードカーボンでもよく、ソフトカーボンでもよく、それ以外でもよい。無定形炭素は、例えば、炭素源を不活性雰囲気下で焼結し、得られた焼結体を粉砕すれば得ることができる。Si-C材料は、例えば、炭素源と原料シリコンとを混合し、ボールミル等の攪拌機で混合物を破砕しながら攪拌し、その後、混合物を不活性雰囲気中で焼成すれば得ることができる。炭素源としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン、セルロース、スクロース等の糖類や水溶性樹脂等を用いてもよい。炭素源と原料シリコンとを混合する際には、例えば、炭素源と原料シリコンをアルコール等の分散媒中に分散させてもよい。上記において、炭素源と原料シリコンとの配合比や原料シリコンの粒子サイズを調節することで、炭素相内に分散させるシリコン粒子の量やサイズを制御することができ、高容量化し易い。
【0043】
シリコン含有材料は、平均粒径1~25μm、更には4~15μmの粒子状材料(以下、複合材料粒子とも称する。)を形成していることが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴う複合材料の体積変化による応力を緩和し易く、良好なサイクル特性を得易くなる。複合材料粒子の表面積も適度になり、電解質との副反応による容量低下も抑制される。
【0044】
複合材料粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0045】
複合材料粒子は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を備えてもよい。導電性材料で複合材料粒子の表面を被覆することで、導電性を高めることができる。導電層は、実質上、複合材料粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。
【0046】
(炭素材料)
炭素材料は、シリコン含有材料よりも充放電時の膨張収縮の度合いが小さい。シリコン含有材料と炭素材料とを併用することで、充放電の繰り返しの際、負極活物質粒子同士の間および負極合剤層と負極集電体との間の接触状態をより良好に維持することができる。すなわち、シリコン含有材料の高容量を負極に付与しながらサイクル特性を高めることができる。
【0047】
負極活物質に用いられる炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)等が例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
次に、本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池について詳述する。非水電解質二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、電解質とを備える。
【0049】
[負極]
負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極合剤層と、負極合剤層を担持する負極集電体とを具備する。負極活物質は、シリコン材料および炭素材料を含む。負極合剤層は、上記の負極助剤を含んでもよい。負極合剤層は、例えば、負極活物質を含む負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0050】
負極合剤は、導電剤を更に含んでもよい。導電剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンナノチューブ等のカーボン類;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等が例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、例えば、1~50μmであり、5~20μmであってもよい。
【0052】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒等が例示できる。
【0053】
[正極]
正極は、例えば、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む正極合剤層と、正極合剤層を担持する正極集電体とを具備する。正極合剤層は、正極合剤をNMP等の分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0054】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有複合酸化物を用いることができる。例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-bO2、LiaCobM1-bOc、LiaNi1-bMbOc、LiaMn2O4、LiaMn2-bMbO4、LiMPO4、Li2MPO4F(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bよりなる群から選択される少なくとも1種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、充放電により増減する。
【0055】
中でも、LiaNibM1-bO2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)が更に好ましい。
【0056】
正極合剤層は、結着剤、導電剤等を含んでもよい。結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。
【0057】
正極集電体の形状および厚さは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等が例示できる。
【0058】
[電解質]
電解質は、非水電解質であり、非水溶媒と、非水溶媒に溶解するリチウム塩とを含む。電解質におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L以上、2mol/L以下が好ましい。リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解質を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0059】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル(後述の不飽和環状炭酸エステルを除く。)、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル等が用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ほう酸リチウム等が挙げられる。イミド塩類としては、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiN(FSO2)2:以下、LFSIとも称する。)、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)(C4F9SO2))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(C2F5SO2)2)等が挙げられる。これらの中でも、LiPF6およびLFSIの少なくとも一方が好ましい。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
電解質は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、エチレンサルファイト、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiFOB)、アジポニトリル、ピメロニトリル等を用いることができる。また、分子内に炭素-炭素の不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステル(以下、不飽和環状炭酸エステルと称する。)を含ませてもよい。
【0062】
不飽和環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-プロピルビニレンカーボネート、4,5-ジプロピルビニレンカーボネート、4-フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。不飽和環状炭酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不飽和環状炭酸エステルは、水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0063】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布等を用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0064】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群等、他の形態の電極群が適用されてもよい。二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型等、いずれの形態であってもよい。
【0065】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池の一例として角形の非水電解質二次電池の構造を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0066】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および電解質(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。満充電時における、負極の開回路電位は、リチウム金属に対して、0V以上、70mV以下となるように正極と負極の容量が設計されている。
【0067】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接等により取り付けられている。負極リード3の他端は、樹脂製の絶縁板(図示せず)を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接等により取り付けられている。正極リード2の他端は、絶縁板を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。絶縁板は、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離している。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。封口板5に設けられている電解質の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【0068】
図2は、
図1の非水電解質二次電池に用いられる負極の概略断面図である。
負極は、負極集電体11と、負極集電体11の両面に形成された負極合剤層12と、を有する。負極合剤層12は、それぞれ負極合剤層12の厚さT
0の1/2の厚さT
0/2を有する、負極の表面側の第1領域12aと、負極集電体11側の第2領域12bと、を有する。第2領域12b中のシリコン含有材料の質量割合M
S2に対する、第1領域12a中のシリコン含有材料の質量割合M
S1の比:M
S1/M
S2は、0以上、1未満である。
図2の第1領域12aの厚さT
1はT
0/2であるが、(1/20)T
0以上、(19/20)T
0以下の範囲内であればよい。
【0069】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1~4>
[LSX材料の調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、Li2Si2O5(z=1/2)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0071】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(Li2Si2O5)と、原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、45:55の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0072】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の焼結体(LSX材料)を得た。
【0073】
その後、LSX材料を粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面に導電性炭素を含む導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径10μmのLSX粒子を得た。
【0074】
LSX粒子のXRD分析によりSi(111)面に帰属される回折ピークからシェラーの式で算出したシリコン粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0075】
リチウムシリケート相の組成を上記方法により分析したところ、Li2Si2O5であり、Si-NMRにより測定されるLSX粒子中のシリコン粒子の含有量は55質量%(Li2Si2O5の含有量は45質量%)であった。
【0076】
[負極の作製]
以下、第1領域形成用の第1スラリーおよび第2領域形成用の第2スラリーを調製した。
【0077】
(第1スラリーの調製)
第1負極合剤に水を添加した後、混合機を用いて攪拌し、第1スラリーを調製した。第1負極合剤には、負極活物質と負極助剤とを、98.6:1.4の質量比で用いた。負極活物質には、黒鉛のみを用いた。すなわち、第1負極合剤(第1領域)中のLSXの質量割合MS1は0質量%とし、第1負極合剤(第1領域)中の黒鉛の質量割合MC1は98.6質量%とし、第1負極合剤(第1領域)中の負極助剤の質量割合MA1は1.4質量%とした。負極助剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを0.9:0.1:1.5の質量比で用いた。
【0078】
(第2スラリーの調製)
第2負極合剤に水を添加した後、混合機を用いて攪拌し、第2スラリーを調製した。
第2負極合剤には、負極活物質と負極助剤とを、97.1:2.9の質量比で用いた。負極活物質には、LSXと黒鉛とを、6:94の質量比で用いた。すなわち、第2負極合剤(第2領域)中のLSXの質量割合MS2は5.8質量%とし、第2負極合剤(第2領域)中の黒鉛の質量割合MC2は91.3質量%とし、第2負極合剤(第2領域)中の負極助剤の質量割合MA2は2.9質量%とした。負極助剤には、第1スラリーで用いた負極助剤と同じものを用いた。
【0079】
負極集電体である銅箔の表面に第2スラリーおよび第1スラリーをこの順で塗布した。第1負極スラリーおよび第2負極スラリーの塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に負極合剤層(厚さT0210μm、密度1.5g/cm3)を形成し、負極を得た。負極合剤層は、表面側から順に、第1スラリーで形成された第1領域と、第2スラリーで形成された第2領域とを備えた。
【0080】
上記負極の作製において、負極合剤層の厚さT0に対する第1領域の厚さT1の比:T1/T0と、負極合剤層の厚さT0に対する第2領域の厚さT2の比:T2/T0とが、表1に示す値となるように、第1スラリーおよび第2スラリーの塗布量を調整した。負極合剤層の厚さT0(T1とT2との合計)は一定とした。
【0081】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02O2)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0082】
[電解質の調製]
非水溶媒にリチウム塩を溶解させて電解質を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、30:70の体積比で含む混合溶媒を用いた。リチウム塩には、LiPF6を用いた。電解質中のLiPF6濃度は、1.1mol/Lとした。
【0083】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、電解質を注入し、外装体の開口部を封止して、実施例1~4の電池A1~A4を得た。なお、満充電時における負極の開回路電位が、リチウム金属に対して60mVになるように、Cn/Cp比を0.8~0.9の範囲で設計した。
【0084】
<実施例5>
第1スラリーの調製において、負極活物質にはLSXと黒鉛とを用いた。第1負極合剤(第1領域)中のLSXの質量割合MS2は1質量%とし、第1負極合剤(第1領域)中の黒鉛の質量割合MC2は97.6質量%とした。上記以外、実施例1と同様の方法により、電池A5を作製した。
【0085】
<比較例1>
負極の作製において、負極集電体である銅箔の表面に第2スラリーを塗布し、乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に負極合剤層(厚さT0180μm、密度1.5g/cm3)を形成した。第2スラリーのみで負極合剤層を形成した以外、実施例1と同様の方法により、電池B1を作製した。
【0086】
<比較例2>
負極の作製において、負極集電体である銅箔の表面に第1スラリーを塗布し、乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に負極合剤層(厚さT0220μm、密度1.5g/cm3)を形成した。第1スラリーのみで負極合剤層を形成した以外、実施例1と同様の方法により、電池B2を作製した。
【0087】
<比較例3>
満充電時における負極の開回路電位が、リチウム金属に対して80mVになるように、Cn/Cp比を1.05とした以外、比較例1と同様の方法により、電池B3を作製した。
【0088】
上記で作製した各電池について、以下の方法で評価を行った。
[評価1:セル容量]
作製後の各電池について、25℃の環境下で、0.3Itの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015Itになるまで定電圧充電した。その後、0.3Itの電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止期間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。このときの放電容量(初期容量)を、セル容量として求めた。実施例1の結果を100として、各実施例および各比較例の相対値(index)を表1に示す。
【0089】
なお、(1/X)Itは、電流を表し、(1/X)It(A)=定格容量(Ah)/X(h)であり、Xは定格容量分の電気を充電または放電するための時間を表す。例えば、0.5Itとは、X=2であり、電流値が定格容量(Ah)/2(h)であることを意味する。
【0090】
[評価2:サイクル容量維持率]
評価1と同じ条件の充放電を繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(百分率)を、サイクル容量維持率として求めた。実施例1の結果を100として、各実施例および各比較例の相対値(index)を表1に示す。
【0091】
【0092】
電池A1~A5では、高いセル容量および優れたサイクル特性が得られた。電池A1~A4では、MS1/MS2が0であり、MA1/MA2が約0.48であり、MC1/MC2が約1.08であった。T1/T0が1/10以上、9/10以下であった。電池A5では、MS1/MS2が約0.17であり、MA1/MA2が約0.48であり、MC1/MC2が約1.07であり、T1/T0が1/10であった。
【0093】
電池B1では、負極合剤層の負極表面側でのLSX量が多いため、負極表面に析出したLi金属との副反応によるLSXの劣化が進み、サイクル特性が低下した。電池B2では、負極合剤層がLSXを含まないため、セル容量が低下した。満充電時の負極の開回路電位がリチウム金属に対して70mV超である電池B3は、満充電時に負極表面にリチウム金属が析出しないため、負極表面でLSXの劣化は進行せず、電池B1よりもサイクル特性は改善したが、負極の利用率が低下し、セル容量が低下した。
【0094】
<実施例6~8および比較例4~6>
満充電時における負極の開回路電位が、リチウム金属に対して表2に示す値になるように、Cn/Cp比を調整した以外、実施例1と同様の方法により、実施例6~8の電池A6~A8および比較例5~6の電池B5~B6を作製し、評価した。実施例6~8(電池A6~A8)では、Cn/Cp比を約0.5~0.9の範囲で調整した。比較例5(電池B5)では、Cn/Cp比を1.05とした。比較例6(電池B6)では、Cn/Cp比を1.1とした。
【0095】
また、負極として、負極合剤層を形成せずに銅箔(負極集電体)のみを用いた(Cn/Cp比を0とした)以外、実施例1と同様の方法により、満充電時の負極の開回路電位がリチウム金属に対して0mVである比較例4の電池B4を作製し、評価した。
電池A1、A6~A8および電池B4~B6の評価結果を表2に示す。
【0096】
【0097】
満充電時の負極の開回路電位が0mV超、70mV以下である電池A1、A6~A8では、高いセル容量および優れたサイクル特性が得られた。満充電時の負極の開回路電位が0mVである電池B4では、銅箔の表面にリチウム金属のデンドライトが成長したため、サイクル特性が大幅に低下した。満充電時の負極の開回路電位が70mV超である電池B5、B6は、満充電時に負極表面にリチウム金属が析出せず、負極の利用率が低下したため、セル容量が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源に有用である。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0099】
1:電極群、2:正極リード、3:負極リード、4:電池ケース、5:封口板、6:負極端子、7:ガスケット、8:封栓、11:負極集電体、12:負極合剤層、12a:第1領域、12b:第2領域