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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ロール清拭装置およびロール清拭方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/37 20060101AFI20240209BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240209BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20240209BHJP
   B08B 1/20 20240101ALI20240209BHJP
   B08B 1/32 20240101ALI20240209BHJP
   B21B 28/02 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B24B5/37
B24B49/12
B24B49/16
B08B1/02
B08B1/04
B21B28/02 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019168353
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021045800
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼重 直樹
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 悟志
(72)【発明者】
【氏名】東 和雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博史
(72)【発明者】
【氏名】塩道 行正
(72)【発明者】
【氏名】大西 公平
(72)【発明者】
【氏名】溝口 貴弘
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-004161(JP,A)
【文献】特開平06-297325(JP,A)
【文献】特開昭57-189779(JP,A)
【文献】特開2002-307336(JP,A)
【文献】特開平09-285949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/37
B24B 49/12
B24B 49/16
B08B 1/02
B08B 1/04
B21B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの製造ラインに設置されて前記ワークと接触して回転する搬送用ロールの表面に押し付けられる押付部材と、
前記押付部材を前記搬送用ロールの表面に向けて駆動する第1駆動モータと、
前記押付部材の位置に対応する第1位置を取得する第1位置情報取得部と、
操作者によって操作される操作機材と、
前記操作機材を駆動する第2駆動モータと、
前記操作機材の位置に対応する第2位置を取得する第2位置情報取得部と、
前記第1位置に基づいて算出した前記第1駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータと、前記第2位置に基づいて算出した前記第2駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータを、前記速度と前記力とが独立した仮想空間上のベクトルにそれぞれ変換する変換部と、
前記変換部によって変換された前記速度のベクトル及び前記力のベクトルそれぞれを、前記押付部材と前記操作者によって操作された操作機材との間における力触覚を伝達するための速度の目標値及び力の目標値とするための演算を行う演算部と、
前記演算部における前記演算の結果によって得られた状態値が表すベクトルを前記仮想空間から実空間に逆変換を行う逆変換部と、
前記逆変換部で行った前記逆変換によって算出された前記実空間での速度及び力が実現されるように、前記第1駆動モータ及び前記第2駆動モータの駆動を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とするロール清拭装置。
【請求項2】
前記押付部材は、前記搬送用ロールの軸方向に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のロール清拭装置。
【請求項3】
前記変換部は、前記ロール清拭装置を構成するギアの静止摩擦係数を含む機械的な特性を反映させた前記変換を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のロール清拭装置。
【請求項4】
前記第1駆動モータは変速機を備え、
前記変換部は、前記変速機における増減速及び力の拡大または縮小に応じた係数を要素とする座標変換を行うことを特徴とする請求項3に記載のロール清拭装置。
【請求項5】
前記変換部は、前記第2駆動モータに与えられる前記速度または前記力の値が所定の倍数となる一方で前記第1駆動モータに与えられる前記速度または前記力の値が前記倍数の逆数となるスケーリングを実現する係数を要素とする座標変換を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のロール清拭装置。
【請求項6】
前記搬送用ロールの表面の状態または前記ロール清拭装置の動作状態を監視する撮像装置をさらに有し、
前記撮像装置による画像に基づいて前記操作機材が操作されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のロール清拭装置。
【請求項7】
前記操作機材、前記第2駆動モータ及び前記第1位置情報取得部とで構成される単一のマスタ側装置と、
清拭すべき搬送用ロール、それに対応した前記押付部材、前記第1駆動モータ及び前記第2位置情報取得部で構成される複数のスレーブ側装置を有するとともに、
前記マスタ側装置の前記第2駆動モータからの駆動指令を切り替えて、前記複数のスレーブ側装置のうちの任意の前記第1駆動モータに駆動指令を伝達する切替器を具備する請求項1~6のいずれか一項に記載のロール清拭装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記力触覚の伝達において取得された物理量を視覚的に表示装置へ表示する制御を行い、
前記表示装置が表示する表示内容に基づいて前記操作機材が操作される請求項1~7のいずれか一項に記載のロール清拭装置。
【請求項9】
ワークの製造ラインに設置されて前記ワークと接触して回転する搬送用ロールの表面に押し付けられる押付部材の位置に対応する第1位置を取得する第1位置情報取得工程と、
操作者によって操作される操作機材の位置に対応する第2位置を取得する第2位置情報取得工程と、
前記第1位置に基づいて算出した前記押付部材を駆動する第1駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータと、前記第2位置に基づいて算出した前記操作機材を駆動する第2駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータを、前記速度と前記力とが独立した仮想空間上のベクトルにそれぞれ変換する変換工程と、
前記変換工程において変換された前記速度のベクトル及び前記力のベクトルそれぞれを、前記押付部材と前記操作者によって操作された操作機材との間における力触覚を伝達するための速度の目標値及び力の目標値とするための演算を行う演算工程と、
前記演算工程における前記演算の結果によって得られた状態値が表すベクトルを前記仮想空間から実空間に逆変換を行う逆変換工程と、
前記逆変換工程で行った前記逆変換によって算出された前記実空間での速度及び力が実現されるように、前記押付部材を前記搬送用ロールの表面に向けて駆動する第1駆動モータ及び前記操作機材を駆動する第2駆動モータの駆動を制御する駆動制御工程と、
を含むことを特徴とするロール清拭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の搬送ラインなどに設置されるロールの異物除去を目的としてロールを清拭するロール清拭技術に関し、より具体的にはリアルハプティクス技術を応用して得られる力触覚情報に基づいて遠隔操作でロール清拭を行うことが可能なロール清拭装置およびロール清拭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野や電機分野あるいは金属容器分野など種々の分野において、外装材などに好適な金属板は重要な基幹材料として用いられている。かような金属板の製造においては、耐食性や機能性を付与し又は加飾する目的などで表面処理が施されることが一般的である。具体的な表面処理の態様としては、例えば金属板を1又は複数のロールを経由して搬送し、その搬送ライン途中に設置される亜鉛めっき浴や錫めっき浴などでめっき処理が施される。
【0003】
このような搬送ラインに設置されるロールには、例えば搬送ラインを構成する架構(鋼材による構造物)や搬送ライン周囲の雰囲気から非定常的に金属粉や塵埃等の異物が落下するなどして、このような微小な異物がロール表面に付着することがある。
このロールに付着した異物は、表面処理されて搬送される金属板が押さえ付けられた際に、この金属板の表面に凹みなどの欠陥を発生させる要因となる。このような欠陥は、金属板の長手方向においてロールの周長さのピッチで連続的に発生するため、多大な製品歩留りの低下を招く。
【0004】
このため早急にロールに付着した異物を除去する必要があり、金属板の生産性低下を防止するため、作業者が稼働中の回転するロール表面に手入材(砥石や研磨紙あるいは布などを備えた治具)を押し付けて清拭作業を行っている。このため、作業者は搬送ラインのロール近傍での作業を余儀なくされている。
これに対して例えば特許文献1~6に例示するように、安全性の向上を図り作業環境を良くする目的で、人手を介さないで自動でロールの表面の研摩作業を実行可能なクリーニング装置も提案されている。
【0005】
安全性の向上を図る上では、近年において革新的な技術として力触覚情報を伝送可能なリアルハプティクス技術が注目されている。リアルハプティクス技術とは、人間の操作に応じて遠隔に配置された対象物の位置や対象物に作用する力を制御し、現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向で伝送して力触覚を再現する技術である。この技術を用いることで、スレーブ側(例えばロボットハンド)で接触する物体の硬さや変形などをほぼリアルタイムで高精度にマスタ側(操作者)に伝送することが可能となる。
【0006】
例えば特許文献7では、このリアルハプティクス技術の応用として医療用の鉗子を遠隔制御する場合が例示されており、マスタ側の操作部を操作してスレーブ側の把持部で物体を把持すると、力センサや加速度センサを用いずに把持部に加わる反力に応じた力が操作部に伝わる技術が提案されている。
これにより操作者は、把持部で把持した物体からの反力等を操作部で感じ取ることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭61-94568号公報
【文献】特開平06-297325号公報
【文献】特開平04-308069号公報
【文献】特開2003-117782号公報
【文献】特開2012-232393号公報
【文献】特開平03-73259号公報
【文献】特許第4696307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
まず上記したロール清拭において、ロール表面に傷を生じさせると金属板の表面に新たな欠陥を発生させる要因となるため、作業者は、慎重に異物の付着した部位近傍のみに手入材を接触させる必要がある。また、この清拭作業は、異物の種類や大きさ及び異物とロールとの密着力により手入材の押し付け力を変化させる必要があるため、自動化した汎用のロールクリーニング装置を導入することが現時点では困難である。このため、人が培った積年の職人感覚に頼った手作業でのクリーニング作業が、依然として行われているのが現状である。
【0009】
一方で上記した特許文献1~6を含むいずれの自動ロールクリーニング装置は予め設定された一定の押付力で研磨またはクリーニングする技術思想に立脚した構造となっている。例えば特許文献2~5は、溶融亜鉛めっき後の熱処理後において溶融亜鉛めっき層が接触するロールに定常的に付着する亜鉛を除去するために、手入材を一定荷重または一定変位に制御して、ロールの幅方向全面の亜鉛を除去することを目的とするものである。
このため、これらの先行技術はロール表面の異物の状態に応じたピンポイントの位置で作業中に押付力あるいはその設定値を素早く変更できるような装置構成ではなかった。
【0010】
本発明は、かような課題を解決することを一例に鑑みてなされたものであり、例えばロールから離隔している場合でも操作者がロール表面を直接的に清拭しているかのごとくロール表面への押付力を感じることができ、さらには操作者の操作に応じてその押付力を自在に応答性よく変更制御することが可能なロール清拭装置およびロール清拭方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるロール清拭装置は、(1)ワークの製造ラインに設置されて前記ワークと接触して回転する搬送用ロールの表面に押し付けられる押付部材と、前記押付部材を前記搬送用ロールの表面に向けて駆動する第1駆動モータと、前記押付部材の位置に対応する第1位置を取得する第1位置情報取得部と、操作者によって操作される操作機材と、前記操作機材を駆動する第2駆動モータと、前記操作機材の位置に対応する第2位置を取得する第2位置情報取得部と、前記第1位置に基づいて算出した前記第1駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータと、前記第2位置に基づいて算出した前記第2駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータを、前記速度と前記力とが独立した仮想空間上のベクトルにそれぞれ変換する変換部と、前記変換部によって変換された前記速度のベクトル及び前記力のベクトルそれぞれを、前記押付部材と前記操作者によって操作された操作機材との間における力触覚を伝達するための速度の目標値及び力の目標値とするための演算を行う演算部と、前記演算部における前記演算の結果によって得られた状態値が表すベクトルを前記仮想空間から実空間に逆変換を行う逆変換部と、前記逆変換部で行った前記逆変換によって算出された前記実空間での速度及び力が実現されるように、前記第1駆動モータ及び前記第2駆動モータの駆動を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
なお、上記した(1)に記載のロール清拭装置においては、(2)前記押付部材は、前記搬送用ロールの軸方向に沿って移動可能であることが好ましい。
【0012】
また、上記した(1)または(2)に記載のロール清拭装置においては、(3)前記変換部は、前記ロール清拭装置を構成するギアの静止摩擦係数を含む機械的な特性を反映させた前記変換を行うことが好ましい。
【0013】
また、上記した(3)に記載のロール清拭装置においては、(4)前記第1駆動モータは変速機を備え、前記変換部は、前記変速機における増減速及び力の拡大または縮小に応じた係数を要素とする座標変換を行うことが好ましい。
【0014】
また、上記した(1)~(4)のいずれかに記載のロール清拭装置においては、(5)前記変換部は、前記第2駆動モータに与えられる前記速度または前記の値が所定の倍数となる一方で前記第1駆動モータに与えられる前記速度または前記力の値が前記倍数の逆数となるスケーリングを実現する係数を要素とする座標変換を行うことが好ましい。
【0015】
また、上記した(1)~(5)のいずれかに記載のロール清拭装置においては、(6)前記搬送用ロールの表面の状態または前記ロール清拭装置の動作状態を監視する撮像装置をさらに有し、前記撮像装置による画像に基づいて前記操作機材が操作されることが好ましい。
【0016】
また、上記した(1)~(6)のいずれかに記載のロール清拭装置においては、(7)前記操作機材、前記第2駆動モータ及び前記第1位置情報取得部とで構成される単一のマスタ側装置と、清拭すべき搬送用ロール、それに対応した前記押付部材、前記第1駆動モータ及び前記第2位置情報取得部で構成される複数のスレーブ側装置を有するとともに、前記マスタ側装置の前記第2駆動モータからの駆動指令を切り替えて、前記複数のスレーブ側装置のうちの任意の前記第1駆動モータに駆動指令を伝達する切替器を具備することが好ましい。
【0017】
また、(1)~(7)のいずれかに記載のロール清拭装置においては、(8)前記制御装置は、前記力触覚の伝達において取得された物理量を視覚的に表示装置へ表示する制御を行い、前記表示装置が表示する表示内容に基づいて前記操作機材が操作されることが好ましい。
【0018】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるロール清拭方法は、(9)ワークの製造ラインに設置されて前記ワークと接触して回転する搬送用ロールの表面に押し付けられる押付部材の位置に対応する第1位置を取得する第1位置情報取得工程と、操作者によって操作される操作機材の位置に対応する第2位置を取得する第2位置情報取得工程と、前記第1位置に基づいて算出した前記押付部材を駆動する第1駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータと、前記第2位置に基づいて算出した前記操作機材を駆動する第2駆動モータの動作を表す速度及び力を含むパラメータを、前記速度前記力とが独立した仮想空間上のベクトルにそれぞれ変換する変換工程と、前記変換工程において変換された前記速度ベクトル及び前記力のベクトルそれぞれを、前記押付部材と前記操作者によって操作された操作機材との間における力触覚を伝達するための速度の目標値及び力の目標値とするための演算を行う演算工程と、前記演算工程における前記演算結果によって得られた状態値が表すベクトルを前記仮想空間から実空間に逆変換を行う逆変換工程と、前記逆変換工程で行った前記逆変換によって算出された前記実空間での速度及び力が実現されるように、前記押付部材を前記搬送用ロールの表面に向けて駆動する第1駆動モータ及び前記操作機材を駆動する第2駆動モータの駆動を制御する駆動制御工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操作者がロールからの反力を感じながらほぼリアルタイムで自在に押付部材の押付力を変更でき、例えばロールから離隔した場所で安全を確保した上であたかも直接ロールを清拭しているのと同等な作業環境を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係るロール清拭装置100の模式図である。
図2】マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cにおいて実現される力触覚伝達機能の制御の概念を示す模式図である。
図3】ロール清拭装置100の制御系統の具体的構成例を示すブロック図である。
図4】第1実施形態に係るロール清拭方法のフローチャートである。
図5】ロール清拭装置100が実行する力触覚伝達処理のフローチャートである。
図6】第2実施形態に係るロール清拭装置101の模式図である。
図7】第3実施形態に係るロール清拭装置102の模式図である。
図8】第3実施形態におけるロール清拭装置102の制御系統の具体的構成例を示すブロック図である。
図9】第3実施形態に係るロール清拭方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
≪第1実施形態≫
[ロール清拭装置100]
まず図1図3を用いて、本発明の第1実施形態に係るロール清拭装置100について説明する。
これらの図に示されるように、ロール清拭装置100は、押付部材10、第1駆動モータ20、第1位置情報取得部30、第2駆動モータ40、第2位置情報取得部50、操作機材60および制御装置70を含んで構成されている。
【0022】
押付部材10は、ロールRのクリーニング(清拭)時に当該ロールRの表面に押し付けられる。より具体的な押付部材10の例としては、ロールRの表面から異物を除去可能であれば特に制限はないが、例えば研磨紙、布地、スポンジ、ブラシ、砥石などが挙げられる。なお押付部材10の材質に特に制限はなく、例えば紙や布地あるいは樹脂など公知の材料が広く適用できる。
【0023】
第1駆動モータ20は、前記押付部材を前記ロールRの表面に向けて駆動させる機能を有している。より具体的な第1駆動モータ20としては、例えば公知の電磁モータが例示できる。なお本実施形態では押付部材10をロールRの表面に押し当てる際に比較的精密な応答性が要求されることから上記電磁モータが好ましい。
【0024】
ここで図1から理解されるとおり、本実施形態における第1駆動モータ20は変速機構21をさらに含んでおり、当該変速機構21を介して押付部材10が装着された押付ヘッド23が第1駆動モータ20により駆動される。なお変速機構21としては、数段のギアが組み込まれた公知の変速機構を適用することができる。
【0025】
すなわち本実施形態では、第1駆動モータ20で作用する力が変速機構21を介して増加されて押付部材10の駆動に用いられている。駆動モータからの動作がより直接的に押付部材10に伝達される観点からはダイレクトドライブ機構であることが望ましいのであるが、本実施形態では敢えて変速機構21を介在させることで第1駆動モータ20を相対的に小規模な構成とすることが可能となっている。
【0026】
かような趣旨の下で本実施形態では、具体的には遊星歯車による減速機構を採用し、入力軸と出力軸を同軸上に配置して装置全体をコンパクトな構成としている。尚、変速機構としては、力の伝達効率が高く損失が少ないほど、システムのバックドライブ性が向上し、良好な力触覚を再現することができるので好ましい。具体的な変速機構の構成例としては、平歯車などによる変速機構が挙げられる。なお、上記した変速機構を採用して減速等を行いつつも、本実施形態では押付部材10の(回転)位置と操作機材60(ハンドルなど)の(回転)位置とが一致または設定された関係で対応するように制御していることから、操作者が入力に対する違和感を抱くことは抑制されている。
一方で第2駆動モータ40については操作機材60との間に変速機構が介在せず両者が接続されており、いわゆるダイレクトドライブ形態の駆動機構が採用されている。これにより動力の伝達誤差を最小限にしつつ操作機材60の変位を直接的に第2駆動モータ40へ伝達することが可能となっている。
【0027】
図1に示すとおり、本実施形態のロール清拭装置100は、押付部材10をロールRの軸方向に沿って移動させる搬送装置80をさらに含み、この搬送装置80は変速機構21および第1駆動モータ20とともに押付部材10を載置台81に載置して軸方向に沿って移動させる構成となっている。
なお、より具体的な搬送装置80のロール清拭装置100への組み込み態様としては、例えば操作機材60の付近に図示しないフットペダルや操作レバーなどの公知の操作手段を設置することなどが例示できる。そして例えば操作手段がフットペダルの場合には、操作者Pがこのフットペダルを足で操作して、載置台81をロールRの軸方向へ沿って移動させる構成などが採用できる。
【0028】
このように本実施形態の搬送装置80は、第1駆動モータ20と変速機構21とを載置する載置台81と、この載置台81を軸方向へ駆動させる駆動モータ82と、駆動モータ82に接続されて載置台81が軸方向へ移動可能に搭載されるシャフト83とを含んで構成されている。
【0029】
操作機材60は、ロールRの清拭時に上記した押付部材10を間接的に操作するために操作者Pが操作可能な部材である。かような操作機材60の例としては、操作者Pが直感的に押付部材10の駆動に結びつけられる機材であれば特に制限はないが、例えば回転動作が可能なハンドルや直線的な往復動作が可能な公知のレバー機構などが例示できる。
【0030】
第2駆動モータ40は、上記した操作機材60を駆動する機能を有し、後述するとおりロールRの清拭時にロールRから押付部材10が受ける反力に対応した動作を操作機材60に与える。より具体的な第2駆動モータ40としては、例えば公知の電磁モータや静電モータあるいは超音波モータなどが例示できる。
【0031】
第2位置情報取得部50は、操作者Pの操作に起因して変化した操作機材60の第2位置を電気的又は磁気的手段等により検出する機能を有している。より具体的な第2位置情報取得部50の例としては、変位情報を高精度に検出が可能な公知のエンコーダが好適である。かようなエンコーダとしては、絶対位置が計測可能な公知のアブソリュートエンコーダの他、相対的な変位が計測可能な公知のインクリメンタルエンコーダが例示できる。
なお第2位置情報取得部50で検出する「操作機材60の第2位置」は、直接的な位置でなくても、それに対応する駆動モータにおける回転軸の回転数(角度)で算出するようにしてもよい。
【0032】
なお上記した第2位置情報取得部50は第2駆動モータ40に連結可能な形態が好ましい。より具体的に第2位置情報取得部50は操作機材60の種類に応じて適宜設定可能であるが、第2位置情報取得部50としてのエンコーダは基本的に第2駆動モータ40に標準装備されるものを使用するのがコスト的にも最適である。しかしながら本実施形態では左記の例に限られず、例えば駆動モータ側に位置情報検出器を設置することに代えて駆動軸側(操作機材60としてのハンドル側)に公知の位置情報検出器を別途設けてもよい。
【0033】
第1位置情報取得部30は、上記した操作機材60の第2位置に対応して第1駆動モータ20により駆動された押付部材10の第1位置を電気的又は磁気的手段等により検出する機能を有している。より具体的な第1位置情報取得部30の例としては、第2位置情報取得部50と同様に公知のエンコーダが好適である。
【0034】
この第1位置情報取得部30も押付部材10の駆動態様に応じて適宜設定が可能であり、例えば押付部材10がロールRに対して旋回して押し付けられる構成の場合には第1駆動モータ20に標準装備されるエンコーダを使用するのがコスト的にも最適である。
なお、この第1位置情報取得部30で検出する「押付部材10の第1位置」は、直接的な位置でなくても、それに対応する駆動モータにおける回転軸の回転数(角度)で算出するようにしてもよい。
【0035】
制御装置70は、第1位置情報取得部30及び第2位置情報取得部50からの位置情報に基づいて、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40において力触覚伝達機能を実現するための位置(速度)及び力の制御量を算出し、算出した制御量に応じた第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40への駆動信号をそれぞれ出力する機能を有する。
具体的には、制御装置70は、ロール清拭装置100全体を制御する統括制御部70a、第2駆動モータ40を制御するマスタ側制御部70b、及び、第1駆動モータ20を制御するスレーブ側制御部70cを含んで構成されている。
【0036】
統括制御部70aは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40において力触覚伝達機能を実現するための各種設定を行う。例えば、統括制御部70aは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の間で力触覚伝達における位置(速度)または力のスケーリングを行う場合の倍率を設定したり、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の出力における上限値を設定したりする。
【0037】
マスタ側制御部70bは、第2位置情報取得部50からの位置情報に基づいて算出した第2駆動モータ40の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)をスレーブ側制御部70cに送信する。また、マスタ側制御部70bは、スレーブ側制御部70cから第1駆動モータ20の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)を受信する。そして、マスタ側制御部70bは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40それぞれの動作を表すパラメータに基づいて、第2駆動モータ40の制御量を算出し、算出した制御量に応じた第2駆動モータ40への駆動信号を出力する。
【0038】
スレーブ側制御部70cは、第1位置情報取得部30からの位置情報に基づいて算出した第1駆動モータ20の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)をマスタ側制御部70bに送信する。また、スレーブ側制御部70cは、マスタ側制御部70bから第2駆動モータ40の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)を受信する。そして、スレーブ側制御部70cは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40それぞれの動作を表すパラメータに基づいて、第1駆動モータ20の制御量を算出し、算出した制御量に応じた第1駆動モータ20への駆動信号を出力する。
なお本実施形態ではこれら3つの制御部で制御装置70が構成されているが、この例に限られず1つの制御部に各機能を統合する形態であってもよい。
【0039】
また、本実施形態におけるロール清拭装置100は、ロールRの表面の状態またはロール清拭装置100(具体的には押付部材10や搬送装置80など)の動作状態を監視する撮像装置90を含んで構成されていることが好ましい。この撮像装置90の具体例としては公知のカメラが例示でき、本実施形態ではこの撮像装置90によって取得した画像がモニターMに投影される。
【0040】
したがって操作者Pは、この撮像装置90による画像(ロールR表面の異物付着箇所と押付部材10との相対的な位置関係の様子)に基づいて操作機材60を操作することが可能となっている。なお本実施形態では操作者PはロールRから離隔された場所で操作機材60を操作しているが、この態様に限定されず操作者PがロールRを直接視認可能な場所で操作機材60を操作してもよい。この場合には撮像装置90による画像検出は適宜省略してもよい。
また、撮像装置90による撮影内容は、上記したロールR表面の異物付着箇所と押付部材10との相対的な位置関係の様子を検出する場合に限られず、例えばロール清拭装置100の動作状況を単に把握するために用いてもよい。
【0041】
次に本実施形態のロール清拭装置100で実現される力触覚伝達機能について説明する。
本実施形態のロール清拭装置100では、押付部材10と操作機材60とが離隔した位置に設置され、操作者が操作機材60を操作することにより、押付部材10が遠隔的に操作される。このとき、操作機材60を操作する操作者に対し、ロールRに押し付けられた押付部材10の力触覚が伝達される。具体的には、第1駆動モータ20と第2駆動モータ40との間で力触覚伝達のための制御が行われる。
これにより、ロール清拭作業を行う作業者は、高速で回転するロールRや、ロールRによって高速に搬送されるワーク等から離れた位置で、より安全に作業を行うことが可能となる。
【0042】
本実施形態においては、押付部材10と操作機材60との間における力触覚伝達を実現するために、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40(またはこれらの出力軸と対応して動作する部材)の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)を、速度(または位置)と力とを独立して取り扱うことが可能な仮想空間のベクトルに座標変換し、仮想空間における速度(または位置)及び力の状態値(ベクトルの要素)が、速度(または位置)及び力の目標値となるように演算を行う。
【0043】
そして、演算によって得られた状態値が表すベクトルを仮想空間から実空間に逆変換し、逆変換によって算出された実空間の速度(または位置)及び力が実現されるように第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40が制御される。
この結果、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の動作が、目標とする力触覚伝達機能を実現する状態に制御される。
【0044】
本実施形態における力触覚伝達機能を実現する手法として、例えば、特許第6382203号に記載された座標変換を用いることができる。
即ち、本発明で用いる位置・力制御方法の基本となる座標変換として、制御対象システムの機能の基準となる値(基準値)と、制御されるアクチュエータ(第1駆動モータ20あるいは第2駆動モータ40)の現在速度(または位置)とを入力とする座標変換を定義することができる。この座標変換は、一般に、基準値及び現在速度(または位置)を要素とする入力ベクトルを速度(または位置)の制御目標値を算出するための速度(または位置)からなる出力ベクトル(仮想空間上の変数群)に変換するとともに、基準値及び現在の力を要素とする入力ベクトルを力の制御目標値を算出するための力からなる出力ベクトル(仮想空間上の変数群)に変換するものである。
なお、位置と速度(または加速度)あるいは角度と角速度(または角加速度)は、微積分演算により置換可能なパラメータであるため、位置あるいは角度に関する処理を行う場合、適宜、速度あるいは角速度等に置換することが可能である。
【0045】
さらに、上述の位置・力制御のための座標変換を第1駆動モータ20と第2駆動モータ40との間のバイラテラル制御に用いる場合、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40における位置の差がゼロ、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40が出力する力の和がゼロ(逆向きに等しい力が出力される)となることを条件として仮想空間における状態値の演算を行うことができる。
この場合、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の出力段において、バイラテラル制御を実現することができる。
【0046】
さらに、本実施形態におけるロール清拭装置100は、力触覚伝達機能において速度(または位置)あるいは力のスケーリングを実現することができる。
力触覚伝達機能においてスケーリングが実現される場合、スレーブ側制御部70cからマスタ側制御部70bに伝達されるパラメータにスケーリングの規模に対応する倍数(スケーリング比)を乗算することができる。このとき、マスタ側制御部70bからスレーブ側制御部70cに伝達されるパラメータには、当該倍数の逆数が乗算される。例えば、スレーブ側制御部70cから速度(または位置)がα倍(αは正数)、力がβ倍(βは正数)されて、マスタ側制御部70bに伝達される場合、マスタ側制御部70bから速度(または位置)が1/α倍、力が1/β倍されて、スレーブ側制御部70cに伝達される。
【0047】
ここで、本実施形態における第1駆動モータ20の出力段には、変速機構21が設置されていることから、押付部材10と操作機材60との間の力触覚伝達には、変速機構21における増減速あるいは力の拡大・縮小が作用する。
そのため、本実施形態においては、制御装置70が実現する力触覚伝達機能において、変速機構21における増減速及び力の拡大・縮小を反映させた力触覚伝達のための制御が行われる。
【0048】
例えば、押付部材10と操作機材60との間の力触覚伝達において、スケーリングを行わない状態とするために、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cで用いられる座標変換の係数として、変速機構21に起因する増減速比及び力の拡大・縮小比の逆数を設定しておくことができる。
この場合、変速機構21の機械的な特性を包含するスケーリングを座標変換によって実現できるため、ロール清拭装置100の機械的な構成に適応させながら、力触覚伝達におけるスケーリングの機能を柔軟に実現することができる。
【0049】
なお、本実施形態のロール清拭装置100において、変速機構21の機械的な特性の他、ロール清拭装置100における種々の機械的な特性を座標変換に反映させることができる。
例えば、ギアのバックラッシュ、ギアの静止摩擦係数といった機械ロスや、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の回転軸から力の作用点までの距離等を座標変換の係数に反映させることができる。
この場合、力触覚伝達の制御におけるパラメータから推定される物理量(反力の大きさや速度等)の精度を向上させることができる。
【0050】
図2は、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cにおいて実現される力触覚伝達機能の制御の概念を示す模式図である。
図2に示すように、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cにおいて実現される力触覚伝達機能は、制御対象システムSと、機能別力・速度割当変換ブロックFTと、理想力源ブロックFCあるいは理想速度(位置)源ブロックPCの少なくとも一つと、逆変換ブロックIFTとを含む制御則として表される。
【0051】
制御対象システムSは、マスタ側制御部70bによって制御される第2駆動モータ40またはスレーブ側制御部70cによって制御される第1駆動モータ20である。
【0052】
機能別力・速度割当変換ブロックFTは、制御対象システムSにおける力触覚伝達機能に応じて設定される速度(位置)及び力の領域への制御エネルギーの変換を定義するブロックである。具体的には、機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、制御対象システムSの機能の基準となる値(基準値)と、第1駆動モータ20あるいは第2駆動モータ40の現在位置とを入力とする座標変換が定義されている。上述したように、この座標変換は、一般に、基準値及び現在速度(位置)を要素とする入力ベクトルを速度(位置)の制御目標値を算出するための速度(位置)からなる出力ベクトルに変換するとともに、基準値及び現在の力を要素とする入力ベクトルを力の制御目標値を算出するための力からなる出力ベクトルに変換するものである。本実施形態においては、基準値として、マスタ側制御部70bにおいては、第1駆動モータ20の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)が用いられ、スレーブ側制御部70cにおいては、第2駆動モータ40の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)が用いられる。
【0053】
理想力源ブロックFCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、力の領域における演算を行うブロックである。理想力源ブロックFCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の力に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定したり、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定したりできる。
【0054】
理想速度(位置)源ブロックPCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、速度(位置)の領域における演算を行うブロックである。理想速度(位置)源ブロックPCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の速度(位置)に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定したり、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定したりできる。
【0055】
逆変換ブロックIFTは、速度(位置)及び力の領域の値を制御対象システムSへの入力の領域の値(例えば電圧値または電流値等)に変換するブロックである。
このような制御により、制御対象システムS(第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40)における位置の情報が機能別力・速度割当変換ブロックFTに入力されると、位置の情報に基づいて得られる速度(位置)及び力の情報を用いて、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて、力触覚伝達機能を実現するための座標変換が行われる。そして、理想力源ブロックFCにおいて、力触覚伝達機能に応じた力の演算が行われ、理想速度(位置)源ブロックPCにおいて、力触覚伝達機能に応じた速度(位置)の演算が行われ、力及び速度(位置)それぞれに制御エネルギーが分配される。
【0056】
理想力源ブロックFC及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける演算結果は、制御対象システムS(第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40)の制御目標を示す情報となり、これらの演算結果が逆変換ブロックIFTにおいてアクチュエータの入力値とされて、制御対象システムS(第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40)に入力される。
その結果、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40は、力触覚伝達機能に従う動作を実行し、目的とするロール清拭装置100の動作が実現される。
【0057】
次にロール清拭装置100の制御系統の具体的構成例について説明する。
図3は、ロール清拭装置100の制御系統の具体的構成例を示すブロック図である。
図3に示されるように、統括制御部70a、マスタ側制御部70b、マスタ側ドライバDm、第2駆動モータ40、第2位置情報取得部50、スレーブ側制御部70c、スレーブ側ドライバDs、第1駆動モータ20、第1位置情報取得部30を含んで構成されている。
【0058】
統括制御部70aは、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cに対し、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40において力触覚伝達機能を実現するための各種設定を行う。
マスタ側制御部70bは、第2位置情報取得部50からの位置情報に基づいて算出した第2駆動モータ40の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)の指令値をマスタ側ドライバDmに出力する。
マスタ側ドライバDmは、マスタ側制御部70bから入力された指令値に従って、第2駆動モータ40に対し、駆動電流を入力する。
【0059】
第2駆動モータ40は、マスタ側ドライバDmから入力される駆動電流によって動作し、操作機材60の操作に対する反力を与える。
スレーブ側制御部70cは、第1位置情報取得部30からの位置情報に基づいて算出した第1駆動モータ20の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)の指令値をスレーブ側ドライバDsに出力する。
スレーブ側ドライバDsは、スレーブ側制御部70cから入力された指令値に従って、第1駆動モータ20に対し、駆動電流を入力する。
第1駆動モータ20は、スレーブ側ドライバDsから入力される駆動電流によって動作し、押付部材10をロールRに押し付ける力を発生する。
【0060】
以上の制御装置70(統括制御部70a、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70c)による制御によれば、マスタ側の操作機材60の操作に追従してスレーブ側の押付部材10がロールRの表面に接触すると、この押付部材10に加わる反力に応じた力が操作機材60に伝達されることになる。これにより、操作者Pはあたかも直接的に押付部材10をロールRの表面に押し付けているように、ロールRからの反力等を操作機材60で感じ取ることが可能となっている。
【0061】
<ロール清拭方法>
次に図4を参照してロール清拭方法について説明する。
すなわち本実施形態におけるロール清拭方法においては、上記した第2駆動モータ40と接続された操作機材60を操作者Pが操作することで、第1駆動モータ20と接続された押付部材10がロールRの表面に押し付けられて異物が除去されるように清拭する。
【0062】
まずステップ1では、上記した異物に起因する欠陥が発見される。より具体的には異物がロールRの表面に付着した場合、これ以降にロールRと接触する製造品(金属板)には欠陥が発生することになる。したがって例えば製造ラインにおける下流側で検品作業を行う作業員が上記欠陥の発生を認識することで、ロールRの表面への異物の付着が推定される。なお異物発見の態様については上記に限られず、例えばロールRの表面を観察可能な位置に撮像装置(監視カメラなど)を設け、この撮像装置を用いてリアルタイムに異物検出を行ってもよい。
【0063】
次いでステップ2では、搬送装置80を駆動して、押付部材10をロールRの軸方向に沿って移動させることで除去対象の異物が存在する欠陥領域(清拭位置)まで当該押付部材10を搬送する。
【0064】
続くステップ3では、操作者Pが操作機材60を操作する。これによりこの操作機材60の動作に追従して押付部材10が旋回動作を行ってロールRの表面に押し付けられる。より具体的にステップ3では、まず操作者Pの上記操作に起因して変化した操作機材60の第2位置(変位)が電気的又は磁気的手段等により検出される。するとこの検出した第2位置に対応させて第1駆動モータ20が押付部材10を駆動してロールRの表面に押し当てて清拭する。
【0065】
このとき力スケーリング制御により、マスタ側の操作機材60で操作した力(操作力)を数倍~数十倍(例えば本実施形態のロールRの清拭では10~30倍程度が好ましい)にしてスレーブ側の第1駆動モータ20に出力している。これにより本実施形態では以下の効果を得ることができる。
【0066】
すなわち、まず操作者Pが受ける反力は相対的に小さな力となって伝わるため操作者Pの安全性を確保できる。また、相対的に小さな力で操作機材60の操作が可能となることから、操作者Pの作業負担を軽減することができる。さらには、スケーリングによって操作力を増加させることから、駆動モータを小型化することができて省スペース化とコストダウンが可能となる。
【0067】
さらにステップ3では、上記した第2位置に応じて第1駆動モータ20によって駆動された押付部材10の第1位置(変位)が電気的又は磁気的手段等により検出されている。したがって制御装置70は、これら第1位置及び第2位置の情報に基づいて第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40が受ける反力をそれぞれ推定することが可能である。第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40が受ける反力は力センサ等によって検出することも可能である。
【0068】
操作者Pは、第2駆動モータ40の駆動によって、操作機材60を介してあたかも直接的に押付部材10をロールRの表面に押し付けているように、ロールRからの反力を操作機材60から感じ取ることが可能となる。これにより操作者Pは、ロールRからの反力をほぼリアルタイムで受けながら自在に押付力を変更することができ、ロールRの種類や付着した異物の種類などの清拭条件に応じたフレキシブルな清拭動作が可能となる。
なお、ステップ3におけるロール清拭装置100の処理(力触覚伝達処理)については、後述する。
【0069】
そしてステップ4では欠陥が除去されたか否かが判定される。
この判定手法については種々の態様が例示できるが、例えば上記した検品作業を行う作業員が除去完了の確認を行ってもよい。あるいは、ロールR付近に設置された撮像装置90からの画像に基づいて、欠陥領域をモニターMで監視しつつ操作者Pが除去完了を確認してもよい。
【0070】
そして上記欠陥の除去が完了した後は、続くステップ5では他の欠陥が存在するかが判定されて、他の欠陥が存在する場合にはステップ2へ戻って対象となる次の欠陥領域へ押付部材10を移動させる制御を実施する。これにより、例えば1つの製造ラインで複数の欠陥が製造品に発生した場合、それぞれの異物を効率的に除去することが可能となる。
一方でステップ5において他の欠陥がもう存在しない場合には、ロールRの表面から押付部材10を退避させて清拭動作を完了する。
【0071】
<力触覚伝達処理>
次に図5を参照して力触覚伝達処理について説明する。
図5は、ロール清拭装置100が実行する力触覚伝達処理のフローチャートである。
力触覚伝達処理は、制御装置70において、力触覚伝達処理の実行を指示する操作が行われることに対応して開始される。
【0072】
ステップ31では、統括制御部70aは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40において力触覚伝達機能を実現するための各種設定を行う。
ステップ32では、第1位置情報取得部30及び第2位置情報取得部50は、押付部材10及び操作機材60の位置情報を取得する。
ステップ33では、マスタ側制御部70bは、取得された操作機材60の位置情報から第1駆動モータ20の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)を算出し、スレーブ側制御部70cに送信する。同様に、スレーブ側制御部70cは、取得された押付部材10の位置情報から第2駆動モータ40の動作を表すパラメータ(例えば、速度及び力)を算出し、マスタ側制御部70bに送信する。
【0073】
ステップ34では、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cは、第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40の動作を表すパラメータを速度(または位置)と力とを独立して取り扱うことが可能な仮想空間のベクトルに座標変換する。
ステップ35では、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cは、仮想空間における速度(または位置)及び力の状態値(ベクトルの要素)を、速度(または位置)及び力の目標値とするための演算を行う。これにより、現在の速度(または位置)及び力の状態値と、速度(または位置)及び力の目標値との誤差を表す状態値が取得される。
【0074】
ステップ36では、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cは、演算によって取得された状態値が表すベクトルを仮想空間から実空間に逆変換する。
ステップ37では、マスタ側制御部70b及びスレーブ側制御部70cは、逆変換によって算出された実空間の速度(または位置)及び力が実現されるように第1駆動モータ20及び第2駆動モータ40を制御する。
【0075】
ステップ38では、統括制御部70aは、力触覚伝達処理の終了が指示されたか否かを判定する。
力触覚伝達処理の終了が指示されていない場合、ステップ38においてNOと判定されて、処理はステップ32に移行する。
一方、力触覚伝達処理の終了が指示された場合、ステップ38においてYESと判定されて、力触覚伝達処理は終了する。
【0076】
以上説明した第1実施形態のロール清拭装置100およびロール清拭方法によれば、既述した効果に加えて更に次の列挙する効果も適宜享受することができる。
・駆動モータとその位置情報検出器からの情報で制御して押付部材10をロールRへ押し付けることから、シンプルでコンパクトな装置構成を実現でき、ロール付近の狭空間において省スペースで設置が可能であることから様々なロールへ適用できる。
・操作者PはロールRから離隔した場所で押付部材10を遠隔操作することも可能であることから、操作者自身の安全性も担保できる。
・一般的にめっきラインは長大なものとなるが、操作者は問題のロールへ監視室から出向く必要が無く、欠陥を発見したら素早く清拭作業ができる。
・ロールRの表面からの反力を計測するに際して、高価でシステムモデルの変化も懸念されるトルクセンサや力センサを使用することなく、安価で非接触計測が可能な位置検出センサによって押付部材10の押圧力を応答性よく制御できる。
【0077】
なお上記した第1実施形態では表示装置としてモニターMを設置する例を示したが、制御装置70は、力触覚伝達処理において取得される各種パラメータ(例えば、力(押付部材10に作用する反力等)、位置(押付部材10の位置等)あるいは他の物理量)を視覚的にこのモニターMへ表示する制御を行ってもよい。これにより表示装置が表示する表示内容に基づいて前記操作機材60を操作することが可能となり、操作者Pはその時点の各種パラメータを視覚的に認識しながら操作機材60からの反力を感じ取ることができる。
【0078】
≪第2実施形態≫
次に図6を用いて本実施形態の第2実施形態について説明する。
上記した第1実施形態では載置台81上には変速機構21を介して押付ヘッド23と第1駆動モータ20とが載置されていたが、本実施形態ではこれに代えて上記のうち押付ヘッド23のみが載置台81に載置されている点に主とした特徴がある。
よって、以下では既述した実施形態と異なる点を主として説明し、既述の実施形態と同様な機能を持つ部材については同じ番号を付してその説明は適宜省略する(他の実施形態でも同様)。
【0079】
同図に示すとおり、本実施形態のロール清拭装置101においては、載置台81は押付部材10が装着された押付ヘッド23を搭載しており、一方でこの押付ヘッド23を駆動する第1駆動モータ24はロールRの軸方向へ移動せず固定配置されている。
また、第1駆動モータ24と押付ヘッド23とは変速機構を介さずに直接的に接続されており、いわゆるダイレクトドライブの形態が採用されている。
【0080】
なお本実施形態ではシャフト25としてボールスプライン軸が使用されており、押付ヘッド23が軸方向に沿って移動してもスレーブ側の第1駆動モータ24の位置は固定して不変となっている。
【0081】
以上説明した第2実施形態によれば、載置台81に駆動モータや変速機構を搭載しない構成としたことで軸方向へ移動する部材の重量をコンパクトにして軽量化することができる。さらにダイレクトドライブ構成とすることで、第1駆動モータ24からの駆動力を意図せず減損させずに押付部材10まで効率的に伝達することができる。また、変速機構が介在しないことから、押付部材10の変位をより精度よく抽出することが可能となっている。
【0082】
≪第3実施形態≫
次に図7~9を用いて本実施形態の第3実施形態について説明する。
上記した各実施形態では1つの操作機材60に対して1つの押付部材10が対応していたが、本実施形態では1つの操作機材60で複数の押付部材10を操作可能である点に主とした特徴がある。
【0083】
すなわち図7及び8に示すとおり、本実施形態のロール清拭装置102においては、操作機材60(不図示)、マスタ側制御部70b、マスタ側ドライバDm、第2駆動モータ40及び第2位置情報取得部50とで構成される単一のマスタ側装置が構成されている。また、ロール清拭装置102においては、清拭すべきロールR、それに対応した押付部材10、スレーブ側制御部70c、スレーブ側ドライバDs、第1駆動モータ20及び第1位置情報取得部30をそれぞれ具備する複数のスレーブ側装置が構成されている。
【0084】
なお図示では、すべて同種の第2実施形態で説明したロール清拭装置101におけるスレーブ側装置で構成されているが、この形態に限られない。例えば第1実施形態のロール清拭装置100におけるスレーブ側装置を複数含んで構成されていてもよいし、ロール清拭装置100とロール清拭装置101の双方におけるスレーブ側装置をそれぞれ含んで構成されていてもよい。
【0085】
一方でマスタ側装置においては、制御装置70の制御の下で、このマスタ側装置における第2駆動モータ40からの駆動指令を切り替えて複数のスレーブ側装置のうちの任意の第1駆動モータ24に加速度指令値として駆動指令を伝達する切替器SWを具備している。
【0086】
以上の構成を備えたロール清拭装置102によれば、1つの操作機材60によって複数の押付部材10を操作することが可能となる。
次に図9を用いて本実施形態におけるロール清拭方法について説明する。なお、上記第1実施形態で既述した構成と同じ構成については同じステップ番号を付してその説明は適宜省略する。
【0087】
すなわちまずステップ1では第1実施形態と同様にして欠陥を発見する。このとき図7にも示すとおりロールRは複数あることから、この時点でどの押付部材10を操作するかが決定される。
【0088】
そして続くステップαでは、制御装置70の制御の下で、切替器SWを介して操作対象の搬送装置80を選択する。
次いでステップ2~4では第1実施形態と同様にしてロールRの表面を清拭することで欠陥を除去する。
続くステップβでは他の欠陥が存在するか否かが判定され、他の欠陥が未だ存在する場合にはステップγへ続き、他の欠陥が存在しない場合には処理を完了させる。
【0089】
ステップγでは、他の欠陥が現在対象としているロールRの他の領域であるか又は現在対象としているロールR以外のロールRであるかが判定される。ステップγで欠陥が他のロールRで生じたものであると判定された場合には、ステップαへ戻って切替器SWを介して新たな欠陥除去対象となったロールRに対応する搬送装置80を選択する。
【0090】
一方でステップγにおいて他の欠陥が現在対象としているロールRの他の領域であると判定された場合には、ステップ2へ戻って制御装置70の制御の下で搬送装置80を駆動して押付部材10を上記した他の領域へと移動させる制御を行う。
【0091】
以上説明した第3実施形態によれば、単一のマスタ側装置を準備して多数のスレーブ側装置を操作できるので、効率的にロールRの表面に生じた欠陥(付着した異物など)を除去することが可能となる。
なお本実施形態では上記した複数のスレーブ側装置を、1つの製造ラインの異なる複数の位置に配置する形態であってもよいし、複数の製造ラインに対してスレーブ側装置をそれぞれ配置する形態であってもよい。
【0092】
以上説明した各実施形態は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
例えばスレーブ側装置が複数設置される場合には、押付部材10の材質や種類(布やブラシなど)を互いに異ならせてもよい。
【0093】
また、上記各実施形態では制御装置70は統括制御部70a~スレーブ側制御部70cに分割されていたが、これらの機能を1つに統合して単一の制御装置として構成してもよい。
また、各統括制御部70a~スレーブ側制御部70cは、少なくとも一部の配線が無線化されて情報通信を行ってもよいし、ノイズの影響を抑制したい箇所のみ有線化してもよい。
【0094】
また、清拭の対象となるロールRは、上記実施形態で例示した金属板を搬送する場合に限らず、例えば樹脂フィルムや紙などの搬送ロールにも適用できる。さらに、本発明が適用可能なロールRは、搬送用のロールに限らず、例えば圧延ロールやキャスティングロールなど他のロールにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、搬送ラインにおけるロールの清拭技術に適用することができ、マスタ側の操作力をスレーブ側に応答性よく伝えることができるとともに、スレーブ側に加わる力をマスタ側に応答性よく伝えることができ、ロールの清拭を繊細な動作で実現できる。
【符号の説明】
【0096】
P 操作者
R ロール
M モニター
100、101、102 ロール清拭装置
10 押付部材
20 第1駆動モータ
30 第1位置情報取得部
40 第2駆動モータ
50 第2位置情報取得部
60 操作機材
70 制御装置
80 搬送装置
90 撮像装置
S 制御対象システム
FT 機能別力・速度割当変換ブロック
FC 理想力源ブロック
PC 理想速度(位置)源ブロック
IFT 逆変換ブロック
Dm マスタ側ドライバ
Ds スレーブ側ドライバ
SW 切替器

図1
図2
図3
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図9