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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】新規大動脈瘤マーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240209BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240209BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20240209BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240209BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N27/62 V
C12N9/88 ZNA
C07K14/47
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019197539
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021071356
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南野 直人
(72)【発明者】
【氏名】八木 寛陽
(72)【発明者】
【氏名】錦織 充広
(72)【発明者】
【氏名】植田 初江
(72)【発明者】
【氏名】松田 均
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189744(WO,A1)
【文献】特開2019-032334(JP,A)
【文献】特開2016-217965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0281374(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得られた試料において、以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を測定する工程を含み、前記試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、大動脈瘤検出するための方法。
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質、
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
【請求項2】
前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象から得られた試料において、以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を測定する工程を含み、前記試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質、
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
【請求項4】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記対象がヒトである、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を含む大動脈瘤の検出マーカー。
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質、
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
【請求項8】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項7記載の検出マーカー。
【請求項9】
請求項7又は8記載の検出マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
【請求項10】
前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である、請求項9記載の検出剤。
【請求項11】
請求項9又は10記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
【請求項12】
大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿及び唾液から成る群より選択される、請求項7~11のいずれか1項記載の検出マーカー、検出剤又は検出キット。
【請求項13】
大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、請求項7又は8記載の検出マーカーの使用。
【請求項14】
大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、請求項7又は8記載の検出マーカーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈瘤の診断を補助する臨床検査薬の技術分野に関する。詳細には、大動脈瘤のバイオマーカー、それを用いる大動脈瘤の検出剤、大動脈瘤検出キット、及び大動脈瘤の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤は、大動脈の一部の壁が全周性又は局所性に(径)拡大又は突出した状態であり、瘤の発生部位により胸部大動脈では胸部大動脈瘤、胸部と腹部に連続する胸腹部大動脈瘤、腹部では腹部大動脈瘤と称される(非特許文献1)。大動脈瘤発症のピーク年齢は70~80代であり、人口の高齢化により近年増加しているが、検査しない限り大動脈瘤が発見されることはなく、ほぼ無症状で進行し、破裂に至ると生命の危機につながる重篤な病態となる。しかし、適切な治療を行うことにより破裂を回避することが可能であるため、大動脈瘤を早期に検出することは非常に重要である。
【0003】
胸部大動脈瘤は、健康診断などで胸部レントゲン写真を撮った時に偶然発見されることがほとんどであり、腹部大動脈瘤の場合は、胃潰瘍や胆石症などの消化器疾患を診断するために腹部を触診した際に、拍動するしこりとして発見されたり、消化管や腎臓、前立腺などの腹部エコー(超音波)の検査中あるいは胸部腹部のMRI検査中に偶然に発見されたりすることが多い。
【0004】
一方、大動脈瘤のマーカーとしては、Dダイマー、CRP、WBC、血漿ホモシステイン等が知られている(非特許文献2及び3)。また、Peroxiredoxin-1(以下、「PRDX1」と称する)が心血管疾患や大動脈瘤のバイオマーカーとして知られている(非特許文献4及び5)。
【0005】
しかし、いずれも、感度、特異度や疾患特異性の面から十分なものとは言えない。そのため、大動脈瘤を特異的且つ高感度に検出可能なバイオマーカーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン, 2011年改訂版
【文献】Balmforth Damian, et al., General Thoracic and Cardiovascular Surgery, 2019 Jan;67(1):12-19 doi:10.1007/s11748-017-0855-0
【文献】Wanhainen Anders, et al., Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 36(2), 236-44, 2016
【文献】Martinez-Pinna, et al., (2011) Identification of peroxiredoxin-1 as a novel biomarker of abdominal aortic aneurysm. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 31, 935-943.
【文献】Richard S, et al. Diagnostic performance of peroxiredoxin 1 to determine time-of-onset of acute cerebral infarction. Sci Rep 2016; 6: 38300.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、大動脈瘤を高感度に検出できる新規なバイオマーカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、感度や特異性に優れた大動脈瘤マーカーの提供を目的として鋭意検討し、胸部大動脈瘤組織を用いたプロテオーム解析を実施した。健常者大動脈組織と胸部大動脈瘤患者組織のプロテオームデータの比較から得られた疾患組織で顕著に変動する因子から、血液中において大動脈瘤を高感度、特異的に検出可能な新たなマーカーを見出した。
【0009】
また、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血清を用いたプロテオーム解析を実施した。得られた血清のプロテオミクスデータを組織プロテオミクスのデータと照合し、組織及び血清の両方において大動脈瘤で顕著な増加を示すタンパク質を、大動脈瘤を高感度、特異的に検出可能な新たなマーカーとして見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のような構成から成るものである。
(1)対象から得られた試料において、以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤の検出方法。
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
(2)前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、(1)記載の方法。
(3)対象から得られた試料において、以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
(4)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(1)~(3)のいずれか1記載の方法。
(5)試料が、血清、血漿、血液、尿及び唾液から成る群より選択される、(1)~(4)のいずれか1記載の方法。
(6)前記対象がヒトである、(1)~(5)のいずれか1記載の方法。
(7)測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(8)以下の1)~3)のいずれか1つ以上のタンパク質を含む大動脈瘤の検出マーカー。
【0011】
1) MXRA5(Matrix-remodeling-associated protein 5)タンパク質、
2) TALDO1(Transaldolase)タンパク質
3) METRNL(Meteorin-like protein)タンパク質。
(9)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(8)記載の検出マーカー。
(10)(8)又は(9)記載の検出マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
(11)前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である、(10)記載の検出剤。
(12)(10)又は(11)記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
(13)大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿及び唾液から成る群より選択される、(8)~(12)のいずれか1記載の検出マーカー、検出剤又は検出キット。
(14)大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、(8)又は(9)記載の検出マーカーの使用。
(15)大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、(8)又は(9)記載の検出マーカーの使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明により見出したMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を大動脈瘤のマーカーとして用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。
【0013】
また、本発明による大動脈瘤の検出剤及び検出キットは胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤ともに、その発症の早期診断の補助に使用することが可能であり、当該疾患の早期検出により疾患の重症化の回避に貢献可能である。さらに大動脈瘤の予防薬や治療薬の開発、評価にも使用することが可能と考えられ、大動脈瘤の予防や治療にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画におけるMXRA5の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。Y軸の「peak area ratio, TAA vs. HC 」は、当該タンパク質のMRM法による測定を行った特定のトリプシン消化ペプチドのピーク面積比率について、「HC」の面積を100とした時の「TAA」の面積比率を示し、図1-2~3及び図2-1~3のY軸も同様の意味である。
図1-2】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画におけるTALDO1の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図1-3】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画におけるPRDX1の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図2-1】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画におけるMXRA5の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図2-2】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画におけるTALDO1の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図2-3】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清のHDL分画、Protein分画におけるPRDX1の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図3】実施例2における胸部又は腹部大動脈瘤患者の血漿検体におけるMXRA5の測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)、「AAA」はAbdominal aortic aneurysm(腹部大動脈瘤患者)である。
図4】実施例2における胸部大動脈瘤の診断におけるMXRA5のROC曲線を示すグラフである。
図5】実施例3における胸部大動脈瘤患者の血清検体におけるMETRNLの測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「TAA」はThoracic aortic aneurysm(胸部大動脈瘤患者)である。
図6】実施例3における胸部大動脈瘤の診断におけるMETRNLのROC曲線を示すグラフである。
図7】実施例4における腹部大動脈瘤患者の血清検体におけるMETRNLの測定結果を示すグラフである。「HC」はhealthy control(健常者)であり、「AAA」はAbdominal aortic aneurysm(腹部大動脈瘤患者)である。
図8】実施例4における腹部大動脈瘤の診断におけるMETRNLのROC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、大動脈瘤マーカーの同定を目的として、健常者大動脈組織14例、胸部大動脈瘤患者組織29例から採取した大動脈中膜平滑筋層組織を用いてプロテオーム解析を以下のように行った。
【0016】
・組織の破砕とトリプシン消化
採取後、凍結した組織はビーズ破砕機を用いて破砕し、Lys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加して37℃で一晩インキュベーションにより消化した。得られた消化ペプチド(以下、トリプシン消化ペプチド)はC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。
【0017】
・解析
解析サンプルはナノLC(日立Nano Frontier、日立ハイテクノロジーズ社)で分離した後、連結されたTripleTOF 5600(SCIEX社)でMS/MS解析を行った。測定データからMascot database search(Matrix Science社)でタンパク質を同定し、LC-MSデータを集積して用いる比較定量プロテオーム解析ソフトである2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of Liquid chromatography-mass spectrometry、三井情報株式会社)を用いて定量を行い、非血管疾患群の大動脈と胸部大動脈瘤群の大動脈瘤の中膜平滑筋組織間で差のあるタンパク質の探索を行った。その結果、正常大動脈群に対し胸部大動脈瘤群で顕著な増加を示すタンパク質としてMeteorin-like protein(以下、「METRNL」と称する)を同定した。
【0018】
・血清の分画と解析
健常者及び胸部大動脈瘤患者の血清を用いたプロテオーム解析を以下のように行った。
血清は複数例を混合した後、超遠心機を用いて比重によりLDL(Low-density lipoprotein)/VLDL(Very low-density lipoprotein)分画、HDL(High-density lipoprotein)分画、Protein分画の3分画に分けた。Protein分画は採取後、血中多量タンパク質除去Sepproアフィニティカラム(Sigma-Aldrich社)にて多量タンパク質を除去した。その後、各分画をLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。
【0019】
解析サンプルはナノLC(Eksigent EkspertTMnanoLC 425、SCIEX社)で分離した後、連結されたTripleTOF 5600(SCIEX社)でMS/MS解析を行った。測定データからMascot database search (Matrix science社)でペプチド及びタンパク質情報を取得し、Skylineソフトウェア(University of Washington MacCoss Lab)を用いてMRMメソッド(MRM測定を行うためのプログラム)を作成した。その後、健常者血清及び胸部大動脈瘤患者血清から調製した解析サンプルについてMRM法による測定を行い、得られたデータをMultiQuantソフトウェア(SCIEX社)で解析することで、各トリプシン消化ペプチドのピーク面積を比較定量した。
【0020】
得られた血清のプロテオミクスデータを組織プロテオミクスのデータと照合し、組織及び血清の両方において胸部大動脈瘤患者で顕著な増加を示すタンパク質としてMatrix-remodeling-associated protein 5(以下、「MXRA5」と称する)、Transaldolase(以下、「TALDO1」と称する)を同定し、本発明を完成するに至った。
【0021】
以上の通り、MXRA5、TALDO1及びMETRNLはいずれも、胸部大動脈瘤患者由来の大動脈中膜組織又は血清若しくは血漿において、健常者と比較して顕著に発現が亢進していることが確認されている。MXRA5、TALDO1、METRNLをそれぞれ単独でマーカーとして使用することにより、大動脈瘤の検出が可能である。また、これらのうち2つ又は3つ全てを組み合わせてマーカーとして使用してもよい。
【0022】
以上に説明するように、本発明は、MXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上を大動脈瘤の検出マーカーとすることを特徴とする。
【0023】
本発明において、「マーカー」又は「バイオマーカー」は、対象から得られた試料の測定用の標的として使用される分子のことをいう。
【0024】
本発明に係る大動脈瘤の検出マーカーは、MXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上を含む。
【0025】
ヒトMXRA5は、UniProtのアクセション番号がQ9NR99で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/Q9NR99)。ヒトMXRA5のアミノ酸配列を配列番号1に示す。配列番号1に示すアミノ酸配列において、第1番目~第26番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第27番目~第2828番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。MXRAファミリーは、MXRA5、MXRA7、MXRA8の3つの遺伝子から構成され、細胞接着やマトリックスリモデリングに関わると考えられている機能未知のタンパク質だが、抗炎症、抗線維化分子として機能することが報告されている。遺伝子からはMXRA5の分子量は312kDaと予想される。MXRA5は、幾つかの哺乳類には見つかっているが、マウスやラットには見つかっていない(Jonay Poveda, Ana B. Sanz, Beatriz Fernandez-Fernandez, Susana Carrasco, Marta Ruiz-Ortega, Pablo Cannata-Ortiz, Alberto Ortiz, Maria D. Sanchez-Nino. MXRA5 is a TGF-β1-regulated human protein with anti-inflammatory and anti-fibrotic properties. J. Cell. Mol. Med. 2017; Vol 21, No 1, 154-164)。
【0026】
本発明において、MXRA5タンパク質には、配列番号1に示すアミノ酸配列における第27番目~第2828番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つ細胞接着機能、マトリックスリモデリング機能、抗炎症機能及び抗線維化機能のうちいずれか1つ以上の機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0027】
ヒトTALDO1は、UniProtのアクセション番号がP37837で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/P37837)。ヒトTALDO1のアミノ酸配列を配列番号2に示す。TALDO1は、ペントースリン酸経路における代謝物の均衡に重要な酵素の1つである。
【0028】
本発明において、TALDO1タンパク質には、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つペントースリン酸経路における代謝物均衡機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0029】
ヒトMETRNLは、UniProtのアクセション番号がQ641Q3で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/Q641Q3)。ヒトMETRNLのアミノ酸配列を配列番号3に示す。配列番号3に示すアミノ酸配列において、第1番目~第45番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第46番目~第311番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。METRNLは、新しいアディポサイトカインの1つであり、約40%のアミノ酸が一致するMeteorinのホモログである。ホモログのMeteorinとは異なり、METRNLはマウスの様々な組織で異なるレベルで発現しており、METRNLは神経栄養性因子として働くことや、白色脂肪細胞の褐色化に関わることが報告されている(Nishino J, Yamashita K, Hashiguchi H, Fujii H, Shimazaki T, Hamada H. Meteorin: a secreted protein that regulates glial cell differentiation and promotes axonal extension. EMBO J 2004; 23: 1998-2008.及びSi-li ZHENG1, Zhi-yong LI, Jie SONG, Jian-min LIU, Chao-yu MIAO. Metrnl: a secreted protein with new emerging functions. Acta Pharmacologica Sinica. 2016; 37: 571-579)。
【0030】
本発明において、METRNLタンパク質には、配列番号3に示すアミノ酸配列における第46番目~第311番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つ神経栄養性因子機能及び白色脂肪細胞の褐色化機能のうちいずれか1つ以上の機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0031】
なお、本発明に係るマーカーをC反応性蛋白(CRP)、Dダイマー、白血球数(WBC)、血漿ホモシステイン、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)等の既知の大動脈瘤マーカーと組み合わせて使用することも可能である。
【0032】
本発明に係るマーカーにより検出可能な大動脈瘤の発症部位は特に限定されない。大動脈基部、上行大動脈、大動脈弓部、下行大動脈のいずれかに発症した胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤のいずれも検出可能である。
【0033】
本発明において、大動脈瘤を検出する方法は、MXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を測定する工程を含む。試料中のMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を測定するに際しては、糖タンパク質としてのMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を測定しても良く、また、前処理により糖鎖、リン酸等の翻訳後修飾を除去した後にMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質のアミノ酸配列部分を測定しても良い。
【0034】
大動脈瘤を検出する方法は、対象から得られた試料において本発明に係るマーカーを測定することで、当該対象の大動脈瘤を検出することができる。従って、大動脈瘤を検出する方法は、大動脈瘤の診断、検査、評価又は判定方法、あるいは大動脈瘤を検出するためのin vitroにおけるデータ収集方法等ということができる。
【0035】
大動脈瘤を検出する方法の被験対象となり得る動物としては、例えばヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等の哺乳類が挙げられるが、好ましくはヒトである。
【0036】
また、大動脈瘤を検出する方法において使用する試料としては、例えば、血清、血漿、血液、尿及び唾液等が挙げられる。
【0037】
本発明においては、例えば、大動脈瘤が疑われる患者から採取された試料において、in vitroでMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルを測定することにより、大動脈瘤の発症可能性を判断することができる。患者検体中のMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルを健常者のレベルと比較し、患者検体中のMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルが健常者のレベルに比べて高い場合、大動脈のいずれかの部位で将来、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。
【0038】
具体的には、大動脈瘤を検出する方法に準じて、本発明は、対象から得られた試料において、本発明に係るマーカーを測定することで、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングする方法をさらに含む。
【0039】
また、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断するための各マーカーのカットオフ値としては、限定されるものではないが、例えば、以下のマーカーのカットオフ値は、実施例に示すデータを基に作成したROC曲線から得られたものである。
【0040】
(1) MXRA5
・胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤:
血漿中のカットオフ値:26.1 ng/mL(感度55.9%、特異度80.0%)
(2) METRNL
・胸部大動脈瘤:
血清中のカットオフ値:1466.4 pg/mL(感度64.3%、特異度88.8%)
・腹部大動脈瘤:
血清中のカットオフ値:1477.5 pg/ml(感度47.4%、特異度92.3%)
【0041】
このようにカットオフ値に基づいて、患者検体中のMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルがカットオフ値に比べて高い場合、胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。
【0042】
本発明に係るマーカーは、大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングや、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定のために使用することも可能である。例えば、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定を行う場合は、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする被験対象動物に大動脈瘤の予防薬又は治療薬を投与する前と投与した後、被験対象動物から試料を採取するか、又は当該予防薬又は治療薬を投与した後、被験対象動物から時系列で2以上の時点で試料を採取し、試料におけるMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルの経時変化を調べることにより行うことができる。大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変の形成、進展が抑制された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示す。一方、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変が改善された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質レベルは経時的な減少傾向を示す。
【0043】
本発明に係るマーカータンパク質を測定する方法としては、例えば、免疫測定法、質量分析法等、MXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を特異的に測定できる方法であれば周知のいかなる方法を用いても良い。本発明に係るマーカータンパク質を測定する際に用いる検出剤としては、抗体やアプタマー等を用いることができる。
【0044】
免疫測定法としては、特に限定されないが、各種のエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫染色法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ビオチン-アビジン法、免疫沈降法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法(LA)、免疫比濁法(TIA)等を挙げることができる。
【0045】
免疫測定法において使用する検出剤として、既に市販されている抗MXRA5抗体、抗TALDO1抗体、抗METRNL抗体を使用しても良いが、公知のMXRA5のアミノ酸配列(配列番号1)、TALDO1のアミノ酸配列(配列番号2)、METRNLのアミノ酸配列(配列番号3)に基づいて定法により抗体を調製しても良い。MXRA5、TALDO1、METRNLそれぞれのアミノ酸配列の構造を特異的に認識する抗体で良いが、それぞれの糖鎖やジスルフィド結合、リン酸化等の翻訳後修飾を含む全体構造を特異的に認識するものでも良い。
【0046】
MXRA5タンパク質、TALDO1タンパク質、METRNLタンパク質を検出可能な抗体であれば由来する動物種やクローンは特に限定されない。ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ニワトリ等に由来する抗体が挙げられ、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でも構わない。また、MXRA5タンパク質、TALDO1タンパク質、METRNLタンパク質への特異的な結合に適する全てのサブクラスの抗体を用いることができる。組換え抗体、Fab、Fab'又はF(ab')2断片のような断片を用いることももちろん可能である。
【0047】
本発明に係る大動脈瘤の検出剤として、MXRA5タンパク質、TALDO1タンパク質、METRNLタンパク質と結合性を有するアプタマーを利用することもできる。アプタマーの製造には、公知のMXRA5のアミノ酸配列(配列番号1)、TALDO1のアミノ酸配列(配列番号2)、METRNLのアミノ酸配列(配列番号3)から、結合し得るDNA若しくはRNA又はそれらの誘導体である核酸アプタマーやアミノ酸で構成されるペプチドアプタマーを周知の方法により合成して用いれば良い。測定の際には、アプタマーの結合を発光法や蛍光法、表面プラズモン共鳴法により検出することができる。
【0048】
質量分析法としては、特に限定されないが、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、表面増強レーザー脱離イオン化法(SELDI)等を用いたイオン源と、飛行時間型分析計(TOF)、イオントラップ型分析計(IT)、フーリエ変換型分析計(FT)等を組み合わせた質量分析計が利用できる。質量分析計を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やキャピラリー電気泳動(CE)等の分離装置と連結したLC-MSやCE-MS等を用いることが出来る。また、質量分析データの取得方法として、データ非依存性解析(DIA)、データ依存性解析(DDA)、多重反応モニタリング法(MRM)等が挙げられる。質量分析では、試料をiTRAQ試薬(SCIEX社)等による安定同位体標識を行う場合も含まれる。
【0049】
本発明の大動脈瘤検出を行う際に必要な各種の試薬類は、予めパッケージングしてキット化することができる。例えば、(i)捕捉抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(ii)検出抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的な酵素標識化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(iii)基質溶液等の必要な試薬がキットとして提供される。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
胸部大動脈瘤患者の血清検体中のMXRA5、TALDO1の測定(MRM法)
MXRA5、TALDO1及び対照としてPRDX1の血清濃度について、多重反応モニタリング法(以下、「MRM法」と称する)による測定を行った。
【0052】
詳細には、複数例の血清を混合した後、超遠心機を用いて比重によりLDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画の3分画に分けた。その後、Protein分画については採取後、血中多量タンパク質除去Sepproアフィニティカラム(Sigma-Aldrich社)にて多量タンパク質を除去した。その後、各分画にLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。解析サンプルはナノLC(Eksigent EkspertTM nanoLC 425、SCIEX社)で分離した後、連結されたTripleTOF 5600 (SCIEX社)でMS/MS解析を行った。測定データからMascot database search (Matrix science社)でペプチド及びタンパク質情報を取得し、Skylineソフトウェア(University of Washington MacCoss Lab)を用いてMRMメソッド(MRM測定を行うためのプログラム)を作成した。その後、健常者血清及び胸部大動脈瘤患者血清から調製した解析サンプル中のMXRA5、TALDO1、PRDX1の特定のトリプシン消化ペプチドについてMRM法による測定を行い、得られたデータをMultiQuantソフトウェア(SCIEX社)で解析することで、各トリプシン消化ペプチドのピーク面積を比較定量した。
【0053】
・結果1
MXRA5、TALDO1及びPRDX1の測定結果を図1に示す。
解析サンプルは健常人血清23例及び胸部大動脈瘤患者血清8例をそれぞれ混合して調製した。LDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画のそれぞれについて健常人血清に対する胸部大動脈瘤患者血清の当該タンパク質のMRM法による測定を行った特定のトリプシン消化ペプチドのピーク面積比率を示した。MXRA5では、それぞれ90%、94%、446%と、Protein分画において胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積が大幅に増加していた。TALDO1では、それぞれ57%、118%、379%と、LDL/VLDL分画では若干低下していたものの、HDL分画、Protein分画において胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積が大幅に増加していた。従って、MXRA5、TALDO1が胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0054】
PRDX1についてもそれぞれ、96%、100%、287%と、Protein分画において胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積が大幅に増加していた。心血管疾患や大動脈瘤のバイオマーカーとして多数の報告があるPRDX1と、MXRA5、TALDO1が同様に胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積の大幅な増加が認められ、MXRA5、TALDO1の胸部大動瘤マーカーとして有用である可能性が強く示された。
【0055】
・結果2
異なる検体で実施したMXRA5、TALDO1及びPRDX1の測定結果を図2に示す。
解析サンプルは結果1とは異なる健常人血清12例及び胸部大動脈瘤患者血清9例をそれぞれ混合して調製した。LDL/VLDL分画、HDL分画、Protein分画のそれぞれについて健常人血清に対する胸部大動脈瘤患者血清のピーク面積比率を示した。MXRA5では、それぞれ71%、98%、172%と、Protein分画において胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積が大幅に増加していた。TALDO1では、それぞれ112%、145%、73%と、Protein分画では若干低下していたものの、LDL/VLDL分画、HDL分画において胸部大動脈瘤患者血清でピーク面積が大幅に増加していた。従って、異なる検体を用いた場合もMXRA5、TALDO1が胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0056】
PRDX1についてはLDL/VLDL分画では検体量が不足し検出できなかったが、HDL分画、Protein分画における値はそれぞれ98%、99%であった。従って、MXRA5、TALDO1はPRDX1より有用な胸部大動脈瘤マーカーである可能性が示唆された。
【0057】
〔実施例2〕
胸部・腹部大動脈瘤患者の血漿検体からのMXRA5の測定(ELISA法)
MXRA5の血漿濃度について、ELISA測定を行った。MXRA5は、ELISA Kit for Matrix Remodeling Associated Protein 5 (cloud-clone社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0058】
詳細には、抗MXRA5抗体の固相化されたプレートに、希釈した血漿検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、検出試薬A液を添加してさらにインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、検出試薬B液を添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、MXRA5濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用した。
【0059】
・結果1
MXRA5の結果を図3に示す。
図3に示す結果から、MXRA5は健常者(15例)及び大動脈瘤患者(胸部、腹部含む34例)でそれぞれ、23.9±12.3ng/mL、28.8±12.6ng/mLと、大動脈瘤患者で血漿MXRA5値が増加していた。従って、MRM法による測定結果(実施例1)と一致して、MXRA5が大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0060】
・結果2(ROC曲線によるMXRA5の大動脈瘤マーカーとしての評価)
大動脈瘤の診断におけるMXRA5のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図4に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.645であった。従って、MXRA5は大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0061】
〔実施例3〕
胸部大動脈瘤患者の血清検体からのMETRNLの測定(ELISA法)と、ROC曲線による胸部大動脈瘤マーカーとしての評価
METRNLの血清濃度について、ELISA測定を行った。METRNLは、Human Meteorin-like/METRNL DuoSet ELISA (R&D Systems社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0062】
詳細には、抗METRNL抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ペルオキシダーゼが結合した抗METRNL抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、METRNL濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0063】
・結果1
METRNLの結果を図5に示す。
図5に示す結果から、METRNLは健常者(41例)及び胸部大動脈瘤患者(28例)でそれぞれ、1318.2±189.4 pg/mL、1629.6±475.8 pg/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血清METRNL値が増加していた。従って、METRNLが胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0064】
・結果2(ROC曲線によるMETRNLの胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるMETRNLのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図6に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.731であった。従って、METRNLは胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0065】
〔実施例4〕
腹部大動脈瘤患者の血清検体からのMETRNLの測定(ELISA法)と、ROC曲線による腹部大動脈瘤マーカーとしての評価
METRNLの血清濃度について、ELISA測定を行った。METRNLは、Human Meteorin-like/METRNL DuoSet ELISA (R&D Systems社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0066】
詳細には、抗METRNL抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ペルオキシダーゼが結合した抗METRNL抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、METRNL濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0067】
・結果1
METRNLの結果を図7に示す。
図7に示す結果から、METRNLは健常者(41例)及び腹部大動脈瘤患者(38例)でそれぞれ、1318.2±189.4 pg/mL、1542.4±406.0 pg/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血清METRNL値が増加していた。従って、METRNLが腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0068】
・結果2(ROC曲線によるMETRNLの腹部大動脈瘤マーカーとしての評価)
腹部大動脈瘤の診断におけるMETRNLのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図8に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.653であった。従って、METRNLは腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る大動脈瘤の新規マーカーであるMXRA5、TALDO1及びMETRNLのうちいずれか1つ以上のタンパク質を用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。そのため、本発明に係る大動脈瘤の検出剤及び検出キットは、大動脈瘤のスクリーニングや早期診断の補助、予防薬や治療薬の開発、評価等に使用することができ、また、本発明は、当該検出剤及び検出キットを製造する産業において利用することができる。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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