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特許7432916複数ネットワークスライスの障害復旧システム、障害復旧方法及びバックアップ用ネットワークスライス作製プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】複数ネットワークスライスの障害復旧システム、障害復旧方法及びバックアップ用ネットワークスライス作製プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 41/40 20220101AFI20240209BHJP
   H04L 45/28 20220101ALI20240209BHJP
   H04L 45/24 20220101ALI20240209BHJP
   H04L 45/128 20220101ALI20240209BHJP
【FI】
H04L41/40
H04L45/28
H04L45/24
H04L45/128
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020020773
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021129140
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)刊行物名 福井大学大学院工学研究科2018年度修士論文 発行日 2019年2月12日 発行所 国立大学法人福井大学 2)刊行物名 信学技報,vol119,no.221,NS2019-102,pp19-20 発行日 2019年10月3日 発行所 一般社団法人電子情報通信学会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】橘 拓至
【審査官】大石 博見
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-193322(JP,A)
【文献】特開2017-192096(JP,A)
【文献】特開2006-237725(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160030(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 41/40
H04L 45/28
H04L 45/24
H04L 45/128
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成され、該バックアップ構成における障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられるバックアップ用ネットワークスライス、
を備え、
障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、前記バックアップ構成の各々に対応する仮想バックアップ構成から障害部分を用いない構成が選択され、前記バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて前記迂回経路で通信が行われることを特徴とする複数ネットワークスライスの障害復旧システム。
【請求項2】
前記バックアップ用ネットワークスライスは、前記ネットワークスライスに生成された前記複数の仮想バックアップ構成におけるノード及びリンクの資源量が、いずれの単一障害からも復旧できる必要最低限の資源量となるように最適化されたことを特徴とする請求項1に記載の複数ネットワークスライスの障害復旧システム。
【請求項3】
前記バックアップ用ネットワークスライスにおいて、
前記複数のバックアップ構成は、MRC(Multiple Routing Configurations)を用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複数ネットワークスライスの障害復旧システム。
【請求項4】
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時に影響を受けるネットワークスライスが障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられたバックアップ用ネットワークスライス。
【請求項5】
請求項1~3の何れかの障害復旧システムにおける前記バックアップ用ネットワークスライス。
【請求項6】
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されるバックアップ用ネットワークスライスを構築するステップと、
前記バックアップ用ネットワークスライスに対して障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップと、
障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、前記バックアップ構成の各々に対応する仮想バックアップ構成から障害部分を用いない構成が選択され、前記バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて前記迂回経路で通信するステップ、
を備えたことを特徴とする複数ネットワークスライスの障害復旧方法。
【請求項7】
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されるバックアップ用ネットワークスライスを構築するステップと、
前記バックアップ用ネットワークスライスに対して障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップ、
を備えたことを特徴とする複数ネットワークスライスの障害復旧方法。
【請求項8】
障害時に影響を受けるネットワークスライスにおいて、
予め生成された複数の仮想バックアップ構成から障害部分を用いない仮想バックアップ構成が選択されるステップと、
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時に影響を受けるネットワークスライスが障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられたバックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて前記迂回経路で通信するステップ、
を備えたことを特徴とする複数ネットワークスライスの障害復旧方法。
【請求項9】
前記バックアップ用ネットワークスライスは、前記ネットワークスライスに生成された前記複数の仮想バックアップ構成におけるノード及びリンクの資源量が、いずれの単一障害からも復旧できる必要最低限の資源量となるように最適化されたことを特徴とする請求項6又は8に記載の複数ネットワークスライスの障害復旧方法。
【請求項10】
前記バックアップ用ネットワークスライスを構築するステップにおいて、
前記複数のバックアップ構成が、MRC(Multiple Routing Configurations)を用いて生成されることを特徴とする請求項6又は7に記載の複数ネットワークスライスの障害復旧方法。
【請求項11】
複数ネットワークスライスのバックアップ用ネットワークスライスを作製するプログラムであって、
物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成された前記バックアップ用ネットワークスライスを構築するステップと、
前記複数のバックアップ構成から、各ネットワークスライスに対して複数の仮想バックアップ構成を生成するステップと、
前記バックアップ用ネットワークスライスに障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップ、
をコンピュータに実行させるバックアップ用ネットワークスライス作製プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信ネットワークにおいて、障害から復旧するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ネットワーク仮想化技術は、大容量・高速通信サービスを支える重要な技術である。ネットワーク仮想化技術では、図22に示すように、1つの物理ネットワーク上の各種ネットワーク資源であるノード資源(CPUやメモリ)やリンク資源(伝送帯域)を分割して複数の独立な仮想ネットワーク(以下、「ネットワークスライス」ともいう。)を構築することにより、各ネットワークスライスA,Bで異なる通信サービスを提供する。図23では、ネットワーク仮想化の例を示しており、物理ネットワークにある例えばノードdの資源(CPUやメモリ)を分割して、物理的なノード資源の一部をネットワークスライスAのノードd とネットワークスライスBのノードd に割り当てる例を示している。
【0003】
しかしながら、複数のネットワークスライスを構築すると、物理ネットワークのネットワーク資源(ノード資源、リンク資源)が少なくなる。物理ネットワークのネットワーク資源は有限であり、同時に構築可能なネットワークスライスの数が制限されてしまう。そのため、十分満足なサービス品質を提供可能なネットワークスライスを多数構築するためには、物理ネットワークのネットワーク資源を有効に利用しなければならない。
【0004】
物理ネットワークに複数のネットワークスライスが構築されている場合、物理ネットワークで発生する障害が、複数の異なる通信ネットワーク(ネットワークスライス)に影響してしまう。そのため、通常の物理ネットワークで利用されている障害復旧技術をそのまま適用することは容易でない。
図24は、通信ネットワークのイメージ図を示している。図24に示す例では、物理ネットワーク1上に、ネットワーク仮想化技術によって複数のネットワークスライス3が構築されている。ネットワークスライス3では、物理ネットワーク1でノード・リンク障害が発生すると、障害が発生したノード・リンクを使用する仮想ネットワーク(ネットワークスライス)の仮想ノード・仮想リンクでも障害が発生する。図24に示す例では、ノード4の内、ノード4aに障害が発生すると、リンク(5a,5b)においても障害が発生する。そのため、物理ネットワークの障害が複数のネットワークスライスで障害を引き起こし、各ネットワークスライスの通信性能が低下してしまう。
【0005】
大規模な通信ネットワークでは、障害が発生すると、一般的にOSPF(Open Shortest Path First)を用いた障害復旧が行うが、その際、予備経路の変更に長時間を要してしまい障害から迅速に復旧できず障害の影響が広範囲に広がってしまう。そして、障害の発生と復旧が短時間に繰り返されると、伝送経路が頻繁に変更されてしまうことになり、経路制御が安定しない状況に陥ってしまう。このような長時間の不安定な経路制御が、通信性能の大幅な劣化を引きおこしてしまう。そのため、通信ネットワークの高速な障害復旧を実現する技術が期待されている。
【0006】
長期間の通信性能低下を回避して上記の問題点を解決する高速障害復旧技術として、複数のバックアップ構成を事前に用意して単一ノード・リンク障害から高速障害復旧が実現可能なMRC(Multiple Routing Configurations)方式が提案されている(例えば、特許文献1,非特許文献1を参照。)。図25は、MRCを利用したネットワークの複数トポロジ構成による障害復旧の説明図であり、(1)は障害を迂回するためのバックアップ構成の概要説明図、(2)は複数トポロジ構成による障害復旧の説明図を示している。図25(1)に示すように、通常(障害発生していない状態)のネットワーク11に対して、MRCでは、高速障害復旧を実現するために予めK個のバックアップ構成21を用意する。単一ノード・リンクの障害発生時には、障害が発生したノード・リンク以外で構成されている1個のバックアップ構成を選択して障害を迂回する。具体的には、図25(2)に示すように、送信元であるノード4bから受信先であるノード4dへ経路6aを辿ってデータが送信される場合、ノード4cにおいて障害発生を検知すると、K個のバックアップ構成21から障害を迂回する1つのバックアップ構成が選択される。ここでは、バックアップ構成21aが選択されている。そして、データは障害を検知したノード4cから、制限リンク52、通常リンク51を辿り(経路6b)、ノード4dへと送信される。このように、MRC方式では、障害発生時に、障害箇所を利用しないバックアップ構成に切り替えることで、高速な障害復旧を実現する。
【0007】
物理ネットワーク上に構成された複数のネットワークスライスに対して、MRCを利用して高速障害復旧を実現する場合、ネットワークスライスで利用していないネットワーク資源も利用しなければならない。これは、ネットワークスライスのトポロジはユーザが利用したい形状で構成されており、一般に、物理ネットワークよりもノード数やリンク数が少ない形状になっており、MRCを使っても障害から復旧できないためである。図26は、MRCを利用したネットワークスライスの障害復旧イメージ図であり、(1)は障害発生イメージ、(2)は障害復旧イメージを示している。ここで、図26(1)では3つのネットワークスライスを構築したために、物理ネットワーク1の残余資源(ネットワークスライスで使用されていない資源)が少なくなっている場合を示している。また、障害復旧時にあるネットワークスライスで使用するバックアップ用のネットワーク資源は、当該ネットワークスライスが通常時に使用しているネットワーク資源と同じ量であることが望まれる。このとき、非特許文献1に開示されたMRC方式では、図26(1)に示す障害が発生すると、図26(2)に示すように、障害発生時に切り替わったバックアップ構成のノードやリンクの資源を物理ネットワークから確保することができず、通信障害から復旧できないという問題が生じる。また、上記のような資源量が確保できないことを想定して、障害発生後にバックアップ用の資源を準備すると高速な復旧は難しく、一方で、事前に資源を準備しているとネットワーク資源を浪費することになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-193322号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】A. Kvalbein, et al., “Multiple Routing Configurations for Fast IP Network Recovery,” IEEE/ACM Trans. Networking, vol. 17, no. 2, pp. 473-486, Apr. 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる状況に鑑みて、本発明は、ネットワークスライシングによる複数ネットワークスライス環境において、障害発生時に切り替わったバックアップ構成のノードやリンクの資源量が確保でき、障害発生から短時間で安定して復旧できる複数ネットワークスライスの障害復旧システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明の複数ネットワークスライスの障害復旧システムは、物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成(すなわち、障害が発生した場合に使用される複数のバックアップ構成)が生成され、該バックアップ構成における障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられるバックアップ用ネットワークスライスを備え、障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、バックアップ構成の各々に対応する仮想バックアップ構成から障害部分を用いない構成が選択され、バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信が行われる。
上記構成とされることにより、複数のネットワークスライスに対する高速障害復旧と資源の有効利用が実現できる。
【0012】
本発明の複数ネットワークスライスの障害復旧システムにおいて、バックアップ用ネットワークスライスは、各ネットワークスライスに対して生成された複数の仮想バックアップ構成におけるノード及びリンクの資源量が、いずれの単一障害からも復旧できる必要最低限の資源量となるように最適化されたことが好ましい。
上記構成とされることにより、資源をより有効に利用することができる。
【0013】
本発明の複数ネットワークスライスの障害復旧システムは、バックアップ用ネットワークスライスにおいて、複数のバックアップ構成が、MRC(Multiple Routing Configurations)を用いて生成されたものであることが好ましい。
複数のバックアップ構成が、MRCを用いて生成されることにより、単一ノード・単一リンク障害からの高速復旧が保証される。
【0014】
本発明のバックアップ用ネットワークスライスは、物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時に影響を受けるネットワークスライスが障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられたものである。
【0015】
本発明のバックアップ用ネットワークスライスは、上記の何れかの障害復旧システムを構成するものである。
【0016】
本発明の第1の観点によれば、複数ネットワークスライスの障害復旧方法は、下記1)~3)のステップを備える。
1)物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されるバックアップ用ネットワークスライスを構築するステップ。
2)バックアップ用ネットワークスライスに対して障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップ。
3)障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、バックアップ構成の各々に対応する仮想バックアップ構成から障害部分を用いない構成が選択され、バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信するステップ。
【0017】
ネットワークスライスにおける仮想バックアップ構成は、あくまでも障害発生時に使われる資源がどこにあるかを示しているだけである。障害が発生すると、選ばれた仮想バックアップ構成に応じた資源量は、バックアップ用ネットワークスライスの資源量からもらい、自身のネットワークスライスの資源に追加することにより、迂回経路で通信する。ここで、ネットワークスライスがバックアップ用ネットワークスライスの資源量を与えられる形態としては、自身のネットワークスライスに資源が追加される場合と、バックアップ用ネットワークスライスの資源量を自身のネットワークスライスと論理的につなぎ合わせる場合がある。
上記1)~3)の構成を備える第1の観点による複数ネットワークスライスの障害復旧方法によれば、バックアップ用ネットワークスライスを構築し、ネットワークスライスの障害部分を用いない仮想バックアップ構成を考慮して資源量を割り当て、障害発生時において安定した通信を継続することができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、複数ネットワークスライスの障害復旧方法は、下記1),2)のステップを備える。
1)物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されるバックアップ用ネットワークスライスを構築するステップ。
2)バックアップ用ネットワークスライスに対して障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップ。
上記1),2)の構成を備える第2の観点による複数ネットワークスライスの障害復旧方法によれば、バックアップ用ネットワークスライスを構築し、ネットワークスライスの障害部分を用いない仮想バックアップ構成を考慮して資源量を割り当て、障害発生時において安定した通信を継続するためのバックアップ用ネットワークスライスを物理ネットワークに確保できる。
【0019】
本発明の第3の観点によれば、複数ネットワークスライスの障害復旧方法は、障害時に影響を受けるネットワークスライスにおいて、下記1),2)のステップを備える。
1)予め生成された複数の仮想バックアップ構成から障害部分を用いない仮想バックアップ構成が選択されるステップ。
2)物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時に影響を受けるネットワークスライスが障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量が割り当てられたバックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信するステップ。
上記1),2)の構成を備える第3の観点による複数ネットワークスライスの障害復旧方法によれば、ネットワークスライスに対して予め生成された複数の仮想バックアップ構成から障害部分を用いない仮想バックアップ構成を選択して、バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信を行い、障害発生時において安定した通信を継続することができる。
【0020】
本発明の第1~3の観点による複数ネットワークスライスの障害復旧方法において、バックアップ用ネットワークスライスは、ネットワークスライスに生成された複数の仮想バックアップ構成におけるノード及びリンクの資源量が、いずれの単一障害からも復旧できる必要最低限の資源量となるように最適化されたことが好ましい。
これにより、通常時には使用しない(障害発生時のみ使用する)バックアップ用ネットワークスライスの資源量を最小限に抑え、物理ネットワークの資源を有効に活用できる。
【0021】
本発明の第1及び第2の観点の複数ネットワークスライスの障害復旧方法は、バックアップ用ネットワークスライスを構築するステップにおいて、複数のバックアップ構成が、MRC(Multiple Routing Configurations)を用いて生成されることが好ましい。
【0022】
本発明のバックアップ用ネットワークスライス作製プログラムは、複数ネットワークスライスのバックアップ用ネットワークスライスを作製するプログラムであって、下記1)~3)のステップをコンピュータに実行させるものである。
1)物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されたバックアップ用ネットワークスライスを構築するステップ。
2)複数のバックアップ構成から、各ネットワークスライスに対して複数の仮想バックアップ構成を生成するステップ。
3)バックアップ用ネットワークスライスに障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てるステップ。
【発明の効果】
【0023】
本発明の複数ネットワークスライスの障害復旧システム及び方法によれば、ネットワークスライシングによる複数ネットワークスライス環境において、障害発生時に切り替わったバックアップ構成のノードやリンクの資源量が確保でき、障害発生から短時間で安定して復旧できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】障害復旧システムのシステム構成図
図2】障害復旧システムの処理フロー図
図3】障害復旧システムの説明図
図4】ネットワークスライス構成イメージ図
図5】遺伝子の例を示す図
図6】初期集団の例を示す図
図7】交叉の例を示す図
図8】突然変異の例を示す図
図9】COST239トポロジの構成イメージ図
図10】COST239バックアップ用ネットワークスライスの構成イメージ図
図11】バックアップ構成のセットイメージ図
図12】2つのネットワークスライスの経路情報と資源情報を示す図
図13】2つのネットワークスライス資源の表示イメージ図
図14】セット1のバックアップ構成イメージ図
図15】実施例1のセット1のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図16】実施例1のセット2のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図17】実施例1のセット3のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図18】ネットワークスライス資源配置の変換例を示す図
図19】実施例2のセット1のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図20】実施例2のセット2のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図21】実施例2のセット3のバックアップ構成の実行結果を示すグラフ
図22】資源分割の説明図
図23】ネットワーク仮想化の例を示す図
図24】通信ネットワークのイメージ図
図25】MRCを利用した通常のネットワークの障害復旧イメージ図
図26】MRCを利用したネットワークスライスの障害復旧イメージ図
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0026】
図1は、障害復旧システムのシステム構成の一例を示している。図1に示すように、障害復旧システム100は、物理ネットワーク1上に、ネットワークスライス3と、障害発生時にネットワークスライス3に資源を提供するバックアップ用ネットワークスライス2とが構築されている。バックアップ用ネットワークスライス2は、複数のバックアップ構成20を備え、ネットワークスライス3は、複数の仮想バックアップ構成30を備える。図1に関しては、後述の実施例の説明の中で詳述する。
【0027】
ネットワークスライスが既に構築されているとして、障害復旧システムの処理について以下に説明する。図2は、障害復旧システムの処理フローを示している。図2に示すように、まず、物理ネットワークと同一トポロジを有し、ノード又はリンクの障害時の複数のバックアップ構成が生成されたバックアップ用ネットワークスライスを構築する(ステップS01)。複数のバックアップ構成から、各ネットワークスライスに対して複数の仮想バックアップ構成を生成する(ステップS02)。バックアップ用ネットワークスライスに障害部分を用いない迂回経路で通信するための資源量を割り当てる(ステップS03)。ネットワークスライスで通常の通信で使用するノード又はリンクで通信障害が発生し、通信障害をノードが検知すると(ステップS04)、障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、複数の仮想バックアップ構成から障害部分を用いない仮想バックアップ構成が選択され(ステップS05)、障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信する(ステップS06)。なお、ステップS01~S03は、予め又は正常時にオンラインで構築でき、ステップS05,S06は、障害発生時に行うものである。
【0028】
上記説明は、既に複数のネットワークスライスが構築され運用されている場合を想定しているが、ステップS01でバックアップ用ネットワークスライスが構築された後に、構築した各ネットワークスライスに対して複数の仮想バックアップ構成を生成することでもよい。
【0029】
障害復旧システムについて、図3を参照して説明する。図3の左側に図示するように、物理ネットワークのノード・リンクに障害が発生すると、ネットワークスライス上でも、該当するノード・リンクで障害が発生しており、そのノード・リンクを用いた通信が継続できない状況になる。なお、障害発生したノード・リンクを通信経路には使用しないネットワークスライスでは、特に、障害発生の影響はなく、通信に問題は生じない。また、物理ネットワークと同一トポロジを有するバックアップ用ネットワークスライスでは、物理ネットワークと同様に、該当するノード・リンクで障害発生する。
【0030】
障害が発生すれば、図3の右側に図示するように、通信が継続できない状況にあったネットワークスライスでは、複数の仮想バックアップ構成から障害部分を用いない仮想バックアップ構成が選択され、迂回経路で通信を継続することで、高速に障害復旧する。この場合、迂回経路で通信を行うために、新たに迂回経路で使用可能なノードに対して、通信を継続するための資源量が確保されていなければ、通信を継続することはできない。すなわち、既に他のネットワークスライスの通信において、迂回経路で使用するノードを既に使用しており、当該ノードの資源量が残り僅かであった場合には、迂回経路で通信を継続することができない可能性がある。そのため、障害時に影響を受けるネットワークスライスでは、バックアップ用ネットワークスライスの資源を用いて迂回経路で通信を継続する。通信継続を保証するために、バックアップ用ネットワークスライスに障害部分を用いない迂回経路で通信するための復旧用資源を予め割り当てて資源を確保しておくのである。復旧用資源は、障害発生時のみに用いることから、この復旧用資源を最適化し、できるだけ余分な資源量を割り当てないようにする。
【0031】
例えば、あるノードに障害Aが発生し、ネットワークスライスが障害部分のノードを用いない迂回経路で通信して通信障害から復旧するために、迂回経路上のノード3に10の資源量が必要であるとする。その場合、他の障害Bから復旧するためにノード3で4の資源量を使用するとしても、ノード3に10の資源量が保証されていれば問題は生じない。すなわち、ノード3のバックアップ用ネットワークスライスに障害A用に10の資源量、障害B用に4の資源量が必要である場合には、同時に一つの障害しか起きないことを前提とする限りにおいて、ノード3におけるバックアップ用ネットワークスライスの資源量は、max(10,4)=10の資源量を確保すればよいことになる。仮に、障害A用に7の資源量、障害B用に8の資源量が必要な場合には、max(7,8)=8となり、10よりも少ない資源量をバックアップ用ネットワークスライスに確保することにより復旧できることになる。
【実施例1】
【0032】
本実施例では、物理ネットワーク上に構築されたネットワークスライスに対して、ネットワーク資源の有効利用を考慮し、一例としてMRCを利用した障害復旧システムについて説明する。障害復旧システムでは、ネットワークスライスの障害復旧用に利用可能なバックアップ用ネットワークスライス(ネットワークスライスの一つである)を物理ネットワーク上に構築する。バックアップ用ネットワークスライスは、障害復旧までの許容時間に応じて、予め構築しておく場合と、障害発生後にオンラインで構築する場合がある。まず、バックアップ用ネットワークスライスに対してMRCを実行し、複数のバックアップ構成を用意する。その後、各バックアップ構成から、各ネットワークスライス専用のバックアップ構成、すなわち、仮想バックアップ構成を構築する。このとき、仮想バックアップ構成内のノードとリンクは、バックアップ用ネットワークスライスの資源量が、いずれの単一障害からも復旧できる必要最低限の資源量となるように決定する。このように、障害復旧システムを利用することで、複数のネットワークスライスに対して障害発生から短時間で安定した復旧と物理ネットワークの資源量の有効利用が実現できる。
【0033】
まず、ネットワークスライスに対して、高速障害復旧とネットワーク資源の有効利用を実現するために、複数の仮想バックアップ構成を構築する処理について説明する。
本実施例では、物理ネットワーク上にネットワークスライスの障害復旧時に利用するバックアップ用ネットワークスライスを構築する。次に、バックアップ用ネットワークスライスに対してMRCを実行し、K個のバックアップ構成を用意する。その後、各バックアップ構成から、各ネットワークスライス専用の仮想バックアップ構成を構築する。
障害発生時には、各ネットワークスライスが適切な仮想バックアップ構成を選択する。それから、MRCの復旧手順に従って伝送経路を選択することによって高速障害復旧を実現する。
【0034】
本実施例では、高速障害復旧に加えて、バックアップ用ネットワークスライスで使用されるネットワーク資源の有効利用も実現する。ここで、バックアップ用ネットワークスライスのネットワーク資源は、障害復旧時に選択される仮想バックアップ構成によって利用される。そのため、バックアップ用ネットワークスライスで使用される資源量が最小になるような仮想バックアップ構成のトポロジを決定することが望まれる。そこで、バックアップ用ネットワークスライスで使用される資源量を最小化する最適化問題を定式化して、最適化問題の解として仮想バックアップ構成のトポロジを決定することで最適な仮想バックアップ構成を生成する。
しかしながら、物理ネットワークの規模やネットワークスライスの数によっては、最適化問題に対する解を導出することが容易ではない。そこで、最適化問題の近似解を導出するために、各仮想バックアップ構成で利用するトポロジを、K-shortest pathアルゴリズムを使用してトポロジの候補を縮小し、その解を遺伝的アルゴリズムによって導出することで仮想バックアップ構成の最適構成を求める。なお、計算量を気にしない場合は、K-shortest pathアルゴリズムを使用せずに、任意のトポロジを解候補としても良い。また、最適化問題の求解には、遺伝的アルゴリズム以外のメタヒューリスティックアルゴリズムや、ヒューリスティックアルゴリズム、CPLEX(登録商標)などの最適化ソフトウェアを利用することもできる。
【0035】
ここで、仮想バックアップ構成について説明する。まずは物理ネットワークに十分な資源を用意する。そして、物理ネットワーク上にネットワークスライスの障害復旧時に利用する物理ネットワークのトポロジと同じ形であるバックアップ用ネットワークスライスを構築する。そのバックアップ用ネットワークスライスに対して、MRC方式を用いて、バックアップ構成を複数用意する。次に、複数のバックアップ構成に対して、K-shortest pathアルゴリズムを用いて、MRC方式の以下の6つの条件に従って、各ネットワークスライス専用の仮想バックアップ構成を生成する。
(条件1)全てのバックアップの障害ノードと障害リンクの和集合は元のトポロジに一致する。
(条件2)個々のバックアップにおいて、通常リンクと通常ノードが連結グラフを構成する。
(条件3)障害ノードには、必ず障害リンクか制限リンクが接続され、通常リンクは接続されない。
(条件4)障害ノードに接続しているリンクは、少なくとも1本が制限リンクである。
(条件5)制限リンクに接続している2つのノードは、一方が通常ノードでもう一方が障害ノードである。
(条件6)障害リンクに接続している2つのノードは、一方が障害ノードである。
【0036】
図1では、N個のネットワークスライス(V,・・・,V,・・・,V)が障害復旧時に利用するバックアップ用ネットワークスライスVに対して、E個のバックアップ構成(C ,・・・,CE )が設定されている。さらに、k番目のバックアップ構成C に基づいて、n番目のネットワークスライスVが利用する仮想バックアップ構成C が用意されている。通常時のネットワークでのデータ伝送中に単一ノード障害が発生した場合、影響を受けているネットワークスライスは複数の仮想バックアップ構成から当該ノードが障害ノードとなっている仮想バックアップ構成を1つ選択する。また、単一リンク障害の場合は、影響を受けているネットワークスライスは複数の仮想バックアップ構成から当該リンクが障害リンクになっている仮想バックアップ構成を1つ選択する。そして、選択した仮想バックアップ構成をデータ伝送に利用することで、高速障害復旧が実現される。
【0037】
(ネットワーク資源の有効利用)
本実施例の障害復旧システムでは、各ネットワークスライスが仮想バックアップ構成を用いて障害から高速に復旧する。しかしその一方で、平常時に利用していないネットワーク資源をバックアップ用ネットワークスライスとして確保して障害復旧時に使用することになる。それゆえ、仮想バックアップ構成を生成するとき、バックアップ用ネットワークスライスで使用する資源量を考慮することが重要となる。
ここで、物理ネットワークにあるノード集合をDとする。仮想バックアップ構成C で使用するノードd(0≦i≦D)とリンクeij(ノードd‐d間のリンク)の資源量をw (d)およびw (eij)とする。障害時に主な復旧経路としてk番目の仮想バックアップ構成を利用する場合、仮想バックアップ構成C 内のノードdとリンクeijで使用される資源量をW (d)およびW (eij)とする。ネットワークスライスVが仮想バックアップ構成のk´番目の経路候補を利用する場合、ノードd‐d間の通信でノードdとリンクeijの必要な資源量をw(k´,d,d,d)とw(k´,d,d,eij)とする。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
MRC方式の復旧手順に従って、障害時に主な復旧経路としてk´番目の経路候補をノードd‐d間の通信でノードdとリンクeijで使用するかどうかの判断をF (k´,d,d,d)とF (k´,d,d,eij)で決定する。ここで、k´番目の候補経路を障害復旧で使うならばF=1、違うならばF=0とする。ここで、Fが“1”か“0”かの判断は以下の手順に従って決定する。
1)k=k´の場合、F=1、そうでなければ次の手順に進む。
2)ノードdかdがC でisolatedノードである場合、次の手順に進む。そうでなければF=0とする。
3)手順2で判断したisolatedノードdかdに接続している制限リンクがネットワークスライスの通常時の経路と同じリンクである場合、次の手順に進む、そうでなければF=0とする。
4)C´ で手順3の制限リンクが接続しているノードd、もしくはdの対向ノードがisolatedノードである場合、F=1とする。
このとき、バックアップ用ネットワークスライス内のノードdとリンクeijで使用される資源量W(d)およびW(eij)は、以下の式で与えられる。
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
【0043】
上記式3及び式4内のW (d)とW (eij)は、ネットワークスライスVの通常構成でノードdとリンクeijを使用する資源量を表している。したがって、W (d)-W (d)とW (eij)-W (eij)は、障害復旧にバックアップ用ネットワークスライスでノードdとリンクeijが必要な資源量を表している。N個のネットワークスライスに対して、障害復旧にノードdとリンクeijが必要な資源量として最も大きい値を選択する。その値をバックアップ用ネットワークスライスにあるノードdとリンクeijに割り当てることで、N個のネットワークスライスにおいて、ノードdとリンクeijの障害復旧に対応できる。
本実施例では、物理ネットワークのネットワーク資源を有効利用するために、バックアップ用ネットワークスライスで使用する資源量に対して、以下の最適化問題を定式化する。
【0044】
【数5】
【0045】
上記式5では、バックアップ用ネットワークスライス内にある全てのノードと全てのリンクが障害復旧に使用される資源量の最小値を求めている。上記式1~5によって、N個のネットワークスライスに対して、障害復旧を実現するバックアップ用ネットワークスライスで必要な資源量を求められる。さらに、バックアップ用ネットワークスライスで障害復旧に必要な資源量の最低限を導出することで、物理ネットワークのネットワーク資源の有効利用を実現し、より多くのネットワークスライスを構築することが可能になる。
【0046】
(遺伝的アルゴリズムによる最適解)
次に、遺伝的アルゴリズムで導出する最適化問題の解について説明する。図4は、ネットワークスライス構成イメージ図であり、1つの物理ネットワーク上に2つのネットワークスライスA,Bが構築される例を示している。図5は、図4のネットワークスライスに対して定式化した最適化問題の解を遺伝的アルゴリズムで求める場合の遺伝子の例を示している。ここで、バックアップ構成が3つあると仮定している。この図では、1つの個体の遺伝子で図4の2つネットワークスライスに対してどのノード間のどの最短経路を選択するのかを表している。この例では、その2つのネットワークスライスにあるノード間の経路をK-shortest pathアルゴリズムによって導出し、導出した経路番号を遺伝子として与えている。
【0047】
図6は、初期集団の例を示している。図6の例では個体1ではネットワークスライスAに対してバックアップ構成(図6内および以下ではMRCと表す)1のノードd‐d間の経路として5番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として2番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として3番目の最短経路を選択する。また、MRC2のノードd‐d間の経路として1番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として2番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として2番目の最短経路を選択する。さらに、MRC3のノードd‐d間の経路として4番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として1番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として5番目の最短経路を選択する。ネットワークスライスBに対しては、MRC1のノードd‐d間の経路として3番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として1番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として3番目の最短経路を選択する。MRC2のノードd‐d間の経路として4番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として2番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として5番目の最短経路を選択する。MRC3のノードd‐d間の経路として1番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として3番目の最短経路を選択し、ノードd‐d間の経路として2番目の最短経路を選択することを示している。このように、一つの遺伝子で、すべてのネットワークスライスに対する障害復旧時の使用経路を示している。
【0048】
本来、初期集団の各遺伝子の値はランダムに生成するが、本実施例では、初期集団が最適化問題の制約条件を満足するように、MRC方式の制限リンクと障害ノードの条件を満たすように遺伝子をランダムに決定し初期集団とする。
それから、最適化問題の式を用いて各個体の適応度を計算する。適応度は、上記式5を目的関数として、その解の値が小さいほど適応度は高くなるように設定する。個体の選択では、各世代における適応度が最も高い個体を選ぶ。選択で選んだ個体に対して交叉を行う(図7参照)。
交叉の処理をしたら、生成された個体に対して突然変異の処理を行う(図8参照)。
【0049】
突然変異とは生物における遺伝子の突然変異をモデル化したものである。突然変異率に従って個体の遺伝子の一部を他の値に変化させる遺伝子操作である。この操作は局所最適解から抜け出す効果がある。突然変異確率を低くすると局所最適からなかなか抜け出せなくなるが、高くしすぎると解の探索効率が落ちてしまう。
遺伝的アルゴリズムの処理は、あらかじめ設定した最大世代数に基づき、世代数が最大世代数に到達した場合に終了する。
【0050】
(性能評価試験)
次に、本実施例の障害復旧方法に従って実際にネットワークスライスに対する複数のバックアップ構成を構築し、性能評価を行った。
【0051】
(シミュレーション条件)
図9は、COST239トポロジの構成イメージ図であり、(1)は各ノード及びリンクのイメージ図、(2)は各ノード及びリンクに十分な資源を与えたイメージ図を示している。図9(1)に示すように、本性能評価試験では、ノード数は11ノード、リンク数は25リンクのCOST239トポロジに最大10個のネットワークスライスが構築されているネットワークで提案方式の性能を評価する。まず、COST239トポロジに対して、復旧用に利用可能なバックアップ用ネットワークスライスを構築する。それから、バックアップ用ネットワークスライスに対して、バックアップ構成を生成する。なお、後述する実施例2では、生成される各バックアップ構成に対して、COST239ネットワーク上に構築されるネットワークスライスに異なるノード・リンク資源を配置した場合における障害復旧システムの性能を評価する。
まずは、図9(2)に示すように、COST239ネットワークに十分の資源量を与える。そして、図10に示すように、COST239ネットワーク上にCOST239と同じトポロジを持つ復旧用に利用可能なバックアップ用ネットワークスライスを構築する。図11に示すように、構築されるバックアップ用ネットワークスライスに対して、3つのバックアップ構成を生成し、生成した3つのバックアップ構成の異なる組み合わせを3セット分生成する。ネットワーク上に1つから10個までのネットワークスライスを設定し、それぞれの場合に対して本実施例の手法を適用して、遺伝的アルゴリズムによって導出した結果とランダムに生成した最初の遺伝子で導出した結果と比較する。また、遺伝的アルゴリズムは一世代ごとに生成される個体数を150個、交叉率を0.8、突然変異率を0.2とし、終了条件となる最大世代数は1000として行った。
【0052】
(シミュレーション実行手順・実行例)
次に、シミュレーションの実行例を説明する。COST239ネットワーク上に、2つのネットワークスライスが構築されると仮定する。2つのネットワークスライスの経路情報とノード資源およびリンク資源を以下の図12のように示す。それを行列式として出力する(図13参照)。
ここで、行列式の対称成分がノード資源を表し、行列式の他の成分がリンク資源を表している。なお、本実施例で使用されるネットワークのトポロジは無向グラフであるため、行列式の対称成分の左側と右側のリンク資源は同じ表示になる。実行例では、セット1のバックアップ構成を用いて、図14のように表している。そして、2つのネットワークスライスに対して、バックアップ構成から仮想バックアップ構成を生成する。生成される仮想バックアップ構成から、各ノードとリンクの最も大きい値を取り出して、適応度の高い初期値の親として選択する。最後に、シミュレーション条件で説明した遺伝的アルゴリズムの各パラメータに従って実行し、結果を下記表1のように示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(シミュレーション結果)
次に、1つから10個までのネットワークスライスを持つCOST239ネットワークに対して、バックアップ構成の3セットそれぞれに対して本実施例の手法を適用してその結果を評価する。さらに、バックアップ構成の3つのセットを保持した上で、ネットワークスライスに異なる資源を配置し、その実行結果を示す。
【0055】
(3つのバックアップ構成に対する結果)
図15は、1つから10個のネットワークスライスに対して、セット1のバックアップ構成に対する実行結果を示している。
図15に示すグラフでは、横軸がネットワークスライスの数を表している。縦軸がネットワーク障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。グラフ内の実線が本実施例の手法(実施例1)で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表し、破線がランダムに生成(比較例1)した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。
【0056】
ここで、構築されたネットワークスライスの数が増加すると、使用するノードとリンクの数も増加する。物理ネットワークからネットワークスライスに配置するネットワーク資源も増加する。ネットワークに障害が発生する時、バックアップ用ネットワークスライスで復旧に必要なネットワーク資源量も増加する。
そのため、1つから10個のネットワークスライスに対して、ネットワークスライスが1つだけ構築された時、本実施例の手法を用いた実施例1でもランダム方式を用いた比較例1でも障害復旧にバックアップ用ネットワークスライスで必要なネットワーク資源量が最も少ない。また、ネットワークスライスの数が増えれば増えるほど、障害復旧にバックアップ用ネットワークスライスで必要なネットワーク資源量も徐々に増大する。したがって、ネットワークスライスが10個まで構築された時、実施例でも比較例でも障害復旧にバックアップ用ネットワークスライスで必要なネットワーク資源量が最大値になる。図16では、1つから10個のネットワークスライスに対する、セット2のバックアップ構成の実行結果を示している。
図17では、1つから10個のネットワークスライスに対する、セット3のバックアップ構成の実行結果である。
【0057】
図15~17の結果に示されるように、実施例1で求めた障害復旧に必要なネットワーク資源量と、比較例1のランダムに生成した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なネットワーク資源量を比較すると、本実施例の障害復旧方法で求めた障害復旧に必要なネットワーク資源量は比較例1のランダムに生成した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なネットワーク資源量より明らかに低減することがわかる。
【実施例2】
【0058】
(実施例1と同じバックアップ構成で異なるネットワークスライス資源を配置した結果)
実施例2では、実施例1と同じバックアップ構成を用いて、ネットワークスライスのノード・リンク資源量を変更して性能評価を行う。
今、ネットワークスライスVに対して、ネットワーク資源配置の変換例を図18のように示す。ネットワークスライスVの元の資源設定では、リンクd‐d間の資源に6を割り当てて、リンクd‐d間の資源に8を割り当てて、リンクd‐d間の資源に10を割り当てて、ノードdの資源に14を割り当てて、ノードdの資源に16を割り当てて、ノードdの資源に18を割り当てた。
ここで、リンクd‐d間の資源に10を割り当てて、リンクd‐d間の資源に6を割り当てて、リンクd‐d間の資源に8を割り当てて、ノードdの資源に16を割り当てて、ノードdの資源に18を割り当てて、ノードdの資源に14を割り当てる。
このように、ネットワークスライスV1からV10まで、ネットワーク資源の設定をそれぞれ変更して実施例1と同じバックアップ構成で性能評価を行う。
【0059】
図19は、10個のネットワークスライス資源を変更した環境で、セット1のバックアップ構成で実行したシミュレーション結果を示している。
図19内では、横軸がネットワークスライスの数を表している。縦軸がネットワーク障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。グラフ内の実施例1を示す実線が、実施例1の障害復旧方法で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表し、グラフ内の比較例1を示す破線がランダムに生成した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。グラフ内の実施例2を示す実線が、ノード資源とリンク資源を変更した10個のネットワークスライスに対して、実施例2の障害復旧方法で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。グラフ内の比較例2を示す破線がノード資源とリンク資源を変更した10個のネットワークスライスに対して、ランダムに生成した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量を表している。
【0060】
図20では、10個のネットワークスライス資源を変更した上でセット2のバックアップ構成で実行したシミュレーション結果である。
図21では、10個のネットワークスライス資源を変更した上でセット3のバックアップ構成で実行したシミュレーション結果である。
【0061】
図19~21の結果に示されるように、ノード資源とリンク資源を変換した10個のネットワークスライスに対して、障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量の増加傾向が元のノード資源とリンク資源を持つネットワークスライスの結果と同じ傾向であることがわかる。さらに、ネットワークスライスのノード資源とリンク資源を変換した場合、実施例2で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量でも、比較例2のランダムに生成した仮想バックアップ構成で求めた障害復旧に必要なバックアップ用ネットワークスライスの資源量より少なくなることがわかる。このように、異なるネットワーク資源を配置するネットワークスライスに対して、障害復旧システムの有効性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、通信ネットワークにおいて、障害から復旧するための技術として有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 物理ネットワーク
2 バックアップ用ネットワークスライス
3 ネットワークスライス
4,4a~4d ノード
5,5a,5b リンク
6a,6b 経路
11 通常のネットワーク
20,21,21a バックアップ構成
30 仮想バックアップ構成
51 通常リンク
52 制限リンク
100 障害復旧システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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