(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】加工機
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240209BHJP
B23Q 3/08 20060101ALI20240209BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20240209BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B23Q11/00 M
B23Q3/08 A
B23K26/38 Z
B23K26/16
(21)【出願番号】P 2020023811
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】林 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】長崎 克俊
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋慧
(72)【発明者】
【氏名】蒲田 貴之
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109676267(CN,A)
【文献】特開2002-248593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120379(US,A1)
【文献】特開2001-347433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23Q 3/08
B23K 26/16、38
B26D 7/18、20
B28D 7/02、04
H01L 21/68、304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を所定の加工線に沿って切断または切削する加工を施すための加工手段と、
前記加工線により分割される被加工物の一方の部位を下方より支持する第一支持体と、
前記加工線により分割される被加工物の他方の部位を下方より支持し、前記第一支持体との間で加工線の直下に位置する溝を形成するように第一支持体に対向し、かつその溝に臨む縁部に溝から離反する外方向に凹む切欠を加工線に沿った複数箇所に設けてある第二支持体と、
前記溝と連通するように前記
複数箇所に設けられた切欠の一部の切欠の直下の位置に開口する複数の吸引孔を含み、前記溝及び前記切欠を通じて前記吸引孔から被加工物の下方の雰囲気を吸引する吸引手段と
を具備する加工機。
【請求項2】
前記吸引手段は、さらに流路と吸引ポンプとを含み、
前記各吸引孔は、前記第一支持体の内部で下方に伸長し、その下端部が外側方に伸長する前記流路に接続するとともに、前記流路は、吸引ポンプに接続している請求項1記載の加工機。
【請求項3】
複数の前記切欠の存在により、前記第二支持体における前記溝に臨む縁部が櫛歯状をなしている請求項1または2記載の加工機。
【請求項4】
前記第一支持体に、被加工物を吸着し当該第一支持体に対して固定する吸着手段を配設している請求項1、2または3記載の加工機。
【請求項5】
前記加工手段は、被加工物の上方から被加工物における加工線の位置にレーザ光を照射するものである請求項1、2、3または4記載の加工機。
【請求項6】
被加工物がプラスチックフィルムである請求項1、2、3、4または5記載の加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物(ワーク)を所定の加工線に沿って切断または切削する加工を行う加工機、特にレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
単層のまたは積層されたプラスチックフィルムにレーザ光を照射することで、当該フィルムを所望の形状に切断または切削するレーザ加工機が公知である(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
この種の加工機による切断または切削加工の際には、被加工物の材料の蒸気ないし微粒子の煙であるヒュームや粉塵が不可避的に発生する。そして、そのヒュームまたは粉塵が飛散し、被加工物の表面に付着して被加工物を汚損することが起こる。ヒュームまたは粉塵による汚損は、予め被加工物の表面に付している位置合わせのためのアライメントマークを覆い隠してしまう等の問題を招来し、切断または切削加工後の工程において被加工物の表面を洗浄または清拭する余分な手順を要求することとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加工機により被加工物を切断または切削する際に生ずるヒュームまたは粉塵の被加工物への付着を軽減することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、被加工物を所定の加工線に沿って切断または切削する加工を施すための加工手段と、前記加工線により分割される被加工物の一方の部位を下方より支持する第一支持体と、前記加工線により分割される被加工物の他方の部位を下方より支持し、前記第一支持体との間で加工線の直下に位置する溝を形成するように第一支持体に対向し、かつその溝に臨む縁部に溝から離反する外方向に凹む切欠を加工線に沿った複数箇所に設けてある第二支持体と、前記溝と連通するように前記複数箇所に設けられた切欠の一部の切欠の直下の位置に開口する複数の吸引孔を含み、前記溝及び前記切欠を通じて前記吸引孔から被加工物の下方の雰囲気を吸引する吸引手段とを具備する加工機を構成した。
【0007】
好ましくは、前記吸引手段が、さらに流路と吸引ポンプとを含み、前記各吸引孔は、前記第一支持体の内部で下方に伸長し、その下端部が外側方に伸長する前記流路に接続するとともに、前記流路は、吸引ポンプに接続している構造とする。前記第二支持体における前記溝に臨む縁部が、複数の前記切欠の存在により櫛歯状をなしていれば、吸引手段が一層効果的にヒュームまたは粉塵を吸引して回収することが可能となる。
【0008】
前記第一支持体に、被加工物を吸着し当該第一支持体に対して固定する吸着手段を配設していれば、切断または切削加工中に被加工物を確実に位置決めすることができ、加工精度の向上に資する。
【0009】
前記加工手段は、典型的には、被加工物の上方から被加工物における加工線の位置にレーザ光を照射するものである。
【0010】
被加工物は、例えば、単層のまたは積層されたプラスチックフィルム(樹脂フィルム)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工機により被加工物を切断または切削する際に生ずるヒュームまたは粉塵の被加工物への付着を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の加工機における被加工物を支持する支持体を示す斜視図。
【
図4】同加工機の支持体及び被加工物を示す平面図。
【
図5】同加工機の支持体、被加工物、加工手段及び吸引手段を示すA-A線断面図。
【
図6】同加工機の支持体、被加工物、加工手段及び吸引手段を示すB-B線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1ないし
図6に示す本実施形態の加工機は、被加工物5を所定の加工線Cに沿って切断または切削する加工を行うものである。
【0014】
本実施形態では、被加工物5として、単層のフィルム、または複数枚のフィルムを積層したものを想定している。フィルムは、例えばプラスチックフィルムであり、その材料としてはポリイミド等を挙げることができる。このような被加工物5は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイの基板等に用いられる。
【0015】
本実施形態では、薄膜状または薄板状をなす被加工物5を、
図4中に一点鎖線で表している加工線Cに沿って切断し、所望の形状をなす部材を得ることを想定している。そのために、本実施形態の加工機は、被加工物5を支持体1、2の上に載置し、当該被加工物5を当該支持体1、2に保定した上で、同被加工物5に対してレーザ光Lを照射するレーザ加工を実施する。
図5及び
図6に示すように、加工手段の構成要素となるレーザ加工ノズル4は、支持体1、2及び被加工部5の上方にあって、下方に向けてレーザ光Lを出射する。
【0016】
被加工物5を支持する支持体1、2は、第一支持体1と、第二支持体2とに分かたれる。第一支持体1は、被加工物5のうちの所望の部材となる部位51を支持する。第二支持体2は、被加工物5のうちの所望の部材以外の端材となる部位52を支持する。
【0017】
第一支持体1は、例えばアルミニウム合金を素材として作製する。その上面には、硬質アルマイト酸化皮膜処理を施すことがある。第一支持体1は、被加工物5の大部分51を支持する台座様の載置部11と、載置部11の外周を囲繞する平面視略門形(または、略Π字形)の窪部12とを有している。窪部12は、載置部11と比較して下方に凹んでいる。即ち、窪部12の上面は載置部11の上面よりも低い位置にあり、逆に言えば載置部11は窪部12よりも盛り上がっている。
【0018】
載置部11には、その上面に開口する多数の吸着孔13を穿ち設けてある。これら吸着孔13は、被加工物5に対する加工を実行するときに当該被加工物5を吸着して固定する吸着手段の構成要素となる。
図5及び
図6に示すように、多数の吸着孔13は第一支持体1の内部で下方に伸長し、それらの下端部がダクト14に合流している。ダクト14は、図示しない吸引ポンプに接続している。
【0019】
窪部12には、その上面に開口する複数の吸引孔15を穿ち設けている。これら吸引孔15は、被加工物5を加工線Cに沿って切断する加工に伴って生じるヒューム及び/または粉塵を吸引して回収する吸引手段の構成要素となる。
図2ないし
図6に示すように、各吸引孔15は第一支持体1の内部で下方に伸長し、その下端部が外側方に伸長する流路16に接続している。流路16は、図示しない吸引ポンプに接続している。
【0020】
また、窪部12には、ナット孔17を形成している。ナット孔17には、第一支持体1とは別体をなす第二支持体2を第一支持体1に固着するためのボルトが螺合する。
【0021】
第二支持体2は、例えば表面の摩擦係数の小さいフッ素樹脂、特にポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)という商品名で呼称されることがある)を素材として作製する。第二支持体2は、複数の部品21、22に分割されており、それらの総体が平面視窪部12の形状と合致した板状体をなす。即ち、第二支持体2は、平面視略門形の左右の部分を構成するように奥行方向に拡張した一対のプレート21と、それらプレート21の端部同士を連結するように幅方向に拡張したプレート22とからなる。対をなす左右のプレート21は、互いに対称な形状である。これらプレート21、22は、窪部12に嵌め込むようにして第一支持体1に取り付ける。
【0022】
第二支持体2のプレート21、22における、第一支持体1の載置部11の外周縁部に臨む内周縁部23は、その上面の高さが載置部11の上面の高さと略面一となっている。これに対し、縁部23の外方に隣接している外周部24の上面は、縁部23の上面よりも僅かながら高くなっている。
【0023】
プレート21、22を第一支持体1の窪部12に嵌め込み取り付けた状態で、第一支持体1の載置部11の外周縁部の外側端面と第二支持体2の内周縁部23の内側端面とは水平方向に沿って離間して対向し、双方の間に上方に開口した溝3が形成される。この溝3は、被加工物5を加工するための加工線Cの直下に位置し、
図4に示しているように平面視加工線Cと重なり合い、加工線Cに沿って延伸している。換言すれば、第一支持体1の載置部11の外周縁部とプレート21、22の内周縁部23とが、加工線Cを挟んで対向している。
【0024】
プレート21、22の縁部23には、平面視上記の溝3から離反する外方に凹む、上下に貫通した多数の切欠25を設けている。切欠25は、平面視溝3の延伸方向と略直交する方向に伸びた細幅(例えば、約1mm幅)の短冊状をなし、溝3の延伸方向に沿って略等間隔で配列されている。これら切欠25の存在により、プレート21、22の縁部23は櫛歯状となっている。
【0025】
プレート21、22の外周部には、ボルト挿通孔27を開設している。ボルト挿通孔27は、平面視第一支持体1の窪部12に形成したナット孔17と重なり合う。プレート21、22を第一支持体1に取り付けるにあたっては、各プレート21、22を窪部12に嵌め込み、上方からボルトをボルト挿通孔27に挿通してナット孔17に螺合し緊締せしめ、以てプレート21、22を第一支持体1に固着する。
【0026】
また、プレート21、22に、その縁部23の内側端面から内方に若干突出した突起26を形成している。
図3ないし
図6に示しているように、突起26は、その先端面が載置部11の外側端面に当接し、プレート21、22を第一支持体1に対して位置決めする。
【0027】
プレート21、22の外周部24の上面には、プレート21、22を第一支持体1に対して着脱するときに把持できる把手となるピン28を固設している。
【0028】
図5及び
図6に示すように、第一支持体1に取り付けた第二支持体2のプレート21、22の外周部24の下面と、第一支持体1の窪部12の上面とは当接する。一方で、縁部23及び突起26の下面は、外周部24の下面よりも若干高い位置にあり、窪部12の上面から若干浮いている。吸引
孔15は、それら縁部23及び突起26の下面並びに切欠25の直下に開口している。縁部23に形成した多数の切欠25はそれぞれ、溝3に繋がっている。これにより、各切欠25を介して溝3の全域を吸引
孔15に連通せしめることができる。
【0029】
本実施形態の加工機による被加工物5の加工を実行するに際しては、
図4ないし
図6に示すように、被加工物5を第一支持体1及び第二支持体2に跨るようにして載置する。さらに、吸引ポンプを稼働させ、
図5及び
図6中に矢印で表しているように、吸着孔13の内部に、載置部11上に載置した被加工物5の直下の雰囲気を吸引する負圧を発生させる。結果、被加工物5の下面が載置部11の上面に吸着される。
【0030】
そして、レーザ照射ノズル4からレーザ光Lを被加工物5における加工線Cの位置に照射する。それとともに、そのレーザ光Lの光軸を加工線Cに沿って遷移させる。より具体的には、レーザ照射ノズル4を被加工物5及び支持体1、2に対して相対的に水平方向に変位させる。例えば、リニアモータ台車その他適宜の駆動機構を用いて、レーザ加工ノズル4を移動させる。レーザ光Lの光軸は、第一支持体1と第二支持体2との間の溝3内を指向する。
【0031】
同時に、吸引ポンプを稼働させ、
図5及び
図6中に矢印で表しているように、吸引孔15の内部に、被加工物5における加工線Cの直下の雰囲気、つまりは溝3内の雰囲気を吸引する負圧を発生させる。さすれば、被加工物5がレーザ光Lの照射を受けて切断または切削されることで生じるヒューム及び/または粉塵が、吸引孔15及び流路16を通じて適切に吸引される。
【0032】
本実施形態では、被加工物5を所定の加工線Cに沿って切断または切削する加工を施すための加工手段4と、前記加工線Cにより分割される被加工物5の一方の部位51を下方より支持する第一支持体1と、前記加工線Cにより分割される被加工物5の他方の部位52を下方より支持し、前記第一支持体1との間で加工線Cの直下に位置する溝3を形成するように第一支持体1に対向し、かつその溝3に臨む縁部23に溝3から離反する方向に凹む切欠25を加工線Cに沿った複数箇所に設けてある第二支持体2と、前記溝3及び前記切欠25を通じて被加工物5の下方の雰囲気を吸引する吸引手段15とを具備する加工機を構成した。
【0033】
本実施形態によれば、被加工物5を切断または切削する際に生ずるヒュームまたは粉塵の被加工物5への付着を軽減することができる。とりわけ、被加工物5を支持する第二支持体2の縁部23に多数の切欠25を形成したことが効果的であり、このような切欠25を形成しない場合と比較して、被加工物5から切り出した部材51の周縁部へのヒュームまたは粉塵の付着量が顕著に減少することが実験的に確かめられた。
【0034】
複数の前記切欠25の存在により、前記第二支持体2における前記溝3に臨む縁部23が櫛歯状をなしているため、ヒュームまたは粉塵を確実に吸引し回収しながら、被加工物5の他方の部位52を安定的に支持し続けることができる。
【0035】
加えて、前記第一支持体1に、被加工物5を吸着し当該第一支持体1に対して固定する吸着手段13を配設しているので、切断または切削加工中に被加工物5を確実に位置決めでき、加工精度の向上に資する。
【0036】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、被加工物5を一方の部位51と他方の部位52とに切断することを主に想定していたが、被加工物5を切断せず、その一部の層のみを切削する加工を行う加工機に、本発明を適用することも当然に可能である。例えば、基板にフィルムまたは薄膜(蒸着、スパッタリング等により製膜したものであることがある)を積層した被加工物5について、その基板を上、フィルムまたは薄膜を下にして支持体1、2上に載置し、上方からレーザ光Lを基板を透過させてフィルムまたは薄膜の層に照射して、基板を損傷させることなくフィルムまたは薄膜の層のみを加工線Cに沿って切削することが考えられる。
【0037】
第二支持体2の縁部23に設ける切欠25の大きさや数、形状は、上記実施形態の如きものに限定されない。一つ一つの切欠25の幅がより大きく、切欠25の数がより少なくてもよい。切欠25の形状が、平面視溝3から離反する外方に向かって先細りとなる楔形となっていてもよい。
【0038】
被加工物5に加工を施す加工手段は、レーザに限定されない。例えば、被加工物5に直接接触する刃によって被加工物5を加工線Cに沿って切断または切削するような加工機に、本発明を適用することも可能である。
【0039】
その他、各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、被加工物を所定の加工線に沿って切断または切削する加工を行う加工機に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1…第一支持体
13…吸着孔(吸着手段)
15…吸引孔(吸引手段)
2…第二支持体
23…縁部
25…切欠
3…溝
4…レーザ照射ノズル(加工手段)
5…被加工物
C…加工線
L…レーザ光