(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ポリマー、プリカーサ、ポリマーの製造方法、電解質膜、燃料電池、膜電極複合体および電解装置
(51)【国際特許分類】
C08G 61/10 20060101AFI20240209BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20240209BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240209BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20240209BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20240209BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20240209BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C08G61/10
C08J5/22 CEZ
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/1072
C25B13/08 301
(21)【出願番号】P 2020033869
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019160703
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「再生可能エネルギーからのエネルギーキャリアの製造とその利用のための革新的基盤技術の創出」、「液体燃料直接型固体アルカリ燃料電池用触媒層およびMEA基盤技術の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山口 猛央
(72)【発明者】
【氏名】宮西 将史
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135487(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110698654(CN,A)
【文献】LIU De-Peng et al.,Fluorinated Porous Organic Polymers via Direct C-H Arylation Polycondensation,ACS Macro Letters,2013年,2(6),522-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00-61/12
C08J 5/18-5/22
H01M 8/00-8/02
H01M 8/08-8/24
C25B 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有する、ポリマー。
【化1】
(式(1)中、
Ar
1は、下記式(a-1)~下記式(a-9)より選択される1種以上であり、
Ar
2は、下記式(b-1)~下記式(b-9)より選択される1種以上であり、
複数あるAr
1およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】
(式(a-1)~式(a-9)中、R
aは、各々独立に、水素原子、イオン交換基、イオン交換基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基、ハロゲノ基を有してもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基、またはハロゲノ基であり、ただし、各式中に複数あるR
aのうち、少なくとも1つは、イオン交換基、またはイオン交換基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基である。)
【化3】
(式(b-1)~式(b-9)中、R
bは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基、またはハロゲノ基を有してもよい炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、p
1は、0以上12以下の整数である。)
【請求項2】
前記Ar
2が、下記式(b-1)および下記式(b-10)~下記式(b-13)より選択される1種以上である、請求項1に記載のポリマー。
【化4】
【請求項3】
前記イオン交換基が、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、4級アンモニウム基、またはイミダゾリウム基である、請求項1又は2に記載のポリマー。
【請求項4】
重量平均分子量が10万以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
下記式(3)で表される繰り返し単位を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー製造用のプリカーサ。
【化5】
(式(3)中、
Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基であって、下記式(c-1)~下記式(c-9)より選択される1種以上であり、
Ar
2は、下記式(b-1)~下記式(b-9)より選択される1種以上であり、
複数あるAr
3およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【化6】
(式(c-1)~式(c-9)中、R
cは、各々独立に、水素原子、前記官能基、前記官能基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基、炭素数1~12の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基であり、ただし、各式中に複数あるR
cのうち、少なくとも1つは、前記官能基、または前記官能基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基である。)
【化7】
(式(b-1)~式(b-9)中、R
bは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基、またはハロゲノ基を有してもよい炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、p
1は、0以上12以下の整数である。)
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーの製造方法であって、
下記式(4)で表される化合物と、下記式(d-1)~下記式(d-9)より選択される1種以上の化合物とを反応させる工程を含む、ポリマーの製造方法。
【化8】
(式(4)中、X
1は、各々独立に、BrまたはIであり、
Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基であって、下記式(c-1)~下記式(c-9)より選択される1種以上である。)
【化9】
(式(c-1)~式(c-9)中、R
cは、各々独立に、水素原子、前記官能基、前記官能基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基、炭素数1~12の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基であり、ただし、各式中に複数あるR
cのうち、少なくとも1つは、前記官能基、または前記官能基を有する直鎖状若しくは分岐状の
アルキル基である。)
【化10】
(式(d-1)~式(d-9)中、R
dは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基、またはハロゲノ基を有してもよい炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、p
2は、0以上12以下の整数である。)
【請求項7】
前記式(d-1)~下記式(d-9)より選択される1種以上の化合物が、下記式(d-1)および下記式(d-10)~下記式(d-13)より選択される1種以上である、請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【化11】
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーを含む、電解質膜。
【請求項9】
請求項8に記載の電解質膜を備える燃料電池。
【請求項10】
請求項8に記載の電解質膜の、一方の面にカソードを、他方の面にアノードを配置した、膜電極複合体。
【請求項11】
電解槽内に、請求項8に記載の電解質膜、陽極および陰極を有する、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、プリカーサ、ポリマーの製造方法、電解質膜、燃料電池、水電解および電解技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池、固体アルカリ燃料電池などの各種燃料電池や、水電解等の各種電解技術には、電解質膜が用いられている。当該電解質膜は、イオン伝導性に優れるとともに、長期的な使用に耐えうる耐久性が求められる。
【0003】
本発明者らは、特許文献1において、膨潤耐性が高く、イオン交換基を高密度に集積したプロトン伝導度の高い電解質膜用のプロトン伝導性材料として、特定の親水部と、特定の疎水部とを有し、前記親水部及び前記疎水部の少なくとも一方に特定の環式化合物を含む繰り返し単位を有するプロトン伝導性材料を開示している。当該プロトン伝導性材料は、エーテル結合を介して親水部と疎水部が結合された構造を有する。
【0004】
また、本発明者らは、特許文献2において、化学的な耐久性に優れ、且つ、溶媒への溶解性にも優れた電解質膜用のアニオン伝導性ポリマーとして、イオン官能基を有する2価の芳香族基と、スピロビフルオレン骨格とが交互に繰り返された構造を有するポリマーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-44242号公報
【文献】特開2018-135487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のプロトン伝導性材料は、アルカリ環境下において主鎖が有するエーテル結合が開裂して劣化することがあり、より化学的な耐久性に優れた材料の開発が求められた。
また、特許文献2に記載のアニオン伝導性ポリマーは、化学的な耐久性には優れているが、製造には多段階の合成ステップが必要であり、より生産性に優れた電解質膜用の材料の開発が求められた。
さらに、電解質膜用のポリマーは、比較的、分子量が小さいものが多く(例えば、重量平均分子量が1万未満)、成膜性や作製した膜の機械的強度が劣る場合があった。
【0007】
本発明は、イオン伝導性及び成膜性に優れたポリマー及びその容易な製造方法、該ポリマー製造に適したプリカーサ、該ポリマーを用いた化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜、該電解質膜を用いた燃料電池、水電解並びに電解技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポリマーは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0009】
【化1】
(式(1)中、Ar
1はイオン交換基を有する芳香族基であって、Ar
2は下記式(2)で表される構造を両末端に有する基であり、複数あるAr
1およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【0010】
【0011】
本発明のポリマーの一実施形態は、前記Ar2が、下記式(b-1)~下記式(b-9)より選択される1種以上である。
【0012】
【化3】
(式(b-1)~式(b-9)中、R
bは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基または有機基であり、p
1は、0以上12以下の整数である。)
【0013】
本発明のポリマーの一実施形態は、前記Ar2が、下記式(b-1)および下記式(b-10)~下記式(b-13)より選択される1種以上である。
【0014】
【0015】
本発明のポリマーの一実施形態は、前記Ar1が、下記式(a-1)~下記式(a-9)より選択される1種以上である。
【0016】
【化5】
(式(a-1)~式(a-9)中、R
aは、各々独立に、水素原子、イオン交換基を有する基、または、イオン交換基を有しない基であり、ただし、各式中に複数あるR
aのうち、少なくとも1つは、イオン交換基を有する基である。)
【0017】
本発明のポリマーの一実施形態は、前記イオン交換基が、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、4級アンモニウム基、またはイミダゾリウム基である。
【0018】
本発明のポリマーの一実施形態は、重量平均分子量が10万以上である。
【0019】
本発明に係るプリカーサは、前記ポリマー製造用のプリカーサであって、下記式(3)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0020】
【化6】
(式(3)中、Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基であって、Ar
2は下記式(2)で表される構造を両末端に有する基であり、複数あるAr
3およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【0021】
本発明のプリカーサの一実施形態は、前記Ar3が、下記式(c-1)~下記式(c-9)より選択される1種以上である。
【0022】
【化7】
(式(c-1)~式(c-9)中、R
cは、各々独立に、水素原子、前記官能基を有する基、または前記官能基を有しない基であり、ただし、各式中に複数あるR
cのうち、少なくとも1つは、前記官能基を有する基である。)
【0023】
本発明に係る製造方法は、上述した式(1)で表される繰り返し単位を有する、ポリマーの製造方法であって、
下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表される構造を両末端に有する芳香族基含有化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0024】
【化8】
(式(4)中、X
1は、各々独立に、BrまたはIであり、
Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基である。)
【0025】
【0026】
本発明のポリマーの製造方法の一実施形態は、前記式(5)で表される構造を両末端に有する芳香族基含有化合物が、下記式(d-1)~下記式(d-9)より選択される1種以上である。
【0027】
【化10】
(式(d-1)~式(d-9)中、R
dは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基または有機基であり、p
2は、0以上12以下の整数である。)
【0028】
本発明のポリマーの製造方法の一実施形態は、前記式(5)で表される構造を両末端に有する芳香族基含有化合物が、下記式(d-1)および下記式(d-10)~下記式(d-13)より選択される1種以上である。
【0029】
【0030】
本発明のポリマーの製造方法の一実施形態は、前記Ar3が、上述した式(c-1)~下記式(c-9)より選択される1種以上である。
【0031】
本発明に係る電解質膜は、前記ポリマーを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る燃料電池、水電解及び電解技術は、前記電解質膜を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、イオン伝導性及び成膜性に優れたポリマー及びその容易な製造方法、該ポリマー製造に適したプリカーサ、該ポリマーを用いた化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜、該電解質膜を用いた燃料電池、水電解並びに電解技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施例1のポリマーの合成経路を示すスキームである。
【
図3】ポリマーI-Clの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】ポリマーI-TMAの
1H-NMRスペクトルである。
【
図5】実施例2のポリマーの合成経路を示すスキームである。
【
図6】化合物IIの
1H-NMRスペクトルである。
【
図7】化合物IIIの
1H-NMRスペクトルである。
【
図8】化合物IVの
1H-NMRスペクトルである。
【
図9】ポリマーII-SO
3Rの
1H-NMRスペクトルである。
【
図10】ポリマーII-SO
3Hの
1H-NMRスペクトルである。
【
図11】実施例1のポリマーを成膜して得られた電解質膜のイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施例1のポリマーを成膜して得られた電解質膜のIEC、含水率及び面積変化率に関する表及びグラフである。
【
図13】実施例1のポリマーと、他のポリマーとのアルカリ耐久性試験前後の外観変化を示す図である。
【
図14】実施例1のポリマーと、他のポリマーとの酸化ラジカル耐久性試験前後の質量変化を示すグラフである。
【
図15】電解質膜1、3、及び4のイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【
図16】電解質膜3、及び5のプロトン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【
図17】ポリマーI-Clの
19F-NMRスペクトルである。
【
図18】ポリマーI-TMAの
19F-NMRスペクトルである。
【
図19】ポリマーIII-C8-TMAの
1H-NMRスペクトルである。
【
図20】ポリマーIII-C8-TMAの
19F-NMRスペクトルである。
【
図21】ポリマーIV-C10-TMAの
1H-NMRスペクトルである。
【
図22】ポリマーIV-C10-TMAの
19F-NMRスペクトルである。
【
図23】ポリマーII-SO
3Rの
19F-NMRスペクトルである。
【
図24】ポリマーV-C6-SO
3Hの
1H-NMRスペクトルである。
【
図25】ポリマーV-C6-SO
3Hの
19F-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.ポリマー
本発明に係るポリマー(以下、本ポリマーともいう)は、下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、構成単位(1)ともいう)を有する。
【0035】
【化12】
(式(1)中、Ar
1はイオン交換基を有する芳香族基であって、Ar
2は下記式(2)で表される構造(以下、部分構造(2)ともいう)を両末端に有する基であり、複数あるAr
1およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【0036】
【0037】
本ポリマーは、上記構成単位(1)を2個以上有するポリマーであり、イオン交換基を有するAr1と、フルオロ基(-F)を含む部分構造(2)を有するAr2が、交互に配置された構造を有する。主鎖を構成するAr1及びAr2がそれぞれ芳香族基を有し、更に少なくともAr2がフッ素原子を含むため、アルカリやラジカル等に対する化学的な耐久性に優れる。また、本ポリマーは、イオン交換基を有するAr1とイオン交換基を有しないAr2とが交互に配置しているため、イオン交換基同士の凝集が抑制される。このような構造を有するため、溶媒への溶解性、成膜性及びイオン伝導性に優れ、さらに、当該ポリマーを用いて形成した電解質膜は、機械的強度に優れている。
また、後述する本発明に係るポリマーの製造方法によれば、部分構造(2)を有するAr2と、式(4)で表される化合物の反応性が高く、より高分子量のポリマーを製造し得る。高分子量の本ポリマーを用いることで、より優れた機械的強度を有する膜を形成することも可能となる。
【0038】
上記構成単位(1)のAr1は、イオン交換基を有する芳香族基である。
本明細書において、イオン交換基とは、解離性を有しイオン交換が可能な官能基であり、本ポリマーのイオン伝導に寄与する。Ar1におけるイオン交換基は、このような官能基の中から用途に応じて適宜選択することができる。
本ポリマーにプロトン伝導性を付与する場合には、イオン交換基は酸性基が好ましく、中でも、スルホン酸基(-SO3H基)、リン酸基(-H2PO4基)、又はカルボン酸基(-COOH基)がより好ましく、スルホン酸基がさらに好ましい。
また、本ポリマーにアニオン伝導性を付与する場合には、イオン交換基は、4級アンモニウム基またはイミダゾリウム基であることが好ましく、4級アンモニウム基がより好ましい。前記4級アンモニウム基は、さらに、アルカリ耐久性の観点から、4級アルキルアンモニウム基が好ましい。なお、当該4級アルキルアンモニウム基は、窒素原子に結合するアルキル基同士が結合して環構造を形成しているものも含むものであり、例えば、アザアダマンチル基、キヌクリジニウム基などであってもよい。
ここで、上記4級アンモニウム基の好ましい具体例を下記式(e-1)~式(e-3)に示し、上記イミダゾリウム基の好ましい具体例を下記式(f-1)に示す。なお、イミダゾリウム基は、例えば、下記式(f-2)及び下記式(f-3)に示す基がより好ましい。
【0039】
【化14】
(式(e-1)~式(e-3)中、R
eは、各々独立に、炭素数が1以上6以下の、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基であり、A
-は、各々独立に、1価または2価以上のアニオンである。)
(式(f-1)中、R
fは、各々独立に、水素原子、炭素数1以上4以下の直鎖状または分岐状のアルキル基、あるいは、置換基を1つ以上有していてもよい芳香族基であり、A
-は、1価または2価以上のアニオンである。)
【0040】
【化15】
(式(f-2)及び式(f-3)中、A
-は、各々独立に、1価または2価以上のアニオンである。)
【0041】
ここで、上記Reにおける、炭素数が1以上6以下の、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、Rfにおける、炭素数1以上4以下の直鎖状または分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。また、置換基を1つ以上有していてもよい芳香族基における置換基としてはメチル基等のアルキル基が挙げられ、芳香族基としてはフェニル基が挙げられ、その具体例としては、上記式(f-3)に示すように、3,5-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0042】
これらの式におけるA-は、カウンターアニオンであり、1価のものに限られず、2価以上のものであってもよい。当該A-としては、無機アニオンであることが好ましく、具体的には、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)、水酸化物イオン(OH-)などが挙げられる。
【0043】
上記イオン交換基は、後述する芳香環に直接結合してもよく、有機基を介して結合していてもよい。即ち、Ar1は、後述する芳香環の置換基として、イオン交換基を有してもよく、イオン交換基を有する有機基を有していてもよい(以下、これらを総称して、イオン交換基を有する基ということがある)。
前記イオン交換基を有する有機基としては、直鎖状または分岐状のアルキレン基が好ましく、中でも直鎖状のアルキレン基が好ましい。当該アルキレン基の炭素数は本ポリマーに求められる物性に応じて適宜調整できる。例えば、前記アルキレン基の炭素数を20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下とすることで、本ポリマーのイオン交換基容量が増大する。一方、前記アルキレン基の炭素数を2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上とすることで、溶解性及び膨潤耐性に優れた本ポリマーが得られる。
【0044】
上記Ar1における芳香族基を構成する芳香環は、ポリマーの主鎖の一部を構成する。当該芳香族基を構成する芳香環としては、ベンゼン環のほか、ナフタレン環、アントランセン環等の縮合環であってもよく、また、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含む複素環(例えば、チオフェン等)であってもよく、更に、これらの環が、単結合または連結基を介して連結した構造であってもよい。複数の環が単結合で連結した構造としては、例えば、ビフェニル、ターフェニルなどが挙げられる。また、前記連結基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキレン基、環状のアルキレン基、及びこれらの組み合わせからなる基が挙げられる。
【0045】
上記Ar1における芳香族基は、イオン交換基を有する基以外の他の置換基を有していてもよい。他の置換基としては、例えば、炭素数1~12の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基や、ハロゲノ基等が挙げられる。当該炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基が挙げられ、更に、これらの基が他の置換基(例えばハロゲノ基)を有していてもよい。また、当該Ar1は、上記置換基である炭化水素基同士が連結した芳香族基の一部を含む環構造を有してもよい。また、前記ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。
【0046】
Ar1は少なくとも1つのイオン交換基を有すればよく、イオン交換基及び他の置換基の位置及び数は特に限定されない。イオン伝導性の観点から、Ar1は2つ以上イオン交換基を有することが好ましい。
本ポリマーにおいては、イオン伝導性及び成膜性に優れ、化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜が形成可能な点から、前記Ar1が、下記式(a-1)~下記式(a-9)より選択される1種以上であることが好ましい。
【0047】
【化16】
(式(a-1)~式(a-9)中、R
aは、各々独立に、水素原子、イオン交換基を有する基、または、イオン交換基を有しない基であり、ただし、各式中に複数あるR
aのうち、少なくとも1つは、イオン交換基を有する基である。)
【0048】
Raにおけるイオン交換基を有する基は、前述のとおりである。また、イオン交換基を有しない基は、例えば、イオン交換基以外の置換基を有していてもよい有機基であり、前述のイオン交換基を有する基以外の他の置換基と同様である。
【0049】
上記構成単位(1)のAr2は、下記式(2)で表される構造を両末端に有する基である。言い換えると、当該Ar2は、末端の炭素原子のα位にフルオロ基(-F)を有する芳香環を含む2価の基である。ここでAr2の末端とは、Ar1と結合する炭素原子をいう。本ポリマーは、部分構造(2)を有することで、ラジカル耐性やアルカリ耐性に優れている。
【0050】
【0051】
上記部分構造(2)を有する芳香環は、ポリマーの主鎖の一部を構成する。当該芳香環としては、ベンゼン環のほか、ナフタレン環、アントランセン環等の縮合環であってもよく、また、芳香環は、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含む複素環であってもよい。さらに、芳香環は、置換基を有していてもよく、更に、複数の環が、単結合または連結基を介して連結した構造(以下、鎖状多環式炭化水素ともいう)であってもよい。複数の環が単結合で連結した構造としては、例えば、ビフェニル、ターフェニルなどが挙げられる。芳香環が有する置換基としては、例えば、ハロゲノ基や有機基(例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基)が挙げられる。
なお、前記連結基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキレン基、環状のアルキレン基、及びこれらの組み合わせからなる基が挙げられる。
Ar2は、例えば、後述の式(b-1)のように、1つの環構造(例えば、ベンゼン環)に部分構造(2)を2つ有してもよいし、また、後述の式(b-2)のように、1つのC-F結合が、2つの部分構造(2)を構成してもよい。さらに、上記鎖状多環式炭化水素の場合、鎖状多環式炭化水素が有する2つの環構造に部分構造(2)を1つずつ有し、それらの環が直接または上記連結基を介して連結してもよいし、複数の環構造のうちの1つに部分構造(2)を2つ有してもよい。
【0052】
本ポリマーにおいては、イオン伝導性及び成膜性に優れ、化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜が形成可能な点から、前記Ar2が、下記式(b-1)~下記式(b-9)より選択される1種以上であることが好ましい。
【0053】
【化18】
(式(b-1)~式(b-9)中、R
bは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基または有機基であり、p
1は、0以上12以下の整数である。)
【0054】
上記Rbにおけるハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、これらの中でも、製造上の容易さの観点などから、フルオロ基が好ましい。
また、上記Rbにおける有機基としては、例えば、置換基(例えばハロゲノ基)を有していてもよい(置換基の炭素数を含まない)炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。なお、上記式(b-3)~式(b-5)において、p1が0の場合は、複数のベンゼン環が単結合により直接結合することになり、それぞれビフェニル構造やターフェニル構造となる。
【0055】
簡便な製造方法という観点から、上記Ar2は、以下に示す構造であることがより好ましい。なお、下記式(b-10)に示す構造は、上記式(b-2)中のRbがFであるものに相当する。また、下記式(b-11)~下記式(b-13)に示す構造は、上記式(b-3)~上記式(b-5)中のRbがいずれもFであり、p1が0であるものにそれぞれ相当する。
【0056】
【0057】
(他の構成単位)
本ポリマーは、上記構成単位(1)のみを有するポリマーであってもよく、さらに他の構成単位を有するポリマーであってもよい。
他の構成単位としては、例えば、下記式(6)で表される繰り返し単位(以下、構成単位(6)ともいう)が挙げられる。
【0058】
【化20】
(式(6)中、Ar
4は、置換基を有していてもよい芳香族基であり、Ar
2は上述した式(2)で表される構造を両末端に有する基であり、複数あるAr
4およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【0059】
なお、構成単位(6)のAr2は、上述した構成単位(1)のAr2と同様であるため、ここでの説明は省略する。
上記Ar4における芳香族基を構成する芳香環としては、上記Ar1と同様のものが挙げられる。
【0060】
上記Ar4における芳香族基が有していてもよい置換基としては、例えば、前記Ar1における、イオン交換基を有する基以外の他の置換基のほか、後述するAr3において説明する、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する基などが挙げられる。
当該Ar4の具体例を以下に示す。
【0061】
【化21】
(式(g-1)~式(g-9)中、R
gは、各々独立に、ハロゲノ基と、スルホン酸エステル基と、リン酸エステル基と、カルボン酸エステル基と、イミダゾール基と、アミノ基とから選択される官能基を有する基、前記官能基を有しない基、または水素原子である。)
【0062】
本ポリマーが、構成単位(6)を有する場合、構成単位(1)と構成単位(6)との連結順序は特に限定されない。ランダム共重合体であってもよく、構成単位(1)と構成単位(6)とがブロックで配置されるブロック共重合体であってもよく、交互に配置される交互共重合体であってもよく、これらが部分的に組み合わされたものであってもよい。
【0063】
本ポリマーが構成単位(6)を有する場合、構成単位(1)の割合は、製造する電解質膜に求められるイオン交換能などに応じて適宜調整すればよい。当該ポリマーが有する全構成単位中、構成単位(1)の割合が50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。
【0064】
本ポリマーの重量平均分子量は、適宜調整することができ、例えば、1万~100万の範囲とすることができるが、成膜性及び膜強度等の観点から、3万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数値である。
【0065】
2.ポリマーの製造方法
本発明の製造方法は、上述した構成単位(1)を有するポリマーの製造方法(以下、本製造方法ともいう。)であり、下記式(4)で表される化合物(以下、化合物(4)ともいう)と、下記式(5)で表される構造(以下、部分構造(5)ともいう)を両末端に有する芳香族基含有化合物とを反応させる工程(C-H活性化反応工程)を少なくとも含む。本製造法によれば、化合物(4)のX1と、部分構造(5)の水素原子の反応性に優れているため、高分子量(例えば重量平均分子量が10万以上)のイオン電導性ポリマーを比較的容易に合成することができる。
なお、前記芳香族基含有化合物は、H-Ar2-Hとも記載でき、該Ar2は上述したものと同様である。
【0066】
【化22】
(式(4)中、X
1は、各々独立に、BrまたはIであり、
Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基である。)
【0067】
【0068】
上記Ar3は、前記本ポリマーのAr1に対応する部分である。Ar3が有する官能基は、後述する変換工程においてイオン交換基に変換される。Ar3における芳香族基を構成する芳香環としては、上記Ar1と同様のものが挙げられる。
【0069】
前記Ar3は、イオン交換基に変換し得る官能基として、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基(-SO3R1基)、リン酸エステル基(-R1
2PO4基)、カルボン酸エステル基(-COOR1基)、イミダゾール基(下記式(h-1)参照)、または、アミノ基(-NRR’)を有する。
ここでR1は、各々独立に、置換基を有していてもよい有機基である。当該有機基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。
前記ハロゲノ基としては、例えば、-F、-Cl、-Br、-Iなどが挙げられる。
R1におけるアルキル基としては、炭素数1~12の直鎖アルキル基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。R1におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。R1において有していてもよい置換基としては、ハロゲノ基、炭素数1~3のアルキル基などが挙げられる。
【0070】
【化24】
(式(h-1)中、R、R’およびR’’は、各々独立に、水素原子または有機基である。)
【0071】
また、上記アミノ基における、RおよびR’としては、各々独立に、水素原子または有機基が挙げられる。なお、上記イミダゾール基およびアミノ基における有機基としては、前記R1における置換基を有していてもよい有機基と同様のものが挙げられる。
【0072】
上記官能基は、前記芳香環に直接結合してもよく、有機基を介して結合していてもよい。即ち、Ar3の芳香環は、置換基として、上記特定の官能基を有してもよく、上記特定の官能基を有する有機基を有していてもよい(以下、これらを総称して、官能基を有する基ということがある)。
前記官能基を有する基としては、炭素数1~12の直鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられ、溶媒への溶解性の観点から、好ましくは炭素数6~12の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。
なお、上記特定の官能基が、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基及びカルボン酸エステル基である場合は、当該官能基は芳香環に直接結合していることが好ましい。また、上記特定の官能基が、ハロゲノ基、イミダゾール基及びアミノ基である場合は、アルキレン基等の他の基を介して当該官能基が芳香環に結合していることが好ましい。
【0073】
また、Ar3の芳香環は、官能基を有する基以外の他の置換基(前記官能基を有しない基)を有していてもよい。他の置換基としては、前記Ar1におけるイオン交換基を有する基以外の他の置換基と同様のものが挙げられる。
【0074】
Ar3は少なくとも1つ前記官能基を有すればよく、官能基及び他の置換基の位置及び数は特に限定されない。得られるポリマーのイオン伝導性の観点から、Ar3は2つ以上前記官能基を有することが好ましい。
本ポリマーにおいては、イオン伝導性及び成膜性に優れ、化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜が形成可能なポリマーが得られる点から、前記Ar3が、下記式(c-1)~下記式(c-9)より選択される1種以上であることが好ましい。
【0075】
【化25】
(式(c-1)~式(c-9)中、R
cは、各々独立に、水素原子、前記官能基を有する基、または前記官能基を有しない基であり、ただし、各式中に複数あるR
cのうち、少なくとも1つは、前記官能基を有する基である。)
【0076】
上記部分構造(5)を両末端に有する芳香族基含有化合物は、C-H活性化反応工程において、上記式(4)で表される化合物との反応点となる、末端の炭素原子のα位にフルオロ基(-F)を有する芳香環を含むものであるため、反応性に優れている。ここで、芳香族基含有化合物の末端とは、C-H活性化反応工程において、Ar3と結合する炭素原子をいう。
上記部分構造(5)を有する芳香族基含有化合物は、反応後、前記本ポリマーのAr2に対応する部分を構成する。上述したように、当該芳香族基含有化合物は、H-Ar2-Hとも記載でき、取りうる構造及び好ましい構造は、前記Ar2と同様である。
【0077】
上記部分構造(5)を両末端に有する芳香族基含有化合物の好ましい具体例を以下に示す。
【0078】
【化26】
(式(d-1)~式(d-9)中、R
dは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基または有機基であり、p
2は、0以上12以下の整数である。)
【0079】
上記Rdにおけるハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、これらの中でも、製造上の容易さの観点などから、フルオロ基が好ましい。
また、上記Rdにおける有機基としては、例えば、置換基(例えばハロゲノ基)を有していてもよい(置換基の炭素数を含まない)炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。なお、上記式(d-3)~式(d-5)において、p2が0の場合は、複数のベンゼン環が単結合により直接結合することになり、それぞれビフェニル構造やターフェニル構造となる。
【0080】
また、上記部分構造(5)を両末端に有する芳香族基含有化合物は、以下に示す構造であることがより好ましい。なお、下記式(d-10)に示す構造は、上記式(d-2)中のRdがFであるものに相当する。また、下記式(d-11)~下記式(d-13)に示す構造は、上記式(d-3)~上記式(d-5)中のRdがいずれもFであり、p2が0であるものにそれぞれ相当する。
【0081】
【0082】
当該芳香族基含有化合物が、上記式(d-1)、及び上記式(d-10)~上記式(d-13)より選択される1種以上であれば、優れた成膜性及びイオン伝導性等を容易に電解質膜に付与することができる。
【0083】
また、本発明の製造方法は、以下の工程を含むこともできる。
・上記式(4)で表される化合物を用意する工程(用意工程A)。
・上記式(5)で表される構造を両末端に有する芳香族基含有化合物を用意する工程(用意工程B)。
・C-H活性化反応工程より得られる化合物(プリカーサ)が有する官能基を、イオン交換基へと変換する工程(変換工程)。
なお、上記式(4)で表される化合物及び当該芳香族基含有化合物は、それぞれ従来公知の手法で合成してもよいし、市販品を用いてもよく、その入手経路は特に限定されない。
【0084】
ここで、以下のスキームAに、本発明のポリマーの一実施形態における合成経路の一例を示す。
【0085】
【化28】
C-H活性化反応工程:Pd complex, ligand, base, carboxylic acid, Solvent
変換工程:Trimethylamine, solvent
ただし、スキームA中のX
1、及びAr
1~Ar
3は、それぞれ上述した通りである。また、X
1としては、Brが好ましい。
【0086】
上記スキームAでは、まず、所望のAr3を有する式(4)で表される化合物と、所望のAr2を有する上記芳香族基含有化合物を準備する。そして、これらの化合物を重合させて、式(3)で表される繰り返し単位(以下、構成単位(3)ともいう)を有する重合物(本発明のポリマー製造用のプリカーサ)を得る。上記C-H活性化反応工程は、例えば、Pd錯体、リガンド、カルボン酸(RCO2H)及び塩基の存在下、溶媒中で、式(4)で表される化合物と、上記芳香族基含有化合物とを反応させることで行うことができる。なお、C-H活性化反応工程における、Pd錯体、リガンド、カルボン酸、塩基及び溶媒は、様々ものを使用することができるが、この中でも、特に、Pd2(dba)3・CHCl3、P(o-C6H4-OMe)3、ピバル酸(PivOH)、Cs2CO3及びdryTHFをそれぞれ用いることが好ましい。ここで、dbaとは、ジベンジリデンアセトンを意味する。また、上記C-H活性化反応工程における反応時間及び反応温度も適宜設定することができ、例えば、1~48hr、80~140℃とすることができる。
【0087】
次いで、構成単位(3)を有する重合物(プリカーサ)に所望のイオン交換基を導入することにより、本発明に係るポリマーが得られる。イオン交換基の導入方法は、前記プリカーサが有する官能基に応じて、適宜選択することができる。上記スキームAでは、ハロゲノ基(例えば、-Cl)を有するプリカーサに対して、イオン交換基として4級アンモニウム基を導入する場合の反応条件例を記載しているが、他のイオン交換基も従来公知の方法で適宜導入することができる。例えば、プリカーサが有する官能基が、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基及びカルボン酸エステル基である場合、これらの基を加水分解することによって、イオン交換基(スルホン酸基、リン酸基及びカルボン酸基)をそれぞれ導入できる。このように本発明に係る製造方法は、イオン伝導性及び成膜性に優れたポリマーを、非常に少ない合成ステップで容易に製造することができる。
【0088】
3.プリカーサ
なお、構成単位(3)を有する重合物は新規化合物であり、本発明のポリマーの合成に適したプリカーサである。
【0089】
【化29】
(式(3)中、Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基およびアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基であって、Ar
2は下記式(2)で表される構造を両末端に有する基であり、複数あるAr
3およびAr
2は各々同一であっても異なっていてもよい。)
【0090】
【化30】
Ar
3及びAr
2については、上述した通りであるため、説明は省略する。
【0091】
4.電解質膜
本発明に係る電解質膜は、前記構成単位(1)を有する本ポリマーを含むことを特徴とする。本ポリマーは、燃料電池の膜電極複合体(MEA)作製時に通常使用する溶媒(アルコールや、アルコールと水との混合溶媒等)に容易に溶解でき、アイオノマーとしても利用可能である。このようなポリマーを使用する本発明に係る電解質膜は、化学的耐久性、イオン伝導性及び膜の機械的強度に優れており、燃料電池や、水電解、電解技術用の電解質膜として好適に用いることができる。
なお、本ポリマーは、イオン官能基密度(IEC)が高く、非常に高いイオン伝導度を示す。本ポリマーのIECは、0.5meq・g-1以上、4.0meq・g-1以下であることが好ましい。また、本ポリマーのイオン伝導度は、80℃飽和湿度において、100mS/cm以上のイオン伝導度を示すことが好ましい。さらに、本ポリマーは、相対湿度を低下させた場合であっても、高いイオン伝導度を示すことができる。本ポリマーは、例えば、80℃、相対湿度60%の条件においても、10mS/cm以上の高いイオン伝導度を示す。なお、通常、イオン伝導度が高いポリマーは、含水率が高く、含水状態で著しく膨潤することが多いが、本ポリマーは、膨潤耐性も良好である。
【0092】
本ポリマーを用いる場合、当該ポリマーを溶解可能な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、アルコールや、アルコール水溶液等)に溶解させて、ポリマー溶液を調製し、公知の塗布手段を用いて塗膜とし、乾燥することにより、電解質膜を製造することができる。
【0093】
本ポリマーにおいて、当該ポリマーが有するイオン交換基を酸性基とすることにより、プロトン伝導性の電解質膜が得られる。また、前記イオン交換基を前記4級アンモニウム基等の塩基性基とすることにより、アニオン伝導性の電解質膜が得られる。
【0094】
5.燃料電池
本発明に係る燃料電池は、本発明の電解質膜を備えることを特徴とする。本発明の電解質膜は、固体アルカリ燃料電池、及び固体高分子形燃料電池のいずれに対しても好適に用いることができる。
【0095】
前記電解質膜を固体アルカリ燃料電池に適用する場合、前記電解質膜として、アニオン伝導性の電解質膜を用いる。固体アルカリ燃料電池の構成は、従来公知の構成とすることができる。
例えば、電解質膜の一方の面にカソードを、他方の面にアノードを配置した膜電極複合体を形成し、カソードに酸素を供給し、アノードに燃料を供給して、カソードで生成したOH-が電解質膜を介してアノードに移動し、そこで水を発生させることにより発電を行う。
燃料は従来公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、水素、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ギ酸塩、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アンモニア等が挙げられるが、これらに限定されない。
代表として、燃料として、水素、メタノール及びギ酸塩を用いた場合の各極での反応を示す。
・水素を用いた燃料電池
アノード: 2OH- + H2 → 2H2O
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
・メタノールを用いた燃料電池
アノード: 6OH- + CH3OH → CO2 + 5H2O
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
・ギ酸塩を用いた燃料電池
アノード: HCOO- + 3OH- → 2H2O + CO3
2- + 2e-
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
【0096】
また、前記電解質膜を固体高分子形燃料電池に適用する場合、前記電解質膜として、プロトン伝導性の電解質膜を用いる。固体高分子形燃料電池の構成は、従来公知の構成とすることができる。
例えば、電解質膜の一方の面にカソードを、他方の面にアノードを配置した膜電極複合体を形成し、カソードに酸素を供給し、アノードに燃料を供給して、アノードで生成したプロトンが電解質膜を介してアノードに移動し、そこで水を発生させることにより発電を行う。
燃料は公知のものの中から適宜選択することができ、具体的には前記固体アルカリ燃料電池において例示したものと同様のものが挙げられる。
代表して、燃料として水素を用いた場合の各極での反応を示す。
アノード: H2 → 2H+ + 2e-
カソード: O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
【0097】
6.水電解及び電解技術
また、本発明の電解質膜は、水電解や他の電解技術(電解方法)、これらの電解方法を利用した電解装置に好適に用いることができる。当該電解装置は、例えば電解槽内に、本発明の電解質膜、陽極および陰極を有する構成とすることができ、本発明の電解質膜を介して、対象物を電気分解(酸化還元反応)することにより、目的物を得ることができる。
【0098】
前記電解質膜を水電解に適用する場合、前記電解質膜として、プロトン伝導性、またはアニオン伝導性の電解質膜を用いる。例えば、プロトン伝導性の電解質膜の一方の面に陽極を、他方の面に陰極を配置し、陽極で生成したプロトンを、電解質膜を介して、陰極に移動させ、陰極で電子と結合させて水素を得ることができる。各極での反応式は下記の通りである。
陽極: 2H2O → O2+ 4H+ + 4e-
陰極: 2H+ + 2e- → H2
【0099】
また他の電解技術としては、二酸化炭素を電気分解してギ酸を生成させる電解技術が挙げられる。例えば、陽極で生成したプロトンを、電解質膜を介して陰極に移動させ、陰極に供給する二酸化炭素と反応させてギ酸を得ることができる。各極での反応式は下記の通りである。
陽極: 2H2O → O2+ 4H+ + 4e-
陰極: CO2 + 2H+ + 2e- → HCOOH
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではなく、本発明は、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0101】
(実施例1)
図1に示すスキーム1に従って、上述した式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーを合成した。なお、以下では、例えばスキーム1のステップ(i)をステップ(1-i)と記載し、他のステップもこれに順ずる。なお、スキーム1及び後述の各ポリマー中に示すnは、各構成単位の繰り返し単位数を意味する。
【0102】
<ステップ(1-i):化合物Iの合成>
2口フラスコに、水酸化ナトリウム(200g)水溶液(600mL)と、n-テトラブチルアンモニウムクロリド(556mg)とを加え、窒素下にて撹拌した。次いで、別途、1,6-ジクロロヘキサン(31.0g,200mmol)に、2,7-ジブロモフルオレン(6.48g,20mmol)を加熱しながら溶解させて調製した溶液を、この2つ口フラスコに、シリンジにて加えた。
そして、90℃、窒素下にて、90分間、反応させた後、得られた反応液を室温(25℃)まで冷却させた。冷却した反応液中の有機相を分液ロートにてジクロロメタン(300mL)で抽出し、1Mの塩酸(50mL)と、水(200mL×2)とで洗浄した。得られた有機相中のジクロロメタンをエバポレーターにて除去し、さらに、減圧下、90℃にて、未反応の1,6-ジクロロヘキサンを除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン:クロロホルム=9:1)にかけることで、目的の化合物I(7.63g,13.6mmol)を得た。化合物Iの
1H-NMRスペクトルを
図2に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.52 (2H, d), δ 7.47-7.43 (4H, m), δ 3.42 (4H, t), δ 1.93 (4H,m), δ 1.60 (4H, m), δ 1.19 (4H, m), δ 1.08 (4H, m), δ 0.58 (4H, m)
【0103】
【0104】
<ステップ(1-ii):ポリマーI-Clの合成>
2口フラスコに、化合物I(1121mg,2mmol)、炭酸セシウム(1.96g,6mmol)、ピバル酸(204mg,2mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(14mg)およびPd
2(dba)
3・CHCl
3錯体(10.4mg)を加え、更に、脱水テトラヒドロフラン(3mL)を加えて、窒素下にて撹拌した。続いて、別途、テトラフルオロフェニレン(309mg,2.06mmol)をテトラヒドロフラン(1mL)に溶解させて調製した溶液を、シリンジにて空気がなるべく入らないように、2口フラスコに加えた。これらの混合液を、窒素下、室温(25℃)にて45分反応させた後、95℃にて24時間反応させた。
得られた反応物(固形分)に、1M塩酸及びクロロホルムを加え、12時間、40℃で撹拌した後、分液ロートにて有機相を抽出した。抽出した有機相を水で洗浄した後、得られた有機相中の液体分をエバポレーターにて除去し、乾固させた。得られた残渣をクロロホルムに溶解させ、メタノール中で再沈殿させた。得られた沈殿物を濾過して液体分を除去したのち、固形分をヘキサンで洗浄した。更に、得られた固形分を真空乾燥させることで、目的のポリマーI-Cl(930mg)を得た。ポリマーI-Clの
1H-NMRスペクトルを
図3に示す。また、ポリマーI-Clに対して、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析を行い、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)も測定した。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.92 (2H, d), δ 7.57 (4H, m), δ 3.44 (4H, t), δ 2.06 (4H,m), δ 1.64 (4H, m), δ 1.27 (4H, m), δ 1.15 (4H, m),δ 0.80 (4H, m)
19F-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ-144.1
GPC (CHCl
3): Mw=178000, Mw/Mn=5.91
【0105】
【0106】
<ステップ(1-iii):ポリマーI-TMAの合成>
ポリマーI-Cl(200mg)をクロロベンゼン(20mL)に溶解させた。なお、不溶性成分がある場合は、あらかじめ濾過して除いておいた。得られた溶液に、25質量%トリメチルアミンメタノール溶液(2mL)を加え、100℃にて3時間撹拌した。その後、ジメチルスルホキシド(10mL)を加え、さらに3時間撹拌した。エバポレーターにて反応液中の大部分のクロロベンゼンを除去した後、ジメチルスルホキシド(20mL)及び25質量%トリメチルアミンメタノール溶液(3mL)を加え、100℃にて2時間撹拌し、反応を完結させた。得られた反応液中のジメチルスルホキシドを、70℃にて、エバポレーターで除去し、乾固させた。乾固した残渣に水を加え、濾過し、得られた固形分に水を加え、80℃にて撹拌した。その後、室温(25℃)に冷却し、濾過を行い、得られた固形分を真空乾燥させることで、目的のポリマーI-TMA(203mg)を得た。ポリマーI-TMAの
1H-NMRスペクトルを
図4に示す。
1H-NMR (400 MHz, CD
3OD ): δ 8.07 (2H, d), δ 7.67 (4H, m), δ 3.25 (4H, br), δ 3.08 (9H, s), δ 2.21 (4H, br), δ 1.65 (4H, br), δ 1.23 (8H, br), δ 0.79 (4H, br)
19F-NMR (400 MHz, CD
3OD): δ -146.1
【0107】
【0108】
(実施例2)
図5に示すスキーム2に従って、上述した式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーを合成した。
【0109】
<ステップ(2-i):化合物IIの合成>
2口フラスコに、2,2-ジメチル-1-プロパノール(17.6g,200mmol)及び脱水ジクロロメタン(400mL)を加え、シリンジにて、2-クロロメタンスルホニルクロリド(65.2g,400mmol)を加えた。その後、0℃にて、シリンジにて、トリエチルアミン(55.5g,500mmol)をゆっくりと加えた。3時間攪拌し、反応させた後、炭酸水素ナトリウム溶液を加えた。分液ロートを用いて、得られた反応液中の有機相をジクロロメタンで抽出し、水で洗浄した。得られた有機相にMgSO
4を加えて、水分を除去した後、濾過にてMgSO
4を除去した。エバポレーターにて、得られた有機相中のジクロロメタンを除去し、乾燥させることで、目的の化合物II(31.3g,176mmol)を得た。化合物IIの
1H-NMRスペクトルを
図6に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 6.52 (1H, dd), δ 6.40 (1H, d), δ 6.12 (1H, d), δ 3.76 (2H, s), δ 0.97 (9H, s)
【0110】
【0111】
<ステップ(2-ii):化合物IIIの合成>
2口フラスコに、亜鉛(2.61g,40mmol)及びホルムアミド(20mL)を加え、氷冷した。次いで、この2口フラスコに、ヨウ化銅(1.90g,10mmol)を加え、0℃にて10分撹拌した。続いて、化合物II(4.27g,24 mmol)及び1,6-ジブロモヘキサン(4.88g,20 mmol)を加え、窒素下にて10分撹拌させた後に、氷浴を除き、室温(25℃)にて30時間反応させた。得られた反応液を濾過した後、固形分を酢酸エチル(75mL)で洗浄し、ろ液を回収した。得られたろ液に、0.6M塩酸(50mL)、酢酸エチル(50mL)及びヘキサン(25mL)を加え、分液した。さらに、得られた有機相を水で洗浄した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。得られた残渣をショートカラム(ヘキサン:クロロホルム=1:1)にかけ、有機物を回収した後、この有機物中の未反応の1,6-ジブロモヘキサン及び化合物IIを、減圧下、80℃で除去した。得られた残渣をショートカラム(ヘキサン:クロロホルム=1:1)にかけることで、目的の化合物III(5.01g,14.6mmol)を得た。化合物IIIの
1H-NMRスペクトルを
図7に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 3.85 (2H, s), δ 3.40 (2H, t), δ 3.09 (2H, t), δ 1.85 (4H, m), δ 1.44 (4H, m), δ 1.37 (4H, m), δ 0.98 (9H, s)
【0112】
【0113】
<ステップ(2-iii):化合物IVの合成>
2口フラスコに、2,7-ジブロモフルオレン(1.62g,5mmol)及びtertブトキシカリウム(1,23g,11mmol)を加え、窒素下にて、脱水テトラヒドロフラン(15mL)を加え、撹拌した。この2口フラスコに、化合物III(4,12g,12mmol)を脱水テトラヒドロフラン(5mL)に溶解させた溶液を、シリンジにてなるべく空気を入れないように加えた。これらの混合液を、窒素下、室温(25℃)にて6時間反応させた後、エバポレーターにて反応液中のテトラヒドロフランを除去した。得られた残渣に、水及びジクロロメタンを加え、分液を行い、有機相を抽出した。得られた有機相を水で洗浄した後、エバポレーターにて有機相中のジクロロメタンを除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン、その後、ヘキサン:クロロホルム=1:1)にかけることで、目的の化合物IV(2.63g,3.1mmol)を得た。化合物IVの
1H-NMRスペクトルを
図8に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.53 (2H, d), δ 7.45 (4H, m), δ 3.83 (4H, s), δ 3.03 (4H, t), δ 1.92 (4H, m), δ 1.78 (4H, m),δ 1.34 (4H, m),δ 1.13 (8H, m), δ 1.06 (4H, m), δ 0.97 (9H, s),δ 0.57 (4H, m)
【0114】
【0115】
<ステップ(2-iv):ポリマーII-SO
3Rの合成>
化合物Iの代わりに化合物IVを使用し、さらに、化合物IVの使用量を1,27g,1.5mmolに変更した以外は、実施例1のステップ(1-ii)と同じ条件で合成及び精製を行い、ポリマーII-SO
3R(1.08g)を得た(Rは2,2-ジメチルプロピル基である)。なお、化合物IVに対する他の試薬の使用割合(モル比)は、実施例1のステップ(1-ii)における化合物Iに対する他の試薬の使用割合と一致するようにした。
ポリマーII-SO
3Rの
1H-NMRスペクトルを
図9に示す。また、ポリマーII-SO
3Rに対して、GPC分析を行い、重量平均分子量及び分子量分布も測定した。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.92 (2H, d), δ 7.56 (4H, m), δ 3.82 (4H, s), δ 3.03 (4H, t), δ 2.05 (4H, m), δ 1.79 (4H, m), δ 1.33 (4H, m),δ 1.13 (12H, m),δ 0.96 (9H, s),δ 0.78 (4H, m)
GPC (DMF+LiBr, 40
oC): M
w=126000, M
w/M
n=7.5
【0116】
【0117】
<ステップ(2-v):ポリマーII-SO
3Hの合成>
ポリマーII-SO
3R(100mg)に、トリメチルアミン塩酸塩(100mg)及びジメチルホルムアミド(15mL)を加え、還流下で48時間反応させた。エバポレーターにて、得られた反応液中のジメチルホルムアミドを除去した後、水を加え濾過した。得られた固形分に再度水を加え、80℃にて30分撹拌した。続いて、反応液を、室温(25℃)に冷却した後、濾過にて、固形分を回収し、真空乾燥させることで、目的のポリマーII-SO
3H(51mg)を得た。ポリマーII-SO
3Hの
1H-NMRスペクトルを
図10に示す。
1H-NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 8.03 (2H, d), δ 7.68 (4H, m), δ 2.88 (4H, br), δ 2.15 (4H, br), δ 1.71 (4H, br), δ 1.30 (4H, br), δ 1.15 (12H, br), δ 0.74 (4H, br)
19F-NMR (400 MHz, CD
3OD): δ -146.1
【0118】
【0119】
[電解質膜の製造]
実施例1及び2より得られた各ポリマーに対して、ジメチルスルホキシドに溶解させた溶液(20mg/ml)を調製した。当該溶液を各々、ガラス基板にキャストし、120℃で加熱乾燥させることにより成膜した。次いで、当該基板を水に浸漬することにより、基板からポリマーの膜を剥離させて、80℃の純水で何度か洗浄した後、電解質膜を得た。実施例1及び2より得られたポリマーは、いずれも優れた成膜性を有しており、容易に電解質膜を作製することができた。これらの電解質膜の膜厚は、いずれも25μmであった。
【0120】
実施例1及び2のポリマーを用いて作製した電解質膜は、いずれもイオン伝導性、化学的耐久性及び膜強度に優れていた。これらの中で、実施例1のポリマーを用いて作製した電解質膜(以下、電解質膜1ともいう)の各評価結果について、以下に詳細に説明する。
【0121】
[イオン伝導性評価]
電解質膜1について、イオン伝導度を測定した。イオン伝導度は、交流インピーダンス測定により電気抵抗値を測定し、その値から算出した。In-planeにおける交流インピーダンス測定には、電極に白金電極を使用し、四端子法により行った。電圧を測定する電極間距離は5mm~15mmであり、高電流側の電極と高電圧側の電極に対し、低電流側の電極と低電圧側の電極を電解質膜の反対側に接触させた。電解質膜を白金電極ごと2組の高密度ポリエチレン基板に挟み込み、その端をねじで固定した。電解質膜は恒温槽(Espec SH-241 Bench-Top Type Temperature&Humidity chamber)内に置き、湿度100RHで各温度(40℃~80℃)を一定に保った状態で、少なくとも3時間安定化させてから測定を行った。交流インピーダンスの測定装置にはSolartron 1260(英国 Solartron社製)を使用し、測定条件としてAC Amplitudeは10~100mVで行い、周波数は1000,000Hzから1Hzまで走査した。測定結果を
図11(a)に示す。
また、電解質膜1に関して、80℃におけるイオン伝導度の(相対)湿度依存性も同様に測定を行い、測定結果を
図11(b)に示した。さらに、実施例1で合成したポリマーのIEC、含水率及び含水による面積変化率を
図12(a)に示し、80℃水蒸気下での電解質膜1の含水率を
図12(b)に示した。
【0122】
電解質膜1は、
図12に示すように、高いIECを有するとともに、適度な含水率を有し、膨潤耐性も良好であった。また、電解質膜1は、80℃飽和湿度(相対湿度100%)において、135mS/cmという非常に高いイオン伝導度を示し、相対湿度を低下させた場合、具体的には、80℃、相対湿度60%の条件においても、19mS/cm以上の高いイオン伝導性を示した。このように、電解質膜1は、優れたイオン伝導性を示した。
【0123】
[化学的耐久性評価]
・アルカリ耐久性試験
高密度ポリエチレン製の容器中にて、得られた電解質膜1(20mg)を、8M水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、80℃の状態で1週間撹拌させた。その後、電解質膜1を取り出し、純水でよく洗浄した後、その外観変化を観察した。電解質膜1のアルカリ耐久試験前後の外観変化を、
図13(a)に示す。
また、比較対照として、下記式Aに示す従来の芳香族系ポリマー(Mw=1.45×10
5,Mw/Mn=2.02)を用いて同様に作製した3つの電解質膜A(IEC=1.06meq・g
-1, 膜厚31μm及びIEC=1.44meq・g
-1, 膜厚34μm及びIEC=1.84meq・g
-1, 膜厚28μm)を、80℃で1M水酸化ナトリウム水溶液中にそれぞれ浸漬させた。各電解質膜Aのアルカリ耐久性試験の時間経過による外観変化を
図13(b)に示す。
なお、これらのアルカリ耐久性試験では、電解質膜1及び電解質膜Aを構成する各ポリマー中のカウンターアニオンはOH
-となる。
【0124】
【化39】
(式(A)中、R
Aは、水素原子、または、~CH
2-N
+(CH
3)
3Cl
-であって、複数あるR
Aは各々同一であっても異なっていてもよいが、複数あるR
Aのうち少なくとも一つは、~CH
2-N
+(CH
3)
3Cl
-であり、nは繰り返し単位数である。)
【0125】
図13(b)に示すように、これらの電解質膜Aは、1M水酸化ナトリウム水溶液中で、数時間で膜が崩壊することが確認された。
一方、電解質膜1は、より過酷な条件、すなわち、80℃で、強アルカリ溶液(8M水酸化ナトリウム水溶液)中に長期間(1週間)浸漬させた場合であっても、膜は崩壊することなく、引っ張りや折り曲げの際にも変形せず、優れた柔軟性及び機械的強度を保持していた。このことからも、本発明に係る電解質膜は、優れたアルカリ耐久性を有することがわかった。
【0126】
・酸化ラジカル耐久性試験
ガラス容器中にて、電解質膜1(20mg, 膜厚:19μm)をフェントン溶液(3質量%過酸化水素、3質量ppm硫酸鉄(II))20ml中に浸漬させ、60℃の状態で8時間放置した。その後、電解質膜1を取り出し、純水でよく洗浄した後、耐久性試験前後の膜の質量を測定し、電解質膜1の酸化ラジカル耐久性を評価した。また、比較対照として、上述した式(A)に示す芳香族系ポリマー(Mw=1.93×10
5,Mw/Mn=1.47,IEC=2.2meq・g
-1)を用いて作製した電解質膜A(23mg, 膜厚:24μm)と、下記式(B)に示す芳香族系ポリマー(Mw=3.70×10
4,Mw/Mn=3.66,IEC=2.3meq・g
-1)を用いて同様に作製した電解質膜B(22mg, 膜厚:25μm)についても、同様の酸化ラジカル耐久性試験を行い、試験前後の膜の質量を測定した。これらの測定結果を
図14に示す。
【0127】
【化40】
(式(B)中、R
Bは、メチル基、または、~CH
2-N
+(CH
3)
3Br
-であって、複数あるR
Bは各々同一であっても異なっていてもよいが、複数あるR
Bのうち少なくとも一つは、~CH
2-N
+(CH
3)
3Br
-であり、nは繰り返し単位数である。)
【0128】
図14に示すように、電解質膜A及び電解質膜Bと比較して、電解質膜1は、耐久性試験前後で、質量変化が少なく、優れた酸化ラジカル耐久性を有することがわかった。このように、本発明に係る電解質膜は、優れた化学的耐久性を有していた。
【0129】
(実施例3)
前記実施例1のステップ(1-i)において、1,6-ジクロロヘキサンの代わりに、1,8-ジクロロオクタン200mmolを用いた以外は、実施例1と同様にして、目的のポリマーIII-C8-TMAを得た。
1H-NMR (CD3OD, 400MHz): δ 8.06 (2H, d), δ 7.67 (4H, m), δ 3.29 (4H, t), δ 3.19 (18H, s), δ 2.18 (4H, br), δ 1.71 (4H, m), δ 1.27 (8H, m), δ 1.16 (4H, m), δ 0.74 (4H, br)
19F-NMR (CDCl3, 400MHz): δ-146.1
【0130】
【0131】
(実施例4)
前記実施例1のステップ(1-i)において、1,6-ジクロロヘキサンの代わりに、1,10-ジクロロデカン200mmolを用いた以外は、実施例1と同様にして、目的のポリマーIV-C10-TMAを得た。
1H-NMR (400MHz, CD3OD): δ 8.05 (2H, m), δ 7.67 (4H, m), δ 3.29 (4H, t), δ 3.11 (18H, t), δ 2.16 (4H, m), δ 1.74 (4H, m), δ 1.32-1.14 (24H, m), δ 0.72 (4H, m) 19F-NMR (CD3OD, 400MHz): δ-146.1
【0132】
【0133】
(実施例5)
前記実施例2のステップ(2-ii)において、1,6-ジブロモヘキサンの代わりに、1,4-ジブロモブタン20mmolを用いた以外は、実施例2と同様にして、目的のポリマーV-C6-SO3Hを得た。
1H-NMR (400 MHz,CD3OD): δ 8.03 (2H, d), δ 7.66 (4H, m), δ 2.78 (4H, br), δ 2.19 (4H, br), δ 1.64 (4H, t), δ δ 1.24 (8H, m), δ 0.77 (4H, br)
19F-NMR (400 MHz, CD3OD): δ -146.1
【0134】
【0135】
[電解質膜の製造]
実施例3~5で得られた各ポリマーを用いて、前記実施例1~2のポリマーと同様に膜厚25μm電解質膜3~5を作製した。
【0136】
[評価]
(イオン伝導度/プロトン伝導度測定)
電解質膜3及び4について、前記電解質膜1と同様にしてイオン電導度を測定した。結果を
図15に示す。
また、電解質膜2及び5について、プロトン伝導度を測定した。結果を
図16に示す。
【0137】
(IEC、含水率、面積変化率測定)
電解質膜1~5について、湿度95%における含水率及び面積変化率を測定した。25℃と80℃における測定結果を表1及び表2に示す。含水率が低いほど膨潤耐性に優れていると評価できる。
また、実施例1~5の各ポリマーのイオン官能基密度(IEC)について、1H-NMRの測定結果から算出した値を表1及び表2に示す。
【0138】
【0139】
【0140】
図15及び表1に示される通り、実施例1、3及び4のポリマーを用いた電解質膜は、いずれも含水率が抑えられながら、イオン伝導度が高く、膨潤耐性とイオン伝導度とを両立するポリマーであることが示された。アルキレン鎖長の異なる3つのポリマーの比較から、アルキレン鎖が短い実施例1のポリマーIの方が、イオン伝導度が高いことが示された。一方、アルキレン鎖の長い実施例4のポリマーIVでは、イオン伝導度の湿度依存性が低く、膨潤耐性がさらに優れていることが示された。
例えば80℃、RH60%の環境下でいずれもイオン伝導度が10mS/cm以上の高い値を示し、イオン電導性に優れたポリマーであることが示された。
また
図16及び表2に示される通り、実施例2及び5のポリマーを用いた電解質膜は、いずれも含水率が抑えられながら、プロトン伝導度が高く、膨潤耐性とプロトン電導度とを両立するポリマーであることが示された。