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特許7432928画像を処理して骨格筋の性質を検出するシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】画像を処理して骨格筋の性質を検出するシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 370
A61B5/055 390
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020566726
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 GB2019051271
(87)【国際公開番号】W WO2019229413
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】1808950.8
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514291406
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ニューキャッスル アポン タイン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF NEWCASTLE UPON TYNE
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラミア、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】スコフィールド、イアン
(72)【発明者】
【氏名】ウィテカー、ロジャー
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-209868(JP,A)
【文献】Roger G Whittaker et al.,"Functional magnetic resonance imaging of human motor unit fasciculation in amyotrophic lateral sclerosis",Ann. Neurol.,2019年05月,85(3),455-459,PMID: 30688362 DOI: 10.1002/ana.25422
【文献】佐光 亘 他,"筋萎縮性側索硬化症における脳機能ネットワーク間の異常な相互作用形成",臨床神経生理学,46 巻, 1 号,2018年03月13日,p. 9-15,Online ISSN 2188-031X, https://doi.org/10.11422/jscn.46.9
【文献】Gunter Steidle et al.,”Addressing spontaneous signal voids in repetitive single-shot DWI of musculature: spatial and temporal patterns in the calves of healthy volunteers and consideration of unintended muscle activities as underlying mechanism”,NMR Biomed,2015年07月,vol.28(7),801-10,PMID: 25943431 DOI: 10.1002/nbm.3311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
医中誌Web
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械可読媒体に格納された機械可読命令であって、前記機械可読命令は、実行されると、処理回路に、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信させ、
該画像の時系列を解析させて、該系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定させ、
該画像における該同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性を、制御された刺激を対照群の運動神経に加えることによって生成されたMR画像の対照データ・セットと比較して、骨格筋の運動単位に対応するシグナル・ボイドの固有の特性を確立することを含む、該同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行わせ、該比較は、確認された運動単位を生成するためのものであり、
該比較によって、確認された運動単位として検証された運動単位候補の性質を解析させ、該確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、該確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または該確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定させる、
前記MR画像が、位相コントラスト・イメージング技術を使用して、または拡散強調イメージング技術を使用して生成される、機械可読命令。
【請求項2】
MR画像の前記対照データ・セットが、ヒトまたは動物の身体の所定の運動神経に加えられる外部電気刺激の大きさを漸進的に増加させることによって生成される、請求項1に記載の機械可読命令。
【請求項3】
前記外部電気刺激を増加させるにつれて、ピクセル強度の不連続性に基づいて、骨格筋の異なる運動単位を区別することを含む、請求項2に記載の機械可読命令。
【請求項4】
前記MR画像の系列の1つまたは複数の画像におけるシグナル・ボイドを同定することが、シグナル・ボイドを信号雑音と区別するための閾値信号レベルを決定することを含む、請求項1に記載の機械可読命令。
【請求項5】
骨格筋の健康な運動単位に対する前記閾値信号レベルの決定が、前記時系列の画像の少なくともサブセットにおけるピクセル値の信号分散に基づく、請求項4に記載の機械可読命令。
【請求項6】
前記閾値信号レベルの決定が、被験者の非筋肉領域のMR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項5に記載の機械可読命令。
【請求項7】
前記閾値信号レベルの決定が、拡散感度を無効にした関心領域の拡散強調MR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項5に記載の機械可読命令。
【請求項8】
前記対照データ・セットが、mm2当たり10~50秒の範囲のb値を有する、またはmm2当たり100~200秒の範囲のb値を有する拡散強調イメージング技術を使用して生成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の機械可読命令。
【請求項9】
前記対照データ・セットが、運動神経に対する制御された電気刺激の印加に対して所定の時間遅延で、ヒトの身体部位のスライスの画像取得を開始することによって生成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の機械可読命令。
【請求項10】
前記所定の時間遅延が、健康な骨格筋または罹患した骨格筋の既知の筋肉応答特性に基づいて設定される、請求項9に記載の機械可読命令。
【請求項11】
前記確認された運動単位の前記決定された性質のうち少なくとも1つを使用して、筋肉異常の診断を行うことを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の機械可読命令。
【請求項12】
運動単位候補から確認された運動単位の前記検証が、前記検出されたシグナル・ボイドの同時性、他のピクセル値に対する前記検出されたシグナル・ボイドの深さ、前記検出されたシグナル・ボイドの空間的接続性、前記検出されたシグナル・ボイドの時間的接続性、および前記検出されたシグナル・ボイドの空間的広がりのうち少なくとも1つに基づいて、該運動単位候補をフィルタ処理することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の機械可読命令。
【請求項13】
1つまたは複数のプロセッサを有するデータ処理装置であって、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信する回路と、
該画像の時系列を解析して、該系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定する回路と、
該画像における該同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性を、骨格筋の運動単位に対応するシグナル・ボイドの固有の性質を特徴付けるMR画像の対照データ・セットと比較することを含む、該同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行う回路と、
該比較によって、確認された運動単位として検証された運動単位候補の性質を解析し、該確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、該確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または該確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定する回路と
を備える、
前記MR画像が、位相コントラスト・イメージング技術を使用して、または拡散強調イメージング技術を使用して生成される、データ処理装置。
【請求項14】
前記MR画像の系列の1つまたは複数の画像におけるシグナル・ボイドを同定することが、シグナル・ボイドを信号雑音と区別するための閾値信号レベルを決定することを含む、請求項13に記載のデータ処理装置。
【請求項15】
前記閾値信号レベルの決定が、前記時系列の画像の少なくともサブセットにおけるピクセル値の信号分散に基づく、請求項14に記載のデータ処理装置。
【請求項16】
前記閾値信号レベルが、被験者の非筋肉領域のMR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項14に記載のデータ処理装置。
【請求項17】
前記閾値信号レベルの決定が、拡散感度を無効にした関心領域の拡散強調MR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項14に記載のデータ処理装置。
【請求項18】
骨格筋の1つまたは複数の性質を決定するための画像を処理する方法であって、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信することと、
該画像の時系列を解析して、該系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定することと、
該画像における該同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性をMR画像の対照データ・セットと比較して、運動単位候補の少なくともサブセットを確認された運動単位として検証することを含む、該同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行うことと、
該確認された運動単位の性質を解析して、該確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、該確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または該確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定することと
を含み、
前記MR画像が、位相コントラスト・イメージング技術を使用して、または拡散強調イメージング技術を使用して生成される、方法。
【請求項19】
前記MR画像の系列の1つまたは複数の画像におけるシグナル・ボイドを同定することが、シグナル・ボイドを信号雑音と区別するための閾値信号レベルを決定することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記閾値信号レベルの決定が、被験者の非筋肉領域のMR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記閾値信号レベルの決定が、拡散感度を無効にした関心領域の拡散強調MR画像におけるピクセル値の分散に応じて決定される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用磁気共鳴画像を処理して、筋収縮を制御する運動単位の1つまたは複数の性質を検出する装置、方法、およびコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と呼ばれることもある運動神経疾患など、随意筋を制御する脳および脊髄の神経に影響する神経疾患および筋肉疾患は、診断するのが困難な場合がある。かかる神経変性疾患の場合、医療の早期介入が疾患の進行を遅らせるのに最も効果的なため、早期診断が望ましい。しかしながら、神経疾患および筋肉疾患を診断するのに実施される現在利用可能な試験は、侵襲性であり、実施に時間がかかり、信頼性が高い診断を行うことができるまでに多数回繰り返さなければならないことがある。これらの欠点をもつ現在の「絶対的基準」である試験は、筋電計測法(EMG)である。EMGは、医療専門家が金属針を患者の皮膚に刺して筋肉まで通すことを伴う。次いで、針は、針先端の約1mm3以内の体積の筋肉から電気活性を記録するのに使用される。針先端は、一般的に、読取りの確度を上げるために筋肉内部で数分間動かされ、これが患者に痛みを与える場合がある。針先端を介してかかる小さい体積の筋肉における電気活性を調べることしかできないという制限は、針挿入プロセスが、一般的に、1時間に及ぶことがあるプロセスの一部として最大10か所の異なる筋肉で繰り返されるが、それでもサンプリングされる筋肉の体積が総筋肉量に比べて小さいことを意味する。異なる筋肉で反復することによって擬陽性診断の可能性を低減することができる。主に筋肉のサンプリングが疎であるという問題により、EMG技術の特定の神経筋疾患における感度は50%未満である。現在、少ないとはいっても相当な割合の患者(約10%)が、疾患の陽性診断を受けることなく運動神経疾患で死亡している。そのため、診断を行う前に神経筋疾患と関連付けられたものなどの筋肉異常を検出する、より正確で低侵襲的な技術が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様によれば、本発明は、機械可読媒体に格納された機械可読命令を提供し、機械可読命令は、実行されると、処理回路に、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信させ、
画像の時系列を解析させて、系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定させ、
画像における同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性を、制御された刺激を対照群の運動神経に加えることによって生成されたMR画像の対照データ・セットと比較して、骨格筋の運動単位に対応するシグナル・ボイドの固有の特性を確立することを含む、同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行わせ、
比較によって、確認された運動単位として検証された運動単位候補の性質を解析させ、確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定させる。
【0004】
第2の態様によれば、本発明は、1つまたは複数のプロセッサを有するデータ処理装置を提供し、装置は、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信する回路と、
画像の時系列を解析して、系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定する回路と、
画像における同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性を、骨格筋の運動単位に対応するシグナル・ボイドの固有の性質を特徴付けるMR画像の対照データ・セットと比較することを含む、同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行う回路と、
比較によって、確認された運動単位として検証された運動単位候補の性質を解析し、確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定する回路と、を備える。
【0005】
第3の態様によれば、本発明は、画像を処理して骨格筋の1つまたは複数の性質を決定する方法を提供し、方法は、
身体部位のスライスを表す磁気共鳴(MR)画像の時系列を受信することと、
画像の時系列を解析して、系列の1つまたは複数の画像における、信号減衰の局在化領域である1つまたは複数のシグナル・ボイドを同定することと、
画像における同定されたシグナル・ボイドの少なくとも1つの特性をMR画像の対照データ・セットと比較して、運動単位候補の少なくともサブセットを確認された運動単位として検証することを含む、同定されたシグナル・ボイドと骨格筋の運動単位候補との相関を行うことと、
確認された運動単位の性質を解析して、確認された運動単位のうち少なくとも1つの発火頻度、確認された運動単位のうち少なくとも1つのサイズ、所与の画像範囲内にある確認された運動単位の数、または確認された運動単位のうち少なくとも1つの形状、のうち少なくとも1つを決定することと、を含む。
【0006】
本発明の実施形態の他の態様および特徴は、添付の特許請求の範囲において提供される。
【0007】
本発明の実施形態を、添付図面を参照して以下に更に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】随意筋の収縮を制御する運動ニューロンおよび運動単位を概略的に示す図である。
図2a】自然発生的なシグナル・ボイドの発生を示す脚の筋肉の一対の磁気共鳴(MR)画像を概略的に示す図である。
図2b】筋肉の刺激応答時間プロファイルを示す、筋肉に対して外部電気刺激を加えることによる時間に対するMR信号変化を概略的に示すグラフである。
図3a】対照データを収集して、運動単位活性と関連付けられたMRIシグナル・ボイドと運動単位活性と関連付けられる可能性が低いMRIシグナル・ボイドとを区別する、MRIイメージングを実施する装置構成を概略的に示す図である。
図3b】外部電気刺激を送る2つの可撓性コイルと一対の電極とを示す患者の脚の第1の図を概略的に示す図である。
図3c】外部電気刺激を送る、脚ホルダと、一対の可撓性コイルと、一対の電極とを示す患者の脚の第2の図を概略的に示す図である。
図4a】外部電気刺激に応答したピーク信号変化の時間におけるシグナル・ボイドを概略的に示すMRI画像である。
図4b】異なる拡散b値における外部電気刺激に対するMR信号変化の時間経過の一例を概略的に示す図である。
図5図4bのデータから導き出されるピークMR信号減衰を概略的に示す図である。
図6】外部電気刺激を受けている筋肉の断面が強調されたMR画像、ならびに図6のスキャン画像の刺激された筋肉の断面における任意単位の1-平均関心領域(ROI)信号強度とmA単位の刺激電流とのグラフを概略的に示す図である。
図7】段階的電気刺激を用いた拡散強調イメージングを使用して検出された運動単位発火の空間パターンを示す一例の対照データ・セットを概略的に示すMR画像を、等価のT1w-TSE(T1強調ターボ・スピン・エコー)解剖学的造画像の上に重ね合わせた図である。
図8】運動単位活性と関連付けられたMRIシグナル・ボイドの固有の特性を決定するために、対照データ・セットを生成するプロセスを概略的に示すフロー・チャートである。
図9】場合によっては運動単位活性と関連付けられるシグナル・ボイドを同定するために、時系列のMRI画像に対して実施される処理を概略的に示すフロー・チャートである。
図10】筋肉異常を検出するために、MRI画像の時系列を処理するアルゴリズムを概略的に示すフロー・チャートである。
図11】外部電気刺激による腓骨神経刺激の際の前脛骨筋全体の運動単位活性を示す一連のMRIスキャン画像である。
図12】MRI画像の時系列を処理することによって検出されたシグナル・ボイドのパターンによって活性が明らかになった、筋肉が外部刺激を受けていない、または随意収縮していない患者の、筋肉異常を示す運動単位活性の空間パターンを概略的に示す図である。
図13図13のスキャンの対象であった同じ患者の随意筋収縮中における運動単位活性を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、随意筋の収縮を制御する運動ニューロンおよび運動単位を概略的に示す図である。図1は、上位運動ニューロン112が大脳皮質の運動領または脳幹に位置する脳110と、上位運動ニューロン112が電気インパルスを脊髄内の下位運動ニューロン122に送る脊髄120とを示している。上位運動ニューロンは、適切な脊髄神経根の高さまで脊髄120内を下降し、そこで下位運動ニューロン122と接合する。下位運動ニューロン122は、脊髄内の神経細胞体121と、軸索130と、複数の軸索終末とを有する。各軸索終末は、骨格筋の繊維(または筋細胞)を神経支配して、筋繊維の収縮を制御する。単一の下位運動ニューロン121、122、およびその下位運動ニューロンの複数の軸索終末122a、122b、122c、122dによって神経支配される全ての骨格筋細胞(または繊維)140a、140b、140c、140dは、「運動単位」と称される。脚の筋肉などのより大きい筋肉はより大きい運動単位を有して、数百の筋細胞(最大千個)を同時に収縮させ、より細かい制御を行う指の筋肉などのより小さい筋肉は、より少ない軸索終末を有するより小さい運動単位を有し、恐らくは5つ程度の少ない筋細胞を制御する。単一の運動単位の全ての骨格筋細胞は同時に収縮するようになる。運動単位群は一緒に働いて、四肢または体幹のうち1つの筋肉など、単一の筋肉を収縮させる。筋肉の断面150は、それぞれの複数の運動単位によって制御される複数の筋繊維152、154を示している。数百の異なる運動単位が単一の筋肉の収縮を制御することがある。
【0010】
運動神経疾患患者の場合、対応する下位運動ニューロンが死滅すると筋細胞が萎縮していくようになるため、運動単位全体が漸進的に消失することによって、下位運動ニューロン121、122が漸進的に死滅していく。しかしながら、運動ニューロンは、完全に不全に陥る前に、自発的に発火し始めて、「線維束性れん縮」と称される不随意筋のれん縮を起こすようになる。線維束性れん縮は単一の運動単位の発火によるものであることがある。個々の運動単位が不全に陥ると、隣接する運動単位が自身の軸索終末を不全に陥った運動単位が前に制御していた筋肉の範囲内へと延ばすようになる。結果として、残っている運動単位のサイズが増加することになる。更に、筋肉でいくつかの運動単位が枯渇すると、残っている運動単位は自身の発火頻度を増加させて筋肉の収縮を達成するようになって、不全に陥った運動単位の不足を補う。したがって、運動単位の性質から明らかなことがある、運動神経疾患のいくつかの例示の特性は、(i)筋肉の所与の範囲における運動単位の数の減少、(ii)健康な筋肉における運動単位のサイズに対する、運動単位のサブセットのサイズの増大、(iii)線維束性れん縮の結果としての、運動単位の発火率の増加、のうち少なくとも1つである。健康な筋肉における運動単位の一般的な発火率は5~15Hzであってもよく、運動単位の筋細胞の一般的な直径は1~10mmの範囲であってもよいが、これらの数字は非限定例である。
【0011】
線維束性れん縮と関連付けられた不随意運動単位発火などの低密度で自然発生的なイベントは、系統的に研究するのが非常に困難な場合がある。運動単位の数は、EMGを使用して、または電気パルスを使用した筋肉の刺激によって推定されることがあるが、これらの知られている技術は両方とも、痛みを伴い、望ましい診断確度に満たず、患者の協力を必要として、小児または高齢者では実施が異なってしまう可能性がある。本発明の技術によれば、MRI画像を処理して、神経筋疾患を示すことがある運動単位活性が決定されてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、拡散強調イメージング(DWI)が使用されてもよい。DWIは、脳の白質をマッピングして軸索の完全性を評価し、白質路をマッピングするのに使用されることが多い、MRIの変型例である。骨格筋の組織微細構造を検査するのにDWIが使用されるとき、取得画像に自発的で比較的短い(例えば、数百ミリ秒)シグナル・ボイドが現れることが注目されている。これらのシグナル・ボイドはある種の筋肉活性と関連付けられることが期待されたが、これらのシグナル・ボイドがなぜ現れるかについて正確なことは不明だった。しかしながら、当該技術によれば、シグナル・ボイドを個々の運動単位の発火に明確にマッピングできることを実証する対照データが生成されている。
【0013】
図2aは、自然発生的なシグナル・ボイドの発生を示す脚の筋肉の一対の拡散強調MRI画像を概略的に示す図である。第1のMRI画像202は、第1のスキャン時間における脚の筋肉の特徴を示し、第2のMRI画像204は、3秒後に取得した同じ脚の筋肉を示している。2つの画像を比較すると、第2の画像204に、第1の画像202には存在しなかった信号減衰の範囲206があることが明らかである。信号減衰の範囲206は、単一の運動単位の発火と関連付けられたシグナル・ボイドである。シグナル・ボイドは画像の過渡的特徴である。
【0014】
図2bは、筋肉の刺激応答時間プロファイルを示す、前脛骨筋に対して外部電気刺激を加えることによる時間に対するDWI MRI信号変化のグラフを概略的に示している。前脛骨筋は下腿の脛付近に位置する。単一の外部電気刺激電流を、短い時間(例えば、0.3ミリ秒)にわたって患者の腓骨神経に加え、図2bのグラフの時間0のときに刺激を除去した。外部刺激が加えられる前の平均値に対する信号レベルの変化が、ミリ秒単位の刺激後時間に対してプロットされている。このグラフは複数のピクセルを含む関心領域に関する。単一のピクセルは同じ挙動を示すが、ノイズはより明白であろうことが予期される。刺激後時間の関数としての、解析したMR画像における信号変化の大きさに対応する実験データ(ドット)が、運動単位における力の発生が時間とともにどのように変化することが予期されるかを示す、医学文献データ(Neuroscience,“The Motor Unit”,D Purves et al,2001)に基づいた曲線210に沿ってプロットされている。実験データは、理論上の運動単位応答曲線とよく一致していることが分かる。電気刺激に応答するピーク信号変化は約75msであり、応答曲線プロファイルは刺激後0~約250msにわたっている。
【0015】
図3aは、対照データを収集して、運動単位活性と関連付けられたMRIシグナル・ボイドと運動単位活性と関連付けられる可能性が低いMRIシグナル・ボイドとを区別する、MRイメージングを実施する装置構成を概略的に示している。装置は、開出テーブル(patent table)312と、(図3bおよび図3cに示される)スキャン・プロセスの間、患者の脚を固定位置で保つ脚ホルダ320と、MRIスキャン画像取得の間、1つは患者の脚の上に、1つは下に配置される、一対の可撓性コイル330a、330bと、一対の電極342、344および関連する接続ワイヤ343、345を介して、患者の筋肉を刺激する制御された電流を発生させる双極(電気)刺激装置340とを有する、MRI機械310を備える。双極刺激装置340と電極対342、344との間の接続ワイヤはそれぞれ、スキャナ室内部のケーブルの長さに対応するシールド部分を有する。スキャナ室壁は電磁場を遮断するファラデー・ケージとして作用する。これにより、結果として得られる取得画像に影響を及ぼす恐れがある、外部RF(高周波)信号が患者から収集されるデータに追加されるのを防ぐ。フィルタ・プレート360がスキャナ室壁の内部に設けられ、2つの接続ケーブル343、345はそれぞれ、スキャナ室壁の直ぐ外側に低域通過フィルタ362、364を備える。低域通過フィルタは、スキャナの撮像形態の活性が刺激に影響を及ぼすのを防ぐ。
【0016】
双極刺激装置340は、有線または無線接続を介してスキャナ・コントローラ350に接続されてもよい。スキャナ・コントローラ350および電気刺激装置は、図3aの例ではスキャナ室の外部に位置される。スキャナ・コントローラ350は、MRIスキャナ310を制御するソフトウェアを実行して、MRI画像取得のタイミングを制御し、スキャナ・パラメータを設定する、少なくとも1つプロセッサを有する。スキャナ・コントローラの処理回路は、汎用または専用処理回路、グラフィック処理ユニット、画像処理ユニットなどを含んでもよい。トリガ信号347が、スキャナ・コントローラ350から双極刺激装置340に送信されて、電極対342、344に対する所与の電気刺激信号の発生をトリガしてもよい。スキャナ・コントローラ350と双極刺激装置340との間の接続によって、電極対342、344を介して患者の運動神経に電気刺激を加えるタイミングと、MRI画像の時系列の取得を開始するタイミングとを協調させることができる。例えば、スキャナ・コントローラ350は、骨格筋の運動単位の応答が時系列内で取得される可能性が最も高くなるように、MRIスキャナ310を制御して、画像の時系列のうち第1の画像の画像取得を開始してもよい。例えば、図2bを参照すると、予期される運動単位応答が電気刺激を加えるのとほぼ一致する時間から続いて、刺激後約50ms~100msでピークに達し、刺激後約250msで消滅している。MRI信号は、それに応じて特定の神経が刺激される、異なる特性曲線を有することがある時間の関数として変化し、図2bに示される信号変化プロファイルに限定されない。いくつかの例では、スキャナ・コントローラ350は、250msの予期される運動単位応答期間内で、複数のスキャン画像の取得を制御してもよい。他の例では、50~150msのピーク応答領域と一致させるかまたは近似的に一致させる、単一のMRI画像を取得し、第1の電気刺激に対する運動単位応答が鎮静した後の時系列の連続画像を取得すれば十分なことがある。
【0017】
拡散強調イメージング(DWI)は、二次元ではなく三次元を有する体積ピクセルである組織のボクセル内における、水分子のブラウン(即ち、ランダム)運動の測定に基づいた磁気共鳴イメージングの1つの形態である。容器内部での水の拡散は実質的に自由拡散であるが、ヒトまたは動物の生体の組織内では、水分子の拡散は、例えば、細胞膜境界によって、細胞腫脹によって、または細胞密度の高い組織によって阻害されることがある。そのため、DWIは、健康な組織と主要とを区別するのに使用することができ、または脳内の白質(神経路)をマッピングするのに使用されてもよい。当該技術によれば、DWIは、収縮している筋繊維または細胞と弛緩している筋繊維とを区別するのに使用されてもよい。この場合、DWIは、ブラウン運動によるものではなく線維収縮による、ボクセル内の水の位置の変化を検出する。MRIスキャン方法はDWI方法であるが、当該技術によれば、拡散を測定するのではなく、シーケンスは、DWIスキャンの高感度期間中のボクセル内における水分子の相対位置を変化させるいずれかの作用に対する感度をもつ。通常、これは水分子のブラウン運動によるものであるが、当該技術によれば、筋肉の収縮または弛緩が組織内の水分子の分布を「圧縮」したり「延伸」したりする。このメカニズムが認識され利用されてきた。
【0018】
DWIイメージングの1つの代替例として、位相コントラストMRI(PC-MRI)が、画像の時系列を取得して、運動単位の発火と関連付けられた筋線維収縮を検出するのに使用されてもよい。PC-MRIは、流速を決定するのに使用されてもよく、3つの空間次元に時間を加えた四次元イメージングを提供することができる。これにより、取得画像の時系列における変化を決定して、画像範囲内の筋繊維が収縮している時間と同じ筋繊維が収縮していない時間とを区別することが可能になる。イメージング・パラメータは、筋繊維収縮の検出の確率を増加させるように調節されてもよい。シグナル・ボイドはPC-MRI画像で検出されてもよい。
【0019】
DWIでは、「b値」が、調節されてもよいイメージング・パラメータである。勾配パルス(勾配磁場)を加えることによって、プロトンの配列に位相シフトがもたらされ、勾配を加え、次にそれを元に戻すことは正確には、移動した粒子は結果的に位相シフトされるが、移動しなかった粒子は正味の位相シフトを経験しないことを意味する。筋肉領域など身体の領域からのMR信号は、領域におけるスピン(水分子)の位相コヒーレンスに応じて決まる。同等であるが勾配が反対の2つのパルスを加えることによる、特定の身体領域からのMR信号の大きさの低下は、拡散および筋収縮または筋弛緩によるものであり得る、関連の領域における水の分布に変化があることを示す。DWIパルス・シーケンスは、大きさG、持続時間d、および時間間隔Δの2つの勾配パルスから成ってもよい。MR信号損失の量は、次のことに応じて決まってもよい。
(i)その身体領域における拡散率または組織収縮率
(ii)勾配磁場の大きさG
(iii)勾配磁場が各方向で加えられる持続時間d
(iv)勾配磁場間の時間間隔Δ
【0020】
拡散勾配の持続時間、間隔、および強度を調節することによって、DWI画像が、水分子の運動などの分子運動に対して多かれ少なかれ感度をもつようにすることができる。b値がより大きいことは、勾配パルスがより長時間加えられるか、またはその大きさがより大きいことを意味する。これらの条件は両方とも、身体の領域における所与の拡散率に対してMR信号損失がより大きくなる可能性が高い。本発明の技術によれば、1mm2当たり10~50秒の範囲のb値が、運動単位の発火と関連付けられた筋収縮を収縮していない筋肉領域と容易に区別することを可能にする、信号損失率を提供することが見出された。電気刺激応答については、1mm2当たり10~50秒が良好な範囲であるが、疾患、例えばALSの自発線維束性れん縮については、1mm2当たり100~200秒が良好な動作範囲であることが見出されている。しかしながら、収縮している筋繊維と収縮していない筋繊維との区別は、他のb値でも、または位相コントラストMRIなどの他のMRI技術を使用しても、容易に確立することができる。MR画像ピクセルのより高レベルの信号減衰と関連付けられたシグナル・ボイドは、随意筋収縮、外部刺激筋収縮、または線維束性れん縮などの不随意筋収縮と関連付けられてもよい。
【0021】
図3の装置構成を使用して、腓骨神経などの神経を外部刺激して、下腿の脛領域における前脛骨筋の筋繊維の収縮を刺激することによって、1つまたは複数の対照群に対して一組の対照データが収集されてもよい。画像の時系列は、双極刺激装置340による電気刺激の印加に対する所定のタイミングで取得されてもよい。取得された画像の時系列、および電気刺激の既知の時間は、筋収縮と関連付けられた画像の特性を検出し同定するのに使用されてもよい。時系列画像取得は、複数の異なるb値に対して、また電気刺激の1つもしくは複数のレベル(例えば、異なる電流)に対して実施されてもよい。
【0022】
双極刺激装置340は、例えば、ファラデー・ケージにおける延長ケーブル343、345および低域通過フィルタ362、364、ならびに本例では、撮像を最小限に抑えるかまたは少なくとも低減するようにケーブルが近接される、電極に最も近い最後の15cmを除いて(図3aに示されるようなスキャナ室内部の部分)シールドされたMR対応電極342、344を使用する、インボア・スキャニングに適合されたDigitimer DS5プログラマブル電気刺激装置であってもよい。双極刺激装置340は、画像取得と筋収縮を誘発する刺激とを同期させるため、スキャナ・コントローラ350を介してスキャナにインターフェース接続される。15×20mm電極などの一対の電極は、0.3mS単極パルスを使用して、前脛骨筋(TA)に対して左総腓骨神経を刺激するため、腓骨頭において2cm離して配置されてもよい。被験者の脚における電極の配置は図3bおよび3cに示されている。被験者の脚は、足が固定されてもよいフット・レストを含む、MRIスキャナ310のホルダ320内に位置付けられてもよく、一対の可撓性表面コイル330a、330bは、脚の両側または上下に位置付けられてもよい。可撓性表面コイル330a、330bは、例えば、10cmの楕円形コイルであってもよい。
【0023】
図3bは、外部電気刺激を送る2つの可撓性コイル330a、330bと一対の電極342、344とを示す患者の脚の第1の図を概略的に示している。
【0024】
図3cは、外部電気刺激を送る、脚ホルダ320と、一対の可撓性コイル330a、330bと、一対の電極342、344とを示す患者の脚の第2の図を概略的に示している。
【0025】
主要な主筋繊維軸に沿って、スライス貫通方向(through slice direction)で鋭敏化した、軸方向に配向した拡散強調スピン・エコー・エコー・プラナー・イメージング(SE-EPI)シーケンス(1.5×1.5mm分解能、10mmスライス、繰返し時間(TR)/エコー時間(TE)=1000/36ms、パルス勾配持続時間=7ms)を使用して、6名の健康なボランティアのMRIスキャンを実施することによって例示の対照データ収集結果が得られている。拡散強調スキャンは、最初に、様々なb値(0~100s・mm-2)における刺激に対して取得時間をシフトして収集して、2名の被験者におけるピーク信号応答をマッピングした。次に、60枚の一連のスキャン画像を、0(対照)、10、および20s・mm-2のb値を有するピーク応答時間で、また取得ごとに電流を0.04mAずつ漸増させて収集した。外部刺激電流が増加するにつれて、連続する運動単位に対する閾値刺激電流に達して、各閾値電流で新しい運動単位が発火し、特定の筋細胞と関連付けられた筋繊維の筋収縮に関与する筋炎の範囲が拡大する。この例の対照データ収集では、再現性のため、スキャンを二回繰り返した。
【0026】
MRI画像の時系列のうち1つまたは複数の画像の関心領域およびピクセル単位解析を実施して、b値の関数としての信号応答、および漸増する外部電流の筋炎に対する作用を評価した。
【0027】
図4aは、異なるb値に関して刺激に対する信号変化の時間経過の一例を、ピーク信号変化(b=50s・mm-2)における画像とともに示している。スキャンの拡散に敏感な期間(Δ)中の筋繊維の収縮と関連付けられた信号減衰が見られる。1および20s・mm-2のb値の間で減衰の差が見られるが、50s・mm-2を上回るb値ではプラトーである。線412は1s・mm-2のb値に対応する。線414は10s・mm-2のb値に対応する。線416は20s・mm-2のb値に対応する。線418は50s・mm-2のb値に対応し、線420は100s・mm-2のb値に対応する。
【0028】
図5は、図4bのデータから導き出されるピークMR信号減衰を概略的に示している。プロットしたデータ点はイン・ビボ・データであり、筋繊維の2%(200μm)線収縮を想定した理論的結果を表す線512とともにプロットされている。結果は、理論的予測と実験データとの良好な一致を示しており、MR画像におけるシグナル・ボイドが、個々の運動単位の発火および関連する筋繊維収縮と関連付けられるという仮説を裏付けている。
【0029】
図6は、刺激電流による筋肉領域の異なる運動単位の活性化を概略的に示している。各運動単位が活性化のための閾値電流に達すると、MR信号変化の範囲(シグナル・ボイド)が拡大して、取得されたMRI画像のより多くのピクセルを取り込み、筋肉全体の合計信号が低下する。図6のグラフは、x軸上の刺激電流(mA)に対するy軸上の正規化された単位における、1-平均関心領域(ROI)信号強度のプロットである。(1-ROI強度)は、約3mAから5mA未満の範囲の刺激電流値に対しては実質的に一定であるが、4.5mAでの値ゼロから約5.5mAの刺激電流での値約0.6まで急激に増加する。ROI強度の急激な減少(1-ROI強度の急激な増加に対応)は、運動単位活性化および筋収縮と関連付けられたシグナル・ボイドが比較的多数あることによるものであり、刺激電流が運動単位活性化閾値以上のときに現れる。図6のグラフの点線および実線は2つの別個の測定値を表し、それによって、電気刺激に対する応答が再現可能であって、最小刺激電流閾値があることを示している。これは、筋電計測法における運動単位数推定に対して等価のMRIであるが、本発明の技術によるMRI方法は、より低侵襲性であり、より高速で実現でき、比較的簡単により多くの筋肉領域を調べることができる。
【0030】
図7は、段階的電気刺激を用いた拡散強調イメージングを使用して検出された運動単位発火の空間パターンを示す一例の対照データ・セットを概略的に示すMRI画像を、等価のT1w-TSE(T1強調ターボ・スピン・エコー)解剖学的造画像の上に重ね合わせたものである。図7に示されるMRI画像は運動単位漸増の空間パターンの一例であり、色分けは、そのピクセルに対応するMR信号値が刺激前信号の3つの標準偏差未満である画像体積を示し、この例では、画像のピクセルをシグナル・ボイドに属するピクセルとして分類するのに使用された試験であった。
【0031】
図8は、運動単位活性と関連付けられたMRIシグナル・ボイドの固有の特性を決定するために、対照データ・セットを生成するプロセスを概略的に示すフロー・チャートである。この例では、収集された画像の時系列はDWI画像である。プロセスは、810で、MRIスキャナの初期b値を設定することによって始まる。次に、プロセス要素820で、関心筋肉領域に供給してその筋肉領域の筋繊維収縮をトリガする、外部電気刺激が被験者の神経に加えられる。次に、プロセス要素830および840で、電気刺激パルス後の所定の時間遅延が加えられており、複数の画像を含む時系列が取得されて、刺激によってトリガされる筋繊維収縮と関連付けられたシグナル・ボイドが検出される。
【0032】
プロセス要素830で、ピーク信号変化と一致する時間に単一の画像が取得される。図2bのグラフに示されるように、ピーク信号変化は刺激後0~150msの間に起こることがある。いくつかの実施形態では、画像の時系列の取得は電気刺激が加えられる前に、例えば刺激が加えられる前の約50msに始まってもよいので、取得画像が処理されると、刺激前信号レベルと刺激後信号レベルとの間の差を同定することができる。画像カウンタI-countの始動を含む、時系列画像取得が最初にプロセス要素830でトリガされると、プロセスはプロセス要素840に進み、I-countが完全な時系列画像セットに対応する最大値に達しているか否かが判定される。時系列における画像の最大数は、ユーザが構成可能なプログラマブル・パラメータである。画像の最大数がまだ取得されていない場合、プロセスはプロセス要素830に戻って、更なる画像を取得し、I_countを漸増するが、いくつかの例ではI_count=1で画像はピークで1枚である。画像の最大数が取得されると、プロセスはプロセス要素840からプロセス要素850に進む。シグナル・ボイドの決定はオフラインで、全ての画像が取得された後に実施されてもよく、あるいは取得画像の時系列の処理は、少なくとも部分的にMR画像取得と並行して実施されてもよい。
【0033】
プロセス要素850で、電気刺激電流は、双極刺激装置850の設定を調節することによって、より大きい値に漸増され、次に、プロセス要素820、830および840が関与する画像の時系列取得のループが、新しい電気刺激電流に対して繰り返される。外部電気刺激電流を漸増によって徐々に増加させることによって、関心筋肉領域の収縮を制御する運動単位群のそれぞれを段階的に活性化させてもよく、したがって、より多くのシグナル・ボイドが現れるにつれて取得画像におけるMR信号の変化が徐々に大きくなって、運動単位の活性化を反映し、筋繊維収縮をもたらしてもよい。
【0034】
プロセス要素860で、所与の刺激電流に対して各画像時系列が取得された後、最大刺激電流に達しているか否かが判定され、達している場合、b値に関する外側ループのプロセス要素870で、MRIスキャナのb値が漸増されてもよい。しかしながら、まだ最大刺激電流に達していない場合、要素820、830、840、および850を含む刺激電流値に関する内側ループが完了する。
【0035】
プロセス要素870で、対照データ取得の一部としてユーザが求める全てのb値が実現されているか否かが判定される。実現されていない場合、プロセスフローはプロセス要素810に戻り、b値が設定される。上述の図4に示されるような、例えば、b=1、10、20、50、100s・mm-2など、所定の一連のb値が対照データを収集するのに使用されてもよい。10~50s・mm-2の範囲のb値は、画像化された筋肉領域において、活性化された運動単位と活性化されていない運動単位とを非常に明確に区別することが見出されているが、この範囲外のb値が代わりに使用されることがある。プロセス要素870でb値の全範囲が調査される場合、次にプロセスが終了する。
【0036】
図9のフロー・チャートでは、対照データ・セットは、運動単位発火および筋収縮をトリガする外部電気刺激を使用して生成されるが、代替実施形態では、対照データは、タイミング、運動の程度、および収縮の力のうち少なくとも1つによって制御される、被験者の随意運動によって発生する筋収縮を使用して生成されてもよい。これは、外部電気刺激とは異なるタイプの制御された刺激である。
【0037】
更なる実施形態では、対照データは、少なくとも部分的に、既に筋肉異常が診断されている被験者から得たMR画像データの特性に基づいて生成されてもよい。例えば、運動神経疾患を有していることが分かっている患者の不随意線維束性れん縮の特性が、運動単位候補をフィルタリングして、それらが検出された運動単位であると確認するのに使用されてもよい。したがって、運動単位候補から確認された運動単位を同定するための対照データは、いくつかの実施形態では、筋収縮の制御された刺激を使用せずに生成されてもよい。
【0038】
図9は、場合によっては運動単位活性と関連付けられるシグナル・ボイドを同定するために、時系列のMRI画像に対して実施される処理を概略的に示すフロー・チャートである。シグナル・ボイドは、MR画像のピクセルの大多数よりも、取得されたMR画像におけるMR信号の大きさが大幅に小さいピクセルまたはピクセル群である。シグナル・ボイドは、例えば図2aの領域155に示されるように、画像を視認することによって見ることができる。MRI画像を処理して、どのピクセルが運動単位発火によって起こるシグナル・ボイドに対応するかをアルゴリズム的に決定し、筋収縮をトリガする1つの方法は、関心筋肉領域の画像の信号値における、時間に伴う変化を見るというものである。筋収縮は持続時間が短い傾向にあるので、同じ筋肉領域の画像の時系列における変化は、運動単位活性化と一致するタイミングで出現し消滅するシグナル・ボイドを示すこと、つまりシグナル・ボイドは過渡的特徴であることが予期される。シグナル・ボイドは特徴的に、周囲のピクセルよりも信号の大きさが小さく、また関連する運動単位が発火していないときの同じピクセルよりも信号の大きさが小さいので、シグナル・ボイドを同定する1つの方法は、長時間にわたる所与のピクセルの平均信号値を計算し、瞬間信号値が、そのピクセルまたは異なる(x,y)位置にある同等のピクセルの平均信号値よりも低い閾値量またはパーセンテージよりも高い瞬間を探すことである。あるいは、所与の筋肉領域におけるピクセルのサブセットなど、所与の画像におけるピクセルの平均信号値が計算されてもよく、(x,y)面において平均化された平均との比較によって、個々のピクセルに対してシグナル・ボイドが同定されてもよい。低い信号値を数学的に同定し、シグナル・ボイドを分類する他の方法が使用されてもよい。
【0039】
図9のフロー・チャートによって表される例の画像処理アルゴリズムでは、プロセスは要素910で始まり、MRI画像の時系列が処理されて、時系列の複数の画像に対して、各ピクセル位置(x,y)の平均信号振幅が決定される。それにより、所与の空間ピクセル位置の平均信号値が、時系列持続時間の少なくとも一部に対応する時間に対して計算される。例えば、シグナル・ボイドがないことが予期されるかまたは分かっている時系列持続時間の一部が、平均ピクセル値を計算するのに使用されてもよい。次に、プロセス要素920で、各関心ピクセル位置に対して分散σ2および標準偏差σが計算される。関心ピクセル位置は、所与のMR画像の全てのピクセルを含んでもよく、あるいは画像内のピクセルのサブセットを含んでもよい。分散がより大きいことは平均に寄与するピクセル値の広がりが大きいことを示し、関連する標準偏差を使用して、どのピクセルが平均から最も遠いかを決定することができる。
【0040】
プロセス要素930で、ピクセルをフィルタ処理して、平均からn×σ(nはゼロ以外の整数)を超えて逸脱している信号値を有するピクセルが同定される。この例ではn=3であるが、この値に限定されない。筋収縮の過渡的な性質により、所与の(x,y)位置は、時系列のいくつかの画像に関しては低い信号値を有するものと分類されてもよいが、時系列の他の時間よりも平均ピクセル値を有するピクセル位置として分類されてもよい。プロセス要素930で低信号ピクセルが同定されていると、それらの低信号ピクセルは、プロセス要素940aで、空間的接続性によって低信号ピクセルをグループ化するように処理され、並行してまたは連続してプロセス要素940bで、時間的接続性によって低信号ピクセルをグループ化するように処理される。運動単位活性化に対して予期される筋繊維応答時間に関する時系列における画像取得頻度に応じて、低信号値を有することが予期される時間的に近接した画像の見込み数を予測することができる。同様に、単一の運動単位発火に対応する筋繊維の空間的フットプリントが推定されてもよい。このように、運動単位活性化以外の理由によって低信号値を有するピクセルを無視することができる。ピクセルは、例えば画像収差によって、低信号値を有することがある。
【0041】
プロセス要素950で、ピクセル値の標準偏差からの最小閾値逸脱(nσ)、時間的接続性、および空間的接続性に基づいて、時系列の各MR画像において運動単位候補が同定される。
【0042】
図9は、MRI画像の時系列における個々の運動単位を同定するのに実施される一例のフローを示している。最も単純な方策は、図9を参照して上述したようにピクセル時系列を得て、運動単位発火がない期間のピクセル強度(信号値)から直接分散を計算することである。この方法は、画像系列で取得した時点の数と比較して運動単位活性が少ないときに最も効果的である。これは、運動神経疾患などの疾患の初期段階では簡単に達成できるが、筋肉の単位面積当たりでより多くの運動単位が自発発火する可能性が高い、疾患がより進行した段階の患者からの画像を処理する場合は達成がより困難なことがある。
【0043】
分散の1つの主な要因は、MR画像における固有雑音によるものであることが予期され、多数の異なる方策のいずれかを使用して、雑音レベルを解明してもよい。運動単位の発火は、画像信号の固有雑音に起因するあらゆる変化を上回る信号レベルの変化を引き起こすことが予期される。
【0044】
第1の方策によれば、MR画像の雑音レベルは、ヒトまたは動物の身体において、筋肉ではなく、したがって運動単位活性が存在し得ない領域を規定し、その非筋肉領域を使用して雑音分散を計算し、次にMR時系列画像データ・セット全体にわたる均一な値としてそれを適用することによって決定されてもよい。これは、理想的には、対象(関心領域)の内部の範囲、例えばスキャンが雑音を再構築する骨などの範囲であるべきである。信号は身体内に存在し、身体外には信号がないが、背景に何らかの雑音があるはずである。身体外の範囲は、いくつかの画像再構築方法では、真の雑音推定値を含まなくてもよく、再構成アルゴリズム自体によって変更される。
【0045】
第2の方策によれば、MR画像の雑音レベルは、拡散感度を無効にした(b値=0s・mm-2)DWIスキャンを取得することによって決定されてもよい。これによって、雑音が、シグナル・ボイドが存在しない時系列から測定され、ピクセル単位で実施されてもよいことが確保されるはずである。
【0046】
図10は、筋肉異常を検出する、MR画像の時系列を処理するアルゴリズムを概略的に示すフロー・チャートである。要素1010で、MRスキャン画像の時系列にアクセスして、画像データを処理する。個々の画像は、x-y面内でピクセル値を有し、画像が取得された瞬間に対応する。時系列の持続時間および所与の時系列内に取得される画像の数はプログラム可能である。例えば、1分または数分にわたる時系列と、例えば100~200の画像とを含む。画像の数は、統計的に信頼性の高い結果を得られるサンプル数を考慮して選択される。要素1020で、例えば、図9に示されるように、ピクセル単位の分散が計算されてもよく、平均が取られるサンプルの合計数に対して少数の時間サンプル中に運動単位活性化が存在すると仮定して、所与の(x,y)位置に対する平均ピクセル値が期間内で計算される。あるいは、分散は、運動単位の発火がないものと思われる瞬間を含むように、位置(x,y)に対する平均信号値を決定することによって計算されてもよい。あるいは、拡散感度を有効にして骨領域の平均信号値を計算すること、または拡散感度をゼロに設定してDWIスキャンの平均信号値を計算することが、1020でピクセル単位の分散を計算するのに使用されてもよい。要素1030で、対照データから導き出された実験特性が受信または計算されてもよい。これらの実験特性は、外部刺激電流と、電流が増加するにしたがって活性化される運動単位の数のステップとの関係を確立することを含む運動単位数推定法(MUNE)、随意筋収縮のタイミングとMRスキャン画像に何らかのシグナル・ボイドが出現するタイミングとの相関を含む、関心領域において患者が少なくとも1つの筋肉を随意に収縮させることが求められている場合のMRスキャンにおけるシグナル・ボイドの特性、ならびに過渡的であり、したがってMRスキャン画像における作用が時間的に分離されることがある、不随意筋収縮(線維束性れん縮)の特性のうち、少なくとも1つを含んでもよい。
【0047】
MUNE技術は、電気刺激の大きさが増加するにしたがって、連続する運動単位の同定が電気刺激によって活性化されることに基づいてもよい。多数の筋繊維が単一の運動単位によって制御される(運動単位1つ当たり数百程度の筋繊維)ことが分かっているので、連続する運動単位の刺激による活性化は、多数の筋繊維の運動を制御して、MRI画像信号強度の離散的または不連続の増加をもたらしてもよい。この増加は、電気刺激の関数としてのMRI信号強度のステップとして同定可能であってもよい。信号ステップの振幅は、運動単位活性から予期される信号レベルの変化を示すものとして使用されてもよく、したがって信号ステップの振幅は、信号雑音に対して閾値レベルを校正するのに使用されてもよく、それに関して、シグナル・ボイドの深さは運動単位候補の活性に起因する場合がある。
【0048】
実験特性はまた、随意の指標を含んでもよい。運動単位を活性化するのに患者の神経に加えられる外部電気刺激の代わりに、患者はまた、自身の随意によって、つまり筋肉を随意に収縮させることによって、運動単位の活性化をトリガしてもよい。筋収縮は、例えば、ひずみゲージ、四肢の制御された運動、制御されたタイミング、またはこれらの要因のうち2つ以上の組み合わせを使用して、データ収集の一部として制御されてもよい。時間に関する随意筋収縮に対するMR画像信号応答を測定することによって、自発運動単位活性をより良好に分離するために、イメージングにおける随意誘発によるシグナル・ボイドを説明することが可能であってもよい。更に、筋肉領域を含むヒトの身体部位のスライスをイメージングする間、この随意が求められることも求められないこともあり、望ましくない患者の運動によって起こることがあるので、実験特性の測定した随意信号時間応答はまた、随意の発生を事前に知らずに、随意信号を運動単位の自発活性に属するシグナル・ボイドから分離するのに使用されてもよい。これは、自発運動単位活性を他の活性から区別する助けとなることがある。
【0049】
運動単位によって制御される筋繊維は全て、時間に伴い同様に作用すると、即ち同じ時間スケールで収縮し弛緩すると予期されることがあるので、シグナル・ボイドの深さは、運動単位の影響範囲全体にわたって時間と同様に増減することが予期されてもよい。したがって、閾値化は、シグナル・ボイドの深さにおけるピクセルごとの変動を考慮して設定されてもよい。
【0050】
要素1040で、少なくとも要素1010の未加工画像からの入力を使用して、また場合によっては、要素1020で計算されたピクセル単位の分散および要素1030の実験特性を使用して、ピクセル単位の統計的閾値化が実施される。一例によれば、少なくとも3つの標準偏差による所与のピクセルに対する平均値と異なるピクセル値は、潜在的にシグナル・ボイドに属するものとして分類される。この例では、閾値は、平均信号値-標準偏差σの3倍である。
【0051】
要素1050で、要素1040で実施されたピクセル単位の統計的閾値化によって同定された推定上の運動単位は、筋収縮と関連付けられる可能性が低いと判断されるあらゆる運動単位候補を無視するように推定上の運動単位をフィルタ処理する、フィルタリング・アルゴリズム1060に供給される。推定上の運動単位のフィルタ処理は、要素1060および1062を含むサイクルで実施されてもよい。要素1062で、いくつかの例示の生物学的フィルタ処理基準が与えられ、基準は、信号レベル閾値未満のピクセル位置の同時性を調べること、シグナル・ボイドの深さ(信号値の減少の程度)を調べること、推定上の運動単位と関連付けられるものと同定されたピクセルの空間的接続性を調べること、推定上の運動単位と関連付けられるものと同定されたピクセルの時間的接続性を調べ、対照データからの刺激後応答時間(図2bを参照)を有する信号レベルの予期される分散と比較すること、ならびに、推定上の運動単位として同定されたピクセル群の空間的広がりを調べて、対照データに基づいたシグナル・ボイドの予期される空間的広がりと比較することを含んでおり、空間的広がりは、疾患が初期段階からより進行した段階へと進行するにつれて増加することがある。
【0052】
対照データ・セットは、筋肉または神経の疾患を有する可能性が高い患者のイメージングから得られてもよく、あるいは、筋肉または神経の疾患を有する可能性が低い患者、例えば健康な患者からイメージングされてもよい。それにより、対照データ・セットは、健康な運動単位、または疾患を患っている運動単位、または両方の特性を表してもよい。
【0053】
したがって、確認された運動単位としての運動単位候補を検証するフィルタ処理の要件は、1つの運動単位候補として分類されたピクセルにわたる信号変化の同時性を考慮してもよい。例えば、信号強度の一段階減少(減衰)は、対照データ・セットから導き出されるものとして、所与の運動単位と関連付けられたピクセル全てにわたって予期されることがある。運動単位候補のピクセルにわたる信号減衰における勾配または他の何らかの差が、運動単位候補のイメージングにおいて検出された場合、フィルタ処理は、運動単位候補を確認された運動単位として検証しないことがある。
【0054】
例えば、患者の神経の外部電気刺激から生成された対照データ・セットはまた、確認された運動単位と関連付けられたシグナル・ボイドの予期される深さに関する情報を提供することによって運動単位候補を検証するのに、要素1060および1062でフィルタ処理するための校正データを提供してもよい。対照データ・セットのシグナル・ボイドとして検出された全てのピクセルにわたるMRI画像信号の減衰は、特性シグナル・ボイド深さ、信号強度における所与の漸減を実証してもよく、それが要素1062で、運動単位候補のシグナル・ボイドの深さを、対照データ・セットからの少なくとも1つのシグナル・ボイド、即ち代表的なシグナル・ボイドの深さと比較するのに使用されてもよい。運動単位候補のシグナル・ボイドの深さが対照データ・セットのシグナル・ボイドからのシグナル・ボイド深さと所与の許容差レベル内で一致しない場合、運動単位候補は、確認された運動単位として検証されないことがあり、したがって、要素1070で選択される最終的な運動単位から除外されることがある。
【0055】
要素1060でフィルタ検証に使用されてもよい、対照データ・セットから導き出される別の運動単位特性は、運動単位の空間的広がりである。空間的広がりの値の範囲は対照データ・セットから導き出されてもよい。この範囲は、例えば、対照データ・セットから導き出される空間的広がりから直接得た上限および下限であってもよく、あるいは、範囲は対照データ・セットから統計的に導き出されてもよく、その範囲は、対照データ・セットの運動単位の導き出された空間的広がりにおける任意の潜在的な不確定性または偏りに基づいて、許容差レベルを包含してもよい。運動単位候補は、その空間的広がりが対照データ・セットの解析によって設定される検証の空間的広がりの範囲と適応しない場合、確認された運動単位として検証されないことがある。あるいは、運動単位候補の空間的広がりと空間的広がりの検証範囲との適応レベルによって、要素1060におけるフィルタ処理中、運動単位候補に重み付けが加えられる。
【0056】
運動単位候補の特性と対照データ・セットの運動単位特性の少なくとも一部との比較による重み付けの組み合わせに基づいて、運動単位候補に検証全体の重み付けが与えられてもよい。検証全体の重み付けは、運動単位候補が確認された運動単位として検証されるかを決定するのに使用されてもよい。
【0057】
対照データ・セットから導き出され、要素1060および1062でフィルタ検証に使用される別の運動単位特性は、運動単位候補のピクセルの空間的接続性であってもよい。例えば、運動単位候補は複数の時系列画像において検出されてもよい。対照データ・セットから、異なるときに、複数の別個の刺激イベントにわたって所与の運動単位を活性化させるのに刺激が加えられたとき、画像中の同じピクセルが信号減衰を示すこと、即ち、所与の運動単位が活性化されると、同じピクセルが常に信号減衰を示すことが分かる。あるいは、対照データ・セットに関して、同じ運動単位が繰り返し活性化されたときに減衰を示す、特定のピクセルにおける所与の分散レベルがあることが分かる。これらのピクセルの空間特性は、運動単位候補のピクセルの空間的接続性が、複数の時系列画像にわたってイメージングされた場合、対照データ・セットから導き出される空間的接続性特性と一致することを確保するため、要素1060および1062のフィルタ処理の間に使用されてもよい。上述したように、この空間的接続性の検討の結果、運動単位候補が検証されないか、あるいは運動単位候補に対する検証全体の重み付けに寄与してもよい。
【0058】
対照データ・セットから導き出され、要素1062でフィルタ検証に使用される別の運動単位特性は、運動単位候補のピクセルの時間的非接続性であってもよい。
【0059】
所与の筋肉を制御する複数の運動単位は、それらの影響領域が筋繊維にわたって重なり合ってもよい。したがって、隣接する運動単位が同時に自発的に活性化する場合、単一の運動単位候補がその筋肉領域のイメージング・データから分類されてもよく、単一の運動単位候補は2つ以上の活性化された運動単位からの影響範囲を包含する。
【0060】
外部電気刺激の大きさを増加させることによって、連続する運動単位を活性化することで得られる対照データ・セットから、運動単位は、筋肉領域のMRイメージングでは単一のシグナル・ボイドによって表されることが明白なことがある。また、運動神経疾患などの特定の神経疾患の作用は、運動単位の自発的活性化に対する本質的に不規則な作用であることが知られている。したがって、隣接する運動単位が再び同時に自発的に活性化する可能性は低い。対照データ・セット情報を既知の疾患特性と組み合わせ、所与のシグナル・ボイドに対する時系列全体の情報を解析することによって、運動単位候補は、時間的不連続性を使用して、複数の運動単位と関連付けられた複数の基本的なシグナル・ボイドに細分化されてもよい。1つの時系列画像で検出されたシグナル・ボイドから分類された任意の所与の運動単位候補は、不規則に同時に発火する少なくとも2つの隣接するシグナル・ボイドの複合であってもよいので、シグナル・ボイドの一部のみが画像の少なくとも1つの他の時系列で検出された場合、運動単位候補は、運動単位候補のシグナル・ボイドの最も小さい独立して検出される部分の範囲に基づいて、複数の運動単位候補に細分化されてもよい。このように、個々の確認された運動単位は、運動単位候補の個々のシグナル・ボイドを分離することによって、自発的に発火する運動単位群から分離されてもよい。時系列画像セット全体を使用して、個々の確認された運動単位を分離することで、運動単位数推定の確度が改善されてもよい。
【0061】
対照データ・セットから実験的に導き出された運動単位特性が、別の方法では予想されなかった性質を示す場合、擬陽性検出を防ぐことができるか、または確認された運動単位の数を増加させることができるので、対照データ・セットから導き出された運動単位特性を使用して運動単位候補をフィルタ処理することで、確認された運動単位を同定する確度が更に向上してもよい。更に、より多くの実験的に導き出された制約を対照データ・セットから検証手順に加えることによって、更なる擬陽性運動単位検証を排除することができるので、運動単位候補特性と対照データ・セットの運動単位特性との比較の組み合わせから、検証の重み付け全体を決定することで、運動単位検出の確度を更に改善してもよい。
【0062】
信号レベルを閾値化して生物学的予備知識を適用し、対照データを使用して特性を評価することによって同定される推定上の運動単位のフィルタ処理の結果、要素1050で未加工画像データから同定された推定上の運動単位が、要素1070で一連の最終的な運動単位に絞り込まれる。推定上の運動単位が1050で同定されると、同定されたものを比較し、運動単位の定義を訂正することができるフィードバック・ループがあってもよい。未加工画像が、場合によっては潜在的に進行した疾患状態などにおいて、多くの運動単位発火をまとめて取得するシナリオでは、複数の運動単位が全て同時に検出され、単一の運動単位として誤ってまとめて分類されることが想到される。時間に伴って真の運動単位が非同期的に発火する可能性を検討して、要素1062における同時性および時間的接続性を適用して、要素1070における最終的な運動単位を表す、1050で推定上の運動単位として同定された所与の低信号値ピクセル群の任意の適切な細分を同定することによって、要素1050における最初の運動単位の描写を再考してもよい。
【0063】
次に、要素1080で、シグナル・ボイドから運動単位の特性を決定するのにMR画像の処理によって調査される筋肉異常が、1つを超える筋肉領域を解析することによって、つまり2つ以上の異なる筋肉の描写に対する解析を繰り返すことによって、より効果的に調査され得るか否かが判定される。単一の筋肉の描写のみが必要な場合、単一の筋肉領域の最終的な一連の運動単位に関する解析データが、要素1092で、一連のグローバル患者サマリ特性に格納される。他方で、筋肉異常をより正確に検出するために2つ以上の筋肉の描写が必要な場合、プロセスは要素1080から1094に進んで、要素1070における最終的な運動単位の結果が、一連の筋肉ごとの患者サマリ特性として格納される。1092のグローバル患者サマリおよび1094の筋肉ごとの患者サマリの両方に関するサマリ特性の例は、決定された運動単位の数、運動単位の発火頻度、運動単位の形状、関連するシグナル・ボイドのピクセルに基づいた運動単位の周囲、および関連するシグナル・ボイドのピクセルに基づいた運動単位のサイズであってもよい。シーケンスが筋収縮に対する感度を有しないとき、また運動単位活性が起こることがあるが検出されないであろう場所において、MRIスキャンの持続時間を説明する、最終的な運動単位に対応するデータに対する統計的サンプリング補正が実施されてもよい。
【0064】
イメージングされた筋肉領域のこれらの性質は、運動神経疾患などの神経疾患の診断に使用されてもよい。例えば、運動神経疾患などの神経疾患の作用は、筋肉における不規則な線維束性れん縮の発生を増加させることがある。確認された運動単位発火頻度の解析は、患者におけるこの疾患特性の存在を同定する助けとなることがある。運動神経疾患はまた、運動単位が罹患すると、関連する筋繊維との接続が低下するように、運動単位の健康に悪影響を及ぼすことがあり、隣接する運動単位が筋繊維との新しい接続を確立してもよい。したがって、運動神経疾患などの神経疾患は、運動単位の数を低減し、残っている運動単位のサイズを増大する。運動単位の数およびサイズの解析によって疾患が示され、それが診断に使用されてもよい。筋電計測法(EMG)などの既存の診断技術と比較して、より高レベルのサンプリングの完全性および個々の運動単位のより精密な同定で、患者のより広い範囲を、例えば四肢全体をサンプリングすることができる機械可読命令を実行することによって、図10に示される技術を使用して運動単位解析の確度を向上させることができる。これはまた、従来のEMG技術よりも時間効率が良い。また、この技術により、EMGに必要なプローブの挿入など、運動単位の性質を決定するために患者に対して侵襲的処置を実施する必要がなくなる。
【0065】
機械可読命令の実行による、図10に示される技術によって提供されるサンプリング範囲の増加は、技術によって複数の筋肉タイプを画像の単一の時系列から解析することが可能になるので、後に続く診断の時間効率を大幅に向上してもよい。確認された運動単位を同定し、それらの運動単位の性質を決定する画像の処理は、続いて、運動神経疾患などの筋肉異常の診断に寄与することができる。
【0066】
図11は、外部電気刺激による腓骨神経刺激の際の前脛骨筋全体の運動単位活性を示す一連のMRIスキャン画像である。この画像の系列では、シグナル・ボイドは白色のピクセルによって表される。この画像の系列では、刺激電流を増加させると、また連続する新しい運動単位がそれぞれの活性化閾値に達すると、筋肉ピクセルが活性化する。個々の運動ニューロンは、筋肉全体に均等に広がる収縮を発生させるため、比較的広い範囲にわたって分布する多くの筋繊維に結合(接合)する。図11は、腓骨神経刺激の際の前脛骨筋領域全体のシグナル・ボイドの分布パターンを示している。刺激電流が増加するにつれて、シグナル・ボイドは拡大して、互いに組み合わされた筋肉の新しい範囲を包含して、連続する新しい運動単位がそれぞれの活性化閾値に達するのを反映するように見える。
【0067】
図12は、MRI画像の時系列を処理することによって検出されたシグナル・ボイドのパターンによって活性が明らかになった、筋肉が外部刺激を受けていない、または随意収縮していない患者の、筋肉異常を示す運動単位活性の空間パターンを概略的に示している。図12の右側の画像は、運動単位MRI画像の3分間の時系列にわたって検出された線維束性れん縮の総数を示している。画像中のシグナル・ボイドは、下腿のヒラメ筋内における運動単位活性の広範な開出(widespread patent)を示している。患者が線維束性れん縮の臨床的徴候を有さないのにもかかわらず、広範な運動単位活性が見出された。これは、MRI画像におけるシグナル・ボイドの解析が、運動神経疾患(即ち、同等にALS)などの疾患によって引き起こされる筋肉異常の早期検出につながり得ることを示す。
【0068】
図13は、MRI画像の時系列を処理することによって検出されるシグナル・ボイドのパターンによって明らかになる、図12のスキャンの対象であった同じ患者の随意筋収縮(背屈)中における運動単位活性を概略的に示している。この例では、運動単位活性は、被験者がつま先を上げている状態で収集されたMR画像の1分間の時系列から取得された。増加した運動単位活性を前脛骨筋に見ることができるが、図13に関して、ヒラメ筋の自発活性は減少している。
【0069】
上述したように、神経筋疾患は、運動単位(MU)の解剖学的形態の特性変化につながる場合がある。本発明の技術にしたがって、運動単位活性をイメージングする磁気共鳴による方策が開発されてきた。MUのスキャナ内電気刺激を、筋繊維の微細収縮に対する感度をもつパルス勾配スピン・エコー・イメージング・シーケンスに同期させた。実験データを、単純な理論的モデルと比較し、スキャン・パラメータを評価した。異なるMUによって神経支配された筋繊維の空間パターンを、健康な対照において初めてイメージングした。
【0070】
本明細書に記載する結果は、拡散イメージングを使用して運動単位活性を測定できることを実証している。データは、信号メカニズムが、スキャンの拡散に感度をもつ期間中の筋肉の単純な収縮であることと一致しており、50s・mm-2を超えるb値が追加の収縮をもたらさないことを示している。この方法は潜在的に、現在は他のいずれの手段によっても不可能な手法で、運動単位の分布を可視化することを可能にする。
【0071】
インボア電気刺激を使用して、本明細書に記載する実験結果は、運動単位活性の予期される全ての特性がMRスキャン画像のシグナル・ボイドに見られ、したがって、運動単位活性を非侵襲的に評価する方法として、拡散MRIを検証する助けとなることを示している。
【0072】
機能的単位が回路として説明されている本明細書では、回路は、特定の処理機能を実施するようにプログラム・コードによって構成された汎用プロセッサ回路であってもよい。回路はまた、処理ハードウェアを修正することによって構成されてもよい。特定の機能を実施する回路の構成は、完全にハードウェアの形か、完全にソフトウェアの形か、またはハードウェアの修正とソフトウェア実行の組み合わせを使用してもよい。プログラム命令は、処理機能を実施する汎用または専用プロセッサ回路の論理ゲートを構成するのに使用されてもよい。
【0073】
回路は、例えば、カスタムの超大規模集積(VLSI)回路またはゲート・アレイ、論理チップなどの市販の半導体、トランジスタ、または他の離散的構成要素を含むハードウェア回路として実現されてもよい。回路はまた、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プログラマブル・アレイ論理、プログラマブル論理デバイス、システム・オン・チップ(SoC)など、プログラマブル・ハードウェア・デバイスの形で実現されてもよい。
【0074】
機械可読プログラム命令は、伝送媒体などの一時的媒体で、または記憶媒体などの非一時的媒体で提供されてもよい。かかる機械可読命令(コンピュータ・プログラム・コード)は、高次の手続き型またはオブジェクト指向プログラミング言語で実現されてもよい。しかしながら、プログラムは、所望の場合、アセンブリまたは機械言語で実現されてもよい。いずれの場合も、言語は、コンパイル型またはインタープリタ型言語であってもよく、ハードウェア装置と組み合わされてもよい。プログラム命令は、単一のプロセッサで、または分散された形で2つ以上のプロセッサで実行されてもよい。
【0075】
説明の目的のため、「A/B」の形または「Aおよび/またはB」の形の語句は、(A)、(B)、または(AおよびB)を意味する。説明の目的のため、「A、B、およびCのうち少なくとも1つ」の形の語句は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)、または(A、B、およびC)を意味する。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13