(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】電極材料、並びにこれを使用した電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240209BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240209BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240209BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240209BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240209BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023039069
(22)【出願日】2023-03-13
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/000286
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(31)【優先権主張番号】P 2022039083
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】西泉 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】松田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161272(JP,A)
【文献】特開2020-064852(JP,A)
【文献】特開2019-204700(JP,A)
【文献】特開2018-181838(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0014443(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 4/92
H01M 4/90
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラスカーボンからなる炭素担体と、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電極触媒複合体とを含み、前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子と電子伝導性酸化物とを含み、前記電子伝導性酸化物は、
スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物であって、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料。
【請求項2】
前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有する請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である請求項1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である請求項1に記載の電極材料。
【請求項5】
前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる請求項1に記載の電極材料。
【請求項6】
前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、粒径1nm以上10nm以下の粒子である請求項1に記載の電極材料。
【請求項7】
前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物の一部又は全部が、結晶である請求項1に記載の電極材料。
【請求項8】
前記電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる粒子である請求項1に記載の電極材料。
【請求項9】
炭素担体と、前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を介して担持された電極触媒複合体とを含み、前記炭素担体は、メソポーラスカーボン又は粒子状の中実カーボンであり、
前記電子伝導性酸化物層が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物からなり、
前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子及び電子伝導性酸化物とからなり、前記電子伝導性酸化物は、
酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物であって、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料。
【請求項10】
前記電子伝導性酸化物層が、ニオブドープ酸化スズからなる請求項
9に記載の電極材料。
【請求項11】
前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる請求項9に記載の電極材料。
【請求項12】
前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、粒径1nm以上10nm以下の粒子である請求項9に記載の電極材料。
【請求項13】
前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる請求項
9に記載の電極材料。
【請求項14】
前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物の一部又は全部が、結晶である請求項9に記載の電極材料。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれかに記載の電極材料とプロトン伝導性電解質材料とを含むことを特徴とする電極。
【請求項16】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、請求項
15に記載の電極である膜電極接合体。
【請求項17】
請求項
16に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池の電極に好適な電極材料及びこれを使用した電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、これを動力源とする燃料電池自動車(FCV)が既に市販され、今後トラックやバス、船舶などへの用途拡大と普及展開が期待されている。PEFCは、一般的に、固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を配置させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly(MEA))を、ガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。燃料電池用電極(特にはPEFC用電極)は、一般に、電極触媒活性を有する電極材料及び高分子電解質からなる電極触媒層と、ガス通気性と電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層とから構成される。
【0003】
現在普及しているPEFC用電極材料として、炭素担体に電極触媒金属微粒子(典型的にはPt又はPt合金微粒子)を分散させて担持した電極材料が用いられている。
一方、PEFCの電解質膜は酸性(pH=0~3)であるため、PEFCの電極材料は酸性雰囲気下で使用されることになる。また、通常運転しているときのセル電圧は0.4~1.0Vであるが、起動停止時にはセル電圧が1.5Vまで上昇することが知られている。このようなPEFCの運転条件でのカソード及びアノードの状態は、カソードにおいては担体である炭素系材料が二酸化炭素(CO2)として分解する領域である。そのため、カソードでは、炭素担体が電気化学的に酸化されてCO2に分解する反応が起こり、結果として炭素担体が腐食されて(カーボン腐食)、触媒活性成分であるPt粒子の凝集・脱落等を引き起し、燃料電池の性能低下の要因となる。また、カソードだけでなく、アノードにおいても運転初期などに燃料ガスが不足すると、その部分での電圧低下、あるいは濃度分極が生じて局部的に通常と反対の電位となり、炭素の電気化学的酸化分解反応が起こることがある。
【0004】
上述した炭素担体の腐食の問題に対し、特許文献1において、PEFC作動条件(強酸性、高電位)で熱力学的に安定な電子伝導性酸化物である酸化チタン(TiO2)を担体として利用した電極材料が報告されている。この電極材料は、酸化チタン担体に起因する電気抵抗を低減させるために、繊維状炭素材料表面上に微粒子状の酸化チタン担体を高分散に担持し、当該粒子状の酸化チタン担体に電極触媒金属微粒子が選択的に担持された構造を有している。
【0005】
また、特許文献2において、原料として疎水性のアセチルアセトナート化合物を使用し、Ptと電子伝導性酸化物(TiO2)を同時に生成させることによって、PtとTiO2それぞれの粒成長を抑制し、ナノオーダーの微粒子のコンポジットからなる電極触媒複合体を生成し、これを炭素担体に担持した燃料電池用電極材料が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6624711号公報
【文献】特開2020-161272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の電極材料において、炭素担体に担持された電極触媒複合体を構成するTiO2は、PEFCの運転条件での耐久性に優れる一方、電子伝導性がそれほど高くないため、TiO2を含む電極触媒複合体は電子伝導性が不十分となり、実用的な電極性能を得るためには改善の余地があった。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、電極触媒金属の凝集による肥大化が抑制され、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性と、炭素材料に起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料、及びこれを利用した応用技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 炭素担体と、前記炭素担体に担持された電極触媒複合体とを含み、
前記電極触媒複合体は、電極触媒金属及び電子伝導性酸化物とからなり、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒金属の間を埋めるように存在する電極材料。
<2> 前記炭素担体が、メソポーラスカーボンであって、
前記電極触媒複合体の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に存在する<1>に記載の電極材料。
<3> 前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である<2>に記載の電極材料。
<4> 前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔同士が連通した構造を有する<2>または<3>に記載の電極材料。
<5> 前記電極触媒金属が、PtまたはPtを含む合金からなる<1>から<4>のいずれかに記載の電極材料。
<6> 前記電極触媒複合体を構成する電極触媒金属が、粒径1nm以上10nm以下の粒子である<1>から<5>のいずれかに記載の電極材料。
<7> 電子伝導性酸化物がSn酸化物である<1>から<6>のいずれかに記載の電極材料。
<8> 前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物の一部又は全部が、結晶である<1>から<7>のいずれかに記載の電極材料。
<9> 前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を有する<1>に記載の電極材料。
<10> 前記炭素担体が、粒子状の中実カーボンであり、前記電極触媒複合体は、前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を介して担持されている請求項9に記載の電極材料。
<11> 前記電子伝導性酸化物層が、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物からなる<9>または<10>に記載の電極材料。
<12> <1>から<11>のいずれかに記載の電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含む電極。
<13> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、<12>に記載の電極である膜電極接合体。
<14> <13>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
【0011】
<1A> メソポーラスカーボンからなる炭素担体と、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電極触媒複合体とを含み、前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子と電子伝導性酸化物とを含み、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料。
<2A> 前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有する<1A>に記載の電極材料。
<3A> 前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である<1A>または<2A>に記載の電極材料。
<4A> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1A>から<3A>のいずれかに記載の電極材料。
<5A> 前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる<1A>から<4A>のいずれかに記載の電極材料。
<6A> 前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、粒径1nm以上10nm以下の粒子である<1A>から<5A>のいずれかに記載の電極材料。
<7A> 前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物の一部又は全部が、結晶である<1A>から<6A>に記載の電極材料。
<8A> 前記電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる粒子である<1A>から<7A>のいずれかに記載の電極材料。
<9A> <1A>から<8A>のいずれかに記載の電極材料とプロトン伝導性電解質材料とを含むことを特徴とする電極。
<10A> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、<9A>に記載の電極である膜電極接合体。
<11A> <10A>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
<12A> <1A>に記載の電極材料の製造方法であって、以下の工程(1A)~(2A)を含む製造方法。
工程(1A):炭素担体であるメソポーラスカーボンを疎水性有機溶媒に分散させた分散液に、電極触媒金属前駆体のアセチルアセトナート化合物と、電子伝導性酸化物前駆体のアセチルアセトナート化合物とを溶解させ、撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、前記メソポーラスカーボンに、電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持されたメソポーラスカーボンを得る工程
工程(2A):工程(1A)で得られた電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持されたメソポーラスカーボンを、不活性ガス雰囲気で熱処理することによって、電極触媒複合体を形成する工程
【0012】
<1B> 炭素担体と、前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を介して担持された電極触媒複合体とを含み、前記炭素担体は、メソポーラスカーボン又は粒子状の中実カーボンであり、
前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子及び電子伝導性酸化物とからなり、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料。
<2B> 前記電子伝導性酸化物層が、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物からなる<1B>に記載の電極材料。
<3B> 前記電子伝導性酸化物層が、ニオブドープ酸化スズからなる<2B>に記載の電極材料。
<4B> 前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる<1B>から<3B>のいずれかに記載の電極材料。
<5B> 前記電極触媒複合体を構成する電極触媒粒子が、粒径1nm以上10nm以下の粒子である<1B>から<4B>のいずれかに記載の電極材料。
<6B> 前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1B>から<5B>のいずれかに記載の電極材料。
<7B> 前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる<6B>に記載の電極材料。
<8B> 前記電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物の一部又は全部が、結晶である<1B>から<7B>のいずれかに記載の電極材料。
<9B> <1B>から<8B>のいずれかに記載の電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含む電極。
<10B> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、<9B>に記載の電極である膜電極接合体。
<11B> <10B>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
<12B> <1B>に記載の電極材料の製造方法であって、以下の工程(1B)~(3B)を含む製造方法。
工程(1B):炭素担体に電子伝導性酸化物層を形成する工程
工程(2B):工程(1B)で得られた電子伝導性酸化物層を形成した炭素担体を疎水性有機溶媒に、分散させた分散液に、電極触媒金属前駆体のアセチルアセトナート化合物と、電子伝導性酸化物前駆体のアセチルアセトナート化合物とを溶解させ、撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、前記電子伝導性酸化物層を形成した炭素担体に、電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持された炭素担体を得る工程
工程(3B):工程(2B)で得られた電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持された炭素担体を、不活性ガス雰囲気で熱処理することによって、電極触媒複合体を形成する工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極触媒金属の凝集による肥大化が抑制され、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性と、炭素担体に起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明の電極材料(第1の態様、炭素担体:メソポーラスカーボン(MC))の概念模式図であり、(b)は細孔近傍の拡大模式図である。
【
図2】(a)は本発明の電極材料の(第2の態様、炭素担体:中実カーボン粒子)の概念模式図であり、(b)は表面近傍の拡大模式図であり、(c)は細孔近傍の拡大模式図である。
【
図4】本発明の固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。
【
図5】実験例A1及び実験例A2の電極材料の作製手順のフローチャートである。
【
図6】実験例の電極材料作製時の熱処理条件である。
【
図7】実験例の電極材料のX線回折(XRD)パターンである(実験例A1:Pt-SnO
2/MC、実験例A2:Pt-SnO
2/CB(Vulcan))。
【
図8】実験例A2の電極材料(Pt-SnO
2/CB(Vulcan))の走査透過電子顕微鏡(STEM)像およびEDSマッピングである。
【
図9】実験例A2の電極材料の高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像である。
【
図10】実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)のSTEM像およびEDSマッピングである。
【
図11】実験例A1の電極材料のHAADF-STEM像である。
【
図12】実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)のSTEM像であり、(a)はMC表面(0nm)、(b)はメソ孔内部(-170nm)、(c)はメソ孔内部(-290nm)、(d)MC裏面(-414nm)である(括弧内はMC表面を0nmとした時の焦点距離)。
【
図13】実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)及び実験例A2の電極材料(Pt-SnO
2/CB(Vulcan))のサイクリックボルタモグラム(CV)である。
【
図14】実験例A1及び実験例A2の電極材料のリニアスイープボルタモグラム(LSV,1600rpm)である。
【
図15】起動停止サイクル試験の条件を示す図である。
【
図16】起動停止サイクル試験前後の実験例A1及び参考例1の電極材料のLSV(1600rpm)である(実験例A1:Pt-SnO
2/MC、参考例1:Pt/MC)。
【
図17】負荷変動サイクル試験の条件を示す図である。
【
図18】負荷変動サイクル試験前後の実験例A1及び参考例1の電極材料のLSV(1600rpm)である(実験例A1:Pt-SnO
2/MC、参考例1:Pt/MC)。
【
図19】実験例B1及びB2の電極材料(電極触媒未担持)の作製手順のフローチャートである。
【
図20】実験例の電極材料のXRDパターンである(実験例B1:Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/GCB、実験例B2:Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/CB(Vulcan))。
【
図21】実験例B1の電極材料(Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/GCB)の電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM)像である。
【
図22】実験例B2の電極材料(Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/CB(Vulcan))のFESEM像である。
【
図23】起動停止サイクル試験における実験例B1及び参考例2の電極材料のECSA変化を示す図である(実験例B1:Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/GCB、参考例2:Pt/C(田中貴金属工業社製、TEC10E50E))。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0016】
(用語の定義等)
本明細書において、「炭素担体」とは電極材料の骨格(土台)となる多孔質炭素材料を意味する。
本明細書において、「細孔」とは、例えば径が150nm以下の孔(特に径が100nm以下の孔)を包含するものとする。「メソ孔領域の細孔」とは径が2nm~50nmの細孔を意味するものとする。また、本明細書において「マイクロ孔領域の細孔」とは径が2nm未満の細孔を意味し、「マクロ孔領域の細孔」とは径が50nm超150nm以下の細孔を意味するものとする。
【0017】
また、本明細書において、「M酸化物」(但し、Mは金属元素である)と記載した場合には、M酸化物の形態は、結晶に限定されず、結晶、非晶質、結晶と非晶質の混合体のいずれも含まれる概念とする。例えば、Sn酸化物は、SnO2結晶、酸素不定比の酸化物(「SnOx」と表記する)、及びこれらの混合物を含むものとする。
【0018】
また、本明細書において、固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0019】
<1.電極材料>
本発明は、炭素担体と、前記炭素担体に担持された電極触媒複合体とを含み、前記電極触媒複合体は、電極触媒金属及び電子伝導性酸化物とからなり、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒金属の間を埋めるように存在する電極材料(以下、「本発明の電極材料」と記載する場合がある。)に関する。
【0020】
本発明の電極材料の第1の態様では、前記炭素担体が、メソポーラスカーボンであって、前記電極触媒複合体の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に存在する。すなわち、本発明の電極材料の第1の態様は、メソポーラスカーボンからなる炭素担体と、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電極触媒複合体とを含み、前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子と電子伝導性酸化物とを含み、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料である。
【0021】
また、本発明の電極材料の第2の態様では、前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を有する。すなわち、本発明の電極材料の第2の態様は、炭素担体と、前記炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層を介して担持された電極触媒複合体とを含み、前記電極触媒複合体は、電極触媒粒子及び電子伝導性酸化物とからなり、前記電子伝導性酸化物は、前記電極触媒粒子の間を埋めるように存在する電極材料である。
本発明の電極材料の第2の態様における炭素担体は、粒子状の中実カーボンを好適に使用することができる。
【0022】
本発明の電極材料は、固体高分子形燃料電池用電極に用いる電極材料として好適であるが、これ以外の用途(例えば、固体高分子形水電解用電極)に使用することも可能である。
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の電極材料(第1の態様)の代表的な構成を示す概念模式図であり、
図1(b)は細孔近傍の拡大模式図である。
本発明の電極材料(第1の態様)は、炭素担体にメソポーラスカーボンを使用していることに特徴がある。
【0025】
図1(a)に示すように、本発明に係る電極材料1A(第1の態様)は、炭素担体2であるメソポーラスカーボンと、メソポーラスカーボン(細孔内表面2a及び細孔内外表面2b)に担持(固着)された電極触媒複合体3によって構成される。なお、
図1(a)に示す電極材料1Aは、外表面2bにも電極触媒複合体3を有しているが、電極触媒複合体3は、細孔内表面2aのみに存在していてもよい。
【0026】
すなわち、本発明の電極材料において、電極触媒複合体3はメソポーラスカーボンにおけるメソ孔領域の細孔内表面の一部または全部に担持されている。
【0027】
本発明の電極材料において、メソ孔領域の細孔の内部のみならず、メソ孔領域の細孔以外の細孔や外表面にも電極触媒複合体3が担持されていてもよい。
【0028】
電極触媒複合体3は、電極触媒金属3b(典型的には微粒子)と、当該電極触媒金属3bの間に存在する電子伝導性酸化物3aとからなる。このように電極触媒金属3bの間の間隙を埋めるように電子伝導性酸化物3aが存在することによって、電極触媒金属3bが凝集して肥大化することを抑制することができる。電極触媒複合体3は分散して炭素担体2(メソポーラスカーボン)に担持されており、炭素担体2(メソポーラスカーボン)の表面の一部は露出しているため、当該電極材料を用いて電極を構成した際に、炭素担体2が互いに接触して低抵抗の導電パスが形成され、電子伝導性に優れた電極となる。
【0029】
なお、
図1においては、電極触媒金属の間に存在する電子伝導性酸化物3aの形態は粒子であるが、電子伝導性酸化物3aの形態は電極触媒金属3bの間に存在するのであれば粒子に限定されず、不定形であってもよい。また、電子伝導性酸化物3aは、結晶であっても非晶質体であってもよいが、その一部が結晶であること(すなわち、結晶と非晶質の混合体)が好ましく、全部が結晶であることがより好ましい。
【0030】
図2(a)は本発明の電極材料(第2の態様)の代表的な構成を示す概念模式図であり、
図2(b)は表面近傍の拡大模式図であり、
図2(c)は細孔近傍の拡大模式図である。
【0031】
本発明の電極材料(第2の態様)は、炭素担体の表面に電子伝導性酸化物層2cを有することに特徴がある。なお、
図2(a)における炭素担体2Aは粒子状の中実カーボンを図示しているが、炭素担体はこれに限定されず、メソポーラスカーボンを表面(細孔外表面及び細孔内表面の一部又は全部)に電子伝導性酸化物層を有する炭素担体として使用することもできる。
【0032】
本発明の電極材料1B(第2の態様)は、表面に電子伝導性酸化物層を有する炭素担体2Aと、炭素担体2Aに担持された電極触媒複合体3とからなる。
電極触媒複合体3は電極触媒金属3b(典型的には微粒子)と、当該電極触媒金属3bの間に存在する電子伝導性酸化物3aとからなる(本発明の電極材料1A(第1の態様)の電極触媒複合体3と同じ)。
このように電極触媒金属3bの間の間隙を埋めるように電子伝導性酸化物3aが存在することによって、電極触媒金属3bが凝集して肥大化することを抑制することができる。
電極触媒複合体3は分散して電子伝導性酸化物層2cを介して炭素担体2Aに担持されている。当該電極材料を用いて電極を構成した際に、電子伝導性酸化物層2cを介して炭素担体2Aが互いに接触しても、電子伝導性酸化物層2cは薄層(例えば、1~10nm)であるため、低抵抗の導電パスが形成され、電子伝導性に優れた電極となる。
なお、
図2では電子伝導性酸化物層2cは、模式的に表示されており、炭素担体2Aの全面に形成されているが、一部のみに形成されていてもよい。また、
図2では電子伝導性酸化物層2cは炭素担体2Aの細孔外表面、細孔内表面の両方に形成されているが、細孔外表面のみであってもよいし、細孔内表面のみであってもよい。この場合、電子伝導性酸化物層2cを介さずに炭素担体2Aに担持されている電極触媒複合体3を含んでいてもよい。
【0033】
なお、
図2においては、電極触媒金属3bの間に存在する電子伝導性酸化物3aの形態は粒子であるが、電子伝導性酸化物3aの形態は電極触媒金属3bの間に存在するのであれば粒子に限定されず、不定形であってもよい。また、電子伝導性酸化物3aは、結晶であっても非晶質体であってもよいが、その一部が結晶であること(すなわち、結晶と非晶質の混合体)が好ましく、全部が結晶であることがより好ましい。
【0034】
本発明の電極材料では、電極の骨格としての役割を、炭素担体(電子伝導性酸化物層を有している場合も含む)が担うため、電極触媒複合体の粒径を小さくすることができる。そのため、本発明の電極材料を用いて形成した電極では、電極触媒複合体に含まれる電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗を低減できる。
【0035】
このように、本発明の電極材料は、電極触媒金属の間に存在する電子伝導性酸化物によって電極触媒金属の凝集が抑制され、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性を有し、かつ、炭素担体に起因する優れた電子伝導性を併せ持つ。そのため、当該電極材料で形成された電極は、優れた電極性能を示すと共に、耐久性が高く、長期間発電することができる。
【0036】
以下、本発明の電極材料の構成要素について詳細に説明する。なお、以下において、本発明の電極材料を固定高分子形燃料電池(PEFC)用電極に使用することを想定して説明するが、本発明の電極材料はこの用途に限定されない。
【0037】
なお、以下において、PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0038】
[炭素担体]
本発明の電極材料において、炭素担体は、本発明の電極材料に含まれ、電極を形成した際に電子伝導性を向上させる役割を有し、かつ、電極の骨格としての役割を有する。
【0039】
好適な炭素担体の第1の態様は、メソポーラスカーボンである。メソポーラスカーボンは、メソ孔領域の細孔を多数有する多孔質炭素である。
【0040】
なお、本明細書において、「細孔」とは、例えば径が150nm以下の孔(特に径が100nm以下の孔)を包含するものとする。「メソ孔領域の細孔」とは径が2nm~50nmの細孔を意味するものとする。また、本明細書において「マイクロ孔領域の細孔」とは径が2nm未満の細孔を意味し、「マクロ孔領域の細孔」とは径が50nm超150nm以下の細孔を意味するものとする。
【0041】
メソポーラスカーボンとして、メソ孔領域(2~50nm)の細孔を有する多孔質炭素が使用できるが、好適には細孔径3nm以上40nm以下である。この範囲であれば、細孔の内壁に、電子伝導性酸化物や電極触媒を固着(担持)した場合でも細孔内部への物質拡散が著しく阻害されることなく、スムーズに行われる。
【0042】
また、後述するように燃料電池用電極を作製するにあたり、本発明の電極材料と、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)とを混合するが、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)は、大きさ数十nmであるため、細孔径の小さいメソ孔内には浸入できないため、メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持された電極触媒金属に対するイオノマー由来の被毒を抑制することができる。
【0043】
本発明に係るメソポーラスカーボンは、メソ孔領域(2nm~50nm)の細孔以外の領域(マイクロ孔領域、マクロ細孔)を含んでいてもよいが、メソ孔領域の細孔の割合が多い方が好ましい。
【0044】
メソポーラスカーボンの細孔の構造(細孔径、形状等)は、電子顕微鏡で観察することにより確認できる。電子顕微鏡としては、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)が挙げられる。
【0045】
メソポーラスカーボンにおけるメソ孔領域の細孔は、他の細孔とは独立した単独孔の他、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有しており、三次元的な網目構造を有することが好ましい。連通孔の存在により、メソポーラスカーボンの細孔内部の物質の拡散が促進される。
【0046】
電極材料の大きさや形状は、その骨格材料であるメソポーラスカーボンの大きさや形状に依存する。メソポーラスカーボンの大きさや形状は、燃料電池用電極を形成したときに電極材料が連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を形成できる範囲で決定される。
【0047】
本発明の電極材料に使用されるメソポーラスカーボンは、適宜合成して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、MgOを鋳型とするメソポーラスカーボンである東洋炭素株式会社製のCNovelシリーズ(設計メソ孔径:5~150nm)が挙げられる。
【0048】
好適な炭素担体の第2の態様は、表面に電子伝導性酸化物層を有する炭素担体である。
【0049】
炭素担体(第2の態様)は、二次電池や燃料電池に使用される任意の炭素担体を使用することができる。その形状や大きさは、電極の使用目的等を考慮して適宜選択できるが、燃料電池用電極等のガス拡散電極用途では、電極を形成した際の電極内の電気伝導性とガス拡散性が求められる。そのため、電気伝導性とガス拡散性とを両立させるために、炭素担体が粒子状である場合には、粒径0.03~500μmであり、繊維状である場合、直径2nm~20μm、全長0.03~500μm程度であることが好適である。
【0050】
炭素担体(第2の態様)として、メソポーラスカーボンや粒子状の中実カーボンが好ましく使用される。メソポーラスカーボンは上述した通りであるため、説明を省略する。
粒子状の中実カーボンとして、カーボンブラック(Carbon Black, CB)や、これを黒鉛化(結晶化)した高黒鉛化カーボンブラック(Graphitized Carbon Black, GCB)を好適に使用できる。粒子状の中実カーボンは、二次粒子の粒径で0.03~500μm(一次粒子径10nm~100nm程度)であることが好ましい。
【0051】
中実カーボンは自作品、市販品のいずれでも使用できる。例えば、キャボット社の「Vulcan」シリーズ(品番:XC-72等)、キャボット社の「GCB」シリーズ(品番:GCB200等)や、東海カーボン社製の「トーカブラック」シリーズ(品番:トーカブラック#3800等)などが挙げられる。
【0052】
本発明で使用される炭素担体は、1種類でもよいし、または大きさ(粒径、繊維径及び繊維長さ)や結晶性等の異なる2種以上の炭素材料を任意の割合で使用してもよい。また、第1の態様及び第2の態様の炭素担体を混合して使用してもよい。
【0053】
炭素担体の表面の電子伝導性酸化物層としては、PEFCのカソード条件で安定な電子導電性酸化物であれよく、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。なお、本明細書において「主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた酸化物であって、母体酸化物が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
この中でも酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物が好ましく、より電子導電性を特に高めることができる点で、ニオブ(Nb)を0.1~20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズが特に好ましい。
【0054】
電子伝導性酸化物層の厚みは、電子伝導性酸化物の種類や量にもよるが、好適には1~10nmである。また、電子伝導性酸化物層は、炭素担体の表面の全部を被覆することが好ましいが、表面の一部を被覆していてもよい。
【0055】
[電極触媒複合体]
本発明に係る電極触媒複合体は、電極触媒金属及び電子伝導性酸化物を含み、電子伝導性酸化物は、電極触媒金属の間を埋めるように存在することに特徴がある。電極触媒複合体がこのような構成を有することにより、本発明の電極材料は、電極触媒金属の凝集による肥大化が抑制され、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性と、炭素担体に起因する優れた電子伝導性を併せ持つことができる。
【0056】
炭素担体に担持される電極触媒複合体の形態は、本発明の目的を損なわない限り、任意であり、例えば、粒子状、島状、膜状等が挙げられる。
電極を形成した際の導電性の観点からは、電極触媒複合体が粒子状であって、当該粒子状の電極触媒複合体が炭素担体表面を完全に被覆せずに、炭素担体の表面の一部が露出され、炭素担体と他の炭素担体とが接触の直接的な接触を阻害しない程度に分散して担持されていることが好ましい。
【0057】
電極触媒複合体の大きさは、「電極触媒複合体の大きさ」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の電極触媒複合体(20個)の大きさの平均値により得ることができる。電極触媒複合体の形状が球形以外の場合は、最大長を示す方向の長さを電極触媒複合体の大きさとする。
【0058】
電極触媒複合体の大きさは、炭素担体の表面に担持される場合、典型的には平均粒径10~500nmである。「電極触媒複合体の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の電極触媒複合体(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
【0059】
また、炭素担体がメソポーラスカーボンである場合には、電極触媒複合体の一部又は全部がメソポーラスカーボンの細孔内に存在していてもよい。この場合、電極触媒複合体の大きさは、メソポーラスカーボンの細孔の径より小さいことが必要であり、メソポーラスカーボンの細孔径(例えば、3~40nm)に対応して、2~30nmの大きさである。
【0060】
メソポーラスカーボンの細孔内の電極触媒複合体の割合は、電極触媒複合体の全数(細孔外及び細孔内の電極触媒複合体の合計)を100%としたときに、好適には50%以上、より好適には80%以上、さらに好適には90%以上(100%含む)である。
メソポーラスカーボンの細孔内の電極触媒複合体の個数は、高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)を使用して確認することができる。
【0061】
また、電極触媒複合体の担持量は、電極として十分な量の電極触媒金属が含まれるような範囲で適宜決定される。電極触媒金属の活性は、電極触媒金属の種類、結晶性、粒径等及び複合化させる電子伝導性酸化物の種類、結晶性、粒径等に依存するため、この点を考慮して電極触媒複合体の担持量が決定される。
電極触媒複合体の担持量は、例えば、炭素担体と電極触媒複合体の合計を100重量%としたときに、通常、5~50重量%であり、好ましくは10~40重量%である。
【0062】
以下、電極触媒複合体を構成する電極触媒金属及び電子伝導性酸化物について詳述する。
【0063】
(電極触媒金属)
電極触媒金属は、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよいが、好適には、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金から選択される。なお、「貴金属を含む合金」とは「上記の貴金属のみからなる合金」と、「上記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金で上記の貴金属を10質量%以上含む合金」を含む。貴金属と合金化させる上記「それ以外の金属」は、特に限定されないが、Co,Ni,W,Ta,Nb,Snを好適な例として挙げることができ、これらを1種類あるいは2種類以上使用してもよい。また、分相した状態で2種類以上の上記貴金属及び貴金属を含む合金を使用してもよい。
【0064】
電極触媒金属の中でも、Pt及びPtを含む合金は、固体高分子形燃料電池の作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いため、特に好適に使用することができる。
【0065】
電極触媒金属の形状は、特に制限されず公知の電極触媒金属と同様の形状のものが使用できる。電極触媒金属の形状は、典型的には粒子状であるが、ロッド状、ワイヤ状等の粒子状以外の形状であってもよい。また、電極触媒金属は結晶があることが好ましいが、結晶と非晶質の混合体であってもよい。
【0066】
電極触媒金属の大きさは、小さいほど電気化学反応が進行する有効表面積が増加するため、電気化学的触媒活性が高くなる傾向がある。しかし、その大きさが小さすぎると、電気化学的反応活性が低下する。従って、電極触媒金属の大きさは、平均粒径として、粒径1~10nmであることが好ましく、より好ましくは1.5~5nmである。
なお、本発明における「電極触媒金属の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒金属(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
すなわち、本発明の電極材料における電極触媒金属の好適な態様の一つは、前記電極触媒金属が、平均粒子径1~10nmの貴金属(好適にはPt及びPtを含む合金)からなる粒子である。
【0067】
電極触媒金属の量は、目的とする電極触媒活性と、複合化させる電子伝導性酸化物の種類や量を考慮して決定される。なお、電極触媒金属の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
【0068】
電極触媒活性の観点からは、電極材料の全重量に対して、好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは0.5~30質量%とすると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電極反応活性を得ることができる。
【0069】
電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物としては、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。
【0070】
この中でも酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物(Sn酸化物)が好ましい。
Sn酸化物は、酸化スズ(SnO2)を主体とする電子伝導性酸化物である。ここで、本発明において「酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物である酸化スズ(SnO2)のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた電子伝導性酸化物であって、母体酸化物である酸化スズ(SnO2)が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
【0071】
(電子伝導性酸化物)
電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物は、PEFCカソード条件で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つ。
電子伝導性酸化物の形態は、本発明の目的を損なわない限り、任意であり、例えば、粒子状、島状、膜状等が挙げられるが、粒子状であることが好ましい。また、電子伝導性酸化物は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよいが、より優れた電子伝導性を高めるためには、電子伝導性酸化物は結晶であることが好ましい。
【0072】
電極触媒複合体を構成する電子伝導性酸化物としては、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選択される1種の金属元素の酸化物を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。
【0073】
この中でも酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物(Sn酸化物)が好ましい。
Sn酸化物は、酸化スズ(SnO2)を主体とする電子伝導性酸化物である。ここで、本発明において「酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物である酸化スズ(SnO2)のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた電子伝導性酸化物であって、母体酸化物である酸化スズ(SnO2)が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
【0074】
ドープされる元素として、具体的には、Ti,Sb,Nb,Ta,W,In,V,Cr,Mn,Moなどが挙げられる(但し、母体酸化物と異なる元素である。)。ドープされる元素は、母体酸化物より価数が高い元素であり、上記ドープ種元素のうち、Sn以外の元素(例えば、Sb,Nb,Ta,W,In,V,Cr,Mn,Moなど)が選択される。この中でも、酸化スズの電子導電性を特に高めることができる点で、ニオブ(Nb)を0.1~20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズであってもよい。
【0075】
上述の通り、本発明における電極触媒複合体において、電子伝導性酸化物は電極触媒金属の間を埋めるように存在することによって、電極触媒金属の凝集を阻害するものであり、電子伝導性酸化物は、この目的を達成できるような形態で含まれていればよい。
電極触媒複合体における電子伝導性酸化物の割合は、電子伝導酸化物の種類や大きさ、結晶性、並びに複合化される電極触媒金属の種類、量や大きさに応じて適宜決定される。例えば、電極触媒金属がPt、電子伝導性酸化物がSn酸化物の場合では、Pt:Sn=0.1~10:1(モル比)である。
【0076】
なお、本発明の電極材料では、電子伝導性酸化物は、電極触媒複合体において電極触媒金属の間を充填させるものであり電子伝導性酸化物を小さくできるので、これに起因する電気抵抗を小さくできる。そのため、電子伝導性酸化物が結晶である場合のみならず、非晶質体であってもよい。但し、電気抵抗をより小さくするためには、電子伝導性酸化物の少なくとも一部は結晶であることが好ましく、全部が結晶であることが好ましい。
【0077】
[本発明の電極材料の製造方法]
上述した本発明の電極材料の製造方法は特に限定されず、電極材料を構成する炭素担体、電子伝導性酸化物、電極触媒金属の種類に応じて適宜好適な方法を選択すればよい。本発明の本発明の電極材料(第1の態様、第2の態様)の製造方法の好適な一例は、以下に説明する製造方法である。
【0078】
本発明の電極材料(第1の態様)の製造方法は、以下の工程(1A)~(2A)を含む
工程(1A):炭素担体であるメソポーラスカーボンを疎水性有機溶媒に分散させた分散液に、電極触媒金属前駆体のアセチルアセトナート化合物と、電子伝導性酸化物前駆体のアセチルアセトナート化合物とを溶解させ、撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、前記メソポーラスカーボンに、電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持されたメソポーラスカーボンを得る工程
工程(2A):工程(1A)で得られた電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持されたメソポーラスカーボンを、不活性ガス雰囲気で熱処理することによって、電極触媒複合体を形成する工程
【0079】
本発明の電極材料(第1の態様)の製造方法の具体的な一例は後述する実施例で説明する方法である。
【0080】
本発明の電極材料(第1の態様)の製造方法の特徴は、工程(1A)において、疎水性有機溶媒を使用し、電極触媒金属と電子伝導性酸化物の前駆体化合物としてそれぞれのアセチルアセトナート化合物を使用し、これを1ステップで炭素担体(メソポーラスカーボン)に担持することによって、電極触媒金属と電子伝導性酸化物とが複合化(ナノコンポジット化)した電極触媒複合体前駆体を得ることができる。また、アセチルアセトナート化合物は、電極触媒の性能低下の一因となる塩素や硫黄といった不純物を含まないという利点がある。
【0081】
工程(2A)では、工程(1A)で得られた電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持された炭素担体を、不活性ガス雰囲気で熱処理することによって、電極触媒複合体を形成する。
工程(2A)において、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気で熱処理することで電極触媒前駆体や電子伝導性酸化物前駆体とからなる電極触媒複合体前駆体が分解され、電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化し、電子伝導性酸化物の結晶性を高め、電子伝導性を向上させる。
【0082】
本発明の製造方法において、工程(2A)における熱処理温度は、使用する原料アセチルアセトナート化合物の分解温度を考慮して適宜決定される。この際に、熱処理を異なる温度で2段階に分けて行うことが好ましい。
電子伝導性酸化物が、Sn酸化物の場合には、熱処理温度は電極触媒がPtやPt合金の場合、通常、180~400℃、好適には200~250℃である。温度が低すぎると電極触媒となる金属の活性化が不十分となり、温度が高すぎると電極触媒金属が凝集し、有効反応表面積が小さくなりすぎる問題がある。
【0083】
また、工程(2A)において、水蒸気共存下で熱処理を行う工程を含むことが好ましい。水蒸気共存下(加湿雰囲気)における熱処理によって、電子伝導性酸化物前駆体が十分に分解・酸化されるため、電極性能が向上する傾向にある。
【0084】
本発明の電極材料(第2の態様)の製造方法は、以下の工程(1B)~(3B)を含む。
工程(1B):炭素担体に電子伝導性酸化物層を形成する工程、
工程(2B):工程(1B)で得られた電子伝導性酸化物層を形成した炭素担体を疎水性有機溶媒に、分散させた分散液に、電極触媒金属前駆体のアセチルアセトナート化合物と、電子伝導性酸化物前駆体のアセチルアセトナート化合物とを溶解させ、撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、前記電子伝導性酸化物層を形成した炭素担体に、電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持された炭素担体を得る工程
工程(3B):工程(2B)で得られた電極触媒金属前駆体と電子伝導性酸化物前駆体とが担持された炭素担体を、不活性ガス雰囲気で熱処理することによって、電極触媒複合体を形成する工程
【0085】
本発明の電極材料(第2の態様)の製造方法の具体的な一例は後述する実施例で説明する方法である。
【0086】
本発明の電極材料(第2の態様)の製造方法の特徴は、電極材料(第1の態様)における電極触媒複合体前駆体(複合化した電極触媒粒子及び電子伝導性酸化物)を担持(固着)させる炭素担体に、工程(1B)の通り予め電子伝導性酸化物層を形成していることにある。
【0087】
電子伝導性酸化物層を構成する電子伝導性酸化物は上述した通りであり、その前駆体化合物は目的とする電子伝導性酸化物層を得ることができれば制限はないが、例えば塩化物やアルコキシド化合物が挙げられる。
【0088】
工程(1B)では、炭素担体に電子伝導性酸化物層を形成する。好適な具体的を挙げると、当該炭素担体を溶媒(例えば、無水エタノール)に分散し、電子伝導性酸化物層の前駆体化合物を添加して攪拌しながら、アンモニア水を滴下する方法が挙げられる。
炭素担体としては、メソポーラスカーボンや粒子状の中実カーボンが好適な対象である。
【0089】
また、電子伝導性酸化物層の形成には、上述した電極材料(第1の態様)の製造方法における工程(1A),工程(2A)に準じて以下の工程(1―1B)、工程(1-2B)とすることもできる。
【0090】
工程(1―1B):炭素担体と電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させる工程
工程(1-2B):工程(1―1B)で得られた乾燥した電子伝導性酸化物前駆体を分解し、次いで熱処理を行うことで表面に電子伝導性酸化物層が形成さ多孔質複合担体を得る工程
【0091】
なお、工程(1―1B)、工程(1-2B)の条件は、工程(1A),工程(2A)と実質的に同じであるため、説明を省略する。
また、工程(1B)の後工程である、工程(2B)(炭素担体への電極触媒複合体前駆体の担持)及び工程(3B)(電極触媒複合体の形成)は、本発明の電極材料(第1の態様)の製造方法の工程(1A)及び工程(2A)と実質的に同じであるため、説明を割愛する。
【0092】
<2.電極>
本発明の電極は、上述の本発明の電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含む。本発明の電極において、本発明の電極材料が互いに接触して導電パスを形成している。
【0093】
以下に、本発明の電極材料を用いて形成した燃料電池用電極について説明する。具体的には、上述の電極材料をPEFCにおける電極として用いたケースについて説明する。なお、本発明の電極材料は、燃料電池用電極以外の電極(例えば、固体高分子形水電解装置用電極)としても使用することが可能である。
【0094】
この燃料電池用電極は、上述の電極材料のみから構成されていてもよいが、通常、燃料電池の電解質に使用されるプロトン伝導性電解質材料(以下、「プロトン伝導性電解質材料」、または単に「電解質材料」と記載する場合がある。)を含む。電極材料と共に燃料電池の電極に含まれる電解質材料は、燃料電池用電解質膜に使用される電解質材料と同じであってもよく、異なってもよい。燃料電池用電極と電解質膜の密着性を向上させる観点から、同じものを用いることが好ましい。
【0095】
PEFCの電極と電解質膜とに使用される電解質材料としては、プロトン伝導性電解質材料が挙げられる。このプロトン伝導性電解質材料は、ポリマー骨格の全部または一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質材料と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質材料に大別され、この両者を電解質材料として使用することができる。
【0096】
フッ素系電解質材料としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適な一例として挙げられる。
【0097】
炭化水素系電解質材料としては、具体的には、ポリスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールスルホン酸、ポリベンズイミダゾールホスホン酸、ポリイミドスルホン酸等のポリマーや、これらにアルキル基等の側鎖を有するポリマーが好適な一例として挙げられる。
【0098】
上記電極材料と電極材料と混合する電解質材料との質量比は、これらの材料を用いて形成される電極内の良好なプロトン伝導性を付与し、かつ電極内のガス拡散及び水蒸気の排出をスムーズに行えるように適宜決定すればよい。ただし、電極材料に混合する電解質材料の量が多すぎるとプロトン伝導性はよくなるが、ガスの拡散性は低下する。逆に混合する電解質材料の量が少なすぎるとガス拡散性はよくなるが、プロトン伝導性は低下する。そのため、上記電極材料に対する電解質材料の質量比率は、10~50質量%が好適な範囲である。この質量比率が10質量%より小さい場合は、プロトン伝導性を有する材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分なプロトン伝導性が確保できない。逆に50質量%より大きい場合は電極材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分な電子伝導性を有することができなくなる場合がある。さらには電極内部でのガス(酸素、水素、水蒸気)の拡散性が低下する場合がある。
【0099】
本発明の燃料電池用電極は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の電極材料やプロトン伝導性材料以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、上述の電極材料に含まれる炭素担体以外の導電材(以下、「他の導電材」と記載する。)を含んでいてもよい。他の導電材を含むことにより、電極材料をつなぐ導電パスが増加し、電極全体としての導電性が向上する場合がある。
【0100】
他の導電材としては、燃料電池用電極に使用される公知の導電材を使用することができる。典型的には炭素系の導電材であり、例えば、カーボンブラック、活性炭などの粒子状炭素(鎖状連結炭素粒子も含む)、カーボンファイバーやカーボンナノチューブ(CNT)等の繊維状炭素などが挙げられる。また、電極触媒金属を未担持のメソポーラスカーボンを他の導電材として使用することもできる。
【0101】
なお、本発明の電極材料を含む燃料電池用電極として、PEFC用電極について説明したが、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
なお、本発明の電極材料を含む燃料電池用電極は、酸素の還元、水素の酸化に対する優れた電気化学的触媒活性を有するため、カソード及びアノードとして使用することができる。特に、上記(反応2)で示される酸素の還元電気化学的触媒活性に優れ、燃料電池の運転条件で担体である導電性材料の電気化学的酸化分解が起こらないことから、特にカソードとして好適に使用することができる。
【0102】
また、本発明の燃料電池用電極は、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な固体高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
【0103】
<3.膜電極接合体(MEA)>
本発明の膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、上記本発明の燃料電池用電極であることを特徴とする。
【0104】
本発明の好適な実施形態として、本発明の電極材料を含む燃料電池用電極をカソードに使用した膜電極接合体について説明する。
図3は本発明の実施形態に係る膜電極接合体の断面構造を模式的に示したものである。
図3に示すように膜電極接合体10は、カソード4及びアノード5が固体高分子電解質膜6に対面して配置された構造を有する。
【0105】
カソード4は、電極触媒層4aとガス拡散層4bで構成される。
電極触媒層4aは、上述の通り、本発明の燃料電池用電極(電子伝導性酸化物:酸化スズを主体とする酸化物)を用いているため、詳細な説明は省略する。
【0106】
ガス拡散層4bとしては従来公知のガス拡散層を使用することができる。例えば、従来PEFCのガス拡散層として使用されている、100nm~90μm程度の細孔径分布を有する導電性の炭素系シート状部材が挙げられ、好適には撥水処理が施されたカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン不織布等を用いることができる。また、ステンレススチール等の炭素系材料以外のシート状部材でもよい。このようなガス拡散層4bの厚みは特に制限はないが、通常、50μm~1mm程度である。また、ガス拡散層4bは、その片面に平均粒径10~100nm程度の炭素微粒子の集合体及び撥水材からなるマイクロポーラス層を有していてもよい。
【0107】
アノード5は、電極触媒層5aとガス拡散層5bで構成される。アノード5としては、本発明の燃料電池用電極のほか、その他の公知のアノードも同様に使用できる。例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボンなどの炭素系材料からなる導電性担体の表面上に、触媒である貴金属粒子を担持した電極材料と、燃料電池の電解質材料との分散液を塗布・乾燥して製造された電極触媒層5aを、ガス拡散層5b上に形成した電極が挙げられる。アノード5のガス拡散層5bは、カソード4で説明したガス拡散層4bと同様のものが使用できる。
【0108】
固体高分子電解質膜6としては、プロトン伝導性を有し、化学的安定性及び熱的安定性を有するものであれば公知のPEFC用電解質膜を用いればよい。なお、
図3では厚みを強調して図示しているが、電気抵抗を小さくするため固体高分子電解質膜6の厚みは通常0.007~0.05mm程度である。
【0109】
固体高分子電解質膜6を構成する電解質材料としては、フッ素系電解質材料、炭化水素系電解質材料が挙げられる。特にフッ素系電解質材料で形成されている電解質膜が、耐熱性、化学的安定性などに優れているため好ましい。具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適例として挙げられる。
【0110】
以上、図面を参照して本発明のMEAの実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0111】
<4.固体高分子形燃料電池>
本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)は、本発明の膜電極接合体を備えてなり、通常、膜電極接合体をガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。
【0112】
図4は本発明の固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。
図4に示すように、固体高分子形燃料電池20においてアノード5には水素が供給され、(反応1)2H
2 → 4H
++4e
-によって、生成したプロトン(H
+)は固体高分子電解質膜6を介してカソード4に供給され、また、生成した電子は外部回路21を介してカソードへ供給され、(反応2)O
2+4H
++4e
-→2H
2Oによって、酸素と反応して水を生成する。
このアノードとカソードの電気化学反応によって両電極間に電位差を発生させる。本発明の固体高分子形燃料電池において、本発明の膜電極接合体以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、詳細な説明を省略する。
実際には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、メソポーラスカーボンを「MC」、カーボンブラックを「CB」、高黒鉛化カーボンブラックを「GCB」と記載する場合がある。
【0114】
使用した炭素担体、貴金属触媒前駆体、電子伝導性酸化物前駆体は以下の通りである。
<炭素担体>
(1)炭素担体1
炭素担体1として、下記メソポーラスカーボン(MC)(東洋炭素(株)製、「多孔質炭素CNovel MJ(4)010(グレード名)」)を使用した。
設計細孔径:10nm
比表面積:1100m2/g
全細孔容積:2.0mL/g
ミクロ孔容積:0.4mL/g
粒径:100mesh pass(粉砕して使用)
(2)炭素担体2
炭素担体2として、カーボンブラック(CB)(CABOT社製、「Vulcan XC-72」)を使用した。
(3)炭素担体3
炭素担体3として、高黒鉛化カーボンブラック(GCB)(CABOT社製、「GCB200」)を使用した。
<貴金属触媒前駆体>
貴金属触媒前駆体として、Ptアセチルアセトナート(Platinum(II) acetylacetonate,Sigma Aldrich)(以下、「Pt(acac)2」と記載する場合がある。)を使用した。
<電子伝導性酸化物前駆体>
(1)Sn酸化物前駆体(電極触媒複合体形成用)
Sn酸化物前駆体として、Snアセチルアセトナート(Tin(II) acetylacetonate,Sigma Aldrich)(以下、「Sn(acac)2」と記載する場合がある。)を使用した。
(2)電子伝導性酸化物層形成用前駆体
Sn原料化合物として、塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O、キシダ化学株式会社)、Nb原料化合物として、塩化ニオブ(NbCl5、富士フイルム和光純薬株式会社)を使用した。
【0115】
<実験例A>
A1.電極材料(第1の態様)の作製
図5に示すフローチャートのとおり、実験例A1,実験例A2の電極材料を製造した。
【0116】
「実験例A1:Pt-SnO2/MC」
工程(1)
まず、炭素担体1であるメソポーラスカーボン(MC)100mgを、ボールミルで、1μm程度の粒径になるまで粉砕を施した後、ナスフラスコに入れ、これにアセチルアセトン(30mL)を加え、超音波ホモジナイザーで撹拌し、MCの分散液を得た。
得られたMC分散液に、Pt(acac)2及びSn(acac)2を加えて十分に撹拌し溶解させた。
Pt前駆体(Pt(acac)2)とSn酸化物前駆体(Sn(acac)2)の仕込み量は、Pt-SnO2電極触媒複合体の電極材料全体に対する担持量として42wt%となるようにした。なお、当該仕込み量でPt:SnO2(体積比)=1:2である。
次いで、試料が入ったナスフラスコを減圧機能と回転機能が備わったロータリーエバポレータにセットし、溶媒が全て揮発するまで減圧しながら超音波撹拌を行い、粉末(Pt前駆体とSn酸化物前駆体とを含む電極触媒複合体前駆体を担持したMC)を得た。
【0117】
工程(2)
工程(1)で得られた粉末を、
図6に示す熱処理条件(N
2雰囲気下で、昇温速度1℃/分、210℃で3時間保持、240℃で3時間保持、3%加湿N
2雰囲気下で30分保持(電極触媒複合体の活性化処理))で熱処理を施すことによって実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)を得た。
【0118】
「実験例A2:Pt-SnO2/CB(Vulcan)」
工程(1)において、炭素担体1(MC)に代えて炭素担体2(CB(Vulcan))を使用し、Pt-SnO2電極触媒複合体の電極材料全体に対する担持量として32wt%にした以外は、上記実験例A1と同様にして、実験例A2の電極材料(Pt-SnO2/CB(Vulcan))を得た。
【0119】
表1に、実験例A1及び実験例A2の電極材料について、ICP測定、TG測定から算出したPt及びSnO2の実担持率および体積比を示す。
【0120】
【0121】
A2.物性評価
A2-1.X線回折(XRD)による解析
調製した各電極材料の結晶構造をXRDによって評価した。
図7に実験例A1及び実験例A2の電極材料のXRDパターンを示す。なお、2θが約27°のピークは炭素担体(MC,CB)に起因するピークである。
いずれの電極材料においても、Ptのピークが確認され、Ptが結晶として存在していることが認められた。また、PtSn合金の明確なピークは認められず、Ptのピークシフトも確認されなかったことから、PtとSnの合金化は起こっておらず、Sn酸化物前駆体は加湿窒素雰囲気での熱処理によってSnO
2まで十分に酸化されたと判断した。
一方、いずれの電極材料においても、SnO
2のピークが確認できなかったことから、Snは非常に微小なSnO
2結晶あるいは非晶質のSn酸化物(SnOx)として存在していると判断した。
【0122】
A2-2.微細構造評価
実験例A2の電極材料(Pt-SnO
2/CB(Vulcan))のSTEM像およびEDSマッピングを
図8、HAADF-STEM像を
図9に示す。
実験例A2の電極材料のSTEM像(
図8左上)及びHAADF-STEM像(
図9)から、炭素担体(CB(Vulcan))の表面にPt-SnO
2電極触媒複合体に担持されていることが確認された。
また、
図8のEDS分析及び
図9から、Pt-SnO
2電極触媒複合体は、粒径1~2nmのPt粒子の間に入り込むようにSn酸化物が分布し、PtとSn酸化物とのコンポジット構造を形成していることがわかる。このようにPt粒子の間にSn酸化物が入り込み、Sn酸化物がPt粒子の間を埋めるように存在することによって、Ptの粒成長が抑えられ、粒径1~2nm程度の微小なPt粒子が保持できていると判断した。
【0123】
また、上述の通り、XRD測定の結果(
図7)からはPtとSnの合金化は起こっていないことから、実験例A2の電極材料では、炭素担体(CB(Vulcan))に、PtとSnO
2のナノコンポジット構造を有する電極触媒複合体粒子が固着されていると判断した。
【0124】
実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)のSTEM像およびEDSマッピングを
図10、HAADF-STEM像を
図11に示す。
実験例A1の電極材料のSTEM像(
図10左上)及びHAADF-STEM像(
図11)から、炭素担体(MC)の表面に粒径1~2nmの粒子が高分散に担持されていることが確認された。
また、
図10のEDS分析及び
図11から、粒径1~2nmのPt粒子の間に入り込むようにSn酸化物が分布し、PtとSn酸化物とのコンポジット構造を形成していることがわかる。Pt粒子の間にSn酸化物が入り込むことでPtの粒成長が抑えられ、粒径1~2nm程度の微小なPt粒子が保持できていると判断した。
【0125】
また、上述の通り、XRD測定の結果(
図7)からはPtとSnの合金化は起こっていないことから、実験例A1の電極材料では、炭素担体(MC)に、PtとSnO
2のナノコンポジット構造を有する電極触媒複合体粒子が固着されていると判断した。
【0126】
さらに、MCのメソ孔内にPt-SnO
2電極触媒複合体を担持できているか確認するためSTEMによるさらなる観察を行った結果を
図12に示す。なお、
図12(a)~(d)において、括弧内はMC表面を0nmとした時の焦点距離である。
図12に示す通り、MCの表面(
図12(a))や裏面(
図12(d))だけでなく、内部に焦点を合わせた(
図12(b),(c))にもPt-SnO
2電極触媒複合体の粒子が確認された。すなわち、MC内部にもPt-SnO
2電極触媒複合体が担持されていると判断した。
また、
図12(a)~(d)におけるMC内部の粒子数およびMC外部の粒子数を数え、MC内部粒子の比率を算出したところ、55.3%となり、半分以上の粒子がメソ孔内に担持されていることが分かった。
【0127】
A3.電気化学的評価(ハーフセル)
A3-1.サイクリックボルタンメトリー(CV)の評価
実験例A1及び実験例A2の電極材料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)による評価を行った。CVから求めた水素吸着量から電気化学的表面積(ECSA)を算出した。なお、ECSAは、電極材料に含まれるPtの有効表面積に相当する。
【0128】
評価用の燃料電池電極は、以下の手順で作製した。
まず、超純水19mLと2-プロパノール6mLの混合溶液を、電極材料粉末の入ったサンプル瓶に加え、続けて5%Nafion分散液100μLを加えた後、氷水にサンプル瓶を浸した状態で超音波撹拌を30分間行って電極材料分散液とした。なお、電極材料粉末の量は、電極上に電極材料の分散液10μLを滴下した際に、電極上の単位面積当たりのPt質量が17.3μg-Pt・cm-2となるようにした。調製した電極材料分散液10μLを、マイクロピペットを用いてAuディスク電極上に滴下し、恒温器に入れて60℃で約15分間乾燥を行うことで、Nafion膜を形成させて電極材料をAu電極上に固定し、評価用の燃料電池電極(作用極)を得た。
【0129】
CVの測定条件は以下の通りである。なお、1原子のPtに付き1原子のHが吸着すると仮定すると210μC/cm2の電気量となる。
測定:三電極式セル(作用極:評価用の燃料電池電極、対極:Pt、参照極:Ag/AgCl)
電解液:0.1M HClO4(pH:約1)
測定電位範囲:0.05~1.2V(可逆水素電極基準)
走査速度 :50 mV/s
水素吸着量:0.05~0.4Vの水素吸着を示すピーク面積から算出
電気化学的表面積(ECSA):下記式より算出
ECSA=(水素吸着量)[μC] / 210[μC/cm2]
【0130】
図13に実験例A1及び実験例A2の電極材料のCVを示す。
図13の通り、実験例A1及び実験例A2の電極材料を使用した電極は、水素の吸脱着に由来するピーク(0.05~0.4V)が観察され、燃料電池用電極として機能することが確認された。
さらに、炭素担体にMCを使用した実験例A1の電極材料は、炭素担体にCB(Vulcan)を使用した実験例A2の電極材料と比較して、水素吸着量が多く、電気化学的有効表面積(ECSA)が大きいことが確認された(ECSA 実験例A1:48.0m
2/g、実験例A2:39.1m
2/g)。
【0131】
A3-2.酸素還元活性(ORR活性)の評価
実験例A1及び実験例A2の電極材料について、ORR活性を評価した。
ORR活性は、回転ディスク電極法(RDE法)でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行い、得られる活性化支配電流(ik)を基に算出するMass activity(単位Pt質量当たりの活性)を指標とした。
Mass activity = ik / 電極上のPt質量
活性化支配電流(ik)は、回転電極測定によって得られた電流-電位曲線について、任意の電位においてi-1とω-1/2でプロットして得られるKoutecky-Levichプロットを作成し、得られた直線を外挿することによって切片から求めた。
具体的な手順として、まず、O2を50mL/分で30分間バブリングした後、0.2VRHEから貴な方向に向けて10mV/sで1.20VRHEまで電位を走査し、測定を行った。なお、測定中は常にO2を50mL/分でパージした。なお、VRHEは可逆水素電極(RHE)基準の電位である。
【0132】
図14に実験例A1及び実験例A2の電極材料のリニアスイープボルタモグラム(1600rpm)を示す。
図14のORR測定で得られた実験例A1及び実験例A2の電極材料の0.9V
RHE時のMass activityは、実験例A1:62.3A/g_
Pt、実験例A2:44.9A/g_
Ptであった。
このように、実験例A2(Pt-SnO
2/CB(Vulcan))と比較して、実験例A1(Pt-SnO
2/MC)のMass activityが、若干大きいことから、炭素担体としてメソポーラスカーボンを用いることによって、Pt-SnO
2電極触媒複合体の活性向上に寄与しているものと考えられる。
【0133】
A3-3.起動停止サイクル試験
実験例A1の電極材料について燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)で起動停止サイクル試験を行った。起動停止サイクル試験は、カーボン腐食を促進させるサイクル試験であり、具体的には
図15に示す1.0~1.5V
RHEの短形波を、1サイクル当たり2秒印加することを繰り返し、サイクル試験後の電極触媒の劣化挙動をECSA変化として評価する。
【0134】
なお、対比のため、実験例A1の電極材料に準じる方法で、Sn酸化物を有さない参考例1の電極材料(Pt/MC)についても起動停止サイクル試験を行った。
【0135】
起動停止サイクル試験(6万サイクル)後のECSA保持率(初期値に対する相対値)は、参考例1の電極材料(Pt/MC)は、ほぼ0であったのに対し、実験例A1の電極材料(Pt-SnO2/MC)は11.6%であった。
【0136】
また、起動停止サイクル試験(6万サイクル)前後における実験例A1及び参考例1の電極材料のリニアスイープボルタモグラム(1600rpm)を
図16に示す。
図16のLSV曲線から、実験例A1の電極材料は、試験前後の酸素還元電位のネガティブシフトが参考例1の電極材料と比較してわずかに抑制されていることから、実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)は、参考例1の電極材料(Pt/MC)と比較して高い耐久性を有していることが分かった。
【0137】
A3-4.負荷変動サイクル試験
実験例A1及び参考例1の電極材料について、負荷変動サイクル耐久性試験を行った。負荷変動サイクル試験は、燃料電池実用化推進協議4会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)にて、負荷変動を模擬した電位サイクルを負荷することによって行った。
図17に示す負荷変動サイクルは,触媒自体の溶解・再析出などを伴う劣化を促進させるサイクルであり、0.6~1.0 V
RHEの短形波を用いて1サイクル当たり3秒ずつの6秒負荷することで実験を行い、負荷変動サイクル試験前後のECSA変化、LSV変化を測定した。
なお、上記FCCJが推奨するサイクル数は400,000サイクルであるが、ECSAの変化が顕著に表れたため、今回は100,000サイクル時点で試験を終了した。
【0138】
負荷変動サイクル試験後(10万サイクル)のECSA保持率は、参考例1の電極材料(Pt/MC)は22.1%、実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)は26.8%であった。
負荷変動サイクル試験前後(10万サイクル)における実験例A1及び参考例1の電極材料のLSV変化を
図18に示す。
図18のLSV曲線から、実験例A1の電極材料(Pt-SnO
2/MC)は、参考例1の電極材料(Pt/MC)と比較して酸素還元電位のネガティブシフトが抑制されており、活性の面では耐久性の向上を確認できた。
【0139】
<実験例B>
B1.電極材料(第2の態様)の作製
図19に示すフローチャートのとおり、実験例B1,実験例B2の電極材料(電極触媒未担持)を製造した。
【0140】
「実験例B1:Pt-SnO2/Sn(Nb)O2/GCB」
工程(1)
まず、炭素担体3であるGCBに無水エタノール580mLを加え、超音波ホモジナイザーで撹拌し、GCBの分散液を得た。得られたGCB分散液に、塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O、キシダ化学株式会社)、塩化ニオブ(NbCl5、富士フイルム和光純薬株式会社)を入れ、ホットスターラーを用いて50℃で撹拌しながらアンモニア水120mLをビュレットで5cc/minの速度で滴下した。全て滴下後に1時間撹拌し、ろ過、洗浄を計4回行った後、100℃で10時間乾燥させた。その後、回転機能付き還元炉で600℃で2時間の熱処理を行うことによって、実験例B1の粉末(電極触媒未担持、「Sn(Nb)O2/GCB」)を得た。なお、工程(1)において、Sn(Nb)O2担持率は75wt%(仕込み量)となるように調製した。
【0141】
工程(2)
工程(1)で得られた粉末を、
図5に示す熱処理条件(N
2雰囲気下で、昇温速度1℃/分、210℃で3時間保持、240℃で3時間保持、3%加湿N
2雰囲気下で30分保持(電極触媒複合体の活性化処理))で熱処理を施すことによって実験例B1の電極材料(Pt-SnO
2/Sn(Nb)O
2/GCB)を得た。
【0142】
「実験例B2:Pt-SnO2/Sn(Nb)O2/CB(Vulcan)」
実験例B1の電極材料の製造方法において、炭素担体3であるGCBに代えて、炭素担体3であるCB(Vulcan)に代え、熱処理温度を300℃に変更した以外は、実験例B1と同様にして実験例B2の電極材料(Pt-SnO2/Sn(Nb)O2/CB(Vulcan))を得た。
【0143】
表2に、実験例B1及び実験例B2の電極材料について、ICP測定、TG測定から算出したPt及びSnO2の実担持率および体積比を示す。
【0144】
【0145】
B2.物性評価
B2-1.X線回折(XRD)による解析
調製した各電極材料の結晶構造をXRDによって評価した。
図20に実験例B1及び2Bの電極材料のXRDパターンを示す。なお、2θが約27°のピークは炭素担体(GCB,CB)に起因するピークである。
また、Scherrer法により求めた実験例B1及び実験例B2の電極材料のSn(Nb)O
2の結晶子径をそれぞれ表3に示す。
【0146】
【0147】
実験例B1及び実験例B2のいずれの電極材料においてもSnO2の明確なピークを確認することができた。また、CB(Vulcan)を用いた実験例B2の電極材料は、GCBを用いた実験例B1の電極材料と比べてSnO2のピークが小さくなっており、表3の通り、平均結晶子径が小さくなっていることから、300℃の熱処理によって粒子径の小さなSn(Nb)O2粒子を担持することができたといえる。
【0148】
B2-2.微細構造評価
図21に実験例B1の電極材料、
図22に実験例B2の電極材料のFESEM像を示す。どちらの触媒においても,Pt粒子が高分散に担持されていることが確認できた。
GCBを使用した実験例B1の電極材料についてSTEM-EDS及びHAADF-STEMによって高分解能の観察を行ったところ(図示せず)、Pt、SnO
2のそれぞれの格子間距離が観察されたことから、PtとSnの合金化は起こっていないと判断した。
【0149】
B3.電気化学的評価(ハーフセル)
【0150】
B3-1.起動停止サイクル試験
実験例B1の電極材料について燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)で起動停止サイクル試験を行った。評価方法は、「A3-3.起動停止サイクル試験」で上述した通りであるので説明を省略する。
【0151】
サイクル試験前後のMass activityの変化を
図23に示す。また、比較として参考例2として、市販の白金担持カーボンブラック触媒(Pt/C、(田中貴金属工業社製、TEC10E50E)の結果も併せて示す。
図23の通り、Sn(Nb)O
2担体表面層を有する実験例B1の電極材料は、参考例2の電極材料より、起動停止サイクル耐久性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の電極材料によれば、優れた電極触媒活性、電子伝導性、ガス拡散性、及び優れた耐久性を有する燃料電池用電極を供することができ、自動車、電力、ガス、家電業界で使用される固体高分子形燃料電池の電極構成部材として有望である。特に、負荷変動が激しい燃料電池自動車向けに供されることが期待される。
【符号の説明】
【0153】
1A,1B 電極材料
2 炭素担体(メソポーラスカーボン)
2A 炭素担体(中実カーボン)
2a 細孔内表面
2b 細孔外表面
2c 電子伝導性酸化物層
3a 電子伝導性酸化物
3b 電極触媒金属
4 燃料電池用電極(カソード)
4a 電極触媒層(カソード)
4b ガス拡散層
5 燃料電池用電極(アノード)
5a 電極触媒層(アノード)
5b ガス拡散層
6 固体高分子電解質膜
10 膜電極接合体(MEA)
20 固体高分子形燃料電池
21 外部回路
P 細孔(メソ孔)