(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】生体組織保管用容器
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
A01N1/02
(21)【出願番号】P 2023552606
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021037015
(87)【国際公開番号】W WO2023058163
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-12-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517001217
【氏名又は名称】CoreTissue BioEngineering株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 慎一
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/041593(WO,A1)
【文献】特開2011-5043(JP,A)
【文献】特表2009-528856(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094370(WO,A1)
【文献】特開2003-267471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/02
C12M 1/00-3/10
B65D 77/00-77/40
A61L 27/00-27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を保管することに用いる内側容器と、
該内側容器を密封して収納する外側容器とからなり、
前記外側容器には、前記外側容器に収納された前記内側容器側に滅菌ガスを前記外側容器外から流入可能とするガス透過部を設け、又は、前記外側容器及び前記内側容器を放射線若しくは電子線が透過可能な材料で構成し、
前記内側容器は、上方を開口した有底であり、かつ、前記生体組織及び前記生体組織の固形状態を水和して湿潤する溶液を収容可能な容器と該開口を閉蓋する蓋部とからなり、
前記外側容器外から前記溶液を注入する注入針を前記外側容器と前記内側容器とを刺通可能としたことを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項2】
請求項1において、
前記内側容器の前記蓋部または前記容器に前記溶液を内部に注入可能とす
る注入口を設け、該注入口の位置に一致させた前記外側容器の位置に、前記溶液を注入する注入針で穿刺して該注入口を介して前記溶液を前記内側容器内に注入可能とする目印を設けることを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項3】
請求項2において、
前記内側容器の前記注入口の位置に一致させた前記外側容器の前記位置には、該注入針が刺通可能な栓が設けられていることを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項4】
請求項1~3において、
前記内側容器は、生体組織を前記容器内に原形を保持した状態で保持する手段を設け、かつ、前記外側容器外から前記内側容器内に注入した前記溶液により前記容器内に保持された前記生体組織を浸漬して水和可能とする位置に、前記溶液の注入口を前記容器または前記蓋部に設けたことを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項5】
請求項4において、
前記手段は、前記内側容器内に、前記内側容器の底部と該容器の開口を閉蓋する前記蓋部とに設けられた一対の挟持部を有し、
前記一対の挟持部は、前記生体組織を上下から挟持して保持することを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項6】
請求項5において、
前記挟持部が互いに対面する領域に、前記乾燥した固形状態の前記生体組織の断面形状に沿った凹部を設けて、該凹部に挿入した前記生体組織を前記挟持部が保持することを特徴とする生体組織保管用容器。
【請求項7】
請求項1~6において
該内側容器を可撓材料から形成し、前記蓋部が前記容器の開口を閉蓋したときに、該蓋部に開口に嵌り合う凸部を設け、前記容器の側壁を押圧して撓ませたとき前記凸部が前記容器内面を滑り上がり前記容器から離脱する構成とすることを特徴とする生体組織保管用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織、特に乾燥した固形状態を水和して湿潤させて使用される生体組織を保管することに用いる生体組織保管用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体由来成分等からなる組織(以下、「生体組織」と称する。)は、例えば、凍結乾燥した後に滅菌状態で保存され、使用時に再水和を行った後に用いられる。このような、生体組織については、例えば、心膜若しくは腱からなる生体組織を乾燥した後で滅菌する工程を含む処理方法において、オリゴ糖溶液を前記生体組織に含浸させた後、前記生体組織の乾燥工程を行ってから、温度を30℃程度としたエチレンオキサイドガスにより前記生体組織を滅菌する滅菌工程を行う生体組織の処理方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の生体組織は、エチレンオキサイドガス等の滅菌ガスや、放射線、電子線等の透過性電磁波等の滅菌手段で滅菌された状態で保管される。このために滅菌処理した生体組織を搬送可能とする容器が望まれている。
また、この種の生体組織のうち、凍結乾燥がされた後の生体組織は、水和させると軟化する。このため、特に、シート状の生体組織は、水和の際に外部から刺激や衝撃等が加わると、損傷したり、部分的に折りたたまれた状態になりうる。部分的に折りたたまれた状態で水和が行われると、生体組織に浸漬状態の偏りが生じるおそれがあり、また使用時には折りたたまれた部位を展開しなければならない。
【0005】
また、生体組織を偏りなく水和させるためには、均等に溶液に浸漬させる必要がある。しかし、生体組織の比重は、水とほぼ変わらないため、水和させる際に稀に浮くことがある。生体組織が浮いた状態で水和されると、浸漬の状態に隔たりが生じる問題がある。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、生体組織を滅菌した状態で搬送可能な生体組織の保管容器を提供することを目的とする。
さらに、原形を保持した状態で生体組織を保管することが可能な生体組織保管用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため本発明の生体組織保管用容器は、生体組織を保管することに用いる内側容器と、該内側容器を密封して収納する外側容器とからなり、前記外側容器には、前記外側容器に収納された前記内側容器側に滅菌ガスを前記外側容器外から流入可能とするガス透過部を設け、又は、前記外側容器及び前記内側容器を放射線若しくは電子線が透過可能な材料で構成し、前記内側容器は、上方を開口した有底であり、かつ、前記生体組織及び前記生体組織の固形状態を水和して湿潤する溶液を収容可能な容器と該開口を閉蓋する蓋部とからなり、前記外側容器外から前記溶液を注入する注入針を前記外側容器と前記内側容器とを刺通可能としたことを特徴とする。
【0008】
このような態様によれば、例えば、該生体組織保管用容器を減圧下に置いて、エチレンオキサイドガスのような滅菌ガスの雰囲気下に生体組織保管用容器を静置することにより、ガス透過部から滅菌ガスが外側容器の内部及び内側容器の内部に流入する。その結果内側容器の全体および生体組織に対して滅菌状態を維持できる。尚、外側容器及び内側容器を放射線又は電子線が透過可能な材料で構成することにより、当該放射線又は電子線を外側容器及び内側容器に照射することにより上記のガス透過部を設けずに内側容器の全体および生体組織に対して滅菌状態を維持することができる。
【0009】
また、例えば、溶液として生理食塩液を用いる場合、生理食塩液は、ソフトバッグ等に封入され、点滴等に用いられることができるようにチューブを介して注射針等の注入針と接続可能に保存されている。したがって、このような態様によれば、外側容器外から前記溶液を注入する注入針を前記外側容器と前記内側容器とを刺通するだけで、滅菌された生理食塩液のような溶液を、無菌状態を維持しつつ内側容器に注入することができる。その結果、内側容器への溶液の注入を容易に行うことが可能となる。したがって、生体組織保管用容器の無菌性を維持しつつ生体組織を水和することができる。その結果、例えば、清潔野以外の領域で生体組織に水和を行った場合であっても、無菌状態を維持しつつ水和を行うことができ、また、生体組織が十分に水和された後には、当該無菌状態を維持したまま清潔野に搬送することが可能となる。
【0010】
本発明は、前記内側容器の前記蓋部または前記容器に前記溶液を内部に注入可能とする注入口を設け、該注入口の位置に一致させた前記外側容器の位置に、前記溶液を注入する注入針で穿刺して該注入口を介して前記溶液を前記内側容器内に注入可能とする目印を設けることが好ましい。
【0011】
このような態様によれば、注入針を穿刺する位置の目印に穿刺するだけで注入口から溶液を注入することが可能となる。
【0012】
本発明は、前記内側容器の前記注入口の位置に一致させた前記外側容器の前記位置には、該注入針が刺通可能な栓が設けられていることが好ましい。
【0013】
このような態様によれば、栓に注入針を穿刺するだけで注入口から内側容器に溶液を注入することが可能となる。さらに、栓が、ゴムのような伸縮性のある素材である場合には、注入針を挿通した際に密閉状態を保ったまま溶液を注入でき、また注入針を抜去した後は、当該注入針が刺さった個所が閉塞される。したがって、注入針の挿通、抜去が行われても無菌性を維持することが可能となる。
【0014】
本発明は、前記内側容器は、生体組織を前記容器内に原形を保持した状態で保持する手段を設け、かつ、前記外側容器外から前記内側容器内に注入した前記溶液により前記容器内に保持された前記生体組織を浸漬して水和可能とする位置に、前記溶液の注入口を前記容器または前記蓋部に設けることが好ましい。
【0015】
このような態様によれば、溶液により前記内側容器内に保持された生体組織を浸漬して水和可能とする位置に、溶液の注入口を容器または蓋部に設けたので、保持する手段が生体組織を保持する位置よりも上方に液面が位置するように溶液を注ぐことが可能となる。また、生体組織を前記容器内に原形を保持した状態で保持する手段を有するため、生体組織が溶液に浸漬された際に浸漬状態の偏りを防止しつつ生体組織を保管することが可能となる。
【0016】
本発明において、前記手段は、前記内側容器内に、前記内側容器の底部と該容器の開口を閉蓋する前記蓋部とに設けられた一対の挟持部を有し、前記一対の挟持部は、前記生体組織を上下から挟持して保持することが好ましい。
【0017】
このような態様によれば、前記した一対の挟持部により前記生体組織を上下から挟持して保持することにより、該生体組織を安定して保管することができ、蓋部を内側容器から外すことにより、生体組織の保持を解除することができ、容易に生体組織を取り出すことが可能となる。
【0018】
本発明において、前記挟持部が互いに対面する領域に、前記乾燥した固形状態の前記生体組織の断面形状に沿った凹部を設けて、該凹部に挿入した前記生体組織を前記挟持部が保持することが好ましい。
【0019】
このような態様によれば、凹部に生体組織を挿入して保持するので、より安定して生体組織を保管することができる。
【0020】
本発明において、該内側容器を可撓材料から形成し、前記蓋部が前記容器の開口を閉蓋したときに、該蓋部に開口に嵌り合う凸部を設け、前記容器の側壁を押圧して撓ませたとき前記凸部が前記容器内面を滑り上がり前記容器から離脱する構成とすることが好ましい。
【0021】
蓋部を有する容器で生体組織を溶液に浸漬させた場合、浸漬が開始されてから所定時間経過後に、その蓋部を容器から外して生体組織が取り出される。このような態様によれば、医療従事者は、容器の側壁を押圧するだけで、蓋部をポップアップさせて容器から外すことができる。したがって、容器から生体組織を取り出す際の作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態としての生体組織保管用容器の分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態としての生体組織保管用容器の上面図である。
【
図5】
図1の内側容器に溶液が注入される態様を示す説明図である。
【
図6】生体組織保管用容器の内側容器に滅菌ガスが導入される態様を示す説明図である。
【
図7】生体組織保管用容器の内側容器に溶液が注入される態様を示す説明図である。
【
図8】変形例1に係る生体組織保管用容器の断面図である。
【
図9】変形例2に係る生体組織保管用容器の内側容器の断面図である。
【
図10】変形例3に係る生体組織保管用容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
図1に示されている本発明の一実施形態としての生体組織保管用容器100は
、内側容器10及び、内側容器10を密封して収納する外側容器20とからなる。
【0024】
内側容器10は、上方を開口した有底であり、かつ、溶液及び生体組織30を収容可能な容器11と、当該開口を閉蓋する蓋部12とからなる。内側容器10は、溶液に対して耐性(不溶)であれば特には限定されないが、可撓性材料で透明や半透明等の光を透過する素材であることが好ましい。可撓性材料としては、例えば、PET(Polyethylene Terephthalate)が好ましいが、LDPE(Low Density Polyethylene)、HDPE(High Density Polyethylene)、PVC(Polyvinyl Chloride)、PP(Polypropylene)、OPP(Oriented Polypropylene)、EVA(Ethylene Vinyl Acetate)、PS(Polystyrene)、NYL(Nylon)、ONY(Oriented Nylon)、PVDC(Polyvinylidene Chloride)、EVOH(Ethylene Vinyl Alcohol Copolymer)及びこれらの共重合体、混合物、積層物等の熱可塑性の樹脂材料が挙げられる。また、これらの熱可塑性材料に着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、ガラス繊維等の強化材等が含まれていても良い。また、内側容器10は、溶液を注入する注入針を刺通可能な材料から形成されてもよい。
【0025】
外側容器20は、上方を開口した有底であり、かつ内側容器10を収容可能に略直方体状に形成されている。外側容器20は、溶液に対して耐性(不溶)であれば特には限定されないが、透明や半透明等の光を透過する素材であることが好ましい。このような素材としては、例えば、PET(Polyethylene Terephthalate)が好ましいが、LDPE(Low Density Polyethylene)、HDPE(High Density Polyethylene)、PVC(Polyvinyl Chloride)、PP(Polypropylene)、OPP(Oriented Polypropylene)、EVA(Ethylene Vinyl Acetate)、PS(Polystyrene)、NYL(Nylon)、ONY(Oriented Nylon)、PVDC(Polyvinylidene Chloride)、EVOH(Ethylene Vinyl Alcohol Copolymer)及びこれらの共重合体、混合物、積層物等の熱可塑性の樹脂材料が挙げられる。また、外側容器20は、溶液を注入する注入針を刺通可能な材料から形成される。
【0026】
外側容器20の底部21は、内側容器10の底部13と嵌合可能に形成されている。本実施形態においては、内側容器10の底部13は、第1の突出部14に応じて凹状に形成されている。外側容器20の底部21は、内側容器10の底部13に嵌合可能に凸状に形成されている。
【0027】
外側容器20は、滅菌ガスを外側容器20外から流入可能とするガス透過部としての通気性シート22を有する。通気性シート22は、本実施形態においては、外側容器20の上部の開口を閉塞するように設けられている。なお、ガス透過部は部分的に設けてもよい。
【0028】
ガス透過部としての通気性シート22は、エチレンオキサイド等の滅菌ガスを透過可能な通気性を有する。通気性シート22は、このような通気性を有していれば特には限定されないが、例えば、滅菌紙、不織布等を用いることができる。尚、滅菌紙としては、例えば、デュポン社製のタイベック(登録商標)などが挙げられる。
【0029】
通気性シート22の中央には、注入針40を穿刺する位置の目印として栓23が設けられている。栓23の材質は、特には限定されないが、例えば、針を穿刺可能な弾性材料であることが好ましい。このような弾性材料としては特に限定されないが、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム、二トリルゴム、フッ素ゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、及びこれらの共重合体、混合物、積層物、発泡体等などが挙げられる。また、弾性材料には、加硫剤、加硫促進剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤等が含まれていても良い。尚、目印は、注入針40を穿刺する位置の指標であればよく、必ずしも栓23が設けられていなくてもよい。例えば、目印は、他の領域と識別可能に着色された領域であってもよい。
【0030】
注入針40は、溶液が流れることが可能な流路が形成されているものであれば特には限定されないが、例えば、注射針、吸上針、びん針、マイクロカニューレ、ノンコアリングニードル(ヒューバー針)等を用いることができる。これらの注入針40のうち、栓23の損傷を防止する観点から、ノンコアリングニードル(ヒューバー針)が用いられることが好ましく、樹脂製のびん針が用いられることがより好ましい。
【0031】
図2に示すように、内側容器10は、本実施形態においては、上面視で矩形状に形成されている。外側容器20は、上面視において内側容器10の周囲を囲むように内側容器10を収容可能である。具体的には、内側容器10は、その短手方向SDにおいて、内側容器10の外壁及び外側容器20の内壁の間に間隙33が形成されるように内側容器10が収容されている。
【0032】
図3に示すように、内側容器10は、乾燥した固形状態を水和して湿潤させて使用される生体組織30を保管することに用いることが可能な容器である。
【0033】
生体組織30は、例えば、ブタ、ウシ、ウマ等の動物、或いはヒトから採取され、凍結乾燥や真空乾燥等の乾燥処理が施されたものを使用することができる。このような生体組織の部位としては、細胞外にマトリックス構造を持った部位が使用でき、このような部位としては、例えば、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、心臓弁膜、角膜、羊膜、腸管、小腸粘膜下組織、その他コラーゲン含有組織が挙げられる。
【0034】
例えば、筋膜(心膜)は、シート状であり、縦横の大きさが10cm×10cmで、厚さが1~2mm程度のものが用いられることが多い。また、腱は、棒状又は、紐状であり、例えば、直径が7.5~8mm(乾燥状態:5~6mm)で、長さが長さ16cm程度のものが用いられることが多い。本実施形態においては、生体組織30として紐状の人工腱を用いた例を説明する。
【0035】
生体組織30の水和に用いられる溶液は、特には限定されないが、例えば、生理食塩液、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、エタノール等のアルコール溶液、血清等の生体液、及びこれらの混合物等が挙げられる。溶液には、本発明の目的を阻害しない範囲で添加物を添加することができる。このような添加物としては、例えば、抗生物質、保存料、等の薬剤、細胞または細胞 抽出物、抗炎症剤、プロテオグリカン、鎮痛剤、止血剤、上皮成長因子、線維芽細胞成長 因子、神経成長因子、ケラチン細胞成長因子、血小板由来成長因子、血管作動性小腸ペプチド、幹細胞因子、骨形成タンパク質、軟骨細胞成長因子等が挙げられる。
【0036】
容器11は、略直方体状に形成されている。容器11は、底部13から上方の開口に向かって突出して形成されている第1の突出部14を有する。第1の突出部14は、容器11の長手方向LDにおいて間隔を有するように一対設けられている。
【0037】
容器11の開口を囲むように縁部が形成されている。縁部は、上方に向かって環状に突出した第1の凸部16が形成されている。第1の凸部16は、その基部から先端に向かってその幅が漸次狭まるようにテーパー状に形成されている。
【0038】
蓋部12は、略矩形のプレート状に形成されている。蓋部12は、長手方向LDの中央において、その厚さ方向に貫通して形成されている注入口17を有する。言い換えれば、注入口17は、内側容器10内に保持された生体組織30を溶液により浸漬して水和可能とする位置に設けられている。また、注入口17は、内側容器10の内壁面及び底部によって囲まれた収容空間に対して滅菌ガスを導入することが可能である。
【0039】
蓋部12は、底部13に向かって突出して形成されている第2の突出部18を有する。第2の突出部18は、蓋部12の長手方向LDにおいて間隔を有し、かつ注入口17を挟むように一対設けられている。また、第2の突出部18は、内側容器10の長手方向LDにおいて、第1の突出部14と対面する位置に形成されている。第1の突出部14の凹部15は、第2の突出部18と対面する領域に設けられている。言い換えれば、凹部15は、一対の第2の突出部14,18が互いに対面する領域に設けられている。
【0040】
蓋部12の縁部には、上方に向かって環状に突出した第2の凸部19が形成されている。第2の凸部19は、第1の凸部16と嵌合可能に中空に形成されている。
【0041】
図4に示すように、第1の突出部14の各々は、容器11の短手方向SDにおいて互いに対向する内壁面に亘って形成されている。このように、互いに対向する内壁面に亘って第1の突出部14が形成されていることにより、容器11の短手方向SDに対する機械的強度を高めることが可能となる。
【0042】
第1の突出部14の各々の頂部中央には、底部13に向かって窪んで形成された凹部15を有する。凹部15は、生体組織30の断面形状の沿った形状に形成されている。本実施形態においては、生体組織30が棒状(円筒状)に形成されているため、凹部15は、半円の円弧状に形成されている。
【0043】
図5に示すように、内側容器10の第1の突出部
14と第2の突出部18とは、内側容器10の上下方向から生体組織30を挟持することができる。すなわち、第1の突出部
14と第2の突出部18とは、内側容器10の底部13と蓋部12とに設けられた一対の挟持部として機能する。言い換えれば、第1の突出部
14と第2の突出部18とは、生体組織30を上下から挟持して、生体組織30を内側容器10内に原形を保持した状態で保持する手段として機能する。
【0044】
注入口17は、当該手段が生体組織30を保持する位置よりも上方に設けられている。したがって、溶液の液面LSが生体組織30の保持位置よりも上方に位置するように溶液を注ぐことが可能となる。尚、内側容器10は、当該内側容器10における溶液の液面LSの位置が視認できる素材、例えば、透明や半透明等の光を透過する素材で形成されているとよい。
【0045】
溶液の液面LSを第2の突出部18よりも上方(生体組織30の保持位置よりも上方)となるように内側容器10に溶液を注入することにより、生体組織30の水和に必要な溶液の量を確保することが可能となる。また、溶液の液面LSが生体組織30の保持位置よりも上方になると、生体組織30が溶液に浮く可能性があるが、一対の突出部で生体組織30を上下方向から挟持することにより、生体組織30の浮遊を防止することができる。その結果、生体組織30の原形を保持し、かつ生体組織30を溶液中に位置した状態で保持することができるため、生体組織30を一様に溶液に浸漬させることが可能となる。
【0046】
また、医療従事者は、蓋部12を外すことにより、生体組織30の手段による保持を解除することが可能となるため、容易に生体組織30を内側容器10から取り出すことが可能となる。蓋部12の取り外しは、例えば、内側容器10の短手方向SD(図中の矢印)から両側壁が互いに近づくように押圧して撓ませることで、片手で蓋部12の取り外しを行うことができる。
【0047】
すなわち、内側容器10の両側壁が撓ませられると、第1の凸部16がテーパー状に形成されているため、蓋部12は、第2の凸部19の内面をスライドするように滑り上がり容器11から離脱する。
【0048】
図6に示すように、通気性シート22に設けられている栓23は、内側容器
10の蓋部12の注入口17の位置に一致させて設けられている。栓23は、その中央において厚さ方向に向かって窪んで形成された挿入孔23aを有する。挿入孔23aは、注入針40を挿通可能に、かつその径を注入針40と同等に形成するとよい。挿入孔23aは、注入口17に挿入される先端側において、当該挿入孔23aを閉塞する閉塞部23bを有する。したがって、栓23に注入針40を穿刺すると、注入針40が挿入孔23aにおいて保持される。これにより、栓23の挿入孔23aに注入針40が保持された状態で溶液を内側容器10に直接的に注入することが可能となる。すなわち、栓23は、外側容器20から内側容器10に向かって溶液が流れる流路の少なくとも一部を構成する。
【0049】
以上で説明した生体組織保管用容器100の用い方を説明する。
製造業者は、外側容器20の底部21に、内側容器10の底部13を嵌合させて、内側容器10を外側容器20に収納させる。
【0050】
このように、外側容器20と内側容器10とを、嵌合可能に形成することにより、生体組織保管用容器100を搬送させた際に内側容器10が不用意に動くことを防止することができる。その結果、生体組織30に不要な衝撃を与えることを防止することができる。
【0051】
製造業者は、内側容器10の容器11の凹部15に生体組織30を挿入するように入れ、蓋部12で開口を閉蓋することによって一対の突出部14,18で生体組織30を保持する。このように、凹部15に生体組織30に挿入することにより、生体組織30の保持を確実に行うことが可能となる。
【0052】
製造業者は、外側容器20に内側容器10を収容した後に、通気性シート22によって外側容器20の上部の開口を閉塞する。尚、通気性シート22の外側容器20への接着は、例えば、熱融着等によって行ことができる。
【0053】
製造業者は、エチレンオキサイドガス等の滅菌ガス雰囲気下に生体組織保管用容器100を静置し、滅菌処理を行う。具体的には、庫内に生体組織保管用容器100を静置し、庫内の温度を所定の温度に調温した後に真空減圧を行う。庫内が所定の減圧度に達した際に水蒸気及びエチレンオキサイドガス等の滅菌ガスを噴出して燻蒸する。
【0054】
図6において、一点鎖線で示されたエチレンオキサイド等の滅菌ガスは、真空状態において噴出されるため、庫内で拡散し、通気性シート22を通って外側容器20の内部に導入される。外側容器20の内部に導入された滅菌ガスは、下方に進行し、外側容器20の内壁面等及び、内側容器10の蓋部12の表面、容器11の外壁面等に接触する。
【0055】
次いで、滅菌ガスは、内側容器10の蓋部12の注入口17からその内部に進行する。内側容器10の内部に進行した滅菌ガスは、下方に進み、その内壁面等及び生体組織30の表面に接触する。このように、滅菌ガスと接触した外側容器20及び内側容器10の部位は、無菌状態(清潔状態)となって、生体組織30を保管できる。
【0056】
図7に示すように、医療従事者は、生体組織30を水和するときは、例えば、パウチ等の袋状の容器50に封入されている生理食塩液を溶液として用いることができる。このような容器50には、注入針40を穿刺可能な接続部材51が設けられている。
【0057】
したがって、チューブ60の両端に設けられている一方の注入針40を接続部材51に穿刺し、他方の注入針40を外側容器20の外から目印となる栓23に穿刺すると、容器50から溶液が流れ内側容器10に導かれる。医療従事者は、溶液の液面LSが生体組織30の保持位置よりも上方となるように溶液を内側容器10に注入する。医療従事者は、溶液の注入が終了すると、注入針40を栓23から抜き、生体組織保管容器100を静置して生体組織30を水和する。尚、外側容器20及び内側容器10は、内側容器10における溶液の液面LSの位置が視認できる素材、例えば、透明や半透明等の光を透過する素材で形成されているので、水位を確認することができる。
【0058】
また、例えば、溶液として生理食塩液を用いる場合、生理食塩液は、ソフトバッグ等に封入され、点滴等に用いられることができるようにチューブを介して注射針等の注入針と接続可能に保存されている。したがって、例えば、栓23に注入針を穿刺するだけで生理食塩液のような溶液を内側容器10に注入することができる。その結果、内側容器10への溶液の注入を容易に行うことが可能となる。したがって、生体組織保管用容器の無菌性を維持しつつ生体組織を水和することができる。
【0059】
生体組織30を溶液に浸漬させる時間(浸漬時間)は、その生体組織30に応じて適宜決定される。生体組織30の浸漬時間は、例えば、心膜等の筋膜等の場合、10分程度であり、腱の場合、3~8時間である。
【0060】
医療従事者は、生体組織保管用容器100において、上記の生体組織30に応じて決定される浸漬時間の経過後に、生体組織30の水和状態を目視によって確認する。医療従事者は、生体組織30の水和状態が適切でない場合、水和状態が適切な状態になるまで浸漬を継続する。尚、医療従事者は、内側容器10及び外側容器20が透明や半透明等の光を透過する素材である場合、通気性シート22及び蓋部12を開ける操作を行うことなく生体組織30の水和状態を確認することが可能となる。
【0061】
医療従事者は、生体組織30の水和状態が適切な場合、外側容器20から内側容器10を取り出す。例えば、医療従事者が清潔野以外の場所で水和を行った後に、清潔野に生体組織保管用容器100を運び入れることができる。このとき、内側容器10の外壁及び外側容器20の内壁の間に間隙33が形成されていることにより、清潔野の医療従事者は、間隙33に指を差し入れて内側容器10を取り出すことが可能となる。したがって、内側容器10の外側も滅菌状態を維持しつつ、清潔野に運び入れることができ、当該清潔野に清潔な状態(無菌的な状態)で内側容器10を配置することが可能となる。
【0062】
医療従事者は、内側容器10の蓋部12を容器11から外して生体組織30を取り出す。蓋部12の取り外しは、例えば、内側容器10の短手方向SDから両側壁が互いに近づくように押圧して撓ませることで、片手で蓋部12の取り外しを行うことができる。
【0063】
すなわち、内側容器10の両側壁が撓ませられると、第1の凸部16がテーパー状に形成されているため、蓋部12は、第2の凸部19の内面をスライドするように滑り上がり容器11から離脱する。尚、蓋部12の取り外しは、このような態様に限られず、例えば、第2の突出部18に応じて蓋部12の上面に設けられた一対の窪みを医療従事者がつまんで外してもよい。
【0064】
このように、滅菌ガスの雰囲気下で生体組織30を入れて、溶液を容器11に注入することにより、内側容器10の全体に対して滅菌状態を維持しつつ、生体組織30の水和を行うことができる。
【0065】
また、滅菌処理は、滅菌ガスとしてエチレンオキサイドを用いたが、滅菌性を有するガスであれば特には限定されず、例えば、オゾン、過酸化水素を用いることができる。また、滅菌処理は、滅菌ガスによる処理に限られず、例えば、外側容器20及び内側容器10をガンマ線等の放射線、電子線、X線等の透過性電磁波が透過可能な材料で構成し、当該透過性電磁波を外側容器20及び内側容器10に照射することにより行うことができる。このように、滅菌処理を滅菌ガスを用いずに行う場合、ガス透過部を設けずに実施することができる。
【0066】
[他の実施例1]
上記の実施例においては、注入口17を蓋部12に設けた。しかし、蓋部12は、内側容器10内に注入した溶液により内側容器10内に保持された生体組織30を浸漬して水和可能とする位置に注入口17が形成されていればよく、例えば、容器11の側壁の上方に形成されていてもよい。
【0067】
図8に示すように、内側容器10は、その側壁の上方側において、厚さ方向に貫通して形成されている注入口17’を有する。また、外側容器20の側壁において、内側容器10の注入口17’に対応する位置に、厚さ方向に貫通して形成されている開口
24を有している。また、注入針40を穿刺可能な栓70で開口24を閉塞するとよい。
【0068】
このような態様によれば、医療従事者は、溶液が封入されたパウチ状の容器50の接続部材51に、チューブ60の両端に設けられている一方の注入針40を穿刺し、他方の注入針40を栓70に穿刺することにより、生体組織30を水和することができる。
【0069】
[他の実施例2]
上述の実施例においての内側容器10は、2つの第1の突出部14と2つの第2の突出部18とによって、一対の挟持部を形成し、生体組織30を挟持した。しかし、生体組織30を保持する態様は、これには限られず、1つの第1の突出部14と1つの第2の突出部18とによって、一対の挟持部を形成してもよい。
【0070】
図9に示すように、第1の突出部14’は、容器11の底部13から上方に向かって延び、かつ長手方向LDに沿って延びた錐台状のものである。尚、凹部15は、第1の突出部14’の長手方向LDに亘って形成されている。
【0071】
また、第2の突出部18’は、蓋部12から底部13に向かって延び、かつ長手方向LDに沿って延びた錐台状のものである。
【0072】
このように、第1の突出部14’及び第2の突出部18’を設けた場合、第1の突出部14’に形成された凹部15に生体組織30を挿入し、内側容器10の蓋部12を閉じることによって、第1の突出部14’及び第2の突出部18’の間に生体組織30が配された状態で保持される。
【0073】
このように、生体組織30を保持する手段を設けることにより、生体組織30を内側容器10の長手方向LDに亘って支持することができ、保管時及び水和時において生体組織30が変形することを防止することができる。尚、このように生体組織30を保持することで、特に、血管等の柔軟性を有する管状の生体組織30に対して変形することを防止することができる。
【0074】
[他の実施例3]
上述の実施例においては、外側容器20は、内側容器10と嵌合可能であり、かつ収容可能に形成した。しかし、外側容器20は、内側容器10を収容可能なものであればこのような態様に限定されず、例えば、袋状に形成されたものであってもよい。
【0075】
図10に示すように、外側容器80は、通気性シート81及びシート状に形成された樹脂フィルム82を重ね合わせて(周縁を貼り合わせて)袋状に形成されている。樹脂フィルム82の略中央には、その厚さ方向に形成された開口83が形成されている。
【0076】
製造業者は、当該開口83と、注入口17と、の位置を合わせるように内側容器10を外側容器80に入れる。次いで、製造業者は、栓70によって開口83を閉塞し、かつ栓70を注入口17に挿入する。医療従事者は、栓70に注入針40を穿刺することで溶液を内側容器10に注入することができる。したがって、このように外側容器80を構成することにより、生体組織保管用容器100をシンプルな構成で提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
100‥生体組織保管用容器
10‥内側容器
11‥容器
12‥蓋部
14‥第1の突出部(挟持部)
17‥注入口
18‥第2の突出部(挟持部)
20‥外側容器
30‥生体組織