(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】延伸複合繊維、不織布及び延伸複合繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/06 20060101AFI20240209BHJP
D04H 1/544 20120101ALI20240209BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20240209BHJP
【FI】
D01F8/06
D04H1/544
D04H1/541
(21)【出願番号】P 2019068001
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】日下 聖士
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩太郎
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-152482(JP,A)
【文献】特開2005-060896(JP,A)
【文献】特開平07-054213(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012281(WO,A1)
【文献】特開平06-330444(JP,A)
【文献】特開2007-107143(JP,A)
【文献】特開2003-268622(JP,A)
【文献】特開2002-180330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造
の延伸複合繊維であって、
繊度が0.2~0.6dtexであり、
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分であり、
前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90であり、
単糸弾性率が70cN/dtex以上、
単糸強度が6cN/dtex以上、
120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維。
【請求項2】
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)が、0.3~1である請求項1に記載の延伸複合繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の延伸複合繊維を用いて形成された不織布。
【請求項4】
紡糸工程と延伸工程を連続して行うスピンドロー法により延伸複合繊維を製造する方法であって、
溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、
排気による冷却処理を行わず、前記紡糸工程から連続して、前記未延伸繊維を常圧蒸気中で延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維を得る延伸工程と、
を有する延伸複合繊維の製造方法。
【請求項5】
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)が、0.3~1である請求項4に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記延伸工程は、2~7倍の延伸倍率で前記未延伸繊維を延伸する請求項4又は5に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞘芯構造の延伸複合繊維、不織布及び延伸複合繊維の製造方法に関する。より詳しくは、繊度が0.6dtex以下の細繊度の延伸複合繊維及びその製造方法、並びにこの細繊度の延伸複合繊維を用いた不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
特性の異なる2種類のオレフィン系樹脂を用いて形成される鞘芯構造の複合繊維は、熱接着性を有し、耐薬品性にも優れることから、様々な分野で利用されている。このような鞘芯構造の複合繊維は、例えば、溶融紡糸により形成された鞘芯構造の未延伸繊維を延伸処理することにより製造することができる。
【0003】
一方、各種フィルター素材や電池用セパレータなどに用いられる機能性不織布には、薄膜でかつ機械的強度が高いことが求められる。薄膜で機械的強度が高い不織布を実現するためには、従来よりも原料繊維の繊度を細くすると共に、単糸強度を向上させる必要がある。延伸複合繊維の単糸強度及び弾性率を増加させる方法としては、一般に、延伸倍率の増加が挙げられるが、延伸倍率を増加させると、延伸時に糸切れが発生、延伸後の繊維の熱収縮率が増加することによる不織布加工性の低下及び加工後の不織布の外観劣化といった課題がある。
【0004】
そこで、従来、延伸倍率の増加以外の方法により、高強度で細繊度の延伸複合繊維を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1に記載の複合繊維では、芯材である結晶性プロピレン系重合体と鞘材であるオレフィン系重合体の重量平均分子量の比、鞘材や芯材のメルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)などを特定することにより、複合繊維の高強度化を図っている。
【0005】
また、特許文献2に記載の複合繊維の製造方法では、強度で細繊維の複合繊維を得るため、紡糸口金から吐出された芯材のメルトフローレートを特定すると共に、紡糸口金から吐出された芯材のメルトフローレートと紡糸口金から吐出される鞘材のメルトフローレートとの比(=芯材MFR/鞘材MFR)を特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-107143号公報
【文献】国際公開第2015/012281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不織布製造においては、厚さ、目付け、充填率、孔径及び強度などの目的とする特性に応じて、適した繊度の原料繊維が選択されて用いられている。その際、1つの原料繊維から不織布を製造してもよいが、微細な孔径と不織布強度などのように2つの特性を兼ね備える不織布を得るため、繊度が0.1dtex程度の極細繊維と、繊度が0.2~0.6dtex程度の細繊度繊維を混抄する場合がある。このような不織布の強度を向上させるためには、原料となる極細繊維及び細繊度繊維の両方について単糸強度及び弾性率などの物性を高める必要がある。しかしながら、前述した特許文献1に記載の技術は、繊度が1dtex前後の複合繊維を対象としたものであり、更に、得られる複合繊維は熱収縮率が10%以上と高い。
【0008】
一方、特許文献2に記載の製造方法では、単糸強度5cN/dtex以上、ヤング率50cN/dtex以上、120℃での熱収縮率8%以下の延伸複合繊維を得ることができるが、この技術は繊度が0.3dtex以下の極細複合繊維を対象としており、それよりも太い細繊度複合繊維についても同等の特性を得ることは困難である。また、単糸及び不織布のさらなる物性向上が望まれる中、従来技術にて開示されている方法で製造した延伸工程にて高倍率で延伸しても、単糸強度及び弾性率などの物性の更なる向上には限界がある。
【0009】
そこで、本発明は、繊度が0.6dtex以下で、熱収縮率が低く、単糸強度が高い延伸複合繊維、不織布及び延伸複合繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る延伸複合繊維は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の延伸複合繊維であって、繊度が0.2~0.6dtexであり、前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分であり、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90であり、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である。
この延伸複合繊維では、前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)が、例えば0.3~1となっている。
【0011】
本発明に係る不織布は、前述した延伸複合繊維を用いて形成されたものである。
【0012】
本発明に係る延伸複合繊維の製造方法は、紡糸工程と延伸工程を連続して行うスピンドロー法により延伸複合繊維を製造する方法であって、溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、排気による冷却処理を行わず、前記紡糸工程から連続して、前記未延伸繊維を常圧蒸気中で延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維を得る延伸工程とを有する。
この延伸複合繊維の製造方法では、前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)を、0.3~1の範囲にしてもよい。
また、前記延伸工程における前記未延伸繊維の延伸倍率は例えば2~7倍である。
【0013】
なお、本発明におけるメルトフローレートの値は、JIS K7210のA法に基づいて、温度:230℃、荷重:21.18Nの条件で測定した値であり、特に断りのない限り、以下の説明においても同様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊度が0.6dtex以下の延伸複合繊維について、熱収縮率を増加させることなく、単糸強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の延伸複合繊維の断面構造例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態の延伸複合繊維の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図2に示す各工程を連続して行う際の装置構成例を示す模式図である。
【
図4】A,Bは
図2に示す各工程を別々に行う際の装置構成を示す模式図であり、Aは紡糸工程、Bは延伸工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は本実施形態の延伸複合繊維の断面構造例を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態の延伸複合繊維は、芯部1とその周囲に形成された鞘部2とで構成される鞘芯複合繊維であり、その繊度は0.6dtex以下であり、好ましくは0.2~0.6dtexである。
【0017】
[芯部1]
芯部1は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とし、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレート(MFR)が10~30g/10分である樹脂(以下、芯材という。)で形成されている。芯材のMFRが10g/10分未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなりやすく、目的とする繊度の未延伸繊維を得ることが難しくなり、更に、未延伸繊維を高倍率で延伸すると、糸切れの発生頻度が増加する傾向がある。
【0018】
また、芯材のMFRが30g/10分を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなるため、未延伸繊維の配向結晶化度が低下し、延伸複合繊維の単糸強度や弾性率を十分に高めることができず、目的とする単糸物性が得られ難くなる。芯材のMFRは、15~25g/10分とすることが好ましく、この範囲にすることで未延伸繊維の繊度を低くしつつ、延伸複合繊維の強度を発現させることができる。
【0019】
芯材の主成分である結晶性プロピレン系重合体には、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、更にプロピレンブロック共重合体における各ホモ部又は共重合部がブテン-1などのα-オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体などを用いることができ、特に、延伸性、繊維物性及び熱収縮抑制の観点から、アイソタクチックポリプロピレンが好適である。これらの結晶性プロピレン系重合体は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、芯材には、核剤や酸化防止剤などの添加剤を、適度な割合で配合することができる。芯材に配合される添加剤は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂との関係において、共に溶融して親和するもの又は完全には溶融しないがその一部が樹脂となじみあうものが好ましい。
【0021】
[鞘部2]
鞘部2は、芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂(以下、鞘材という。)で形成されている。鞘材の主成分であるオレフィン系重合体には、例えば高密度・中密度・低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン-ブテン-1-ランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1ランダム共重合体、あるいは軟質ポリプロピレンなどの非結晶性プロピレン系重合体、ポリ4-メチルペンテン-1などを用いることができ、特に、繊維物性の点から高密度ポリエチレンが好適である。これらのオレフィン系重合体は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、鞘材には、核剤や酸化防止剤などの添加剤を、適度な割合で配合することができる。鞘材に配合される添加剤は、オレフィン系重合体を主成分とする樹脂との関係において、共に溶融して親和するもの又は完全には溶融しないがその一部が樹脂となじみあうものが好ましい。
【0023】
[鞘芯比率]
本実施形態の延伸複合繊維は、鞘芯比率、即ち、横断面(長さ方向に垂直な断面)における芯部1と鞘部2の面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である。横断面における芯部1の比率が50%未満の場合、延伸複合繊維の単糸強度や弾性率が不足し、更に熱収縮率も増加する。また、横断面における芯部1の比率が90%を超えると、熱融着に寄与する鞘材が不足し、不織布などの加工品の強度が低下する。また、横断面における芯部1の比率が高すぎると、延伸工程において延伸倍率が低下して糸切れが発生しやすくなる。
【0024】
[芯材MFR/鞘材MFR]
本実施形態の延伸複合繊維は、芯材(ペレット)の230℃、21.18N荷重におけるMFRと、鞘材(ペレット)の230℃、21.18N荷重におけるMFRとの比(芯材MFR/鞘材MFR)が0.3~1であることが好ましい。芯材MFR/鞘材MFRが0.3未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなりやすく、目的とする繊度の未延伸繊維を製造できないことがある。また、芯材MFR/鞘材MFRが1を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなり過ぎて、延伸複合繊維の単糸強度や弾性率が低下し、目的とする単糸物性が得られないことがある。
【0025】
[単糸弾性率]
本実施形態の延伸複合繊維は、単糸弾性率が70cN/dtex以上である。延伸複合繊維の単糸弾性率が70cN/dtex未満であると、薄膜の不織布に加工した際に不織布の機械的強度が不足し、破断や外観不良が起こりやすくなる。
【0026】
[製造方法]
次に、本実施形態の延伸複合繊維の製造方法について説明する。
図2は本実施形態の延伸複合繊維の製造方法を示すフローチャートであり、
図3は
図2に示す各工程を連続して行う際の装置構成例を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態の延伸複合繊維の製造方法では、溶融紡糸により鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程(ステップS1)と、未延伸繊維を延伸処理して延伸複合繊維を得る延伸工程(ステップS2)とを連続して行う。
【0027】
<紡糸工程S1>
紡糸工程S1では、繊度が4.0dtex以下、好ましくは0.35~4.0dtexで、鞘芯比率(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を溶融紡糸する。その際、芯材には、結晶性プロピレン系重合体を主成分とし、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分である樹脂を用い、鞘材には、芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を用いる。また、芯材MFR/鞘材MFRは、前述した理由から、0.3~1の範囲にすることが好ましい。
【0028】
(未延伸繊維)
未延伸繊維の鞘芯比率が延伸後の複合繊維の鞘芯比率となることから、未延伸繊維も延伸複合繊維と同様に、鞘材/芯材=50/50~10/90とする。また、未延伸繊維の繊度を4.0dtexよりも太くすると、延伸後の複合繊維の繊度を0.6dtex以下にするためには延伸倍率を高める必要があり、延伸時に糸切れが発生したり、延伸繊維の熱収縮率が悪化しやすくなるため、本実施形態の延伸複合繊維では未延伸繊維の繊度は4.0dtex以下とする。
【0029】
なお、本実施形態の延伸複合繊維において芯材として用いるMFR(230℃、試験荷重21.18N)が10~30g/10分の樹脂は、溶融樹脂にしたときに張力が高くなりやすいため、安定して繊度0.35dtex未満の未延伸繊維を紡糸することは難しい。このため、未延伸繊維の繊度は0.35~4.0dtexの範囲とすることが好ましい。
【0030】
<延伸工程S2>
延伸工程S2では、未延伸繊維を延伸処理して繊度が0.6dtex以下、好ましくは0.2~0.6dtexの延伸複合繊維を得る。その際、延伸倍率が2倍未満であると、得られる延伸複合繊維の単糸強度や弾性率が低下して、目的とする単糸物性が得られないことがある。また、延伸倍率が7倍を超えると、糸切れが発生する頻度が増加し、生産性が低下する虞がある。よって、延伸工程S2における延伸倍率は2~7倍とすることが好ましい。
【0031】
<直接紡糸延伸法>
本実施形態の延伸複合繊維は、前述した紡糸工程S1と延伸工程S2を連続して行う直接紡糸延伸法(スピンドロー法)により製造される。例えば、
図3に示す装置の場合、紡糸口金11から吐出された鞘芯構造の未延伸繊維10を、導入ローラー12を介して蒸気延伸槽13に導入して所定倍率で延伸した後、延伸後の複合繊維20を引き出しローラー14により引き出し、ワインダー15で巻き取る。
【0032】
二段延伸法などのように紡糸工程と延伸工程をそれぞれ別々に非連続で行う場合、繊度が細い未延伸繊維を高倍率で延伸することが難しく、また、延伸可能な倍率では目的とする強度及び弾性率の延伸複合繊維が得られない。これに対して、紡糸工程と延伸工程を連続して行う直接紡糸延伸法(スピンドロー法)は、未延伸繊維を安定的かつ速やかに延伸工程へ移行できるため、延伸切れしやすい細繊度の未延伸繊維であっても、均質で伸びやすい状態のまま延伸することができ、単糸物性の優れる延伸複合繊維が得られる。その結果、繊度が4.0dtex以下の未延伸繊維から、繊度が0.6dtex以下で、単糸強度及び単糸弾性率が高く、熱収縮率が低い延伸複合繊維を製造することが可能となる。
【0033】
前述した方法により製造された延伸複合繊維は、油剤処理や乾燥処理を経て、織布用として用いられる長繊維フィラメントの形態にすることができる。また、不織布用として用いられる形態とするために、延伸工程に引き続き油剤処理、捲縮加工処理及び乾燥処理を経て、ステープルファイバーにしてもよい。更に、油剤処理後に、乾燥処理を経て又は乾燥処理を経ずに短繊維に切断し、チョップドファイバーとすることもできる。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態の延伸複合繊維は、芯材のMFR、鞘芯比率及び単糸弾性率を特定の範囲にしているため、0.6dtex以下と細繊度であるにもかかわらず、単糸強度を6cN/dtex以上にすると共に、120℃におけるトウ熱収縮率を8%以下に抑制することができる。このように、本実施形態の延伸複合繊維は、高強度及び低熱収縮率であるため、各種不織布用途、電池セパレータ及びフィルターなどの用途に好適に用いることができる。そして、本実施形態の延伸複合繊維を用いて形成された薄膜不織布は、機械的強度が高く、加工時の熱収縮も抑えられるため、破断などの加工不良やや外観不良の発生もなくすことができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記の方法で実施例及び比較例の延伸複合繊維を作製し、その性能を評価した。
【0036】
[原料]
(1)芯材
A:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン「Y2005GP」
(MFR=20g/10分、Q値=4.7)
B:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン「Y2000GV」
(MFR=18g/10分、Q値=3.0)
C:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン「S119」
(MFR=60g/10分、Q値=2.8)
D:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン「S137L」
(MFR=30g/10分、Q値=3.2)
【0037】
(2)鞘材
a:京葉ポリエチレン株式会社製 高密度ポリエチレン「S6932」
(MFR=40g/10分、Q値=5.1)
b:旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン「J300」
(MFR=70g/10分、Q値=4.3)
【0038】
[評価・測定方法]
(1)繊度
未延伸繊維及び延伸複合繊維の繊度は、JIS L1015に準じて測定した。
【0039】
(2)MFR
芯材及び鞘材に用いた各材料ペレットについて、JIS K7210のA法により、試験温度230℃、試験荷重21.18Nの条件でMFRを測定した。
【0040】
(3)延伸複合繊維の単糸物性
JIS L1015に準じた方法で、延伸複合繊維の単糸強度及び弾性率を測定した。
【0041】
(4)延伸複合繊維のトウ物性
JIS L1015に準じた方法で、繊維束(トウ)の熱収縮率を測定した。その際、フィラメント数を12018本、熱処理温度は120℃、熱処理時間は10分間とした。
【0042】
<実施例1>
図3に示す装置を用いて、紡糸工程及び延伸工程を連続して行い、鞘芯構造の延伸複合繊維を作製した。
【0043】
(1)紡糸工程
芯材Aと鞘材aを用いて、溶融紡糸により、繊度が1.88dtexの鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯比率(鞘材/芯材)が35/65になるようにした。また、紡糸条件は、押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を180m/分とした。
【0044】
(2)延伸工程
前述した紡糸工程から連続して延伸工程を実施した。具体的には、紡糸工程で得た未延伸繊維10を、速度180m/分の導入ローラー12に導入し、延伸繊維引き出しローラー14の速度を増加させて、常圧蒸気100℃の蒸気延伸槽13にて延伸を行った。
【0045】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は910m/分であり、延伸倍率は5.10倍であった。また、この条件により製造された実施例1の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0046】
<実施例2>
芯材Aの代わりに芯材Bを用いたこと及び鞘芯比率(鞘材/芯材)を25/75にしたこと以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が1.72dTexの未延伸繊維を溶融紡糸し、その未延伸繊維を実施例1と同様の方法及び条件で延伸した。
【0047】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は841m/分であり、延伸倍率は4.67倍であった。また、この条件により製造された実施例2の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0048】
<実施例3>
鞘芯比率(鞘材/芯材)を50/50にしたこと以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が1.60dtexの未延伸繊維を溶融紡糸し、その未延伸繊維を実施例1と同様の方法・条件で延伸した。
【0049】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は781m/分であり、延伸倍率は4.34倍であった。また、この条件により製造された実施例3の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0050】
<実施例4>
芯材Aの代わりに芯材Dを用いたこと及び鞘芯比率(鞘材/芯材)を50/50にしたこと以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が0.80dTexの未延伸繊維を溶融紡糸し、その未延伸繊維を実施例1と同様の方法・条件で、延伸した。
【0051】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は781m/分であり、延伸倍率は4.34倍であった。また、この条件により製造された実施例4の延伸複合繊維の繊度は0.2dtexであった。
【0052】
<実施例5>
芯材Dと鞘材bを用いて、鞘芯比率(鞘材/芯材)を50/50にした以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が0.80dTexの未延伸繊維を溶融紡糸し、その未延伸繊維を実施例1と同様の方法・条件で延伸した。
【0053】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は781m/分であり、延伸倍率は4.34倍であった。また、この条件により製造された実施例5の延伸複合繊維の繊度は0.2dtexであった。
【0054】
<比較例1>
芯材Cと鞘材bを用いて、鞘芯比率(鞘材/芯材)を50/50にした以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が1.60dTexの未延伸繊維を溶融紡糸し、その未延伸繊維を実施例1と同様の方法・条件で未延伸繊維を延伸した。
【0055】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は781m/分であり、延伸倍率は4.34倍であった。また、この条件により製造された比較例1の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0056】
<比較例2>
鞘芯比率(鞘材/芯材)を60/40にしたこと以外は実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が1.60dtexの未延伸繊維を溶融紡糸し、この未延伸繊維を実施例1と同様の方法・条件で延伸した。
【0057】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー14の速度は781m/分であり、延伸倍率は4.34倍であった。また、この条件により製造された比較例2の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0058】
<比較例3>
図4A、Bに示す装置を用いて、紡糸工程及び延伸工程を非連続で行い、鞘芯構造の延伸複合繊維を作製した。
【0059】
(1)紡糸工程
図4Aに示す紡糸口金101と、ローラー102,103と、巻取装置104を備える溶融紡糸装置を用いて、比較例1と同様の条件で、繊度が2.95dtexの未延伸繊維110を溶融紡糸した。
【0060】
(2)延伸工程
図4Aに示す3台のローラー111,113,115の間に、温水で加熱する予備延伸槽112と加熱飽和水蒸気で加熱する本延伸槽115が配置された二段延伸装置を用いて未延伸繊維110を延伸し、延伸複合繊維120を得た。具体的には、紡糸工程で得た未延伸繊維110をまとめたトウ(繊維束)を、導入ローラー111の速度を10m/分、予備延伸送出しローラー113の速度を29m/分とし、予備延伸槽112において93℃の温水で予備延伸処理した。引き続き、延伸繊維引き出しローラー115の速度を増加させて、本延伸槽115において124℃の加圧飽和水蒸気中で本延伸を行い、得られた延伸複合繊維120をワインダー116で巻き取った。
【0061】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー113の速度は80m/分であり、延伸倍率は8.0倍であった。また、この条件により製造された比較例3の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0062】
<比較例4>
芯材Aと鞘材aを用いた以外は比較例3と同様の方法及び条件で、繊度が2.95dtexの未延伸繊維を溶融紡糸した。この未延伸繊維を、紡糸工程とは別工程で、比較例3と同様の方法・条件により延伸した。
【0063】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー113の速度は80m/分であり、延伸倍率は8.0倍であった。また、この条件により製造された比較例4の延伸複合繊維の繊度は0.4dtexであった。
【0064】
<比較例5>
目的繊度となるようにギアポンプ回転数を適宜調整した以外は、比較例4と同様の方法及び条件で、繊度が3.98dtexの未延伸繊維を溶融紡糸した。この未延伸繊維を、紡糸工程とは別工程で、比較例3と同様の方法・条件により延伸した。
【0065】
その結果、紡糸工程や延伸工程において糸切れが発生せず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー113の速度は54m/分であり、延伸倍率は5.4倍であった。また、この条件により製造された比較例4の延伸複合繊維の繊度は0.8dtexであった。
【0066】
<比較例6>
(1)紡糸工程
鞘芯比率を35/65にした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、繊度が1.88dtexの未延伸繊維を溶融紡糸した。
【0067】
(2)延伸工程
2台のローラー間に温水延伸槽が配置された延伸装置を用いて、紡糸工程とは別工程で未延伸繊維を延伸した。具体的には、紡糸工程で得た未延伸繊維をまとめたトウ(繊維束)を、温水延伸槽にて、導入ローラーの速度を10m/分、延伸繊維引き出しローラーの速度51m/分の条件で、93℃の温水で延伸処理した。
【0068】
その結果、延伸繊維引き出しローラーの速度が51m/分のときに延伸工程において糸切れが発生し、延伸倍率5.1倍の設定では延伸複合繊維を得ることは不可能であった。
【0069】
前述した方法で作製した実施例及び比較例の延伸複合繊維の評価結果を、下記表1,2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
上記表2に示すように、芯材にMFRが30g/10分を超える樹脂を用いた比較例1,3の延伸複合繊維は、単糸強度及び弾性率が低かった。また、鞘芯比率が鞘材/芯材=60/40で、芯材が少ない比較例2の延伸複合繊維は、単糸強度及び弾性率が低かった。紡糸工程と延伸工程を別工程で実施した比較例4の延伸複合繊維は、8倍と高倍率で延伸しているため、単糸強度及び弾性率を高めることはできたが、トウ熱収縮率も増加した。
【0073】
一方、紡糸工程と延伸工程を別工程で実施し、更に延伸倍率を5.4倍と低く設定した比較例5の延伸複合繊維は、トウ熱収縮率は増加しないが、単糸強度及び弾性率が低かった。また、延伸工程とは別工程で実施例1と同じ繊度の未延伸繊維を紡糸し、この未延伸繊維を、予備延伸を行わずに温水延伸のみ実施した比較例6は、必要な延伸倍率に到達する以前に延伸工程で糸切れしてしまい、評価用の繊維を製造することができなかった。
【0074】
これに対して、上記表1に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1~5の延伸複合繊維は、繊度が0.6dtex以下でも、120℃でのトウ熱収縮率が8%以下、単糸強度が6cN/dtex以上であった。
【0075】
以上の結果から、本発明によれば、繊度が0.6dtex以下の範囲で、熱収縮率が低く、単糸強度が高い延伸複合繊維が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
1 鞘部
2 芯部
10、110 未延伸繊維
11、101 紡糸口金
12、111 導入ローラー
13 延伸槽
14、115 延伸繊維引き出しローラー
15、116 ワインダー
20、120 延伸複合繊維
102、103 ローラー
104 巻取装置
112 予備延伸槽
113 予備延伸送出しローラー
114 本延伸槽