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特許7433031セメント組成物、及びセメント質硬化体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】セメント組成物、及びセメント質硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/02 20060101AFI20240209BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240209BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20240209BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240209BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240209BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B18/14 Z
C04B14/06 Z
C04B16/06 A
C04B24/26 E
C04B28/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019220899
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021088494
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人土木学会 令和元年度 土木学会全国大会 in 四国 第74回年次学術講演会 講演概要集、発行日:2019年8月1日 令和元年度 土木学会全国大会、開催日:2019年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】安田 瑛紀
(72)【発明者】
【氏名】小亀 大佑
(72)【発明者】
【氏名】河野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100909(JP,A)
【文献】特開2017-024968(JP,A)
【文献】特開2011-084458(JP,A)
【文献】特開2009-221053(JP,A)
【文献】低熱ポルトランドセメント ,太平洋セメント,全4頁,https://www.mys.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/low-heat_pc.pdf
【文献】技術資料 2.セメントの特徴,住友大阪セメント,表紙,P.4-5,https://www.soc.co.jp/sys/wp-content/themes/soc/assets/pdf/service/cement/document02/all_document.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.005~1.0mmでかつ長さが2~30mmの集束アラミド繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含み、
上記無機粉末は、石英粉末、火山灰、フライアッシュ、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、及びエメリー砂の粉砕物の中から選ばれる1種以上であり、
上記ポルトランドセメント中、ビーライトの割合が50.0~65.0質量%、アルミネート相(3CaO・Al)の割合が1.0~2.4質量%であり、
上記ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記ポルトランドセメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であるセメント組成物からなるセメント質硬化体を製造するための方法であって、
上記セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、
上記未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、上記型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、
上記硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、
上記加熱養生後の硬化体を、90~200℃で20時間以上、加熱(ただし、蒸気養生、温水養生及びオートクレーブ養生のいずれかによる加熱を除く。)して、上記セメント質硬化体を得る加熱乾燥工程、を含み、
上記セメント組成物からなるモルタル(最小粒径が1.2mmを超え、かつ、最大粒径が13mm以下の骨材Bを含まないもの)の硬化体であるセメント質硬化体は、圧縮強度が230N/mm以上でかつ曲げ強度が35N/mm以上であることを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
【請求項2】
上記集束アラミド繊維は、直径が0.1~0.5mmでかつ長さが5~25mmであるものである請求項1に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【請求項3】
上記常温養生工程と上記加熱養生工程の間に、上記硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含む請求項1又は2に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【請求項4】
上記加熱乾燥工程において、上記加熱養生後の硬化体を、90℃以上、150℃未満で30~60時間、加熱(ただし、蒸気養生、温水養生及びオートクレーブ養生のいずれかによる加熱を除く。)して、上記セメント質硬化体を得る請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及びセメント質硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、硬化前には良好な流動性を有し、かつ硬化後には高い圧縮強度を発現することのできるセメント組成物が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、セメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム、50%累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、上記セメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記セメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であることを特徴とするセメント組成物が記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、上記セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、上記未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、上記型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、上記硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、上記加熱養生後の硬化体を、150~200℃で24時間以上、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、上記セメント質硬化体を得る高温加熱工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法が記載されている。
さらに、特許文献1には、上記セメント組成物が、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる一種以上の繊維を、3体積%以下の割合で含むことができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-24968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海岸擁壁の補修パネル等、塩害が発生しうる環境下で用いられるセメント組成物は、耐腐食性に優れた材料を用いたものであることが望ましい。
本発明の目的は、硬化前には優れた流動性を有し、硬化後には大きな強度(圧縮強度及び曲げ強度)を発現することができ、かつ、耐腐食性に優れたセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント質硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の鉱物組成を有するポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.005~1.0mmでかつ長さが2~30mmのアラミド繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、上記ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の各割合が特定の数値範囲内であるセメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] ポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.005~1.0mmでかつ長さが2~30mmのアラミド繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、上記ポルトランドセメント中、ビーライトの割合が50.0~65.0質量%、アルミネート相(3CaO・Al)の割合が1.0~2.4質量%であり、上記ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記ポルトランドセメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であることを特徴とするセメント組成物。
【0007】
[2] 上記アラミド繊維が、集束アラミド繊維である前記[1]に記載のセメント組成物。
[3] 前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物からなるセメント質硬化体を製造するための方法であって、上記セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、上記未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、上記型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、上記硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、上記加熱養生後の硬化体を、90~200℃で20時間以上、加熱(ただし、蒸気養生、温水養生及びオートクレーブ養生のいずれかによる加熱を除く。)して、上記セメント質硬化体を得る加熱乾燥工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
[4] 上記常温養生工程と上記加熱養生工程の間に、上記硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含む前記[3]に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物は、硬化前には高い流動性を有し、かつ、硬化後には大きな強度(圧縮強度及び曲げ強度)を発現することができる。
また、本発明のセメント組成物は、耐腐食性に優れたアラミド繊維を用いているため、該セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体は、塩害が生じうる環境下であっても腐食が起こりにくいものである。
また、本発明のセメント質硬化体の製造方法によれば、大きな強度(圧縮強度及び曲げ強度)を有するセメント質硬化体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント組成物は、ポルトランドセメント、BET比表面積が15~25m/gのシリカフューム(以下、「シリカフューム」と略すことがある。)、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末(以下、「無機粉末」と略すことがある。)、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、直径が0.005~1.0mmでかつ長さが2~30mmのアラミド繊維、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むセメント組成物であって、ポルトランドセメント中、ビーライト(2CaO・SiO;以下、「CS」と略すことがある。)の割合が50.0~65.0質量%、アルミネート相(3CaO・Al;以下、「CA」と略すことがある。)の割合が1.0~2.4質量%であり、上記ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、上記ポルトランドセメントの割合が55~65体積%、上記シリカフュームの割合が5~25体積%、上記無機粉末の割合が15~35体積%であるものである。
【0010】
ポルトランドセメント中のビーライトの割合は、50.0~65.0質量%、好ましくは52.0~64.5質量%、より好ましくは54.0~64.0質量%、さらに好ましくは54.5~63.5質量%、特に好ましくは55.0~63.0質量%である。該割合を上記数値範囲内にすることで、硬化前には良好な流動性を有し、かつ、硬化後には高い圧縮強度を発現することができるセメント組成物とすることができる。
また、ポルトランドセメント中のアルミネート相の割合は、1.0~2.4質量%、好ましくは1.1~2.2質量%、より好ましくは1.2~2.0質量%、特に好ましくは1.3~1.8質量%である。該割合を上記数値範囲内にすることで、硬化前には良好な流動性を有し、かつ、硬化後には高い圧縮強度を発現することができるセメント組成物とすることができる。なお、該割合が1.0質量%未満であると、ポルトランドセメントの製造が困難となる。
【0011】
また、ポルトランドセメント中のエーライト(3CaO・SiO;以下、「CS」と略すことがある。)の割合は、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性等の観点から、好ましくは20.0~34.0質量%、より好ましくは21.0~33.0質量%である。
さらに、ポルトランドセメント中のフェライト相(4CaO・Al・Fe;以下、「CAF」と略すことがある。)の割合は、ポルトランドセメントの製造の容易性の観点から、好ましくは8.0~10.0質量%、より好ましくは8.5~9.5質量%である。
【0012】
ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは3,200~3,700cm/g、より好ましくは3,250~3,650cm/g、特に好ましくは3,300~3,600cm/gである。該ブレーン比表面積が3,200cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が3,700cm/g以下であれば、セメント組成物の硬化前の流動性がより向上する。
【0013】
なお、本明細書において、ポルトランドセメント中、CS、C2S、CA、及びC4AFの各割合は、ポルトランドセメント(100質量%)中の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出することができる。
3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al23(質量%))-(1.43×Fe23(質量%))-(2.85×SO(質量%))
2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
3A(質量%)=(2.65×Al23(質量%))-(1.69×Fe23(質量%
))
4AF(質量%)=3.04×Fe23(質量%)
【0014】
シリカフュームのBET比表面積は、15~25m/g、好ましくは17~23m/g、特に好ましくは18~22m/gである。該比表面積が15m/g未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。該比表面積が25m/gを超える場合、セメント組成物の硬化前の流動性が低下する。
【0015】
50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末としては、例えば、石英粉末(珪石粉末)、火山灰、フライアッシュ(分級または粉砕したもの)、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末、エメリー砂(人工または天然)の粉砕物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性を向上させる観点から、石英粉末またはフライアッシュを使用することが好ましい。
なお、本明細書中、50%体積累積粒径が0.8~5μmの無機粉末には、セメントは含まれないものとする。
【0016】
上記無機粉末の50%体積累積粒径は、0.8~5μm、好ましくは1~4μm、より好ましくは1.1~3.5μm、特に好ましくは1.2μm以上、3μm未満である。該粒径が0.8μm未満の場合、セメント組成物の硬化前の流動性が低下する。該粒径が5μmを超える場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。
無機粉末の50%体積累積粒径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、製品名「マイクロトラックHRA モデル9320-X100」)を用いて求めることができる。
具体的には、粒度分布測定装置を用いて、累積粒度曲線を作成し、該累積粒度曲線から50%体積累積粒径を求めることができる。この際、試料を分散させる溶媒であるエタノール20cmに対して、試料0.06gを添加し、90秒間、超音波分散装置(例えば、日本精機製作所社製、製品名「US300」)を用いて超音波分散したものを測定する。
【0017】
上記無機粉末の最大粒径は、セメント組成物の強度発現性を向上させる観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは14μm以下、特に好ましくは13μm以下である。
上記無機粉末の95%体積累積粒径は、セメント組成物の強度発現性を向上させる観点から、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。
【0018】
上記無機粉末としては、SiOを主成分として含むものが好ましい。上記無機粉末中のSiOの含有率は、セメント組成物の強度発現性をより向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0019】
本発明のセメント組成物において、ポルトランドセメント、上記シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、ポルトランドセメントの割合は55~65体積%(好ましくは、57~63体積%、より好ましくは58~62体積%)、上記シリカフュームの割合は5~25体積%(好ましくは、7~20体積%、より好ましくは8~15体積%)、上記無機粉末の割合は15~35体積%(好ましくは20~33体積%、より好ましくは25~32体積%)である。
【0020】
ポルトランドセメントの割合が55体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。ポルトランドセメントの割合が65体積%を超える場合、セメント組成物の硬化前の流動性が低下する。
上記シリカフュームの割合が5体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。シリカフュームの割合が25体積%を超える場合、セメント組成物の硬化前の流動性が低下する。
上記無機粉末の割合が15体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。上記無機粉末の割合が35体積%を超える場合、セメント組成物の硬化前の流動性が低下する。
【0021】
骨材Aとしては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、人工細骨材(例えば、スラグ細骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成細骨材や、人工エメリー砂や、アルミナまたは炭化物(例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素)の粗砕物等)、再生細骨材またはこれらの混合物等が挙げられる。
中でも、珪砂は、強度(特に、圧縮強度)をより高める観点から、本発明において好ましく用いられる。珪砂中のSiOの含有率は、強度(特に、圧縮強度)をより高める観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0022】
骨材Aの最大粒径は、1.2mm以下、好ましくは1.1mm以下、より好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。該最大粒径が1.2mm以下であれば、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができ、220N/mm以上(好ましくは230N/mm以上、より好ましくは235N/mm以上)の圧縮強度を発現することができる場合がある。
骨材Aの粒度分布は、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性を向上させる観点から、0.6mm以下の粒径の骨材の割合が、95質量%以上、0.3mm以下の粒径の骨材の割合が、15~35質量%、0.15mm以下の粒径の骨材の割合が、6質量%以下であることが好ましい。
【0023】
セメント組成物中の骨材Aの割合は、好ましくは20~40体積%、より好ましくは22~39体積%、さらに好ましくは25~38体積%、さらに好ましくは30~37体積%、特に好ましくは32~36体積%である。該割合が20体積%以上であれば、セメント組成物の硬化前の流動性をより向上させることができると共に、セメント組成物の発熱量を小さくし、かつ、セメント質硬化体の収縮量を小さくすることができる。該割合が40体積%以下であれば、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができる。
【0024】
本発明のセメント組成物はアラミド繊維を含んでいるが、他の繊維と比較して、アラミド繊維は、セメント組成物内部のアルカリ性環境下において、セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体(例えば、コンクリート)の強度の低下の程度が小さく、かつ、セメント質硬化体を製造する際の加熱によって劣化しないという点で優れている。
アラミド繊維としては、パラ系全芳香族ポリアミド繊維及びメタ系全芳香族ポリアミド繊維のいずれを用いてもよいが、強度発現性及び耐熱性等の観点から、パラ系全芳香族ポリアミド繊維が好適である。また、パラ系全芳香族ポリアミド繊維の中でも、入手の容性等の観点から、コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維が好適である。
【0025】
アラミド繊維の寸法は、セメント組成物中におけるアラミド繊維の材料分離の防止や、セメント質硬化体の曲げ強度の向上の観点から、直径が0.005~1.0mmでかつ長さが2~30mmであることが好ましく、直径が0.01~0.50mmでかつ長さが5~25mmであることがより好ましく、直径が0.10~0.40mmでかつ長さが8~222mmであることがさらに好ましく、直径が0.15~0.35mmでかつ長さが10~20mmであることがさらに好ましく、直径が0.18~0.25mmでかつ長さが12~18mmであることが特に好ましい。また、アラミド繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20~200、より好ましくは30~150、さらに好ましくは40~100、特に好ましくは60~90である。
【0026】
本発明で用いられるアラミド繊維は、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性の観点から、集束アラミド繊維が好適である。
集束アラミド繊維とは、複数のアラミド繊維を集束してなるものである。
集束アラミド繊維は、直径が、好ましくは0.004~0.04mm(より好ましくは0.008~0.035mm、特に好ましくは0.01~0.03mm)であるアラミドフィラメントを繊維集束剤で集束した繊維集束体からなるものである。また、集束アラミド繊維は、上記繊維集束体を複数縒り合わせて、繊維集束剤で結束したものであってもよい。
なお、セメント組成物の混練り時の分散性や流動性の観点から、集束アラミド繊維の直径は、好ましくは0.005~1.0mm、より好ましくは0.01~0.8mm、さらに好ましくは0.05~0.6mm、特に好ましくは0.1~0.5mmである。
繊維集束剤の例としては、エポキシ樹脂、ポリエステル、ビニロン、酢酸ビニル樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、繊維集束体の耐久性がより向上する観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
繊維集束体中の繊維集束剤の含有率は、好ましくは640質量%、より好ましくは1026質量%である。該含有率が6質量%以上であれば、アラミドフィラメント同士の結合力がより強くなり、セメント組成物の混練中に繊維集束体が解繊しにくくなる。該含有率が40質量%以下であれば、繊維集束体の引張強度がより向上する。
【0027】
セメント組成物中のアラミド繊維の割合は、好ましくは0.5~4.0体積%、より好
ましくは0.8~3.8体積%、さらに好ましくは1.0~3.5体積%、さらに好ましくは1.5~3.2体積%、特に好ましくは1.8~3.0体積%である。該割合が前記範囲内であれば、セメント組成物の硬化前の流動性や作業性を低下させることなく、セメント質硬化体の曲げ強度や破壊エネルギー等を向上させることができる。
なお、本発明のセメント組成物は、長期強度の低下を避ける等の観点から、ガラス繊維を含まないものが好適である。
【0028】
高性能減水剤としては、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の高性能減水剤を使用することができる。中でも、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性を向上させる観点から、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が好ましい。
高性能減水剤の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは0.2~1.5質量部であり、より好ましくは0.4~1.2質量部である。該量が0.2質量部以上であれば、減水性能が向上し、セメント組成物の硬化前の流動性が向上する。該量が1.5質量部以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0029】
消泡剤としては、市販品を使用することができる。
消泡剤の配合量(原液の量)は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001~0.1質量部、より好ましくは0.005~0.07質量部、特に好ましくは0.01~0.05質量部である。該量が0.001質量部以上であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。該量が0.1質量部を超えると、セメント組成物の強度発現性の向上効果が頭打ちとなる。
【0030】
水としては、水道水等を使用することができる。
水の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは10~20質量部、より好ましくは12~18質量部、特に好ましくは14~16質量部である。該量が10質量部以上であれば、セメント組成物の硬化前の流動性が向上する。該量が20質量部以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0031】
上記セメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)の硬化前のフロー値は、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において15回の落下運動を行わないで測定した値(以下、「0打ちフロー値」ともいう。)として、好ましくは200mm以上、より好ましくは210mm以上、さらに好ましくは220mm以上、さらに好ましくは240mm以上、さらに好ましくは250mm以上、特に好ましくは260mm以上である。該フロー値が200mm以上であれば、セメント質硬化体を製造する際の作業性を向上させることができる。
また、上記セメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度は、好ましくは180N/mm以上、より好ましくは200N/mm以上、さらに好ましくは210N/mm以上、さらに好ましくは220N/mm以上、さらに好ましくは230N/mm以上、特に好ましくは240N/mm以上である。
本明細書中、圧縮強度は、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した値である。
【0032】
本発明のセメント組成物は、最小粒径が1.2mmを超え、かつ、最大粒径が13mm以下の骨材Bを含むことができる。
骨材Bの例としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、人工細骨材(例えば、スラグ細骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成細骨材や、人工(人造)エメリー砂)、再生細骨材、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材(例えば、スラグ粗骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成粗骨材)、再生粗骨材、アルミナまたは炭化物(例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素等)の粗砕物、又はこれらの混合物等が挙げられる。
なお、本明細書中、骨材Bの「最大粒径」とは、骨材B全体の90質量%以上が通るふるいのうち、最小寸法のふるいの呼び寸法で示される骨材Bの粒径(一般に、粗骨材の最大粒径の定義として知られているもの)をいう。
【0033】
本発明において、セメント組成物中の骨材Aと骨材Bの合計量の割合は、好ましくは25~60体積%である。該割合が25体積%以上であれば、セメント組成物の発熱量が小さくなり、かつ、セメント質硬化体の収縮量が小さくなる。該割合が60体積%以下であれば、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
骨材Aと骨材Bの合計量に対する骨材Aの割合は、好ましくは5~60体積%である。該割合が前記範囲内であれば、セメント組成物のワーカビリティや成形のし易さが向上する。また、5%体積%以上であれば、セメント組成物の強度(圧縮強度及び曲げ強度)や耐衝撃性をより高くすることができる。
骨材Bを含まない場合、セメント組成物中の骨材Aの割合は、好ましくは25~40体積%である。ここでの下限値(25体積%)及び上限値(40体積%)を定めた理由は、上述の「骨材Aと骨材Bの合計量の割合」で説明した理由と同じである。
【0034】
以下、本発明のセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体の製造方法について詳しく説明する。
本発明のセメント質硬化体の製造方法の一例は、セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、加熱養生後の硬化体を、90~200℃で20時間以上、加熱(ただし、蒸気養生、温水養生及びオートクレーブ養生のいずれかによる加熱を除く。)して、セメント質硬化体を得る加熱乾燥工程を含むものである。
【0035】
[成形工程]
本工程は、セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る工程である。
打設を行う前に、本発明のセメント組成物を混練する方法としては、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。さらに、打設(成形)方法も特に限定されるものではない。
なお、本工程における未硬化の成形体は、セメント組成物中の気泡を低減又は除去したセメント組成物からなるものであってもよい。セメント組成物中の気泡を低減又は除去することで、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができる。
セメント組成物中の気泡を低減又は除去する方法としては、(1)セメント組成物の混練を減圧下で行う方法、(2)混練後のセメント組成物を、型枠内に打設する前に減圧して脱泡させる方法、(3)セメント組成物を型枠内に打設した後、減圧して脱泡させる方法等が挙げられる。
【0036】
[常温養生工程]
本工程は、未硬化の成形体を、10~40℃(好ましくは15~30℃)で24時間以上(好ましくは24~72時間、より好ましくは24~48時間)、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る工程である。
養生温度が10℃以上であれば、養生時間を短くすることができる。養生温度が40℃以下であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
養生時間が24時間以上であれば、脱型の際に、硬化した成形体に欠けや割れ等の欠陥が生じにくくなる。
【0037】
[加熱養生工程]
本工程は、前工程で得られた硬化した成形体について、70℃以上100℃未満(好ましくは75~95℃、より好ましくは80~92℃)で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃(好ましくは160~190℃)で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る工程である。 本工程において、蒸気養生または温水養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは24~96時間、特に好ましくは36~72時間である。オートクレーブ養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは3~60時間、特に好ましくは4~48時間である。蒸気養生もしくは温水養生とオートクレーブ養生の両方を行う場合(例えば、蒸気養生もしくは温水養生を行った後、さらにオートクレーブ養生を行う場合)、蒸気養生もしくは温水養生における養生時間は、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間であり、オートクレーブ養生における養生時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~18時間である。
本工程において、養生温度が前記範囲内であれば、養生時間を短くすることができ、また、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
また、本工程において、養生時間が前記範囲内であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
【0038】
[加熱乾燥工程]
本工程は、加熱養生後の硬化体を、90~200℃で20時間以上、加熱(ただし、蒸気養生、温水養生及びオートクレーブ養生のいずれかによる加熱を除く。)して、セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体を得る工程である。
本工程における加熱は、乾燥雰囲気下(換言すると、水や水蒸気を人為的に供給しない状態)で行われる。
本工程における加熱温度は、加熱時間をより短くする等の観点から、90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上である。また、上記加熱温度は、エネルギーコストを低減する観点から、200℃以下、好ましくは190℃以下である。さらに、上記加熱温度は、汎用の乾燥機を用いての加熱乾燥が可能となり、工場において新たな設備投資を行わなくてもよい観点から、より好ましくは150℃未満、さらに好ましくは140℃以下である。
【0039】
本工程における加熱時間は、セメント質硬化体の強度(圧縮強度及び曲げ強度)をより大きくする観点からは、20時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは30時間以上、さらに好ましくは36時間以上、特に好ましくは40時間以上である。また、上記加熱時間は、エネルギーコストを低減する観点からは、好ましくは90時間以下、より好ましくは84時間以下、さらに好ましくは72時間以下、特に好ましくは60時間以下である。
また、セメント質硬化体の曲げ強度をより大きくし、かつ、エネルギーコストを低減する観点から、90℃以上、150℃未満(好ましくは100~120℃)で、30~60時間(好ましくは36~54時間)加熱することが好適である。
【0040】
[吸水工程]
常温養生工程と加熱養生工程の間に、常温養生工程において得られた硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含んでもよい。
硬化した成形体に吸水させる方法としては、該成形体を水中に浸漬させる方法が挙げられる。また、該成形体を水中に浸漬させる方法において、短時間で吸水量を増やし、セメント質硬化体の圧縮強度を大きくする観点から、(1)該成形体を、減圧下の水の中に浸漬させる方法、(2)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を浸漬させたまま、水温を40℃以下に低下させる方法、(3)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を沸騰している水から取り出して、次いで、40℃以下の水に浸漬させる方法、(4)該成形体を、加圧下の水の中に浸漬させる方法、又は(5)該成形体への水の浸透性を向上させる薬剤を溶解させた水溶液の中に、該成形体を浸漬させる方法、が好ましい。
【0041】
上記成形体を、減圧下の水の中に浸漬させる方法としては、真空ポンプや大型の減圧容器等の設備を利用する方法が挙げられる。
上記成形体を、沸騰している水の中に浸漬させる方法としては、高温高圧容器や熱温水水槽等の設備を利用する方法が挙げられる。
硬化した成形体を、減圧下の水または沸騰している水の中に浸漬させる時間は、吸水率を高めて、圧縮強度を増大させる観点から、好ましくは3分間以上、より好ましくは8分間以上、特に好ましくは20分間以上である。該時間の上限は、セメント質硬化体の圧縮強度をより高くする観点から、好ましくは60分間、より好ましくは45分間である。
【0042】
本発明のセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体は、高い圧縮強度を有するため、ひび割れが発生しにくく、かつ、壊れにくいものである
また、得られたセメント質硬化体は、大きな曲げ強度を有する。上記セメント質硬化体の「土木学会基準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準拠して測定した曲げ強度は、好ましくは15N/mm以上、より好ましくは20N/mm以上、さらに好ましくは25N/mm以上、さらに好ましくは30N/mm以上、さらに好ましくは32N/mm以上、特に好ましくは35N/mm以上である。
また、本発明のセメント組成物は、耐腐食性に優れたアラミド繊維を用いているため、該セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体は、塩害が生じうる環境下であっても、鋼繊維を用いたセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体等と比較して、腐食が起こりにくいものである。
さらに、本発明のセメント組成物は、耐熱性に優れたアラミド繊維を用いているため、加熱乾燥工程において加熱温度をより大きく(例えば、150℃以上)しても、熱による繊維の変質が起こりにくく、上記セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度及び曲げ強度の低下が起こりにくいものである。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)ポルトランドセメント;太平洋セメント社製、低熱ポルトランドセメント、ブレーン比表面積:3,330cm/g、CS:27.6質量%、C2S:58.6質量%、CA:1.3質量%、C4AF:9.5、二水石膏:0.3質量%、半水石膏:2.7質量%
(2)シリカフューム;BET比表面積:20m/g
(3)無機粉末;石英微粉末、50%体積累積粒径:2μm、最大粒径:10μm、95%体積累積粒径:6μm、SiOの含有率:99.9質量%以上
(4)骨材A(細骨材);珪砂:最大粒径:0.3mm、0.6mm以下の粒径のもの:97質量%、0.3mm以下の粒径のもの:26質量%、0.15mm以下の粒径のもの:1質量%、SiOの含有率:80.0質量%以上
(5)ポリカルボン酸系高性能減水剤;固形分量:27.4質量%、フローリック社製、商品名「フローリックSF500」
(6)消泡剤;BASFジャパン社製、商品名「マスターエア404」
(7)水;水道水
(8)集束アラミド繊維1;極細(直径:約12.3μm)のアラミドフィラメント(コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維、帝人株式会社製、商品名:テクノーラ)267本を繊維束とし、これにZ方向の片撚りと繊維集束剤(エポキシ樹脂)による樹脂被覆処理を施して集束させ、直径(外径)を約0.21mmとした繊維集束体(繊維集束体中の繊維集束剤の含有率:約13質量%)
(9)集束アラミド繊維2;極細(直径:約12.3mm)のアラミドフィラメント(コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維、帝人株式会社製、商品名:テクノーラ)、267本を繊維束とし、これにS方向の下撚りを施した繊維束を2束(合計534本)あわせた後、Z方向に上撚り(所謂、諸撚り)し、繊維集束剤(エポキシ樹脂)を施して集束させ、直径(外径)を約0.30mmとした繊維集束体(繊維集束体中の繊維集束剤の含有率:約13質量%)
(10)鋼繊維
(11)ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)
(8)~(11)の繊維の詳細を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
[実施例1]
ポルトランドセメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100体積%中、ポルトランドセメントの割合が60体積%、シリカフュームの割合が10体積%、無機粉末の割合が30体積%となるように、ポルトランドセメントとシリカフュームと無機粉末を混合し、粉体原料(混合物)を得た。得られた粉体原料と、セメント組成物中の骨材Aの割合が35.5体積%となる量の骨材Aを、容量30リットルのオムニミキサに投入して、15秒間空練りを行った。
次いで、粉体原料100質量部に対して、水15質量部、ポリカルボン酸系高性能減水剤0.69質量部(固形分換算)、及び消泡剤0.02質量部を、オムニミキサに投入して、2分間混練した。
混練後、オムニミキサ内の側壁に付着した混練物を掻き落とし、さらに2分間混練を行った。
その後、セメント組成物中の集束アラミド繊維1の割合が2.0体積%となる量の集束アラミド繊維1を、オムニミキサに投入して、さらに2分間混練を行い、セメント組成物を得た。
混練後のセメント組成物のフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。なお、本明細書中、該フロー値を「0打ちフロー値」という。
【0046】
得られたセメント組成物(混練物)を、φ50×100mmの円筒形の型枠に打設した後、テーブルバイブレーターを使用して締固めを行い、未硬化の成形体を得た(成形工程)。打設後、未硬化の成形体について、20℃で48時間、封緘養生を行い、次いで、脱型して、硬化した成形体を得た(常温養生工程)。
脱型後すぐに、上記成形体をアクリル製密閉容器内で完全に水中に浸漬させながら、容器に接続したポンプを用いて容器内の空気を排出して、30分間減圧した(吸水工程)。
浸漬後、この成形体を、15℃/時間の昇温速度で90℃になるまで昇温した後、90℃を48時間保持し、その後、15℃/時間の降温速度で20℃となるまで降温する温度履歴パターンの条件下で、蒸気養生を行った(加熱養生工程)。
次いで、水や水蒸気を人為的に供給せずに、成形体を、60℃/時間の昇温速度で180℃になるまで昇温した後、180℃を48時間保持し、その後、60℃/時間の降温速度で20℃となるまで降温する温度履歴パターンの条件下で、養生を行なった(加熱乾燥工程)。
加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度を、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した。
また、加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の曲げ強度を、「土木学会基準 JSCE-G 552-2010(鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準拠して測定した。
【0047】
[実施例2]
加熱乾燥工程において、110℃になるまで昇温した後、110℃を48時間保持した以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。
[実施例3]
加熱乾燥工程において、180℃になるまで昇温した後、180℃を24時間保持した以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。
実施例2~3で得られたセメント質硬化体の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。
【0048】
[実施例4]
集束アラミド繊維1の代わりに集束アラミド繊維2を使用する以外は実施例1と同様にして、セメント組成物を得た。
得られたセメント組成物の混練後の0打ちフロー値を、実施例1と同様にして測定した。
また、得られたセメント組成物を用いて、実施例1と同様にして、セメント質硬化体を得た。
加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。それぞれの結果を表3に示す。
【0049】
[実施例5]
加熱乾燥工程において、110℃になるまで昇温した後、110℃を48時間保持した以外は、実施例4と同様にしてセメント質硬化体を得た。
[実施例6]
加熱乾燥工程において、180℃になるまで昇温した後、180℃を24時間保持した以外は、実施例4と同様にしてセメント質硬化体を得た。
実施例5~6で得られたセメント質硬化体の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。
【0050】
[比較例1]
粉体原料、水、ポリカルボン酸系高性能減水剤、及び消泡剤を、オムニミキサに投入して、2分間混練した後、オムニミキサ内の側壁に付着した混練物を掻き落とし、さらに2分間混練を行った後、繊維を使用しない以外は実施例1と同様にして、セメント組成物を得た。
得られたセメント組成物の混練後の0打ちフロー値を、実施例1と同様にして測定した。
また、得られたセメント組成物を用いて、実施例1と同様にして、セメント質硬化体を得た。
加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。
【0051】
[比較例2]
集束アラミド繊維1の代わりに、鋼繊維を使用する以外は、実施例1と同様にしてセメント組成物を得た。
得られたセメント組成物の混練後の0打ちフロー値を、実施例1と同様にして測定した。
また、得られたセメント組成物を用いて、実施例1と同様にして、セメント質硬化体を得た。
加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。
【0052】
[比較例3]
集束アラミド繊維1の代わりに、ポリビニルアルコール繊維を使用する以外は、実施例1と同様にしてセメント組成物を得た。
得られたセメント組成物の混練後の0打ちフロー値を、実施例1と同様にして測定した。
また、得られたセメント組成物を用いて、実施例1と同様にして、セメント質硬化体を得た。
加熱養生工程後の成形体、及び、加熱乾燥工程後の成形体(セメント質硬化体)の圧縮強度及び曲げ強度を、実施例1と同様にして測定した。
[比較例4]
加熱乾燥工程において、130℃になるまで昇温した後、130℃を48時間保持した以外は、比較例3と同様にしてセメント質硬化体を得た。
[比較例5]
加熱乾燥工程において、110℃になるまで昇温した後、110℃を48時間保持した以外は、比較例3と同様にしてセメント質硬化体を得た。
それぞれの結果を表2~3に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表2から、本発明のセメント組成物(実施例1、4)の0打ちフロー値(271~276mm)は、繊維を用いていないセメント組成物(比較例1)や鋼繊維を用いたセメント組成物(比較例2)の0打ちフロー値(294~310mm)よりも小さいものの、ポリビニルアルコール繊維を用いたセメント組成物(比較例3)の0打ちフロー値(279mm)と同等程度であることがわかる。
また、本発明のセメント組成物(実施例1、4)の空気量(4.3~4.5%)は、ポリビニルアルコール繊維を用いたセメント組成物(比較例3)の空気量(4.3%)と同程度であることがわかる。このことから、集束アラミド繊維は、練り混ぜを行う際に繊維が解繊しにくい(繊維束中の空気が解繊によって解放されてセメント組成物中の空気量が増加することが起こりにくい)ものであることがわかる。
【0056】
表3から、本発明のセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体(実施例1、4)の圧縮強度(248~255N/mm)は、繊維を用いていないセメント組成物(比較例1)や鋼繊維を用いたセメント組成物(比較例2)の圧縮強度(342~358N/mm)よりも小さいものの、ポリビニルアルコール繊維を用いたセメント質硬化体(比較例3)の圧縮強度(201N/mm)よりも大きいことがわかる。
また、本発明のセメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体(実施例1、4)の曲げ強度(38.9~40.0N/mm)は、鋼繊維を用いたセメント組成物(比較例2)の曲げ強度(48.5N/mm)よりも小さいものの、繊維を用いていないセメント組成物(比較例1)や、ポリビニルアルコール繊維を用いたセメント質硬化体(比較例3)の曲げ強度(14.4~16.4N/mm)よりも大きいことがわかる。
【0057】
また、集束アラミド繊維1(繊維の直径:0.21mm、繊維の長さ:15mm、アスペクト比:71.4)を用いたセメント組成物(実施例1~3)と、集束アラミド繊維2(繊維の直径:0.30mm、繊維の長さ:15mm、アスペクト比:50.0)を用いたセメント組成物(実施例4~6)を比較すると、加熱乾燥工程の条件が同じであれば、集束アラミド繊維1を用いた場合のセメント組成物の強度(圧縮強度及び曲げ強度、特に曲げ強度)発現性は、集束アラミド繊維2を用いたセメント組成物の強度発現性よりも優れていることがわかる。
【0058】
さらに、有機繊維として、ポリビニルアルコール繊維を用いたセメント組成物(比較例3~5)では、加熱乾燥工程後の曲げ強度は、加熱養生工程後の曲げ強度よりも小さくなっているのがわかる。
一方、有機繊維として集束アラミド繊維を用いたセメント組成物(実施例1~6)のうち、加熱乾燥工程において、180℃48時間または110℃48時間の条件で加熱を行った場合(実施例1~2、実施例4~5)、加熱乾燥工程後の曲げ強度は、加熱養生工程後の曲げ強度よりも大きくなっていることがわかる。特に、加熱乾燥工程において、110℃48時間の条件で加熱を行った場合、曲げ強度が非常に大きくなっている(実施例2:48.3N/mm、実施例5:39.2N/mm)ことがわかる。