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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240209BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240209BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240209BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240209BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 621A
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019233278
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102666
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智基
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-117907(JP,A)
【文献】特開2014-036206(JP,A)
【文献】特開2002-075928(JP,A)
【文献】特開平11-116942(JP,A)
【文献】特表2011-515023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/00
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
負荷抑制剤と、
水溶性高分子と、
塩基性化合物と、
水とを含み、
表面粗さRa=3.0nmのガラスエポキシ樹脂板の面に対する前記負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の接触角A、前記負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の表面張力B、及び前記負荷抑制剤の分子量Cは、下記式を満たしている、研磨用組成物。
A×B/C < 2.8
【請求項2】
前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロースである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造において、超精密加工は極めて重要な技術である。近年LSIデバイスの微細化が進み、それに伴って精密研磨後の半導体ウェーハの表面粗さや平坦性への要求が厳しくなる傾向にある。
【0003】
これまで一次研磨では、主として研削加工量に重点が置かれてきた。しかし、一次研磨後の半導体ウェーハの表面品質が、二次研磨や最終研磨後の表面品質に影響を及ぼすことがわかっている。そのため、今後は一次研磨でも、現状の研削加工量を維持しつつ、より高いレベルのウェーハ表面品質の実現が求められると考えられる。
【0004】
特開2016-124943号公報には、研磨速度を低下させることなく、ウェーハの表面粗さを低減できる研磨用組成物として、ポリビニルアルコール類の水溶性高分子と、ピペラジン化合物とを含む研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-124943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
300mmのシリコンウェーハの一次研磨では、一般的に両面研磨が実施されている。両面研磨では、パッドを貼付した上下定盤の間に、専用のキャリアによって保持されたウェーハを挟んで研磨を実施する。キャリアには、SUS(ステンレス鋼)製、チタン製、ガラスエポキシ樹脂製等の材質が用いられる。
【0007】
一次研磨においても、シリコンウェーハの粗さを低減するため、研磨用組成物に水溶性高分子を含有させる場合がある。水溶性高分子を含有させた研磨用組成物を用いて両面研磨を実施した場合、キャリアと研磨パッドとの摩擦によって、装置に振動が発生する場合がある。加工効率を上げるために荷重や回転数を高くすると、装置の振動が増大し、シリコンウェーハの品質低下や装置故障の原因となる。
【0008】
本発明の目的は、ガラスエポキシ樹脂製キャリアを用いた研磨において装置の振動を低減できる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、砥粒と、負荷抑制剤と、水溶性高分子と、塩基性化合物と、水とを含む。表面粗さRa=3.0nmのガラスエポキシ樹脂板の面に対する前記負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の接触角A、前記負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の表面張力B、並びに前記負荷抑制剤の分子量Cは、下記式を満たしている。
A×B/C < 2.8
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラスエポキシ樹脂製キャリアを用いた研磨において装置の振動を低減できる研磨用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、上記課題を解決するために、種々の検討を行った。検討において、研磨機能を確保しつつ、装置の振動を低減するため、砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物及び水に加えて、負荷抑制剤を添加した研磨用組成物を検討した。負荷抑制剤として、様々な化合物を試し、試行錯誤を繰り返した結果、負荷抑制剤の0.1質量%水溶液のガラスエポキシ樹脂板に対する接触角A、負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の表面張力B、及び、負荷抑制剤の分子量Cが、A×B/C<2.8を満たす場合に、装置の負荷低減効果が得られることを見出した。
【0012】
このメカニズムは、次のように推測されるが、あくまでも推測であり、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。両面研磨が行なわれる際、キャリアとパッド間並びにワークとパッド間の摩擦によって研磨負荷が発生する。この際に、キャリアとパッド間並びにワークとパッド間に負荷抑制剤を含む研磨用組成物が介在すると、摩擦が低減されて、研磨負荷が低減される。
【0013】
負荷抑制剤の接触角Aが小さいほど、ワークが濡れ易くなる。表面張力Bが小さいほど、研磨用組成物の液が研磨系へ行き渡りやすくなる。そのため、A×Bが小さい負荷抑制剤を含む研磨用組成物は、効果的に研磨界面に供給され、負荷抑制機能を発揮し易くなると考えられる。このA×Bに対して負荷抑制剤の分子量が小さい場合は、負荷抑制効果が低下すると考えられる。負荷抑制剤が、A×Bが小さく、且つ、A×Bに対して十分大きな分子量Cを有する場合、すなわちA×B/C<2.8の場合に、負荷抑制効果が得られると考えられる。負荷抑制効果の観点から、A×B/C≦2.5であることが好ましく、A×B/C≦2.1であることがより好ましい。さらに、A×B/C≦1.7であることが好ましく、A×B/C≦1.1であることがより好ましい。A×B/Cの下限は特に限定されないが、0<A×B/Cとすることができる。
【0014】
本発明は、この知見に基づいて完成された。以下、本発明の一実施形態による半導体研磨用組成物を詳述する。
【0015】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、砥粒と、負荷抑制剤と、水溶性高分子と、塩基性化合物と、水とを含む。表面粗さRa=3.0nmのガラスエポキシ樹脂板の面に対する負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の接触角A及び表面張力B、並びに負荷抑制剤の分子量Cは、下記式を満たしている。
A×B/C < 2.8
【0016】
砥粒は、この分野で常用されるものを使用できる。砥粒として、例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等のシリカを用いることができる。砥粒の粒径は、特に限定されないが、例えば、二次平均粒子径で30~150nmのものを用いることができる。
【0017】
砥粒の含有量は、特に限定されないが、例えば、研磨用組成物全体の0.10~20質量%である。砥粒の含有量は、研磨後のシリコンウェーハの研磨傷や異物残りを低減するという観点からは、できるだけ少なくする方が好ましい。一方、研磨用組成物が砥粒を全く含まない場合には、例えば、シリコンウェーハ表面の酸化膜を除去することができなくなる。研磨用組成物は、研磨時に10~45倍に希釈されて使用される。本実施形態による研磨用組成物は、砥粒の濃度が100~5000ppm(質量ppm。以下同じ。)になるように希釈して用いることが好ましい。砥粒の濃度が高いほど、微小欠陥やヘイズが低減する傾向がある。希釈後の砥粒の濃度の下限は、好ましくは1000ppmであり、さらに好ましくは2000ppmである。希釈後の砥粒の濃度の上限は、好ましくは4000ppmであり、さらに好ましくは3000ppmである。
【0018】
水溶性高分子は、半導体ウェーハ等のワークの表面に吸着して、ワークの表面を改質する。これによって研磨の均一性が向上し、表面粗さを低減することができる。水溶性高分子は、これに限定されないが、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール(PVA)、変性PVA(ポリビニルアルコール誘導体)、ポリビニルピロリドン(PVP)等のビニルポリマー、配糖体(グリコシド)、多価アルコール等を用いることができる。配糖体としては、例えば、メチルグルコシドのアルキレンオキシド誘導体等が挙げられる。メチルグルコシドのアルキレンオキシド誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド等が挙げられる。
【0019】
水溶性高分子は、アルキレンオキシサイド基を有さない高分子が好ましい。上述した水溶性高分子のなかでは、分子量が高く、水分子を取り込みやすい構造のものが好ましく、PVA又は変性PVAが好ましく、HECがより好ましい。
【0020】
水溶性高分子をHECとした場合、HECの分子量やその含有量は特に限定されないが、例えば分子量が50万以上150万以下であって、前記砥粒の質量%に対する前記HECの質量%の比が0.0075以上0.025以下であるものが挙げられる。ここで、HECの分子量は、GFC法(ゲルろ過クロマトグラフィー;Gel Filtration Chromatography)を用いて測定される重量平均分子量である。
【0021】
上述した水溶性高分子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
水溶性高分子の含有量は、これに限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.01~1.2質量%である。
【0023】
塩基性化合物は、半導体ウェーハの表面をエッチングして化学的に研磨する。すなわち、塩基性化合物は、研磨促進剤である。塩基性化合物は、例えば、アンモニア、アミン化合物、無機アルカリ化合物等である。塩基性化合物は、水に溶解したときに塩基性を示す化合物である。
【0024】
アミン化合物は、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム及びその水酸化物、複素環式アミン等である。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ピペラジン塩酸塩、炭酸グアニジン等が挙げられる。
【0025】
無機アルカリ化合物は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。無機アルカリ化合物は、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0026】
上述した塩基性化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。上述した塩基性化合物の中でも、アンモニア、アミン化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩からなら群から選ばれる少なくとも一種が特に好ましい。
【0027】
塩基性化合物の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば砥粒との質量比で、砥粒:塩基性化合物=1:0.001~1:0.10である。本実施形態による研磨用組成物は、塩基性化合物の濃度が5~200ppmになるように希釈して用いることが好ましい。
【0028】
負荷抑制剤は、接触角A及び表面張力B、並びに前記負荷抑制剤の分子量Cが、下記式を満たす物性を有する。
A×B/C < 2.8
【0029】
上記の接触角Aは、表面粗さRa=3.0nmのガラスエポキシ樹脂板の面に対する負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の接触角である。表面張力Bは、負荷抑制剤の0.1質量%水溶液の表面張力である。また、負荷抑制剤の分子量Cは、GFC法を用いて測定される重量平均分子量である。
【0030】
本実施形態における研磨用組成物は、例えば、ガラスエポキシ樹脂製キャリアで、半導体基板を保持して研磨を行う際に、研磨剤として用いることができる。研磨用組成物が、上記物性を有する負荷抑制剤を含むことにより、上記の研磨において、装置の振動を低減することができる。
【0031】
負荷抑制剤は、例えば、エーテル結合を有する高分子であってもよい。この場合、研磨用組成物は、上述した研磨対象物の表面粗さを低減するための水溶性高分子に加えて、負荷抑制剤として作用する高分子を1種以上含む。
【0032】
負荷抑制剤として用いることができる高分子は、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(R-O-EO)、又はグリセリン脂肪酸エステル(R-CO-OR´)のように、エーテル結合に加えて、アルキル基(R)、エチレンオキシ基(EO)又はグリセリル基(R´)を含む高分子が挙げられる。或いは、ポリプロピレングリコールのように、プロピル基とエーテル結合を含む高分子も負荷抑制剤として用いることができる。例えば、エーテル結合部を含み、親水性部分と疎水性部分を有する高分子であって、接触角A、表面張力B及び分子量Cが上記式を満たす高分子を負荷抑制剤として用いることができる。
【0033】
なお、研磨用組成物(原液)中の負荷抑制剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0.003~0.5質量%である。
【0034】
研磨用組成物は水を含む。水の含有量は特に限定されるものではなく、適宜配合されうる。なお、水は後述するように、研磨用組成物を使用時の所望の濃度よりも高濃度である高濃度液として調整しておき、使用時に希釈して用いる場合には、希釈時に希釈液として配合してもよい。
【0035】
本実施形態による研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。本実施形態による研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0~12.0である。
【0036】
本実施形態による研磨用組成物は、上記の他、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤を任意に配合することができる。
【0037】
本実施形態による研磨用組成物は、砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物、負荷抑制剤その他の配合材料を適宜混合して水を加えることによって作製される。本実施形態による研磨用組成物は、あるいは、砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物、負荷抑制剤その他の配合材料を、順次、水に混合することによって作製される。これらの成分を混合する手段としては、ホモジナイザー、超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0038】
以上で説明した研磨用組成物は、適当な濃度となるように水で希釈した後、半導体ウェーハの研磨に用いられる。
【0039】
本実施形態による研磨用組成物は、シリコンウェーハ(シリコン基板)等の半導体基板の研磨に好適に用いることができる。本実施形態による研磨用組成物は、ガラスエポキシ樹脂製キャリアを用いてシリコンウェーハを両面研磨する場合に特に好適である。このように、半導体基板研磨用組成物、特に、シリコン基板研磨用組成物は、本発明の実施形態の一つである。
【実施例
【0040】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
[研磨例1]
表1に示す配合のベース剤に対して、表2に示す負荷抑制剤(配合量0.005質量%)を添加した研磨用組成物(実施例1~6、及び比較例1~6)を作製した。さらに、表3に示す実施例7~9の研磨用組成物を作製した。表3に示す配合量(%)は質量%である。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
負荷抑制剤の接触角Aは、以下のように測定した。接触角Aは、接触角測定装置(協和界面科学株式会社製 自動接触角計DM500)を用いて測定した。接触角Aは、0.1質量%の負荷抑制剤の水溶液をガラスエポキシ樹脂板の表面に付着させた状態をカメラで撮影し、基板と水溶液との接触角度をθ/2法を用いて算出した。ガラスエポキシ樹脂板の表面粗さRaは、Ra=3.0nmとした。表面粗さRaは、Veeco社製 WykoNT9300(非接触型干渉顕微鏡)を用い、PSIモードにて視野角94nm×125nmで測定した表面粗さRaである。
【0046】
負荷抑制剤の表面張力Bは、以下のように測定した。表面張力Bは、表面張力測定装置(協和界面科学株式会社製 自動接触角計DM500)を用いて測定した。表面張力Bは、0.1質量%の負荷抑制剤の水溶液(液温25℃)を鉛直方向に向けた細管の先端から押し出し、細管の先端にぶら下がった液滴をカメラで撮影し、懸滴法(ペンダント・ドロップ法)を用いて算出した。
【0047】
負荷抑制剤の分子量Cは、GPC法を用いて測定した。
【0048】
表1~表3に示す配合量は、すべて希釈前(原液)のものであり、残部は水である。比較例1の研磨用組成物は、負荷抑制剤に該当する高分子を含有していない。コロイダルシリカは、二次平均粒子径が70nmのものを使用した。HECは、重量平均分子量が50万のものを使用した。表1及び表3における配糖体は、重量平均分子量が634のポリオキシエチレンメチルグルコシドを使用した。表3における変性PVAは、ブテンジオールビニルアルコールコポリマーを使用した。
【0049】
[負荷測定試験1]
表1及び表2に記載された研磨用組成物、並びに表3に記載された研磨用組成物を41倍に希釈し、研磨装置としてG&P社製POLI762を用いて、12インチのガラスエポキシ樹脂板を被研磨材としてフリクション解析を実施した。ここで、ガラスエポキシ樹脂板を被研磨材としたのは、ガラスエポキシ樹脂製キャリアを用いた両面研磨の摩擦状態を模擬するためである。研磨パッドは、ニッタ・ハース株式会社製EXTERION(登録商標)SL-31を使用した。研磨用組成物の供給速度は300mL/分、面圧は150g/cm、ガイド圧は220g/cmとした。CoFは、上記の研磨装置で測定した。CoFは、研磨時の研磨ヘッドの垂直荷重に対する研磨ヘッドの水平方向の力の比率である。研磨負荷が小さいほど、CoFは小さくなる。ΔCoFは、負荷抑制剤の添加前後のCoFの差である。例えば、表2のΔCoFは、表1に示す配合のベース剤を用いて上記条件で研磨した場合のCoFと、ベース剤に表2に示す負荷抑制剤を添加した研磨用組成物を用いて上記条件で研磨した場合のCoFとの差分である。ΔCoFの値は、負荷抑制剤の負荷抑制効果を示すと考えられる。ΔCoFが0.03以上の場合に負荷抑制効果が得られたと判断した(表2及び表3において丸印で示す判定結果)。ΔCoFが1.0以上の場合に優れた負荷抑制効果が得られると判断した(表2及び表3において二重丸印で示す判定結果)。
【0050】
[負荷測定試験2]
表1及び表2に記載された研磨用組成物、並びに表3に記載された研磨用組成物を41倍に希釈し、スピードファム社製DSM20B-5P-4Dを用いて12インチのシリコンウェーハの両面研磨を実施した。研磨パッドは、ニッタ・ハース株式会社製EXTERION(登録商標)SL-31を使用した。3分間の研磨を実施し、装置鳴き・振動発生の有無を調査した。
【0051】
表2及び表3に示す実施例1~9の負荷抑制剤は、接触角A、表面張力B及び分子量Cが、A×B/C<2.8を満たす。これらの負荷抑制剤を含む研磨用組成物では、ΔCoFが0.03以上であり、負荷抑制効果が得られた。また、ΔCoFが0.03以上のケースでは、装置鳴き及び装置の振動が見られなかった。
【0052】
比較例1の研磨用組成物は、負荷抑制剤を添加しなかった。その結果、比較例1では、負荷抑制効果が得られず、装置鳴き及び装置の振動が発生した。
【0053】
比較例2~5の研磨用組成物では、負荷抑制剤のA×B/Cが、2.8以上である。その結果、比較例2~5では、負荷抑制効果が得られず、装置鳴き及び装置の振動が発生した。
【0054】
表3に示す実施例7~9では、添加する負荷抑制剤は同じである。すなわち、実施例7~9における負荷抑制剤のA×B/Cは、いずれも0.3で同じである。実施例7~9では、水溶性高分子の構成が異なる。実施例7では、水溶性高分子は、配糖体に加えて、HECを含む。実施例8では、水溶性高分子は、配糖体に加えて、変性PVAを含む。実施例9では、水溶性高分子は、配糖体に加えて、HEC及び変性PVAを含む。
【0055】
実施例7~9は、いずれもΔCoFが0.08以上であり、負荷抑制効果が得られた。また、装置鳴き及び装置の振動が見られなかった。水溶性高分子がHECを含む実施例7及び実施例9の方が、HECを含まない実施例8に比べて、ΔCoFが大きく、負荷抑制効果が高かった。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。