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特許7433048テルペノイド産物を微生物生産するための代謝工学
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】テルペノイド産物を微生物生産するための代謝工学
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/00 20060101AFI20240209BHJP
   C12P 7/00 20060101ALI20240209BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240209BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20240209BHJP
   C12N 9/90 20060101ALN20240209BHJP
【FI】
C12P5/00 ZNA
C12P7/00
C12N1/21
C12N15/61
C12N9/90
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019541779
(86)(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 US2018016848
(87)【国際公開番号】W WO2018144996
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】62/454,121
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519271159
【氏名又は名称】マナス バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマラン アジクマー パライル
(72)【発明者】
【氏名】リム チン-ガウ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ スービック
(72)【発明者】
【氏名】ピリー クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ラブ アーロン
(72)【発明者】
【氏名】ナン ホン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン シェン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】サントス クリスティーン ニコル エス.
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ライアン
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510573(JP,A)
【文献】国際公開第2010/148150(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/189428(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1582259(KR,B1)
【文献】mBio. 2016 Sep 20;7(5):e00966-16, doi: 10.1128/mBio.00966-16.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 5/00-7/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEP炭素を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有するE.coliである細菌株であって、前記細菌株は、前記MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介して前記IPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換し、前記遺伝子改変が、
(1)iscR遺伝子のすべてまたは一部の欠失または不活性化、及びテルペンまたはテルペノイドの生産に使用される条件下でiscオペロン内に残っている遺伝子の過剰発現を誘導するための誘導性または構成的プロモーター;
(2)ryhBの欠失または不活性化;
(3)DOX及び/またはMEが約2g/リットルを超えてまたは約1g/リットルを超えて蓄積しないように、MEP酵素の発現または活性が変更またはバランス調整される、dxr、ispD、ispE、及びispF遺伝子の過剰発現;及び
(4)spG及びspH遺伝子の過剰発現
を含む、前記細菌株。
【請求項2】
前記株が、spBの発現又は活性を低減する改変を更に含む、請求項1に記載の細菌株。
【請求項3】
前記ispBのシャイン-ダルガノ(SD)配列が、CGTGCTもしくはCGTGCCである、請求項2に記載の細菌株。
【請求項4】
前記株が、配列番号5についてL205V、A210S、G212T、及びA213Iを有するIspG酵素をコードするspG遺伝子で補完されている、請求項1に記載の細菌株。
【請求項5】
前記細菌株が、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させたdxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の細菌株。
【請求項6】
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、アビエタジエン、アビエチン酸、アルファ-グアイエン、アルファ-シネンサール、アモルファジエン、アルテミシン酸、ベータ-ビサボレン、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、セラストロール、セロプラストール、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ククルビタン、フォルスコリン、ガスカルジン酸、ゲラニオール、ハスレン、レボピマル酸、リモネン、ルペオール、メントール、メントン、モグロサイド、ヌートカトン、ヌートカトール、オフィオボリンA、パチョリ、ピペリトン、ロツンドン、レバウジオシドD、レバウジオシドM、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド、タキサジエン、チモール、ウルソール酸、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の細菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月3日出願の米国仮特許出願第62/454,121号の利益及び同仮特許出願に対する優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式でEFS-Webを経由して提出された配列表を含み、配列表はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。2018年2月2日に作成された上記ASCIIコピーは、MAN-008PC_ST25.txtという名称であり、そのサイズは20,480バイトである。
【背景技術】
【0003】
食品産業及び飲料産業はもとより、香料産業、化粧品産業、及びヘルスケア産業などの他の産業も、テルペン及び/またはテルペノイド産物を日常的に使用しており、それには着香剤及び芳香剤としての使用を含む。しかしながら、(i)植物原料の可用性及び高価格;(ii)植物中のテルペン含有量の相対的低さ;ならびに(iii)十分量のテルペン産物を工業的規模で生産するには抽出方法が面倒で非効率などの要因はすべて、植物に依存しない系を用いたテルペンの生合成に関する研究を活性化させた。その結果、グルコースなどの再生可能資源をテルペノイド産物に変換するように微生物を操作する技術の開発に労力が費やされてきた。従来の方法と比較して、微生物は土地を必要とせずに急速に成長し、開発を持続できるという利点がある。
【0004】
重要なイソプレノイド前駆体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)には、メバロン酸(MVA)経路とメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路という2つの主要な生合成経路がある。MVA経路は、ほとんどの真核生物、古細菌、及びいくつかの真正細菌に見られる。MEP経路は、真正細菌、植物の葉緑体、シアノバクテリア、藻類、及びアピコンプレックス門寄生生物に見られる。E.coli及び他のグラム陰性菌は、MEPを利用してIPP及びDMAPP代謝前駆体を合成する。MEP経路はMVA経路よりも理論上の化学量論的収率が高いが、E.coli及び他の細菌におけるMEP経路は、この経路を通る炭素フラックスを制御及び/または制限する様々な固有の調節機構を有する。Zhao et al.,Methylerythritol Phosphate Pathway of Isoprenoid Biosynthesis,Annu Rev.Biochem.2013;82:497-530;Ajikumar PK,et al.,Isoprenoid pathway optimization for Taxol precursor overproduction in Escherichia coli.Science 2010;330-70-74を参照のこと。
【0005】
細菌系においてテルペン及びテルペノイドを工業的規模で生産するには、MEP経路を通る炭素フラックスを向上させるための微生物株及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
様々な態様において、本発明は、テルペン及びテルペノイド産物を生産するための方法及び細菌株(E.coliなど)に関する。ある特定の態様では、本発明は、MEP経路を通る炭素フラックスを向上させる細菌株を提供し、それによってグルコースなどの炭素源を用いた発酵によってテルペン及び/またはテルペノイドの生産収率を増加させる。例えば、いくつかの実施形態では、本方法は、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供することを含む。この細菌株は、グルコースなどの炭素源を用いて培養すると、MEP経路を介して解糖系に入る炭素の1%超を代謝する。また様々な実施形態において、MEP経路を介して解糖系に入る炭素の15%超(15%超の「MEP炭素」)を代謝する。
【0007】
様々な実施形態において、本発明は、株の増殖または生存率に実質的なまたは測定可能な影響を及ぼさずに、細菌生産株での1つ以上の競合する酵素または経路(ユビキノン合成経路など)の発現または活性を下方「調整」することを含む。いくつかの実施形態では、IspB酵素の発現または活性が、場合により、リボソーム結合配列(RBS)、プロモーター、もしくはアミノ酸配列に対する変更、またはIspBオルソログとの置き換えによって低下される。
【0008】
代わりに、または加えて、本発明は、場合により、iscオペロンの発現を変更すること、及び/またはryhBの小分子RNAの欠失によって、Fe-S酵素であるIspG及び/またはIspHの高活性を維持するように、Fe-Sクラスタータンパク質の可用性または活性を増加させることを含む。
【0009】
代わりに、または加えて、いくつかの実施形態では、本発明は、有益な変異体もしくはオルソログ(複数可)の過剰発現及び/または選択による、IspG及び/またはIspHの活性の調整を含む。そのような変異体またはオルソログは、炭素をさらに下流のMEP経路へ流入させることによってMEP炭素を増加させることができる。代わりに、または加えて、MEP酵素の補完をメタボロミクスによって評価することで、MEP酵素の補完が、MEcPP中間体に至るさらに下流の経路への炭素の流入により高濃度のMEP炭素をもたらすことを確認することができる。
【0010】
ある特定の実施形態では、細菌細胞は、特に、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、及びジテルペノイドなどの1つ以上のテルペノイド化合物を産生する。そのようなテルペノイド化合物は、香料に(例えばパチョロール)、香味産業で(例えばヌートカトン)、甘味剤として(例えばステビオールグリコシド)、または治療薬に(例えばタキソール)使用される。この宿主細胞は一般に、IPP及びDMAPP前駆体からテルペンまたはテルペノイドを生産する組換え下流経路を備えることになる。
【0011】
回収されたテルペンまたはテルペノイドを製品(例えば、消費者製品または工業製品)に組み込むことができる。例えば、製品は、着香製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品であり得る。本発明の実施形態では、生産収率が高いため、大幅なコスト上の利点に加え、テルペンまたはテルペノイド成分の持続可能性及び品質管理をもたらすことができる。
【0012】
他の態様では、本発明は、本明細書で詳細に記載する、MEP炭素を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有するE.coliなどの細菌細胞を提供する。
【0013】
本発明の他の態様及び実施形態は、本発明に関する以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
項1
テルペンまたはテルペノイド産物の生産方法であって、
上流のメチルエリスリトール経路(MEP)を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供することと;
前記テルペンまたはテルペノイド産物を生産する前記細菌株を培養することとを含み、解糖系に入る炭素の1%超がMEP炭素になる、前記方法。
項2
前記細菌株が、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、またはPseudomonas spp.から選択される細菌である、項1に記載の方法。
項3
前記細菌種が、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、またはPseudomonas putidaから選択される、項2に記載の方法。
項4
前記細菌株がE.coliである、項1に記載の方法。
項5
MEP炭素が以下からなる、項1に記載の方法:
D-グリセルアルデヒド3リン酸;
ピルビン酸;
1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸;
1-デオキシ-D-キシルロース;
2-C-メチル-D-エリスリトール-5-リン酸;
2-C-メチル-D-エリスリトール;
4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール;
2-ホスホ-4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール;
2C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸;
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸;
イソペンテニル二リン酸;
ジメチルアリル二リン酸;
ゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)、またはゲラニルファルネシル二リン酸(FGPP);
ゲラニルリン酸、ファルネシルリン酸、ゲラニルゲラニルリン酸、またはゲラニルファルネシルリン酸;
ゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、またはゲラニルファルネソール;
テルペン及びテルペノイド産物;
スクアレン;
ウンデカプレニル二リン酸(UPP)、ウンデカプレニルリン酸;
オクタプレニル二リン酸(OPP)、4-ヒドロキシベンゾエート、3-オクタプレニル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-オクタプレニルフェノール、3-オクタプレニルベンゼン-1,2-ジオール、2-メトキシ-6-オクタプレニル-2-メトキシ-1,4-ベンゾキノール、6-メトキシ-3-メチルオクタプレニル-1,4-ベンゾキノール、3-デメチルユビキノール-8、ユビキノール-8、ユビキノン;
2-カルボキシ-1,4-ナフトキノール、デメチルメナキノール-8、メナキノール-8、メナキノン;イソプレノール、プレノール、イソペンテニルリン酸、及びジメチルアリルリン酸;ならびに
プレニル化インドールを含むプレニル化代謝産物及びタンパク質。
項6
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、アビエタジエン、アビエチン酸、アルファ-グアイエン、アルファ-シネンサール、アモルファジエン、アルテミシン酸、ベータ-ビサボレン、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、セラストロール、セロプラストール、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ククルビタン、フォルスコリン、ガスカルジン酸、ゲラニオール、ハスレン、レボピマル酸、リモネン、ルペオール、メントール、メントン、モグロサイド、ヌートカトン、ヌートカトール、オフィオボリンA、パチョリ、ピペリトン、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ロツンドン、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド、タキサジエン、チモール、ウルソール酸、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、項5に記載の方法。
項7
前記ユビキノン生合成経路が下方制御される、項1~6のいずれか1項に記載の方法。
項8
前記株が、IspBの発現または活性の低減を有する、項7に記載の方法。
項9
IspBの発現が改変型リボソーム結合配列(RBS)によって低減される、項8に記載の方法。
項10
前記ispB遺伝子のシャイン-ダルガノ(SD)配列が、CGTGCTもしくはCGTGCCであるか、またはCGTGCTもしくはCGTGCCの1もしくは2ヌクレオチドが変更されたその修飾体である、項8に記載の方法。
項11
前記株が、変更されたispBプロモーターまたはispB RNA分解速度を有する、項8に記載の方法。
項12
前記株が、増加した分解速度を有するIspBタンパク質をコードする、項8に記載の方法。
項13
前記株が、酵素活性を低下させる1つ以上のアミノ酸変化を有するIspBタンパク質;または前記細菌株で活性が低下するIspBオルソログを含む、項8に記載の方法。
項14
前記株が、iscオペロンの誘導性発現または構成的発現を有する、項1~13のいずれか1項に記載の方法。
項15
前記iscR遺伝子が、場合により前記RBSに対する改変によって、全体的にもしくは部分的に欠失されるか、または不活性化されている、項14に記載の方法。
項16
前記iscR遺伝子が誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターで置換されている、項14または15に記載の方法。
項17
前記株が、ryhBの欠失または不活性化を含む、項1~16のいずれか1項に記載の方法。
項18
前記株が、場合によりdxrを含む組換え遺伝子またはオペロンによる補完によって、Dxrを過剰発現する、項1~17のいずれか1項に記載の方法。
項19
前記株が、野生型E.coli Dxrと比較して活性が増加している修飾Dxr酵素またはDxrオルソログを有し、ここで前記オルソログは場合によりBrucella abortus DRL(配列番号8)またはその誘導体である、項18に記載の方法。
項20
前記株が、場合によりIspEを発現する組換え遺伝子またはオペロンによる補完によって、IspE、修飾IspE、及び/またはIspEオルソログを過剰発現する、項18に記載の方法。
項21
前記株が、場合によりIspG及び/またはIspHを発現する組換え遺伝子またはオペロンによる補完によって、IspG及び/またはIspHを過剰発現する、項18~20のいずれか1項に記載の方法。
項22
前記株が、野生型E.coli IspG及び/またはIspHと比較して活性が増加している修飾IspG及び/またはIspH酵素またはオルソログを有する、項21に記載の方法。
項23
前記IspG酵素が、V30、S32、T34、N35、R37、V59、V61、S62、V63、L83、V84、C104、L105、P131、I132、I134、A138、K143、F176、K177、V178、V180、A182、L205、I207、A210、G212、A213、L236、V238、A241、A242、D243、R259、S262、R263、I265、N266、F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289、S301、I302、I303、V306から選択される位置に1つ以上の変異を含む、項22に記載の方法。
項24
前記IspGが、
(1)V30、S32、T34、N35、R37;または
(2)V59、V61、S62、V63、L83、V84;または
(3)C104、L105、S301、I302、I303、V306;または
(4)P131、I132、I134、A138、K143;または
(5)F176、K177、V178、V180、A182;または
(6)L205、I207、A210、G212、A213;または
(7)L236、V238、A241、A242、D243;または
(8)R259、S262、R263、I265、N266;または
(9)F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289から選択される複数の位置に修飾を有する、項23に記載の方法。
項25
前記IspG酵素が以下の変異、L205V、A210S、G212T、及びA213Iのうち1つ、2つ、3つ、またはすべてを有する、項23に記載の方法。
項26
1つ以上の組換えMEP遺伝子がプラスミドから発現されるか、または前記細菌のゲノムに組み込まれる、項18~25のいずれか1項に記載の方法。
項27
前記細菌株が、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させたdxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する、項26に記載の方法。
項28
前記株が、テルペンもしくはテルペノイド力価の増加またはMEP炭素の増加を促進するpgi変異を含む、項1~27のいずれか1項に記載の方法。
項29
前記株が、酵素反応速度論、産物のプロファイル、安定性、及び温度耐性のうちの1つ以上を改善するための1つ以上の変更を有するテルペノイドシンターゼ酵素を含む、項1~28のいずれか1項に記載の方法。
項30
前記株が、場合によりグルコースまたはグリセロールである、C1、C2、C3、C4、C5、及び/またはC6炭素源とともに、好気、微好気、または嫌気条件下で培養される、項1~29のいずれか1項に記載の方法。
項31
前記細菌株が、22℃~37℃の温度で培養される、項30に記載の方法。
項32
前記培養物が少なくとも約100Lである、項31に記載の方法。
項33
前記培養物中のインドールまたはプレニル化インドールの蓄積を監視することをさらに含む、項31に記載の方法。
項34
前記培養物中のDOX、ME、またはMEcPPの蓄積を監視することを含む、項32または33に記載の方法。
項35
前記テルペンまたはテルペノイド産物を回収することをさらに含む、項1~34のいずれか1項に記載の方法。
項36
前記テルペンまたはテルペノイド産物を有機相、疎水相、または水相から回収する、項35に記載の方法。
項37
工業製品または消費者製品を製造する方法であって、項1~36のいずれか1項に記載の方法に従って生産された前記テルペンまたはテルペノイドを前記工業製品または消費者製品に組み込むことを含む、前記方法。
項38
前記工業製品または消費者製品が、着香製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品である、項37に記載の方法。
項39
前記工業製品または消費者製品が、食品、飲料、食感改良剤、医薬品、タバコ製品、栄養補助食品、口腔衛生製品、または化粧品である、項37に記載の方法。
項40
MEP炭素を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有する細菌株であって、前記細菌株は、前記MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介して前記IPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換し、前記遺伝子改変が、
(1)IspBの発現または活性を低下させる改変;
(2)テルペンまたはテルペノイドの生産に使用される条件下で前記iscオペロン内の残りの前記遺伝子の発現を誘導するための、前記iscR遺伝子、及び誘導性または構成的プロモーターのすべてまたは一部の欠失または不活性化;
(3)ryhBの欠失または不活性化;
(4)DOX及び/またはMEが約2g/Lを超えてまたは約1g/Lを超えて蓄積しないような、MEP酵素の発現または活性の変更またはバランス調整;
(5)場合によりispD、ispE、及び/またはispFを含むdxr遺伝子と、ispG及び/またはispH遺伝子とを含むMEP経路の補完;
(6)テルペノイド力価またはMEP炭素の増加を促すpgi(グルコース-6-リン酸イソメラーゼ)の変異から選択される、前記細菌株。
項41
前記株が、少なくともdxr遺伝子及びispE遺伝子によるMEP経路の補完を含む、項40に記載の細菌株。
項42
前記dxr遺伝子が、配列番号4または配列番号8と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有する、項40または41に記載の細菌株。
項43
前記ispB RBSが改変されている、項40~42のいずれか1項に記載の細菌株。
項44
前記ispBのシャイン-ダルガノ(SD)配列が、CGTGCTもしくはCGTGCCであるか、またはCGTGCTもしくはCGTGCCから1もしくは2ヌクレオチドが変更されたSD配列である、項43に記載の細菌株。
項45
前記細菌株が、酵素活性を増加させるように修飾されたIspGまたはIspH酵素による補完を含む、項40~44のいずれか1項に記載の細菌株。
項46
前記細菌株が、V30、S32、T34、N35、R37、V59、V61、S62、V63、L83、V84、C104、L105、P131、I132、I134、A138、K143、F176、K177、V178、V180、A182、L205、I207、A210、G212、A213、L236、V238、A241、A242、D243、R259、S262、R263、I265、N266、F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289、S301、I302、I303、V306から選択される位置に1つ以上の変異を有するIspG酵素を発現する、項45に記載の細菌株。
項47
前記IspG酵素が、
(1)V30、S32、T34、N35、R37;または
(2)V59、V61、S62、V63、L83、V84;または
(3)C104、L105、S301、I302、I303、V306;または
(4)P131、I132、I134、A138、K143;または
(5)F176、K177、V178、V180、A182;または
(6)L205、I207、A210、G212、A213;または
(7)L236、V238、A241、A242、D243;または
(8)R259、S262、R263、I265、N266;または
(9)F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289から選択される複数の位置に修飾を有する、項46に記載の細菌株。
項48
前記IspG酵素が、L205V、A210S、G212T、及びA213Iから選択される、1つ、2つ、3つ、またはすべての修飾を有する、項47に記載の細菌株。
項49
前記株が、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、またはPseudomonas spp.から選択される細菌である、項40~48のいずれか1項に記載の細菌株。
項50
前記細菌の種が、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、またはPseudomonas putidaから選択される、項49に記載の細菌株。
項51
前記細菌株がE.coliである、項50に記載の細菌株。
項52
前記細菌株が、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させたdxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する、項40~51のいずれか1項に記載の細菌株。
項53
前記テルペンまたはテルペノイド産物が、アビエタジエン、アビエチン酸、アルファ-グアイエン、アルファ-シネンサール、アモルファジエン、アルテミシン酸、ベータ-ビサボレン、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、セラストロール、セロプラストール、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ククルビタン、フォルスコリン、ガスカルジン酸、ゲラニオール、ハスレン、レボピマル酸、リモネン、ルペオール、メントール、メントン、モグロサイド、ヌートカトン、ヌートカトール、オフィオボリンA、パチョリ、ピペリトン、ロツンドン、レバウジオシドD、レバウジオシドM、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド、タキサジエン、チモール、ウルソール酸、及びバレンセンから選択される少なくとも1つの化合物を含む、項40~52のいずれか1項に記載の細菌株。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】MEP経路によるテルペノイド生産の概略図である。炭素源としてグルコースを取り入れる細菌細胞を表している。グルコースは、TCAサイクルを経てバイオマスに変換されるか、またはMEP経路を通り目的とするテルペノイド産物になる。グルコースは細胞内に入り、中間体であるグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)によりピルビン酸(PYR)に変換される。PYRとGAPが化合してDOXPを生成し、これがMEPに変換され、(MEcPPを通過して)FPPへの経路に渡される。DOX及びMEは、それぞれDOXP及びMEPの脱リン酸化産物である。DOX、ME、及びMEcPPは細胞外に見られる。MEP経路に送り込まれるフラックスが多いほど、これらの産物が細胞外に多く見られる。これらの副産物は、MEP経路におけるボトルネックのマーカーとして、操作の標的を特定するために使用することができる。黒色の矢印はテルペノイドに対する酵素介在性の生化学反応を示し、薄灰色の矢印は競合する副産物を示し、暗灰色の矢印は細胞外への産物の輸送を示し、白色の矢印は簡潔にするために簡略化された経路を示す。
図2】例示的なテルペノイド産物(産物A)でのMEP経路を介したテルペノイド生産量を向上させるためのE.coli株シャーシに対する遺伝子改変を示す。
図3】株G2から株G4への移行時(図2参照)の産物A株に対する変更を示す。これらの変更により、炭素がMEP生化学経路の「下流」に移動することを可能にし、中間産物プールがDOXP(及び細胞外DOX)からMEP(及び細胞外ME)へと移動する。MEP経路の大きな中間体プールの細胞外蓄積を利用して、炭素フラックスを経路の下流へと移動させ、MEcPPに至らせることを意図する遺伝子工学設計を知ることができる。図3に示す実験では、株G2から株G4への移行で炭素の40%にDOXからMEへの移動が観察される。
図4】産物BでのMEP経路を介したテルペノイド生産量を向上するためのE.coli株シャーシに対する遺伝子改変を示す。pgi変異体の改変は高生産性クローンにおいて同定した。
図5】ryhB及びiscオペロンの関与についての証拠を提供する、トランスクリプトームプロファイリング実験からの結果を示す。E.coliにおいて、産物Aまたは産物Bを生産する下流テルペノイド経路の導入に伴い、ryhBの発現が上方制御され、iscオペロンが一般に下方制御される。
図6】ryhB及びiscオペロン改変の組み合わせ効果を示す。MEPテルペノイド代謝における鉄及び鉄-硫黄(Fe-S)クラスター生化学反応の重要性を考慮して、生産シャーシに産物(産物A)の力価を増加させる一連の改変を実施した。順次、G2産物AシャーシのryhBを欠失させ、次いでiscSの野生型プロモーターを構成的プロモーター配列で置換し、天然のiscR遺伝子を欠失させた。改変のたびに産物Aの力価は増加する。
図7】IspG酵素操作を図示する。野生型E.coli IspG遺伝子の変異ライブラリーを、予測される変化に基づいて構造モデルを設計した(図7A)。ライブラリーは、反応速度、タンパク質の安定性、または株の頑強性を改善するように設計された。特定の変異体を個々の各ライブラリーの配列内の異なった位置に導入した(図7B)。約1000個の多様なispGオルソログに対する配列アラインメントを用いて、合計9つのコンビナトリアルライブラリーを設計した。
図8】産物Aを生産する3つの株における、野生型遺伝子を置き換える野生型E.coli ispG遺伝子の変異ライブラリーのスクリーニングを示す。統合ライブラリーの予備スクリーニングにより、導入変異体の20~40%に生産力価の向上が認められ、最大1.5倍のテルペノイド産物の増加が観察された。
図9】一次スクリーニングから得られたリードの検証及び二次再スクリーニングの結果を示す。G11変異体を産物Aと産物B両方の生産シャーシに組み込んだ。
図10】選択した変異型を、生産株の野生型ispG遺伝子に補足した結果を示す。補足により20%の生産力価の増加がもたらされる。テルペノイド産物を問わずこの向上の完全な橋渡しにより、「汎用シャーシ」が、MEP経路を介していかなるテルペノイドの高濃度生産も促し得るという可能性を示唆している。
図11】天然RBS配列の改変によるispBの翻訳速度の調整が、テルペノイド産物の生産量を向上させることを示す。野生型(WT)ispB RBS(リボソーム結合部位)の様々な変異体を、天然のispB RBS上に導入してタンパク質翻訳を調整した。このようなRBSの変更はテルペノイド生産量に影響を及ぼし、そのうちのいくつかは生産量の向上をもたらす。一次スクリーニングからいくつかのヒットが特定され、産物Aで1.7倍、産物Bで2倍の向上を有する株が得られた。一番左の列は親対照のものであり、これを値1に設定する。リードヒットを繰り返して検証し、完全に配列決定した後、各生産株のリード作製に移る。
図12】ispB RBSの一次スクリーニングで観察された向上を確認する、複製を伴う二次スクリーニングによって検証された4つの変異株を示す。
図13】MEP遺伝子の過剰発現は生産力価の低下を引き起こす。MEP遺伝子の発現レベルが親G5のレベルよりも増加すると、生産されるテルペノイド産物Aは約50%減少し、この減少は、強度の発現(+++)では、それより弱強度の発現(+)よりも悪化する。対照的に、dxrを発現するオペロンにispG及びispH遺伝子を付加すると、生産力価を親のレベルまで回復させることができる。これは、この経路における遺伝子発現を注意深くバランス調整することで高いテルペノイド生産力価が可能になることを示す。
図14】力価は低下するが、MEP経路に入る炭素は増加することを示す。MEP経路の補完操作により、遺伝子発現の変化に応じて産物Aの力価は低下するかまたは同じままであることを示したが、中間体MEP経路代謝産物は著しく濃度が増加した。MEP炭素代謝産物を、正規標準物質に対する液体クロマトグラフィー及び質量分析によって定量し、対照G5株と比較して補完株で著しく増加することがわかった。MEP経路を経て目的産物に至る炭素分子の流れに着目するため、得られる代謝産物濃度をモル濃度換算で表す。MEP中間体の大部分は細胞外で観察され、DOX、ME、及びMEcPPがその大多数を占める。主要な細胞内産物はCDP-MEであり、補完株では蓄積の増加が観察される。dxrの過剰発現は産物Aの力価を2分の1に低下させたが、MEP経路に入り、中間体として蓄積する炭素の量は6倍に上昇した。すなわち、MEP経路へ入る炭素は増加するが、出て行く炭素は減少する。さらに、親G5は主にDOX(及びいくらかのMEcPP)を蓄積したが、(DOXPをMEPに変換する)dxrが増加すると炭素が下流の経路へと移動し、その結果、より多くの炭素がME及びMEcPPとして細胞外にプールされる。さらにdxrに加えてispEの発現が増加すると、MEP経路における炭素量が親G5のほぼ10倍に増加し、その炭素のほぼすべてが下流のMEcPPへと移動した。興味深いことに、dxrに加えてispG及びispHを過剰発現させると、dxrのみの過剰発現と酷似した中間体プロファイルが得られるが、前者の場合には生産力価が2倍になる。
図15図14のMEP経路に蓄積するすべての炭素が最終産物まで問題なく変換された場合に生産されるであろう産物Aの総量を示す。このデータは、空のプラスミドで補完されたG5株と、(+から+++まで増加する様々な発現レベルで)MEP経路遺伝子を発現する同じプラスミド骨格で補完されたG5株との生産潜在能力の比較を示す。MEP経路の総炭素量(図14のように定量)を産物Aの等価物に変換すると、経路を通る炭素フラックスは補完により増加し、これらの株では産物Aの潜在能力がほぼ9倍超になる可能性があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な態様において、本発明は、テルペン及びテルペノイド産物を生産するための細菌株及び方法に関する。ある特定の態様では、本発明は、MEP経路を通る炭素フラックスを向上させる細菌株を提供し、それによってグルコースなどの炭素源を用いた発酵によってテルペン及び/またはテルペノイドの生産収率を増加させる。例えば、いくつかの実施形態では、本方法は、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する細菌株を提供することを含む。この細菌株は、グルコースなどの炭素源を用いて培養すると、MEP経路を介して解糖系に入る炭素の1%超(1%超の「MEP炭素」)を代謝する。いくつかの実施形態では、解糖系に入る炭素の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約17%、または少なくとも約20%がMEP炭素になる。さらに他の実施形態では、解糖系に入る炭素の少なくとも約22%、または少なくとも約25%、または少なくとも約27%がMEP炭素になる。炭素源としてグルコースを用いると、MEP経路に流入する炭素の理論上の最大値は、E.coliの場合の約30%である。いくつかの実施形態では、株はこの理論上のMEP炭素の最大収率を実質的に満たす。これは、この株が最大理論収率の少なくとも約80%をもたらすことを意味する。文献に報告されているMEP炭素の以前の収率は1%未満である。Zhou K,Zou R,Stephanopoulos G,Too H-P(2012)Metabolite Profiling Identified Methylerythritol Cyclodiphosphate Efflux as a Limiting Step in Microbial Isoprenoid Production.PLoS ONE 7(11):e47513.doi:10.1371/journal.pone.0047513を参照のこと。
【0016】
様々な実施形態において、微生物株は、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、またはPseudomonas spp.から選択される細菌である。いくつかの実施形態では、細菌種は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、またはPseudomonas putidaから選択される。いくつかの実施形態では、細菌株はE.coliである。
【0017】
この宿主細菌細胞は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を産生するMEP経路を発現する。グルコースが細胞内に入り、中間体としてのグリセルアルデヒド-3-リン酸(G3PまたはGAP)によりピルビン酸(PYR)に変換される。G3PとPYRが化合して1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DOXP)を生成し、これが2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸(MEP)に変換され、IPP及びDMAPPへの経路に渡される。DOX、ME、及びMEcPPは細胞外に見られる。MEP経路へのフラックスが多いほど、これらの産物が細胞外に多く見られる。図1を参照のこと。
【0018】
MEP(2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸)経路はまた、MEP/DOXP(2-C-メチル-D-エリスリトール4-リン酸/1-デオキシ-D-キシルロース5-リン酸)経路または非メバロン酸経路またはメバロン酸非依存性経路とも呼ばれる。この経路は典型的には以下の酵素の作用を伴う:1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸シンターゼ(Dxs)、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr、またはIspC)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールシンターゼ(IspD)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)、2C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸シンターゼ(IspG)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸レダクターゼ(IspH)、及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(Idi)。MEP経路、ならびにMEP経路を構成する遺伝子及び酵素は、US8,512,988に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、MEP経路を構成する遺伝子として、dxs、dxr(またはispC)、ispD、ispE、ispF、ispG、ispH、idi、及びispAが挙げられる。
【0019】
IPP及びDMAPP(MEP経路の産物)は、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、ジテルペノイド、及びトリテルペノイドを含むテルペン及びテルペノイドの前駆体であり、これらは、香料、芳香剤、化粧品、及び食品の分野において特に有用である。テルペン及びテルペノイドの合成は、プレニルトランスフェラーゼ酵素(例えば、GPPS、FPPS、またはGGPPS)の作用により、IPP及びDMAPP前駆体をゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、またはゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)に変換することによって進行する。そのような酵素は公知であり、例えば、US8,927,241、WO2016/073740、及びWO2016/029153に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「MEP炭素」とは、MEP経路の投入物、中間体、代謝産物、または産物として存在する全炭素を指す。代謝産物には、分解産物などの誘導体、ならびにリン酸化及び脱リン酸化の産物が含まれる。MEP炭素には、テルペノイド合成経路を含む下流経路の産物及び中間体を含む。本開示の目的では、MEP炭素には、MEP経路の以下の投入物、中間体、及び代謝産物を含む:D-グリセルアルデヒド3-リン酸、ピルビン酸、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸、1-デオキシ-D-キシルロース、2-C-メチル-D-エリスリトール-5-リン酸、2-C-メチル-D-エリスリトール、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール、2-ホスホ-4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトール、2C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル4-二リン酸、イソペンテニル二リン酸、及びジメチルアリル二リン酸。MEP炭素には、細胞によって発現する下流のテルペノイド合成経路における中間体及び主要な代謝産物をさらに含む。同一性は使用される経路及び酵素に応じて異なるが、そのような産物には以下が含まれる:ゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)、またはゲラニルファルネシル二リン酸(FGPP);それらのモノリン酸化型であるゲラニルリン酸、ファルネシルリン酸、ゲラニルゲラニルリン酸、またはゲラニルファルネシルリン酸;それらのアルコール類であるゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、またはゲラニルファルネソール;ならびに下流のテルペン及びテルペノイド産物。MEP炭素には、FPPまたはFPPを使用する経路に由来する化合物がさらに含まれ、これには、スクアレン、ウンデカプレニル二リン酸(UPP)、ウンデカプレニルリン酸、オクタプレニル二リン酸(OPP)、4-ヒドロキシベンゾエート、3-オクタプレニル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-オクタプレニルフェノール、3-オクタプレニルベンゼン-1,2-ジオール、2-メトキシ-6-オクタプレニル-2-メトキシ-1,4-ベンゾキノール、6-メトキシ-3-メチルオクタプレニル-1,4-ベンゾキノール、3-デメチルユビキノール-8、ユビキノール-8、ユビキノン、2-カルボキシ-1,4-ナフトキノール、デメチルメナキノール-8、メナキノール-8、及びメナキノンを含む。MEP炭素には、イソプレノール、プレノール、イソペンテニルリン酸、及びジメチルアリルリン酸代謝産物をさらに含む。MEP炭素はさらに、プレニル化インドールを含むプレニル化代謝産物及びタンパク質を含む。MEP炭素(上記中間体及び代謝産物)は、三連四重極(QQQ)質量検出器によるタンデム質量分析(MS/MS)などの質量分析(MS)によって定量することができる。例示的なシステムは、Agilent 6460 QQQである。あるいは、定量的飛行時間型(QTOF)、飛行時間型(TOF)、またはイオントラップ質量検出器を用いる。
【0021】
本発明に従って生産することができる例示的なテルペンまたはテルペノイド産物は、参照により本明細書に組み込まれるUS8,927,241に記載されており、これには、アルファ-グアイエン、アルファ-シネンサール、アモルファジエン、アルテミシン酸、ベータ-ビサボレン、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ゲラニオール、リモネン、メントール、メントン、ミルセン、ヌートカトン、ヌートカトール、パチョリ、ピペリトン、ロツンドン、ローズオキシド、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド(レバウジオシドDまたはレバウジオシドMを含む)、タキサジエン、チモール、及びバレンセンが挙げられる。E.coliの経路を組換えにより構築するための酵素は、参照により本明細書に組み込まれる、US8,927,241、WO2016/073740、及びWO2016/029153に記載されている。
【0022】
いくつかの実施形態では、微生物株は、1つ以上のdxs、ispD、ispF、及び/またはidi遺伝子のうち少なくとも1つの追加コピーを有する。これらは律速を可能にし、オペロンまたはモジュールからプラスミドで発現させることも、または細菌染色体に組み込むこともできる。いくつかの実施形態では、細菌株は、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させたdxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する。これらの実施形態では、この株は、野生型と比較して、MEP経路を通るフラックスを増加させる。dxs、ispD、ispF、及び/またはidiの過剰発現に加え、後述するMEP経路の補完が行われてもよい。
【0023】
様々な実施形態において、FPPと競合する、ユビキノン合成経路またはIspB酵素などの、1つ以上の競合する酵素または経路の発現または活性を下方「調整」することを含む。代わりに、または加えて、本発明は、Fe-S酵素であるIspG及びIspHの高活性を維持するように、Fe-Sクラスタータンパク質の可用性または活性を増加させることを含む。代わりに、または加えて、いくつかの実施形態では、本発明は、例えば、炭素をさらに下流の経路へ流入させることによってMEP炭素を増加させる効果のある有益な変異体またはオルソログの選択による、IspG及び/またはIspHの過剰発現、または発現もしくは活性の調整を含む。代わりに、または加えて、さらなるMEP酵素の補完をメタボロミクスによって評価することで、MEP酵素の補完が、高濃度のMEP炭素をもたらすことを確認することができる。上記及び他の実施形態を以下に詳細に記載する。
【0024】
様々な実施形態において、微生物株は、例えば培養物の光学密度(O.D.)、ピークO.D.、及び/または増殖速度によって決定される、炭素源としてグルコースを用いた株の増殖及び生存率に実質的な影響を与えることなく、MEP炭素の実質的な増加をもたらす。例えば、本明細書に記載の1つ以上の必須遺伝子または経路に対する変更を問わず、微生物株はピークO.D.が約20%を超える低下を示さず、またはいくつかの実施形態では、ピークO.D.が約15%を超える、または約10%を超える、または約5%を超える低下を示さない。いくつかの実施形態では、株は、例えば増殖速度またはピークO.D.を測定することによって決定される、株の増殖または生存率に対して測定可能な影響を示さない。
【0025】
いくつかの実施形態では、ユビキノン生合成経路は、例えば、IPP及びFPP基質を使用するIspBの発現または活性を低減することによって下方制御される。ispB遺伝子は、ユビキノンの合成を制御するオクタプレニル二リン酸シンターゼをコードしており、そのため、IPP及びDMAPP前駆体をFPPシンターゼと直接競合する。IspBは、E.coliの必須遺伝子である。Kainou T,et al.,Dimer formation of octaprenyl-diphosphate Synthase(IspB)is essential for chain length determination of ubiquinone,J.Biol.Chem.276(11):7867-7883(2001)を参照のこと。しかしながら、IspB RBS配列を改変し、mRNAの翻訳を下方調整することによって、細胞内のIspB酵素の量を減少させると、株の増殖及び生存率に実質的なまたは測定可能な影響を及ぼさずに炭素フラックスをテルペノイド組換え経路に移動させることができる。いくつかの実施形態では、IspBの活性または発現は、親株の約80%以下、または親株の約70%以下、または親株の50%以下、または親株の40%以下、または親株の25%に減少する。
【0026】
シャイン-ダルガノ(SD)配列は、細菌中のリボソーム結合部位であり、一般に、開始コドンAUGの約8塩基上流に位置する。このRNA配列は、リボソームをメッセンジャーRNA(mRNA)に動員するのを助け、リボソームを開始コドンに配置することによってタンパク質合成を開始させる。いくつかの実施形態では、ispB遺伝子中の6塩基SD配列は、CGTGCTもしくはCGTGCCに変更されるか、またはCGTGCTもしくはCGTGCCから1もしくは2ヌクレオチドが変更されたその修飾体に変更される。そのような実施形態では、IspB翻訳が下方調整され、E.coliの増殖及び生存率に実質的なまたは測定可能な影響を及ぼすことなく、テルペノイド生合成への炭素フラックスの増加を可能にする。
【0027】
いくつかの実施形態では、IspBの発現または活性は、ispB遺伝子の発現を変更すること、すなわち転写を減少させるためにプロモーター領域を変更すること、またはispB RNAまたはコードタンパク質の分解速度を速めることによって変更される。いくつかの実施形態では、ispB酵素の活性を、ispBアミノ酸配列の変異によって、または細菌株での活性を低下させたispBオルソログの選択によって低下させる。E.coli由来の野生型IspBアミノ酸配列は、本明細書で配列番号3として示されている。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を低下させるために、IspBアミノ酸配列(配列番号3)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位及び/または活性部位への置換を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列(オルソログの配列か変異体の配列かを問わない)は、配列番号3と約50%~約99%の配列同一性、または配列番号3と約60%~約99%の配列同一性、または配列番号3と約70%~約99%の配列同一性、または配列番号3と約80%~約99%の配列同一性、または配列番号3と約90%~約99%の配列同一性、または配列番号3のアミノ酸配列と約95%~約99%の配列同一性を有する。そのような変異体及びオルソログは、Kainou T,et al.,Dimer formation of octaprenyl-diphosphate Synthase(IspB)is essential for chain length determination of ubiquinone,J.Biol.Chem.276(11):7867-7883(2001);またはHan,et al.,Crystal structures of ligand-bound octaprenyl pyrophosphate synthase from Escherichia coli reveal the catalytic and chain-length determining mechanisms Proteins 2015 Jan;83(1):37-45によって知ることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、細菌株は、株のMEP炭素の量を向上させる可能性がある、IspG及び/またはIspHなどのFe-S酵素の生物反応の増強を促進する。MEP経路のIspG及びIspH酵素は鉄-硫黄クラスター酵素であり、これを機能させ、その化学反応を起こすには、活性部位のFe-Sイオンの特別な配置を必要とすることを意味する。これらのFe-Sクラスターは生命に不可欠であるが、それを不活性化する酸素及び酸素化に極めて反応しやすい。嫌気性または好気性いずれかの増殖条件下で、iscRはFe-Sクラスター生合成経路の遺伝子をコードするオペロンiscRSUAの転写を抑制する。iscオペロンの転写を抑制できるようにするには、iscRがFe-S基に結合される必要があるため、iscRによるiscオペロンの抑制は、培地中のFe-Sクラスターの要求量に応答。嫌気性下では、Fe-S基の要求量は好気性下よりも低く、したがってオペロンの抑制は好気性下よりも強い。iscRは、プロモーター配列と重複する2つのDNA結合部位を認識して結合し、iscRSUAオペロンの転写を抑制する。タンパク質がこれらの部位に結合すると、RNAポリメラーゼがプロモーター領域に結合して転写を開始することができなくなる可能性が高い。
【0029】
いくつかの実施形態では、強強度、中強度、または弱強度のいずれかの細菌プロモーターを使用して、テルペンまたはテルペノイドの生産に用いられる条件下でiscオペロンが発現される。プロモーターの強度を変化させて調整することで、テルペノイド産物を向上させることができる。プロモーターは構成的であっても誘導性であってもよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは強力な構成的プロモーターである。
【0030】
iscオペロンのプロモーター及び最初の遺伝子(すなわちiscR)を欠失させ、それを構成的または誘導性プロモーターで置換して、オペロン内の残りの遺伝子の発現を誘導することで、鉄-硫黄クラスター酵素性能の改善が得られる。したがって、いくつかの実施形態では、細菌株(例えばE.coli)は、iscSUAの誘導性または構成的な過剰発現を伴うiscR欠失を含む。E.coliの誘導性及び構成的プロモーターは公知であり、当業者は、オペロンの発現を調整するために選択することができる。様々な実施形態において、iscR遺伝子は完全にまたは部分的に欠失されているか、またはRBSもしくは開始コドンに対する1つ以上の変異によって不活性化されている。いくつかの実施形態では、iscR遺伝子はアミノ酸変異によって不活性化されている。様々な実施形態において、Fe-S酵素制御に対する改変は、E.coliにおけるテルペノイド生産に使用されることが多い好気条件下または微好気条件下を含め、株の増殖または生存率に実質的なまたは測定可能な影響を及ぼすことなく、MEP炭素を増加させる。iscオペロンは、Santos JA,What a difference a cluster makes:The multifaceted roles of IscR in gene regulation and DNA recognition,Biochim.Biophys.Acta 1854(9):1102-12(2015)にさらに概説されている。
【0031】
いくつかの実施形態では、E.coliはryhBの欠失または不活性化を含む。RyhBとは、TCAサイクル及び好気性呼吸連鎖の酵素を含め、含鉄タンパク質の発現を下方制御することによって、低量の鉄条件下での鉄消費を低減する作用をする小分子RNAである。さらに、ryhBはシデロフォアエンテロバクチンの合成を促進する。RyhBは約90nt長の小分子RNAである。RyhBは、iscRとiscSのオープンリーディングフレーム間でのポリシストロン性iscRSUA mRNAの切断を促進する。IscRをコードする5’断片は安定なままであり、iscSUAの3’断片が分解されると思われる。Mandin et al.,(2016)A regulatory circuit composed of a transcription factor,IscR,and a regulatory RNA,RyhB,controls Fe-S cluster delivery,mBio 7(5):e00966-16を参照のこと。様々な実施形態において、ryhBの欠失または不活性化(例えば、ヌクレオチド変異)は、株のスクリーニングまたはテルペノイドの生産に使用される好気、微好気、または嫌気条件下を含め、株の増殖または生存率に実質的なまたは測定可能な影響を及ぼすことなく、MEP炭素を増加させる。
【0032】
いくつかの実施形態では、MEP酵素の発現または活性は、例えばプラスミドにあるかゲノムに組み込まれているかを問わず、追加の酵素コピーによる補完によって、炭素をさらに下流の経路に移動させるように変更またはバランスが調整される。図13に示すように、MEP遺伝子の過剰発現は生産力価の低下を引き起こし得る。例えば、MEP遺伝子の発現レベルが親G5のレベルよりも増加すると、生産されるテルペノイド産物Aは約50%減少し、この減少は、強度の発現(+++)では、それより弱度の発現(+)よりも悪化する。対照的に、dxrを発現するオペロンにispG及びispH遺伝子を付加すると、生産力価を親のレベルまで回復させることができる。これは、この経路における遺伝子発現を注意深くバランス調整することで高いテルペノイド生産力価が可能になることを示す。
【0033】
産物Aの力価はMEPの補完によって低下するかまたは同じままであったが、中間体MEP経路代謝産物は、著しく濃度が増加した。MEP中間体の大部分は細胞外で観察され、DOX、ME、及びMEcPPがその大多数を占める。主要な細胞内産物はCDP-MEであり、補完株では蓄積の増加が観察される。dxrの過剰発現は産物Aの力価を2分の1に低下させたが、MEP経路に入り、中間体として蓄積する炭素の量は6倍に上昇した。すなわち、MEP経路へ入る炭素は増加するが、出て行く炭素は減少する。さらに、親G5は主にDOX(及びいくらかのMEcPP)を蓄積したが、(DOXPをMEPに変換する)dxrが増加すると炭素が下流の経路へと移動し、その結果、より多くの炭素がME及びMEcPPとして細胞外にプールされる。さらにdxrに加えてispEの発現が増加すると、MEP経路における炭素量が親G5のほぼ10倍に増加し、その炭素のほぼすべてが下流のMEcPPへと移動した。興味深いことに、dxrに加えてispG及びispHを過剰発現させると、dxrのみの過剰発現と酷似した中間体プロファイルが得られるが、前者の場合には生産力価が2倍になる。
【0034】
いくつかの実施形態では、細菌株は、dxrまたはそのホモログもしくはオルソログならびにispG及び/またはispHの過剰発現に加え、場合によりispD、ispE、及びispFのうち1つ以上の過剰発現を含む。遺伝子は個別にまたはオペロン内で過剰発現させることができる。追加のコピーは、プラスミドから発現させることも、またはゲノムに組み込むこともできる。dxrの過剰発現により、DOXPはME及びMEcPPへと送られ、ボトルネックが下流に移動する。図1を参照のこと。いくつかの実施形態では、dxr及びispE(またはそのホモログ、オルソログ、もしくは誘導体)が過剰発現され、それによってDOXPが主にMEcPPに送られる。図14を参照のこと。ボトルネックがMEcPPに移行すると、MEP経路の潜在能力が3倍になることを観察できる(図15)。
【0035】
E.coli由来の野生型Dxrアミノ酸配列は、配列番号4として示されている。いくつかの実施形態では、野生型dxr活性は、1つ以上の追加の遺伝子コピーで補完され、この遺伝子コピーは、野生型酵素をコードしても、または酵素活性または安定性を増加させるため、1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入、及び欠失から独立して選択される1~10個の修飾)を有する非天然もしくは修飾酵素をコードしてもよい。いくつかの実施形態では、細菌株は、E.coli酵素よりも高い活性を有するdxrオルソログで補完される。
【0036】
いくつかの実施形態では、細菌株は、Brucella abortus DRL酵素(配列番号8)を発現し、これはE.coli Dxrに対して低い配列相同性を有するDxr様酵素である。Perez-Gil,J.,et al.,2012.Crystal structure of brucella abortus deoxyxylulose-5-phosphate reductoisomerase-like(DRL)enzyme involved in isoprenoid biosynthesis.Journal of Biological Chemistry,287(19),pp.15803-15809。いくつかの実施形態では、DRL酵素は、細菌宿主細胞における活性及び/または発現に関する酵素の性質を改善する1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入、及び欠失から独立して選択される1~10個の修飾)を有する。
【0037】
例えば、様々な実施形態において、細菌株は、配列番号4または8と50%以上の配列同一性、または配列番号4または8のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも97%の配列同一性を有するDxr酵素を過剰発現するかまたはそれにより補完される。いくつかの実施形態では、Dxr酵素は、タンパク質の活性を変化させるために、DxrまたはDRLアミノ酸配列(例えば、配列番号4または8)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入を含み、これには、1つ以上の基質結合部位及び/または活性部位への置換を含む。そのような変異体は、Yajima S,et al.,Structure of 1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate reductoisomerase in a quaternary complex with a magnesium ion,NADPH and the antimalarial drug fosmidomycin,Acta Cryst.F63,466-470(2007)、及びPerez-Gil,et al.,Crystal structure of brucella abortus deoxyxylulose-5-phosphate reductoisomerase-like(DRL)enzyme involved in isoprenoid biosynthesis,Journal of Biological Chemistry,287(19):15803-15809(2012)を含め、当技術分野において利用可能な酵素構造によって知ることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、野生型IspE活性は、1つ以上の追加の遺伝子コピーで補完され、この遺伝子コピーは、野生型酵素をコードしても、または酵素活性または安定性を増加させるため、1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入、及び欠失から独立して選択される1~10個の修飾)を有する修飾酵素をコードしてもよい。いくつかの実施形態では、細菌株は、E.coli酵素または天然細菌酵素よりも高い活性を有するIspEオルソログで補完される。E.coli IspEアミノ酸配列は、配列番号7として示されている。いくつかの実施形態では、細菌株は、ispEまたはその誘導体、ホモログ、もしくはオルソログの少なくとも1つの追加の遺伝子コピーを発現する。いくつかの実施形態では、追加のIspE酵素はE.coli IspEであるか、または酵素の活性及び/または安定性の増加をもたらし得る1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入、及び欠失から独立して選択される1~10個の修飾)を含む。
【0039】
例えば、様々な実施形態において、細菌株は、配列番号7と50%以上の配列同一性、または配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも97%の配列同一性を有するIspE酵素を過剰発現するかまたはそれにより補完される。
【0040】
いくつかの実施形態では、この株は、IspG及び/またはIspHによる補完を含む。いくつかの実施形態では、追加遺伝子は、天然遺伝子と同一もしくは実質的に同一であっても、または活性を増加させるために改変されていても、または天然の細菌(例えばE.coli)酵素よりも活性が高いIspGもしくはIspHのオルソログであってもよい。例えば、IspGに関して、アミノ酸配列は、配列番号5と50%以上の配列同一性、または配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも約97%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、IspGアミノ酸配列(配列番号5)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。E.coliまたは他のIspGに対する改変は、相同性モデルの構築によって知ることができる。例えば、E.coliのIspG相同性モデルの構築に適したホモログは、Lee M,et al.Biosynthesis of isoprenoids:crystal structure of the [4Fe-4S] cluster protein IspG.J Mol Biol.2010 Dec 10;404(4):600-10に開示されている。
【0041】
いくつかの実施形態では、IspG酵素は、V30、S32、T34、N35、R37、V59、V61、S62、V63、L83、V84、C104、L105、P131、I132、I134、A138、K143、F176、K177、V178、V180、A182、L205、I207、A210、G212、A213、L236、V238、A241、A242、D243、R259、S262、R263、I265、N266、F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289、S301、I302、I303、V306から選択される位置に1つ以上の変異を含む。いくつかの実施形態では、以下から選択される複数の位置に修飾が加えられる:(1)V30、S32、T34、N35、R37;または(2)V59、V61、S62、V63、L83、V84;または(3)C104、L105、S301、I302、I303、V306;または(4)P131、I132、I134、A138、K143;または(5)F176、K177、V178、V180、A182;または(6)L205、I207、A210、G212、A213;または(7)L236、V238、A241、A242、D243;または(8)R259、S262、R263、I265、N266;または(9)F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289。
【0042】
いくつかの実施形態では、IspG酵素は以下の変異、L205V、A210S、G212T、及びA213Iのうち1つ、2つ、3つ、またはすべてを有する。
【0043】
さらに、IspHに関して、アミノ酸配列は、配列番号6と50%以上の配列同一性、または配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性、または少なくとも約70%の配列同一性、または少なくとも約80%の配列同一性、または少なくとも約90%の配列同一性、または少なくとも約95%の配列同一性、または少なくとも97%の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質の活性を変化させるために、IspHアミノ酸配列(配列番号6)に対して1~約10個、または1~約5個のアミノ酸の置換、欠失、及び/または挿入が加えられ、これには、1つ以上の基質結合部位または活性部位への置換を含む。IspH酵素に対する修飾は、Grawert,T.,et al.Structure of active IspH enzyme from Escherichia coli provides mechanistic insights into substrate reduction 2009 Angew.Chem.Int.Ed.Engl.48:5756-5759を含め、入手可能なIspH構造によって知ることができる。
【0044】
上記または他の実施形態では、pgi(グルコース-6-リン酸イソメラーゼ)活性変異体(例えば、活性が低下したもの)を組み込んで、潜在的に炭素フラックスを変化させ、生産力価をさらに向上することができる。いくつかの実施形態では、pgiは部分的に欠失または不活性化されている。いくつかの実施形態では、pgiは、生産力価またはMEP炭素に対する酵素の活性を変更または調整するため、1~約30個のアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失(例えば、約1~20、または約1~10個のアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失)を含む。
【0045】
ヌクレオチド及びアミノ酸配列の類似性、すなわち配列同一性の比率は、配列アラインメントによって決定することができる。そのようなアラインメントは、Karlin及びAltschulの数学的アルゴリズム(Karlin&Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877)、hmmalign(HMMERパッケージ、http://hmmer.wustl.edu/)、またはCLUSTALアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.&Gibson,T.J.(1994)Nucleic Acids Res.22,4673-80)などによる、技術分野で公知のいくつかのアルゴリズムを用いて実施することができる。配列同一性(配列一致)の程度は、例えばBLAST、BLAT、またはBlastZ(またはBlastX)を用いて計算することができる。同様のアルゴリズムは、Altschul et al(1990)J.Mol.Biol.215:403-410のBLASTN及びBLASTPに組み込まれている。BLASTポリヌクレオチド検索は、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて実施することができる。
【0046】
BLASTタンパク質検索は、BLASTPプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施することができる。比較目的としてギャップありアラインメントを得るために、Altschul et al(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されるようなGapped BLASTが利用される。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムの初期設定パラメーターを使用する。Shuffle-LAGAN(Brudno M.、Bioinformatics 2003b,19 Suppl 1:154-162)またはマルコフ確率場のような確立された相同性マッピング技術によって、配列一致解析を補完することができる。
【0047】
「保存的置換」は、例えば、関与するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、溶解度、疎水性、親水性、及び/または両親媒性といった性質の類似性に基づいて行うことができる。20種の天然型アミノ酸は、以下の6つの標準アミノ酸群に分類することができる:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;Asn、Gin;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を与える残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0048】
本明細書で使用される場合、「保存的置換」は、あるアミノ酸を上記の6つの標準アミノ酸群の同じ群内に列挙された別のアミノ酸に交換することであると定義される。例えば、AspをGluに交換しても、そのように修飾されたポリペプチドには1つの負電荷が保持される。加えて、グリシンとプロリンとは、α-ヘリックスを妨害するその能力に基づいて、互いに置換可能である。上記の6つの群内でのいくつかの好ましい保存的置換は、以下のサブグループ内での交換である:(i)Ala、Val、Leu、及びIle;(ii)Ser及びThr;(ii)Asn及びGin;(iv)Lys及びArg;ならびに(v)Tyr及びPhe。
【0049】
本明細書で使用される場合、「非保存的置換」は、あるアミノ酸を上記(1)~(6)の6つの標準アミノ酸群の異なる群内に列挙された別のアミノ酸に交換することであると定義される。
【0050】
本明細書に記載の酵素の修飾は、保存的変異及び/または非保存的変異を含み得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、酵素における特異的変異の構築に「合理的設計」を伴う。合理的設計とは、反応熱力学及び反応速度論、3次元構造、活性部位(複数可)、基質(複数可)、及び/または酵素と基質との間の相互作用など、酵素または関連酵素の知見を特異的変異の設計に取り入れることを指す。合理的設計手法に基づいて、酵素に変異を生じさせた後、対照レベルと比較したテルペンまたはテルペノイド生産量の増加についてスクリーニングすることができる。いくつかの実施形態では、相同性モデリングに基づいて、変異を合理的に設計することができる。本明細書で使用される場合、「相同性モデリング」とは、あるタンパク質のアミノ酸配列及び関連する相同タンパク質の3次元構造から、タンパク質の原子分解能モデルを構築する方法を指す。
【0052】
ある特定の実施形態では、細菌細胞は、1つ以上のテルペンまたはテルペノイド化合物を産生する。イソプレノイドとも呼ばれるテルペノイドは、5炭素イソプレン単位(C5)に由来する有機化学物質である。テルペノイドは、テルペノイドに含まれるイソプレン単位の数に基づいて分類され、いくつかの非限定的な例として、ヘミテルペノイド(1イソプレン単位)、モノテルペノイド(2イソプレン単位)、セスキテルペノイド(3イソプレン単位)、ジテルペノイド(4イソプレン単位)、セスタテルペノイド(5イソプレン単位)、トリテルペノイド(6イソプレン単位)、テトラテルペノイド(8イソプレン単位)、及びこれより多数のイソプレン単位を有するポリテルペノイドが挙げられる。一実施形態では、細菌宿主細胞は、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、ジテルペノイド、セステルペノイド、またはトリテルペノイドから選択されるテルペノイドを産生する。テルペノイドとは、食品及び飲料産業はもとより、香料産業、化粧品産業、及びヘルスケア産業を含む多数の商業的用途を提供する多様なクラスの分子を表す。例として、テルペノイド化合物は、香料に(例えばパチョロール)、香味産業で(例えばヌートカトン)、甘味剤として(例えばステビオール)、または治療薬として(例えばタキソール)使用され、従来は多くが植物から抽出されている。それにもかかわらず、テルペノイド分子は本質的にppmレベルで存在するため、商業的用途に足る量を得るには大量の収穫を必要とする。
【0053】
この宿主細胞は一般に、IPP及びDMAPP前駆体からテルペノイドを生産する組換え下流経路を備えることになる。モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セスタテルペン(C25)、及びトリテルペン(C30)などのテルペンは、テルペン(テルペノイド)シンターゼと呼ばれる非常に大きな酵素群の作用によって、プレニル二リン酸基質である、ゲラニル二リン酸(GPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)、ゲラニルファルネシル二リン酸(FGPP)、及びFPPからそれぞれ誘導される。これらの酵素は、反応産物が環化され、様々なモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、セスタテルペン、及びトリテルペン炭素骨格産物を形成しているため、テルペンシクラーゼと呼ばれる場合が多い。得られた炭素骨格の多くは、シトクロムP450酵素による後続の酸素化を受けて、大きなファミリーの誘導体となる。
【0054】
ジテルペン及びセスキテルペン骨格に作用する例示的なシトクロムP450酵素は、参照により本明細書に組み込まれるWO2016/073740及びWO2016/029153に記載されている。さらに、本明細書に記載の細菌株に使用されるシトクロムP450レダクターゼタンパク質は、WO2016/029153及びWO2016/073740に記載されている。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明の産物は1つ以上の酸素化テルペノイドである。本明細書で使用される場合、用語「酸素化テルペノイド」とは、1つ以上の酸素化事象を有し、対応するアルコール、アルデヒド、カルボン酸、及び/またはケトンを生成するテルペン骨格を指す。いくつかの実施形態では、細菌細胞は、アビエタジエン、アビエチン酸、アルファ-シネンサール、アルテミシン酸、ベータ-ツジョン、カンファー、カルベオール、カルボン、セラストロール、セロプラストール、シネオール、シトラール、シトロネラール、クベボール、ククルビタン、フォルスコリン、ガスカルジン酸(Gascardic Acid)、ゲラニオール、ハスレン、レボピマル酸、リモネン、ルペオール、メントール、メントン、モグロサイド、ヌートカトン、ヌートカトール、オフィオボリンA、パチョリ、ピペリトン、レバウジオシドD(RebD)、レバウジオシドM(RebM)、サビネン、ステビオール、ステビオールグリコシド、タキサジエン、チモール、及びウルソール酸から選択される少なくとも1つのテルペノイドを産生する。
【0056】
いくつかの実施形態では、例えば、本明細書に組み込まれるWO2016/029153及びWO2016/073740に開示されるように、テルペノイドシンターゼ酵素を上方制御して、酵素の反応速度、安定性、産物プロファイル、及び/または温度耐性を増強する。
【0057】
別の実施形態では、細菌細胞はバレンセン及び/またはヌートカトンを産生する。そのような実施形態では、細菌細胞は、ファルネシル二リン酸シンターゼ、バレンセンシンターゼ、及びバレンセンオキシダーゼをさらに含む生合成経路を発現させることができる。ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)からファルネシル二リン酸を生成する。例示的なファルネシル二リン酸シンターゼは、Saccharomyces cerevisiaeのERG20(NCBIアクセッション番号P08524)及びE.coli ispAである。バレンセンシンターゼはセスキテルペン骨格を生成し、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2012/0107893、US2012/0246767、及びUS7,273,735に記載されている。バレンセン及び/またはヌートカトンを含むテルペノイド産物を生産するための遺伝子及び宿主細胞は、参照により本明細書に組み込まれるWO2016/029153に記載されている。
【0058】
一実施形態では、細菌細胞はステビオールまたはステビオールグリコシド(例えば、RebDまたはRebM)を産生する。ステビオールは、2つのP450酵素、カウレンオキシダーゼ(KO)、及びカウレン酸ヒドロキシラーゼ(KAH)の作用によってカウレンから生産される。ステビオールの生産後に、一連のグリコシル化反応を経て、様々なステビオールグリコシド産物を生産することができる。これは、in vitroまたはin vivoで行われ得る。ステビオール及びステビオールグリコシドを生産するための経路及び酵素は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2013/0171328、US2012/0107893、WO2012/075030、WO2014/122328に開示されている。WO2016/073740はさらに、RebMを生産するための酵素及び細菌宿主細胞を開示している。
【0059】
テルペンまたはテルペノイド化合物を生産するための他の生合成経路は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS8,927,241に開示されている。
【0060】
テルペノイド産物を産生させるとともに、MEP経路のフラックスを増強させる細菌宿主細胞を培養する。いくつかの実施形態では、C1、C2、C3、C4、C5、及び/またはC6炭素基質などの炭素基質をテルペンまたはテルペノイド産物の生産に用いる。例示的実施形態では、炭素源はグルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、及び/またはグリセロールである。培養条件は、一般に、好気性、微好気性、及び嫌気性から選択される。
【0061】
様々な実施形態において、細菌宿主細胞は、22℃~37℃の温度で培養され得る。E.coliなどの細菌中での商業的生合成は、過剰発現酵素及び/または外来酵素(例えば、植物由来の酵素)が安定である温度によって制限される可能性があるが、組換え酵素(テルペノイドシンターゼを含む)は、より高温で培養物を維持することを可能にするように操作できるため、収率及び全体生産性をより高めることができる。いくつかの実施形態では、培養は、約22℃以上、約23℃以上、約24℃以上、約25℃以上、約26℃以上、約27℃以上、約28℃以上、約29℃以上、約30℃以上、約31℃以上、約32℃以上、約33℃以上、約34℃以上、約35℃以上、約36℃以上、または約37℃で実施される。
【0062】
いくつかの実施形態では、細菌宿主細胞が、商業規模での商業生産にさらに適している。いくつかの実施形態では、培養物の規模は、少なくとも約100L、少なくとも約200L、少なくとも約500L、少なくとも約1,000L、または少なくとも約10,000Lである。一実施形態では、培養は、バッチ培養、連続培養、または半連続培養で実施することができる。
【0063】
様々な実施形態において、方法には、細胞培養物または細胞溶解物からテルペンまたはテルペノイド産物を回収することをさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも約100mg/L、または少なくとも約200mg/L、または少なくとも約500mg/L、または少なくとも約1g/L、または少なくとも約2g/L、または少なくとも約5g/L、または少なくとも約10g/L、または少なくとも約20g/L、または少なくとも約30g/L、または少なくとも約40g/Lのテルペンまたはテルペノイド産物が培養物から生産される。
【0064】
いくつかの実施形態では、インドール(プレニル化インドールを含む)の生産量がテルペノイド生産量の代用マーカーとして使用され、及び/または培養物中のインドールの蓄積を制御して生産量を増加させる。例えば、様々な実施形態において、培養物中のインドールの蓄積は、約100mg/L未満、または約75mg/L未満、または約50mg/L未満、または約25mg/L未満、または約10mg/L未満に制御される。インドールの蓄積は、US8,927,241(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の多変数モジュラー手法を用いてタンパク質の発現及び活性のバランスを調整することによって制御することができ、及び/または化学的手段によって制御される。
【0065】
テルペン及びテルペノイドの効率的生産についての他のマーカーとして、培養培地中のDOXまたはMEの蓄積が挙げられる。一般に、本明細書に記載の細菌株は、これらの化学種をあまり蓄積することがなく、培養物中の蓄積が、約5g/L未満、または約4g/L未満、または約3g/L未満、または約2g/L未満、または約1g/L未満、または約500mg/L未満、または約100mg/L未満である。
【0066】
MEP経路遺伝子の操作、ならびに上流経路及び下流経路の操作によるテルペンまたはテルペノイド生産の最適化は、単純な線形過程または加法過程になるとは予測されない。むしろ、組み合わせ論によって、MEP経路の構成成分ならびに上流経路及び下流経路のバランスをとることにより最適化が達成される。培養物中でのインドール(プレニル化インドールを含む)の蓄積及びMEP代謝産物の蓄積(例えば、DOX、ME、MEcPP、及び/またはファルネソール)を、この過程の指標となる代用マーカーとして使用することができる。
【0067】
例えば、いくつかの実施形態では、細菌株は、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させた(プラスミドにある、またはゲノムに組み込まれた)dxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有し、MEP炭素を改善するための本明細書に記載の追加のMEP経路で補完される。例えば、細菌株は、dxr、ならびにispG及び/またはispHのさらなるコピーに加え、場合によりispE及び/またはidiのさらなるコピーを有してもよく、これらの遺伝子の発現は、MEP炭素を増加させるように、及び/またはテルペンもしくはテルペノイドの力価を向上させるように調整されている。様々な実施形態において、細菌株は、少なくともdxr、ispE、ispG、及びispHのさらなるコピーに加え、場合によりidiのさらなるコピーを有し、これらの遺伝子の発現は、MEP炭素を増加させるように、及び/またはテルペンもしくはテルペノイドの力価を向上させるように調整されている。
【0068】
遺伝子モジュールを含む遺伝子及び/またはタンパク質の発現の操作は、様々な方法によって達成することができる。例えば、遺伝子またはオペロンの発現を、異なる強度(例えば、強、中、または弱)を有する、誘導性または構成的プロモーターなどのプロモーターの選択によって制御することができる。強度の異なるプロモーターのいくつかの非限定的な例としては、Trc、T5、及びT7が挙げられる。加えて、遺伝子またはオペロンの発現を、細胞内の遺伝子またはオペロンのコピー数を操作することによって制御することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子またはオペロンの発現を、モジュール内の遺伝子の順序を操作することによって制御することができる。その場合、最初に転写された遺伝子が一般に、より高レベルで発現する。いくつかの実施形態では、遺伝子またはオペロンの発現は、1つ以上の遺伝子またはオペロンの染色体への組み込みによって制御される。
【0069】
適切なプロモーター及びリボソーム結合部位の選択によってタンパク質発現の最適化も達成することができる。いくつかの実施形態では、これには、高コピー数プラスミド、または単一コピー数、低コピー数、もしくは中コピー数プラスミドの選択を含み得る。転写終結の段階を対象として、ステムループなどの構造の導入または排除によって遺伝子発現を制御することもできる。
【0070】
発現に必要なすべての要素が含まれた発現ベクターが市販されており、当業者に知られている。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989を参照のこと。細胞は、異種DNAの細胞への導入によって遺伝子操作される。異種DNAは、宿主細胞内での異種DNAの発現が可能になるように、転写要素の機能的制御下に置かれる。
【0071】
遺伝子の補完とは対照的に、いくつかの実施形態では内因性遺伝子が編集される。編集により、内因性プロモーター、リボソーム結合配列、または他の発現制御配列を変更することができ、及び/またはいくつかの実施形態では、遺伝子制御におけるトランス作用性因子及び/またはシス作用性因子が変更される。ゲノム編集は、CRISPR/Casゲノム編集技術、またはジンクフィンガーヌクレアーゼ及びTALENを使用する類似の技術を用いて行うことができる。いくつかの実施形態では、内因性遺伝子は相同組換えによって置換される。
【0072】
いくつかの実施形態では、遺伝子コピー数を制御することによって遺伝子を少なくとも部分的に過剰発現させる。異なるコピー数を有するプラスミドを用いて遺伝子コピー数を制御すると利便であるが、遺伝子重複及び染色体組み込みもまた用いることができる。例えば、遺伝的に安定なタンデム遺伝子複製のための方法が、US2011/0236927に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0073】
テルペンまたはテルペノイド産物は任意の好適な方法で回収することができ、これには、望ましい産物を有機相または疎水相に分配することを含む。あるいは、水相を回収して、及び/または全細胞バイオマスを回収して、さらに処理することもできる。望ましい産物の生産量は、例えばガスクロマトグラフィー(例えばGC-MS)によって決定及び/または定量することができる。望ましい産物は、バッチ式または連続式バイオリアクターシステムで生産することができる。産物の生産、その産物の回収及び/または分析は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2012/0246767に記載されるように実施することができる。例えば、いくつかの実施形態では、産生油を、ヘプタンまたはドデカンなどのアルカンのような有機溶媒を使用して水性反応媒から抽出した後、分別蒸留する。他の実施形態では、植物油などの疎水相を使用して水性反応媒から産生油を抽出した後、有機溶媒抽出及び分別蒸留を行う。画分のテルペン及びテルペノイド成分を、GC/MSによって定量的に測定した後、画分を混合して、所望する産物プロファイルを生成することができる。
【0074】
様々な実施形態において、回収されたテルペンまたはテルペノイドが、製品(例えば、消費者製品または工業製品)に組み込まれる。例えば、製品は、着香製品、芳香製品、甘味剤、化粧品、洗浄製品、洗剤もしくは石鹸、または害虫駆除製品であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、回収される産物にはヌートカトンを含み、製品は飲料、チューインガム、キャンディー、もしくは香味添加剤から選択される着香製品であるか、または製品は虫除け剤もしくは殺虫剤である。いくつかの実施形態では、酸素化産物はステビオールまたはステビオールグリコシド(例えば、RebM)であり、これは甘味料として提供されるか、または原材料、香料、飲料、または食品に組み込まれる。
【0075】
本発明はさらに、本明細書で生産されるテルペンまたはテルペノイドを組み込むことにより、食品、飲料、食感改良剤(例えば、デンプン、繊維、ガム、脂肪及び脂肪模倣物、ならびに乳化剤)、医薬品、タバコ製品、栄養補助食品、口腔衛生製品、及び化粧品などの製品を製造する方法を提供する。本発明の実施形態で生産されるような種の収率は高いため、大幅なコスト上の利点に加え、持続可能性をもたらすことができる。
【0076】
他の態様では、本発明は、MEP炭素を増加させる1つ以上の遺伝子改変を有するE.coliなどの細菌細胞を提供する。様々な実施形態において、この細菌細胞は、MEP経路を介してイソペンテニル二リン酸(IPP)及びジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を生産し、かつ、下流合成経路を介してIPP及びDMAPPをテルペンまたはテルペノイド産物に変換する。下流合成経路は一般に組換え経路であり、プレニルトランスフェラーゼ、テルペンシンターゼ、ならびに場合により1つ以上のシトクロムP450酵素及びシトクロムP450レダクターゼ酵素(例えば、それぞれ上記の通り)を含み得る。さらに、MEP炭素を向上させるために、E.coliは、以下の遺伝子改変のうちの1つ以上を有する:
(1)IspBの発現または活性の低下。場合によりRBSの改変によるものであり、及び場合により、ispB遺伝子中の6塩基SD配列は、CGTGCTもしくはCGTGCCに変更されているか、またはCGTGCTもしくはCGTGCCから1もしくは2ヌクレオチドが変更されたその修飾体に変更される;
(2)テルペンまたはテルペノイドの生産に使用される条件下でiscオペロン(例えば、iscSUA)内の残りの遺伝子の発現を誘導するための、iscR遺伝子、及び構成的または誘導性プロモーターのすべてまたは一部の欠失または不活性化;
(3)ryhBの欠失または不活性化;
(4)DOX及び/またはMEが約2g/Lまたは約1g/Lを超えて蓄積しないような、MEP酵素の発現または活性の変更またはバランス調整;
(5)dxr遺伝子(場合により、ispD、ispE、及び/またはispFを含む)ならびにispG及び/またはispH遺伝子を含むMEP経路の補完。その場合、IspGまたはIspHは、場合により酵素活性を増加させるように修飾され、IspGは場合により、V30、S32、T34、N35、R37、V59、V61、S62、V63、L83、V84、C104、L105、P131、I132、I134、A138、K143、F176、K177、V178、V180、A182、L205、I207、A210、G212、A213、L236、V238、A241、A242、D243、R259、S262、R263、I265、N266、F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289、S301、I302、I303、V306から選択される位置に1つ以上の変異を有し;場合により、以下から選択される複数の位置に修飾を有する:(1)V30、S32、T34、N35、R37;または(2)V59、V61、S62、V63、L83、V84;または(3)C104、L105、S301、I302、I303、V306;または(4)P131、I132、I134、A138、K143;または(5)F176、K177、V178、V180、A182;または(6)L205、I207、A210、G212、A213;または(7)L236、V238、A241、A242、D243;または(8)R259、S262、R263、I265、N266;または(9)F267、I268、A269、T272、S274、Q276、E277、F278、D289;及び場合により、L205V、A210S、G212T、及びA213Iのうち1つ、2つ、3つ、またはすべて。
(6)テルペノイド力価の増加またはMEP炭素の増加を促すpgi(グルコース-6-リン酸イソメラーゼ)の変異。
【0077】
いくつかの実施形態では、細菌株は、オペロン/モジュールとして発現させたdxs及びidi;またはオペロンもしくはモジュールとして発現させた(プラスミドにある、またはゲノムに組み込まれた)dxs、ispD、ispF、及びidiのうち、少なくとも1つの追加コピーを有する。さらに、細菌株は、dxr、ispE、ならびにispG及び/またはispHのさらなるコピーを有してもよく、これらの遺伝子の発現は、MEP炭素を増加させるように及び/またはテルペンもしくはテルペノイドの力価を向上させるように調整されている。
【0078】
様々な実施形態において、細菌株は、上記の(1)~(6)によって定義される少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または6つすべての改変を含む。
【0079】
本明細書の他の箇所に開示されているように、組換え遺伝子の補完によって遺伝子を過剰発現させることも、または内因性遺伝子を改変して発現を変化させることもできる。
【0080】
細菌株は、Escherichia spp.、Bacillus spp.、Corynebacterium spp.、Rhodobacter spp.、Zymomonas spp.、Vibrio spp.、及びPseudomonas spp.から選択される細菌である。例えば、細菌株は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Rhodobacter capsulatus、Rhodobacter sphaeroides、Zymomonas mobilis、Vibrio natriegens、またはPseudomonas putidaから選択される種である。いくつかの実施形態では、細菌株はE.coliである。
【0081】
本発明の態様及び実施形態を、以降の実施例を参照して以下でさらに説明する。
【実施例
【0082】
実施例1:Fe-Sタンパク質の可用性が増加すると、蓄積はDOXからMEに移動する
図3に示すように、G2(図2に記載)は、3.45g/Lのテルペノイド産物に相当する主要な細胞外代謝産物(DOX+ME+MEcPP)を産生する。これと比較して、Fe-Sタンパク質を増加させるための改変を含まない株では、主としてDOXが7g/Lである。G4はまた、テルペノイド産物の蓄積が56%高かった。遺伝子改変には、iscオペロンの過剰発現を伴うΔryhB、ΔiscRが含まれる。
【0083】
別のテルペノイド産物(産物B)を生産するように操作されたE.coli株についても同様の結果が得られ、3.26g/Lのテルペノイド産物に相当するDOX+ME+MEcPPを示した。追加の改変には、1.4倍の改善をもたらすpgiに対する改変、及びispBの翻訳の調整が含まれる。図4を参照のこと。
【0084】
図5に示されるように、トランスクリプトーム配列決定、及び操作された生産株を野生型E.coliと比較する分析により、生産株の改変表現型におけるryhB及びiscオペロンの関与について有力な証拠が得られた。本発明者らの操作株でryhB遺伝子は強く上方制御されているのに対して、iscR調節遺伝子は非常に強く下方制御されている。
【0085】
図6に示すように、ryhBの欠失、iscSUAの構成的過剰発現への切換え、及びiscRの欠失による一連の改変により、段階的に生産力価が増加する株が得られる。
【0086】
実施例2:MEP経路のフラックスを向上させるためのispGの操作
野生型ispG遺伝子を変異型に置き換えることにより、ispGの活性部位を組み合わせ的に変化させた一連のライブラリーを作成し、in vivoで試験した。ispGの操作により、酵素の反応速度、安定性、及び頑強性を改善することで、Fe-Sクラスターの生化学反応がMEP経路を通るフラックスに及ぼす影響を軽減することができる。約1000個の多様なispGオルソログの配列アラインメントを用いて、基質及び鉄-硫黄クラスター結合部位を標的とする9個の活性部位のコンビナトリアルライブラリーを設計した(図7A、7B)。
【0087】
図8は、2つのバックグラウンド株におけるセスキテルペン生産力価の増加に関する、ispGコンビナトリアルライブラリーの一次スクリーニングの結果を示す。スクリーニングは96DWPにて37℃で48時間実施する。両方のバックグラウンド株(ispHの過剰発現の有無を問わない)を用いた合計約30の変異体で同様の能力が見られ、テルペノイド生産力価が1.2~1.45倍の向上を示した。
【0088】
リード変異体を再スクリーニングし、その結果を図9に示した。2つのispG変異体が、Fe-Sタンパク質の可用性を増加させるように操作された株よりも約1.2倍のテルペン生産力価の向上を示した。リード変異体G11は、以下の変異、L205V、A210S、G212T、及びA213Iを有する。
【0089】
リード変異体をリードテルペノイド生産株に組み込み、その生産力価を図10に示す。ispG Lib6 G11の組み込みにより、両方の株で生産量に1.2倍の向上をもたらした。
【0090】
実施例3:ispBの翻訳の操作
ispB遺伝子は、ユビキノンの合成を制御するオクタプレニル二リン酸シンターゼをコードしており、そのため、IPP及びDMAPP前駆体をFPPシンターゼと直接競合する。ispBのRBS配列を改変し、mRNAの翻訳を下方調整することによって、細胞内のispB酵素の量を減少させることにより、炭素フラックスを組換えテルペノイド経路に移動させることができた。
【0091】
図11に示すように、ispB RBSライブラリーの一次スクリーニングから、テルペン/テルペノイド生産量に最大1.7倍の向上が得られる、いくつかの潜在的ヒットを特定する。図12に示すようにリードヒットを検証した。テルペノイド生産量に1.5倍の向上が得られる2つの一意なヒットを特定した。これは以下のSD配列、CGTGCT及びCGTGCCを有するものであった。
【0092】
実施例4:MEP経路の補完
図13に示すように、dxrを単独で、またはispD、ispE、及びispFと組み合わせて過剰発現させると、生産量が最大2分の1に減少する。ispG-ispHを追加すると、生産量は元のレベルに戻る。
【0093】
図14に示すように、メタボロミクス分析では、ispEを含まないdxrの過剰発現が細胞外ME及び細胞内CDP-MEの蓄積をもたらすことを示している。ispEの過剰発現により、代謝産物プールがME及びCDP-MEからMEcPPへと移動する。本実施例では、株を96ウェルプレート中にて37℃で48時間増殖させる。終点で細胞培養物のOD600を測定した後、次の2つの試料に分割する。第1の試料は酢酸エチルで抽出し、産物Aを分析及び定量する。対する第2の試料は遠心分離して細胞をペレット化し、上清を細胞外MEP代謝産物について分析する一方、細胞ペレットをさらに処理して細胞内MEP代謝産物を抽出する。テルペノイド産物を含む有機相試料をガスクロマトグラフィー及び質量分析(GC/MS)により分析する一方、細胞外及び細胞内代謝産物試料を液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC/MS)により分離及び分析する。LC/MS検出器はトリプル四重極装置であり、正規標準物質に対するMEP代謝産物の正確な定量が可能である。MEP経路を経て目的産物に至る炭素分子の流れに着目するため、得られる代謝産物濃度をモル濃度換算で表す。
【0094】
図15に示すように、dxrまたはdxr-ispEをMEPに補完した産物A G5株のメタボロミクス分析はさらに、得られた株でのMEPフラックスの潜在能力の増加が、潜在的な産物A力価の増加に変換されていることを示す。これらの株培養物について測定された産物及びMEP代謝産物の濃度をモル濃度に変換し、産物Aに対する各MEP代謝産物の炭素当量を算出する。すなわち、1個のMEcPP分子は5個の炭素を含むため、それぞれ1個が、イソペンテニル二リン酸(IPP、5個の炭素を含む)1分子、または1/3個のセスキテルペン産物A分子(15個の炭素を含む)に換算される。この方法では、炭素が問題なくMEcPPを通り下流に流入される場合、この株によって生産された潜在的な産物Aの合計を算出することができる。MEP遺伝子間での発現バランスを調整すると、最大12倍多くの産物Aを得ることができる。
配列表
配列番号1(改変シャイン-ダルガノ配列1):
配列番号2(改変シャイン-ダルガノ配列2):
配列番号3(E.coli IspB)
配列番号4(E.coli Dxr)
配列番号5(E.coli IspG)
配列番号6(E.coli IspH)
配列番号7(Brucella abortusデオキシキシルロース-5-リン酸レダクトイソメラーゼ様(DRL))
配列番号8(E.coli ispE)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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