(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】状態監視装置、および状態監視装置を備える風力発電装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240209BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20240209BHJP
F03D 17/00 20160101ALI20240209BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20240209BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240209BHJP
G01M 13/045 20190101ALI20240209BHJP
【FI】
G01M99/00 A
F03D1/06 A
F03D17/00
F16C19/52
F16C41/00
G01M13/045
(21)【出願番号】P 2020000302
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷場 隆
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-173321(JP,A)
【文献】特開2013-011232(JP,A)
【文献】特開2018-092232(JP,A)
【文献】特開2010-169439(JP,A)
【文献】特開平04-372022(JP,A)
【文献】国際公開第2014/167888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D1/00-80/80
G01D18/00-21/02
G01M13/00-13/045,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガ信号を受信したことに応じて計測処理を実行する状態監視装置であって、
受信されたトリガ信号の種類に基づいて前記受信されたトリガ信号の優先度を設定する設定部と、
前記計測処理を実行する計測処理部とを備え、
前記計測処理部は、前記トリガ信号が受信された場合で、かつ前記受信されたトリガ信号の優先度よりも低い優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、実行中の計測処理を中断して前記受信されたトリガ信号に対応する計測処理を開始
し、
前記計測処理部は、前記トリガ信号が受信された場合で、かつ前記受信されたトリガ信号の優先度と同じ優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、前記受信されたトリガ信号を登録しておき、実行中の計測処理の完了後に引き続いて、前記登録されたトリガ信号に対応する計測処理を実行する、状態監視装置。
【請求項2】
トリガ信号を受信したことに応じて計測処理を実行する状態監視装置であって、
受信されたトリガ信号の種類に基づいて前記受信されたトリガ信号の優先度を設定する設定部と、
前記計測処理を実行する計測処理部とを備え、
前記計測処理部は、前記トリガ信号が受信された場合で、かつ前記受信されたトリガ信号の優先度よりも低い優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、実行中の計測処理を中断して前記受信されたトリガ信号に対応する計測処理を開始し、
前記計測処理部は、
第1優先度のトリガ信号が受信された場合で、かつ前記第1優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、前記受信されたトリガ信号を破棄して実行中の計測処理を継続し、
前記第1優先度よりも優先度の高い第2優先度のトリガ信号が受信された場合で、かつ前記第2優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、前記受信されたトリガ信号を登録しておき、実行中の計測処理の完了後に引き続いて、登録されたトリガ信号に対応する計測処理を実行する
、状態監視装置。
【請求項3】
前記計測処理部は、前記トリガ信号が受信された場合で、かつ前記受信されたトリガ信号の優先度よりも高い優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、前記受信されたトリガ信号を破棄して実行中の計測処理を継続する、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記計測処理は、風力発電装置に備えられる軸受の振動の計測値を出力する処理を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の状態監視装置を備える、風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トリガ信号を受信したことに応じて機械要素の状態を監視するための計測処理を実行する状態監視装置に関し、特に、風力発電装置用の状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置においては、風力を受けるブレードに接続される主軸を回転させ、増速機により主軸の回転を増速させた上で発電機のロータを回転させることによって発電が行なわれる。主軸、増速機および発電機の回転軸の各々は、転がり軸受によって回転自在に支持されており、そのような軸受の状態を軸受に固設された振動センサによる計測データを用いて診断する状態監視システムが知られている。
【0003】
このような風力発電装置用の状態監視システムのなかには、トリガ信号を受信したことに応じて振動センサによる計測を行なう計測処理を実行する状態監視装置を備えたシステムも存在している(たとえば、特開2019-52964号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トリガ信号を受信したことに応じて振動計測処理を実行する風力発電機用の状態監視システムにおいては、トリガ信号を発生するトリガ発生源が状態監視装置の外部あるいは内部に設けられる。トリガ発生源は、指定時刻になると定時トリガ信号を状態監視装置に出力する。状態監視装置は、トリガ発生源から定時トリガ信号を受信したことに応じて、定時トリガ信号に対応する計測処理(以下「定時計測処理」ともいう)を一定時間実行する。
【0006】
風力発電装置では、落雷、地震、突風といった突発的な事象が軸受および歯車の損傷の要因となり得る。そのため、このような突発的な事象が発生した際のデータは、風力発電装置の状態を診断するために有効なデータになり得る。しかしながら、上述の定時計測処理では指定時刻に達するまでは計測処理が開始されないため、定時計測では突発的な事象が発生した際のデータを計測することは難しい。そのため、突発的な事象の発生した際に、トリガ発生源が、定時トリガ信号とは別のトリガ信号(以下「イベントトリガ信号」ともいう)を発生するようにし、イベントトリガ信号に対応する計測処理(以下「イベント計測処理」ともいう)を実行することが望ましい。
【0007】
定時計測処理は指定時刻毎に繰り返し実行されるため、定時計測処理においてはデータ量を抑えた処理が実行される。また、運転していない状態のときは計測を実施しないなど、計測データ量を抑えた運用も実施される。一方、イベント計測処理は突発的に実行されるとともに計測データが風力発電装置の診断に用いられるため、より詳細なデータを得るためにデータ量を多くする処理が実行される。そのため、イベント計測処理の内容は定時計測処理の内容とは異なっており、かつ、イベント計測処理は定時計測処理よりも優先度が高いと言える。
【0008】
状態監視装置が定時計測処理の実行中にイベントトリガ信号を受信した場合に、仮に実行中の定時計測処理の完了後にイベント計測処理を開始するようにすると、優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れてしまうことが想定される。その対策として、定時計測処理とイベント計測処理とを並列で同時に実行することも不可能ではないが、並列処理に対応するための処理装置(CPU(Central Processing Unit)およびメモリなど)の増設が必要となり、さらには小型の風力発電装置内に増設用のスペースを確保することが難しい場合も想定される。
【0009】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、処理装置を増設することなく、優先度の高い計測処理の開始タイミングが遅れることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本開示による状態監視装置は、トリガ信号を受信したことに応じて計測処理を実行する。この状態監視装置は、受信されたトリガ信号の種類に基づいて受信されたトリガ信号の優先度を設定する設定部と、計測処理を実行する計測処理部とを備える。計測処理部は、トリガ信号が受信された場合で、かつ受信されたトリガ信号の優先度よりも低い優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、実行中の計測処理を中断して受信されたトリガ信号に対応する計測処理を開始する。
【0011】
(2) ある態様においては、計測処理部は、トリガ信号が受信された場合で、かつ受信されたトリガ信号の優先度よりも高い優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、受信されたトリガ信号を破棄して実行中の計測処理を継続する。
【0012】
(3) ある態様においては、計測処理部は、トリガ信号が受信された場合で、かつ受信されたトリガ信号の優先度と同じ優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、受信されたトリガ信号を登録しておき、実行中の計測処理の完了後に引き続いて、登録されたトリガ信号に対応する計測処理を実行する。
【0013】
(4) ある態様においては、計測処理部は、第1優先度のトリガ信号が受信された場合で、かつ第1優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、受信されたトリガ信号を破棄して実行中の計測処理を継続する。計測処理部は、第1優先度よりも優先度の高い第2優先度のトリガ信号が受信された場合で、かつ第2優先度のトリガ信号に起因する計測処理の実行中である場合、受信されたトリガ信号を登録しておき、実行中の計測処理の完了後に引き続いて、登録されたトリガ信号に対応する計測処理を実行する。
【0014】
(5) ある態様においては、計測処理は、風力発電装置に備えられる軸受の振動の計測値を出力する処理を含む。
【0015】
(6) 本開示による風力発電装置は、上記の状態監視装置を備える風力発電装置である。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によると、計測処理部は、トリガ信号が受信された場合で、かつ受信されたトリガ信号よりも優先度の低い計測処理の実行中である場合、実行中の計測処理を中断した上で、受信されたトリガ信号に対応する計測処理を開始する。これにより、優先度の低い計測処理の実行中であることによって優先度の高い計測処理の開始タイミングが遅れることが抑制される。さらに、優先度の低い実行中の計測処理は中断されるため、並列処理に対応するための処理装置を増設する必要はない。その結果、処理装置を増設することなく、優先度の高い計測処理の開始タイミングが遅れることを抑制することができる。その結果、必要とされるタイミングでデータが計測され、そのデータに基づいて計測対象となる装置の異常の有無を精度よく判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】状態監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
【
図2】状態監視システムの構成を機能的に示す機能ブロック図である。
【
図3】状態監視装置の詳細構成を機能的に示す機能ブロック図である。
【
図4】トリガ信号の優先度および計測種類の設定に用いられ設定テーブルの一例を示す図である。
【
図5】状態監視装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】状態監視装置によって実行される計測処理のパターンを例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る状態監視装置80が適用される風力発電装置10の構成を概略的に示した図である。風力発電装置10は、主軸20と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸用軸受(以下、単に「軸受」と称する。)60と、振動センサ70と、状態監視装置80とを備える。増速機40、発電機50、軸受60、振動センサ70および状態監視装置80は、ナセル90内に格納される。ナセル90は、タワー100によって支持される。
【0020】
主軸20は、ナセル90内に進入して増速機40の入力軸に接続され、軸受60によって回転自在に支持される。そして、主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。ブレード30は、主軸20の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。
【0021】
軸受60は、ナセル90内において固設され、主軸20を回転自在に支持する。軸受60は、転がり軸受によって構成され、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、玉軸受等によって構成される。なお、これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0022】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤ、中間軸および高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。なお、特に図示はしないが、増速機40内にも、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。
【0023】
発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、発電機50内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0024】
振動センサ70は、軸受60に固設される。振動センサ70は、軸受60の振動波形を計測し、計測した振動波形データを状態監視装置80へ出力する。振動センサ70は、たとえば、圧電素子を用いた加速度センサによって構成される。
【0025】
状態監視装置80は、ナセル90内に設けられる。状態監視装置80は、振動センサ70に接続され、振動センサ70による検出結果を一定時間保存する。そして、状態監視装置80は、外部機器からトリガ信号を受信したことに応じて、振動センサ70による検出結果を用いた計測処理を実行し、計測処理によって得られたデータ(以下「計測データ」ともいう)を外部のデータサーバに送信する。
【0026】
図2は、
図1に示した振動センサ70および状態監視装置80を含む状態監視システム1の構成を機能的に示す機能ブロック図である。状態監視システム1は、上述の振動センサ70および状態監視装置80に加えて、トリガ発信源となる外部機器200と、データサーバ300とを含む。
【0027】
振動センサ70および状態監視装置80は、上述したようにナセル90の内に設けられる。一方、外部機器200およびデータサーバ300はナセル90の外部に設けられる。
【0028】
外部機器200は、外部から検知信号が入力された場合に、検知信号に対応したトリガ信号を有線通信あるいは無線通信によって状態監視装置80に出力する。外部機器200に入力される検知信号には、「定時検知信号Da」と、「イベント検知信号Db」とが含まれる。「定時検知信号Da」は、予め定められた指定時刻になったことを示す信号である。「イベント検知信号Db」は、風力発電装置10の損傷の要因となり得る突発的な事象が検知されたことを示す信号である。イベント検知信号Dbには、異常振動が検知されたことを示す信号、落雷が検知されたことを示す信号、基準値を超える温度変動が検知されたことを示す信号、基準値を超える風速変化が検知されたことを示す信号、基準値を超える風向変化が検知されたことを示す信号、非常停止が検知されたことを示す信号などが含まれる。
【0029】
外部機器200は、外部から定時検知信号Daが入力された場合、定時検知信号Daに対応する「定時トリガ信号A」を状態監視装置80に出力する。外部機器200は、外部からイベント検知信号Dbを受信した場合、イベント検知信号Dbに対応する「イベントトリガ信号B」を状態監視装置80に出力する。外部機器200としては、PLC(Programmable Logic Controller)、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)、計測用コンピュータなどがある。
【0030】
なお、
図1には1つの外部機器200が示されているが、外部機器200は複数に分割されてもよい。また、
図1には外部機器200がナセル90の外部に設けられる場合が示されているが、外部機器200はナセル90の内部に設けられてもよい。たとえば、定時トリガ信号Aを出力する機能を有する外部機器をナセル90の内部に設け、イベントトリガ信号Bを出力する機能を有する外部機器をナセル90の外部に設けるようにしてもよい。
【0031】
状態監視装置80は、外部機器200からトリガ信号(定時トリガ信号Aあるいはイベントトリガ信号B)を受信したことに応じて、振動センサ70による検出結果を用いた計測処理を実行し、計測処理によって得られた計測データをデータサーバ300に送信(アップロード)する。
【0032】
図3は、状態監視装置80の詳細構成を機能的に示す機能ブロック図である。状態監視装置80は、トリガ検出部81と、トリガ設定部82と、計測処理部83と、定時計測設定部85と、イベント計測設定部86と、データ記憶部87と、アップロード部88とを含む。
【0033】
トリガ検出部81は、外部機器200からのトリガ信号を受信すると、トリガ信号を受信した時刻を記憶するとともに、受信したトリガ信号に対応する優先度および計測種類を設定するようにトリガ設定部82に要求する。トリガ設定部82は、トリガ検出部81から受信したトリガ信号に対応する優先度および計測種類を設定し、その結果をトリガ設定結果としてトリガ検出部81に送信する。
【0034】
図4は、トリガ信号の優先度および計測種類の設定に用いられる設定テーブルの一例を示す図である。
図4に示すように、この設定テーブルでは、定時トリガ信号Aに対しては、計測種類として「定時計測」が設定され、優先度として「0」が設定される。イベントトリガ信号Bに対しては、計測種類として「イベント計測」が設定され、優先度として「1」が設定される。なお、優先度「1」は、優先度「0」よりも高いことを意味する。トリガ設定部82は、
図4に示すような設定テーブルを参照して、トリガ検出部81から受信したトリガ信号に対応する優先度および計測種類を設定し、その結果をトリガ設定結果としてトリガ検出部81に送信する。
【0035】
図3に戻って、トリガ検出部81は、トリガ設定部82からトリガ設定結果を受信すると、トリガ設定部82から受信したトリガ設定結果を、トリガ信号を受信した時刻とともに計測処理部83に通知する。
【0036】
計測処理部83は、トリガ検出部81からの通知に従った計測処理を実行するように構成される。計測処理部83は、トリガ検出部81から通知されたトリガ設定結果に含まれる計測種類が「定時計測」である場合、定時計測設定部85に対して定時計測の処理内容を設定するように要求する。定時計測設定部85は、計測処理部83からの要求に応じて、定時計測処理の内容を設定し、設定した処理内容を計測処理部83に返信する。本実施の形態においては、定時計測処理は、「定時トリガ信号Aを受信した時から所定時間Taが経過するまでの期間の計測データをデータサーバ300に出力する」という内容に設定される。
【0037】
一方、トリガ検出部81から通知されたトリガ設定結果に含まれる計測種類が「イベント計測」である場合、計測処理部83は、イベント計測設定部86に対して、イベント計測処理の内容を設定するように要求する。イベント計測設定部86は、計測処理部83からの要求に応じて、イベント計測処理の内容を設定し、設定した処理内容を計測処理部83に返信する。本実施の形態において、イベント計測処理は、「イベントトリガ信号Bを受信した時よりも所定時間遡った時から、所定時間Tbが経過するまでの期間の計測データをデータサーバ300に出力する」という内容に設定される。このように、イベント計測処理の内容は、定時計測処理の内容と異なっている。
【0038】
なお、上記の定時計測処理およびイベント計測処理の内容はあくまで例示であって、上記の内容に限定されるものではない。たとえば、定時計測処理は常時繰り返し実施される処理であることに鑑みデータ量を抑える処理とし、イベント計測処理ではより詳細なデータを得るためにデータ量を多くする処理とするようにしてもよい。
【0039】
計測処理部83は、定時計測設定部85あるいはイベント計測設定部86から受信した処理内容に従ってデータ記憶部87に記憶されている計測データを読み出してアップロード部88に出力する。
【0040】
計測処理部83は、定時計測処理を実行する場合、定時トリガ信号Aを受信した時から所定時間Taが経過するまでの期間の計測データを送信するようにデータ記憶部87に要求する。計測処理部83は、イベント計測処理を実行する場合、イベントトリガ信号Bを受信した時よりも所定時間遡った時から、所定時間Tbが経過するまでの期間の計測データを送信するようにデータ記憶部87に要求する。
【0041】
データ記憶部87は、振動センサ70による計測データを常時取得して、計測時刻とともに、一定期間(上述の所定時間Ta、Tbよりも十分に長い期間)保存する。データ記憶部87は、保存されている計測データのうちから、計測処理部83から要求された期間の計測データを読み出して計測処理部83に送信する。計測処理部83は、データ記憶部87から受信した計測データをアップロード部88に出力する。
【0042】
アップロード部88は、計測処理部83から受信した計測データを、トリガ信号を受信した時刻、およびトリガ設定部82によるトリガ設定結果とともに、有線通信あるいは無線通信によってデータサーバ300に出力(アップロード)する。
【0043】
データサーバ300は、アップロード部88から受信した計測データに基づいて、風力発電装置10の状態を診断する処理を行なう。
【0044】
<トリガ信号および計測処理の優先度>
定時計測処理は、指定時刻毎に繰り返し実行される。これに対し、イベント計測処理は落雷、地震、突風といった突発的な事象が発生した場合に実行され、イベント計測処理で得られる計測データは風力発電装置10の診断に用いられる。そのため、イベント計測処理は、定時計測処理よりも優先度が高いと言える。
【0045】
しかしながら、定時計測処理の実行中にイベントトリガ信号Bを受信した場合に、仮に実行中の定時計測処理の完了後にイベント計測処理を開始するようにすると、優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れてしまうことが想定される。その対策として、定時計測処理とイベント計測処理とを並列で同時に実行することも不可能ではないが、並列処理に対応するための処理装置(CPUおよびメモリなど)の増設が必要となり、さらには小型の風力発電装置10のナセル90内に増設用のスペースを確保することが難しい場合も想定される。
【0046】
上記の点に鑑み、本実施の形態による状態監視装置80は、外部機器200から受信したトリガ信号に対して優先度を設定する。具体的には、上述したように、定時トリガ信号Aの優先度を「0」に設定し、イベントトリガ信号Bの優先度を0よりも高い「1」に設定する。そして、状態監視装置80は、イベントトリガ信号Bが受信された場合で、かつイベントトリガ信号Bの優先度「1」よりも低い優先度「0」の定時トリガ信号Aに起因する定時計測処理の実行中である場合、実行中の定時計測処理を中止して、受信されたイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を開始する。これにより、優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れることを抑制することができる。
【0047】
図5は、状態監視装置80が計測処理を実行する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する毎(たとえば所定周期毎)に繰り返し実行される。状態監視装置80は、まず、外部機器200からトリガ信号を受信したか否かを判定する(ステップS10)。
【0048】
[トリガ信号を受信した場合]
状態監視装置80が外部機器200からトリガ信号を受信した場合(ステップS10においてYES)、状態監視装置80は、上述の
図4に示す設定テーブルを参照して、今回受信したトリガ信号の優先度が「1」であるか否か(すなわちイベントトリガ信号Bであるか否か)を判定する(ステップS20)。
【0049】
(優先度「1」のイベントトリガ信号Bを受信した場合)
受信したトリガ信号の優先度が「1」である場合(ステップS20においてYES)、すなわちイベントトリガ信号Bを受信した場合、状態監視装置80は、今回受信したイベントトリガ信号Bの優先度「1」と同じ優先度「1」であるイベント計測処理の実行中であるか否かを判定する(ステップS22)。
【0050】
イベント計測処理の実行中である場合(ステップS22においてYES)、状態監視装置80は、今回受信したイベントトリガ信号Bを登録しておく(ステップS24)。これにより、実行中のイベント計測処理はそのまま継続される。その後、状態監視装置80は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0051】
なお、ステップS24で登録されたイベントトリガ信号Bは、次回以降の演算サイクルにおいて「登録済トリガ信号」として扱われる。なお、登録済トリガ信号に対応するイベント計測処理は、後述するように、実行中のイベント計測処理の完了後に引き続いて実行される。
【0052】
イベント計測処理の実行中でない場合(ステップS22においてNO)、状態監視装置80は、今回受信したイベントトリガ信号Bの優先度よりも低い優先度「0」である定時計測処理の実行中であるか否かを判定する(ステップS26)。
【0053】
定時計測処理の実行中でない場合(ステップS26においてNO)、状態監視装置80は、今回受信したイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を実行する(ステップS30)。
【0054】
一方、定時計測処理の実行中である場合(ステップS26においてYES)、状態監視装置80は、実行中の定時計測処理を中断し(ステップS28)、今回受信したイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を実行する(ステップS30)。
【0055】
(優先度「0」の定時トリガ信号Aを受信した場合)
受信したトリガ信号の優先度が「0」である場合(ステップS20においてNO)、すなわち定時トリガ信号Aを受信した場合、状態監視装置80は、受信した定時トリガ信号Aの優先度よりも高い優先度「1」であるイベント計測処理の実行中であるか否かを判定する(ステップS40)。
【0056】
イベント計測処理の実行中である場合(ステップS40においてYES)、状態監視装置80は、受信した定時トリガ信号Aを破棄する(ステップS46)。これにより、実行中の優先度「1」のイベント計測処理が継続される。
【0057】
イベント計測処理の実行中でない場合(ステップS40においてNO)、状態監視装置80は、受信した定時トリガ信号Aの優先度と同じ優先度「0」である定時計測処理の実行中であるか否かを判定する(ステップS42)。定時計測処理の実行中である場合(ステップS42においてYES)、状態監視装置80は、受信した定時トリガ信号Aを破棄する(ステップS46)。これにより、実行中の優先度「0」の定時計測処理が継続される。
【0058】
定時計測処理の実行中でない場合(ステップS42においてNO)、状態監視装置80は、今回受信した定時トリガ信号Aに対応する定時計測処理を実行する(ステップS44)。
【0059】
[トリガ信号を受信していない場合]
次に、ステップS10においてトリガ信号を受信していないと判定された場合(ステップS10においてNO)の処理について説明する。この場合、状態監視装置80は、優先度「1」であるイベント計測処理の実行中であるか否かを判定する(ステップS11)。イベント計測処理の実行中である場合(ステップS11においてYES)、状態監視装置80は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0060】
イベント計測処理の実行中でない場合(ステップS11においてNO)、状態監視装置80は、登録済トリガ信号があるか否かを判定する(ステップS12)。登録済トリガ信号は、前回以前の演算サイクルのステップS24において登録されたイベントトリガ信号Bである。登録済トリガ信号がない場合(ステップS12においてNO)、状態監視装置80は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0061】
登録済トリガ信号がある場合(ステップS12においてYES)、状態監視装置80は、登録済トリガ信号に対して、ステップS20以降の処理を行なう。すなわち、状態監視装置80は、登録済トリガ信号は優先度「1」のイベントトリガ信号BであるためステップS20においてYESと判定し、さらにステップS11で判定したとおり優先度「1」のイベント計測処理の実行中ではないためステップS22においてNOと判定し、ステップS30において登録済トリガ信号に対応するイベント計測処理を実行する。
【0062】
ステップS30の後、状態監視装置80は、登録済トリガ信号を破棄する(ステップS32)。すなわち、本実施の形態による状態監視装置80は、登録済トリガ信号が複数存在する場合であっても、1つ目の登録済トリガ信号に対応するイベント計測処理を実行したことに伴って、2つ目以降の登録済トリガ信号を破棄する。これにより、2つ目以降の登録済トリガ信号に対応するイベント計測処理は実行されない。
【0063】
図6は、状態監視装置80によって実行される計測処理のパターンを例示した図である。
図6において、横軸は時刻を示し、縦軸は上から順にそれぞれ計測処理のパターン(1)~(5)を示す。なお、
図6においては、いずれのパターン(1)~(5)においても、指定時刻t10,t20,t30に定時トリガ信号Aが発生する例が示されている。
【0064】
パターン(1)では、いずれの時刻においても、イベントトリガ信号Bは発生していない。この場合、状態監視装置80は、指定時刻t10,t20,t30において定時トリガ信号Aを受信する毎に定時計測処理を実行する。なお、本実施の形態において、定時計測処理は、上述したように、定時トリガ信号Aを受信した時から所定時間Taが経過するまでの期間の計測データをデータサーバ300に出力する処理である。
【0065】
パターン(2)では、定時計測処理が実行されていない時刻t11に、イベントトリガ信号Bが発生している。この場合、状態監視装置80は、時刻t11にイベントトリガ信号Bを受信したことに応じてイベント計測処理を実行する。なお、本実施の形態において、イベント計測処理は、上述したように、イベントトリガ信号Bを受信した時よりも所定時間遡った時から、所定時間Tbが経過するまでの期間の計測データをデータサーバ300に出力する処理である。なお、パターン(2)においては、定時計測処理が実行される期間とイベント計測処理が実行される期間とが重ならないため、各処理が通常どおり実行される。
【0066】
パターン(3)では、指定時刻t20に受信した定時トリガ信号Aに対応する定時計測処理の実行中である時刻t21にイベントトリガ信号Bが発生している。この場合、状態監視装置80は、時刻t21にイベントトリガ信号Bを受信したことに応じて、実行中の定時計測処理を中断し、時刻t21に受信したイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を実行する。これにより、優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れることが抑制される。そのため、優先度の高いイベント計測処理による計測データの取り逃しを防止することが可能になる。さらに、実行中の定時計測処理を中断した上でイベント計測処理を実行するため、並列処理に対応するための処理装置を増設する必要はない。その結果、処理装置を増設することなく、優先度の高い計測処理の開始タイミングが遅れることを抑制することができる。
【0067】
パターン(4)では、指定時刻t14に受信したイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理の実行中に指定時刻t20に達して定時トリガ信号Aが発生している。この場合、指定時刻t20に発生した定時トリガ信号Aは破棄され、実行中のイベント計測処理が継続される。これにより、処理装置を増設することなく、優先度の高いイベント計測処理を継続することができる。
【0068】
パターン(5)では、時刻t11で発生したイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理の実行中において、時刻t12に1つ目のイベントトリガ信号Bが発生し、その後の時刻t13に2つ目のイベントトリガ信号Bが発生している。この場合、1つ目のイベントトリガ信号Bは、登録済トリガ信号として登録され、実行中のイベント計測処理の完了後に引き続いて実行される。これにより、優先度の高いイベントトリガ信号Bを破棄することなく計測データを取得することが可能となる。
【0069】
2つ目のイベントトリガ信号Bは、一旦は登録済トリガ信号として登録されるが、1つ目のイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理が実行された時点で破棄される。これにより、不必要にイベント計測処理が継続されることが抑制される。
【0070】
また、パターン(5)では、時刻t11に発生した1つ目のイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理の実行中に指定時刻t20に達して定時トリガ信号Aが発生している。この場合、パターン(4)と同様、指定時刻t20に発生した定時トリガ信号Aは破棄され、実行中のイベント計測処理が継続される。
【0071】
以上のように、本実施の形態による状態監視装置80は、トリガ設定部82と、計測処理部83とを備える。トリガ設定部82は、受信されたトリガ信号の種類に基づいて受信されたトリガ信号の優先度を設定する。計測処理部83は、イベントトリガ信号Bが受信された場合で、かつ受信されたイベントトリガ信号Bよりも優先度の低い定時計測処理の実行中である場合、実行中の定時計測処理を中断して、受信されたイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を開始する。これにより、優先度の低い定時計測処理の実行中であることによって優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れることが抑制される。さらに、優先度の低い実行中の定時計測処理は中断されるため、並列処理に対応するための処理装置を増設する必要はない。その結果、処理装置を増設することなく、優先度の高いイベント計測処理の開始タイミングが遅れることを抑制することができる。その結果、必要とされるタイミングでデータが計測され、そのデータに基づいて計測対象となる風力発電装置10のの異常の有無を精度よく判断することができる。
【0072】
さらに、本実施の形態による計測処理部83は、定時トリガ信号Aが受信された場合で、かつ受信された定時トリガ信号Aよりも優先度の高いイベント計測処理の実行中である場合、受信された定時トリガ信号Aを破棄して実行中のイベント計測処理を継続する。これにより、処理装置を増設することなく、優先度の高いイベント計測処理を継続することができる。
【0073】
さらに、本実施の形態による計測処理部83は、イベントトリガ信号Bが受信された場合で、かつ受信されたイベントトリガ信号Bと同じ優先度のイベント計測処理の実行中である場合、受信されたイベントトリガ信号Bを登録しておき、実行中のイベント計測処理の完了後に引き続いて、登録されたイベントトリガ信号Bに対応するイベント計測処理を実行する。これにより、優先度の高いイベントトリガ信号Bを破棄することなく計測データを取得することが可能となる。
【0074】
さらに、本実施の形態による計測処理部83は、優先度「0」の定時トリガ信号Aが受信された場合で、かつ受信された定時トリガ信号Aと同じ優先度「0」の定時計測処理の実行中である場合、受信された定時トリガ信号Aを破棄して実行中の定時計測処理を継続する。これにより、優先度の低い定時計測処理が不必要に継続されることを抑制することができる。
【0075】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 状態監視システム、10 風力発電装置、20 主軸、30 ブレード、40 増速機、50 発電機、60 軸受、70 振動センサ、80 状態監視装置、81 トリガ検出部、82 トリガ設定部、83 計測処理部、85 定時計測設定部、86 イベント計測設定部、87 データ記憶部、88 アップロード部、90 ナセル、100 タワー、200 外部機器、300 データサーバ。