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特許7433063装飾用マーキングペンセット、これを有するエアブラシキット、及び装飾方法
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  • 特許-装飾用マーキングペンセット、これを有するエアブラシキット、及び装飾方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】装飾用マーキングペンセット、これを有するエアブラシキット、及び装飾方法
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/02 20060101AFI20240209BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240209BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20240209BHJP
   B43K 8/00 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B43K8/02 120
C09D11/54
C09D11/17
B43K8/00 110
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020011665
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021115800
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 敬幸
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208332(JP,A)
【文献】特開2019-189671(JP,A)
【文献】特開2016-142840(JP,A)
【文献】特開2019-206151(JP,A)
【文献】特開2017-048317(JP,A)
【文献】特開2004-051673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/02
C09D 11/54
C09D 11/17
B43K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤及びアルミニウム顔料を含有している油性インクを充填した第一のマーキングペン、並びに水及び染料を含有している水性インクを充填した第二のマーキングペンを少なくとも含み、
被着色体の表面に、前記第一のマーキングペンの筆記部に向かう方向へと空気を噴射することにより、前記第一のマーキングペンの筆記部に付着している前記油性インクを、この筆記部から広がるようにして飛散させることにより塗布して乾燥させ、次いで、
前記第二のマーキングペンの筆記部に向かう方向へと空気を噴射して、塗布した前記油性インク上に、前記第二のマーキングペンの筆記部に付着している前記水性インクを、前記第二のマーキングペンの筆記部から広がるようにして飛散させることにより塗布するためのものである、
装飾用マーキングペンセット。
【請求項2】
前記アルミニウム顔料が、リーフィングタイプである、請求項1に記載の装飾用マーキングペンセット。
【請求項3】
前記アルミニウム顔料が、蒸着アルミニウムである、請求項1又は2に記載の装飾用マーキングペンセット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のマーキングペンセット、及び
前記マーキングペンセットの前記第一及び第二のマーキングペンを交換可能に取り付けることができる、エアブラシ
を具備しており、
前記第一のマーキングペンを前記エアブラシに取り付けた状態において、前記エアブラシから噴き出す空気を介して、前記第一のマーキングペンの前記油性インクを飛散させることができ、かつ
前記第二のマーキングペンを前記エアブラシに取り付けた状態において、前記エアブラシから噴き出す空気を介して、前記第二のマーキングペンの前記水性インクを飛散させることができる、
エアブラシキット。
【請求項5】
被着色体の表面に、請求項4に記載のエアブラシキットを用いて、アルミニウム顔料を含有している油性インクを塗布して乾燥させ、次いで、塗布した前記油性インク上に、請求項4に記載のエアブラシキットを用いて染料を含有している水性インクを塗布する、装飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用マーキングペンセット、これを有するエアブラシキット、及び装飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、描画等の分野において、インクを飛散させて霧状になし、その霧状のインクを紙などに吹き付けることにより描画などを可能とするエアブラシが用いられている。空気噴射部材をエアブラシ本体に取り付けられることが従来行われていたが、かかるエアブラシは、インクの交換を円滑に行うことができないという問題や、インク詰まり等の問題を生じることがあった。
【0003】
これに対し、このような問題を少なくとも部分的に解消しているエアブラシ、例えば筆記具を取付けて、そのペン先に空気を噴射して当てて、ペン先に滲出したインクを飛散させて霧状になし、その霧状のインクを紙などに吹き付けることにより描画などを可能とするエアブラシが種々提案されている。
【0004】
特許文献1では、エアブラシ及び筆記具を具備しており、エアブラシから噴き出す空気を介して、水性インク組成物を噴射させる、エアブラシユニットであって、筆記具は、水性インク組成物を含有しており、かつ水性インク組成物は、隠蔽性顔料を含有しており、かつ剪断速度9.6~76.6/sにおける剪断減粘指数が0.4~0.8である、エアブラシユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-189671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
良好な光沢感及び鮮やかさを兼ね備えたメタリックカラーへのニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉有機溶剤及びアルミニウム顔料を含有している油性インクを充填した第一のマーキングペン、並びに水及び染料を含有している水性インクを充填した第二のマーキングペンを少なくとも含む、装飾用マーキングペンセット。
〈態様2〉前記アルミニウム顔料が、リーフィングタイプである、態様1に記載の装飾用マーキングペンセット。
〈態様3〉前記アルミニウム顔料が、蒸着アルミニウムである、態様1又は2に記載の装飾用マーキングペンセット。
〈態様4〉態様1~3のいずれか一項に記載のマーキングペンセット、及び
前記マーキングペンセットの前記第一及び第二のマーキングペンを交換可能に取り付けることができる、エアブラシ
を具備しており、
前記第一のマーキングペンを前記エアブラシに取り付けた状態において、前記エアブラシから噴き出す空気を介して、前記第一のマーキングペンの前記油性インクを飛散させることができ、かつ
前記第二のマーキングペンを前記エアブラシに取り付けた状態において、前記エアブラシから噴き出す空気を介して、前記第二のマーキングペンの前記水性インクを飛散させることができる、
エアブラシキット。
〈態様5〉被着色体の表面に、アルミニウム顔料を含有している油性インクを塗布して乾燥させ、次いで、塗布した前記油性インク上に、染料を含有している水性インクを塗布する、装飾方法。
〈態様6〉態様4に記載のエアブラシキットを用いて前記油性インク及び前記水性インクを塗布する、態様5に記載の装飾方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な光沢感及び鮮やかさを兼ね備えたメタリックカラーをもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の装飾方法により得たインク膜の断面図を示している。
図2図2は、従来の方法により得たインク膜の1つの態様の断面図を示している。
図3図3は、従来の方法により得たインク膜の他の態様の断面図を示している。
図4図4は、マーキングペンを組み合わせたエアブラシユニットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《装飾用マーキングペンセット》
本発明の装飾用マーキングペンセットは、有機溶剤及びアルミニウム顔料を含有している油性インクを充填した第一のマーキングペン、並びに水及び染料を含有している水性インクを充填した第二のマーキングペンを少なくとも含む。
【0011】
本発明者らは、上記の構成によれば、良好な光沢感及び鮮やかさを兼ね備えたメタリックカラーをもたらすことができることを見出した。このことを、以下で具体的に説明する。
【0012】
ます、図2(a)に示すように、油性インク10にアルミニウム顔料12及び色材14を分散させて塗布した場合、図2(b)に示すように、アルミニウム顔料12がインク膜の表層に配列し、その結果、色材14による色彩が鮮やかに現れないことがあった。
【0013】
また、図3(a)に示すように、アルミニウム顔料12を含有している第一の油性インク10を塗布して乾燥させ、次いで、塗布したこの第一の油性インク10上に色材を含有している第二の油性インク10’を塗布すると、第一の油性インク10の表層が、第二の油性インク10’により溶解し、その結果、図3(b)に示すように、第一の油性インク10により形成されたインク膜の表層に配列したアルミニウム顔料12の配列が崩れ、光沢感が損なわれることがあった。
【0014】
これに対し、本発明では、図1に示すように、アルミニウム顔料12を含有している油性インク10を塗布して乾燥させ、次いで、塗布したこの油性インク10上に染料24を含有している水性インク20を塗布して乾燥させることにより、油性インク10によるインク膜の表層を溶解させずに水性インクによるインク膜を配置できる。その結果、油性インク10によるインク膜の表層のアルミニウム顔料12の配列を崩すことなく、染料24による彩色をすることができ、それによって、良好な光沢感及び鮮やかさを兼ね備えたメタリックカラーをもたらすことができる。
【0015】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0016】
〈第一のマーキングペン〉
第一のマーキングペンは、油性インクを含有している。第一のマーキングペンは、インク貯蔵部、筆記部及び保持部を具備していてよく、この場合、インク貯蔵部には、油性インクが貯蔵されていてよい。
【0017】
ここで、本明細書において「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味するものであり、当業者により「サインペン」として言及されるペンも含まれる。
【0018】
特に、本発明のマーキングペンは、インク貯蔵部と筆記部との間にバルブを更に有するバルブ式マーキングペンであることが、良好なインク流出性を得る観点から好ましい。
【0019】
(油性インク)
油性インクは、有機溶剤及びアルミニウム顔料を含有している。油性インクは、樹脂を更に含有していてもよい。
【0020】
油性インクは、上記の有機溶剤及びアルミニウム顔料、並びに随意の樹脂を、ディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法で製造することができる。
【0021】
(油性インク:有機溶剤)
有機溶剤としては、例えば芳香族類、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類、エステル類等を用いることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0022】
芳香族類としては、例えばベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等を用いることができる。
【0023】
アルコール類としては、例えばエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、3-ペンタノール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-オクタノール、2-エチルヘキサノール、3,5,5-トリメチルヘキサノール、ノナノール、n-デカノール、ウンデカノール、n-デカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール等を用いることができる。
【0024】
多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,3ブタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等を用いることができる。
【0025】
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0026】
炭化水素類としては、例えばヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類を用いることができる。
【0027】
エステル類としては、例えばプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、トリメチル酢酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、カプリル酸トリグリセライド、クエン酸トリブチルアセテート、オキシステアリン酸オクチル、プロピレングリコールモノリシノレート、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、3-メトキシブチルアセテート等を用いることができる。
【0028】
これら有機溶剤のうち、筆跡の乾燥速度、筆記面への密着性、エアブラシと組み合わせて用いた場合のインク吐出性、塗工面の均一性、安全性等の理由から、エチルアルコール、及び/又はプロピレングリコールモノメチルエーテルを、インク組成物中の有機溶剤のうち50質量%以上含むことが好ましい。さらに、筆跡の乾燥速度の調整等を目的としてベンジルアルコール、及び/又はエチレングリコールモノフェニルエーテルを併用してもよい。
【0029】
(油性インク:アルミニウム顔料)
本発明に用いるアルミニウム顔料は、一般に、アルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造することができる。油性インク用の顔料等として用いられているものであれば、その製造法、性状(粉状、ペースト状等)、粒子の大きさ(平均粒子径、厚み)などは、特に限定されるものではない。
【0030】
アルミニウム顔料は、例えば、インク膜の表層に配列するリーフィングタイプのアルミニウム顔料であってもよく、又はインク膜内で一様に分散配列するノンリーフィングタイプ(樹脂コーティングタイプを含む)のアルミニウム顔料であってもよい。リーフィングタイプのアルミニウム顔料は、ステアリン酸等の界面活性剤による表面処理がなされているアルミニウム顔料であってよい。
【0031】
また、アルミニウム顔料は、非蒸着アルミニウム顔料であってもよく、又は蒸着アルミニウム顔料であってもよいが、蒸着アルミニウム顔料を用いることが、油性インクの上に水性インクを塗布した後における光輝性を良好にする観点から好ましい。なお、「蒸着アルミニウム顔料」とは、概して厚さ30nm以下のアルミニウム顔料であり、プラスチックフィルム等にアルミニウムを蒸着させ、蒸着させたアルミニウムをプラスチックフィルムから剥離し、アルミニウム薄膜を粉砕することにより得ることができるアルミニウム顔料である。
【0032】
蒸着アルミニウム顔料としては、油性インク用として市販されているものを用いることができ、例えば、エカルト社から商業的に入手可能なSilver Dream Lunaris(以上、リーフィングタイプ)、METALURE A4010 AE(以上、ノンリーフィングタイプ)等を用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、より強い光沢感を有する筆跡が得られることから、リーフィングタイプを使用することが好ましい。
【0033】
非蒸着アルミニウム顔料としては、油性インク用として市販されているものを用いることができ、例えば、旭化成ケミカルズ社から商業的に入手可能な13G、13GH、15GH(以上、リーフィングタイプ)、FD-4070、FW-610(以上、ノンリーフィングタイプ)、及び東洋アルミニウム社から商業的に入手可能な0700M、0870MS(以上、リーフィングタイプ)、2172、1200M(以上、ノンリーフィングタイプ)等を用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、より強い光沢感を有する筆跡が得られることから、リーフィングタイプを使用することが好ましい。
【0034】
油性インク用として市販されているアルミニウム顔料としては、溶剤中に分散されている形態のものを用いることができる。溶剤は、上記の有機溶剤であってもよく、又は塗料において一般的に用いられている溶剤、例えばミネラルスピリット、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等であってもよい。
【0035】
本発明の油性インク中のアルミニウム顔料の固形分の含有率は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は3質量%以上であることが、金属光沢を良好に生じさせる観点から好ましく、また25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であることが、筆記具のインク流通部内での油性インクの詰まりを抑制する観点から好ましい。
【0036】
(油性インク:樹脂)
樹脂としては、ケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、尿素樹脂等、及びこれらの誘導体を用いることができる。これらのうち、筆跡にツヤ感を与えることからニトロセルロース系樹脂を使用することが好ましい。
【0037】
本発明の油性インク中の樹脂の含有率は、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であることが、十分な固着性を得る観点から好ましく、また50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は7質量%以下であることが、インクの粘度が過剰に高くなることを抑制し、その結果、筆記性やエアブラシからの吐出性を損なわない観点から好ましい。
【0038】
(インク貯蔵部)
インク貯蔵部には、上記の油性インクが貯蔵されている。
【0039】
インク貯蔵部は、インクを貯蔵し、かつ筆記部にインクを供給することができる物であれば、任意の物を用いることができる。
【0040】
インク貯蔵部は、中空の空間で形成されていることが、インクの目詰まりを抑制する観点から好ましい。また、インク貯蔵部には、撹拌子が封入されていることが、アルミニウム顔料を使用前に均一に分散させる観点から好ましい。
【0041】
(筆記部)
筆記部は、例えば樹脂製の筆記部であってよい。
【0042】
樹脂製の筆記部としては、例えば焼結芯、繊維芯が挙げられる。
【0043】
繊維芯は、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組合せからなる平行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した芯である。
【0044】
(保持部)
保持部は、第一のマーキングペンを手で保持することを可能とする部分であってよく、インク貯蔵部を収納できる中空構造を有していてよい。保持部は、例えば円筒状、多角筒状等の形状を有していてよい。
【0045】
〈第二のマーキングペン〉
第二のマーキングペンは、水性インクを含有している。第二のマーキングペンは、インク貯蔵部、筆記部及び保持部を具備していてよく、この場合、インク貯蔵部には、水性インクが貯蔵されていてよい。
【0046】
インク貯蔵部、筆記部及び保持部としては、第一のマーキングペンに関して挙げたものを用いることができる。
【0047】
(水性インク)
水性インクは、水及び染料を含有している。また、水性インクは、界面活性剤及び水溶性樹脂を更に含有していてもよい。
【0048】
水性インクの剪断速度9.6~76.6/sにおける剪断減粘指数は、0.4~0.8であってよい。ここで、剪断減粘指数は、剪断速度を速度の変化に応じた見掛け粘度の変化の尺度を示す値であり、以下の関係式を満たすnを意味するものである。この剪断減粘指数は、例えばレオメータ又は回転粘度計を用いて測定することができる:
τ=ηD
(式中、τは、ずり応力を示しており、Dは、ずり速度を示しており、ηは、見掛け粘度を意味するものである)
【0049】
この剪断減粘指数は、0.9以下、0.8以下、又は0.7以下であってよく、また0.4以上、0.5以上、又は0.6以上であってよい。この剪断減粘指数は、主に増粘剤によって調節することができる。
【0050】
水性インク組成物の剪断速度38.3/sでの粘度は、5mPa・s以上、10mPa・s以上、又は15mPa・s以上であり、かつ50mPa・s以下、45mPa・s以下、又は42mPa・s以下であることが、上記の剪断減粘指数を満足させる観点から好ましい。この粘度は、主に増粘剤によって調節することができる。
【0051】
水性インク組成物は、25℃及び100msにおける動的表面張力が55mN/m以下であることが、エアブラシでインクを噴射させた際に生じるミストをより緻密にし、その結果、ムラを更に生じにくくする観点から好ましい。この動的表面張力は、50mN/m以下、45mN/m以下であってよく、また25mN/m以上、又は30mN/m以上であってよい。この動的表面張力は、界面活性剤や水溶性有機溶剤等によって調節させることができる。
【0052】
水性インク組成物は、25℃における静的表面張力が、50mN/m以下、45mN/m以下、40mN/m以下、又は35mN/m以下であってよく、また20mN/m以上、又は25mN/m以上であってよい。この静的表面張力は、界面活性剤や水溶性有機溶剤等によって調節させることができる。
【0053】
上記の動的表面張力及び静的表面張力は、例えば表面張力計を用いて測定することができる。
【0054】
水性インク組成物は、界面活性剤を含有していることが、水性インク組成物の動的表面張力及び静的表面張力を良好に低減させる観点から好ましい。
【0055】
水性インクは、上記の水及び染料、並びに随意の界面活性剤及び水溶性樹脂を、ディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法で製造することができる。
【0056】
(水性インク:染料)
染料としては、例えば通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のもの、及びこれらの水溶液を用いることができる。
【0057】
本発明の水性インク中の染料の含有率は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は3質量%以上であってよく、また25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0058】
(水性インク:水)
水は、イオン交換水、蒸留水等であることができる。
【0059】
(水性インク:水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロプレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が好ましく使用できる。
【0060】
(水性インク:増粘剤)
増粘剤としては、例えば多糖類等の天然高分子、合成高分子を用いることができる。
【0061】
多糖類としては、例えばアラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩を用いることができる。
【0062】
合成高分子としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩、イソブチレン無水マレイン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を用いることができる。
【0063】
(水性インク:界面活性剤)
界面活性剤としては、随意の界面活性剤を用いることができるが、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種の界面活性剤を用いることが、水性インクの動的表面張力をより良好に低減させる観点から好ましい。これらの界面活性剤としては、以下の実施例で言及するように、これらの界面活性剤を特定するものとして商業的に入手可能である物を用いることができる。
【0064】
水性インク組成物が界面活性剤を含有している場合、界面活性剤の含有率は、0.05質量%以上、又は0.10質量%以上であり、かつ5.0質量%以下、3.0質量%以下、又は2.0質量%以下であることが、良好な剪断減粘指数を得る観点から好ましい。
【0065】
(水性インク:他の成分)
水性インクは、種々の添加剤、例えば、防腐剤、固着剤、PH調整剤、ノンドライ剤等を含有していてもよい。
【0066】
《エアブラシキット》
本発明のエアブラシキットは、
上記のマーキングペンセット、及び
マーキングペンセットの第一及び第二のマーキングペンを交換可能に取り付けることができる、エアブラシ
を具備しており、
第一のマーキングペンをエアブラシに取り付けた状態において、エアブラシから噴き出す空気を介して、第一のマーキングペンの油性インクを飛散させることができ、かつ
第二のマーキングペンをエアブラシに取り付けた状態において、エアブラシから噴き出す空気を介して、第二のマーキングペンの水性インクを飛散させることができる。
【0067】
第一又は第二のマーキングペンをエアブラシに取り付けて成るエアブラシユニット100は、エアブラシ110とマーキングペン120を連結させる随意の連結部材130を具備していてよい。
【0068】
エアブラシユニット100は、例えば、図4の白抜き矢印で示すように、ノズル112からマーキングペン120の筆記部122に向かう方向へと空気を噴射することにより、筆記部122に付着しているインクを、図4の5本の矢印で示すように、筆記部122から広がるようにして飛散させることができる。
【0069】
〈エアブラシ〉
図4に示すように、エアブラシ110は、ノズル112及びガス供給部材114を具備していてよい。ノズル112とガス供給部材114とは、一体として形成されていてもよく、又はホース等の中空部材を介して互いに接続されていてもよい。
【0070】
ノズルは、筆記具の筆記部に高圧ガスを噴射できるノズルであれば特に限定されない。
【0071】
ガス供給部材は、ノズルに高圧ガスを供給できる部材であれば、特に限定されない。ガス供給部材は、人間が口から空気を吹き込んで噴射させる部材、ブロアーポンプの弾性体部分を手で圧縮変形させて高圧ガスを生じさせる部材、ピストンとシリンダーとからなるポンプのピストンを手で往復運動させる部材、液化ガスを充填したスプレー缶を用いる部材、電気的に圧縮空気を発生させる部材、例えば、モータと、回転運動を往復運動に変換する機構を介してモータと接続するダイヤフラム等の高圧ガス発生装置とからなり、高圧空気発生装置から噴射口へ高圧ガスを送る部材であってよい。
【0072】
〈連結部材〉
連結部材は、エアブラシと筆記具とを連結させる随意の部材である。連結部材は、エアブラシと筆記具とを物理的に連結させる部材であれば、特に限定されない。
【0073】
《装飾方法》
本発明の装飾方法は、被着色体の表面に、アルミニウム顔料を含有している油性インクを塗布して乾燥させ、次いで、塗布した油性インク上に、染料を含有している水性インクを塗布する、方法である。
【0074】
油性インクとしては、第一のマーキングペンに関して挙げた油性インクを用いることができる。水性インクとしては、第二のマーキングペンに関して挙げた水性インクを用いることができる。
【0075】
各インクの塗布は、刷毛、筆等により行ってもよく、又はマーキングペンによる筆記により行ってもよいが、上記のエアブラシユニットを用いて行うことが、ムラを抑制する観点から好ましい。
【実施例
【0076】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0077】
《インクの作製》
〈油性インクA1〉
リーフィングタイプの蒸着アルミニウム顔料(アルミニウム顔料A、Silver Dream Lunaris、エカルト社、固形分0.5%)50質量部、ケトン樹脂、(樹脂B、ラロパールA81、BASF社)25質量部、及び有機溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル25質量部を用い、油性インクA1を100質量部作製した。
【0078】
〈油性インクA2~A4及びB1~B5〉
各成分を表1に示すように変更したことを除き、油性インクA1と同様にして、油性インクA2~A4及びB1~B5を作製した。
【0079】
【表1】
【0080】
〈水性インク〉
染料としての青色染料(Water Blue9、オリヱント化学工業社)0.3質量部、フッ素系界面活性剤(キャップストーンFS-10、DuPond社)0.3質量部、アセチレン系界面活性剤(オルフィン4036、日信化学工業社)3質量部、防腐剤(バイオデンS、大和化学工業社)0.3質量部、固着剤としてのスチレン-アクリル酸共重合体(ジョンクリル63J、BASF社)50質量部、水溶性有機溶剤としてのトリエタノールアミン2質量部及びプロピレングリコール10質量部、並びに蒸留水34.1質量部を用い、水性インクを100質量部作製した。水性インクの構成を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
《塗膜の作製》
〈実施例1〉
バルブ式マーキングペン(PC-3M、三菱鉛筆社)のインク貯蔵部に、作製した油性インクA1を充填して、第一のマーキングペンを作製した。
【0083】
別のバルブ式マーキングペン(PC-3M、三菱鉛筆社)のインク貯蔵部に、作製した水性インクを充填して、第二のマーキングペンを作製した。
【0084】
作製した第一のマーキングペンを、エアブラシに接続して、エアブラシユニットを作製した。
【0085】
直径8mm、高さ8cmの筒状のポリカーボネート製の被塗工体を高さ方向が鉛直となるように配置し、第一のマーキングペンを有するエアブラシユニットを用いて、被塗工体の全周を塗工するようにしてインクを噴射させた。
【0086】
次いで、第一のマーキングペンを第二のマーキングペンに交換して、同様にエアブラシユニットを作製し、上記と同様に、被塗工体の全周を塗工するようにしてインクを噴射させた。
【0087】
《評価》
〈光沢〉
インクを塗工した被塗工体の光沢を、目視により評価した。
【0088】
評価基準は以下のとおりである:
A:メタリック感が強く、かつミラー感も強い
B:メタリック感は強いが、ミラー感が弱い
C:メタリック感がやや弱く、ミラー感が弱い
D:メタリック感、ミラー感ともに弱い
【0089】
〈色彩〉
インクを塗工した被塗工体の色彩を、目視により評価した。
【0090】
評価基準は以下のとおりである:
A:染料の色が鮮やかに現れている
B:染料の色がややくすんで現れている
C:染料の色と著しく乖離している
【0091】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3から、有機溶剤及びアルミニウム顔料を含有している油性インクを充填した第一のマーキングペン、並びに水及び染料を含有している水性インクを充填した第二のマーキングペンを用いた実施例1~4の塗膜は、良好な光沢及び色彩が得られることが理解できよう。
【符号の説明】
【0094】
10 (第一の)油性インク
10’ 第二の油性インク
12 アルミニウム顔料
14 色材
20 水性インク
24 染料
100 エアブラシユニット
110 エアブラシ
112 ノズル
114 ガス供給部材
120 筆記具
122 筆記部
130 連結部材
図1
図2
図3
図4