(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240209BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240209BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020028732
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】青谷 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】小高 敏和
(72)【発明者】
【氏名】池田 修久
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-238484(JP,A)
【文献】特開2014-107163(JP,A)
【文献】特開2014-072135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、活物質と固体電解質材料とを含む電極層と、をプレス成形して全固体電池を形成する全固体電池形成工程と、
前記全固体電池を少なくとも1回充放電する充放電工程と、
前記充放電工程後に、前記全固体電池を再度プレス成形する再成形工程と、
を含み、
前記活物質のうち、正極活物質はSOCが0パーセントの時に最も膨張している状態になるものであり、
前記充放電工程は、前記全固体電池のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における前記正極活物質が最も膨張している状態よりも前記正極活物質の体積が収縮した状態になるまで充放電し、
前記再成形工程は、前記充放電工程における充放電と前記再成形工程における再度のプレス成形とに伴って
前記正極活物質に生じる歪エネルギーが、
前記正極活物質の亀裂進展エネルギーよりも小さくなる成形圧でプレス成形
し、
前記再成形工程時のSOCは、全固体電池形成工程のプレス成形時のSOCと異なっている、
全固体電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記充放電工程は、前記全固体電池のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における前記活物質の平均粒径よりも前記活物質が収縮した状態になるまで充放電する、
全固体電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記再成形工程の後、再び、前記充放電工程と、前記再成形工程と、を少なくとも1回以上繰り返す、
全固体電池の製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記再成形工程の後、前記全固体電池のセル抵抗を測定し、
測定されたセル抵抗値に基づき、前記再成形工程の後に繰り返す前記充放電工程及び前記再成形工程の繰り返し回数を決定し、
決定された前記繰り返し回数だけ、前記充放電工程と、前記再成形工程とを繰り返す、
全固体電池の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記再成形工程の後、再び前記充放電工程と、前記再成形工程と、を少なくとも1回以上繰り返し、
前記全固体電池の製造方法は、
前記再成形工程が完了する度に前記全固体電池のセル抵抗を測定する工程をさらに含み、
前回の前記再成形工程完了後のセル抵抗値に対する、前記再成形工程が完了した後のセル抵抗値の抵抗変化率が、所定の値より小さくなるまで、前記充放電工程と、前記再成形工程と、を繰り返す、
全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活物質と固体電解質材料とを含む電極層を有する全固体電池が知られている。この種の全固体電池では、充放電により活物質が膨張収縮するのに対して固体電解質材料は膨張収縮しないので体積変化に追従できない。従って、活物質が収縮した場合、電極層内において活物質と固体電解質材料との接触面積が減少し、セルの出力が劣化する虞がある。
【0003】
特許文献1には、活物質と固体電解質材料とを含む電極層を有する全固体リチウム二次電池の製造方法が開示されている。この全固体リチウム二次電池の製造方法では、セルの出力劣化を抑制するために、全固体リチウム二次電池を形成した後、全固体リチウム二次電池を充放電し、再度プレス成形することで活性物質及び固体電解質材料の間の空隙を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、全固体電池を形成した後、全固体電池を充放電し、再度プレス成形する場合、充放電による収縮とプレス成形時の圧力により活物質に歪エネルギーが生じる。このような製造方法では、歪エネルギーに起因して活物質に亀裂(クラック)が発生し、これにより、却ってセルの出力が劣化してしまう虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、セルの出力劣化をより確実に抑制できる全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、固体電解質層と、活物質と固体電解質材料とを含む電極層と、をプレス成形して全固体電池を形成する全固体電池形成工程と、全固体電池を少なくとも1回充放電する充放電工程と、充放電工程後に、全固体電池を再度プレス成形する再成形工程と、を含む全固体電池の製造方法が提供される。この全固体電池の製造方法では、再成形工程は、充放電工程における充放電と再成形工程における再度のプレス成形とに伴って活物質に生じる歪エネルギーが、活物質の亀裂進展エネルギーよりも小さくなる成形圧でプレス成形する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の全固体電池の製造方法によれば、再成形工程において、充放電と再度のプレス成形とに伴って活物質に生じる歪エネルギーが、活物質の亀裂進展エネルギーよりも小さくなる成形圧でプレス成形する。これにより、全固体電池を充放電する充放電工程において、任意の充放電量で充放電を行っても、再成形工程において活物質に亀裂が発生することをより確実に防止できる。従って、適当な充放電量を選択することができ、全固体電池のセルの出力劣化を効果的に抑制できるとともに、活物質の亀裂によるセルの劣化をより確実に防止することができる。即ち、全固体電池のセルの出力劣化をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、各実施形態に共通する全固体電池システムの主要構成を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態による全固体電池の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1実施形態による全固体電池の製造工程を示す概略図である。
【
図4a】
図4aは、全固体電池形成工程後の正極層を示す模式図である。
【
図4b】
図4bは、全固体電池の充放電後の正極層を示す模式図である。
【
図4c】
図4cは、全固体電池を再度プレス成形した後の正極層を示す模式図である。
【
図5】
図5は、正極活物質の充放電中の体積変化を説明するグラフである。
【
図6a】
図6aは、正極活物質膨張時における再度のプレス成形による効果を説明するグラフである。
【
図6b】
図6bは、正極活物質収縮時における再度のプレス成形による効果を説明するグラフである。
【
図7a】
図7aは、充放電工程における充放電量を説明するグラフである。
【
図7b】
図7bは、充放電工程における充放電量を説明するグラフである。
【
図8a】
図8aは、充放電工程における充放電量を説明するグラフである。
【
図8b】
図8bは、充放電工程における充放電量を説明するグラフである。
【
図9】
図9は、ヤング率Eと固体電池のSOCとの関係を表すグラフである。
【
図10】
図10は、正極活物質の破壊靭性値K
ICと固体電池のSOCとの関係を表すグラフである。
【
図11】
図11は、再プレス成形の回数と放電深度(DOD)との関係を表すグラフである。
【
図12】
図12は、第2実施形態による全固体電池の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図13】
図13は、再プレス成形の回数と放電深度(DOD)との関係を表すグラフである。
【
図14】
図14は、第3実施形態による全固体電池の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、各実施形態に共通する全固体電池システム100の主要構成を示す概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、全固体電池システム100は、全固体電池(二次電池)1、電圧センサ2、電圧電流調整部3、外部電源4、電流センサ5、加圧機構6、制御部7等から構成される。全固体電池システム100は、全固体電池1を製造するシステムである。
【0013】
全固体電池1は、例えば全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池1は、正極活性物質を含む正極層12と、負極活性物質を含む負極層13と、正極層12と負極層13との間に形成され、固体電解質材料を含む固体電解質層11とから構成される(
図3参照)。また、正極層12及び負極層13にも、固体電解質材料が含まれている。また、以下の各実施形態では、一例として、全固体電池1が全固体リチウムイオン二次電池である場合について説明するが、全固体電池1は必ずしも全固体リチウムイオン二次電池に限られるものではない。
【0014】
電圧センサ2は、例えば電圧計であり、全固体電池1の正極層12と負極層13との間のセル電圧(端子間電圧)を測定する。測定された電圧値は、信号として制御部7に送信される。なお、電圧センサ2の設置位置は、全固体電池1の正極層12と負極層13との間のセル電圧を測定できる位置であれば特に限定されない。
【0015】
電圧電流調整部3は、全固体電池1の充放電時の電圧及び電流を調整する。電圧電流調整部3は、全固体電池1の充電時には、外部電源4から全固体電池1に供給される電力の電圧及び電流を調整する。また、全固体電池1の放電時には、全固体電池1から放電された電力を外部電源4に放出する。なお、電圧電流調整部3は、制御部7によって制御される。
【0016】
外部電源4は、商用電源または他の二次電池等(図示しない)に接続されており、電圧電流調整部3を介して全固体電池1に電力を供給する。外部電源4は直流を出力し、全固体電池1の充電に必要な電圧値及び電流値で、電力を全固体電池1に供給する。また、外部電源4は電力回生機能が備えられており、全固体電池1からの放電があった場合、直流を交流に変換し、電圧電流調整部3を介して商用電源に回生する、または直流の放電電力を、電圧電流調整部3を介して他の二次電池等に蓄電させることができる。なお、外部電源4は、制御部7によって制御される。
【0017】
電流センサ5は、例えば電流計であり、全固体電池1の充電時には電圧電流調整部3から全固体電池1に供給される電力の電流値を測定し、放電時には全固体電池1から電圧電流調整部3に供給される電力の電流値を測定する。測定された電流値は、信号として制御部7に送信される。なお、電流センサ5の設置位置は、全固体電池1の充放電時の電流を測定できる位置であれば特に限定されない。
【0018】
加圧機構6は、全固体電池1をプレス成形する。加圧機構6は、例えば加圧プレスや加圧ローラー等から構成されるが、一般的な全固体電池をプレス成形する際に用いられるものであればこれらの装置に限られない。なお、加圧機構6の動作は、制御部7によって制御される。
【0019】
制御部7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RΑM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータで構成され、全固体電池システム100の統合的な制御を行う。制御部7は、例えば、全固体電池1の充放電量や、加圧機構6のプレス成形時の成形圧等を制御する。また、制御部7は、特定のプログラムを実行することにより、全固体電池システム100の制御のための処理を実行する。
【0020】
図2は、第1実施形態による全固体電池1の製造方法を説明するフローチャートであり、
図3は、第1実施形態による全固体電池1の製造工程を示す概略図である。
【0021】
図2及び
図3に示す通り、本実施形態の全固体電池1の製造方法は、全固体電池形成工程(S101~S104)、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を含む。
【0022】
全固体電池形成工程(S101~S104)は、固体電解質層11と、電極層(正極層12及び負極層13)とをプレス成形して全固体電池1を形成する工程である。全固体電池形成工程は、固体電解質層積層工程(S101)、正極層積層工程(S102)、負極層積層工程(S103)及び集電体積層工程(S104)を含む。
【0023】
固体電解質層積層工程(S101)において、加圧機構6により固体電解質材料をプレス成形して、固体電解質層11を形成する。固体電解質層11は、固体電解質材料を主成分として含有し、イオン導電性を有する層であり、後述する正極層12と負極層13との間に介在する。固体電解質材料には、例えば硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、ポリマー電解質材料等を用いることができるが、これらに限らず、固体電解質材料として従来から用いられている既知のいずれの材料を用いてもよい。また、固体電解質層11は、固体電解質材料に加えて、バインダー等を含んでもよい。
【0024】
正極層積層工程(S102)において、固体電解質層11上に正極形成用材料を設置し、加圧機構6によりプレス成形して、正極活物質層121を形成する。正極形成用材料は、正極活物質と固体電解質材料とを含む。このように、活物質と固体電解質材料とを混合した正極形成材料を用いて電極層を形成することで、固体電解質材料が電極層内部に浸透する。これにより、活物質と固体電解質材料との界面の面積が増大し、正極活物質層121のイオン導電性が向上し、セルの出力性能が向上する。
【0025】
正極活物質は、例えばLiCoO2(以下、LCOと称する)、Li(Ni-Mn-Co)O2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、NMC複合酸化物と称する)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(以下、NCA複合酸化物と称する)等が用いられる。また、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。但し、正極活物質はこれらに限定されず、正極活物質として従来から用いられている既知のいずれのものを用いてもよい。正極活物質の形状は、例えば粒子状、薄膜状等である。正極活物質層121は、正極活物質に加えて、バインダー、導電助剤等を含んでもよい。
【0026】
負極層積層工程(S103)において、固体電解質層11の正極活物質層121が形成された面とは反対側の面上に負極形成材料を設置し、加圧機構6によりプレス成形して、負極活物質層131を形成する。負極形成用材料は、負極活物質と固体電解質材料とを含む。負極形成用材料に固体電解質材料を含むことで、正極活物質層121と同様に負極活物質層131のイオン導電性が向上し、セルの出力性能が向上する。
【0027】
負極活物質は、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む。リチウム含有合金は、例えばLiと、In、Al、Si及びSnの少なくとも1種との合金である。また、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、少なくとも金属リチウムまたはリチウム含有合金を含んでいれば、これら以外の負極活物質を用いてもよい。負極活物質の形状は、例えば粒子状、薄膜状等である。負極活物質層131は、負極活物質に加えて、バインダー、導電助剤等を含んでもよい。
【0028】
集電体積層工程(S104)において、加圧機構6により、正極活物質層121の固体電解質層11が形成された面とは反対側の面上に正極集電体122を圧着し、負極活物質層131の固体電解質層11が形成された面とは反対側の面上に負極集電体132を圧着する。正極集電体122及び負極集電体133は、それぞれ正極、負極の集電を行う。
【0029】
集電体122,132を構成する材料には、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料を用いることができるが、これらに限定されず、集電を行う機能を有するものであればよい。また、正極集電体122と負極集電体132とは、同一の材料により構成してもよく、また、異なる材料を用いて構成してもよい。集電体積層工程(S104)において、正極活物質層121及び負極活物質層131にそれぞれ集電体122,132が圧着され、正極層12及び負極層13が形成され、全固体電池1が形成される。
【0030】
なお、全固体電池形成工程(S101~S104)における固体電解質層積層工程(S101)、正極層積層工程(S102)、負極層積層工程(S103)及び集電体積層工程(S104)は必ずしも上記の手順や方法に従って行う必要はない。即ち、全固体電池1を形成することができれば既知の如何なる手順や方法を用いてもよい。例えば、固体電解質層11、正極活物質層121及び正極集電体122、負極活物質層131及び負極集電体132をそれぞれ別々に形成してからプレス成形してもよい。この場合、固体電解質層11を形成後、正極集電体122上に正極形成用材料を設置し、圧着して正極活物質層121及び正極集電体122を含む正極層12を形成する。次に、負極集電体132上に負極形成用材料を設置し、圧着して負極活物質層131及び負極集電体132を含む負極層13を形成する。続いて正極層12と、負極層13とにより固体電解質層11を挟持するようにプレス成形して全固体電池1を形成する。また、例えば固体電解質層11を形成後、固体電解質層11上に正極形成用材料及び正極集電体122を設置してプレス成形して正極層12を積層し、その後、固体電解質層11の正極層12が形成された面とは反対側の面上に負極形成用材料及び負極集電体132を設置してプレス成形し、負極層13を積層してもよい。
【0031】
図4aは、全固体電池形成工程(S101~S104)後の正極層12を示す模式図であり、
図4bは、全固体電池1の充放電後の正極層12を示す模式図である。
【0032】
図4aに示す通り、全固体電池形成工程(S101~S104)後、正極層12においては、正極活物質123と固体電解質材料111とが略密着した状態で存在する。
【0033】
この状態で全固体電池1を充放電すると、正極活物質123の体積は充放電状態に応じて膨張または収縮する。一方、固体電解質材料111は膨張収縮しないので、充放電により正極活物質123が膨張または収縮した場合、固体電解質材料111は、正極活物質123の体積変化に追従できない。従って、充放電により正極活物質123が収縮すると、
図4bに示す通り、正極活物質123と固体電解質材料111との間に空隙14ができ、正極活物質123と固体電解質材料111との界面は剥離する。また、充放電により正極活物質123が膨張した後に収縮すると、正極活物質123が膨張した際の圧力により固体電解質材料111は塑性変形するため、正極活物質123と固体電解質材料111との間の空隙14はさらに大きくなる。このように、正極活物質123と固体電解質材料111との間の空隙14が大きくなり、正極活物質123と固体電解質材料111との接触面積が減少すると、セルの出力が劣化する虞がある。従って、以下で説明するように、全固体電池形成工程(S101~S104)の後に全固体電池1を充放電する充放電工程(S105)と、充放電後に全固体電池1を再度プレス成形する再成形工程(S106)を実行する。充放電後、正極活物質123が体積収縮した状態で、再び全固体電池1をプレス成形することで、体積収縮した際にできる正極活物質123と固体電解質材料111との間の空隙14や界面剥離を減少させることができる。
【0034】
充放電工程(S105)において、全固体電池形成工程(S101~S104)で形成された全固体電池1を充放電する。充放電の方法は全固体電池の充放電に用いられる既知の方法を用いることができる。充電時には、外部電源4から電圧電流調整部3を介して全固体電池1に電力が供給される。また、放電時は、電圧電流調整部3を介して外部電源4に電力が放出される。なお、充放電工程(S105)における充放電量については後述する。
【0035】
充放電工程(S105)により、正極活物質123が収縮または膨張後に収縮すると、
図4bに示すとおり、正極活物質123と固体電解質材料111との間に空隙14ができ、正極活物質123と固体電解質材料111との界面は剥離する。
【0036】
充放電工程(S105)後、再成形工程(S106)において、全固体電池1を再度プレス成形する。
【0037】
図4cは、全固体電池1を再度プレス成形した後の正極層12を示す模式図である。
図4cに示すとおり、再成形工程(S106)により、充放電工程(S105)において生じた正極活物質123と固体電解質材料111との間の空隙14や界面剥離は減少する。即ち、正極層12の緻密度が高まり、界面接触性が良好になるため、セルの出力劣化は抑制され、セル性能が向上する。
【0038】
このように、再成形工程(S106)を実行することにより、セルの出力劣化を抑制できる。しかしながら、充放電工程(S105)における充放電量によって、正極活物質123の体積の膨張・縮小率は異なるため、より適切な充放電量を選択しないと、再度のプレス成形によるセルの出力劣化抑制効果を十分に得ることができない。例えば、正極活物質123の体積が充放電工程(S105)における充放電により単に膨張しただけの場合等には、再度のプレス成形によってもセルの出力劣化は十分に抑制されない。また、正極活物質123は、その種類によって充放電に対する膨張・収縮の特性が異なるため、正極活物質123の種類ごとに適切な充放電量を選択する必要もある。一方、全固体電池1を形成した後、全固体電池1を充放電し、再度プレス成形する場合、充放電による収縮とプレス成形時の圧力Pにより正極活物質123に歪エネルギーUが生じる。この歪エネルギーUが所定の値を超えると、正極活物質123に亀裂が発生する。従って、充放電工程(S105)において任意の充放電量を選択すると、正極活物質123の歪エネルギーUが大きくなり、再度のプレス成形時に正極活物質123に亀裂が発生し、却ってセルの出力が劣化してしまう場合がある。そこで、本実施形態では、再成形工程(S106)において、正極活物質123に亀裂が発生しない成形圧Pで再度のプレス成形を行う。具体的には、正極活物質123の歪エネルギーUが、正極活物質123の亀裂進展エネルギーGよりも小さくなるような成形圧Pでプレス成形を行う。
【0039】
以下、充放電工程(S105)における充放電量と、再成形工程(S106)における再度のプレス成形の成形圧について説明する。
【0040】
図5は、正極活物質123の充放電中の体積変化を説明するグラフである。
図5の横軸は、正極活物質123におけるLiの含有率であり、右に向かうほどLiの量は減少し、左に向かうほどLiの量が大きくなることを表している。充電時は正極からリチウムイオンが放出されるため、グラフの右に向かうほど、全固体電池1の充電量が大きい状態である。
図5の縦軸は、正極活物質123におけるLiの含有率が最も高い状態を基準とした場合の体積膨張率ΔV/V(%)を表している。なお、
図5のグラフにおける全固体電池1の充電率(SOC)0~100%の範囲は、それぞれの全固体電池1によって異なる。
【0041】
図5に示すように、正極活物質123の種類によって、充放電に対する特性が異なる。例えば、正極活物質123がLCOの場合、充電によりSOCがある程度大きくなるまでは、LCOは膨張していき、体積膨張率の最大値を過ぎると、充電により体積が縮小する。また、例えば、正極活物質123がNMC複合酸化物(NMC-111,NMC-523,NMC-622,NMC-811等)やNCA複合酸化物である場合、正極活物質123の体積は充電により常に縮小し、放電により常に膨張する。
【0042】
図6a及び
図6bは、再度のプレス成形による効果を説明するグラフである。
図6aは、正極活物質123の膨張時における再度のプレス成形の効果、
図6bは、正極活物質123の収縮時における再度のプレス成形の効果を示すグラフである。
図6a及び
図6bは、全固体電池1の電圧に対する放電深度(DOD)を示しており、放電可能な深度が深い(即ち、DODの値が大きい)ほど抵抗が低く、性能が良い電池であると言える。なお、正極活物質123の膨張時とは、充放電工程(S105)における充放電により正極活物質123の体積が膨張しただけの場合を言う。一方、正極活物質123の収縮時とは、充放電工程(S105)における充放電により正極活物質123の体積が縮小した場合のほか、正極活物質123の体積が膨張した後に縮小した場合を含む。
【0043】
図6aに示すように、充放電によって正極活物質123が膨張しただけの場合、再度のプレス成形をしても、全固体電池1の電圧に対するDODはほとんど変化がない。一方、
図6bに示すように、充放電において正極活物質123が縮小した場合、再度のプレス成形によりDODの深度が深くなる。即ち、再度のプレス成形によるセルの出力劣化抑制効果は、充放電において正極活物質123が縮小した場合に顕著に見られる。
【0044】
図7a及び
図7b、
図8a及び
図8bは、充放電工程(S105)における充放電量を説明するグラフである。
図5と同様に、いずれの図もグラフの右に向かうほど全固体電池1の充電量が大きい状態であることを表している。
【0045】
前述のとおり、再度のプレス成形によるセルの出力劣化抑制効果は、充放電において正極活物質123が縮小した場合に顕著に見られる。従って、充放電工程(S105)において、好ましくは、全固体電池1のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における正極活物質123が最も膨張している状態よりも体積が収縮した状態まで充放電を行う。例えば、正極活物質123がLCOの場合、LCOが最も膨張している(ΔV/V
0)
LCOmaxよりも体積が収縮した状態である
図7aの領域R
1になるように、全固体電池1の充放電量を調整する。また、例えば、正極活物質123がNMC複合酸化物である場合、NMC複合酸化物が最も膨張している(ΔV/V
0)
NMCmaxよりも体積が収縮した状態である
図7bの領域R
2になるように、全固体電池1の充放電量を調整する。
【0046】
また、より好ましくは、充放電工程(S105)において、全固体電池1のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における正極活物質123の平均粒径(以下、平均粒径と称する)よりも正極活物質123が収縮した状態になるまで充放電を行う。例えば正極活物質123がLCOの場合、LCOの平均粒径(ΔV/V
0)
LCOaveよりも体積が収縮した状態である
図8aの領域R
3になるように、全固体電池1の充放電量を調整する。また、例えば、正極活物質123がNMC複合酸化物である場合、NMC複合酸化物の平均粒径(ΔV/V
0)
NMCaveよりも体積が収縮した状態である
図8bの領域R
4になるように、全固体電池1の充放電量を調整する。これにより、再成形工程(S106)を実行した際に、正極層12の緻密度はより高まり、界面接触性はより良好となり、セルの出力劣化をより確実に抑制することができる。なお、各正極活物質123の平均粒径は予め実験等により固定値として決定しておくことができる。
【0047】
次に、再成形工程(S106)における再度のプレス成形の成形圧について説明する。
【0048】
前述のとおり、本実施形態では、再成形工程(S106)において、正極活物質123に亀裂が発生しない成形圧Pで再度のプレス成形を行う。充放電による収縮とプレス成形時の圧力Pにより生じる正極活物質123の歪エネルギーUが、正極活物質123の亀裂進展エネルギーG以上になると、正極活物質123に亀裂が発生する。従って、正極活物質123の歪エネルギーUが、正極活物質123の亀裂進展エネルギーGよりも小さくなるような成形圧Pでプレス成形を行う。
【0049】
正極活物質123の歪エネルギーUは、以下の式(1)により与えられる。なお、式(1)におけるEは正極活物質123のヤング率である。式(1)に示す通り、正極活物質123の歪エネルギーUは、正極活物質123のヤング率E[Pa]と、成形圧P[Pa]により決定される。
【数1】
【0050】
図9は、正極活物質123のヤング率Eと全固体電池1のSOCとの関係を表すグラフである。
図9に示すとおり、正極活物質123のヤング率Eは、全固体電池1のSOCの大きさによって変わる。なお、
図9では、正極活物質123としてNMC複合酸化物の一種を用いている。正極活物質123の種類によってヤング率Eのグラフも異なるが、いずれの正極活物質を用いても、ヤング率Eは全固体電池1のSOCの大きさによって変わってくる。即ち、正極活物質123の歪エネルギーUは、正極活物質123の種類、全固体電池1のSOC、プレス成形時の成形圧Pによって決定される。
【0051】
次に、正極活物質123の亀裂進展エネルギーGは、以下の式(2)により与えられる。なお、式(2)におけるK
ICは正極活物質123の破壊靭性値である。また、vは正極活物質123のポアソン比であり、正極活物質123の種類により決定される。式(2)に示す通り、正極活物質123の亀裂進展エネルギーGは、正極活物質123のヤング率E[Pa]と、正極活物質123の破壊靭性値K
IC[Pa・m
1/2]により決定される。
【数2】
【0052】
図10は、正極活物質123の破壊靭性値K
ICと全固体電池1のSOCとの関係を示すグラフである。
図10に示すとおり、正極活物質123の破壊靭性値K
ICは、全固体電池1のSOCの大きさによって変わる。なお、
図10では、正極活物質123としてNMC複合酸化物の一種を用いている。正極活物質123の種類によって破壊靭性値K
ICのグラフも異なるが、いずれの正極活物質を用いても、破壊靭性値K
ICは全固体電池1のSOCの大きさによって変わってくる。即ち、正極活物質123の破壊靭性値K
ICは、正極活物質123の種類、全固体電池1のSOCによって決定される。
【0053】
次に、正極活物質123の歪エネルギーUが、正極活物質123の亀裂進展エネルギーG以上になると、正極活物質123に亀裂が発生するため、正極活物質123に亀裂が発生しないための条件は、以下の式(3)により表される。
【数3】
【0054】
式(3)において、ヤング率E及び破壊靭性値KICは、前記のとおり、正極活物質123の種類と全固体電池1のSOC(即ち、充放電工程(S105)における充放電量)とによって決定される。従って、再成形工程(S106)において、制御部7は、正極活物質123の種類と充放電工程(S105)における充放電量とに基づき、式(3)を満たすように加圧機構6による成形圧Pを調整する。これにより、充放電工程(S105)において、任意の充放電量で充放電を行っても、再成形工程(S106)において正極活物質123に亀裂が発生することを確実に防止できる。
【0055】
図11は、再プレス成形の回数と放電深度(DOD)との関係を示すグラフである。即ち、再成形工程(S106)後に、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返した場合における繰り返し回数と正極層12のDODとの関係を示すグラフである。
図11では、例として、固体電解質比(SE比)35%の正極層12を用いた場合の再プレス成形回数とDODとの関係を挙げている。
【0056】
図11に示すように、SE比35%の正極層12を用いた場合、再プレス成形の回数3回までの範囲では、再成形工程(S106)後に、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すほどDODの値が大きくなる(放電可能な深度が深くなる)。即ち、再成形工程(S106)後に、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すほど、全固体電池1の緻密度が高まり、界面接触性は良好となり、セルの出力劣化抑制効果が大きくなる。但し、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返しによるセルの出力劣化抑制効果は、1回目の繰り返しにおける効果が最も大きく、繰り返し回数が増加するに従って、その効果は小さくなっていく。
【0057】
このように、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実行することで、よりセルの出力劣化を抑制することができる。従って、本実施形態では、好ましくは、再成形工程(S106)の後、再び充放電工程(S105)と再成形工程(S106)とを少なくとも1回以上繰り返す。
【0058】
上記した第1実施形態の全固体電池1の製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0059】
全固体電池1の製造方法では、全固体電池1を再度プレス成形する再成形工程(S106)において、充放電と再度のプレス成形とに伴って正極活物質123に生じる歪エネルギーUが、正極活物質123の亀裂進展エネルギーGよりも小さくなる成形圧Pでプレス成形する。これにより、全固体電池1を充放電する充放電工程(S105)において、任意の充放電量で充放電を行っても、再成形工程(S106)において正極活物質123に亀裂が発生することをより確実に防止できる。従って、適当な充放電量を選択することができ、全固体電池1のセルの出力劣化を効果的に抑制できるとともに、正極活物質123の亀裂によるセルの劣化をより確実に防止することができる。即ち、全固体電池1のセルの出力劣化をより確実に防止し、セル性能を向上させることができる。
【0060】
全固体電池1の製造方法においては、好ましくは、充放電工程(S105)は、全固体電池1のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における正極活物質123が最も膨張している状態よりも正極活物質123の体積が収縮した状態になるまで充放電する。再度のプレス成形によるセルの出力劣化抑制効果は、充放電において正極活物質123が縮小した場合に顕著に見られる。従って、正極活物質123の体積が、最膨張時よりも収縮した状態になるまで充放電した後に再成形工程(S106)を実行することで、より確実に全固体電池1のセルの出力劣化を抑制できる。
【0061】
全固体電池1の製造方法においては、好ましくは、充放電工程(S105)は、全固体電池1のSOCが0パーセント以上100パーセント以下の範囲における正極活物質123の平均粒径よりも正極活物質123が収縮した状態になるまで充放電する。正極活物質123の体積が、平均粒径よりも収縮した状態になるまで充放電した後に再成形工程(S106)を実行することで、さらに確実に全固体電池1のセルの出力劣化を抑制できる。
【0062】
全固体電池1の製造方法においては、好ましくは、再成形工程(S106)の後、再び、充放電工程(S105)と、再成形工程(S106)と、を少なくとも1回以上繰り返す。再成形工程(S106)後に、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すことで、全固体電池1の緻密度がより高まり、界面接触性はより良好となる。即ち、より確実にセルの出力劣化を抑制することができ、セル性能が向上する。
【0063】
(第2実施形態)
図12及び
図13を参照して、第2実施形態の全固体電池1の製造方法を説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
本実施形態では、再成形工程(S106)後に全固体電池1のセル抵抗Rを測定し、測定された抵抗値Rに基づき、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施する点が第1実施形態と異なる。
【0065】
図12は、第2実施形態による全固体電池1の製造方法を説明するフローチャートである。
【0066】
全固体電池形成工程(S101~S104)、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)は第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0067】
再成形工程(S106)における再度のプレス成形を実施すると、抵抗値測定工程(S207)において、制御部7は、全固体電池1のセル抵抗Rを測定する。セル抵抗Rの測定は、例えば電圧センサ2と、電流センサ5とを用いて測定することができるがこれに限らない。例えば抵抗計等を設けて測定してもよい。
【0068】
次に、繰り返し工程(S208)において、制御部7は、抵抗値測定工程(S207)において測定されたセル抵抗値Rに基づき、再成形工程(S106)後に繰り返し実施する充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返し回数を決定し、当該回数だけ実施する。
【0069】
図13は、再プレス成形の回数と放電深度(DOD)との関係を示すグラフである。
図13では、例として、固体電解質比(SE比)35%の正極層12を用いた場合と、SE比20%の正極層12を用いた場合の再プレス成形回数とDODとの関係を挙げている。
【0070】
図11に関しても説明したように、SE比35%の正極層12を用いた場合、再プレス成形の回数3回までの範囲では、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すほどDODの値が大きくなる。即ち、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すほど、より深い深度まで放電できるようになるため、セル抵抗Rは低くなり、セルの出力劣化が抑制され、セル性能が向上する。
【0071】
一方、
図13に示すように、SE比20%の正極層12を用いた場合、1回目の再プレス成形ではDODの値が大きくなるが、それ以上充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返しても、DODの値はほとんど変わらない。即ち、1回目の再成形工程(S106)で、空隙14はほとんど無くなっており、それ以上充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返してもセル性能はほとんど向上しない。
【0072】
このように、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)によってセル性能を向上させることができる限界値(理想的な抵抗値)は、全固体電池1の材料の種類や各材料の割合によって異なる。それぞれの全固体電池1の理想的な抵抗値は実験等により予め制御部7に記憶しておくことができる。従って、繰り返し工程(S208)において、制御部7は、全固体電池1の理想的な抵抗値と、抵抗値測定工程(S207)において測定されたセル抵抗値Rとに基づき、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返し回数を決定する。例えば、
図13におけるSE比20%の正極層12を用いた場合、1回目の再プレス成形でDOD改善の限界値(理想的な抵抗値)にほぼ到達するため、制御部7は、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返し回数を0に決定する。また、例えば
図13におけるSE比35%の正極層12を用いた場合、1回目の再プレス成形後もセル性能をさらに向上させる余地があるため、制御部7は、例えば充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返し回数を2に決定する。
【0073】
制御部7は、上記のように決定した繰り返し回数だけ充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施する。
【0074】
このように、抵抗値Rに基づいて、セル性能を改善できる回数分だけ充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施するため、不要な工程を無駄に多く繰り返すことを回避できる。また、セル性能を向上させる余地がある状態で全固体電池1の製造工程を終了してしまうことを防止できる。
【0075】
上記した第2実施形態の全固体電池1の製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0076】
全固体電池1の製造方法においては、再成形工程(S106)の後、前記全固体電池1のセル抵抗Rを測定し、測定された抵抗値Rに基づいて充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返し回数を決定する。このため、セル性能を改善できる回数分だけ充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施することができる。従って、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を無駄に多く繰り返すことを回避でき、全固体電池1の製造時間を短縮できる。また、セル性能を向上させる余地がある状態で全固体電池1の製造工程を終了してしまうことを防止できるため、セルの出力劣化をより確実に抑制することができ、セル性能をより向上させることができる。
【0077】
(第3実施形態)
図14を参照して、第3実施形態の全固体電池1の製造方法を説明する。なお、他の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
本実施形態では、全固体電池形成工程(S101~S104)後、及び再成形工程(S106)後にセル抵抗Rを測定する点、セル抵抗Rの変化が所定の値より小さくなるまで充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施する点が他の実施形態と異なる。
【0079】
図14は、第3実施形態による全固体電池1の製造方法を説明するフローチャートである。
【0080】
全固体電池形成工程(S101~S104)は他の実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0081】
全固体電池形成工程(S101~S104)後、第1抵抗値測定工程(S304)において、制御部7は、全固体電池1のセル抵抗R0を測定する。
【0082】
第1抵抗値測定工程(S304)において、全固体電池1のセル抵抗R0を測定すると、制御部7は、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を実行する。充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)は他の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0083】
次に、第2抵抗値測定工程(S307)において、制御部7は、再成形工程(S106)後の全固体電池1のセル抵抗Riを測定する。なお、後述するように、本実施形態では、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返し実施し、再成形工程(S106)を完了するたびに全固体電池1のセル抵抗Riを測定する。
【0084】
ステップS308において、制御部7は、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の実施によるセル抵抗Rの変化率が所定の値R
cより小さいか否かを判断する。即ち、制御部7は、以下の式(4)を満たすか否かを判断する。なお、iは、第2抵抗値測定工程(S307)において測定された抵抗値Rが、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を何回実施した後に測定されたものかを表している。例えば、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を1回実施した後の第2抵抗値測定工程(S307)において測定された抵抗値Rであれば、i=1が入力され、R
1となる。即ち、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を1回実施した後のステップS308では、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)が1度も実施されていない状態の抵抗値R
0に対するセル抵抗Rの変化率(R
0-R
1/R
1)が所定値R
cよりも小さいか否か判断される。ここでのR
0とは、第1抵抗値測定工程(S304)において測定された抵抗値である。
【数4】
【0085】
図13に関して説明したように、各種の全固体電池1にはそれぞれ充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)によってセル性能を向上させることができる限界値が存在する。従って、再成形工程(S106)後の抵抗値R
iが、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を実施する前の抵抗値R
i-1からほとんど変化していない場合、それ以上充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返してもセル性能はほとんど向上しない。従って、ステップS308において、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の実施によるセル抵抗Rの変化率(R
i-1-R
i/R
i)が所定の値R
cより小さい場合、制御部7は、全固体電池1の製造工程を完了する。例えば、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を1回実施した後に測定された抵抗値R
1が、第1抵抗値測定工程(S304)において測定された抵抗値R
0に対して、所定の変化率R
cより変化していない場合は、制御部7は、全固体電池1の製造工程を完了する。なお、所定の変化率R
cは、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返した場合にセル性能をある程度向上できるような値に設定される。どの程度の抵抗変化率であれば充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の繰り返しによりセルの出力性能がある程度向上するかは、実験等によって予め決めておくこともできるが、例えば0に近い値に設定すればよい。
【0086】
一方、ステップS308において、セル抵抗Rの変化率(Ri-1-Ri/Ri)が所定の値Rc以上の場合、再成形工程(S106)後にまだ空隙14が残っている可能性が高い。そのため、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すことで、さらにセルの出力性能が向上する余地があると言える。従って、この場合、制御部7は充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を再び実施する。
【0087】
充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を再び実施した後、第2抵抗値測定工程(S307)において制御部7は、今回実施した再成形工程(S106)後の全固体電池1のセル抵抗Riを測定する。
【0088】
次にステップS308において、今回の充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の実施によるセル抵抗Rの変化率が所定の値Rcより小さいか否かを判断する。即ち、前回測定された全固体電池1のセル抵抗値Ri-1に対する今回測定した全固体電池1のセル抵抗値Riの抵抗変化率が所定の値Rcより小さいか否かを判断する。セル抵抗Rの変化率(Ri-1-Ri/Ri)が所定の値Rcより小さい場合、制御部7は、全固体電池1の製造工程を完了する。例えば、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を2回実施した後に測定された抵抗値R2が、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を1回実施した後に測定された抵抗値R1に対して、所定の抵抗変化率Rcより変化していない場合は、全固体電池1の製造工程を完了する。
【0089】
一方、セル抵抗Rの変化率(Ri-1-Ri/Ri)が所定の値Rc以上の場合、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すことで、さらにセルの出力性能が向上する余地がある。従って、この場合、制御部7は充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を再び実施する。
【0090】
このようにして、制御部7は、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の実施によるセル抵抗Rの変化率が所定の値Rcより小さくなるまで、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返す。
【0091】
このように、セル抵抗値Rの変化率に基づき、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すか判断するため、セル性能をより限界近くまで向上させることができるとともに、不要な工程を無駄に繰り返すことを回避できる。
【0092】
上記した第3実施形態の全固体電池1の製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0093】
全固体電池1の製造方法においては、再成形工程(S106)が完了する度に全固体電池1のセル抵抗Rを測定し、セル抵抗Rの変化率が所定の値Rcより小さくなるまで、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返す。このように、セル抵抗値Rの変化率に基づき、充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すか否かを判断するため、セル性能をより限界近くまで向上できるとともに、不要な工程を無駄に繰り返すことを回避できる。即ち、全固体電池1のセル性能をより向上させつつ、全固体電池1の製造時間を短縮することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、全固体電池形成工程(S101~S104)後及び再成形工程(S106)後に全固体電池1のセル抵抗Rを測定しているが、全固体電池形成工程(S101~S104)後の抵抗測定は省略してもよい。この場合、例えば充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を少なくとも1回は繰り返すようにする。充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を1回実施した後の抵抗値R1と2回実施した後の抵抗値R2を比較してさらに充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返すか否かを判断する。また、例えば、1回目の再成形工程(S106)後に、既に理想的な抵抗値に近い値であるかを判断し、理想的な抵抗値に近い値であれば充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)を繰り返さずに全固体電池1の製造工程を完了するようにしてもよい。
【0095】
また、いずれの実施形態においても、正極層12を例に充放電工程(S105)及び再成形工程(S106)の効果を説明したが、負極層13についても同様の効果を得ることができる。但し、負極活性物質にリチウム金属を用いる場合には、充放電による活物質と固体電解質材料111との接触面積の減少が正極層12ほど顕著には生じない。
【0096】
また、いずれの実施形態においても、正極層12及び負極層13のいずれもが活物質と固体電解質材料111とを含む構成としたが、必ずしもこれに限られない。正極層12及び負極層13の少なくともいずれか一方が活物質と固体電解質材料111とを含んでいれば上記した効果を得られ、他方は固体電解質材料111を含んでいなくてもよい。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0098】
1 全固体電池
2 電圧センサ
3 電圧電流調整部
4 外部電源
5 電流センサ
6 加圧機構
7 制御部
11 固体電解質層
12 正極層
13 負極層
100 全固体電池システム
111 固体電解質材料
123 正極活物質