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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】水性塗料組成物および複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20240209BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240209BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240209BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20240209BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240209BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240209BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D133/00
C09D175/04
C09D161/28
C09D5/02
B05D1/36 B
B05D7/24 301F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020048793
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147499
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】関根 一基
(72)【発明者】
【氏名】大隣 雅俊
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/151143(WO,A1)
【文献】特開2008-144063(JP,A)
【文献】特表2010-504401(JP,A)
【文献】特開平01-129072(JP,A)
【文献】特表2010-511775(JP,A)
【文献】特表2002-542350(JP,A)
【文献】特開2002-308993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
B05D 1/00 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)およびメラミン樹脂(B)を含む水性塗料組成物であって、
前記ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を構成するポリエステル樹脂が、アクリルビニル系重合体セグメントを有するアルキド樹脂を含み、
前記メラミン樹脂(B)は疎水性メラミン樹脂を含み、
前記塗料組成物の乾燥塗膜の粘度において、乾燥塗膜中の固形分量が60質量%である塗膜粘度η1および乾燥塗膜中の固形分量が80質量%である塗膜粘度η2が、下記条件:
1≦η2/η1≦10
を満たし、
前記塗膜粘度η1およびη2は、温度25℃および剪断速度0.1sec-1で測定した粘度である、
水性塗料組成物。
【請求項2】
ポリアクリル樹脂ディスパージョンおよびポリウレタン樹脂ディスパージョンからなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記アルキド樹脂中、前記アクリルビニル系重合体セグメントが20質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記アルキド樹脂中、脂環式多塩基酸由来の構造が20質量%以上45質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
被塗物表面に対して、請求項1~4のいずれか1項に記載の第1水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を得る工程(1)、前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、前記工程(1)~(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物および複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料組成物は水系溶媒を含む塗料組成物であり、例えば、特許文献1及び2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-302274号公報
【文献】特開2006-70095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような水性塗料組成物は一般に、塗装における温度、湿度等の塗装環境変化によって、溶媒の揮発速度が影響を受ける傾向がある。そして溶媒の揮発速度が変化することによって、塗装によって形成される塗膜の外観および/または塗膜物性もまた変化することがある。
【0005】
このような塗装環境の変化に対応するための1例として、例えば、水性塗料組成物に含まれる溶媒の量を調節することによって、溶媒の揮発速度を調整する方法がある。例えば特開2008-302274号公報(特許文献1)には、塗装環境に応じて塗装NV(不揮発分)を決定する方法が記載されている。この特許文献1に記載されるように、水性塗料組成物の塗装においては、温度および湿度といった塗装環境に応じて、水性塗料組成物の溶媒量等を調節して、塗料組成物の粘度等のパラメータの調節が行われることが多い。しかしながらこのようなパラメータの調節は煩雑である。
【0006】
水性塗料組成物の塗装において、塗装環境の影響を低減する他の手段として、増粘剤の使用が挙げられる。例えば特開2006-70095号公報(特許文献2)には、(I)希釈剤および(II)ベース塗料を含んでなる多液型の水性塗料組成物であって、希釈剤(I)が、増粘剤(A)および水を含有し、ベース塗料(II)が、樹脂成分(B)、増粘剤(C)および水を含有し、増粘剤(A)および増粘剤(C)が、無機系増粘剤とポリアクリル酸系増粘剤、ウレタン会合型増粘剤とポリアクリル酸系増粘剤、ウレタン会合型増粘剤と無機系増粘剤の組み合わせから選ばれることを特徴とする水性塗料組成物が記載されている(請求項1)。一方で、増粘剤を用いて粘度を調製する手法においては、塗料組成物の粘度を高めることは可能である一方で、低粘度の塗料組成物を設計することは困難である。
【0007】
ところで、塗料組成物の塗装においては、第1塗料組成物を塗装した後、硬化させることなく第2塗料組成物を塗装し、その後に2種類の塗膜を同時に硬化させることによって、塗装工程を短縮することができるウェットオンウェットと呼ばれる塗装方法がある。しかしながら、第1塗料組成物および第2塗料組成物をウェットオンウェット塗装する場合は、未硬化の2種類の塗膜の層間において塗料組成物が混じり合い(混層)、塗膜外観が悪化するという不具合が生じることがあるという問題がある。
【0008】
以上のような問題点を鑑み、水性塗料組成物の塗装において、得られる塗膜の外観を損なうことなく、塗装環境の影響を低減し、且つ強度及び耐チッピング性に優れた塗膜を形成する手段が求められている。本発明は上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、塗装環境の変動により水性塗料組成物に含まれる溶媒量が減少した場合であっても、粘度変化が少なく、かつ、優れた塗膜外観を有する塗膜を形成することができる、水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)およびメラミン樹脂(B)を含む水性塗料組成物であって、
ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を構成するポリエステル樹脂が、アクリルビニル系重合体セグメントを有するアルキド樹脂を含み、
メラミン樹脂(B)は疎水性メラミン樹脂を含み、
塗料組成物の乾燥塗膜の粘度において、乾燥塗膜中の固形分量が60質量%である塗膜粘度η1および乾燥塗膜中の固形分量が80質量%である塗膜粘度η2が、下記条件:
1≦η2/η1≦10
を満たし、
塗膜粘度η1およびη2は、温度25℃および剪断速度0.1sec-1で測定した粘度である、
水性塗料組成物。
【0010】
[2]
ポリアクリル樹脂ディスパージョンおよびポリウレタン樹脂ディスパージョンからなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、[1]に記載の水性塗料組成物。
【0011】
[3]
アルキド樹脂中、アクリルビニル系重合体セグメントが20質量%以上50質量%以下である、[1]又は[2]に記載の水性塗料組成物。
【0012】
[4]
アルキド樹脂中、脂環式多塩基酸由来の構造が20質量%以上45質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0013】
[5]
被塗物表面に対して、[1]~[4]のいずれかに記載の第1水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を得る工程(1)、未硬化の第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、工程(1)~(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、特定のポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を含むことによって、塗料組成物中に含まれる溶媒量が減少した場合であっても粘度変化が少ないという特徴を有する。このため、溶媒量が低減された状態であっても、塗装作業性が大きく変化することなく、塗装を行うことができる利点がある。また、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、温度および/または湿度が異なる様々な塗装環境下においても、良好な塗装作業性を発揮することができる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[水性塗料組成物]
水性塗料組成物は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)およびメラミン樹脂(B)を含む。以下、各成分について詳述する。
【0016】
(1)ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)
ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を構成するポリエステル樹脂は、アクリルビニル系重合体セグメントを有するアルキド樹脂を含む。アルキド樹脂は、アクリルビニル系重合体セグメント(a1)及びアルキドセグメント(a2)を含む。ある実施形態において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を構成するポリエステル樹脂は、アルキド樹脂であってよい。
【0017】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)は、α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合してアクリルビニル系重合体セグメント(a1)を調整し、また、多価アルコールと多塩基酸またはその無水物とを重縮合(エステル反応)してアルキドセグメント(a2)を調製し、そして、得られたアクリルビニル系重合体セグメント(a1)とアルキドセグメント(a2)とを用いてエステル化反応を行い、当該反応物と水性媒体とを混合・攪拌することによって調製することができる。
【0018】
アクリルビニル系重合体セグメント(a1)の調整に用いることができるα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレート等の、アルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである、(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミド等の水酸基含有重合性モノマー;
ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式重合性モノマー;
スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、イタコン酸エステル(例えばイタコン酸ジメチル等)、マレイン酸エステル(例えばマレイン酸ジメチル等)、フマル酸エステル(例えばフマル酸ジメチル等)、酢酸ビニル等の、芳香族基含有重合性モノマー;
(メタ)アクリル酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の、酸基含有重合性モノマー;
ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタジエン、ジビニルベンゼン等の、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する、架橋性モノマー;
(メタ)アクリロニトリル等の重合性ニトリルモノマー;
エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーサチック酸ビニル等のビニルエステルモノマー;
(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N-モノブチル(メタ)アクリルアミド、N-モノオクチル(メタ)アクリルアミド 2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノン、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等の重合性アミドモノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート等の重合性グリシジルモノマー;
無水(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等の、酸無水物基含有重合性モノマー;
等が挙げられる。また、酸基含有重合性モノマーとして、脱水ヒマシ油等の不飽和脂肪酸を用いてもよい。α,β-エチレン性不飽和モノマーは、2種以上を併用してよい。
【0019】
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの両方を意味するものとする。
【0020】
溶液重合する条件として、例えば、有機溶媒中で、重合開始剤の存在下において溶液重合させる態様が挙げられる。重合温度は70℃以上200℃以下の範囲内であるのが好ましく、90℃以上170℃以下の範囲内であるのがより好ましい。重合時間は0.2時間以上10時間以下であるのが好ましく、1時間以上6時間以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
溶液重合に用いる有機溶媒は、反応に悪影響を与えないものであれば特に限定されることなく、通常用いられる有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン、シクロヘキサン、ナフサ等の炭化水素系溶媒;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸オクチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル系溶媒;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0022】
重合開始剤としては、ラジカル重合において一般的に用いられるものを用いることができる。重合開始剤として、例えば、
アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]およびその塩類、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]およびその塩類、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]およびその塩類、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)およびその塩類、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}およびその塩類、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)およびその塩類、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等のアゾ化合物類;
過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;
等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0023】
溶液重合において、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることによって、得られる重合物の分子量を調製することができる。連鎖移動剤として、例えば、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。例えば、付加開裂型連鎖移動剤であるα-メチルスチレンダイマーを、コア部の形成時に用いることによって、異なる組成のラジカル重合性モノマーからなるポリマー鎖同士をグラフト化することができる利点がある。
【0024】
アルキドセグメント(a2)の調製に用いることができる多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス-(ヒドロキシエチル)イソシアネート等が挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
アルキドセグメント(a2)の調製に用いることができる多塩基酸またはその無水物としては、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、無水エンド酸等が挙げられる。また、ヤシ油等の脂肪酸を用いてよい。これらの多塩基酸またはその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
これらの中でもフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式多塩基酸を用いることが好ましい。
この態様において、アルキド樹脂中、脂環式多塩基酸由来の構造が20質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
【0027】
このようにして得られたアクリルビニル系重合体セグメント(a1)とアルキドセグメント(a2)とを用いてエステル化反応を行い、当該反応物と水性媒体とを混合・攪拌することによって、ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)を得る。
【0028】
アルキド樹脂中のアクリルビニル系重合体セグメント(a1)の割合、すなわち、アクリルビニル系重合体セグメント(a1)とアルキドセグメント(a2)との合計中、アクリルビニル系重合体セグメントは、20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。これにより、粘度の制御がより容易となる。アクリルビニル系重合体セグメント(a1)とアルキドセグメント(a2)との合計中、アクリルビニル系重合体セグメントは、20質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
水性塗料組成物中に含まれるポリエステル樹脂ディスパージョン(A)の量は、樹脂固形分総量100質量部に対して、固形分換算で5質量部以上80質量部以下であるのが好ましく、7質量部以上75質量部以下であるのがより好ましく、10質量部以上70質量部以下であるのがさらに好ましい。ポリエステル樹脂ディスパージョン(A)の量が上記範囲内であることによって、粘度変化が少なく良好な塗装作業性がより容易に発揮される利点がある。
水性塗料組成物の樹脂固形分は、樹脂成分と、メラミン樹脂(B)と、含まれ得る他の硬化剤とを意味する。
【0030】
(2)メラミン樹脂(B)
水性塗料組成物は、メラミン樹脂(B)を含む。メラミン樹脂(B)は、水性塗料組成物において硬化剤として機能する成分である。メラミン樹脂(B)は、下記式(1)で表されるように、メラミン核(トリアジン核)の周囲に3個の窒素原子を介してR~Rの基が結合した構造を含むものである。メラミン樹脂(B)は、複数のメラミン核が互いに結合した多核体により構成されるものであってよく、1個のメラミン核からなる単核体であってもよい。メラミン樹脂(B)を構成するメラミン核の構造は、下記式(1)で表すことができる。
【0031】
【化1】
式(1)
【0032】
上記式(1)において、R~Rは、同一であっても異なってもよい、水素原子(イミノ基)、CHOH(メチロール基)、CHOR、または、他のメラミン核との結合部分を表す。Rは、アルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基である。
【0033】
メラミン樹脂は、水溶性メラミン樹脂と疎水性メラミン樹脂とに大別することができる。ここで水溶性メラミン樹脂は、例えば、下記(i)~(iii)の条件を全て満たすものが該当する。
(i)メラミン樹脂の数平均分子量が1,000以下である。
(ii)上記式(1)中のR~Rにおいて、少なくとも1つは、水素原子(イミノ基)またはCHOH(メチロール基)である。すなわち、平均イミノ基量および平均メチロール基量の合計量が1.0以上である。
(iii)上記式(1)中のR~Rにおいて、R~RがCHORである場合は、Rはメチル基である。
【0034】
メラミン樹脂の数平均分子量は、GPCで測定される値である。より詳しくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0035】
疎水性メラミン樹脂は、上記水溶性メラミン樹脂以外のメラミン樹脂であり、例えば、下記(iv)~(vi)の条件のいずれかを満たすものが該当することとなる。
(iv)メラミン樹脂の数平均分子量が1,000を超える。
(v)平均イミノ基量および平均メチロール基量の合計量が1.0以下である。
(vi)上記式(1)中のR~Rにおいて、R~Rのうち2またはそれ以上がCHORであり、Rは炭素数1~4のアルキル基であり、但しR~Rを構成するRの少なくとも1つが炭素数2~4のアルキル基であることを条件とする。
【0036】
メラミン樹脂(B)は、疎水性メラミン樹脂を含む。メラミン樹脂(B)は、疎水性メラミン樹脂であるのが好ましい。疎水性メラミン樹脂を用いることによって、ウェットオンウェット塗装における混層の発生を効果的に防ぐことができる利点がある。
【0037】
メラミン樹脂(B)として市販品を用いてもよい。市販品の具体例として、例えば、Allnex社製のサイメルシリーズ(商品名)、具体的には、
サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル250、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル285(以上、メトキシ基およびブトキシ基の両方を有するメラミン樹脂);
マイコート506(三井サイテック社製、ブトキシ基を単独で有するメラミン樹脂);および、ユーバン20N60、ユーバン20SE(三井化学社製のユーバン(商品名)シリーズ);等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル250、サイメル254、マイコート212がより好ましい。
【0038】
水性塗料組成物中に含まれるメラミン樹脂(B)の量は、樹脂固形分総量100質量部に対して、10質量部以上60質量部以下であるのが好ましく、20質量部以上50質量部以下であるのがより好ましい。メラミン樹脂(B)の量が上記範囲内であることによって、水性塗料組成物の良好な硬化性能を確保することができる利点がある。
【0039】
(3)他の樹脂成分
水性塗料組成物は、必要に応じて他の樹脂成分を含んでもよい。他の樹脂成分として、例えばポリアクリル樹脂およびポリウレタン樹脂ディスパージョン等が挙げられる。ポリアクリル樹脂は、ポリアクリル樹脂エマルションであってよく、ポリアクリル樹脂ディスパージョンであってもよい。ある実施形態において、水性塗料組成物は、ポリアクリル樹脂ディスパージョンおよびポリウレタン樹脂ディスパージョンからなる群から選択される1種またはそれ以上を含んでよい。
【0040】
ポリアクリル樹脂エマルションは、各種重合性単量体の重合によって調製することができる。上記重合性単量体とは、分子中にビニル基等の不飽和結合を少なくとも1つ有するものをいい、アクリル酸やメタクリル酸の誘導体を含む。上記重合性単量体としては、特に限定されず、例えば、
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;
マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体;
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル単量体;
アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド単量体;
アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステル単量体;
(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;
スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体;
等を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
【0041】
ポリアクリル樹脂エマルションは例えば、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体とを含む単量体混合物を共重合することによって、調製することができる。
【0042】
ポリアクリル樹脂エマルションは例えば、ポリアクリル樹脂を形成する重合体を、乳化剤および重合開始剤の存在下で、水性溶媒中で乳化重合する方法によって調製することができる。
【0043】
乳化重合に用いることができる乳化剤としては、例えば、石鹸、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩等のアニオン系乳化剤を挙げることができる。さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系乳化剤を用いることもできる。
【0044】
乳化剤として、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する界面活性剤(以下、反応性乳化剤という)を用いることもできる。反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを基本構造として疎水基にラジカル重合性のプロペニル基を導入したノニオン系界面活性剤、四級アンモニウム塩の構造を持つカチオン系界面活性剤、スルホン酸基、スルホネート基、硫酸エステル基、および/またはエチレンオキシ基を含み、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有するアニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
乳化剤として市販品を用いてもよい。市販される乳化剤として、例えば、アクアロンHS-10等のアクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製);アクアロンRNシリーズ(第一工業製薬社製);エレミノールJS-2(三洋化成工業社製);ラテムルS-120、S-180A、PD-104等のラテムルシリーズ(花王社製)、およびエマルゲン109P等のエマルゲンシリーズ(花王社製);ニューコール706、707SN等の、ニューコールシリーズ(日本乳化剤社製);アントックス(Antox)MS-2N(2-ソジウムスルホエチルメタクリレート)等の、アントックスシリーズ(日本乳化剤社製);アデカリアソープNE-10(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン)等の、アデカリアソープシリーズ(ADEKA社製);等を挙げることができる。
【0046】
乳化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤を用いる場合における使用量は、重合性単量体100質量部に対して固形分量として、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0047】
ポリアクリル樹脂エマルションの乳化重合による調製において、重合開始剤を用いるのが好ましい。重合開始剤は、熱または還元性物質等によりラジカルを生成して単量体を付加重合させるものであり、水溶性重合開始剤または油溶性重合開始剤を使用することができる。上記水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩系開始剤、または、過酸化水素等の無機系開始剤等を挙げることができる。上記油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物等を挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
重合開始剤の使用量は、重合に用いる単量体の全量に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。乳化重合における重合温度は例えば30℃以上90℃以下であり、重合時間は例えば3時間以上12時間以下である。重合反応時の単量体濃度は、例えば30質量%以上70質量%以下である。
【0049】
ポリアクリル樹脂エマルションは、コア部とシェル部とからなる多層構造を有してもよい。多層構造を有するポリアクリル樹脂エマルションは、例えば、特開2002-12816号公報に記載された公知の製造方法によって調製することができる。
【0050】
ポリアクリル樹脂エマルションはまた、乳化重合の前に、重合性単量体の混合物、乳化剤および水性媒体を混合して、反応前乳化混合物を調製してもよい。反応前乳化混合物を調製する場合は、反応前乳化混合物および重合開始剤を水性媒体中で混合することによって、乳化重合を行うことができる。
【0051】
乳化重合後に、必要に応じて、中和剤を用いて中和を行ってもよい。中和剤として、無機塩基および/または有機塩基を用いることができる。無機塩基または有機塩基の具体例は、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1-アミノオクタン、2-ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、1-ジメチルアミノ-2-プロパノール、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、2-プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中和剤は、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。中和剤の使用量は、共重合体中が有するカルボキシル基1モルに対して、通常0.2モル以上1.0モル以下(中和率:20%以上100%以下)であるのが好ましい。
【0052】
ポリアクリル樹脂エマルションは、酸価が5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であることによって、樹脂エマルションの水中での安定性および塗膜の耐水性のバランスをとることができる。なお、本明細著中において酸価は固形分酸価を表し、JIS K 0070:1992に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0053】
ポリアクリル樹脂エマルションは、水酸基価が0mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることが好ましく、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が85mgKOH/g以下であることによって、塗膜の耐水性を確保することができる利点がある。なお、本明細著中において水酸基価は固形分水酸基価を表し、JIS K 0070:1992に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0054】
ポリアクリル樹脂は、ポリアクリル樹脂ディスパージョンであってもよい。アクリルディスパージョンは、例えば、上記単量体を含む単量体混合物を、有機溶媒中においてラジカル重合開始剤を用いて溶液重合し、その後、得られた重合体溶液を中和剤によって中和して、水で相転移する方法等によって調製することができる。
【0055】
溶液重合に用いることができるラジカル重合開始剤の具体例は、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドを含む。ラジカル重合開始剤は、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。また、必要に応じて、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いて、樹脂分子量を調節することもできる。
【0056】
溶液重合によって得られた重合体の中和に用いられる中和剤は、上述の中和剤を用いることができる。中和剤の使用量は、共重合体中が有するカルボキシル基1モルに対して、通常0.2モル以上1.0モル以下(中和率:20%以上100%以下)であるのが好ましい。
【0057】
ポリアクリル樹脂ディスパージョンは、酸価が5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であることがより好ましい。また、ポリアクリル樹脂ディスパージョンは、水酸基価が0mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることが好ましく、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0058】
ポリアクリル樹脂ディスパージョンは、コアシェル構造を有してもよい。コアシェル構造を有するポリアクリル樹脂ディスパージョンは、
コア部調製単量体を溶液重合して、ポリアクリル樹脂ディスパージョンのコア部を形成する工程、
得られたコア部の存在下で、酸基含有重合性単量体を含むシェル部調製単量体を溶液重合して、ポリアクリル樹脂ディスパージョンのシェル部を形成する工程、
得られた溶液重合物を脱溶剤し、塩基化合物等の中和剤で中和する工程、
中和された重合物と水性媒体とを混合し、水性媒体中に分散させる工程、
によって製造することができる。
【0059】
ポリアクリル樹脂ディスパージョンを含有する場合、水性塗料組成物中に含まれるポリアクリル樹脂ディスパージョンの量は、樹脂固形分総量100質量部に対して、固形分換算で1質量部以上30質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上25質量部以下であるのがより好ましい。
【0060】
ポリウレタン樹脂ディスパージョンは、ポリオール化合物と、分子内に活性水素基と親水基を有する化合物と、有機ポリイソシアネート、必要により鎖伸長剤及び重合停止剤を用いて調製されるポリウレタン樹脂を、水中に分散させることによって調製することができる。
【0061】
ポリオール化合物としては、水酸基を2つ以上含有しているものであれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、等のポリエーテルポリオール;アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコールから得られるポリエステルポリオール類;ポリカプロラクトンポリオール;ポリブタジエンポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリチオエーテルポリオール;等が挙げられる。上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、または2種類以上併用してもよい。
【0062】
分子内に活性水素基と親水基を有する化合物としては、活性水素とアニオン基{アニオン基またはアニオン形成性基(塩基と反応してアニオン基を形成するものであり、この場合にはウレタン化反応前、途中または後に塩基で中和することによってアニオン基に変える)}を含有する化合物として公知のもの(例えば、特公昭42-24192号公報明細書および特公昭55-41607号公報明細書に記載のもの、具体例としてはα,α-ジメチロールプロピオン酸、α,α-ジメチロール酪酸等)、分子内に活性水素とカチオン基を有する化合物として公知のもの(たとえば特公昭43-9076号公報明細書に記載のもの)および分子内に活性水素とノニオン性の親水基を有する化合物として公知のもの(例えば、特公昭48-41718号公報に記載のもの、具体的には、ポリエチレングリコール、アルキルアルコールアルキレンオキシド付加物等)が挙げられる。
【0063】
有機ポリイソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,6-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネート)メチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5’-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等のトリイソシアネート類等が挙げられる。また、これらのポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー( イソシアヌレート結合) で用いられてもよく、また、アミンと反応させてビウレットとして用いてもよい。更に、これらのポリイソシアネート化合物と、ポリオールを反応させたウレタン結合を有するポリイソシアネートも用いることができる。
【0064】
ポリウレタン樹脂ディスパージョンの調製時に必要により添加してもよい鎖伸長剤としては、活性水素基を2つ以上含有していれば特に限定されないが、例えば、低分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールおよびトリメチロールプロパン等)、ポリアミン(例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン等)、水があげられる。
【0065】
また、重合停止剤としては、分子内に活性水素を1個有する化合物(例えばモノアルコール、モノアミン等)、またはモノイソシアネート化合物が挙げられる。
【0066】
ポリウレタン樹脂の反応方法は、各成分を一度に反応させるワンショット法または段階的に反応させる多段法{活性水素含有化合物の一部(例えば、高分子ポリオール)とポリイソシアネートを反応させてNCO末端プレポリマーを形成したのち活性水素含有化合物の残部を反応させて製造する方法}のいずれの方法でもよい。ポリウレタン樹脂の合成反応は通常40~140℃、好ましくは60~120℃で行われる。反応を促進させるため通常のウレタン化反応に用いられるジブチルスズラウレ-ト、オクチル酸スズ等のスズ系あるいはトリエチレンジアミン等アミン系の触媒を使用してもよい。また上記反応は、イソシアネートに不活性な有機溶剤(例えば、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアミド等)の中で行ってもよく、反応の途中または反応後に溶媒を加えてもよい。
【0067】
ポリウレタン樹脂ディスパージョンは、公知の方法(アニオン形成性基の場合は塩基で中和してアニオン基を形成する方法、カチオン形成性基の場合は4級化剤でカチオン基を形成する方法や酸で中和してカチオン基を形成する方法)で処理した後、水中に分散させることによって調製することができる。
【0068】
ポリウレタン樹脂ディスパージョンを含有する場合、水性塗料組成物中に含まれるポリウレタン樹脂ディスパージョンの量は、樹脂固形分総量100質量部に対して、固形分換算で5質量部以上60質量部以下であるのが好ましく、5質量部以上50質量部以下であるのがより好ましい。
【0069】
(4)他の成分
水性塗料組成物は、上記成分に加えて、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば、顔料、造膜助剤、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0070】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ナフトール系顔料、ピラゾロン系顔料、アントラキノン系顔料、アンソラピリミジン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、酸化クロム、モリブデートオレンジ、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛華、カーボンブラック、二酸化チタン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、コバルトバイオレット等の無機系着色顔料;マイカ顔料(二酸化チタン被覆マイカ、着色マイカ、金属メッキマイカ);グラファイト顔料、アルミナフレーク顔料、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、板状酸化鉄、フタロシアニンフレーク、金属メッキガラスフレーク、その他の着色、有色偏平顔料;酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪酸マグネシウム、クレー、タルク、シリカ、焼成カオリン等の体質顔料;等を挙げることができる。
【0071】
[水性塗料組成物の調製]
水性塗料組成物の調製法としては特に限定されず、上述した各成分を、攪拌機等により攪拌することによって調製することができる。水性塗料組成物中に顔料等が含まれる場合は、分散性のよいものは攪拌機により混合することができ、他の方法として、水、界面活性剤または分散剤等を含むビヒクルにサンドグラインドミル等を用いて予め分散させたものを加えることもできる。
【0072】
水性塗料組成物は、その塗装方法および乾燥条件については特に限定されず、一般によく知られたものをそれぞれ適用することが可能である。また上記水性塗料組成物は種々の用途に利用可能であるが、特に常温乾燥から強制乾燥条件で優れた性能を発揮する。なお、強制乾燥とは、通常80℃程度の加熱を意味するものであるが、例えば、150℃程度までの加熱であってもよい。
【0073】
本発明の水性塗料組成物を適用する被塗物としては特に限定されず、例えば、鉄、ステンレス等およびその表面処理物等の金属基材、石膏類等のセメント基材、ポリエステル類、アクリル類等のプラスチック系基材等を挙げることができる。また、これらの基材からなる建材、構造物等の建築用各種被塗物、自動車車体、部品等の自動車工業用各種被塗物、電化製品、電子部品等の工業用分野の各種被塗物を挙げることができる。
【0074】
水性塗料組成物は、塗料組成物の乾燥塗膜の粘度において、乾燥塗膜中の固形分量が60質量%である塗膜粘度η1および乾燥塗膜中の固形分量が80質量%である塗膜粘度η2が、下記条件:
1≦η2/η1≦10
を満たす。
【0075】
塗膜粘度η1およびη2は、温度25℃において、回転型粘弾性測定装置を用いて測定した、剪断速度0.1s-1における、ずりせん断粘度である。
【0076】
未硬化塗料の固形分を上げて粘度を測定する方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。未硬化の塗膜を形成した塗装板を、例えば真空脱溶媒装置を用いて、固形分を60±3%、および80±3%にして、回転型粘弾性測定装置を用いて、温度25℃および剪断速度0.1s-1で粘度を測定する。
【0077】
本明細書において、例えば「乾燥塗膜中の固形分量が60質量%」とは、固形分が60±3質量%である状態を意味し、また例えば「乾燥塗膜中の固形分量が80質量%」とは、固形分が80±3質量%である状態を意味する。
【0078】
本明細書において「塗料組成物の乾燥塗膜」とは、被塗物に塗料組成物を塗装した後、塗料組成物中に含まれる溶媒の少なくとも一部が蒸発した状態を意味する。
【0079】
水性塗料組成物の上記塗膜粘度η1およびη2が上記条件を満たすことは、乾燥塗膜中の固形分量が上記範囲となり塗料組成物中に含まれる溶媒量が減少した場合であっても、粘度変化が小さいことを意味する。溶媒量が減少した場合であっても粘度変化が小さいことによって、粘度が変化した場合における塗装作業性の変化を低減することができる利点がある。そしてこのような水性塗料組成物は、温度および/または湿度が異なる様々な塗装環境下においても、良好な塗装作業性を発揮することができる利点がある。
【0080】
[複層塗膜形成方法]
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、例えば複層塗膜の形成において好適に用いることができる。複層塗膜形成方法として、例えば下記の本発明の実施形態に係る複層塗膜形成方法が挙げられる。
【0081】
本発明の実施形態に係る複層塗膜形成方法は、
被塗物表面に対して、本発明の実施形態に係る第1水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を得る工程(1)、上記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料組成物を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、上記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、上記工程(1)~(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む。
本発明の実施形態に係る複層塗膜形成方法は、塗膜が未硬化の状態で順次塗装を行う方法であり、いわゆるウェットオンウェット塗装方法である。ウェットオンウェット塗装は、焼き付け乾燥炉を省略することができるため、経済性および環境負荷の観点における利点がある。
【0082】
第1水性ベース塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている塗装方法により塗装することができる。このような塗装方法として、例えば、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージ塗装、または、エアー静電スプレー塗装と回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装等が挙げられる。第1水性ベース塗膜の膜厚は、3μm以上40μm以下の範囲内であるのが好ましい。
【0083】
第1水性ベース塗料組成物を塗装した後、第2水性ベース塗料組成物を塗装する前に、必要に応じて、乾燥またはプレヒート等を行ってもよい。
【0084】
なお、他の態様においては、第1水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた塗膜を加熱硬化させ、その後、硬化した第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料組成物を塗装してもよい。
【0085】
第2水性ベース塗料組成物として、例えば、自動車車体の塗装において通常用いられる水性ベース塗料組成物を用いることができる。このような第2水性ベース塗料組成物として、例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料等の顔料、各種添加剤等を含むものを挙げることができる。第2水性ベース塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、エマルション等の形態であればよい。
【0086】
第2水性ベース塗料は、第1水性ベース塗料と同様の方法によって塗装することができる。第2水性ベース塗膜の膜厚は、3μm以上20μm以下の範囲内であるのが好ましい。第2水性ベース塗料組成物を塗装した後、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、必要に応じて、乾燥またはプレヒート等を行ってもよい。
【0087】
なお、他の態様においては、第2水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた塗膜を加熱硬化させ、その後、硬化した第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装してもよい。
【0088】
クリヤー塗料組成物として、例えば、自動車車体用クリヤー塗料組成物として通常用いられているものを用いることができる。このようなクリヤー塗料組成物として、例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、そして必要に応じた硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いることができる。透明性または耐酸エッチング性等の点から、ポリアクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するポリアクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0089】
クリヤー塗料組成物の塗装は、クリヤー塗料組成物の塗装形態に従った、当業者に公知の塗装方法を用いて行うことができる。上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10μm以上80μm以下が好ましく、20m以上60μm以下であることがより好ましい。
【0090】
クリヤー塗料組成物の塗装によって得られた未硬化のクリヤー塗膜を加熱硬化させることによって、硬化したクリヤー塗膜を形成することができる。クリヤー塗料組成物を、未硬化の第2水性ベース塗膜の上に塗装した場合は、加熱させることによって、これらの未硬化塗膜が加熱硬化することとなる。加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80℃以上180℃以下に設定されていることが好ましく、120℃以上160℃以下に設定されていることがさらに好ましい。加熱硬化時間は、上記温度に応じて任意に設定することができる。加熱硬化条件として、例えば、加熱硬化温度120℃以上160℃以下で10分以上30分以下加熱する条件等が挙げられる。
【実施例
【0091】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0092】
(製造例1)ポリエステル樹脂ディスパージョン(1)の製造
[アクリルビニル系重合体セグメント(a1)の合成]
撹拌機、温度計、不活性ガス導入管、滴下漏斗および還流管を備えた反応容器に、初期溶剤キシレン260質量部及び脱水ひまし油260質量部を仕込み、130℃まで昇温した。その後、スチレン34質量部、n-ブチルメタクリレート22質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート22質量部、メタクリル酸22質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1質量部、及びターシャリアミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1質量部の混合物を3時間かけて滴下した。さらに3時間ホールドした後、温度を下げ、固形分酸価160mgKOH/gであるビニル重合体(a1)を得た。
【0093】
[アルキドセグメント(a2)の合成]
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管およびガラス性多段精留塔を備えた反応容器に、ヤシ油脂肪酸5質量部、トリメチロールプロパン30質量部、1,6-ヘキサンジオール15質量部、及びヘキサヒドロ無水フタル酸50質量部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら昇温した。180℃に達した時点から4時間かけて240℃まで昇温し、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続行し、アルキドセグメント(a2)を得た。
【0094】
[ポリエステル樹脂ディスパージョン(1)の合成]
撹拌機、温度計、不活性ガス導入管、及び揮発溶剤を捕集するためのキャッチャー容器を備えた反応容器に、アクリルビニル系重合体セグメント(a1)350質量部(固形分量)と、アルキドセグメント(a2)160質量部(固形分量)とを仕込んで、200℃まで昇温した。次いで揮発分を減圧除去したのち、酸価が28となるまで同温度でエステル化反応を行い、アクリルビニル系重合体セグメントを有するアルキド樹脂を得た。これにプロピレングリコールモノプロピルエーテル24質量部を添加した後、ジメチルエタノールアミン14質量部を添加し、60℃でよく混合した後、60℃を保持しながら、イオン交換水570質量部を間欠的に添加し、不揮発分が42質量%、pHが8.9の半透明状のポリエステル樹脂ディスパージョン(A-1)を得た。ポリエステル樹脂ディスパージョン(A-1)を構成するポリエステル樹脂、すなわち、上記アルキド樹脂の数平均分子量は2000、重量平均分子量は30000、酸価は26mgKOH/g、水酸基価は90mgKOH/gであり、上記アルキド樹脂中、脂環式多塩基酸由来の構造は、43質量%であった。
酸価および水酸基価は、JIS K 0070:1992に記載された方法によって測定した。また、数平均分子量および重量平均分子量は、TSK-gel-supermultipоr HZ-M(東ソー社製)カラム、及び展開溶媒としてTHFを用い、GPC装置にてポリスチレン換算で決定した。pHは、pH Meter M-12[堀場製作所社製]を用いて25℃で測定した。以下、本実施例において同様である。
【0095】
(製造例2~8)ポリエステル樹脂ディスパージョン(2)~(8)の製造
表1に示すように組成を変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂ディスパージョン(2)~(8)を製造した。
【0096】
【表1】
【0097】
(製造例10)ポリアクリル樹脂ディスパージョンの製造
[調製工程1]
攪拌、冷却および加熱装置を備えた反応器に、酢酸ブチル210質量部を仕込み120℃まで加熱した。その後、スチレン(ST)73.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート64.45質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.00質量部、アクリル酸(AA)2.0質量部のモノマー混合物と、酢酸ブチル45質量部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート70質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。その後、60℃まで冷却してコアポリマー(コア部)を得た。
【0098】
[調製工程2]
次いで、冷却および加熱装置を備えた反応器に酢酸ブチル210質量部を仕込み120℃まで加熱した。その後、工程1で得られたコアポリマー835.00質量部、スチレン(ST)73.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.00質量部、アクリル酸(AA)20.0質量部のモノマー混合物と、酢酸ブチル120質量部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート140質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。
【0099】
[調製工程3]
反応混合物を120℃で30分間保ち、更に、酢酸ブチル80質量部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート3質量部を溶解させた溶液を30分かけて1系列等速滴下した。更に120℃で60分間攪拌した後、混合物を70℃まで冷却して、コアシェルポリマーを合成した。得られたコアシェルポリマーの樹脂固形分は58.5質量%であり、重量平均分子量は25,000であった。
【0100】
[調製工程4]
続いて、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルの170質量部を加えて希釈した。固形分が85質量%になるまで、得られた上記コアシェルポリマーから酢酸ブチルを減圧下で留去した。ここに、ジメチルエタノールアミン(DMEA)27.21質量部を添加した後、水を1680質量部加えて、アクリル樹脂ディスパージョンを作製した。得られたアクリル樹脂ディスパージョンの樹脂固形分は36.5質量%であった。
【0101】
(製造例11)ポリウレタン樹脂ディスパージョンの製造
撹拌機および加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、高分子ポリオール268.89質量部、低分子ポリオール9.58質量部、親水性基と活性水素とを有する化合物6.77質量部、有機ポリイソシアネート68.98質量部、アセトン145.79質量部を仕込んで95℃で15時間攪拌してウレタン化反応を行い、ポリウレタン樹脂のアセトン溶液を製造した。得られたポリウレタン樹脂のアセトン溶液500.00部を30℃で撹拌しながら、中和剤としてトリエチルアミン5.09質量部を加え、60rpmで30分間均一化した後、温度を30℃に保ち、500rpmで攪拌下、イオン交換水651.56部を徐々に加えることで乳化した。減圧下に65℃で12時間かけてアセトンを留去したのち、必要により水を加えて固形分濃度が35%となるように調整し、目開き100μmのSUS製メッシュでろ過して、ポリウレタン樹脂を含有するポリウレタン樹脂ディスパージョンを得た。
【0102】
(製造例12)顔料分散ペーストの製造
分散剤であるDisperbyk 190(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤)4.5部、消泡剤であるBYK-011(ビックケミー社製消泡剤)0.5部、イオン交換水22.9質量部、二酸化チタン72.1質量部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0103】
(実施例1)水性塗料組成物(1)の製造
製造例12で得られた顔料分散ペースト138.7質量部、製造例1で得られたポリエステル樹脂ディスパージョン(A-1)186.1質量部(樹脂固形分量80部)、および硬化剤としてメラミン樹脂(1)(サイメル250、Allnex社製メラミン樹脂、不揮発分70%、疎水性メラミン樹脂)28.6質量部(樹脂固形分量20部)を混合した後、粘性調整剤としてアデカノールUH814(商品名、ADEKA社製ウレタン会合型増粘剤)を1質量部、親水性有機溶媒としてエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル5部および2-エチルヘキサノール5質量部を混合攪拌し、実施例1の水性塗料組成物(1)を得た。
【0104】
(実施例2~11および比較例1~7)水性塗料組成物(2~17)の製造
ポリウレタン樹脂ディスパージョン、およびメラミン樹脂の種類及び量(固形分量)、また、ポリアクリル樹脂ディスパージョンおよびポリウレタン樹脂ディスパージョンの有無および量(固形分量)を表2および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の手順で、水性塗料組成物(2)~(17)を作成した。
【0105】
実施例および比較例で得られた水性塗料組成物(1)~(17)を用いて、下記評価試験を行った。得られた結果を表2および表3に示す。
【0106】
(塗膜の粘度測定方法)
塗膜の粘度測定は、以下の手順に従って行った。
実施例および比較例で調製した水性塗料組成物を、シンキー(THINKY)社製真空脱溶媒装置(ARV-310)にて、それぞれ固形分60±3%、および80±3%となるまで、それぞれ乾燥した。次いで、アントン・パール(Anton Paar)社製粘度計(MCR-301)にて、温度25℃および剪断速度0.1s-1で粘度を測定した。
【0107】
粘度変化率を示すパラメータとして、乾燥塗膜中の固形分量が60±3質量%である粘度をη1、および乾燥塗膜中の固形分量が80±3質量%である粘度をη2として、η2/η1を評価した。評価基準としては以下の通りとした。

粘度(η2/η1)の評価基準
◎:1≦η2/η1≦5(固形分60質量%と80質量%の粘度差がほとんどない)
○:5<η2/η1≦10(固形分60質量%と80質量%の粘度差がややある)
△:10<η2/η1≦15(固形分60質量%と80質量%の粘度差がある)
×:15<η2/η1(固形分60質量%と80質量%の粘度差が非常にある)
【0108】
(塗膜外観評価)
[複層塗膜形成]
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス150(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分の加熱硬化後冷却して、硬化電着塗膜を形成した。
得られた電着塗膜に、水性塗料組成物(1)~(17)のいずれかを、回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が20μmとなるように塗装し、ついで第2水性ベース塗料組成物として、アクアレックスAR-2100NH-700(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性メタリックベース塗料)を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。
なお、水性塗料組成物は、温度15℃、湿度80%のウェット条件で塗装し、次いで、第2ベース塗料組成物を25℃、60%の条件で塗装する工程と、水性塗料組成物を温度30℃、湿度50%のドライ条件で塗装し、次いで第2ベース塗料組成物を25℃、60%の条件で塗装する工程の2つの異なる条件で塗装した。また、水性塗料組成物と第2ベース塗料組成物との塗装の間に6分間のインターバルを置いた。
さらに、その塗板にクリヤー塗料組成物として、PUエクセルO-2100(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、2液クリヤー塗料)を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、水性塗料組成物(1)~(17)の塗装条件が異なる2種類の複層塗膜試験片を得た。
【0109】
なお、水性塗料組成物(1)~(17)、第2水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料は、下記条件で希釈した。
【0110】
・水性塗料組成物(1)~(17)
希釈溶媒:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0111】
・第2水性ベース塗料組成物
希釈溶媒:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0112】
・クリヤー塗料組成物
希釈溶媒:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S-150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0113】
[塗膜外観の評価方法、および評価基準]
得られた複層塗膜の仕上がり外観について、ウエーブスキャン DOI(BYK Gardner社製)を用いて、SW(測定波長:300~1,200μm)を測定することにより評価を行った。ウェット条件で塗装した塗膜外観SW(WET)とドライ条件で塗装した塗膜外観SW(DRY)の外観差を評価基準として用いた。

塗膜外観評価基準
◎:SW(DRY)-SW(WET)≦2(ウェット条件とドライ条件の外観差がほとんどない)
○:2<SW(DRY)-SW(WET)≦5(ウェット条件とドライ条件の外観差がややあるが問題ないレベル)
△:5<SW(DRY)-SW(WET)≦10(ウェット条件とドライ条件の外観差が大きい)
×:10<SW(DRY)-SW(WET)(ウェット条件とドライ条件の外観差が非常に大きい)
【0114】
(混層性(フリップフロップ性)評価)
ウェット条件にて作成された複層塗膜の混層性について、フリップフロップ性を用いて評価した。混層性の良い複層塗膜とは第2ベース塗料に含まれるアルミフレークの配向が基盤上に塗布された上記水性塗料組成物上にきれいに並びフリップフロップ性が強い。混層性の悪い複層塗膜は第2ベース塗料に含まれるアルミフレークの配向が基盤上に塗布された上記水性塗料組成物上にランダムに並び、フリップフロップ性がない。
フリップフロップ性はX-Rite MA68II(エックスライト社製)を用いて、15°(正面)、110°(シェード)のL値を測定した。この差が大きい程、フリップフロップ性が良好である事を示す。

混層性(フリップフロップ性)評価基準
◎:100≦L値(15°)-L値(110°)(正面とシェードとでL値の差が大きく、フリップフロップ性が強い。)
○:90≦L値(15°)-L値(110°)<100(正面とシェードとでL値の差がやや大きく、フリップフロップ性がやや強い。)
△:80≦L値(15°)-L値(110°)<90(混層が発生し、フリップフロップ性が弱い。)
×:L値(15°)-L値(110°)<80(混層が激しく発生し、フリップフロップ性がない。)
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
表2および表3中、メラミン樹脂(2)は、Allnex社製のサイメル211(疎水性メラミン樹脂)であり、メラミン樹脂(3)は、Allnex社製のサイメル327(水溶性メラミン樹脂)である。
【0118】
実施例の水性塗料組成物はいずれも、固形分変化に伴う粘度変化が小さいことが確認された。さらに、実施例の水性塗料組成物はいずれも、塗膜層間の混層の発生が低減されており、塗膜外観も良好であることが確認された。
比較例1は、疎水性メラミン樹脂を含まず、水溶性メラミン樹脂のみを含む例である。この例では、塗膜層間の混層の発生が確認された。比較例2~7は、全てη2/η1が本発明の範囲を逸脱する場合を示す。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、塗料組成物中に含まれる溶媒量が減少した場合であっても、粘度変化が少なく、塗装作業性が大きく変化することなく塗装を行うことができる利点がある。本発明の実施形態に係る水性塗料組成物はまた、混層等の塗膜外観悪化を低減することができる利点がある。