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特許7433128ロタンドンを有効成分とする飲食品の不快味のマスキング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ロタンドンを有効成分とする飲食品の不快味のマスキング剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240209BHJP
   A23L 27/29 20160101ALI20240209BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 C
A23L27/29
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079986
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021171023
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-07-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】石川 孝士
(72)【発明者】
【氏名】藤原 聡
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】加藤 友也
【審判官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149943(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2008年,Vol.56, No.10,pp.3738-3744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L27/00
A23L27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロタンドンからなる飲食品の不快味のマスキング剤。
【請求項2】
不快味が酸味である請求項1に記載のマスキング剤。
【請求項3】
不快味が苦味である請求項1に記載のマスキング剤。
【請求項4】
不快味が高甘味度甘味料の後味である請求項1に記載のマスキング剤。
【請求項5】
合成された、または、分画方法で得られたロタンドンを不快マスキングの有効成分とする、飲食品に添加して飲食品の不快味を改善するマスキング組成物(ロタンドンを含有する香辛料または香辛料抽出物を含有する場合を除く)であって、飲食品中の前記ロタンドン濃度が0.001ppt~1ppbにおいて、飲食品の不快味を改善する、マスキング組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のマスキング剤を、飲食品に0.001ppt~1ppb含有させる、飲食品の不快味のマスキング方法。
【請求項7】
不快味が改善された飲食品の製造方法であって、請求項5に記載のマスキング組成物を、飲食品中のロタンドン濃度が0.001ppt~1ppbとなるように飲食品に添加する、不快味が改善された飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスキング剤に関する。さらに詳しくは、ロタンドンを有効成分とする飲食品のマスキング剤、および該マスキング剤を使用した飲食品の不快味のマスキング方法、特に、酸味、苦味、高甘味度甘味料の後味のマスキング剤、および該マスキング剤を使用し飲食品の不快味のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味は、主として甘味、塩味、酸味、旨味、苦味の5種のほかに、渋味、えぐ味、辛味等がある。これらの味は、飲食品に適度に存在していると、飲食品に良好な風味を付与するが、過剰に存在していると飲食品に不快味をもたらす。
【0003】
苦味を有する飲食品としては、例えば、苦味物質であるナリンギンを含有するグレープフルーツのような果実、にがうりのような野菜、コーヒーのような焙煎抽出物、あるいは、香料物質、ペプチドなどの化学物質や蛋白加水分解物などが苦味を有するものとして知られている。そして、グレープフルーツ果汁含有飲料やコーヒーの場合の苦味低減は、通常、各種甘味料を添加するなどして対処している。
【0004】
飲食品において、さわやかな酸味は好まれる呈味となる場合があるが、舌を刺すような独特の刺激がある酸味は必ずしも好ましいとは言えない。例えば、ドレッシング、マヨネーズ、バーモントドリンクなどの食酢を含有する飲食品は、その酸味が特徴となるが、食酢に起因する独特の刺激が必ずしも万人に好まれるものではなく、その刺激を嫌う人も少なくない。また、ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料などの発酵飲食品は、ある程度の酸味は好まれることもあるが、過剰に酸味または酸臭が増加すると消費者の嗜好が低下してしまう。さらに、酸味料は酸味付与を目的とせず、pH調整剤として日持ち向上を目的として使用されることがあり、その場合、酸味や酸臭は飲食品にとって望ましくないものである。
【0005】
近年の糖質の過剰摂取、それに伴う生活習慣病に対する懸念、健康意識などの高まりから低カロリーの高甘味度甘味料を使用した飲食品が増加している。これらの高甘味度甘味料は、ショ糖、果糖、ぶどう糖などの一般的に用いられる甘味料である糖類の数百倍の甘味度を有するという優れた性能を持つ反面、後に尾を引く不自然な甘さ、不快な後味や苦味、エグ味を有している場合が多い。その結果として呈味の質がショ糖、果糖、ぶどう糖などと比べて劣るという欠点を有している。そのため、高甘味度甘味料を使用するためには、その欠点の改善が最大の課題となっている。
【0006】
香料化合物は嗅覚を刺激する化合物であるが、その種類は数万あるとされる。一方、飲食品の風味は嗅覚刺激と味覚刺激が脳で統合された感覚と考えられている。すなわち、嗅覚刺激は味覚を刺激する化合物(食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウムなど)と組み合され、飲食品全体の風味が形成されている。そこで、近年、香気を有する化合物の中から、嗅覚と同時に味覚を刺激する化合物について探索が盛んとなり、飲食品の総合的な風味の向上に用いられている。
【0007】
上記の不快味のマスキング方法として、香料を用いた例として、ハイカカオチョコレートの苦渋味マスキング方法として、ミント精油、ココナッツ精油およびユーカリ精油を添加する方法(特許文献1)、柑橘類、コーヒー、茶、カカオおよびホップに由来する苦味を抑制する方法として、イソブチルアンゲレートを添加する方法(特許文献2)、イソチオシアネート類からなる、酸味および/または酸臭抑制剤(特許文献3)、4,7-トリデカジエナールおよび/または2,4,7-トリデカトリエナールからなる苦味および/または渋味抑制剤(特許文献4)、4,7-トリデカジエナールおよび/または2,4,7-トリデカトリエナールからなる酸味および/または酸臭抑制剤(特許文献5)などがある。
【0008】
さらに、高甘味度甘味料の呈味改善としては、例えば、スピラントール又はスピラントールを含有する植物の抽出物若しくは精油からなることを特徴とする高甘味度甘味料の呈味改善剤(特許文献6)、高甘味度甘味料、及び該高甘味度甘味料の1質量部に対して0.1質量部以上の梅酒様、杏仁酒様、アマレット様、アプリコットブランデー様またはチェリーブランデー様のリキュール系フレーバーを含有することを特徴とする飲料(特許文献7)、アスパルテーム及び/又はアセスルファムカリウムから選ばれる高甘味度甘味料及びヨーグルト香料、ピーチ香料、グレープフルーツ香料、アップル香料、アセロラ香料、ウメ香料、ウメシュ香料、コーヒー香料、紅茶香料から選ばれる1種又は2種以上の香料、好ましくは、ヨーグルト香料を含有することを特徴とする味質の改善されたイソソルビド製剤(特許文献8)、0.0001~0.06重量%のスクラロース、0.0002~0.07重量%のステビア抽出物であってステビオサイドとレバウディオサイドの重量比が1:0.5~2であるステビア抽出物、コラーゲンペプチド、0.4~5重量%のビタミンC、0.0002~0.08重量%のアセスルファムカリウム、0.01~1.0重量%のピーチ香料を含有させることで呈味を改善したコラーゲン含有飲食品(特許文献9)、高甘味度甘味料の呈味改善のための有効成分として、ショウガ抽出物と、さらにキャラウェイ精油、ペパーミントテイル精油、カルダモン精油及びナツメグ抽出物から選択される1種以上とからなる高甘味度甘味料の呈味改善剤(特許文献10)、4,7-トリデカジエナールからなる、高甘味度甘味料の呈味改善剤(特許文献11)、難消化性デキストリンとレモンフレーバーおよびライムフレーバーを含むシトラス系フレーバーと高甘味度甘味料とを含み、前記難消化性デキストリンの含有量が13.5g/L以下であり、前記難消化性デキストリンの含有量に対する前記シトラス系フレーバーの含有量の重量比が0.022以上であり、前記高甘味度甘味料の含有量をショ糖換算した量に対する、前記難消化性デキストリンの含有量の重量比が0.14以上である飲料(特許文献12)、(a)異性化糖、砂糖、スクラロース及びステビア抽出物の群から選ばれる少なくとも1種の甘味料、及び(b)cis-3-ヘキセノール、trans-2-ヘキセナール、trans-2-ヘキセノール、及びcis-2-ヘキセノールの群から選ばれる少なくとも1種である青葉の香りを有する香気成分を含有することを特徴とする炭酸飲料(特許文献13)、ダバナオイルを含有する高甘味度甘味料の味覚改善剤(特許文献14)、ショウガ抽出物を含む高甘味度甘味料の呈味改善剤(特許文献15)、イソブチルアンゲレートを有効成分として含有する高甘味度甘味料の呈味改善剤(特許文献16)などがある。
【0009】
ロタンドンは香料用途として有用であり、スパイシー、コショウ様香気が特徴であるシラーズワインおよびそのワイン用のブドウの、スパイシー、コショウ様香気の原因成分であることが報告されている。また、黒コショウや白コショウには数ppm含有され、それらの重要香気成分であること、マジョラム、オレガノ、ローズマリー、バジル、タイムなどのスパイス中にも微量含まれていることが報告されている(非特許文献1)。また、柑橘香味増強剤(特許文献17)および果実香味増強剤(特許文献18)としての用途が知られている。しかしながら、ロタンドンは香料としての用途が知られているものの、飲食品に添加することにより飲食品の不快味をマスキングする効果については、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6230141号公報
【文献】特許第6296473号公報
【文献】特開2012-34603号公報
【文献】特開2013-143930号公報
【文献】特開2013-21926号公報
【文献】特許第4688517号公報
【文献】特開2007-82491号公報
【文献】特開2006-131625号公報
【文献】特許第4630787号公報
【文献】特許第5231356号公報
【文献】特許第4906147号公報
【文献】特許第5657823号公報
【文献】特開2015-6167号公報
【文献】特開2011-24428号公報
【文献】特開2011-30535号公報
【文献】特許第6281926号公報
【文献】特開2016-198025号公報
【文献】特開2016-198026号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry、2008年、56巻10号、p3738-3744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、飲食品が有している風味ではあるが、商品設計上好ましくない不快味がある場合にそれらの不快味を低減し、その飲食品が本来持っている総合的に好ましい風味へと改善できるマスキング剤を提供することである。
【0013】
さらには、実際に飲食品に添加する濃度では香気・香味を感じにくいため、様々な飲食物に利用できる汎用性の高さ、豊富な食経験に裏打ちされた高い安全性、日常的に手軽に入手できる安価な原材料で達成可能な高いコストパフォーマンスという多くの利点を併せ持ったマスキング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、ロタンドンを、飲食品に添加することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品に有する不快味、特に酸味・苦味・高甘味度甘味料の後味由来の不快味を低減し、飲食品の風味を改善できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
かくして本発明は以下のものを提供する。
(1)ロタンドン[(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンおよび/または(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン]からなる飲食品の不快味のマスキング剤。
(2)不快味が酸味である(1)に記載のマスキング剤。
(3)不快味が苦味である(1)に記載のマスキング剤。
(4)不快味が高甘味度甘味料の後味である(1)に記載のマスキング剤。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のマスキング剤を、0.1ppt~1ppm含有する、飲食品の不快味を改善するマスキング組成物。
(6)(1)~(4)のいずれかに記載のマスキング剤を、飲食品に0.001ppt~1ppb含有させる、飲食品の不快味のマスキング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、飲食品が有している風味ではあるが、商品設計上好ましくない不快味がある場合にそれらの不快味を低減し、その飲食品が本来持っている総合的に好ましい風味へと改善できる。また、様々な飲食物に利用できる汎用性の高さ、豊富な食経験に裏打ちされた高い安全性、日常的に手軽に入手できる安価な原材料で達成可能な高いコストパフォーマンスという多くの利点を併せ持ったマスキング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0018】
本発明において、%、ppm、ppb、pptの値は特に断りのない限り、それぞれ質量対質量の値を示す。
【0019】
本発明における酸味を有する飲食品とは、経口摂取時等に酸味を有する飲食品を意味し、このなかには本来酸味は必要でないが、保存などの目的で酸味剤などを添加したために酸味を有する飲食品を含む。摂取又は利用時は液体、固体又は半固体のいずれの形態のものであってもよい。このような飲食品として、各種の天然果実のような天然素材、又はクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、コハク酸及びリン酸等の天然もしくは合成酸味剤を含有するもの、例えば飲料、ヨーグルト、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、漬物、調味料、インスタント食品、食パン、蒲鉾、豆腐などを挙げることができる。
【0020】
本発明における苦味を有する飲食品とは、経口摂取時等に苦味を有する飲食品を意味し、このなかには本来苦味は必要でないが、他の目的等で添加したために結果的に苦味を有することとなった飲食品を含む。また、摂取又は利用時は液体、固体又は半固体のいずれの形態のものであってもよい。苦味物質として、塩化カリウム、苦味ペプチド、ナリンギン、カフェイン、ニコチン、フェニルチオ尿素、ピクリン酸、硫酸マグネシウム、ブルシン、尿素、キニーネ等を挙げることができる。苦味を有する物質を含有する最終製品には、茶、コーヒー、ココア、グレープフルーツ、ビールなどの飲食品、ブロイラー肥育用配合飼料、ペットフード、苦味健胃薬、栄養ドリンク等の医薬品、口中清涼剤等の医薬部外品を挙げることができる。また、プロテインが有する不快味、ペプチドが有する不快味、ゼラチンが有する不快味、アミノ酸が有する不快味について挙げることができる。
【0021】
本発明において高甘味度甘味料とはショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料であり、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、レバウディオサイドA、ネオテーム、アリテーム、モナチン、タウマチン、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、ラカンカ抽出物(モグロシド)および甘茶抽出物(フィロズルチン)を例示することができ、これらは単独であっても組み合わせて使用されたものであっても良い。本発明の呈味改善剤は高甘味度甘味料の種類には制限されずに使用できるが、特にスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物への使用が好ましい。
【0022】
本発明において、高甘味度甘味料の後味の改善または後味の不快味のマスキングとは、高甘味度甘味料が有する特有の後に尾を引く不自然な甘さ、不快な後味や苦味、エグ味を改善することをいい、これらの嫌味を抑制し、キレやすっきり感を付与し、砂糖に近い自然な甘味に改善することをいう。
【0023】
ロタンドンは、一般的には(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンのことを指すが、本明細書において「ロタンドン」という場合には、これの異性体である、(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンも含める。
【0024】
本発明の有効成分である(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン(以下(-)-ロタンドンと記す)は、非特許文献1に記載の方法により合成するか、市販のコショウ精油から蒸留法、クロマト法を単独あるいは組み合わせる分画方法で得ることができる。
【0025】
また、本発明の有効成分である(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン(以下3-エピロタンドンと記す)は、特開2017-206451号公報に記載の方法により合成することができる。
【0026】
本発明の(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンはそれぞれ単独でまたは混合物で飲食品に添加することにより、飲食品の不快味に対するマスキング効果を有することができる。
【0027】
飲食品、例えば、酸味・苦味・高甘味度甘味料の後味由来の不快味を有する飲食品に対し、本発明の化合物である、ロタンドンを、そのまま飲食品に配合することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品の不快味をマスキングし、飲食品の風味を改善することができる。また、本発明の(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンを任意の割合で混合して用いることもできる。そのため、以下では(-)-ロタンドン単独、3-エピロタンドン単独および(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンの混合物を単に「ロタンドン」と称する。
【0028】
本発明のロタンドンの配合量は、その目的あるいは飲食品の種類によっても異なるが、飲食品の全体質量に対して下限値としては、0.001ppt、0.002ppt、0.005ppt、0.01ppt、0.02ppt、0.05ppt、0.1ppt、0.2pptが例示でき、上限値としては、1ppb、0.5ppb、0.2ppb、0.1ppb、50ppt、20ppt、10ppt、5pptが例示でき、これら下限及び上限値の任意の組み合わせを挙げることができる。例えば、飲食品の全体重量に対して0.001ppt~1ppb、好ましくは0.005ppt~0.5ppb、さらに好ましくは0.01ppt~0.1ppb、より好ましくは0.05ppt~50ppt、特に好ましくは0.1ppt~10pptの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品に対し不快味をマスキングする優れた効果を有する。
【0029】
本発明のマスキング剤は、単独で飲食品に添加することもできるが、香料成分と任意に組み合わせて、飲食品用のマスキング組成物として使用することもできる。本発明のマスキング剤と共に含有しうる他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料」または「合成香料、化学と商品知識、増補新版、化学工業日報発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料を挙げることができる。
【0030】
これらの成分として、食品用香料の素材として、例えば、リモネン、ミルセン、α-ピネン、β-ピネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、カリオフィレン等の炭化水素類;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、cis-3-ヘキセノール、cis-6-ノネノール、cis,cis-3,6-ノナジエノール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、α-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-4-オール、メントール、チモール、オイゲノール等のアルコール類;ヘキサナール、cis-3-ヘキセナール、trans-2-ヘキセナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、10-ウンデセナール、2,6-ノナジエナール、シトラール、シトロネラール、バニリン、エチルバニリン等のアルデヒド類及びそれらのアセタール類;カルボン、プレゴン、メントン、カンファー、ヌートカトン、アセトイン、ジアセチル、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、p-メチルアセトフェノン、p-メトキシアセトフェノン、ラズベリーケトン、アニシルアセトン、ジンゲロン、アセチルフラン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、ジメチルヒドロキシフラノン等のケトン類及びそれらのケタール類;エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソアミルアセテート、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、ゲラニルアセテート、リナリルアセテート、エチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、ヘキシルプロピオネート、ゲラニルプロピオネート、シトロネリルプロピオネート、エチルブチレート、イソアミルブチレート、ゲラニルブチレート、ブチルペンタノエート、メチルブチレート、メチルアンスラニレート等のエステル類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸等の脂肪酸類;メントフラン、テアスピラン、シネオール、ローズオキサイド、アネトール、メトキシピラジン類等のエーテル類;チアゾール、プロピルメルカプタン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、メチオナール、フルフリルジスルフィド等の含硫化合物;等を挙げることができる。
【0031】
これらの、合成香料に関しては、市場で容易に入手可能であり、必要により容易に合成することもできる。
【0032】
また、各種のエキスとしてハーブ・スパイス抽出物、コーヒー・緑茶・紅茶・ウーロン茶抽出物、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼ・プロテアーゼなどの酵素分解物も挙げられる。
【0033】
本発明のマスキング剤またはマスキング組成物はそのまま飲食品に添加して使用することができるが、水混和性有機溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤などして飲食品に添加することもできる。
【0034】
本発明のマスキング剤またはマスキング剤組成物を溶解するための水混和性有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、2-プロパノール、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノール、グリセリンまたはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0035】
また、乳化製剤とするためには、本発明のマスキング剤またはマスキング剤組成物を乳化剤と共に乳化して得ることができる。例えば、キラヤ抽出物、酵素処理レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アラビアガムなどの乳化剤ないし安定剤の1種以上を配合して、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化することにより乳化香料製剤の形態とすることもできる。かかる乳化剤ないし安定剤の使用量は乳化剤ないし安定剤の種類などにより異なるが、例えば、乳化香料製剤の質量を基準として0.1~25質量%の範囲、好ましくは5~20質量%の範囲内を挙げることができる。
【0036】
さらに、例えば、前記乳化香料製剤に砂糖、乳糖、ブドウ糖、トレハロース、セロビオース、水飴、還元水飴などの糖類;糖アルコール類;デキストリンなどの各種デンプン分解物およびデンプン誘導体、デンプン、ゼラチン、アラビアガムなどの天然ガム類などの賦形剤を適宜配合した後、例えば、噴霧乾燥、真空乾燥などの適宜な乾燥手段により乾燥して粉末香料製剤の形態とすることもできる。これらの賦形剤の配合量は粉末香料製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0037】
本発明のマスキング剤またはマスキング剤組成物は、不快味を有する飲食品に添加することにより飲食品の不快味をマスキングすることができる。
【0038】
かかる不快味を有する飲食品としては、例えば酸味を有する飲食品として、コーヒー、果汁飲料、酸性飲料等の飲料;酢酸、黒酢、リンゴ酢、醸造酢等の食酢および、これら食酢を用いた食酢飲料;ヨーグルト、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、梅干し、漬物、調味料、インスタント食品、食パン、蒲鉾、豆腐、柑橘類などを挙げることができる。
【0039】
苦味を有する飲食品としては、緑茶、紅茶、コーヒー、ココア、グレープフルーツ、ビール、ビールテイスト飲料、プロテイン飲料、アミノ酸飲料などの飲食品、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アルパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、飼料、ペットフード、苦味健胃薬、栄養ドリンクなどの医薬品、口中清涼剤等の医薬部外品を挙げることができる。
【0040】
また、高甘味度甘味料により甘味が付与されている飲食品としては、例えば、果実ジュース、果粒入り果実ジュース、果実飲料、果汁飲料、果汁入り飲料、野菜ジュース、野菜入りジュース、果実野菜ミックスジュースなどの果汁または野菜汁飲料;コーラ、ジンジャーエール、サイダー等の炭酸飲料;スポーツドリンク、ニアウォーターなどの清涼飲料;コーヒー、ココア、紅茶、抹茶、緑茶、ウーロン茶等の茶系あるいは嗜好性飲料;乳飲料、乳成分入りコーヒー、カフェオレ、ミルクティー、抹茶ミルク、フルーツ乳飲料、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料等の乳成分を含有する飲料などの飲料一般;ヨーグルト、ゼリー、ドリンクゼリー、プディング、ババロア、ブラマンジェ及びムース等のデザート類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等のアイスクリーム類;シャーベット、氷菓などの冷菓;ケーキ、クラッカー、ビスケットや饅頭等といった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子等の菓子類;米菓、スナック類;チューインガム、ハードキャンデー、ヌガーキャンデー、ゼリーなどの糖菓一般;果実フレーバーソースやチョコレートソースを含むソース類;バタークリーム、フラワーペーストやホイップクリーム等のクリーム類;イチゴジャムやマーマレード等のジャム;菓子パン等を含むパン;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼き等に用いられるタレ、トマトケチャップ、ソース、麺つゆなどの調味料一般;スティックシュガーなどの甘味料組成物;蒲鉾などの練り製品、ソーセージ等の食肉加工品、レトルト食品、漬け物、佃煮、珍味、惣菜並びに冷凍食品等を含む農畜水産加工品を広く例示することができる。
【0041】
また、本発明のマスキング剤またはマスキング剤組成物は、その他公知、市販されている各種添加剤と組み合わせて用いても良い。
【0042】
本発明のロタンドンの、マスキング組成物への含有量は、その目的あるいはマスキング組成物の種類によっても異なるが、マスキング組成物の全体質量に対して下限値としては、0.1ppt、0.2ppt、0.5ppt、1ppt、2ppt、5ppt、10ppt、20pptが例示でき、上限値としては、1ppm、0.5ppm、0.2ppm、0.1ppm、50ppb、20ppb、10ppb、5ppbが例示でき、これら下限及び上限値の任意の組み合わせを挙げることができる。特に、0.1ppt~1ppm(本明細書においては「~」は上限値および下限値を含む範囲を意味する)、好ましくは0.5ppt~0.5ppm、さらに好ましくは1ppt~0.1ppm、より好ましくは5ppt~50ppb、特に好ましくは10ppt~10ppbの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品の不快味をマスキングする優れた効果を有する。
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0044】
本発明における(-)-ロタンドンは、非特許文献1に記載されている方法に従って合成した。また、本発明における3-エピロタンドンは、特開2017-206451号公報に記載の方法に従って合成した。
【0045】
実施例1:酸味のマスキング効果
表1の処方が示す割合で混合し、定法によりキャンディーを調製した(比較品1)。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の処方に、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表2に示す濃度となるように添加し、比較品1と同様な方法でキャンディーを調製した。それぞれのキャンディーをよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、酸味のマスキングについての官能評価を行った。
【0048】
酸味のマスキングの評点は、比較品1をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに酸味が抑制されている、2:コントロールと比べ酸味が抑制されている、3:コントロールと比べ酸味が強く抑制され、クエン酸の酸っぱさが感じにくくなっている、4:コントロールと比べ酸味が完全に抑制され、クエン酸の酸っぱさを感じなくなっている、として採点した。そのパネリスト10名の平均点を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独でキャンディー処方に添加した場合に、そのキャンディーは比較品1と比較して酸味がマスキングされていた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内で酸味がマスキングされることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、酸味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0051】
参考例1:レモンエッセンスの調製
市販のレモン精油1991.6gを、分子蒸留装置を用いて薄膜蒸留処理を行い、留出物1857.3g、残渣122.5gを得た。再度残渣を同じ条件で薄膜蒸留処理を行い、留出物64.7g、残渣58.4gを得た。前記薄膜蒸留処理で得られた留出物を合わせた1922.0gを、スルーザーパッキン充填蒸留塔を用い精密蒸留し、テルペン炭化水素を留出させることにより、レモン精油精製物190.1gが得られた。さらに、テルペン炭化水素を留出させるために、スルーザーパッキン充填蒸留塔を用い再度精密蒸留し、テルペン炭化水素を留出させることにより、レモン精油精製物106.2g(参考品1)が得られた。上記参考品1をエタノール80%の水溶液に対して1%溶解させ、レモンエッセンスとした(参考品2)。
【0052】
実施例2:マスキング組成物による酸味のマスキング効果
上記参考品2に、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppmとなるように添加し、マスキング組成物を調製した。これらをクエン酸0.5%水溶液に0.1%となるように希釈し、クエン酸0.5%水溶液をコントロール品として、それぞれのマスキング組成物の、酸味のマスキングについての官能評価を行った。官能評価の評点は、実施例1と同じ方法で採点した。パネリスト10名の平均点を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独で参考品2に添加した場合に、その溶液はコントロール品と比較して酸味をマスキングしていた。また、参考品2に対する濃度としては、参考品2への質量を基準として、1ppt~1ppmの範囲内で酸味をマスキングすることが認められた。ただし、10ppmの添加濃度では、酸味をマスキングするが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0055】
実施例3:プロテイン飲料の不快味(苦味)のマスキング効果
市販のプレーンのプロテインパウダー21gを水に溶解し300gとした(比較品2)。(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表4に示す濃度となるように添加し、プロテイン飲料を調製した。それぞれのプロテイン飲料をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、プロテイン飲料が生ずる苦味由来の不快味のマスキングについての官能評価を行った。
【0056】
プロテイン由来の不快味のマスキングの評点は、比較品2をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに不快味が抑制されている、2:コントロールと比べ不快味が抑制されている、3:コントロールと比べ不快味がかなり抑制され、プロテイン由来の苦味が良好にマスキングされている、4:コントロールと比べ不快味が完全に抑制され、プロテイン由来の苦味が良好にマスキングされている、として採点した。そのパネリスト10名の平均点を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独でプロテイン飲料に添加した場合に、そのプロテイン飲料は比較品2と比較してプロテイン由来の不快味がマスキングされていた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内でマスキングされることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、不快味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0059】
実施例4:プロテイン飲料への不快味のマスキング効果2
前記の参考品2のレモンエッセンスに(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをそれぞれ単独に1ppb添加した。参考品2および参考品2に(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをそれぞれ単独に添加したレモンエッセンスを実施例3に記載のプロテイン飲料(比較品2)に0.1%添加した。
【0060】
これらのプロテイン飲料を、よく訓練された10名のパネリストにより評価したところ、パネリスト全員が、参考品2のレモンエッセンスを添加したプロテイン飲料と比較して、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをそれぞれ単独に添加したレモンエッセンスを添加したプロテイン飲料の方がプロテイン由来の苦味が低減され、不快味が抑制されているとの評価であった。
【0061】
実施例5:ビターチョコレートの苦味のマスキング
市販のビターチョコレート(比較品3)を55℃にて溶解し、ここに(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表5の濃度になるように添加し、チョコレート生地を得た。これを常温に冷却し、常法により(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを添加したビターチョコレートを得た。それぞれのビターチョコレートをよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、苦味のマスキングについての官能評価を行った。
【0062】
苦味のマスキングの評点は、比較品3をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに苦味が抑制されている、2:コントロールと比べ苦味が抑制されている、3:コントロールと比べ苦味がかなり抑制され、チョコレート由来の苦味が良好にマスキングされている、4:コントロールと比べ苦味が完全に抑制され、チョコレート由来の苦味が良好にマスキングされている、として採点した。そのパネリスト10名の平均点を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
表5に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独でビターチョコレートに添加した場合に、そのビターチョコレートは比較品3と比較してビターチョコレート由来の苦味がマスキングされていた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内でマスキングされることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、苦味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0065】
実施例6:ステビア含有飲料に対するマスキング効果
クエン酸0.05g、クエン酸三ナトリウム0.01g、ステビア甘味料(α-グルコシルレバウディオサイドAを85%含有)0.04g、レモンフレーバー(長谷川香料社製)0.1gを混合した後、水を加えて全量を100mLとし、ステビア含有飲料を調製した(比較品4)。これに、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表6に示す濃度で添加したステビア甘味料含有飲料を得た。
【0066】
これらについて、よく訓練されたパネリスト10名を用いて官能評価を行った。官能評価は、以下の2つの項目について6段階で評価し、その平均点を計算した。表6にその結果を示す。
(1)後味の苦味について(以下、「苦味」という):後味に苦味を非常に強く感じる(1点)、後味に苦味を強く感じる(2点)、後味に苦味を感じる(3点)、後味に苦味が多少感じられる(4点)、後味に苦味がわずかに感じられる(5点)、 後味に苦味が全く感じられない(6点)
(2)甘味が後に尾を引く欠点について(以下、「甘味の後引き」という): 甘味の後引きが非常に強く、好ましい甘味ではない(1点)、甘味の後引きが強く、好ましい甘味ではない(2点)、甘味の後引きがあり、好ましい甘味が弱い(3点)、甘みの後引きを多少感じる(4点)、甘味の後引きをわずかに感じる(5点)、甘味の後引きが感じられず、好ましい甘味を強く感じる(6点)。
【0067】
【表6】
【0068】
以上の官能評価から、ステビア甘味料の呈味の欠点は、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをステビア含有飲料に0.001ppt~1ppb添加することにより改善されることが認められた。また、10ppbの添加濃度では、ステビア甘味料の後味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの評価結果であった。
【0069】
実施例7:アセスルファムK含有飲料に対するマスキング効果
クエン酸0.05g、クエン酸三ナトリウム0.01g、アセスルファムKを0.026g、レモンフレーバー(長谷川香料社製)0.1gを混合した後、水を加えて全量を100mLとし、アセスルファムK含有飲料を調製した(比較品5)。これに、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表7に示す濃度で添加したアセスルファムK含有飲料を得た。
【0070】
これらについて、よく訓練されたパネリスト10名を用いて官能評価を行った。官能評価は、実施例6と同じ方法で評価し、その平均点を計算した。表7にその結果を示す。
【0071】
【表7】
【0072】
以上の官能評価から、アセスルファムK甘味料の呈味の欠点は、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをアセスルファムK含有飲料に0.001ppt~1ppb添加することにより改善されることが認められた。また、10ppbの添加濃度では、アセスルファムK甘味料の後味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの評価結果であった。
【0073】
実施例8:スクラロース含有飲料に対するマスキング効果
クエン酸0.05g、クエン酸三ナトリウム0.01g、スクラロース0.008g、レモンフレーバー(長谷川香料社製)0.1gを混合した後、水を加えて全量を100mLとし、スクラロース含有飲料を調製した(比較品6)。これに、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表8に示す濃度で添加したスクラロース含有飲料を得た。
【0074】
これらについて、よく訓練されたパネリスト10名を用いて官能評価を行った。官能評価は、実施例6と同じ方法で評価し、その平均点を計算した。表8にその結果を示す。
【0075】
【表8】
【0076】
以上の官能評価から、スクラロース甘味料の呈味の欠点は、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをスクラロース含有飲料に0.001ppt~1ppb添加することにより改善されることが認められた。また、10ppbの添加濃度では、スクラロース甘味料の後味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの評価結果であった。
【0077】
実施例9:アスパルテーム含有飲料に対する効果
クエン酸0.05g、クエン酸三ナトリウム0.01g、アスパルテーム0.025g、レモンフレーバー(長谷川香料社製)0.1gを混合した後、水を加えて全量を100mLとし、アスパルテーム含有飲料を調製した(比較品7)。これに、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表9に示す濃度で添加したアスパルテーム含有飲料を得た。
【0078】
これらについて、よく訓練されたパネリスト10名を用いて官能評価を行った。官能評価は、実施例6と同じ方法で評価し、その平均点を計算した。表9にその結果を示す。
【0079】
【表9】
【0080】
以上の官能評価から、アスパルテーム甘味料の呈味の欠点は、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンをアスパルテーム含有飲料に0.001ppt~1ppb添加することにより改善されることが認められた。また、10ppbの添加濃度では、アスパルテーム甘味料の後味はマスキングされるが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの評価結果であった。
【0081】
実施例10:市販非発酵ノンアルコールビール風味飲料への添加および官能評価
市販の非発酵ノンアルコールビール風味飲料(原材料に「甘味料(アセスルファムK)」の表示がある製品)に、(-)-ロタンドンを飲料に対して1pptを添加し、よく訓練されたパネリスト10名を用いて官能評価を行った。
【0082】
その結果、パネリスト10名全員が、(-)-ロタンドンを飲料に対して1pptを添加することにより、市販の非発酵ノンアルコールビール風味飲料(原材料に「甘味料(アセスルファムK)」の表示がある製品)の甘味料由来(アセスルファムK)の苦味および甘味の後引きは改善されると評価した。
【0083】
実施例11:ロタンドンを配合した香料組成物の調製
表10の調合処方により、スポーツドリンク用香料組成物(比較品8:グレープフルーツ風味)を調製した。
【0084】
【表10】
【0085】
比較品8に(-)-ロタンドンを1ppm添加した呈味改善剤組成物(本発明品1)を調製した。
乳化香料の調製
本発明品150g、SAIB(シュークロース・ジアセテート・ヘキサイソブチレート)91g、中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド8gおよび天然ビタミンE1gを混合溶解して、均一な油性材料混合物を得た。この混合物をグリセリン350g、アラビアガム185gおよび水315gを混合した溶液に加えて、予備撹拌して分散させた後、T.K.ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて、5000rpmにて10分間乳化し、粒径約0.2~0.5μmの均一な乳化物を得た(本発明品2)。また本発明品1の代わりに比較品8を原料として、同様の方法により均一な乳化物(比較品9)を得た。
【0086】
実施例12:スポーツドリンクへの添加および官能評価
表11に示す調合処方により、スポーツドリンクを調製した。
【0087】
【表11】
【0088】
それぞれの飲料の風味をよく訓練された10名のパネリストにより官能評価した。
その結果、パネリスト10名全員が、本発明品2を添加したスポーツドリンクの方が、比較品9を添加したスポーツドリンクよりもおいしいと評価した。また、その平均的な評価内容としては、高甘味度甘味料の特有の苦みが改善され、甘味の後引きについても改善され、キレやすっきり感を付与し、のどごし感が良好で、極めておいしく感じるとの評価であった。