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特許7433129光音響センサおよびそれを用いた空間環境制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】光音響センサおよびそれを用いた空間環境制御システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20240209BHJP
   G01N 21/00 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20240209BHJP
   F24F 11/89 20180101ALI20240209BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20240209BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
G01N29/02
G01N21/00 A
G01N21/03 B
F24F11/89
F24F11/70
G01N29/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020083779
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021179332
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高武 直弘
(72)【発明者】
【氏名】馬場 宣明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】川村 邦人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 洋
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-145957(JP,A)
【文献】米国特許第6006585(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110702607(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104458634(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0205871(US,A1)
【文献】特開2017-133832(JP,A)
【文献】特開平08-224120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01N 21/00-21/61
G01J 3/00-3/52
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象とする匂い分子を検出する光音響センサであって、
インコヒーレントな光を発する光源と、
前記匂い分子を含む空気が導入され、光音響波を検出する第1のマイクロフォンが設けられた第1のセルと、前記匂い分子を含まない、もしくは無視できる程度にしか含まない空気が導入され、光音響波を検出する第2のマイクロフォンが設けられた第2のセルとが設けられた検出部と、
前記第1のマイクロフォンの検出信号と前記第2のマイクロフォンの検出信号との差分に基づき、前記匂い分子の検出を行うセンシング回路とを有し、
前記第1のセル及び前記第2のセルが設けられる前記検出部の筐体には、前記光源からの光を前記セル内に照射するための絞り部が設けられ、
前記絞り部の前記光源に面する第1の開口部の面積は、前記絞り部の前記セルに面する第2の開口部の面積よりも大きく、前記第1の開口部、前記第2の開口部及び前記絞り部の側面により、錐台形状またはウィンストン・コーンが形成されている光音響センサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記絞り部の側面は、金属または、鏡面仕上げされたメッキにより形成されている光音響センサ。
【請求項3】
請求項2において、
前記筐体は、金属または樹脂で形成されている光音響センサ。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1のセルと前記第2のセルとは、大きさ、形状、前記絞り部の前記第2の開口部の位置及び前記マイクロフォンの位置が互いに等しく、
前記第1のセルの前記第2の開口部が設けられた第1の面と前記第2のセルの前記第2の開口部が設けられた第2の面とは隣接して配置され、
前記第1の面及び前記第2の面と前記光源とは対向するように配置されている光音響センサ。
【請求項5】
請求項4において、
前記光源、前記第1のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部、及び前記第2のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部が一体構成とされている光音響センサ。
【請求項6】
請求項4において、
前記第1のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部の中心軸は、鉛直線よりも前記光源の方向に所定の角度だけ傾いた状態で配置され、
前記第2のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部の中心軸は、鉛直線よりも前記光源の方向に所定の角度だけ傾いた状態で配置されている光音響センサ。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部の中心軸と、前記第2のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部の中心軸とは、前記光源の中心を通る鉛直線を軸として、線対称の関係にある光音響センサ。
【請求項8】
請求項1において、
前記第1のセルと前記第2のセルとは、大きさ、形状、前記絞り部の前記第2の開口部の位置及び前記マイクロフォンの位置が互いに等しく、
前記第1のセルの前記第2の開口部が設けられた第1の面と前記第2のセルの前記第2の開口部が設けられた第2の面との間に前記光源が配置されている光音響センサ。
【請求項9】
請求項8において、
前記光源、前記第1のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部、及び前記第2のセル内に前記光源からの光を照射するための前記絞り部が一体構成とされている光音響センサ。
【請求項10】
匂い発生機と、匂いの濃度を計測する匂いセンサと、匂いを抑制する匂い抑制装置と、人の活性度を計測する活性度センサと、前記匂い発生機、前記匂い抑制装置を制御する制御装置と、を備えた空間環境制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記匂い発生機で匂いを発生させた後、前記活性度センサで計測した活性度と匂いの発生前に計測した活性度との差分が所定の閾値より小さくなったとき、前記匂い抑制装置を動作させ、前記匂いセンサにより、匂いが所定の濃度以下となったことを検知すると前記匂い抑制装置を停止させ、
前記匂いセンサは、検出対象とする匂い分子を検出する光音響センサであって、インコヒーレントな光を発する光源と、前記匂い分子を含む空気が導入され、光音響波を検出する第1のマイクロフォンが設けられた第1のセルと、前記匂い分子を含まない、もしくは無視できる程度にしか含まない空気が導入され、光音響波を検出する第2のマイクロフォンが設けられた第2のセルとが設けられた検出部と、前記第1のマイクロフォンの検出信号と前記第2のマイクロフォンの検出信号との差分に基づき、前記匂い分子の検出を行うセンシング回路とを有し、
前記第1のセル及び前記第2のセルが設けられる前記検出部の筐体には、前記光源からの光を前記セル内に照射するための絞り部が設けられ、前記絞り部の前記光源に面する第1の開口部の面積は、前記絞り部の前記セルに面する第2の開口部の面積よりも大きく、前記第1の開口部、前記第2の開口部及び前記絞り部の側面により、錐台形状またはウィンストン・コーンが形成されている空間環境制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響センサおよびそれを用いた空間環境制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスなどにおける労働者の快適性や生産性の向上、商業施設などにおける顧客の購買意欲の喚起、顧客満足度向上といった見地から、不快なガスや匂いを除去したり、快適な芳香を散布したり、といった環境における空気質を制御する環境提供サービスのニーズが高まっている。人は、匂いのもとである空気中にただよう化学物質である匂い分子が、匂いを感じるための嗅覚細胞の先端にある嗅繊毛でとらえられることにより、匂いであると感じられる、とされている。このため、空気中の匂いを制御するには、空気中の匂い分子の濃度を制御することが必要であり、そのためのセンサが必要である。
【0003】
従来から、光音響効果を用いたセンサが知られている。光音響効果とは、分子に光を照射すると、光エネルギーを吸収した分子が熱を放出し、その放出熱が周辺期待の温度を上昇させ熱膨張させることで、気体中に圧力変化(音響波)を発生させる現象である。分子ごとに吸収ピーク波長と吸収率に違いがあるため、検出したい匂い分子の吸収ピークにあわせた波長の光を空気に照射することで、その吸収の度合いから空気中に含まれる匂い分子の量を計測することができる。光音響は、測定対象の状態に依存することなく計測が可能で、空気中に含まれる分子の計測も可能である。さらに、照射する光エネルギーに比例して検出感度を向上させることができ、安価なマイクロフォンで検出するため、小型かつ、安価な匂いセンサの実現が期待される。
【0004】
しかしながら、光音響効果は検出したい匂い分子以外の分子に吸収されることによっても発生し、所望の分子以外に光が照射されて発生する音響波は雑音になる。また、光音響効果の検出にはマイクロフォンを使用するため、外部からの雑音も検出感度を低下させる原因になる。特許文献1、非特許文献1はそのような雑音を低減させる光音響センサの構造を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-267919号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. STARECKI, “Windowless Open Photoacoustic Helmholtz Cell”, ACTA PHYSICA POLPNICA A, pp. 211-215, Vol.114 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、光源から出力された光を光カプラおよびハーフミラーで分波し、被測定試料と標準試料とに照射し、発生した光音響波をそれぞれマイクロフォンで電気信号に変換した後に、差動増幅回路で差動増幅することで、電気信号に含まれる背景ノイズを除去している。光カプラやハーフミラーは被測定試料と標準試料への分波が容易に行える一方、構成が複雑で大型化してしまうため、小型化が困難である。
【0008】
非特許文献1は、窓のない光音響セルを提案する。セルにはガスの入口/出口となる開口が対向するように設けられ、光はガスの流路に沿って照射される。セルの壁面に光が照射されることで雑音を発生しないよう、レーザ光を用い、光軸が対向する2つの開口を貫通するよう精密な位置制御が必要とされている。
【0009】
オフィスや商業施設に設置する光音響センサには、小型、かつ単純な構造であって、安価に実現可能な構造とすることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態である光音響センサは、検出対象とする匂い分子を検出する光音響センサであって、インコヒーレントな光を発する光源と、匂い分子を含む空気が導入され、光音響波を検出する第1のマイクロフォンが設けられた第1のセルと、匂い分子を含まない、もしくは無視できる程度にしか含まない空気が導入され、光音響波を検出する第2のマイクロフォンが設けられた第2のセルとが設けられた検出部と、第1のマイクロフォンの検出信号と第2のマイクロフォンの検出信号との差分に基づき、匂い分子の検出を行うセンシング回路とを有し、
第1のセル及び第2のセルが設けられる検出部の筐体には、光源からの光をセル内に照射するための絞り部が設けられ、絞り部の光源に面する第1の開口部の面積は、絞り部のセルに面する第2の開口部の面積よりも大きく、第1の開口部、第2の開口部及び絞り部の側面により、錐台形状またはウィンストン・コーンが形成されている。
【発明の効果】
【0011】
雑音を低減しつつ、小型の光音響センサを実現できる。
【0012】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】光音響センサの構成例である。
図2】光音響センサの構成例である。
図3図2に示す光音響センサの鳥瞰図である。
図4】絞り部の傾きの変化に応じ、セルに入射される光パワーの変化を示す図である。
図5】センシング回路のブロック図である。
図6】光音響センサの構成例である。
図7】光照射部の構成例である。
図8】光照射部の構成例である。
図9】空間環境制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。また、図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。また、同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。さらに、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0015】
図1に光音響センサの構成を示す。光音響センサは、光源1、検出部2、センシング回路7を有する。
【0016】
光源1は直進性の弱い、インコヒーレントな光を発する光源(インコヒーレント光源)であり、ランプ光源やLED光源を用いることができる。光源1からの光の波長は、検出したい匂い分子の吸収ピーク波長に応じた波長を有する必要がある。ランプ光源の場合、分光器あるいはフィルタにより所望の波長の光が検出部2に照射されるように構成する。また、LED光源の場合、所望の波長の光を出射するLED光源を選択する。なお、センサデバイスとして小型であること、および、消費電力ならびに発熱が小さいことが望ましいことから、LED光源を選択することがより望ましい。
【0017】
検出部2は、筐体8の内部に測定セル3と参照セル4が設けられており、測定セル3と参照セル4とは同等の内部構造を有している。測定セル3には、匂い分子を計測するため、測定対象である環境の空気が導入され、参照セル4には、環境雑音を計測するため、参照空気が導入される。参照空気は、匂い分子を含まない、もしくは無視できる程度にしか含まない空気である。なお、図では、測定セル3、参照セル4のそれぞれへの空気を導入する導入口については省略している。
【0018】
筐体8の上面には、絞り部9a,9bが設けられ、光源1からの光は、それぞれの絞り部を通して、測定セル3、参照セル4内に照射される。セルの内壁にはマイクロフォンが設けられ、セル内に光が照射されることにより発生する光音響波を検出する。後述するように、本実施例では、測定セル3からの検出信号と参照セル4からの検出信号との差分をとることによって、測定セル3の検出信号に含まれる環境雑音を除去する。このため、測定セル3と参照セル4に発生する環境雑音が等価とみなせるよう、測定セル3と参照セル4とは、セルの大きさや構造、例えば、セルの形状、セルにおける絞り部(セルに面する開口部)の位置やマイクロフォンの位置、を等しくする。また、2つのセル内で発生する光音響波が相互に影響しないよう、測定セル3のマイクロフォン5と参照セル4のマイクロフォン6とはできるだけ離れた位置に配置することが望ましい。この例では、マイクロフォン5とマイクロフォン6とは、筐体8の対向する面に対応させて設けられている。
【0019】
上述したように、匂い分子に照射される光エネルギーが大きい程、検出感度は高くなる。このため、絞り部9は、単に光源1からの光を通過させるのみならず、光を集光する機能を有することが望ましい。そこで、図の例では、絞り部9は、光源に面する開口部の面積がセルに面する開口部の面積よりも大きくされた錐台形状とされている。開口部は円、あるいは楕円であっても、多角形であってもよい。さらに、絞り部9をウィンストン・コーンとしてもよい。錐台形状では、2つの開口部を平坦な面で接続するのに対し、ウィンストン・コーンは、2つの開口部を放物面で接続することにより、集光効率をさらに向上させることができる。
【0020】
筐体8の材料は環境雑音を小さくできるため、金属とすることが望ましい。ただし、本実施例の構成では環境雑音を低減するセンシング回路を有するため、筐体8の材料を樹脂としてもよい。しかし、この場合であっても絞り部9の側面は、光源1からの光を鏡面反射させてセル内に集光する必要がある。このため、筐体8を本体部と蓋部と2分割し、蓋部は金属とし、蓋部に絞り部を設けてもよい。あるいは、樹脂でつくられた筐体8に、金属製の錐台形状をした絞り部、あるいはウィンストン・コーンを挿入してもよい。あるいは、樹脂で作成した絞り部の側面にメッキを施し、鏡面仕上げしてもよい。
【0021】
図5にセンシング回路7のブロック図を示す。センシング回路7は、差動増幅回路12及びフィルタ13を含む検出回路11と信号処理回路14とを含んでいる。差動増幅回路12には、マイクロフォン5からの検出信号とマイクロフォン6からの検出信号とが入力され、その差分を増幅する。フィルタ13では差動増幅回路12の出力信号からノイズの除去、平滑化などの処理を施して出力する。信号処理回路14は、検出回路11からの出力に基づき、匂い分子検出結果信号を出力する。このように、測定セル3の検出信号と参照セル4の検出信号との差分をとることによって、環境雑音を抑制し、匂い分子に起因する音響波を検出することが可能になる。
【0022】
図4は、検出部2の絞り部の直上に光源1を設けた場合において、絞り部の傾きを変化させた場合に、セルに入射される光パワーの変化を示したものである。横軸は傾き角φであり、鉛直線と絞り部の中心軸とのなす角として定義される。この場合、光源が絞り部の直上に位置しているため、絞り部の中心軸が鉛直線と一致している場合、すなわち傾き角φが0°の場合に、セルに入射される光パワーは最大であり、傾き角φが大きくなるにつれて、光パワー変化量が低下する。例えば、傾き角φ=30°のとき、セルに入射される光パワーは半減する。
【0023】
一方、図1の構成では、光源1は、1つの光源から2つのセルに対して均等に光が入射するように配置されるため、絞り部の直上に設けることができない。このため、図1に示されるような、絞り部の中心軸が鉛直線と平行となっている場合には、セルに入射される光パワーは最大値にはなっていない。そこで、図2の構成では、絞り部の中心軸を光源に向かって、鉛直線と傾きθだけ傾けることにより、よりセルに入射される光パワーを大きくするものである。
【0024】
図2の構成では、測定セル3の絞り部9cの中心軸は鉛直線よりも光源1の方に傾き角θだけ傾けて配置されており、参照セル4の絞り部9dの中心軸は鉛直線よりも光源1の方に傾き角θだけ傾けて配置されている。すなわち、検出部2の断面は、光源1の中心を通る鉛直線を軸として線対称となっている。これにより、測定セル3と参照セル4内に照射される光パワーを均等のまま、大きくすることができ、匂い分子の検出感度を向上させることができる。なお、図2の構成では、セル3,4の中心軸は鉛直線に平行とされているが、セル3,4の中心軸を絞り部9の中心軸に平行としてもよい。
【0025】
図2に断面図として示した検出部2の鳥瞰図を図3に示す。特に限定されないが、筐体8の大きさは例えば、幅W=30mm、奥行D=20mm、高さH=20mm、セルの中心間の距離C=10mm、また、絞り部9の光源側の開口部の直径は5mm、セル側の開口部の直径は0.1mm、開口部間の距離は5mm程度の大きさを想定する。
【0026】
図6に検出部2の別の構成例を示す。図1,2の構成では、測定セル3と参照セル4とは、絞り部が設けられる面が隣接して配置され、光源は2つのセルの絞り部が設けられる面に対向するように設けられていた。これに対して、図6は光源21が筐体23内部に埋め込まれており、光源21の両面から出射された光が、それぞれ絞り部22a、22bを通過して測定セル3及び参照セル4内に照射される。言い換えれば、光源は2つのセルの絞り部が設けられる面の間に設けられる。
【0027】
光源21は例えば、両面発光型LED光源やランプ光源を用いることができる。筐体23や絞り22に求められる特性は、図1,2の筐体8や絞り9と同等である。この場合は、光源21と、絞り部22の光源側の開口部とを接して配置させることができるため、絞り部22の中心軸は水平となるように配置することが望ましい。
【0028】
図7及び図8に、それぞれ光照射部30と光照射部31を示す。光照射部30は図1の光音響センサ用、光照射部31は図6の光音響センサ用の光照射部であり、それぞれ光源と絞り部を一体として構成するものである。検出感度のキーパーツとなる光源と絞り部とが一体化した光学部品とされることで、設計者は用途に応じた構造や形状をもつ検出部の設計を行えばよく、光学知識に乏しい設計者であっても光音響センサの設計を容易に行うことができる。なお、絞り部を光源の光軸に対して傾斜させることにより、図2の光音響センサ用の光照射部を構成することもできる。
【0029】
なお、光音響センサにおいて、図に示した向きを有することを限定するものではない。例えば図1において光源1が検出部2の上に配置されるように示しているが、光源と検出部の相対的な位置関係を維持したまま、任意の向きに回転させることは自由である。図6についても同様であり、並置されたセルの間に光源が配置されている例を示しているが、例えば、セルを縦積みし、その間に光源を配置しても同様の光音響センサが実現できる。
【0030】
図9は、本実施例の光音響センサを匂いセンサとして用いる空間環境制御システムの機能構成を示すブロック図である。空間環境制御システムは、行動目標設定部41と、制御目標テーブル52と、環境センサ42と、活性度センサ46と、制御部56と、空調機57と、消臭・脱臭機(匂い抑制装置)58と、匂い発生機59とを備えている。
【0031】
行動目標設定部41は、タッチパネルなどのインタフェースを有しており、空間の管理者などが所望の目標を入力できるようになっている。例えば、空間環境制御システムの運転モードが、「生産性改善」、「快適度改善」、「疲労低減」といった複数から構成されており、管理者がタッチパネルを使って所望の運転モードを設定する。なお、行動目標設定部41は、管理者の入力により設定するものに限られず、当該空間で開催される会議のアジェンダ等に基づいて自動で設定されるようにしてもよい。なお、制御目標テーブル52には、運転モード毎に、温度、湿度及び匂い濃度の目標値が格納されている。
【0032】
環境センサ42は、温度センサ43、湿度センサ44、匂いセンサ45などで構成される。匂いセンサ45として、上述した光音響センサを適用する。ここで、温度センサ43や湿度センサ44は、空調機57に設けられたものでもよいし、別途設けられたものでもよい。また、匂いセンサ45は、匂い発生機59に設けられたものでもよいし、別途設けたものであってもよい。環境センサ42で取得した環境データは、環境データ処理部50で処理された後、環境差分計算部51における計算に用いられる。
【0033】
活性度センサ46は、脈拍センサ47、脳波センサ48、瞳孔センサ49などで構成される。ここで、脈拍センサ47は人の腕に装着され、脳波センサ48は人の頭部に装着され、瞳孔センサ49はカメラの画像認識により、人の活性度が計測される。空間内に複数の人がいる場合には、基本的に複数のセンサが必要となるが、ミリ波を用いた脈拍センサであれば、1つのセンサでも計測が可能である。なお、活性度センサ46は、人の活性度を計測できるものであれば、他のセンサであっても構わない。活性度センサ46で取得した活性度データは、活性度データ処理部53で処理された後、活性度差分計算部55における計算に用いられる。
【0034】
制御部56は、環境差分計算部51及び活性度差分計算部55での計算結果を用いて、空調機57、消臭・脱臭機58及び匂い発生機59を制御する。消臭・脱臭機58は、匂いを抑制する匂い抑制装置であればよく、消臭装置や脱臭装置に限らず、空間内に外気を導入する換気装置を含むものである。匂いを抑制する方式としては、換気・希釈方式、オゾン酸化方式、複合吸着方式などが挙げられる。なお、この消臭・脱臭機58は、空調機57に搭載されたものでもよいし、空調機57とは別の空気清浄機に搭載されたものであってもよい。なお、匂い発生機59は、アロマディフューザなど、匂いを発生させる装置である。
【0035】
まず、管理者は、行動目標設定部41を操作して目標(例えば「生産性改善」)を設定する。すると、環境センサ42が取得した温度、湿度及び匂い等の環境データが、環境データ処理部50へ送信される。環境差分計算部51は、制御目標テーブル52を参照し、設定された目標に対応する各環境データの目標値と、環境センサ42で取得した各環境データの計測値との差分を計算する。
【0036】
並行して、活性度センサ46による活性度データ取得も行われる。活性度センサ46で取得した活性度データは、活性度データ処理部53へ送信され、メモリ54に保存される。なお、制御対象の空間内に複数の人がいる場合には、各人から取得した活性度データの平均値が算出されて、このメモリ54に保存される。
【0037】
その後、各環境データの目標値と計測値との差分を埋めるよう、制御部56は、空調機57、消臭・脱臭機58及び匂い発生機59を動作させる。空調機57等の動作後、所定時間が経過すると、活性度センサ46が活性度データを再度取得し、そのデータが活性度データ処理部53で処理される。活性度差分計算部55が、メモリ54に保存してある、匂い発生機59等の動作前に予め計測した活性度と、新たに計測した活性度との差分を計算する。
【0038】
差分が所定の閾値よりも大きいときは、人の嗅覚に対する匂いの効能が依然として継続しているとして、一定時間が経過してから、再び活性度データを取得する。一方、差分が所定の閾値より小さくなったときは、人の嗅覚に対する匂いの効能が既に薄まってしまったとして、匂い発生機59による匂いの発生は停止し、制御部56は消臭・脱臭機58を動作させる。そして、当該匂いの濃度が所定以下となったことを匂いセンサ45によって検知すると、制御部56は、消臭・脱臭機58を停止し、所定時間待機する。そして、新たな行動目標が設定されていなければ、再び匂い発生機59等を動作させる。
【符号の説明】
【0039】
1,21:光源、2:検出部、3:測定セル、4:参照セル、5,6:マイクロフォン、7:センシング回路、8,23:筐体、9,22:絞り部、11:検出回路、12:差動増幅回路、13:フィルタ、14:信号処理回路、30,31:光照射部、41:行動目標設定部、42:環境センサ、43:温度センサ、44:湿度センサ、45:匂いセンサ、46:活性度センサ、47:脈拍センサ、48:脳波センサ、49:瞳孔センサ、50:環境データ処理部、51:環境差分計算部、52:制御目標テーブル、53:活性度データ処理部、54:メモリ、55:活性度差分計算部、56:制御部、57:空調機、58:消臭・脱臭機、59:匂い発生機。
図1
図2
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図9