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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】緩み止めねじ部材
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/02 20060101AFI20240209BHJP
   F16B 39/30 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
F16B33/02 A
F16B39/30 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092098
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021188642
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】516388182
【氏名又は名称】和田 守弘
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】和田 守弘
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3031085(JP,U)
【文献】登録実用新案第3019615(JP,U)
【文献】実開昭58-076816(JP,U)
【文献】実開平07-012615(JP,U)
【文献】特開2018-189113(JP,A)
【文献】特開昭59-019712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 33/02
F16B 39/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじと雄ねじとが螺合するねじ構造を構成する緩み止めねじ部材であって、
雌ねじ又は雄ねじは、
先端部に摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじを具備する規格領域を備え、
続いて、規格ねじのねじ山の頭部が当該規格ねじにおけるねじ山の胴部の形態を維持しつつ同じ締め付け時において遊びが生じる側へ屈曲し、且つ当該ねじ山の頭部の屈曲量が単調増加する増加作用領域を備え、
前記増加作用領域は、ねじ山の頭部が締結時において相対するねじ山との摩擦トルクが生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじを備えることを特徴とする緩み止めねじ部材。
【請求項2】
前記増加作用領域は、ねじ山の頭部が締結時において相対するねじ山との干渉で変形する程度に屈曲した形状を持つ作用ねじを備えることを特徴とする請求項1に記載の緩み止めねじ部材。
【請求項3】
前記締結時において遊びが生じる側へ屈曲した頭部の両フランク面は、螺合相手となるねじ山のフランク面に面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線に対して5度以上に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の緩み止めねじ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺合されたナットとボルトなど、雌ねじと雄ねじ間の緩み止めねじ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、緩み止め構造は、複数の部材を用いた複雑な構成も存在するものの、雌ねじと雄ねじとの関係で緩み止め機能を奏する構成としては、ねじの稜線に波を設け、実質的には雌ねじと雄ねじのピッチの関係に変化を与える構成(下記特許文献1参照)、稜線にスリットを設け、又はフランク面に溝を形成するなどにより雌ねじと雄ねじ間の摩擦係数を高める構成(下記特許文献2又は特許文献3参照)、一部又は全部に雌ねじの谷部に収まらない形態を具備する雄ねじを備える構成(下記特許文献4又は特許文献5参照)を、その一部又は全部に備える手法が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5729697号公報
【文献】特開2015-187492号公報
【文献】特開2001-227524号公報
【文献】実開平6-63923号公報
【文献】実用新案登録第3019615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の手法は、ねじ山の形態が一様に複雑となるため、従来の転造技術では製造できず、波打つ稜線によって終始摩擦トルク等が働くため、螺合の具合を感得することができず、その結果、螺合相手となるねじを損傷する虞があるという問題がある。
また、特許文献2の手法では、更に、スリットの形成によってねじ山の強度を低下させるという問題や、ねじ山の製造が煩雑であるという問題があり、特許文献3の手法では、更に、締め付ける際のトルクが大きく負担が大きいわりに効果が低いという問題がある。
【0005】
一方、特許文献4及び特許文献5の手法では、螺合相手となるねじへ収まり切らない形態のねじを無理やり嵌め入れることから、ねじ又は当該ねじを有する機器の損傷が不可避であるという問題がある。
また、如何に緩み止めを防止する機能を与えたとしても、緩み止め構造を与えた部分と与えなかった部分とでねじ山の強度が相違することとなれば、ボルト全体として均等に締結力を負担することができず、締結力の低下や耐用年数の短縮を惹起する虞が生じる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、製造が容易であって安定したねじ山強度を持ち、螺合に際して螺号具合を好適に感得でき、且つねじ山の損傷が少ない緩み止めねじ部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明による緩み止めねじ部材(以下「本願ねじ部材」という)は、雌ねじと雄ねじとが螺合するねじ構造を構成するねじ部材である。
本願ねじ部材は、先端部に、摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじを具備する規格領域を備え、続いて、当該規格ねじのねじ山の頭部が同じ側へ屈曲した形状の作用ねじを持つ増加作用領域を備え、前記増加作用領域は、ねじ山の頭部の屈曲量が単調増加し、且つ当該ねじ山の頭部が締結時において相対するねじ山との摩擦トルクが生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじを備えることを特徴とする。
【0008】
本願ねじ部材は、前記増加作用領域に続いて、単数又は複数の前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域を備える構成をとることができる。
前記減少作用領域は、前記規格ねじのねじ山の頭部が同じ側へ屈曲した形状の作用ねじを持ち、ねじ山の頭部の屈曲量が単調減少し、且つ当該ねじ山の頭部が締結時において相対するねじ山との摩擦トルクが生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじを備える。
【0009】
前記作用ねじは、前記規格ねじのねじ山の頭部が、締め付け時において遊びが生じる側へ屈曲した形状を備える構成を採ることができる。
また、前記増加作用領域又は前記減少作用領域は、ねじ山の頭部が締結時において相対するねじ山との干渉で変形する程度に屈曲した形状を持つ作用ねじを備える構成を採ることができる。
更に、前記締め付け時において遊びが生じる側へ屈曲した頭部の両フランク面は、螺合相手となるねじ山のフランク面に面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線に対して5度以上に設定されている構成を採ることができる。
【0010】
例えば、本願ねじ部材において、前記ねじ山の頭部の両フランク面は、前記ねじ山が形作る螺旋の遠心方向に面し、両フランク面がそのねじ山の胴部において前記遠心線に対し相反する方向へ夫々30度傾斜している場合には、前記ねじ山の頭部の屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線に対して30度以下に設定され、前記変形ねじ部の頭部の屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線に対して20度以上に設定されている構成を採ることができる。
尚、前記ねじ部材とは、螺号する雄ねじ又は雌ねじが穿設されたボルト、ナットその他の部材である。
また、前記「有効径」は、ねじ溝の幅とねじ山の幅とが等しくなる位置を側面とする仮想的な円筒の直径である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による緩み止めねじ部材によれば、先端部に規格領域をリードねじとして備えることによって、緩み止めに寄与する摩擦トルクが無い状態での導入が行われ、ねじ構造を構成する雌雄ねじ部材の螺旋軸を、従来の緩み止め機能を具備しないねじ構造と同様に容易に一致させることができ、続いて増加作用領域を設ける構成を採ることによって、雄ねじ及び雌ねじ相互の摩擦トルクが徐々に増加する作用を獲得し、螺合に際して螺号緩み止め機能の効き具合を好適に感得することができると共に、一定の締め付け状態となった時点において、当該ねじ構造全体として生じるプリべリングトルクにより締結後における緩みを安定的に抑制することができる。
【0012】
また、前記増加作用領域に続いて、単数又は複数の前記増加作用領域又は減少作用領域を備える構成を採ることによって、螺合相手となるねじ山及びフランク面の消耗が満遍なく生じ、緩み止め機能を長く維持することができる。
更に、前記増加作用領域は、前記ボルト本体の表面に設けられたねじ山が、前記規格ねじにおけるねじ山の胴部の形態を維持しつつ、前記ねじ山の頭部のみ屈曲させた構造を採用することにより、ねじ山の締結強度を安定確保しつつ、頭部による緩み止め機能を満足することができる。
【0013】
加えて、前記増加作用領域に、締め付け時において遊びが生じる側へ屈曲した頭部を備えることによって、螺合時(ねじ入れ時)において専ら頭部の屈曲に起因する摩擦トルクの影響を軽減することができる。
また、締め付け時において遊びが生じる側へ屈曲した頭部を含むフランク面が、前記ねじ山が形作る螺旋の遠心方向に面し、その傾斜角度が、当該ねじ山の遠心線に対して5度以上に設定されていれば転造技術による製造がより容易なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の形態を例示した拡大した縦断面図である。
図2】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の作用を例示した拡大した縦断面図である。
図3】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の作用を例示した拡大した縦断面図である。
図4】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の形態及び作用を例示した縦断面図である(0度)。
図5】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の形態及び作用を例示した縦断面図である(5度)。
図6】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の形態及び作用を例示した縦断面図である(10度)。
図7】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の形態及び作用を例示した縦断面図である(20度)。
図8】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の組み合わせ及び配置態様を例示した側面図である。
図9】本発明による緩み止めねじ部材のねじ山の組み合わせ及び配置態様を例示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による緩み止めねじ部材の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図に示す例は、雌ねじと雄ねじとが螺合するねじ構造を構成するねじ部材のうちの雄ねじを具備したボルト(ねじ部材)である。
この例は、ねじ山が設けられたボルト本体に、規格領域と増加作用領域を先端部から順に備える(図8参照)。
前記規格領域は、雄ねじの規格ねじが、一回りから四回り穿設された領域である(図4参照)。前記規格ねじは、摩擦トルクを増強させる機能を持たない雄ねじ(締結前においては手で螺合できる雄ねじ)を備えた部分である。
ボルト本体の先端部に設けられた規格領域は、ねじ穴にボルトを正確にねじ入れるためのリードねじとして設けられている。
尚、前記リードねじは、緩み止め機能を与える締結位置に応じて五回り以上の規格ねじを穿設してもよい。
【0017】
前記増加作用領域は、前記規格ねじの頭部Aが遊び側へ屈曲した形状を持つ作用ねじが設けられた領域である(図5乃至図7)。
この部分においては、摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじから、頭部Aを屈曲させることで摩擦トルクを増強させる作用ねじへの移行が行われる。
尚、ここで「遊び側」とは、締め付け時に推進力を生むことなく遊びが生じるボルト先端側(以下その側に面する方向を「前方」と言う)を指し、逆に、締め付け時に推進力を生むボルトヘッド側(以下その側に面する方向を「後方」と言う)を「推進側」と言う
【0018】
この例の規格ねじのねじ山は、遠心方向へ向かって先細りとなった対照的な断面形状を備える。
前記ねじ山は、当該ボルトの螺旋軸から遠心方向へ延びる遠心線に対して前後相反する方向へそれぞれ30度傾斜した前方フランク面及び後方フランク面を当該遠心線に対して対称的に備える(図4参照)。
加えて、両フランク面の先端部Cに双方が滑らかに連続する凸曲面を備え、両フランク面の先端部Cの反対側に位置する裾部Dに滑らかな凹曲面を備える。
尚、摩擦トルクを増強させない形態であれば前記遠心線Pに対して対称的なフランク面を有するねじ山に限るものではない。
【0019】
前記増加作用領域は、前記ボルト本体の表面に設けられたねじ山が、前記規格ねじにおけるねじ山の胴部(例えば、ねじ山の裾部Dから有効径の部位までの領域)Bの形態を維持しつつ、当該ボルト本体の後方(ヘッド側)へ進むに従って頭部Aの屈曲量が単調増加する領域である。
前記増加作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲が始まり、且つその屈曲量が段階的に又は連続的に徐々に増加するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの間で相互の干渉による摩擦トルクの増強を発生させる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが形成される。
【0020】
前記作用ねじは、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの干渉によりスプリングバック(図4参照)を伴う変形が生じる程度に屈曲した形状を持つことによって、ねじ山の形態を損なうことの少ない安定したものとなる。
尚、ここでスプリングバックとは、加圧によって生じた変形の一部又は全部が圧力を除くことによって解消され、元の形態の一部又は全部が復元される現象をいう。
【0021】
この例は、ボルト本体のねじの先端部に具備する前記規格領域と、それに続く前記増加作用領域を備えていれば、その後方のねじ山がすべて規格ねじであっても緩み止め効果を得ることができる。
前記規格領域をボルト本体の先端部にリードねじとして配置することによって、螺合相手となる雌ねじの螺旋軸に当該ボルト本体の雄ねじの螺旋軸が合致する様に誘導され、前記規格領域に続いて前記増加作用領域が備えられることによって、当該増加作用領域がねじ入れられるに従って、徐々に頭部Aの摩擦トルクが累積し、ねじ締結時にあっては、頭部Aのスプリングバックに伴う雌ねじへの加圧が更に加わることによって、安定した緩み止め機能が担保されることとなる。
【0022】
前記ボルト本体は、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げることができる。
殊に、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げておき、好ましくは、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、同増加作用領域を一定長周期(好ましくはボルトがねじ入れられる長さ以下の周期)でつなげておくことによって、当該ボルト本体の全長について平均的に作用領域を得ることができる他、螺合相手となるねじ山及びフランク面の消耗が満遍なく生じ、緩み止め機能を長く維持することができる。
【0023】
尚、前記減少作用領域は、前記ボルト本体の表面に設けられたねじ山が、前記規格ねじの胴部Bの形態を維持しつつ、当該ボルト本体の後方(ヘッド側)へ進むに従って頭部Aの屈曲量が段階的に又は連続的に単調減少する領域である。
前記減少作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲量が徐々に減少するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの間でスプリンバックによる雄ねじへの加圧等による摩擦トルクの増加が生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが徐々にプリべリングトルクを増大させない規格ねじに変化する。
ここで、プリベリングトルクとは、締結時以外のねじ込み又はねじ戻しに必要なトルクであって、締結時以外のねじ込み又はねじ戻しに必要なトルクが発生する仕掛けを施したねじ部材をプリべリングトルク型ねじ部材という。
【0024】
この例のねじ山は、前記規定領域、増加作用領域及び減少作用領域のいずれにあっても、遊び側へ屈曲した頭部Aを含む前後フランク面は、前記ねじ山が形作る螺旋の遠心方向Pに面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して5度以上となるように設定されている(図1図3又は図7(B)参照)。
【0025】
この例は、ねじ山の頭部Aの屈曲の中心Oは、当該ねじ山の断面内の中央に位置し、且つ当該ねじ部材の有効径の前記螺旋軸側に設定されている。
前記作用ねじにおける前記ねじ山の頭部Aの最大屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して20度以上30度以下に設定されている(図5乃至図7参照)。
尚、前記ボルト本体と螺合する雌ねじが切られたねじ穴は、前記規格領域のねじ山のフランク面に倣うフランク面を備え、前記増加作用領域及び減少作用領域の摩擦ねじ部及び変形ねじ部が上記のごとく良好に機能する遊びを設けた雌ねじを備えるものとする
【実施例2】
【0026】
本発明による緩み止めねじ部材は、例えば、ナットその他のなどのねじ穴を備えたねじ部材(以下「雌ねじ部材」という)として構成することもできる。
この際、当該雌ねじ部材の螺合相手となるねじ部材(以下「雄ねじ部材」という)として、例えば、前記規格領域のみが設けられたボルトを使用する。
図9に示す例は、前記ボルトが螺合する雌ねじ部材のねじ穴に、規格領域と増加作用領域を先端部(ねじ穴の入り口側)から順に備える構成を採る。
【0027】
この例の前記規格領域は、雌ねじの規格ねじが、一回りから四回り穿設された領域である(図9参照)。当該雌ねじ部材の先端部に設けられた規格領域は、ねじ穴にボルトを正確にねじ入れるためのリードねじとして設けられている。
この例の前記規格ねじは、雄ねじとの間で摩擦トルクを増強させる機能を持たない雌ねじ(締結前においては手で螺合できる雌ねじ)を備えた部分である。
尚、前記リードねじは、緩み止め機能を与える締結位置に応じて五回り以上の規格ねじを穿設してもよい。
【0028】
前記増加作用領域は、前記規格ねじの頭部Aが、遊び側(締め付け時に推進力を生むことなく遊びが生じる側へ屈曲した形状を持つ作用ねじが設けられた領域である(図9参照)。
この部分においては、摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじから、頭部Aを屈曲させることで摩擦トルクを増強させる作用ねじへの移行が行われる。
【0029】
この例の規格ねじのねじ山は、向心方向へ向かって先細りとなった対照的な断面形状を持ち、その螺旋軸から遠心方向へ延びる遠心線Pに対して前後相反する方向へ30度傾斜した前方フランク面及び後方フランク面を備える。
加えて、両フランク面の先端部Cに、平面又は双方が滑らかに連続する凸曲面を備え、両フランク面の先端部Cの反対側に位置する裾部Dに滑らかな凹曲面を備える。
尚、雄ねじとの関係で摩擦トルクを増強させる形態を持たない形態であれば前記遠心線Pに対して対称的なフランクを有するねじ山に限るものではない。
【0030】
前記増加作用領域は、前記ねじ穴の内面に設けられたねじ山が、前記規格ねじにおけるねじ山の胴部(例えば、ねじ山の裾部Dから有効径の部位までの領域)Bの形態を維持しつつ、当該雌ねじ部材のねじ穴の奥へ進むに従って頭部Aの屈曲量が単調増加する領域である。
前記増加作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲が始まり、且つその屈曲量が段階的に又は連続的に徐々に増加するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雄ねじとの間で相互の干渉による摩擦トルクの増加が生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが形成される。
【0031】
この例も、雌ねじ部材の開口部(入り口側)に具備する前記規格領域と、それに続く前記増加作用領域を備えていれば、その後方のねじ山がすべて規格ねじであっても緩み止め効果を得ることができる。
前記規格領域を雌ねじ部材の開口部にリードねじとして配置することによって、螺合相手となる雄ねじの螺旋軸に当該雌ねじ部材の雌ねじの螺旋軸が合致する様に誘導され、前記規格領域に続いて前記増加作用領域が備えられることによって、当該増加作用領域がねじ入れられるに従って、徐々に頭部Aの摩擦トルクが累積し、ねじ締結時にあっては、頭部Aのスプリングバックに伴う雄ねじへの加圧が更に加わることによって、安定した緩み止め機能が担保されることとなる。
【0032】
前記雌ねじ部材は、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げることができる。
殊に、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げておき、好ましくは、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、同増加作用領域を一定長周期(好ましくはボルトがねじ入れられる長さ以下の周期)でつなげておくことによって、当該ボルト本体の全長について平均的に作用領域を得ることができる他、螺合相手となるねじ山及びフランク面の消耗が満遍なく生じ、緩み止め機能を長く維持することができる。
【0033】
尚、両側にねじ穴の入り口を持つナットなどの場合には、先端部及び後端部に前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域を配置した上で、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域をねじ穴の全長にわたって前後対称的に配置することもできる。
【0034】
前記減少作用領域は、前記雌ねじ部材のねじ穴の内面に設けられたねじ山が、前記規格ねじの胴部Bの形態を維持しつつ、当該雌ねじ部材のねじ穴の奥へ進むに従って頭部Aの屈曲量が段階的に又は連続的に単調減少する領域である。
前記減少作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲量が徐々に減少するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雄ねじとの間でスプリンバックによる雄ねじへの加圧等による摩擦トルクが生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが徐々にプリべリングトルクを増大させない規格ねじに変化する。
【0035】
この例のねじ山は、前記規定領域、増加作用領域及び減少作用領域のいずれにあっても、前記遊び側へ屈曲した頭部Aを含む前後フランク面は、前記ねじ山が形作る螺旋の向心方向Pに面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して5度以上となる様に設定されている(図7(B)参照)。
この例は、ねじ山の頭部Aの屈曲の中心Oは、当該ねじ山の断面内の中央に位置し、且つ当該ねじ部材の有効径の外側に設定されている。
前記作用ねじにおける前記ねじ山の頭部Aの最大屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して20度以上30度以下に設定されている。
【0036】
以上の如く、上記緩み止めねじ部材によれば、最大屈曲角度や、規格領域と作用領域の組み合わせ又は領域比率を調整することにより、適切にプリべリングトルクを制御することができる。
【符号の説明】
【0037】
A 頭部,B 胴部,C 先端部,D 裾部,O 屈曲の中心,P 遠心線,
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9