IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

<>
  • 特許-ウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/08 20120101AFI20240209BHJP
   B24B 37/28 20120101ALI20240209BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20240209BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B24B37/08
B24B37/28
B24D11/00 E
H01L21/304 621A
H01L21/304 622F
H01L21/304 622W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020149528
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044084
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116521(WO,A1)
【文献】特開2004-071833(JP,A)
【文献】特開2008-068390(JP,A)
【文献】特開2004-025415(JP,A)
【文献】特開平10-277923(JP,A)
【文献】特開2015-211993(JP,A)
【文献】特開2015-005702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/08
B24B 37/28
B24D 11/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸心と直交する方向に延びる第1研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第1定盤と、
前記第1軸心と直交する方向に延び、前記第1研磨パッドと対面する第2研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第2定盤と、
前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1研磨パッドと対面するとともに前記第2研磨パッドと対面する固定部を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備えたウェハ研磨装置を用い、
前記固定部には、第1面が前記第1研磨パッドと対面し、前記第1面の裏側である第2面が前記第2研磨パッドと対面するようにウェハを固定し、
所定の面圧下において、前記第1面と前記第1研磨パッドとを相対移動させて前記第1面を研磨するとともに、前記第2面と前記第2研磨パッドとを相対移動させて前記第2面を研磨するウェハ研磨方法であって、
前記ウェハは、前記第1面がSi面であり、前記第2面がC面であるSiCからなり、
前記ウェハは、前記第1面の被研磨性よりも前記第2面の被研磨性が大きく、
前記第1研磨パッド及び前記第2研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材に保持され、前記気孔内に収容された研磨粒子とを有し、
前記第1研磨パッドにおける母材の気孔率は、前記第2研磨パッドにおける母材の気孔率より低く、
前記第1研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率は、前記第2研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率と等しいか、より高く、
前記第2研磨パッドによる前記第2面の研磨能率は、前記第1研磨パッドによる前記第1面の研磨能率の1.2~2.0倍であることを特徴とするウェハ研磨方法。
【請求項2】
前記第2研磨パッドによる前記第2面の研磨能率は、前記第1研磨パッドによる前記第1面の研磨能率の1.2~1.4倍である請求項記載のウェハ研磨方法。
【請求項3】
前記ウェハと前記第1研磨パッドとの間及び前記ウェハと前記第2研磨パッドとの間に研磨液を介在させ、
前記研磨液は研磨粒子を含まない請求項1又は2記載のウェハ研磨方法。
【請求項4】
第1軸心と直交する方向に延びる第1研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第1定盤と、
前記第1軸心と直交する方向に延び、前記第1研磨パッドと対面する第2研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第2定盤と、
前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1研磨パッドと対面するとともに前記第2研磨パッドと対面する固定部を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備え、
前記固定部には、第1面が前記第1研磨パッドと対面し、前記第1面の裏側である第2面が前記第2研磨パッドと対面するようにウェハが固定され、
前記ウェハは、前記第1面がSi面であり、前記第2面がC面であるSiCからなり、
前記ウェハは、前記第1面の被研磨性よりも前記第2面の被研磨性が大きく、
前記第1研磨パッド及び前記第2研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材に保持され、前記気孔内に収容された研磨粒子とを有し、
前記第1研磨パッドにおける母材の気孔率は、前記第2研磨パッドにおける母材の気孔率より低く、
前記第1研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率は、前記第2研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率と等しいか、より高く、
前記第2研磨パッドによる前記第2面の研磨能率は、前記第1研磨パッドによる前記第1面の研磨能率の1.2~2.0倍であることを特徴とするウェハ研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Si、SiC等のウェハの両面を同時に研磨する方法が特許文献1、2に開示されている。これらのウェハ研磨方法では、所定の面圧下において、ウェハの第1面と第1研磨パッドとを相対移動させて第1面を研磨するとともに、ウェハの第1面の裏側である第2面と第2研磨パッドとを相対移動させて第2面を研磨する。この際、ウェハの第1面と第1研磨パッドとの間及びウェハの第2面と第2研磨パッドとの間には、研磨粒子を含む研磨液を介在させている。
【0003】
具体的には、特許文献1に開示されたウェハ研磨方法では、ウェハの第1面に対する第1研磨パッドの摩擦抵抗と、ウェハの第2面に対する第2研磨パッドの摩擦抵抗とを異ならせている。より具体的には、第1研磨パッドとして、硬質の発泡ウレタンフォームを採用し、第2研磨パッドとして、不織布にウレタン樹脂を含浸・硬化させた軟質の不織布パッドを採用している。第1研磨パッドの摩擦抵抗は第2研磨パッドの摩擦抵抗より小さい。また、研磨液としては、アルカリ性エッチング液中に研磨粒子としてのコロイダルシリカを分散させたものを採用している。このウェハ研磨方法によれば、ウェハの両面を同時に研磨することができるので、ウェハの製造効率が向上する。また、このウェハ研磨方法によれば、ウェハの旋回方向や速度の安定化が可能となり、ウェハの高平坦度化が図れるとのことである。
【0004】
また、特許文献2に開示されたウェハ研磨方法は、Si面側にエピタキシャル層が積層されたSiCウェハを研磨するものである。SiCウェハは、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法では、Si面の被研磨性がC面の被研磨性に比べて低いことが知られている。このウェハ研磨方法では、CMP法において、研磨粒子としてのアルミナを含む研磨液を採用しつつ、所定の面圧及び相対移動速度の下、SiCウェハのSi面に対する研磨能率を0.5~3.0(μm/hr)とし、SiCウェハのC面に対する研磨能率を3~15(μm/hr)としている。より具体的には、事前調査として、研磨パッド及び研磨液を異ならせることにより、ウェハのSi面とC面とを別々にCMP法によって研磨し、この際の各面の研磨能率の関係を得る。そして、その関係に基づいて、Si面とC面とを同時に研磨する際の研磨能率を設定する。このウェハ研磨方法によっても、ウェハの両面を同時に研磨することができるので、ウェハの製造効率が向上する。また、このウェハ研磨方法によれば、Si面のエピタキシャル層を削りすぎることなく、エピタキシャル層の表面の荒れを除去でき、C面の荒れも効果的に除去することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3791302号公報
【文献】特許第6106535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、2のウェハ研磨方法では、研磨の際に研磨粒子を含む研磨液を採用している。このため、これらのウェハ研磨方法では、研磨中に研磨粒子が予想外の挙動をし、ウェハの表面にスクラッチが生じるおそれがある。
【0007】
また、上記特許文献2のウェハ研磨方法では、第1面と第2面との被研磨性が異なるSiC等のウェハを研磨する場合、研磨パッド及び研磨液を異ならせてウェハの第1面と第2面とを別々に研磨する事前調査を行い、その結果で得られた関係に基づいて第1面と第2面とを同時に研磨する際の研磨能率を設定しなければならない。このため、このウェハ研磨方法では、第1研磨パッド及び第2研磨パッドの選択の他、研磨液、より詳しくは研磨液中の研磨粒子も選択して事前試験を繰り返す必要がある。このため、このウェハ研磨方法では、それらの選択に過誤を生じたり、それらの誤差が大きくなったりし、作業性と精度とが劣る。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、第1面と第2面との被研磨性が異なるウェハを研磨する際、ウェハの表面へのスクラッチの発生を抑制可能であるとともに、高い作業性と精度とを実現可能なウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のウェハ研磨方法は、第1軸心と直交する方向に延びる第1研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第1定盤と、
前記第1軸心と直交する方向に延び、前記第1研磨パッドと対面する第2研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第2定盤と、
前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1研磨パッドと対面するとともに前記第2研磨パッドと対面する固定部を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備えたウェハ研磨装置を用い、
前記固定部には、第1面が前記第1研磨パッドと対面し、前記第1面の裏側である第2面が前記第2研磨パッドと対面するようにウェハを固定し、
所定の面圧下において、前記第1面と前記第1研磨パッドとを相対移動させて前記第1面を研磨するとともに、前記第2面と前記第2研磨パッドとを相対移動させて前記第2面を研磨するウェハ研磨方法であって、
前記ウェハは、前記第1面がSi面であり、前記第2面がC面であるSiCからなり、
前記ウェハは、前記第1面の被研磨性よりも前記第2面の被研磨性が大きく、
前記第1研磨パッド及び前記第2研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材に保持され、前記気孔内に収容された研磨粒子とを有し、
前記第1研磨パッドにおける母材の気孔率は、前記第2研磨パッドにおける母材の気孔率より低く、
前記第1研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率は、前記第2研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率と等しいか、より高く、
前記第2研磨パッドによる前記第2面の研磨能率は、前記第1研磨パッドによる前記第1面の研磨能率の1.2~2.0倍であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のウェハ研磨装置は、第1軸心と直交する方向に延びる第1研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第1定盤と、
前記第1軸心と直交する方向に延び、前記第1研磨パッドと対面する第2研磨パッドを有し、前記第1軸心周りに回転される第2定盤と、
前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1研磨パッドと対面するとともに前記第2研磨パッドと対面する固定部を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備え、
前記固定部には、第1面が前記第1研磨パッドと対面し、前記第1面の裏側である第2面が前記第2研磨パッドと対面するようにウェハが固定され、
前記ウェハは、前記第1面がSi面であり、前記第2面がC面であるSiCからなり、
前記ウェハは、前記第1面の被研磨性よりも前記第2面の被研磨性が大きく、
前記第1研磨パッド及び前記第2研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材に保持され、前記気孔内に収容された研磨粒子とを有し、
前記第1研磨パッドにおける母材の気孔率は、前記第2研磨パッドにおける母材の気孔率より低く、
前記第1研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率は、前記第2研磨パッドにおける前記研磨粒子の含有率と等しいか、より高く、
前記第2研磨パッドによる前記第2面の研磨能率は、前記第1研磨パッドによる前記第1面の研磨能率の1.2~2.0倍であることを特徴とする。
【0011】
本発明のウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置では、母材に保持された研磨粒子を有する第1研磨パッド及び第2研磨パッドを採用している。これら第1研磨パッド及び第2研磨パッドでは、研磨粒子が母材に弾性的に保持されており、母材から脱落し難い。このため、第1研磨パッド及び第2研磨パッドによってウェハの第1面や第2面を研磨すれば、研磨粒子が予想外の挙動をし難いため、研磨粒子が研磨液とともに自由に移動する研磨液を用いる場合と比較し、ウェハの表面にスクラッチが生じ難い。
【0012】
また、第1研磨パッド及び第2研磨パッドは母材と研磨粒子とが予め一体化されたものである。このため、第1面と第2面との被研磨性が異なるウェハを研磨する場合、第1研磨パッド及び第2研磨パッドを選択すれば、他の選択を行う必要がない。このため、このウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置では、それらの選択に過誤を生じ難く、それらの誤差が大きくなることはない。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置では、第1面と第2面との被研磨性が異なるウェハを研磨する際、ウェハの表面へのスクラッチの発生を抑制可能であるとともに、高い作業性と精度とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例のウェハ研磨装置の要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置で研磨するウェハは、第1面の被研磨性よりも第2面の被研磨性が大きい。このようなウェハとしては、SiC、Si面側にエピタキシャル層が積層されたSiC、GaN等が該当する。ここで、被研磨性とは、所定の面圧及び相対移動速度の下、所定の研磨能率の研磨体による時間当たりの研磨深さを意味する。すなわち、被研磨性は、ウェハの第1面又は第2面における研磨され易さを意味する。
【0016】
第1研磨パッド及び第2研磨パッドは、LHA(Loosely Held Abrasive)パッドとも称される砥粒内包型研磨パッドである。すなわち、第1研磨パッド及び第2研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材に保持され、気孔内に収容された研磨粒子とを有している。
【0017】
母材を構成する樹脂としては、ポリエーテル、硬質発泡ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂の他、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系合成樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能である。母材の気孔率、気孔径等は種々設定され得る。
【0018】
母材に保持され、気孔内に収容される研磨粒子としては、シリカ、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、酸化鉄等を採用することが可能である。研磨粒子の径、母材に対する研磨粒子の含有率等は種々設定され得る。研磨粒子の平均粒子径等の径としては、0.005μm~10μmの範囲を例示できる。研磨粒子の径は光子相関法やレーザー回折散乱法により測定できる。平均粒子径とは、光子相関法やレーザー回折散乱法により求めた粒度分布におけるD50の値を意味する。
【0019】
母材の種類、気孔率、気孔径、研磨粒子の径、母材に対する研磨粒子の含有率等の選択及び組み合わせにより、第1研磨パッドや第2研磨パッドの研磨能率を設定可能である。ここで、研磨能率(μm/hr)とは、所定の面圧及び相対移動速度の下、所定の被研磨物を時間当たりにどの程度の研磨深さで研磨できるかの能率を意味する。すなわち、研磨能率は、第1研磨パッドや第2研磨パッドにおける研磨し易さを意味する。
【0020】
ウェハがSiCであって、第1面がSi面であり、第2面がC面である場合には、第2研磨パッドによる第2面の研磨能率は、第1研磨パッドによる第1面の研磨能率の1.2~2.0倍であることが好ましい。第2研磨パッドによる第2面の研磨能率は、第1研磨パッドによる第1面の研磨能率の1.2~1.4倍であることがより好ましい。Si面は被研磨性が低く、研磨され難い一方、C面は被研磨性が高く、研磨され易いため、この程度第1研磨パッドによる第1面の研磨能率が第2研磨パッドによる第2面の研磨能率が低ければ、スクラッチ及びダメージを生じ難い。
【0021】
ウェハと第1研磨パッドとの間及びウェハと第2研磨パッドとの間に研磨液を介在させることが可能であるが、本発明のウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置では、研磨液は研磨粒子を含まないことが好ましい。研磨粒子を含まない研磨液であれば、研磨液の管理、回収、循環を簡便化でき、研磨コストを低廉化できる。研磨液としては、アルカリ水溶液のものや、過マンガン酸カリウム水溶液、過酸化水素水溶液等の酸化能を有するものを採用することができる。
【0022】
第1研磨パッド及び第2研磨パッドにおいて、母材の気孔率が高ければ、気孔内に収納される研磨粒子の含有率が高くなり、研磨能率が高くなる。他方、母材の気孔率が低ければ、気孔内に収納される研磨粒子の含有率が低くなり、研磨能率が低くなる。第1研磨パッドの母材の気孔率としては、40~70体積%や45~60体積%を例示できる。同様に、第2研磨パッドの母材の気孔率としても、40~70体積%や45~60体積%を例示できる。例えば、ウェハがSiCであって、第1面がSi面であり、第2面がC面である場合には、第1研磨パッドの母材の気孔率として、40~60体積%、好ましくは45~50体積%を例示でき、第2研磨パッドの母材の気孔率として、50~70体積%、好ましくは55~60体積%を例示できる。
【0023】
第1研磨パッドと第2研磨パッドとは、母材の気孔率を異なるものとすることで、研磨能率に差を設けることができる。例えば、ウェハがSiCであって、第1面がSi面であり、第2面がC面である場合には、第1研磨パッドと第2研磨パッドにおける母材の気孔率の差としては、-8~-13ポイントを例示できる。
【0024】
第1研磨パッド及び第2研磨パッドにおいて、研磨粒子の含有率が高ければ、研磨能率が高くなり、研磨粒子の含有率が低ければ、研磨能率が低くなる。第1研磨パッドにおける研磨粒子の含有率としては、5~30体積%や10~25体積%を例示できる。同様に、第2研磨パッドにおける研磨粒子の含有率としても、5~30体積%や10~25体積%を例示できる。例えば、ウェハがSiCであって、第1面がSi面であり、第2面がC面である場合には、第1研磨パッドにおける研磨粒子の含有率として、15~25体積%、好ましくは18~22体積%を例示でき、第2研磨パッドにおける研磨粒子の含有率として、8~25体積%、好ましくは10~18体積%を例示できる。
【0025】
第1研磨パッドと第2研磨パッドとは、研磨粒子の含有率を異なるものとすることで、研磨能率に差を設けることができる。例えば、ウェハがSiCであって、第1面がSi面であり、第2面がC面である場合には、第1研磨パッドと第2研磨パッドにおける研磨粒子の含有率の差としては、0~12ポイントを例示できる。
【0026】
第1研磨パッドと第2研磨パッドとは、研磨粒子の種類や樹脂の種類を異なるものとすることで、研磨能率に差を設けてもよい。より硬質の研磨粒子を用いれば、研磨能率が高くなり、より軟質の研磨粒子を用いれば、研磨能率が低くなる。また、樹脂の選択により、研磨粒子を保持する弾性力を変更し、研磨能率を変更することができる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を具体化した実施例1~5と、参考例1、2と、比較例1とを説明する。実施例1~5、参考例1、2及び比較例1で用いたウェハ研磨装置10は、図1に示すように、第1定盤1と、第2定盤3と、キャリヤ5とを備えている。ウェハ研磨装置10は、ウェハWの両面W1、W2を同時に研磨する装置である。
【0028】
第1定盤1の下面には第1研磨パッド7が設けられ、第2定盤3の上面には第2研磨パッド9が設けられている。第1定盤1には第1回転軸1aが設けられ、第2定盤3には第2回転軸3aが設けられている。第1回転軸1a及び第2回転軸3aは第1軸心O1方向に延び、第1駆動装置11によって第1軸心O1周りを所定速度で回転されるようになっている。また、第1定盤1と第2定盤3とは接近と離隔とが可能になっている。第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9は、第1軸心O1と直交する方向に水平に延びており、互いに対面している。
【0029】
キャリヤ5は第1研磨パッド7と第2研磨パッド9との間に設けられている。キャリヤ5には図示しない駆動力伝達機構が設けられており、第2駆動装置13によって第2軸心O2周りを所定速度で回転されるようになっている。第2軸心O2は第1軸心O1と平行である。
【0030】
キャリヤ5の固定部5aは、第2軸心O2と直交する方向に水平に延びており、第1研磨パッド7と対面するとともに第2研磨パッド9と対面している。固定部5aにはウェハWが固定される。キャリヤ5は複数の固定部5aを有しており、複数枚のウェハWを装着可能である。また、ウェハ研磨装置10には、複数のキャリヤ5を設けることが可能である。
【0031】
各ウェハWはSiCからなる。SiCのSi面が第1面W1であり、SiCのC面が第2面W2である。ウェハWの第1面W1は第1研磨パッド7と対面し、第2面W2は第2研磨パッド9と対面する。
【0032】
第1定盤1及び第2定盤3の側方にはノズル15が配置されており、ノズル15は研磨液を貯留する図示しないタンクと接続されている。ノズル15によって第1研磨パッド7と第2研磨パッド9との間にタンクに貯留された研磨液を供給可能である。
【0033】
ウェハWを固定部5aに固定してウェハ研磨装置10を作動させると、第1定盤1と第2定盤3とが接近して、キャリヤ5の固定部5aに固定された各ウェハWと第1、2研磨パッド7、9とが所定の面圧になるように加圧されるとともに、第1駆動装置11及び第2駆動装置13が駆動して、第1定盤1及び第2定盤3並びにキャリヤ5が回転する。これにより、ウェハWの第1面W1と第1研磨パッド7とが所定速度で相対移動して第1面W1を研磨し、ウェハWの第2面W2と第2研磨パッド9とが所定速度で相対移動して第2面W2を研磨する。そして、所定時間経過後に、第1面W1の研磨と第2面W2の研磨とを同時期に完了することが可能である。
【0034】
実施例1~5及び参考例1、2では、第1研磨パッド7と第2研磨パッド9としてLHAパッドを採用した。このLHAパッドは、ポリエーテル製の母材と、母材の気孔内に保持された研磨粒子とからなる。研磨粒子としては、粒径が約200nmのシリカを採用している。第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9における研磨粒子の含有率(体積%)及び母材の気孔率(体積%)は、表1のとおりである。また、実施例1~5及び参考例1、2では、研磨液として過マンガン酸カリウム水溶液を採用した。第1研磨パッド7によりウェハWのSi面のみを同一面圧及び同一速度で予め研磨した場合の研磨能率(μm/hr)と、第2研磨パッド9によりウェハWのC面のみを同一面圧及び同一速度で予め研磨した場合の研磨能率(μm/hr)とも、表1のとおりである。
【0035】
一方、比較例1では、第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9に代え、市販の不織布パッドを採用した。比較例1では、研磨液として、過マンガン酸カリウム水溶液に粒径約200nmのシリカからなる研磨粒子を配合したスラリーを採用した。不織布パッドによりウェハWのSi面のみを同一面圧及び同一速度で予め研磨した場合の研磨能率(μm/hr)と、不織布パッドによりウェハWのC面のみを同一面圧及び同一速度で予め研磨した場合の研磨能率(μm/hr)とも、表1のとおりである。
【0036】
第2研磨パッド9によるC面の研磨能率と第1研磨パッド7によるSi面の研磨能率との比の値(倍)、第1研磨パッド7の母材の気孔率と第2研磨パッド9の母材の気孔率との差(ポイント)、及び第1研磨パッド7の研磨粒子の含有率と第2研磨パッド9の研磨粒子の含有率との差(ポイント)も表1に示す。
【0037】
以下の条件でウェハ研磨装置10を作動させ、SiCのSi面及びC面を同時に研磨した。
【0038】
第1定盤1及び第2定盤3の回転数:60(rpm)
第1、2研磨パッド7、9及び不織布パッドの大きさ:直径300(mm)
キャリヤ5の回転数:60(rpm)
加工面圧:20.5(kPa)
研磨液の供給速度:10ml/分
研磨時間:10分×3回
【0039】
以上の結果を表1に示す。なお、表1に示す両面研磨の結果において、◎はウェハ研磨装置10にウェハWを10枚以上配置した場合であっても研磨が良好に進行したことを意味し、〇はウェハ研磨装置10にウェハWを5~10枚配置した場合であっても研磨が良好に進行したことを意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示されるように、不織布を採用し、研磨液として研磨粒子を有するスラリーを採用した比較例1では、ウェハWに大きなダメージが生じた。他方、第1、2研磨パッド7、9としてLHAパッドを採用し、研磨液として研磨粒子を有さない水溶液を採用した実施例1~5及び参考例1、2では、ウェハWへのダメージが軽減されている。このため、実施例1~5及び参考例1、2では、第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9において、研磨粒子が母材に弾性的に保持されており、母材から脱落し難いため、研磨粒子が予想外の挙動をし難く、ウェハWの表面にスクラッチが生じ難いことがわかる。
【0042】
また、実施例1~5及び参考例1、2では、第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9は母材と研磨粒子とが予め一体化されたものである。このため、第1面W1と第2面W2との被研磨性が異なるウェハWを研磨する場合であっても、第1研磨パッド7及び第2研磨パッド9を選択すれば、他の選択を行う必要がない。このため、実施例1~5及び参考例1、2では、それらの選択に過誤を生じ難く、それらの誤差が大きくなることはない。
【0043】
さらに、第2研磨パッド9によるC面の研磨能率が第1研磨パッド7によるSi面の研磨能率の1.2~2.0倍であれば、スクラッチ及びダメージを生じ難いことがわかる。特に、第2研磨パッド9によるC面の研磨能率が第1研磨パッド7によるSi面の研磨能率の1.2~1.4倍であれば、スクラッチ及びダメージを生じない。
【0044】
また、実施例1~5によれば、第1研磨パッド7と第2研磨パッド9とは、母材の気孔率が異なっているため、スクラッチ及びダメージを生じないことがわかる。特に、実施例1、2、4、5では、第1研磨パッド7と第2研磨パッド9とは、研磨粒子の含有率が異なっているため、スクラッチ及びダメージを生じ難い。


【0045】
したがって、本発明のウェハ研磨方法及びウェハ研磨装置では、第1面W1と第2面W2との被研磨性が異なるウェハWを研磨する際、ウェハWの表面へのスクラッチの発生を抑制可能であるとともに、高い作業性と精度とを実現することができることがわかる。
【0046】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、集積回路などの電子デバイスに利用される半導体ウェハの製造方法及び製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
W…ウェハ
W1…第1面
W2…第2面
7…第1研磨パッド
9…第2研磨パッド
O1…第1軸心
1…第1定盤
3…第2定盤
O2…第2軸心
5…キャリヤ
5a…固定部
10…ウェハ研磨装置
図1