(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】作業車監視システム
(51)【国際特許分類】
H04Q 9/00 20060101AFI20240209BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240209BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20240209BHJP
H04B 7/15 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
H04Q9/00 311Z
G05D1/02 N
G05D1/02 H
A01B69/00 303M
A01B69/00 301
H04B7/15
H04Q9/00 301B
H04Q9/00 311
(21)【出願番号】P 2020173938
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 純一
【審査官】前田 健人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-192163(JP,A)
【文献】特開2017-033121(JP,A)
【文献】特開2018-147164(JP,A)
【文献】特開2018-110352(JP,A)
【文献】特開2020-027442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04Q 9/00
G05D 1/02
A01B 69/00
H04B 7/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動走行可能な作業車と、監視端末と、中継装置とを備えた作業車監視システムであって、
前記作業車は、衛星測位ユニットと監視カメラと車両無線通信部と自動走行制御部とを有し、
前記監視端末は、監視者によって操作される操作部と、前記監視カメラの撮影画像を表示可能なモニタと、端末無線通信部とを有し、
前記中継装置は、前記車両無線通信部と前記端末無線通信部との間のデータ通信を中継し、
前記監視端末には、前記端末無線通信部と前記車両無線通信部との間の無線通信状況を示す第1通信状況、前記端末無線通信部と前記中継装置との間の無線通信状況を示す第2通信状況、前記中継装置と前記車両無線通信部との間の無線通信状況を示す第3通信状況を報知する通信状況報知部、及び、前記データ通信を通じて前記第3通信状況を取得する通信状況取得部が備えられている作業車監視システム。
【請求項2】
前記通信状況報知部は、前記モニタに、前記第1通信状況と前記第2通信状況と前記第3通信状況とを表示する請求項1に記載の作業車監視システム。
【請求項3】
前記中継装置は、前記作業車の作業中に位置変更可能な移動可能装置である請求項1又は2に記載の作業車監視システム。
【請求項4】
前記監視端末の現在位置を示す端末位置と前記作業車の現在位置を示す車両位置と前記中継装置の設置位置とが前記監視端末に記録され、前記端末位置と前記車両位置と前記設置位置とが前記モニタの地図画面に表示される請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車監視システム。
【請求項5】
前記第1通信状況、前記第2通信状況、前記第3通信状況の少なくとも1つが所定レベル以下になった場合に、通信状況回復のための回復策を演算する状況回復策演算部が、前記監視端末に備えられている請求項4に記載の作業車監視システム。
【請求項6】
前記状況回復策演算部は、前記作業車の走行挙動と、前記中継装置の設置位置と、前記監視端末の現在位置とに基づいて、前記回復策を演算する請求項5に記載の作業車監視システム。
【請求項7】
前記自動走行制御部を制御するための前記操作部による操作指令が、前記端末無線通信部から前記車両無線通信部に無線送信される請求項1から6のいずれか一項に記載の作業車監視システム。
【請求項8】
衛星からの電波に基づいて生成した補正データを前記衛星測位ユニットに与える基地局ユニットが備えられ、前記衛星測位ユニットは、前記車両無線通信部は、前記補正データを、前記基地局ユニットから直接に、または中継装置を介して前記基地局ユニットから受け取る請求項1から7のいずれか一項に記載の作業車監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動走行可能な作業車との間で無線通信可能な監視端末を用いて、当該作業車の走行状態が監視される作業車監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線データ通信により作業車から送られてくる情報を用いて走行状態を監視する場合、作業車と監視端末との間の無線通信状態が重要となる。一般的な使用目的のための無線使用においては、法的に無線の到達距離が制限されている。このため、作業車と監視端末との距離が長くなると、無線通信状態が悪くなり、作業車からの情報が途絶えてしまう。これを回避するためには、監視端末を持つ監視者が作業車を追いかける必要があるが、作業地が広大な場合、監視者に大きな負担がかかる。
【0003】
特許文献1による周辺状況捕捉システムでは、有人操作地点から操作ユニットを用いて無人走行車を遠隔操作するための遠隔操作信号と、無人走行車の周辺状況を操作ユニットに通知するための周辺状況信号とが、有人操作地点から監視地点に至る信号伝送経路中に設置された中継器を介して伝送される。周辺状況信号は無人走行車に搭載された周辺状況捕捉手段によって生成される。無人走行車には、中継器が積み込まれており、設置した中継器と無人走行車との距離が長くなり、中継器と無人走行車との間の無線通信状態が悪くなると、その位置に中継器が設置される。複数の中継機を数珠つなぎすることで、遠くまで走行した無人走行車と操作ユニットとの間の無線通信が可能となる。
【0004】
特許文献2による無人建設機械の遠隔操縦装置では、無人建設機械に搭載された監視用カメラによって撮像された画像が有人操作部に無線伝送される。この画像を見ながら、監視者が有人操作部を操作する。有人操作部から無線伝送された操作信号により無人建設機械は遠隔操縦される。その際、有人操作部と無人建設機械との間に、操作信号と画像信号とを中継する送信機と受信機とを搭載した無人中継車が配置されている。有人操作部と無人建設機械との間に複数の無人中継車が直列的に順次配置されることにより、つまり複数の無人中継車の数珠つなぎにより、互いに遠く離れた有人操作部と無人中継車との間でも、操作信号と画像信号とが無線伝送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-132326号公報
【文献】特開平8-84375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1による周辺状況捕捉システムでは、無人走行車が有人操作地点から直線的に離れていく場合には、その間に中継器を配置することで、有人操作地点と無人走行車との間の良好な無線通信が確立される。しかしながら、一般の作業地での作業車による作業では、例えば圃場におけるトラクタ等の圃場作業では、作業地は多角形状に広がっている。そのような形状の作業地に対する作業において、順次中継器を配置していく無線中継方法では、互いの中継範囲が重複する無駄な中継器が増加する問題が生じる。
【0007】
特許文献2による遠隔操縦装置では、中継器自体が無人中継車として自由に移動することができるので、中継器は、融通性をもって使用される。しかしながら、無人建設機械の無線操作のために、さらに無人中継車を投入することは、その投入コストが大きくなるだけでなく、無人建設機械と無人中継車とを無線操作することは、作業監視者にとっての負担も大きくなる。
【0008】
さらに特許文献1及び特許文献2においても、無人走行車を無線操作する無線操作器自体が移動することは考慮されていない。しかしながら、実際には、監視者が無線操作器を携帯し、無人走行車を目視するために、ある程度無人走行車を追いかけていくことは少なくない。この場合、無線操作器、中継器、無人走行車の間の距離が変化することになり、その結果、それぞれの間の無線通信状態が変動するという問題が生じる。
このような実情に鑑み、本発明の目的は、無線操作する監視者の位置が変化しても、自動走行作業車と監視者との間の良好な無線通信状態を維持することができる作業車監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による作業車監視システムは、自動走行可能な作業車と、監視端末と、中継装置とを備え、
前記作業車は、衛星測位ユニットと監視カメラと車両無線通信部と自動走行制御部とを有し、
前記監視端末は、監視者によって操作される操作部と、前記監視カメラの撮影画像を表示可能なモニタと、端末無線通信部とを有し、
前記中継装置は、前記車両無線通信部と前記端末無線通信部との間のデータ通信を中継し、
前記監視端末には、前記端末無線通信部と前記車両無線通信部との間の無線通信状況を示す第1通信状況、前記端末無線通信部と前記中継装置との間の無線通信状況を示す第2通信状況、前記中継装置と前記車両無線通信部との間の無線通信状況を示す第3通信状況を報知する通信状況報知部、及び、前記データ通信を通じて前記第3通信状況を取得する通信状況取得部が備えられている。
【0010】
この構成では、監視者は、常に、監視端末を通じて、監視端末と作業車との間の無線通信状況(無線通信状態)、監視端末と中継装置との間の無線通信状況、中継装置と作業車との間の無線通信状況を把握することができる。無線通信を行っている機器同士は、相手からの無線通信の通信状況は検知することができるが、他の機器同士が行っている無線通信の通信状況は検知できない。この発明では、データ通信を通じて、監視端末側で、中継装置と作業車との間の無線通信状況を把握することができる。これにより、中継装置と作業車との間の無線通信状況の悪化が、監視端末と作業車との間の無線通信の不良をもたらしている場合でも、そのことを即座に把握することができる。その結果、そのような無線通信の不良を回復するために、監視端末と中継装置と作業車との位置関係の改善を即座に行うことができる。なお、ここでの無線通信状況には、無線機器同士の位置関係から無線通信に悪影響を及ぼす種々の因子が含まれており、例えば、無線受信感度、無線通信速度、無線通信品質などである。
【0011】
監視端末による、監視端末と中継装置と作業車との間の無線通信における無線通信状況を、分かり易く、迅速に報知するためには、それぞれの通信状況をモニタ表示することが好適である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記通信状況報知部は、前記モニタに、前記第1通信状況と前記第2通信状況と前記第3通信状況とを表示する。
【0012】
中継装置を有効活用するために、中継装置が作業地の中に配置されると、作業車の走行障害物になる。このため、作業車との接触による破損を避けるためには、中継装置は、少なくとも1度は、その設置場所を変更しなければならない。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記中継装置は、前記作業車の作業中に位置変更可能な移動可能装置である。中継装置の移動は、簡単には、監視者による持ち運びによって行うことができる。もちろん、中継装置が走行機能または飛行機能を備えてもよい。
【0013】
無線通信状況の悪化による無線通信不良を改善するためには、監視端末(監視者)と中継装置と作業車との間の正確な位置関係を知る必要がある。しかしながら、作業地が広大な場合、監視者が目視で、中継装置や作業車の正確な位置関係を確認することは難しい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記監視端末の現在位置を示す端末位置と前記作業車の現在位置を示す車両位置と前記中継装置の設置位置とが前記監視端末に記録され、前記端末位置と前記車両位置と前記設置位置とが前記モニタの地図画面に表示される。監視者は、この地図画面を見ることで、監視端末と中継装置と作業車との間の正確な位置関係を知ることで、無線通信不良を改善することができる。
【0014】
端末位置、車両位置、設置位置が分かると、監視端末と中継装置と作業車との間の相互距離が演算できる。通信状況が相互距離(離間距離)に依存する場合、長くなり過ぎた相互距離を短くすることが、悪化した通信状況を回復するための通信状況回復策となる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1通信状況、前記第2通信状況、前記第3通信状況の少なくとも1つが所定レベル以下になった場合に、通信状況回復のための回復策を演算する状況回復策演算部が、前記監視端末に備えられている。例えば、回復策が長くなっている相互距離を短くすることであれは、監視端末または中継装置の位置を適切に変更することで、無線通信が遮断する前に、当該相互距離を短くし、良好な無線通信を維持できる。
【0015】
監視端末と中継装置と作業車との間の相互距離の変化から通信状況の悪化挙動を推定する場合、作業車の走行方向を考慮しなければならない。今後、さらに通信状況が悪化するかどうかは、作業車の現在位置や既作業地を示す走行軌跡やこれから走行すべき走行経路などを含む走行挙動に依存する。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記状況回復策演算部は、前記作業車の走行挙動と、前記中継装置の設置位置と、前記監視端末の現在位置とに基づいて、前記回復策を演算する。
【0016】
監視端末のモニタには、作業車に搭載された監視カメラからの撮影画像が表示されるので、監視者は、その撮影画像から作業車の周辺状況を含む走行状態を監視することができる。作業車の異常や走行障害物の存在などの問題を見つけた場合、この問題を取り除くために、監視者が、監視端末を通じて作業車を遠隔操縦(停車や旋回など)できると好都合である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動走行制御部を制御するための前記操作部による操作指令が、前記端末無線通信部から前記車両無線通信部に無線送信される。
【0017】
作業車の自動走行では、自車位置の算出のために衛星測位ユニットが用いられるが、高精度の位置測定には、RTK-GPSと呼ばれる衛星測位システムが必要となる。このRTK-GPSシステムでは、作業車に搭載された衛星測位ユニットは、無線通信等を利用して、地上に設置した基地局からの補正データを受信する必要がある。こRTK-GPSシステムの補正データの無線通信が、本発明の作業車監視システムに組み込まれると、補正データのための無線通信の信頼性が高くなり好都合である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、衛星からの電波に基づいて生成した補正データを前記衛星測位ユニットに与える基地局ユニットが備えられ、前記衛星測位ユニットは、前記車両無線通信部は、前記補正データを、前記基地局ユニットから直接に、または中継装置を介して前記基地局ユニットから受け取る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】作業車監視システムの概要を示す模式図である。
【
図2】自動走行可能な作業車の一例であるトラクタの側面図である。
【
図3】監視カメラの取り付け位置を説明するためのトラクタの概略平面図である。
【
図4】作業車監視システムにおける各機能部を示す機能ブロック図である。
【
図5】作業車監視システムにおけるデータの流れを示すデータ流れ図である。
【
図6】複数の中継装置が投入されている作業車監視システムにおけるデータの流れを示すデータ流れ図である。
【
図7】トラクタ、中継装置、監視端末の位置を示すモニタ画面図である。
【
図8】作業車監視システムの概要を示す模式図である。
【
図9】作業車監視システムにおけるデータの流れを示すデータ流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を用いて、本発明による作業車監視システムを説明する。
図1には、衛星測位情報を含んだ電波を衛星SAから受信しながら、衛星航法を用いて、圃場(作業地の一例)を自動走行するトラクタ(作業車の一例)1が示されている。自動走行するトラクタ1の状況(走行状況や作業状況)は、監視端末4を携帯した監視者(
図1では符号MPで示されている)によって、監視される。監視端末4は、無線(wifi)機能と、モニタ機能(画像表示機能)、GPSなどの端末位置検出機能とを備えたPC(パソコン)機器である。
【0020】
図2に示すように、トラクタ1には、前輪11と後輪12とによって支持された車体10の中央部に運転部20が設けられている。車体10の後部には、油圧式の昇降機構23を介してロータリ耕耘装置である作業装置24が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタ1の走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は運転部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって行われる。
【0021】
このトラクタ1には、車体10の周囲領域を含む圃場(作業地の一例)を撮影して監視画像として出力する監視カメラ3が備えられている。この実施形態では、
図3に示すように、監視カメラ3には、前カメラ31と後カメラ32と左カメラ33と右カメラ34とが含まれている。前カメラ31は、ボンネット15の前部に配置され、車体10の前方を撮影する。後カメラ32は、運転部20を覆っているキャビンの後部に配置され、作業装置24を含む車体10の後方を撮影する。左カメラ33と右カメラ34とは、それぞれ、キャビンの側部に配置され、車体10の左方と右方とを撮影する。前カメラ31と後カメラ32と左カメラ33と右カメラ34とからの撮影画像を視点変換して合成することにより、トラクタ1の上方を視点とする俯瞰画像が生成可能である。したがって、以下に述べる監視画像には、前方撮影画像、後方撮影画像、側方撮影画像、俯瞰画像が含まれるものとする。
【0022】
トラクタ1は、自動走行時に必要な車両位置を算出するためのGNSS(global navigation satellite system)ユニットである衛星測位ユニット57を備えている。GNSS信号(GPS信号も含む)を受信するための衛星用アンテナが、衛星測位ユニット57の構成要素として、キャビンの天井領域に取り付けられている。なお、衛星航法を補完するために、衛星測位ユニット57に、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを組み合わせることも可能である。慣性航法モジュールは、衛星測位ユニット57とは別の場所に設けてもよい。
【0023】
トラクタ1の監視カメラ3で撮影された監視画像は、無線通信によって監視端末4に送られ、監視端末4のタッチパネル(モニタの一例)41に表示される。これにより、監視者は、遠く離れたトラクタ1の走行状況や作業状況を把握することができる。この実施形態では、監視端末4には、監視者によって操作される操作部42が、ソフトウエアボタンまたはハードウエアボタンの形態で、備えられており、操作部42には、停車ボタン、エンジン停止ボタン、作業停止ボタンなどが割り当て可能である。
【0024】
野外で使用する無線通信の通信距離は限定されており、例えば、トラクタ1と監視端末4との距離が100mを超えると、無線通信状況が悪化し、安定した通信ができなくなる可能性がある。その場合、
図1に示すように、中継装置7が圃場に設置される。この中継装置7は、必要に応じて別の場所に設置替えすることができるし、複数台設置することも可能である。監視者が監視端末4を携帯して、トラクタ1を追いかけると、無線通信状況が悪化することは避けられるが、種々の作業を掛け持つ監視者の移動には制約があるので、広大な圃場では、中継装置7が必要となる。
【0025】
図4は、トラクタ1、監視端末4、中継装置7における、本発明に関する機能を示す機能ブロック図である。トラクタ1の制御系の中核要素である制御ユニットCUは、入出力インタフェースとして、出力処理部5Aと入力処理部5Bとを備えている。トラクタ1は、車外の無線通信機器と無線通信を行うために無線通信ユニット6を備えており、無線通信ユニット6は制御ユニットCUと接続している。出力処理部5Aは、例えば、操舵モータ14などの作業走行のための種々の動作機器である作業走行機器群55、メータや積層灯などの報知デバイス56と接続している。入力処理部5Bは、例えば、衛星測位ユニット57、トラクタ1の作業走行を手動で行う際に用いられる作業走行手動操作具群58、監視カメラ3と接続している。
【0026】
無線通信ユニット6の車両無線通信部61は、中継装置7の中継無線通信部71を介して監視端末4の端末無線通信部43との間の無線でのデータ通信、あるいは、直接端末無線通信部43との間の無線でのデータ通信を行う。無線通信ユニット6は、車両無線通信部61における無線通信の通信状況を検出する通信状況検出部62を備えている。中継装置7も、中継無線通信部71における無線通信の通信状況を検出する通信状況検出部72を備えている。
【0027】
トラクタ1の制御ユニットCUには、制御用コンピュータであるECUからなる作業走行制御部50と自車位置算出部54が含まれている。自車位置算出部54は、衛星測位ユニット57から逐次送られてくる測位データに基づいて、トラクタ1の座標位置(地図座標または圃場座標)である自車位置(車両位置)を算出する。
【0028】
作業走行制御部50には、手動走行制御部51、自動走行制御部52、作業制御部53が含まれている。手動走行モードが設定された場合に動作する手動走行制御部51は、運転者による作業走行手動操作具群58の操作に基づいて生成された指令に基づいて、作業走行機器群55を制御する。
【0029】
自動走行制御部52には、走行経路生成部52aが含まれている。走行経路生成部52aは、入力された圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における走行経路を生成し、設定する。生成された走行経路は、運転者によって修正可能である。走行経路生成部52aは、別なコンピュータで生成された走行経路をダウンロードして、設定することも可能である。いずれにしても、走行経路生成部52aによって設定された走行経路は、自動走行のための目標経路として用いられる。この走行経路は、手動走行であっても、トラクタ1が当該走行経路に沿って走行するためのガイダンスのために利用してもよい。自動走行モードが設定された場合に動作する自動走行制御部52は、自動走行のために必要となる作業走行機器群55に制御指令を与える。例えば、自動走行制御部52は、設定された走行経路と、自車位置算出部54で算出された自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、その方位ずれ及び位置ずれを解消する自動操舵指令を生成して、操舵モータ14を制御する。
【0030】
監視者が携帯する監視端末4には、トラクタ1から、監視カメラ3によって撮影された監視画像が無線通信ユニット6を介して送信されてくる。受信された監視画像は、タッチパネル41に表示される。監視端末4には、端末無線通信部43以外に、無線通信に関する機能部として、通信状況取得部44、通信状況報知部45、状況回復策演算部46が備えられている。
なお、この実施形態の以下の説明では、無線通信状況として、受信する無線信号の強さを示す受信感度が取り上げられる。従って、通信状況取得部44、通信状況報知部45、通信状況検出部62、通信状況検出部72は、それぞれ、受信感度取得部、受信感度報知部、感度回復策演算部、受信感度検出部、受信感度検出部として機能する。もちろん、受信感度は、無線通信速度、無線通信品質など無線通信状況の悪化をもたらす全ての要因、またはいずれかの要因によって置き換えてもよく、通信状況取得部44、通信状況報知部45、通信状況検出部62、通信状況検出部72は、それらを処理対象として処理するように構成することも可能である。同様に、通信状況回復策を求める状況回復策演算部46は、感度回復策演算部として機能するが、その他の要因の全てまたはいずれかを処理対象として処理するように構成することも可能である。
【0031】
通信状況取得部44は、端末無線通信部43と車両無線通信部61との間の無線通信状況として第1受信感度(第1通信状況の一種)及び端末無線通信部43と中継無線通信部71との間の無線通信状況として第2受信感度(第2通信状況の一種)だけでなく、端末無線通信部43とは無関係な無線通信である中継無線通信部71と車両無線通信部61との間の無線通信状況として第3受信感度(第3通信状況の一種)も取得することができる。無線通信ユニット6または中継装置7は、通信状況検出部62または通信状況検出部72によって検出された第3受信感度を監視端末4の端末無線通信部43に送信する。端末無線通信部43で受信された第3受信感度は、通信状況取得部44に与えられる。
【0032】
通信状況報知部45は、通信状況取得部44が取得した第1受信感度、第2受信感度、第3受信感度を、タッチパネル41にグラフィック表示する。さらには、所定レベル以下に低下した第1受信感度、第2受信感度、第3受信感度をメッセージ表示、あるいはランプやブザーで監視者に報知するように構成してもよい。無線通信状況として、受信感度以外の上記要因が取り上げられる場合、その要因に応じて、適切なグラフィック表示やメッセージ表示などが行われる。
【0033】
状況回復策演算部46は、第1受信感度、第2受信感度、第3受信感度の少なくとも1つが所定レベル以下になった場合に、受信感度回復のための回復策を演算する。無線通信距離が長くなったために低下した受信感度を回復するには、当該通信距離を短くする必要がある。トラクタ1の作業走行を変更することは作業の遅れや作業品質の低下を導くので、監視端末4または中継装置7が移動することになる。監視端末4と中継装置7とトラクタ1との間の良好な無線通信状態確保するためには、監視端末4または中継装置7のどちらをどのように移動すべきかを、状況回復策演算部46が演算する。
【0034】
ここで、
図5を用いて、監視端末4と中継装置7とトラクタ1との間の無線通信によるデータ伝送を説明する。
【0035】
監視端末4とトラクタ1との通信距離が短く、良好な通信状態が確保されている場合には、中継装置7を用いずに、端末無線通信部43と車両無線通信部61とが直接的にデータ通信を行う。このデータ通信により、監視カメラ3の監視画像を含む監視データがトラクタ1から監視端末4に送られ、監視者はタッチパネル41を通じて監視データをチェックすることができる。監視データには、監視画像だけでなく、トラクタ1の走行作業状態、例えば、燃料残量や車速、作業装置24の状態値などが含まれてもよい。また、中継装置7とトラクタ1との間の通信状態を示す第3受信感度も端末無線通信部43から車両無線通信部61に送信される。さらにこの実施形態では、監視端末4の操作部42を用いて、操作指令を生成し、この操作指令(制御信号)を端末無線通信部43から車両無線通信部61に無線送信することでトラクタ1を遠隔制御することができる。これにより、監視者は、緊急時には、遠く離れているトラクタ1を停止させることができる。
【0036】
監視端末4とトラクタ1との通信距離が長くなり、受信感度が低下してきた場合には(通信状態の不安定)、中継装置7が用いられる。監視者に携帯された監視端末4は、畦にそって不規則に移動することが少なくない。また、トラクタ1は、圃場を網羅するように往復走行を繰り返す。このため、監視端末4やトラクタ1の移動を考慮して、適正な位置に、中継装置7設置される。これにより、端末無線通信部43と車両無線通信部61とは、中継無線通信部71を介して、安定した通信状態でデータ通信を行うことができる。トラクタ1からの監視データは、中継装置7経由で監視端末4に送られてくる。
【0037】
この実施形態では、監視端末4には、トラクタ1の自車位置及び中継装置7の設置位置も送られてくるので、監視端末4は、トラクタ1及び中継装置7の位置を記録し、管理する。なお、中継装置7の設置位置は、中継装置7の装置位置算出機能(GPS機能など)によって算出される。中継装置7にGPS機能が無い場合には、監視者が中継装置7を設置する際に、監視端末4に備えられている端末位置算出機能(GPS機能など)を用いて取得した位置が用いられる。
【0038】
図5で示された例では、中継装置7は1台だけ使用されていたが、使用する中継装置7の台数は、複数であってもよい。
図6には、2台の中継装置7が使用されている例が示されている。監視端末4とトラクタ1と中継装置7との間の各通信ルートにおいて、受信感度低下が生じた場合、受信感度低下が生じている通信ルートの間に追加の中継装置7が設置される。るいは、既設の中継装置7が適切な位置に移設(位置変更)される。このため、中継装置7は、圃場に抜き差し自在なアンカーで圃場に設置される。中継装置7の位置変更は監視者によって運ばれることで可能である。圃場が広大な場合には、中継装置7に自走機能またはドローン機能が備えられるとよい。
【0039】
監視端末4で管理されているトラクタ1の自車位置及び中継装置7の設置位置は、
監視端末4の位置とともに、監視者に報知される。例えば、
図7に示すように、それぞれの位置は、監視端末4のタッチパネル41に圃場の地図画面に重ねて表示することができる。
図7では、トラクタ1は記号TRを付されたシンボル、監視端末4は記号ORを付されたシンボル、中継装置7は記号ADを付されたシンボルで表示されている。これにより、監視者は、監視端末4とトラクタ1と中継装置7の位置関係を把握することができる。監視端末4とトラクタ1と中継装置7との間のいずれかの通信ルートに警告レベルを超える受信感度低下が発生した場合、もしくは、監視端末4とトラクタ1と中継装置7との間のいずれかの距離が監視端末4とトラクタ1と中継装置7とのいずれかの距離が受信感度の悪化をもたらす警告距離を超えた場合、受信感度低下の注意報として、該当する通信ルートを示す線が赤などの警告色となる。
【0040】
通信距離の増大等で受信感度低下(通信不安定)の警告が報知されても、圃場が広大な場合、タッチパネル41上での監視端末4とトラクタ1と中継装置7との位置を把握していても、トラクタ1を走行していることもあり、監視者は、受信感度低下を回避させるための回復策に迷うことになる。この回復策は、監視端末4とトラクタ1と中継装置7との現状位置から、監視端末4と中継装置7とのいずれかをどのように移動させるべきかという問題の解決策である。このような問題の解決には、固定体と動体との位置関係を演算する種々のアルゴリズムが用いられる。そのようなアルゴリズムが組み込まれた状況回復策演算部46は、トラクタ1の現在位置を含む走行挙動(既作業地を示す走行軌跡やこれから走行すべき走行経路など)と、中継装置7の設置位置と、監視端末4の現在位置とに基づいて、前記回復策を演算する。トラクタ1は、未作業領域を作業経路に沿って進んで行くことを考慮して、互いの距離をシミュレーションすることで、最適な監視端末4または中継装置7の移動先の位置が求められる。状況回復策演算部46による回復策は、例えば、
図7に示されているように、監視端末4のタッチパネル41に圃場の地図画面に重ねて、イラストで表示される。この例では、第1感度回復策として、監視端末4が推薦移動先(
図7では記号M1で示されている)に移動すること、第2感度回復策として、中継装置7が推薦移動先(
図7では記号M2で示されている)に移動することが示されている。
【0041】
図8には、衛星測位ユニット57による測位精度を向上させるために、リアルタイムキネマティック方式GPS(以下、RTK-GPSと略称する)が用いられている、作業車監視システムの概要が示されている。RTK-GPSはよく知られているので、ここでは詳しい説明は省略するが、RTK-GPSを用いた測位方式の運用においては、圃場の近くに、基地局ユニット57Aが設置される。基地局ユニット57Aは、RTK-GPSの補正アルゴリズムを用いて、補正データを算出する。算出された補正データは、トラクタ1の衛星測位ユニット57に与えられる。衛星測位ユニット57は、受け取った補正データと衛星SAからの電波とを用いてより正確な測位データを生成し、自車位置算出部54に与える。
【0042】
図9は、
図8で示された作業車監視システムのデータ流れ図である。ここでは、基地局ユニット57Aで算出された補正データは、次の選択可能な2つの通信ルートで基地局ユニット57Aからトラクタ1に無線通信で送信可能である。
(1)補正データは、基地局ユニット57Aから、直接または中継装置7を介して、トラクタ1の車両無線通信部61に送信される。
(2)補正データは、基地局ユニット57Aから監視端末4に送信され、監視端末4から、直接、または中継装置7を介して、トラクタ1の車両無線通信部61に送信される。
【0043】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、作業車であるトラクタ1は1台だけであったが、トラクタ1の台数は、複数であってもよい。この場合、複数台のトラクタ1が協調的に自動走行する制御プログラムが用いられる。監視端末4によるトラクタ1の監視は、トラクタ1と任意に選択することでタッチパネル41に表示される監視画像を含む監視画像を用いて行うことができる。タッチパネル41が大きな画面サイズを有する場合には、複数の監視情報を、同時にタッチパネル41に表示させてもよい。さらに、RTK-GPSが採用されている場合には、補正データは、監視端末4で管理され、監視端末4が、適時に、複数のトラクタ1に送信してもよい。
【0044】
(2)
図4~
図6、及び
図9における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合してもよいし、またはさらに複数の機能部に分けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、トラクタやコンバインなどの農作業機、バックホウやブルドーザなどの土木作業機、運搬車などの搬送機、などの自動走行可能な作業車のための監視システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 :トラクタ(作業車)
3 :監視カメラ
4 :監視端末
5A :出力処理部
5B :入力処理部
6 :無線通信ユニット
7 :中継装置
41 :タッチパネル
42 :操作部
43 :端末無線通信部
44 :通信状況取得部
45 :通信状況報知部
46 :状況回復策演算部
57 :衛星測位ユニット
57A :基地局ユニット
61 :車両無線通信部
62 :通信状況検出部
71 :中継無線通信部
72 :通信状況検出部