(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】エンジンシステム、及び空調装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240209BHJP
F16H 7/00 20060101ALI20240209BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
F02D29/02 F
F16H7/00 A
F16H7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020212822
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】村井 則通
(72)【発明者】
【氏名】徳田 有佑
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-120028(JP,A)
【文献】特開2017-120027(JP,A)
【文献】実開昭60-012747(JP,U)
【文献】特開平01-288656(JP,A)
【文献】特開2003-194838(JP,A)
【文献】特開2019-002341(JP,A)
【文献】特開2012-017724(JP,A)
【文献】特表2005-507064(JP,A)
【文献】特開平04-252823(JP,A)
【文献】特開2005-185066(JP,A)
【文献】特開2015-169109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F16H 7/00
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトと一体回転する原動プーリと、補機の駆動軸と一体回転する従動プーリと、当該原動プーリ及び前記従動プーリに掛けられるコンプレッサベルトとを備えるエンジンシステムにおいて、
前記エンジンのエンジン出力を所定のスリップ関連値導出用出力に制御する出力制御部と、
前記出力制御部により前記エンジン出力を前記スリップ関連値導出用出力に制御している状態で、前記原動プーリと前記コンプレッサベルトの間のスリップ、及び前記従動プーリと前記コンプレッサベルトの間のスリップに関連するスリップ関連値を導出するスリップ関連値導出部と、
前記スリップ関連値導出部にて導出された前記スリップ関連値と、当該スリップ関連値の経時変化率と、所定のメンテナンス期間使用後の前記コンプレッサベルトの前記スリップ関連値としての使用後スリップ関連値とに基づいて、前記コンプレッサベルトの調整時点を推定する調整時期推定部とを備えるエンジンシステム。
【請求項2】
前記スリップ関連値導出部は、前記クランクシャフトの単位時間当たりの回転数を検出するエンジン回転数検出部による検出結果Neと、前記駆動軸の単位時間当たりの回転数を検出する補機回転数検出部の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sを前記スリップ関連値とする請求項1に記載のエンジンシステム。
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【請求項3】
前記スリップ関連値導出部は、前記クランクシャフトの単位時間当たりの回転数を検出するエンジン回転数検出部による検出結果Neと、前記駆動軸の単位時間当たりの回転数を検出する補機回転数検出部の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sを導出し、前記スリップ率Sと、予め取得され記憶部に記憶された前記スリップ率Sと前記コンプレッサベルトの張力との対応関係とから導出される前記コンプレッサベルトの前記張力を、前記スリップ関連値とする請求項1に記載のエンジンシステム。
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【請求項4】
前記スリップ関連値導出部は、所定のスリップ率導出期間毎に前記スリップ率Sを導出するものであり、
前記調整時期推定部は、前記スリップ率導出期間よりも長い最大スリップ率抽出期間における最大の前記スリップ率Sを抽出し、抽出された最大の前記スリップ率Sの経時変化率に基づいて、前記コンプレッサベルトの前記調整時点を推定する請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記補機を複数備えると共に、一の前記補機に対応して一の前記従動プーリを備える形で複数の前記従動プーリを備え、
一の前記コンプレッサベルトが、前記原動プーリと複数の前記従動プーリとに対して掛けられるものであり、
前記補機回転数検出部は、複数の前記従動プーリのうち、前記コンプレッサベルトの回転方向で前記原動プーリを起点として前記原動プーリに最近接の前記従動プーリの単位時間当たりの回転数を前記検出結果Ncとして検出する請求項2~4の何れか一項に記載のエンジンシステム。
【請求項6】
前記コンプレッサベルトのメンテナンスとしての交換が実行された交換時点から所定の交換状態判定期間における前記スリップ関連値の経時変化率に基づいて、前記交換の適否を判定する交換判定部を備える請求項1~5の何れか一項に記載のエンジンシステム。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のエンジンシステムにおいて、前記補機としてコンプレッサと当該コンプレッサにて圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と当該凝縮器にて凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と当該膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備える空調装置であって、
前記補機としての前記コンプレッサを複数備えると共に、一の前記コンプレッサに対応して一の前記従動プーリを備える形で複数の前記従動プーリを備え、
一の前記コンプレッサベルトが、前記原動プーリと複数の前記従動プーリとに対して掛けられるものであり、
前記スリップ関連値導出部が導出した前記スリップ関連値が、前記使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超える場合に、前記コンプレッサの合計出力を維持した状態で、複数の前記従動プーリのうち、前記コンプレッサベルトの回転方向で前記原動プーリを起点として前記原動プーリに近い側の前記従動プーリに対応する前記コンプレッサを停止させる形で、前記コンプレッサの運転台数を減少させるスリップ回避制御部を備える空調装置。
【請求項8】
前記スリップ回避制御部は、前記スリップ関連値導出部が導出した前記スリップ関連値が、前記使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超える場合に、前記エンジンの出力を維持した状態で、前記エンジンの回転数を上昇する回転数上昇制御を実行する請求項7に記載の空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトと一体回転する原動プーリと、補機の駆動軸と一体回転する従動プーリと、当該原動プーリ及び前記従動プーリに掛けられるコンプレッサベルトとを備えるエンジンシステム、及びそれを備えた空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクシャフトに固着される原動プーリと、補機の駆動軸に固着される従動プーリと、当該原動プーリ及び従動プーリに掛けられるコンプレッサベルトとを備えるエンジンシステムにおいて、エンジン回転数及びアクセル開度に基づくエンジンの運転状態を監視すると共に、当該運転状態がコンプレッサベルトのスリップが発生又は増加すると予測されるスリップ増加領域にあると判定した場合に、補機の出力値を減少する制御を実行する制御装置を備えたものが知られている(特許文献1を参照)。
当該構成を有するエンジンでは、コンプレッサベルトのスリップが発生又は増加した場合に、補機の出力値を減少することで、その後のスリップの発生及び増加を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特徴構成を有するエンジンでは、コンプレッサベルトのスリップが発生又は増加した場合に、補機の出力を下げる形でスリップを減少させるという制御をしているに留まり、当該コンプレッサベルトの交換指示等の管理指標の提示を含む種々の制御を実施するものではなく、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンプレッサベルトの管理指標の提示を含む種々の制御を実施できるエンジンシステム、及びそれを備えた空調装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのエンジンシステムは、
エンジンのクランクシャフトと一体回転する原動プーリと、補機の駆動軸と一体回転する従動プーリと、当該原動プーリ及び前記従動プーリに掛けられるコンプレッサベルトとを備えるエンジンシステムであって、その特徴構成は、
前記エンジンのエンジン出力を所定のスリップ関連値導出用出力に制御する出力制御部と、
前記出力制御部により前記エンジン出力を前記スリップ関連値導出用出力に制御している状態で、前記原動プーリと前記コンプレッサベルトの間のスリップ、及び前記従動プーリと前記コンプレッサベルトの間のスリップに関連するスリップ関連値を導出するスリップ関連値導出部と、
前記スリップ関連値導出部にて導出された前記スリップ関連値と、当該スリップ関連値の経時変化率と、所定のメンテナンス期間使用後の前記コンプレッサベルトの前記スリップ関連値としての使用後スリップ関連値とに基づいて、前記コンプレッサベルトの調整時点を推定する調整時期推定部とを備える点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、スリップ関連値導出部が、出力制御部によりエンジン出力をスリップ関連値導出用出力に制御している状態で、原動プーリとコンプレッサベルトの間のスリップ、及び従動プーリとコンプレッサベルトの間のスリップに関連するスリップ関連値を導出し、調整時期推定部が、スリップ関連値導出部にて導出されたスリップ関連値と、当該スリップ関連値の経時変化率と、所定のメンテナンス期間使用後のコンプレッサベルトのスリップ関連値としての使用後スリップ関連値とに基づいて、コンプレッサベルトの調整時点を推定するので、エンジンシステムの管理者に対して、コンプレッサベルトの管理指標としての調整時点を、調整が必要となる前から事前に知らしめることができ、スリップ率関連値としてのスリップ率が一定以上となって、使用に支障がきたすことになる前に、コンプレッサベルトのメンテナンス等の管理を実行して、エンジンシステムを良好な状態に保つことができる。
【0008】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記スリップ関連値導出部は、前記クランクシャフトの単位時間当たりの回転数を検出するエンジン回転数検出部による検出結果Neと、前記駆動軸の単位時間当たりの回転数を検出する補機回転数検出部の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sを前記スリップ関連値とする点にある。
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【0009】
上記特徴構成の如く、クランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数検出部による検出結果Neと、駆動軸の回転数を検出する補機回転数検出部の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、上述の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sをスリップ関連値として導出することで、誤差なく確実に、原動プーリと従動プーリとの間でおきるスリップの発生率としてのスリップ率Sを導出できる。
【0010】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記スリップ関連値導出部は、前記クランクシャフトの単位時間当たりの回転数を検出するエンジン回転数検出部による検出結果Neと、前記駆動軸の単位時間当たりの回転数を検出する補機回転数検出部の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sを導出し、前記スリップ率Sと、予め取得され記憶部に記憶された前記スリップ率Sと前記コンプレッサベルトの張力との対応関係とから導出される前記コンプレッサベルトの前記張力を、前記スリップ関連値とする点にある。
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【0011】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
上記特徴構成の如く、スリップ率Sと予め取得され記憶部に記憶されたスリップ率Sとコンプレッサベルトの張力との対応関係とから導出されるコンプレッサベルトの張力を、スリップ関連値として、コンプレッサベルトの調整時点を推定することもできる。
この場合、例えば、現時点でのコンプレッサベルトの張力も合わせて外部へ出力するようにしておくことで、管理者が、なじみのある張力に基づいて、コンプレッサベルトの状態の良し悪しを感覚的に判断することができる。
【0012】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記スリップ関連値導出部は、所定のスリップ率導出期間毎に前記スリップ率Sを導出するものであり、
前記調整時期推定部は、前記スリップ率導出期間よりも長い最大スリップ率抽出期間における最大の前記スリップ率Sを抽出し、抽出された最大の前記スリップ率Sの経時変化率に基づいて、前記コンプレッサベルトの前記調整時点を推定する点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、導出時点毎に誤差が生じるスリップ率Sに関し、最大スリップ率抽出期間において抽出された最大のスリップ率Sの経時変化率に基づいて、コンプレッサベルトの調整時点を推定するから、推定結果としての調整時点が、最も安全サイドで、即ち、早いタイミングに推定され、安全性の高い推定結果を得ることができる。
【0014】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記補機を複数備えると共に、一の前記補機に対応して一の前記従動プーリを備える形で複数の前記従動プーリを備え、
一の前記コンプレッサベルトが、前記原動プーリと複数の前記従動プーリとに対して掛けられるものであり、
前記補機回転数検出部は、複数の前記従動プーリのうち、前記コンプレッサベルトの回転方向で前記原動プーリを起点として前記原動プーリに最近接の前記従動プーリの単位時間当たりの回転数を前記検出結果Ncとして検出する点にある。
【0015】
通常、複数の従動プーリに対し、一のコンプレッサベルトを介して原動プーリから動力を加える場合、コンプレッサベルトの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリに最近接の従動プーリとコンプレッサベルトとの間での撓みが大きくなり摩擦抵抗が小さくなり易く、スリップがおきる可能性が高い。
上記特徴構成によれば、補機回転数検出部は、複数の従動プーリのうち、コンプレッサベルトの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリに最近接の従動プーリの単位時間当たりの回転数を検出結果Ncとして検出するから、スリップがおきる可能性が高い従動プーリと原動プーリとの間でのスリップ率を用いて、安全サイドで調整時点を推定できる。
【0016】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記コンプレッサベルトのメンテナンスとしての交換が実行された交換時点から所定の交換状態判定期間における前記スリップ関連値の経時変化率に基づいて、前記交換の適否を判定する交換判定部を備える点にある。
【0017】
コンプレッサベルトが交換された直後においては、コンプレッサベルトが新品のものに適切に交換された場合と、劣化品のコンプレッサベルトに交換された場合や正しく交換がされていなかった場合とを比較すると、スリップ関連値としてのスリップ率の経時変化率が異なる。
そこで、交換判定部は、当該スリップ率の経時変化率に基づいて交換の適否を判定することで、コンプレッサベルトが新品のものに適正に交換されたか否かを、良好に判定できる。
【0018】
上記目的を達成するための空調装置は、上述したエンジンシステムにおいて、前記補機としてコンプレッサと当該コンプレッサにて圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と当該凝縮器にて凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と当該膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備える空調装置であって、その特徴構成は、
前記補機としての前記コンプレッサを複数備えると共に、一の前記コンプレッサに対応して一の前記従動プーリを備える形で複数の前記従動プーリを備え、
一の前記コンプレッサベルトが、前記原動プーリと複数の前記従動プーリとに対して掛けられるものであり、
前記スリップ関連値導出部が導出した前記スリップ関連値が、前記使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超える場合に、前記コンプレッサの合計出力を維持した状態で、複数の前記従動プーリのうち、前記コンプレッサベルトの回転方向で前記原動プーリを起点として前記原動プーリに近い側の前記従動プーリに対応する前記コンプレッサを停止させる形で、前記コンプレッサの運転台数を減少させる点にある。
【0019】
通常、空調装置では、
図7に示すように、要求出力Wを少ない台数(
図7で1台)のコンプレッサで賄うことが可能であっても、効率向上等の関係で比較的多い台数(
図7で2台)で運転している場合が多い。
このような場合において、上記特徴構成によれば、スリップ関連値導出部が導出したスリップ関連値が、使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超えるときに、スリップ回避制御部が、運転台数を低減する制御を実行することで、コンプレッサベルトの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリに近い側の従動プーリに対応するコンプレッサを停止させてコンプレッサの運転台数を減少させることで(
図7でP2→P3)、コンプレッサベルトに撓みが生じてスリップが生じやすいコンプレッサを停止できるので、スリップ関連値を改善できる。
さらに、この場合、スリップ回避制御部R6による運転台数を低減する制御は、要求出力を賄う形で、スリップ関連値を改善させることができるので、空調装置の使用者の使用感が損なわれることを防止できる。
【0020】
空調装置の更なる特徴構成は、
前記スリップ回避制御部は、前記スリップ関連値導出部が導出した前記スリップ関連値が、前記使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超える場合に、前記エンジンの出力を維持した状態で、前記エンジンの回転数を上昇する回転数上昇制御を実行する点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、スリップ関連値導出部が導出したスリップ関連値が、使用後スリップ関連値をスリップがより発生し易い側へ超える場合に、エンジンの出力を維持した状態で、エンジンの回転数を上昇する回転数上昇制御が実行されるから、エンジンの出力が維持されて、空調装置の出力を所望の値に維持しつつも、回転数を上昇してトルクを低減することで、スリップ関連値をスリップが発生し難い方向へ調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係るエンジンシステム及び空調装置の概略構成図。
【
図2】クランクシャフトの軸方向視において、原動プーリ及び複数の従動プーリに対してコンプレッサベルトがけられている状態を示す図。
【
図3】正常取替状態でのスリップ率Sと総運転時間との関係を示すグラフ図。
【
図4】非正常取替状態でのスリップ率Sと総運転時間との関係を示すグラフ図。
【
図5】スリップ率Sとベルト張力との関係を示すグラフ図。
【
図6】ベルト張力と総運転時間との関係を示すグラフ図。
【
図7】コンプレッサの運転台数が1台の場合と、コンプレッサの運転台数が2台の場合とにおいて、スリップ率Sとコンプレッサ合計出力との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係るエンジンシステム100及びそれを備えた空調装置200は、コンプレッサベルトの管理指標の提示を含む種々の制御を実施できるものに関する。
以下、
図1~4、7に基づいて、当該実施形態に係るエンジンシステム100及び空調装置200について説明する。
【0024】
エンジンシステム100は、エンジン21のクランクシャフト22と一体回転する原動プーリ23と、補機24(24a、24b)の駆動軸25と一体回転する従動プーリ26(26a、26b)とに掛けられるコンプレッサベルトBと、当該エンジン21の出力を所定の出力に制御する出力制御部R2としての制御装置Rとを備えて構成されている。当該出力制御部R2は、スロットル弁(図示せず)の開度、及び燃料流量調整弁(図示せず)の開度等を制御して、エンジン21の出力を制御する。
以下、当該エンジンシステム100において、補機としてコンプレッサ24(24a、24b)を備えた空調装置200として、エンジン駆動式ヒートポンプ装置について説明する。
【0025】
〔空調装置200〕
空調装置200は、
図1に示すように、エンジン駆動式ヒートポンプ装置として構成されており、
図1に示すように、エンジン21により駆動されて冷媒を圧縮するコンプレッサ24(24a、24b)と、冷媒を凝縮させて放熱させる凝縮器(室内熱交換器43又は室外熱交換器45)と、冷媒を膨張する膨張弁44と、冷媒を蒸発させて吸熱させる蒸発器(室内熱交換器43又は室外熱交換器45)と、コンプレッサ24(当該実施形態では第1コンプレッサ24a及び第2コンプレッサ24b)と凝縮器(室内熱交換器43又は室外熱交換器45)と膨張弁44と蒸発器(室内熱交換器43又は室外熱交換器45)とに記載順に冷媒を循環する冷媒循環回路Lとから構成されている。
更に、冷媒循環回路Lには、室内熱交換器43を凝縮器として機能させ室外熱交換器45を蒸発器として機能させる暖房運転状態(
図1で実線で示す状態)と、室内熱交換器43を蒸発器として機能させ室外熱交換器45を凝縮器として機能させる冷房運転状態(
図1で点線で示す状態)とを切り替える四方弁46が設けられている。
即ち、四方弁46は、制御装置Rによる制御により、冷媒循環回路Lにおいて、コンプレッサ24(24a、24b)と室内熱交換器43との間の流路及び室外熱交換器45とコンプレッサ24(24a、24b)との間の流路における接続状態を切り替えることにより、冷房運転状態と暖房運転状態とを切り替えるように構成されている。
【0026】
さて、当該実施形態に係るエンジンシステム100及びそれを備えた空調装置200は、
図1に示すように、コンプレッサベルトBの管理指標の提示を含む種々の制御を実施するべく、出力制御部R2によりエンジン出力をスリップ関連値導出用出力に制御している状態で、原動プーリ23とコンプレッサベルトBの間のスリップ、及び従動プーリ26(第1コンプレッサ24aに対応する第1従動プーリ26a又は第2コンプレッサ24bに対応する第2従動プーリ26bの何れか一つ)とコンプレッサベルトBの間のスリップに関連するスリップ関連値を導出するスリップ関連値導出部R3と、スリップ関連値導出部R3にて導出されたスリップ関連値と、当該スリップ関連値の経時変化率と、所定のメンテナンス期間(例えば、10000時間以上15000時間以下程度の時間)使用後のコンプレッサベルトBのスリップ関連値としての使用後スリップ関連値とに基づいて、コンプレッサベルトBの調整時点を推定する調整時期推定部R4とを、制御装置Rとして備えている。
ここで、スリップ関連値導出用出力は、どのような値を採用しても構わないが、例えば、エンジン21の定格出力を採用できる。
【0027】
スリップ関連値導出部R3について、説明を加えると、スリップ関連値導出部R3は、
図1に示すように、クランクシャフト22の単位時間当たりの回転数を検出する第1回転数検出センサS1(エンジン回転数検出部の一例)の検出結果Ne、駆動軸25の単位時間当たりの回転数を検出する第2回転数検出センサS2(補機回転数検出部の一例)の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sをスリップ関連値として導出する。
【0028】
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【0029】
当該構成より、エンジンの実回転数のうち、コンプレッサの動力として用いられない回転数分の比率を、スリップ率Sとして正確に導出できる。
【0030】
尚、当該実施形態においては、第1回転数検出センサS1は、原動プーリ23の回転数を検出するよう配設されると共に、第2回転数検出センサS2は、従動プーリ26の回転数を検出するよう配設される。更に、以下、第2回転数検出センサS2の配設位置について説明を加える。
当該実施形態に係るエンジンシステム100及び空調装置200では、複数の補機としてのコンプレッサ24(当該実施形態では、第1コンプレッサ24aと第2コンプレッサ24bの2つ)を備えているが、通常、
図2に示すように、複数の従動プーリ26a、26bに対し、一のコンプレッサベルトBを介して原動プーリから動力を加える場合、コンプレッサベルトの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリに最近接の従動プーリとコンプレッサベルトとの間での撓みが大きくなり摩擦抵抗が小さくなり易く、スリップがおきる可能性が高い。
そこで、当該実施形態にあっては、第2回転数検出センサS2は、複数の従動プーリとしての第1従動プーリ26a、第2従動プーリ26bのうち、コンプレッサベルトBの回転方向(
図2で矢印X方向)で原動プーリ23を起点として原動プーリ23に最近接の従動プーリ(
図2では第2従動プーリ26b)の単位時間当たりの回転数を検出結果Ncとして検出するよう配設される。
【0031】
上述の如く、スリップ関連値導出部R3がスリップ率Sを導出すると、調整時期推定部R4は、
図3に示すように、スリップ率SとコンプレッサベルトBの交換後の総運転時間とのグラフ図におけるスリップ率Sの変化を示す式を導出する。
具体的には、
図3に示すように、総運転時間Taの場合のスリップ率Saと、総運転時間Tbの場合のスリップ率Sbとの2点を通る直線の式として、以下の〔式2〕を導出すると共に、当該〔式2〕のXに記憶部R1に記憶される既知の使用後スリップ関連値αを代入することで、コンプレッサベルトBの調整時点Yを推定する。即ち、Tb以降何時間経過後に基準の使用後スリップ関連値αに到達するのかに基づいて調整時点Yを求める。
【0032】
Y=Tb+(X-Sb)(Tb-Ta)/(Sb-Sa) 〔式2〕
【0033】
以上の構成により、コンプレッサベルトBの調整時点Yは推定されることになるが、コンプレッサベルトBが新品でない劣化品に交換されたり、適切な取り換えが行われなかったりする異常取替状態となった場合、そのような異常取替状態にあることを判定し、管理者に知らしめることが好ましい。
そこで、当該実施形態に係るエンジンシステム100及び空調装置200は、
図3、4に示すように、コンプレッサベルトBのメンテナンスとしての交換が実行された交換時点T0から所定の交換状態判定期間におけるスリップ率Sの経時変化率に基づいて、交換の適否を判定する交換判定部R5を備える。
即ち、交換判定部R5は、交換時点T0より後の時点におけるスリップ率Sの経時変化率が、記憶部R1に記憶されている正常取替状態における交換時点T0より後の所定の時点でのスリップ率の経時変化率を大きく超えている場合、異常取替状態であると判定し、図示しないモニタに異常取替状態にあることを表示する。
【0034】
さて、スリップ関連値導出部R3にて導出されたスリップ率Sは、所定の期間で平均化すると、
図3、4のように、総運転時間に比例して増加する値となる。しかしながら、短時間でみたときには、増減変化を繰り返すものとなっており、コンプレッサベルトBの調整時点に近づいてくると、調整時点の前であっても、使用後スリップ関連値αを一時的に超えるような場合も出てくる。
このような場合に備え、当該実施形態に係るエンジンシステム100及び空調装置200は、図示は省略するが、スリップ関連値導出部R3が導出したスリップ率Sが、使用後スリップ関連値αをスリップがより発生し易い側(スリップ関連値がスリップ率の場合、高い側)へ超える場合、第1コンプレッサ24a及び第2コンプレッサ24bの合計出力を維持した状態で、複数の従動プーリ26a、26bのうち、コンプレッサベルトBの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリ23に近い側の従動プーリ(
図2で26b)に対応する第2コンプレッサ24bを停止させる形で、コンプレッサの運転台数を減少させるスリップ回避制御部R6を備える。
当該スリップ回避制御部R6による制御を実行することにより、スリップ率Sを一時的に減少させることができる。
尚、スリップ回避制御部R6により、コンプレッサベルトBの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリ23に近い側の従動プーリ(
図2で26b)に対応する第2コンプレッサ24bを停止させている場合、補機回転数検出部は、コンプレッサベルトBの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリ23から遠い従動プーリ(
図2で26a)に対応する第2コンプレッサ24aの駆動軸25の回転数を検出して、スリップ関連値を導出することになる。
【0035】
より詳細に説明すると、通常、空調装置200では、
図7に示すように、要求出力Wを少ない台数(
図7で1台)のコンプレッサで賄うことが可能であっても、効率向上等の関係で比較的多い台数(
図7で2台)で運転している場合が多い。
このような場合において、スリップ回避制御部R6が、運転台数を低減する制御を実行することで(
図7でP2→P3)、コンプレッサベルトBに撓みが生じてスリップが生じやすい第2コンプレッサ24bを停止できるので、スリップ率Sを改善できる。
さらに、この場合、スリップ回避制御部R6による運転台数を低減する制御は、要求出力Wを賄う形で、スリップ率Sを改善させることができるので、空調装置200の使用者の使用感が損なわれることを防止できる。
【0036】
尚、一時的にスリップ率Sを低減させる場合、スリップ回避制御部R6は、スリップ率Sが、使用後スリップ関連値αをスリップがより発生し易い側へ超える場合に、エンジン21の出力を維持した状態で、エンジン21の回転数を上昇する回転数上昇制御を実行しても構わない。これにより、コンプレッサの合計出力を維持しつつも、トルクを低減できるので、スリップ率Sを一時的に低減できる可能性がある。
【0037】
ここで、運転台数を減少させたときに減少させたコンプレッサ24の運転台数にて、要求出力Wを賄えない場合、運転台数を減少させずに夫々のコンプレッサ24での出力を低減させる形(
図7でP1→P2)で、スリップ率Sを低減しても構わない。
【0038】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、補機として空調装置200のコンプレッサを例示したが、他の機器を用いてもよい。
例えば、補機として、自動車の車輪等を採用でき、車輪の回転軸と一体的に設けられる従動プーリと、原動プーリとに、コンプレッサベルトをかける構成を採用しても構わない。
【0039】
(2)上記実施形態では、出力制御部R2は、エンジン21のスロットル弁の開度、燃料流量調整弁の開度を制御してエンジンを所定の出力に調整しつつ、エンジン21のスロットル弁の開度、燃料流量調整弁の開度からエンジン出力を算出する構成例を示した。
ここで、エンジンシステム100がコンプレッサ24とは別に発電機(図示せず)を有する場合は、上記算出されたエンジン出力から当該発電機の駆動に要する動力を差し引いた値を用いて、上述の各種制御を実行することになる。
【0040】
また、出力制御部R2は、エンジン21のスロットル弁の開度、燃料流量調整弁の開度からエンジン出力を推定する構成例を示したが、空調装置200の如く、ヒートポンプ回路を備える場合には、当該冷媒循環回路Lにおける冷媒圧力、冷媒温度、コンプレッサ回転数、及び冷媒のエンタルピーからエンジン21の出力を推定する構成を採用しても構わない。
【0041】
(3)スリップ関連値導出部R3は、所定のスリップ率導出期間(例えば、単位時間としての1秒)毎にスリップ率Sを導出するものである場合に、調整時期推定部R4は、スリップ率導出期間よりも長い最大スリップ率抽出期間における最大のスリップ率Sを抽出し、抽出された最大のスリップ率Sに基づいて、コンプレッサベルトの調整時点を推定するように構成しても構わない。
【0042】
(4)上記実施形態では、スリップ関連値をスリップ率Sとして種々の制御を実行したが、スリップ関連値をベルト張力としても構わない。
即ち、スリップ関連値導出部R3は、クランクシャフト22の単位時間当たりの回転数を検出する第1回転数検出センサS1の検出結果Ne、駆動軸25の単位時間当たりの回転数を検出する第2回転数検出センサS2の検出結果Ncと、プーリー比rとを用いて、下記の〔式1〕にて導出されるスリップ率Sを導出し、スリップ率Sと、予め取得され記憶部R1に記憶されたスリップ率Sとコンプレッサベルトの張力との対応関係(
図5に図示)とから導出されるコンプレッサベルトの張力を、スリップ関連値としても構わない。
【0043】
S=(Ne×r-Nc)/(Ne×r)×100 〔式1〕
【0044】
例えば、
図5において、スリップ関連値導出部R3がスリップ率Sを導出した時点でのエンジン21の出力(中)の場合、スリップ率Sbに対応するベルト張力BTcがスリップ関連値とされる。
【0045】
この場合、調整時期推定部R4は、
図6に示すように、ベルト張力BTとコンプレッサベルトBの交換後の総運転時間Tとのグラフ図におけるベルト張力BTの変化を示す式を導出する。
ここで、ベルト張力BTは、交換から所定時間ΔT(例えば、スリップ率の変化が小さくなるまでの時間)経過後には、時間経過に伴って、線形的に減少すると近似する。
具体的には、
図6に示すように、総運転時間Taの場合のベルト張力BTaと、総運転時間Tbの場合のベルト張力BTbとの2点を通る直線の式として、以下の〔式3〕を導出すると共に、当該〔式3〕のXに記憶部R1に記憶される既知の使用後ベルト張力関連値βを代入することで、コンプレッサベルトBの調整時点Yを推定する。即ち、Tb以降何時間経過後に基準の使用後ベルト張力関連値βに到達するのかに基づいて調整時点Yを求める。
【0046】
Y=Tb+(BTb-X)(Tb-Ta)/(BTa-BTb) 〔式3〕
【0047】
(5)上記実施形態に係るエンジンシステム100及び空調装置200は、スリップ回避制御部R6は、スリップ関連値導出部R3が導出したスリップ率Sが、使用後スリップ関連値αをスリップがより発生し易い側(スリップ関連値がスリップ率の場合、高い側)へ超える場合、第1コンプレッサ24a及び第2コンプレッサ24bの合計出力を維持した状態で、複数の従動プーリ26a、26bのうち、コンプレッサベルトBの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリ23に近い側の従動プーリ(
図2で26b)に対応する第2コンプレッサ24bを停止させる形で、コンプレッサの運転台数を減少させる構成例を示した。
当該構成に限らず、スリップ回避制御部R6は、スリップ関連値導出部R3が導出したスリップ率Sが、使用後スリップ関連値αをスリップがより発生し易い側(スリップ関連値がスリップ率の場合、高い側)へ超える場合、第1コンプレッサ24a及び第2コンプレッサ24bの合計出力を維持した状態で、複数の従動プーリ26a、26bのうち、コンプレッサベルトBの回転方向で原動プーリを起点として原動プーリ23から遠い側の従動プーリ(
図2で26b)に対応する第2コンプレッサ24bを停止させる形で、コンプレッサの運転台数を減少させる構成を採用しても構わない。
【0048】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のエンジンシステム、及びそれを備えた空調装置は、コンプレッサベルトの管理指標の提示を含む種々の制御を実施できるエンジンシステム、及びそれを備えた空調装置として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
21 :エンジン
22 :クランクシャフト
24 :補機
25 :駆動軸
26 :従動プーリ
44 :膨張弁
100 :エンジンシステム
200 :空調装置
B :コンプレッサベルト
BT :ベルト張力
L :冷媒循環回路
R :制御装置
R2 :出力制御部
R3 :スリップ関連値導出部
R4 :調整時期推定部
R5 :交換判定部
R6 :スリップ回避制御部
S1 :第1回転数検出センサ
S2 :第2回転数検出センサ
T :総運転時間
T0 :交換時点
Y :調整時点
r :プーリー比
α :使用後スリップ関連値
β :使用後スリップ関連値