(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ALK-1およびBMPR-2に結合する二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240209BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240209BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240209BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240209BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240209BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
G01N33/53 N
C12N15/62 Z
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020524299
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2018079333
(87)【国際公開番号】W WO2019086331
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-29
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】313006625
【氏名又は名称】バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー,エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】メディング,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ソーラー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】グリュック,ジュリアン・マリウス
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0298093(US,A1)
【文献】特表2012-531439(JP,A)
【文献】特表2011-508875(JP,A)
【文献】特表2015-510764(JP,A)
【文献】国際公開第2011/116212(WO,A2)
【文献】特表2017-521074(JP,A)
【文献】特表2011-503088(JP,A)
【文献】PathHunter(R) Receptor Dimerization Assay,コスモ・バイオ株式会社[online],2015年06月29日,URL:https://web.archive.org/web/20150629164606/https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/receptor-dimerization-assays.asp?entry_id=14055,[retrieved on 8.26.2022]
【文献】David L. et al.,Identification of BMP9 and BMP10 as functional activators of the orphan activin receptor-like kinase 1 (ALK1) in endothelial cells,Blood,2007年,Vol. 109,pp. 1953-1961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの結合ドメインを含む二重特異性抗体(BsAB)であって、ここで、第1結合ドメインがALK-1に特異的であり、そして、第2結合ドメインがBMPR-2に特異的であり、
ここで、前記BsABがALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進し、
そしてここで、前記BsABが標的細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有する、
二重特異性抗体(BsAB)。
【請求項2】
ALK-1がヒトALK-1またはALK-1の細胞外ドメインであり、そして、BMPR-2がヒトBMPR-2またはBMPR-2の細胞外ドメインである、請求項1記載のBsAB。
【請求項3】
前記標的細胞が内皮細胞である、請求項
1又は2に記載のBsAB。
【請求項4】
前記BsABが、BsABのEC50が、ALK-1およびBMPR-2の二量体化を検出するための適切なアッセイにおいて決定されうるように、ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進する、請求項1~
3のいずれか1項記載のBsAB。
【請求項5】
前記BsABの有効量がSMAD1および/またはSMAD5のリン酸化を促進する、請求項1~
4のいずれか1項記載のBsAB。
【請求項6】
治療における使用のための、請求項1~
5のいずれか1項記載のBsABの適合性を試験するための方法であって、該方法は、
(i)ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析
し、そして
(ii)適合するものとしてBsABを選択する、ことを含み、
ここで、BsABは、工程(i)に従い決定されるALK-1およびBMPR-2の二量体化を少なくとも
促進する、
方法。
【請求項7】
治療における使用のための、請求項1~
5のいずれか1項記載のBsABの適合性を試験するための方法であって、該方法は、
(i)ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、
そして
(ii)
ALK-2およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、そして
(iii)適合するものとしてBsABを選択する、ことを含み、
ここで、BsABは、工程(i)に従い決定されるALK-1およびBMPR-2の二量体化を少なくとも促進し、そし
て、工程(ii)に従い決定されるALK-2およびBMPR-2の二量体化を促進しない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトALK-1およびヒトBMPR-2に結合する二重特異性抗体に関する。また、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達のアゴニストであるBsAB、および骨形成シグナル伝達を誘発しないBsABも提供する。更に、本発明は、特に肺高血圧の治療のための、BsABの医薬的使用に関する。また、例えば肺高血圧の治療における使用のためのBsABをスクリーニングするための方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
血管疾患は内皮細胞の機能不全によって引き起こされる。種々の要因により、内皮細胞はサイトカインおよびケモカインの分泌を開始し、その表面上に接着分子を発現する。それにより、白血球(単球、顆粒球およびリンパ球)が動員され、これは血管壁に浸潤しうる。
【0003】
平滑筋細胞層のサイトカイン刺激および白血球の動員は平滑筋細胞を増殖させ、血管の管腔へと移動させて、血管壁の肥厚およびプラーク形成を生じさせる。
【0004】
プラークは血流を阻害し、標的器官における酸素および栄養素の量を減少させる。最終的に、プラークは、破裂すると、血餅形成および脳卒中をも引き起こしうる。
【0005】
肺高血圧(PH)およびその下位範疇である肺動脈高血圧(PAH)は、肺の血管に悪影響を及ぼす生命を脅かす疾患である。
【0006】
PHは多様な病因および病態形成の血行力学的異常であり、その診断および治療の両方が医師にとって難題である。PHは、右心カテーテル法で測定された25mmHg以上の安静時平均肺動脈圧によって臨床的に定義される。予後は不良であり、特別な治療を行わなければ、1年、3年および5年生存率は、それぞれ、68、48および34%である。
【0007】
PHは、不可逆的なリモデリングに関連した、前毛細血管肺動脈の狭窄によって特徴づけられる。生じる肺動脈圧上昇は右心室肥大を引き起こし、最終的には右心不全による死を招く。
【0008】
肺動脈内皮細胞および平滑筋細胞(SMC)の過剰増殖は肺動脈高血圧(PAH)における肺動脈内皮細胞機能不全の結果の1つである。前毛細血管肺動脈の狭窄の結果として、前毛細血管肺高血圧が生じ、肺血管抵抗の上昇(すなわち、25mmHg以上の平均肺動脈圧)が生じる。また、PAHは、15mmHg以下の正常肺動脈楔入圧および240dyn×s×cm-5を超える肺血管抵抗によって定義される。最初は、PAHは主に若い女性を冒す疾患であると考えられていた。しかし、ドイツにおいてPAHと診断された患者の平均年齢は着実に増加しており、現在、平均年齢は65歳である(Hoeper,MMら,Dtsch Arztebl Int(2017)114:73-84)。PAHにおいては、肺動脈のリモデリングは血管抵抗の増加および肺血圧の増加につながる。肺動脈圧の増加は右心室肥大を引き起こし、最終的には右心不全による死亡を招く。
【0009】
PAHの症状には、息切れ、失神、疲労、胸痛、脚の腫張および頻脈が含まれる。
【0010】
治療はタイプに左右され、すなわち、PHが動脈性、静脈性、低酸素性、血栓塞栓性またはその他のいずれであるかに左右される。ほとんどの治療は、利尿薬、ジゴキシン、血液希釈剤の適用による、または僧帽弁もしくは大動脈弁の修復/置換による左心室機能の最適化を目的としている。種々の治療アプローチは肺動脈の弛緩(Caアンタゴニスト、ETアンタゴニスト、PDE Vインヒビター、sGC刺激物質など)による血圧の低下に基づいている。したがって、ほとんどの利用可能な治療法は対症療法であり、全体的な予後は依然として不良である。
【0011】
結果として、抗リモデリング薬の提供が長年要望されている。更に、血行力学的に中性の抗リモデリング薬が、血圧降下に基づく治療アプローチと組合せて適用可能でありうる。
【0012】
遺伝学的研究に基づいて、内皮細胞における骨形成タンパク質(BMP)受容体タイプII(BMPR-2)シグナル伝達の障害がPAHの病理生物学において重要な役割を果たすことが示唆されている。BMP経路における他のPAH変異も同様に記載されている。BMPR-2の変異が遺伝性PAHの70%および特発性PAHの10~40%で見られるが(Ma&Chung,2014,Human Genetics)、300個を超える、BMPR-2の機能喪失変異がPAH患者において特定されている。BMP経路における他の変異には、ALK-1、SMAD9およびENGにおける変化が含まれる。最近、小児PAH患者において新たなBMP-9変異が特定された(Wangら,2016,BMC Pulmonary Medicine)。
【0013】
幾つかの動物モデル、例えば、遺伝的BMPR-2変異マウスモデル並びにSugen(スーゲン)/低酸素症(Hypoxia)ラットモデルにおいて、BMP-9がPAHを回復させることが示されている(Longら,Nat Med.2015 Jul;21(7):777-85)。例えば、右心室収縮期血圧(RVSP)および血管筋肉化が遺伝的マウスモデルにおいては上昇し、そして、75ngのBMP-9を4週間毎日腹腔内(i.p.)注射することにより逆転することが判明した。BMP-9は更に、内皮細胞アポトーシスを予防し、内皮透過性を低下させることが記載されている(Longら,Nat Med.2015 Jul;21(7):777-85)。外因性BMP-9の投与は、幾つかのげっ歯類の疾患モデルにおいて、内皮BMPR-2シグナル伝達を増強し、PAHを逆転させることが示されている。
【0014】
したがって、対応する好ましいリガンドであるBMP-9とのBMPR-2/ALK-1シグナル伝達複合体は、リモデリング薬を構築するための潜在的な治療標的であると仮定された。BMPR-2/ALK-1ヘテロ四量体複合体のシグナル伝達を回復または増強するための1つの選択肢は、組換えBMP-9または組換えデザイナー(designer)BMP-9の適用である。
【0015】
BMP-9(GDF-2、増殖分化因子2)はTGFベータファミリーに属する。TGFベータスーパーファミリーは以下の3つの異なるサブファミリーを含む:アクチビン、TGFベータおよび骨形態形成/増殖分化因子タンパク質(BMP/GDF)。BMP-9(GDF2)に加えて、BMPの他のメンバーは、例えば、BMP-2、BMP-3(オステオゲニン)、BMP-3b(GDF-10)、BMP-4(BMP-2b)、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-8b、BMP-10、BMP-11(GDF11)、BMP-12、BMP-13、BMP-14およびBMP-15を含む。
【0016】
BMPの別名は、骨形成タンパク質(OP)、増殖分化因子(GDF)または軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)を含む。BMPは、最初は骨および軟骨組織の形成への関与に基づいて特定されたが、種々の細胞および発生過程を制御することが判明した(Vargaら,2005;Oncogene 24:5713-5721;Miyazonoら,2010,J Biochem.147:35-51)。これらの過程には、胚パターン形成および組織の特殊化、創傷治癒および組織修復過程が含まれる。このファミリーのメンバーは、胚組織と成体組織との両方における細胞の増殖および分化の調節因子である。げっ歯類の研究は、成体の肝臓における、およびコリン作動性中枢神経系ニューロンの分化におけるBMP-9の役割を示唆している。
【0017】
BMPシグナル伝達の第1段階は、2つのI型および2つのII型セリン/スレオニンキナーゼ受容体へのBMP二量体の結合である。II型受容体はI型受容体の非存在下でリガンドに結合するが、シグナル伝達のためにはそれらのそれぞれのI型受容体を要する。これとは対照的に、I型受容体は、リガンドの結合のために、それらのそれぞれのII型受容体を要する。I型受容体は、ALK-1、ALK-2(ACVR1A)、ALK-3(BMPR1A)およびALK-6(BMPR1B)を含む。II型受容体は、ActRlla、ActRllbおよびBMPR-2(BMPR-II)を含む。BMPの結合後、リン酸化カスケードが開始され、ここで、II型受容体がI型受容体をリン酸化し、そして、I型受容体がSMADファミリーメンバーをリン酸化する。SMADは転写因子のファミリーであり、活性化されると核に移行し、そこで、それぞれの標的遺伝子の発現を制御する。BMP-9は、SMAD1およびSMAD5のリン酸化を誘発すると記載されている。
【0018】
BMPは、更に切断されて7つの保存されたシステイン残基を含む成熟タンパク質を放出する多塩基性タンパク質分解プロセシング部位により特徴づけられる。BMP-9は、シグナルペプチドおよびプロドメインを伴って合成される。BMP-9は、ホモ二量体化に際してコンバターゼによってその活性形態へと切断される。他のBMPとは対照的に、プロ領域は、活性に影響を及ぼすことなく成熟タンパク質に堅く結合したままでありうる。BMP-9は、その最も近い近縁体であるBMP-10に対してアミノ酸レベルで60%の同一性を有する。BMP-9およびBMP-10は共に、内皮細胞上のBMPR-2受容体複合体に選択的に結合してそれを活性化する、血液中を循環するリガンドの代表例である。
【0019】
BMPR-2およびALK-1は主に内皮細胞上で発現され、それらのリガンドであるBMP-9に対する受容体複合体を形成する。BMPR-2変異またはBMPR-2サイレンシングは、インビトロおよびインビボで内皮透過性を増加させることが判明している(Burtonら,2010,Vasc.Biol.)。同様に、TNFα誘導性アポトーシスおよびLPS誘導性透過性は、BMPR-2変異血液増殖内皮細胞(BOEC)において増加するが、BMP-9治療によって低減されうる(Longら,Nat Med.2015 Jul;21(7):777-85)。
【0020】
ALK-1/BMPR-2複合体を活性化するための、天然リガンドBMP-9の未修飾変異体および修飾変異体が記載されている(WO2016/005756およびLongら,2015 doi:10.1038/nm.3877)。しかし、BMP-9またはその変異体(例えば、WO2016/005756を参照されたい)の適用は、幾つかの欠点を有する。治療状況におけるBMP-9置換療法の欠点は、i)短い半減期、ii)高い免疫原性リスク、iii)開発における低収率および難題、および、iv)骨形成活性による潜在的な副作用を含む。
【0021】
骨形成タンパク質(BMP)は、骨形成、オステオカルシン誘導およびマトリックス石灰化を含む骨形成活性を促進することが公知である。天然BMP-9およびBMP-9のほとんどの合成変異体は、インビボで投与されると骨形成シグナル伝達および骨形成を開始させうる。理論により束縛されるものではないが、ALK-2を介したBMP-9シグナル伝達がこの骨形成活性に関与していると仮定されている。BLASTアルゴリズムを使用したALK-1およびALK-2の配列のアラインメントは60%未満の配列同一性を示す。
【発明の概要】
【0022】
概要
第1の態様において、本発明は二重特異性抗体(BsAB)を提供し、ここで、前記抗体は2つの結合ドメインを含み、第1結合ドメインはヒトALK-1に特異的であり、そして、第2結合ドメインはヒトBMPR-2に特異的である。
【0023】
本発明によるBsABは、通常ALK-1/BMPR-2複合体の天然リガンドであるBMP-9またはその変異体より長い半減期により特徴づけられる。更に、本発明によるBsABは、高収率で製造されうる。アフィニティはBMP-9およびその変異体の場合より良好に得られ、なぜなら、BsABまたはその結合ドメインは容易に成熟可能であり、あるいは最適化結合能を有する結合体を検出するためにスクリーニング法が用いられうるからである。BsABの場合、各結合部位は個別に最適化されうる。最後に、例えば遺伝的欠損による機能的なBMP-9シグナル伝達の非存在下でさえも、抗体アプローチは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達カスケードを尚もレスキューしうるであろう。
【0024】
第1の態様による好ましい実施形態においては、ALK-1はヒトALK-1もしくはその断片であり、および/またはBMPR-2はヒトBMPR-2もしくはその断片である。第1の態様による幾つかの好ましい実施形態においては、二重特異性抗体またはその少なくとも一部はモノクローナルである。特定の実施形態においては、抗体またはその少なくとも一部はキメラ体またはヒト化体または完全ヒト体である。
【0025】
第2の態様においては、本発明は、標的細胞、例えば内皮細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有する二重特異性抗体を含む。
【0026】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有するBsABは、血管透過性を低下させることにより、血管筋肉化を元に戻し、および肺内皮細胞のバリア機能を回復させる、より高い可能性を有する。
【0027】
第2の態様による好ましい実施形態においては、BsABはALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進し、これは、例えば、U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系を使用するPathHunter二量体化アッセイにおいて示されうる。
【0028】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABのもう1つの好ましい実施形態においては、本発明による二重特異性抗体のEC50はBMP-9のEC50以上である。
【0029】
第2の態様による好ましい実施形態においては、BsABの有効量はSMAD1および/またはSMAD5のリン酸化を促進する。
【0030】
第2の態様による好ましい実施形態においては、前記抗体の有効量は内皮細胞のアポトーシス指数を低下させる。
【0031】
本発明の第3の態様においては、第1の態様による抗体または第2の態様による抗体は、rhBMP-9より低い骨形成活性を有する。
【0032】
rhBMP-9より低い骨形成活性を有するBsABは、副作用として骨形成を誘導する、より低いリスクを有する。
【0033】
特に好ましい実施形態においては、前記BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、そしてここで、前記BsABのEC50は、rhBMP-9のEC50より低い骨形成活性を有し、または骨形成活性を有さない、前記態様のいずれかによるBsABを提供する。
【0034】
特に好ましい実施形態においては、前記BsABは2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインがALK-1に特異的であり、第2結合ドメインがBMPR-2に特異的であり、そしてここで、前記BsABがALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、そしてここで、前記BsABのEC50が、rhBMP-9のEC50より低い骨形成活性を有し、または骨形成活性を有さない、BsABを提供する。
【0035】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有するが、rhBMP-9より低い骨形成活性を有する、および/または骨形成活性を有さないBsABは、内皮機能障害を回復させ、右室収縮期血圧(RVSP)を低下させ、および/またはPAHを回復させる可能性が高い。
【0036】
骨形成タンパク質(BMP)は骨形成を促進することが知られている。ヒトBMP-9、BMP-9変異体、およびデザイナーBMP-9、例えば変異BMP-9型は、ALK-2シグナル伝達を介して骨形成活性を誘発する可能性が高いのに対し、ALK-1/BMPR-2受容体複合体のみを特異的に標的化するBsABでは、これとは異なる。本発明の抗体では、ALK-1(およびBMPR-2)に対するその真の特異性ゆえに、ALK-2を介したシグナル伝達の誘導は起こりそうになく、更に特定のアッセイによって容易に排除されうる。
【0037】
第3の態様による好ましい実施形態においては、第2の態様によるBsABは、EC50のrhBMP-9で処理されたC2C12細胞が、同じ濃度のBsABで処理された又はEC50のBsABで処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有することにより特徴づけられる。
【0038】
本発明は、更に医薬品としての使用のためのBsAB、並びに血管疾患または肺高血圧の治療における使用のためのBsABを提供する。幾つかの実施形態において、血管疾患または肺高血圧の治療における使用は、対象の少なくとも1つの標的細胞において、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達を増強またはレスキュー(救済)することを含む。幾つかの実施形態において、前記の少なくとも1つの標的細胞は、内皮細胞、例えば肺内皮細胞である。幾つかの実施形態において、対象はヒトまたは哺乳動物である。幾つかの実施形態において、PHはPAHである。
【0039】
更に、本明細書に記載されているBsABと薬学的に許容されるビヒクルとの両方を含む医薬組成物を提供する。
【0040】
また、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に関してBMP-9に類似しているが、骨形成の誘導に関してはBMP-9とは異なるプロファイルを有するBsABをスクリーニングするための方法も提供する。特に、治療、例えば肺高血圧の治療における使用のためのBsABの適合性を試験するための方法を提供し、該方法は、(i)ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性を評価する工程、および所望により、(ii)BsABの骨形成活性を評価する工程を含む。
【0041】
詳細な説明
定義
特に定められていない限り、明細書、図面および特許請求の範囲において用いる全ての他の科学技術用語は、当業者によって一般に理解されているそれらの通常の意味を有する。本明細書中で挙げられている全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献の全体を、参照により本明細書に組み入れることとする。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。参照により組み入れる2以上の文書が、互いに矛盾および/または相反する開示を含む場合、より遅い有効日を有する文書が優先されるものとする。材料、方法および例(実施例)は単なる例示にすぎず、限定的なものではない。
【0042】
特に示されていない限り、明細書および特許請求の範囲を含む本文書において用いる以下の用語は、以下に示す定義を有する。
【0043】
本明細書で用いる「約」なる語は、当業者によって決定される個々の値の許容誤差範囲内にある値を指し、これは、部分的には、該値がどのようにして測定または決定されるか、すなわち、測定系の限界に左右される。例えば、「約」は、当技術分野における慣例に従い、1以上の標準偏差を意味しうる。「約」なる語は、問題の量または値が示された値またはほぼ同じである何らかの他の値でありうることを示すためにも用いられる。この語は、類似した値が本明細書に記載されているのと同等の結果または効果を促進することを伝えることを意図している。この文脈においては、「約」は最大10%上下の範囲を意味しうる。「約」なる語が特定のアッセイまたは実施形態に関して明記されている場合は常に、その定義がその個々の文脈で優先される。
【0044】
「含む」、「包含する」、「含有する」、「有する」などの語は、限定的ではなく開放的または無制限(オープエンド)に解釈されるものとする。単数形は、文脈に明らかに矛盾しない限り、複数対象物を含む。したがって、例えば、「BsAB」に対する言及は、単一のBsABだけでなく、同じまたは異なる複数のBsABをも含む。同様に「細胞」に対する言及は、単一の細胞および複数の細胞を含む。
【0045】
特に示されていない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」なる語は一連の全ての要素を指すと理解されるべきである。「少なくとも1つ」および「の少なくとも1つ」なる語は、例えば、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つ以上の要素を含む。更に、示されている範囲の上下の僅かな変動が、該範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するために用いられうると理解される。また、特に示されていない限り、範囲の開示は、最小値と最大値との間の全ての値を含む連続範囲と意図される。
【0046】
「抗体」なる語は、限定的なものではないが免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgE、IgA)およびその抗原結合性フラグメントを含み、それは、免疫グロブリン様機能を有する任意のタンパク質性結合性分子をも含む。抗体フラグメントは一般に、抗原結合または可変領域を含有する。(組換え)抗体フラグメントの例としては、免疫グロブリンフラグメント、例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、ジアボディ(diabody)またはドメイン抗体である(Holt,L.J.ら,Trends Biotechnol.(2003),21,11,484-490)。免疫グロブリン様機能を有するタンパク質性結合性分子の一例は、リポカリンファミリーのポリペプチドに基づくムテインである(WO 03/029462,Besteら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1999)96,1898-1903)。リポカリン、例えばビリン結合性タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ヒトアポリポタンパク質Dまたはグリコデリンは、ハプテンとして公知の選択された小さなタンパク質領域に結合するように修飾されうる天然リガンド結合部位を有する。他のタンパク質性結合性分子の例としては、いわゆるグルボディ(例えば、国際特許出願WO 96/23879またはNapolitano,E.W.ら,Chemistry & Biology(1996)3,5,359-367)、アンキリン・スカフォールド(Mosavi,L.K.ら,Protein Science(2004)13,6,1435-1448)または結晶スカフォールド(例えば、国際特許出願WO 01/04144)、Skerra,J.Mol.Recognit.(2000)13,167-187に記載されているタンパク質、アドネクチン、テトラネクチンおよびアビマーである。アビマーは、幾つかの細胞表面受容体における一連の複数ドメインとして生じる、いわゆるAドメインを含有する(Silverman,J.ら,Nature Biotechnology(2005)23,1556-1561)。ヒトフィブロネクチンのドメインに由来するアドネクチンは、標的への免疫グロブリン様結合のために操作されうる3つのループを含有する(Gill,D.S.& Damle,N.K.,Current Opinion in Biotechnology(2006)17,653-658)。それぞれのヒトホモ三量体タンパク質に由来するテトラネクチンは、同様に、所望の結合のために操作されうるC型レクチンドメインにおけるループ領域を含有する(同誌)。タンパク質リガンドとして機能しうるペプトイドは、アルファ炭素原子ではなくアミド窒素に側鎖が結合している点でペプチドとは異なるオリゴ(N-アルキル)グリシンである。ペプトイドは、典型的には、プロテアーゼおよび他の修飾酵素に対して抵抗性であり、ペプチドより遥かに高い細胞透過性を有しうる(例えば、Kwon,Y.-U.およびKodadek,T.,J.Am.Chem.Soc.(2007)129,1508-1509)。
【0047】
抗体または抗体フラグメントは、合成法または組換え法により製造されうる。抗体を製造するためには多数の技術が利用可能である。例えば、抗体を製造するためにファージ抗体技術が使用されうる(Knappikら,J.Mol.Biol.296:57-86,2000)。抗体を得るためのもう1つのアプローチは、WO 91/17271およびWO 92/01047に記載されているとおり、B細胞からのDNAライブラリーをスクリーニングすることである。これらの方法においては、メンバーがその外表面上に異なる抗体を提示するファージのライブラリーが製造される。抗体は通常、FvまたはFabフラグメントとして提示される。ファージ提示抗体は、選択されたタンパク質への結合のためのアフィニティ濃縮により選択される。また、抗体はトリオーマ法を用いて製造されうる(例えば、Oestbergら,Hybridoma 2:361-367,1983;米国特許第4,634,664号;米国特許第4,634,666号)。
【0048】
抗体は、抗体をコードする発現構築物でトランスフェクトされた宿主細胞を含む、抗体を発現する任意の細胞からも精製されうる。宿主細胞は、抗体が発現される条件下で培養されうる。精製された抗体は、当技術分野でよく知られた方法を用いて、細胞内の抗体と結合しうる他の細胞成分、例えば、あるタンパク質、炭水化物または脂質から分離されうる。そのような方法には、サイズ排除クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム分画、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーおよび分取ゲル電気泳動が含まれるが、これらに限定されるものではない。調製物の純度は、当技術分野で公知の任意の手段、例えばSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により評価されうる。精製された抗体の調製物は複数の抗体型を含有しうる。
【0049】
あるいは、本発明による抗体は、そのアミノ酸配列を合成するための化学法を用いて、例えば、固相技術を用いる直接ペプチド合成(例えば、Merrifield,J.Am.Chem.Soc.85:2149-2154,1963;Robergeら,Science 269:202-204,1995)により製造されうる。タンパク質合成は、手動技術を用いてまたは自動化により行われうる。所望により、抗体のフラグメントを別々に合成し、化学法を用いて合体させて全長分子を得ることが可能である。
【0050】
本明細書中で用いる「Fcドメイン」または「Fc領域」なる語は、定常領域の少なくとも一部を含有する抗体重鎖のC末端領域を意味する。この用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。例えば、ヒトIgG重鎖Fc領域は重鎖のCys226またはPro230から重鎖のカルボキシル末端まで伸長しうる。
【0051】
免疫グロブリンはモノクローナルまたはポリクローナルでありうる。「ポリクローナル」なる語は、例えば抗原またはその抗原機能的誘導体で免疫化された動物の血清に由来する、免疫グロブリン分子の不均一集団である免疫グロブリンを意味する。ポリクローナル免疫グロブリンの製造のためには、種々の宿主動物の1以上が抗原の注射により免疫化されうる。宿主種に応じて、免疫学的応答を増強するために種々のアジュバントが使用されうる。
【0052】
「モノクローナル免疫グロブリン」は「モノクローナル抗体」とも称され、特定の抗原に対する免疫グロブリンの実質的に均一な集団である。それらは、培養内の連続細胞系による免疫グロブリン分子の産生をもたらす任意の技術により得られうる。モノクローナル免疫グロブリンは、当業者によく知られた方法により得られうる(例えば、Kohlerら,Nature(1975)256,495-497および米国特許第4,376,110号を参照されたい)。特異的結合アフィニティを有する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、原核生物または真核生物から、単離、富化(濃縮)または精製されうる。当業者に公知の通常の方法は、原核生物および真核生物の両方において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントおよび免疫グロブリン様機能を有するタンパク質性結合性分子の両方の製造を可能にする。
【0053】
本発明による「二重特異性抗体」なる語は、少なくとも二重特異性である抗体構築物を意味し、すなわち、該構築物は、少なくとも、第1結合ドメインおよび第2結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインは1つの標的または抗原(ここではALK-1)に結合し、そして、第2結合ドメインは別の抗原または標的(ここではBMPR-2)に結合する。したがって、本発明による抗体構築物は、少なくとも2つの異なる抗原または標的に対する特異性を含む。本発明による二重特異性抗体構築物は、複数の結合ドメイン/結合部位を含む多重特異性抗体構築物、例えば、構築物が3つの結合ドメインを含む三重特異性抗体構築物をも含む。
【0054】
二重特異性抗体形態には、IgG様抗体および非IgG様抗体が含まれる(Fanら(2015)Journal of Hematology&Oncology.8:130)。IgG様抗体は、2つのFabアームと1つのFc領域とのモノクローナル抗体(mAb)構造を有し、ここで、それらの2つのFab部位は、異なる抗原に結合する。最も一般的なIgG様抗体型は、2つのFab領域およびFc領域を含む。それぞれの重鎖および軽鎖ペアは、特有のmAbからのものでありうる。Fc領域は通常、2つの重鎖から構成される。これらのBsABは、例えば、クアドローマもしくはハイブリッドハイブリドーマ法、または当技術分野で既知の別の方法で製造されうる。非IgG様BsABはFc領域を欠く。非IgG様BsABには、Fab領域のみを含む化学的に連結されたFab、および種々のタイプの2価および3価の一本鎖可変フラグメント(scFv)が含まれる。2つの抗体の可変ドメインを模倣した融合タンパク質も存在する。これらの形態は、二重特異性T細胞エンゲージャー(engager)(BiTE)を含む。
【0055】
本発明による二重特異性抗体には、多価一本鎖抗体、ジアボディおよびトリアボディ、並びに、1以上のリンカーまたはペプチドを介して別の抗原結合部位が連結されている全長抗体の定常ドメイン構造を有する抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。可能な更なる抗原結合部位は、例えば、一本鎖Fv、VHドメインおよび/またはVLドメイン、Fab、(Fab)2、VHHナノボディ(Hamers-Casterman Cら,(1993)Nature 363(6428),446-448)、単一ドメイン抗体、scFabまたはこれらのいずれかのフラグメントを含む。
【0056】
本発明による二重特異性抗体には、1以上のリンカーまたはペプチドリンカー(例えば、N末端および/またはC末端)を介して更なる抗原結合部位が連結されたFc融合体が含まれるが、これらに限定されるものではない。可能な更なる抗原結合部位は、例えば、一本鎖Fv、VHドメインおよび/またはVLドメイン、Fab、(Fab)2、VHHナノボディ、単一ドメイン抗体、scFabまたはこれらのいずれかのフラグメントを含む。
【0057】
Fc領域を含む抗体または二重特異性抗体は、Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットとの結合を促進する修飾を含んでいても含んでいなくてもよい。「Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットとの結合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一ポリペプチドとが結合してホモ二量体を形成することを低減または予防する、ペプチド骨格の操作またはFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書中で用いる結合促進性修飾は、特に、結合が望まれる2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1サブユニットおよび第2サブユニット)のそれぞれに対して行われる別々の修飾を含み、ここで、該修飾は、それらの2つのFcドメインサブユニットの結合を促進するように互いに相補的である。例えば、結合促進性修飾は、それらの結合を立体的または静電気的に有利にするようにFcドメインサブユニットの一方または両方の構造または電荷を変化させうる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で生じ、これは、例えば、該サブユニットのそれぞれに融合している更なる成分(例えば、抗原結合部分)が同一ではない点で、それらは非同一でありうる。幾つかの実施形態において、結合促進性修飾は、Fcドメインにおけるアミノ酸変異、特に、アミノ酸置換を含む。特定の実施形態において、結合促進性修飾は、Fcドメインの、2つのサブユニットのそれぞれにおいて、別々のアミノ酸変異、特にアミノ酸置換を含む。
【0058】
本明細書中で用いる「リンカー」なる語は、BsABまたは抗体構築物の別々の部分の直接的なトポロジー(topological)連結を可能にする任意の分子を意味する。異なる抗体部分の間の共有結合を確立するリンカーの例には、ペプチドリンカーおよび非タンパク質性ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのコポリマー(これらに限定されるものではない)が含まれる。
【0059】
本発明における「ペプチドリンカー」なる語は、抗体構築物の第1部分のアミノ酸配列を抗体構築物の第2部分に連結するアミノ酸配列を意味する。例えば、ペプチドリンカーは、抗体構築物の第1(可変および/または結合)ドメインを第2(可変および/または結合)ドメインに連結しうる。例えば、ペプチドリンカーはまた、抗体構築物の或る部分を抗体構築物の別の部分、例えば、抗原結合ドメインをFcドメインまたはそのフラグメントに連結しうる。適切なペプチドリンカーはUS4751180、US4935233、WO88/09344およびHolligerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljakら(1994)Structure 2:1121-1123に記載されている。好ましくは、ペプチドリンカーは、2つの物体を連結するのに適度な長さを有していて、それらがお互いに対するそれらのコンホメーションを維持し、所望の活性が妨げられないようになっている。特に、本発明による抗体構築物が1以上のリンカーを含む場合、そのような1以上のリンカーは、好ましくは結合ドメインの個々の結合特異性を損なわない長さおよび配列を有する。リンカーペプチドは、主に以下のアミノ酸残基を含む又は含まないことが可能である:Gly、Ser、AlaまたはThr。
【0060】
有用なリンカーには、例えば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、(GGGS)n、および(GGGGS)nGを含むグリシン-セリンポリマーが含まれ、ここで、nは少なくとも1の整数である(好ましくは、2、3、4、5、6、7、8、9、10)。有用なリンカーにはまた、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および他の柔軟なリンカーが含まれる。リンカー配列はCL/CH1ドメインの任意の長さの任意の配列を含むことが可能であり、あるいはCL/CH1ドメインの全残基を含むとは限らない。
【0061】
リンカーは、免疫グロブリン軽鎖、例えばCκまたはCλに由来しうる。リンカーは、例えばCγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cα1、Cα2、Cδ、CαおよびCμを含む任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖に由来する。リンカー配列はまた、Ig様タンパク質(例えば、TCR、FcR、KIR)、ヒンジ領域由来配列、他のタンパク質に由来する他の天然配列のような他のタンパク質に由来することが可能であり、あるいは荷電リンカーでありうる。
【0062】
本発明に従いドメインを互いに連結するための方法は当技術分野でよく知られており、例えば遺伝子工学を含む。融合した及び機能的に連結された二重特異性一本鎖構築物を製造し、それらを哺乳類細胞または細菌において発現させる方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、WO99/54440またはSambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001)。
【0063】
本発明における「価」なる語は、特定された数の結合部位が抗体分子に存在することを示す。したがって、2価、3価、4価なる語は、それぞれ、2つ、3つまたは4つの結合部位が抗体構築物に存在することを示す。本発明による二重特異性抗体は少なくとも2価であり、多価、例えば2価、3価、4価または6価でありうる。
【0064】
本明細書中で用いる「結合ドメイン」なる語は、特定の標的または抗原に結合する二重特異性抗体の任意の部分を意味する。結合ドメインは抗原結合部位である。結合ドメインは、例えば、抗体もしくは免疫グロブリン自体または抗体フラグメントでありうる。そのような結合ドメインは、BsABの残部から独立した三次構造を有する又は有さないことが可能であり、その標的に個々の実体として結合する又は結合しないことが可能である。
【0065】
二重特異性抗体、抗体、抗体フラグメントまたは抗原結合部位は、単一種からの全長でありうる。二重特異性抗体、抗体、抗体フラグメントまたは抗原結合部位は、キメラでありうる。二重特異性抗体、抗体、抗体フラグメントまたは抗原結合部位は、当技術分野で公知のとおりに完全に又は部分的にヒト化されうる。
【0066】
本発明による抗体、二重特異性抗体、抗体フラグメントまたは抗原結合部位がある形態である場合、これは、他の部分への天然または合成結合または融合(これらに限定されるものではない)を含む更なる修飾を除外するものではない。特に、抗体構築物またはBsABは、PEG化または(超)グリコシル化されうる。
【0067】
「BMP-9」なる語は、タンパク質増殖/分化因子2を意味する。BMP-9タンパク質はGDF2遺伝子によりコードされる。BMP-9タンパク質は、ヒト、マウス、更には哺乳類および非哺乳類ホモログを含む。ヒトBMP-9の配列は、UniProt Identifier Q9UK05(GDF2_HUMAN)から入手可能である(例えば、ヒトアイソフォームQ9UK05-1)。マウスBMP-9の配列はUniProt Identifier Q9WV56(GDF2_MOUSE)から入手可能である。種によって異なるアイソフォームおよび変異体が存在し、それらは全て、BMP-9なる語に含まれる。加えて、成熟の前および後の、すなわち、1以上のプロドメインの切断に無関係なBMP-9分子も含まれる。また、BMP-9タンパク質の合成変異体が作製可能であり、BMP-9なる語に含まれる。タンパク質BMP-9は更に、種々の修飾、例えば、合成による修飾または天然で生じる修飾を受けうる。組換えヒトBMP-9(rhBMP-9)は、商業的に入手可能であるか、または当技術分野で公知のとおりに製造されうる。
【0068】
「ALK-1」なる語は、タンパク質であるセリン/スレオニン-タンパク質キナーゼ受容体R3を意味する。別名は、SKR3、アクチビン受容体様キナーゼ1、ALK1、TGF-Bスーパーファミリー受容体I型およびTSR-Iを含む。ALK-1タンパク質は、ACVRL1遺伝子によりコードされる。ALK-1タンパク質は、ヒト、マウス、更には哺乳類ホモログを含む。ヒトALK-1の配列は、UniProt識別番号(Identifier)P37023(ACVL1_HUMAN)から入手可能である(例えば、ヒトアイソフォームP37023-1)。マウスALK-1の配列は、UniProt識別番号Q61288(ACVL1_MOUSE)から入手可能である。種によって異なるアイソフォームおよび変異体が存在しうる。それらは全て、ALK-1なる語に含まれる。加えて、ALK-1タンパク質の合成変異体が、例えば、少なくとも1つの変異を導入することにより作製可能であり、ALK-1なる語に含まれる。タンパク質ALK-1は更に、種々の修飾、例えば、合成による修飾または天然に生じる修飾を受けうる。
【0069】
「BMPR-2」なる語は、タンパク質である骨形成タンパク質受容体2型を意味する。別名は、BMP2型受容体、骨形成タンパク質受容体II型、BMP II型受容体、BMR2、PPH1、BMPR3、BRK-3、POVD1、T-ALK、BMPRIIおよびBMPR-IIを含む。BMPR-2タンパク質は、BMPR2遺伝子によりコードされる。BMPR-2タンパク質は、ヒト、マウス、更には哺乳類ホモログを含む。ヒトBMPR-2の配列は、UniProt識別番号Q13873(BMPR2_HUMAN)から入手可能である(例えば、ヒトアイソフォーム1(識別番号:Q13873-1)およびヒトアイソフォーム2(識別番号:Q13873-2))。マウスBMPR-2の配列は、UniProt識別番号O35607(BMPR2_MOUSE)から入手可能である。種によって異なるアイソフォームおよび変異体が存在しうる。それらは全て、BMPR-2なる語に含まれる。加えて、BMPR-2タンパク質の合成変異体が、例えば、少なくとも1つの変異を導入することにより作製可能であり、BMPR-2なる語に含まれる。BMPR-2タンパク質は更に、種々の修飾、例えば、合成による修飾または天然に生じる修飾を受けうる。
【0070】
「ALK-2」なる語は、タンパク質であるアクチビン受容体1型を意味する。ALK-2タンパク質は、ACVR1遺伝子によりコードされる。ALK-2タンパク質は、ヒトおよび更なるホモログを含む。ヒトALK-2の配列は、UniProt識別番号Q04771(ACVR1_HUMAN)から入手可能である(例えば、ヒトアイソフォームQ04771-1)。種によって異なるアイソフォームおよび変異体が存在しうる。それらは全て、ALK-2なる語に含まれる。加えて、ALK-2タンパク質の合成変異体が作製可能であり、ALK-2なる語に含まれる。ALK-2タンパク質は更に、種々の修飾、例えば、合成による修飾または天然に生じる修飾を受けうる。
【0071】
本明細書中で用いる「治療」および「治療する」なる語は、対象の生物における異常状態(病的症状を含む)を予防し、減速(低減)し、または少なくとも部分的に緩和もしくは抑制する、治療効果を有する予防的または防止的手段を意味する。治療を要する者には、障害を既に有する者、および障害を有する傾向にある者、または障害が予防されるべき者(予防方法)が含まれる。一般に、治療は、疾患または病的症状の存在および/または進行に関連した徴候の進行を低減し、安定化しまたは抑制する。本発明における目的は、医薬としての使用のための二重特異性抗体、および肺高血圧の治療における使用のためのBsABを提供することである。
【0072】
「治療効果」なる語は、異常状態を引き起こす又はそれに寄与する因子の抑制(阻害)または活性化を意味する。治療効果は異常状態または疾患の症状の1以上をある程度緩和する。「異常状態」なる語は、生物の細胞または組織における機能がその生物におけるそれらの正常機能から逸脱していることを意味する。異常状態は、とりわけ、細胞増殖、細胞分化、細胞透過性または細胞生存に関連しうる。PHおよびPAHの状況における治療効果の例としては、肺内皮細胞のバリア機能の改善、肺内皮細胞のアポトーシスの低減、右心室肥大の低減および右心室収縮期血圧(RVSP)の減少である。
【0073】
本明細書中で用いる「医薬組成物」なる語は、対象、好ましくはヒト患者に投与するための組成物に関する。好ましい実施形態においては、医薬組成物は、非経口、経皮、管腔内、動脈内またはくも膜下腔内投与のための、あるいは組織内への直接注射による投与のための組成物を含む。特に、前記医薬組成物は、注入または注射により患者に投与されることが想定される。適切な組成物の投与は、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所または皮内投与のような種々の方法で行われうる。本発明による医薬組成物は、薬学的に許容される担体を更に含みうる。適切な薬学的に許容される担体の例は当技術分野でよく知られており、リン酸緩衝食塩水、水、乳濁液、湿潤剤、滅菌溶液などを包含する。適切な薬学的に許容される担体を含む組成物は、当技術分野でよく知られた通常の方法を用いて製剤化されうる。これらの医薬組成物は適切な用量で対象に投与されうる。投与計画(投与レジメン)は、関連する臨床的要因を考慮して担当医師により決定されうる。そのような投与計画に影響を及ぼしうる要因には、対象または患者のサイズ、体重、体表面積、年齢および性別、ならびに投与の時間および経路が含まれる。
【0074】
本明細書中で用いる「薬学的に許容される」なる表現は、妥当な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症を伴わない、ヒトおよび動物の組織との接触での使用に適した活性化合物、材料、組成物、担体および/または剤形をいう。
【0075】
化合物またはBsABの「有効量」は、適用される投与計画で所望の効果をもたらす、単回投与または一連の投与の一部としての量である。
【0076】
化合物または抗体の「骨形成活性」は、例えばオステオカルシン誘導および/またはマトリックス石灰化によりモニタリングされる、細胞または組織における骨形成(骨の形成)を促進する化合物または抗体の能力である。例えば、骨形成活性を有する化合物または抗体は、有効量で、筋芽細胞性から骨芽細胞性へのマウス筋芽細胞系C2C12(ATCCカタログ番号CRL-1772)の分化を誘導しうる。
【0077】
実施形態
第1の態様においては、本発明は二重特異性抗体(BsAB)を含み、ここで、前記抗体は2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインはALK-1に特異的であり、そして、第2結合ドメインはBMPR-2に特異的である。
【0078】
幾つかの実施形態においては、BsABはALK-1/BMPR-2複合体を架橋し、あるいは、複合体を、下流シグナル伝達段階に適した構造構成にする。
【0079】
本発明によるBsABは、通常、ALK-1/BMPR-2複合体の天然リガンドであるBMP-9またはその変異体より長い半減期により特徴づけられる。更に、本発明によるBsABは高収率で製造されうる。アフィニティはBMP-9およびその変異体の場合より良好に得られ、というのも、BsABまたはその結合ドメインは、容易に成熟可能であり、または最適化結合能を有する結合体を検出するためにスクリーニング法が用いられうるからである。BsABの場合、各結合部位は個別に最適化されうる。最後に、例えば遺伝的欠損による機能的なBMP-9シグナル伝達の非存在下でさえも、抗体アプローチはALK-1/BMPR-2シグナル伝達カスケードを尚もレスキューしうるであろう。
【0080】
本明細書に開示されている抗体は、ALK-1およびBMPR-2に特異的に結合し;すなわち、それらは、無関係な抗原(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン)に対するそれらの結合アフィニティより高い(例えば、少なくとも2倍高い)アフィニティで、それらの標的に結合する。
【0081】
第1の態様による幾つかの実施形態において、BsABは、ALK-1の細胞外ドメインおよび/またはBMPR-2の細胞外ドメインに特異的に結合する。幾つかの実施形態において、ALK-1は、ヒトALK-1またはその断片であり、および/または、BMPR-2はヒトBMPR-2またはその断片である。幾つかの実施形態において、BsABはヒトALK-1の細胞外ドメインもしくはその断片および/またはヒトBMPR-2の細胞外ドメインもしくはその断片に結合する。
【0082】
幾つかの実施形態において、BsABは、最大約10-4M~約10-13M(例えば、10-4M、10-4.5M、10-5M、10-5.5M、10-6M、10-6.5M、10-7M、10-7.5M、10-8M、10-8.5M、10-9M、10-9.5M、10-10M、10-10.5M、10-11M、10-11.5M、10-12M、10-12.5M、10-13MのKdでALK-1に結合する。
【0083】
幾つかの実施形態において、BsABは、最大約10-4M~約10-13M(例えば、10-4M、10-4.5M、10-5M、10-5.5M、10-6M、10-6.5M、10-7M、10-7.5M、10-8M、10-8.5M、10-9M、10-9.5M、10-10M、10-10.5M、10-11M、10-11.5M、10-12M、10-12.5M、10-13MのKdでBMPR-2に結合する。
【0084】
幾つかの実施形態において、BsABは、最大約10-4M~約10-13M(例えば、10-4M、10-4.5M、10-5M、10-5.5M、10-6M、10-6.5M、10-7M、10-7.5M、10-8M、10-8.5M、10-9M、10-9.5M、10-10M、10-10.5M、10-11M、10-11.5M、10-12M、10-12.5M、10-13MのKdでALK-1およびBMPR-2に結合する。
【0085】
幾つかの実施形態において、BsABは、約10-4M、10-4.5M、10-5M、10-5.5M、10-6M、10-6.5Mまたは10-7Mを超えたKdでALK-2または配列番号117の抗原に結合する。幾つかの好ましい実施形態において、BsABは、BSAのような無関係な抗原に対する結合アフィニティより高い(例えば、少なくとも2倍高い)アフィニティではALK-2に結合しない。
【0086】
抗原に結合する抗体のKdは、例えばイムノアッセイ、例えば酵素結合免疫特異的アッセイ(ELISA)、二分子相互作用分析(BIA)(例えば、Sjolander & Urbaniczky;Anal.Chem.63:2338-2345,1991;Szaboら,Curr.Opin.Struct.Biol.5:699-705,1995)、および抗原を発現する細胞への抗体結合の定量のための蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含む当技術分野で公知の任意の方法を用いてアッセイされうる。BIAは、相互作用物質のいずれをも標識することなく生体特異的相互作用をリアルタイムで分析するための技術である(例えば、BIACORETM)。光学現象である表面プラズモン共鳴(SPR)の変化は、生体分子間のリアルタイム反応の指標として用いられうる。
【0087】
幾つかの実施形態において、本発明による抗体は、ALK-1およびBMPR-2に対する結合ドメインに加えて、ALK-1/BMPR-2受容体のリガンド、例えばBMP-9に対する、またはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に関与する別の分子に対する結合ドメインを更に含む。
【0088】
当業者にとって明らかな非適合性が存在する場合を除き、結合能を記載している実施形態のそれぞれは、抗体の形態を記載している実施形態のそれぞれと組合されうる。
【0089】
幾つかの好ましい実施形態において、BsABまたはその少なくとも一部はモノクローナルである。幾つかの実施形態において、BsABはキメラである。幾つかの好ましい実施形態において、BsABは完全にまたは部分的にヒト化されている。
【0090】
第1の態様による幾つかの実施形態において、BsABの形態はIgG様である。第1の態様による幾つかの実施形態においては、BsABの形態は非IgG様である。第1の態様による幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は、(scFv)2、scFv-単一ドメインmAb、ジアボディおよび前記形態のいずれかのオリゴマーからなる群から選択される形態である。好ましい実施形態において、第1の態様または任意の他の態様によるBsABの形態は、scFv-Fc(kih)である。
【0091】
第1の態様による幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は少なくとも1つのscFvドメインを含み、これは、scFvリンカーにより互いに連結された可変重ドメインおよび可変軽ドメインを含む。考察されているとおり、この形態においては、組換え技術により生成される通常のペプチド結合を含む、多数の適切なscFvリンカーが利用可能である(Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883)。
【0092】
第1の態様による幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は少なくとも1つのリンカーを含む。幾つかの実施形態においては、少なくとも1つのリンカーは少なくとも1つのペプチドリンカーを含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのペプチドリンカーは、1~50アミノ酸長、好ましくは1~30アミノ酸長、最も好ましくは4~16アミノ酸長である。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのペプチドリンカーは、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16アミノ酸のサイズを有する。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのペプチドリンカーは、4、3、2または1アミノ酸のサイズを有する。好ましい実施形態において、少なくとも1つのペプチドリンカーはグリシンに富む。1つの実施形態においては、少なくとも1つのペプチドリンカーは単一グリシンからなる。好ましい実施形態において、1以上のリンカーは二次構造を促進しない。好ましい実施形態において、BsABは、GGGGSnGペプチドリンカーを含み、ここで、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選択される整数である。
【0093】
BsABがリンカーを含む場合、リンカーを記載する各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、BsABの形態を記載する各実施形態および/または結合能を説明する各実施形態と組合されることが可能であり、具体的に示唆される。
【0094】
好ましい実施形態において、BsABは少なくとも1つの(GGGGS)3Gペプチドリンカーを含み、ここで、前記の少なくとも1つのリンカーの少なくとも1つはscFv領域とFc領域とを連結する。好ましい実施形態において、BsABは、少なくとも1つの(GGGGS)3ペプチドリンカーを含み、ここで、前記の少なくとも1つのリンカーの少なくとも1つは、VH鎖とVL鎖とを連結する。
【0095】
二重特異性抗体は通常は天然には存在せず、通常は人工ハイブリッド抗体または免疫グロブリンである。二重特異性抗体は、例えば、完全長抗体または抗体フラグメントとして製造されうる。種々の形態の二重特異性抗体およびそれらの製造方法が当技術分野でよく知られている。これらの方法には、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの連結が含まれるが、これらに限定されるものではない(Songsivilai&Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315-321(1990))。
【0096】
二重特異性抗体または多重特異性抗体を製造するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現(MilsteinおよびCuello,Nature 305:537(1983)、WO 93/08829、ならびにTrauneckerら,EMBO J.10:3655(1991)を参照されたい)、および2つの異なるモノクローナル抗体の化学的結合(Staerzら(1985)Nature 314(6012):628-31を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されるものではない。多重特異性抗体はまた、2以上の抗体またはフラグメントを架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号およびBrennanら、Science,229:81(1985)を参照されたい)、二重特異性抗体を製造するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelnyら,J.Immunol,148(5):1547-1553(1992)を参照されたい)、二重特異性抗体フラグメントを製造するために「ジアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照されたい)、および一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruberら,J.Immunol,152:5368(1994)を参照されたい)、並びにTuttら,J.Immunol.147:60(1991)記載されているとおりに三重特異性抗体を製造すること、および制御されたFabアーム交換(cFAE)(Labrijn AFら,Proc Natl Acad Sci USA 2013;110:5145-50)によっても製造されうる。
【0097】
第1の態様による幾つかの好ましい実施形態においては、二重特異性抗体は少なくとも1つのFcドメインを含む。BsABが少なくとも1つのFc領域を含む好ましい実施形態においては、BsABは更に、Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットとの結合を促進する修飾、例えばノブ・イン・ホール(knob-in-hole)変異を含む。
【0098】
好ましい実施形態において、結合促進性修飾は、「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」(kih)操作に基づく(例えば、米国特許第5,731,168号、Ridgwayら,Protein Engineering 9(7):617(1996); Atwellら,J.Mol.Biol.1997 270:26、米国特許第8,216,805号を参照されたい)。ノブズ・イントゥ・ホール(knobs into hole)技術は、1つのmAbからの重鎖における大きなアミノ酸の変異と、他方のmAb重鎖における小さなアミノ酸の変異とを導入することに基づく。これは、標的重鎖(およびそれらの対応軽鎖)の、より良好なフィッティングを可能にし、BsABの製造の信頼性を高める。また、Merchantら,Nature Biotech.16:677(1998)に記載されているとおり、これらの「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」変異は、ジスルフィド結合と組合されて、ヘテロ二量体化への形成を促しうる。
【0099】
本発明による幾つかの好ましい実施形態においては、BsABは、ヘテロ二量体ヒトIgG Fcに連結された2つの単一特異性抗体scFvフラグメントを組合せたscFv-Fc(kih)構築物であり、ここで、第1のscFvフラグメントはヒトBMPR-2またはそのフラグメントに特異的に結合し、そしてここで、第2のscFvフラグメントは、ヒトALK-1またはそのフラグメントに特異的に結合する。IgG Fcは、例えば、IgG2または任意の他のタイプの免疫グロブリンでありうる。
【0100】
幾つかの実施形態において、第1の態様によるBsABの第1結合ドメインはVHH結合ドメインであり、および/または、BsABの第2結合ドメインはVHH結合ドメインである。これらの実施形態の幾つかにおいて、BsABはFcドメインを更に含み、ここで、Fcドメインの第1サブユニットは1以上のノブ(knob)変異を含み、そして、Fcドメインの第2サブユニットはノブズ・イントゥ・ホールズ(knobs into holes)法による1以上のホール(hole)変異を含む。
【0101】
幾つかの実施形態において、BsABの第1結合ドメインはFabまたはそのフラグメントを含み、および/または、第2結合ドメインはFabまたはそのフラグメントを含む。これらの実施形態の幾つかにおいて、BsABはFcドメインを更に含み、ここで、Fcドメインの第1サブユニットは1以上のノブ(knob)変異を含み、そして、Fcドメインの第2サブユニットはノブズ・イントゥ・ホールズ(knobs into holes)法による1以上のホール(hole)変異を含む。
【0102】
幾つかの実施形態において、第1の態様によるBsABは、(i)配列番号2~7、および/または、(ii)配列番号9~14、および/または、(iii)配列番号30~35、および/または、(iv)配列番号37~42、および/または(v)配列番号37~42を含む。
【0103】
第1の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第2の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第2の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第2の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第2の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。
【0104】
第2の態様においては、本発明は、標的細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有する、第1の態様によるBsABを含む。
【0105】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有するBsABは、血管透過性を低下させることにより、血管筋肉化を元に戻し、そして肺内皮細胞のバリア機能を回復させる、より高い可能性を有する。
【0106】
好ましい実施形態において、標的細胞は、天然にまたは操作後に、ALK-1およびBMPR-2を発現する。1つの実施形態において、標的細胞はU2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系(DiscoverX Corporation)である。
【0107】
第2の態様による好ましい実施形態においては、抗体は標的細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、ここで、該標的細胞は内皮細胞である。
【0108】
健常哺乳動物においては、BMPR-2およびALK-1は主に内皮細胞上で発現される。幾つかの実施形態において、内皮細胞は、哺乳動物ドナー、例えばマウス、ラット、げっ歯類、ブタ、イヌおよびヒトに由来する。幾つかの好ましい実施形態において、内皮細胞は肺細胞である。幾つかの好ましい実施形態においては、内皮細胞はヒト肺細胞またはげっ歯類肺細胞である。幾つかの好ましい態様において、内皮細胞は、HPAEC、HAoEC、HCAECおよびHMVEC-L細胞を含む群から選択される。
【0109】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性は、多数の方法および測定系で評価されうる。本発明において、BsABが以下のアッセイまたは方法の少なくとも1つにおいてアゴニスト活性を示す場合、BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であると言える。
【0110】
第1のクラスの方法は、ALK-1/BMPR-2を介したシグナル伝達の際に生じる構造変化の検出のための、十分に記載されている種々の生物物理学的方法を含む方法を含む。ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の最初の段階の発生を評価するための好ましい方法は、PathHunter二量体化(Dimerization)アッセイ(U2OS ACVRL1/BMPR-2 Dimerization Cell Line,DiscoverX Corporation)によるものである。このアッセイは、受容体-二量体ペアの、2つのサブユニットのリガンド誘発性二量体化を検出する。細胞は、酵素ドナー(ED)に融合した1つの受容体サブユニット、および酵素アクセプター(EA)に融合した第2の二量体パートナーを共発現するように操作されている。一方または両方の受容体サブユニットへの本発明のアゴニストの結合は二量体パートナーの相互作用を誘発して、それらの2つの酵素断片の相補を強いる。これは、基質を加水分解して化学発光シグナルを読出し情報として生成する機能的酵素の生成をもたらす。
【0111】
好ましい実施形態において、第2の態様によるBsABはALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進する。ALK-1およびBMPR-2の二量体化を検出するための適切なアッセイとしては、PathHunter二量体化(Dimerization)アッセイ(U2OS ACVRL1/BMPR-2 Dimerization Cell Line,DiscoverX Corporation)、または本明細書に記載されているPathHunter二量体化アッセイの原理を用いる任意のアッセイである。
【0112】
本発明において、PathHunter U2OS ALK-1/BMPR-2二量体化アッセイを用いてBsABのEC50が決定されうる場合、BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であると言える。しかし、PathHunter U2OS ALK-1/BMPR-2二量体化アッセイでEC50を決定できない場合であっても、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性をアッセイするための後記の別の方法がBsABに関する有意なアゴニスト活性を示す場合には、本発明によるBsABは尚もALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であると言える。例えば、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性をアッセイするための本明細書に記載されている他の方法には、SMAD1および/または5リン酸化アッセイ、ApoOne/CTBアッセイ、ならびにインビトロまたは敗血症マウスモデル、MCTラットもしくはSugen/低酸素症誘発性肺高血圧ラットモデルにおける内皮バリア機能に関するアッセイが含まれる。
【0113】
50%効果濃度(EC50)は、特定された曝露時間の後、ベースラインと最大値との中間で応答を誘発する、薬物、抗体または毒物の濃度を意味する。適用抗体濃度と化学発光シグナルとの関係を示す用量反応曲線の数学的モデリング(例えば、非線形回帰)により変曲点が決定されうる場合、本発明の抗体のEC50が決定されうる。例えば、用量反応曲線がシグモイド曲線に従っている場合、EC50が決定されうる。特に示されていない限り、本明細書に記載されているEC50は、例えばALK-1/BMPR-2二量体化アッセイから決定されるアゴニスト活性のEC50である(
図8)。
【0114】
本発明による二重特異性抗体のアゴニスト活性の大きさを示すために、組換えBMP-9および抗体のそれぞれのEC50を、PathHunter U2OS ACVRL1/ACVR2二量体化細胞系に関する製造業者の説明に記載されているとおりに滴定により決定する。注目すべきことに、曝露時間は、好ましくは、抗体とBMP-9との両方で同等である。通常の条件下では、製造業者の説明に基づいて行うアッセイの場合、BMP-9のEC50は約0.1nMである。好ましい実施形態において、抗体およびBMP-9のEC50値は同程度の大きさである。もう1つの好ましい実施形態において、BsABのEC50値は、TPP-14696またはTPP-14719のEC50より低いか、またはそれと同程度である(
図8)。
【0115】
好ましい実施形態において、第2の態様によるBsABは、ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進する。例えば、これは、U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系を使用するPathHunter二量体化アッセイにおいて示されうる。好ましい実施形態において、第2の態様によるBsABは、U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系を使用するPathHunter二量体化アッセイにおいてALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進する。PathBunter U2OS ALK-1/BMPR-2を使用してBsABのEC50が決定されうる場合、BsABは、U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系を使用するPathHunter二量体化アッセイにおいてALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進する。
【0116】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する幾つかの実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.000001~1000000である。
【0117】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する幾つかの実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.00001~100000である。
【0118】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する幾つかの更なる実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.0001~10000である。
【0119】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する幾つかの好ましい実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.001~1000である。
【0120】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する更に好ましい幾つかの実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.01~100である。
【0121】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する幾つかの好ましい実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は、0.1~10である。
【0122】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する好ましい実施形態においては、該抗体に関する決定されたEC50と組換えBMP-9に関する決定されたEC50との比は約nから約mの間であり、ここで、nは、0.0001、0.0002、0.0003、0.0004、0.0005、0.0006、0.0007、0.0008、0.0009、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1からなる第1群の要素であり、mは、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100からなる第2群の要素である。この特定の文脈においては、「約」なる語は+/-10%を意味する。
【0123】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABの好ましい実施形態においては、本発明による二重特異性抗体のEC50はBMP-9のEC50以上である。
【0124】
アゴニスト活性を評価するための別の方法には、例えば、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の、1以上の標的遺伝子産物の定量のための方法が含まれる。適切な方法は当技術分野でよく知られており、遺伝子アレイおよび定量的リアルタイムPCR分析、質量分析に基づくプロテオミクスおよびウエスタンブロット分析を含む。前記BsABの有効量の投与時に少なくとも1つの適切な標的遺伝子産物が標的細胞において有意にアップレギュレーションされる場合、BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であると言える。ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の適切な標的遺伝子の群は、血管新生関連遺伝子IL-8、ET-1、ID1、HPTPηおよびTEAD4のような種々の遺伝子が含まれる(Luxら,BMC Cardiovascular Disorders 2006;6:13)。Luxらは、ALK-1シグナル伝達の標的遺伝子の特定のためのモデルを記載しており、ここで、標的遺伝子発現の後続分析のために、ヒト微小血管内皮細胞系HMEC-1に構成的に活性な組換えALK-1アデノウイルスを感染させた。
【0125】
ヒト肺動脈内皮細胞の場合、SMAD1およびSMAD5リン酸化のウエスタンブロット分析により示されるとおり、rhBMP-9での処理は内皮細胞における標準(カノニカル)BMPシグナル伝達の鍵成分を活性化した。したがって、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を評価するためのもう1つのクラスの適切な方法は、シグナル伝達中に生じるリン酸化SMADまたは他の化学修飾の増加を検出することに基づく。このクラスによる適切な方法も同様に当技術分野において十分に記載されており、実施例5に記載されているとおり、質量分析に基づくホスホプロテオミクスおよびウエスタンブロット分析を含む(
図2も参照されたい)。
【0126】
第2の態様による好ましい実施形態においては、BsABの有効量はSMAD1および/またはSMAD5のリン酸化を促進する。
【0127】
本発明においては、天然リガンドBMP-9に匹敵する内皮細胞におけるSMAD1および/またはSMAD5リン酸化の誘導をもたらすBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。注目すべきことに、BsABとBMP-9との必要濃度(有効量)は、互いに大きく異なりうる。
【0128】
この特定の文脈において、BsABまたは化合物に関しては、SMADのリン酸化のための「有効量」は、ウエスタンブロットまたはホスホプロテオミクス分析によりシグナル(ここで、該シグナルは内皮細胞におけるそのSMADのリン酸化を示す)が検出されうる、前記BsABまたは前記化合物の濃度または量である。
【0129】
前記抗体または化合物の有効量が標的細胞においてSMAD1またはSMAD5のリン酸化を誘導する場合、BsABまたは化合物は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であると言える。例えば、特定の標的細胞の場合、SMAD5のリン酸化に対するrhBMP-9の有効量は、1ng/mlおよび10ng/mlである(
図2を参照されたい)。注目すべきことに、この文脈においては、多数の有効量が存在しうる。
【0130】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、SMAD1および/またはSMAD5のリン酸化のための少なくとも1つの有効量は、0.0001ng/ml~100μg/mlの範囲内である。
【0131】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、SMAD1および/またはSMAD5のリン酸化のための少なくとも1つの有効量は、0.001ng/ml~10μg/mlの範囲内である。
【0132】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、SMAD1および/またはSMAD5のリン酸化のための少なくとも1つの有効量は、0.01ng/ml~1μg/mlの範囲内である。
【0133】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、SMAD1および/またはSMAD5のリン酸化のための少なくとも1つの有効量は、0.1ng/ml~0.1μg/ml範囲内である。
【0134】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、SMAD1および/またはSMAD5のリン酸化のための少なくとも1つの有効量は、1ng/ml~10ng/mlの範囲内である。
【0135】
組換えヒトBMP-9(rhBMP-9)は、ヒト肺内皮細胞(HPAEC)のアポトーシスをインビトロで低減した。特に、2つの独立したアッセイであるApoOne/CTBアッセイ、並びにPARPに基づくウエスタンブロット分析で示されるとおり、5ng/ml rhBMP-9での一晩の処置は、ヒトPAECにおけるアポトーシスを低減した。したがって、BsABのALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を評価するためのもう1つの方法は、HPAEC、HAoEC、HCAECまたはHMVEC-L細胞のような初代内皮細胞を使用してBsABの抗アポトーシス活性を分析することである。抗アポトーシス活性は、実施例6に記載されているApoOne/CTBアッセイを含む種々のアッセイを用いて分析されうる。
【0136】
第2の態様による幾つかの好ましい実施形態においては、前記BsABの有効量は内皮細胞において抗アポトーシス効果をもたらす、すなわち、前記BsABの有効量は、アポトーシスの誘導時に観察される内皮細胞のアポトーシスまたはアポトーシス指数を低減する。
【0137】
これらの好ましい実施形態の幾つかにおいては、前記BsABの有効量は、TNFαおよび/またはシクロヘキシミド(CHX)の有効量で処理された内皮細胞のアポトーシスまたはアポトーシス指数を低減する。これらの幾つかの他の又は同じ好ましい実施形態において、前記BsABの有効量は、例えば実施例6に記載されているとおり、細胞の飢餓時に観察される内皮細胞のアポトーシスまたはアポトーシス指数を低減する。当技術分野で公知のとおり、アポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)はアポトーシスの指標である。前記の好ましい実施形態の幾つかにおいて、前記BsABの有効量は、TNFαおよび/またはシクロヘキシミド(CHX)の有効量で処理された内皮細胞のアポトーシスを低減する。前記の好ましい実施形態の幾つかにおいては、前記BsABの有効量は、細胞の飢餓時に観察される内皮細胞のアポトーシスを低減する。前記の好ましい実施形態の幾つかにおいては、前記BsABの有効量は、TNFαおよび/またはシクロヘキシミド(CHX)の有効量で処理された内皮細胞のアポトーシス指数を低減する。前記の好ましい実施形態の幾つかにおいては、前記BsABの有効量は、細胞の飢餓時に観察される内皮細胞のアポトーシス指数を低減する。
【0138】
幾つかの実施形態においては、内皮細胞は、HPAEC、HAoEC、HCAECおよびHMVEC-L細胞を含む群から選択される。好ましい実施形態においては、TNFαおよびシクロヘキシミド(CHX)の有効量での処理は、実施例6および/または
図3に記載されているとおりに行われる。好ましい実施形態においては、アポトーシス指数は、HPAEC細胞に関しては、10ng/ml TNFαおよび20μg/ml シクロヘキシミド(CHX)での処理の4時間後に決定される。少なくとも1つの内皮細胞系におけるアポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)の低減を招くBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるとみなされる。
【0139】
少なくとも1つの内皮細胞系におけるアポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)の低減を招くBsABは、低減が、BMP-9での処置により誘発される低減に匹敵する場合、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。
【0140】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、ビヒクル対照のアポトーシス指数の1%未満~95%である。
【0141】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、ビヒクル対照のアポトーシス指数の1%未満~90%である。
【0142】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、ビヒクル対照のアポトーシス指数の1%未満~85%である。
【0143】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、ビヒクル対照のアポトーシス指数の1%未満~80%である。
【0144】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する1つの実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、ビヒクル対照のアポトーシス指数の60%未満~80%である。
【0145】
第2の態様によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるBsABに関する好ましい実施形態においては、BsABでの処置の後のアポトーシス指数は、約n%と約m%との間であり、ここで、nは、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69および70からなる第1群の要素であり、mは、71、72、73、74、75、76、78、79および80からなる第2群の要素である。この特定の文脈においては、「約」なる語は+/-0.5を意味する。
【0146】
BsABのALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を評価するためのもう1つの方法は、インビトロで内皮バリア機能の保存を分析するためのアッセイを使用することである。インビトロアッセイの一例は実施例7に記載されている(
図4および5も参照されたい)。BMP-9により誘発されるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性は、インビトロでの初代ヒト肺動脈内皮細胞における電気抵抗のLPS誘発性減少を抑制する。この設定においては、電気抵抗はALK-1/BMPR-2シグナル伝達と内皮バリア機能との両方に関する適切な読出し指標である。
【0147】
そのようなインビトロアッセイのための適切な内皮細胞には、初代ヒト内皮細胞、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)、ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)およびヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC-L)が含まれる。媒体(veh)、BMP-9またはBsABの存在下でベースライン電気抵抗を1時間測定した後、内皮透過性を高める又は内皮細胞層のバリア機能を損なう1以上の物質を添加する。そのような物質の例としては、LPSおよびトロンビンである。内皮バリア機能に対するBsABの効果をビヒクルおよびBMP-9と比較する。
【0148】
内皮単層の内皮電気抵抗を保存し、したがって内皮バリア機能をBMP9と同様に保存するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。
【0149】
内皮細胞における電気抵抗のトロンビン/LPS誘発性の減少を有意に抑制するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるとみなされる。
【0150】
第2の態様によるBsABに関する好ましい実施形態においては、BsABの有効量とのプレインキュベーションは、少なくとも1つの内皮細胞系に関して、電気抵抗に対する有効量のトロンビンの効果を有意に低減する。幾つかの実施形態においては、トロンビンの有効量は0.5 U/mlである。
【0151】
第2の態様によるBsABに関する好ましい実施形態においては、BsABの有効量でのプレインキュベーションは、少なくとも1つの内皮細胞系に関して、電気抵抗に対する有効量のLPSの効果を有意に低減する。幾つかの実施形態においては、LPSの有効量は400ng/mlである。
【0152】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性を評価するためのもう1つの方法は、インビボでの内皮バリア機能の保存を分析するためのアッセイを使用することである。適切なモデルは、実施例8に記載されている敗血症マウスモデルである。この方法においては、BMP-9はマウス敗血症モデルにおける肺に浸潤する白血球の数を減少させる(気管支肺胞洗浄液における白血球数に対する効果に関しては、
図6を参照されたい)。
【0153】
肺内への白血球の浸潤またはタンパク質の漏出をBMP9と同様に低減するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。
【0154】
ビヒクル対照と比較してLPS処置時に肺内への白血球(WBC)の浸潤またはタンパク質の漏出を有意に低減するBsABは、本発明によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性であるとみなされる。
【0155】
幾つかの実施形態においては、第2の態様によるBsABの有効量での前処置は、LPSの有効量での処置時に敗血症マウスモデルの気管支肺胞洗浄液(BALF)におけるWBCの数を減少させる。幾つかの実施形態においては、LPSの有効量は5mg/kgである。
【0156】
モノクロタリン(MCT)で処置されたラットモデルは、肺動脈高血圧の広く使用されている動物モデルである。皮下注射後、ピロリジジンアルカロイドMCTは肝臓によって活性化されて毒性MCTピロールになり、これは数日以内に肺血管系の内皮損傷を引き起こし、ついで小さな肺動脈が再形成(リモデリング)される(デノボ筋肉化および内側肥大)。実施例9に記載されているとおり、モノクロタリン(MCT)で処置されたラットモデルは、本発明によるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性をインビボで評価するための代替的方法である。
【0157】
実施例9に記載されているとおりに得られる右心室質量と左心室質量と(右心室および左心室;後者は中隔を含む)の比が、BsABで処置されたモノクロタリン(MCT)処置ラットモデルの動物においてビヒクル対照と比較して有意に小さい場合、BsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性である。
【0158】
別の方法においては、血漿プロBNPレベルが、BsABで処置されたモノクロタリン(MCT)処置ラットモデルの動物においてビヒクル対照と比較して同一条件下で有意に低い場合も、BsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性である。バイオマーカーproBNPの血漿レベルは当技術分野で公知のとおりに決定される。
【0159】
右心室圧および/または右心室肥大および/または血漿プロBNPレベルをBMP9と同様に低減するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。
【0160】
Sugen(SU5416)ラットモデルは、肺動脈高血圧について広く使用されている動物モデルである。VEGFRインヒビターSU5416の皮下注射と低酸素雰囲気(10% O2)中での動物の収容との組合せは、進行性肺血管リモデリングを引き起こす。このアッセイは、第2の態様によるBsABのアゴニスト活性を評価するためのもう1つの選択肢である。
【0161】
実施例10に記載されているとおりに得られる右心室質量と左心室質量と(右心室および左心室;後者は中隔を含む)の比が、ビヒクル対照と比較してBsABで処置されたSugenラットモデルの動物において小さい場合、BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性である。
【0162】
別の方法においては、血漿プロBNPレベルがBsABで処置されたSugenラットモデルの動物において、ビヒクル対照と比較して同一条件下で有意に低い場合も、BsABはALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対してアゴニスト性である。
【0163】
このモデルにおいて右心室圧および/または右心室肥大および/または血漿プロBNPレベルをBMP9と同様に低減するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニストであるとみなされる。
【0164】
本発明の第3の態様においては、第1の態様による抗体または第2の態様による抗体は、rhBMP-9より低い骨形成活性を有する。
【0165】
rhBMP-9より低い骨形成活性を有するBsABは、副作用として骨形成を誘導する、より低いリスクを有する。第1の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第1の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。
【0166】
第2の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第2の態様に関して記載されている各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第2の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。第2の態様に関して記載されている実施形態の各組合せは、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による実施形態の各組合せと組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。
【0167】
第1の態様による少なくとも1つの実施形態と第2の態様による少なくとも1つの実施形態との組合せから得られる各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。
【0168】
第1の態様による少なくとも1つの実施形態と第2の態様による少なくとも1つの実施形態との組合せから得られる各実施形態は、組合せが明らかに不適合であると当業者がみなす場合を除き、第3の態様による少なくとも2つの実施形態の組合せにより得られる各実施形態と組合されることが可能であり、そして、具体的に示唆される。
【0169】
特に好ましい実施形態においては、本発明によるBsABは、ALK-2に結合しないか、あるいは10
-6Mを超えるK
DでALK-2または配列番号117の抗原に結合する。特に好ましい実施形態においては、第3の態様によるBsABはALK-2に結合しないか(例えば、
図9を参照されたい)、あるいはBSAのような無関係な抗原に対するアフィニティと同等以下のALK-2に対する又は配列番号117の抗原に対するアフィニティを有する。非常に好ましい実施形態においては、第3の態様によるBsABは、ALK-2/BMPR-2の二量体化を誘導しない。骨形成活性はALK-2シグナル伝達を介して生じると推定されており、したがって、ALK-2結合および/または二量体化の省略は天然BMP-9の骨形成活性を少なくとも部分的に回避すると推定されうる。ALK-2/BMPR-2の二量体化をモニターするための適切なアッセイは、商業的に入手可能であり、本明細書に記載されているALK-1/BMPR-2アッセイと同じ原理に基づく。
【0170】
特に好ましい実施形態では、BsABが2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインがALK-1に特異的であり、第2結合ドメインがBMPR-2に特異的であり、そしてここで、前記BsABがALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、そしてここで、BsABがALK-2/BMPR-2の二量体化を誘導しない、BsABを提供する。
【0171】
特に好ましい実施形態では、第1、第2または第3の態様によるBsABは、BSAに対するBsABの結合アフィニティと同等以下のアフィニティでALK-2または配列番号117の抗原に結合する。
【0172】
特に好ましい実施形態では、BsABは2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインはALK-1に特異的であり、第2結合ドメインはBMPR-2に特異的であり、そしてここで、前記BsABはALK-1/BMPR-2の二量体化を促進し、そしてここで、BsABは、BSAに対するBsABの結合アフィニティと同等以下のアフィニティでALK-2または配列番号117の抗原に結合する。
【0173】
特に好ましい実施形態では、BsABが2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインがALK-1に特異的であり、第2結合ドメインがBMPR-2に特異的であり、そしてここで、前記BsABがALK-1/BMPR-2の二量体化を促進し、ここで、BsABがALK-2/BMPR-2の二量体化を促進しない、BsABを提供する。
【0174】
特に好ましい実施形態では、BsABが2つの結合ドメインを含み、ここで、第1結合ドメインがALK-1に特異的であり、第2結合ドメインがBMPR-2に特異的であり、そしてここで、前記BsABがALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、そしてここで、有効量のBsABが有効量のrhBMP-9より低い骨形成活性を有する又は骨形成活性を有さない、BsABを提供する。ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性の決定は、本明細書に特定されている任意の方法で行われうる。骨形成活性の決定は、本明細書に特定されている任意の方法で行われることが可能であり、好ましくは、C2C12法を用いて行われる。
【0175】
ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有し、rhBMP-9より低い骨形成活性を有するかまたは骨形成活性を有さないBsABは、内皮機能障害を回復させ、右室収縮期血圧(RVSP)を低下させ、および/またはPAHを回復させる可能性が高い。
【0176】
骨形成タンパク質(BMP)は、骨形成を促進することが公知である。ヒトBMP-9、BMP-9変異体、およびデザイナーBMP-9、例えば変異BMP-9変異体は、ALK-2シグナル伝達を介して骨形成活性を誘発する可能性が高いのに対し、ALK-1/BMPR-2受容体複合体のみを特異的に標的化するBsABでは、これとは異なる。本発明の抗体では、ALK-1(およびBMPR-2)に対するその真の特異性ゆえに、ALK-2を介したシグナル伝達の誘導は起こりそうになく、更に特定のアッセイによって排除されうる(例えば、実施例11、実施例12)。
【0177】
BsAbの潜在的骨形成活性は、野生型BMPの骨形成活性を評価するのに特異的な任意の方法を用いて評価されうる。BMPは多数の細胞型の成長(増殖)および分化を促進する。分化は、例えば、アルカリホスファターゼの発光レポーター、または熱量測定試薬、例えばアルシアンブルーもしくはPNPPを使用してモニターされうる(Asahinaら(1996)Exp.Cell Res,222:38-47;Inadaら(1996)Biochem.Biophvs.Res.Commun.222:317-322;Jortikkaら(1998)Life ScL 62:2359-2368;Chengら(2003)J.Bone Joint Surgery 95A:1544-1552)。
【0178】
マウス筋芽細胞系、例えばC2C12(ATCCカタログ番号CRL-1772)は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を示すBsABの骨形成活性を評価するための好ましい選択肢である。C2C12細胞系は迅速に分化して、収縮性筋管を形成し、そして、特徴的な筋肉タンパク質を産生する。BMPでの処理は、筋芽細胞性から骨芽細胞性への、分化経路における変化(シフト)を引き起こす。C2C12細胞におけるアルカリホスファターゼ(ALP)活性は、骨芽細胞活性のマーカーとして使用されうる。実施例に記載されているとおり、アルカリホスファターゼアッセイキットはALP活性の読出しに使用されうる。複数のアルカリホスファターゼアッセイキットが商業的に入手可能である。
【0179】
第3の態様による好ましい実施形態においては、第1の態様によるBsABは、rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が、同濃度のBsABで処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有することにより特徴づけられる。特定の状況においては、EC50は、ALK-1/BMPR-2二量体化アッセイから決定されるアゴニスト活性のEC50である(
図8)。
【0180】
第3の態様による好ましい実施形態においては、第2の態様によるBsABは、rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が、同じ濃度のBsABで処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有することにより特徴づけられる。
【0181】
第3の態様による好ましい実施形態においては、第1または第2の態様によるBsABは、rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が、BsABのEC50で処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有することにより特徴づけられる。
【0182】
rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が同じ濃度のBsABで処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有する場合、本発明によるBsABは、rhBMP-9より低い骨形成活性を有するとみなされる。rhBMP-9のEC50(アゴニスト活性に関するもの)は、当技術分野で公知の滴定により決定される。
【0183】
rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が、BsABのEC50で処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有する場合、本発明によるBsABはrhBMP-9より低い骨形成活性を有するとみなされる。
【0184】
第3の態様による好ましい実施形態においては、第1の態様によるBsABまたは第2の態様によるBsABは、C2C12細胞における骨形成活性を有さない。
【0185】
BsAB、例えばBsABの有効量またはEC50でのC2C12細胞の処理が、ビヒクル対照で処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性をもたらさない場合、本発明によるBsABはC2C12細胞における骨形成活性を有さないとみなされる。
【0186】
インビトロまたはインビボで骨形成活性を評価するための更なる方法は当技術分野で公知である。しかし、明瞭化のために、BsABが、C2C12アッセイに基づくrhBMP-9より低い骨形成活性を有するとみなされる場合は常に、この結果が優先される。
【0187】
初代細胞における活性をモニターするためにラット肢芽軟骨分化アッセイも用いられうる。別の実施形態においては、レポーター遺伝子またはキナーゼアッセイが使用されうる。BMPはJAK-STATシグナル伝達を活性化するため、STAT応答性レポーター、例えばGFPまたはルシフェラーゼを含有するBMP応答性細胞系が使用されうる(Kusanagiら(2000)Mol Biol.Cell.,11:555-565)。例えば、腎細胞におけるBMP活性は、細胞に基づくアッセイを用いて決定されうる。例えば、WangおよびHirschberg(2004)J.Biol.Chem.279:23200-23206を参照されたい。骨形成活性はラット異所性骨アッセイまたは哺乳類骨成長モデルによりインビボでも測定されうる。幾つかの実施形態においては、骨形成活性は非ヒト霊長類モデルにおいて測定される。これらのモデルはIsaacsら,Mol.Endocrinol.24:1469-1477(2010)に記載されている。骨量および骨質を評価するための方法は当技術分野で公知であり、X線回折:DXA:DEQCT;pQCT、化学分析、密度分画、組織光度法、組織形態計測および組織化学分析(例えば、Laneら J Bone Min.Res.18:2105-2115(2003)に記載されているとおり)を包含する。皮質骨密度を決定するための1つのアッセイはマイクロ(Micro)CTアッセイである。pQCT測定後、マイクロ(micro)CT評価は、例えば、大腿骨におけるScanco mCT40(Scanco Medical AG)を用いて行われうる。
【0188】
第4の態様においては、医薬としての使用のための第1、第2または第3の態様によるBsABを提供する。
【0189】
幾つかの実施形態においては、医薬としての使用は、対象の、少なくとも1つの標的細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達を増強またはレスキュー(救済)することを含む。幾つかの実施形態においては、少なくとも1つの標的細胞は、内皮細胞、例えば肺内皮細胞である。幾つかの実施形態においては、対象はヒトまたは哺乳動物である。幾つかの実施形態においては、医薬としての使用は、本発明によるBsABの有効量をそれを要するヒト対象に投与することによる、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の調節を含む。幾つかの実施形態においては、医薬としての使用は、本発明によるBsABの有効量をそれを要する対象に投与することによる、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の調節を含み、ここで、BsABは、骨形成活性を誘導しないか、および/または、rhBMP-9の等用量もしくはEC50より低い骨形成活性を誘導する。幾つかの実施形態においては、医薬としての使用は、本発明によるBsABの有効量を含む医薬組成物をそれを要する対象に投与することを含む。第4の態様による特定の実施形態においては、医薬としての使用は、併用療法(組合せ療法)を行うのに適した少なくとも1つの追加的な治療用物質、例えば、肺動脈の弛緩によって血圧を低下させるための物質、例えばCaアンタゴニスト、ETアンタゴニスト、PDE VインヒビターまたはsGC刺激物質を投与することを更に含む。
【0190】
第5の態様においては、血管疾患または肺高血圧の治療における使用のための、第1、第2または第3の態様によるBsABを提供する。
【0191】
幾つかの実施形態においては、血管疾患または肺高血圧の治療における使用は、対象の少なくとも1つの標的細胞におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達を増強またはレスキューすることを含む。幾つかの実施形態においては、少なくとも1つの標的細胞は、内皮細胞、例えば肺内皮細胞である。幾つかの実施形態においては、対象は哺乳動物である。幾つかの好ましい実施形態においては、対象はヒト患者である。幾つかの実施形態においては、血管疾患または肺高血圧の治療における使用は、本発明によるBsABの有効量を、それを要するヒト対象に投与することによる、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の調節を含む。幾つかの実施形態においては、血管疾患または肺高血圧の治療における使用は、本発明によるBsABの有効量をそれを要する対象に投与することによる、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の調節を含み、ここで、BsABは骨形成活性を誘導せず、および/またはrhBMP-9の等用量より低い骨形成活性を誘導する。幾つかの実施形態においては、血管疾患または肺高血圧の治療における使用は、本発明によるBsABの有効量を含む医薬組成物を、それを要する対象に投与することを含む。
【0192】
幾つかの実施形態においては、PHは肺動脈高血圧(PAH)である。幾つかの実施形態においては、PAHは1群PAHである。1群PAHは、例えば、特発性または原発性肺高血圧でありうるか、それらを含みうる。幾つかの実施形態においては、PHは特発性肺動脈高血圧(IPAH)である。また、1群PAHは、幾つかの実施形態においては、家族性高血圧でありうるか、それを含みうる。幾つかの実施形態においては、1群PAHは、慢性低酸素症に続発する肺高血圧を含みうるか、それでありうる。幾つかの実施形態においては、1群PAHは、結合組織疾患、先天性心疾患(シャント)、肺線維症、門脈圧亢進症、HIV感染、鎌状赤血球症、薬物および/または毒素(例えば、拒食症、コカイン慢性肺閉塞性疾患、睡眠時無呼吸および住血吸虫症)(これらに限定されるものではない)に続発する肺高血圧を含みうるか、それらでありうる。幾つかの実施形態においては、1群PAHは、有意な静脈または毛細血管の関与(肺静脈閉塞性疾患、肺毛細血管腫症)に関連した肺高血圧を含みうるか、それでありうる。幾つかの実施形態においては、1群PAHは、左心室機能不全の程度に比例しない続発性肺高血圧に関連した肺高血圧を含みうるか、それでありうる。幾つかの実施形態においては、1群PAHは新生児における持続性肺高血圧を含みうるか、それでありうる。幾つかの実施形態においては、対象はヒトである。幾つかの実施形態においては、対象は哺乳動物である。
【0193】
第6の態様においては、治療、例えば肺高血圧の治療における使用のためのBsABの適合性を試験するための方法であって、(i)ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性を評価する工程を含む方法を提供する。
【0194】
第6の態様による幾つかの実施形態においては、前記方法は、治療、例えば肺高血圧の治療における使用のためのBsABの適合性を試験するための方法であって、(i)ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性を評価する工程、および/または(ii)BsABの骨形成活性を評価する工程を含む。
【0195】
第6の態様による幾つかの実施形態においては、治療は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達の機能不全により特徴づけられる疾患、例えば肺高血圧の治療である。
【0196】
第6の態様による幾つかの実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、本明細書に記載されている適切な方法の1つにより行われる。
【0197】
第6の態様による幾つかの好ましい実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析することにより行われる。第6の態様によるこれらの好ましい実施形態の幾つかにおいては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化細胞系を使用することにより行われる。
【0198】
第6の態様による好ましい実施形態においては、(i)ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、(ii)所望により、ALK-2およびBSAに対するBsABの結合アフィニティを比較し、そして、(iii)適合するものとしてBsABを選択することを含む方法を提供し、ここで、BsABは、工程(i)に従い決定される二量体化を少なくとも促進し、所望により、工程(ii)に従い決定される、BSAに対するBsABsのアフィニティと同等以下のアフィニティでALK-2に結合する。
【0199】
第6の態様による好ましい実施形態においては、(i)ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、(ii)所望により、ALK-2およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、そして、(iii)適合するものとしてBsABを選択することを含む方法を提供し、ここで、BsABは、工程(i)に従い決定されるALK-1およびBMPR-2の二量体化を少なくとも促進し、所望により、工程(ii)に従い決定されるALK-2およびBMPR-2の二量体化を促進しない。
【0200】
第6の態様による好ましい実施形態においては、(i)ALK-1およびBMPR-2の二量体化を促進するBsABの能力を分析し、(ii)所望により、BsABの有効量の骨形成活性をBMP-9の有効量の骨形成活性と比較し、そして、(iii)適合するものとしてBsABを選択することを含む方法を提供し、ここで、BsABは、工程(i)に従い決定されるALK-1およびBMPR-2の二量体化を少なくとも促進し、所望により、工程(ii)に従い決定される、BMP-9の有効量より低い骨形成活性を示す。
【0201】
PathHunter U2OS ALK-1/BMPR-2二量体化アッセイを使用してBsABのEC50が決定されうる場合、BsABは、治療、例えば肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。しかし、PathHunter U2OS ALK-1/BMPR-2二量体化アッセイによってEC50が決定できない場合でも、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性をアッセイするための本明細書に記載の代替方法がBsABに対する有意なアゴニスト活性を示すのであれば、本発明によるBsABは尚も適切でありうる。U2OS ACVRL1/BMPR-2二量体化アッセイにおいて、本発明による二重特異性抗体のEC50がBMP-9のEC50以上である場合、BsABは、治療、特に肺高血圧の治療における使用に特に適しているとみなされる。
【0202】
第6の態様によるもう1つの好ましい実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、本発明の第2の態様に関して記載されているとおり、SMAD1/SMAD5リン酸化に関するアッセイにより行われる。
【0203】
BsABまたは化合物は、前記抗体または化合物の有効量がSMAD1および/またはSMAD5のリン酸化を誘導する場合、治療、例えば肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。例えば、SMAD5のリン酸化に対するrhBMP-9の有効量は1ng/mlおよび10ng/mlである(
図2を参照されたい)。
【0204】
BsABの有効量が内皮細胞系におけるSMAD1の誘導および/またはSMAD5リン酸化を招き、これが、rhBMP-9の有効量での処置の際に生じる誘導に匹敵する場合、BsABまたは化合物は、治療、例えば肺高血圧における治療における使用に特に適しているとみなされる。注目すべきことに、BsABとBMP-9との必要濃度は互いに大きく異なりうる。
【0205】
第6の態様によるもう1つの好ましい実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、初代内皮細胞、例えばHPAEC、HAoEC、HCAECまたはHMVEC-L細胞(実施例6に記載されているとおり)を使用してBsABの抗アポトーシス活性を分析することにより行われる。
【0206】
BsABの有効量が内皮細胞のアポトーシス指数を低減する場合、BsABまたは化合物は、治療、例えば肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。幾つかの実施形態においては、内皮細胞は、HPAEC、HAoEC、HCAECおよびHMVEC-L細胞を含む群から選択される。
【0207】
少なくとも1つの内皮細胞系においてアポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)の低減を招くBsABは、肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。
【0208】
少なくとも1つの内皮細胞系においてアポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)の低減を招く本発明のBsABは、該低減が、BMP-9での処置により誘導される低減に匹敵する場合、肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。
【0209】
第6の態様によるもう1つの好ましい実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、インビトロまたはインビボでの内皮バリア機能の保存を分析するためのアッセイを使用することにより行われる。
【0210】
幾つかの実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、実施例7に記載されているアッセイにより行われる。幾つかの実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、実施例8に記載されている敗血症マウスモデルにおける内皮バリアの評価により行われる。幾つかの実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、実施例9に記載されているモノクロタリン誘発性肺高血圧ラットモデルを使用して行われる。幾つかの実施形態においては、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABのアゴニスト活性の評価は、実施例10に記載されているsugen/低酸素症誘発肺高血圧ラットモデルを使用して行われる。
【0211】
BsABが、前記アッセイのいずれかに基づいて、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するアゴニスト活性を有するとみなされる場合、BsABは肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。
【0212】
第6の態様による好ましい実施形態においては、BsABの骨形成活性の評価は、本明細書に記載されている方法のいずれか1つにより行われる。
【0213】
第6の態様による好ましい実施形態においては、BsABの骨形成活性の評価は、C2C12アッセイを使用することにより行われる。
【0214】
所定濃度のBsABで処理されたC2C12細胞が、同じ濃度のrhBMP-9で処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有し、ここで、前記所定濃度がrhBMP-9のEC50である場合、BsABは、治療における、例えば肺高血圧の治療における使用に適していないとみなされる。
【0215】
rhBMP-9のEC50で処理されたC2C12細胞が、同じ濃度のBsABで処理されたC2C12細胞より高いアルカリホスファターゼ(ALP)活性を有することにより特徴づけられる場合、BsABは、治療、例えば肺高血圧の治療における使用に適しているとみなされる。
【0216】
第7の態様においては、態様1、2、3、4または5のいずれか1つによるBsABと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、予防用成分を包含する1以上の更なる治療用成分をも含有しうる。担体は、製剤のその他の成分に適合し、その被投与者に有害でないという意味で「許容される」ものでなければならない。第7の態様による1つの実施形態においては、予防用成分を包含する前記の1以上の更なる治療用成分は、肺動脈の弛緩によって血圧を低下させる少なくとも1つの物質である。
【図面の簡単な説明】
【0217】
【
図1】
図1は、内皮細胞における内皮ALK-1/BMPR-2を選択的に活性化する抗体の概要図である。ALK-2/BMPR-2を発現する他の細胞型においては、ALK-2シグナル伝達は活性化されない。
【
図2】
図2は、培養ヒト肺内皮細胞(HPAEC)においてインビトロで組換えヒトBMP-9(rhBMP-9)がSMAD1および/または5リン酸化(それぞれpSmad1およびpSmad5)を誘導したことを示す。示されている濃度のBMP-9を細胞培養培地に加え、2時間後に細胞溶解を行い、ついでウエスタンブロット分析を行った。ベータアクチン染色をローディング対照として用いた。
【
図3】
図3は組換えヒトBMP-9(rhBMP-9)での処置の後のヒト肺内皮細胞(HPAEC)におけるインビトロでのアポトーシスの低減を示す。HPAECを5ng/ml rhBMP-9と共に16時間インキュベートした。10ng/ml TNFαおよび20μg/ml シクロヘキシミド(CHX)を加え、4時間後、ApoOne/CTBアッセイ(Promega)を製造業者の指示に従い使用して細胞アポトーシスを測定した。
【
図4】
図4は、LPSにさらされたHPAEC単層の電気抵抗に対するヒトBMP-9の効果を示す。400ng/ml LPSはBMP-9の非存在下で電気抵抗を低下させ、したがって内皮バリア機能を低下させるが、20ng/ml BMP-9と1時間プレインキュベートした場合には、HPAECに影響を及ぼさない。
【
図5】
図5は、トロンビンにさらされたHPAEC単層の電気抵抗に対するヒトBMP-9(BMP-9)の効果を示す。20ng/ml BMP-9は、電気抵抗に対する、したがってHPAEC単層の内皮バリア機能に対する0.5U/ml トロンビンの効果を有意に低減した。
【
図6】
図6は敗血症のマウスモデルの気管支肺胞洗浄液(BALF)における白血球(WBC)数に対するBMP-9の効果を示す。5mg/kg LPSの単回腹腔内注射の48時間後に気管支肺胞洗浄を行った。毎日の100ng/動物のBMP-9での処置をLPS注射の1時間前に開始した(LPS + BMP-9)。LPSの投与を受けたがBMP-9(LPS)での処置を受けなかった動物には、LPS投与の1時間前からビヒクル(PBS)を毎日腹腔内注射した。対照動物(対照)はLPSの投与もBMP-9の投与もビヒクルの投与も受けなかった。
*:p<0.05;対LPS(一元配置分散分析、フィッシャーのLSD検定);平均±SEM、n=6~7。BMP-9は肺内皮細胞におけるバリア機能を回復させ、BMP-9は、インビボマウス敗血症モデルにおいて、肺内への白血球のLPS誘発性移行を低減する(100ng BMP-9、1時間後に5mg LPS/kg ip、LPSの48時間後にBAL)。
【
図7】
図7は、ヘテロ二量体ヒトIgG Fcに連結された2つの単一特異性抗体scFvフラグメントが組合されたscFv-Fc(kih)構築物の概要図である。白:BMPR-2に特異的なscFv、灰色:ALK-1に特異的なscFv、黒:陰影付き円により表されるノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)変異を有するヒトIgG Fcドメイン。
【
図8】
図8は、DiscoverX Corporation(カタログ番号93-0962C3)から入手したPathHunter U2OS ALK-1/BMPR-2二量体化細胞アッセイにおけるアゴニスト性BsAbs TPP-14669およびTPP-14719の結果を示す。
【
図9】
図9は、ALK-2/BMPR-2受容体と比較したALK-1/BMPR-2受容体複合体の選択性データを示し、ここで、アゴニスト抗体の特異性はELISAにより評価されている。抗原ヒトALK-1-FcおよびヒトALK-2-Fcを2μg/mlでコーティングし、TPP-14696およびTPP-14719の結合を抗ヒトIgG2(Fc特異的)抗体(Sigma I9513)により検出し、ついで抗マウスIgG(全分子)-HRP(Sigma A9044、1:40000)により検出した。
【表1】
【0218】
実施例
実施例1 BMPR-2およびALK1に対する結合体の特定:
BioInvent抗体ライブラリーからの抗体作製
完全ヒト抗体ファージ提示ライブラリー(BioInvent n-CoDeR FabラムダおよびscFvラムダライブラリー)を使用して、可溶性ビオチン化抗原に対する選択により、本発明のヒトモノクローナル抗体を単離した。以下のプロトコルを両方のライブラリに適用した。ストレプトアビジン結合ダイナビーズ(Dynabeads)M-280(Invitrogen(商標)をビオチン化抗原(1チューブ)およびビオチン化オフターゲット(off-target)(3チューブ)でそれぞれ室温(RT)で1時間コーティングした。ダイナビーズを洗浄し、ついで、転倒回転(end-over-end rotation)させながら室温で1時間ブロッキングした。オフターゲット結合体の枯渇のために、ブロッキングされたファージライブラリを、ブロッキングされたオフターゲットがローディングされたダイナビーズに添加し、転倒回転させながら室温で10分間インキュベートした。この枯渇工程を2回繰り返した。枯渇したファージライブラリーを、ブロッキングされたターゲットがローディングされたダイナビーズに加え、転倒回転させながら室温で60分間インキュベートした。ストリンジェントな洗浄[ブロッキングバッファー中で3回およびPBS(150mM NaCl;8mM Na2HPO4;1.5mM KH2PO4;pH=7.4~7.6に調整)(0.05% Tween-20の存在下)中で9回]の後、コーティングされた標的に特異的に結合するFabファージを含有するダイナビーズを直接使用して、大腸菌(Escherichia coli)株HB101に感染させた。ついで、M13KO7ヘルパーファージ(Invitrogen(商標))を使用して、大腸菌株HB101においてファージを増幅した。次の選択ラウンドにおいて、標的濃度を減少させて、高アフィニティ結合体のための選択圧を増加させた。最初の定性評価においては、各クローンプールに関して、ランダムに選択された88個のFabファージクローンのモノクローナル培養および発現を行い、ついで、パンニングに予め使用されたそれぞれの標的への結合を試験した。特定の例においては、「結合体」は、少なくとも非結合性対照Fab-ファージ分子の平均シグナル強度に標準偏差の10倍を加えたシグナル強度をELISAアッセイにおいて示すFab-ファージ分子である(非標的結合性Fabファージの、平均 + 10×標準偏差)。次の工程において、ALK-1およびBMPR-2パンニングクローンプールに由来する39744および38272クローンのVHおよびVLをそれぞれ配列した。望ましくない配列の特徴および停止コドンを有するクローンを除去した。異なるアミノ酸配列を有する4483および1059 VH/VLの組合せが、それぞれ、ALK-1およびBMPR-2パンニングプール由来のクローンに関して見出された。それぞれのVH/VLの異なる配列の組合せに関して、最大4つの代表的クローンを選択し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)で検査した。ALK-1パンニングクローンプールに由来するクローンの場合、標的であるヒトALK-1およびマウスALK-1、ならびにオフターゲット(標的外)であるヒトROR1-Fc(配列番号113)への結合を測定した。BMPR-2パンニングクローンプールに由来するクローンの場合、標的であるヒトBMPR-2、およびオフターゲットであるヒトROR1-Fcへの結合を測定した。その目的のために、ストレプトアビジンでコーティングされた384ウェルプレートを、まず、それぞれのタンパク質でコーティングした。ついで、プレートを洗浄し、そして、スクリーニングされる抗体フラグメントを発現するように形質転換された大腸菌(E.coli)培養物からの可溶性scFv、可溶性Fabまたはファージ上Fab(Fab-on-Phage)を含む上清と共にインキュベートした。ついで、結合していない抗体フラグメントは洗浄により除去した。次に、検出用の西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体を使用して、プレートに結合した抗体フラグメントを検出した。異なるVH/VLアミノ酸配列の組合せを有し、ヒトおよびマウスのALK-1に特異的に結合する200個のクローンを特定した。異なるVH/VLアミノ酸配列の組合せを有し、ヒトBMPR-2に特異的に結合する388個のクローンを特定した。
【0219】
実施例2 受容体結合活性/抗体の生化学的特性の評価
受容体結合活性は、野生型BMPの活性を評価するのに適した任意の方法を用いて評価されうる。1以上のBMP受容体に対するBsAbのアフィニティは受容体結合アッセイにより決定されうる。例えば、ALK-2、ALK-3、ALK-6、ActRll、ActRllbまたはBMPRllに対するアフィニティが決定されうる。適切な結合アッセイには、ELISA、蛍光異方性および強度、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、Biacore(Pearceら,Biochemistry 38:81-89(1999))、DELFIAアッセイ、ならびにAlphaScreen(商標)(PerkinElmer;Bosse R.,Illy CおよびChelsky D(2002))が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0220】
例えば、Biacoreまたは表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いる(McDonnell,Gurr.Opin.Chem.Biol.5:572-577(2001))。受容体またはBsAbを蛍光色素で標識することにより、蛍光アッセイが容易に開発されうる。加えて、受容体結合アフィニティを決定するために、シンチレーション近接アッセイ(SPA)が用いられうる。
【0221】
シリーズSセンサーチップ(Series S Sensor Chips)CM5(GE Healthcare Biacore,Inc.)を備えたBiacore T200装置(GE Healthcare Biacore、Inc.)を使用して、定量的結合分析のためのSPR実験を行った。アッセイバッファーHBS-EP+(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05% Surfactant P20)を使用して、25℃で結合アッセイを行った。抗原を、アミンカップリング化学法によりチップ表面に共有結合で固定化した。パンニングおよびスクリーニング中に本発明の抗体を単離するために既に使用したのと同じタンパク質[マウスALK-1-Fc配列番号114、ヒトALK-1-Fc配列番号116およびBMPR-2-Fc配列番号115(ヒト体とマウス体との細胞外部分は同一)]を、KD値を決定するためのアナライトとしてここで使用した。アミンカップリング用試薬(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、エタノールアミン-HCl pH8.5)は、アミンカップリングキット(Amine Coupling Kit)(GE Healthcare、製品コードBR-1000-50)からのものを使用した。センサーチップ表面は、0.2M EDCおよび0.05M NHSの新たに調製した溶液をセンサーチップ表面上に10μl/分の流量で420秒間通過させて活性化し、ついで抗原(固定化バッファー、10mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)中、0.5μg/mlに溶解)を50RUの目標値で注入した。1モル濃度溶液のエタノールアミンを10μl/分の流量で420秒間注入することにより、過剰な活性化基をブロッキングした。
【0222】
速度論およびアフィニティを決定するために、1.56nM~200nMの一連の濃度の抗体を固定化抗原上に30μl/分の流速で180秒間注入し、解離を10分間モニターした。1回のアナライトの注入からなる各アッセイサイクルの後、再生溶液(グリシン-HCl pH1.5)でセンサー表面を20秒間再生させた。
【0223】
得られたセンサーグラムを二重参照(double-reference)(参照セル補正およびそれに続くバッファーサンプル減算)した。Biacore評価ソフトウェアパッケージ(Biacore T200 Evaluation Software Version 2.0,GE Healthcare Biacore,Inc.)において実装された1次1:1ラングミュア結合モデルを使用する大域(globally)フィッティングセンサーグラムにより得られた解離(kd)速度定数および結合(ka)速度定数の比に基づいて、KD値を計算した。
【0224】
2つのBMPR2ならびに2つのマウスおよびヒトAlk1 x反応性結合体を表1に例示として示す。
【表2】
【0225】
実施例3:scFv-Fc(kih)形態でのBsAbの構築および発現
最初の工程において、標的BMPR-2およびALK-1に対するBioInvent n-CoDeR FabラムダおよびscFvラムダライブラリーから得た全ての結合体を、標準的な組換えDNA技術(Sambrook,J.ら編,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(2d Ed.1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY.Vols.1-3)を用いて、1つの適合scFv形態に変換した。VH配列を、15アミノ酸(GGGGS)
3リンカーにより、それぞれの結合性結合体のVL配列に連結した。ついで、ALK-1に対する、生じた全てのscFv結合ドメインを、ノブ(knob)変異を含有するヒトIgG Fcドメインに融合させ、一方、全てのBMPR-2 scFv結合ドメインを、ホール(hole)変異を含有するヒトIgG2 Fcドメインに融合させた。scFv結合ドメインを、配列GG GGSGGGGSGG GGSGを介して、それぞれのFcヘテロ二量体化ドメインに連結する(
図7)。ALK-1 scFv-リンカー-Fc(ノブ)およびscFv-リンカー-Fc(ホール)結合性構築物の両方を、HEK293E細胞内での発現のためにベクターpTT5内にクローニングした。それぞれのALK-1特異的ノブ構築物をそれぞれのBMPR-2特異的ホール構築物と組合せることにより、ALK-1およびBMPR-2に結合するBsAbの組合せセットを作製し、ついで、これを潜在的アゴニストペアに関してスクリーニングした。
【0226】
実施例4 アゴニスト活性の評価:
ALK 1およびBMPR-2を発現する組換え細胞におけるBsABのアゴニスト活性
本発明の分子を潜在的アゴニスト活性に関して試験するために、DiscoverX Corporationから入手したPathHunter U2OS ALK 1/BMPR-2二量体化細胞(カタログ番号93-0962C3)を使用した。細胞播種、細胞培養、細胞培養培地刺激培地に必要な全ての製品は、DiscoverX Corporationから入手した。細胞の取り扱いおよび潜在的アゴニスト活性に関する分子の試験は、製造業者の説明に従い行った。シグナル強度の増加(例えば、天然リガンドBMP-9に匹敵するもの)をもたらす分子は、ALK-1/BMPR-2の二量体化を強く促進する。シグナル強度の増加(例えば、天然リガンドBMP-9に匹敵するもの)をもたらす分子は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。スクリーニングした1240個の二重特異性物質のうちの36個の分子がシグナル強度の増加をもたらし、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされた。
図8に、アゴニスト性BsABであるTPP-14669およびTPP-14719の結果を表2における分子組成の概要と共に示す。
【表3】
【0227】
実施例5 アゴニスト活性の評価:
初代内皮細胞を使用したBsABsアゴニスト活性の測定
BsAbのアゴニスト活性を試験するために使用される初代ヒト内皮細胞は、PromoCell GmbHまたはLonza(ロンザ)(Verviers,Belgium)から入手される。PromoCell GmbH:ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)(カタログ番号C-12241);ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(カタログ番号C-12203);ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)(カタログ番号C-12271);ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)(カタログ番号C-12221);Lonza(Verviers,Belgium):ヒト肺動脈内皮細胞(カタログ番号HPAEC)(CC-2530);ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC-L)(カタログ番号CC-2527)。
【0228】
BMP-9はALK-1/BMPR-2シグナル伝達の天然活性化因子であるので、全ての試験は、組換えヒトBMP-9を参照体として使用して行われる。その方法の以下の説明に従い、BMP-9は、肺動脈高血圧の病因に関与する内皮細胞型であるHPAECにおいて、Smad1/5のリン酸化を示した(
図2)。
【0229】
製造業者の説明に従い細胞を培養する。全ての培地および試薬はPromocellまたはLonzaから入手される。BsABのアゴニスト活性を分析するために、細胞を6ウェルマイクロタイタープレート内に播種する。1日間の増殖の後、培地を0.1%のウシ胎児血清を含有する飢餓培地と交換し、細胞を更に24時間培養する。この後、細胞を、種々の濃度のBMP-9および種々の濃度のBsABと共に2~4時間インキュベートする。タンパク質ライセートの調製のために、1×停止プロテアーゼおよびホスファターゼインヒビターカクテル(100×停止プロテアーゼおよびホスファターゼインヒビターカクテル、Thermo Scientific、カタログ番号78440)を含有する1×RIPAバッファー(10×RIPAバッファー、Abcam、カタログ番号ab156034)中で細胞を細胞溶解させる。粗タンパク質抽出物の調製は、製造業者のプロトコルに従い行う。タンパク質サンプルをドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)により分離し、分離されたタンパク質をニトロセルロース膜上に転写(トランスファー)し、BMP-9依存性シグナル伝達分子SMAD-1およびSMAD-5のリン酸化状態を、特異的抗ホスホSMAD-1および抗ホスホSMAD-5抗体(NEB、Smad 1/5/9抗体サンプラーキット、カタログ番号12656T)を使用して分析する。天然リガンドBMP-9に匹敵する、内皮細胞におけるSMAD1またはSMAD5リン酸化の誘導をもたらす分子は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。
【0230】
実施例6 アゴニスト活性の評価:
初代内皮細胞を使用したBsABs抗アポトーシス活性の測定
BsAbのアゴニスト活性を試験するために使用される初代ヒト内皮細胞はPromoCell GmbHまたはLonza(ロンザ)(Verviers,Belgium)から入手される。PromoCell GmbH:ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)(カタログ番号C-12241);ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(カタログ番号C-12203);ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)(カタログ番号C-12271);ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)(カタログ番号C-12221);Lonza(Verviers,Belgium):ヒト肺動脈内皮細胞(カタログ番号HPAEC)(CC-2530);ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC-L)(カタログ番号CC-2527)。
【0231】
BMP-9はALK-1/BMPR-2シグナル伝達の天然活性化因子であるので、一般に、全ての試験は、BMP-9を参照体として使用して行われる。その方法の以下の説明に従い、BMP-9はHPAECにおけるアポトーシス指数を減少させた(
図3)。
【0232】
製造業者の説明に従い細胞を培養する。全ての培地および試薬はPromoCellまたはLonzaから入手される。BsABのアゴニスト活性を分析するために、1日間の増殖の後、培地を0.1%のウシ胎児血清を含有する飢餓培地と交換し、細胞を更に24時間培養する。この後、細胞を種々の濃度のBMP-9および種々の濃度のBsABと共に一晩インキュベートする。最後に、ApoOne/CTBアッセイ(Promega)を製造業者の説明に従い使用して、内皮細胞のアポトーシス指数を決定する。天然リガンドBMP-9に匹敵する、内皮細胞におけるアポトーシス指数(生細胞当たりのカスパーゼ3/7活性)の低下をもたらす分子は、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。例えば、アポトーシスを誘導し、そして該効果がBsABの有効量の添加によりレスキューされうるかどうかを判定するために、細胞をTNFαおよびシクロヘキシミド(CHX)と共に4時間インキュベートすることが可能である。
【0233】
実施例7 アゴニスト活性の評価:
インビトロでの内皮バリア機能の保存の測定
BsAbのアゴニスト活性を試験するために使用される初代ヒト内皮細胞はPromoCell GmbHまたはLonza(ロンザ)(Verviers,Belgium)から入手される。PromoCell GmbH:ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)(カタログ番号C-12241);ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(カタログ番号C-12203);ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)(カタログ番号C-12271);ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)(カタログ番号C-12221);Lonza(Verviers,Belgium):ヒト肺動脈内皮細胞(カタログ番号HPAEC)(CC-2530);ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC-L)(カタログ番号CC-2527)。
【0234】
BMP-9はALK-1/BMPR-2シグナル伝達の天然活性化因子であるので、前記のとおり、全ての試験は、BMP-9を参照体として使用して行われる。その示された方法の以下の説明に従い、LPS(リポ多糖)(
図4)またはトロンビン(
図5)はいずれもHPAEC(Lonza)の電気抵抗(内皮バリア機能を測定するものである)を低下させたが、BMP-9は内皮バリア機能を保存した。
【0235】
製造業者の説明に従い細胞を培養する。全ての培地および試薬はPromocellまたはLonzaから入手される。内皮細胞を、金微小電極(例えば、ECIS 8W10E+)を含有する1% ゼラチンコート化バイオチップ上に播く。播種後の第2日に、ビヒクル、BMP-9またはBsABの存在下、細胞を1時間血清飢餓状態にする。ついで電気セル-基板インピーダンスセンシングシステム(electric cell-substrate impedance sensing system)(例えば、ECIS,Applied Biophysics,Troy,NY,USA)を使用して、4000Hzの周波数で電気抵抗を測定する。ビヒクル(veh)、BMP-9またはBsABの存在下でベースライン電気抵抗を1時間測定した後、それぞれ内皮細胞層のバリア機能を損なうLPS、トロンビンまたは内皮透過性を高める他の物質を細胞培地に加える。内皮バリア機能に対するBsABの効果を、ビヒクルおよびBMP-9と比較する。内皮単層の内皮電気抵抗、したがって内皮バリア機能をBMP9様で保存するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。
【0236】
実施例8 アゴニスト活性の評価:
敗血症マウスモデルにおける内皮バリア機能の測定
BMP-9はALK-1/BMPR-2シグナル伝達の天然活性化因子であるので、前記のとおり、全ての試験は、BMP-9を参照体として使用して行われる。その方法の以下の説明に従い、BMP 9は、マウス敗血症モデルにおける肺に浸潤する白血球の数を減少させた。(
図6)。
【0237】
6~8週齢、体重18~22gの雄BALB/cAnNマウス(Charles River Laboratories,Sulzfeld,Germany)をイソフルラン(5% v/v)でチャンバー内で麻酔する。全身性炎症(敗血症)を誘発するための5mg/kg LPSの腹腔内注射の1時間前に、動物に、BsAB、100ng/動物のBMP 9またはビヒクルの腹腔内注射を行う。対照動物は未処置のままである。BMP 9の公知半減期に基づいて、BMP 9で処置された動物は、最初の投与の24時間後および48時間後に更に100ng/動物の投与を受ける。ビヒクルの投与を受けた動物は毎日のビヒクルの注射も受ける。BsABの薬物動態プロファイルに応じて、動物は最初の注射の24時間後および/または48時間後にBsABの注射を、更に受けるまたは受けない。BsABの最初の注射が該試験全体にわたって効率的なレベルをもたらす場合、動物は代わりにビヒクルの投与を受ける。LPSの適用から48時間後、BMP 9、ビークルまたはBsAB/ビヒクルの最後の注射からそれぞれ1時間後、マウスを、ケタミン/ロンプン(200mg/kgおよび20mg/kg ip)による深麻酔および最終的な放血により犠死させる。気管にカニューレを挿入し、動物の肺を、3回(毎回、0.5mlの氷冷0.9%生理食塩水で)洗浄する(気管支肺胞洗浄液、BALF)。BALFにおける白血球数を細胞計数器またはFACS装置で自動的に計数する。BALFの総タンパク質含有量を、測光標準プロトコルを用いて決定する。肺内への白血球の浸潤またはタンパク質の漏出をBMP 9と同様に低減するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。
【0238】
実施例9 インビボでのアゴニスト活性の評価:
ラットにおけるモノクロタリン誘発性肺高血圧におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABs活性の測定
体重250~280gの成体雄Sprague-DawleyラットをCharles River Laboratories(Sulzfeld,Germany)から購入する。ラットはイソフルラン麻酔(2% v/v)下で60mg/kg MCT(Sigma-Aldrich Chemie GmbH,Munchen,Germany)の1回の皮下注射を受ける。したがって、MCTを1M HCl水溶液に溶解し、生理食塩水で希釈し、1M NaOH水溶液でpH7.4に中和して、ラット当たり最終注射量を0.5mlにする。MCT注射の14日後、動物を、第28日の最終血行動態分析の日までBsABまたはBMP-9またはビヒクルのいずれかで14日間処置されるように無作為化する。対照動物は未処置のままにする。BMP 9の公知半減期に基づいて、動物は750ng/動物の毎日の腹腔内注射を受ける。ビヒクルの投与を受けた動物は毎日のビヒクルの注射も受ける。BsABで処置された動物は、その薬物動態プロファイルに応じて注射を受ける(前記を参照されたい)。BsABの注射の必要頻度が毎日より低い場合、注射の回数が各処置群において同一になることが保証されるように、動物は代わりにビヒクルの投与を受ける。MCTの注射後の第28日に、ラットをペントバルビタール(60mg/kg ip)で麻酔する。気管切開後、人工換気の条件下、イソフルラン(1.8% v/v)の吸入により麻酔を維持する。FiO2を0.5に、呼吸量を60ストローク/分で10ml/kgに、吸気と呼気との比を1:1に、そして、呼気終末陽圧を1.0cm H2Oに設定する。制御された加熱パッドを使用して、中心体温を37℃に維持する。ミラー(Millar)マイクロチップカテーテルを左頸動脈に挿入して、心拍数および全身動脈圧を測定する。右心室圧を測定するために、流体で満たされたポリエチレンカテーテルを右頸静脈を介して右心室内に挿入する。全ての血行力学的測定を、チャート(Chart)5.0ソフトウェアを使用するPowerLabシステムで行った。血漿proBNPの測定のために、EDTA血漿サンプルを採取した。動物の最終放血後、右心室および左心室(後者は中隔を含む)を秤量して、右心室と左心室との質量比を計算して、右心室肥大を判定する。右心室圧、右心室肥大および/または血漿proBNPレベルをそれぞれBMP-9と同様に低減するBsABは、ALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対する強力なアゴニスト効果を有するBsABとみなされる。
【0239】
実施例10 インビボでのアゴニスト活性の評価:
ラットにおけるSugen/低酸素症誘発性肺高血圧におけるALK-1/BMPR-2シグナル伝達に対するBsABs活性の測定
体重160~180gの成体雄Dahl/SSラットをCharles River Laboratories(Sulzfeld,Germany)から購入する。ラットはイソフルラン麻酔(2% v/v)下で20mg/kgのVEGFRインヒビターSU5416の1回の皮下注射を受ける。注射直後、動物を低酸素条件(10% O2)下で次の4週間および正常酸素条件下で更に2週間飼育する。SU5416注射の14日後、動物を、第42日の最終血行動態分析の日までBsABまたはBMP-9またはビヒクルのいずれかで28日間処置されるように無作為化する。対照動物は未処置のままにする。BMP-9の公知半減期に基づいて、動物は750ng/動物の毎日の腹腔内注射を受ける。ビヒクルの投与を受けた動物は毎日のビヒクルの注射も受ける。BsABで処置された動物は、その薬物動態プロファイルに応じて注射を受ける(前記を参照されたい)。BsABの注射の必要頻度が毎日より低い場合、注射の回数が各処置群において同一になることが保証されるように、動物は代わりにビヒクルの投与を受ける。第42日に、ラットをペントバルビタール(60mg/kg ip)で麻酔する。気管切開後、人工換気の条件下、イソフルラン(1.8% v/v)の吸入により麻酔を維持する。FiO2を0.5に、呼吸量を60ストローク/分で10ml/kgに、吸気と呼気との比を1:1に、そして、呼気終末陽圧を1.0cm H2Oに設定する。制御された加熱パッドを使用して、中心体温を37℃に維持する。ミラー(Millar)マイクロチップカテーテルを左頸動脈に挿入して、心拍数および全身動脈圧を測定する。右心室圧を測定するために、流体で満たされたポリエチレンカテーテルを右頸静脈を介して右心室内に挿入する。全ての血行力学的測定を、チャート(Chart)5.0ソフトウェアを使用するPowerLabシステムで行う。血漿proBNPの測定のために、EDTA血漿サンプルを採取した。動物の最終放血後、右心室および左心室(後者は中隔を含む)を秤量して、右心室と左心室との質量比を計算して、右心室肥大を判定する。右心室圧および/または右心室肥大および/または血漿proBNPレベルをBMP-9と同様に低減するBsABは強力なBsABとみなされる。
【0240】
実施例11 BsAbのALK-1/BMPR-2特異性の評価
ALK-2/BMPR-2受容体と比較したALK-1/BMPR-2受容体複合体に対する選択性を決定するために、アゴニスト性抗体の特異性をELISAにより評価した(
図9)。抗原ヒトALK-1-FcおよびヒトALK-2-Fcを2μg/mlでコーティングし、TPP-14696およびTPP-14719の結合を抗ヒトIgG2(Fc特異的)抗体(Sigma I9513)により、ついで抗マウスIgG(全分子)-HRP(Sigma A9044、1:40000)により検出した。
【0241】
実施例12 BsAbの骨形成活性の評価
アゴニスト性分子の潜在的な骨形成活性を試験するために、マウス筋芽細胞系C2C12(ATCC、カタログ番号CRL-1772)を使用する。このために、細胞を製造業者の説明に従い培養する。
【0242】
骨形成活性の測定のために、細胞を5000細胞/ウェルの細胞密度で96ウェルプレート内に播く。24時間後、0.25%のFCS(Invitrogen、カタログ番号10082-147)を含有するDMEM培地(Invitrogen、カタログ番号61965-059)内で細胞を更に20時間飢餓状態にする。この飢餓時間の後、細胞を種々の濃度のBMP-9およびBsABでそれぞれ72時間処理する。前記のとおりに処理されたC2C12細胞におけるBMP-9およびBsAB誘発性アルカリホスファターゼ(ALP)活性の測定には、アルカリホスファターゼアッセイキット(Abcam、カタログ番号ab83369)を使用する。これにより、サンプルの調製およびALP活性の測定を製造業者の説明に従い行う。DiscoverX PathHunter細胞および初代内皮細胞においてはアゴニスト活性を示すが、C2C12細胞系においては何らの活性も示さないBsABは、ALK-1/BMPR-2に対して選択的な強力なアゴニスト活性を有するBsABとみなされる。
【配列表】