(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】2液混合型接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 4/00 20060101AFI20240209BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20240209BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240209BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240209BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C09J4/00
C09J4/02
C09J175/04
C09J11/06
C09J11/04
(21)【出願番号】P 2020557633
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045658
(87)【国際公開番号】W WO2020110911
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018221724
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230397
【氏名又は名称】株式会社イーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】森次 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】宮田 高浩
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-510845(JP,A)
【文献】国際公開第2009/047962(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/029938(WO,A1)
【文献】特開2013-138194(JP,A)
【文献】米国特許第04540738(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1組成物と第2組成物とを備える2液混合型接着剤であって、
上記第1組成物が、オルガノボラン及びイソシアネート基に付加反応する第1基を有する第1化合物に由来する錯体と、複数個のヒドロキシ基を有する第2化合物とを含有し、
上記第2組成物が、複数個のイソシアネート基を有する第3化合物と、重合性基を有する第4化合物と、脱水剤とを含有
し、
上記第2組成物中の第4化合物の質量をXとし、上記第1組成物中の第2化合物及び上記第2組成物中の第3化合物の合計質量をYとしたとき、X/(X+Y)の値が0.4以上0.7以下であり、
上記第2組成物中の第4化合物の質量に対する上記第1組成物中の錯体の質量の比が0.001以上0.03以下であることを特徴とする2液混合型接着剤。
【請求項2】
上記第2化合物が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリブタジエンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
1に記載の2液混合型接着剤。
【請求項3】
上記第3化合物が、芳香族系若しくは脂肪族系ポリイソシアネート、及びこれらのポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物である複数個のイソシアネート基を末端に有するプレポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
1又は請求項
2に記載の2液混合型接着剤。
【請求項4】
上記第4化合物の重合性基が、(メタ)アクリロイル基である請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項5】
上記脱水剤が、ゼオライトである請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項6】
上記第1組成物が、重合性基を有する化合物を実質的に含有しない請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項7】
上記第1化合物の上記第1基がアミノ基である請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項8】
上記第1組成物が、ウレタン化触媒をさらに含有する請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項9】
上記第2組成物が、重合禁止剤をさらに含有する請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の2液混合型接着剤。
【請求項10】
上記重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤及びフェノチアジン系重合禁止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
9に記載の2液混合型接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液混合型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境問題に対処すべく、自動車等の軽量化が要求されており、そのため樹脂材料を用いることが進められている。この樹脂材料は、樹脂材料どうしの接合、又は金属等の異種材料との接合に、接着剤を用いることが必要となる。しかし、樹脂材料のうち、リサイクル及びコストの面で優れるポリプロピレン等は、接着剤による接着が難しい材料である。
【0003】
このような難接着材料を接着できるものとして、近年、オルガノボラン錯体を用いた接着剤が検討されている(特表平11-512123号公報及び国際公開第2012/160452号公報参照)。この接着剤は、一方の組成物にオルガノボラン及びイソシアネート基に付加反応する基を有する化合物に由来する錯体を含有させ、他方の組成物に、イソシアネート基及び重合性基を有する化合物を含有させるものである。この接着剤によれば、接着の際に2つの組成物を混合することにより、イソシアネート基に付加反応する基を有する化合物と、イソシアネート基及び重合性基を有する化合物とが反応することにより、ラジカル重合開始能を有するオルガノボランが遊離し、接着剤成分を硬化させ接着させることができる。この場合、遊離したオルガノボランと酸素分子とから生じるラジカルが、ポリプロピレン等の難接着性材料の表面を改質することができるので、プラズマ処理等を行わなくても、優れた接着性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平11-512123号公報
【文献】国際公開第2012/160452号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような接着剤には、柔軟な基材に対して接着する場合や、特に熱膨張係数が異なる等、異種材料を接着する場合には、形成される接着層が柔軟性に優れることが求められる。しかし、接着層の柔軟性を高めようとすると、接着層の強度が低くなるためか、通常、接着強度は低下する傾向にある。また、上記従来の接着剤は、保存安定性が未だ不十分であるという不都合がある。
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、接着強度を維持しつつ柔軟性に優れる接着層を形成することができ、かつ保存安定性に優れる2液混合型接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、第1組成物(以下、「組成物(I)」ともいう)と第2組成物(以下、「組成物(II)」ともいう)とを備える2液混合型接着剤であって、上記組成物(I)が、オルガノボラン及びイソシアネート基に付加反応する第1基(以下、「基(X)」ともいう)を有する第1化合物(以下、「化合物(a)」ともいう)に由来する錯体(以下、「[A]錯体」ともいう)と、複数個のヒドロキシ基を有する第2化合物(以下、「[B]化合物」ともいう)とを含有し、上記組成物(II)が、複数個のイソシアネート基を有する第3化合物(以下、「[C]化合物」ともいう)と、重合性基を有する第4化合物(以下、「[D]化合物」ともいう)と、脱水剤(以下、「[E]脱水剤」ともいう)とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の2液混合型接着剤は、接着強度を維持しつつ柔軟性に優れる接着層を形成することができ、かつ保存安定性に優れる。従って、当該2液混合型接着剤は、自動車外板等の難接着材料を含む種々材料の接着に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<2液混合型接着剤>
当該2液混合型接着剤は、組成物(I)と組成物(II)とを備える。当該2液混合型接着剤は、組成物(I)と組成物(II)とを混合することで、組成物(II)中の複数個のイソシアネート基を有する[C]化合物が、組成物(I)中の[A]錯体を構成するイソシアネート基に付加反応する基(X)を有する化合物(a)と反応(脱保護反応)し、その結果、オルガノボランと、化合物(a)及び[C]化合物の反応生成物(以下、「脱保護反応生成物(p)」ともいう)とが生じる。生成したオルガノボランを重合開始剤として組成物(II)中の重合性基を有する[D]化合物が重合し、加えて、例えばオルガノボランから形成されたラジカルにより被着材との結合等が形成されて接着が進行する。
【0010】
当該2液混合型接着剤は、[A]錯体及び[B]化合物を含有する組成物(I)と、[C]化合物、[D]化合物及び[E]脱水剤を含有する組成物(II)とを備えることで、接着強度を維持しつつ柔軟性に優れる接着層を形成することができ、かつ保存安定性に優れる。当該2液混合型接着剤が上記構成を備えることで上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、従来の2液混合型接着剤において、[C]化合物等が有するイソシアネート基は、空気中等から来る水分と反応し易く、経時的に消失すると考えられる。その結果、[C]化合物のイソシアネート基と、[A]錯体を構成するイソシアネート基に付加反応する基(X)を有する化合物(a)とが反応することによるオルガノボランの生成速度が経時的に低下するため、保存安定性が低くなっていると考えられる。本発明では、この[C]化合物のイソシアネート基の消失を、組成物(II)中に[E]脱水剤を共存させることによって抑制することにより、保存安定性を向上させることができると考えられる。また、[A]錯体から生じるオルガノボランの重合開始能により、重合性基を有する[D]化合物が重合してポリマーが生成し、複数個のヒドロキシ基を有する[B]化合物と複数個のイソシアネート基を有する[C]化合物とがウレタン化反応してポリウレタンが生成する。このポリマーの生成とポリウレタンの生成とが同時に起こるため、このポリマーとポリウレタンとは、相互侵入高分子網目(Interpenetrated Polymer Network(IPN))構造又はセミ相互侵入高分子網目構造を形成すると考えられる。その結果、接着強度を維持しつつ、接着層は柔軟性に優れるものとすることができると考えられる。「相互侵入高分子網目構造」とは、2つ以上の網目が絡み付いている構造で、化学結合を切ることなしに絡み合った網目を分けることができない網目構造をいう。「セミ相互侵入高分子網目構造」とは、網目構造と線状又は枝分れポリマーとからなる構造であって、線状又は枝分れポリマーが網目を貫通しており、原理的には化学結合を切らずに二つの網目を分けることができる網目構造をいう。
【0011】
当該2液混合型接着剤は、組成物(I)及び組成物(II)以外に[A]錯体又は[C]化合物を含有しない他の組成物をさらに備え、3液以上の混合型接着剤としてもよい。
【0012】
以下、組成物(I)及び組成物(II)について説明する。
【0013】
<組成物(I)>
組成物(I)は、[A]錯体と[B]化合物とを含有する。また、組成物(I)は、ウレタン化触媒(以下、「[X]ウレタン化触媒」ともいう)を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲において、[A]成分、[B]成分及び[X]成分以外のその他の成分を含有していてもよい。組成物(I)は、組成物(II)の項で後述する[D]化合物を含有していてもよいが、[D]化合物の重合性基は[A]錯体を構成する化合物(a)と反応することがあり、当該2液混合型接着剤の保存安定性が低下する場合があるので、組成物(I)は[D]化合物を実質的に含有しないことが好ましい。また、組成物(I)は、組成物(II)の項で後述する[E]脱水剤を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0014】
[[A]錯体]
[A]錯体は、オルガノボラン及び化合物(a)に由来する錯体である。化合物(a)は、イソシアネート基に付加反応する基(X)を有する。[A]錯体は、通常オルガノボランと、このオルガノボランに化合物(a)の基(X)が配位結合等して形成され、化合物(a)は、オルガノボランの重合開始能を抑制している。オルガノボランは、1又は複数個の化合物(a)と相互作用することにより[A]錯体を形成することができる。
【0015】
(オルガノボラン)
オルガノボランは、ボランの水素原子を有機基で置換した化合物である。「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。オルガノボランとしては、例えば下記式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0016】
【0017】
上記式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1~20の1価の有機基である。
【0018】
R1、R2及びR3で表される炭素数1~20の1価の有機基としては、例えば炭素数1~20の1価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間に2価のヘテロ原子含有基を有する基(α)、上記炭化水素基及び基(α)が有する水素原子の一部又は全部を1価のヘテロ原子含有基で置換した基等が挙げられる。
【0019】
炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、例えば炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0020】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば
メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0021】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等の脂環式飽和炭化水素基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基等の脂環式不飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0022】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば
フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基;
ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0023】
1価及び2価のヘテロ原子含有基が有するヘテロ原子としては、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子等が挙げられる。
【0024】
2価のヘテロ原子含有基としては、例えば-O-、-CO-、-NR’-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-POR’2-、-SiR’2-、これらを組み合わせた基等が挙げられる。R’は、炭素数1~10の1価の炭化水素基である。
【0025】
1価のヘテロ原子含有基としては、例えば-OH、-COOH、-NH2、-CN、-NO2、-SH等が挙げられる。
【0026】
オルガノボランとしては、高い重合開始能、安定性及び入手容易性の観点から、上記式(1)のR1~R3が炭化水素基である化合物が好ましく、トリアルキルボランがより好ましく、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリプロピルボラン又はトリブチルボランがさらに好ましく、トリエチルボランが特に好ましい。
【0027】
(化合物(a))
化合物(a)は、基(X)を有する化合物である。基(X)は、イソシアネート基に付加反応する基である。化合物(a)は、組成物(I)と組成物(II)とを混合した時点で、組成物(II)が含有する[C]化合物が有するイソシアネート基と反応する。
【0028】
基(X)としては、例えばヘテロ原子に結合する活性水素を有する基(以下、「基(X1)」ともいう)等が挙げられる。このようなヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等が挙げられる。
【0029】
基(X1)としては、例えば
窒素原子に結合する活性水素を有する基として、アミノ基(-NH2)、一置換アミノ基(-NH2の水素原子の1つを炭化水素基で置換したもの)等が、
酸素原子に結合する活性水素を有する基として、例えばヒドロキシ基等が、
硫黄原子に結合する活性水素を有する基として、例えばスルファニル基等が、
リン原子に結合する活性水素を有する基として、例えばホスフィノ基(-PH2)、一置換ホスフィノ基(-PH2の水素原子の1つを炭化水素基で置換したもの)等が挙げられる。
【0030】
アミノ基を有する化合物として、例えば
メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、エタノールアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等のモノアミン;
1,2-ジアミノエタン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、1,3-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン、4,9-ジオキサドデカン-1,12-ジアミン、3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジアミン等のジアミン;
1,2,3-トリアミノプロパン、1,2,4-トリアミノブタン、1,3,5-トリアミノシクロヘキサン、1,3,5-トリアミノベンゼン等のトリアミンなどが挙げられる。
【0031】
一置換アミノ基を有する化合物としては、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、ジエタノールアミン等が挙げられる。
【0032】
ヒドロキシ基を有する化合物としては、例えば
メタノール、エタノール等のモノアルコール;
エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール等のジオール;
グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオールなどが挙げられる。
【0033】
スルファニル基を有する化合物としては、例えばメルカプタン、エタンチオール等のモノチオール;
エタンジチオール、ブタンジチオール等のジチオールなどが挙げられる。
【0034】
ホスフィノ基を有する化合物としては、例えばエチルホスフィン、ブチルホスフィン等のモノホスフィン;
ジホスフィノエタン、ジホスフィノブタン等のジホスフィンなどが挙げられる。
【0035】
一置換ホスフィノ基を有する化合物としては、例えばジエチルホスフィン、ジブチルホスフィン等が挙げられる。
【0036】
化合物(a)が有する基(X)の数としては、1個でもよく、2個以上でもよいが、2個以上が好ましく、2~4個がより好ましく、2個又は3個がさらに好ましく、2個が特に好ましい。基(X)の数を上記範囲とすることで、化合物(a)と[C]化合物とからポリ尿素構造が形成されるので、接着層の柔軟性をより向上させることができる。
【0037】
基(X)としては、脱保護反応をより容易にし、接着強度をより向上させる観点から、アミノ基、一置換アミノ基、スルファニル基、ホスフィノ基又は一置換ホスフィノ基が好ましく、アミノ基又は一置換アミノ基がより好ましく、アミノ基がさらに好ましい。
【0038】
化合物(a)としては、[C]化合物との脱保護反応をより容易にし、接着強度をより向上させる観点から、アミノ基を含む化合物が好ましく、ジアミン又はトリアミンがより好ましく、ジアミンがさらに好ましく、炭素数2~4のジアミノアルカンがさらに特に好ましく、1,3-ジアミノプロパンが最も好ましい。
【0039】
[A]錯体におけるオルガノボランの数に対する化合物(a)の数の比の下限としては、0.5が好ましく、0.7がより好ましく、0.9がさらに好ましい。上記比の上限としては、2が好ましく、1.5がより好ましく、1.1がさらに好ましい。上記比を上記範囲とすることで、[A]錯体の安定性をより向上させることができ、その結果、当該2液混合型接着剤の保存安定性をより向上させることができる。
【0040】
組成物(I)における[A]錯体の含有量の下限としては、接着強度をより向上させる観点から、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、1.5質量%がさらに好ましく、2質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、当該2液混合型接着剤の取扱容易性の観点から、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましく、10質量%が特に好ましい。[A]錯体は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0041】
[[B]化合物]
[B]化合物は、複数個のヒドロキシ基を有する化合物である(但し、後述する[C]化合物に該当するものを除く)。[B]化合物は、組成物(I)と組成物(II)との混合により、組成物(II)中の複数個のイソシアネート基を有する[C]化合物とウレタン化反応してポリウレタンを生成し、柔軟性に優れる接着層を形成することができる。
【0042】
[B]化合物は、重合性基を有さないことが好ましい。[B]化合物が重合性基を有さないことで、[A]錯体における化合物(a)と反応することが抑制され、その結果、組成物(I)における保存安定性をより向上させることができる。[B]化合物は、ヒドロキシ基以外に、イソシアネート基以外の極性官能基を有していてもよい。
【0043】
[B]化合物は、低分子化合物、オリゴマー及びポリマーのいずれであってもよい。
【0044】
[B]化合物が有するヒドロキシ基の数としては、2~20が好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~4が特に好ましく、2又は3がさらに特に好ましい。[B]化合物のヒドロキシ基の数を上記範囲とすることで、形成される接着層の強度をより向上させることができ、その結果、接着強度をより向上させることができる。
【0045】
[B]化合物としては、例えば多価アルコール、ポリオール化合物等が挙げられる。
【0046】
多価アルコールとしては、例えば
エチレングリコール、プロピレングリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等のアルカンジオール;
1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン等のアルカントリオール;
ペンタエリスリトール等のアルカンテトラオールなどが挙げられる。
【0047】
ポリオール化合物としては、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0048】
ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール含有ポリオール、ビスフェノール含有ポリオール等が挙げられる。
【0049】
ポリアルキレングリコールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0050】
ポリアルキレングリコール含有ポリオールとしては、例えば下記式(B-1)で表されるポリプロピレングリコールの両末端エチレングリコール付加物、ポリテトラメチレングリコールの両末端エチレングリコール付加物等が挙げられる。
【0051】
【0052】
上記式(B-1)中、a、b及びcは、それぞれ独立して、1~200の整数である。
【0053】
ビスフェノール含有ポリオールとしては、例えば下記式(B-2)で表されるビスフェノールAのプロピレングリコール付加物、ビスフェノールAのエチレングリコール付加物等が挙げられる。
【0054】
【0055】
上記式(B-2)中、p及びqは、それぞれ独立して、1~200の整数である。
【0056】
ポリエステルポリオールとしては、例えば縮合型ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0057】
縮合型ポリエステルポリオールとしては、例えば多価カルボン酸、そのエステル又はその無水物と、多価アルコール化合物とから形成されるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0058】
多価カルボン酸としては、例えば
コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等の脂肪族多価カルボン酸;
テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸などが挙げられる。
【0059】
多価アルコール化合物としては、例えば
エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、グリセリン等が挙げられる。
【0060】
ポリラクトンポリオールとしては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール、ポリバレロラクトンジオール等が挙げられる。
【0061】
ポリブタジエンポリオールとしては、例えばポリ(1,4-ブタジエン)グリコール又はその水素添加物、ポリ(1,2-ブタジエン)グリコール又はその水素添加物、ポリ(1,2-/1,4-ブタジエン)グリコール又はその水素添加物等が挙げられる。
【0062】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えばポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートトリオール等が挙げられる。
【0063】
[B]化合物の市販品としては、例えば「エクセノール823」(以上、AGC社)、「WANOL R2303」(以上、WANHUA社)、「ニューポールPP-1000」(以上、三洋化成工業社)等が挙げられる。
【0064】
[B]化合物としては、ポリオール化合物が好ましく、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール又はポリブタジエンポリオールがより好ましく、ポリエーテルポリオールがさらに好ましい。
【0065】
[B]化合物の分子量の下限としては、接着層の柔軟性をより向上させる観点から、100が好ましく、300がより好ましく、500がさらに好ましく、1,000が特に好ましい。上記分子量の上限としては、20,000が好ましく、10,000がより好ましく、8,000がさらに好ましく、6,000が特に好ましい。[B]化合物がオリゴマー、ポリマー等で分子量分布を有する場合、分子量としては、例えば数平均分子量である。
【0066】
[C]化合物のイソシアネート基の数に対する[B]化合物のヒドロキシ基の数の比の下限としては、0.1が好ましく、0.5がより好ましく、0.7がさらに好ましい。上記比の上限としては、10が好ましく、5がより好ましく、3がさらに好ましい。上記比を上記範囲とすることで、[B]化合物と[C]化合物とからポリウレタンがより効果的に形成されるので、接着層の柔軟性をより向上させることができる。上記イソシアネート基及びヒドロキシ基の数は[C]化合物及び[B]化合物における平均値を意味する。
【0067】
組成物(I)における[B]化合物の含有量の下限としては、30質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、75質量%がさらに好ましく、85質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、99.9質量%が好ましく、99質量%がより好ましく、98質量%がさらに好ましく、97質量%が特に好ましい。[B]化合物の含有量を上記範囲とすることで、接着層の柔軟性をより向上させることができる。[B]化合物は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0068】
組成物(I)における[A]錯体の質量に対する[B]化合物の質量の比の下限としては、1が好ましく、5がより好ましく、8がさらに好ましく、10が特に好ましい。上記比の上限としては、200が好ましく、100がより好ましく、70がさらに好ましく、50が特に好ましい。
【0069】
[[X]ウレタン化触媒]
[X]ウレタン化触媒は、[B]化合物と[C]化合物とのウレタン化反応を促進する物質である。組成物(I)が[X]ウレタン化触媒を含有することで、組成物(I)と組成物(II)とを混合して起こる[B]化合物と[C]化合物とのウレタン化反応速度をより向上させることができ、その結果、接着層の柔軟性をより向上させることができる。
【0070】
[X]ウレタン化触媒としては、例えば3級アミン、4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、有機金属化合物等が挙げられる。
【0071】
3級アミンとしては、例えば1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジアザビシクロウンデセン、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N-メチルモルホリン等が挙げられる。
【0072】
4級アンモニウム塩としては、例えばテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0073】
カルボン酸塩としては、例えば酢酸カリウム、オクチル酸カリウム等が挙げられる。
【0074】
有機金属化合物としては、例えば
酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジメチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジメルカプチド、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジネオデカノエート、ジオクチル錫ジメルカプチド、ジオクチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジクロリド等の有機錫化合物;
オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛等の有機鉛化合物;
ナフテン酸ニッケル等の有機ニッケル化合物;
ナフテン酸コバルト等の有機コバルト化合物;
オクテン酸銅等の有機銅化合物;
オクチル酸ビスマス等の有機ビスマス化合物などが挙げられる。
【0075】
組成物(I)が[X]ウレタン化触媒を含有する場合、組成物(I)における[X]ウレタン化触媒の含有量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましい。[X]ウレタン化触媒の含有量を上記範囲とすることで、[B]化合物と[C]化合物とから、より効果的にポリウレタンを生成させることができ、その結果、接着層の柔軟性をより向上させることができる。[X]ウレタン化触媒は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0076】
[その他の成分]
組成物(I)は、[A]成分、[B]成分及び[X]ウレタン化触媒以外のその他の成分として、例えば無機充填剤、ポリマー成分、可塑剤、着色剤等を含有していてもよい。上記その他の成分は、それぞれ1種又は2種以上を用いてもよい。
【0077】
無機充填剤としては、例えばアルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0078】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、例えばポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリジエン、アクリル共重合体、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等も用いることができる。さらに、ポリマー成分としては、これらのポリマーの構造を含む共重合体も好適に用いることができる。
【0079】
ポリマー成分は、ポリマー粒子であってもよく、粒子を形成していないポリマーであってもよい。
【0080】
組成物(I)がポリマー成分を含有する場合、組成物(I)におけるポリマー成分の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。上記含有量の下限としては、例えば0.1質量%である。
【0081】
可塑剤としては、例えば
ジブチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル;
ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等の非芳香族二塩基酸エステル;
ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステルなどが挙げられる。
【0082】
着色剤としては、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
【0083】
<組成物(II)>
組成物(II)は、[C]化合物と、[D]化合物と、[E]脱水剤とを含有する。組成物(II)は、[Y]重合禁止剤を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲において、[C]成分、[D]成分及び[Y]成分以外のその他の成分を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0084】
[[C]化合物]
[C]化合物は、複数個のイソシアネート基を有する化合物である。[C]化合物は、組成物(I)の[A]錯体を構成する化合物(a)と脱保護反応して脱保護反応生成物(p)を形成する。上述したように、当該2液混合型接着剤の使用時に、組成物(I)と組成物(II)を混合することで、[C]化合物のイソシアネート基に、[A]錯体の化合物(a)のイソシアネート基に付加反応する基(X)が反応して、脱保護反応生成物(p)とオルガノボランとを生じ、このオルガノボランの重合開始能により、重合性基を有する[D]化合物が重合することにより接着が進行する。また、[C]化合物は、組成物(I)と組成物(II)との混合により、組成物(I)中の複数個のヒドロキシ基を有する[B]化合物とウレタン化反応してポリウレタンを生成し、柔軟性に優れる接着層を形成することができる。
【0085】
[C]化合物は、重合性基を有さないことが好ましい。また、[C]化合物は、イソシアネート基以外に、極性官能基を有していてもよい。
【0086】
[C]化合物は、低分子化合物、オリゴマー及びポリマーのいずれであってもよい。
【0087】
[C]化合物が有するイソシアネート基の数としては、2~20が好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~4が特に好ましく、2又は3がさらに特に好ましい。
【0088】
[C]化合物としては、例えば芳香族系又は脂肪族系ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物である複数個のイソシアネート基を末端に有するプレポリマー等が挙げられる。
【0089】
芳香族系ポリイソシアネートとしては、例えば
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート(カルボジイミド変性MDI、ジ(イソシアナトフェニルメチルフェニル)カルボジイミド)等の芳香族ジイソシアネート;
トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニレントリイソシアネート等の芳香族トリイソシアネート;
ベンゼン-1,2,4,5-テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート;
ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(クルードMDI)等の2個~4個のNCOを有する芳香族ポリイソシアネートの混合物などが挙げられる。
【0090】
脂肪族系ポリイソシアネートとしては、例えば
テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、トリデカンジイソシアネート、メチレンジ(1,4-シクロへキシレンイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、トリ(1,4-シクロへキシレン)ジイソシアネート、プロピレン-1,3-ジ(1,4-シクロへキシレンイソシアネート)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、m-キシレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、シクロヘキサン-1,3,5-トリイソシアネート、トリシクロヘキシルメタントリイソシアネート等の脂肪族トリイソシアネート;
ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートの三量化物(イソシアヌレート体)、ビュレット、アロファネート結合、アダクト体等の脂肪族3官能イソシアネート;
シクロヘキサン-1,2,4,5-テトライソシアネート等の脂肪族テトライソシアネートなどが挙げられる。
【0091】
芳香族系又は脂肪族系ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物である複数個のイソシアネート基を末端に有するプレポリマーの形成に用いるポリオールとしては、例えば上述の[B]化合物として例示したポリオール化合物等が挙げられる。
【0092】
[C]化合物の市販品としては、例えばWANHUA社の「WANNATE PM-200」(クルードMDI)、「WANNATE CDMDI」(カルボジイミド変性MDI)、旭化成社の「デュラネートTPA-100」(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体)、三井化学社の「タケネート500」(m-キシレンジイソシアネート)等が挙げられる。
【0093】
[C]化合物としては、芳香族系イソシアネート又は脂肪族系イソシアネートが好ましい。
【0094】
組成物(II)における[C]化合物の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、15質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましく、35質量%が特に好ましい。[C]化合物の含有量を上記範囲とすることで、接着層の柔軟性をより向上させることができる。[C]化合物は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0095】
[[D]化合物]
[D]化合物は、重合性基を有する化合物である。「重合性基」とは、ラジカル重合等の重合反応を行いうる基をいう。[D]化合物は、[A]錯体から生じるオルガノボランの重合開始能により重合し、ポリマーを生成する。
【0096】
重合性基としては、例えば
ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基等の炭素-炭素二重結合含有基;
エチニル基、プロパギル基等の炭素-炭素三重結合含有基などが挙げられる。
これらの中で、重合性が高く、硬化速度をより高めることができる観点から、炭素-炭素二重結合含有基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0097】
[D]化合物が有する重合性基の数としては、重合速度をより高める観点から、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0098】
[D]化合物としては、1の重合性基を有する化合物として、例えば
ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン等のオレフィン;
スチレン、α-メチルスチレン、メチルスチレン等のスチレン化合物;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル等のカルボン酸ビニル;
塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;
メチルビニルケトン、メチルビニルエーテル等のビニル化合物;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン-イル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカン-イル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキセニル(メタ)アクリレート、トリシクロデセン-イル(メタ)アクリレート等のシクロアルケニル(メタ)アクリレートなどの脂環を有する(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する(メタ)アクリレート;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のヘテロ原子含有(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物;
(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;
(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0099】
[D]化合物としては、2以上の重合性基を有する架橋性化合物等も挙げられる。
【0100】
架橋性化合物としては、例えば
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の鎖状グリコール系架橋性化合物;
トリシクロデカンジイルジ(メタ)アクリレート等の脂環式グリコール系架橋性化合物;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリメチロールプロパン系架橋性化合物;
ビスフェノールAビス(ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート)等のビスフェノール系架橋性化合物;
トリ(N-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等のイソシアヌレート系架橋性化合物;
下記式(2)で表される化合物等のウレタン系架橋性化合物;
下記式(3)で表される化合物等の末端ビスマレイミド変性のポリイミド系架橋性化合物などが挙げられる。
【0101】
【0102】
上記式(2)中、mは、1~20の整数である。
上記式(3)中、nは、1~20の整数である。R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキレン基である。Ar1は、炭素数6~20のアリーレン基である。nが2以上の場合、複数のR4は互いに同一又は異なり、複数のAr1は互いに同一又は異なる。
【0103】
[D]化合物としては、これらの中で、重合性により優れる観点から、(メタ)アクリレート化合物が好ましい。その中で、当該2液混合型接着剤の臭気低減の観点から、ヘテロ原子含有(メタ)アクリレートが好ましく、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0104】
組成物(II)における[D]化合物の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましく、70質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、87質量%が特に好ましい。[D]化合物の含有量を上記範囲とすることで、接着層の強度をより向上させることができ、その結果、接着強度をより向上させることができる。[D]化合物は、1種又は2種以上用いてもよい。
【0105】
組成物(II)における[C]化合物の質量に対する[D]化合物の質量の比の下限としては、0.1が好ましく、1がより好ましく、1.5がさらに好ましく、2が特に好ましい。上記比の上限としては、30が好ましく、20がより好ましく、15がさらに好ましく、10が特に好ましい。[D]化合物の[C]化合物に対する質量比を上記範囲とすることで、接着層の柔軟性をより向上させることができる。
【0106】
[[E]脱水剤]
[E]脱水剤は、物質中に存在する水分を除去することができる物質をいう。従って、組成物(II)が[E]脱水剤を含有することにより、貯蔵中に系外から混入する水分を除去することができる。組成物(II)が[E]脱水剤を含有することで、当該2液混合型接着剤は、保存安定性に優れるものとなる。
【0107】
[E]脱水剤としては、無機脱水剤、有機脱水剤等が挙げられる。
【0108】
無機脱水剤としては、例えば
ゼオライト3A、ゼオライト4A、ゼオライト5A等のゼオライト;
無水塩化カルシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カルシウム、無水塩化マグネシウム、無水硫酸マグネシウム、無水炭酸カリウム、無水硫化カリウム、無水亜硫化カリウム、無水亜硫酸ナトリウム、無水硫酸銅等の無水無機塩;
シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、活性白土等が挙げられる。
【0109】
有機脱水剤としては、例えば
オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルトギ酸プロピル等のオルトギ酸エステル;
オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルト酢酸プロピル等のオルト酢酸エステル;
オルトプロピオン酸メチル、オルトプロピオン酸エチル等のオルトプロピオン酸エステル等のカルボン酸オルトエステル;
ベンズアルデヒドジメチルアセタール、アセトアルデヒドジメチルアセタール、ホルムアルデヒドジメチルアセタール、アセトンジメチルアセタール、アセトンジベンジルアセタール、ジエチルケトンジメチルアセタール、ベンゾフェノンジメチルアセタール、ベンジルフェニルケトンジメチルアセタール、シクロヘキサノンジメチルアセタール、アセトフェノンジメチルアセタール、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4,4-ジメトキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オンアセタール、ジメチルアセトアミドジエチルアセタール等のアセタール化合物;
ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;
メチルシリケート、エチルシリケート等のシリケート化合物などが挙げられる。
【0110】
[E]脱水剤としては、接着層の強度をより向上させることができ、その結果、接着強度をより向上させることができる観点から、無機脱水剤が好ましく、ゼオライトがより好ましい。また、ゼオライトの中で、保存安定性をより向上させる観点から、ゼオライト3A又はゼオライト5Aが好ましく、ゼオライト3Aがより好ましい。
【0111】
組成物(II)における[E]脱水剤の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましく、2質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、6質量%がさらに好ましく、4質量%が特に好ましい。[E]脱水剤の含有量を上記範囲とすることで、当該2液混合型接着剤の保存安定性をより向上させることができる。[E]脱水剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0112】
組成物(II)における[C]化合物の質量に対する[E]脱水剤の質量の比の下限としては、0.001が好ましく、0.05がより好ましく、0.08がさらに好ましく、0.1が特に好ましい。上記比の上限としては、2が好ましく、1.5がより好ましく、1がさらに好ましく、0.5が特に好ましい。[E]脱水剤の[C]化合物に対する質量比を上記範囲とすることで、当該2液混合型接着剤の保存安定性をより向上させることができる。
【0113】
[[Y]重合禁止剤]
[Y]重合禁止剤は、発生したラジカルを捕捉し、安定ラジカル等に変換することで、保存時における重合性基を有する化合物等の重合を停止することができる物質をいう。組成物(II)が[Y]重合禁止剤を含有することで、当該2液混合型接着剤の保存安定性をより向上させることができる。
【0114】
[Y]重合禁止剤としては、例えば有機系重合禁止剤、無機系重合禁止剤、有機塩系重合禁止剤等が挙げられる。
【0115】
有機系重合禁止剤としては、例えば
ハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、カテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、4,4’-チオビス[エチレン(オキシ)(カルボニル)(エチレン)]ビス[2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノール]等のフェノール系重合禁止剤;
ベンゾキノン等のキノン系重合禁止剤;
フェノチアジン、ビス(α-メチルベンジル)フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン系重合禁止剤;
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のN-オキシル系重合禁止剤などが挙げられる。
【0116】
無機系重合禁止剤としては、例えば塩化銅、硫酸銅、硫酸鉄等が挙げられる。
【0117】
有機塩系重合禁止剤としては、例えばブチルジチオカルバミン酸銅、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。
【0118】
これらの中で、フェノール系重合禁止剤又はフェノチアジン系重合禁止剤が好ましく、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール又はフェノチアジンがより好ましい。
【0119】
組成物(II)が[Y]重合禁止剤を含有する場合、[Y]重合禁止剤の含有量の下限としては、組成物(II)に対して、0.001質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましく、0.03質量%がさらに好ましく、0.05質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、10質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、0.2質量%が特に好ましい。[Y]重合禁止剤の含有量を上記範囲とすることで、当該2液混合型接着剤の保存安定性をより向上させることができる。[Y]重合禁止剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0120】
[その他の成分]
組成物(II)は、[C]化合物、[D]化合物及び[Y]重合禁止剤以外のその他の成分として、例えば無機充填剤、ポリマー成分、可塑剤、着色剤等を含有していてもよい。上記その他の成分は、それぞれ1種又は2種以上を用いてもよい。
【0121】
組成物(II)のその他の成分としての無機充填剤、ポリマー成分、可塑剤及び着色剤についての説明、好ましいものについては、組成物(I)におけるその他の成分の場合と同様である。
【0122】
<2液混合型接着剤の調製方法>
当該2液混合型接着剤は、例えば[A]錯体、[B]化合物及び必要に応じてその他の成分を混合することにより組成物(I)を調製し、また別途、[C]化合物、[D]化合物、[E]脱水剤及び必要に応じてその他の成分を混合することにより組成物(II)を調製することにより得ることができる。
【0123】
<2液混合型接着剤の使用方法>
当該2液混合型接着剤は、公知の方法により使用することができる。接着操作の際に、まず、組成物(I)と組成物(II)とを混合し、組成物(I)及び組成物(II)の混合物(以下、「混合物(A)」ともいう)を調製する。
【0124】
混合物(A)の調製において、組成物(I)の質量に対する組成物(II)の質量の比は、例えば混合直後における([A]~[D]成分の反応が起こらないと仮定した場合の)混合物(A)中の[A]成分の含有量、[B]~[D]成分間の質量比等が所望の値になるようになど、適宜選択することができるが、上記比の下限としては、0.1が好ましく、1がより好ましく、2がさらに好ましく、2.3が特に好ましい。上記比の上限としては、30が好ましく、10がより好ましく、8がさらに好ましく、7が特に好ましい。当該2液混合型接着剤は、既存又は市販のカートリッジを用いて吐出させ、スタティックミキサーで混合するシステムで用いることができ、作業性をより高めることができる。
【0125】
次に、得られた混合物(A)を被着材の一方に塗布した後、塗布した混合物(A)に他方の被着材を密着させるように重ねること等により、両被着材の間に接着層を形成することによって、接着を行うことができる。
【0126】
混合物(A)を、両方の被着材に塗布した後、これらの塗布した混合物(A)どうしを密着させるようにしてもよい。被着材としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)等の樹脂材料;ステンレス鋼(SUS)、溶融亜鉛メッキ鋼(SGHC)、電着鋼(ED)等の金属材料などが挙げられ、これらのうちの同種又は異種のものを用いることができ、樹脂材料どうし、金属材料どうし及び樹脂材料-金属材料の接着を行うことができる。両被着材の間に形成される接着層の厚みの下限としては、0.01mmが好ましく、0.05mmがより好ましく、0.1mmがさらに好ましい。上記厚みの上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましく、1mmがさらに好ましい。
【0127】
混合物(A)の調製に用いた組成物(I)及び組成物(II)の合計質量に対する組成物(I)中の[A]錯体の配合量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.3質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。上記配合量の上限としては、10質量%が好ましく、7質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましく、3質量%が特に好ましい。
【0128】
混合物(A)の調製に用いた組成物(I)及び組成物(II)の合計質量に対する組成物(I)中のホウ素原子の配合量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましく、0.4質量%が特に好ましい。上記配合量の上限としては、5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、0.2質量%が特に好ましい。
【0129】
混合物(A)の調製に用いた[A]錯体又はホウ素原子の配合量を上記範囲とすることで、[D]化合物の重合をより適度に進行させることができ、その結果、接着強度及び接着層の柔軟性をより向上させることができる。
【0130】
混合物(A)の調製に用いた組成物(I)及び組成物(II)の合計質量に対する組成物(II)中の[D]化合物の配合量の下限としては、10質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、35質量%がさらに好ましく、40質量%が特に好ましい。上記配合量の上限としては、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、75質量%がさらに好ましく、70質量%が特に好ましい。
【0131】
混合物(A)の調製に用いた組成物(I)及び組成物(II)の合計質量に対する組成物(I)中の[B]化合物及び組成物(II)中の[C]化合物の合計配合量の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、15質量%が特に好ましい。上記合計配合量の上限としては、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましく、50質量%が特に好ましい。
【0132】
混合物(A)の調製に用いた組成物(II)中の[D]化合物の質量をXとし、組成物(I)中の[B]化合物及び組成物(II)中の[C]化合物の合計質量をYとしたとき、X/(X+Y)の値の下限としては、0.01が好ましく、0.1がより好ましく、0.25がさらに好ましく、0.4が特に好ましく、0.45がさらに特に好ましく、0.5が最も好ましい。上記値の上限としては、0.99が好ましく、0.95がより好ましく、0.9がさらに好ましく、0.85が特に好ましく、0.8がさらに特に好ましく、0.7が最も好ましい。上記値を上記範囲とすることで、[B]~[D]成分からより効果的に相互侵入高分子網目構造又はセミ相互侵入高分子網目構造が形成されると考えられ、その結果、接着強度及び接着層の柔軟性をより向上させることができる。
【0133】
混合物(A)の調製に用いた組成物(II)中の[D]化合物の質量に対する組成物(I)中の[A]錯体の質量の比の下限としては、0.001が好ましく、0.005がより好ましく、0.008がさらに好ましく、0.01が特に好ましい。上記比の上限としては、0.05が好ましく、0.04がより好ましく、0.035がさらに好ましく、0.03が特に好ましい。
【0134】
(接着層)
混合物(A)の塗布により形成された接着層は、柔軟性に優れている。接着層中において、複数個のヒドロキシ基を有する[B]化合物と複数個のイソシアネート基を有する[C]化合物とから生成した網目構造状のポリウレタンと、[D]化合物から生成したポリマーとは、同時に生成することにより、相互侵入高分子網目構造又はセミ相互侵入高分子網目構造を形成していると考えられ、結果として、接着層は、接着強度を維持しつつ、優れた柔軟性を有することができる。
【0135】
接着層において、相互侵入高分子網目構造又はセミ相互侵入高分子網目構造が形成されていることは、例えば接着層において、生成したポリウレタンとポリマーとが相分離することなく相溶しており、かつ接着層の動的粘弾性測定を行い、tanδのピークが単峰性であること等により検出することができる。
【0136】
接着層の柔軟性は、その最大点応力、破断点歪及び弾性率のいずれもが一定値以上であると、優れていると認められる。組成物(I)と組成物(II)とを混合して得られる接着剤を硬化させて形成された接着層から作製した試験片を樹脂が破断するまで引張り試験を行い、破断するまでに得られた最大荷重を試験片の中心の断面積で除した値を最大点応力(MPa)として、破断点での変位量を初期のチャック間距離で除して100を乗じた値を破断点歪(%)として、引張り開始直後の応力の傾きを弾性率(MPa)として求めることができる。
【0137】
接着層の最大点応力の下限としては、5MPaが好ましく、10MPaがより好ましい。上記最大点応力の上限としては、例えば30MPaである。
【0138】
接着層の破断点歪の下限としては、20%が好ましく、50%がより好ましく、100%がさらに好ましい。上記破断点歪の上限としては、例えば500%である。
【0139】
接着層の弾性率の下限としては、50MPaが好ましく、100MPaがより好ましい。上記弾性率の上限としては、例えば1,000MPaである。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0141】
<2液混合型接着剤の調製>
2液混合型接着剤の組成物(I)及び組成物(II)の調製に用いた各成分を以下に示す。
【0142】
[[A]錯体]
TEB-DAP:Callery社の「TEB-DAP」(トリエチルボランと、ジアミノプロパンとに由来する錯体)
【0143】
[[B]化合物]
エクセノール823:AGC社の「エクセノール823」(ポリエーテルポリオール、数平均分子量5,100、平均水酸基数3)
WANOL R2303:WANHUA社の「WANOL R2303」(グリセロール開始ポリエーテルトリオール、水酸基価:560mgKOH/g)
PP1000:三洋化成工業社の「ニューポールPP-1000」(ジオール(線形液状タイプ)、数平均分子量1,000、水酸基価:112mgKOH/g)
【0144】
[[C]化合物]
PM-200:WANHUA社の「WANNATE PM-200」(クルードMDI、官能基数:2.6~2.7)
CDMDI:WANHUA社の「WANNATE CDMDI」(カルボジイミド変性MDI)
デュラネートTPA-100:旭化成社の「デュラネートTPA-100」(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体)
タケネート500:三井化学社の「タケネート500」(m-キシレンジイソシアネート)
【0145】
[[D]化合物]
THFMA:共栄社化学社の「ライトエステルTHF」
【0146】
[[E]脱水剤]
ゼオライト3A:ユニオン昭和社の「モレキュラーシーブ3A」
【0147】
[[X]ウレタン化触媒]
TEDA:エアプロダクツ&ケミカルズ社の「TEDA」(トリエチレンジアミン)
【0148】
[[Y]重合禁止剤]
BHT:東京化成工業社の「2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール」
TDP:川口化学工業社の「TDP」(フェノチアジン)
【0149】
[無機充填剤]
R202:日本アエロジル社の「AEROSIL R202」(疎水性フュームドシリカ)
NS600:日東粉化工業社の「NS600」(炭酸カルシウム)
【0150】
[NCO含有メタクレート]
MOI:昭和電工社の「カレンズMOI」(2-イソシアナトエチルメタクリレート)
【0151】
[実施例1](2液混合型接着剤(E-1)の調製)
[組成物(I)の調製]
(組成物(I-1)の調製)
[A]錯体としての「TEB-DAP」2.6質量部と、[B]化合物としての「エクセノール823」38.6質量部、「WANOL R2303」17.8質量部及び「PP1000」38.6質量部と、[X]ウレタン化触媒としての「TEDA」0.5質量部と、無機充填剤としての「R202」2.0質量部とをプラスチック製容器中に入れて混合させ、組成物(I-1)を調製した。
【0152】
[組成物(II)の調製]
(組成物(II-1)の調製)
攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、[C]化合物としての「PM-200」16.3質量部及び「CDMDI」16.3質量部と、[D]化合物としての「THFMA」62.3質量部と、[E]脱水剤としての「ゼオライト3A」3.0質量部と、[Y]重合禁止剤としての「BHT」0.1質量部と、無機充填剤としての「R202」2.0質量部とを1時間撹拌して混合した後、2時間減圧脱泡して組成物(II-1)を調製した。
【0153】
[実施例2~11及び比較例1](2液混合型接着剤(E-2)~(E-11)及び(CE-1)の調製)
[組成物(I)の調製]
(組成物(I-2)~(I-11)及び(CI-1)の調製)
下記表1に示す種類及び配合量の各成分を用いた以外は、上記実施例1の組成物(I-1)の調製と同様にして組成物(I-2)~(I-11)及び(CI-1)を調製した。
【0154】
[組成物(II)の調製]
(組成物(II-2)~(II-11)及び(CII-1)の調製)
下記表1に示す種類及び配合量の各成分を用いた以外は、上記実施例1の組成物(II-1)の調製と同様にして組成物(II-2)~(II-11)及び(CII-1)を調製した。表1中の各成分における「-」は、該当する成分を使用しなかったことを示す。
【0155】
[比較例2](2液混合型接着剤(CE-2)の調製)
組成物(CI-2)として、[A]錯体としての「TEB-DAP」100質量部を用いた。
【0156】
(組成物(CII-2)の調製)
攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、[D]化合物としての「THFMA」89.4質量部と、[E]脱水剤としての「ゼオライト3A」3.0質量部と、NCO含有メタクリレートである「MOI」7.6質量部とを1時間撹拌して混合した後、2時間減圧脱泡して組成物(CII-2)を調製した。
【0157】
<評価>
各2液混合型接着剤について、接着強度、接着層の柔軟性及び保存安定性を評価した。
【0158】
[接着強度]
上記調製した各2液混合型接着剤を用い、下記方法に従って接着強度測定用試験片を作製し、下記剪断試験により接着強度(剪断強度)を測定した。評価結果を下記表1に合わせて示す。
【0159】
(接着強度測定用試験片の作製)
2枚の被着材(それぞれ縦2.5cm×横10cm)を準備し、それぞれ接着剤を塗布する直前に、アセトンを含んだ紙ワイパー(日本製紙クレシア社の「キムワイプ」)で表面の汚れを除去した。次に、組成物(I)と組成物(II)とをバッグ混合法により混合した。すなわち、ポリエチレン製の袋に、組成物(I)と組成物(II)とを、下記表1に示す組成物(I)の混合比:組成物(II)の混合比になるようそれぞれ秤量し、袋を封じた後、均一に混合するため、手のひらの上で転動させることにより、1分間混合した。次いで、袋の隅をハサミでカットし、混合された接着剤を、被着材の一方の1.25cm四方の部分に均一に塗布した。接着剤の厚みを一定にするため、直径0.25mmのガラスビーズを挟んでから、他方の被着材を上に重ねて、接着強度測定用試験片を作製した。被着材として、ガラス繊維補強ポリプロピレン/ガラス繊維補強ポリプロピレン(GFPP/GFPP)又は電着鋼/電着鋼(ED/ED)の場合の接着強度測定用試験片を作製した。
【0160】
(剪断試験)
上記作製した接着強度測定用試験片について、接着部の引張剪断強度を、引張試験機(島津製作所社の「オ-トグラフAG5000B」)を使用してJIS-K6850に準拠して測定した。測定条件は、温度:23℃、チャック間距離:110mm、テストスピード:5mm/分とした。また、破壊モードを目視により評価した。破壊モードは、AF:界面破壊、SF:基材破壊、CF:凝集破壊であったことをそれぞれ示す。下記表1に、GFPP/GFPPの接着及びED/EDの接着のそれぞれにおける接着強度(MPa)の値と破壊モードとを合わせて示す。
【0161】
GFPP/GFPPの接着において、接着強度は、8MPa以上の場合は「良好」と、5MPa以上8MPa未満の場合は「やや良好」と、5MPa未満の場合は「不良」と評価できる。
ED/EDの接着において、接着強度は、14MPa以上の場合は「良好」と、12MPa以上14MPa未満の場合は「やや良好」と、12MPa未満の場合は「不良」と評価できる。
【0162】
[接着層の柔軟性]
上記調製した各2液混合型接着剤を用い、下記方法に従って柔軟性測定用試験片を作製し、この柔軟性測定用試験片について、最大点応力、破断点歪及び弾性率を測定した。評価結果を下記表1に合わせて示す。
【0163】
(柔軟性測定用試験片の作製)
組成物(I)と組成物(II)とを上記接着強度試験の場合と同様にバッグ混合法により混合し、混合して得られた接着剤を一方の離型PETフィルムに塗布し、厚さ2mmのスペーサーを挟んで、もう一方の離型PETフィルムを上に重ねて、膜厚が均一になるまで全体をプレスし、シート状に成形した。接着剤が完全に硬化するまで室温で3日間静置させた後、離型PETを剥がして得られた接着剤シートをダンベルカッターで2号型ダンベル状(JIS-K6251)にカットし、柔軟性測定用試験片を作製した。
【0164】
(接着層の柔軟性の測定)
接着層の柔軟性について、柔軟性測定用試験片を用い、下記方法に従って、最大点応力、破断点歪及び弾性率を測定した。接着層の柔軟性は、最大点応力、破断点歪及び弾性率の評価が全て「良好」の場合に優れたものであると評価できる。
【0165】
得られたダンベル状の柔軟性測定用試験片を用いて、引張試験機(島津製作所社の「オ-トグラフAG5000B」)を使用して樹脂が破断するまで引張り試験を実施した。測定条件は、温度:23℃、チャック間距離:30mm、テストスピード:100mm/分とした。破断するまでに得られた最大荷重をダンベル状試験片の中心の断面積で除した値を最大点応力(MPa)と、破断点での変位量を初期のチャック間距離30mmで除して、100を乗じた値を破断点歪(%)と、引張り開始直後の応力の傾きを弾性率(MPa)とした。
【0166】
接着層の最大点応力は、5MPa以上の場合は「良好」と、5MPa未満の場合は「不良」と評価できる。
接着層の破断点歪は、20%以上の場合は「良好」と、20%未満の場合は「不良」と評価できる。
接着層の弾性率は、50MPa以上の場合は「良好」と、50MPa未満の場合は「不良」と評価できる。
【0167】
【0168】
[保存安定性]
上記調製した実施例3の2液混合型接着剤(E-3)及び比較例1の2液混合型接着剤(CE-1)について、下記方法に従い、保存安定性を評価した。評価結果を下記表2に示す。
【0169】
(保存安定性の評価)
2液混合型接着剤の組成物(I)及び組成物(II)をそれぞれ缶に入れ、保管温度を40℃とし、保管日数を0日(組成物の調製直後)、30日、60日及び90日のそれぞれとして保管した。上記保管した組成物(I)及び組成物(II)を用い、上述の「接着強度測定用試験片の作製」と同様にして、被着材をガラス繊維補強ポリプロピレン/ガラス繊維補強ポリプロピレン(GFPP/GFPP)とした場合の接着強度測定用試験片を作製し、上述の「剪断試験」と同様にして、接着強度を測定し、破壊モードを評価した。
【0170】
【0171】
表1及び表2の結果から、[A]錯体及び[B]化合物を含有する組成物(I)と、[C]化合物、[D]化合物及び[E]脱水剤を含有する組成物(II)とを備える実施例の2液混合型接着剤は、接着強度を維持しつつ柔軟性に優れる接着層を形成することができ、かつ保存安定性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の2液混合型接着剤は、接着強度を維持しつつ柔軟性に優れる接着層を形成することができ、かつ保存安定性に優れる。従って、当該2液混合型接着剤は、自動車外板等の難接着材料を含む種々材料の接着に好適に用いることができる。