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  • 特許-酵母タンパク質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】酵母タンパク質
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/20 20060101AFI20240209BHJP
   A23L 33/195 20160101ALI20240209BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240209BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20240209BHJP
   A23L 2/66 20060101ALN20240209BHJP
   A21D 2/26 20060101ALN20240209BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20240209BHJP
【FI】
A23J3/20
A23L33/195
C12P21/00 B
A23L2/00 F
A23L2/66
A21D2/26
A23L5/00 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020560212
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060750
(87)【国際公開番号】W WO2019207111
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】1853748
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メニン,ルディ
(72)【発明者】
【氏名】スポラオール,ポーリン
(72)【発明者】
【氏名】モーリー,イザベル
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/096382(WO,A1)
【文献】特開昭49-132268(JP,A)
【文献】特開昭52-130992(JP,A)
【文献】特開2009-137916(JP,A)
【文献】特開2013-053083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップを含む酵母タンパク質抽出物を得る方法:
a)酵母クリームを供給する;
b)この酵母クリームを70~95℃の温度で30秒~4時間、熱原形質分離に晒す;
c)全体を40~65℃の温度で8~24時間、少なくとも1種のリボヌクレアーゼ及び1種のグルカナーゼの活性に連続的に又は同時に付す、
d)不溶性フラクションを可溶性フラクションから分離して、酵母タンパク質抽出物として該不溶性フラクションを収集する、
ここで、ステップd)で収集された前記不溶性フラクションは味がなく、3%未満のヌクレオチド含量と、少なくとも72%の純タンパク質含量とを有する。
【請求項2】
下記のステップを含む酵母タンパク質抽出物を得る方法:
a)酵母クリームを供給する;
b)この酵母クリームを70~95℃の温度で30秒~4時間、熱原形質分離に晒す;
b')不溶性フラクションを可溶性フラクションから分離する;
c)前記不溶性フラクションを40~65℃の温度で8~24時間、少なくとも1種のリボヌクレアーゼ及び1種のグルカナーゼの活性に連続的に又は同時に付す、
d)ステップc)で得た不溶性フラクションをステップc)で得た可溶性フラクションから分離して、酵母タンパク質抽出物として該不溶性フラクションを収集する、
ここで、ステップd)で収集された前記不溶性フラクションは味がなく、3%未満のヌクレオチド含量と、少なくとも72%の純タンパク質含量と有する。
【請求項3】
脱アミノ酵素活性をさらに前記ステップc)で適用する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、カンジダ(Candida)、クリベロマイセス(Kluyveromyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ウイッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)の種から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記酵母がサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)から選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ステップc)で使用される複数の酵素が同時に使用される、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ステップd)で収集された前記不溶性フラクションはまた、7%を越える脂質含量を有する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ステップd)で収集された前記不溶性フラクションを、エタノール、溶媒又は超臨界COで処理して脂質を除去し、そして純タンパク質含量を80%に増加させる、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ステップa)で使用される酵母クリームがセレンに富む酵母を含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物から誘導されたタンパク質の分野に関し、更に詳しくは、酵母(イースト)から誘導されたタンパク質に関し、該タンパク質はヒト及び動物の栄養摂取、健康及び福祉に広く使用できる。
【背景技術】
【0002】
タンパク質はヒト及び動物の組織の主な成分を代表する。栄養学的観点から、タンパク質はプロテアーゼ及びペプチダーゼによってペプチドとアミノ酸に加水分解される。アミノ酸は、窒素、炭水化物及びイオウのような身体に不可欠の要素を与える。身体は、鉱物質窒素を固定してそれを有機分子中に取り入れることはしない。従って窒素はアミノ酸により与えられる。イオウ含有アミノ酸は代謝に重要なイオウを与える。アミノ酸はまた、タンパク質、ペプチド及び生理学的に不可欠な低分子量物質、例えばグルタチオン、クレアチン、ドーパミン、セロトニン等、の合成に不可欠な要素である。その結果、ヒト及び動物の栄養摂取のためにタンパク質の需要は世界人口の増加と共に拡大している。従って、動物性タンパク質に追加の及び/又は代替のタンパク質源を見いだす必要がある。タンパク質は植物(シリアル類、マメ類)又は昆虫から既に回収されている。微生物起源のタンパク質を得ることは、数世紀の間知られている発酵機構に依拠する。微生物タンパク質は全細胞又は細胞壁の成分であるか、又は単離したタンパク質である。ヒトの食品用の微生物起源のタンパク質の欠点の一つは、単離物の核酸含量である。この含量は低くなければならない。何故なら、核酸の代謝の最終生成物の一つは尿酸であり、該尿酸の異化に必要な酵素ウリカーゼを欠く人体は該尿酸を分解できない。他の欠点は、例えば、微生物からの単離により得られたタンパク質の収率又は純度である。
【0003】
例えば酵母細胞の細胞溶解後、タンパク質は《希(noble)》相、即ち可溶相、中に従来は回収され、該相は酵母抽出物に相当し、そして味が濃い化合物を含む。しかしながら、味はタンパク質抽出物の意図する用途によっては欠点であり得る。
【0004】
同じ1つのチームによる3つの特許は、濃縮タンパク質抽出物の取得に関する。
【0005】
特許文献1は、低含量の核酸を有するタンパク質抽出物が得られる方法を開示する。タンパク質が可溶性フラクション内に残れるように、細胞を機械的に崩壊するか(高圧、超音波)又は化学的に崩壊する(自己消化、外部酵素)。しかしながら、これらのタンパク質は加水分解の結果物、即ちアミノ酸、ペプチド及び多糖類又は単糖類と混合されている。遠心分離して不溶性フラクションを分離しそして除去した後、タンパク質を沈殿させ、そしてアルカリ処理により核酸を加水分解して、その後濾過により除去する。しかしながら、《加水分解されなかった》タンパク質の全体的回収率は低い。
【0006】
特許文献2は、酵母の溶解後の可溶性フラクションに見られる内因性ヌクレアーゼの核酸分解への使用を開示する。減圧濃縮ステップは濃縮タンパク質抽出物と、味と臭いがほとんどない生成物の両方を得させる。
【0007】
特許文献3は、細胞崩壊後、可溶性細胞質フラクションに超高温熱を加えて、核酸がほとんどないタンパク質に富む抽出物を得させる方法を開示する。
【0008】
最後に、純度がより良く、収量がより良くそして/又は栄養摂取に直接使用できるか又は食品サプリメントとして使用できるタンパク質抽出物の観点から、微生物からタンパク質を単離する方法を改良するために、いくつかの方針に注意を向けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第3867555号
【文献】米国特許第3887431号
【文献】米国特許第3991215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常の技術で取られる方針とは逆に、本発明者等は微生物の溶解後に得られた不溶性フラクションから微生物タンパク質を単離する方法を開発した。この新規な方法により、核酸含量、臭い及び臭気が少ない加水分解されていないタンパク質の濃厚な抽出物を良好な収率で得られる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の方法は、細胞溶解、好ましくは、微生物酵素の不活性化とグルタミンを含む遊離アミノ酸の培地への放出とに導く熱原形質分離(plasmolyse thermique)を介しての細胞溶解、から始まる。これらをグルカナーゼ型の酵素及びリボヌクレアーゼ型の酵素に付し、次いで分離し、その後、不溶性フラクションは、少なくとも72%の純(vraies)タンパク質含量を有する目標生成物に相当する。本発明の別の態様では、最初の分離を熱原形質分離段階の後に行い、そしてタンパク質、多糖類及びRNAを含む不溶性フラクションのみをグルカナーゼ及びリボヌクレアーゼの作用に付し、そして次にタンパク質に富む不溶性フラクションを維持するために再度分離する。
【0012】
得られたタンパク質抽出物は味と臭いがなく、そして核酸が少ない。
【0013】
膜から誘導された脂質をまだ含むタンパク質抽出物は、ヘキサン又はエタノール型の溶媒を用いた抽出、超臨界COを用いた抽出、又はリパーゼ又はホスホリパーゼを用いた処理と引き続き可溶化された相からの分離のような、当業者に知られた方法で脱脂することができる。
【0014】
得られたタンパク質は栄養素、食品サプリメント等の用途に直接使用できる。
【0015】
<定義>
微生物とは、肉眼では見えないが、顕微鏡では見える生体を意味する。本発明では、微生物は好ましくはバクテリア(原核微生物)又は酵母(真核微生物)である。酵母は、単数でも複数でも、有機物の発酵を引き起こすことができる真核微生物を表す一般的用語である。酵母の中で、サッカロミセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)に関して完全ではないが言及がなされている。
【0016】
酵母クリームとは、容器内で増殖後に得られる酵母の懸濁液を表し、そして遠心分離して周囲の液体から該懸濁液を分離した後のものでマストと称される。増殖は培養とも称すことができるが、又は拡大して発酵とも称すことができる。
【0017】
タンパク質はペプチド結合により連結されたアミノ酸の配列から形成される巨大分子である。タンパク質は全ての動物及び植物細胞の主な基本的構成成分を代表する。タンパク質は生物の50乾燥重量%までに当たり、そして私達の日毎のエネルギー摂取量の15~20%にのぼる。食品及び身体のタンパク質は、窒素及びいくつかの主な代謝機能を有するアミノ酸の主な源である。アミノ酸はタンパク質合成の基質、身体内で重要な窒素含有化合物(核酸、一酸化窒素、グルタチオン等)の前駆体、及びエネルギー代謝の基質である。
【0018】
一般に、農業食品において、タンパク質含量は窒素量に6.25を掛けたものと考えられる(係数6.25はタンパク質の平均窒素含量、100/6.25(即ち16%)から誘導される)。純タンパク質とは、非タンパク質性窒素、例えば核酸の窒素、から引き起こされるゆがみ(バイアス)に対して補正された現実に近いレベルのタンパク質を意味する。従って、式としては、純タンパク質の含量は、核酸及びアンモニアの窒素からの窒素を差し引いた全窒素に6.25を掛けたものと云うことができる。或いは、純タンパク質の含量は全アミノ酸の検定により評価できる。無傷の天然のタンパク質とは、生きた微生物に見られる状態の微生物のタンパク質を意味する。拡張すると、変性天然タンパク質は、折り畳み又は凝固により潜在的に変性された空間構造を有する。タンパク質はまた、部分的に又は完全に加水分解されることができる。
【0019】
原形質分離とは、微生物、好ましくは酵母、又は微生物の部分的(コンパートメント的)側面(aspect)の不浸透性の崩壊を意味する。膜の透過性化の外に水の減少がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の方法の2つの主な態様を示す。図1Aは、原形質分離と酵素加水分解との間に分離ステップがない方法を示す。図1Bは、原形質分離ステップの後に分離を行い、そして酵素加水分解をこの分離から誘導された不溶性フラクションに対して行う方法を示す。
【0021】
図2図2は、本発明の方法から誘導されたタンパク質抽出物、及び原形質分離ステップで得られた可溶性フラクションからタンパク質を抽出する公知の方法から誘導された、いわゆる慣用のタンパク質抽出物の、それぞれのタンパク質プロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の方法は、あらゆるタイプの酵母、更に詳しくはヒト又は動物の栄養摂取における背景用途を有するあらゆる酵母、に適用できる。工業的観点から、本発明の方法は、前に定義したような酵母クリーム、即ち酵母の懸濁液に実施される。好ましくは、酵母はサッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)又はウィッカーハモマイセス属(Wickerhamomyces)から選ばれる。更に詳しくは、酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)(いわゆるトルラ酵母Candida utilis)、ピキアパストリス(Pichia pastoris)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)等から選ばれる。これらの酵母は6~11%の窒素を含む。窒素は当業者に知られたケルダール法を用いて測定される。上述したように、純タンパク質含量は、掛け算係数6.25を用いて窒素検定から外挿される。
【0023】
酵母の培養は、当業者に知られた方法に従って実施される。一つのプロトコル(手順)は、参考文献《イースト テクノロジー》、Gerald Reed及び Tilak W.Nagodawithana 著 (ISBN 0-442-31892-8)、284~293頁に記載されている。該培養物は、バイオマスとも呼ばれ、遠心分離又は濾過により収穫され、そして洗浄することができる。酵母クリームが得られる。
【0024】
細胞は次に、高圧均質化、機械的破砕、超音波崩壊、繰返し凍結融解サイクル、浸透圧ショック又は酵素溶解のような公知の方法を用いた機械的又は化学的崩壊に付される。本発明の一つの態様では、酵母は、酵母のタイプに従って適合される70~95℃の温度で熱原形質分離(plasmolyse thermique)に付される。該温度は好ましくは80~90℃である。温度及び/又は溶解(lyse)時間を、例えば細胞及び/又は酵素の耐性の関数として調節するのは当業者の領域内であるが、このステップでは不活性化するのが望ましい。該時間は30秒から3時間の間、4時間まで、更に好ましくは1分、5分、10分、30分、45分、1時間、1時間30分、又は2時間、3時間まで又は4時間まででさえある。この原形質分離ステップは、酵母の変性、内因性酵素の不活性化、及び可溶性フラクションの放出を可能にする膜の浸透性化を許す。可溶性フラクションは本質的には遊離アミノ酸、小さいペプチド、ミネラルであり、これらのアミノ酸の中でいくつかはグルタミン酸のように味に影響を与える。
【0025】
本発明の第1の態様では、原形質分離ステップから誘導されそして可溶性フラクションと不溶性フラクションとを含む全体は、1回又はそれ以上の酵素活性に付される。このステップの目的は、タンパク質ではない最大数の成分を、タンパク質を攻撃することなく可溶性にすることである。好ましくは、リボヌクレアーゼ活性(EC 3.1.4.1)及びグルカナーゼ活性(EC 3.2.1)が使用される。該酵素活性は連続的に又は同時に実施することができる。リボヌクレアーゼ活性はRNAを5’ヌクレオチドに変換し、そして後者を可溶化して、可溶性フラクションに移動させる。数種のリボヌクレアーゼを使用することができ、例えばエンド-及びエクソ-ヌクレアーゼのミックス(混合物)を使用できる。場合によっては、可溶性フラクションの味増強性を回復させる観点から、デアミナーゼ(脱アミノ酵素)を使用してAMPをIMPに変換することができる。1種又はそれ以上のグルカナーゼの作用は、ポリサッカリド(多糖類)の壁を可溶化して可溶性オリゴサッカリドにするであろう。時間と温度は、使用した酵素の機能の詳細に応じて調整される。温度は40~65℃、好ましくは60℃である。時間は8~24時間、好ましくは16~24時間、更に好ましくは18時間である。この酵素ステップは第1に、ヌクレオチド、ポリサッカリド(合計炭水化物の約60%)及び少しの割合のアミノ酸を含む新規な可溶性フラクションを得させ、第2に本質的にタンパク質を含む不溶性フラクションを得させる。
【0026】
最後のステップは、可溶性フラクションと不溶性フラクションとの分離である。
【0027】
本発明の第2の態様において、原形質分離ステップから誘導された可溶性フラクションと不溶性フラクションとは分離される。可溶性フラクションは脇に置かれ、除去され、そして酵母抽出物として回収できる。不溶性フラクションは殻(又は壁)、ポリマー、ポリサッカリド(多糖類)、RNA、及び熱により凝固したタンパク質を含む。この不溶性フラクションは保持される。不溶性フラクションは、同様の培養手順(温度、時間)に従って、上述したようにリボヌクレアーゼ及びグルカナーゼの酵素活性に付され、そして可溶性フラクションと不溶性フラクションとの分離に付される。
【0028】
最終の可溶性フラクションを別に取って置き、そして使用することができる。
【0029】
酵素消化から誘導された最終の不溶性フラクションは、70%又はそれ以上、好ましくは72%又はそれ以上、80%又はそれ以上そして85%までの《純(vraies)》タンパク質含量を有する。一般に、酵母は50~55%の《純》タンパク質を含む。本発明の方法を用いて、多くの要素を除去しそして高いタンパク質濃度を有する生成物を得ることができる。場合によっては、この不溶性フラクション中の脂質の量は、溶媒(エタノール、ヘキサン)の作用を介して、又は超臨界COを介して、又はリパーゼ若しくはホスホリパーゼの作用により、低減できる。それにより80%を越える純タンパク質純度が達成できる。
【0030】
本発明の一つの態様では、リボヌクレアーゼ及びグルカナーゼのそれぞれの作用はいかなる順序でも連続して実施される。本発明の好ましい一態様では、リボヌクレアーゼ活性及びグルカナーゼ活性は同時に適用される。得られた生成物を凍結乾燥し、当業者に知られた方法、例えば噴霧乾燥又は減圧乾燥、により乾燥し、そしてその質と性質とを維持しながら保存することができる。
【0031】
従って、一つの態様では、本発明は、下記のステップを含む酵母タンパク質を得る方法に関する:
a)酵母クリームを供給する;
b)この酵母クリームを70~95℃の温度で1分~3時間、好ましくは40分~2時間、の間の時間、熱原形質分離に晒す;
c)全体を40~65℃の温度で8~24時間、少なくとも1種のリボヌクレアーゼ及び1種のグルカナーゼの活性に連続的に又は同時に付す、
d)不溶性フラクションと可溶性フラクションとを分離する、
ここで、ステップd)で収集した不溶性フラクションは味がなく、3%未満のヌクレオチド含量と、少なくとも72%の純タンパク質含量とを有する。
【0032】
別の態様では、本発明は、下記のステップを含む酵母タンパク質を得る方法に関する:
a)酵母クリームを供給する;
b)この酵母クリームを70~95℃の温度で1分~3時間、好ましくは40分~2時間、の間の時間、熱原形質分離に晒す;
b')不溶性フラクションと可溶性フラクションとを分離する;
c)該不溶性フラクションを40~65℃の温度で8~24時間の間の時間、少なくとも1種のリボヌクレアーゼ及び1種のグルカナーゼの活性に連続的に又は同時に付す、
d)不溶性フラクションを可溶性フラクションから分離する、
ここで、ステップd)で収集した不溶性フラクションは味がなく、3%未満のヌクレオチド含量と、少なくとも72%の純タンパク質含量と有する。
【0033】
本願記述の残りにおいて、ステップd)で収集した不溶性フラクションは《本発明の(酵母)タンパク質抽出物》とも称される。これに対して、公知の従来方法に従って、原形質分離から誘導された可溶性フラクションから得られた酵母タンパク質抽出物を《従来のタンパク質抽出物》と称される。
【0034】
本発明の一つの好ましい態様では、ステップa)の酵母クリームはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア(Pichia)、好ましくはピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)、クリベロマイセス(Kluyveromyces)、好ましくはクリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)又はクリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ヤロウィア(Yarrowia)、好ましくはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、又はウイッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)、好ましくはウイッカーハモマイセス・アノマラス(Wickerhamomyces anomalus)から選ばれる酵母の発酵から誘導される。有利には、該酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)又はクリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)から選ばれる。好ましい酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0035】
本発明の一つの好ましい態様では、熱原形質分離ステップa)は80~90℃の温度で行われる。
【0036】
本発明の一つの好ましい態様では、グルカナーゼ及びリボヌクレアーゼ活性は同時に適用される。
【0037】
場合によっては、脱アミノ酵素活性も適用することができる。
【0038】
有利には、ステップa)で使用される酵母クリームはセレンに富む酵母を含む。セレンに富む酵母の培養は当業者に知られた方法、例えば欧州特許第1478732号に記載された方法、に従って実施できる。すると該酵母培養物中のセレン含量は3000ppm又はそれ以上に達することができる。
【0039】
上記不溶性フラクション中に得られた生成物は、11.5乾燥物質%以上のタンパク質窒素含量、即ち純タンパク質72%(前に記載した変換係数6.25を用いて)以上を独占的に有する。通常、酵母は最大窒素含量11%を有し、それは69%の潜在的タンパク質を与える。酵母はまた、非タンパク質性窒素材料(核酸、RNA,DNA)をも含む。全窒素から核酸系窒素を引くと、酵母は50~55%のタンパク質しか含まない。従って、最終の不溶性フラクション中に得られた72%タンパク質の最小含量は、本発明の方法の特徴である。この同じ不溶性フラクションにおいて、全ヌクレオチドの含量は0.8~1.5%、そして3%までであり、合計炭水化物含量は1~8%(当業者に知られたアントロン検定)であり、グルカン含量は0.2~4%、マンナン含量は0.2~4%であり、脂質は7~15%、ミネラル物質は1~7%である。
【0040】
本発明で得られた酵母タンパク質抽出物と従来技術の抽出物、即ち、細胞溶解及び濃縮ステップの後の可溶性フラクションから得られるタンパク質抽出物、とを区別することは興味深いであろう。それは、タンパク質含量が少なくとも72%、そしてヌクレオチド含量がおそらく3%未満であろう。
【0041】
この目的で、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から誘導されたタンパク質抽出物に対して、酸加水分解及びソックレー装置でのヘキサンを用いた抽出の後に重量測定法を用いて、全脂質を分析した。脂質の量は系統的に7%より高かった。従って、本発明の抽出法におけるステップd)で収集した不溶性フラクションもまた7%より多い脂質含量を有する。これと比較して、《従来の》酵母タンパク質抽出物においては、脂質含量は1%未満である。脂質含量は酵母の種又は株に従って異なり得る。一般に、工業的生成物について、出発微生物は技術的データシートに示される。当業者はタンパク質抽出物中の種/脂質含量の組み合わせを外挿しそして推察することができるであろう。
【0042】
脱脂質ステップに付された本発明の酵母タンパク質抽出物については、2つの起源を区別するためには脂質含量は十分ではないであろう。そこで、タンパク質抽出物のタンパク質溶解性プロフィールの評価は比較分析を完成することができる。溶解度パーセントは下記の式で決定する:
【0043】
溶解度%=上澄液中の合計N%/反応媒体中の初期のN%
【0044】
ここで、N%はケルダール法に従って決定された窒素パーセントを表す。
【0045】
本発明のタンパク質抽出物の溶解度は水中3.5%未満である。これと比較して、《従来の》酵母タンパク質抽出物は可溶性と考えられ、5~10%の不溶性成分を含むだけである。
【0046】
同じ目的で、分子量プロフィールを本発明の酵母タンパク質抽出物と従来のタンパク質抽出物とで比較した。本発明で得られた酵母タンパク質抽出物は低分子量ピークを示さない。タンパク質プロフィールの殆どは約40-45kDaに分布する。最も小さい化合物は約500Daに見出され、小さいペプチドに対応する。これと比較して、《従来の》酵母タンパク質のプロフィールはいくつかの分子量ピークと低分子量について無視できない量を示す。これらのプロフィールを外挿しそして、下記の割合を測定することが可能である:
【0047】
(合計アミノ酸-遊離アミノ酸)/(合計アミノ酸)
【0048】
(食品中のアミノ酸についての従来の検定法、例えば、Commision Regulation No.152/2009(R`eglement CE EU152/2009)の公式方法、を用いて検定されたアミノ酸)。この割合は1に近く、本発明の酵母タンパク質抽出物については常に0.9よりも大きく、一方、《従来の》酵母タンパク質では0.30~0.85であり得る。
【0049】
本発明の方法を用いて得られる生成物は、公知のタンパク質抽出物とは、微生物起源、言い換えると非植物性且つ非動物性、その高いタンパク質含量、低い核酸含量、及び脱脂質処理が適用されていない場合は細胞膜脂質の残りの存在、により別に設定される。更に加えて、それは味がない。その微生物起源は、アレルギー性であるとは知られていない原料から誘導されるという利点をもまた有する。
【0050】
酵母タンパク質は栄養の質の主な利点を有する。従って、本発明の方法で得られた生成物は、一つの主な利点である、PDCAASスコア(タンパク質消化補正アミノ酸スコア(Protein Digestibility Corrected Amino Acids Score))が1、即ち、カゼイン及びオバルブミンのような参照用動物性タンパク質に似た質、を有するタンパク質の源である。タンパク質の質の評価は、代謝要求に適合する能力を決定するのを可能にする。その結果、栄養素及び食品又はスポーツサプリメントに関する用途には、本発明の方法で得られたタンパク質抽出物を使用することができる。本願で引用される用途に網羅されることを意図するものではない。
【0051】
ヒトの栄養摂取、健康及び福祉の文脈の範囲内で、上記タンパク質抽出物は体重管理用に、スポーツマン又は高齢者のサプリメントとして、食物サプリメントとして、又は高タンパク質バー又は飲料の形態で使用できる。例えば、該タンパク質抽出物はベガン(完全菜食者)型食事用の非動物性タンパク質の源として、例えばミルクシェーク、バーガー、ナゲット、植物ベースのデリミート、ラビオリの具、ミートボール、オート麦フレーク、パスタ風味用調製品に使用できる。同様に、高タンパク質のパン又は製パン製品は本発明の方法で得たタンパク質抽出物を使用することができる。上述したように、これらのタンパク質抽出物は、今日の植物性又は藻類のタンパク質のいくつかに特徴的な味、苦み又は異味(off-notes)を与えないという利点を有する。ヒトの健康において、該タンパク質抽出物は、幼児の栄養摂取又は臨床上の栄養摂取、即ち、栄養アンバランスを治療するための経口又は腸内の栄養摂取に使用できる。タンパク質抽出物がセレン豊富な酵母クリームから得られた場合、有利なことに、免疫を刺激しそして/又は皮膚、髪及び/又は爪の質を補強する食品サプリメントとして使用することができる。
【0052】
最後に、上記タンパク質抽出物は動物飼料のタンパク質補給品として使用できる。有利には、タンパク質抽出物がセレン豊富な酵母クリームから得られた場合、動物はタンパク質とセレンとの組み合わされた供給の利益を有するであろう。該セレンはセレノメチオニンの形態でタンパク質に一体化されるので、生物学的に利用可能である。
【0053】
従って、本発明は、純タンパク質(prote´ines vraies)含量が少なくとも72%で、本発明の方法のいずれかの態様に従って得られた酵母タンパク質抽出物の、体重管理用、高齢者又はスポーツマン用の食品サプリメントとしての使用、飲料、製パン製品又は植物ベースのデリミートにおける非動物性タンパク質源としての該タンパク質抽出物の使用、経口又は腸内の臨床の栄養摂取における該タンパク質抽出物の使用、又は動物の栄養摂取のための該タンパク質抽出物の使用にも関する。言い換えると、一態様において、本発明は、下記ステップを含むヒト及び/又は動物の栄養摂取のための食品補給方法に関する:
-本発明による酵母タンパク質を得る方法のいずれかの態様を実施することにより、酵母タンパク質抽出物を得る;そして
-該タンパク質抽出物を、体重管理用、高齢者又はスポーツマン用の食品サプリメントとしてヒトに及び/又は動物にタンパク質摂取として投与する。
【0054】
上述したように、本発明の方法の最終可溶性フラクションもまた別に取って置き、そして使用できる。それは合計炭水化物量が高いので、甘いジュースと比較することができる。合計炭水化物含量は45~70%である。これらの炭水化物はグルカン(25~40%)及びマンナン(25~35%)の形態であり、この可溶性フラクションを免疫刺激、特に動物の健康用に使用可能にする。使用したグルカナーゼのタイプに依存して、遊離グルコースもまた放出され得る。この可溶性フラクションはヌクレオチドに富み、更に詳しくは5’-GMPと、AMPが脱アミノ酵素によりIMPに変換された場合は5’-IMPとに富む。従って、この可溶性フラクションは味増強剤として使用できる。AMPがIMPに変換されなかった場合、フランス特許第1762074号に開示されているように、生成物は苦みまたは異味を隠すために使用できる。その組成はまた、種々の微生物用、特にバクテリア用に良好な成長基質となる。
【0055】
以下の実施例は本発明を例示することができる。それらは本発明の範囲を制限するものと理解すべきではない。
【実施例
【0056】
実施例1:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの濃縮タンパク質抽出物(>75%)の調製
高い窒素含量、窒素約10乾燥物質%、の酵母が達成可能となる条件下で、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の発酵を行う。この発酵のマストの上で遠心分離を用いて、酵母クリームを乾燥物質16~18%で得、そして該クリームを洗浄する。
【0057】
実験室で、この窒素に富む洗浄したクリーム3kgに熱原形質分離を実施し、交換器を用いて該クリームの温度を70~95℃の間の選ばれた温度にし、次に該クリーム3kgを、温水槽に浸したビーカー中に置いて培養する。該クリームを撹拌下に置き、そして該ビーカー中の該クリームの温度を2時間維持する。次に反応媒体の温度を60℃に下げる。フラクションを500ml三角フラスコに移す。該三角フラスコを、60℃に調整した温度の温水槽中に浸す。下記の量の酵素を加える:2種のグルカナーゼのミックスを0.2%(クリーム100g当りのg)、並びにエンド-及びエクソ-リボヌクレアーゼのミックスを0.1%。撹拌下で18時間放置して培養する。培養後に遠心分離する。遊離ヌクレオチド、ポリサッカリド及び少量のアミノ酸を含む可溶性フラクションを脇に置く。不溶性フラクションは酵母タンパク質抽出物である。3回の洗浄後、その組成は下記の通りである:窒素13.0%、合計ヌクレオチド3%及び合計炭水化物4.7%、即ち、純タンパク質77%。
【0058】
実施例2:方法1の変形に従ったサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの濃縮タンパク質抽出物(75%)の調製
実施例1に記載の方法の変形において、熱原形質分離の後に、不溶性フラクションを、遊離アミノ酸を含む上澄液から遠心分離により分離する。該不溶性フラクションを、捨てた上澄液の容量に等しい容量の水道水に取り出し、そして再び遠心分離する。この操作を合計3回行う。最後に、タンパク質、ポリサッカリド及び核材料を含む16乾燥物質%の不溶性フラクション2kgを回収する。フラクションを500mLの三角フラスコに移す。該三角フラスコを60℃に調整した温度を有する温水槽に浸し、それに前の実施例に記載したような方法の残りを適用する。
最終的に得られたタンパク質抽出物の組成は下記の通りである:窒素12.2%,合計ヌクレオチド1.4%及び合計炭水化物2.9%、即ち、純タンパク質75%。
【0059】
実施例3:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの濃縮タンパク質抽出物(>80%)の調製
熱原形質分離、遠心分離及び洗浄のステップを用いて、タンパク質、ポリサッカリド及び核材料を含むサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の不溶性フラクションを実施例2に記載の手順を用いて調製する。
このフラクションの乾燥抽出物を14%に、そしてpHを酵素の最適pHに調整する。このフラクション200gを、60℃の温水槽中に浸した三角フラスコ中、撹拌下で、下記の酵素量の存在下で18時間培養する:0.2%のグルカナーゼ精製液体調製物、並びに0.1%のエンド-及びエクソ-リボヌクレアーゼミックス。不溶性フラクションを遠心分離により収集し、そして3回洗浄する。得られたタンパク質抽出物は、窒素13.6%、合計ヌクレオチド2.4%及び合計炭水化物4.2%、即ち、純タンパク質83%を含む。
【0060】
実施例4:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの濃縮タンパク質抽出物(75%)の迅速調製
実施例2に記載した方法の一変形で、培養時間を8時間に低減することができる。それで得られたタンパク質抽出物は、窒素12.5%、合計ヌクレオチド3%及び合計炭水化物4.4%、即ち、純タンパク質75%を含む。
【0061】
実施例5:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの濃縮タンパク質抽出物(80%)の調製
実施例2に記載した方法の一変形で、タンパク質抽出物を5容量のエタノールでの抽出前に乾燥し、洗浄し、排水し、そして再び減圧乾燥する。それで得られたタンパク質抽出物は、窒素13.3%、合計ヌクレオチド2%及び合計炭水化物3.1%、即ち、純タンパク質81%を含む。
【0062】
実施例6:ピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)からの濃縮タンパク質抽出物の調製
ピキア・ジャディニー(Pichia jadinii)の発酵を、窒素含量が9乾燥物質%の範囲の酵母が得られる条件下で行う。この発酵物のマストに遠心分離を適用して、11~13乾燥物質%の酵母クリームを得、そして該クリームを洗浄する。
実験室で、株サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に適用したのと同じ手順に従って、この窒素に富むクリーム3kgに熱原形質分離を70~95℃の間の温度で2時間実施する。不溶性フラクションを遠心分離により収集し、そして3回洗浄する。
このフラクションの乾燥抽出物を11~13%に調整し、そしてpHを酵素の最適pHに調整する。このフラクション200gを撹拌下に、60℃の温水槽中に浸した三角フラスコ中で、下記の酵素量の存在下で18時間培養する:グルカナーゼの精製液体調製物0.2%、並びにエンド-及びエクソ-リボヌクレアーゼのミックス0.1%。不溶性フラクションを遠心分離により収集し、そして3回洗浄する。得られたタンパク質抽出物は窒素11.7%、合計ヌクレオチド1.4%及び合計炭水化物13.3%、即ち、純タンパク質72%を含む。
【0063】
実施例7:クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)からの濃縮タンパク質抽出物の調製
酵母の窒素含量が8乾燥物質%の範囲に達する条件下で、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)の発酵を行う。この発酵物のマストに遠心分離を適用して酵母クリームを得、そして該クリームを洗浄する。熱原形質分離、遠心分離を適用し、不溶性フラクションを洗浄し、そしてグルカンとエンド-及びエクソ-リボヌクレアーゼとの酵素ミックスを用いて、前に記載した手順に従って培養する。更なる時間遠心分離し、そして該タンパク質を含む不溶性フラクションを洗浄する。
得られたタンパク質抽出物は窒素11.8%、合計ヌクレオチド1.3%及び合計炭水化物8.8%、即ち、純タンパク質72%を含む。
【0064】
実施例8:本発明の方法で得られた《不溶性》タンパク質抽出物中の合計脂質の検定、及び従来技術に従って細胞溶解後に酵母の可溶性部分から抽出された《従来の》酵母タンパク質抽出物との比較
使用した方法は、酸加水分解と、ソックレー装置でヘキサンを用いた抽出との後の重量法である。この方法は欧州規則(r`eglement CE) No.152/2009に記載されている。結果を以下の表1に示す。本発明に従って得られたタンパク質抽出物の3つのバッチから、これらの結果は、抽出物100g当たり10~11gに近い脂質含量を示す。これと比較して、溶解された酵母の可溶性フラクションから得られた従来の酵母タンパク質抽出物は、抽出物100g当たり1g未満の脂質含量を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例9:タンパク質溶解プロフィールの決定
本発明によるタンパク質抽出物のバッチ1(実施例8を参照)から誘導されたサンプルについて、水溶液中で3つの異なるpH値で、最終タンパク質濃度2%(w/v)を用いて、タンパク質溶解プロフィールを決定した。撹拌下、周囲温度で60分の可溶化時間の後、上澄液を遠心分離で集め、そして上澄液中の合計窒素含量を、標準NF EN ISO 5983-2に従って、ケルダール法で決定した。各pH値について、溶解率を下記の式に従って決定した:
【0067】
溶解率%=(上澄液中の合計N%)/(反応媒体中の初期のN%)
【0068】
得られた結果は3.5%未満であった。
【0069】
実施例10:本発明のタンパク質抽出物と《従来の》タンパク質抽出物のそれぞれの分子量プロフィールの決定
前の全てのように、《本発明のタンパク質抽出物》とは、溶解した酵母細胞の不溶性フラクションから得られた酵母タンパク質抽出物を示す。これとは対照的に、《従来の酵母タンパク質抽出物》とは、溶解した酵母細胞の可溶性フラクションからの抽出により得られた酵母タンパク質を示す。抽出は当業者に知られた方法で行った。
実施例9に示すように、本発明のタンパク質抽出物は水性条件では溶解しない。可溶化のための特定の条件とサイズ排除クロマトグラフィーによる分析が開発された。その手順は下記の通りである(図2中の方法SEC1):
-サンプル10mgを移動相5mL中に可溶化(90℃で48時間撹拌下)、
-得られた溶液をAgilent(登録商標)PLゲルカラム、20μm MIXED-A(2 000~40 000 000 g/mol, PS等価)上で40℃にて分析。
移動相:DMSO/LiCl 0.25M
RI(屈折率)及びUV(280nm)検出器。
【0070】
《従来の》酵母タンパク質抽出物に使用した方法(図2中の方法SEC2)は、OIVモノグラフ(ブドウ及びワインの国際組織)から取得した:
-サンプルの水への可溶化;
-SUPERDEX 200 10/300 GLカラム(10 000~600 000 Da、球状タンパク質当量;1 000~100 000 g/mol、デキストラン当量)上での分析
移動相:リン酸バッファ+0.25M NaCl,pH7.2
214nm、260nm及び280nmでUV検出。
【0071】
それぞれのタンパク質プロフィールを図2に示す。
【0072】
本発明の酵母のタンパク質抽出物プロフィールは、ほぼ45kDaに分布し、低分子量(2-10kDaの範囲)のピークは示されていない。これと比較すると、《従来の》酵母のタンパク質抽出物プロフィールは著しく異なる:該プロフィールは低分子量の範囲、2-10kDa、で2つの明確なピークを示し、全体により明確で且つより広がった(複数の)ピークを有するプロフィールを示す。
【0073】
欧州規則(R`eglement CE EU) No.152/2009に記載の公的方法に従った合計アミノ酸及び遊離アミノ酸の検定は、下記の比率の決定を可能にする:
【0074】
(合計アミノ酸-遊離アミノ酸)/(合計アミノ酸)
【0075】
これは、本発明の酵母タンパク質抽出物に関しては1(又は100%)に非常に近く、そして0.9(又は90%)よりも常に大きい(実施例8で脂質を検定した3バッチに対する測定)。出願人の《従来の》酵母のタンパク質抽出物及び市販の抽出物については、これは通常0.30から0.85の間(30~85%)である。
【0076】
実施例11:セレンに富むサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の培養物から濃縮タンパク質抽出物(>75%)の調製
セレンに富む酵母クリームのバッチを実施例1又は実施例2に記載したタンパク質抽出法に付した。この酵母クリーム中のセレン含量は3200ppmに近かった。
得られたタンパク質抽出物中の合計窒素含量は13.5%、純タンパク質含量は76.7%であった。合計セレン含量は4750ppm(mg Se/kg、乾燥物)であった。セレノメチオニン含量は84%(Se/全Se(Se tot))であった。これと比較すると、生物学的に利用可能な有機セレンの源であるセレン化酵母SelSaf(登録商標)3000は、63%のセレノメチオニン含量であった。

図1
図2