(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】耐熱性イソアミラーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/56 20060101AFI20240209BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240209BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240209BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240209BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240209BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240209BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/24
(21)【出願番号】P 2020565167
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2020000255
(87)【国際公開番号】W WO2020145288
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019002159
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303036670
【氏名又は名称】合同酒精株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 将弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204317(WO,A1)
【文献】特表2002-519054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼ、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列と
90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるイソアミラーゼにおいて、D268S、A241T及びM574Vから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有するイソアミラーゼ。
【請求項2】
さらに、A554P、M277I、A549P及びA580Tから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有する請求項
1記載のイソアミラーゼ。
【請求項3】
さらに、A554P、M277I、A549P及びA580Tのアミノ酸変異を有する請求項
1記載のイソアミラーゼ。
【請求項4】
アミノ酸変異が、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T、及びA554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574Vから選ばれる変異を含む変異である請求項1~
3のいずれか1項記載のイソアミラーゼ。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項記載のイソアミラーゼをコードする遺伝子。
【請求項6】
請求項
5記載の遺伝子を有する組み換えベクター。
【請求項7】
請求項
6記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体。
【請求項8】
請求項
7記載の形質転換体を培養して、該培養物からイソアミラーゼを採取することを特徴とするイソアミラーゼの製造法。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか1項記載のイソアミラーゼを含有するデンプン糖化用酵素組成物。
【請求項10】
さらに、β-アミラーゼ、α-アミラーゼ及びグルコアミラーゼから選ばれる酵素を含有する請求項
9記載のデンプン糖化用酵素組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が向上した変異イソアミラーゼ、及びその変異イソアミラーゼの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化工業において、デンプンやアミロペクチン中のα-1,6-グルコピラノシド結合を加水分解する酵素として、Klebsiella pneumoniaeなどが生産するプルラナーゼ及びイソアミラーゼが知られている。このうち、イソアミラーゼは、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン中のα-1,6-グルコピラノシド結合を加水分解する酵素であり、可逆的な反応が見られないため、他のアミラーゼやグルコアミラーゼなどを使用することで高純度のグルコースやマルトースが生産できることが知られている。イソアミラーゼ生産菌としては、Pseudomonas amyloderamosa(非特許文献1)などが報告されている。
【0003】
しかし、Pseudomonas amyloderamosaなどが生産するイソアミラーゼの至適温度は他のアミラーゼの至適温度よりも低く、産業的に使用するレベルの反応温度帯では併用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Starch(1996),48:295-300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景の下、本出願人は、イソアミラーゼのアミノ酸配列の一部を改変することによって耐熱性を向上できることを見出し、先に特許出願している(特許文献1)。耐熱性を向上するべく、新たな変異点を見い出すことが求められた。
従って、本発明の課題は、耐熱性の向上に寄与する別の変異点を見出し、新たなイソアミラーゼ、及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Pseudomonas amyloderamosaなどが生産するイソアミラーゼのアミノ酸配列のうち、後述する特定の位置のアミノ酸を他のアミノ酸に変異させることによって、耐熱性が一層向上した変異イソアミラーゼが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
【0009】
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼ、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるイソアミラーゼにおいて、D268S、A241T及びM574Vから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有するイソアミラーゼ。
[2]前記配列同一性が90%以上である[1]記載のイソアミラーゼ。
[3]さらに、A554P、M277I、A549P及びA580Tから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有する[1]又は[2]記載のイソアミラーゼ。
[4]さらに、A554P、M277I、A549P及びA580Tのアミノ酸変異を有する[1]又は[2]記載のイソアミラーゼ。
[5]アミノ酸変異が、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T、及びA554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574Vから選ばれる変異を含む変異である[1]~[4]のいずれか1記載のイソアミラーゼ。
[6][1]~[5]のいずれか1記載のイソアミラーゼをコードする遺伝子。
[7][6]記載の遺伝子を有する組み換えベクター。
[8][7]記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体。
[9][8]記載の形質転換体を培養して、該培養物からイソアミラーゼを採取することを特徴とするイソアミラーゼの製造法。
[10][1]~[5]のいずれか1記載のイソアミラーゼを含有するデンプン糖化用酵素組成物。
[11]さらに、β-アミラーゼ、α-アミラーゼ及びグルコアミラーゼから選ばれる酵素を含有する[10]記載のデンプン糖化用酵素組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイソアミラーゼは、ネイティブのイソアミラーゼと比べて耐熱性が2℃以上向上している(一重変異体)。本発明のイソアミラーゼは、この耐熱性を6℃以上向上させることもできる(五重変異体~七重変異体)。そして、本発明のイソアミラーゼの至適温度は他の各種アミラーゼの至適温度と重複する。従って、本発明のイソアミラーゼは、各種アミラーゼと併用してデンプン等に作用させることにより、高純度のグルコースやマルトース等を工業的に有利に生産することができる。本発明において「併用」とは、本発明のイソアミラーゼと、それ以外の1種以上の酵素を混合した状態において、少なくとも2種以上の酵素が活性を示す状態にあることをいう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ネイティブ及び各変異体酵素の熱安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイソアミラーゼは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼ、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるイソアミラーゼにおいて、D268S、A241T及びM574Vから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有するイソアミラーゼである。
【0013】
ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼは、非特許文献1に記載された、Pseudomonas amyloderamosaが産生するイソアミラーゼである。このイソアミラーゼには、同一のアミノ酸配列を有する限り、Pseudomonas amyloderamosa由来でないイソアミラーゼが含まれる。また、同一アミノ酸配列を有する限り、ポリペプチドだけでなく、糖ペプチドも含まれる。なお、配列番号1は、成熟タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0014】
配列番号1で表されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は挿入されたイソアミラーゼにおける、アミノ酸残基の欠失、置換又は挿入の数は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼと同等の酵素活性を示すものであれば限定されないが、1~20個が好ましく、1~10個がさらに好ましく、1~8個がさらに好ましい。
また、当該欠失、置換又は挿入されたイソアミラーゼと配列番号1のアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上がさらに好ましい。このような配列の同一性パーセンテージは、基準配列を照会配列として比較するアルゴリズムをもった公開又は市販されているソフトウエアを用いて計算することができる。例として、BLAST、FASTA又はGENETYX(ソフトウエア開発社製)などを用いることができる。
【0015】
本発明のイソアミラーゼは、D268S、A241T及びM574Vから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有するが、耐熱性向上の観点から、さらにA554P、M277I、A549P及びA580Tから選ばれる1又は2以上のアミノ酸変異を有するのが好ましい。本発明における好ましいアミノ酸変異は、D268S、A241T及びM574Vからから選ばれる1又は2以上の変異と、A554P、M277I、A549P及びA580Tの4変異を含む5~7重変異である。
【0016】
具体的なアミノ酸変異としては、D268S、A241T、M574V、D268S/A241T、D268S/M574V、A241T/M574V、D268S/A241T/M574V、D268S/A554P、D268S/M277I、D268S/A549P、D268S/A580T、A241T/A554P、A241T/M277I、A241T/A549P、A241T/A580T、M574V/A554P、M574V/M277I、M574V/A549P、M574V/A580T、D268S/A554P/M277I、D268S/A554P/A549P、D268S/A554P/A580T、D268S/M277I/A549P、D268S/M277I/A580T、D268S/A549P/A580T、A241T/A554P/M277I、A241T/A554P/A549P、A241T/A554P/A580T、A241T/M277I/A549P、A241T/M277I/A580T、A241T/A549P/A580T、M574V/A554P/M277I、M574V/A554P/A549P、M574V/A554P/A580T、M574V/M277I/A549P、M574V/M277I/A580T、M574V/A549P/A580T、D268S/A554P/M277I/A549P、D268S/A554P/M277I/A580T、D268S/A554P/A549P/A580T、D268S/M277I/A549P/A580T、A241T/A554P/M277I/A549P、A241T/A554P/M277I/A580T、A241T/A554P/A549P/A580T、A241T/M277I/A549P/A580T、M574V/A554P/M277I/A549P、M574V/A554P/M277I/A580T、M574V/A554P/A549P/A580T、M574V/M277I/A549P/A580T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T、A554P/M277I/A549P/A580T/A241T、A554P/M277I/A549P/A580T/M574V、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/M574V、A554P/M277I/A549P/A580T/A241T/M574V、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574V等が挙げられる。
さらに好ましいアミノ酸変異としては、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T、A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574Vが挙げられる。
【0017】
本発明の変異イソアミラーゼは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるイソアミラーゼ、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるイソアミラーゼにおいて、D268S、A241T及びM574Vから選ばれる1又は2以上をアミノ酸変異することにより構築した遺伝子を用いて製造することができる。
【0018】
本発明の変異イソアミラーゼを製造するための遺伝子は、前記の変異イソアミラーゼをコードする塩基配列を有する遺伝子であり、例えば前記の配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子において、置換すべきアミノ酸配列をコードする塩基配列を、所望のアミノ酸残基をコードする塩基に置換することにより構築することができる。このような部位特異的塩基配列置換のための種々の方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば適切に設計されたプライマーを用いるPCRによって行うことができる。あるいは、改変型のアミノ酸配列をコードする遺伝子を全合成してもよい。
【0019】
このようにして得た遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、これを適当な宿主(例えば大腸菌)に形質転換する。外来性蛋白質を発現させるための多くのベクター・宿主系が当該技術分野において知られている。変異イソアミラーゼ遺伝子を組み込むための発現ベクターとしては、プラスミドベクターが挙げられ、例えば大腸菌用としてはpET-14b、pBR322等が挙げられる。枯草菌用としては、pUB110等が挙げられる。糸状菌用としては、pPTRI等が挙げられる。また、酵母用としては、pRS403等が挙げられる。
【0020】
得られた組み換えプラスミドは、大腸菌、枯草菌、カビ、酵母、放線菌、酢酸菌、シュードモナス属菌等の微生物に形質転換し、当該形質転換体を培養すれば、本発明変異イソアミラーゼが得られる。当該形質転換体は、変異イソアミラーゼ遺伝子をプラスミドのまま保持しても良いし、ゲノム内に取り込んでも良い。
【0021】
本発明のイソアミラーゼは、Pseudomonas amyloderamosaなどが生産するイソアミラーゼに比べて耐熱性が2℃以上向上しており、かつ至適pH、イソアミラーゼ活性等はPseudomonas amyloderamosaなどが生産するイソアミラーゼと同等である。特に、本発明のイソアミラーゼは、この耐熱性を6℃以上向上させることも可能である(五重変異体~七重変異体)。従って、デンプンに、β-アミラーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼなどから選ばれる酵素と、本発明イソアミラーゼとを作用させれば、高純度のグルコースやマルトースが容易に得られる。ここで、β-アミラーゼとしては、GODO-GBA2(合同酒精株式会社)、オプチマルトBBA(ダニスコジャパン株式会社)、β-アミラーゼL/R(ナガセケムテックス株式会社)、ハイマルトシンGL(エイチビィアイ株式会社)等を用いることができる。また、α-アミラーゼとしては、例えば、クライスターゼT10(大和化成株式会社)を用いることができる。グルコアミラーゼとしては、例えば、グルクザイム(天野エンザイム株式会社)、GODO-ANGH(合同酒精株式会社)を用いることができる。
【0022】
本発明のイソアミラーゼは、糖化用のイソアミラーゼとして使用することが好ましく、デンプン糖化用のイソアミラーゼとして使用することがさらに好ましい。
本発明のイソアミラーゼは、必要により他の1種以上の酵素と混合したデンプン糖化用酵素組成物とすることも好ましい。他の1種以上の酵素は、上述したβ-アミラーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼから選択することができる。
【0023】
反応は、例えば、アミラーゼ等のデンプン糖化酵素に本発明のイソアミラーゼを添加し、当該デンプン糖化酵素と当該イソアミラーゼが作用するpH、温度条件にて混合撹拌することにより行なわれる。本発明方法によれば、高純度のグルコースやマルトースを工業的に有利に製造することができる。
【実施例】
【0024】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0025】
実施例1(イソアミラーゼの部位特異的変異導入)
Pseudomonas amyloderamosaゲノムを鋳型としてプライマーPSTPIA-F(AAACTGCAGATGAAGTGCCCAAAGATTCTC(配列番号2))及びHINDPIA-R(CCCAAGCTTCTACTTGGAGATCAACAGCAG(配列番号3))を用いて耐酸性イソアミラーゼ遺伝子配列を含む約2.3kbの断片を取得した。この断片を制限酵素Pst I及びHind IIIで消化し、pHSG398(タカラバイオ株式会社)を制限酵素Pst I及びHind IIIで消化した約2.2kbの断片と連結することにより、p-PIを取得した。ネイティブの耐酸性イソアミラーゼの発現プラスミドであるプラスミドp-PIに部位特異的変異導入を行い、一重変異体(D268S)発現プラスミドp-PID268Sを取得した。同様に一重変異体(A241T)発現プラスミドp-PIA241T、一重変異体(M574V)発現プラスミドp-PIM574V、五重変異体(A554P/M277I/D268A/A549P/A580T)発現プラスミドp-PI5Mを取得した。また、p-PI5Mに部位特異的変異導入を行い、最適化 五重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T)発現プラスミドp-PI5Ms、六重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T)発現プラスミドp-PI6M、七重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574V)発現プラスミドp-PI7Mを取得した。
【0026】
実施例2(酵素の生成)
ネイティブ耐酸性イソアミラーゼ発現プラスミドp-PI、一重変異体(D268S)発現プラスミドp-PID268S、一重変異体(A241T)発現プラスミドp-PIA241T、一重変異体(M574V)発現プラスミドp-PIM574V、五重変異体(A554P/M277I/D268A/A549P/A580T)発現プラスミドp-PI5M、最適化 五重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T)発現プラスミドp-PI5Ms、六重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T)発現プラスミドp-PI6M、七重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574V)発現プラスミドp-PI7Mにより大腸菌DH5α株を形質転換し、それぞれのイソアミラーゼを生産する大腸菌株を取得した。これらの大腸菌を30μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地(酵母エキス 0.5%、トリプトン1.0%、塩化ナトリウム 0.5%、IPTG 0.1mM pH7.2)で、30℃3日培養し、培養液1Lを得た。超音波により菌体を破砕後、遠心分離(10,000g、10分間)を行い、上清をUF濃縮(旭化成社製 AIPモジュール)により、1,000U/mLとなるように濃縮した。これらを0.2μmのポアサイズの膜で除菌することにより、ネイティブ耐酸性イソアミラーゼ、一重変異体(D268S)イソアミラーゼ、一重変異体(A241T)イソアミラーゼ、一重変異体(M574V)イソアミラーゼ、五重変異体(A554P/M277I/D268A/A549P/A580T)イソアミラーゼ、最適化 五重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T)イソアミラーゼ、六重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T)イソアミラーゼ、七重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574V)イソアミラーゼの酵素溶液とした。
【0027】
実施例3(各変異体の熱安定性向上)
実施例2で調製した各酵素溶液を40℃、50℃、55℃、57.5℃、60℃、62.5℃、65℃に10分間保ったのちに氷冷し、残存活性を測定した。各温度における残存活性のプロットより作成された近似式を用いて残存活性が50%になる温度を算出し、この温度をネイティブ耐酸性イソアミラーゼと比較した場合に、増加する度合いを耐熱化度とした。七重変異体のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0028】
<活性測定方法>
イソアミラーゼの活性測定法は、以下のとおりである。
0.5%ワキシーコーンスターチ溶液0.35mLに、0.5Mの酢酸緩衝液(pH4.5)0.1mLを混合し、適時希釈した酵素液を0.1mL加え、45℃で15分間反応させる。その後、0.1N HClにて5倍希釈したヨード溶液(0.05Mヨウ素を含む0.5Mヨウ化カリウム溶液)0.5mLを加えて酵素反応を止め、10mLの水を加えて十分に撹拌した後、分光光度計を用いて610nmで測定する。酵素活性の単位は、上記条件下で1分間に0.01吸光度を増加する酵素量を1単位とした。
その結果、
図1及び表1に示すように、一重変異体(D268S)で約2.9℃、一重変異体(A241T)で約2.1℃、一重変異体(M574V)で約3.4℃、五重変異体(A554P/M277I/D268A/A549P/A580T)で約6.0℃、最適化五重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T)で約6.8℃、六重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T)で約7.1℃、七重変異体(A554P/M277I/D268S/A549P/A580T/A241T/M574V)で約8.2℃の耐熱化度の向上が確認された。
【0029】
実施例4(デンプンの糖化)
デンプンの糖化として、還元糖遊離試験を行った。10mM酢酸緩衝液(pH4.5)に溶性デンプンを30%(重量/重量)となるように加温溶解し、(1)0.05mg/mLに溶解したグルコアミラーゼ(和光純薬株式会社製)を30%溶性デンプン1gあたり20mg及び五重変異体イソアミラーゼを30%溶性デンプン1gあたり125U添加したもの、(2)グルコアミラーゼを30%溶性デンプン1gあたり20mg及び六重変異体イソアミラーゼを30%溶性デンプン1gあたり125U添加したもの、(3)グルコアミラーゼを30%溶性デンプン1gあたり20mg及び七重変異体イソアミラーゼを30%溶性デンプン1gあたり125U添加したものそれぞれを55℃、60℃、62.5℃で16時間反応させた。
100℃、5分間加熱し反応を停止させ、生成した還元糖量について、以下に示すDNS法にて測定した。
【0030】
<測定方法(DNS法)>
還元糖量の測定法は、以下のとおりである。
DNS(3,5-ジニトロサリチル酸)溶液1.5mLに、適時希釈したサンプル液を0.5mL加えた後に撹拌し、沸騰水中で5分間反応させる。水冷後、4mLの水を加えて十分に撹拌した後、分光光度計を用いて540nmで測定する。還元糖量はグルコース溶液を用いて作製した検量線より算出した。DNS溶液は、1%DNS溶液4400mLに4.5%水酸化ナトリウム溶液を1500mLとロッセル塩1275g溶解した後、別に調製したフェノール溶液(1%フェノール、2.44%水酸化ナトリウム)を345mLと、炭酸水素ナトリウムを34.5g加えて撹拌溶解し、2日間暗所保存後、ろ紙にて濾過したものを使用した。
その結果を表2に示した。五重変異体イソアミラーゼを用いた55℃反応において得られた還元糖量を100%としたとき、六重変異体イソアミラーゼを用いた際は102%、七重変異体イソアミラーゼを用いた際は102%に向上した。また、60℃反応においては、五重変異体イソアミラーゼでは100%と変化がないのに対して、六重変異体イソアミラーゼを用いた際は102%、七重変異体イソアミラーゼでは105%に向上した。さらに、62.5℃反応においては、五重変異体イソアミラーゼでは98%に低下したのに対して、六重変異体イソアミラーゼを用いた際は99%、七重変異体イソアミラーゼでは99%であった。したがって、五重変異体イソアミラーゼに比べて、六重変異体又は七重変異体イソアミラーゼを使用した場合の方が明らかに還元糖生成量の向上が認められた。さらに、55℃から60℃の温度上昇に伴って五重変異体イソアミラーゼは枝切り効果に変化が無いのに対し、六重変異体又は七重変異体イソアミラーゼは枝切り効果が向上し、歩留りの向上が認められたことから、変異による熱安定性効果が確認された。
【0031】
【0032】
【配列表】