(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】筋緊張症治療用サフィナミド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/165 20060101AFI20240209BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240209BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240209BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
A61K31/165
A61P21/00
A61K9/20
A61K47/20
(21)【出願番号】P 2020566226
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2019063733
(87)【国際公開番号】W WO2019229028
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-19
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507211901
【氏名又は名称】ザンボン ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】デサフィ ジャン フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ピエルノ サバタ
(72)【発明者】
【氏名】コンテ ディアナ
(72)【発明者】
【氏名】メローニ エルサ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラーティ シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】パドアーニ グローリア
(72)【発明者】
【氏名】カッチャ カルラ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0329800(US,A1)
【文献】Advances in Therapy,2018年03月14日,Vol.35, No.4,p.515-522
【文献】Journal of Parkinson's Disease,2016年,Vol.6, No.1,p.165-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61P1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋緊張性障害の治療における使用のための、サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩
を含む組成物であって、前記筋緊張性障害が、非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)である、組成物。
【請求項2】
前記
非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)が、メキシレチン抵抗性(mexiletine-resistent)である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記非ジストロフィー性筋緊張症
(NDM)が先天性筋緊張症である、請求項
1に記載の
組成物。
【請求項4】
前記非ジストロフィー性筋緊張症
(NDM)が、ナトリウムまたは塩素チャネル筋緊張症である、請求項
1に記載の
組成物。
【請求項5】
前記ナトリウムチャネルが、hNa
v1.4である、請求項
4に記載の
組成物。
【請求項6】
前記先天性筋緊張症が、トムセン先天性筋緊張症またはベッカー先天性筋緊張症である、請求項
3に記載の
組成物。
【請求項7】
前記ナトリウムチャネル筋緊張症が、先天性異常筋緊張症(paramyotonia congenita)である、請求項4~5のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項8】
筋緊張性障害に関連する筋緊張性症状の1つ以上を緩和することのための、請求項1~
7のいずれか1項に記載の
組成物であって、前記筋緊張性障害が、非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)である、組成物。
【請求項9】
前記非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)の筋緊張性症状が、骨格筋のこわばり、痙攣および疼痛を含む群から選択される、請求項
8に記載の
組成物。
【請求項10】
サフィナミドが、そのメタンスルホネート(メシレート)塩の
形態である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項11】
サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩が、薬学的担体、ビヒクルおよび/または賦形剤と組み合わ
される、請求項1~
10のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項12】
薬学的担体および/または賦形剤と組み合わせて、サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩を含む
、筋緊張性障害の治療における使用のための医薬組成物
であって、前記筋緊張性障害が、非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)である、医薬組成物。
【請求項13】
経口または非経口投与のための、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
メキシレチン耐性筋緊張性障害
の治療における使用のための、請求項
12~
13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
筋緊張性障害の治療またはその症状の緩和のための医薬の調製のためのサフィナミドの使用
であって、前記筋緊張性障害が、非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋緊張症の治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関する。特に、本発明は、筋緊張症が望ましくない態様である疾患または状態の治療に使用するための、サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景
筋緊張症は、活性化後の骨格筋収縮の不随意持続と定義することができ、これは硬直と疼痛を引き起こす。
筋緊張症は筋線維膜の異常(病理学的筋細胞膜の過剰興奮)に起因し、筋肉が収縮後に弛緩するまでに、遅延の延長を齎し、そして、痛みを伴い、日常の運動活動および生活の質を著しく妨げる可能性がある。筋肉は合図で収縮を開始するが、神経信号が終わった後も電気的活動が続き、筋肉のこわばりや“ロッキングアップ”を引き起こす。
【0003】
筋緊張性障害患者が経験する消耗性の、遅い筋弛緩は、活動電位(AP)の不随意発火によって引き起こされる。生理的条件では、静止筋膜コンダクタンスの70~80%を占める塩素電流(塩素チャネルCIC-1を介する)が、筋T細管におけるK+蓄積の脱分極作用を相殺し(AdrianおよびBryant、J Physiol 1974;240:505-515)、電位依存性Na+チャネルの開口を妨げるため、筋緊張症で観察される不随意APや反復放電が回避される。
骨格筋の塩素(CLCN1)及び/又はナトリウムチャネル(SCN4A)をコードする遺伝子の変異により、チャネルゲートの複数の欠陥が齎され、筋の過剰興奮及び筋緊張性放出が導かれる(BurgeおよびHanna、Curr Neurol Neurosci Rep 2012;12:62-69)。
【0004】
筋緊張症は、非ジストロフィー性筋緊張症や筋緊張性ジストロフィーなどの筋緊張性障害に分類できる様々な遺伝的および後天性疾患の特有の症状である。
【0005】
非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)は、心臓や消化管の筋肉に関与のない純粋な骨格筋疾患である。障害の型および重症度に応じて、筋緊張症は、脚、顔、手、尻、肩、足、まぶたから、人がはっきりと話す能力までのあらゆるものに影響を及ぼすことがある。感情的な驚き、寒さ、カリウムまたは運動は、筋緊張症の潜在的な誘因である。
【0006】
より重度の症例では、NDMは疼痛および筋硬直のために慢性的に衰弱する可能性がある。重度新生児発作性弛緩性痙攣SNEL(Severe Neonatal Episodic Laryngospasms)と呼ばれる重症筋緊張状態の不幸な合併症として、周産期死亡(perinatal death)が非常に少数例報告されている(Gayら、 Am J Med Genet A 2008;146:380-383、Lion-Francoisら、Neurology 2010;75(7):641-645)。Portaroら、Pediatrics 2016;137(4);Lehmann-Hornら、Acta Myologica 2017;XXXVI:125-134)。ごく最近、ナトリウムチャネルにおける筋緊張性突然変異は、SIDSの危険因子として特定されている(Sudden Infant Death Syndrome)(Mannikkoら、Lancet 2018;391(10129):1483-1492)。
【0007】
NDMは、骨格筋において排他的に発現する塩素またはナトリウムチャネル遺伝子における従来の点突然変異または欠失によって引き起こされるイオンチャネル障害に分類できる。NDMは、骨格筋NaV1.4ナトリウムチャネル(先天性異常筋緊張症およびナトリウムチャネル筋緊張症)をコードするSCN4A遺伝子の機能獲得突然変異、または骨格筋ClC-1塩化物チャネル(先天性筋緊張症)をコードするCLCN1遺伝子の機能喪失突然変異によって引き起こされることが知られている。
【0008】
突然変異した塩素チャネルの活性低下または突然変異したナトリウムチャネルの活性の増加が、高頻度活動電位放出の発生を伴う病理学的筋細胞膜の過剰興奮性を決定する。その結果、筋弛緩が困難になることが、筋緊張筋の特徴的な硬さの原因となる。
NDMには、例えば、トムセン先天性筋緊張症およびベッカー先天性筋緊張症のような、塩化物チャネル障害;および、例えば、高カリウム血性周期性麻痺を伴う/伴わない先天性異常筋緊張症およびナトリウムチャネル筋緊張症(SCM)のようなナトリウムチャネル障害が含まれ、これらには、例えば、変動性筋緊張症、持続性筋緊張症およびアセタゾラミド応答性筋緊張症、K+増悪筋緊張症、および重度新生児発作性弛緩性痙攣(severe neonatal episodic laringospasm)(SNEL)が含まれる。すべての型の先天性筋緊張症は、骨格筋膜にのみ発現する塩素イオンチャネルClC-1の機能喪失をもたらす突然変異によって引き起こされる。
【0009】
上記に列挙したNDMについての以下の臨床的記載および潜在的な治療選択肢は、Neurology India、July-September 2008、Vol.56、Issue 3に発表されたReview Article Myotonic disorders of Ami Mankodiから得られた。
【0010】
トムセン先天性筋緊張症
トムセン先天性筋緊張症という名前は、デンマークの医師自身および常染色体優性遺伝パターンを有する彼の家族により、1870年代の疾患の最初の記述に由来する。症状は乳児期または小児期に始まる。患者は安静後の筋肉活性化で無痛性の筋硬直を報告する。筋緊張は、反復する筋肉の努力、いわゆるウォームアップ現象で低下することがある。感情的な驚き、寒さ、妊娠は筋緊張症を悪化させることがある。身体検査では、四肢の筋肥大や顔面筋の肥大を伴う運動器の外観を示すことがある。握力筋緊張症や眼瞼筋緊張症を呈する。患者は、四肢の傍脊柱筋および近位筋の筋緊張を反映して、数分間仰臥位になった後、すぐに立ち上がるのが困難になることがある。筋力は正常である。
【0011】
ほとんどの患者で予後は良好である。身体障害性筋緊張の患者には、メキシレチン150mgを1日2回経口投与し、最大用量300mgまで漸増し、1日3回経口投与することで便益が得られることがある。
【0012】
ベッカー先天性筋緊張症
ベッカー筋緊張症は、常染色体劣性塩素チャネル筋緊張症(autosomal recessive chloride channel myotonia)である。この名前は、1970年代にこの状態を記述した研究者に由来する。臨床像には、一般化筋緊張症およびThomsenの筋緊張症に類似した筋肥大がある。しかしながら、重要な相違点がある:発症は潜行性で、小児期の後期に起こる;症状はしばしば発症時に、下肢(lower extremities)に起こる(いわゆる先天性上行性筋緊張症(ascending myotonia congenita);一部の患者では緩徐に進行する筋力低下;数秒または数分間持続する近位筋の一過性の筋力低下で、数分間、仰臥位で安静にした(supine rest)後、患者に素早く起きるように依頼することによって誘発されることがある;および下肢の筋肉のより顕著な肥大である。寒冷、長期の筋緊張、妊娠、月経、情緒的緊張(emotional tension)への暴露は、筋緊張症を悪化させうる。身体診察では、特に下肢および肩周囲の筋肉を含む、筋肥大を伴う運動器の外観が明らかになる。一部の患者は、前腕、手および前頸部の筋萎縮を示すことがある。筋緊張症は、握力筋緊張症や眼瞼ラグ(eyelid lag)に加え、そしゃく筋、舌・頚筋を含む多くの筋群で容易に認められる。最も特徴的な所見は、仰臥位から起き上がることおよび階段を上昇することから生じる著しい困難性であり、これは、暖機現象に続けて、数段階上る後に徐々に改善する。これは、筋緊張症と筋力低下が組み合わさったためと考えられている。ほとんどの患者は、安静期間の後、活動時に筋力低下に気づく。一部の患者では、下肢の筋力低下が持続することがあり、日常生活動作に障害を来すことがある。下肢では筋伸張反射が低下することがある。クレアチンキナーゼ(CK)値が上昇することがある。反復神経刺激と短時間運動試験は、複合筋活動電位(CMAP)振幅(compound muscle action potential (CMAP) amplitude)の低下を示すことがある。長時間運動試験はわずかな減少を明らかにすることがあり、これは、トムセン筋緊張症の特徴ではない。ほとんどの患者は良好な生活の質を享受する。症状はゆっくりと進行するだけで、患者が30年後に安定することがある。治療は、活動修飾(activity modifications)、筋緊張および筋力低下の誘因の回避に向けられる。身体障害性筋緊張症の患者において、メキシレチン、トカイニドまたはアセタゾラミドを含む薬理学的治療が有益である場合もある。
【0013】
先天性異常筋緊張症(PMC)(Paramyotonia congenita(PMC))
先天性異常筋緊張症とは、特に寒冷時に運動により悪化する筋緊張症をいう。症状は、乳児期または小児期に始まる。典型的な症状は、乳幼児期に泣いたり、または、冷水で顔を洗ったりした後の長期の眼の閉鎖、およびアイスクリームを食べた後の「冷凍舌」を含む。一部の患者は、低温で運動した後に弛緩性脱力(flaccid weakness)を報告することがある。カリウムの摂取、安静、その後の運動および長時間の絶食も、異常筋緊張症を悪化させることがある。身体診察では、眼瞼異常筋緊張(eyelid paramyotonia)が顕著であり、持続的な閉眼または長期の上方注視後の持続的な眼瞼後退(lid retraction)の後に眼を開けられないこととして現れる。まぶたにアイスパックを置くと、異常筋緊張症を悪化させることがある。ハンドグリップ運動の前に氷冷水に10~15分間手を浸すと、異常筋緊張症およびその後の脱力が引き起こされることがある。運動および感覚神経伝導検査は正常である。5Hzでの反復神経刺激は、CMAP振幅の減少をもたらし得る。同様に、寒冷暴露後の短い運動試験もまた、応答の減少をもたらし得る。筋電図(EMG)では多くの筋に、筋緊張が認められる。細動電位および陽性の鋭い波は、寒さへの暴露後に明らかになることがある。極度の寒冷暴露では、無痛性の筋拘縮が起こることがある。単一ファイバのEMGは、ジッタ(jitter)の増加および時にはブロッキングを示すことがある。診断には筋生検の適応はない。ほとんどの患者では、運動や寒冷暴露などの誘因を避けることは良好な生活の質を維持するのに十分である。メキシレチンは、障害性異常筋緊張症に使用できる。
【0014】
カリウム感受性筋緊張症
ナトリウムチャネル筋緊張性障害には3つの異なるものがあり、それらにおいて、筋緊張症は、カリウム摂取により筋緊張症が悪化する。寒冷暴露は、先天性異常筋緊張症のように、筋緊張症を悪化させないのが一般的である。脱力は顕著な症状ではない。
変動性筋緊張症(Myotonia fluctuans)は、カリウム摂取または運動によって誘発される一般的な筋緊張を特徴とする。異常筋緊張症とは対照的に、患者は、最初の運動後にウォームアップ効果を示すことがあるが、筋緊張症は、約20~40分の安静期間に続く2回目の運動後に、筋緊張症がより顕著になる。患者は、数時間から数日間続く明らかな筋緊張症状のない期間を有する筋緊張症の重症度の変動を報告する。筋肉のバルクと筋力は正常である。CKレベルは、2~3倍上昇し得る。筋電図(EMG)は筋緊張および細動電位を明らかにすることがある。神経伝導検査は正常である。筋生検では、内部核の増加、線維サイズのばらつきおよび筋細胞膜下空胞(sub-sarcolemma vacuoles)などの軽度の異常が明らかになることがある。ほとんどの患者は投薬を必要としない。カリウムに富む食品の単純な回避で十分であり得る。メキシレチンは、身体障害を来す筋緊張性硬直を緩和するのに有用となりうる。
【0015】
持続性筋緊張症(Myotonia permanens)は、非ジストロフィー性筋緊張症のまれで重度の型である。臨床像には、10歳前の発症、重度の一般化筋緊張症、および筋肥大がある。筋力低下は顕著ではない。肋間筋を含む重度の筋緊張症は、低酸素血症およびアシドーシスを伴う呼吸障害をもたらすことがある。カリウムの摂取と運動は、筋緊張の通常の誘因である。筋電図(EMG)は、正常な運動単位電位を有する一般的な筋緊張症を明らかにする。メキシレチンは筋緊張性硬直を部分的に緩和することがある。アセタゾラミドは、運動による筋肉のこわばりやけいれんを和らげるのに役立つ。
【0016】
アセタゾラミド-応答性筋緊張症は、カリウム摂取、寒冷および絶食により悪化する一般的な筋緊張と、アセタゾラミドによる優れた回復を特徴とする。患者は小児期に進行性の一般的な筋緊張症を呈するが、これは臨床検査および筋電図(EMG)により容易に明らかになる。眼瞼異常筋緊張症が一部の患者でみられることがある。筋緊張性硬直は痛みを伴うことがある。運動は一般に、筋緊張に有意な影響を及ぼさない。治療にはアセタゾラミドを用い、開始用量は1日125mgとし、必要であれば1日3回250mgまで漸増する。副作用には、腎結石形成、感覚異常、悪心、錯乱、気分過敏性、うつ病、発疹および肝機能異常などがある。全血球数および肝機能を定期的にモニタリングすることが推奨される。メキシレチンも、筋緊張を軽減できる。
【0017】
NDMは進行性の筋力低下と全身性の特徴がないため、筋緊張性ジストロフィーとは異なる。
筋緊張性ジストロフィー(DM)は、進行性ミオパチー、筋緊張、多臓器病変を特徴とする疾患である。
筋緊張症の存在は、DMの最も身体障害をもたらす態様ではないが、病態の認識されている特徴であり、筋ジストロフィーの他の病型と区別する疾患の態様である。
現在までに、同様の突然変異によって引き起こされる2つの異なる形態が同定されている:筋緊張性ジストロフィー1型(DM1)と筋緊張性ジストロフィー2型(DM2)である。
特に、DM1及びDM2は、それぞれ19番及び3番染色体のヌクレオチドリピートの伸長による遺伝性のヒト疾患である(Meola、Acta Myol、2013;32(3):154-165)。このような変化は、毒性RNAの核への蓄積につながり、多くの細胞種で正常なタンパク質のプロセシングに影響を及ぼす。したがって、DM1およびDM2は例えば、CNS、心臓、および骨格筋を冒す多臓器性疾患である。後者において、ClC-1チャネルは、この毒性プロセスの標的である。ClC-1タンパク質の減少およびそのスプライシングの改変はDM1およびDM2患者における筋緊張症の主な原因である(Charlet-Bら、Mol Cell.2002;10(1):45-53;Mankodiら、Mol Cell)。2002;10(1):35-44;およびChenら、J Mol Biol.2007;368(1):8-17).
【0018】
現在、筋緊張症治療薬は、病理学的な筋細胞膜の過剰興奮性を低下させることを目的としている。これらの投薬はメキシレチンを含む(Logigianら、Neurology 2010;74(18):1441-1448)。
【0019】
発明の概要
本発明者らは、病理学的筋細胞膜の過剰興奮の減少を介して作用する抗筋緊張性薬物を探索し、サルフィナミドが、単離した筋緊張性筋線維における筋細胞膜の興奮を回復させ、筋緊張症の薬物学的に誘発されたラットモデルにおいて、in vivoで筋緊張症状を軽減することができることを見出した。したがって、本発明は、この知見に依拠し、それを必要とする筋緊張性障害を有する患者を治療するための抗筋緊張性薬物としてのサフィナミドに言及する。
本発明はまた、筋緊張性障害における使用のための、適切な賦形剤、ビヒクルまたは担体と組み合わせて、サフィナミドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、9-アントラセンカルボン酸(9-AC)により誘発された、筋緊張症様状態におけるラット骨格筋線維興奮に対するサフィナミドのin vitroでの抗筋緊張作用を示したものである。骨格筋線維興奮(スパイクの最大数、Nスパイク)を、投与前(対照、ctrl)、50μMの9-AC単独投与後、および6つの異なる濃度(0.1~30μM)でのサフィナミドの同時投与後に測定した。抗筋緊張効果は、サフィナミドのウォッシュアウト(50μM 9-AC、右端のカラム)で可逆的であった。結果は、平均±標準誤差;P<0.05 vs 9-AC単独、Bonferroni t検定で表した。
【0021】
【
図2】
図2は、先天性筋緊張症の薬理学的誘発ラットモデルにおけるサフィナミドのin vivoでの抗筋緊張についての用量-反応効果を示す。0.3、1、3、10および30mg/kg(それぞれ:黒三角、灰色円、白丸、黒丸、灰色三角;ビヒクル単独:白四角)で経口投与したサフィナミドは、ラットにおける筋緊張の徴候として、9-アントラセンカルボン酸(9-AC、30mg/kg)誘発時間正向反射(TRR)延長を打ち消すことができた。結果は、平均±標準誤差、n=5~7のラット;ビヒクルに対してP<0.05、Bonferroni t検定で表した。
【0022】
発明の詳細な説明
したがって、本発明は、病理学的筋細胞膜過興奮によって引き起こされる状態、および/または正常な筋細胞膜興奮の回復が治療上の利益または改善をもたらし得る任意の他の状態(このような状態は筋緊張性障害である)の処置における使用のためのサフィナミドまたは薬学的に許容されるその塩に関する。
実際、筋緊張性障害を有する患者の30%までが、メキシレチン(筋緊張性障害における参照薬物)が無効であることを見出す(Desaphyら、2013;Suetterlinら、JAMA Neurol.2015 Dec;72(12):1531-3;Portaroら、2016)。
本発明の目的のために、メキシレチンが無効である筋緊張性障害は、メキシレチン耐性と定義されており、本発明のさらなる実施形態は、メキシレチン耐性筋緊張性障害の治療におけるサフィナミドの使用に関する。
さらに、本発明は、筋緊張性障害の治療における使用のためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、ここで、筋緊張性障害は、好ましくは非ジストロフィー性筋緊張症(NDM)である。
【0023】
さらに好ましくは、サフィナミドが有益であると思われるNDM患者が、SCN4A遺伝子にミスセンス突然変異を有する。実際、いかなる特定の理論にも束縛されることなく、実験の部でより詳細に説明されるように、静止膜電位で、および反復脱分極パルス後に、IC50値として測定されるサフィナミド力価は、hNav1.4チャネルにおけるミスセンス突然変異でトランスフェクトされた細胞において、野生型と比較して減少しないことが見出された(Desaphyら、2001、2003および2016)。使用依存性および頻度依存性の方法で、ナトリウムチャネルを遮断することができる化合物は、異常な発火を減少させるが、正常な筋線維活性に影響を与えないままにすることが予想される。
反対に、hNav1.4の点突然変異をトランスフェクトした細胞では、メキシレチンの効力が有意に低下した。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明がNDMの治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、そのようなNDMは、好ましくは、先天性筋緊張症、例えば、トムセン先天性筋緊張症またはベッカー先天性筋緊張症、先天性異常筋緊張症またはナトリウムまたは塩素チャネル筋緊張症であり;より好ましくは、前記ナトリウムチャネル筋緊張症が、hNav1.4vチャネル障害であり、それを必要とする患者は、hNav1.4チャネルをコードするSCN4A遺伝子における突然変異のキャリアである。
【0025】
さらなる実施形態では、本発明が、先天性筋緊張症の治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、このような先天性筋緊張症は、Thomsen先天性筋緊張症またはBecker先天性筋緊張症である。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明は、先天性異常筋緊張症の治療における使用のためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関する。
さらに、本発明は、ナトリウムチャネル筋緊張症の治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、そのようなナトリウムチャネル筋緊張症は、変動型筋緊張症(myotonia fluctuans)、持続型筋緊張症(myotonia permanens)またはアセタゾラミド応答性筋緊張症である。
【0027】
さらに、本発明は、筋緊張性障害の治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、このような筋緊張性障害は、好ましくはDMである。
よりさらに、本発明は、DMの治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、このようなDMは、好ましくはDM1およびDM2から選択される。
好ましい態様において、本発明は、先天性筋緊張症の治療に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関する。
別の態様において、本発明は上記で定義される状態に関連する筋緊張症状の1つ以上を緩和する際に使用するためのサフィナミドまたはその薬学的に許容される塩に関し、筋緊張症状は骨格筋のこわばり、痙攣、および疼痛を含む。本発明によれば、サフィナミドは、次式の(2S)-2-[[[4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]メチルアミノ]プロパンアミドである:
【0028】
サフィナミドは、好ましくは薬学的に許容される塩の形成である。サフィナミドの薬学的に許容される塩には、無機酸、例えば硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸およびリン酸との付加塩、または有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸およびサリチル酸との付加塩が含まれ、サフィナミドメタンスルホネート(メシレート)が好ましい塩である。
【0029】
本明細書で使用される場合、冠詞「a」および「an」は冠詞の文法的目的の1つまたは2つ以上(例えば、少なくとも1つ)を指す。
本明細書中で使用される場合、用語「疾患」、「障害」または「状態」は、交換可能に使用される。
本明細書中で使用される場合、用語「治療する」または「治療」は、このような用語が適用される障害もしくは状態、またはこのような障害もしくは状態の1つ以上の症状の逆転、軽減、進行の阻害、または予防を含む、所望の薬理学的効果を得ることをいう。
【0030】
サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩は、典型的には医薬組成物に含まれる。
上記で定義され、本発明による筋緊張性障害の治療のための医薬組成物は、サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩を、所望の治療効果または筋緊張性障害の症状の軽減のいずれかを提供するのに十分な有効量で含む。医薬組成物は、薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
【0031】
本発明による医薬組成物は全身的/末梢的または局所的(すなわち、所望の作用部位)にかかわらず、任意の簡便な投与経路によって対象/患者に投与され得る。
本発明による医薬組成物は、経口投与、局所投与、経皮投与、非経口投与およびそれらの組み合わせのために製剤化することができる。好ましい組成物は、経口または非経口投与用である。経口投与のための適切な形態としては、錠剤、圧縮されたまたはコーティングされた丸剤、サシェ、トローチ、顆粒、硬質または軟質ゼラチンカプセル、舌下錠、シロップ、溶液、および懸濁液が挙げられ;非経口投与のためには本発明が水性または非水性溶液またはエマルジョンを含むアンプルまたはバイアルを提供し;直腸投与のためには親水性または疎水性ビヒクルを有する座薬が提供され;そして軟膏および経皮送達としての局所適用のためには当該分野で公知の適切な送達システムが提供される。
本発明による医薬組成物はそれ自体公知であり、当業者によく知られている方法によって調製することができる。
【0032】
サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩および/またはそれを含有する医薬組成物の投与方法は、被験者の型、年齢、体重、性別および医学的状態、前記状態に関連する状態および/または筋緊張性症状の重症度、ならびに投与経路を含む様々な因子に基づく。
したがって、投与法は大きく異なる可能性がある。サフィナミドまたはその薬学的に許容される塩の約5~約500mg/日の用量レベル(単回または分割用量で投与される)は、上記の状態の治療に有用である。一実施形態では、全1日用量が典型的には約10~約250mgである。別の実施形態では、全1日用量が典型的には約50~約100mgである。
【0033】
サフィナミドメタンスルホネートのフィルムコーティング口腔用錠剤は、50mgおよび100mgの投与量で、現在、トレードネームXadago(R)で市販されている。
本発明によれば、サフィナミドの抗筋緊張活性は、in vitro(筋緊張性骨格筋線維における筋細胞膜過剰興奮性)及びin vivo(塩化物コンダクタンスの遺伝的損失が筋弛緩及び筋硬直の障害を引き起こす、ヒトの病理学的条件を模倣した先天性筋緊張症の薬理学的誘発ラットモデル)の両方で筋緊張条件を模倣した実験プロトコールを用いることによって評価されている;Desaphyら、Neuropharmacology 2013,65:21-7;及びDesaphyら、Exp Neurol 2014;255:96-102)。
【0034】
以下の実施例およびそれらに付随する
図1および
図2は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を例示する。
【0035】
実験部
実施例1.ラット骨格筋線維におけるサフィナミドのin vitro抗筋緊張活性
サフィナミドの抗筋緊張活性は、2微小電極電流クランプ法を用いて、単離した長指伸筋(Extensor Digitorum Longus)(EDL)の単一筋線維における筋細胞膜興奮を記録することにより評価した。先天性筋緊張症のin vitroモデルは、9-アントラセンカルボン酸(9-AC)とラットEDL筋肉をインキュベートすることにより得られた(Conte Camerinoら、Muscle Nerve.1989;12(11):898-904)。Altamuraら、Br J Pharmacol.2018;175(10):1770-1780)。骨格筋ClC‐1塩素チャネルの遮断を介した9‐ACにより引き起こされる筋細胞膜興奮の増加は、先天性筋緊張症に罹患した患者で観察された異常な活動電位発火を模倣した。
【0036】
EDL筋を、深麻酔下(80mg/kgのipケタミンおよび10mg/kgのipキシラジン投与)で、雄Wistarラットから切開した。筋肉を、30℃に維持した25mLの筋肉浴槽に入れ、生理食塩水(95% O2および5% CO2のガスを通した;pH=7.2~7.3)で潅流した。標準的な2細胞内‐微小電極技術の手段により、筋線維の静止膜電位および興奮性特性(スパイク数)を電流クランプモードで測定した。サンプリングされた繊維の興奮性特性は、方形波定常(100ms)電流パルスに対する細胞内膜電位応答を記録することによって決定された。各ファイバにおいて、膜電位は脱分極パルスを通過させる前に、定常保持電流を-80mVに設定された。パルスの振幅を増加させることによって、我々は第1の単一活動電位を誘発することができ、同じファイバにおいて電流強度をさらに増加させることによって、誘発可能なスパイク(Nスパイク)の最大数を測定した(Piernoら、Br J Pharmacol.2006;149(7):909-19)。
【0037】
ダントロレンナトリウム(2mg/L)で、不当な筋収縮が妨げられた。細胞興奮性パラメーター(Nスパイク)を、投与前(対照)、9-AC単独の50μM後、および6つの種々の濃度(0.1~30μM)のサフィナミドの同時投与後に測定した。これらの実験条件において、サフィナミドメタンスルホネートを使用し、蒸留水中のストック溶液(10mM)として溶解し、次いで、筋肉浴溶液中で最終濃度に希釈した。1匹の動物を用いて、2つの濃度のサフィナミドを試験した:各EDL筋肉において1つの濃度。
【0038】
図1に示すように、9-ACは、Nスパイクを60%増加させることによって、筋緊張様状態を誘導した。1、5、10および30μMのサフィナミドは、Nスパイクを、それぞれ、22±6%、35±5%、42±5%および60±6%有意に減少させ(P<0.05 対9‐AC単独、Bonferroniのt検定)、したがって、筋細胞膜性興奮(sarcolemma excitability)を回復させた。IC
50(9-ACの効果を、50%減少させることができる濃度で、濃度-応答曲線への当て嵌め(fit)から計算したもの)は、13.4±2.4μM(当て嵌めに±標準誤差)であった。抗筋緊張効果は、サフィナミドのウォッシュアウト(9-AC、50μM)で可逆的であった。
注目すべきことに、同じ試験において、メキシレチンのIC
50は、3倍を超えて高く、より低い力価を示した。
【0039】
実施例2.先天性筋緊張症ラットモデルにおけるサファナミドのin-vivo抗筋緊張活性に関する研究
筋緊張症は、骨格筋ClC-1塩素チャネルの公知のブロッカーである、9-ACの腹腔内注射によってラットにおいて誘導された(Conte Camerinoら、Muscle Nerve.1989;12(11):898-904)。Altamuraら、Br J Pharmacol.2018;175(10):1770-1780).
【0040】
雄Wistarラット(250~300g)を使用した。実験は、Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsにしたがって、かつ、Italian Health Departmentの承認n.194/2018-PRを得て行なわれた。実験者には治療法について盲検化された。
【0041】
この動物モデルでは、9‐ACは、ClC‐1チャネルをコードするCLCN1遺伝子の機能喪失変異によるヒト疾患である、in vivo先天性筋緊張症を模倣する。9‐AC注射後、ラットは、特に後肢で明らかな筋硬直、および移動困難性を示した。それにもかかわらず、動物は完全に意識し、警戒したままであった。呼吸は正常であった。予想外の騒音を聞くと、動物は,その場でのジャンプによって反応したが、筋肉のこわばりのために離れるのが非常に困難であった。筋緊張は、正向反射の時間(TRR、仰臥位に置かれたラットがその4つの足を元に戻すのに必要な時間)を測定することにより評価した。ラットでは、9-AC注射の前に、TRRは0.5秒未満であった。TRRは、9-AC後10分で約2秒まで劇的に延長され、9-AC後30分で約4秒までさらに増加した。その後、TRRは時間とともに徐々に減少し、9‐AC後3時間で1秒に近かった。抗筋緊張薬物は、9‐AC誘導TRR延長に対抗することが期待される。
【0042】
TRRを、9-ACの約10分前(時間0)および9-ACの10、37、67、127および187分後(30mg/kg i.p)に評価した。各時点で測定されたTRRは、(ウォームアップ効果を限定するために)1分間隔での7回の測定の平均であった。サフィナミドメタンスルホネート(遊離塩基として、10および30mg/kg)またはビヒクルを、9-AC注射の17分後に、ラットに強制経口投与した。9-ACおよびサフィナミドメタンスルホネートを、それぞれ重炭酸塩および0.9%NaCl溶液に溶解した。ラット間の比較を可能にするために、各時点で測定されたTRRを、同じラットにおける9-AC注射の10分後に測定されたTRRの関数として正規化した。次いで、各用量について平均データを、平均値±標準誤差として計算した。統計処理は、一元配置分散分析(ANOVA)後にad-hoc Bonferroni t検定を用いて行った。P値<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0043】
図2に示すように、ビヒクル処置ラットでは、9-AC注射の37、67および127分後にTRRの有意な増加が観察された。ピーク効果(37分と67分)で、サフィナミドとの同時処理は、9‐AC誘導TRR延長を、用量依存的かつ有意に打ち消し、その効果は120分まで持続したことから、in vivoのサフィナミドが、先天性筋緊張症のラットモデルにおいて抗筋緊張活性を有することが実証された。
【0044】
このin vivoモデルにおいて、漸増用量(遊離塩基として0.3、1、3、10および30mg/kg)でのサフィナミドメタンスルホネートの用量応答曲線も研究した。ラット間の比較を可能にするために、各時点で測定されたTRRを、同じラットにおける9-AC注射の10分後に測定されたTRRの関数として正規化した。その後、各薬物/用量の平均データを平均値±標準誤差として算出した。統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)後にad-hoc Bonferroni t検定を用いて行う。P値<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0045】
結果を
図2に示し、これは、ビヒクル処置ラットにおいて、TRRの有意な増加が9-AC注射の37、67および127分後に観察されたことを示す。サフィナミドによる治療は、9‐AC誘導TRR延長を、用量依存的かつ有意に打ち消した。実際、経口によるサフィナミドは、ラットの筋緊張症の兆候として、9-アントラセンカルボン酸(9-AC)により誘発された正向反射の時間(TRR)の長期化に対抗することができた。
【0046】
特に、37分で、TRRの減少は、3、10および30mg/kgサフィナミドで有意であった。67分(9-ACピーク効果)で、TRR阻害は、1mg/kgサフィナミドのより低い用量でも有意であった。127分では、10および30mg/kgのみが有意な阻害を生じた。67分後の用量応答曲線の分析は、1.2mg/kgのED50(TRR延長における、50%阻害の有効用量)および10~30mg/kgの用量で得られた66%の最大効果、in vivoのサフィナミドが先天性筋緊張症のラットモデルにおいて有意な抗筋緊張活性を与えることを実証することを明らかにした。
注目すべきは、同じ試験で、筋緊張症の参照薬であるメキシレチンは、効力が約6倍低かったことである。
【0047】
実施例3.トランスフェクトされた細胞株における、選択されたヒトNa
v
1.4筋緊張症突然変異に対するサフィナミドのインビトロの効果
hNav1.4の40を超える異なる突然変異が、いくつかの表現型が異なるヒト常染色体優性遺伝性骨格筋障害に関連付けられている(Cummins & Bendahhou、2009;Jurkat-Rottら.2010)。
【0048】
Nav1.4チャネルは、主に骨格筋に発現しており、そして、筋肉の、より小さいβ-サブユニットと結合した、260kDaのα-サブユニットから構成されている。α-サブユニットは、4つの相同ドメイン(I~IV)からなり、そして、各ドメインは6つの膜貫通セグメント(S1~S6)を有する(Nodaら、1984)。周期性麻痺または非ジストロフィー性筋緊張症に至る、Nav1.4チャネル突然変異は、このチャネルの各ドメインおよびセグメントに亘って認められており、そして、チャネルの動態または機能を変化させることにより、筋の過剰興奮性または興奮不能の原因であり、それによりチャネルのミクローまたはマクロ-な生物物理学的特性において、変化をもたらす可能性がある。筋緊張症に関連する、いくつかのNav1.4チャネル突然変異は、速い不活性化を遅くすること、速い不活性化からの回復速度を増加させること、不活性化を遅くすること、または活性化の電圧依存性をより負の電位にシフトさせることによって、チャネル機能を変化させることが記載されている(Cummins & Bendahhou、2009)。
【0049】
サフィナミドの効果を、不活性化部位に位置するいくつかのhNav1.4点突然変異に対して評価した。
p.P1158L:この突然変異は、アルジェリアの若い女児に見出され、重度の持続型筋緊張症(yotonia permanens)に関連している(Desaphyら、2016)。
p.V1293I:V1293I突然変異は、ナトリウムチャネル筋緊張症から、先天性異常筋緊張症+低カリウム血性周期性四肢麻痺に至るまで、様々な表現型に関連している(Kochら、1995)。
p.F1298C:この突然変異は、35歳の女性に認められ、主に、収縮後の、顔面、上下肢筋肉のこわばりで、32歳時に発症した(Farinatoら、2019)。症状は、寒冷とともに悪化し、筋緊張症は痛みを伴うと報告された。患者は運動による筋緊張症の軽度改善に気付いた。
p.I1310N:この突然変異は、フランスの近親者5名に見出されており、ナトリウムチャネル筋緊張症に関連している(Farinatoら、2019)。
野生型または筋緊張性突然変異体である、電位依存性Na+チャネル(hNav1.4)のヒト骨格筋サブタイプを、リン酸カルシウム共沈法を用いて、HEK293T細胞に一過性にトランスフェクトした。細胞全体のナトリウム電流(INa)を、Axonコンベンショナル パッチ-クランプハードウェア(Molecular Devices、USA)を用いて、室温(20~22℃)で記録した。電圧クランププロトコルおよびデータ取得は、pCLAMPソフトウェア(Axon Instruments)を用いて行った。浴液は(mM)150 NaCl,4 KCl,2 CaCl2,1 MgCl2,5 NaHEPES,および、5 グルコース(pH7.4)を含んでいた。ピペット溶液は(mMで)120 CsF、10 CsCl、10 NaCl、5 EGTA、および、5 Cs-HEPES(pH7.2)を含有した。Corning 7052ガラス(King glass、USA)で作製されたパッチピペットは、1~3MΩの範囲の抵抗を有した。静電容量電流は、増幅回路を用いて部分的に補填した。5mV未満の直列抵抗誤差を示す細胞から得られたデータのみを分析のために考慮した。パッチ膜を破壊した後、-120mVの保持電位(hp)から、-20mVまでの25msの長さの試験パルスを、INa振幅および動力学の安定化が達成されるまで(典型的には5分)、低頻度で細胞に印加した。サフィナミドを、0.2%のDMSOを補充した浴溶液中で最終濃度で可溶化した。パッチした細胞を、対照または薬物補充浴溶液の連続流に暴露した。最大2つの薬物濃度を各細胞で試験し、ナトリウム電流流出による可能なバイアスを最小化した。全細胞実験中の電圧依存性の既知の自発的シフトのために、細胞間の比較を可能にするために、一定のシークエンスに関して種々のプロトコールを実施するために多くの注意が払われた。
【0050】
サフィナミドによるhNav1.4チャネルの阻害を、0.1および10Hzの周波数刺激で、-120から-30mVの保持電位(HP)から誘発されるINaの減少を測定することによって評価した。サフィナミドの濃度-応答曲線は、薬物(IDRUG)の存在下で測定し、薬物適用前に同じ細胞で測定されたピーク電流振幅(ICTRL)に対して正規化した、ピーク電流振幅を得ることによって、薬物濃度[(DRUG)]の関数として、作製した。濃度-応答曲線を、一次結合関数に適合させた:
IDRUG/ICTRL=1/{1+([DRUG]/IC50)nH}
ここで、IC50は半最大阻害濃度であり、nHは勾配係数である。IC50値は、静止膜電位(持続性ブロック:0.1Hzで-120mV)および10Hzで-20mVまで反復脱分極パルス後(使用依存性および頻度依存性ブロック)に、決定した。使用依存性および頻度依存性ブロックの方法でナトリウムチャネルを遮断することができる化合物は、異常な発火を減少させるが、正常な筋線維活性に影響を与えないことが予想される。
表1は、トランスフェクトされた細胞株におけるヒトNav1.4ナトリウムチャネル筋緊張症突然変異体に対するサフィナミドのインビトロ効果を示す。結果は、IC50値±当てはめの標準誤差(SE)(Standard Error of the fit)で表された。
【0051】
【0052】
表1に示される結果は、IC50値が野生型と同じ大きさのオーダーであったので、選択された変異が両方の頻度(0.1Hzおよび10Hz)でサフィナミドの活性(IC50)に有意な影響を及ぼさなかったことを実証する。hNav1.4チャネルの突然変異のキャリアは、現在使用されている薬物よりも、サフィナミドでより多くの利益を得る可能性がある。
これらの結果は、筋緊張性障害の突然変異主導療法の道を開く。