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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】多段遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20240209BHJP
   F04D 17/12 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
F04D29/44 L
F04D29/44 W
F04D17/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021028493
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129710
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平舘 澄賢
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和寛
(72)【発明者】
【氏名】望月 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小林 博美
(72)【発明者】
【氏名】西岡 卓宏
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-200797(JP,A)
【文献】特開2018-135836(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車を備え、
前記複数の遠心羽根車の一つと、前記一つの遠心羽根車から流出した流体が前記回転軸から離れる遠心方向に流れるディフューザと、前記ディフューザの下流に設けられ、前記ディフューザから前記複数の遠心羽根車の後段の遠心羽根車に流入する前記流体が前記回転軸に向かう戻り方向に流れるリターン流路と、前記ディフューザを流れた前記流体の流れが前記遠心方向から前記回転軸の軸方向に転向し、更に、前記軸方向から前記戻り方向に転向する転向部を備えた遠心圧縮機段が、前記回転軸の軸方向に複数連ねられた多段遠心圧縮機であって、
前記リターン流路は、前記回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設された複数のリターンベーンを備え、
前記リターンベーンは、前記リターン流路における前記流体の流れの上流側から下流側に向かって、前置翼と後置翼として複数設置され、
前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くように、前記後置翼は前記前置翼の圧力面側に周方向にオフセットして設けられ、
前記前置翼の最大キャンバー位置、前記前置翼の後縁と前記後置翼の前縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度γ、前記後置翼の前縁と後縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度θの少なくともの何れか一つを多段遠心圧縮機の遠心圧縮機段位置に応じて変更した多段遠心圧縮機であって、
前記リターンベーンのうちで最も上流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の最大キャンバー位置が最も後縁側に位置するとともに、前記リターンベーンのうちで最も下流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の最大キャンバー位置が最も前縁側に位置することを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
前記前置翼の最大キャンバー位置が下流側の遠心圧縮機段に行くにつれて徐々に前記前置翼の前縁方向に移動することを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
最も上流側の遠心圧縮機段と最も下流側の遠心圧縮機段の間において、前記前置翼の最大キャンバー位置が下流側の段とその直前の上流側の段とで同一位置にあることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項4】
請求項乃至の何れか一項に記載の多段遠心圧縮機において、
何れの遠心圧縮機段においても、前記前置翼の最大キャンバー位置が、前記前置翼の翼弦線の後半部にあることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項5】
請求項乃至の何れか一項に記載の多段遠心圧縮機において、
前記リターンベーンのうちで最も上流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が最も小さく、前記リターンベーンのうちで最も下流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が最も大きくなることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項6】
請求項乃至の何れか一項に記載の多段遠心圧縮機において、
何れの遠心圧縮機段においても、前記前置翼の最大キャンバー位置が、前記前置翼の翼弦線の後半部にあり、
前記リターンベーンのうちで最も上流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が最も小さく、前記リターンベーンのうちで最も下流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が最も大きくなることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項7】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が下流側の遠心圧縮機段に行くにつれて徐々に大きくなることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項8】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
最も上流側の遠心圧縮機段と最も下流側の遠心圧縮機段の間において、前記前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比が下流側の段とその直前の上流側の段とで同一であることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項9】
回転軸と、前記回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車を備え、
前記複数の遠心羽根車の一つと、前記一つの遠心羽根車から流出した流体が前記回転軸から離れる遠心方向に流れるディフューザと、前記ディフューザの下流に設けられ、前記ディフューザから前記複数の遠心羽根車の後段の遠心羽根車に流入する前記流体が前記回転軸に向かう戻り方向に流れるリターン流路と、前記ディフューザを流れた前記流体の流れが前記遠心方向から前記回転軸の軸方向に転向し、更に、前記軸方向から前記戻り方向に転向する転向部を備えた遠心圧縮機段が、前記回転軸の軸方向に複数連ねられた多段遠心圧縮機であって、
前記リターン流路は、前記回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設された複数のリターンベーンを備え、
前記リターンベーンは、前記リターン流路における前記流体の流れの上流側から下流側に向かって、前置翼と後置翼として複数設置され、
前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くように、前記後置翼は前記前置翼の圧力面側に周方向にオフセットして設けられ、
前記前置翼の最大キャンバー位置、前記前置翼の後縁と前記後置翼の前縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度γ、前記後置翼の前縁と後縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度θの少なくともの何れか一つを多段遠心圧縮機の遠心圧縮機段位置に応じて変更した多段遠心圧縮機であって、
前記前置翼の後縁と前記後置翼の前縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度γが、前記リターンベーンのうちで最も上流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記リターンベーンで最も大きく、前記リターンベーンのうちで最も下流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記リターンベーンで最も小さいことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項10】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
前記周方向角度γが下流側の遠心圧縮機段に行くにつれて徐々に小さくなることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項11】
請求項に記載の多段遠心圧縮機において、
最も上流側の遠心圧縮機段と最も下流側の遠心圧縮機段の間において、前記周方向角度γが下流側の段とその直前の上流側の段とで同一であることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項12】
請求項1または9に記載の多段遠心圧縮機において、
前記後置翼の前縁と後縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度θが、前記リターンベーンのうちで最も上流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記リターンベーンで最も大きく、前記リターンベーンのうちで最も下流側の遠心圧縮機段のリターン流路に設けられる前記リターンベーンで最も小さいことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項13】
請求項12に記載の多段遠心圧縮機において、
前記周方向角度θが下流側の遠心圧縮機段に行くにつれて徐々に小さくなることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項14】
請求項12に記載の多段遠心圧縮機において、
最も上流側の遠心圧縮機段と最も下流側の遠心圧縮機段の間において、前記周方向角度θが下流側の段とその直前の上流側の段とで同一であることを特徴とする多段遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多段遠心圧縮機に係り、特にリターン流路にリターンベーンとして前置翼列と後置翼列を備えた多段遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多段遠心圧縮機は、近年の環境負荷低減要求の高まりを受けて、従来以上の高効率化と、広作動範囲化が求められる。その一方で、コスト低減、機場内における省スペース化の観点から、多段遠心圧縮機そのものの小型化が求められている。多段遠心圧縮機の高効率化・広作動範囲化と小型化の両立のためには、静止流路の外径縮小が重要となる。多段遠心圧縮機における静止流路とは、回転する羽根車の吐出口の下流側に設けられる流路であり、ディフューザ流路とリターン流路によって構成され、このうちのリターン流路は、ディフューザ流路を経た流れの旋回方向成分を除去し、次の段の羽根車へと予旋回のない流れを導くための流路である。
【0003】
静止流路の外径を縮小すると、静止流路を構成するリターン流路の流路長さも短くなるため、より短い距離で流れを転向させて流れの予旋回を除去する必要がある。リターン流路において、流れを効率よく転向させるために、リターン流路には、通常、リターンベーンと呼ばれる翼が周方向に等間隔に設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、小型化したときの効率の低下を抑制できる形状の返し羽根を有する遠心形ターボ機械を得るために、ディフューザから転向部を経由して戻り流路に流れ込む構成の遠心形ターボ機械において、戻り流路に備わる返し羽根が多重の円形翼列状に配置され、さらに、戻り流路の入口における返し羽根(最も上流側に配置される外翼)の羽根角度が軸方向(高さ方向)で異なるように構成された遠心形ターボ機械が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-94293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遠心圧縮機の更なる小型化のために、リターンベーンの径方向の長さを縮小した場合、リターンベーンの出入口間に要求される流れの転向量が、羽根の長さに対して相対的に大きくなる。
【0007】
特許文献1に記載されている遠心形ターボ機械における返し羽根(リターンベーン)では、遠心形ターボ機械の小型化に伴って羽根を主軸(回転軸)の軸方向に垂直な平面で切断した断面(翼型)のキャンバーライン(翼の上面と下面から等しい距離にある点を結んだ線)の反りを大きくすることが必要になり、流れの剥離が生じる可能性が高い。特許文献1では、返し羽根の翼列を二重に設けているので、流れの剥離をある程度回避できる。しかし、遠心圧縮機の更なる小型化を考えた場合においては、これらの翼単独の形状のみを考慮するだけでは、個々の翼に作用する負荷が過大となるため、ただ翼を二重、三重に設けても、流れが翼面から剥離してしまう恐れがあり、効率の向上が図れない可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができる多段遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明の多段遠心圧縮機は、特許請求の範囲に記載のように構成したものである。
本発明における多段遠心圧縮機の具体的な一例は、回転軸と、前記回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車を備え、前記複数の遠心羽根車の一つと、前記一つの遠心羽根車から流出した流体が前記回転軸から離れる遠心方向に流れるディフューザと、前記ディフューザの下流に設けられ、前記ディフューザから前記複数の遠心羽根車の後段の遠心羽根車に流入する前記流体が前記回転軸に向かう戻り方向に流れるリターン流路と、前記ディフューザを流れた前記流体の流れが前記遠心方向から前記回転軸の軸方向に転向し、更に、前記軸方向から前記戻り方向に転向する転向部を備えた遠心圧縮機段が、前記回転軸方向に複数連ねられた多段遠心圧縮機であって、前記リターン流路は、前記回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設された複数のリターンベーンを備え、前記リターンベーンは、前記リターン流路における前記流体の流れの上流側から下流側に向かって、前置翼と後置翼として複数設置され、前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くように、前記後置翼は前記前置翼の圧力面側に周方向にオフセットして設けられ、前記前置翼の最大キャンバー位置、前記前置翼の後縁と前記後置翼の前縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度γ、前記後置翼の前縁と後縁が前記回転軸の中心線を中心として円周方向になす周方向角度θの少なくとも何れか一つを多段遠心圧縮機の遠心圧縮機段位置に応じて変更したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができる多段遠心圧縮機を得ることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用される多段遠心圧縮機の全体構成例の上半分を示す子午面断面図である。
図2図1に示した多段遠心圧縮機の部分拡大断面図である。
図3図1及び図2に示されるリターンベーン周辺を回転軸の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図である。
図4】本発明の実施例におけるリターンベーン周辺を回転軸の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図である。
図5】本発明の実施例におけるリターンベーンの前置翼と後置翼の位置関係を示す模式図である。
図6】本発明の実施例における、初段のリターンベーンの前置翼の形状的特徴を示す図である。
図7】本発明の実施例における、初段と最終段の間に位置する中間段におけるリターンベーンの前置翼の形状的特徴を示す図である。
図8】本発明の実施例における、最終段のリターンベーンの前置翼の形状的特徴を示す図である。
図9】本発明の実施例における、リターンベーンの前置翼に流入する流体の、前置翼の入口付近における速度三角形を示す図である。
図10】本発明の実施例における、初段、初段と最終段の間に位置する中間段、および最終段それぞれの、リターンベーンを構成する、対となる一組の前置翼と後置翼の、形状的特徴を示す図である。
図11】本発明の実施例における、初段、初段と最終段の間に位置する中間段、および最終段それぞれの、リターンベーンの後置翼の形状的特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例を詳細に説明する前に、先ず、本発明の実施例の構成の概要について説明する。
圧縮性を有する各種の気体を昇圧する多段遠心圧縮機では、上流側の遠心圧縮機段から下流側の遠心圧縮機段に向かい、気体の圧力が徐々に上昇していく。そのため、上流側の遠心圧縮機段から下流側の遠心圧縮機段に向かい、気体の圧縮性の影響により気体の密度は徐々に増大していき、逆に気体の体積流量は徐々に減少する。多段遠心圧縮機では、このように各段を通過する気体の体積流量が異なるため、段毎に内部流路中の気体の流動状態も異なる。本発明者等の検討によれば、多段遠心圧縮機の更なる小型化において、リターンベーンでの流れの剥離を回避するためには、ある一つの遠心圧縮機段のみのリターンベーンの形状を考慮するだけではなく、段毎の気体の流動状態の差までも考慮した形状の検討が必要となる。
そこで、本発明者等は種々検討した結果、リターンベーンとして二重に翼列(前置翼列と後置翼列)を備えた多段遠心圧縮機において、各段での体積流量の相違を考慮して、多段遠心圧縮機の遠心圧縮機段位置に応じて(言い換えれば段毎に)(a)前置翼の最大キャンバー位置、(b)前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比、(c)前置翼の後縁と後置翼の前縁が回転軸中心線を中心として円周方向になす角(周方向角度γ)、(d)後置翼の前縁と後縁が回転軸中心線を中心として円周方向になす角(周方向角度θ)の何れかを変更(最適化)すれば良いことを見出した。
【0013】
以下、図示を参照しながら本発明の一実施例である多段遠心圧縮機を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【0014】
先ず、本発明が適用される多段遠心圧縮機の構成例について図1乃至3を用いて説明する。
図1に示すように、多段遠心圧縮機100は、回転エネルギーを流体に付与する遠心羽根車1と、この遠心羽根車1が取り付けられる回転軸4と、遠心羽根車1の半径方向外側にあって遠心羽根車1から流出された流体の動圧を静圧へと変換するディフューザ5とから概略構成されている。また、ディフューザ5の下流には、後段の遠心羽根車1へ流体を導くためのリターン流路6が設けられている。
【0015】
特に図示しないが、遠心羽根車1は、通常、回転軸4に締結する円盤(ハブ)と、ハブに対向して配置される側板(シュラウド)と、ハブとシュラウド間に位置し周方向(図2の紙面と直角方向)に間隔をおいて配置された複数枚の羽根とを有している。
【0016】
ディフューザ5には、周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼を有するベーン付きディフューザと、翼を有さないベーンレスディフューザのいずれかが用いられる。図2ではベーン付きディフューザが用いられている。
【0017】
また、リターン流路6は、ディフューザ5を流れた流体の流れが遠心方向から軸方向に転向し、更に、軸方向からリターン方向に転向する転向部7a及び7bと、リターンベーン8から構成されており(図2参照)、リターンベーン8によってディフューザ5を通過した流体を半径方向外向きから内向きへと転向させ、更に、リターンベーン8によって流体の旋回成分を除去し、流体を整流しながら次段の遠心羽根車1へと流入させる役割を担っている。リターンベーン8は図3に示すように回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設されている。
【0018】
図2に示すように、軸方向からリターン方向に転向する転向部7a及び7bは、子午面内において、周囲の構造物に囲まれたU字状の曲り流路として形成される。転向部7aは、その転向部入口9を、ディフューザ5の出口に相当する略円筒面で定義し、その転向部出口10を、リターンベーン前縁12の直上流に位置する子午面曲り流路の終端に相当する略円筒面で定義した転向部入口9から転向部出口10までの区間として定義する。
【0019】
リターンベーン8は、回転軸4のまわりに周方向にほぼ等ピッチに配置された複数枚の翼から構成されている。また、特に図示しないが、遠心圧縮機100には、回転軸4を回転自在に支持するラジアル軸受が回転軸4の両端側に配置されている。
【0020】
また、回転軸4には、多段の圧縮機段の遠心羽根車(図1では6枚の遠心羽根車)1が取り付けられ、各遠心羽根車1の下流側には、図2に示すように、ディフューザ5及びリターン流路6が設けられている。
【0021】
これら遠心羽根車1とディフューザ5及びリターン流路6は、ケーシング19及びダイヤフラム20内に収容され、ケーシング19はフランジ21a及び21bにより支持されている。また、ケーシング19の吸込み側には吸込流路15が設けられており、ケーシング19の吐出側には吐出流路16が設けられている。
【0022】
このように構成された多段遠心圧縮機100においては、図1に示すように、吸込流路15から吸引された流体が、各段の遠心羽根車1とディフューザ5及びリターン流路6を通過するごとに昇圧され、最終的に所定圧力になって吐出流路16から吐出される。
【0023】
ところで、このように構成された多段遠心圧縮機100では、上述した如く、更なる小型化のために、リターンベーン8の径方向の長さを縮小した場合、リターンベーン8の出入口間に要求される流れの転向量が、リターンベーン8の径方向の長さに対して相対的に大きくなるため、流れの剥離が生じる恐れがあり、効率の向上が図れない可能性がある。
【0024】
これを解決するのが本実施例の多段遠心圧縮機100であり、以下、その詳細を図4乃至図11を用いて説明する。
図4は、本発明の実施例の多段遠心圧縮機100における任意の段のリターンベーン8の周辺を回転軸4の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図であり、図5は、本発明の実施例の多段遠心圧縮機100におけるリターンベーン8の前置翼8Aと後置翼8Bの位置関係を示す模式図である。
【0025】
図4及び図5に示す本実施例の多段遠心圧縮機100は、円形翼列が多重に設けられるリターンベーン8が、リターン流路6における流体の流れの上流側から下流側に向かって二列に配置されているリターンベーンを有する多段遠心圧縮機である。本実施例では、リターン流路6内に翼型のリターンベーン8が、リターン流路6内の上流側、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置されている。リターンベーン8の後置翼8Bの負圧面8B1に前置翼8Aの圧力面8A1側の流れを導くために、リターンベーン8の後置翼8Bは、前置翼8Aの圧力面8A1側に周方向にオフセットして設けられている。前置翼8Aの圧力面8A1の翼面付近を流れる流体は、前置翼8Aの負圧面8A5の翼面付近を流れる流体に対し、翼面上に発達する速度境界層の厚みが薄くより高いエネルギーを有する流体が流れている。従って、このように高いエネルギーを有する前置翼8Aの圧力面8A1の翼面付近を流れる流体を、後置翼8Bの負圧面8B1の翼面付近に導くことで、後置翼8Bの負圧面8B1の翼面上の速度境界層の発達を抑制することができ、負圧面8B1の翼面上の流れの剥離を抑制することが可能となる。
【0026】
図6乃至図8は、本実施例におけるリターンベーン8の前置翼8Aの形状的特徴を示す図である。図6は、本実施例の多段遠心圧縮機100の初段における前置翼8Aの形状的特徴を、図7は、本実施例の多段遠心圧縮機100の初段と最終段の間に位置する中間段における前置翼8Aの形状的特徴を、図8は、本実施例の多段遠心圧縮機100の最終段における前置翼8Aの形状的特徴を、それぞれ示している。ここで多段遠心圧縮機100の最終段とはリターン流路を備えている圧縮機段の最終段を指す(以下同じ)。
【0027】
図中に示す一転鎖線8A6は、前置翼8Aの前縁8A3と後縁8A2を結んだ直線である翼弦線を示している。図中に示す点線8A4は、前置翼8Aのキャンバーライン(翼の上面と下面から等しい距離にある点を結んだ線)を示している。また図中に示す矢印8A7は、翼弦線8A6の任意の位置から垂直方向に伸ばした垂線がキャンバーライン8A4に達するまでの距離である、前置翼8Aのキャンバーを示している。更に図中に示す矢印8A8は、前置翼8Aのキャンバーが最大となる最大キャンバーを示している。以降、最大キャンバーは、翼弦線8A6の長さ(翼弦長L)に対する比率として表すこととする。翼弦線8A6上において、前置翼8Aの前縁8A3から最大キャンバー8A8に至るまでの距離を、最大キャンバー位置lc,maxと呼ぶ。最大キャンバー位置lc,maxは、翼弦長Lに対する割合(無次元翼弦位置)で表される。ここで、前置翼8Aの前縁8A3は無次元翼弦位置が0%の位置に、後縁8A2は無次元翼弦位置が100%の位置に、それぞれ相当する。
【0028】
図6乃至図8に示すように、本実施例では、(a)多段遠心圧縮機100の初段では、前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxが、多段遠心圧縮機100の他の段と比較して最も後縁側に位置するとともに、それから下流側段に向かうにつれて、最大キャンバー位置lc,maxが徐々に前置翼8Aの前縁8A3方向に移動するよう、リターンベーン8の前置翼8Aを構成している。また、(b)前置翼8Aの最大キャンバー8A8が、多段遠心圧縮機100の初段が他の段と比較して最も小さく、それから下流側段に向かうにつれて、最大キャンバー8A8が徐々に大きくなるよう、リターンベーン8の前置翼8Aを構成している。言い換えれば、前置翼8Aの翼弦長Lに対する最大キャンバー8A8の比が下流側段に向かうにつれて徐々に大きくなっている。なお、(b)の前置翼8Aの翼弦長Lに対する最大キャンバー8A8の比は、(a)の前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxの上述の構成を満たし上で上述のように構成することが好ましい。
【0029】
本実施例において、多段遠心圧縮機100の前置翼8Aをこのように設定することの効果は、以下の通りである。
多段遠心圧縮機100は、初段から最終段まで流体を徐々に昇圧する。従って、圧縮する流体の圧縮性により、初段から最終段にかけて流体の密度が徐々に増大する。このため、多段遠心圧縮機100の内部を流れる流体の体積流量は、初段が最も多く、それから最終段に向かうにつれて徐々に少なくなる。
【0030】
図9は、リターンベーン8の前置翼8Aと後置翼8B、および、前置翼8Aに流入する流体の、前置翼8Aの入口(前縁8A3と同一半径位置)付近における速度三角形を示している。一般に多段遠心圧縮機では、各段のヘッドが同等になるように構成される。各段羽根車に流入する流体が旋回成分を有さない場合の、各段羽根車の理論ヘッドHthは式(1)で表される。
理論ヘッドHth=U×Cu/g ・・・ 式(1)
ここで、Uは各段の羽根車の周速を、Cuは各段の羽根車出口における流体の絶対速度の周方向成分を、gは重力加速度を、それぞれ表す。各段の理論ヘッドHthを同等に構成する場合には、各段ともUおよびCuが同等になる。従って、前置翼8Aの入口付近における速度三角形中に示される、絶対速度の周方向成分Cuも、各段とも同等になるように構成されることになる。
【0031】
ここで上述したように、多段遠心圧縮機100の内部を流れる流体の体積流量は、初段が最も多く、それから最終段に向かうにつれて徐々に少なくなる。圧縮機内部を流れる流体の、体積流量と絶対速度の子午面方向成分Cmとは、基本的には比例関係にある。従って、前置翼8Aの入口付近における速度三角形中に示される、絶対速度の子午面方向成分Cmは、多段遠心圧縮機100の初段において最も大きく、それから最終段に向かうにつれて徐々に小さくなる。
【0032】
上記のCuとCmの各段での特徴から、前置翼8Aの入口付近における流体の絶対流れ角βは、多段遠心圧縮機100の初段が下流側段と比較して最も大きく、それから下流側の段に向かうにつれて徐々に小さくなる。一方で図9に示すように、後置翼8Bの後縁8B3における羽根角度βrtvは、次段の羽根車へ流入する流れが旋回成分を有さないようにするため、羽根後縁を回転軸4の方向へと向ける、βrtv≒90°として設定する場合が多い。従って、前置翼8Aの前縁8A3から後置翼8Bの後縁8B3にかけて、リターンベーン8が達成すべき流体の転向角(βrtvとβとの差)は、多段遠心圧縮機100の初段が下流側段と比較して最も小さく、それから下流側の段に向かうにつれて徐々に大きくなる。
【0033】
この、各段で異なるリターンベーン8が達成すべき流体の転向角の大きさに対応するため、本実施例では、多段遠心圧縮機100の初段では、前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxが、多段遠心圧縮機100の他の段と比較して最も後縁側に位置するとともに、それから下流側段に向かうにつれて、最大キャンバー位置lc,maxが徐々に前置翼8Aの前縁8A3方向に移動するよう、リターンベーン8の前置翼8Aを構成している。また、前置翼8Aの最大キャンバー8A8が、多段遠心圧縮機100の初段が他の段と比較して最も小さく、それから下流側段に向かうにつれて、最大キャンバー8A8が徐々に大きくなるよう、リターンベーン8の前置翼8Aを構成している。最大キャンバー位置lc,maxは、前置翼8Aにおけるどこの無次元翼弦位置で翼負荷が最大となるかを表し、どれだけ前縁8A3側から流体を転向させ始めるかの指標となる。また、最大キャンバー8A8は、前置翼8Aにおける翼負荷の大きさを表す。従って、最大キャンバー位置lc,maxが0%に近ければ近いほど、また最大キャンバー8A8が大きいほど、前置翼8Aで達成される流体の転向角を大きくすることができる。従って、本実施例のように前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxや最大キャンバー8A8を構成することで、多段遠心圧縮機100の初段において前置翼8Aで達成される流体の転向角を最も小さくし、それから下流側段に向かって前置翼8Aで達成される流体の転向角を徐々に大きくでき、各段で異なるリターンベーン8が達成すべき流体の転向角を実現することが可能となる。
【0034】
またこの際、何れの段においても最大キャンバー位置lc,maxは、翼弦線8A6の後半部(無次元翼弦位置50%に相当する位置よりも後縁8A2側)になるよう構成した方が望ましい。この効果は以下の通りである。
【0035】
即ち、図6乃至図8に示すように、前置翼8Aのキャンバーライン8A4が後縁8A2付近で急激に曲がる形状となる。このため図5に示すように、前置翼8Aの圧力面8A1に沿う流れの方向が、後置翼8Bの負圧面8B1に向かう方向となる。この流れにより、後置翼8Bの負圧面8B1に沿って流れる流れが翼面に向かって押さえつけられ、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離が抑制される。流れの剥離を抑えることで、剥離に伴う効率低下抑制と流れの転向を両立することができる。
【0036】
前置翼8Aのキャンバーライン8A4が急激に曲がる形状になっていると、その付近において前置翼8Aの負圧面8A5で流れが剥離し易くなるが、本実施例では前置翼8Aのキャンバーラインの急激な曲がりが後縁8A2付近に限定されるため、負圧面8A5の剥離域が後縁8A2近傍の領域に限定される。従って、前置翼8Aでの圧力損失増大を最小限に抑えつつ、後置翼8Bの負圧面8B1における流れの剥離を効果的に抑制することが可能となる。
【0037】
なお上記説明では、多段遠心圧縮機100の初段から最終段に向け、前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxが後縁8A2側から徐々に前縁8A3側に移動するよう、また、前置翼8Aの最大キャンバー8A8が徐々に大きくなるよう、リターンベーン8の前置翼8Aを構成する形状について説明した。しかしながら、多段遠心圧縮機100が圧縮する流体のマッハ数が低く、流体の圧縮性の影響が殆ど無視できるような場合も存在する。そのような場合には、前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxは、多段遠心圧縮機100の隣接し合う2つ以上の段で同一とする構成としても良い。また、前置翼8Aの最大キャンバー8A8は、前記多段遠心圧縮機100の隣接し合う2つ以上の段で同一とする構成としても良い。言い換えれば、初段から見て少なくとも最終段との比較において、初段の前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxが最も後縁8A2側に位置し、最終段の前置翼8Aの最大キャンバー位置lc,maxが最も前縁8A3側に位置するようになっているか、また、初段の前置翼8Aの最大キャンバー8A8が最も小さく、最終段の前置翼8Aの最大キャンバー8A8が最も大きくなるように、リターンベーン8の前置翼8Aを構成するようにしても良い。
【0038】
続いて図5および図10を用い、本実施例における多段遠心圧縮機100のリターンベーン8を構成する前置翼8Aと後置翼8Bの、円周方向の位置関係について更に説明する。図5中に記載されている周方向角度γは、回転軸4の中心線と前置翼8Aの後縁8A2とを結ぶ直線と、回転軸4の中心線と後置翼8Bの前縁8B2とを結ぶ直線とが円周方向になす角度を表している。一方で図10は、本実施例における多段遠心圧縮機100の初段、初段と最終段の間の中間段、および最終段における、リターンベーン8を構成する、対となる一組の前置翼8Aと後置翼8Bとを示しており、図10の左側が初段を、図10の中央が中間段を、図10の右側が最終段を示している。また、図10の左側の図中に記載されているγは初段における周方向角度γの大きさを、図10の中央の図中に記載されているγは中間段における周方向角度γの大きさを、図10の右側の図中に記載されているγは最終段における周方向角度γの大きさを、それぞれ表す。図10に示すように本実施例では、(c)周方向角度γの大きさが、多段遠心圧縮機100の初段が最も大きく、それから下流側段に向かうにつれて周方向角度γが徐々に小さくなり、最終段で最も小さくなる、つまり、γ>γ>γとなるように前置翼8Aと後置翼8Bを構成している。
【0039】
本実施例において、多段遠心圧縮機100の周方向角度γの大きさをこのように設定することの効果は、以下の通りである。
即ち、後置翼8Bの前記負圧面8B1で生じる流れの剥離の抑制のためには、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路の幅をなるべく狭めるとともに、負圧面8B1上において最も翼面上の流速の減速が大きくなり剥離が生じやすい翼の前半付近に、前置翼8Aの圧力面8A1からの流れを向けることが最も有効である。一方この、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路の幅を狭め過ぎると、この部位を切削加工する際に小径の加工工具を用いて切削せざるを得なくなり、加工性が悪化する。特に、この部位の翼高さ(子午断面図におけるリターンベーン8の流路幅と同義)が高い場合には(初段で高くなる)、この部位を切削する際に、小径で工具長さの長く剛性の低い工具を用いなければならなくなる。工具の剛性が十分確保できない場合には、工具を加工対象物に押し当てる際に、剛性が足りずに工具が変形し、加工ができなくなる。従って、前置翼8Aの後半部と前記後置翼8Bの前半部付近における翼高さに応じて、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路の幅の加工可否が決定される。
【0040】
前述の通り流体の圧縮性により、多段遠心圧縮機100の内部を流れる流体の体積流量は、初段が最も多く、それから最終段に向かうにつれて徐々に少なくなる。体積流量の大きさに応じ、リターンベーン8内を流れる流体の流速が過大になり過ぎないよう、流路幅を調整する。体積流量が大きい段では、体積流量が小さい段と比較して広い流路幅を有するように前置翼8Aと後置翼8Bを構成する。従って、前置翼8Aの後半部と後置翼8Bの前半部付近における翼高さも、初段が最も高く、それから最終段に向かうにつれて徐々に低くなるよう、前置翼8Aと後置翼8Bが構成されることになる。ここで本実施例のように、周方向角度γをγ>γ>γとなるよう構成すれば、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路の流路の幅も初段から最終段に向けて徐々に小さくなるため、剥離の抑制と加工工具の剛性確保の両面を考慮した適切な流路幅が設定できる。
【0041】
なお周方向角度γについても、多段遠心圧縮機100が圧縮する流体のマッハ数が低く、流体の圧縮性の影響が殆ど無視できるような場合には、多段遠心圧縮機100隣接し合う2つ以上の段で、周方向角度γを同一とする構成としても良い。言い換えれば、初段から見て少なくとも最終段との比較において、初段の周方向角度γを最も大きく、最終段の周方向角度γを最も小さくなるように前置翼8Aと後置翼8Bを構成するようにしても良い。
【0042】
最後に図5および図11を用い、本実施例における多段遠心圧縮機100のリターンベーン8を構成する後置翼8Bの形状的特徴を説明する。図5中に記載されている周方向角度θは、回転軸4の中心線と後置翼8Bの前縁8B2とを結ぶ直線と、回転軸4の中心線と後置翼8Bの後縁8B3とを結ぶ直線とが円周方向になす角度を表している。一方で図11は、本実施例における多段遠心圧縮機100の初段、初段と最終段の間の中間段、および最終段における、リターンベーン8を構成する後置翼8Bの形状を示しており、図11の左側が初段を、図11の中央が初段と最終段の間の中間段を、図11の右側が最終段を示している。また、図11の左側の図中に記載されているθは初段における周方向角度θの大きさを、図11の中央の図中に記載されているθは中間段における周方向角度θの大きさを、図11の右側の図中に記載されているθは最終段における周方向角度θの大きさを、それぞれ表す。図11に示すように本実施例では、(d)周方向角度θの大きさが、多段遠心圧縮機100の初段において最も大きく、それから下流側段に向かうにつれて周方向角度θが徐々に小さくなり、最終段で最も小さくなる、つまり、θ>θ>θとなるよう後置翼8Bを構成している。
【0043】
本実施例において、多段遠心圧縮機100の周方向角度θの大きさをこのように設定することの効果は、以下の通りである。
【0044】
前述のように、図10に示す後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離を抑制するためには、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅をなるべく狭めた方が良い。しかしながら前述のように本実施例では、図10中に記載されている周方向角度γを、多段遠心圧縮機100の初段が最も大きく、それから下流側段に向かうにつれてγが徐々に小さくなり、最終段で最も小さくなるように前置翼8Aと後置翼Bを構成している。従って、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路の幅は、図10に示されるように、多段遠心圧縮機100の初段が最も大きく、それから下流側段に向かうにつれ徐々に小さくなり、最終段で最小となる。これより、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離は、多段遠心圧縮機100の初段ほど生じ易く、それから下流側段に向かうにつれ徐々に生じ難くなる。本実施例のように、周方向角度θを、θ>θ>θとなるように後置翼8Bを構成すれば、多段遠心圧縮機100の上流側の段ほど、後置翼8Bの翼弦長Lをより長く確保することができる。これにより、多段遠心圧縮機100の上流側の段ほど、後置翼8Bにおける単位長さ当たりの翼負荷を軽減することができるため、多段遠心圧縮機100の何れの段においても、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離を抑制することが可能となる。
【0045】
なお周方向角度θについても、多段遠心圧縮機100が圧縮する流体のマッハ数が低く、流体の圧縮性の影響が殆ど無視できるような場合には、多段遠心圧縮機100隣接し合う2つ以上の段で、周方向角度θを同一とする構成としても良い。言い換えれば、初段から見て少なくとも最終段との比較において、初段の周方向角度θを最も大きく、最終段の周方向角度θを最も小さくなるように後置翼8Bを構成するようにしても良い。
【0046】
以上により、本実施例の遠心圧縮機100によれば、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができるため、コストの低減と運用効率の向上が期待でき、また、外径縮小によって、遠心圧縮機100の場内における専有面積の低減も可能となる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
例えば、(a)前置翼の最大キャンバー位置、(b)前置翼の翼弦長に対する最大キャンバーの比、(c)前置翼の後縁と後置翼の前縁が回転軸中心線を中心として円周方向になす角(周方向角度γ)、(d)後置翼の前縁と後縁が回転軸中心線を中心として円周方向になす角(周方向角度θ)については、(a)、(c)、(d)の少なくとも一つの前述した特徴を備えていれば良い。もちろん、(a)、(c)、(d)の何れか二つ、又は全ての特徴を備えるようにすることにより、より大きな効果が得られる。
【符号の説明】
【0048】
1…遠心羽根車、4…回転軸、5…ディフューザ、6…リターン流路、7a、7b…転向部、8…リターンベーン、8A…リターンベーンの前置翼、8A1…リターンベーンの前置翼の圧力面、8A2…リターンベーンの前置翼の後縁、8A3…リターンベーンの前置翼の前縁、8A4…リターンベーンの前置翼のキャンバーライン、8A5…リターンベーンの前置翼の負圧面、8A6…リターンベーンの前置翼の翼弦線、8A7…リターンベーンの前置翼のキャンバー、8A8…リターンベーンの前置翼の最大キャンバー、8B…リターンベーンの後置翼、8B1…リターンベーンの後置翼の負圧面、8B2…リターンベーンの後置翼の前縁、8B3…リターンベーンの後置翼の後縁、8B4…リターンベーンの後置翼の圧力面、9…転向部入口、10…転向部出口、12…リターンベーン前縁、15…吸込流路、16…吐出流路、19…ケーシング、20…ダイヤフラム、21a、21b…フランジ、100…多段遠心圧縮機、C…絶対速度、Cm…絶対速度の子午面方向成分、Cu…絶対速度の周方向成分、Cu…羽根車出口における流体の絶対速度の周方向成分、Hth…理論ヘッド、L…翼弦長、U…羽根車周速、g…重力加速度、lc,max…最大キャンバー位置、β…絶対流れ角、βrtv…後置翼の後縁における羽根角度、θ…リターンベーンの後置翼の前縁と後縁とがなす角、θ…多段遠心圧縮機の初段のθ、θ…多段遠心圧縮機の初段と最終段の間の中間段のθ、θ…多段遠心圧縮機の最終段のθ、γ…回転軸の中心線と前置翼の後縁とを結ぶ直線と、回転軸の中心線と後置翼の前縁とを結ぶ直線とが、円周方向になす角度、γ…多段遠心圧縮機の初段のγ、γ…多段遠心圧縮機の初段と最終段の間の中間段のγ、γ…多段遠心圧縮機の最終段のγ
図1
図2
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図7
図8
図9
図10
図11