(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】Cu-Ni-Sn合金の製造方法及びそれに用いられる冷却器
(51)【国際特許分類】
B22D 11/124 20060101AFI20240209BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20240209BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20240209BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20240209BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20240209BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B22D11/124 R
B22D11/00 F
B22D11/22 B
C22C9/02
C22C9/06
C22F1/08 G
C22F1/08 Y
(21)【出願番号】P 2021032852
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020060359
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 健介
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-309438(JP,A)
【文献】国際公開第2005/072891(WO,A1)
【文献】特開2012-187624(JP,A)
【文献】特開2009-079286(JP,A)
【文献】特開2012-024786(JP,A)
【文献】特表2007-531824(JP,A)
【文献】特開2009-242882(JP,A)
【文献】特開平06-134552(JP,A)
【文献】特表2016-518527(JP,A)
【文献】特開昭56-139261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法であって、
溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の前記鋳型近傍の部分を凝固させながら、前記鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す工程と、
前記引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより冷却して、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする工程と、
を含
み、
前記冷却が、前記鋳塊を前記鋳型の直下に配置された冷却器を通過させることにより行われ、
前記冷却器が、
円筒状本体と、
前記円筒状本体の上部に設けられ、液体を下方に垂らすように構成される、液体供給部と、
前記液体供給部の下方に設けられ、空気を前記円筒状本体の中心軸に向かって噴射する、空気噴射部と、
を備える、Cu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項2】
前記Cu-Ni-Sn合金が、Ni:8~22重量%、及びSn:4~10重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、スピノーダル合金である、請求項1に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項3】
前記Cu-Ni-Sn合金が、Ni:14~16重量%、及びSn:7~9重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、スピノーダル合金である、請求項1又は2に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項4】
前記鋳型を通過した前記鋳塊が、
前記Cu-Ni-Sn合金を前記鋳型の他端から鋳塊として引き出す工程を終了した後2時間以内に50℃以下まで冷却される、請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項5】
前記冷却器は、前記下方に垂れる液体が、前記鋳塊に直接当たることなく、前記空気と混ざるように構成される、請求項
1~4のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項6】
前記鋳塊を前記鋳型の他端から引き出し前記冷却器を通過させて降下させるとき、前記鋳塊が受台で支持されており、前記受台が25~40mm/分の速度で降下される、請求項1~
5のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項7】
前記液体が水である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法に用いられる冷却器であって、
円筒状本体と、
前記円筒状本体の上部に設けられ、液体を下方に垂らすように構成される、液体供給部と、
前記液体供給部の下方に設けられ、空気を前記円筒状本体の中心軸に向かって噴射する、空気噴射部と、
を備える、冷却器。
【請求項9】
前記液体供給部から垂れる前記液体の位置が、前記空気噴射部の位置よりも前記円筒状本体に近い位置になるように構成される、請求項
8に記載の冷却器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Ni-Sn合金の製造方法及びそれに用いられる冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Cu-Ni-Sn合金等の銅合金は、連続鋳造法や半連続鋳造法により製造されている。連続鋳造法とは、半連続鋳造法と同様に主要な鋳造方法の一つであり、溶融した金属を水冷鋳型に注湯し、連続的に凝固させて一定の形(矩形や丸形等)の鋳塊として引き出すものであり、下方向に引き出す場合が多い。この方法は、鋳塊を完全に連続して生産するため、一定の成分、品質及び形状の鋳塊を大量に生産することに優れている反面、多品種の生産には向かない。一方で、半連続鋳造法とは、鋳塊の長さが限定されたバッチ式の鋳造方法であり、品種及び形状寸法を多種多用に変更することが可能である。また、近年では大型のコアレス炉が用いられており、鋳塊断面の大型化、長尺化、及び多本数を一度に鋳造することが可能となってきているため、連続鋳造法に匹敵するほどの生産性を有しうる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2007-169741号公報)には、銅合金を製造するに際し、所定の化学成分組成の銅合金をコアレス炉にて溶製した後、半連続鋳造法で造塊して、鋳塊を得ることが開示されている。そして、得られた鋳塊は冷却され、圧延等の所定の工程に付されることにより、目的の合金が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、鋳造工程において溶湯を凝固させて得られた鋳塊を冷却するとき、その冷却速度が、最終的に得られる合金の生産性や品質に影響を与える。例えば、冷却速度が速いと鋳塊に内部割れが発生し、得られる合金の品質が劣る。一方で、冷却速度が遅いと鋳塊の内部割れを抑制することができるものの冷却に時間がかかり、得られる合金の生産性が悪くなる。そのため、合金の製造において、合金の生産性と品質はトレードオフの関係にあり、これらの両立が望まれる。
【0006】
特に、低融点であるSnを含む銅合金(Cu-Ni-Sn合金等)は、鋳塊とした場合、その外側と内側で、凝固過程での内部応力が大きくなる。例えば、従来より行われている冷却方法である水冷シャワーや水槽への浸漬等により鋳塊を冷却する場合、冷却速度が速すぎて、鋳塊に内部割れが発生しやすくなる。内部割れの発生を抑えるために、例えば空冷して冷却速度を遅くしても、冷却に12時間以上要することもあり、生産性が著しく悪い。
【0007】
ところで、Cu-Ni-Sn合金としては、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金、UNS:C72700に定められるCu-9Ni-6Sn合金、及びUNS:C72950に定められるCu-21Ni-5Sn合金等が知られている。上述のとおり、低融点であるSnを含む銅合金は内部割れが発生しやすいが、その中でも、Snの含有量が多いCu-15Ni-8Sn合金を製造する場合は、得られる合金の生産性や品質に対して、鋳塊の冷却速度が与える影響は特に大きい。このように、Cu-Ni-Sn合金の製造において、鋳塊の冷却条件を適切に選択することにより、生産性及び品質を両立させることが望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、鋳塊に霧状の液体を吹きかけるミスト冷却を採用することにより、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくし、生産性及び品質を両立させる、Cu-Ni-Sn合金の製造方法を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくすることにより、生産性及び品質を両立させる、Cu-Ni-Sn合金の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法であって、
溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の前記鋳型近傍の部分を凝固させながら、前記鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す工程と、
前記引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより冷却して、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする工程と、
を含む、Cu-Ni-Sn合金の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、連続鋳造法又は半連続鋳造法に用いられる冷却器であって、
円筒状本体と、
前記円筒状本体の上部に設けられ、液体を下方に垂らすように構成される、液体供給部と、
前記液体供給部の下方に設けられ、空気を前記円筒状本体の中心軸に向かって噴射する、空気噴射部と、
を備える、冷却器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の製造方法に用いられる鋳型及び冷却器を含む製造装置の断面図である。
【
図2】例1~3において得られた、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品から切り出したサンプルの切断面(トップ面及びボトム面)を示す写真である。
【
図3】例1~3において得られた、鋳造品から切り出したサンプルの切断面に対して垂直な断面に存在するデンドライトを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法である。本発明の方法により製造されるCu-Ni-Sn合金は、Cu、Ni及びSnを含むスピノーダル合金であるのが好ましい。このスピノーダル合金は、好ましくは、Ni:8~22重量%、及びSn:4~10重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であり、より好ましくは、Ni:14~16重量%、及びSn:7~9重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であり、さらに好ましくは、Ni:14.5~15.5重量%、及びSn:7.5~8.5重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である。このようなCu-Ni-Sn合金として、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金が好ましく例示される。このように低融点であるSnを含む銅合金を製造する場合、鋳塊の冷却工程において内部割れが発生しやすいところ、本発明のCu-Ni-Sn合金の製造方法によれば、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくし、生産性及び品質を両立させることができる。
【0014】
本発明のCu-Ni-Sn合金の製造方法は、(1)溶解鋳造工程と、(2)冷却工程とを含む。溶解鋳造工程においては、溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の鋳型近傍の部分を凝固させながら、鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す。それに続く冷却工程においては、引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより冷却して、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする。このように、溶解鋳造して得られた鋳塊を、霧状の液体を吹きかけて冷却する、すなわちミスト冷却することにより、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくし、生産性及び品質を両立させたCu-Ni-Sn合金を製造することができる。
【0015】
前述のとおり、低融点であるSnを含む銅合金の製造において、鋳塊の冷却速度が得られる合金の生産性及び品質に影響を与えるため、生産性及び品質の両立が困難であったが、本発明の方法によれば、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくし、生産性及び品質を両立させたCu-Ni-Sn合金を製造することができるとの利点がある。
【0016】
図1に本発明の製造方法の一例における製造装置及び鋳塊の断面図を示す。以下、
図1を参照しながら上述の工程を説明する。
【0017】
(1)溶解鋳造工程
まず、溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型12の一端から(例えば黒鉛ノズル14を通して)流し込んで、該合金の鋳型12近傍の部分を凝固させながら、鋳型12の他端から連続的に鋳塊16として引き出す。溶融されたCu-Ni-Sn合金の温度は、1200~1400℃が好ましく、より好ましくは1250~1350℃、さらに好ましくは1300~1350℃である。
【0018】
鋳型12は、銅合金の鋳造に用いられる一般的な鋳型を用いればよく特に限定されないが、好ましくは銅製の鋳型である。鋳型12の内部には水等の冷却媒体が循環しているのが好ましい。こうすることで、溶融された高温のCu-Ni-Sn合金を速やかに表層から凝固させつつ、鋳型12の他端から連続的に鋳塊16として引き出すことができる。
【0019】
溶解鋳造工程は、工業的利用が可能な方法で酸化抑制がなされるのが好ましい。例えば、鋳塊16の酸化を抑制すべく、窒素、Ar、真空等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
【0020】
Cu-Ni-Sn合金を溶解後鋳造する前に、スラグ処理や成分分析等の、所望のCu-Ni-Sn合金を得るための前処理を行ってもよい。例えば、Cu-Ni-Sn合金を1300~1400℃で溶解し、15~30分間撹拌することで成分を均一化し、スラグ処理を行った後に、鋳造を行ってもよい。また、スラグ処理後に、Cu-Ni-Sn合金の一部を成分分析用試料として採取し、成分値を測定してもよい。この測定結果により、目的とする成分値から外れている場合はCu-Ni-Sn合金を再度追加して、目的とする成分値になるように調整してもよい。
【0021】
(2)冷却工程
鋳型12の他端から引き出された鋳塊16に霧状の液体を吹きかけることにより冷却して(すなわちミスト冷却して)、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする。ミスト冷却をすることにより、鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくし、生産性及び品質を両立させた、Cu-Ni-Sn合金を得ることができる。すなわち、Cu、Ni及びSnを含む鋳塊16の従来の冷却方法の例としては、エアシャワーやシャワー状の液体を直接かけること、液体に直接浸漬すること等が挙げられるが、これらの方法では鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくすることは困難であったところ、本発明の製造方法に係るミスト冷却によれば、鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくすることができる。
【0022】
冷却工程においては、液体は水や油等の冷却媒体として使用できるものであれば特に限定されないが、取り扱いの容易さや製造コストの観点から、水であるのが好ましい。また、冷却速度を調整する観点から、油を冷却媒体として用いてもよい。
【0023】
鋳型12を通過した鋳塊16が、鋳造の終了後2時間以内に50℃以下まで冷却されることが好ましく、より好ましくは鋳造の終了後1時間以内に100℃以下まで冷却され、さらに好ましくは鋳造の終了後0.5時間以内に500℃以下まで冷却される。このように短時間で鋳塊16を冷却することにより、連続鋳造法及び半連続鋳造法による鋳造サイクルを短くすることができ、生産性を向上させることができる。
【0024】
冷却工程おいて、冷却が、鋳塊16を鋳型12の直下に配置された冷却器18を通過させることにより行われることが好ましい。こうすることで、鋳塊16が鋳型12の他端から引き出された直後にミスト冷却され、鋳塊16の表層だけでなく内部が割れることなく速やかに冷却することができる。また、鋳塊16を鋳型12の他端から引き出し冷却器18を通過させて降下させるとき、鋳塊16を受台(図示せず)で支持しながら降下させてもよい。好ましくは鋳塊16が受台で支持されており、受台が25~40mm/分の速度で降下され、より好ましくは25~35mm/分の速度で降下され、さらに好ましくは25~30mm/分の速度で降下される。
【0025】
好ましい冷却器18は、円筒状本体18aと、液体供給部18bと、空気噴射部18cとを備えている。液体供給部18bは、円筒状本体18aの上部に設けられ、液体Wを下方に垂らすように構成される一方、空気噴射部18cは、液体供給部18bの下方に設けられ、空気Aを円筒状本体18aの中心軸に向かって噴射するように構成される。かかる構成によれば、液体供給部18bから垂れた液体Wを空気Aと混ぜ、霧状の液体(すなわちミスト)にし、これを円筒状本体18aの内側にある鋳塊16に噴射することができる。そして、ミスト冷却による鋳塊16の冷却時間の短縮及び内部割れの抑制が可能となり、Cu-Ni-Sn合金の生産性及び品質を両立させることができる。また、垂れた液体Wにはカーボン等のゴミが含まれているため、空気Aを噴射するノズル(穴ともいう)が詰まらないように、ノズルの口径を調節することが望ましい。ノズルの口径は好ましくは直径2~5mmであり、より好ましくは3~4mmである。液体供給部18bから垂らす液体Wの流速は7~13L/minであることが好ましく、より好ましくは9~11L/minである。空気噴射部18cから噴射する空気Aの圧力は2.0~4.0MPaであることが好ましく、より好ましくは2.7~3.3MPaである。
【0026】
冷却器18は、下方に垂れる液体Wが、鋳塊16に直接当たることなく、空気Aと混ざるように構成されるのが好ましい。こうすることで、垂れた液体Wが鋳塊16に直接当たり局所的に急冷されないようにし、鋳塊16の全体にわたって均一にミスト冷却することができ、内部割れの発生をより抑えることができる。また、冷却器18は、液体供給部18bから垂れる液体Wの位置が、空気噴射部18cの位置よりも円筒状本体18aに近い位置になるように構成されるのが好ましい。こうすることで、液体Wが液体供給部18bから垂れたところに、空気噴射部18cの空気Aがうまく吹き付けられ、霧状の液体(すなわちミスト)を効率よく発生させることができる。
【0027】
また、冷却器18の空気噴射部18cは、空気Aが斜め下に噴射するように構成されるのが好ましい。液体供給部18bからの液体Wの勢いが弱いと、液体Wが重力で下方に垂れ、液体Wが霧状の液体として鋳塊に当たる位置が下がり、冷却速度にムラができる。しかし、空気Aが斜め下に噴射するように構成することにより、液体Wの勢い(流量)によって液体Wが鋳塊に当たる位置に差が出ないようにし、冷却速度を均一にすることができる。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0029】
例1(比較)
Cu-Ni-Sn合金として、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金を以下の手順により作製し、評価した。
【0030】
(1)秤量
Cu-Ni-Sn合金の原料である、純Cuナゲット、Ni地金、Sn地金、電気マンガン、及びCu-Ni-Sn合金スクラップを、目標組成となるように秤量した。すなわち、Cuを163kg、Niを30kg、Snを15kg及びCu-Ni-Sn合金スクラップを1450kg秤量し、混合することにより、調合した。
【0031】
(2)溶解及びスラグ処理
秤量したCu-Ni-Sn合金の原料を大気用高周波溶解炉で1200~1400℃で溶解し、30分撹拌することで成分を均一化した。溶解完了後、スラグ掻き及びスラグ掬いを行った。
【0032】
(3)成分分析(鋳造前)
溶解及びスラグ処理して得られたCu-Ni-Sn合金の一部を成分分析用試料として採取し、その成分値を測定した。その結果、成分分析用試料は、Ni:14.9重量%及びSn:8.0重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であった。この組成は、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金の条件を満たすものである。
【0033】
(4)半連続鋳造
溶解及びスラグ処理して得られたCu-Ni-Sn合金の溶湯を1250~1300℃で出湯し、
図1に模式的に示されるように、両端が解放された鋳型12の一端に黒鉛ノズル14を通して流し込んだ。このとき、鋳型12の内部に水を循環させることで、流し込んだ溶湯を、鋳型12の一端から他端を通過するまでに凝固させ鋳塊16とした。このとき、鋳塊16の表層が主として凝固される。
【0034】
(5)冷却(水冷(浸漬冷却))
表層が凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により液状の水を吹きかけた後、水槽に浸漬した。なお、このとき空気噴射部18cからは空気Aを吹き込まなかった。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、2時間以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0035】
(6)鋳造品の取り出し
水冷により得られた鋳塊16を、その温度が50℃未満になった後に取り出し、鋳造品であるCu-Ni-Sn合金を得た。鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0036】
(7)各種評価
得られた鋳塊及び鋳造品に対して以下の評価を行った。
【0037】
<内部割れの確認>
図2に示されるように、鋳造品の内部割れを確認するために、鋳造品の長手方向トップ面から250mmの位置、及びボトム面から150mmの位置からそれぞれ直径320mm×厚さ10mmの円板状サンプルを切り出し、その両面を目視観察及びレッドチェックをした。サンプルのトップ面(図中「Top側」と表記)及びボトム面(図中「Bottom側」と表記)の写真を示す。
【0038】
<2次DAS測定>
上記サンプルを2次DAS(2次デンドライト・アーム・スペーシング)測定することにより、溶解したCu-Ni-Sn合金が凝固して鋳塊となるまでの冷却速度を推定した。まず、サンプルの切断面1/2R位置に対する垂直(鋳造方向)な断面において、4本以上の2次デンドライトアームが連続しているデンドライトを選択する。1/2R位置とは、円板状サンプルの切断面(円)の中心と円周との中央にあたる位置(すなわち、半径の1/2の位置)のことをいう。次に、そのデンドライトについて連続した4本以上の2次デンドライトアームの間隔を測定する。これを2次DASとした。サンプルの切断面に対する垂直な断面のトップ面(図中「Top側」と表記)及びボトム面(図中「Bottom側」と表記)に確認されたデンドライト及び2次DASの値を
図3に示す。
【0039】
例2
上記(5)の水冷の代わりに、以下のようにしてミスト冷却を行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0040】
(5’)冷却(ミスト冷却)
図1に模式的に示されるように、凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により霧状の水を吹きかけながら、連続的に引き出した。このとき、冷却器18の円筒状本体18aの上部にある水供給部18bから7~13L/minの水Wを垂れ流し、冷却器18の円筒状本体18aの下段に空気噴射部18cとして設けられた直径3.5mmの穴120個から空気Aを2.7~3.3MPaの圧力で吹き込むことにより、垂れる水Wを霧化して霧状の水(すなわちミスト)とし、鋳塊16に吹き付けた。また、鋳塊16は、25mm/minで降下する受台(図示せず)で受け止めながら降下させた。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、2時間以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0041】
例3(比較)
上記(5)のミスト冷却の代わりに、以下のようにして空冷を行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0042】
(5’’)冷却(空冷)
凝固した鋳塊を、鋳型の直下に設けた冷却器により空気を吹きかけながら、連続的に引き出した。このとき、冷却器の円筒状本体に設けられた直径3.5mmの穴120個からから空気を吹き込む一方、鋳塊は、25mm/minで降下する受台で受け止めながら降下させた。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、12時間で50℃まで鋳塊を冷却した。空冷の場合、鋳塊の冷却速度が遅いため、内部割れが発生しにくいものの、冷却に長時間を要するため生産性が悪いといえる。
【0043】
例1~3において、
図2に示されるように、冷却方法が水冷である例1では内部割れが見られたが、冷却方法がミスト冷却である例2及び空冷である例3では内部割れが見られなかった。また、
図3に示されるように、測定した2次DASは、例1~3で同程度であった。このことから、溶解したCu-Ni-Sn合金の凝固速度は、例1(水冷を採用)の鋳塊と例2(ミスト冷却を採用)及び例3(空冷を採用)の鋳塊とで同程度であることが推定される。