(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】Cu-Ni-Sn合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/124 20060101AFI20240209BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20240209BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20240209BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20240209BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20240209BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B22D11/124 R
B22D11/00 F
B22D11/22 B
C22C9/02
C22C9/06
C22F1/08 G
C22F1/08 Y
(21)【出願番号】P 2021033605
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 健介
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-309438(JP,A)
【文献】特開2007-169741(JP,A)
【文献】特表2007-531824(JP,A)
【文献】特開2009-242882(JP,A)
【文献】特開2017-155257(JP,A)
【文献】国際公開第2005/072891(WO,A1)
【文献】特開平06-134552(JP,A)
【文献】特開平09-206889(JP,A)
【文献】特開昭56-000265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法であって、
溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の前記鋳型近傍の部分を凝固させながら、前記鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す工程と、
前記引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより一次冷却を行う工程と、
前記一次冷却を経た鋳塊を液体中に浸漬させることにより二次冷却を行い、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする工程と、
を含
み、
前記一次冷却が、前記鋳塊を前記鋳型の直下に配置された冷却器を通過させることにより行われ、
前記冷却器が、
円筒状本体と、
前記円筒状本体の上部に設けられ、前記液体を下方に垂らすように構成される、液体供給部と、
前記液体供給部の下方に設けられ、空気を前記円筒状本体の中心軸に向かって噴射する、空気噴射部と、
を備える、Cu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項2】
前記Cu-Ni-Sn合金が、Ni:8~22重量%、及びSn:4~10重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、スピノーダル合金である、請求項1に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項3】
前記Cu-Ni-Sn合金が、Ni:14~16重量%、及びSn:7~9重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、スピノーダル合金である、請求項1又は2に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項4】
前記鋳型を通過した前記鋳塊が、
前記Cu-Ni-Sn合金を前記鋳型の他端から鋳塊として引き出す工程を終了した後30分以内に50℃以下まで冷却される、請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項5】
前記冷却器は、前記下方に垂れる液体が、前記鋳塊に直接当たることなく、前記空気と混ざるように構成される、請求項
1~4のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項6】
前記二次冷却が、液槽に、前記鋳塊の下端部から順に連続的に浸漬させることにより行われる、請求項1~
5のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項7】
前記鋳塊を前記鋳型の他端から引き出し前記冷却器を通過させて降下させるとき、前記鋳塊が受台で支持されており、前記受台が25~35mm/分の速度で降下される、請求項1~
6のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【請求項8】
前記液体が水である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のCu-Ni-Sn合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Ni-Sn合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Cu-Ni-Sn合金等の銅合金は、連続鋳造法や半連続鋳造法により製造されている。連続鋳造法とは、半連続鋳造法と同様に主要な鋳造方法の一つであり、溶融した金属を水冷鋳型に注湯し、連続的に凝固させて一定の形(矩形や丸形等)の鋳塊として引き出すものであり、下方向に引き出す場合が多い。この方法は、鋳塊を完全に連続して生産するため、一定の成分、品質及び形状の鋳塊を大量に生産することに優れている反面、多品種の生産には向かない。一方で、半連続鋳造法とは、鋳塊の長さが限定されたバッチ式の鋳造方法であり、品種及び形状寸法を多種多用に変更することが可能である。また、近年では大型のコアレス炉が用いられており、鋳塊断面の大型化、長尺化、及び多本数を一度に鋳造することが可能となってきているため、連続鋳造法に匹敵するほどの生産性を有しうる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2007-169741号公報)には、銅合金を製造するに際し、所定の化学成分組成の銅合金をコアレス炉にて溶製した後、半連続鋳造法で造塊して、鋳塊を得ることが開示されている。そして、得られた鋳塊は冷却され、圧延等の所定の工程に付されることにより、目的の合金が得られる。
【0004】
ところで、Snを含む鋳塊は、その鋳造後にミクロ組織を観察するとSnの偏析が見られる場合があり、銅合金の特性のばらつきを抑制しその特性を向上させるためにはSnが均一に分散することが望ましい。Snの均質化を目的として、例えば特許文献2(特表2019-524984号公報)及び特許文献3(特表2019-524985号公報)では、ホウ素を含む高強度Cu-Ni-Sn合金が開示されており、特に合金の粒界においてスズが多い偏析が起こらないことが記載されている。特許文献4(特開平4-228529号公報)には、Cu-Ni-Sn合金の製造方法が開示されており、この合金が実質的に均質であるとの記載がある。特許文献5(特開昭58-87244号公報)には、Sn成分を含むスピノーダル合金条が開示されており、Sn成分が実質的に均一に分散しているとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-169741号公報
【文献】特表2019-524984号公報
【文献】特表2019-524985号公報
【文献】特開平4-228529号公報
【文献】特開昭58-87244号公報
【発明の概要】
【0006】
ここで、鋳造工程において溶湯を凝固させて得られた鋳塊を冷却するとき、その冷却速度が、最終的に得られる合金の生産性や品質に影響を与える。例えば、冷却速度が速いと鋳塊に内部割れが発生し、得られる合金の品質が劣る。一方で、冷却速度が遅いと鋳塊の内部割れを抑制することができるものの冷却に時間がかかり、得られる合金の生産性が悪くなる。そのため、合金の製造において、合金の生産性と品質はトレードオフの関係にあり、これらの両立が望まれる。
【0007】
特に、低融点であるSnを含む銅合金(Cu-Ni-Sn合金等)は、鋳塊とした場合、その外側と内側で、凝固過程での内部応力が大きくなる。例えば、従来より行われている冷却方法である水冷シャワーや水槽への浸漬等により鋳塊を冷却する場合、冷却速度が速すぎて、鋳塊に内部割れが発生しやすくなる。内部割れの発生を抑えるために、例えば空冷して冷却速度を遅くしても、冷却に12時間以上要することもあり、生産性が著しく悪い。また、前述したように、Snを含む鋳塊は、その鋳造後にミクロ組織を観察するとSnの偏析が見られる場合があり、銅合金の特性のばらつきを抑制しその特性を向上させるためにはSnが均一に分散することが望ましい。Snの偏析は冷却速度が速い方が起こりにくいが、上述したように冷却速度が速いと鋳塊に内部割れが発生しやすくなる。
【0008】
ところで、Cu-Ni-Sn合金としては、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金、UNS:C72700に定められるCu-9Ni-6Sn合金、及びUNS:C72950に定められるCu-21Ni-5Sn合金等が知られている。上述のとおり、低融点であるSnを含む銅合金は内部割れやSnの偏析が発生しやすいが、その中でも、Snの含有量が多いCu-15Ni-8Sn合金を製造する場合は、得られる合金の生産性や品質に対して、鋳塊の冷却条件(例えば冷却速度)が与える影響は特に大きい。このように、Cu-Ni-Sn合金の製造において、鋳塊の冷却条件を適切に選択することにより、生産性を向上させ(例えば冷却速度を速くする)、品質も向上させる(例えば内部割れを抑制しSnを均一に分散させる)、すなわち生産性及び品質を両立させることが望まれる。
【0009】
本発明者らは、今般、鋳塊に霧状の液体を吹きかけるミスト冷却(一次冷却)及び鋳塊の液体中への浸漬冷却(二次冷却)を採用することにより、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させることができ、それにより生産性及び品質を両立させる、Cu-Ni-Sn合金の製造方法を提供できるとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させることができ、それにより生産性及び品質を両立させる、Cu-Ni-Sn合金の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様によれば、連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法であって、
溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の前記鋳型近傍の部分を凝固させながら、前記鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す工程と、
前記引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより一次冷却を行う工程と、
前記一次冷却を経た鋳塊を液体中に浸漬させることにより二次冷却を行い、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする工程と、
を含む、Cu-Ni-Sn合金の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の製造方法に用いる鋳型、冷却器及び液槽を含む製造設備の断面図である。
【
図2】例1~6で得られたCu-Ni-Sn合金の鋳造品のSn偏析を確認した光学顕微鏡画像をまとめた表である。
【
図3A】例1で得られた鋳造品から切り出したサンプル切断面の光学顕微鏡画像である。
【
図3B】例1で得られた鋳造品から切り出したサンプル切断面の光学顕微鏡画像を二値化した画像である。
【
図4A】例4で得られた鋳造品から切り出したサンプル切断面の光学顕微鏡画像である。
【
図4B】例4で得られた鋳造品から切り出したサンプル切断面の光学顕微鏡画像を二値化した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、連続鋳造法又は半連続鋳造法によるCu-Ni-Sn合金の製造方法である。本発明の方法により製造されるCu-Ni-Sn合金は、Cu、Ni及びSnを含むスピノーダル合金であるのが好ましい。このスピノーダル合金は、好ましくは、Ni:8~22重量%、及びSn:4~10重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であり、より好ましくは、Ni:14~16重量%、及びSn:7~9重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であり、さらに好ましくは、Ni:14.5~15.5重量%、及びSn:7.5~8.5重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物である。このようなCu-Ni-Sn合金として、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金が好ましく例示される。このように低融点であるSnを含む銅合金を製造する場合、鋳塊の冷却工程において内部割れやSnの偏析が発生しやすいところ、本発明のCu-Ni-Sn合金の製造方法によれば、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させ、生産性及び品質を両立させることができる。
【0014】
本発明のCu-Ni-Sn合金の製造方法は、(1)溶解鋳造工程と、(2)冷却工程とを含む。溶解鋳造工程においては、溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型の一端から流し込んで、該合金の鋳型近傍の部分を凝固させながら、鋳型の他端から連続的に鋳塊として引き出す。それに続く冷却工程においては、引き出された鋳塊に霧状の液体を吹きかけることにより一次冷却を行い、一次冷却を経た鋳塊を液体中に浸漬させることにより二次冷却を行って、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする。このように、溶解鋳造して得られた鋳塊を、霧状の液体を吹きかけて一次冷却を行い(すなわちミスト冷却する)、次いで鋳塊を液体中に浸漬させて二次冷却を行うことにより、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させ、高品質のCu-Ni-Sn合金を高い生産性で製造することができる。
【0015】
前述のとおり、低融点であるSnを含む銅合金の製造において、鋳塊の冷却条件(例えば冷却速度)が得られる合金の生産性及び品質に影響を与えるため、生産性及び品質の両立が困難であったが、本発明の方法によれば、鋳塊の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させ、生産性及び品質を両立させたCu-Ni-Sn合金を製造することができるとの利点がある。
【0016】
図1に本発明の製造方法の一例における製造設備及び鋳塊の断面図を示す。以下、
図1を参照しながら上述の工程を説明する。
【0017】
(1)溶解鋳造工程
まず、溶融されたCu-Ni-Sn合金を、両端が解放された鋳型12の一端から(例えば黒鉛ノズル14を通して)流し込んで、該合金の鋳型12近傍の部分を凝固させながら、鋳型12の他端から連続的に鋳塊16として引き出す。 溶融されたCu-Ni-Sn合金の温度は、1200~1400℃が好ましく、より好ましくは1250~1350℃、さらに好ましくは1300~1350℃である。
【0018】
鋳型12は、銅合金の鋳造に用いられる一般的な鋳型を用いればよく特に限定されないが、好ましくは銅製の鋳型である。鋳型12の内部には水等の冷却媒体が循環しているのが好ましい。こうすることで、溶融された高温のCu-Ni-Sn合金を速やかに表層から凝固させつつ、鋳型12の他端から連続的に鋳塊16として引き出すことができる。
【0019】
溶解鋳造工程は、工業的利用が可能な方法で酸化抑制がなされるのが好ましい。例えば、溶融した金属の酸化を抑制すべく、窒素、Ar、真空等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
【0020】
Cu-Ni-Sn合金を溶解後鋳造する前に、スラグ処理や成分分析等の、所望のCu-Ni-Sn合金を得るための前処理を行ってもよい。例えば、Cu-Ni-Sn合金を好ましくは1300~1400℃で溶解し、一定時間撹拌することで成分を均一化し、スラグ処理を行った後に、鋳造を行ってもよい。この撹拌時間は15~30分間が好ましい。また、スラグ処理後に、Cu-Ni-Sn合金の一部を成分分析用試料として採取し、成分値を測定してもよい。この測定結果により、目的とする成分値から外れている場合はCu-Ni-Sn合金を再度追加して、目的とする成分値になるように調整してもよい。
【0021】
(2)冷却工程
鋳型12の他端から引き出された鋳塊16に霧状の液体を吹きかけることにより一次冷却を行い(すなわちミスト冷却を行い)、次いで鋳塊を液体中に浸漬させて二次冷却を行うことで、Cu-Ni-Sn合金の鋳造品とする。一次冷却に加えて二次冷却をすることにより、鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させ、高品質のCu-Ni-Sn合金を高い生産性で製造することができる。すなわち、Cu、Ni及びSnを含む鋳塊16の従来の冷却方法の例としては、エアシャワーやシャワー状の液体を直接かけること、液体に直接浸漬すること等が挙げられるが、これらの方法では鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくしかつSnを均一に分散させることは困難であった。しかしながら、(i)ミスト冷却及び浸漬冷却の組み合わせによれば、鋳塊16の冷却時間を短くしつつも内部割れを少なくすることができる。(ii)また、鋳塊16に対してミスト冷却に加えて浸漬冷却を行うことにより、ミスト冷却のみで冷却する場合と比べて、鋳塊16の冷却に要する時間を短くするだけでなく、ミクロ組織の偏析、すなわちSnの偏析を起こりにくくし、鋳塊16を均質な組成を有するものとすることができる。(iii)このようにミスト冷却で鋳塊16の粗熱を取りその後に浸漬冷却することで、鋳塊16の冷却時間を短くしつつ、鋳塊16に内部割れを発生しにくくし、かつSnの偏析を起こりにくくすることができる。従来、ミスト冷却の代わりに水冷シャワー等で鋳塊16に直接水をかけたり、ミスト冷却を経ずに直接浸漬冷却した場合、いずれも冷却速度(温度勾配)が速すぎるため鋳塊16が割れてしまっていた。しかし、上述したようにミスト冷却により一次冷却を行い、次いで浸漬冷却により二次冷却を行うことで、このような問題を解決することができる。
【0022】
前述のとおり、冷却工程には一次冷却を行う工程と二次冷却を行う工程があるが、これらの工程においては、液体は水や油等の冷却媒体として使用できるものであれば特に限定されないが、取り扱いの容易さや製造コストの観点から、水であるのが好ましい。また、冷却速度を調整する観点から、油を冷却媒体として用いてもよい。
【0023】
鋳型12を通過した鋳塊16が、鋳造の終了後30分以内に50℃以下まで冷却されることが好ましく、より好ましくは鋳造の終了後20分以内に50℃以下まで冷却され、さらに好ましくは鋳造の終了後10分以内に100℃以下まで冷却され、特に好ましくは鋳造の終了後5分以内に500℃以下まで冷却される。このように短時間で鋳塊16を冷却することにより、連続鋳造法及び半連続鋳造法による鋳造サイクルを短くすることができ、生産性を向上させることができる。
【0024】
冷却工程おいて、一次冷却が、鋳塊16を鋳型12の直下に配置された冷却器18を通過させることにより行われることが好ましい。こうすることで、鋳塊16が鋳型12の他端から引き出された直後にミスト冷却され、鋳塊16の表層だけでなく内部が割れることなく速やかに冷却することができる。また、鋳塊16を鋳型12の他端から引き出し冷却器18を通過させて降下させるとき、鋳塊16を受台(図示せず)で支持しながら降下させてもよい。好ましくは鋳塊16が受台で支持されており、受台が25~35mm/分の速度で降下され、より好ましくは30~35mm/分の速度、さらに好ましくは33~35mm/分の速度で降下される。
【0025】
好ましい冷却器18は、円筒状本体18aと、液体供給部18bと、空気噴射部18cとを備えている。液体供給部18bは、円筒状本体18aの上部に設けられ、液体W(例えば水)を下方に垂らすように構成される一方、空気噴射部18cは、液体供給部18bの下方に設けられ、空気Aを円筒状本体18aの中心軸に向かって噴射するように構成される。かかる構成によれば、液体供給部18bから垂れた液体Wを空気Aと混ぜ、霧状の液体(すなわちミスト)にし、これを円筒状本体18aの内側にある鋳塊16に噴射することができる。これにより、鋳塊16の冷却時間の短縮及び内部割れの抑制を効果的に実現できるのみならず、その後の浸漬冷却による鋳塊16の冷却時間の更なる短縮及びSnの均質化をも可能とし、その結果、Cu-Ni-Sn合金の生産性及び品質を両立させることができる。また、垂れた液体Wにはカーボン等のゴミが含まれているため、空気Aを噴射するノズル(穴ともいう)が詰まらないように、ノズルの口径を調節することが望ましい。ノズルの口径は好ましくは直径2~5mmであり、より好ましくは3~4mmである。液体供給部18bから垂らす液体Wの流速は7~13L/minであることが好ましく、より好ましくは9~11L/minである。空気噴射部18cから噴射する空気Aの圧力は2.0~4.0MPaであることが好ましく、より好ましくは2.7~3.3MPaである。
【0026】
冷却器18は、下方に垂れる液体Wが、鋳塊16に直接当たることなく、空気Aと混ざるように構成されるのが好ましい。こうすることで、垂れた液体Wが鋳塊16に直接当たり局所的に急冷されないようにし、鋳塊16の全体にわたって均一にミスト冷却することができ、内部割れの発生をより抑えることができる。そして、後続の浸漬冷却において、鋳塊16の内部割れを抑えつつも均一かつ迅速に冷却することによりSnの偏析をより抑えることができる。また、冷却器18は、液体供給部18bから垂れる液体Wの位置が、空気噴射部18cの位置よりも円筒状本体18aに近い位置になるように構成されるのが好ましい。こうすることで、液体Wが液体供給部18bから垂れたところに、空気噴射部18cの空気Aがうまく吹き付けられ、霧状の液体(すなわちミスト)を効率よく発生させることができる。
【0027】
また、冷却器18の空気噴射部18cは、空気Aが斜め下に噴射するように構成されるのが好ましい。液体供給部18bからの液体Wの勢いが弱いと、液体Wが重力で下方に垂れ、液体Wが霧状の液体として鋳塊に当たる位置が下がり、冷却速度にムラができる。しかし、空気Aが斜め下に噴射するように構成することにより、液体Wの勢い(流量)によって液体Wが鋳塊に当たる位置に差が出ないようにし、冷却速度を均一にすることができる。
【0028】
二次冷却は、液槽20に、鋳塊16の下端部から順に連続的に浸漬させることにより行われるのが好ましい。また、この液槽20は、冷却器18の直下に設けられるのが好ましい。二次冷却の前に一次冷却を行うことにより鋳塊16の粗熱を取ることで、一次冷却後に連続的に鋳塊16を液体中に浸漬して急冷しても内部割れをより起こりにくくすることができる。そのため、Snの偏析の抑制という、急冷による利点を活かしながらも、鋳塊16の内部割れを効果的に抑制することができる。
【0029】
二次冷却において液体中に鋳塊16を浸漬させるが、鋳塊16を浸漬させる液槽20は地中にピット状に設けられた液槽であってもよいし、地上に配置された液槽であってもよい。また、液槽20では、液体を循環させたり、常に新しい液体を加え続ける等の処置を行うことで、鋳塊16を液体中に浸漬しても液温の上昇が抑えられるようにしてもよい。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0031】
例1
Cu-Ni-Sn合金として、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金を以下の手順により作製し、評価した。
【0032】
(1)秤量
Cu-Ni-Sn合金の原料である、純Cuナゲット、Ni地金、Sn地金、電気マンガン、及びCu-Ni-Sn合金スクラップを、目標組成となるように秤量した。すなわち、Cuを163kg、Niを30kg、Snを15kg及びCu-Ni-Sn合金スクラップを1450kg秤量し、混合することにより、調合した。
【0033】
(2)溶解及びスラグ処理
秤量したCu-Ni-Sn合金の原料を大気用高周波溶解炉で1300~1400℃で溶解し、30分撹拌することで成分を均一化した。溶解完了後、スラグ掻き及びスラグ掬いを行った。
【0034】
(3)成分分析(鋳造前)
溶解及びスラグ処理して得られたCu-Ni-Sn合金の一部を成分分析用試料として採取し、その成分値を測定した。その結果、成分分析用試料は、Ni:14.9重量%及びSn:8.0重量%を含み、残部がCu及び不可避不純物であった。この組成は、UNS:C72900に定められるCu-15Ni-8Sn合金の条件を満たすものである。
【0035】
(4)半連続鋳造
溶解及びスラグ処理して得られたCu-Ni-Sn合金の溶湯を1250~1350℃で出湯し、
図1に模式的に示されるように、両端が解放された鋳型12の一端に黒鉛ノズル14を通して流し込んだ。このとき、鋳型12の内部に水を循環させることで、流し込んだ溶湯を、鋳型12の一端から他端を通過するまでに凝固させ鋳塊16とした。このとき、鋳塊16の表層が主として凝固される。
【0036】
(5)一次冷却及び二次冷却(ミスト冷却及び浸漬冷却)
凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により霧状の水を吹きかけながら、連続的に引き出した。このとき、冷却器18の円筒状本体18aの上部にある水供給部18bから7~13L/minの水Wを垂れ流し、冷却器18の円筒状本体18aの下段に空気噴射部18cとして設けられた直径3.5mmの穴120個から空気Aを0.3MPaの圧力で吹き込むことにより、垂れる水Wを霧化して霧状の水(すなわちミスト)とし、鋳塊16に吹き付けた(一次冷却)。吹き込んだ空気Aの流量は7500L/min相当と考えられる。また、鋳塊16は、25~35mm/minで降下する受台(図示せず)で受け止めながら降下させた。さらに、降下させた鋳塊をその下端部から水槽20に連続的に浸漬させて水中で冷却した(二次冷却)。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、30分以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0037】
(6)鋳造品の取り出し
水冷により得られた鋳塊16を、その温度が50℃未満になった後に取り出し、鋳造品であるCu-Ni-Sn合金を得た。鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0038】
(7)各種評価
得られた鋳造品に対して以下の評価を行った。
【0039】
<内部割れの確認>
鋳造品の内部割れを確認するために、鋳造品の長手方向トップ面から250mmの位置、及びボトム面から150mmの位置からそれぞれ直径320mm×厚さ10mmの円板状サンプルを切り出し、その両面を目視観察及びレッドチェックをした。
【0040】
<Snの偏析確認>
上記サンプルを50倍の倍率及び2.8mm×2.1mmの視野で光学顕微鏡により観察した。得られた光学顕微鏡画像を画像解析ソフトImageJを用いて二値化し、得られた二値化画像から、Snが占める面積の上記視野全体の面積に対する面積比を測定し、これに100を乗じて、Snの面積比率(%)(Snの偏析度合い)を算出した。Snの面積比率は4.40%であった。例1のサンプルの光学顕微鏡画像及びその二値化画像の一例をそれぞれ
図3A及び
図3Bに示す。
【0041】
例2(比較)
上記(5)のミスト冷却及び浸漬冷却の代わりに、以下のようにして浸漬冷却のみを行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0042】
(浸漬冷却)
表層が凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により水W及び空気Aを吹きかけることはせず、そのまま水槽20に浸漬し水中で冷却した。また、鋳塊16は、25~35mm/minで降下する受台(図示せず)で受け止めながら降下させた。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、20分以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0043】
例3(比較)
上記(5)のミスト冷却及び浸漬冷却の代わりに、以下のようにして冷却器による水冷を行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0044】
(冷却器による水冷)
表層が凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により液状の水を吹きかけた。なお、このとき空気噴射部18cからは空気Aを吹き込まず、鋳塊16を水槽20にも浸漬しなかった。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、30分以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0045】
例4(比較)
上記(5)のミスト冷却及び浸漬冷却の代わりに、以下のようにしてミスト冷却のみを行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。また、例4のサンプルについて、上記(7)のSnの偏析確認にて光学顕微鏡観察により算出したSnの面積比率は48.29%であった。このサンプルの光学顕微鏡画像及びその二値化画像の一例をそれぞれ
図4A及び
図4Bに示す。
【0046】
(ミスト冷却)
図1に模式的に示されるように、凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18により霧状の水を吹きかけながら、連続的に引き出した。このとき、冷却器18の円筒状本体18aの上部にある水供給部18bから7~13L/minの水Wを垂れ流し、冷却器18の円筒状本体18aの下段に空気噴射部18cとして設けられた直径3.5mmの穴120個から空気Aを2.7~3.3MPaの圧力で吹き込むことにより、垂れる水Wを霧化して霧状の水(すなわちミスト)とし、鋳塊16に吹き付けた。また、鋳塊16は、25mm/minで降下する受台(図示せず)で受け止めながら降下させた。このとき、鋳塊16を水槽20には浸漬しなかった。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、2時間以内で50℃以下まで鋳塊16を冷却した。
【0047】
例5(比較)
上記(5)のミスト冷却及び浸漬冷却の代わりに、以下のようにして空冷を行ったこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0048】
(空冷)
凝固した鋳塊16を、鋳型12の直下に設けた冷却器18の空気噴射部18cにより空気Aを吹きかけながら、連続的に引き出した。このとき、冷却器の円筒状本体に設けられた直径3.5mmの穴120個からから空気を吹き込む一方、鋳塊は、25mm/minで降下する受台で受け止めながら降下させた。すなわち、冷却器18から水Wを吹きかけず、水槽20にも浸漬せず、冷却器18からの空気Aのみにより鋳塊16を冷却した。このような冷却方法により、上記(4)の半連続鋳造後、12時間で50℃まで鋳塊を冷却した。空冷の場合、鋳塊の冷却速度が遅いため、内部割れが発生しにくいものの、冷却に長時間を要するため生産性が悪いといえる。
【0049】
例6(比較)
鋳型12を通過した鋳塊16に対して、冷却器18及び水槽20を用いた冷却を行うことなく、上記(4)の半連続鋳造後、鋳塊16が50℃まで冷却されるまで24時間放置したこと以外、例1と同様にして試料の作製及び評価を行った。得られた鋳造品のサイズは直径320mm×長さ2mであった。
【0050】
結果
例1~6で得られた鋳造品の評価結果を表1及びそこで参照される
図2にまとめた。表1中の「生産性」とは、鋳造品を1回製造するのにかかる時間を示すものであり、例えば、冷却方法がミスト冷却及び浸漬冷却である例1では、鋳造品を1回製造するのに4時間要する。表1に示されるように、例1では、鋳塊を迅速に冷却しながらも内部割れが無く、Snが均一に分散した鋳造品とすることができた。すなわち、生産性及び品質を両立させたCu-Ni-Sn合金を得ることができた。なお、例2では鋳造後の冷却速度が20分と短いが、これは例1の冷却速度(30分)とほとんど変わらず、10分程度の違いでは生産性への影響はほとんどないと言える。例2や例3のように鋳造後の冷却速度が速いと、鋳造品の生産性は高いが内部割れが発生する等品質が劣る。一方で、例5や例6のように鋳造後の冷却速度が遅いと、内部割れが発生しないが、鋳造品の生産性は低くなりSnの偏析も起こりやすい。冷却方法がミスト冷却のみである例4では、比較的生産性が高く内部割れも抑制された鋳造品を得ることができるものの、Snの偏析が見られる。これに対し、冷却方法がミスト冷却及び浸漬冷却である例1の鋳造品は、上述したように、鋳造後の冷却速度が速いため生産性が高く、内部割れやSnの偏析も抑制され高品質なものとなる。
【0051】