(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】気体センサとその製造方法、および燃料電池自動車
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240209BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240209BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240209BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
H01M8/00 Z
H01M8/04 N
H01M8/04 H
H01M8/04 Z
(21)【出願番号】P 2021503440
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000803
(87)【国際公開番号】W WO2020179226
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019042012
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 理
(72)【発明者】
【氏名】本間 運也
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 光一
(72)【発明者】
【氏名】片山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】米田 慎一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/037984(WO,A1)
【文献】特開2017-181494(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123673(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123674(WO,A1)
【文献】特開2017-173307(JP,A)
【文献】特開2013-068567(JP,A)
【文献】特表2001-509879(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044256(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
H01M 8/00
H01M 8/04
B60L 50/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、前記第1電極上に形成された金属酸化物層および前記金属酸化物層上に形成された第2電極を有し、気体中に存在しかつ水素原子を含む気体分子を検知する気体検知素子と、
前記第2電極の一部を露出した開口を有し、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極の他の一部を被覆する第1絶縁膜と、を備え、
前記金属酸化物層は前記第2電極が前記気体分子に接触することでその抵抗値が変化する特性を備えており、
前記金属酸化物層と前記第2電極との界面の、平面視において前記開口内に位置する部分には第1段差が形成されており、
前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、
前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大き
く、
前記第1電極は、平面視において、前記第1段差が形成された領域よりも広い領域にわたって形成れている、気体センサ。
【請求項2】
前記第1段差が上凸形状である、請求項1に記載の気体センサ。
【請求項3】
第1電極、前記第1電極上に形成された金属酸化物層および前記金属酸化物層上に形成された第2電極を有し、気体中に存在しかつ水素原子を含む気体分子を検知する気体検知素子と、
前記第2電極の一部を露出した開口を有し、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極の他の一部を被覆する第1絶縁膜と、を備え、
前記金属酸化物層は前記第2電極が前記気体分子に接触することでその抵抗値が変化する特性を備えており、
前記金属酸化物層と前記第2電極との界面の、平面視において前記開口内に位置する部分には第1段差が形成されており、
前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、
前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きく、
前記第1段差が上凸形状であり、
基板と前記第1電極との間に第1コンタクトプラグが形成されており、
前記第1コンタクトプラグはその側面の周囲が第2絶縁膜で覆われており、
前記第1コンタクトプラグの上面は前記第2絶縁膜の上面から突出して形成されており、
前記第1電極は、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面とに跨って形成された第2段差を備えており、
前記第1段差は、前記金属酸化物層の上面に前記第2段差が転写された段差であ
る、気体センサ。
【請求項4】
前記第1段差が下凸形状である、請求項1に記載の気体センサ。
【請求項5】
第1電極、前記第1電極上に形成された金属酸化物層および前記金属酸化物層上に形成された第2電極を有し、気体中に存在しかつ水素原子を含む気体分子を検知する気体検知素子と、
前記第2電極の一部を露出した開口を有し、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極の他の一部を被覆する第1絶縁膜と、を備え、
前記金属酸化物層は前記第2電極が前記気体分子に接触することでその抵抗値が変化する特性を備えており、
前記金属酸化物層と前記第2電極との界面の、平面視において前記開口内に位置する部分には第1段差が形成されており、
前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、
前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きく、
前記第1段差が下凸形状であり、
基板と前記第1電極との間に第1コンタクトプラグが形成されており、
前記第1コンタクトプラグはその側面の周囲が第2絶縁膜で覆われており、
前記第1コンタクトプラグの上面は前記第2絶縁膜の上面から窪んで形成されており、
前記第1電極は、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面とに跨って形成された第3段差を備えており、
前記第1段差は、前記金属酸化物層の上面に前記第3段差が転写された段差であ
る、気体センサ。
【請求項6】
前記第2電極は、前記水素原子を前記気体分子から解離させる触媒作用を有する材料を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の気体センサ。
【請求項7】
前記第2電極は、白金またはパラジウムを含む、請求項6に記載の気体センサ。
【請求項8】
前記金属酸化物層は、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧に基づいて可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態との間を遷移する、請求項1~7のいずれか1項に記載の気体センサ。
【請求項9】
前記第1電極と前記第2電極との間に所定の電圧が印加されたときに前記金属酸化物層に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、
前記電流検出部が検出する電流の増加によって前記抵抗値の低下を検知する、請求項1~8のいずれか1項に記載の気体センサ。
【請求項10】
前記金属酸化物層は、遷移金属酸化物を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の気体センサ。
【請求項11】
前記遷移金属酸化物は、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物、またはジルコニウム酸化物のいずれかである、請求項10に記載の気体センサ。
【請求項12】
前記第1絶縁膜における前記第2電極上を被覆する部分の一部を貫通して前記第2電極に接続された第2コンタクトプラグと、
前記第2コンタクトプラグの上方において前記第2コンタクトプラグに接続された導電体と、をさらに備えた、請求項1~11のいずれか1項に記載の気体センサ。
【請求項13】
基板上に第1電極膜を形成する工程と、
前記第1電極膜上に、上面に第1段差を有する金属酸化物膜を形成する工程と、
前記金属酸化物膜上に第2電極膜を形成する工程と、
平面視において前記第1段差を含むように前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜をパターニングして、第1電極、金属酸化物層および第2電極からなる気体検知素子を形成する工程と、
前記気体検知素子を被覆するように第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜の一部を除去して、平面視において前記第1段差上の前記第2電極の一部を露出した開口を形成する工程とを含
み、
前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、
前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きく、
前記第1電極は、平面視において、前記第1段差が形成された領域よりも広い領域にわたって形成れている、気体センサの製造方法。
【請求項14】
基板上に第1電極膜を形成する工程と、
前記第1電極膜上に、上面に第1段差を有する金属酸化物膜を形成する工程と、
前記金属酸化物膜上に第2電極膜を形成する工程と、
平面視において前記第1段差を含むように前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜をパターニングして、第1電極、金属酸化物層および第2電極からなる気体検知素子を形成する工程と、
前記気体検知素子を被覆するように第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜の一部を除去して、平面視において前記第1段差上の前記第2電極の一部を露出した開口を形成する工程とを含み、
前記基板上に第2絶縁膜を形成する工程と、
前記第2絶縁膜内に第1コンタクトプラグを形成する工程と、
前記第1コンタクトプラグの周囲の前記第2絶縁膜の上部を除去して、前記第1コンタクトプラグの上面を周囲の前記第2絶縁膜の上面から突出させる工程と、をさらに含み、
前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面との段差である第2段差に跨るように、前記第1コンタクトプラグ上および前記第2絶縁膜上に、順に前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜を形成し、前記第2段差が転写された前記第1段差を有する前記気体検知素子を形成す
る、気体センサの製造方法。
【請求項15】
基板上に第1電極膜を形成する工程と、
前記第1電極膜上に、上面に第1段差を有する金属酸化物膜を形成する工程と、
前記金属酸化物膜上に第2電極膜を形成する工程と、
平面視において前記第1段差を含むように前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜をパターニングして、第1電極、金属酸化物層および第2電極からなる気体検知素子を形成する工程と、
前記気体検知素子を被覆するように第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜の一部を除去して、平面視において前記第1段差上の前記第2電極の一部を露出した開口を形成する工程とを含み、
前記基板上に第2絶縁膜を形成する工程と、
前記第2絶縁膜内に第1コンタクトプラグを形成する工程と、
前記第1コンタクトプラグの上部を除去して、前記第1コンタクトプラグの上面を周囲の前記第2絶縁膜の上面から窪ませる工程と、をさらに含み、
前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面との段差である第3段差に跨るように、前記第1コンタクトプラグ上および前記第2絶縁膜上に、順に前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜を形成し、前記第3段差が転写された前記第1段差を有する前記気体検知素子を形成す
る、気体センサの製造方法。
【請求項16】
客室と、
水素ガスのタンクが配置されたガスタンク室と、
燃料電池が配置された燃料電池室と、
請求項1~12のいずれか1項に記載の気体センサと、を備え、
前記気体センサが、前記ガスタンク室および前記燃料電池室のうちの少なくとも一方に配置された、燃料電池自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体センサおよびその製造方法と当該気体センサを搭載した燃料電池自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素社会の実現にむけた取組みが様々な分野で精力的に行われている。特に、究極のエコカーと期待されている水素を燃料として用いる燃料電池自動車も市場に投入され、それに伴い水素ステーションなどのインフラも着実に整備されている。このような状況のなかで、水素社会の安全安心を担保するものとして、水素を検知するセンサの重要性が増してきている。
【0003】
水素を代表とする気体を検知するセンサとして、気体感応性絶縁膜(以下では、単に絶縁膜とも言う)と金属膜が積層された金属-絶縁膜-金属(MIM)構造の気体検知素子を備えた気体センサが知られている。
【0004】
このような気体センサは、気体に少量含まれる水素、アルコール、炭化水素、アンモニア、アミンなどの検出に使用することができ、特に、水素のような反応性の高い気体を効率よく検出することができる。
【0005】
特許文献1には絶縁膜と金属膜が積層されてなるMIM構造の気体センサが開示されている。特許文献1の気体センサは、五酸化タンタル(Ta2O5)にパラジウムとガラスを所定量添加した絶縁膜を用い、当該絶縁膜を挟み込む上下の金属電極として、白金(Pt)を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.Yu et al. “Hydrogen gas sensing properties of Pt/Ta2O5 Schottky Diodes based on Si and SiC substrates”. Sensors and Actuators A 172 (2011) pp.9-14
【文献】Toshiyuki Usagawa et al. “A Novel Pt-Ti-O Gate Si-Metal-Insulator-Semiconductor Field-Effect Transistor”. IEEE SENSORS 2010 Conference、pp.2145-2148
【文献】高橋郁生、接触燃焼式水素センサ、表面技術 Vol.57, No.4, 2006, pp.267-270
【文献】北口久雄、水素用ガスセンサの現状と課題、水素エネルギーシステムVol.30, No.2 (2005), pp.35-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の気体検知素子では、例えば水素原子を有する気体を検知する感度の向上のために気体検出素子を100℃以上に加熱しており、消費電力は最小のものでも100mW程度必要である。従って、気体検知素子を常時ON状態で使用する場合、消費電力が非常に大きくなるという課題がある。
【0009】
本開示は、水素原子を有する気体分子を感度良く安定に検出することが可能であり、かつ、消費電力が小さい気体センサ、その製造方法および燃料電池自動車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の課題を解決するために、本開示の一態様に係る気体センサは、第1電極、前記第1電極上に形成された金属酸化物層および前記金属酸化物層上に形成された第2電極を有し、気体中に存在しかつ水素原子を含む気体分子を検知する気体検知素子と、前記第2電極の一部を露出した開口を有し、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極の他の一部を被覆する第1絶縁膜と、を備え、前記金属酸化物層は前記第2電極が前記気体分子に接触することでその抵抗値が変化する特性を備えており、前記金属酸化物層と前記第2電極との界面の、平面視において前記開口内に位置する部分には第1段差が形成されており、前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きく、前記第1電極は、平面視において、前記第1段差が形成された領域よりも広い領域にわたって形成れている。
【0011】
また、本開示の一態様に係る気体センサの製造方法は、基板上に第1電極膜を形成する工程と、前記第1電極膜上に、上面に第1段差を有する金属酸化物膜を形成する工程と、前記金属酸化物膜上に第2電極膜を形成する工程と、平面視において前記第1段差を含むように前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜をパターニングして、第1電極、金属酸化物層および第2電極からなる気体検知素子を形成する工程と、前記気体検知素子を被覆するように第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜の一部を除去して、平面視において前記第1段差上の前記第2電極の一部を露出した開口を形成する工程とを含み、前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きく、前記第1電極は、平面視において、前記第1段差が形成された領域よりも広い領域にわたって形成れている。
【0012】
また、本開示の一態様に係る燃料電池自動車は、客室と、水素ガスのタンクが配置されたガスタンク室と、燃料電池が配置された燃料電池室と、上記気体センサと、を備え、前記気体センサが、前記ガスタンク室および前記燃料電池室のうちの少なくとも一方に配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、消費電力が小さく、かつ、感度良く安定に水素原子を含む気体分子を検出することが可能な気体センサ、その製造方法および燃料電池自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは第1の実施形態に係る気体センサの断面図である。
【
図1B】
図1Bは第1の実施形態に係る気体センサの平面図である。
【
図2A】
図2Aは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2E】
図2Eは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2F】
図2Fは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2G】
図2Gは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2H】
図2Hは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2I】
図2Iは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図2J】
図2Jは第1の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3は第1の実施形態に係る気体センサの断面図である。
【
図4】
図4は第1の実施形態に係る気体センサにおける局所領域の形成方法である。
【
図5】
図5は第1の実施形態に係る気体センサの評価結果を示す図である。
【
図6】
図6は段差なしの気体センサおよび第1の実施形態に係る気体センサの評価結果である。
【
図7】
図7は段差なしの気体センサおよび第1の実施形態に係る気体センサの評価結果である。
【
図8A】
図8Aは第2の実施形態に係る気体センサの断面図である。
【
図8B】
図8Bは第2の実施形態に係る気体センサの平面図である。
【
図9A】
図9Aは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9B】
図9Bは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9C】
図9Cは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9D】
図9Dは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9E】
図9Eは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9F】
図9Fは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9G】
図9Gは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9H】
図9Hは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9I】
図9Iは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図9J】
図9Jは第2の実施形態に係る気体センサの製造方法を示す断面図である。
【
図10】
図10は第2の実施形態に係る気体センサの断面図である。
【
図11】
図11は第3の実施形態に係る燃料電池自動車の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らが鋭意検討を行なった結果、従来の気体センサにおいて、以下のような問題があることを見出した。
【0016】
特許文献1に開示された気体センサでは水素を含む可燃性ガスを検知することができると記載されてはいるが、詳細なメカニズムに関する記述はない。そこで、MIS(金属-絶縁膜-半導体)構造を用いた気体センサ(Pt-Ta2O5-Si)に関する非特許文献1において開示されているメカニズムと同様の現象が特許文献1においても引き起こされていると仮定すると、そのメカニズムは以下のように説明することができる。
【0017】
まず、触媒作用を有する金属である白金の表面に、例えば、水素ガスを含む気体が接触した場合、白金の触媒作用により水素ガスが水素原子に分解され、その水素原子が下記の化学反応式に従って、絶縁膜中の五酸化タンタルから酸素原子を奪うことにより、五酸化タンタル中に酸素欠陥が形成され、電流が流れやすくなると考えられる。
【0018】
Ta2O5+2XH→XH2O+Ta2O5-X
【0019】
一方、水素ガスを含む気体が白金の表面からなくなると、下記に示す化学反応式に従う逆プロセスが起こることで、五酸化タンタル中の酸素欠陥がなくなり、電流が流れにくくなると考えられる。
【0020】
XH2O+Ta2O5-X→Ta2O5+2XH
【0021】
このようなメカニズムによって、五酸化タンタルにパラジウムとガラスを所定量添加した絶縁膜を用い、当該絶縁膜を挟み込む上下の金属電極として白金を用いたMIM構造は、水素原子を有する気体を検知する気体センサとして機能していると考えられる。
【0022】
また、特許文献1に記載されているMIM構造の気体センサでは、気体検知素子に隣接して加熱ヒータが設けられている。測定時は加熱ヒータに所定の電圧を印加して、気体検知素子温度を400℃まで上昇させている。これは気体検知素子の検出感度を上げるためと考えられる。即ち、触媒作用を有する金属である白金によって水素原子を解離させているが、触媒作用により水素原子を有する分子から水素原子を解離させる割合は温度上昇に比例するため、気体検知素子温度が上昇するに従って検出感度は上がると考えられる。
【0023】
MIM構造の気体センサだけでなく、金属の触媒作用を利用するMIS構造の気体センサにおいても、気体検知素子に隣接して加熱ヒータが設置されており、通常、周囲温度を100℃以上に保持して使用されている。例えば、MIS構造をダイオードとして用いた前出の非特許文献1に開示された気体センサでは検出のために100℃以上の温度が必要であり、MIS構造をトランジスタとして用いた非特許文献2に開示された気体センサでは周囲温度115℃で動作させている。
【0024】
また、金属の触媒作用を利用した気体センサとして、非特許文献3に開示された接触燃焼式の気体センサもあるが、この接触燃焼式においても動作時は気体検知素子を200℃~300℃まで加熱している。
【0025】
さらには、金属の触媒作用を利用しない気体センサとして、非特許文献4に開示された熱線型半導体式と気体熱伝導式の気体センサがあるが、いずれの方式においても気体検知素子は100℃以上に加熱されている。
【0026】
このように、従来の気体検知素子では、水素原子を含む気体を検知する感度の向上のために気体検知素子を100℃以上に加熱しており、消費電力は最小のものでも100mW前後ある。従って、気体検知素子を常時ON状態で使用する場合、消費電力が非常に大きくなるという課題がある。
【0027】
本開示の一態様に係る気体センサは、水素原子を含む気体分子を感度良く安定に検出することが可能であり、かつ、省電力性に優れる。
【0028】
(本開示の態様)
本開示の一態様に係る気体センサおよび気体センサの製造方法並びに燃料電池自動車は、以下のような特徴を備える。
【0029】
本開示の一態様に係る気体センサは、第1電極、前記第1電極上に形成された金属酸化物層および前記金属酸化物層上に形成された第2電極を有し、気体中に存在しかつ水素原子を含む気体分子を検知する気体検知素子と、前記第2電極の一部を露出した開口を有し、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極の他の一部を被覆する第1絶縁膜と、を備え、前記金属酸化物層は前記第2電極が前記気体分子に接触することでその抵抗値が変化する特性を備えており、前記金属酸化物層と前記第2電極との界面の、平面視において前記開口内に位置する部分には第1段差が形成されており、前記金属酸化物層における前記第1段差の近傍に局所領域が形成されており、前記局所領域における酸素不足度は、前記金属酸化物層における前記局所領域以外の領域の酸素不足度よりも大きい。
【0030】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第1段差が上凸形状であってもよい。
【0031】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、基板と前記第1電極との間に第1コンタクトプラグが形成されており、前記第1コンタクトプラグはその側面の周囲が第2絶縁膜で覆われており、前記第1コンタクトプラグの上面は前記第2絶縁膜の上面から突出して形成されており、前記第1電極は、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面とに跨って形成された第2段差を備えており、前記第1段差は、前記金属酸化物層の上面に前記第2段差が転写された段差であってもよい。
【0032】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第1段差が下凸形状であってもよい。
【0033】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記基板と前記第1電極との間に第1コンタクトプラグが形成されており、前記第1コンタクトプラグはその側面の周囲が第2絶縁膜で覆われており、前記第1コンタクトプラグの上面は前記第2絶縁膜の上面から窪んで形成されており、前記第1電極は、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面とに跨って形成された第3段差を備えており、前記第1段差は、前記金属酸化物層の上面に前記第3段差が転写された段差であってもよい。
【0034】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第2電極は、前記水素原子を前記気体分子から解離させる触媒作用を有する材料を含んでもよい。
【0035】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第2電極は、白金またはパラジウムを含んでもよい。
【0036】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記金属酸化物層は、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧に基づいて可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態との間を遷移してもよい。
【0037】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第1電極と前記第2電極との間に所定の電圧が印加されたときに前記金属酸化物層に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記電流検出部が検出する電流の増加によって前記抵抗値の低下を検知してもよい。
【0038】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記金属酸化物層は、遷移金属酸化物を含んでもよい。
【0039】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記遷移金属酸化物は、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物、またはジルコニウム酸化物のいずれかであってもよい。
【0040】
また、本開示の一態様に係る気体センサにおいて、前記第1絶縁膜における前記第2電極上を被覆する部分の一部を貫通して前記第2電極に接続された第2コンタクトプラグと、前記第2コンタクトプラグの上方において前記第2コンタクトプラグに接続された導電体と、をさらに備えていてもよい。
【0041】
また、本開示の一態様に係る気体センサの製造方法は、基板上に第1電極膜を形成する工程と、前記第1電極膜上に、上面に第1段差を有する金属酸化物膜を形成する工程と、前記金属酸化物膜上に第2電極膜を形成する工程と、平面視において前記第1段差を含むように前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜をパターニングして、第1電極、金属酸化物層および第2電極からなる気体検知素子を形成する工程と、前記気体検知素子を被覆するように第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜の一部を除去して、平面視において前記第1段差上の前記第2電極の一部を露出した開口を形成する工程と、を含む。
【0042】
また、本開示の一態様に係る気体センサの製造方法は、前記基板上に第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2絶縁膜内に第1コンタクトプラグを形成する工程と、前記第1コンタクトプラグの周囲の前記第2絶縁膜の上部を除去して、前記第1コンタクトプラグの上面を周囲の前記第2絶縁膜の上面から突出させる工程と、をさらに含み、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面との段差である第2段差に跨るように、前記第1コンタクトプラグ上および前記第2絶縁膜上に、順に前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜を形成し、前記第2段差が転写された前記第1段差を有する前記気体検知素子を形成してもよい。
【0043】
また、本開示の他の一態様に係る気体センサの製造方法は、前記基板上に第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2絶縁膜内に第1コンタクトプラグを形成する工程と、前記第1コンタクトプラグの上部を除去して、前記第1コンタクトプラグの上面を周囲の前記第2絶縁膜の上面から窪ませる工程と、をさらに含み、前記第1コンタクトプラグの上面とその周囲の前記第2絶縁膜の上面との段差である第3段差に跨るように、前記第1コンタクトプラグ上および前記第2絶縁膜上に、順に前記第1電極膜、前記金属酸化物膜および前記第2電極膜を形成し、前記第3段差が転写された前記第1段差を有する前記気体検知素子を形成してもよい。
【0044】
また、本開示の一態様に係る燃料電池自動車は、客室と、水素ガスのタンクが配置されたガスタンク室と、燃料電池が配置された燃料電池室と、上記のいずれかに記載の気体センサと、を備え、前記気体センサが、前記ガスタンク室および前記燃料電池室のうちの少なくとも一方に配置されている。
【0045】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0046】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下において記述される数値、材料、成膜方法などは、すべて本開示の実施形態を具体的に説明するために例示するものであり、本開示はこれらに制限されない。また、以下において記述される構成要素間の接続関係は、本開示の実施形態を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0047】
(第1の実施形態)
[気体センサの構成]
第1の実施形態に係る気体センサは、絶縁膜としての金属酸化物層と金属膜とが積層されてなる金属-絶縁膜-金属(MIM)構造の気体センサである。当該気体センサは、金属酸化物層内に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用することにより、ヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出することができる。ここで、水素含有ガスとは、水素原子を有する分子からなる気体の総称であり、一例として、水素、メタン、アルコールなどを含み得る。
【0048】
図1Aは、本実施形態に係る気体センサ100の一構成例を示す断面図である。
【0049】
図1Bは、本実施形態に係る気体センサ100の一構成例を示す上面図である。
【0050】
ここで、
図1Aの断面は、
図1BのIA-IA’の切断線において矢印方向に見た断面に相当する。
【0051】
気体センサ100は、基板101と、第1配線102と、第1配線102上に配置された第2絶縁膜103と、第2絶縁膜103を貫通して第1配線102に接続された第1コンタクトプラグ104と、第1コンタクトプラグ104を覆うように第2絶縁膜103上に下方より順に形成された第1電極105、金属酸化物層106および第2電極108と、第1電極105、金属酸化物層106および第2電極108の少なくとも一部を覆う第1絶縁膜109と、第1絶縁膜109を貫通して第2電極108と接続された第2コンタクトプラグ110と、第2コンタクトプラグ110と接続するように第1絶縁膜109上に形成された第2配線111とで構成されている。
【0052】
ここで、第1コンタクトプラグ104の上面は第2絶縁膜103の上面よりも高い位置に形成されており、第1コンタクトプラグ104とそれに隣接する第2絶縁膜103で第2段差122が形成されている。
【0053】
このため、第1電極105、金属酸化物層106および第2電極108には、第1コンタクトプラグ104とそれに隣接する第2絶縁膜103で形成された第2段差122を転写するように、第1コンタクトプラグ104の上方において、第1段差121が形成されている。
【0054】
また、第1絶縁膜109には、第2電極108上において第2電極108の上面を露出する開口109aが形成されている。
【0055】
ここで、
図1Bに示すように、開口109aの底面には、第1コンタクトプラグ104とそれに隣接する第2絶縁膜103で形成された第2段差122を転写する第2電極108の第1段差121が露出している。第1段差121は、上凸形状である。なお、第2電極108の上面に第1段差121が露出していることは必須ではなく、第1段差121は、金属酸化物層106と第2電極108との界面の、平面視において開口109a内に位置する部分に形成されていればよい。
【0056】
金属酸化物層106は、第1電極105と第2電極108との間に与えられる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する層である。例えば、金属酸化物層106は、第1電極105と第2電極108との間に印加される電圧および第2電極108が接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて、高抵抗状態と低抵抗状態との間を可逆的に遷移する。
【0057】
また、金属酸化物層106の内部には、第2電極108と接する一方、第1電極105とは接していない局所領域107が存在する。
【0058】
ここで、局所領域107は酸素欠陥サイトから構成されるフィラメントを含む微小な領域であり、フィラメントは導電パスとして機能する。
【0059】
より具体的には、金属酸化物層106は金属酸化物から構成されており、金属酸化物層106の局所領域107に含まれる金属酸化物の酸素不足度は、金属酸化物層106の局所領域107以外の部分に含まれる金属酸化物の酸素不足度よりも大きい。
【0060】
また、局所領域107に含まれる金属酸化物の酸素不足度は、第1電極105と第2電極108との間に印加される電圧および第2電極108が開口109aを通じて接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて可逆的に変化する。
【0061】
なお、本明細書中において「酸素不足度」とは、金属酸化物においてその化学量論的組成の酸化物に含まれる酸素の量に対して不足している酸素の割合をいう。ここで、金属酸化物の化学量論的組成として複数の化学量論的組成が存在する場合には、本明細書中における金属酸化物の化学量論的組成とは、複数の化学量論的組成の中で最も抵抗値が高い化学量論的組成を意味する。
【0062】
化学量論的組成にある金属酸化物は、化学量論的組成状態から外れた他の組成状態の金属酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
【0063】
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTa2O5である。Ta2O5は、TaO2.5とも表現できる。TaO2.5の酸素不足度は0%である。
【0064】
一例として、TaO1.5の酸素不足度は、(2.5-1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本明細書中では、特に断りのない限り酸素不足度は正の値、0および負の値を含むものとする。
【0065】
以上より、酸素不足度の小さい金属酸化物は化学量論的組成の金属酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい金属酸化物は金属酸化物の構成要素である金属により近いため抵抗値が低い。
【0066】
また、「酸素含有率」とは、総原子数に占める酸素原子の比率を意味するものである。例えば、Ta2O5の酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。従って、酸素不足型のタンタル酸化物の酸素含有率は、0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。
【0067】
さて、局所領域107は、第1電極105と第2電極108との間に初期ブレイク電圧を印加することによって金属酸化物層106内に形成される。初期ブレイク電圧は、金属酸化物層106を高抵抗状態と低抵抗状態との間を可逆的に遷移させるために第1電極105と第2電極108との間に印加する通常の書き込み電圧より絶対値が大きい電圧であってもよいし、書き込み電圧より絶対値が小さい電圧であってもよい。さらに、初期ブレイク電圧は繰り返し印加するかまたは所定時間連続して印加してもよい。
【0068】
初期ブレイク電圧の印加により、
図1Aに示すように、金属酸化物層106内に、第2電極108と接する一方第1電極105と接しない局所領域107が形成される。
【0069】
ここで、局所領域107は、第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103との間に形成された第2段差122が転写された金属酸化物層106の第1段差121の近傍部分に集中して生成される。
【0070】
これは、第1電極105と第2電極108との間に初期ブレイク電圧が印加された場合、金属酸化物層106の第1段差121付近で電界集中が発生し、特に第1段差121に近い領域において局所領域107が形成されやすくなるからである。
【0071】
局所領域107は酸素欠陥サイトから構成されるフィラメントを含むと考えられる。また、局所領域107の大きさは電流を流すために必要なフィラメントに見合う微小な大きさである。局所領域107におけるフィラメントの形成はパーコレーションモデルを用いて説明される。
【0072】
パーコレーションモデルとは、局所領域107中での酸素欠陥サイト(以下、単に欠陥サイトと記載)のランダムな分布を仮定し、欠陥サイトの密度がある閾値を越えると欠陥サイトのつながりが形成される確率が増加するという理論に基づくモデルである。
【0073】
パーコレーションモデルによれば、フィラメントは、局所領域107中の複数の欠陥サイトがつながることにより構成される。また、パーコレーションモデルによれば、金属酸化物層106における抵抗変化は、局所領域107における欠陥サイトの発生および消失に起因して発現する。
【0074】
ここで、「欠陥」とは、金属酸化物中で酸素が化学量論的組成から欠損していることを意味する。「欠陥サイトの密度」は、酸素不足度と対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、欠陥サイトの密度も大きくなる。
【0075】
局所領域107は、気体センサ100の金属酸化物層106に1ケ所のみ形成されてもよい。金属酸化物層106における局所領域107の数は、例えば、EBAC(Electron Beam Absorbed Current)解析によって確認することができる。
【0076】
金属酸化物層106に局所領域107が形成されることによって、第1電極105と第2電極108との間に電圧を印加した際、金属酸化物層106内の電流は局所領域107に集中的に流れる。局所領域107は微小であるため、例えば、抵抗値を読み出すための1V程度の電圧印加時の数十μA程度の電流(つまり、0.1mW未満の消費電力)による発熱でかなりの温度上昇が生じる。
【0077】
そこで、第2電極108を触媒作用のある金属、例えば白金で構成し、第2電極108における局所領域107との接触領域を局所領域107の発熱により加熱することで、水素含有ガスから水素原子が解離する効率を高くする。その結果、検査対象である気体中に水素含有ガスがあると、第2電極108において水素含有ガスから解離された水素原子が局所領域107内の酸素原子と結合して局所領域107の抵抗値が低下する。
【0078】
気体センサ100は、上記のメカニズムにより第2電極108が水素含有ガスに接触すると金属酸化物層106の抵抗値が低下する特性を有する。当該特性により、第2電極108に検査対象である気体を接触させ、第1電極105と第2電極108との間の抵抗値が低下することをもって検査対象である気体に含まれる水素含有ガスを検出することができる。
【0079】
なお、局所領域107が高抵抗状態および低抵抗状態の何れの状態であっても、水素含有ガスが第2電極108に接触することで抵抗値のさらなる低下が生じる。そのため、水素含有ガスの検出は、局所領域107が高抵抗状態および低抵抗状態の何れの状態にある気体センサによっても可能である。但し、抵抗値の低下をより明確に検出するために、局所領域107をあらかじめ電気的に高抵抗状態に設定した気体センサを用いてもよい。
【0080】
以下では、安定した抵抗変化特性を得るための気体センサ100の細部について説明する。
【0081】
金属酸化物層106は酸素不足型の金属酸化物を含有するものとする。当該金属酸化物の母体金属は、タンタル、ハフニウム(Hf)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの遷移金属と、アルミニウム(Al)とからなる群から少なくとも1つが選択されてもよい。特に遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。
【0082】
ここで、酸素不足型の金属酸化物とは、通常は絶縁体である化学量論的組成を有する金属酸化物の組成より酸素含有量(原子比)が少ない金属酸化物を指す。酸素不足型の金属酸化物は、通常は半導体的な振る舞いをするものが多い。酸素不足型の金属酸化物を金属酸化物層106に用いることで、気体センサ100において、再現性がよくかつ安定した抵抗変化動作を実現できる。
【0083】
例えば、金属酸化物層106が含有する金属酸化物としてハフニウム酸化物を用いるとすると、その組成をHfOxと表記した場合にxが1.6以上であるとき、金属酸化物層106の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ハフニウム酸化物の膜厚は、3nmから4nmとしてもよい。
【0084】
また、金属酸化物層106が含有する金属酸化物としてジルコニウム酸化物を用いるとすると、その組成をZrOxと表記した場合にxが1.4以上であるとき、金属酸化物層106の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ジルコニウム酸化物の膜厚は、1から5nmとしてもよい。
【0085】
また、金属酸化物層106が含有する金属酸化物としてタンタル酸化物を用いるとすると、その組成をTaOxと表記した場合にxが2.1以上であるとき、金属酸化物層106の抵抗値を安定して変化させることができる。
【0086】
以上に示した各金属酸化物層の組成については、ラザフォード後方散乱法を用いて測定できる。
【0087】
また、第1電極105および第2電極108の材料は、例えば、白金、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ニッケル、タングステン、銅(Cu)、アルミニウム、タンタル、チタニウム、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)および窒化チタンアルミニウム(TiAlN)の中から選択してもよい。
【0088】
具体的に、第2電極108の材料としては、例えば、白金、イリジウム、パラジウムなど、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離する触媒作用を有する材料を用いればよい。また、第1電極105の材料としては、例えば、タングステン、ニッケル、タンタル、チタニウム、アルミニウム、窒化タンタル、窒化チタンなど、金属酸化物を構成する金属と比べて標準電極電位がより低い材料を用いてもよい。ここで、標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
【0089】
また、基板101としては、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板を用いることができるが、これらに限定されるわけではない。金属酸化物層106は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、例えば、樹脂材料などの上に金属酸化物層106を形成することもできる。
【0090】
また、気体センサ100は、金属酸化物層106に電気的に接続された負荷素子として、例えば固定抵抗、トランジスタ、またはダイオードをさらに備えてもよい。
【0091】
また、気体センサ100は、第1電極105と第2電極108との間に所定の電圧が印加されたときに金属酸化物層106に流れる電流を測定する測定回路を備えていてもよい。あるいは、気体センサ100は、第1電極105と第2電極108との間に所定の電圧を常時印加する電源回路を備えていてもよい。このような構成によれば、測定回路または電源回路を備えるモジュール部品として、利便性が高い気体センサが得られる。
【0092】
[気体センサの製造方法]
以下、
図2Aから
図2J、
図3、
図4を参照しながら、本実施形態の気体センサ100の製造方法の一例について説明する。
【0093】
まず、
図2Aに示されるように、例えばシリコン基板101上に、例えば厚さ400nmのアルミニウムを堆積した後、フォトリソグラフィ法によって配線形状をパターニングした後、ドライエッチング法によりアルミニウムをエッチングし、配線形状に加工することで第1配線102を形成する。その際、第1配線102とシリコン基板101との間には例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成された絶縁膜が挟まっていてもよい。また、第1配線102はアルミニウムの他、銅でもよいし、アルミニウムの上下にはチタニウム、窒化チタンなどの密着層を形成することもできる。
【0094】
そして、第1配線102上に例えばCVD法によってシリコン酸化膜を500nm堆積し、第2絶縁膜103を形成する。その際、第2絶縁膜103はシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の積層構造としてもよい。
【0095】
次に、フォトリソグラフィ法により第2絶縁膜103にホール形状にパターニングされたマスクを配置した後、当該マスクを用いてドライエッチング法により第2絶縁膜103を貫通し、第1配線102に到達するホールを形成する(図示せず)。その後、
図2Bに示すように、CVD法によりタングステンを800nmウェハ全面に成膜し、第1コンタクトプラグ膜104aをホール内に第1配線102と接触するように成膜する。また、第1コンタクトプラグ膜104aは銅でもよいし、タングステン、銅などからなる第1コンタクトプラグ膜104aと第1配線102および第2絶縁膜103との間にはチタン、窒化チタン、タンタル、窒化タンタルなどの密着層およびバリア層を形成することもできる。
【0096】
次に、
図2Cに示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により第1コンタクトプラグ膜104aを第2絶縁膜103が露出するまで研磨し、ホール内に第1コンタクトプラグ104を形成する。
【0097】
ここで、第1コンタクトプラグ膜104aの表面は周囲の第2絶縁膜103の表面と少なくとも同じ高さか、それよりも低く設定される。
【0098】
次に、
図2Dに示すように、ウエットエッチング法により、フッ酸(HF)を含む薬液で第2絶縁膜103の上部を例えば50nmエッチングし、第1コンタクトプラグ104の上部表面を第1コンタクトプラグ104の周囲側面に形成されている第2絶縁膜103の表面から突出させる。このようにして、第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103との境界に第2段差122を形成する。
【0099】
次に、
図2Eに示すように、第1電極膜105aとして、例えば厚さ30nmの窒化タンタル膜をスパッタリング法により第2絶縁膜103および第2絶縁膜103の表面から突出した第1コンタクトプラグ104の表面を覆うように形成する。その際、第1電極膜105aは、チタニウム、窒化チタンなどの積層膜であってもよい。次に、第1電極膜105a上に、厚さ30nmの金属酸化物膜106aを例えばTaターゲットを用いた反応性スパッタリング法で形成する。次に、金属酸化物膜106a上に、第2電極膜108aとして例えば厚さ10nmの白金膜をスパッタリング法により形成する。ここで、白金膜の膜厚は、5nm以上200nm以下が望ましい。
【0100】
以上の工程を実施することで、周囲の第2絶縁膜103の表面よりも上方に突出するように形成された第1コンタクトプラグ104の表面と第2絶縁膜103の表面との第2段差122は、第1電極膜105a、金属酸化物膜106aおよび第2電極膜108aに転写され、第2電極膜108aにおける第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103の境界領域付近で第1段差121を有する構造となる。
【0101】
次に、
図2Fに示すように、平面視において第1段差121上を含む第2電極膜108a上に例えばフォトリソグラフィ法でフォトレジストによる第1マスク112をセンサ形状に形成する。その際の第1マスク112の平面視における寸法は例えば1μm角から8μm角程度とすればよい。
【0102】
次に、
図2Gに示すように、第1マスク112を用いたドライエッチングによって、第1電極膜105a、金属酸化物膜106a、第2電極膜108aを気体検知素子の形状にパターニングし、第1電極105、金属酸化物層106および第2電極108からなる気体検知素子を形成する。
【0103】
次に、
図2Hに示すように、第1絶縁膜109として、例えば800nmのシリコン酸化膜を金属酸化物層106および第2電極108の少なくとも一部を覆うように形成する。その後、CMP法によって第1絶縁膜109の上部を300nm研磨し、第1絶縁膜109の表面を平坦化する。その後、エッチングによって第1絶縁膜109を貫通し、第2電極108の一部に到達するビアホールを設けた後、CVD法によりタングステンを800nmウェハ全面に成膜し、CMP法でタングステンをプラグ内のみに残るまで平坦化することで第2コンタクトプラグ110を形成する。その後、新たな導体膜を第1絶縁膜109上に堆積しパターニングすることで、第2コンタクトプラグ110と接続される第2配線111を形成する。
【0104】
次に、
図2Iに示すように、リソグラフィー法により第1絶縁膜109上にフォトレジストからなる第2マスク113を形成する。ここで、平面視において、第2マスク113の開口は第2電極108の内側で、かつ、第2電極108に形成された第1段差121の全体を含む形状に形成される。
【0105】
次に、
図2Jに示すように、第2マスク113を用いてドライエッチング法により第1絶縁膜109をエッチングし、第2電極108の表面の一部を露出させる開口109aを形成する。
【0106】
次に、
図3に示すように、気体センサ100における第1電極105と第2電極108との間に初期ブレイク電圧を印加することにより、金属酸化物層106内に局所領域107を形成することで気体センサ100が完成する。
【0107】
ここで、上記したように、局所領域107は、第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103との間に形成された第2段差122が転写された金属酸化物層106の第1段差121部分、すなわち、第2電極108に形成された第1段差121の近傍に集中して生成される。
【0108】
[水素含有ガス反応特性]
まず、最初に本実施形態の気体センサ100の電圧印加による抵抗変化特性の一例について、サンプル素子による測定結果を説明する。なお、本実施形態の気体センサ100の水素含有ガスによる抵抗変化特性については、後述する。
【0109】
図4は、本実施形態の気体センサ100の電圧印加による抵抗変化特性の一例を示す測定結果である。
【0110】
サンプル素子である気体センサ100は、第1電極105、第2電極108および金属酸化物層106の大きさをいずれも3μm×3μm(面積9μm2)としている。また、金属酸化物層106が含有するタンタル酸化物の組成をTaOyと表記したとき、y=2.47としており、金属酸化物層106の厚みを5nmとしている。
【0111】
このような気体センサ100に対して、第1電極105と第2電極108との間に読み出し用電圧(例えば0.4V)を印加した場合、初期抵抗値RIは約106Ωから109Ωである。
【0112】
図4に示されるように、気体センサ100の抵抗値が高抵抗状態における抵抗値HRより高い初期抵抗値RIである場合、初期ブレイク電圧(例えば3V)を第1電極105と第2電極108との間に印加することにより、抵抗値は低抵抗値LRに変化する(ステップS301)。
【0113】
次に、気体センサ100の第1電極105と第2電極108との間に書き込み用電圧として例えばパルス幅が100nsでかつ極性が異なる2種類の電圧パルス、すなわち正電圧パルス(例えば2.5V)と負電圧パルス(例えば1.8V)を交互に印加すると、
図4に示すように金属酸化物層106の抵抗値が変化する。
【0114】
すなわち、書き込み用電圧として正電圧パルスを電極間に印加した場合、金属酸化物層106の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加する(ステップS302)。他方、書き込み用電圧として負電圧パルスを電極間に印加した場合、金属酸化物層106の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少する(ステップS303)。なお、電圧パルスの極性は、第1電極105の電位を基準として第2電極108の電位が高い場合が“正”であり、第1電極105の電位を基準として第2電極108の電位が低い場合が“負”であると定義している。
【0115】
このような電圧印加による抵抗変化特性を利用して、水素含有ガスの監視を開始する前に、第1電極105と第2電極108との間に最終的に正の電圧パルスを印加することにより、気体センサ100を高抵抗状態に設定しておく。
【0116】
このように初期設定しておけば、上記したように、低抵抗状態の気体センサ100を用いて水素含有ガスを検出する場合と比べて抵抗値の低下をより明確に検出できるので、水素含有ガスの検出特性が向上する。
【0117】
次に、本実施形態の気体センサ100の水素含有ガスによる抵抗変化特性について説明する。
【0118】
図5は、本実施形態の気体センサ100の一評価例を示すグラフである。横軸は時間(a.u.)を表わし、縦軸は第1電極105と第2電極108間を流れる電流値(a.u.)を表わしている。
【0119】
実験では、まず、気体センサ100が置かれている密閉容器内に窒素ガスを導入し、その後、窒素ガスから水素ガスに切り替え、その後さらに水素ガスから窒素ガスへ切り替えた。また、第1電極105と第2電極108との間にあらかじめ所定の電圧を印加することで局所領域107を高抵抗状態に設定した気体センサ100を用いた。
【0120】
図5はこのときの評価結果を示しており、横軸に、先の窒素導入(ステップS501)、水素導入(ステップS502)、後の窒素導入(ステップS503)を行った3期間を示している。導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから直ぐに電流値が増加し始めていることが分かる。また、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えてから直ぐに電流が減少し始めていることが分かる。
【0121】
具体的な水素含有ガスの監視動作では、第1電極105と第2電極108との間に0.6Vの検知電圧を印加しておいたところ、水素ガスが検出された状態で第1電極105と第2電極108との間には10μAから20μAの電流が流れた。つまり、本実施形態の気体センサ100によれば、0.006mWから0.012mWの非常に小さい消費電力で、水素含有ガスを監視できることが分かる。
【0122】
この結果から、発明者らは、気体センサ100での水素ガスの検出メカニズムを以下のように推測する。
【0123】
まず、第2電極108に水素含有ガスが接すると、第2電極108の触媒作用により水素含有ガスから水素原子が解離する。解離した水素原子は、平衡状態を維持しようとして第2電極108中を拡散して局所領域107にまで到達する。
【0124】
次に、この水素原子によって局所領域107中で金属酸化物の還元反応が発生し、局所領域107内の酸素が水素と結合することで局所領域107中に含まれる金属酸化物の酸素不足度が増加する。その結果、局所領域107中のフィラメントが繋がりやすくなって局所領域107の抵抗値が減少する。これにより、第1電極105と第2電極108との間を流れる電流が増加する。
【0125】
逆に、第2電極108近傍に水素含有ガスが存在しなくなると、水素原子は、平衡状態を維持しようとして第2電極108表面近傍で水素分子となり、第2電極108の表面から外部へ出て行く。
【0126】
これに伴い、先に還元反応によって局所領域107内に生成した水分子が水素原子と酸素原子とに分解する反応が起こり、局所領域107内で生成した水素原子は第2電極108中に戻る。一方、局所領域107内で生成した酸素原子は酸素欠陥と結合することにより、局所領域107に含まれる金属酸化物の酸素不足度が減少する。その結果、局所領域107中のフィラメントが繋がりにくくなり、抵抗値が増加する。これにより、第1電極105と第2電極108との間を流れる電流が減少する。
【0127】
なお、上述の動作は本実施形態の気体センサ100に限られず、要部の構造が本実施形態の気体センサ100と実質的に等しい気体センサおよび後述する他の気体センサでも同様に生じると考えられる。
【0128】
また、上述の動作は第2電極108に接触する気体が水素ガスである場合に限られず、例えば、気体がメタン、アルコールなどの水素含有ガスである場合についても同様に生じると考えられる。
【0129】
次に、第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103で形成された段差の効果について説明する。
【0130】
図6は、段差の形成がないこと以外は本実施形態に係る気体センサと同様の方式で形成した比較例の気体センサ(以下、段差なしの気体センサと記載する)と本実施形態で形成された気体センサに関して、金属酸化物層106の初期ブレイク電圧を比較した結果である。
【0131】
図6から明らかなように、本実施形態の気体センサの方が、初期ブレイク電圧が低下していることが判る。これは、第1コンタクトプラグ104と第2絶縁膜103に形成された段差形状が第1電極105、金属酸化物層106、第2電極108にも転写されているため、段差部で電界集中が発生することで、金属酸化物層106へ印加される実効電圧が上昇する為である。このため、局所領域107は選択的に段差部付近で形成されることになる。
【0132】
図7は、段差なしの気体センサと本実施形態で形成された気体センサに関して、検出対象ガス中の水素濃度を例えば1%とした場合の気体センサの動作率を示したものである。
【0133】
図7から明らかなように、段差なしの気体センサの動作率に比べて本実施形態で形成された気体センサの動作率が向上していることが判る。これは、段差なしの気体センサではセンサ内に段差を有しないことから局所領域107はランダムに形成されるため、例えば第1絶縁膜109に覆われた箇所で形成される可能性がある。この場合、水素が局所領域107に到達しない可能性があり、気体センサとして動作しない。一方で、本実施形態で形成された気体センサでは、局所領域107は選択的に第1コンタクトプラグ104付近の段差部で形成される可能性が高く、かつ、開口109aは必ず第1コンタクトプラグ104の直上を含むように形成されているため、水素は第2電極108を通じて局所領域107に到達できるため、気体センサとしての動作率が向上する。
【0134】
以上に説明したように、本実施形態に係る気体センサ100によれば、別途ヒータで加熱する必要がなく、安定に水素含有ガスを検出できるため、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0135】
(第2の実施形態)
[気体センサの構成]
第2の実施形態に係る気体センサは、上述した第1の実施形態の気体センサと同様、絶縁膜としての金属酸化物層と金属膜とが積層されてなる金属-絶縁膜-金属(MIM)構造の気体センサである。当該気体センサは、気体感応性抵抗膜内に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用することにより、ヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出することができる。ここで、水素含有ガスとは、水素原子を有する分子からなる気体の総称であり、一例として、水素、メタン、アルコールなどを含み得る。
【0136】
図8Aは、本実施形態に係る気体センサ200の一構成例を示す断面図である。
【0137】
図8Bは、本実施形態に係る気体センサ200の一構成例を示す上面図である。
【0138】
ここで、
図8Aの断面は、
図8BのVIIIA-VIIIA’の切断線において矢印方向に見た断面に対応する。
【0139】
気体センサ200は、基板201と、第1配線202と、第1配線202上に配置された第2絶縁膜203と、第2絶縁膜203を貫通して第1配線202に接続された第1コンタクトプラグ204と、第1コンタクトプラグ204を覆うように第2絶縁膜203上に下方より順に形成された第1電極205、金属酸化物層206および第2電極208と、第1電極205、金属酸化物層206および第2電極208の少なくとも一部を覆う第1絶縁膜209と、第1絶縁膜209を貫通して第2電極208と接続された第2コンタクトプラグ210と、第2コンタクトプラグ210と接続するように第1絶縁膜209上に形成された第2配線211とで構成されている。
【0140】
ここで、第1コンタクトプラグ204の上面は第2絶縁膜203の上面よりも低い位置に形成されており、第1コンタクトプラグ204とそれに隣接する第2絶縁膜203で第3段差223が形成されている。
【0141】
このため、第1電極205、金属酸化物層206および第2電極208には、第1コンタクトプラグ204とそれに隣接する第2絶縁膜203で形成された第3段差223を転写するように、第1コンタクトプラグ204の上方において、第1段差221が形成されている。
【0142】
また、第1絶縁膜209には、第2電極208上において第2電極208の上面を露出する開口209aが形成されている。
【0143】
ここで、
図8Bに示すように、開口209aの底面には、第1コンタクトプラグ204とそれに隣接する第2絶縁膜203で形成された第3段差223を転写する第2電極208の第1段差221が露出している。第1段差221は、下凸形状である。なお、第2電極208の上面に第1段差221が露出していることは必須ではなく、第1段差221は、金属酸化物層206と第2電極208との界面の、平面視において開口209a内に位置する部分に形成されていればよい。
【0144】
金属酸化物層206は、第1電極205と第2電極208との間に与えられる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する層である。例えば、金属酸化物層206は、第1電極205と第2電極208との間に印加される電圧および第2電極208が接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて、高抵抗状態と低抵抗状態との間を可逆的に遷移する。
【0145】
また、金属酸化物層206の内部には、第2電極208と接する一方、第1電極205とは接していない局所領域207が存在する。
【0146】
ここで、局所領域207は酸素欠陥サイトから構成されるフィラメントを含む微小な領域であり、フィラメントは導電パスとして機能する。
【0147】
より具体的には、金属酸化物層206は金属酸化物から構成されており、金属酸化物層206の局所領域207に含まれる金属酸化物の酸素不足度は、金属酸化物層206の局所領域207以外の部分に含まれる金属酸化物の酸素不足度よりも大きい。
【0148】
また、局所領域207に含まれる金属酸化物の酸素不足度は、第1電極205と第2電極208との間に印加される電圧および第2電極208が開口209aを通じて接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて可逆的に変化する。
【0149】
以上のように構成される気体センサ200では、次のような効果が得られる。
【0150】
初期ブレイク電圧の印加により、
図8Aに示すように、金属酸化物層206内に、第2電極208と接する一方第1電極205と接しない局所領域207が形成される。
【0151】
ここで、第1の実施形態と同様に、局所領域207は、第1コンタクトプラグ204と第2絶縁膜203との間に形成された第3段差223が転写された金属酸化物層206の第1段差221の近傍部分に集中して生成される。
【0152】
これは、第1電極205と第2電極208との間に初期ブレイク電圧が印加された場合、金属酸化物層206の段差付近で電界集中が発生し、特にこの段差に近い領域において局所領域207が形成されやすくなるからである。
【0153】
一方、第1コンタクトプラグ204は平面視において開口209a内に形成されるため、第2電極208において水素含有ガスから乖離した水素原子は短時間で局所領域207に達することになり、応答性に優れた気体センサが得られる。
【0154】
なお、気体センサ200における抵抗変化現象および水素検知のメカニズムは、第1の実施形態の気体センサ100における抵抗変化現象および水素検知のメカニズムと同様であるため、ここでの繰り返しの説明は省略する。
【0155】
[気体センサの製造方法]
以下、
図9Aから
図9I、
図10を参照しながら、本実施形態の気体センサ200の製造方法の一例について説明する。
【0156】
まず、
図9Aに示されるように、例えばシリコン基板201上に、例えば厚さ400nmのアルミニウムを堆積した後、フォトリソグラフィ法によって配線形状をパターニングした後、ドライエッチング法によりアルミニウムをエッチングし、配線形状に加工することで第1配線202を形成する。その際、第1配線202とシリコン基板201の間には例えばCVD法で絶縁膜が挟まっていてもよい。また、第1配線202はアルミニウムの他、銅でもよいし、アルミニウムの上下にはチタニウム、窒化チタンなどの密着層を形成することもできる。
【0157】
そして、第1配線202上に例えばCVD法によってシリコン酸化膜を500nm堆積し、第2絶縁膜203を形成する。その際、第2絶縁膜203はシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の積層構造としてもよい。
【0158】
次に、フォトリソグラフィ法により第2絶縁膜203にホール形状にパターニングされたマスクを配置した後、当該マスクを用いてドライエッチング法により第2絶縁膜203を貫通し、第1配線202に到達するホールを形成する(図示せず)。その後、
図9Bに示すように、CVD法によりタングステンを800nmウェハ全面に成膜し、第1コンタクトプラグ膜204aをホール内に第1配線202と接触するように成膜する。また、第1コンタクトプラグ膜204aは銅でもよいし、タングステン、銅などからなる第1コンタクトプラグ膜204aと第1配線202および第2絶縁膜203との間にはチタン、窒化チタン、タンタル、窒化タンタルなどの密着層およびバリア層を形成することもできる。
【0159】
次に、
図9Cに示すように、CMP法により第1コンタクトプラグ膜204aを第2絶縁膜203が露出するまで研磨し、ホール内に第1コンタクトプラグ204を形成する。
【0160】
ここで、第1コンタクトプラグ膜204aの表面は周囲の第2絶縁膜203の表面と少なくとも同じ高さか、それよりも低く設定される。
【0161】
次に、
図9Dに示すように、ドライエッチング法により、Wを例えば30nmエッチングし、第1コンタクトプラグ204の上部表面を第1コンタクトプラグ204の周囲側面に形成されている第2絶縁膜203の表面よりも低くなるように形成する。このようにして、第1の実施形態に係る気体センサと同様、第1コンタクトプラグ204と第2絶縁膜203との境界に第3段差223を形成する。第1の実施形態と異なる点は、大面積の第2絶縁膜203をエッチングすることなく、第3段差223が形成されることである。
【0162】
次に、
図9Eに示すように、第1電極膜205aとして、例えば厚さ30nmの窒化タンタル膜をスパッタリング法により第2絶縁膜203および第2絶縁膜203の表面から窪んだ第1コンタクトプラグ204の表面を覆うように形成する。その際、第1電極膜205aは、チタニウム、窒化チタンなどの積層膜であってもよい。次に、第1電極膜205a上に、厚さ30nmの金属酸化物膜206aを例えばタンタルターゲットを用いた反応性スパッタリング法で形成する。次に、金属酸化物膜206a上に、第2電極膜208aとして例えば厚さ10nmの白金膜をスパッタリング法により形成する。ここで、白金膜の膜厚は、5nm以上200nm以下が望ましい。
【0163】
以上の工程を実施することで、周囲の第2絶縁膜203の表面よりも下方に窪むように形成された第1コンタクトプラグ204の表面と第2絶縁膜203の表面との第3段差223は、第1電極膜205a、金属酸化物膜206aおよび第2電極膜208aに転写され、第2電極膜208aにおける第1コンタクトプラグ204と第2絶縁膜203の境界領域付近で第1段差221を有する構造となる。
【0164】
次に、
図9Fに示すように、平面視において第1段差221を含む第2電極膜208a上に例えばフォトリソグラフィ法でフォトレジストによる第1マスク212をセンサ形状に形成する。その際の第1マスク212の寸法は例えば1μm角から8μm角程度とすればよい。
【0165】
次に、
図9Gに示すように、第1マスク212を用いたドライエッチングによって、第1電極膜205a、金属酸化物膜206a、第2電極膜208aを気体検知素子の形状にパターニングし、第1電極205、金属酸化物層206および第2電極208からなる気体検知素子を形成する。
【0166】
次に、
図9Hに示すように、第1絶縁膜209として、例えば800nmのシリコン酸化膜を金属酸化物層206および第2電極208の少なくとも一部を覆うように形成する。その後、CMP法によって第1絶縁膜209の上部を300nm研磨し、第1絶縁膜209の表面を平坦化する。その後、エッチングによって第1絶縁膜209を貫通し、第2電極208の一部に到達するビアホールを設けた後、CVD法によりタングステンを800nmウェハ全面に成膜し、CMP法でタングステンをプラグ内のみに残るまで平坦化することで第2コンタクトプラグ210を形成する。その後、新たな導体膜を第1絶縁膜209上に堆積しパターニングすることで、第2コンタクトプラグ210と接続される第2配線211を形成する。
【0167】
次に、
図9Iに示すように、リソグラフィー法により第1絶縁膜209上にフォトレジストからなる第2マスク213を形成する。ここで、平面視において、第2マスク213の開口は第2電極208の内側で、かつ、第2電極208に形成された第1段差221の全体を含む形状に形成される。
【0168】
次に、
図9Jに示すように、第2マスク213を用いてドライエッチング法により第1絶縁膜209をエッチングし、第2電極208の表面の一部を露出させる開口209aを形成する。
【0169】
次に、
図10に示すように、気体センサ200における第1電極205と第2電極208との間に初期ブレイク電圧を印加することにより、金属酸化物層206内に局所領域207を形成することで気体センサ200が完成する。
【0170】
ここで、上記したように、局所領域207は、第1コンタクトプラグ204と第2絶縁膜203との間に形成された第3段差223が転写された金属酸化物層206の第1段差221部分、すなわち、第2電極108に形成された第1段差221の近傍に集中して生成される。
【0171】
このように構成された気体センサ200の電圧印加による抵抗変化特性は、
図4および
図5を参照して説明した気体センサ100の電圧印加による抵抗変化特性と同等である。
【0172】
また、気体センサ200の水素含有ガスによる抵抗変化のメカニズムに関しても、気体センサ100について説明したメカニズムと同様のメカニズムで水素含有ガスによる抵抗変化が生じる。
【0173】
以上に説明したように、本実施形態に係る気体センサ200によれば、別途ヒータで加熱する必要がなく、安定に水素含有ガスを検出できるため、省電力性に優れた気体センサが得られる。
【0174】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る燃料電池自動車では、前述の第1および第2の実施形態およびそれらの変形例で説明したいずれかの気体センサを備え、当該気体センサにて車内の水素ガスを検出する。
【0175】
図11は、第3の実施形態に係る燃料電池自動車800の一構成例を示す側面図である。
【0176】
燃料電池自動車800は、客室810、荷室820、ガスタンク室830、燃料タンク831、気体センサ832、配管840、燃料電池室850、燃料電池851、気体センサ852、モータ室860およびモータ861を備える。
【0177】
燃料タンク831はガスタンク室830内に設けられており、燃料ガスとして水素ガスを保持している。ここで、気体センサ832はガスタンク室830での燃料ガス漏れを検出する。
【0178】
燃料電池851は、燃料極、空気極および電解質を有する基本単位となるセルが複数個積み重なった燃料電池スタックを備えている。燃料電池851は燃料電池室850内に設けられている。燃料タンク831内の水素ガスは、配管840を通して燃料電池室850内の燃料電池851へ送り込まれる。この水素ガスと大気中の酸素ガスとを燃料電池851内で反応させることにより発電する。ここで、気体センサ852は燃料電池室850での水素ガス漏れを検出する。
【0179】
モータ861はモータ室860内に設けられている。燃料電池851が発電した電力でモータ861が回転することにより、燃料電池自動車800を走行させる。前述したように、本開示に係る気体センサでは、一例として0.01mW程度の非常に小さい消費電力で、水素含有ガスを検出できる。そのため、この気体センサの優れた省電力性を活かして、燃料電池自動車の待機電力を大幅に増やすことなく、水素ガス漏れを常時監視することができる。
【0180】
例えば、燃料電池自動車800におけるイグニッションキーの操作状態にかかわらず、気体センサ832および852に所定の電圧を常時印加し、気体センサ832および852に流れる電流量に基づいて、ガスタンク室830内の燃料タンク831の外部および燃料電池室850内の燃料電池851の外部に水素ガスがあるか否かを判定してもよい。
【0181】
これにより、例えば、イグニッションキーの操作を受けた時点で水素ガス漏れの有無が既に判定されているため、イグニッションキーの操作を受けてから水素ガス漏れの有無を判定するために気体センサを駆動する場合と比べ、燃料電池自動車の始動時間を短縮できる。また、燃料電池自動車の走行後、例えば燃料電池自動車をガレージに格納した後も、水素ガス漏れを監視し続けることにより、安全性を向上できる。
【0182】
以上、本開示のいくつかの態様に係る気体センサ、水素ガス検出方法および燃料電池自動車について実施形態に基づいて説明したが、本開示はこれらの実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態に施したもの、および各々の実施形態における構成要素を組み合わせて構築される形態が本開示の範囲内に含まれるものである。
【0183】
例えば、前述の気体センサは、さらに第1電極と第2電極との間に所定の電圧が印加されたときに金属酸化物層に流れる電流を測定する測定回路を備えてもよい。
【0184】
また、前述の気体センサは、さらに第1電極と第2電極との間に所定の電圧を常時印加する電源回路を備えてもよい。
【0185】
このような構成によれば、測定回路または電源回路を備えるモジュール部品として利便性が高い気体センサが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本開示に係る気体センサは、省電力性に優れた気体センサとして機能するものであり、例えば、燃料電池自動車等に用いられる水素センサとして有用である。
【符号の説明】
【0187】
100、200 気体センサ
101、201 基板(シリコン基板)
102、202 第1配線
103、203 第2絶縁膜
104、204 第1コンタクトプラグ
104a、204a 第1コンタクトプラグ膜
105、205 第1電極
105a、205a 第1電極膜
106、206 金属酸化物層
106a、206a 金属酸化物膜
107、207 局所領域
108、208 第2電極
108a、208a 第2電極膜
109、209 第1絶縁膜
109a、209a 開口
110、210 第2コンタクトプラグ
111、211 第2配線
112、212 第1マスク
113、213 第2マスク
121、221 第1段差
122 第2段差
223 第3段差
800 燃料電池自動車
810 客室
820 荷室
830 ガスタンク室
831 燃料タンク
832、852 気体センサ
840 配管
850 燃料電池室
851 燃料電池
860 モータ室
861 モータ