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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】有機無機複合樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/12 20060101AFI20240209BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20240209BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20240209BHJP
   C08G 77/442 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C08F283/12
C08F290/14
C08G77/20
C08G77/442
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509586
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013657
(87)【国際公開番号】W WO2020196750
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019064112
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019064115
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深海 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-048734(JP,A)
【文献】特開平06-287307(JP,A)
【文献】特開平11-060733(JP,A)
【文献】特開平06-228457(JP,A)
【文献】特開平06-032903(JP,A)
【文献】特開2014-082467(JP,A)
【文献】特開平08-134308(JP,A)
【文献】特開2008-248239(JP,A)
【文献】Chang-Jian WENGet al.“A comparative study on the preparation andphysical properties of environmental friendly PMMA-silica nano/sub-micron-scalehybrid latexes controlled by chelating agent”,PolymerComposites,2011年09月13日,Vol. 32, No. 10,p.1607-1616,DOI: 10.1002/pc.21201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/12
C08F 290/14
C08G 77/20
C08G 77/442
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-1)、及び
ラジカル反応性官能基を有しないモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-2)、
を含むアルコキシシラン成分を、水及び縮合触媒の存在下、加水分解及び脱水縮合反応させて、ポリオルガノシロキサンを得る工程、及び
前記ポリオルガノシロキサン、及びβ-ジカルボニル化合物の存在下で、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分をラジカル重合する工程、を含み、
前記ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基が、ビニル基であり
(a-1)及び(a-2)の合計に対して(a-2)の占める割合が、70重量%以上99重量%以下であり、(a-2)に含まれる有機基の50重量%以上が、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルコキシシラン成分から算出したラジカル反応性官能基等量は、280以上5000未満の範囲にあり、
前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数100%に対して、30モル%以上60モル%以下である、
ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖を含む有機無機複合樹脂の製造方法。
【請求項2】
(a-2)に含まれる有機基の50重量%以上が、メチル基である、請求項1に記載の有機無機複合樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記アルコキシシラン成分全体に対して、ビニル基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランの占める割合が2重量%以上30重量%以下である、請求項1又は2に記載の有機無機複合樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解及び脱水縮合反応によって、反応性ケイ素基を有するポリオルガノシロキサンを得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機無機複合樹脂全体に対する前記ポリオルガノシロキサン鎖の重量割合は20重量%以上80重量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合樹脂、その製造方法、該複合樹脂を含む硬化性樹脂組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料として使用可能な硬化性組成物を構成する硬化性を示す樹脂成分としては種々の樹脂が検討されている。なかでも、塗膜の長寿命化、特に高耐候性や高耐熱性を達成することを目的とした塗料として、ポリシロキサン系塗料が知られている。ポリシロキサンとは、オルガノアルコキシシランが加水分解・脱水縮合反応をすることで形成される硬化性樹脂である。この樹脂を形成しているシロキサン結合はエネルギー的に強固であるため、ポリシロキサンは熱や紫外線によって分解しにくい特性を有する。しかし、得られる塗膜は柔軟性が低く、塗膜の硬化収縮によりクラックを生じやすいという問題や、各種基材に対して密着性が低いという問題があった。
【0003】
一方、加水分解性シリル基を有するアクリル樹脂を主体とするアクリルシリコン系塗料も知られている。アクリルシリコン系塗料から得られる塗膜は柔軟性を有しており、クラックを生じにくい。しかし、この塗膜には耐候性が低いという問題があった。
【0004】
ポリシロキサン系塗料の持つ利点とアクリルシリコン系塗料の持つ利点を併せ有する塗料を提供するため、両塗料を混合することが考えられる。しかし、ポリシロキサン系塗料とアクリルシリコン系塗料を単に混合すると、両樹脂は相溶性が低いため、塗料の貯蔵安定性が低下したり、該混合塗料から形成される塗膜で相分離が生じ、塗膜が白濁して透明性が低下するという難点がある。この場合、塗膜内部で生じている界面が原因となって、劣化しやすくなるという問題も生じる。
【0005】
そこで、ポリシロキサンとアクリルシリコンを複合化することが検討されている。例えば、特許文献1では、オルガノポリシロキサンと、アクリルシリコンとを酸触媒の存在下で、両樹脂が有する反応性ケイ素基の加水分解・脱水縮合反応によって反応させることによる複合樹脂の製造方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、(メタ)アクリルロイル基等の重合性不飽和基を有するシラン化合物とエポキシ基を有するシラン化合物を加水分解・縮合させて得られる共縮合物と、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーとを反応させて複合樹脂を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/169459号
【文献】国際公開第2016/052636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、ポリシロキサン樹脂とアクリル系樹脂を複合化させた有機無機複合樹脂が記載されているが、その製造に異種の重合体を結合させる反応を伴うためグラフト率が十分に高くならず、貯蔵安定性や、塗膜の透明性と光沢が十分に改善されず、特に、顔料を含む塗料とした時の塗膜の光沢が十分に改善されなかった。また、原料であるアクリル系樹脂に反応性ケイ素基を持たせる必要があったことに加え、ポリシロキサン樹脂との相溶性が高いアクリル系樹脂の組成にするためメタクリル酸メチルを主要モノマーにする必要があった等、アクリル系樹脂を構成するモノマーの種類が限定的になる傾向があった。
【0009】
また、特許文献2では、(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシランを使用してポリオルガノシロキサン鎖を構成するため、該基のラジカル反応性が高すぎることにより、ラジカル重合時にゲル化が進行しやすく、これにより製造が困難となる傾向があった。更に、特許文献2に記載の有機無機複合樹脂はエポキシ基を必須の官能基として有するもので、光酸発生剤と併用することにより硬化性を示すものであった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、製造時のゲル化が抑制されて製造が容易で、貯蔵安定性に優れると共に、透明性又は光沢に優れた塗膜を形成可能な新規の有機無機複合樹脂、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特許文献2に開示されているような(メタ)アクリロイル基ではなく、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基を有するアルコキシシランを、特定範囲のラジカル反応性官能基等量を満たすように使用してポリオルガノシロキサンを得、該ポリオルガノシロキサンの存在下で、(メタ)アクリル酸エステルモノマー等のラジカル重合性モノマーをラジカル重合させることにより新規の有機無機複合樹脂を製造できることを見出した。また、製造された新規の有機無機複合樹脂は、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖が炭化水素基のみを介して結合し、かつ、ポリオルガノシロキサン鎖に反応性ケイ素基を有することを見出した。以上によって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-1)、及び
ラジカル反応性官能基を有しないモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-2)、
を含むアルコキシシラン成分を、水及び縮合触媒の存在下、加水分解及び脱水縮合反応させて、ポリオルガノシロキサンを得る工程、及び
前記ポリオルガノシロキサンの存在下で、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分をラジカル重合する工程、を含み、
前記ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基が、少なくともビニル基を含み、
(a-1)及び(a-2)の合計に対して(a-2)の占める割合が、70重量%以上99重量%以下であり、(a-2)に含まれる有機基の50重量%以上が、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルコキシシラン成分から算出したラジカル反応性官能基等量は、280以上5000未満の範囲にあり、
前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数100%に対して、30モル%以上60モル%以下である、
ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖を含む有機無機複合樹脂の製造方法に関する。
好ましくは、(a-2)に含まれる有機基の50重量%以上が、メチル基である。
好ましくは、前記アルコキシシラン成分全体に対して、ビニル基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランの占める割合が2重量%以上30重量%以下である。
好ましくは、前記加水分解及び脱水縮合反応によって、反応性ケイ素基を有するポリオルガノシロキサンを得る。
好ましくは、前記有機無機複合樹脂全体に対する前記ポリオルガノシロキサン鎖の重量割合は20重量%以上80重量%以下である。
好ましくは、前記加水分解及び脱水縮合反応から、前記ラジカル重合の終了まで、反応系の温度が実質的に低下しないように温度制御を行う。
好ましくは、前記ラジカル重合を、β-ジカルボニル化合物の存在下で実施する。
好ましくは、前記加水分解及び脱水縮合反応、並びに、前記ラジカル重合を、酸素分子を実質的に含まない雰囲気下で実施する。
また本発明は、ポリ(メタ)アクリル鎖と、該ポリ(メタ)アクリル鎖に結合したポリオルガノシロキサン鎖と、を含む有機無機複合樹脂であって、
前記有機無機複合樹脂全体に対する前記ポリオルガノシロキサン鎖の重量割合は20重量%以上80重量%以下であり、
前記ポリオルガノシロキサン鎖は、モノオルガノトリアルコキシシラン70~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン30~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であり、
前記ポリオルガノシロキサン鎖は、反応性ケイ素基を有し、
前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位中の炭素原子と、ポリオルガノシロキサン鎖中のケイ素原子が、炭化水素基のみを介して結合しており、
前記炭化水素基が、少なくともエチレン基を含み、
前記モノオルガノトリアルコキシシランと前記ジオルガノジアルコキシシランの合計のうち、ラジカル反応性官能基を有しないモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-2)の占める割合が、70重量%以上99重量%以下であり、(a-2)に含まれる有機基の50重量%以上が、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種である、有機無機複合樹脂にも関する。
好ましくは、前記モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、29Si-NMRにより測定されたT1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2、T3の各モル数の割合(%)を、それぞれ、X、Y、Zとした時、下記式:
(1×X+2×Y+3×Z)/3
によって算出されるシロキサン結合形成率が60%以上80%以下である。
好ましくは、前記ポリ(メタ)アクリル鎖の溶解度パラメータ値(SP値)が、9.0~11.0(cal/cm1/2である。
さらに本発明は、前記有機無機複合樹脂を含む硬化性樹脂組成物、又は、当該硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造時のゲル化が抑制されて製造が容易で、貯蔵安定性に優れると共に、透明性又は光沢に優れた塗膜を形成可能な新規の有機無機複合樹脂、及びその製造方法を提供することができる。
本発明の好適な実施態様による有機無機複合樹脂は、反応性ケイ素基を有するので、反応性ケイ素基の加水分解・脱水縮合反応により硬化することができる。
本発明の好適な実施態様による有機無機複合樹脂は、一般的に塗膜の光沢や貯蔵安定性が低下しやすい顔料を含む着色塗料を構成した場合においても、貯蔵安定性に優れており、光沢に優れた塗膜を形成できる。また、本発明の好適な実施態様による有機無機複合樹脂は、顔料や染料との混和性が高く、優れた調色性を達成することができる。
さらに、本発明によると、ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー種を多数の選択肢から選択することができ、ポリ(メタ)アクリル鎖の設計の自由度が高いという利点もある。
さらに、本発明の好適な実施態様による有機無機複合樹脂は、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖が、(メタ)アクリロイル基のようなエステル基等のヘテロ原子含有基を介さず、炭化水素基のみによって結合しているため、加水分解や光酸化による主鎖開裂の影響を受けにくく、耐候性に優れることを期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
(有機無機複合樹脂の製造方法)
まず、本発明の実施形態に係る有機無機複合樹脂の製造方法について説明する。
(加水分解及び脱水縮合反応)
本発明の製造方法では、まず、アルコキシシラン成分の加水分解及び脱水縮合反応を実施してポリオルガノシロキサンを得る。本発明で用いるアルコキシシラン成分は、少なくとも、ラジカル反応性官能基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-1)と、ラジカル反応性官能基を有しないモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-2)を含む。以下、それぞれ、単にアルコキシシラン(a-1)、アルコキシシラン(a-2)ということがある。
【0016】
アルコキシシラン(a-1)は、ケイ素原子上の有機基として、アクリロイル基やメタクリロイル基を持たず、ラジカル反応性官能基を有するアルコキシシランである。該ラジカル反応性官能基としては、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すものが選択される。このようなラジカル反応性官能基を使用することによって、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の結合が可能になると共に、有機無機複合樹脂の製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。
【0017】
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基は、少なくともビニル基を含む。尚、ここで言うビニル基は、ケイ素原子に直接結合したビニル基を指し、アリル基やp-スチリル基に含まれるビニル基を指すものではない。当該ラジカル反応性官能基は、ビニル基のみであってもよいし、ビニル基と、アリル基、p-スチリル基、及びメルカプト基からなる群より選択される少なくとも1種の基とを併用してもよい。このようなラジカル反応性官能基は、アルコキシシラン(a-1)のケイ素原子に直接結合していることが好ましい。このようなラジカル反応性官能基を使用することによって、炭化水素基のみを介したポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の結合が可能になると共に、製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の結合を炭化水素基のみを介して実現するため、アクリロイル基やメタクリロイル基等のエステル含有基や、ビニルオキシ等のエーテル結合含有基などを有するアルコキシシランを使用しないことが好ましい。
【0018】
また、アルコキシシラン(a-1)は、モノオルガノトリアルコキシシランであってもよいし、ジオルガノジアルコキシシランであってもよいし、両者を含むものであってもよいが、モノオルガノトリアルコキシシランが好ましい。ここで、モノオルガノトリアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、1個の有機基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指し、ジオルガノジアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、2個の有機基と、2個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。
【0019】
アルコキシシラン(a-1)が有する有機基とは、アルコキシ基以外の有機基を指し、その具体例は特に限定されないが、例えば、前述したビニル基、アリル基、p-スチリル基、及びメルカプト基の他、炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基等の炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基やアリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記炭素数1~6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基である。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3であり、より更に好ましくは1~2である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0020】
アルコキシシラン(a-1)が有するアルコキシ基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0021】
アルコキシシラン(a-1)の具体例としては特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、p-スチリルメチルジエトキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このうち、ビニル基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランが好ましく、ビニルトリアルコキシシランがより好ましい。
【0022】
前記ビニル基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランの使用量は少ないほうが製造時のゲル化を抑制することができ、また、多いほうがポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖のグラフト率を高めて塗膜の透明性や光沢を高めることができる。これらの観点から、前記アルコキシシラン成分全体に対して、ビニル基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランの占める割合は、2重量%以上30重量%以下が好ましく、3重量%以上28重量%以下が好ましく、4重量%以上25重量%以下がさらに好ましい。
【0023】
アルコキシシラン(a-2)は、(メタ)アリクロイル基やビニル基等のラジカル反応性官能基を有しないアルコキシランであり、モノオルガノトリアルコキシシランであってもよいし、ジオルガノジアルコキシシランであってもよいし、両者を含むものであってもよいが、モノオルガノトリアルコキシシランが好ましい。
【0024】
アルコキシシラン(a-2)がケイ素原子上の置換基として有する有機基とは、ラジカル反応性官能基を含まない、アルコキシ基以外の有機基を指す。その具体例は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基等の炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基やアリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記炭素数1~6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基である。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3であり、より更に好ましくは1~2である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0025】
アルコキシシラン(a-2)が有する有機基としては、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。この場合、(a-2)が有する有機基の全体に対するメチル基、エチル基、及びフェニル基の合計が占める割合は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。当該割合の上限値は100重量%であってもよい。製造される有機無機複合樹脂を塗液の主成分として用いる時に硬化性が高くなることから、(a-2)が有する有機基は、メチル基及び/又はエチル基を含むことがより好ましく、メチル基を含むことが更に好ましい。さらに、メチル基及び/又はエチル基と、フェニル基とを含むことが好ましく、メチル基とフェニル基を含むことが特に好ましい。フェニル基を併用することで、後述するラジカル重合時のゲル化を抑制しやすくなり、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性と、塗膜の透明性及び光沢を、高いレベルで両立することができる。
【0026】
特に好適な実施形態では、硬化性の観点から、(a-2)が有する有機基の全体に対してメチル基が占める割合は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。当該メチル基の割合の上限値は100重量%であってもよいが、上述のようにエチル基及び/又はフェニル基を併用する場合、99重量%以下であることが好ましい。エチル基及び/又はフェニル基を併用する場合、(a-2)が有する有機基の全体に対してエチル基及び/又はフェニル基が占める割合は0~45重量%であることが好ましい。
【0027】
アルコキシシラン(a-2)がケイ素原子上の置換基として有するアルコキシ基としては、アルコキシシラン(a-1)について上述したアルコキシ基と同じ基が挙げられる。
【0028】
アルコキシシラン(a-2)の具体例としては特に限定されないが、モノオルガノトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン等が挙げられる。ジオルガノジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
上述したグリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、エポキシ基を有する場合のアルコキシシラン(a-2)の具体例としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。このようなエポキシ基を有するアルコキシシランを使用することで、得られる有機無機複合樹脂の分子量を大きくすることができる。エポキシ基を有するアルコキシシランを使用する場合、その使用量は、アルコキシシラン成分の全体に対する割合として0.1重量%以上が好ましい。また、該使用量は、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。しかし、エポキシ基を有するアルコキシシランを使用しなくてもよく、その場合には、有機無機複合樹脂を用いて得られる塗膜の透明性や光沢を高めることができる。
【0030】
アルコキシシラン(a-2)としては、メチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、及びフェニルトリアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を使用することが特に好ましい。その場合、アルコキシシシラン成分全体に対して、メチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、及びフェニルトリアルコキシシランの合計が占める割合が、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0031】
また、アルコキシシラン(a-2)としては、メチルトリアルコキシシランを使用することが特に好ましい。この場合、アルコキシシラン成分全体に対して、メチルトリアルコキシシランの占める割合が40重量%以上100重量%未満であることが好ましく、40重量%以上95重量%以下がより好ましく、45重量%以上95重量%以下がさらに好ましく、50重量%以上95重量%以下が特に好ましく、50重量%以上90重量%以下が最も好ましい。オルガノアルコキシシランのうちメチルトリアルコキシシランの縮合物が最もケイ素含有量が多くなるため、アルコキシシラン成分全体に対するメチルトリアルコキシシランの含有量が多くなるほど、製造されるポリオルガノシロキサン鎖が無機樹脂特有の効果を発現しやすくなり、好ましい。従来メチルトリアルコキシシランの含有量が多くなると、製造時のゲル化が生じやすくなったが、本発明の製造方法によると該ゲル化を抑制することができる。
【0032】
本発明で使用するアルコキシシラン成分には、アルコキシシラン(a-1)が有するラジカル反応性官能基と、アルコキシシラン(a-1)及びアルコキシシラン(a-2)が有するケイ素原子上のアルコキシ基とが含まれているが、その含有比率が特定範囲に収まるよう、アルコキシシラン成分の化合物の含有比率が設定される。本発明では、アルコキシシラン成分中のラジカル反応性官能基とアルコキシ基の含有比率を示す指標として、ラジカル反応性官能基等量を用いる。ラジカル反応性官能基等量は、アルコキシシラン成分に含まれるケイ素原子上の全てのアルコキシ基が、加水分解・脱水縮合反応によりシロキサン結合に変換されてポリシロキサンが生成したと仮定した場合に、ラジカル反応性官能基1個あたりの該ポリシロキサンの分子量として算出される値である。具体的な計算方法は、後述する実施例の項で説明する。
【0033】
本発明において、原料として使用するアルコキシシラン成分の総体から算出したラジカル反応性官能基等量は、280以上5000未満を満足する。なお、ラジカル反応性官能基等量の数値が小さいことは、ラジカル反応性官能基の相対的な量が多いことを意味し、逆にラジカル反応性官能基等量の数値が大きいことは、ラジカル反応性官能基の相対的な量が少ないことを意味する。ラジカル反応性官能基等量が前記範囲より小さくなると、後述するラジカル重合時にゲル化が進行して有機無機複合樹脂の製造が困難になったり、製造できても該樹脂の貯蔵安定性が低下する傾向がある。逆にラジカル反応性官能基等量が前記範囲より大きくなると、得られる有機無機複合樹脂の分子量を小さくすることができるものの、後述するラジカル重合で、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の結合が十分に進行せず、塗膜中で相分離が生じてしまい該塗膜の透明性や光沢が低下する傾向がある。
【0034】
前記範囲内において、前記ラジカル反応性官能基等量が小さいほど、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖とのグラフト率が向上し、有機樹脂と無機樹脂の相溶性や塗料の貯蔵安定性、塗膜の光沢を高くすることができる。また、前記範囲内において、ラジカル反応性官能基等量が大きいほど、製造時におけるゲル化がより抑制され、また、生産の再現性を高めることができる。以上の観点から、前記ラジカル反応性官能基等量は、300以上が好ましく、500以上がより好ましく、800以上がさらに好ましく、1000以上が特に好ましい。また、前記ラジカル反応性官能基等量は、4000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2500以下がさらに好ましく、2000以下が特に好ましい。
【0035】
アルコキシシラン(a-1)及びアルコキシシラン(a-2)の使用比率は、以上のラジカル反応性官能基等量やポリオルガノシロキサン鎖の分子量等を考慮して適宜設定することができる。具体的には、アルコキシシラン(a-1)及びアルコキシシラン(a-2)の合計に対して(a-1)の占める割合は1重量%以上30重量%以下、(a-2)の占める割合は70重量%以上99重量%以下が好ましく、(a-1)の占める割合は5重量%以上25重量%以下、(a-2)の占める割合は75重量%以上95重量%以下がより好ましい。また、アルコキシシラン成分の全体に対して(a-1)の占める割合は1重量%以上30重量%以下、(a-2)の占める割合は70重量%以上99重量%以下が好ましく、(a-1)の占める割合は5重量%以上25重量%以下、(a-2)の占める割合は75重量%以上95重量%以下がより好ましい。
【0036】
アルコキシシラン成分は、アルコキシシラン(a-1)とアルコキシシラン(a-2)のみから構成されるものであってもよいし、これらに加えて、アルコキシシラン(a-1)とアルコキシシラン(a-2)のいずれにも属しないアルコキシシラン(a-3)をさらに含有してもよい。アルコキシシラン(a-3)としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシランや、トリオルガノモノアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。アルコキシシラン(a-3)は使用しなくともよいが、アルコキシシラン(a-3)を使用する場合、その使用量は本発明の効果を阻害しない範囲で決定すればよく、例えば、アルコキシシラン成分の全体に対する割合として10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
【0037】
以上説明したアルコキシシラン成分を、水と縮合触媒の存在下で、加水分解及び脱水縮合反応させることによって、ポリオルガノシロキサンを形成することができる。製造されたポリオルガノシロキサンは、アルコキシシラン(a-1)に由来するラジカル反応性官能基を有する。
【0038】
また、好ましい実施形態によると、アルコキシシラン成分に含まれていた一部のアルコキシ基が未反応で残留し、または、該アルコキシシラン成分が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留することで、製造されたポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基をさらに有することができる。ここで、反応性ケイ素基とは、アルコキシシリル基とシラノール基の双方を含む概念である。
【0039】
前記加水分解及び脱水縮合反応では水を添加して該反応を進行させる。この時、水の使用量を制御することによって、ラジカル重合時のゲル化を抑制し、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。この観点から、水の使用量は、アルコキシシラン成分に含まれるケイ素原子に直接結合したアルコキシ基の合計モル数を100%とし、これに対して30モル%以上60モル%以下である。上限は55モル%以下が好ましい。下限は35モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、45モル%以上が特に好ましい。
【0040】
前記加水分解および脱水縮合工程では、水に加えて、水以外の有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤としては、水と併用するため水溶性の有機溶剤が好ましい。また、アルコキシシラン成分の溶解性を確保するため、炭素数が4以上の有機溶剤が好ましい。以上の観点から、好ましい有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
有機無機複合樹脂の製造後や、塗膜の形成時に有機溶剤を揮発させることになるため、大気圧下における沸点が150℃以下の有機溶剤が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0042】
前記加水分解及び脱水縮合反応は、反応促進のため、縮合触媒の存在下で行う。縮合触媒としては公知のものを使用することができる。縮合触媒には、大別して塩基性触媒と酸性触媒とがあるが、酸性触媒は縮合よりも加水分解を速める作用を有し、結果、得られるポリオルガノシロキサンがシラノール基を比較的多く有することとなり、シラノール基は酸性溶液中で安定化するため、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性が向上する。そのため、縮合触媒として酸性触媒の存在下で本発明の加水分解および脱水縮合工程を実施することが好ましい。
【0043】
酸性触媒としては、アルコキシシラン成分や有機溶剤との相溶性から、有機酸が好ましく、リン酸エステルやカルボン酸がより好ましい。有機酸の具体例としては、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ピロリン酸ブチル(又はジブチルピロホスフェート)、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸等が挙げられる。
【0044】
塩基性触媒としては、例えば、N-エチルモルホリン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等のアミン系化合物や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物等が挙げられる。
【0045】
また、縮合触媒として、中性塩を使用することもできる。中性塩を使用しても、酸性触媒を使用した場合と同等の効果を得ることができる。ここで、中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、例えば、カチオンとして第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、グアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれかと、アニオンとしてフッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。特に、アニオンとしては、求核性が高いため、第十七族元素イオンが好ましく、カチオンとしては、求核作用を阻害しないように、嵩高くないイオンとして、第一族元素イオン、第二族元素イオンが好ましい。
【0046】
中性塩の具体的な化合物は特に限定されないが、例えば、好ましい中性塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ラビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ラビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ラビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムが挙げられる。
【0047】
縮合触媒の添加量は適宜調節できるが、例えば、アルコキシシラン成分に対して50ppm~3重量%程度であってよい。しかし、有機無機複合樹脂の製造時又は貯蔵時のゲル化の進行を抑制するため、縮合触媒による反応時間短縮の効果が達成される範囲内で、縮合触媒の使用量は少ないほど好適である。
【0048】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施する際の反応温度は当業者が適宜設定できるが、例えば反応液を50~150℃の範囲に加熱することが好ましい。反応時間に関しても当業者が適宜設定できるが、例えば10分間~12時間程度であってよい。
【0049】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施した後、加水分解工程で発生したアルコールを反応液から除去する工程を実施することが好ましい。アルコールを除去することによって、アルコールを副生する加水分解反応をより進めることができる。当該アルコールの除去工程は、加水分解および脱水縮合工程後の反応液を減圧蒸留に付してアルコールを留去することで実施できる。減圧蒸留の条件は当業者が適宜設定することが可能である。
【0050】
加水分解及び脱水縮合反応では、アルコキシシラン(a-1)が有するラジカル反応性官能基は実質的に影響を受けることがないため、当該反応で製造されたポリオルガノシロキサンは、上述したように、アルコキシシラン(a-1)に由来するラジカル反応性官能基を有することになる。
【0051】
ポリオルガノシロキサン1分子あたりのラジカル反応性官能基の個数は特に限定されないが、約1個以上であればよい。1個以上であることで、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖のグラフト率を高めることができ、塗膜の良好な透明性や光沢を達成することができる。また、前記個数は3個を超えてもよく、4個以上でもよい。そのように多くのラジカル反応性官能基を有するポリオルガノシロキサンを使用しても、本発明の製造方法によると製造時のゲル化を抑制することができる。前記個数は、ゲル化の抑制や貯蔵安定性の改善の観点から、8個以下であることが好ましい。
【0052】
(ラジカル重合)
本発明では、アルコキシシラン成分の加水分解及び脱水縮合反応によってポリオルガノシロキサンを得た後、該ポリオルガノシロキサンの存在下で、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分をラジカル重合することによって、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖を含む有機無機複合樹脂が製造される。当該ラジカル重合では、まず、ラジカル重合における成長反応性が高い(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分の重合が進行してポリ(メタ)アクリル鎖が形成された後、該ポリ(メタ)アクリル鎖の末端に、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基が反応することで、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の複合化が実現される。ただし、前記低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基の一部が、ポリ(メタ)アクリル鎖の末端ではない部分に共重合する場合もあり得る。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。
【0053】
前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の、炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、及び、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン等のシリル基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
ラジカル重合に付するラジカル重合性モノマー成分としては、上述した(メタ)アクリル酸エステルモノマーのみであってもよいが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、他のラジカル重合性モノマーを併用してもよい。該ラジカル重合性モノマーとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリルアミド、α-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロ-ル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル化合物;無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物、これら酸無水物と炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖を有するアルコールまたはアミンとのジエステルまたはハーフエステルなどの不飽和カルボン酸のエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレ-トなどのビニルエステルやアリール化合物;ビニルピリジン、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系化合物;イタコン酸ジアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、N-ビニルピロリドンなどのアミド基含有ビニル系化合物;(メタ)アクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルビニルエ-テル、メチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、フルオロオレフィンマレイミド、N-ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
ラジカル重合性モノマー成分全体に対して前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーが占める割合は適宜設定できる。しかし、製造される有機無機複合樹脂の基材への密着性の観点から、前記ラジカル重合性モノマー成分全体に対して、メタアクリル酸エステルモノマーが60重量%以上を占めることが好ましく、65重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0056】
前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマーの種類及び割合は、形成されるポリ(メタ)アクリル鎖の溶解度パラメータ値(SP値)が、9.0~11.0(cal/cm1/2の範囲にあるように選択されることが好ましい。ポリ(メタ)アクリル鎖のSP値がこの範囲にあると、製造される有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かして塗料を提供することが容易になる。特に、SP値が9.0~10.0(cal/cm1/2の範囲にあるポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖との複合化は従来の方法では困難であったが、本発明によると、このようなSP値を示すポリ(メタ)アクリル鎖が複合化した有機無機複合樹脂を好適に製造することができる。前記SP値は、9.2~10.0(cal/cm1/2がより好ましく、9.4~9.9(cal/cm1/2が特に好ましい。
【0057】
SP値は、Fedors[Robert F.Fedors,Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974)]に記載の方法に基づき、下記の式によって算出される値δである。
Fedorsの式:δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
式中、Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)を示し、Δvi:モル体積(cm/mol)を示す。
【0058】
前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位に含まれる炭素数は、特に限定されないが、例えば有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かして塗料とするに際しては、前記モノマー単位の側鎖の炭素数が平均で3~7の範囲にあることが好ましく、3.3~6.7の範囲にあることがより好ましく、3.5~6.2の範囲にあることがさらに好ましい。前記側鎖の炭素数とは、例えば(メタ)アクリル酸エステルモノマーの場合、エステル部分の炭素数であり、それ以外のモノマーの場合、重合体の主鎖を形成する炭素-炭素不飽和結合を除く部位の炭素数である。具体的に述べると、メタクリル酸メチルの側鎖の炭素数は1、メタクリル酸ブチルの側鎖の炭素数は4、メタクリル酸シクロヘキシルは6、メタクリル酸2-ヒロドキシエチルの側鎖の炭素数は2、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの側鎖の炭素数は6、スチレンの側鎖の炭素数は6である。メタクリル酸ブチルやメタクリル酸シクロヘキシル等の、主鎖周りの立体障害が大きいモノマーを多く使用すると、ポリオルガノシロキサンとの相溶性が低下するため一般にはポリオルガノシロキサン鎖とポリ(メタ)アクリル鎖との複合化が困難になるが、本発明によると、このような炭素数が大きいモノマーを多く使用しても、ポリオルガノシロキサン鎖とポリ(メタ)アクリル鎖が複合化した有機無機複合樹脂を製造することができる。
【0059】
以上説明した(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分を、前記ポリオルガノシロキサンと混合して、ラジカル重合を行う。ラジカル重合の手法は常法によることができ、塊状ラジカル重合法、溶液ラジカル重合法、非水分散ラジカル重合法など、公知の重合方法を使用することができる。
【0060】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤の存在下で実施する。該ラジカル重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ラジカル重合開始剤の使用量は特に限定されないが、該使用量を調節することによって、製造される有機無機複合樹脂の分子量を制御することができ、また、ラジカル重合時のゲル化を抑制することができる。具体的には、ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、ラジカル重合性モノマー成分100重量部に対して、0.1~10重量部であってよく、0.5~7重量部が好ましい。
【0062】
前記ラジカル重合は、好ましくは、前記加水分解・脱水縮合反応によって得たポリオルガノシロキサンを含む系に、ラジカル重合性モノマー成分とラジカル重合開始剤を添加することによって実施することができる。すなわち、製造されたポリオルガノシロキサンを反応容器から取り出して別の反応容器に移す必要がなく、1つの反応容器内で加水分解・脱水縮合反応とラジカル重合を連続的に実施することができる。本発明の製造方法には、このような簡易な手法によって、ゲル化を抑制しつつ有機無機複合樹脂を製造できるプロセス上の利点がある。
【0063】
前記ラジカル重合は、β-ジカルボニル化合物の存在下で実施してもよい。β-ジカルボニル化合物とは、2個のカルボニル基が1個の炭素原子を挟んで結合している構造を有する化合物のことをいう。β-ジカルボニル化合物を重合系に存在させることで、ラジカル重合時に、ポリオルガノシロキサンが有するシラノール基の脱水縮合反応が進行するのを抑制できる。これによって、製造される有機無機複合樹脂に、シラノール基を保持させることが容易になる。β-ジカルボニル化合物としては特に限定されないが、例えば、アセチルアセトン、ジメドン、シクロヘキサン-1,3-ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、メルドラム酸等が挙げられる。β-ジカルボニル化合物の使用量は上記効果を達成できるように設定すればよいが、例えば、ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0.01~10重量部であってよく、0.1~5重量部程度であってもよい。
【0064】
ラジカル重合時の重合温度は常法によることができる。しかし、加水分解及び脱水縮合反応によってシラノール基を含むポリオルガノシロキサンが製造された後、反応系の温度が低下すると、シラノール基間の脱水縮合反応が進行しやすくなり、製造される有機無機複合樹脂の分子量が変動したり、ラジカル重合中にゲル化が進行しやすくなる場合がある。そのため、分子量の変動やゲル化の進行を抑制する観点より、前記加水分解及び脱水縮合反応から、前記ラジカル重合の終了までを、反応系の温度が実質的に低下しないように温度制御を行うことが好ましい。ここで、反応系の温度が実質的に低下しないとは、ラジカル重合時の温度を、加水分解及び脱水縮合反応時の温度と実質的に同一に設定するか、あるいは、加水分解及び脱水縮合反応時の温度よりも高く設定することを意味する。また、「実質的に低下しない」との用語には、分子量の変動やゲル化の進行を抑制する観点から実質的な問題にならない範囲で反応系の温度がわずかに低下する場合も含まれ、具体的には5℃未満、好ましくは3℃未満の範囲で低下する場合も含まれる。
【0065】
また、前記加水分解及び脱水縮合反応、並びに、前記ラジカル重合は、酸素分子を実質的に含まない雰囲気下で実施することが好ましい。これにより、前記低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基の反応を促進し、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖のグラフト率を向上させ、塗膜の透明性又は光沢が改善することができる。
【0066】
以上のラジカル重合によって、ポリ(メタ)アクリル鎖が形成されると共に、該ポリ(メタ)アクリル鎖の末端に、前記低いラジカル反応性を示すラジカル反応性官能基が反応してポリオルガノシロキサンが結合することで、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖を含む有機無機複合樹脂が製造される。
【0067】
好ましい実施形態によると、製造される有機無機複合樹脂に含まれるポリオルガノシロキサン鎖は、反応性ケイ素基(アルコキシシリル基及び/又はシラノール基)を有することができる。この反応性ケイ素によって、有機無機複合樹脂は反応性ケイ素基の加水分解・脱水反応を利用した硬化性を示すことができる。
【0068】
この場合、反応性ケイ素の安定性を確保するため、製造された有機無機複合樹脂に脱水剤を混合することが好ましい。これによって、ポリオルガノシロキサン鎖に反応性ケイ素基を有する有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を向上させることができる。脱水剤としては、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチル、オルソ酢酸メチル、又はオルソ酢酸エチルが好ましい。これらのうち1種のみを使用してもよいし、複数種を使用してもよい。
【0069】
脱水剤の使用量は特に限定されず、脱水前の有機無機複合樹脂に含まれる水分量と、脱水後の目的の含水量を勘案して当業者が適宜決定できる。一例として、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01~20重量部程度であり、0.1~10重量部程度であってもよい。
【0070】
(有機無機複合樹脂)
次に、本発明の実施形態に係る有機無機複合樹脂について説明する。
本発明の有機無機複合樹脂は、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖が結合してなるものであり、両鎖の結合は、前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位中の炭素原子と、ポリオルガノシロキサン鎖中のケイ素原子が、エステル基やエーテル基、アミド基、イミド基といったヘテロ原子含有基を介さず、炭化水素基のみを介して連結することで達成されている。なお、前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位中の炭素原子とは、前記ポリ(メタ)アクリル鎖の主鎖を形成する炭素原子を指すものであり、前記ポリ(メタ)アクリル鎖の側鎖に含まれる炭素原子を指すものではない。
【0071】
両鎖の結合部分は次式のように表される。
-C-R-Si-
式中、Cは、ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位に含まれる炭素原子を表す。当該炭素原子は、ポリ(メタ)アクリル鎖を製造するための重合前には、モノマー中の炭素-炭素二重結合を構成していた炭素原子である。Rは、2価の炭化水素基を表す。Siは、ポリオルガノシロキサン鎖に含まれるケイ素原子を表す。このように、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖は、エステル基やエーテル基等のヘテロ原子含有基によって結合しているものではなく、炭化水素基のみを介して結合している。
【0072】
前記炭化水素基は、前記ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位中の炭素原子と、ポリオルガノシロキサン鎖中のケイ素原子を結合する2価の結合基である。その炭素数は特に限定されないが、2~20が好ましく、2~8がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2~3がより更に好ましく、2が特に好ましい。当該炭化水素基は、脂肪族系炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。具体的には、エチレン基(1,2-エチレン基、1,1-エチレン基を含む)、プロピレン基(1,3-プロピレン基、2,3-プロピレン基等)、又はp-フェニレンエチレン基(p-フェニレン-1,2-エチレン基、p-フェニレン-1,1-エチレン基を含む)が挙げられる。当該炭化水素基は、前述したアルコキシシラン(a-1)が有するラジカル反応性二重結合含有基に由来するものであることが好ましく、例えば、アルコキシシラン(a-1)としてビニル基を有するアルコキシシランを使用した場合には、前記炭化水素基として、エチレン基が形成される。前記炭化水素基としては、少なくともエチレン基を含むことが好ましい。尚、ここで言うエチレン基は、プロピレン基やp-フェニレンエチレン基に含まれるエチレン基を指すものではない。
【0073】
前記ポリ(メタ)アクリル鎖とは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むラジカル重合性モノマー成分の単独重合体又は共重合体を指す。当該ポリ(メタ)アクリル鎖を形成するモノマーの種類及び割合の詳細は上述のとおりである。
【0074】
前記ポリオルガノシロキサン鎖とは、モノオルガノトリアルコキシシラン70~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン30~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物を指す。前記モノオルガノトリアルコキシシラン及び前記ジオルガノジアルコキシシランの定義は上述のとおりである。モノオルガノトリアルコキシシランは必須成分であるが、ジオルガノジアルコキシシランは使用してもよいし、使用しなくてもよい。モノオルガノトリアルコキシシラン及びジオルガノジアルコキシシランの合計のうちジオルガノジアルコキシシランが占める割合は30重量%以下であるが、20重量%以上が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下がより更に好ましい。
【0075】
本発明の有機無機複合樹脂におけるポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の結合を実現するために、モノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシランとして、ラジカル反応性二重結合含有基を有するモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-1)が使用される。また、該(a-1)と共に、ラジカル反応性二重結合含有基を有しないモノオルガノトリアルコキシシラン及び/又はジオルガノジアルコキシシラン(a-2)を併用することが好ましい。該(a-1)及び(a-2)の詳細については上述のとおりである。
【0076】
好適な実施形態によるポリオルガノシロキサン鎖は、上述のとおり、反応性ケイ素基を有するものである。反応性ケイ素基が存在することで、本発明の有機無機複合樹脂は加水分解・脱水縮合反応による硬化性を示すことができる。
【0077】
前記ポリオルガノシロキサン鎖に反応性ケイ素基を持たせるには、ポリオルガノシロキサン鎖のシロキサン結合形成率(縮合率ともいう)が100%未満であることが必要である。ここで、シロキサン結合形成率とは、原料のアルコキシシラン成分に含まれるケイ素原子上のアルコキシ基の、シロキサン結合への変換率を示す数値であり、全てのアルコキシ基がシロキサン結合に変換した場合は100%となる。
【0078】
前記シロキサン結合形成率は、モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、29Si-NMRにより測定されたT1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2、T3の各モル数の割合(%)を、それぞれ、X、Y、Zとした時、下記式によって算出される値である。なお、X、Y、Zの合計は100である。
シロキサン結合形成率 = (1×X+2×Y+3×Z)/3
【0079】
前記シロキサン結合形成率が100%に近い値であると、ほぼ全てのアルコキシ基がシロキサン結合に変換されていることになるため、ポリオルガノシロキサン鎖が持つ反応性ケイ素基の数が少なくなる。逆にシロキサン結合形成率が低すぎると、十分な分子量のポリオルガノシロキサン鎖が形成されておらず、有機無機複合樹脂がポリオルガノシロキサン鎖に由来する物性を発現しにくくなる。以上の観点から、本発明の有機無機複合樹脂は、シロキサン結合形成率が20%以上80%以下であることが好ましい。より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、より更に好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上であり、最も好ましくは65%以上である。また、ポリオルガノシロキサン鎖が有する反応性ケイ素基の反応性の観点から、前記シロキサン結合形成率は、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは72%以下である。
【0080】
なお、前記シロキサン結合形成率は、ポリオルガノシロキサン鎖を形成するための加水分解・脱水縮合反応時に使用する水の使用量や触媒の種類・量を調節したり、シラノール基を安定させる成分を反応系に共存させたりすることで調節できる。
【0081】
本発明の有機無機複合樹脂において、ポリ(メタ)アクリル鎖とポリオルガノシロキサン鎖の比率は、各鎖に基づいた物性を両立できるように設定できる。ポリオルガノシロキサン鎖の割合は、この無機鎖に基づいた物性の発現と、有機無機複合樹脂を塗料に用いる場合の顔料分散性や、塗膜の透明性や光沢、機械的物性を勘案して決定することが好ましい。具体的には、前記有機無機複合樹脂全体に対する前記ポリオルガノシロキサン鎖の重量割合は20重量%以上80重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、30重量%以上であり、さらに好ましくは40重量%以上である。また、より好ましくは70重量%以下であり、さらに好ましくは60重量%以下であり、特に好ましくは50重量%以下である。
【0082】
本発明の有機無機複合樹脂の重量平均分子量(MW)は、所望の物性に応じて適宜決定できるが、2000~50万の範囲が好ましく、5000~30万の範囲がより好ましい。この範囲では、製造時のゲル化を回避しつつ、有機無機複合樹脂は貯蔵安定性に優れ、透明性又は光沢に優れた塗膜を形成することができる。なお、有機無機複合樹脂の重量平均分子量は、実施例の項に記載した方法によって決定できる。
【0083】
(塗液)
本発明の有機無機複合樹脂は、塗料用の硬化性樹脂組成物、すなわち塗液の主成分とすることができる。塗液を構成するにあたっては、顔料、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、つや消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤など、公知の塗料用添加物を適宜配合できる。本発明の有機無機複合樹脂は、あらゆる塗液として使用することが可能であるが、耐候性に優れ、透明性が高いものであることから、顔料を含まないクリア塗膜用塗液、又は、顔料や染料を含んだ着色塗液としても好適に使用できる。
【0084】
本発明の硬化性樹脂組成物または塗液は、硬化剤の存在下で塗膜の硬化反応が促進され、塗膜形成時の作業時間を短縮することができるので、硬化剤を含有するか、または、硬化剤を別のパッケージで含む2液の形態の組成物または塗液であることが好ましい。
【0085】
当該硬化剤としては、反応性シリル基の加水分解反応および脱水縮合反応を利用した硬化性樹脂組成物に対して用いる硬化剤として公知の硬化剤を適宜使用することができる。具体的には、硬化剤として、上述した縮合触媒を使用することができ、また、有機錫化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、有機アミン化合物などを使用することができる。
【0086】
上記有機錫化合物の具体例としては、ジオクチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケートとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジステアレート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫ビス(エチルマレート)、ジブチル錫ビス(ブチルマレート)、ジブチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジブチル錫ビス(オレイルマレート)、スタナスオクトエート、ステアリン酸錫、ジ-n-ブチル錫ラウレートオキサイドが挙げられる。また、分子内にS原子を有する有機錫化合物の具体例としては、ジブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジオクチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、オクチルブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート等が挙げられる。
【0087】
チタンキレート化合物の具体例としては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0088】
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0089】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリメチルアミン、テトラメチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N’-ジエチル-2-メチルピペラジン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等が挙げられる。
【0090】
硬化剤の使用量は、硬化温度と硬化時間とに応じて適宜調整できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下程度が好ましく、0.1重量部以上10重量部以下程度がより好ましい。
【0091】
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材に塗布し、硬化させることで塗膜を形成することができる。塗布や硬化の条件は特に限定されないが、硬化させる際には、熱源を用いて溶剤の蒸発を促進することが好ましい。
【0092】
形成される塗膜の厚みは特に限定されないが、本発明では乾燥後の厚みとして5μm以上100μm以下が好ましい。厚みが5μmより薄くなると、塗膜の耐水性や耐湿性が不十分になる場合がある。厚みが100μmを超えると、塗膜の形成時における硬化収縮によってクラックを生じる場合がある。より好ましくは5μm以上50μm以下、さらに好ましくは10μm以上40μm以下である。
【0093】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布できる基材としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ABS、ABS/PC、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の有機基材や、ガラス、アルミニウム、SUS、銅、鉄、石材などの無機基材を使用できる。
【実施例
【0094】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
実施例および比較例で用いた物質は、以下のとおりである。
アルコキシシラン成分
Vi(A-171:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製ビニルトリメトキシシラン、分子量148.2)
Me(OFS-6070:ダウ・東レ株式会社製メチルトリメトキシシラン、分子量136.2)
Ph(Z-6124:ダウ・東レ株式会社製フェニルトリメキシシラン、分子量198.3)
MA(A-174:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量248.4)
Ge(OFS-6040:ダウ・東レ株式会社製、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量236.3)。
【0096】
縮合触媒
DBP(城北化学工業株式会社製、ジブチルホスフェート、分子量210.2)。
MgCl(東京化成株式会社製、塩化マグネシウム・6水和物、分子量203.3)。
LiCl(東京化成株式会社製、塩化リチウム、分子量42.4)。
【0097】
(メタ)アクリル樹脂の原料モノマー及びラジカル重合開始剤
MMA(三菱ガス化学株式会社製、メタクリル酸メチル、分子量100.1)
TSMA(A-174:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量248.4)
BA(株式会社日本触媒製、アクリル酸ブチル、分子量128.2)
CHMA(株式会社日本触媒製、メタクリル酸シクロヘキシル、分子量168.0)
BMA(三菱ガス化学株式会社製、メタクリル酸ブチル、分子量142.2)
AA(株式会社日本触媒製、アクリル酸、分子量72.1)
HEMA(株式会社日本触媒製、メタクリル酸2-ヒロドキシエチル、分子量130.1)
St(三協化学株式会社製、スチレン、分子量104.2)
V59(和光純薬工業株式会社製、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、分子量192.3)。
【0098】
脱水剤
MOA(東京化成工業株式会社製、オルトギ酸トリメチル、分子量106.1)。
【0099】
溶剤
S100(三和化学株式会社製、鉱油、クメン、キシレン、トリメチルベンゼン混合物)
LAWS(シェルケミカルズジャパン株式会社製、ミネラルスピリット、キシレン、トリメチルベンゼン、ノナン混合物)
PMA(三協化学株式会社製、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、分子量132.2)
【0100】
安定剤
AcAc(株式会社ダイセル製、アセチルアセトン、分子量100.1)
硬化触媒
U-20(日東化成株式会社製、ジブチル錫ジラウレート、631.6)
【0101】
(ポリシロキサン反応時間)
室温下においてアルコキシシラン成分、縮合触媒、及び、水を混合した後、該混合物を、90℃に昇温したオイルバスで加熱し、内温が70℃に達した時を反応の開始点とし、その後90℃のオイルバスにて加熱した時間を反応時間とし、6時間反応させた。
【0102】
(ポリシロキサン合成における脱アルコール)
上記の通り6時間反応させて得られた樹脂溶液は、ポリシロキサン、反応の過程で発生したアルコール、及び、僅かに残った水から構成されている。ポリシロキサン以外の揮発成分を蒸留により除去するため、120℃に加熱したオイルバスで前記樹脂溶液を加熱しながら、窒素にて微加圧し、回収液量を計量しながら設定の内容液量になるまで蒸留を続けた。
【0103】
蒸留により除去する必要があるアルコール量を、下記式に従い算出した。
(縮合触媒がDBP又はMgClの場合) 添加した水の量×32/18×2×85%
(縮合触媒がLiClの場合) 添加した水の量×32/18×2×100%
【0104】
発生可能な全アルコール重量は、反応に用いたアルコキシシラン成分が有するアルコキシシリル基1モルに対して1モルのアルコールが発生するものとして算出した。例えば、トリメトキシシシリル基1モルはメトキシシリル基を3モル有し、メタノールを3モル発生させ、メチルジメトキシシリル基1モルはメトキシシリル基を2モル有し、メタノールを2モル発生させるものとする。また、水1モルによってアルコキシシリル基1モルから1モルのシラノール基と1モルのアルコールが発生する。更に発生した1モルのシラノール基が1モルのアルコキシシリル基と反応して1モルのアルコールを発生する。すなわち、水1モルからアルコールが2モル発生することになる。縮合触媒によってはこの反応の進行具合に違いがあり、LiClでは100%進行するのに対し、DBP,MgClでは85%程度しか進行しないため、この点を考慮して、上記のとおり計算式に補正をかけた。
【0105】
(実施例1のポリオルガノシロキサンの合成)
冷却管を設置した300ml容積の4口フラスコにビニルトリメトキシシラン4.7g、メチルトリメトキシシラン79.7g、ジブチルホスフェート0.0042g、純水12.7gを入れ、90℃に設定したオイルバスで加熱し、6時間反応させた。加水分解によって生じたメタノールがフラスコ内で還流し内温は約67℃となった。その後、内温が実質的に低下しないように気を付けながら加温しながら蒸留装置に組み替え、発生したメタノール、及び残存水を除去し、59.2gのポリシロキサン溶液を得た。尚、蒸留装置に組み替える際は、窒素同入管の設置、及び窒素加圧によって出来るだけ酸素の混入を避け、蒸留中も窒素バブリング条件下で実施し、蒸留後、及びその後のラジカル重合時には実質的に酸素がほとんど存在しない条件を維持した。
【0106】
実施例2~39及び比較例1~5については、表1の記載に従ってアルコキシシラン成分、縮合触媒、及び水を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリシロキサン溶液を得た。なお、表1中、各成分の配合量の単位はグラム(g)である。
【0107】
(ラジカル反応性官能基等量)
ラジカル反応性官能基等量は、次の式により算出した。
(ラジカル反応性官能基を有するアルコキシシランの分子量-加水分解・脱水縮合反応によりアルコキシシランから脱離する構造の分子量)÷(使用したアルコキシシラン成分全量に対する、ラジカル反応性官能基を有するアルコキシシランのモル%)
【0108】
一例として実施例1についてラジカル反応性官能基等量の計算方法を以下に説明する。「ラジカル反応性官能基を有するアルコキシシランの分子量-加水分解・脱水縮合反応によりアルコキシシランから脱離する構造の分子量」は、148.23-69=79.23である。使用したビニルトリメトキシシランのモル数は4.7÷148.23=0.0317、使用したメチルトリメトキシシランの仕込みモル数は79.7÷136.22=0.585である。以上より、ラジカル反応性官能基等量は、79.23÷(0.0317÷(0.0317+0.585))≒1542と算出される。
【0109】
なお、上記式中で「加水分解・脱水縮合反応によりアルコキシシランから脱離する構造の分子量」を「69」とした理由は次のとおりである。トリメトキシシラン:-Si(OCHにおいて、縮合反応によって全てのメトキシ基がシロキサン結合を形成すると、-Si(O0.5-で表される構造が形成される。これに対応して、加水分解・脱水縮合反応によって脱離する構造は、(O0.5CHで表されるので、その分子量が「69」である。
【0110】
(重量平均分子量)
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量をGPCで測定した。GPCは、送液システムとして東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSK-GEL Hタイプを用い、溶媒としてTHFを用いて行い、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で算出し、表1ではIP分子量として示した。
【0111】
【表1-1】
【0112】
【表1-2】
【0113】
【表1-3】
【0114】
【表1-4】
【0115】
【表1-5】
【0116】
(複合樹脂の合成)
上記蒸留装置から、冷却管を変え、還流するように装置を組み替えた。窒素ガスを流しながら内温が110℃となるようにオイルバスを設定し、上記で得たポリシロキサン溶液に表2中の「初期溶剤」を加え、内温を110℃に設定した。
【0117】
上記4口フラスコとは別で、褐色瓶に表2中の「AC組成モノマー」+「ラジカル発生剤」+「重合溶剤」を加えて、ポンプ追加用のモノマー溶液を作製した。作製したモノマー溶液を、ダイヤフラム式ポンプを用いて、3時間かけて前記4口フラスコに滴下した。
【0118】
残存モノマーを消費するため、褐色瓶に表2中の「残モノマー用ラジカル発生剤」+「残モノマー用重合溶剤」を加えて、残存モノマー用ラジカル発生剤溶液を作製し、ポンプを用いて1時間かけて反応液に滴下した。滴下終了後、更に1時間加熱することで、目的の複合樹脂溶液を得た。具体的には次のとおりである。
【0119】
(実施例1の複合樹脂の合成)
上述した実施例1のポリオルガノシロキサンの合成で得た59.2gのポリシロキサン溶液に、S100を19.7g、LAWSを46.1g加え、内温が110℃となるように加熱した。
褐色瓶内でMMA5.0g、TSMA1.0g、BA3.0g、BMA41.0g、V59 2.0g、S100 2.5g、LAWS5.9gを混合し、3時間かけてポンプ追加した。
更に、V59 0.2g、S100 5.6g、LAWS13.1gからなる溶液を1時間かけてポンプ追加し、更に1時間加熱することで、複合樹脂溶液を204.4g得た。得られた複合樹脂では、ポリ(メタ)アクリル鎖を構成するモノマー単位中の炭素原子と、ポリオルガノシロキサン鎖中のケイ素原子が、エチレン基のみを介して結合しており、ポリオルガノシロキサン鎖は反応性ケイ素基を有している。
【0120】
表2の実施例2~39及び比較例1~5では、表2の記載に従って、表1の実施例2~39及び比較例1~5で得たポリシロキサン溶液、溶剤、モノマー、及びラジカル発生剤を使用した以外は、上記の「実施例1の複合樹脂の合成」と同様にして複合樹脂溶液を得た。但し、比較例2~5では、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合過程でゲル化が生じて複合樹脂を製造できなかった。なお、実施例25と26では、得られた複合樹脂溶液に対して、表2の記載に従って脱水剤を添加し、実施例37~39では、初期溶剤と共に、表2の記載に従って安定剤を添加した。なお、表2中、各成分の配合量の単位はグラム(g)である。
【0121】
(IP量)
IP量は、アルコキシシラン成分が加水分解及び脱水縮合して形成されたポリオルガノシロキサンの全量およびラジカル重合性モノマー成分の全量の合計に対して、前記ポリオルガノシロキサンの全量が占める重量割合である。
【0122】
(重量平均分子量)
有機無機複合樹脂の重量平均分子量をGPCで測定した。GPCは、送液システムとして東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSK-GEL Hタイプを用い、溶媒としてTHFを用いて行い、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で算出した。
【0123】
29Si-NMR)
モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位は、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類される。BRUKER社製AVANCEIIIHD500を用いて、有機無機複合樹脂の29Si-NMRを測定し、得られた各構造に由来するピーク面積比を、有機無機複合樹脂に含まれるT1、T2、及びT3構造のモル比とした。
【0124】
(シロキサン結合形成率)
T1、T2、及びT3構造のモル比をX、Y、Zとした時、
式:(1×X+2×Y+3×Z)/3
によって算出された値を、シロキサン結合形成率(縮合率)とした。
【0125】
(複合樹脂溶液の貯蔵安定性)
得られた複合樹脂溶液を密閉したガラス瓶内に封入したものを2本用意した。片方は50℃の乾燥機に4週間入れ、もう片方は23℃に制御された恒温室で同期間保管し、4週間後の複合樹脂溶液の粘度を目視で評価した。結果を表2に示す。
A:粘度変化なし~目視概算で10倍未満の増粘、B:目視概算で10倍以上の増粘、C:ゲル化
【0126】
(クリア塗液の作製と塗装)
各実施例及び比較例で得た複合樹脂溶液10.0gに、硬化触媒として有機錫化合物であるU-20 0.050g、希釈溶剤としてS-100 0.050gを混合してクリア塗液を作製した。
【0127】
作製したクリア塗液を、70×150×2mmのフロートガラス板上、及び50×150×1mmの黒色ABS板上に6mil、アプリケータで塗装し、ドライで約0.076mm厚のクリア塗膜を得た。
【0128】
(クリア塗膜の透明性)
クリア塗液をガラス板上に塗装した後、23℃に調整された恒温室にて1週間養生後に、色彩・濁度同時測定器 COH400(日本電色工業株式会社製)を用いてクリア塗膜のヘイズ値を測定して評価した。結果を表2に示した。
A:濁度がない(ヘイズ値<5)、B:濁度がある(ヘイズ値≧5)
【0129】
(クリア塗膜の光沢)
クリア塗液を黒色ABS板上に塗装した後、23℃に調整された恒温室にて1週間養生後に、光沢計を用いて、クリア塗膜の60°における光沢値を測定して評価した。結果を表2に示した。
A:60以上、B:60未満
【0130】
(タックフリータイム)
クリア塗液をガラス板上に塗装した後、23℃に調整された恒温室にて養生し、クリア塗膜の表面に人差し指を軽く押し当てて離した際のベタつきを感じなくなるまでの時間を計測した。塗装直後を開始時点とする。結果を表2に示した。
【0131】
(ゲル分)
0.1mm厚のアルミシートを2.5×2.5×0.1mmのサイズにハサミでカットし、その上にクリア塗液を0.2g滴下し、23℃に調整された恒温室にて1週間養生した後、アセトン浴に漬け込み、(不溶分重量)÷(塗膜重量)×100からゲル分を算出した。なお、アセトン浴に漬け込む際は、200メッシュの金網で作製した袋の中に入れた状態で漬け込み、不溶分と溶出分を分離・回収した。結果を表2に示した。
【0132】
【表2-1】
【0133】
【表2-2】
【0134】
【表2-3】
【0135】
【表2-4】
【0136】
【表2-5】
【0137】
表2から分かるように、各実施例で得られた複合樹脂は貯蔵安定性が良好で、これを用いて得られたクリア塗膜の透明性及び光沢はいずれも良好であった。一方、比較例1ではクリア塗膜の透明性、光沢がいずれも不十分であった。また、比較例2~5では、ゲル化が生じて複合樹脂を製造できなかった。
【0138】
(白エナメル塗料の作製)
比較例1、実施例9~12、15、16、21、25、27~39で得た複合樹脂溶液に、酸化チタン微粒子を分散させて白エナメル塗料用樹脂溶液を得た。酸化チタンの分散を助けるために分散剤としてBYK-142を添加し、酸化チタン由来の水分を除去するために脱水剤としてMOAを添加し、酸化チタン微粒子の凝集を破砕するためにガラスビーズを用いた。
【0139】
まずは酸化チタン微粒子が分散しやすいように高濃度となるように少量の複合樹脂溶液と混合しミルベースを作製した。その後、更に追加で複合樹脂溶液を加えて希釈し、白エナメル塗料を得た。具体的には次のとおりである。
【0140】
[ミルベース]
225ml容量のマヨネーズビンに、表3中の「ミルベース」の記載に従って、複合樹脂溶液を30.15g、酸化チタンを33.50g、分散剤を0.56g、脱水剤を0.50g、希釈溶剤としてS100 0.35g及びLAWS 0.15g、ガラスビーズ50gを加え、ペイントコンディショナーを用いて2時間高速振動させることでミルベースを得た。
【0141】
[カットバック]
次いで、表3中の「カットバック」の記載に従って、複合樹脂溶液70.35g、希釈溶剤としてS100 3.2g及びLAWS1.37gを追加し、ペイントコンディショナーで30分高速振動させることで白エナメル塗料140.1g(ガラスビーズ重量は除く)を得た。
【0142】
(白エナメル塗料の貯蔵安定性)
得られた白エナメル塗料を密閉したガラス瓶内に封入したものを2本用意した。片方は50℃の乾燥機に4週間入れ、もう片方は23℃に制御された恒温室で同期間保管し、4週間後の塗料の粘度を目視で評価した。結果を表3に示した。
A:粘度変化なし~目視概算で10倍未満の増粘、B:目視概算で10倍以上の増粘、C:ゲル化
【0143】
(白エナメル塗液の作成と塗装)
得られた白エナメル塗料10.0gに、硬化触媒として有機錫化合物であるU-20 0.060g、希釈溶剤としてS-100 0.060gを混合して、硬化触媒が添加された白エナメル塗液を作製した。
作製された硬化触媒入りの白エナメル塗液を、70×150×2mmのフロートガラス板上に6mil、アプリケータで塗装し、ドライで約0.090mm厚の白エナメル塗膜を得た。
【0144】
(白エナメル塗膜の光沢)
白エナメル塗液をガラス板上に塗装した後、23℃に調整された恒温室にて1週間養生後に、光沢計を用いて、白エナメル塗膜の60°における光沢値を測定して評価した。結果を表3に示した。
A:60以上、B:55以上60未満、C:55未満
【0145】
【表3-1】
【0146】
【表3-2】
【0147】
【表3-3】
【0148】
表3から分かるように、各実施例で得られた白エナメル塗料は貯蔵安定性が良好で、これを用いて得られた白エナメル塗膜は光沢も良好であった。特に実施例31-33で得られた白エナメル塗膜は、外観が最も良好で顔料分散性が良く、調色性も良好であった。