(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】メッシュ状フック面ファスナーおよびその染色方法
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
A44B18/00
(21)【出願番号】P 2021520829
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020020018
(87)【国際公開番号】W WO2020235613
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2019095002
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】高▲くわ▼ 一則
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第4991285(JP,B2)
【文献】特開2018-153450(JP,A)
【文献】特表2006-522645(JP,A)
【文献】特表2007-508107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シート(A)およびその表面側に存在する多数のフック型係合素子(B)を有してなるフック面ファスナーであって、
前記基体シート(A)は、線状部(a
1)が同一平面に間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている線状部群層(A
1)と、その裏面から立ち上がる形状保持用突起列条(a
2)が間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている形状保持用突起列条群層(A
2)とを備えてなり、
前記線状部(a
1)と前記形状保持用突起列条(a
2)は交差し、その交差点では一体化されているメッシュ状であり、
前記基体シート(A)と前記フック型係合素子(B)が、共に熱可塑性エラストマー樹脂で構成され、かつ染色され
、
前記形状保持用突起列条(a
2
)の長さ方向に直角な面での断面形状が、前記線状部群層(A
1
)から立ち上がる軸部とその軸部の中間又は先端に膨らみ部を有する形状を有し、その形状が前記形状保持用突起列条(a
2
)の長さ方向に連続していることを特徴とするメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー樹脂がポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーである請求項1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項3】
前記フック型係合素子(B)が、前記線状部群層(A
1)から突出するステムとその先端部から前記線状部(a
1)の長さ方向にのみ突出している突起部とを有してなる請求項1または2に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項4】
前記形状保持用突起列条(a
2)は延伸されて、その長さ方向に分子配向している請求項1~3のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項5】
前記膨らみ部の幅が、前記軸部の幅の1.5~4倍である請求項
1~4のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項6】
前記基体シート(A)の幅が40mm以上である請求項1~
5のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項7】
前記線状部(a
1)と前記形状保持用突起列条(a
2)が30~85度の角度で交わっている請求項1~
6のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項8】
前記線状部(a
1)、前記形状保持用突起列
条(a
2)および前記フック型係合素子(B)の全てが染色されている請求項1~7のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項9】
裏面に、エラストマーからなるシートが一体化されており、前記形状保持用突起列条(a
2)が該シート内に埋設素子として埋没しているが、前記フック型係合素子(B)と前記線状部群層(A
1)は該シート表面から露出している請求項1~8のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナーが係止具として縫製により取り付けられている靴、サポーターまたはベルト。
【請求項11】
染色により蛍光染料が付与されているメッシュ状フック面ファスナーが用いられている請求項
10に記載の靴、サポーターまたはベルト。
【請求項12】
基体シート(A)およびその表面側に存在する多数のフック型係合素子(B)を有してなるフック面ファスナーであって、前記基体シート(A)が、線状部(a
1)が同一平面に間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている線状部群層(A
1)と、その裏面から立ち上がる形状保持用突起列条(a
2)が間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている形状保持用突起列条群層(A
2)とを備えてなり、前記線状部(a
1)と前記形状保持用突起列条(a
2)は交差し、その交差点で一体化されており、さらに前記基体シート(A)と前記フック型係合素子(B)が、共に熱可塑性エラストマー樹脂で構成されているメッシュ状のフック面ファスナーの長尺物をロール状に回巻した状態で、染料液と接触させて染色することを特徴とするメッシュ状フック面ファスナーの染色方法。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマー樹脂がポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーであり、ポリエステルエラストマーの場合には染料液が分散染料を、またポリアミドエラストマーの場合には酸性染料を含んでいる請求項
12に記載の染色方法。
【請求項14】
染料液が蛍光染料を含んでいる請求項
12または
13のいずれかに記載の染色方法。
【請求項15】
前記メッシュ状のフック面ファスナーは、樹脂層(R)の表面に長さ方向に平行に存在し、前記フック型係合素子(B)となる複数のフック型係合素子用列条(K)と、裏面に長さ方向に平行に存在している複数の形状保持用突起列条(a
2)とを有する帯状体に、該フック型係合素子用列条(K)の頂部から前記樹脂層(R)と前記形状保持用突起列条(a
2)との境界まで該帯状体の長さ方向と交差する方向に切れ目(E)を入れ、その後、該帯状体を長さ方向に延伸する方法で製造したものである請求項
12~
14のいずれかに記載の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体シートと同基体シートから立ち上がる多数のフック型係合素子からなる一体成形フック面ファスナーであって、基体シートがメッシュ状となっていると共に、染色されており、かつ係合剥離によりフック型係合素子や基体シートが破壊されたり、係合相手のループ面ファスナーを破損させたりすることが少なく、さらに取り付け対象物への沿形性や柔軟性に優れたメッシュ状のフック面ファスナーおよびその染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の表面に対象物を取り付ける手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック型係合素子を有する面ファスナー(いわゆるフック面ファスナー)を固定するとともに、もう一方の表面にループ型係合素子を有する面ファスナー(いわゆるループ面ファスナー)を固定し、そして両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、物体の表面に対象物を固定する方法が用いられている。
【0003】
近年、靴の甲部分における足入れ部の左右の舌片同士を接合するのに、あるいは腕や脚や腰に巻き付けるサポーターやベルトを固定するのに、上記した面ファスナーの組み合わせが用いられており、通常、織物製のフック面ファスナーと織物製のループ面ファスナーの組み合わせが用いられている。
【0004】
このような用途分野に用いられる面ファスナーには、強い引っ張り力が掛かることとなるが、そのような引っ張り力でも係合が外れない高い係合力が求められる。このような織物製のフック面ファスナーと織物製のループ面ファスナーの組み合わせの場合には、係合素子が細くて引っ張り力によりフック型係合素子が開き易く、フック内に入っているループ型係合素子を離し易いため、より高い係合力が得られる面ファスナーが求められている。
【0005】
そのような面ファスナーとして、樹脂製の基体シートの上に多数のフック型の係合素子を一体成型した成形フック面ファスナーが知られている。このような成形フック面ファスナーは、フック型係合素子が太く、低い力ではフック形状が開き難いことから高い係合力が得られることとなる。
【0006】
そして、上記したような靴やサポーターやベルト等の用途分野に用いられるフック面ファスナーは、ユーザーの好みに合致するように、着色されていることが必要であり、しかも種々の色に着色されたものが速やかに供給できるものである必要がある。
【0007】
しかしながら、上記した樹脂製の基体シートの上に多数のフック型の係合素子を一体成型した成形フック面ファスナーの場合には、原料となる樹脂に顔料や染料等の着色剤を添加しておき、このような着色剤含有樹脂を用いて成形して、着色された成形面ファスナーを製造することは可能であるが、このような成形前の原料の段階で着色剤を添加する方法の場合には、同一色の面ファスナーが多量に製造されることから、種々の異なる色の面ファスナーを要求するユーザーの要望に応じて即座に作製し、納入することは困難である。
【0008】
さらに近年、スポーツ靴などを構成する素材として蛍光色に着色したものが好まれており、このような用途に用いられる面ファスナーも蛍光色に着色されているものが求められているが、蛍光色に着色する場合、成形前の原料の段階で蛍光顔料を添加する方法を用いたら成形時の熱により蛍光顔料が劣化し易く、鮮やかな蛍光色を有する成形面ファスナーが得られないという問題もある。
【0009】
このような原料の段階で着色剤を添加して着色する方法に代えて、製造された面ファスナーを後で染色する方法、すなわち後染法と称される方法を用いると、予め製造した未着色の成形面ファスナーをユーザーからの希望の色を聞いたのちに染色すればよいことから、少量であっても希望の色に着色された面ファスナーを直ちに供給できることとなる。また、この後染法を用いると、鮮やかな蛍光色に着色された面ファスナーも容易に得ることができる。
【0010】
このような面ファスナーの後染法として、例えば特許文献1には、ロール状に回巻した面ファスナーを積み重ねてチーズ染色装置またはオーバーマイヤー方式の染色装置で染色すること、そしてその際に重ね合わせたロール状面ファスナーの耳部同士が入り込んだり、耳部が折れたりするという現象が生じ、その部分には染色液が流れにくくなるため、染料液の偏流が生じ、その結果、染色斑を生じること、そして、それを防ぐために、ロール状に回巻いた面ファスナーを通液性の仕切り板に載せ、この状態で積み重ねて染色液と接触させる方法を取ればよいことが記載されている。
【0011】
さらに同特許文献1には、染色する面ファスナーとして、プラスチックを押出成形して得られる基体シート上に多数の係合素子を設けた、いわゆる成形面ファスナーでも染色できるが、このような成形面ファスナーの場合には、基体シートが染色液を通さないため、染色液は基体シートに平行に循環させなければならないことが記載されている。
【0012】
しかしながら、現実には、基体シートが染色液を通さない成形面ファスナーの場合には、染料液は面ファスナーの基体シートと平行に流れるのみであることから、ロール状に回巻した成形面ファスナーの巻き付け状態が均一であることが染料液の偏流を防ぐためには重要であり、巻き付けた面ファスナーの隙間間隔が均一でない場合には、染料液の偏流が生じ、その結果として染色斑が発生することとなる。巻き付けた成形面ファスナーの隙間間隔は、成形面ファスナーをロール状に巻く際の条件や、巻き上げたロール状の成形面ファスナーを取り扱う際の押さえ付け状態や染色釜へロール状の成形面ファスナーを挿入する際の取り扱い方法などによっても相違することとなり、したがって基体シートが染色液を通さない成形面ファスナーの場合には、均一に染色することは極めて困難となる。特に成形面ファスナーが、広幅のものである場合には、染料液を基体シート表面に均一に流すことは殆ど不可能と言える。
【0013】
また、成形面ファスナーは、上記したように係合素子が太いことから、高い係合力が得られることとなるが、その反面、係合相手のループ面ファスナーのループ状係合素子を切断し易く、これを防ぐために、ループ状係合素子を高強度なものとすると、今度は逆にフック型係合素子の方が損傷を受け、フック型係合素子のフック部が切断されたり、あるいは基体シートが裂けたりすることとなる。
【0014】
基体シートをメッシュ状とした成形面ファスナーは公知であり、例えば特許文献2には、第1組の組成変形した複数の熱可塑性のストランドと、その第1組のストランドと一体に成形され、第1組のストランドと同一の平面上には存在せず、第1組のストランドと交差している第2組の複数のストランドとを具備し、第1組のストランドと第2組のストランドの少なくとも一方にフック型係合素子を備えたメッシュ状のフック成形面ファスナーが記載されている。
そして、このようなメッシュ状のフック面ファスナーは通気性を有していることから、使い捨ておむつの係止具として適していることが記載されている。
【0015】
しかしながら、この特許文献2には、面ファスナーを染色することについて記載がなく、さらに用途に関しても、おむつで代表される使い捨て衣類が記載されているだけで、後染法の染色が必要な用途について記載されていない。しかも、この特許文献2には、このようなメッシュ状の成形面ファスナーに用いる樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂が記載されている。
【0016】
しかしながら、これらの樹脂は非弾性のポリマーであるため、製造された面ファスナーは伸縮性に乏しい。そのため、靴の甲部分における仕入部左右の舌片同士の接合、腕や脚や腰に巻き付けるサポーターやベルト等のように伸縮性が要求され、かつ取り付け対象物への沿形性が要求される用途に用いる場合には、この特許文献に記載された面ファスナーでは伸縮性や沿形性が充分ではなく、取り付け対象物の風合いを損ない易いこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開平2-289188号公報
【文献】特許第4991285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、靴の甲部分における仕入部左右の舌片同士の接合や、腕や脚や腰に巻き付けるサポーターやベルト等のように、後染めの染色が要求される用途に適したフック型係合素子を有する一体成形のフック面ファスナーであって、後染法により染色斑なく均一に染色されており、さらに係合剥離によりフック型係合素子や基体シートが破壊されたり、係合相手のループ面ファスナーのループ状係合素子を破損させたりすることが少ないフック面ファスナーを提供することを目的とするものである。また、後染法により染色斑なく均一に蛍光染料により鮮やかに染色されたフック型係合素子を有する一体成形のフック面ファスナーを提供することも目的とするものである。さらに、本発明は、かかるフック面ファスナーの染色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち本発明は、基体シート(A)およびその表面側に存在する多数のフック型係合素子(B)を有してなるフック面ファスナーであって、
前記基体シート(A)は、線状部(a1)が同一平面に間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている線状部群層(A1)と、その裏面から立ち上がる形状保持用突起列条(a2)が間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている形状保持用突起列条群層(A2)とを備えてなり、
前記線状部(a1)と前記形状保持用突起列条(a2)は交差し、その交差点では一体化されているメッシュ状であり、
前記基体シート(A)と前記フック型係合素子(B)が、共に熱可塑性エラストマー樹脂で構成され、かつ染色されていることを特徴とするメッシュ状フック面ファスナーである。
【0020】
そして、好ましくは熱可塑性エラストマー樹脂がポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーである上記のメッシュ状フック面ファスナーである。
そして、好ましくは、フック型係合素子(B)が、線状部群層(A1)から突出するステムとその先端部から線状部(a1)の長さ方向にのみ突出している突起部からなる上記メッシュ状フック面ファスナー、また好ましくは、形状保持用突起列条(a2)は、延伸されて、その長さ方向に分子配向している上記のメッシュ状フック面ファスナーである。
【0021】
また、好ましくは、形状保持用突起列条(a2)の長さ方向に直角な面での断面形状が、線状部群層(A1)から突出する軸部とその軸部の中間又は先端に膨らみ部を有する形状を有し、その形状が長さ方向に連続している上記のメッシュ状フック面ファスナーであり、そして、その膨らみ部の幅が、軸部の幅の1.5~4倍である上記のメッシュ状フック面ファスナーである。
【0022】
また本発明は、基体シート(A)の幅が40mm以上である上記のメッシュ状フック面ファスナーであり、線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)が30~85度の角度で交わっている上記のメッシュ状フック面ファスナーである。ここでいう線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)のなす前記角度とは90度以下の鋭角の方を言う。
さらに本発明は、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)およびフック型係合素子(B)の全てに染料が付与されている上記のメッシュ状フック面ファスナーである。
【0023】
さらに本発明は、上記メッシュ状フック面ファスナーの裏面に、エラストマーからなるシートが一体化されており、形状保持用突起列条(a2)が該シート内に埋設素子として埋没しているが、フック型係合素子(B)と線状部群層(A1)は該シート表面から露出しているメッシュ状フック面ファスナーである。
また、本発明は、上記のメッシュ状フック面ファスナーが係止具として縫製により取り付けられている靴、サポーターまたはベルトを提供し、、また染色により蛍光染料が付与されている面ファスナーが用いられている上記の靴、特にスポーツ靴を提供する。
【0024】
そして、本発明は、基体シート(A)およびその表面側に存在する多数のフック型係合素子(B)を有してなるフック面ファスナーであって、前記基体シート(A)が、線状部(a1)が同一平面に間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている線状部群層(A1)と、その裏面から立ち上がる形状保持用突起列条(a2)が間隔をおいて平行に複数本並んで形成されている形状保持用突起列条群層(A2)とを備えてなり、前記線状部(a1)と前記形状保持用突起列条(a2)は交差し、その交差点で一体化されており、さらに前記基体シート(A)と前記フック型係合素子(B)が、共に熱可塑性エラストマー樹脂で構成されているメッシュ状のフック面ファスナーの長尺物をロール状に回巻した状態で、染料液と接触させて染色することを特徴とするメッシュ状フック面ファスナーの染色方法である。
【0025】
そして好ましくは、このような染色方法において、熱可塑性エラストマー樹脂がポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーであり、ポリエステルエラストマーの場合には染料液が分散染料を、またポリアミドエラストマーの場合には酸性染料を含んでいる染色方法である。また、染料液が蛍光染料を含んでいる上記の染色方法である。
【0026】
また、上記の染色方法において、メッシュ状のフック面ファスナーは、樹脂層(R)の表面に長さ方向に平行に存在しているフック型係合素子(B)となる複数のフック型係合素子用列条(K)と、裏面に長さ方向に平行に存在している複数の形状保持用突起列条(a2)とを有する帯状体に、該フック型係合素子用列条の頂部から前記樹脂層(R)と前記形状保持用突起列条(a2)との境界まで該帯状体の長さ方向と交差する方向に切れ目(E)を入れ、その後、該帯状体を長さ方向に延伸する方法で製造したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)およびフック型係合素子(B)の全てが熱可塑性エラストマーから形成されている。また基体シート(A)は、所定間隔毎に同一平面上に平行に複数配置された線状部(a1)の集合体である線状部群層(A1)と、線状部(a1)とは交差するように、所定間隔毎に同一平面上に平行に複数配置された形状保持用突起列条(a2)の集合体である形状保持用突起列条群層(A2)とを有してなる。形状保持用突起列条(a2)は、線状部(a1)の裏面から立ち上がっており、すなわち、線状部(a1)の裏面側に形状保持用突起列条(a2)が重なり合う形で、線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)は一体化されている。それにより、隣接する2本の線状部(a1)と隣接する2本の形状保持用突起列条(a2)により取り囲まれた開口部が多数形成されていることとなる。
【0028】
この無数の開口部により、染色の際に、この開口部からも染色液の出入りが行われることとなる。したがって、従来の成形面ファスナーのように、染色液の流れが、ロール状に回巻した成形面ファスナーの重なり合う基体シート間の隙間に平行な方向のみに限定される場合のように、ロール状に回巻した成形面ファスナーの巻き付け状態の隙間の間隔が極めて均一であることが求められずに、均一に染め斑なく濃色に染色された面ファスナーが容易に得られることとなる。
【0029】
さらに、本発明のメッシュ状フック面ファスナーの場合には、裏面側に存在している形状保持用突起列条(a2)が、面ファスナーをロール状に回巻したときに、面ファスナー間の隙間距離を保つ働きを有しており、この形状保持用突起列条(a2)の存在により染料液と充分に接触できることとなり、均一に染め斑なく染色できることとなる。特に形状保持用突起列条(a2)の長さ方向に直角な面での断面形状が、シート層(A1)から突出する軸部とその軸部の中間又は先端に膨らみ部を有する形状を有している場合には、この膨らみ部が、面ファスナーを回巻してロール状として染色する際に、面ファスナー表面に存在しているフック型係合素子の間に形状保持用突起列条(a2)が陥没してしまうことを防ぎ、面ファスナー間の隙間間隔を保つことが容易となり、より一層染斑なく均一に染色できることとなる。
【0030】
したがって、本発明の成形面ファスナーの場合には、無数の開口部が存在していること、さらに裏面側に形状保持用突起列条(a2)が存在していること、好ましくはその中間部または先端部に膨らみ部が存在していることにより、染色性が著しく改善されることとなる。
【0031】
また、この無数の開口部は、熱可塑性エラストマーとの相乗効果により、本発明のフック面ファスナーは柔軟であり、高い伸縮性を有し、取り付け対象物への沿形性が高いこととなる。したがって、面ファスナーが取り付けられていることにより、柔軟性が損なわれることなく、さらに手触り感も極めて優しい。
【0032】
さらに、この無数の開口部と熱可塑性エラストマーとの相乗効果により、フック型係合素子に多大の力が掛かっても、その力を、基体シートのメッシュ構造により吸収できる。そのため、従来の成形面ファスナーのように、フック型係合素子のみが多大な力を支える結果、フック型係合素子の突出部がステム部から切断されることが生じることが少ない。また本発明の成形面ファスナーの場合には、熱可塑性エラストマーからなるメッシュ構造であることにより、基体シートに掛かる力が基体シートに広く分散されるため、基体シートの特定場所に力が集中して基体シートが裂けたりすることを防ぐことが可能となる。
【0033】
さらに、フック型係合素子に掛かる力が熱可塑性エラストマー製のメッシュ構造により広範に分散され、特定のループ状係合素子に力が集中することを防ぎ、その結果、係合相手のループ面ファスナーのループ状係合素子が損傷されることを防ぐことができる。
【0034】
なお、前記した特許文献2には、メッシュ状の成形フック面ファスナーを非エラストマー系の熱可塑性樹脂から製造すること、具体的にはエラストマー系樹脂を非エラストマー系熱可塑性樹脂と積層して成形面ファスナーを製造することが記載されている。しかしながら、このような方法により製造された成形面ファスナーの伸縮性は非エラストマー樹脂により支配されることから、エラストマー系樹脂を用いることによる伸縮性のメリットが大きく妨げられることとなる。
本発明では、フック型係合素子(B)および基体シート(A)の表面から裏面の形状保持用突起列条群層(A2)に至る全て、すなわち面ファスナーの全てがエラストマー系の熱可塑性樹脂により形成されていることから、特許文献2のような問題を生じない。
【0035】
しかも、本発明のメッシュ状フック面ファスナーを構成する樹脂が熱可塑性エラストマー、特にポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーである場合には、エラストマーのソフトセグメント領域に容易に染料が侵入し易く、極めて濃色かつ染め斑なく均一に染色された成形面ファスナーが後染法により容易に得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明のメッシュ状フック面ファスナーの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明のメッシュ状フック面ファスナーの製造に用いられる押し出し成形用ノズルの一例の一部の断面図である。
【
図3】本発明のメッシュ状フック面ファスナーを製造する途中の、押し出された成形物(シート状の帯状体)に切れ目を入れた時点での一例の斜視図である。
【
図4】
図3の切れ目を入れた成形物をX方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)の好適例として、
図1に示すような面ファスナーが挙げられる。
図1のフック面ファスナー(1)では、線状部(a
1)の表面側にフック型係合素子(B)が立設されており、さらにフック型係合素子(B)は、線状部(a
1)の裏面側に存在している形状保持用突起列条(a
2)の長さ方向に一定の間隔で列をなして並んでいる。ここで、基体シート(A)は、所定間隔毎に同一平面上に平行に複数配置された線状部(a
1)の集合体である線状部群層(A
1)と、線状部(a
1)とは交差するように、所定間隔毎に同一平面上に平行に複数配置された形状保持用突起列条(a
2)の集合体である形状保持用突起列条群層(A
2)とを有してなる。
【0038】
図1から明らかように、フック型係合素子(B)は、いずれも、基体シート(A)の表面(正確には線状部(a
1)の表面)からほぼ垂直に立ち上がっている。そして、各フック型係合素子(B)は、根元部(基体シート(A)、正確には線状部(a
1)の表面)から延びたステム部(S)とその途中または頂部から線状部(a
1)の長さ方向に広がっている突出部(M)からなっている。
図1ではステム部(S)の頂部から突出部(M)は突出している。
【0039】
突出部(M)は、ステム部(S)から両側に突出していても、片側のみに突出していても、さらには上下多段に突出していてもよい。
図1は、ステム部(S)から突出部(M)が両側に一段で突出している場合を表している。フック型係合素子は、T字型、矢じり型、逆J字型、逆L字型等の形状を有しており、突出部(M)の下面側が、係合したループ面ファスナーのループ状係合素子繊維を留める機能を有している。
図1はT字型の場合である。
【0040】
そして個々のフック型係合素子(B)の側面と、線状部(a
1)の幅方向の面は、後述する製造方法から当然の結果として、
図1に示すように同一面を形成している。さらに線状部(a
1)の長さ方向(
図1の矢印方向)の横断面は、
図1に示すように、上面と下面と両側面(すなわち後述する切れ目挿入により形成される切断面)に囲まれた四角形の正方形、長方形または平行四辺形のいずれかの形状を有している。そして、線状部(a
1)は、同一平面に間隔をおいて平行に複数本並んで基体シート(A)の上層、すなわちフック型係合素子(B)に近い層としての線状部群層(A
1)を形成している。
【0041】
また、基体シート(A)の下層、すなわち形状保持用突起列条群層(A
2)を形成する形状保持用突起列条(a
2)は、
図1に示すように、線状部(a
1)と交差する方向に交わっている。各形状保持用突起列条(a
2)も、線状部(a
1)と同様に、隣り合って平行に存在している形状保持用突起列条(a
2)と間隔をおいて同一面に並んでいる。その結果、基体シート(A)は、隣り合う2本の線状部(a
1)と隣り合う2本の形状保持用突起列条(a
2)により形成された開口部(10)が多数形成されており、この開口部(10)から染色の際に染色液が出入りして、成形されるフック面ファスナー(1)の染色の均一性が格段に向上することとなる。
【0042】
このように、本発明のフック面ファスナー(1)は、基体シート(A)が、構成している線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)のそれぞれが、いずれも間隔をおいて平行に並んでおり、これら線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)は同一面には存在しないが、交差して重なり合って一体化されており、その結果、メッシュ状となっていることが特徴である。構成する樹脂は、熱可塑性エラストマー樹脂が用いられることが好ましい。
【0043】
熱可塑性エラストマー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、ポリアミドエラストマー樹脂、ポリオレフィン系エラストマー樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、ポリエステルエラストマー等が挙げられ、これらエラストマー樹脂は一般的にソフトセグメント領域に染料分子が吸着し易く、染色することにより濃色の染色物が得られ易いが、なかでもポリエステルエラストマーとポリアミドエラストマーが他のエラストマー樹脂と比べて特に染色性に優れており、ポリエステル繊維やナイロン繊維を染色するのと同一染色条件で分散染料や酸性染料により極めて鮮やかに染色できることとなる。
【0044】
しかもポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーは、他のエラストマー樹脂と比べて、弾性率が高いにもかかわらず、エラストマーの性質を充分に有している樹脂であり、相対的な動きが様々な方向から生じても面ファスナーの追従性に優れ、かつ容易に破損されることがなく、係合相手との係合が容易に解除されることのないフック面ファスナーが得られ、さらにフック面ファスナーを縫製により取り付けた場合であってもミシンや手縫いにより生じた縫目からの裂けも生じ難い。
【0045】
ポリエステルエラストマーは、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする樹脂にポリオキシテトラメチレングリコールを共重合したものであり、他の一般的エラストマー樹脂、例えばポリウレタン、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等より、前記したように弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している樹脂である。本発明において、好ましくは、ポリエステルエラストマー中における[ポリ(オキシテトラメチレン)]テレフタレート基の割合が40~70重量%、さらに好ましくは50~60重量%の範囲の場合である。
【0046】
またポリアミドエラストマーは、ナイロン6ブロック、ナイロン11ブロック、ナイロン12ブロック等のポリアミドブロックをハードセグメント成分、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルや脂肪族ポリエステル等をソフトセグメント成分とするエラストマーであり、ポリエステルエラストマーと同様に、他の一般的エラストマー樹脂より弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している。本発明において、好ましくはソフトセグメントの割合が30~80重量%である。
【0047】
このように本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、ポリエステルエラストマー単独あるいはポリアミドエラストマー単独で形成されている場合が最も好ましいが、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーあるいはこれらの混合物が用いられている場合には、さらにそれら以外のエラストマー樹脂、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等がブレンドされていてもよく、エラストマー以外の樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が少量成分としてブレンドされていてもよい。さらにそれ以外に、可塑剤、各種安定剤、耐候剤、架橋剤、抗菌剤、充填剤、防炎剤、帯電防止剤、補強材、導電剤等が添加されていてもよい。
【0048】
そして、このようなポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーであっても、単に従来のような樹脂シートからなる開口部を有さない連続する基体層に使用するだけでは、十分な伸縮性と沿形性は得られず、また取り付け対象物のしなやかさや風合いを損なわないことを防ぐことは難しく、さらにフック型係合素子に掛かる力を広く基体シートに分散することは難しい。
【0049】
本発明では、この問題点を、基体シート(A)を伸縮性あるメッシュ構造とすることにより解決している。また、メッシュ構造であることによりフック型係合素子(B)に掛かる力を分散して、フック面ファスナー(1)が破壊されることを防いでいる。つまり、特定のフック型係合素子に多大に力が掛かり、フック型係合素子が破壊されることを、伸縮性あるメッシュ構造により、複数のフック型係合素子に力を分散することにより防いでいる。
【0050】
フック型係合素子(B)が熱可塑性エラストマーから構成される場合、フック型係合素子(B)に多大な力がかかるとフック型係合素子(B)が傾き、ループ素子がフック型係合素子(B)から外れ易い傾向を示す場合があるが、フック型係合素子(B)が傾くことを減らすためには、フック型係合素子(B)の高さを従来のものより低くすることが好ましい。具体的には、従来の押出成形により製造された成形面ファスナーは、一般にフック型係合素子の高さが1.2~2.0mmの範囲であるが、本発明ではフック型係合素子(B)の高さを0.5~1.1mmと、従来のものより低くするのが好ましく、より好ましくは0.6~0.9mmの範囲である。
【0051】
そして、本発明では、このような小型のフック型係合素子(B)の密度として30~70個/cm
2の範囲が好ましい。またこのような小型のフック型係合素子(B)の列が成形されるフック面ファスナー(1)の延伸方向と直角な方向に1cm当たり3~8本存在していることが、係合力や面ファスナーの強度の点で好ましい。なお、
図1において、矢印方向が延伸方向である。
【0052】
フック型係合素子(B)は、
図1に示すように、ステム部(S)とそのサイドに広がる突出部(M)からなり、かつ線状部(a
1)の長さ方向に突出部(M)はステム部(S)からはみ出して拡がっているが、線状部(a
1)の長さ方向以外に突出部(M)がはみ出していないことが好ましい。そして、突出部(M)は、ステム部(S)から先端に至るまでほぼ同一の幅を有している。ステム部(S)と突出部(M)および線状部(a
1)の幅方向は、前記したように、同一面であることから、これらの幅は同一であり、0.2~0.5mmの範囲が係合力と面ファスナーの強度の点で好ましく、より好ましくは0.3~0.4mmの範囲である。
【0053】
フック型係合素子(B)のステム部(S)の高さ方向の中間部での線状部(a
1)に平行な面での断面積としては、0.05~0.20mm
2、突出部(M)のステム部(S)からの突出長(
図1の矢印方向(延伸方向))に直交する方向に沿った長さ)としては0.3~1.0mm、突出部(M)の平均厚さ(ステム部(S)の高さ方向に沿った長さ)としては0.15~0.50mmが、それぞれ係合力と強度の点で好ましい。また線状部(a
1)の厚さ(ステム部(S)の高さ方向に沿った長さ)としては0.1~0.4mmの範囲が、また隣り合う線状部(a
1)との間隔としては、間に0.2~1.0mmの幅の空間が形成される程度が係合力、強度、および伸縮性、さらに染色性の点で好ましい。
【0054】
このような本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、前記したように、表面に長さ方向に平行に存在している複数のフック型係合素子用列条、裏面に長さ方向に平行に存在している複数の形状保持用突起列条を有する基体シートの帯状体に、
図3に示すように、該フック型係合素子用列条の頂部から基体シートの裏面まで至るが形状保持用突起列条には至らない切れ目を該帯状体の長さ方向と交差する方向に入れ、そして該帯状体を長さ方向に延伸する方法により製造される。
【0055】
より詳細に説明すると、熱可塑性エラストマー樹脂の溶融物を
図2に示すようなスリット状ノズルから押し出し、冷却固化して、表面に複数のフック型係合素子用列条(K)、裏面に複数の形状保持用突起列条(a
2)、中間に樹脂層(R)を有する幅広のシート状の帯状体(20)をまず形成する。
図2の、Fがフック型係合素子用列条(K)用のスリット部、Gが中間の樹脂層(R)用のスリット部、Hが形状保持用突起列条(a
2)用のスリット部を表す。そしてこのシート状の帯状体(20)に、
図3および
図4に示すように、この該帯状体(20)の長さ方向と交差する方向(すなわち
図3に示すX方向)に、フック型係合素子用列条(K)の頂部からその下の樹脂層(R)の裏面までに至る切れ目(E)を入れ(すなわち形状保持用突起列条(a
2)には切れ目を入れず)、そしてこのように切れ目(E)を入れた帯状体(20)をその長さ方向(
図3のX方向と直交する方向)に延伸する。これにより、メッシュ状フック面ファスナー(1)が形成される。
【0056】
なお樹脂層(R)の厚さとしては、0.1~0.4mm、特に0.2~0.3mmの範囲が好ましい。この厚さは延伸を行った後においても殆ど変わらない。したがって、この樹脂層(R)がメッシュ状フック面ファスナー(1)の線状部(a1)となることから、この厚さが線状部(a1)の厚さとなる。
【0057】
また、樹脂層(R)の幅(すなわち延伸前のシート状の帯状体(20)の
図3の矢印X方向の長さ)としては10~200mm、特に50~150mmが好ましい。余りに幅広い場合には、フック型係合素子用列条および樹脂層に高速で均一な深さで切れ目を入れるのが困難となる。
【0058】
従来のメッシュ状でない成形面ファスナーの場合、幅40mm以上の幅の広いシート状の帯状体の形態でロール状に回巻して染色すると、染色液はロール状回巻物のロールの上下から面ファスナーの面に平行な方向のみの流れであることから染色斑が極めて生じ易く、それを防ぐために広幅のテープ状物を細幅にスリットして染色していたが、本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)の場合には、基体シート(A)に無数に存在する開口部(10)から染色液が出入りできることおよび裏面に形状保持用突起列条(a2)が突出して存在していることから、そのまま染色することができる。したがって、シート状の帯状体(20)の形態で、その幅が40mm以上の幅の広いものであっても染斑のない染色が可能となる。
【0059】
フック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)に入れる切れ目(E)は、0.2~0.5mm間隔で、特に0.3~0.4mm間隔で、間隔が一定となるように平行に入れるのが好ましい。この間隔が線状部(a1)の幅およびフック型係合素子(B)の幅となる。
【0060】
切れ目(E)は、樹脂層(R)の長さ方向(
図3の矢印X方向と直交する方向(延伸方向))に対して35~90度の角度で入れるのが係合力等の点で好ましい。特に、延伸後において、線状部(a
1)と形状保持用突起列条(a
2)が直角ではなく30~85度の角度で交わることとなるように入れることが、フック面ファスナー(1)の幅方向に伸縮性を与え、ひいては係合素子からの力により面ファスナーが破壊することを軽減する上で好ましい。線状部(a
1)と形状保持用突起列条(a
2)が30~85度の角度で交わる場合には、開口部の形状は平行四辺形となる。
【0061】
本発明では、
図3~
図4に記載されているように、フック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)の裏面の形状保持用突起列条(a
2)の付け根(樹脂層(R)との境界、すなわち、延伸後の線状部(a
1)との境界)まで切れ目を入れるが、これらフック型係合素子用列条(K)と樹脂層(R)と形状保持用突起列条(a
2)を構成する樹脂は、いずれも熱可塑性エラストマーから形成することが好ましい。これにより、沿形性に優れて、樹脂層が平坦となり易く、形状保持用突起列条(a
2)の付け根まで確実に切れ目を入れることが容易となる。
【0062】
切れ目(E)は、樹脂層(R)面に対して垂直に入れてもよいし、また若干の角度を付けて入れてもよい。
図3や
図4では垂直に入れた場合を記載している。垂直に入れた場合には、線状部(a
1)の前記断面形状が正方形または長方形となり、角度を入れた場合には平行四辺形となる。
なお、上記したフック型係合素子(B)、線状部(a
1)、形状保持用突起列条(a
2)の寸法や本数や密度等は、任意に選んだ10個の値の平均値である。
【0063】
そして、次に、このような切れ目(E)を入れたシート状の帯状体(20)を長さ方向(
図3の矢印X方向と直交する方向)に延伸する。延伸倍率としては、延伸後のシート状の帯状体(20)の長さが元の帯状体(20)の長さの1.5~2.5倍となる程度が採用される。このような延伸を行なうことにより切れ目間隔が広がり、樹脂層(R)が、独立した線状部(a
1)が同一平面に平行して存在する線状部群層(A
1)となるとともに、フック型係合素子用列条(K)が、一つ一つ独立したフック型係合素子(B)の列と変わる。一方、樹脂層(R)の裏面に存在している形状保持用突起列条(a
2)は切れ目が入れられていないことから、延伸後においても連続した列条の形状を保ち、線状部(a
1)を固定してシート形状を保持する突起列として働くこととなる。
【0064】
延伸により、切れ目の間隔は0.2~1.0mmとなるのが、均一染色性、面ファスナーの柔軟性、沿形性等の点で好ましい。
そして、形状保持用突起列条(a
2)は、延伸により断面形状は変わらないが、長さ方向に延伸されることから断面積が相似形で縮小することとなる。
図1は、延伸した後の形状を模式的に示したものである。
【0065】
その結果、基体シート(A)は、樹脂層(R)から生じた線状部(a1)の同一平面上での集合体である線状部群層(A1)と裏面側の延伸された形状保持用突起列条(a2)の同一平面上での集合体である形状保持用突起列条群層(A2)とから構成されることとなる。そして、延伸の結果、形状保持用突起列条(a2)は延伸されて、その長さ方向に連続しており、かつ分子配向していることとなる。一方、線状部(a1)は延伸されないことから、延伸前とほぼ同一で、その長さ方向に分子配向されていない。
【0066】
形状保持用突起列条(a
2)は、長さ方向に直角な面での断面が、
図1に示すように、線状部群層(A
1)から立ち上がる軸部(C)とその軸部の中間又は先端に存在する膨らみ部(D)を有する形状を有していることが好ましい。これにより、加わる力に対して容易に破損されないという利点を有する。また、本発明のフック面ファスナー(1)をロール状に回巻して染色する際、巻いた状態では表面のフック型係合素子(B)と裏面の形状保持用突起列条(a
2)が重なり合う。その際に、表面のフック型係合素子(B)の中に裏面の形状保持用突起列条(a
2)が埋没して両者間の隙間距離を保つことが難しくなることを防ぐ。その結果、染色液と均一に接触でき、染色斑のない均一な色調の面ファスナーが得られ易いことから好ましい。
【0067】
特に、膨らみ部(D)が軸部(C)の先端部に存在していること、また膨らみ部(D)の幅が、軸部(C)の幅の1.5~4倍であるような膨らみ部(D)を有しているのが好ましい。フック面ファスナー(1)の表面に存在しているフック型係合素子(B)が比較的高さの低いものであり、染色する際にフック面ファスナー(1)をロール状に回巻したときに、重なり合う表面および裏面間の隙間が狭くなりがちであるが、裏面にこのような形状保持用突起列条(a2)が存在していることにより、ロール状に回巻したときの表面および裏面間の隙間が狭くなり染色斑が生じることを解消している。
【0068】
膨らみ部(D)の横断面形状としては、円形、楕円形、矩形等のいずれでも良く、形状保持用突起列条(a
2)の長さ方向に直角な面での断面形状としては、キノコ型、傘型、T字型、Y字型、逆J字型、逆L字型等のいずれでも良い。
図1では、膨らみ部の横断面形状が長円形、形状保持用突起列条(a
2)の長さ方向に直角な面での断面形状がキノコ型の場合を示している。
【0069】
そして、形状保持用突起列条(a2)の高さとしては0.4~1.0mmが、また膨らみ部(D)の両サイドへの広がりがそれぞれ0.4~1.0mmが染色の際に回巻したフック面ファスナー(1)の重なり合う表面および裏面間の隙間距離を保ち、染色斑が生じることを防ぐ上で好ましい。そして、形状保持用突起列条(a2)の長さ方向に直角な面での断面積としては0.2~0.7mm2が、また膨らみ部(D)の断面積が形状保持用突起列条(a2)全体の断面積の40~60%であるような形状がフック面ファスナー(1)の強度、さらに染色の際に回巻した際の表面および裏面間の距離を保ち、染斑が生じることを防ぐ上で好ましい。
さらにこのような形状保持用突起列条(a2)が成形されるフック面ファスナー(1)延伸方向と直角な方向に1cm当たり3~8本存在しているのが、フック面ファスナー(1)の強度および染色の際に回巻した表面および裏面間の距離を保ち、染斑が生じることを防ぐ上で好ましい。
【0070】
また、表面側に存在しているフック型係合素子(B)の高さと裏面側に存在している形状保持用突起列条(a2)の高さの比としては、1:0.8~1:0.98の範囲が好適で、一方、フック型係合素子(B)の突出部両端部間の距離と形状保持用突起列条(a2)の膨らみ部(D)の両サイドへの広がりの比に関しては、フック型係合素子(B)に掛かる力を充分に保持できることから、さらに染色の際に回巻した状態で、形状保持用突起列条(a2)がフック型係合素子(B)の間に陥没して、表面および裏面間の隙間距離を保てなくなって染斑が生じることを防ぐ上で0.7:1~0.95:1の範囲が好ましい。
【0071】
また、表面に存在するフック型係合素子(B)の列と裏面に存在する形状保持用突起列条(a2)は、中間の線状部群層(A1)を挟んで、背中合わせで存在していても、あるいは位置をずらして存在していてもよいが、フック面ファスナー(1)が係合素子等からの力により破壊されることを防ぐ上から、背中合わせで存在しているのが好ましい。すなわち、フック型係合素子(B)を引っ張る力が加わった場合に、フック型係合素子(B)の付け根が分子配向された形状保持用突起列条(a2)により長さ方向に補強されていることから破壊が生じることを防ぐことができる。
【0072】
さらに背中合わせで存在している場合には、染色の際にフック面ファスナー(1)を回巻してロール状とした際に、重なり合う箇所で形状保持用突起列条(a2)とフック型係合素子(B)の列が一致して、表面および裏面間が距離を保ち易く、その結果、均一な染色が可能となることからも好ましい。
【0073】
このようにして得られた本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、次のように染色される。
染色は、チーズ染色装置またはオーバーマイヤー方式の染色装置を用い、バッジ式で行われる。すなわち、本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)をロール状に回巻した長尺の状態、具体的には長さ50~300mの本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)をロール状に巻き、このロール状物を仕切板に載せ、このような仕切板を複数枚上下方向に積層して染色釜内に挿入し、そして、釜内に染料液を循環させてフック面ファスナー(1)と染色液を接触させる方式で行われる。
【0074】
本発明のフック面ファスナー(1)ではメッシュ状となっているため、前記したように、ロール状に回巻したフック面ファスナー(1)の上下からのみならず開口部(10)を有する側面からも染色液が出入り可能であること、さらに裏面に形状保持用突起列条(a2)が突出して存在していることから、幅が40mm以上の広幅のフック面ファスナー(1)でも染斑なく濃色に染色でき、したがって染色できるフック面ファスナー(1)の幅が限定されないメリットを有している。本発明により、広幅の染色された成形面ファスナーが得られ、したがって用途範囲が大きく拡大する。
【0075】
染色に用いる染料としては、フック面ファスナー(1)を構成するエラストマー樹脂の種類に応じて最適な染料が用いられ、本発明において最も好ましいエラストマー樹脂であるポリエステルエラストマーの場合には、分散染料を用いた高温高圧染色が、またポリアミドエラストマーの場合には、酸性染料を用いた高温高圧染色がそれぞれ行われる。その結果、染色斑なく均一かつ濃色に染色できることとなる。
【0076】
具体的な染色条件としては、例えば110~150℃(好ましくは120~140℃)程度で、10分~5時間(好ましくは、20分~1.5時間)程度染色すると、フック型係合素子(B)と基体シート(A)がともにほぼ同等の色相を有する染め斑のないフック面ファスナー(1)が得られる。
【0077】
また、染料として蛍光染料を用いると、スポーツ用品や子供用品等に適した鮮やかな蛍光色を有する成形面ファスナーが得られる。蛍光色に染色する際に用いる染料は、フック面ファスナー(1)を構成する樹脂がポリエステルエラストマーの場合にはポリエステル繊維用蛍光分散染料、フック面ファスナー(1)を構成する樹脂がポリアミドエラストマーの場合にはナイロン繊維用蛍光酸性染料がそれぞれ好ましい。
このような染料を染色対象物である成形面ファスナーに対して0.5~2重量%の量で溶解させ、通常の染色助剤を配合した110~150℃の水溶液中に成形面ファスナーを浸漬して20~60分間染色するのが好ましい。
【0078】
このように染色された本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、通常のフック面ファスナーが用いられている用途に使用できるが、なかでもスポーツ靴や幼児の靴、サポーターやベルト等の、色調が鮮やかでかつ色斑がないことが高度に要求されたり、鮮やかで色斑ない蛍光色が求められたりする用途分野に好適に用いられる。その際の面ファスナーの取り付け方法としては、縫製により取り付ける方法が好ましい。
【0079】
さらに、本発明の染色されたメッシュ状フック面ファスナー(1)は、これを金型内にセットし、エラストマー樹脂を注入して、エラストマー樹脂シート表面に当該フック面ファスナー(1)が一体化されているシートをいわゆるインサート成形により製造する方法にも使用でき、具体的には、金型内に設けた凹部にメッシュ状フック面ファスナー(1)を、そのフック型係合素子(B)が凹部底側となるようにセットし、そしてその状態でエラストマー樹脂を金型内に注入して、メッシュ状フック面ファスナー(1)が表面に一体化されたエラストマー樹脂シートを製造することができる。その際には、形状保持用突起列条群層(A2)が埋設素子となるようにし、メッシュ状フック面ファスナー(1)のフック型係合素子(B)と線状部(a1)がシート面から露出しているようにし、かつフック型係合素子(B)と線状部(a1)の色調とシートの色調を異なるものとすることにより、シート上に鮮やかな色調のフック面ファスナー(1)が浮き上がることとなり、さらにメッシュ状フック面ファスナー(1)が裏面に一体化されたエラストマー樹脂からなるシートにより補強されることとなり、スポーツ靴や子供用靴などの止め具としてより一層適したものとなる。
【0080】
なお、フック型係合素子(B)と線状部(a1)が露出しているようにするためには、インサート成形に先立って、フック型係合素子(B)と線状部(a1)の表面をシリコンゴム等で被覆し、これらフック型係合素子(B)と線状部(a1)がインサート成形の際に注入したエラスト―樹脂で覆われないようにするのが好ましい。そしてインサート成形後にシリコンゴム等を除去する。
【0081】
このような、インサート成形の際に注入する樹脂としては、メッシュ状フック面ファスナー(1)の優れた柔軟性や沿形性を大きく損なわない上から、エラストマー系の樹脂が好ましく、より好ましくは、メッシュ状フック面ファスナー(1)と同一のポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーが用いられる。そして、インサート成形により得られる樹脂シートの厚さとしては0.5~4mmの範囲、特に1.5~3.5mmの範囲が補強効果と柔軟性等の点から好ましい。
もちろん、メッシュ状フック面ファスナー(1)の裏面全面をエラストマー樹脂シートで覆ってもよいし、またメッシュ状フック面ファスナー(1)の裏面の一部、例えば耳部近辺のみをエラストマー樹脂シートで覆ってもよい。
【0082】
次に本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)の取り付け方法について説明すると、通常、織面ファスナーや編面ファスナーの場合には縫製により布地に取り付けるという方法が用いられているが、成形面ファスナーの場合には、用いられている樹脂が硬過ぎてミシン針が貫通できないことから、あるいは用いられている樹脂が柔らかいものである場合には縫目から面ファスナーが容易に裂ける等の問題があることから成形面ファスナーを縫製により布地に取り付けるという方法は殆ど用いられていない。
【0083】
しかしながら本発明の成形面ファスナーであるメッシュ状フック面ファスナー(1)の場合には、ミシン目からの裂けが生じ難いポリエステルエラストマーあるいはポリアミドエラストマーを用いていることと、メッシュ構造を有している効果により、ミシン目から裂けが生じることを高度に阻止でき、したがって面ファスナーの取り付け方法としては、縫製により布地に取り付けることが好ましいこととなる。縫製方法としてはミシンを用いる方法でも、あるいは手縫いでもどちらでもよい。
【0084】
さらに本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、エラストマーから形成されており、しかもメッシュ構造であることから、極めて柔軟であり、かつ肌触りが優しく、さらに係合素子が従来の面ファスナーと比べて小型であることから係合隙間が狭くなり、さらに染色により濃色かつ色斑なく染色されていることから、衣類類、靴、ベルト、サポーター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0085】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中、係合力は、係合する相手として、クラレファスニング(株)製ループ織面ファスナーE40000を用いた場合の引張せん断強さと剥離強さについて、初回の係合力の値を測定した(測定方法は、JISL3416に従った)。測定する際のサンプル数は10個であり、10個の平均値を以って、そのものの値とした。また、面ファスナーの沿形性に関しては官能評価により調べた。
【0086】
実施例1
成形に用いる樹脂として、熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製ハイトレル、製品番号6377)を用い、
図2に示すような押し出しノズルから同樹脂を押し出し、水中に投入して冷却して、
図3に示すような樹脂層の表面側にフック型係合素子用列条(K)、裏面側に形状保持用
突起列条(a
2)を長さ方向に平行に有する幅72mmのシート状の帯状体(20)を得た。表面のフック型係合素子用列条(K)の本数および裏面側の形状保持用
突起列条(a
2)の本数はともに帯状体(20)の幅方向に32本/72mmであり、フック型係合素子用列条(K)および形状保持用
突起列条(a
2)は中間の樹脂層(R)を挟んで、背中合わせで存在している。
【0087】
次にこの72mm幅の帯状体(20)の表面のフック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)に、帯状体(20)の幅方向から30度の角度で、0.4mm間隔で切れ目を入れた。なお、裏面側の形状保持用
突起列条(a
2)には切れ目は入れていない。そして、このような切れ目を入れた帯状体(20)を次に2倍に延伸した。これにより表面のフック型係合素子用列条(K)はフック型係合素子(B)の列となり、中間に存在していた樹脂層(R)は、
図1の矢印に直交する方向すなわち延伸方向に直交する方向に沿った長さ(基体シート(A)の幅)が70mmの線状部群層(A
1)となった。一方、裏面側の形状保持用
突起列条(a
2)には切れ目は入れていないので、延伸されて長さ方向に分子配向されて形状保持用突起列
条(a
2)となった。
【0088】
得られたフック面ファスナー(1)は、幅70mmのメッシュ状のフック面ファスナー(1)であった。具体的には、基体シート(A)が、幅70mmで厚さ1.5mmの線状部(a1)が同一平面間に0.5mmの空間をおいて平行に並んで形成されている線状部群層(A1)と、断面形状が、軸部(C)とその先端部が膨らみ部(D)となっている形状保持用突起列条(a2)が同一平面に2.4mmの間隔をおいて平行に並んで形成されている形状保持用列条群層(A2)からなり、線状部群層(A1)の裏面側に形状保持用列条群層(A2)が一体化された構造を有し、かつ線状部(a1)と形状保持用突起列条(a2)は角度60度で交差し、その交差点で線状部群層(A1)と形状保持用列条群層(A2)は一体化されており、さらに線状部(a1)の表面から高さ0.67mmのフック型係合素子(B)が係合素子密度41本/cm2で突出していた。
【0089】
得られた面ファスナーのフック型係合素子は、断面形状が矢じり型であり、高さ方向の中間部での線状部(a1)に平行な面での断面積が0.15mm2、突出部(M)のステム部(S)からの突出長は0.86mm、突出部(M)の平均厚さは0.25mm、ステム部(S)の幅は0.32mm、フック型係合素子(B)の列が面ファスナー延伸方向と直角な方向に1cm当たり4.5本存在していた。
【0090】
そして、形状保持用突起列条(a2)は、長さ方向に直角な面での断面が、線状部群層(A1)から立ち上がる軸部(C)とその軸部の先端に存在する膨らみ部(D)を有する形状を有しており、膨らみ部(D)の幅が、軸部(C)の幅の2.5倍である。膨らみ部(D)の横断面形状は楕円形で、長さ方向に直角な面での断面形状としては、キノコ型であり、さらに形状保持用突起列条(a2)の高さは0.64mm、膨らみ部(D)の両サイドへの広がりが0.81mm、形状保持用突起列条(a2)の長さ方向に直角な面での断面積は0.42mm2、また膨らみ部(D)の断面積が形状保持用突起列条(a2)全体の断面積の47%であり、さらにこのような形状保持用突起列条(a2)が面ファスナー延伸方向と直角な方向に1cm当たり4.5本存在しており、フック型係合素子(B)の列と形状保持用突起列条(a2)は間の線状部(a1)を挟んで背中合わせで存在している。
【0091】
このように得られたフック面ファスナー(1)を次に染色した。すなわち、上記方法で得られた幅70mm、長さ50mの長尺のフック面ファスナー(1)を、その幅の状態でロール状に回巻して、直径30cmのロール状物にし、このロール状物を仕切板に載せ、仕切板間に1cmの間隔を入れて3段に重ね合せ、オーバーマイヤー方式の染色装置内に挿入し、この染色装置内で紺色の分散染料を溶解した染色液を循環させ、135℃で60分間染色処理を行った。
【0092】
染色装置から取り出されたフック面ファスナー(1)は、ロールの内層部や外層部、染色装置内で置かれた場所、フック面ファスナー(1)の上下の場所、フック型係合素子(B)、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)等の部位にかかわらず、いずれも濃い紺色で、染斑なく、鮮やかに染色されていた。
【0093】
次に、この染色されたフック面ファスナー(1)の面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。
表1の結果、このフック面ファスナー(1)は、初期係合力および係合・剥離を1000回繰り返した後の係合力において優れ、さらに柔軟であることから沿形性においても優れたものであった。また、係合・剥離を1000回繰り返した後の、本発明のフック面ファスナー(1)及び係合相手のループ面ファスナーの状態を観察した結果、両者とも、全く損傷されていなかった。
【0094】
このフック面ファスナー(1)を、スニーカーの甲部分における足入れ部の左右の舌片同士を接合する接合部材として舌片上に縫製により取り付け、もう一方の舌片上に織物製のループ面ファスナーを取り付け、6か月間毎日着用したところ、面ファスナーは破壊されることなく、最初の係合強さを有しており、しかも本発明のフック面ファスナー(1)を取り付けたことにより舌片が硬くなり、履き心地が悪化したり、手触りが悪化したりするということも全くなかった。
【0095】
比較例1
上記実施例1において、シート状の帯状体(20)の表面に入れる切れ目を、フック型係合素子用列条(K)のみに入れ、樹脂層(R)および裏面側の形状保持用突起列条(a2)には切れ目(E)は入れていない以外は実施例1と同様にしてフック面ファスナーを製造した。得られた面ファスナーの基体シートは切れ目のない連続した樹脂シートの状態であり、このような樹脂シートの表面からフック型係合素子が立ち上がっており、裏面には形状保持用突起列が一体化された状態となっている。
【0096】
このようなフック面ファスナーを実施例1と同様に染色したところ、染色液が基体シートを全く貫通できず、ロール状物の面ファスナー面に平行に接触するだけであることから、ロール状物の内層部と外層部で染斑が見られ、しかも、長さ10cm単位でみても、フック面ファスナーの所々に染色が不十分な箇所が見られ、到底、均一に濃色に染色されたものであるとは言えなかった。
【0097】
次に、この染色されたフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。このフック面ファスナーは、係合力において優れているものの、沿形性に劣り、さらに係合・剥離を1000回繰り返した後において、フック型係合素子の中には、頭部が切断されているのが所々見られ、さらに基体シートにも、一部裂けた状態のところや裂ける直前の箇所が見られた。
【0098】
比較例2
フック面ファスナーを形成する樹脂を、ポリエステルエラストマーからポリエチレンテレフタレートに変更する以外は実施例1と同様にして、メッシュ状のフック面ファスナーを製造した。そして、得られたメッシュ状フック面ファスナーを実施例1と同様に染色した。染色されたメッシュ状フック面ファスナーは、実施例1のものと比べて、濃色の点でわずかに劣るものの、比較例1のものと比べて、染色斑の点では遥かに優れていた。また、切れ目(E)を入れる際に、フック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)の裏面の形状保持用突起列条(a2)の付け根まで確実に切れ目を入れることが難しく、形状保持用突起列条(a2)の軸部の中間ぐらいまで切れ目が入っているものや、樹脂層の中間までした切れ目が入っていないものが見られ、これらが面ファスナーの見栄えと係合力のバラつきをもたらした。
【0099】
次に、この染色されたポリエチレンテレフタレート製のフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。表1の結果、このフック面ファスナーは、全体的な係合力において一応優れているものの(上記の通りバラつきがあった)、伸縮性と柔軟性に劣り、さらに沿形性にも大きく劣り、サポーター等の柔軟性や沿形追従性が求められる用途には適したものでないことが分かった。
また、係合・剥離を1000回繰り返した後の、この比較例のフック面ファスナー及び係合相手のループ面ファスナーの状態を観察した結果、フック型係合素子の中には、頭部が切断されているのが所々見られ、さらに係合相手のループ面ファスナーにも、一部ループ繊維が切断された状態のところが目立った。
【0100】
実施例2~5
上記実施例1において、形状保持用突起列条(a2)の長さ方向に直角な面での断面が、シート状物群層(A1)から立ち上がる軸部のみからなる高さ0.35mm、断面積0.21mm2の棒状突起形状(すなわち膨らみ部がない)に変更する以外は実施例1と同様にしてメッシュ状のフック面ファスナーを製造し、さらに実施例1と同様に染色を行った(実施例2)。
【0101】
得られた染色された面ファスナーは、ロールの内層部や外層部、染色装置内で置かれた場所、フック面ファスナーの上下の場所、フック型係合素子(B)、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)等の部位にかかわらず、いずれも濃い紺色に、染斑なく鮮やかに染色されていた。この染色されたフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。
このフック面ファスナーは初期係合力においては実施例1のものと同等であったが、伸縮性の点で実施例1のものよりわずかに劣り、係合・剥離を更に繰り返すと、形状保持用突起列条が破断される懸念があった。
【0102】
また上記実施例1において、帯状体(2)の表面のフック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)に入れる切れ目(E)の角度を帯状体(20)の幅方向に平行(即ち、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)のなす角度が90度)となるようにする以外は実施例1と同様にしてメッシュ状のフック面ファスナーを製造し、さらに実施例1と同様に染色を行った(実施例3)。
【0103】
得られた染色面ファスナーは上記実施例1のものと同様に、濃色に染色され、染斑のない優れたものであった。この染色されたフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。このフック面ファスナーは係合力においては実施例1のものと同等であったが、伸縮性、特に幅方向の伸縮性の点で実施例1のものよりわずかに劣り、幅方向の多大の引っ張り力が生じる用途に使用した場合には、面ファスナーの耐久性の点で問題となる可能性があることが分かった。
【0104】
また上記実施例1において、帯状体(20)の表面のフック型係合素子用列条(K)および樹脂層(R)に入れる切れ目(E)の間隔を0.7mmとする以外は実施例1と同様にしてメッシュ状のフック面ファスナーを製造し、さらに実施例1と同様に染色を行った(実施例4)。
【0105】
得られた染色面ファスナーは上記実施例1のものと同様に、濃色に染色され、染斑のない優れたものであった。この染色されたフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。このフック面ファスナーは係合力においては実施例1のものと同等であったが、伸縮性および沿形性の点で実施例1のものよりわずかに劣る結果となった。
【0106】
また上記実施例1において、押し出し成形に使用するノズルの、表面のフック型係合素子用列条(K)が押し出される部位の高さと幅および突出部の大きさを変更し、実施例1のものと比べて高さが2.0倍となるが断面形状は実施例1のものと相似形であるようにし、さらに切れ目間隔を2倍とする以外は実施例1と同様にしてメッシュ状フック面ファスナーを製造し、さらに実施例1と同様に染色を行った(実施例5)。
【0107】
得られた面ファスナーの染色状態は、実施例1のものと同様に、染色斑のない、均一かつ濃色に染色された物であった。そして、この染色されたフック面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。このフック面ファスナーは初期係合力においては実施例1のものより優れていたが、繰り返しの係合・剥離により、フック型係合素子の突出部が切断されるものが僅かに見られた。また沿形性においても実施例1のものよりもわずかに劣るものであった。その他の点においては実施例1のものと遜色のない、優れたものであった。
【0108】
実施例6
上記実施例1において、成形に用いる樹脂をポリエステルエラストマーからポリアミドエラストマー(東レ社製アミランU141)に変更する以外は実施例1と同様にして、表面にフック型係合素子(B)の列、中間にシート状物(a1)、そして裏面側に形状保持用突起列条(a2)を有する成形面ファスナーを製造した。これらの寸法や密度は実施例1のものと全く同一であった。
【0109】
このように得られた成形面ファスナーを実施例1と同様にロール状に回巻して仕切板に載せて、実施例1と同一の染色装置内で染色した。この染色装置内で深紅色の酸性染料を溶解した染色液を循環させ、125℃で60分間染色処理を行った。
染色装置から取り出された成形面ファスナーは、ロールの内層部や外層部、染色装置内で置かれた場所、フック面ファスナーの上下の場所、フック型係合素子(B)、線状部(a1)、形状保持用突起列条(a2)等の部位にかかわらず、いずれも濃い深紅色で、染斑なく、鮮やかに染色されていた。
次に、この染色された成形面ファスナーの面ファスナーとしての性能を調べた。その結果を下記の表1に示す。
【0110】
表1の結果、この成形面ファスナーは、実施例1のものと同様に、初期係合力において優れたものであったが、沿形性の点では実施例1のものよりわずかに劣るものであった。
また、係合・剥離1000回繰り返した後の、本実施例の成形面ファスナー及び係合相手のループ面ファスナーの状態を観察した結果、両者とも、全く損傷されていなかった。
この成形面ファスナーを、実施例1の場合と同様に、スニーカーの甲部分における足入れ部の左右の舌片同士を接合する接合部材として使用した。その結果、6か月間毎日着用後でも、面ファスナーは破壊されることなく、最初の係合強さを有しており、しかもこの成形面ファスナーを取り付けたことにより舌片が硬くなり、履き心地が悪化したり、手触りが悪化したりするということもなく、優れたものであった。
【0111】
【0112】
実施例7
実施例1において、得られた成形面ファスナーを、染料として黄色系蛍光分散染料[キワロンポリスターYG-10GF(紀和化学工業株式会社製)]用いて135℃で60分間染色する以外は実施例1と同様にして蛍光色に染色された成形面ファスナーを得た。なお、染色助剤としてニッカサンソルトSN-130とニッカサンソルト1200を成形面ファスナーに対して1.0重量%で使用した。
【0113】
染色された成形面ファスナーは、表面および裏面ともに鮮やかな黄色の蛍光色に均一に染斑なく染色されていた。この成形面ファスナーの面ファスナーとしての性能は、実施例1のものと殆ど変わらない極めて優れたものであった。そして、この成形面ファスナーを、バスケットボールシューズの甲部分における足入れ部の左右の舌片同士を接合する接合部材として使用した結果、1か月間毎日着用して激しい練習に使用した後でも、面ファスナーは破壊されることなく、最初の係合強さを有しており、しかもこの成形面ファスナーを取り付けたことにより舌片が硬くなり、履き心地が悪化したり、手触りが悪化したりするということもなく、優れたものであった。
【符号の説明】
【0114】
1:フック面ファスナー
10:開口部
20:帯状体
A:基体シート
A1:線状部群層
A2:形状保持用突起列条群層
a1:線状部
a2:形状保持用突起列条
B:フック型係合素子
S:ステム部
M:突出部
C:形状保持用突起列条の軸部
D:形状保持用突起列条の膨らみ部
E:切れ目
F:フック型係合素子用スリット部
G:樹脂層用スリット部
H:形状保持用突起列条用スリット部
K:フック型係合素子用列条
R:樹脂層