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特許7433319材料の硬さを測定および計算するためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】材料の硬さを測定および計算するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/42 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
G01N3/42 B
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021535627
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2019086018
(87)【国際公開番号】W WO2020127531
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】18214413.9
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511126992
【氏名又は名称】エスエスアーベー テクノロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・カルレスタム
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-201260(JP,A)
【文献】特公平06-005209(JP,B2)
【文献】米国特許第05490416(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104122205(CN,A)
【文献】特開2016-024079(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107796718(CN,A)
【文献】特開平09-210892(JP,A)
【文献】特開昭62-056840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の硬さ値を計算するための方法であって:
機器によって測定された、材料の表面に作成された圧こん(400)の3次元(3D)トポグラフィを表す生データのセットを受ける工程(302)と;
機器の測定品質に基づいて、生データのセットを処理することにより、生データのセットから完全なデータセットCDSを生成する工程(304)と;
CDSを、X-Y座標平面において、圧こんを表す円(500)を中央に有する2次元(2D)画像を表す2DデータセットCDS_2Dに変換する工程(306)と;
CDS_2Dにおいて円(500)のX-Y座標を使用することにより、CDSを2つのデータセット、すなわち円(500)の内側のデータを含む第1のデータセットCDS1と、円の外側の残りのデータを含む第2のデータセットCDS2とに分割する工程(308)と;
X-Y座標平面において、CDS2に基づいて、傾斜係数を計算する工程(310)と;
傾斜係数を用いてCDSを調整することにより、平準化された完全なデータセットCDS_Lを生成し、CDS_Lから、円の内側のデータを含む第1の平準化データセットCDS1_Lと、円の外側の残りのデータを含む第2の平準化データセットCDS2_Lとを再生成する工程(312)と;
CDS2_Lから、Z方向における平均値ZLを計算する工程(314)であって、該ZLは、材料表面の平均高さを表す、工程と;
ZL値をCDS_Lにおけるゼロレベルとして設定することにより、材料の元の表面を表すゼロ平面ZPを定義する工程(316)と;
材料表面の粗さ値Ra1をCDS2_Lから計算する工程(318)と;
Ra1を引いた、ゼロ平面を下回るCDS1_L内のすべてのデータを見いだすことによって、CDS1_Lから圧こんの完全なデータセットCDSIを生成する工程(320)と;
最小二乗法を使用して、CDSI内のすべてのデータ値に対して球の形状のフィッティングを行うことにより、球形状を選択する工程(322)であって、球の直径は、Sphere_1と呼ばれ、X-Y平面における球の原点は、Sphere_1の原点と呼ばれる、工程と;
CDS_L内のすべてのデータが、Sphere_1の原点を中心とするように、CDS_Lを調整する工程(324)と;
ゼロ平面ZPと球との交差部の第2の直径Diameter_2を計算する工程(326)と;
第2の直径Diameter_2に基づいて、第1のブリネル硬さ値HB_1を計算する工程(328)と
を含む前記方法。
【請求項2】
生データのセットを処理することは、
生データのセットの平均値の3標準偏差より外側の基準により、生データのセットの外れ値を除去すること、および欠損データおよび除去されたデータを、生データのセットにおける複数のその最近傍値の平均値で補填することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
傾斜係数は、X-Y座標平面において最小二乗法によって計算される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Sphere_1およびCDSIから、残りの差異を計算する工程(330)をさらに含み、残りの体積はoin_1と呼ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
coin_1の粗さRa_coin1を計算する工程(332)をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
CDS_Lから圧こんのプロファイルを生成する工程(334)をさらに含み、該プロファイルは、圧こんを作成するために使用された負荷およびボール直径を含み、完全なデータセットCDSの一部は、圧こんの半分の形状、および計算された第1のブリネル硬さ値HB_1を表す、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
硬さレベルの異なる大量の材料から測定および生成された圧こんのプロファイルを含む統計データベースを生成する工程(336)をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
圧こんは、様々な材料に対して、様々な負荷とボールサイズとの組合せによって作成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
標準的な2Dブリネル硬さ測定によって測定および生成された圧こんの対応するプロファイルを、統計データベースに含めることをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
材料の化学作用、厚さ、状態についてのデータを、統計データベースに含めることをさらに含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
HB_1を第2のブリネル硬さ値HB_2に変換する工程(338)をさらに含み、HB_1もHB_2もISO6506-1:2006規格に準拠しており、HB_2値は、従来の標準的な2Dブリネル硬さ評価法によって測定された硬さの同じ平均値に対応している、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
HB_2値へのHB_1の変換は、主成分分析PCAモデルによりプロファイルの統計データベースを評価することによって実行され、HB_1値をPCAモデルにおいて使用して、HB_2値が予測される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
降伏強度、e係数、変形硬化、および可塑性のレベル材料特性のうちのいずれか1つを、有限要素解析(FEA)を使用してプロファイルの統計データベースに基づいて逆方向操作によって推定する工程(340)をさらに含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
圧こんプロファイルが特定の限度内にあるかどうかを検査することにより、材料を作るプロセスの変化を示す工程(342)をさらに含む、請求項6~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコードを記憶しているコンピュータ読取り可能媒体。
【請求項17】
材料の硬さ値を測定するための方法であって:
材料の表面に圧こんを作成する工程(1300)と;
圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向における3Dデータ値を含む生データのセットを生成する工程(1310)と;
生データのセットを処理ユニットに入力する工程(1320)であって、処理ユニットは、該処理ユニットにおいて実行されたときに、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコードを含む、工程と;
請求項1~14のいずれか1項により、生データのセットを処理する工程(1330)と;
測定結果を出力する工程(1340)と
を含む前記方法。
【請求項18】
測定結果を出力することは、
第1のブリネル硬さ値HB_1および第2のブリネル硬さ値HB_2のいずれか1つまたはこの両方を出力することを含み、HB_2値は、HB_1値から変換されたものであり、HB_1もHB_2もISO6506-1:2006規格に準拠しており、HB_2値は、従来の標準的な2Dブリネル硬さ評価法によって測定された硬さの同じ平均値に対応している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
パラメータRa_coin1を検査することにより、測定の品質を検査することをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
材料を作るプロセスの変化を示す指標を出力することをさらに含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
材料の硬さ値を測定するための試験システム(1200)であって:
材料の表面に圧こんを作成するための圧子(1220)を有する負荷(1210)と;
圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向における3Dデータ値を含む生データのセットを生成するための3D測定機器(1230)と;
処理ユニットにおいて実行されたときに、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコード(1242)を含む処理ユニット(1240)と
を含む前記試験システム。
【請求項22】
圧子がボールの形状を有する、請求項21に記載の試験システム(1200)。
【請求項23】
測定結果を出力および表示するためのディスプレイ(1250)をさらに含む、請求項21または22に記載の試験システム(1200)。
【請求項24】
ライン内の硬さ自動測定ステーションとして、材料の製造ラインと一緒に実装される、請求項21~23のいずれか1項に記載の試験システム(1200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の実施形態は、材料の硬さを測定および計算するための方法および試験システムに関する。特に、本明細書の実施形態は、材料の硬さ試験における3次元測定機器の使用、および3D測定データに基づいて材料の硬さを計算する方法に関する。さらに、本明細書の実施形態は、材料の硬さを測定するためのコンピュータ製品、試験システム、および試験システムにおける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬さは、材料の一特性であり、圧こんへの耐性として定義され、圧こんの永久深さを測定することによって判定される。固定の力または負荷、および所与の圧子またはボールを使用するとき、圧こんが小さいほど、材料は硬い。圧こんの硬さ値は、多くの異なる試験方法のうちの1つを使用して、圧こんの深さまたは面積を測定することによって得られる。ブリネル硬さ(HB)を判定するために使用される硬さ試験法は、1900年に開始され、それ以来、産業界において硬さを測定するための標準的な方法であり続けている。ブリネル硬さ試験法は、ISO規格6506-2:2005に規定され、この規格は、ブリネル硬さの判定に使用される試験機械の検証および較正の方法を指定している。
【0003】
厚板ミルの試験施設における、ブリネル硬さ方法の現在の使用は、以下の手順を含む:
a)試験片が、切断されて厚さ3~170mmの250×250mmの試験クーポンになった状態で、ミルから到着する;
b)試験クーポンの表面が、厚さに応じて0.5~2mmの深さまで、試験クーポンの中央において専用のフライス盤によって機械加工される。
c)試験クーポンが、ロボットによりフライス盤から持ち上げられてHB測定ステーションに入れられる;
d)HB測定ステーションは、回転式の解決策を有し、この解決策は、圧子に負荷をかけて試験クーポンに圧こんを作成し、圧こんの光学的な読取りに切り替わり、光学的な測定データをデータシステムに送信し、新しい測定位置に移動する;
e)典型的には、各試験クーポンについて3回の測定が行われる;
f)試験クーポンが、ロボットによって収納場所に移動される。
【0004】
ブリネル硬さ方法は、圧こんに対する2次元(2D)測定に基づいており、2Dブリネル硬さ測定値の評価を、式(1)に示す:
【数1】
ここで
HBW:ブリネル硬さウォルフラムカーバイド;
F:加えられた負荷または力(ニュートン);
D:圧子またはボールの直径(mm);
d:圧こんの直径(mm)。
【0005】
上述した2DHB試験システムに関する複数の問題または弱点が存在する。1つは、圧こんの光学的な読取りである。この読取りは、フライス加工された表面の状態、および光の状態に影響されやすい。これはおそらく、試験プロセスにおいてばらつきが生じる主な原因である。材料が硬いほど、形成される圧こんが小さく、ばらつきが大きくなり、硬さが400HBを上回る材料については、この方法は十分に正確ではない。
【0006】
材料が硬いほど、圧こんの縁に「クレータ」が多くなり、これにより圧こんの縁部を画成することが困難になる。材料が異なれば、縁形状の種類も異なることがある。
【0007】
ブリネル試験システムのサプライヤは、95%の信頼度で3%の確度、すなわち標準偏差2(2s)しか請け合わない。
【0008】
これにより、400HBWの材料、たとえばSSABの鋼材Hardox400については、2sにおいて+/-12HB、および3標準偏差(3s)において+/-18HBの確度になる。
【0009】
これにより、450HBWの材料、たとえばSSABの鋼材Hardox450については、2sにおいて+/-13.5HB、および3sにおいて+/-20HBの確度になる。
【0010】
これにより、500HBWの材料、たとえばSSABの鋼材Hardox500については、2sにおいて+/-15HB、および3sにおいて+/-22.5HBの確度になる。
【0011】
光学的読取りは、準備されていない表面に対して使用することができないので、試験クーポンの表面は、フライス加工または研削加工による準備が必要である。したがって、従来の2Dブリネル硬さ試験法は、破壊的な試験法である。
【0012】
別の問題は、材料の可塑化および変形硬化の体積である。可塑化される体積は、材料の硬さが増すにつれて少なくなり、これにより、材料上の圧こんの直径は、硬さに伴って線形に増大するわけではない。
【0013】
クレータの形状は、材料の変形硬化されやすさによって影響を受けることになる。負荷が解放されると、圧こんは跳ね返り、圧子ボールの形状よりも幅広くて浅い圧こんになる。これを図1に示す。クレータの縁において材料がさらに積み重なるまたは沈み込むことにより、圧こんの直径を画成することが困難になる。これを図2に示す。
【0014】
さらに、材料は、表面の準備のされ方に影響されやすい場合がある。研削加工またはフライス加工の動作は、表面を加熱する傾向があり、それにより材料が焼き戻され、硬さが変わる。この影響は、500HBWレベルの焼入れ鋼において20HBの硬さ変化に相当するほど強力なことがある。表面粗さも、光学的読取りに対して著しい影響を及ぼす。ツールの摩耗も、最終的な試験結果に対して著しい影響を及ぼす。産業界における用途では、ツール摩耗の激しい特に非常に高強度な鋼材の機械加工において、ツール摩耗を十分に監視しなくてはならない。
【0015】
従来の2Dブリネル試験システムにはこれらの問題があるので、硬い材料についての試験精度は十分でない。SSABの3つの異なる研究室において、ラウンドロビン試験が実施されてきた。すべての研究室は、承認済みの機器を有し、ブリネル試験規格に準拠しているが、それでも450HBを上回るHBレベルの材料については、測定された硬さ値に対して、約+/-10HBの著しい偏差が研究室間で生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本明細書の実施形態の目的は、材料の硬さを測定するための改善された方法および試験システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本明細書の実施形態の一態様によれば、この目的は、請求項1に記載の、材料の硬さ値を計算するための方法によって達成される。この方法は、以下の工程、すなわち:
機器によって測定された、材料の表面に作成された圧こんの3Dトポグラフィを表す生データのセットを受ける工程と;
機器の測定品質に基づいて、生データのセットを処理することにより、生データのセットから完全なデータセットCDSを生成する工程と;
CDSを、X-Y座標平面において、圧こんを表す円を中央に有する2D画像を表す2DデータセットCDS_2Dに変換する工程と;
CDS_2Dを2つのデータセット、すなわち円の内側のデータを含む第1のデータセットCDS1と、円の外側の残りのデータを含む第2のデータセットCDS2とに分割する工程と;
X-Y座標平面において、CDS2に基づいて、傾斜係数を計算する工程と;
傾斜係数を用いてCDSを調整することにより、平準化された完全なデータセットCDS_Lを生成し、CDS_Lから、円の内側のデータを含む第1の平準化データセットCDS1_Lと、円の外側の残りのデータを含む第2の平準化データセットCDS2_Lを生成する工程と;
CDS2_Lから、Z方向における平均値ZLを計算する工程であって、ZLは、材料表面の平均高さを表す、工程と;
ZL値をCDS_Lにおけるゼロレベルとして設定することにより、材料の元の表面を表すゼロ平面ZPを定義する工程と;
材料表面の粗さ値Ra1をCDS2_Lから計算する工程と;
Ra1を引いた、ゼロ平面ZPを下回るCDS1_L内のすべてのデータを見いだすことによって、CDS1_Lから圧こんの完全なデータセットCDSIを生成する工程と;
最小二乗法を用いて、CDSI内のすべてのデータ値について計算を行うことにより、球形状を選択する工程であって、球の直径はSphere_1と呼ばれ、X-Y平面における球の原点は、Sphere_1の原点と呼ばれる、工程と;
CDS_L内のすべてのデータが、Sphere_1の原点を中心とするように、CDS_Lを調整する工程と;
ゼロ平面ZPと球との交差部の第2の直径Diameter_2を計算する工程と;
第2の直径Diameter_2に基づいて、第1のブリネル硬さ値HB_1を計算する工程とを含む。
【0018】
本明細書の実施形態の一態様によれば、目的は、上述した材料の硬さ値を計算するための方法工程を実行するためのコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品によって達成される。
【0019】
本明細書の実施形態の一態様によれば、目的は、上述した材料の硬さ値を計算するための方法工程を実行するためのコンピュータプログラムコードを記憶しているコンピュータ読取り可能媒体によって達成される。
【0020】
本明細書の実施形態の一態様によれば、この目的は、材料の硬さ値を測定するための方法によって達成される。この方法は、以下の動作または工程、すなわち:
材料の表面に圧こんを作成する工程と;
圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向における3Dデータ値を含む生データのセットを生成する工程と;
生データのセットを処理ユニットに入力する工程であって、処理ユニットは、処理ユニットにおいて実行されたときに材料の硬さ値を計算するための方法工程を実施するためのコンピュータプログラムコードを含む、工程と;
上述した材料の硬さ値を計算するための方法工程により、生データのセットを処理する工程と;
測定結果を出力する工程と
を含む。
【0021】
本明細書の実施形態の一態様によれば、この目的は、材料の硬さ値を計算するための試験システムによって達成される。試験システムは、材料の表面に圧こんを作成するためのボールを有する負荷と;圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向における3Dデータ値を含む生データのセットを生成するための3D測定機器と;処理ユニットであって、処理ユニットにおいて実行されたときに材料の硬さ値を計算するための方法工程を実施するためのコンピュータプログラムコードを含む処理ユニットとを含む。試験システムは、測定結果を出力および表示するためのディスプレイをさらに含んでよい。
【0022】
言い換えれば、本明細書の実施形態は、3D測定機器を使用して圧こんの形状を読み取り、圧こんのトポグラフィマップを、新しいアルゴリズム方法によって処理し、圧こんのプロファイルを対応するHB値とともに生成することにより、従来のブリネル圧こんを評価するための方法および試験システムを提供する。完全なデータセットを平準化することにより、測定におけるばらつきおよび誤差が除去され、これにより圧こんのプロファイルおよび硬さに対する評価品質が改善される。したがって、本明細書の実施形態は、特により硬く、より小さい圧こんを有する材料に対して、従来の標準的な2Dブリネル硬さ試験方法に比べてより高い精度で硬さを計算する。ゼロ平面ZPを定義し、ZL値をCDS_Lにおけるゼロレベルとして設定することにより、材料の表面のデジタルフライス加工が達成される。したがって、本明細書の実施形態は、表面準備のためのフライス加工または研削加工のプロセスを必要としないことから、実際には非破壊的な硬さ試験であり、たとえば圧延されたままの鋼材の表面に対して直接測定を行うために使用することができる。
【0023】
本明細書の実施形態は、コスト削減、歩留まり改善、リードタイム改善、および瞬時のフィードバック、ならびに製造されたすべての板を試験または検査できる可能性など、鋼材ミルに対していくつかの利益を提供することができる。
【0024】
第1のブリネル硬さ値HB_1がISO6506-1:2006規格に準拠していることから、本明細書の実施形態は、硬さを評価する新しい基準に寄与することができる。
【0025】
本明細書の実施形態を使用して、異なる用途における材料挙動を予測するために使用される材料モデルを較正することができる。
【0026】
本明細書の実施形態を使用して、降伏強度、変形硬化の程度を推定することができ、パターン認識により、材料のマイクロ構造の状態を推定することができる。
【0027】
本明細書の実施形態は、たとえば1mmのボールを、4mm未満の非常に薄い材料に対して使用する産業的な3Dマイクロブリネル法へと発展させることができ、ここでこの3Dマイクロブリネル法は、今日の標準であるビッカーズ測定に置き換わることができる。ビッカーズ法は、研究室標準であり、ピラミット形のダイアモンド圧子を用いて試験材料に圧こん形成することから成る。ビッカーズ法は、時間のかかるサンプル準備を必要とし、ボール圧こんに基づくブリネル法に比べて、鋼材の測定される体積が非常に小さいので、実施するのに手間がかかり確度が低い。
【0028】
本明細書の実施形態は、ライン内の硬さ自動測定ステーションとして、材料を製造する任意の製造サイトにおいて製造ラインと一緒に実装することができる。
【0029】
したがって、本明細書の実施形態は、材料の硬さ測定のための改善された方法および試験システムを提供する。
【0030】
本明細書の実施形態の例を、添付図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】跳ね返りに起因して、材料上の圧こんが浅くなることを示す図である。
図2】圧こん縁部に積み重なりまたは沈み込みのある、材料上の圧こんを示す図である。
図3a】本明細書の実施形態による方法を示すフローチャートである。
図3b】本明細書の実施形態による方法を示すフローチャートである。
図4】材料表面上に作成された圧こんの例を示す図である。
図5】本明細書の実施形態による2Dデータセットを示す図である。
図6】本明細書の実施形態によるゼロ平面および球を示す図である。
図7】ゼロ平面ZPと直径Sphere_1を有する球との交差部を示す図である。
図8】圧こんプロファイルの例を示す図である。
図9】大量の材料に関する圧こんプロファイルの例を示す図である。
図9A】6~16mmのマルテンサイト板に関する、予測される体積プロファイルの例を示す図である。
図10】有限要素解析法によって計算された圧こんプロファイルの例を示す図である。
図11】本明細書の実施形態による、様々な表面に対する出力圧こんプロファイルの例を示す図である。
図12】本明細書の実施形態による試験システムを示す概略ブロック図である。
図13】本明細書の実施形態による試験システムにおいて実施される方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
材料の硬さ値を計算するための方法の実施形態の例を、ここで図3aおよび図3bを参照しながら説明する。この方法は、3D測定データに基づくことから、以下、本明細書の実施形態による3D硬さ方法と呼ばれる。この方法は、以下の動作または工程を含む:
【0033】
動作302
3D機器によって測定された、材料の表面に作成された圧こんの3Dトポグラフィを表す生データのセットCDrawを受ける。3D機器は、共焦点顕微鏡、ラインレーザ、干渉法、または他のトポグラフィ法のうちのいずれか1つにより、圧こんの形状を読み取ってよい。CDrawは、X値、Y値、およびZ値、すなわちX-Y-Z方向の3Dデータ値を含む。X-Y方向の測定は、ブリネル硬さ値を計算するために、最終的な圧こんの直径dのおおよそ2倍の長さでなくてはならない。
【0034】
図4は、X-Y-Z方向の3Dで図示してある材料の表面に作成された圧こん400の例を示す。
【0035】
動作304
3D機器の測定品質に基づいて、生データのセットを処理することにより、この生データのセットCDrawから完全なデータセットCDSを生成する。
【0036】
生データのセットCDrawは、外れ値を除去し欠損値を補填することにより、洗浄またはクリーニングされる。洗浄されたデータファイルは、実際の圧こんを理論的に表したものであり、本明細書において完全なデータセットCDSと呼ばれる。外れ値は、CDrawの平均Z値の3標準偏差より外側という基準により除去される。この理由は、圧こんのX-Y位置は座標によって与えられ、X値およびY値にはばらつきがないが、Z方向、すなわち圧こんの方向においては、Z値の欠損値または外れ値が存在する可能性があるからである。CDrawの除去された値および欠損値は、CDrawにおける複数のその最近傍値の平均値によって補填することができる。その最近傍値の個数は、入力データの品質と利用可能なコンピュータ性能に応じて異なる。その最近傍値の個数は、たとえば30個であってよく、この個数は、評価プログラムをチューニングするときに調整することができる。洗浄手順を採用し、CDrawの品質に基づいてチューニングすることができる。ハーベストと呼ばれるキー値は、測定から得られた使用可能なデータのパーセンテージ、たとえばすべてのデータから欠損値および除去された外れ値を除いたものとして計算することができる。CDrawの品質は、使用される3D機器に応じて異なる。ハーベストのレベルを使用して、CDrawの品質が低い場合に評価プロセスを中止すること、および機器の品質を経時的に追跡することを決定することができる。
【0037】
動作306
CDSを、X-Y座標平面において2DデータセットCDS_2Dに変換する。これは、Z値を強度またはグレイレベルとして、X-Y座標の2D画像を生成することによって、実行可能である。平均グレイレベルを上回る値をすべて除去することにより、圧こんにおける観察値の主要部分が除去され、おおよそ圧こんのサイズの円として画像の中央に現れることになる。円形状がこの縁にフィッティングされて、2D円の第1の直径D1およびX-Y座標が生成される。図5は、円500とともにCDS_2Dを示す。第1の直径D1は、圧こん400のほぼ直径である。この2D変換の目的は、圧こんのおおよその縁を見いだし、この縁を使用して、3Dデータセットを2つのデータセット、すなわち円500の内側と外側とに分割することである。
【0038】
動作308
図5に示すように、CDS_2Dの円500のX-Y座標を使用することにより、CDSを2つのデータセット、すなわち円500の内側のデータを含む第1のデータセットCDS1と、円500の外側の残りのデータを含む第2のデータセットCDS2とに分割する。CDS1とCDS2から生じる、データのわずかな、直径Dのおおよそ3%の、すなわち第1の直径D1のばらつき程度の重なりを適用してよい。
【0039】
動作310
X-Y座標平面において、第2のデータセットCDS2に基づいて、傾斜係数を計算する。測定誤差に起因して、圧こんの不要な傾斜がX-Y方向に存在することがあり、これは圧こんプロファイルの最終的な評価に影響を及ぼすことがある。傾斜係数は、X-Y座標平面における最小二乗法によって計算することができる。
【0040】
動作312
傾斜係数を用いてCDSを調整することにより、平準化された完全なデータセットCDS_Lを生成し、これから、円の内側のデータを含む第1の平準化データセットCDS1_Lと、円の外側の残りのデータを含む第2の平準化データセットCDS2_Lとを再生成する。完全なデータセットを平準化することにより、プロファイルを、原点を中心としてより対称的に分布させることになり、極座標として取り扱うことができる。
【0041】
動作314
Z方向、すなわち圧こんの方向における、CDS2_Lからの平均値ZLを計算する。平均値ZLは、材料表面の平均高さを表す。
【0042】
動作316
ZL値をCDS_Lにおけるゼロレベルとして設定することにより、材料の元の表面を表すゼロ平面ZPを定義する。このプロセスは、材料表面のデジタルフライス加工に相当する。したがって、本明細書の実施形態は、表面準備のためのフライス加工または研削加工のプロセスを必要としないことから、実際には非破壊的な硬さ試験であり、たとえば圧延されたままの鋼材の表面に対して直接測定を行うために使用することができる。
【0043】
動作318
材料表面の粗さ値Ra1をCDS2_Lから計算する。粗さ値は、プロファイル、すなわち線に対して計算するか、表面、すなわち面積に対して計算することができる。使用されている多くの異なる粗さパラメータが存在するが、Raが群を抜いて最も一般的な粗さパラメータである。それぞれの粗さパラメータは、表面を記述するための式を使用して計算可能である。プロファイルの粗さパラメータは、ISO4287:1997と同一であるBS EN ISO4287:2000英国規格に含まれる。この規格は、平均線「M」システムに基づく。
【0044】
Raは、評価長さn内で、中心線y周りの偏差から判定されたフィルタリング済みの粗さプロファイルの算術平均値であり、式2として計算される:
【数2】
【0045】
動作320
Ra1を引いた、ゼロ平面ZPを下回るCDS1_L内のすべてのデータを見いだすことによって、CDS1_Lから圧こんの完全なデータセットCDSIを生成する。このデータセットCDSIは、圧こんに関する観測値のみを有し、すなわち板表面からの値は省かれている。したがってCDSIは、圧こんの高品質で完全なデータセットである。
【0046】
動作322
最小二乗法を用いて、CDSI内のすべてのデータ値について計算を行うことにより、球形状を選択し、ここで球の直径は、Sphere_1と呼ばれ、X-Y平面における球の原点は、Sphere_1の原点と呼ばれる。最小二乗法は、データフィッティングのための標準的な手法である。図6は、直径Sphere_1、ゼロ平面ZP、およびX-Y平面における球の原点を有する球形を示す。
【0047】
Sphere_1は、圧こんを形成したブリネルボールの直径とは異なる。なぜなら、圧こんは、跳ね返り効果に起因してより幅広であることから、Sphere_1は、圧こんの実際のデータに適合するように、ほとんどの場合、ブリネルボールよりも大きい直径に調整されているからである。
【0048】
動作324
CDS_L内のすべてのデータが、Sphere_1のX-Y原点を中心とするように、CDS_Lを調整する。この工程は、極座標から圧こんのプロファイルを生成するために必要である。
【0049】
動作326
ゼロ平面ZPと球形状との交差部の第2の直径Diameter_2を計算する。図7は、ゼロ平面ZPと球形状との交差部を示す。この直径Diameter_2を使用して、第1のHB値HB_1が計算される。この工程は、この手順において最も重要な動作である。なぜなら、先行技術の解決策では、圧こんの縁部を見いだすことに基づいて直径を計算することを重要視してきているからである。ここで重要視されるのは、すべての利用可能なデータを使用して、圧こんの原点および形状に基づいて直径を計算することである。
【0050】
動作328
第2の直径Diameter_2に基づいて、式(1)によって、第1のブリネル硬さ値HB_1を計算し、ここで圧こんの直径dは、Diameter_2に置換される。
【0051】
表面の情報を利用していないことを除き、すなわちゼロ平面より下の値にのみSphere_1がフィッティングされているので板表面からの値が省かれていることを除き、HB_1値は、測定のすべてのデータに基づいているので、硬さの非常に確実な記述である。このHB_1値は、ブリネル規格による圧こんの直径の読取りに関するすべての要件を満たしている場合でも、導かれた出力のまま直接使用することができない。このHB_1値は、従来の2D硬さ試験プロセスによって生成される硬さ値からのオフセットを有する。このことは、従来の試験プロセスを置換するときに軽微な問題を引き起こすことがある。しかし、長期的には、この新しいHB_1値を標準にすることができる。この段階において、このHB_1値は、最終的に報告されるHB値、つまり表面からの情報、すなわちゼロ平面より上の測定値にも基づいたHB値の、開始値として使用されることになる。
【0052】
HB_1値を、従来の標準的な2D硬さ試験プロセスによって測定された対応するHB値に変換し、材料の他の特性を評価し、材料を識別するために、この方法はさらに、以下の動作または工程を含んでよい:
【0053】
動作330
Sphere_1およびCDSIから、残りの差異を計算する。残りの体積は、コインに似た形状を有し、したがってcoin_1と呼ばれる。coin_1のデータは、Sphere_1がどのくらい良好に実際のデータに適合しているかの測定値である。
【0054】
動作332
coin_1の粗さRa_coin1を計算する。Ra_coin1値は、測定の品質を検査するために使用可能である。測定の品質検査は、Ra_coin1が特定の限度内または閾値内にあるかどうかを検査することにより実施可能である。検査が承認されない場合には、すなわちRa_coin1が閾値より大きい場合には、Sphere_1が適合しておらず、圧こんの形状が不完全であることを示しており、測定は破棄される。この品質検査は、完全に自動化された試験システムの実装を可能にするために非常に重要である。
【0055】
動作334
圧こんのプロファイルを生成する。圧こんのプロファイルは、極座標においてCDS_Lから生成される。CDS_Lは、欠損値と外れ値について調整され、平準化された完全な測定値である。CDS_L内のすべてのデータ点を使用して、プロファイルが生成される。図8は、400HB、450HB、および500HBの鋼材に対する圧こんの典型的なプロファイルの3つの例を示す。圧こんのプロファイルは、圧こんを作成するために使用された負荷およびボール直径、ならびに計算された第1のブリネル硬さ値HB_1も含む。プロファイルのファイルは、原点周りに対称であることから、CDS_Lファイルの幅の半分である同じ長さを有する。
【0056】
動作336
硬さレベルの異なる大量の材料から測定および生成された圧こんのプロファイルを含む統計データベースを生成する。圧こんは、様々な材料に対して、様々な負荷とボールサイズとの組合せによって作成することができる。図9は、硬さレベルの異なる大量の材料の圧こんプロファイルの例を示す。プロファイルは、様々な負荷およびボール直径でマルテンサイト鋼材から生成される。
【0057】
比較するために、標準的な2Dブリネル硬さ測定によって測定および生成された圧こんの対応するプロファイルを、統計データベースに含めることができる。圧こんの2Dプロファイルは、標準的な2Dブリネル硬さ法よって測定されたHB値と、圧こんを作成するために使用された負荷およびボール直径とを含む。
【0058】
材料の特性についての他の情報、たとえば鋼材の化学作用、鋼材の厚さ、鋼材の状態、たとえば圧延された状態、冷却された状態、焼き戻された状態などについてのデータも、統計データベースに含めることができる。
【0059】
動作338
HB_1を第2のブリネル硬さ値HB_2に変換する。HB_1もHB_2も、ISO6506-1:2006規格に適合している。HB_2値は、従来の標準的な2Dブリネル硬さ評価法によって測定された硬さの同じ平均値に対応している。HB_1もHB_2も、特に400HBを上回る硬さレベルについて、より高い確度を示す。また、HB_2値は、他の材料特性を予測するという機能も有する。
【0060】
HB_1をHB_2に変換するための、または本明細書の実施形態による3D硬さ方法により生成された圧こんプロファイルを、従来の2Dブリネル硬さ方法から得られると予想される通常の結果に関連付けるための、多くの異なる統計ツールが存在する。
【0061】
本明細書の実施形態によれば、HB_2へのHB_1の変換は、主成分分析(PCA)により圧こんプロファイルの統計データベースを評価して予測モデルを作成することによって、実施することができる。
【0062】
PCAは、直交変換を使用して、おそらく相関関係にある変数の観測値のセット、すなわちそれぞれが様々な数値を取るエンティティを、主成分と呼ばれる、線形的な相関関係のない変数の値のセットに変換する統計手順である。
【0063】
たとえば、図8および図9に示す圧こんプロファイルは、深さと半径のプロファイルである。深さプロファイルではなく体積プロファイルを使用してPCAを訓練することは、より強力な統計モデルを提供するとともに、よりわかりやすい提示も提供し、たとえば体積の変化は、従来の2D方法における単なる半径の変化よりも、硬さの変化にはるかに強力に相関している。したがって、HB_1をHB_2に変換するために、圧こんプロファイルが、半径プロファイルによって蓄積体積に変換される。この変換により、評価が単純化される。PCAに基づくモデルは、3Dの測定されたプロファイルと、同じサンプルからの対応する2D値とを含むデータベースから生成される。チューニングされたモデルは、硬さレベルの典型的な形状(図9Aを参照)を予測することができ、ここでそれぞれの線は、対応する硬さ値、たとえば350~700を有するプロファイルを表す。これにより、体積プロファイルの基準セットが生成される。新しく測定されたプロファイルを評価するとき、この測定されたプロファイルが、プロファイルのこの基準セットと照合され、最も近い硬さ値の線が、新しいHB_2値として報告される。
【0064】
HB_1とHB_2の値の違いは、HB2には完全なプロファイルが使用されており、HB2は、標準的な2D評価と同じ平均値を提供するように、プロファイルデータベースについて統計的に訓練されており、その一方でばらつきが少ないことである。HB_2値は、本明細書の実施形態による3D硬さ方法から報告されたHB値であり、新規3DHB値と呼ばれる。
【0065】
この手順を使用して、新規3DHB値が、独立した測定における旧2DHB値に相関していることを証明することもできる。PCA適合のTベクトルは、プロファイルデータベースを生成および評価するためのソフトウェアから切り離されて使用することができる統計モデルとして、エクスポートすることができる。ISO6506-1:2006に準拠した対応する標準的な2Dのブリネル測定が存在する限り、統計モデルは、3D硬さ方法によって生成された新規プロファイルを考慮して継続的に改善することができる。
【0066】
本明細書のいくつかの実施形態によれば、この方法は、降伏強度、ヤング係数とも呼ばれる弾性係数(e係数)、変形硬化、可塑性のレベルなどの材料特性のうちのいずれか1つを、有限要素解析(FEA)、たとえば連続的な媒体のフックの法則、およびミーゼスの降伏応力条件を使用することにより、プロファイルの統計データベースに基づいて逆方向操作によって推定すること340をさらに含むことができる。
【0067】
図10は、FEA法によって計算されたHB圧こんプロファイルの例を示し、ここで圧こんは、3つの異なる硬さレベルの材料に対して、5mmのボールおよび2000kgの負荷を使用することにより作成される。このプロファイルから、矢印によって示された積み重なりを確認することができる。これは、変形硬化の欠如により生じる。
【0068】
図11は、圧延されたままの状態の表面とフライス加工された表面に対する材料の圧こんプロファイルを示し、ここから材料がどの状態にあるか、たとえば圧延された状態、冷却された状態、焼き戻された状態などを推定することができる。
【0069】
本明細書のいくつかの実施形態によれば、方法は、圧こんプロファイルが特定の限度内にあるかどうかを検査することにより、材料を作るプロセスの変化を示すこと342をさらに含むことができる。すなわち、プロファイルを使用して、材料の典型的な圧こんプロファイルが特定の限度内にあることを検査し、これによりHB値のみの場合よりも高い感度でプロセスの変化を認識する。
【0070】
材料の硬さ値を計算し、圧こんプロファイルを含む統計データベースを生成し、統計データベースを評価するための本明細書の実施形態は、本明細書の実施形態の機能および動作を実行するためのコンピュータプログラムコードを含む処理ユニットに実装することができる。上に述べたプログラムコードは、たとえば本明細書の実施形態を実行するためのコンピュータプログラムコードを担持するデータキャリアの形態で、コンピュータプログラム製品として提供することもできる。そのような1つの担体は、CD ROMディスクの形態とすることができる。しかし、メモリスティックなどの他のデータ担体を用いて実行することも可能である。コンピュータプログラムコードは、サーバまたはクラウド上の純粋なプログラムコードとしてさらに提供することができる。
【0071】
本明細書のいくつかの実施形態によれば、材料の硬さ値を測定するための試験システム、および試験システムにおいて実施される方法を、ここで図12図13を参照しながら説明する。
【0072】
試験システム1200は、材料の表面に圧こんを作成するための圧子1220を有する負荷1210を含む。圧子1220は、ボールの形状を有してよい。ボールの形状は、2~3mmでの測定時に最も効率的である。しかし、ダイヤ形、ピラミッド形、ノップ(knop)形など、圧子の他の形状も可能である。ボールは、様々なサイズを有してよく、ツールに装着されてよく、回転式の解決策が使用される場合には自動的に切り替えられてよく、または手動で切り替えられてよい。
【0073】
試験システム1200は、圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向の3Dデータ値を含む生データのセットを生成するための3D測定機器3D1230をさらに含む。
【0074】
試験システム1200は、コンピュータプログラムコード1242を含む処理ユニット1240をさらに含み、このコンピュータプログラムコード1242は、処理ユニット1240において実行されたときに、材料の硬さ値を計算するための上述した方法工程302~341のうちの少なくとも1つを実行する。
【0075】
試験システム1200は、測定結果を出力および表示するためのディスプレイ1250をさらに含んでよい。
【0076】
試験システム1200は、ライン内の硬さ自動測定ステーションとして、任意の製造サイトにおいて材料の製造ラインと一緒に実装することができる。
【0077】
試験システム1200は、全自動で動作してよく、最終的な試験結果を、製造ラインのプロセス制御システムに送信することができる。しかし、メンテナンスおよび拡張の動作には、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)が必要なこともある。
【0078】
試験システム1200から得られた試験結果の評価は、製造ラインの監視システムまたはプロセス制御システムにおいて行うことができ、ここに承認の規則および例外処理の規則などが記憶される。たとえば、製品板が、品質要件を満たす測定値を有しており、製品の特定の限度内の値を提供する場合には、製品板は承認され、そのプロセス経路が続くことになる。品質要件が満たされない場合には、新規の位置において製品板に対して測定を繰り返すことができる。測定が品質要件を満たすが、製品の硬さ限度の外側にある場合には、硬さの二次検査についての規則に応じて、測定を繰り返すことができる。板が二次検査にも通過しなかった場合には、板はプロセス制御システムによって不合格にされ、経路変更することができる。
【0079】
試験システム1200は、研究室環境用にライン外のシステムとして構築することもできる。
【0080】
本明細書のいくつかの実施形態によれば、試験システム1200において実施される材料の硬さ値を測定するための方法は、以下の動作または工程を含む。
【0081】
動作1300
材料の表面に圧こんを作成する。
【0082】
動作1310
圧こんの3Dトポグラフィを測定し、X-Y-Z方向における3Dデータ値を含む生データのセットを生成する。
【0083】
動作1320
生データのセットを処理ユニットに入力する。処理ユニットは、処理ユニットにおいて実行されたときに、材料の硬さ値を計算するための上述した方法工程302~342のうちのいずれか1つを実行するためのコンピュータプログラムコードを含む。
【0084】
動作1330
上述した方法工程302~342のうちのいずれか1つにより、生データのセットを処理する。
【0085】
動作1340
測定結果を出力する。測定結果は、第1のブリネル硬さ値HB_1と第2のブリネル硬さ値HB_2であってよい。HB_2値は、HB_1値から変換されたものであり、HB_1もHB_2も、ISO6506-1:2006規格に適合している。HB_2値は、従来の標準的な2Dブリネル硬さ評価法によって測定された硬さの同じ平均値に対応している。第1のブリネル硬さ値HB_1および第2のブリネル硬さ値HB_2のいずれか1つ、またはその両方を、試験システムから出力してよい。
【0086】
この方法は、以下の動作をさらに含んでよい:
【0087】
動作1350
パラメータRa_coin1を検査することにより、測定の品質を検査する。
【0088】
動作1360
材料を作るプロセスの変化を示す指標を出力する。
【0089】
表1は、表面タイプの異なるおおよそ600個のサンプルに対する、本明細書の実施形態による3D硬さ方法の検証結果を示す。測定された硬さの3シグマの偏差、すなわち観測値の最小値および最大値が、2%未満であることを確認することができる。表1のC.V値は、標準的な1シグマの偏差を平均で割ったもの、たとえば標準偏差をパーセンテージで表しており、典型的な1シグマの偏差はおおよそ1%である。これらの数字は、従来の2D試験法より著しく低い。
【0090】
【表1】
【0091】
まとめると、本明細書の実施形態による方法およびシステムは、少なくとも以下の利点を提供する:
【0092】
特に、450HBを上回る硬さ、およびより小さい圧こんを有する材料について、HB_1およびHB_2によって、正確でより高い精度の硬さ測定結果を提供する;
【0093】
高い確度の圧こんプロファイルを提供し、それらを使用して材料特性を評価し、材料モデルを較正できるようにする;
【0094】
HB_1値、HB_2値、キー値、たとえば品質検査用のRa_coin1、および完全なプロファイルの組合せにより、鋼材ミルにおける製造品質の監視を改善することができる;
【0095】
試験サンプルおよび繊細なフライス加工プロセスの必要性をなくすことにより、確度、試験頻度、およびフィードバック時間を著しく改善することができる;
【0096】
試験システムは、ライン内の硬さ自動測定ステーションとして、製品処理ラインと一緒に実装することができ、コスト削減、歩留まり改善、リードタイム改善、瞬時のフィードバック、製造されたすべての板を試験または検査できる可能性など、鋼材ミルに対して多くの利益を提供することができる。
【0097】
また、以下のような、いくつかの他の利点および可能性も存在する:
【0098】
本明細書の実施形態は、センサが3Dトポグラフィを読み取ることができる限り、フライス加工された表面にも研削された表面にも、任意の材料に対して使用することができる。
【0099】
また、本明細書の実施形態は、3D測定ツールが十分な分解能を有する限り、小さい負荷およびボールサイズによって作成された非常に小さい直径、たとえば1mmおよびそれ以下を有する圧こんを評価するように拡張することもできる。
【0100】
本明細書の実施形態は、たとえば3mmを下回る薄い鋼材ゲージに適用することができ、これらの薄い鋼材ゲージは、現在、研究室での準備を必要とするビッカーズ測定を使用するか、引張試験から変換された結果により、硬さが検査されている。
【0101】
本明細書の実施形態は、たとえば1mmのボールを使用して圧こんを作成する産業的な3Dマイクロブリネル法へと発展させることができる。
【0102】
また、10mmのボールに対して3トンを使用する現在の標準は、450HBを上回る鋼材には可塑化の程度が低すぎることから、本明細書の実施形態は、非常に硬い材料に対してより高い負荷を使用できる可能性を広げる。
【0103】
「含む(comprise)」または「含む(comprising)」という単語を使用するとき、この単語は非限定的なものと解釈され、すなわち「~のうちの少なくとも1つからなる」と解釈される。
【0104】
本明細書の実施形態は、上述した好ましい実施形態に限定されない。様々な代替形態、修正形態、および等価物を使用することができる。したがって、上述した実施形態は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図9A
図10
図11
図12
図13