(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】EGR制御方法及びEGR制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 21/08 20060101AFI20240209BHJP
F02M 26/06 20160101ALI20240209BHJP
F02M 26/10 20160101ALI20240209BHJP
【FI】
F02D21/08 301A
F02M26/06 311
F02M26/06 331
F02M26/10
(21)【出願番号】P 2021543592
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 IB2019001021
(87)【国際公開番号】W WO2021044178
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 大介
(72)【発明者】
【氏名】土田 博文
(72)【発明者】
【氏名】濱本 高行
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056802(JP,A)
【文献】特開2016-089784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02M 26/06
F02M 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGR制御方法であって、
吸気管に排気管の排気の一部をEGRガスとして循環させるEGR通路に備えられ、エンジンがEGR領域の場合に前記EGR通路を流れるEGRガス量を調整するEGR弁と、
前記吸気管に備えられ、前記EGR弁の前後差圧
であるEGR弁前後差圧を調整する差圧デバイスと、
前記エンジンの運転点に基づく目標EGR率に対応する
前記EGR弁前後差圧を発生させるように、前記EGR弁及び前記差圧デバイスを制御する制御部と、
を備え、
前記排気管における前記EGR通路の入口部よりも下流に備えられる排気系部品の下流に設けられた温度センサにより検出される排気温度である実排気温度と、前記実排気温度が上昇するにつれて前記EGR通路の入口部の排気圧も上昇するよう設定されたマップを用いて前記EGR通路の入口部の排気圧を算出し、
算出された前記排気圧が、排気圧の脈動によっても前記EGR弁前後差圧が逆転することがない圧力である所定圧力よりも小さい場合は、前記EGR弁及び前記差圧デバイスを用いて前記EGRガス量を調整し、
前記排気圧が前記所定圧力以上である場合は、前記EGR弁のみを用いて前記EGRガス量を調整し、
前記EGR弁及び前記差圧デバイスを用いて前記EGRガス量を調整する場合は、前記実排気温度とエンジン運転点に基づくベース排気温度との差から、前記差圧デバイスを制御して
前記EGR弁前後差圧を調整し、前記差圧デバイスの制御による前記EGR弁前後差圧が前記目標EGR率に基づく前記EGR弁前後差圧に満たないときに、前記目標EGR率に基づく前記EGR弁前後差圧に満たない分の差圧に基づいて前記EGR弁を制御して、前記EGRガス量を調整する
EGR制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のEGR制御方法であって、
前記排気圧が前記所定圧力よりも小さい場合は、エンジン運転点から定まるベース排気温度と実排気温度との温度差が大きくなるほど前記差圧デバイスの開度の補正量を大きくする
EGR制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEGR制御方法であって、
前記排気圧が前記所定圧力以上である場合は、エンジン運転点から定まるベース排気温度と実排気温度との温度差が大きくなるほど前記EGR弁の開度の補正量を大きくする
EGR制御方法。
【請求項4】
EGR制御装置であって、
吸気管に排気管の排気の一部をEGRガスとして循環させるEGR通路に備えられ、エンジンがEGR領域の場合に前記EGR通路を流れるEGRガス量を調整するEGR弁と、
前記吸気管に備えられ、前記EGR弁の前後差圧
であるEGR弁前後差圧を調整する差圧デバイスと、
前記エンジンの運転点に基づく目標EGR率に対応する前記EGR弁前後差圧を発生させるように、前記EGR弁及び前記差圧デバイスを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記排気管における前記EGR通路の入口部よりも下流に備えられる排気系部品の下流に設けられた温度センサにより検出される排気温度である実排気温度と、前記実排気温度が上昇するにつれて前記EGR通路の入口部の排気圧も上昇するよう設定されたマップを用いて前記EGR通路の入口部の排気圧を算出し、算出された前記排気圧が、排気圧の脈動によっても前記EGR弁前後差圧が逆転することがない圧力である所定圧力よりも小さい場合は、前記EGR弁及び前記差圧デバイスを用いて前記EGRガス量を調整し、前記排気圧が前記所定圧力以上である場合は、前記EGR弁のみを用いて前記EGRガス量を調整し、前記EGR弁及び前記差圧デバイスを用いて前記EGRガス量を調整する場合は、前記実排気温度とエンジン運転点に基づくベース排気温度との差から、前記差圧デバイスを制御して
前記EGR弁前後差圧を調整し、前記差圧デバイスの制御による前記EGR弁前後差圧が前記目標EGR率に基づく前記EGR弁前後差圧に満たないときに、前記目標EGR率に基づく前記EGR弁前後差圧に満たない分の差圧に基づいて前記EGR弁を制御して、前記EGRガス量を調整する
EGR制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR制御方法及びEGR制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2007-211767Aには、差圧センサによりEGR弁の前後差圧を検出し、検出した前後差圧が予め決めた目標差圧と一致するようにEGR弁開度を制御するものがある。
【発明の概要】
【0003】
JP2007-211767Aに記載の技術では、差圧センサにより検出されるEGR弁前後差圧が排気圧の脈動の影響を受けるため、EGR弁の前後差圧を正確に検出することが困難となり、EGR弁開度の制御の精度が低下して、実際のEGR率が目標EGR率から外れてしまうという問題がある。
【0004】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、差圧センサを用いることなく、EGR率を目標EGR率となるように制御できるEGR制御御置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様のEGR制御方法は、吸気管に排気管の排気の一部をEGRガスとして循環させるEGR通路に備えられ、エンジンがEGR領域の場合にEGR通路を流れるEGRガス量を調整するEGR弁と、吸気管に備えられ、EGR弁の前後差圧であるEGR弁前後差圧を調整する差圧デバイスと、EGR弁及び差圧デバイスを制御する制御部と、を備えて構成されるEGR制御装置に適用される。この方法は、排気管におけるEGR通路の入口部よりも下流に備えられる排気系部品の下流に設けられた温度センサにより検出される排気温度である実排気温度と、前記実排気温度が上昇するにつれて前記EGR通路の入口部の排気圧も上昇するよう設定されたマップを用いてEGR通路の入口部の排気圧を算出し、算出された排気圧が、排気圧の脈動によってもEGR弁前後差圧が逆転することがない圧力である所定圧力よりも小さい場合は、EGR弁及び差圧デバイスを用いてEGRガス量を調整し、排気圧が所定圧力以上である場合は、EGR弁のみを用いてEGRガス量を調整し、EGR弁及び差圧デバイスを用いてEGRガス量を調整する場合は、実排気温度とエンジン運転点に基づくベース排気温度との差から、差圧デバイスを制御してEGR弁前後差圧を調整し、差圧デバイスの制御によるEGR弁前後差圧が目標EGR率に基づくEGR弁前後差圧に満たないときに、目標EGR率に基づくEGR弁前後差圧に満たない分の差圧に基づいてEGR弁を制御して、EGRガス量を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の内燃機関のEGR制御装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の目標LP-EGR弁開度の算出のフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の目標EGR率マップの説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態の基本LP-EGR弁開度テーブルの説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態のトリミング係数マップの説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態の差圧デバイスの制御のフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態の差圧デバイス開度マップを示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態のLP-EGR装置及び差圧デバイスの制御のフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態の排気温度マップを示す説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態のベース排気温度マップを示す説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態の絞り弁の開度補正係数マップを示す説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態の本実施形態の運転状態の一例を示すタイムチャートである。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態の本実施形態の運転状態の他の一例を示すタイムチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態の本実施形態の運転状態の他の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0008】
図1は本発明の実施形態の内燃機関のEGR制御装置の概略構成図である。
【0009】
内燃機関としてのエンジン1はガソリンエンジンにより構成され、車両の駆動力源として機能する。エンジン1は、シリンダ7(燃焼室)、燃料噴射弁8、点火プラグ9及びピストン10を備えて構成される。エンジン1には、吸気通路4及び排気通路11が備えられる。
【0010】
吸気通路4は、吸気管4a、吸気コレクタ4b及び吸気マニホールド4cを備えて構成される。
【0011】
吸気管4aには、上流側から、エアフィルタ20、差圧デバイス50、ターボ過給器21、インタークーラ25及びスロットル装置60が備えられる。
【0012】
差圧デバイス50は、絞り弁51とアクチュエータ52とから構成され、後述するように吸気管4aの開口面積を調節することで、LP-EGR弁の前後差圧を制御する。
【0013】
ターボ過給器21は、タービン22、コンプレッサ23及び回転軸24から構成され、後述するように、排気によりコンプレッサ23が回転することで吸気を過給する。インタークーラ25は、コンプレッサ23により圧縮された空気を冷却する。
【0014】
スロットル装置60は、スロットルバルブ5及びモータ6により構成され、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応動して動作し、エンジン1に供給される吸気空気量を調整する。調整された空気は吸気コレクタ4bに蓄えられた後、吸気マニホールド4cを介して各気筒のシリンダ7に分配供給される。吸気は燃料噴射弁8から噴射された燃料と混合して各気筒に送られ、点火プラグ9により着火することで燃焼する。燃焼後の排気は、排気通路11から排出される。
【0015】
排気通路11は、排気マニホールド11a及び排気管11bを備えて構成される。
【0016】
排気マニホールド11aの下流側の排気管11bにはターボ過給器21が備えられる。排気管11bにはマニホールド触媒12が備えられ、それよりも下流側の排気管11bにはメイン触媒13が備えられる。メイン触媒13を通過した排気は、マフラー19を経て排出される。メイン触媒13の直下流の排気管11bには、排気温度を検出する温度センサ48が設けられる。
【0017】
排気管11bには、タービン22をバイパスするバイパス通路27と、バイパス通路27を開閉する常閉のウェイストゲートバルブ29が備えられる。ウェイストゲートバルブ29はモータ28により駆動される。ウェイストゲートバルブ29は、例えば、過給圧センサ45により検出される実過給圧が目標過給圧より高くなった場合に、モータ28の駆動によりウェイストゲートバルブ29を開いてタービン22に流入する排気の一部をバイパスさせて、実過給圧を目標過給圧へと一致させるように制御する。
【0018】
一方で、吸気管4aには、コンプレッサ23をバイパスするバイパス通路31が備えられる。バイパス通路31には、モータ33により駆動されるリサーキュレーションバルブ32が設けられている。リサーキュレーションバルブ32は、スロットルバルブ5が急に閉じられた場合に、スロットルバルブ5からコンプレッサ23までの間の吸気管4aに閉じ込められた加圧空気をコンプレッサ23上流側に再循環させることで、スロットルバルブ5とコンプレッサ23との間の圧力の上昇を防止する。
【0019】
排気管11bと吸気管4aとの間には、EGR(排気再循環)を行うためのロープレッシャループEGR装置14(以下「LP-EGR装置14」と呼ぶ)を備える。LP-EGR装置14は、EGR通路15、EGRクーラ16、LP-EGR弁17及びLP-EGR弁17を駆動するモータ18を備えて構成される。
【0020】
EGR通路15は、タービン22の下流、より具体的にはマニホールド触媒12とメイン触媒13との間の排気管11bから分岐し、コンプレッサ23上流、より具体的にはコンプレッサ23と差圧デバイス50(後述)との間の吸気管4aへと合流する。EGR通路15には、EGRクーラ16が備えられ、EGR通路15を流れる排気を冷却する。
【0021】
エンジンコントローラ41は、マイクロコンピュータ及びROMやRAM等の記憶装置を備えて構成される。エンジンコントローラ41は、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより後述する制御を実現する。
【0022】
より具体的には、エンジンコントローラ41は、エアフローメータ42、アクセルセンサ43、クランク角センサ44、過給圧センサ45、温度センサ48等からの信号が入力され、これらの信号に基づいて、モータ6、モータ18、モータ28、モータ33及びアクチュエータ52を制御して、エンジン1の動作を制御すると共に、LP-EGR装置14を制御する。
【0023】
次に、エンジンコントローラ41により行なわれる制御を説明する。
【0024】
図2は、本実施形態のエンジンコントローラ41により実行される目標LP-EGR弁開度の算出のフローチャートである。
図2に示すフローチャートは、所定間隔(たとえば10ms毎)に実行される。
【0025】
エンジンコントローラ41は、まず、LP-EGR許可フラグが1に設定されているか否かを判定する(ステップS10)。LP-EGR許可フラグは、エンジン1の始動時には0に初期設定され、エンジンの回転速度Neとエンジン負荷から定まる現在のエンジンの運転状態(以降、「エンジンの運転点」と呼ぶ)が、
図3に示す目標EGR率マップからLP-EGR領域にあるときに1に設定されるフラグである。LP-EGR許可フラグが1に設定されていると判定した場合はステップS20に移行する。LP-EGR許可フラグが0に設定されていると判定した場合は、ステップS60に移行する。
【0026】
ステップS20において、エンジンコントローラ41は、
図3に示す目標EGR率マップを参照して、現在のエンジン運転点に対応する目標EGR率を取得する。
【0027】
図3は、本実施形態のLP-EGR装置14における目標EGR率マップの説明図である。
【0028】
目標EGR率マップは、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対して目標EGR率が予め設定されたマップである。
【0029】
EGR率とは、エンジン1のシリンダ7に導入される混合ガスにおけるEGRガス量の比率である。目標EGR率は、現在のエンジン運転点おいて、どれだけのEGRガス量を供給させるかの目標値である。
【0030】
図3において、目標EGR率は三つの領域R1、R2、R3に分割され、それぞれの領域における目標EGR率が、R1=a[%]、R2=b[%]、R3=c[%]として設定され、それぞれa>b>cという関係となっている。すなわち、目標EGR率は、エンジン負荷及びエンジン回転速度が高いほど小さく設定される。
【0031】
これは、エンジン1の負荷が高い側では、ターボ過給器21の過給により、シリンダ7内に吸入される新気量の増加には限度があり、より多くのエンジントルクを発生させる必要があるので、低負荷側と比較して、ノッキングが生じない範囲で目標EGR率を小さく設定するためである。
【0032】
図2に戻り、ステップS30において、エンジンコントローラ41は、取得した目標EGR率から、
図4に示す基本LP-EGR弁開度テーブルを参照して、基本LP-EGR弁開度を算出する。
【0033】
図4は、本実施形態のLP-EGR装置14における基本LP-EGR弁開度テーブルの説明図である。
【0034】
基本LP-EGR弁開度マップは、目標EGR率に対する基本LP-EGR弁開度が予め設定されたテーブルである。
【0035】
基本LP-EGR弁開度は、目標EGR率が大きくなるほどその値が大きく設定されている。すなわち、EGR率を大きくするためには、LP-EGR弁17の開度を大きくする必要があるためである。
【0036】
図2に戻り、ステップS40において、エンジンコントローラ41は、
図5に示すトリミング係数マップを参照して、現在のエンジン運転点に対応するトリミング係数を算出する。
【0037】
図5は、本実施形態のLP-EGR装置14におけるトリミング係数マップの説明図である。
【0038】
トリミング係数マップは、エンジンの運転状態に対するトリミング係数を予め定めたマップである。トリミング係数のマップの領域は、LP-EGRが許可となる領域と一致している。
【0039】
トリミング係数は、エンジンの運転状態に基づいて、LP-EGR弁17の開度を補正するための係数である。LP-EGR領域のうち低回転速度側かつ低負荷側の領域では、中心のトリミング係数よりも大きい1.1の値が設定される。また、高回転速度側かつ高負荷側の領域では中心のトリミング係数よりも小さい0.9の値が設定される。このようにトリミング係数を設定することにより、トリミング係数が1.0よりも大きい場合は目標LP-EGR弁開度を増大させる側に、トリミング係数が1.0よりも下回る場合に目標LP-EGR弁開度を減少させる側に、それぞれ補正される。
【0040】
より具体的には、吸入空気量(すなわちエンジン負荷)が多くなるほどEGR通路15の上流側の排気圧が大きくなり十分に差圧が発生する一方で、吸入空気量が相対的に小さい低負荷側では排気圧が小さくなり差圧が小さくなる。このため、高回転高負荷では、流量が過大となって、LP-EGR弁流量が相対的に大きくなる一方、低回転低負荷側ではLP-EGR弁流量が相対的に小さくなる。そこで、トリミング係数を用いてこれらを補正する。
【0041】
図2に戻り、ステップS50において、エンジンコントローラ41は、ステップS30で算出した基本LP-EGR弁開度とステップS40で算出したトリミング係数とを乗算することによって、目標LP-EGR弁開度を算出する。
【0042】
前述のステップS10において、LP-EGRフラグが0、すなわちLP-EGR領域でないと判定した場合は、エンジンコントローラ41は、ステップS60に移行し、目標LP-EGR弁開度をゼロに設定する。すなわち、LP-EGR弁17を全閉状態に設定する。
【0043】
これらステップS50及びステップS60の後、エンジンコントローラ41は、本フローチャートを終了する。
【0044】
次に、本実施形態の差圧デバイス50について説明する。
【0045】
図1に示すように、本実施形態では、EGR通路15が、タービン22の下流の排気管11bとコンプレッサ23の上流の吸気管4aとを連通している。このような構成とすることで、過給圧の影響を受けることなく、排気を再循環することができる。一方で、このような構成では、タービン22の下流の排気管圧力とコンプレッサ23の上流の吸気管圧力との差圧は、例えば1[kPa]程度と小さくなる。
【0046】
LP-EGR装置14においては、エンジン1の低負荷側や低回転速度側ではLP-EGR弁17の前後差圧が小さくなり、EGR率を大きくすることができない場合が生じる。
【0047】
そこで、本実施形態は、EGR通路15の出口(EGR通路15と吸気管4aとの合流部分)よりも上流の吸気管4aに差圧デバイス50を設けた。エンジンコントローラ41は、差圧デバイス50を制御することで、吸気管4aにおける吸気圧を制御する。より具体的には、アクチュエータ52を動作させて絞り弁51を閉方向に制御することにより、吸気管4aにおける吸気圧を変化させることができるので、LP-EGR弁前後差圧を増大させることができ、LP-EGR弁流量を適切制御することができる。
【0048】
図6は、本実施形態のエンジンコントローラ41により実行される差圧デバイス50の制御のフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、所定間隔(たとえば10ms毎)に実行される。
【0049】
エンジンコントローラ41は、ステップS110において、
図7に示す差圧デバイス開度マップを参照して、エンジンの回転速度Neとエンジン負荷から定まる現在のエンジンの運転点が差圧デバイス作動領域であるか否かを判断する。
図7に示す差圧デバイスマップは、現在のエンジン運転点と差圧デバイスの作動領域(ハッチングで示す)及びその開度が示されている。
【0050】
ステップS110において、差圧デバイス作動領域であると判定した場合は、ステップS120に移行する。差圧デバイス作動領域でない場合は、差圧デバイス50を作動させることなく、本フローチャートによる処理を終了する。
【0051】
ステップS120では、エンジンコントローラ41は、
図7に示す差圧デバイス開度マップを参照して、差圧デバイス開度、すなわち絞り弁51の開度を算出する。その後、本フローチャートによる処理を終了する。
【0052】
図7は、本実施形態の差圧デバイス開度マップを示す説明図である。
【0053】
差圧デバイス開度マップは、エンジン負荷とエンジン回転速度とで定まるエンジン運転点に対して、差圧デバイスの作動領域、及び、その作動領域における絞り弁51の開度が予め設定されたマップである。
【0054】
図7を参照すると、
図3に示した目標EGR率マップにおいて目標EGR率がa[%](すなわちEGR率が最大)の領域R1が、差圧デバイス作動領域としてハッチングで示されている。作動デバイス作動領域において、絞り弁51の開度がそれぞれ、S1、S2、S3と設定されている。これら開度は、エンジン回転速度が大きいほど、及び、エンジン負荷が大きいほど、大きくなるように設定される。すなわち、差圧デバイス開度はS3>S2>S1という関係となる。
【0055】
エンジン負荷が大きくエンジン回転速度が高い場合(例えば領域R2、R3)は、エンジン1の吸入空気を増大させる必要があり、また、このときのLP-EGR弁前後差圧は十分に大きいため、差圧デバイス50によるポンピングロスを抑えるために差圧デバイス50を作動させない。一方で、エンジン負荷及びエンジン回転速度が低い場合は、排気圧が小さいので、LP-EGR弁前後差圧が小さくなるばかりか、エンジン1の排気の脈動の影響により、差圧が負となって逆流が発生してしまう場合があり得る。
【0056】
そこで、このことを防止するため、LP-EGR領域のうちエンジン負荷及びエンジン回転速度が低い領域R1において、差圧デバイス50により吸気管4aに絞りを形成して、LP-EGR弁前後差圧を上昇させる。
【0057】
次に、排気温度によるLP-EGR弁前後差圧の制御を説明する。
【0058】
例えば車両の加速によりエンジン1の運転点が非LP-EGR領域からLP-EGR領域へと変化した場合や、車両の減速によりエンジン1の運転点が非LP-EGR領域からLP-EGR領域へと変化した場合について考える。このような場合は、エンジン1の排気温度の上昇又は下降に伴いLP-EGR弁前後差圧が過渡的に変化し、エンジンコントローラ41により制御されたLP-EGR弁開度に基づくLP-EGR弁前後差圧が目標LP-EGR弁開度に基づく前後差圧と乖離し、EGR率が目標値に一致しないことで、エンジン1の燃焼状態が悪化し、ノッキング等が生じる可能性がある。
【0059】
これに対して、LP-EGR弁前後差圧を検出するように、LP-EGR弁17の上流と下流との間に差圧センサを設け、差圧センサにより検出された前後差圧に基づいて、差圧デバイス50の絞り弁51の開度を調整することもできる。しかしながら、エンジン1の排気圧の脈動により、差圧センサの出力が変動し、LP-EGR弁流量を適切に制御することができない場合がある。
【0060】
そこで本実施形態では、
図1に示すように、メイン触媒13の下流の排気管11bの排気温度を検出する温度センサ48により取得される排気温度に基づいて、LP-EGR弁上流圧を求め、これにより差圧デバイス50を制御するように構成した。排気温度はLP-EGR弁上流圧(又はLP-EGR弁前後差圧)と一定の関係を有するが、排気圧による脈動を検出しないため、LP-EGR弁流量を適切に制御することができる。
【0061】
ところで、温度センサ48はメイン触媒13の下流に備えられるが、メイン触媒13は大きな熱容量を有しているので、エンジン運転点の変化に伴い、メイン触媒13における排気温度は遅れて追従する(温度が平衡状態となるまでに遅れ時間を有する)ため、エンジン運転点が変化した場合には、温度センサ48により取得した排気温度に基づいた制御では、LP-EGR弁前後差圧の算出精度が低下する場合がある。
【0062】
そこで、本実施形態では、次のような制御により、差圧デバイス50を制御することで、EGR率を制御するように構成した。
【0063】
図8は、エンジンコントローラ41が実行するLP-EGR装置14及び差圧デバイス50の制御のフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、エンジンコントローラ41により、所定の間隔(例えば10ms毎)で実行される。
【0064】
エンジンコントローラ41は、まず、ステップS210において、温度センサ48からの信号を取得して、排気管11bの実際の排気温度を算出する。
【0065】
次に、ステップS220において、エンジンコントローラ41は、算出された排気温度に基づいて、現在のLP-EGR弁上流圧を算出する。LP-EGR弁上流圧は、算出した排気温度に基づいて、
図9に示す排気温度マップから取得する。
【0066】
図9は、本実施形態の排気温度マップを示す説明図である。
【0067】
排気温度マップは、排気温度とLP-EGR弁上流圧との関係が予め定められたマップである。
図9に示すように、排気温度が上昇するにつれてLP-EGR弁上流圧も上昇するように設定されている。エンジン1において、排気管11b及びメイン触媒13の形状により排気温度と排気圧とには一定の関係があり、この関係によりLP-EGR弁上流圧を算出することができる。
【0068】
図8に戻り、ステップS230において、エンジンコントローラ41は、算出されたLP-EGR弁上流圧が、所定圧力以上であるか否かを判定する。所定圧力は、本実施形態におけるLP-EGR弁開度によるEGR率の制御に、差圧デバイス50による補正を行なうか否かの判断を行なうためのクライテリアである。
【0069】
本実施形態では、一例として、所定圧力を5[kPa]に設定する。この所定圧力は、エンジン運転点がある状態から他の状態へと変化した場合に、変化先の他の状態のエンジン運転点におけるLP-EGR弁前後差圧が十分である圧力に基づいて決定される。より具体的には、所定圧力は、排気圧の脈動によっても前後差圧が逆転することがない圧力であって、エンジン1が適用される車両の仕様に応じて適合により設定される圧力である。
【0070】
LP-EGR弁上流圧が所定圧力に満たないと判断した場合はステップS240に移行する。LP-EGR弁上流圧が所定圧力以上であると判断した場合はステップS260に移行する。
【0071】
なお、LP-EGR弁上流圧と所定圧力との比較ではなく、LP-EGR弁前後差圧と所定圧力との比較に基づいて、ステップS230の判断を行なってもよい。LP-EGR弁前後差圧はLP-EGR弁上流圧と吸気管4aの圧力との差である。
【0072】
ステップS240では、エンジンコントローラ41は、差圧デバイス50の開度を補正する。具体的には、エンジン運転点に基づくベース排気温度を
図10に示すベース排気温度マップから算出し、温度センサ48が取得した実排気温度との温度差に基づいて
図11に示す補正係数マップにより、補正を行なう。
【0073】
エンジンコントローラ41は、
図10に示すベース排気温度マップを参照してベース排気温度を算出する。エンジンコントローラ41は、算出したベース排気温度と温度センサ48により検出された排気温度との差により求まる温度差に基づいて、
図11に示す開度補正マップを参照して、補正係数を算出する。エンジンコントローラ41は、前述の
図7で算出された差圧デバイス開度と、
図11で算出された補正係数との積に基づいて、差圧デバイス50の絞り弁51の開度を算出する。
【0074】
図10は、本実施形態のベース排気温度マップを示す説明図である。
【0075】
ベース排気温度マップは、エンジンの運転点に対してベース排気温度が予め設定されたマップである。ベース排気温度は、エンジンの運転点に応じて発生する排気温度の推定値である。ベース排気温度は、エンジン負荷及びエンジン回転速度が高いほど、高い温度に設定されている。
【0076】
図11は、本実施形態の差圧デバイス50における絞り弁51の開度補正係数マップを示す説明図である。
【0077】
開度補正係数マップは、ベース排気温度から実排気温度を減算した温度差に対して開度補正係数が予め設定されたマップである。
【0078】
開度補正係数は、実排気温度とベース排気温度との温度差が、正の値で大きいほど小さい値(負の値)に設定され、温度差が負の値で小さいほど大きい値(正の値)に設定される。なお、温度差がゼロの場合は、開度補正係数はゼロとなる。
【0079】
このように、温度差に応じた開度補正係数により
図7で算出された絞り弁51の開度の補正を行なうことにより、例えばエンジン運転点が非LP-EGR領域からLP-EGR領域へと移行したときに、温度センサ48における排気温度の応答遅れによる実際のLP-EGR弁前後差圧に対する目標LP-EGR開度の応答遅れを補正することができる。
【0080】
なお、本実施形態において、差圧デバイス50により補正されるLP-EGR弁前後差圧は、前述した所定圧力を上限とする。後述するように、差圧デバイス50による補正によってLP-EGR弁上流圧に基づく目標EGR率を満たせない場合は、LP-EGR弁開度を制御することにより補正を行なう。
【0081】
図8に戻り、次に、ステップS250において、エンジンコントローラ41は、前述の
図2のフローチャートに基づき、エンジンの運転点に基づく目標EGR率に基づいて、LP-EGR弁開度を設定する。
【0082】
このとき、差圧デバイス50は、所定圧力を満たすように(所定圧力に相当するLP-EGR弁前後差圧を発生させるように)に補正が行なわれる。エンジン運転点に基づく目標LP-EGR弁開度に対応するLP-EGR弁上流圧(すなわち、排気温度が平衡状態となったときのLP-EGR上流圧であり、平衡状態において差圧デバイスを全開としたときのLP-EGR弁前後差圧)が差圧デバイス50の制御により補正されたLP-EGR弁前後差圧(すなわち所定圧力)よりも大きくなる場合は、エンジン運転点に基づいたLP-EGR弁上流圧と所定圧力との差に基づいた補正値によって、目標LP-EGR弁開度を制御する。
【0083】
一方、ステップS230において、LP-EGR弁上流圧が所定圧力以上であると判断した場合はステップS260に移行する。ステップS260では、エンジンコントローラ41は、差圧デバイス50による制御が行なわれないように、差圧デバイスを全開状態(開度0[deg])に設定する。
【0084】
LP-EGR弁上流圧が所定圧力以上である場合は、差圧デバイス50による制御を行なわなくても、算出された目標LP-EGR弁開度により目標EGR率を満たせる状態であるからである。
【0085】
次に、ステップS270に移行して、エンジンコントローラ41は、前述の
図2のフローチャートに基づき設定されたLP-EGR弁開度に対して、温度差による補正を行なった目標LP-EGR弁開度を設定する。
【0086】
この補正は、前述の差圧デバイス50の補正と同様に行なわれる。すなわち、温度センサ48により取得した排気温度と、エンジン運転点に基づいて
図10のベース排気温度マップから算出されたベース排気温度との温度差を算出し、算出された温度差から、マップ等を用いて算出された補正量に基づいて目標LP-EGR弁開度を制御する。この補正量は、実排気温度とベース排気温度との温度差が、正の値で大きいほど大きい値(正の値)に設定され、温度差が負の値で小さいほど小さい値(負の値)に設定される。すなわち、温度差が大きくなるほどLP-EGR弁開度の補正量を大きくする。なお、温度差がゼロの場合は、補正係数はゼロとなる。この補正係数をLP-EGR弁開度に加算することによって、温度センサ48が取得した実排気温度のベース排気温度に対する応答遅れをLP-EGR弁開度により解消することができる。
【0087】
このように設定された目標LP-EGR弁開度及び差圧デバイス開度に基づいて、エンジンコントローラ41は、モータ18及びアクチュエータ52を調整し、EGR率を制御する。
【0088】
次に、本実施形態における具体的な制御を説明する。
【0089】
図12は、本実施形態の運転状態の一例を示すタイムチャートである。
図12は、エンジン運転点が非LP-EGR領域から、低回転、低負荷であるLP-EGR領域(
図3の領域R1)へと変化した場合の一例であって、
図7の矢印Aに対応する。
【0090】
図12において、上から、エンジン負荷、EGR率、排気温度、LP-EGR弁上流圧、LP-EGR弁下流圧、LP-EGR弁前後差圧、LP-EGR弁開度及び差圧デバイス開度、がそれぞれ時間を横軸とするタイムチャートとして示されている。
【0091】
このタイムチャートにおいて、タイミングT1で、エンジン負荷が上昇し、
図7に示す矢印Aのように、非LP-EGR領域からLP-EGR領域へと変化する。
【0092】
このとき、エンジン負荷の上昇に伴ってメイン触媒13の下流の排気温度が上昇するが、排気温度は負荷の上昇に対して遅れを伴って上昇するため、温度センサ48により検出される排気温度は、平衡状態となるまではタイミングT1から少し遅れて上昇する。このため、排気温度に基づいて算出されるLP-EGR弁上流圧は、タイミングT1から遅れて上昇することになる。
【0093】
この状況で、差圧デバイス50によるLP-EGR弁前後差圧の補正を行なわなかった場合を想定する。この場合は、差圧デバイス開度は、図中一点鎖線で示すように制御される。これにより、実際のEGR率は、図中一点鎖線で示すように目標EGR率に対して遅れて変化することになり、EGRガス量が低下する。
【0094】
一方で、本実施形態では、前述の
図8のような制御を行なうことにより、LP-EGR弁上流圧が所定圧力(点線で示す)に満たない場合に、ベース排気温度に対する実排気温度が小さく、
図11の開度補正係数マップに基づいて、差圧デバイス開度をより閉じ気味に補正するように制御される。これにより、図中点線で示すように、実排気温度の上昇遅れに対して差圧デバイス開度の変化が大きくなる。この補正により、LP-EGR弁下流圧を大きく低下させてLP-EGR弁前後差圧を確保することができる。その結果、LP-EGR弁17の開度を排気温度に基づいて補正することなく、実際のEGR率を、点線で示すように目標EGR率に追従して変化させることができる。
【0095】
その後、エンジン負荷の上昇に伴ってメイン触媒13の下流の排気温度が十分に上昇した場合は(タイミングT2)、排気温度は平衡状態となり、ベース排気温度に対する実排気温度の温度差がなくなり、差圧デバイス50の開度の補正を行なうことなく、EGR率を目標EGRへと制御することができる。
【0096】
図13は、本実施形態の運転状態の別の一例を示すタイムチャートである。
図13は、エンジン運転点が非LP-EGR領域からLP-EGR領域(
図3の領域R2)へと変化した場合の一例であって、
図7の矢印Bに対応する。
【0097】
図13に示す例は、前述の
図12と同様に、タイミングT1でエンジン負荷が上昇し、LP-EGR弁上流圧が所定圧力に満たない場合は、ベース排気温度に対する実排気温度が小さく、
図10の開度補正係数マップに基づいて、差圧デバイス開度をより閉じ気味に補正するように制御される。このような制御により、図中点線で示すように、実排気温度の上昇遅れに対して差圧デバイス開度が補正される。
【0098】
このとき、前述のように、差圧デバイス50は、所定圧力を満たすように(所定圧力に相当するLP-EGR弁前後差圧を発生させるように)に補正を行なう。しかしながら、エンジン運転点に基づく目標EGR率に対応するLP-EGR弁前後差圧(例えば7[kPa])に対して、差圧デバイス50の制御による所定圧力(5[kPa])では差圧が不足するために、目標EGR率を達成できない。このような場合は、LP-EGR弁開度を制御することにより、目標EGR率を達成するような弁開度に制御する。より具体的には、所定圧力に対して不足する差圧の分だけLP-EGR弁開度を大きくして、EGR率を高めるように制御する。このようにLP-EGR弁開度を制御することで、EGR率を点線で示すように実排気温度に追従して変化させることができる。
【0099】
その後、タイミングT11において、排気温度に基づくLP-EGR弁上流圧が所定圧力よりも大きくなる。この場合は、前述の
図8のステップS230の判定がYESとなり、ステップS260及びステップS270の処理により、差圧デバイス開度を全開に制御すると共に、LP-EGR弁開度の補正を温度差により行なう。このような制御により、実排気温度の応答遅に対してLP-EGR弁開度が補正される。
【0100】
その後、排気温度の上昇により排気温度が平衡状態となった場合は(タイミングT2)、LP-EGR弁上流圧も平衡状態となり、EGR率は目標EGRに追従する。
【0101】
図14は、本実施形態の運転状態の別の一例を示すタイムチャートである。
図14は、エンジン運転点が非LP-EGR領域からLP-EGR領域(
図3の領域R3)へと変化した場合の一例であって、
図7の矢印Cに対応する。
【0102】
図14に示す例は、タイミングT1でエンジン負荷が上昇し、LP-EGR弁上流圧が所定圧力よりも大きくなった場合、すなわち、エンジン負荷が大きいことによる吸気量の増加により排気圧が十分に大きい場合である。このような場合には、
図8のステップS230の判定がYESとなり、ポンピングロスとなる差圧デバイス50を全開として、LP-EGR弁開度の制御のみによって目標EGR率を達成するように制御を行なう。
【0103】
具体的には、温度センサ48により取得した排気温度と、エンジン運転点に基づいて
図10のベース排気温度マップから算出されたベース排気温度との温度差を算出し、算出された温度差から、マップ等を用いて補正値を算出し、この補正値に基づいて目標LP-EGR弁開度を補正する。LP-EGR弁開度の補正値は、実排気温度とベース排気温度との温度差による応答遅れを解消するような値に決定され、実排気温度が平衡状態へと近づくにつれ(温度差が小さくなるにつれ)補正値が小さくなるように設定される。これにより、図中点線で示すように、実排気温度の上昇遅れに対してLP-EGR弁開度の変化が大きくなる。このLP-EGR弁開度補正により、LP-EGR弁前後差圧のズレ分を補うことができ、実際のEGR率を、点線で示すように目標EGR率に追従して変化させることができる。
【0104】
その後、排気温度の上昇により排気温度が平衡状態となった場合は(タイミングT2)、LP-EGR弁上流圧も平衡状態となり、EGR率は目標EGRに追従する。
【0105】
このような制御を行なうことにより、温度センサ48が検出する排気温度が平衡状態となるまでの応答時間において差圧デバイス50とLP-EGR弁17とで補正を行なうことで、適切にLP-EGR弁前後差圧を制御することができて、EGR率を目標EGR率へと追従させることができる。
【0106】
以上説明したように、本発明の実施形態では、吸気管4aに排気管11bの排気の一部をEGRガスとして循環させるEGR通路15に備えられ、エンジン1がLP-EGR領域の場合にEGR通路15を流れるEGRガス量を調整するLP-EGR弁17と、吸気管4aに備えられ、前記LP-EGR弁の前後差圧を調整する差圧デバイス50と、LP-EGR弁17及び差圧デバイス50を制御するエンジンコントローラ41(制御部)と、を備えて構成される。エンジンコントローラ41は、EGR通路15の入口部の排気圧に基づき、LP-EGR弁17及び差圧デバイス50を用いてEGRガス量を調整するか、又は、LP-EGR弁17のみを用いてEGRガス量を調整するか、を切り換える。EGR通路15の入口部の排気圧は、例えば排気管11bの排気温度から算出する。
【0107】
本実施形態では、このように構成することにより、温度センサ48が取得する排気温度に基づいてEGR率を目標EGR率へと制御することができるので、エンジン1の排気脈動の影響を受けることなく、EGR率を制御することができる。
【0108】
さらに、本実施形態では、このように算出した排気圧が所定圧力よりも小さい場合は、LP-EGR弁17及び差圧デバイス50を用いてEGRガス量を調整し、排気圧が所定圧力以上である場合は、LP-EGR弁17のみを用いてEGRガス量を調整するので、LP-EGR弁前後差圧が小さい場合は差圧デバイス50により前後差圧を制御することができ、LP-EGR弁前後差圧が大きい場合は差圧デバイス50によるポンピングロスを排除することができる。
【0109】
また、本実施形態では、排気圧が所定圧力よりも小さい場合は、エンジン運転点から定まるベース排気温度と実排気温度との温度差が大きくなるほど差圧デバイス50の開度の補正量を大きくするので、温度センサ48が検出する排気温度の応答遅れによる影響を排除して、EGR率を目標EGR率へと制御することができる。
【0110】
また、本実施形態では、排気圧が所定圧力以上である場合は、エンジン運転点から定まるベース排気温度と実排気温度との温度差が大きくなるほどLP-EGR弁開度の補正量を大きくするので、温度センサ48が検出する排気温度の応答遅れによる影響を排除すると共に差圧デバイス50によるポンピングロスの影響を排除して、EGR率を目標EGR率へと制御することができる。
【0112】
また、本実施形態では、排気温度は、排気管11bにおけるEGR通路15の入口部よりも下流に備えられる排気系部品(例えばメイン触媒13や排気管11bの配管等の熱容量が大きい部品)の下流の排気温度であるので、エンジン1の排気脈動の影響を受けることなく、EGR率を制御することができる。
【0113】
以上説明した本発明の実施形態では、ガソリンエンジンにLP-EGR装置を適用した構成を説明したが、この場合に限られるものでなく、ディーゼルエンジンにLP-EGR装置を適用した構成であってもよい。
【0114】
また
図13-15に示した例では、エンジン運転点が小さい側から大きい側に変化することにより非LP-EGR領域からLP-EGR領域となる例を示したがこれに限られない。エンジン運転点、すなわちエンジン負荷及びエンジン回転速度が高い側から小さい側へと変化して非LP-EGR領域からLP-EGR領域となった場合も同様の制御が行なわれる。この場合は、温度センサ48が取得した実排気温度がベース温度より高い状態から平衡状態となるまで変化するので、この変化に対応して差圧デバイス50及びLP-EGR弁開度を補正することができる。