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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/06 20060101AFI20240209BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20240209BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20240209BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20240209BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240209BHJP
   B42D 25/382 20140101ALI20240209BHJP
   B41M 5/00 20060101ALN20240209BHJP
【FI】
G06K19/06 140
G06K19/02
C09D11/322
B41M3/14
B41J2/01 127
B41J2/01 501
B42D25/382
B41M5/00 120
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021545244
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033145
(87)【国際公開番号】W WO2021049381
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2019167274
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】狩野 真啓
【審査官】田名網 忠雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-070496(JP,A)
【文献】特開2017-035796(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/06
G06K 19/02
C09D 11/322
B41M 3/14
B41J 2/01
B42D 25/382
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、前記基材上の第1の情報コード、及び隠蔽層を含む印刷物であって、
前記第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
前記赤外線吸収性インキ層は、
前記基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
前記測定用基材上の、前記赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層
から構成される、第1の積層体について、前記測定用基材を基準(反射率100%)として、前記測定用赤外線吸収性インキ層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長400nm以上730nm以下の可視領域における、前記第1の積層体の相対反射率の最小値Rvis-minが50%以上となり、かつ、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、前記第1の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが75%以下となる
ものであり、
前記隠蔽層は、前記第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、前記基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
前記隠蔽層は、
前記基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
前記測定用基材上の、前記隠蔽層と同じ材料から成る測定用隠蔽層
から構成される、第2の積層体について、前記測定用基材を基準(反射率100%)として、前記測定用隠蔽層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、前記第2の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが80%以上となる
ものであり、
前記隠蔽層が、第2の情報コードを更に有し、
前記第2の情報コードの少なくとも一部は、前記第1の情報コードが存在する領域に存在しており、かつ、
前記第2の情報コードは、前記隠蔽層の一部であるか、又は前記遮蔽層上に赤外線非吸収性インキによって印刷された印刷層であって
前記第1の情報コードは、赤外線照射下で前記隠蔽層を通して読み取り可能であり、
前記第2の情報コードは、可視光照射下で読み取り可能である、
印刷物。
【請求項2】
基材、前記基材上の第1の情報コード、及び隠蔽層を含む印刷物であって、
前記第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
前記隠蔽層は、前記第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、前記基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
前記第1の情報コードが、赤外線を光源としたときに、前記隠蔽層を通して光学的に読取り可能であり、
前記隠蔽層が、第2の情報コードを更に有し、
前記第2の情報コードの少なくとも一部は、前記第1の情報コードが存在する領域に存在しており、かつ、
前記第2の情報コードは、前記隠蔽層の一部であるか、又は前記遮蔽層上に赤外線非吸収性インキによって印刷された印刷層であ
前記第2の情報コードは、可視光照射下で読み取り可能である、
印刷物。
【請求項3】
前記第2の情報コードが、バーコード又は2次元コードである、請求項1又は2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記第1の情報コードが、バーコード又は2次元コードである。請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項5】
前記赤外線吸収性インキが、赤外線吸収性顔料を含有し、かつ、UVによって硬化する赤外線吸収性UVインキである、請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項6】
前記赤外線吸収性顔料が、タングステン系赤外線吸収性顔料、スズ系赤外線吸収性顔料、及び有機系赤外線吸収性顔料から選ばれる、請求項5に記載の印刷物。
【請求項7】
前記赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):W{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
から選択される、タングステン系赤外線吸収性顔料である、
請求項6に記載の印刷物。
【請求項8】
前記赤外線吸収性UVインキが、赤外線吸収性顔料、溶媒、前記溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項9】
前記溶媒が、前記赤外線吸収性顔料を分散可能な第1の溶媒と、前記第1の溶媒と相溶性でありかつ前記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒とを含む、請求項8に記載の印刷物。
【請求項10】
前記赤外線吸収性UVインキが、赤外線吸収性顔料、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂、及びウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項11】
前記赤外線吸収性インキが、光硬化剤を更に含む、請求項10に記載の印刷物。
【請求項12】
前記赤外線吸収性インキにおける、前記赤外線吸収性顔料の含有量が、前記赤外線吸収性インキの固形分に対して、1.0重量%以上10.0重量%以下である、請求項5~11のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項13】
有価証券、証明書、包装材、又は繊維製品である、請求項1~12のいずれか一項に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
個人情報等のセキュリティー性の高い情報を、例えば情報コードの形態で含む有価証券類では、容易に解読することが困難な、セキュリティー性の高い、情報コードの記載方法が求められている。
【0003】
この分野では、赤外線吸収機能を有するインクの利用が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物から選択される1種以上の赤外線吸収性材料微粒子、及びビヒクルを含む赤外線吸収性インキが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/121801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、例えばインクジェット印刷が可能であり、かつ、赤外線コードリーダーによって確実に読取りが可能な、地紋、文字等を印刷するためのインキに関する。これをそのまま情報コードの印刷に用いると、以下のような不都合が生じる。
【0007】
インキ中の赤外線吸収性材料微粒子の濃度が過度に低いと、赤外線コードリーダーによる情報コード読取りの確実性が損なわれる。一方、赤外線コードリーダーによる情報コードの読取りの確実を期すため、インキ中の赤外線吸収性材料微粒子の濃度を上げると、目視で情報コードが見えるようになり、印刷物の意匠性が損なわれる。
【0008】
本発明は、上記の先行技術における懸念を払拭しようとするものであり、情報コードが印刷された印刷物において、目視によっては情報コードの存在の判別が困難でありながら、当該情報コードの利用者にはこれを容易に解読することができる、セキュリティー性の高い印刷物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
【0010】
《態様1》基材、及び上記基材上の第1の情報コードを含む印刷物であって、
上記第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
前記赤外線吸収性インキ層は、
上記基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
上記測定用基材上の、上記赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層
から構成される、第1の積層体について、上記測定用基材を基準(反射率100%)として、上記測定用赤外線吸収性インキ層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長400nm以上730nm以下の可視領域における、上記第1の積層体の相対反射率の最小値Rvis-minが50%以上となり、かつ、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、上記第1の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが75%以下となる
ものである、
印刷物。
《態様2》上記印刷物が、隠蔽層を更に有し、
上記隠蔽層は、上記第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、上記基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
上記隠蔽層は、
上記基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
上記測定用基材上の、上記隠蔽層と同じ材料から成る測定用隠蔽層
から構成される、第2の積層体について、上記測定用基材を基準(反射率100%)として、上記測定用隠蔽層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、上記第2の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが80%以上となる
ものである、
態様1に記載の印刷物。
《態様3》基材、上記基材上の第1の情報コード、及び隠蔽層を含む印刷物であって、
上記第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
上記隠蔽層は、上記第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、上記基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
上記第1の情報コードが、赤外線を光源としたときに、上記隠蔽層を通して光学的に読取り可能である、
印刷物。
《態様4》上記隠蔽層が、第2の情報コードを更に有し、
上記第2の情報コードの少なくとも一部は、上記第1の情報コードが存在する領域に存在している、
態様2又は3に記載の印刷物。
《態様5》上記第2の情報コードが、バーコード又は2次元コードである、態様4に記載の印刷物。
《態様6》上記第1の情報コードが、バーコード又は2次元コードである。態様1~5のいずれか一項に記載の印刷物。
《態様7》上記赤外線吸収性インキが、赤外線吸収性顔料を含有し、かつ、UVによって硬化する赤外線吸収性UVインキである、態様1~6のいずれか一項に記載の印刷物。
《態様8》上記赤外線吸収性顔料が、タングステン系赤外線吸収性顔料、スズ系赤外線吸収性顔料、及び有機系赤外線吸収性顔料から選ばれる、態様7に記載の印刷物。
《態様9》上記赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):W{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
から選択される、タングステン系赤外線吸収性顔料である、
態様8に記載の印刷物。
《態様10》上記赤外線吸収性UVインキが、赤外線吸収性顔料、溶媒、上記溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む、態様7~9のいずれか一項に記載の印刷物。
《態様11》上記溶媒が、上記赤外線吸収性顔料を分散可能な第1の溶媒と、上記第1の溶媒と相溶性でありかつ上記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒とを含む、態様10に記載の印刷物。
《態様12》上記赤外線吸収性UVインキが、赤外線吸収性顔料、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂、及びウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体を含む、赤外線吸収性UVインキである、態様7~9のいずれか一項に記載の印刷物。
《態様13》上記赤外線吸収性インキが、光硬化剤を更に含む、態様12に記載の印刷物。
《態様14》上記赤外線吸収性インキにおける、上記赤外線吸収性顔料の含有量が、上記赤外線吸収性インキの固形分に対して、1.0重量%以上10.0重量%以下である、態様7~13のいずれか一項に記載の印刷物。
《態様15》有価証券、証明書、包装材、又は繊維製品である、態様1~14のいずれか一項に記載の印刷物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、情報コードが印刷された印刷物において、例えば切り貼り等による改竄の懸念、及びパターン解読の可能性が抑制され、更には、情報コードの存在そのものの隠蔽が可能な、セキュリティー性の高い印刷物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の印刷物の実施態様の一例を示す、概略断面図である。
図2図2は、本発明の印刷物の実施態様の別の一例を示す、概略断面図である。
図3図3は、図2に示した本発明の印刷物の、具体的な適用の一例を示す、概略斜視図である。
図4図4は、実施例及び比較例で得られた積層体について得られた、分光反射率グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《印刷物》
本発明の印刷物は、
基材、及び基材上の第1の情報コードを含む印刷物であって、
第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
赤外線吸収性インキ層は、
基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
測定用基材上の、赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層
から構成される、第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として、測定用赤外線吸収性インキ層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長400nm以上730nm以下の可視領域における、第1の積層体の相対反射率の最小値Rvis-minが50%以上となり、かつ、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、第1の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが75%以下となる
ものである。
【0014】
本発明の印刷物は、基材、及び基材上の赤外線吸収性インキ層とともに、隠蔽層を更に有していてもよい。
【0015】
この場合、隠蔽層は、第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
隠蔽層は、
基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
測定用基材上の、隠蔽層と同じ材料から成る測定用隠蔽層
から構成される第2の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として、隠蔽層の側から相対分光反射率を測定したときに、
波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域における、第2の積層体の相対反射率の最小値Rir-minが80%以上となる
ものであってよい。
【0016】
本発明の印刷物では、赤外線吸収性インキ層が
印刷物を構成する基材と同じ材料から成る測定用基材、及び
この測定用基材上の、印刷物を構成する赤外線吸収性インキ層を同じ材料から成る赤外線吸収性インキ層
から構成される第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として、測定用赤外線吸収性インキ層の側から測定した相対分光反射率が、所定の要件を満たすものであることを要する。
【0017】
第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、可視領域における相対反射率の最小値Rvis-minが50%以上であるとは、可視光照射下で、測定用基材と同じ材料から成る基材の反射率と、測定用赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る赤外線吸収性インキ層から構成されている第1の情報コードの反射率とが近いことを意味する。この場合、可視光照射下では、基材の地の部分と第1の情報コードとの間のコントラストが低く、したがって、目視の観察によって、第1の情報コードを識別することが困難である。目視観察による第1の情報コードの識別を困難とする観点からは、相対分光反射率の可視領域における最小値Rvis-minは、100%に近いほどよく、例えば、55%以上、57%以上、60%以上、62%以上、又は65%以上であってよい。
【0018】
一方、相対分光反射率の可視領域における最小値Rvis-minは、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、又は70%以下であっても、可視光照射下における第1の情報コードの識別困難性は損なわれない。
【0019】
第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minが75%以下であるとは、測定用基材と同じ材料から成る基材の反射率と、測定用赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る赤外線吸収性インキ層から構成されている第1の情報コードの反射率との差が、十分に大きい領域が、赤外領域内に存在することを意味する。この場合、赤外線を光源とする情報コードリーダー(赤外線情報コードリーダー)によって、第1の情報コードを読み取ることが可能になる。赤外線情報コードリーダーによる第1の情報コードの読取りをより確実にする観点からは、相対分光反射率の赤外領域における最小値Rir-minは、小さい値で、100%から遠い方がよく、例えば、70%以下、68%以下、65%以下、63%以下、又は60%以下であってよい。
【0020】
一方、第1の積層体の相対分光反射率の赤外領域における最小値Rir-minは、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%であっても、赤外線情報コードリーダーによる第1の情報コードの読取りの確実性は、損なわれない。
【0021】
第1の積層体の相対分光反射率は、波長800nm以上2,500nm以下の赤外領域の広い範囲で、上記の要件を満たしていることが、赤外線情報コードリーダーのタイプによらずに、第1の情報コードの読取りをより確実にする観点から好ましい。この観点から、第1の積層体の相対分光反射率の赤外領域における最小値Rir-maxは、例えば、75%以下、73%以下、70%以下、68%以下、66%以下、又は64%以下であってよい。
【0022】
本発明の印刷物が、基材、及び基材上の赤外線吸収性インキ層とともに、隠蔽層を更に有している場合でも、赤外線吸収性インキ層が、基材と同じ材料から成る測定用基材、及び赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層から構成される第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として測定した相対分光反射率は、上記の要件を満たすものであることを要する。これに加えて、隠蔽層が、基材と同じ材料から成る測定用基材、及び測定用基材上の、隠蔽層と同じ材料から成る測定用隠蔽層から成る第2の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として、測定用隠蔽層の側から測定した相対分光反射率が、所定の要件を満たすものとしてもよい。
【0023】
この場合、第2の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minは、80%以上であってよい。第2の積層体の赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minが80%以上であるとは、当該測定用基材と同じ材料から成る隠蔽層が、赤外線を実質的に吸収しないことを意味する。この場合、基材と隠蔽層との間に、赤外線吸収性インキ層から構成される第1の情報コードを配置すれば、赤外線情報コードリーダーによって、隠蔽層を通して、第1の情報コードを読取ることが可能となる。赤外線情報コードリーダーによって、隠蔽層を通して第1の情報コードを読取ることを、より確実に行う観点からは、第2の積層体の相対分光反射率の、赤外領域における最小値Rir-minは、100%に近いほどよく、例えば、85%以上、90%以上、又は95%以上であってよく、100%であってもよい。
【0024】
なお、第2の積層体の相対分光反射率において、赤外領域の光の反射に寄与しているのは、主として測定用基材であると考えられる。測定用隠蔽層は、赤外領域の光を、実質的に反射せず、かつ、上記のとおりに吸収せずに、照射された赤外線の大部分を透過させると考えられる。したがって、基材(測定用基材と同じ材料から成る)、赤外線吸収性インキ層(測定用赤外線吸収性インキ層と同じ材料から成る)、及び隠蔽層(測定用隠蔽層を同じ材料から成る)をこの順に有する態様の印刷物では、赤外線情報コードリーダーによって、隠蔽層を通して第1の情報コードを読取ることが可能である。
【0025】
基材、及び第1の情報コードを構成する赤外線吸収性インキ層とともに、隠蔽層を含む本発明の印刷物は、情報コードが印刷された印刷物であって、目視によっては情報コードの存在の判別が極めて困難でありながら、当該情報コードの利用者にはこれを容易に解読することができる、セキュリティー性が極めて向上された印刷物である。
【0026】
したがって、本発明の別の視点では、
基材、基材上の第1の情報コード、及び隠蔽層を含む印刷物であって、
第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されており、
隠蔽印刷は、第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されており、
第1の情報コードが、赤外線を光源としたときに、隠蔽層を通して光学的に読取り可能である、
印刷物が提供される。
【0027】
なお、情報コードが「光学的に読み取り可能」であるとは、該情報コードのパターンを光学的に検知することができ、かつ、符号化されて当該パターンとして配置されたデータを元の状態に復元(デコード)できることを意味する。測定用基材が、「印刷物を構成する基材と同じ材料から成る」とは、測定用基材と印刷物を構成する基材とが、材質、厚み、熱履歴、表面状態等、分光測定に影響を及ぼし得る要素が実質的に同一であることを意味する。測定用赤外線吸収性インキ層、及び測定用隠蔽層についても同様である。
【0028】
図1及び図2に、本発明の印刷物の実施形態の例を、概略断面図として示した。
【0029】
図1の印刷物(100)は、基材(10)及び第1の情報コードを有する。第1の情報コードは、基材(10)上に印刷された、赤外線吸収性インキ層(11)から構成されている。この赤外線吸収性インキ層(11)は、基材(10)と同じ材料から成る測定用基材、及び赤外線吸収性インキ層(11)と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層から構成される第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、可視領域における相対反射率の最小値Rvis-minは50%以上であり、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minは75%以下となるものである。この印刷物(100)は、可視光照射下の目視観察によって、第1の情報コードを識別することが困難でありながら、赤外線情報コードリーダーによって第1の情報コードを読み取ることができる。
【0030】
図2の印刷物(200)は、基材(20)、第1の情報コード、及び隠蔽層(22)を、この順に有する。第1の情報コードは、基材(20)上に印刷された、赤外線吸収性インキ層(21)から構成されている。この印刷物(200)では、隠蔽層(22)が、基材(20)の面積の全面に形成されていて、赤外線吸収性インキ層(21)が視覚的に完全に隠蔽されている。この隠蔽層(22)としては、文字情報、画像等を含む、通常の意匠を印刷してもよい。
【0031】
この赤外線吸収性インキ層(21)は、基材(20)と同じ材料から成る測定用基材、及び赤外線吸収性インキ層(21)と同じ材料から成る測定用赤外線吸収性インキ層から構成される第1の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、可視領域における相対反射率の最小値Rvis-minは50%以上であり、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minは75%以下となるものである。更に、この隠蔽層(22)は、基材(20)と同じ材料から成る測定用基材、及び隠蔽層(22)と同じ材料から成る測定用隠蔽層から構成される第2の積層体について、測定用基材を基準(反射率100%)として相対分光反射率を測定したときに、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-minは80%以上となるものであってよい。この印刷物(200)は、可視光照射下の目視観察によって、第1の情報コードを識別することが、極めて困難でありながら、赤外線情報コードリーダーによって第1の情報コードを読み取ることができる。
【0032】
図2に示した印刷物の具体的な実施形態の一例を、概略斜視図として図3に示した。
【0033】
図3の印刷物(300)は、基材(30)と、この基材(30)の赤外線吸収性インキ層(31)と、隠蔽層(32)とを、この順に有する。赤外線吸収性インキ層(31)は、第1の情報コード(2次元コード)を構成している。隠蔽層(32)は、基材(30)の全面積にわたって形成された写真印刷である。第1の情報コード(2次元コード)を構成する赤外線吸収性インキ層(31)は、隠蔽層(32)により、視覚的に完全に隠蔽されている。この印刷物(300)は、可視光照射下の目視観察によって、第1の情報コードを識別することが、極めて困難でありながら、赤外線情報コードリーダーによって第1の情報コードを読み取ることができる。
【0034】
以下、本発明の印刷物を構成する要素について、順に説明する。
【0035】
〈基材〉
本発明の印刷物における基材としては、印刷物に通常使用されている基材を適宜に選択して使用してよい。基材を構成する材料は、例えば、紙、合成紙、合成樹脂フィルム、不織布等であってよい。基材は、典型的には紙から構成されていてよく、紙は、例えば、上質紙、コート紙、マットコート紙、クラフト紙、カラーペーパー、和紙等の他、紙幣用紙であってもよい。基材は、その片面及び裏面のうちの少なくとも片方の面に、印刷層を有するものであってもよい。
【0036】
〈第1の情報コード〉
第1の情報コードは、基材上に、赤外線吸収性インキによって印刷された赤外線吸収性インキ層から構成されている。
【0037】
第1の情報コードは、バーコード又は2次元コードであってよい。しかしながら、本発明は、より多くの情報を記録できる2次元コードに適用される方が、セキュリティー性の高い情報を、当該情報コードの利用者以外には秘匿するとの利点を、より活用することができ、好ましい。
【0038】
2次元コードは、例えば、QRコード(登録商標)、FSコード(登録商標)、SPコード、ベリコード(VeriCode)、マキシコード、CPコード、DataMatrix等の任意のコードであってよい。
【0039】
第1の情報コードは、1個でも2個以上であってもよい。第1の情報コードが2個以上である場合、それぞれの情報コードは、同種のコードであっても装置する種類のコードであってもよい。また、第1の情報コードは、バーコード及び2次元コードの双方を含んでいてもよい。
【0040】
(赤外線吸収性インキ層)
第1の情報コードは、赤外線吸収性インキによって基材上に印刷された、赤外線吸収性インキ層によって構成されている。すなわち、基材上に、赤外線吸収性インキによって、第1の情報コードのパターンを印刷することにより、赤外線吸収性インキ層が形成される。
【0041】
-赤外線吸収性インキ-
赤外線吸収性インキ層を印刷するための赤外線吸収性インキは、例えば、赤外線吸収性顔料を含有し、かつ、UVによって硬化する赤外線吸収性UVインキであってよい。
【0042】
この赤外線吸収性UVインキは、例えば、
赤外線吸収性顔料、溶媒、この溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む、赤外線吸収性UVインキ(第1の赤外線吸収性UVインキ);又は
赤外線吸収性顔料、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂、及びウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体を含む、赤外線吸収性UVインキ(第2の赤外線吸収性UVインキ)
であってよい。
【0043】
第1の赤外線吸収性UVインキを用いて印刷された赤外線吸収性インキ層は、赤外線吸収性に優れるとともに、耐薬品性、特に耐塩基性に優れ、汗、洗剤等に対する耐性が高いから、本発明の印刷物を、例えば、入院患者の身体装着型個人情報タグ、リストバンド型のイベント入場券、繊維製品(特に衣料)等の、汗、洗剤等に触れる機会を有する有価証券に適用するときに有利である。
【0044】
第2の赤外線吸収性UVインキを用いて印刷された赤外線吸収性インキ層は、赤外線吸収性に優れるとともに、耐塩基性、特に洗濯耐性に優れるから、本発明の印刷物が、例えば、衣類とともに洗濯されてしまった場合でも、高度の赤外線吸収性を維持することができる。
【0045】
以下、第1の赤外線吸収性UVインキ、及び第2の赤外線吸収性UVインキの成分について、順に説明する。
【0046】
(i)第1の赤外線吸収性UVインキ
第1の赤外線吸収性UVインキは、赤外線吸収性顔料、溶媒、この溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む、赤外線吸収性UVインキである。第1の赤外線吸収性UVインキは、これら以外に、例えば、分散剤、溶媒等を、更に含んでいてよい。
【0047】
(i-1)赤外線吸収性顔料
第1の赤外線吸収性UVインキにおける赤外線吸収性顔料としては、例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料、スズ系赤外線吸収性顔料、有機系赤外線吸収性顔料等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いてよい。
【0048】
タングステン系赤外線吸収性顔料としては、例えば、複合タングステン酸化物、マグネリ相を有するタングステン酸化物等から構成される顔料が挙げられる。スズ系赤外線吸収性顔料としては、例えば、インジウムスズ酸化物等から構成される顔料が挙げられる。有機系赤外線吸収性顔料としては、例えば、キノン-ジインモニウム塩、アミニウム塩、ポリメチンフタロシアニン、ナフタロシアニン、クアテリレン-ビスイミド等から成る顔料が挙げられる。
【0049】
これらのうち、赤外線吸収性が高く、情報コードの読取りの確実性が高いこと、及び、可視光の吸収性が低く、可視光線下の目視による判別が困難なこと、等の観点から、タングステン系赤外線吸収性顔料が好ましい。
【0050】
特に好ましいタングステン系赤外線吸収性顔料は、
一般式(1):M{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、
一般式(2):W{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
等であり、これらから選択される1種以上から構成される顔料を用いてよい。
【0051】
一般式(1)において、アルカリ金属元素とは、水素原子を除く周期律表第1族元素である。アルカリ土類金属元素とは、Be及びMgを除く周期律表第2族元素である。希土類元素とは、Sc、Y、及びタンタノイド元素である。
【0052】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、元素Mを含む。そのため、自由電子が生成され、この自由電子由来の吸収帯が近赤外波長領域に発現されるため、波長1,000nm付近の近赤外線を吸収して発熱する材料として、好適である。
【0053】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下であれば、微粒子含有層中における不純物相の生成を回避できるので好ましい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であることが好ましく、この値は、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であることが好ましい。x/yの値は、理想的には0.33である。
【0054】
特に、一般式(1)における元素Mが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnのうちの1種以上である場合、近赤外線吸収性材料としての光学特性、及び耐候性が向上する観点から好ましく、MがCsである場合、特に好ましい。
【0055】
Cs(0.25≦x/y≦0.35、2.2≦z/Y≦3.0)の場合には、格子定数が、a軸は7.4060Å以上7.4082Å以下、かつc軸は7.6106Å以上7.6149Å以下であることが、近赤外領域の光学特性及び耐候性の面から好ましい。
【0056】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造から成るとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が向上し、かつ近赤外光波長領域の吸収が向上するので好ましい。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が向上し、近赤外光波長領域の吸収が向上する。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0057】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、より好ましくは0.30以上0.35以下であり、理想的には0.33である。x/yの値が0.33となることにより、添加元素Mが、六角形の空隙のすべてに配置されると考えられる。
【0058】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていると、分散性、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性に優れるので好ましい。
【0059】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、化学的に安定であり、近赤外光波長領域の吸収特性も良いので、近赤外線吸収材料として好ましい。
【0060】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0061】
なお、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物の製造時に使用する原料化合物に由来して、当該複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物を構成する酸素原子の一部が、ハロゲン原子に置換されている場合がある。しかし、このことは、本発明の実施において問題はない。そこで、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物には、酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合も含まれる。
【0062】
本発明における赤外線吸収性顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1,000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる場合が多い。しかしながらこの発色は淡いため、当該赤外線吸収性顔料を含む本発明の印刷物は、赤外線吸収性インキ層から構成される第1の情報コードを有しているにもかかわらず、好ましい意匠性を提供することができる。
【0063】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の赤外線吸収性顔料の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、例えば、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、例えば、15重量%以下、10重量%以下、8.0重量%以下、5.0重量%以下、3.0重量%以下、又は1.0重量%以下であってよい。
【0064】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の赤外線吸収性顔料の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの固形分を100重量%としたときに、例えば、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、2.0重量%以上、2.5重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、例えば、20.0重量%以下、15.0重量%以下、10.0重量%以下、8.0重量%以下、又は5.0重量%以下であってよい。赤外線吸収性顔料の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの固形分を100重量%としたときに、典型的には、0.5重量%以上15.0重量%以下であり、好ましくは1.5重量%以上10.0重量%以下である。
【0065】
(i-2)アクリル系樹脂
本発明における第1の赤外線吸収性UVインキ中で用いられるアクリル系樹脂は、第1の赤外線吸収性UVインキにおいて、バインダー樹脂として機能してよい。
【0066】
このようなアクリル系樹脂は、後述の溶媒に可溶であり、後述のUV硬化性アクリル系単量体との親和性が高く、かつインキ中で分離せずに用いることができれば、特にその種類は特に限定されない。
【0067】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル等の重合体、これらの共重合体等が挙げられる。特に、アクリルウレタン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、アクリルポリオール系樹脂等を用いることができる。
【0068】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、0℃以上、30℃以上、50℃以上、又は70℃以上であってもよく、150℃以下、120℃以下、100℃以下であってもよい。
【0069】
第1の赤外線吸収性UVインキ中のアクリル系樹脂の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、1.0重量%以上、3.0重量%以上、5.0重量%以上、10重量%以上、又は15重量%以上であってよく、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、又は8.0重量%以下であってよい。
【0070】
(i-3)UV硬化性アクリル系単量体
第1の赤外線吸収性UVインキにおけるUV硬化性アクリル系単量体としては、従来からUVインキに使用されていたアクリル系単量体を用いることができる。本発明における「アクリル系単量体」とは、モノマーだけではなく、常温で液体のオリゴマーを含む概念である。
【0071】
UV硬化性アクリル系単量体は、例えば、エチレン性不飽和結合を有するアクリレート等を挙げることができ、特に、単官能アクリレート、2官能アクリレート、及び3官能以上のアクリレート、並びにこれらのオリゴマーから選択される1種又は2種以上を使用してよい。
【0072】
単官能アクリレートとしては、例えば、カプロラクトンアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールジアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸等が挙げられる。
【0073】
2官能アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。
【0074】
3官能以上のアクリレートとしては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0075】
更に、これらのオリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート等が挙げられる。
【0076】
第1の赤外線吸収性UVインキ中のUV硬化性アクリル系単量体の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、45重量%以上、又は50重量%以上であってよく、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってよい。
【0077】
(i-4)光硬化剤
光硬化剤は、紫外線照射によって活性酸素等のラジカルを発生する化合物(UV硬化剤)であり、従来からUVインキに使用されていた光硬化剤を用いることができる。本発明に用いられる光硬化剤としては、上記のUV硬化性アクリル系単量体を光重合させることができれば、その種類は特に限定されない。
【0078】
光硬化剤としては、例えば、アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)ケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン等のアセトフェノン類;ベイゾイン、ベイゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベイゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインジメチルケタール、ベンゾインパーオキサイド等のベンゾイン類;2,4,6-トリメトキシベンゾインジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホフィンオキサイド類;ベンジル及びメチルフェニル-グリオキシエステル;ベンゾフェノン、メチル-4-フェニルベンゾフェノン、o-ベンゾイルベンゾエート、2-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド、アクリル-ベンゾフェノン、3,3’4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン類;テトラメチルチウラムモノスルフィド;アゾビスイソブチロニトリル;ジ-tert-ブチルパーオキサイド;10-ブチル-2-クロロアクリドン;2-エチルアントラキノン;9,10-フェナントレンキノン;カンファキノン;チタノセン類、等を挙げることができ、これらから選択される1種又は2種以上を好ましく使用できる。
【0079】
光硬化剤とともに、光硬化助剤を併用してもよい。光硬化助剤は、例えば、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等であってよい。
【0080】
光硬化剤の使用量は、UV硬化性アクリル系単量体100重量部に対して、0.1重量部以上、0.5重量部以上、1.0重量部以上、2.0重量部以上、又は3.0重量部以上であってよく、20重量部以下、10重量部以下、8.0重量部以下、5.0重量部以下、3.0重量部以下、又は1.0重量部以下であってよい。
【0081】
(i-5)分散剤
第1の赤外線吸収性UVインキは、赤外線吸収性顔料のインク中への分散性を高めるために、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、例えば、アミン、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有している化合物を挙げることができる。これらの官能基は、赤外線吸収性顔料の表面に吸着して、凝集を防ぐことができ、インク中で赤外線吸収性顔料を均一に分散させる機能を有する。
【0082】
第1の赤外線吸収性UVインキにおける分散剤の含有量は、第1の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上であってよく、15質量部以下、10質量部以下、8.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は1.5質量部以下であってよい。
【0083】
(i-6)溶媒
本発明で好ましく用いられる第1の赤外線吸収性UVインキは、溶媒を含んでよい。従来のUVインキは、通常は溶媒を含まず、またこの溶媒を含まないことにより、溶媒の除去工程が不要になる等、作業性において有利な点であると考えられていた。しかし、本発明では、第1の赤外線吸収性UVインキの印刷後、UV硬化したアクリル系樹脂中に、溶媒が取り込まれる等によって、溶媒の乾燥等の工程を省略することも可能であるため、第1の赤外線吸収性UVインキが溶媒を含んでいても、作業性において特段の不利益はない。
【0084】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の溶媒としては、上記の赤外線吸収性顔料を分散することができるとともに、アクリル樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を溶解することができ、本発明の有利な効果が得られる範囲であれば特に限定されない。溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類:アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;等を挙げることができ、これらから選択される1種又は2種以上を使用してよい。
【0085】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の溶媒は、特に、
赤外線吸収性顔料を分散可能な第1の溶媒と、
第1の溶媒と相溶性であり、かつアクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒と
を含んでいてよい。
【0086】
このような第1の溶媒、及び第2の溶媒を含む第1の赤外線吸収性UVインキは、例えば、
赤外線吸収性顔料及び第1の溶媒を含む分散体と、
アクリル系樹脂及び第2の溶媒を含む樹脂組成物と
を混合する工程を含む方法によって、比較的簡単に調製することができる。
【0087】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の溶媒は、第1の溶媒及び第2の溶媒とともに、希釈用溶媒を更に含んでいてよい。この場合、第1の溶媒、第2の溶媒、及び希釈用溶媒は、すべて同じ種類の溶媒であってよく、そのうちの2つが同じ種類であってよく、3つそれぞれが異なる種類の溶媒であってよい。
【0088】
第1の溶媒、第2の溶媒、及び希釈用溶媒は、それぞれ、上記に例示した溶媒から適宜に選択されてよい。例えば、第1の溶媒としては、例えば、グリコールエーテル類を用いて;第2の溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類及び脂肪族炭化水素類から選択される1種又は2種以上を用いてよく;希釈用溶媒としては、例えば、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、及び脂肪族炭化水素類から選択される1種又は2種以上を用いてよい。
【0089】
第1の赤外線吸収性UVインキ中の溶媒の含有量は、赤外線吸収性インキの全量を100重量%としたときに、例えば、10重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、又は40重量%以上であってよく、例えば、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってよい。
【0090】
(ii)第2の赤外線吸収性UVインキ
第2の赤外線吸収性UVインキは、赤外線吸収性顔料、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂、及びウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体を含む、赤外線吸収性UVインキである。第2の赤外線吸収性UVインキは、上記以外に、光硬化剤を含んでいてもよく、分散剤、溶媒等を、更に含んでいてよい。
【0091】
(ii-1)赤外線吸収性顔料
第2の赤外線吸収性UVインキでは、赤外線吸収性顔料として、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれる赤外線吸収性顔料として例示した、タングステン系赤外線吸収性顔料、スズ系赤外線吸収性顔料、有機系赤外線吸収性顔料等から選ばれる1種以上を使用してよい。第2の赤外線吸収性UVインキにおける赤外線吸収性顔料としては、タングステン系赤外線吸収性顔料が好ましい。
【0092】
第2の赤外線吸収性UVインキにおける赤外線吸収性顔料の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインキの固形分を100重量%としたときに、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、又は2.0重量%以上であってよく、20.0重量%以下、15.0重量%以下、14.0重量%、12.0重量%以下、10.0重量%以下、8.0重量%以下、又は5.0重量%以下であってもよい。第2の赤外線吸収性UVインキにおける赤外線吸収性顔料の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインキの固形分を100重量%としたときに、典型的には、0.1重量%以上20.0重量%以下であり、好ましくは1.5重量%以上10.0重量%以下である。
【0093】
(ii-2)UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂
第2の赤外線吸収性UVインクは、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂を含む。第2の赤外線吸収性UVインクは、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂を含むことにより、紫外線硬化性能を付与されるとともに、耐塩基性、特に洗濯耐性に優れた印刷物を与えることが可能となる。
【0094】
第2の赤外線吸収性UVインクに用いられるUV硬化性ウレタンアクリレート樹脂としては、例えば、ウレタン結合と、アクリロイル基とを有する化合物であってよい。
【0095】
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂は、分子鎖にアクリロイル基を有することにより、UVによる硬化が可能となる。また、分子鎖にウレタン結合を有することにより、他の分子との間に、水素結合を形成することができる。その結果、耐塩基性、特に洗濯耐性に優れた印刷物を与えることが可能となる。
【0096】
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂が有するアクリロイル基は、アクリル酸から誘導される基である。アクリル酸は、単官能タイプであっても、多官能タイプであってもよい。
【0097】
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂は、アクリロイル基を複数含むものであることが好ましい。UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂が有するアクリロイル基の数は、2以上、3以上、4以上、6以上、9以上、又は12以上であってよく、30以下、20以下、15以下、12以下、10以下、又は8以下であってよい。UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂が有するアクリロイル基の数は、典型的には、3以上9以下であってよい。
【0098】
アクリロイル基の数が3以上である場合には、分子間で架橋を形成することができるため、耐塩基性、特に洗濯耐性を、更に向上させることが可能となる。
【0099】
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂が有するウレタン結合は、イソシアネート基とヒドロキシ基とを反応させることにより形成されたものであってよい。第2の赤外線吸収性UVインクに用いられるUV硬化性ウレタンアクリレート樹脂が有するウレタン結合は、芳香族系のイソシアネート化合物から形成されるものであっても、脂肪族系のイソシアネート化合物から形成されるものであっても、いずれでもよい。
【0100】
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂のウレタン結合を形成するためのヒドロキシ基を有する化合物は、ポリエーテル系、及びポリエステル系のいずれであってもよく、また、ポリマーであっても、低分子量のジオール等であってもよい。
【0101】
すなわち、本発明に用いられるUV硬化性ウレタンアクリレート樹脂は、ある程度の分子量を有するポリマーであっても、オリゴマーであっても、プレポリマーであってもよい。
【0102】
第2の赤外線吸収性UVインクにおいて、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインクの固形分を100重量%としたときに、1重量以上、2重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、7重量%以上、10重量%以上、12重量%以上、15重量%以上、又は20重量%以上であってよく、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、又は15重量%以下であってよい。この範囲の含有量であれば、赤外線吸収性UVインクが、十分な紫外線硬化性能を有するとともに、耐塩基性、特に洗濯耐性に優れた印刷物を与えることが可能となる。
【0103】
更に、第2の赤外線吸収性UVインクにおいて、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂は、後述のウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体100重量部に対して、1重量部以上、2重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、12重量部以上、15重量部以上、40重量部以上、又は50重量部以上であってよく、150重量部以下、120重量部以下、100重量部以下、90重量部以下、80重量部以下、70重量部以下、60重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、又は25重量部以下であってよい。この範囲の含有量であれば、赤外線吸収性UVインクが、十分な紫外線硬化性能を有するとともに、赤外線吸収性UVインクの粘度の上昇を抑制することができる。
【0104】
(ii-3)ウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体
第2の赤外線吸収性UVインキでは、UV硬化性アクリル系単量体として、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれるものとして例示した、UV硬化性アクリル系単量体のうちの、ウレタンアクリレート以外から選ばれる1種以上を使用してよい。
【0105】
第2の赤外線吸収性UVインクにおいて、ウレタン結合を含まないUV硬化性アクリル系単量体の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインクの固形分を100重量%としたときに、95質量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下、65重量%以下、又は60重量%以下であってよく、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、又は75重量%以上であってよい。
【0106】
(ii-4)光硬化剤
第2の赤外線吸収性UVインキでは、光硬化剤として、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれるものとして例示した光硬化剤から選ばれる1種以上を使用してよい。また、このような光硬化剤とともに、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれる光硬化助剤として例示したものから選ばれる1種以上を併用してよい。
【0107】
第2の赤外線吸収性UVインキにおける光硬化剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、及びウレタン基を含まない紫外線硬化型アクリル系単量体の合計100質量部に対して、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、4質量部以上、又は5質量部以上であってもよく、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、又は6質量部以下であってもよい。
【0108】
(ii-5)分散剤
第2の赤外線吸収性UVインキは、分散剤として、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれるものとして例示した分散剤から選ばれる1種以上を使用してよい。第2の赤外線吸収性UVインキにおける分散剤の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上であってよく、15質量部以下、10質量部以下、8.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は1.5質量部以下であってよい。
【0109】
(i-6)溶媒
本発明で好ましく用いられる第2の赤外線吸収性UVインキは、インキの分散性の向上、インキの粘度の調整等のために、溶媒を含んでよい。溶媒としては、第2の赤外線吸収性UVインキに含まれる各成分を分散又は溶解できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0110】
第2の赤外線吸収性UVインキにおける溶媒としては、第1の赤外線吸収性UVインキに含まれるものとして例示した溶媒から選ばれる1種以上を使用してよい。
【0111】
第2の赤外線吸収性UVインキ中の溶媒は、特に、
赤外線吸収性顔料を分散可能な第1の溶媒と、
所望により、第1の溶媒と相溶性であり、かつUV硬化性ウレタンアクリレート樹脂を溶解可能な第2の溶媒と
を含んでいてよい。
【0112】
このような第1の溶媒と、所望により第2の溶媒を含む、第2の赤外線吸収性UVインキは、例えば、
赤外線吸収性顔料及び第1の溶媒を含む分散体と、
UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂、又はUV硬化性ウレタンアクリレート樹脂を第2の溶媒に溶解した溶液と
を混合する工程を含む方法によって、調製することができる。
【0113】
第2の赤外線吸収性UVインキの調製工程には、希釈用溶媒を添加して粘度を調節する工程が、更に含まれていてもよい。
【0114】
第2の赤外線吸収性UVインキにおける溶媒の含有量は、第2の赤外線吸収性UVインキの全量を100重量%としたときに、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、又は5重量%以上であってよく、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、又は1重量%以下であってよい。
【0115】
-赤外線吸収性インキ層の形成-
本発明の印刷物における赤外線吸収性インキ層は、例えば、上記のような赤外線吸収性インキを用いて、第1の情報コードを含むパターンを、基材上に印刷することにより、形成することができる。赤外線吸収性インキ層は、第1の情報コード以外のパターンを有していてもよい。
【0116】
赤外線吸収性インキ層の印刷は、例えば、インクジェット印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷等の適宜の印刷方法によることができる。しかしながら、枚葉ごとに異なる個別情報の印刷に対応するために、赤外線吸収性インキ層の印刷は、特にインクジェット印刷によって行われてよい。
【0117】
〈隠蔽層〉
本発明の印刷物は、基材、及びこの基材上に第1の情報コードを構成する赤外線吸収性インキ層の他に、隠蔽層を更に有していてよい。この隠蔽層は、第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、基材上に赤外線非吸収性インキによって印刷されてよい。
【0118】
-赤外線非吸収性インキ-
赤外線非吸収性インキは、赤外線吸収性顔料を実質的に含有しない、通常のインキであってよく、特に、赤外線吸収性顔料としてカーボンブラックを含有しないインキであってよい。
【0119】
赤外線非吸収性インキとしては、赤外線吸収性顔料、特にカーボンブラックを含有しないインキであれば、特に制限なく使用することができる。赤外線非吸収性インキは、例えば、オフセットインキ、平板インキ、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ等が挙げられる。
【0120】
隠蔽層は、第1の情報コードの少なくとも一部を視覚的に隠蔽するように、基材上に印刷される。隠蔽層は、第1の情報コード全部を視覚的に隠蔽するように、基材上に印刷されてよい。隠蔽層は、写真、イラスト、文字情報等の任意の意匠を有していてよい。
【0121】
(第2の情報コード)
隠蔽層は、第1の情報コードとは別に、第2の情報コードを有していてもよい。この第2の情報コードは、可視光線下で目視観察によって識別することが可能な態様で存在していてよい。
【0122】
第2の情報コードは、隠蔽層の一部として隠蔽層の印刷の際に同時に印刷されてもよいし、印刷された隠蔽層上に、更に印刷されてもよい。後者の場合、第2の情報コードは、赤外線非吸収性インキによって印刷されてよい。
【0123】
第2の情報コードの少なくとも一部は、第1の情報コードが存在する領域に存在していてよい。このような態様にすると、印刷物の同じ領域において、赤外線照射下では第1の情報コードを読み取ることができ、可視光照射下では第2の情報コードを読み取ることができるから、1回の読み取り操作で照射光の波長を変えることにより、極めて多くの情報を取得できる利点がある。また、第2の情報コードの下部に、隠蔽された第1の情報コードが存在することが気付かれ難いから、機密情報の秘匿性に優れる。
【0124】
第2の情報コードは、バーコード又は2次元コードであってよい。
【0125】
《印刷物の適用》
本発明の印刷物は、例えば、有価証券、証明書、包装材、繊維製品等に好適に適用できる。
【実施例
【0126】
以下の実施例及び比較例において、試料調製用には、以下の原料を用いた。
【0127】
〈赤外線吸収性顔料〉
(セシウム酸化タングステン)
住友金属鉱山(株)製、日射遮蔽分散液「YMS-01A-2」、組成:
Cs0.33WO25重量%
添加剤(分散剤その他)12.5重量%
溶媒62.5重量%(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート58.9重量%、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル1.86重量%、及び酢酸ブチル1.74重量%)
【0128】
住友金属鉱山(株)製、日射遮蔽分散液「YMF-10A-2」、組成:
Cs0.33WO17.5重量%
添加剤(分散剤その他)11.0重量%
溶媒71.5重量%(酢酸ブチル69.7重量%及び2-ブタノール1.8重量%)
【0129】
以下、日射遮蔽分散液「YMS-01A-2」を「CsWO分散液(1)」といい、「YMF-10A-2」を「CsWO分散液(2)」といい、これらのCsWO分散液に含まれる赤外線吸収性顔料Cs0.33WOを、「CsWO」という。
【0130】
(カーボンブラック)
CABOT社製、ファーネスブラック「R400R」
【0131】
〈アクリル系樹脂(バインダー樹脂)〉
DIC(株)製、溶剤型アクリル樹脂「アクリディックA-814」、組成:
アクリル樹脂50重量%
溶媒50重量%(トルエン42.5重量%、及び酢酸エチル7.5重量%)
【0132】
以下、溶剤型アクリル樹脂「アクリディックA-814」の溶液を、「アクリル樹脂溶液」という。
【0133】
〈UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂〉
DIC(株)製、UV硬化性ウレタンアクリレート樹脂「ルクシディアWLS-373」、アクリロイル基数6個/分子、樹脂含量100重量%
【0134】
〈UV硬化性アクリル系単量体(感光性モノマー)〉
(株)T&K TOKA製、ウレタン基を含まないUV硬化性アクリル系単量体である「BESTCURE 分散用UVモノマー」、感光性モノマー含量100重量%
【0135】
〈光硬化剤(UV硬化剤)〉
BASF社製、「IRGACURE500」
【0136】
《実施例1》
(1)赤外線吸収性インキの調製
CsWO分散液(1)100重量部(CsWO25重量部相当)、アクリル樹脂溶液25重量部(アクリル樹脂(表には「A-814」と表記)12.5重量部相当)、及び酢酸エチル25.0重量部を混合した。次いで、ここに、感光性モノマー2,208重量部と、UV硬化剤92.0重量部との混合物(UV硬化剤量は、感光性モノマー及びUV硬化剤の合計に対して、4.0重量%である)を添加して、よく撹拌することにより、赤外線吸収性インキを調製した。
【0137】
得られた赤外線吸収性インキ中の溶媒量は、合計100重量部である、また、赤外線吸収性インキ中のCsWO濃度は1.0重量%であり、当該インキの固形分に対するCsWO濃度は1.1重量%であった。
【0138】
(2)赤外線吸収性インキの印刷(ベタ印刷部及び2次元コード印刷部)
上記で得られた赤外線吸収性インキを用い、インクジェット印刷により、王子製紙(株)製の白色OCR紙基材上に、20mm×20mmの正方形状のベタ印刷、及び13mm×13mmのQRコード(登録商標)(バージョン5(37セル×37セル))を印刷した。印刷後、露光量80W/cmの水銀ランプを10秒間照射して、インキを硬化させることにより、紙基材上に、ベタ印刷部及び2次元コード印刷部を形成して、基材/赤外線吸収性インキ層積層体を得た。なお、この赤外線吸収性インキの印刷の際、少なくとも、ベタ印刷部と同形同面積の領域には、赤外線吸収性インキによる印刷を行わずに、赤外線吸収性インキの印刷が行われない非印刷領域として確保した。
【0139】
インクジェット印刷は、以下の装置及び条件にて行った。
インクジェットプリンタ:(株)トライテック製、品名「Pattering JET」
ヘッド:コニカミノルタ(株)製、品名「KM512」
解像度:360dpi
設定インキ吐出量:10g/m
【0140】
次いで、上記で得られた基材/赤外線吸収性インキ層積層体のベタ印刷部について、可視-赤外領域の分光反射率を測定した。結果を図4に示す。
【0141】
(3)隠蔽層の印刷
次に、(株)T&K TOKA製のオフセット枚葉インキ、「UVカートン GE紅」を用い、基材/赤外線吸収性インキ層積層体の赤外線吸収性インキ層側に、ベタ印刷部及び2次元コード印刷部、並びに被印刷領域を被覆するように、単色ベタの隠蔽層の印刷を行って、印刷物サンプルを作製した。ここで用いたインキは、赤外線吸収性を有さないインキである。
【0142】
隠蔽層の印刷は、以下の条件のオフセット印刷によって行った。
印刷機:(株)IHI機械システム製、オフセット印刷機「RIテスター」
インキ盛量:0.125mL
インキ膜厚:約1μm
【0143】
(5)評価
(5-1)隠蔽性の評価(色差ΔEの評価)
X-Rite社製の色差計「SpectroEye」を用い、赤外線吸収性インキによるベタ印刷部の領域と、非印刷領域との色差ΔEを、隠蔽層上から測定した。結果を表1Aに示す。
【0144】
(5-2)コード読取性の評価
(株)デンソー製の2次元コードリーダー、「QB-30SU」を用い、波長850nmの赤外線LEDを照明として使用して、2次元コード印刷部の領域について、隠蔽層上から読取りを行い、2次元コードの読取りが可能かどうかを調べた。
【0145】
読取りに際しては、以下の操作を行った。
【0146】
2次元コードリーダーのカメラ部分を上向きにし、カメラから40mm離れた位置に厚み2mmの透明アクリル板を設置した。2次元コード印刷部がカメラ上に位置するように、印刷サンプルの印刷面を下にして透明アクリル板上に載置し、読取りを行った。ここで、印刷サンプルの載置、及び2次元コード読取りの操作は、隠蔽層の色ごとに同一サンプルを用いて10回繰り返して行い、10回のうちの何回が読取り可能であったかを記録した。結果を表1Aに示す。
【0147】
《実施例2~5、及び比較例1》
(1)赤外線吸収性インキの調製において、感光性モノマー及びUV硬化剤の量を、表1Aに記載のとおりにそれぞれ変更し、インキ中のCsWO濃度を表1Aに記載のとおりに調整した他は、実施例1と同様にして赤外線吸収性インキを調製し、これを用いて評価を行った。結果を表1Aに示す。
【0148】
ここで、UV硬化剤量としては、感光性モノマー及びUV硬化剤の合計に対して、4.0重量%を維持した。
【0149】
《比較例2》
カーボンブラック「R400R」25重量部、及び、感光性モノマー2,352重量部と、UV硬化剤98.0重量部との混合物(UV硬化剤量は、感光性モノマー及びUV硬化剤の合計に対して、4.0重量%である)を混合することにより、赤外線吸収性インキを調製した。
【0150】
得られた赤外線吸収性インキを用いた他は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1Aに示す。
【0151】
《参考例1》
「(3)隠蔽層の印刷」において、(株)T&K TOKA製のオフセット枚葉インキ、「UVカートン 墨」を用いた他は、実施例4と同様にして、印刷物サンプルを作製し、評価を行った。ここで用いたインキは、赤外線吸収性を有するインキである。結果を表1Aに示す。
【0152】
《実施例6》
(1)赤外線吸収性インキの調製
CsWO分散液(2)142.9重量部(CsWO25重量部相当)、及びUV硬化型ウレタンアクリレート樹脂(表には「WLS」と表記)125.3重量部を混合した。次いで、ここに、感光性モノマー626.4重量部と、UV硬化剤30.1重量部との混合物(UV硬化剤量は、UV硬化型ウレタンアクリレート樹脂及び感光性モノマーの合計に対して、4.0重量%である)を添加して、よく撹拌することにより、赤外線吸収性インキを調製し、これを用いて評価を行った。結果を表1Bに示す。
【0153】
得られた赤外線吸収性インキ中の溶媒量は、合計102.1重量部である。また、赤外線吸収性インキ中のCsWO濃度は2.7重量%であり、当該インキの固形分に対するCsWO濃度は3.0重量%であった。
【0154】
【表1】
【0155】
表1A及び表1B中、各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
【0156】
〈赤外線吸収性顔料〉
CsWO:住友金属鉱山(株)製、日射遮蔽分散液「YMS-01A-2」又は「YMF-10A-2」に含まれるセシウム酸化タングステン、組成Cs0.33WO
R400R:CABOT社製、ファーネスブラック、品名「R400R」
〈隠蔽層のインキ〉
GE紅:(株)T&K TOKA製、オフセット枚葉インキ、品名「UVカートン GE紅」
カートン墨:(株)T&K TOKA製、オフセット枚葉インキ、品名「UVカートン 墨」
【0157】
表1A及び表1Bにおいて、実施例1~6、並びに比較例1及び2は、隠蔽層の印刷に、赤外線吸収性を有さないインキを用いた例である。
【0158】
《分析例》
(1)基材/赤外線吸収性インキ層積層体の分光反射率測定
実施例1、5、及び6、並びに比較例1及び2における基材/赤外線吸収性インキ層積層体のそれぞれを第1の積層体として、これらについて、基材を基準(反射率100%)として、可視-赤外領域の分光反射率の測定を行った。各積層体の、可視領域における相対反射率の最小値Rvis-min、並びに赤外領域における相対反射率の最小値Rir-min及び最大値Rir-maxの値を、これらが観測された波長とともに、表2に示す。また、実施例1及び5、並びに比較例1及び2について得られたグラフを、図4に示す。
【0159】
(2)基材/隠蔽層積層体の分光反射率測定
(2-1)基材/隠蔽層積層体の作製
上記の実施例等で用いたものと同じ白色OCR紙基材上に、(株)T&K TOKA製のオフセット枚葉インキ「UVカートン GE紅」を、実施例等と同様のオフセット印刷により、ベタ印刷して、基材/隠蔽層積層体(第2の積層体)を作製した。
【0160】
(2-2)分光反射率測定
得られた基材/隠蔽層積層体について、基材を基準(反射率100%)として、可視-赤外領域の分光反射率の測定を行った。この積層体の、赤外領域における相対反射率の最小値Rir-min及び最大値Rir-maxを、これらが観測された波長とともに、表3に示す。また、ここで得られたグラフを、図4に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
表1Aを参照すると、赤外線吸収性インキ中の赤外線吸収性顔料として、カーボンブラックを用いた比較例2の印刷物では、情報コードの読取性については、試行10回中の読取り可能回数が10回と、極めて良好であったが、ΔE値が20を超えており、隠蔽性は不良であることが分かった。
【0164】
一方、表1A及び表1Bを参照すると、赤外線吸収性インキ中の赤外線吸収性顔料としてCsWOを用いた、実施例1~6の印刷物では、ΔE値が4.61以下と低く、隠蔽性は良好であることが分かった。これらの印刷物のコード読取性については、試行10回中の読取り可能回数が、いずれも2回以上であった。特に、赤外線吸収性インキ固形分当たりの赤外線吸収性顔料濃度を1.5重量%以上とした実施例2~6の印刷物では、試行10回中の読取り可能回数が10回と、コード読取性は極めて良好であった。
【0165】
しかしながら、赤外線吸収性インキ固形分当たりの赤外線吸収性顔料濃度を16.5重量%まで増やした比較例1の印刷物では、試行10回中の読取り可能回数が10回と、コード読取性は良好であったが、ΔE値が12を超え、隠蔽性は不良であった。
【0166】
表1Aにおいて、参考例1は、隠蔽層の印刷に、赤外線吸収性を有するインキを用いた例である。この参考例1の印刷物では、ΔE値が1.84と低く、隠蔽性は良好であったが、コード読取性については、試行10回のうち、1回も読み取ることができなかった。
【0167】
また、表2を参照すると、情報コードの読取性及び隠蔽性の双方に優れる実施例の印刷物では、基材及び赤外線吸収性インキ層から成る第1の積層体の分光反射率において、可視領域における最小値Rvis-minが50%以上であり、赤外領域における最小値Rir-minが75%以下であった。
【0168】
これらのことから、基材、及びこの基材上に第1の情報コードを構成する赤外線吸収性インキ層を含む印刷物は、基材及び赤外線吸収性インキ層から成る第1の積層体の分光反射率において、可視領域における最小値Rvis-minが50%以上であり、赤外領域における最小値Rir-minが75%以下であるときに、情報コードの読取性及び隠蔽性の双方に優れるものとなることが検証された。
図1
図2
図3
図4