(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】形状記憶合金製ワイヤに基づく多重安定性アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
F03G7/06 D
(21)【出願番号】P 2021550042
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 IB2020052056
(87)【国際公開番号】W WO2020183360
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】102019000003589
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517067202
【氏名又は名称】アクチュエーター・ソリュ―ションズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アリフ・カジ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ケプファー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ボイムル
(72)【発明者】
【氏名】ネーフェン・ボビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ホノルト
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0115235(US,A1)
【文献】特開2004-100537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0271559(US,A1)
【文献】特表2016-515677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0307786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金製アクチュエータ(10;10′;20;30;40;50;60;70)であって、
少なくとも第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)によって駆動される可動要素(12;22;32;42;52;62;72)であって、前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)が、拮抗構成で配置されており、前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)の位置を
、前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)を冷却するのと同時に決定する、前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)と、
静止フレーム(11;21;31;41;51;61;71)と、
前記静止フレーム(11;21;31;41;51;61;71)の表面を前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)と間接的に結合することによって、前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)をロックするためのロック機構であって、間接的な結合が、前記ロック機構によって実現される、前記ロック機構と、
ロック係合するための復元力を付与する少なくとも1つの復帰機構と、
を備えている前記形状記憶合金製アクチュエータ(10;10′;20;30;40;50;60;70)において、
前記ロック機構が、少なくとも1つの可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)を含んでおり、前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)が、前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)が前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)又は前記静止フレーム(61;71)の前記表面と係合するロック位置と、前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)が前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)及び前記静止フレーム(61;71)の前記表面のいずれとも係合しないアンロック位置と、の間において移動可能とされ、前記ロック機構が、ロック係合するための復元力を付与する少なくとも1つの前記復帰機構に取り付けられており、
少なくとも1つの前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合解除が、少なくとも前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)の作動によって制御され、
少なくとも1つの前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合が、前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)の冷却時に、冷却の結果として、少なくとも1つの前記復帰機構によって付与される復元力によって自動的に実行されることを特徴とする形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項2】
すべての形状記憶合金製ワイヤ(1,2)が、同一の長さ及び直径を有していることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項3】
少なくとも前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)の作動による前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)の移動が、直線、回転、又は直線及び回転の組み合わせとされることを特徴とする請求項1又は2に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)それぞれが、第1のセグメント(131,131′;231,231′;431,431′)と第2のセグメント(132,132′;232,232′;432,432′)とを備えており、
前記第1のセグメント(131,131′;231,231′;431,431′)が、前記可動要素(12;22;32;42;52;62;72)の移動を同時に駆動し、
少なくとも1つの前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合解除が、前記第1のセグメント(131,131′;231,231′;431,431′)及び前記第2のセグメント(132,132′;232,232′;432,432′)のうち少なくとも1つのセグメントによって制御されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1の形状記憶合金製ワイヤ(1)及び前記第2の形状記憶合金製ワイヤ(2)それぞれが、第1のセグメント(431,431′)と第2のセグメント(432,432′)とを備えており、
前記第1のセグメント(431,431′)と前記第2のセグメント(432,432′)との両方が、前記可動要素(42)を同時に駆動し、複数の前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合解除を制御することを特徴とする請求項3に記載の形状記憶合金製アクチュエータ(40)。
【請求項6】
1つ以上の弾性要素(19,19′;29,29′;39,39′)、転がり軸受、又は滑り軸受が、前記可動要素(12;22;32)を前記静止フレーム(11;21;31)の表面と接続していることを特徴とする請求項3に記載の形状記憶合金製アクチュエータ(10;10′;20;30)。
【請求項7】
前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合のための前記復帰機構が、弾性要素(15,15′;25,25′,25′′,25′′′;35,35′;45,45′,45′′,45′′′;55,55′;65,65′;75,75′,75′′,75′′′)を備えていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項8】
前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合のための前記復帰機構が、1つ以上
の永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項9】
前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)の係合のための前記復帰機構が、1つ以上の双安定要素を備えていることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【請求項10】
前記可動ストッパ(3,3′,3′′,3′′′)が、摩擦ストッ
パとされることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の形状記憶合金製アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拮抗構成で利用される形状記憶合金製ワイヤの特性を活用した、多重安定性を有している形状記憶合金(SMA)製アクチュエータに関する。一般的に言えば、形状記憶合金製ワイヤを基礎となるアクチュエータは、例えば負荷(encumbrance)の低減、重量削減、及び電力消費の低減のような様々な利点を提供するので、高度な小型化又は複雑なシステム/デバイスへの組み込みの単純化を実現することができる。
【0002】
最近のSMAワイヤを基礎とするアクチュエータの例としては、特許文献1,特許文献2,及び特許文献3が挙げられる。これら特許文献に記載のすべてのデバイスは、アクチュエータが電力/電流を供給する必要なくSMA作動部品(ワイヤ)と結合された一種の機械式ロックを確実にする安定位置を2つしか有していないという欠点を抱えている。
【0003】
特許文献4には、回転及び直線変位可能な要素に拮抗構成で作用する2つの形状記憶合金製ワイヤを利用したSMAを基礎とするアクチュエータが記載されている。このような記載された解決手段では、可動要素が、作動のために必要とされる変位とは関連しない′′擬似的な′′/′′寄生的な′′二次的運動を実行する必要がある。このような特性に起因して、上述の解決手段は、大部分の厳しい用途に適応することができない。例えば、このような擬似的な運動は、光学ズームにおけるカメラモジュールの画質を著しく低下させる。より具体的には、アクチュエータがロックされた状態でしか、画質が許容可能とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願第2006/9298500号明細書
【文献】米国特許出願第2005/0160858号明細書
【文献】米国特許第7364211号明細書
【文献】米国特許出願第2008/0271559号明細書
【文献】米国特許第8152941号明細書
【文献】米国特許第9315880号明細書
【文献】米国特許第8430981号明細書
【文献】米国特許第9068561号明細書
【文献】米国特許第6835083号明細書
【文献】国際公報第2019/003198号
【非特許文献】
【0005】
【文献】′′Fundamental characteristics and design method for nickel-titanium shape memory′′,2001年発行, PERIODICA POLYTECHNICA SER. MECH. ENG. VOL. 45, NO. 1, 75-86頁
【文献】“Konstruieren mit Konstruktionskatalogen. Band 2: Kataloge”,Springer-Verlag社,1994年発行
【文献】”A Study of the Properties of a High Temperature Binary Nitinol Alloy Above and Below its Martensite to Austenite Transformation Temperature”,著者Dennis W. Norwich,SMST2010会議
【文献】http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、形状記憶合金製ワイヤを用いたアクチュエータを提供することであり、従来技術の限界を克服することができる、より具体的には、依然として安定位置を維持するための電力/電流の供給を必要としないまま、達成可能な安定位置の数の制限を受けない形状記憶合金アクチュエータを提供することである。可動要素は、拮抗構成の第1の形状記憶合金製ワイヤ及び第2の形状記憶合金製ワイヤによって駆動され、可動要素の位置を同時に決定する。可動ロックは、フレームの表面を可動要素と結合する。可動ロックの係合解除は、第1の形状記憶合金製ワイヤ及び第2の形状記憶合金製ワイヤのうち少なくとも1つの形状記憶合金製ワイヤの作動によって制御される。可動ロックの係合は、形状記憶合金製ワイヤの冷却の際に少なくとも1つの復帰機構によって付与される復元力によって実施される。
【0007】
本発明について、以下の図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明におけるアクチュエータの第1の実施例の概略的な側面図である。
【
図1B】本発明におけるアクチュエータの第1の実施例の概略的な側面図である。
【
図1C】第1の実施例の変形例の概略的な側面図である。
【
図1D】第1の実施例の変形例の概略的な側面図である。
【
図2A】本発明におけるアクチュエータの第2の実施例の概略的な側面図である。
【
図2B】本発明におけるアクチュエータの第2の実施例の概略的な側面図である。
【
図3A】本発明におけるアクチュエータの第3の実施例の概略的な側面図である。
【
図3B】本発明におけるアクチュエータの第3の実施例の概略的な側面図である。
【
図4A】本発明におけるアクチュエータの第4の実施例の概略的な側面図である。
【
図4B】本発明におけるアクチュエータの第4の実施例の概略的な側面図である。
【
図5A】本発明におけるアクチュエータの第5の実施例の概略的な側面図である。
【
図5B】本発明におけるアクチュエータの第5の実施例の概略的な側面図である。
【
図6A】本発明におけるアクチュエータの第6の実施例の概略的な側面図である。
【
図6B】本発明におけるアクチュエータの第6の実施例の概略的な側面図である。
【
図7A】本発明におけるアクチュエータの第7の実施例の概略的な側面図である。
【
図7B】本発明におけるアクチュエータの第7の実施例の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図中において、幾つかの場合には、図面の理解を補助するために、様々な要素の大きさ及び寸法比が変更されている。特に、アクチュエータの他の要素とSMAワイヤの直径との比率のみならず、例えば電流供給源、ワイヤ圧着/固定要素等のような、本発明を理解するために必要とされない補助的な要素は、当該発明の属する分野では知られた通常の手段であるので、図示されていない。
【0010】
本発明のすべての実施例に関連する共通の発明的特徴は、少なくとも2つの形状記憶合金製ワイヤを拮抗構成で使用することである。拮抗構成とすることにより、可動要素のロック、ロック解除、及び移動が、形状記憶合金製ワイヤの異なる作動度によって決定される。具体的には、電源が供給されていない場合には、移動を防止するロック係合となる一方、少なくとも1つの形状記憶合金製ワイヤを加熱することによってロックが解除されるが、SMAワイヤの異なる引っ張りに起因する平衡によって最終位置が決定される。所望の位置に到達すると同時に冷却することによって、到達した位置を維持することができると同時に復帰機構の作動に起因してロック係合となるので、可動要素をロック/ロック解除するためのさらなる作動機構が不要となる。
【0011】
図1A及び1Bは、本発明におけるアクチュエータ10の概略的な側面図である。
図1Aは、ロック解除状態のアクチュエータ10を表わし、
図1Bは、ロック状態のアクチュエータを表わす。
【0012】
アクチュエータ10は、構造フレーム11と可動要素12とを備えている。可動要素12は、2つの拮抗する形状記憶合金製ワイヤ1,2によって、特に形状記憶合金製ワイヤ1,2の第1のセグメント131,131′によって駆動される。第1のセグメント131,131′はそれぞれ、可動要素12の側面をフレーム11の対向する側面と接続しており、これにより形状記憶合金製ワイヤ1,2の異なる作動レベルに従って、両方向に沿って可動要素12を交互に駆動することができる。この点において、形状記憶合金製ワイヤ1,2がマルテンサイト相(低温)からオーステナイト相(高温)に遷移するに従って、形状記憶合金製ワイヤ1,2が可動要素12に作用させる牽引力が大きくなる。形状記憶合金線の動作原理の詳細は、例えば非特許文献1に開示されるように、当業者には周知である。
【0013】
可撓性要素19,19′は、静止したフレーム11の別の面を可動要素12と接続しているので、これにより可動要素12を支持し、且つ、可動要素12を移動方向に案内しつつ、他の方向への可動要素12の移動を防止することができる。
【0014】
アクチュエータロック機構は、2つの可動ストッパ3,3′から構成されており、例えば
図1Bに表わすように、可動要素12と接触すると摩擦によって可動要素12をロックさせる一方、例えば
図1Aに表わすように、可動ストッパ3,3′が可動要素12から脱離すると可動要素12の移動を拘束しないようになっている。形状記憶合金製ワイヤ1,2の第2のセグメント132,132′がレバー18,18′を介して可動ストッパ3,3′に力を及ぼさない場合には、ホルダ16,16′をレバー18,18′と接続させているバネ15,15′の作用に起因して、可動ストッパ3,3′は可動要素12と接触している。形状記憶合金製ワイヤの第2のセグメント132,132′は、一旦作動すると、可動ストッパ3,3′を可動要素12から離隔するように且つ静止ピラー17,17′に向かって引っ張るので、可動要素12の移動が、形状記憶合金製ワイヤ1,2の異なる作動レベルによって駆動される。
【0015】
明確にするために、形状記憶合金製ワイヤの第1のセグメント131,131′は、可動要素12から隣接するフレーム11に至るまで延在しており、形状記憶合金製ワイヤの第2のセグメント132,132′は、フレーム11から連結レバー18,18′に至るまで延在している。
【0016】
図1A及び1Bは、本発明の重要な概念を明らかにする。具体的には、形状記憶合金製ワイヤ1,2の活性化が可動ストッパ3,3′に対する作用を介して可動要素12のロック解除を決定する一方、形状記憶合金の異なる作動レベル、すなわち、形状記憶合金に占めるオーステナイト相の量が、(温度過渡の際における)移動と引張ワイヤの温度が最終温度である場合における最終位置とを決定する。拮抗構成の他方のワイヤは、可動要素12を摩擦ロック3,3′から確実に係合解除するために、少なくとも最小の作動レベルに、より具体的には引張ワイヤより低い作動レベルに維持される。可動要素についてロック機能を変位機能から結合解除することによって、可動要素の位置を一層正確に制御可能となるので、例えば光学ズーム機能、(例えば、監視目的の)小型カメラの位置決め機構、小型ロボットアーム、ロボットハンド、人工装具のような、より困難な用途に適用させることができる。
【0017】
本発明におけるアクチュエータは、
図1C及び
図1Dの概略的な側面図に表わすように、1つの可動ストッパのみを有している場合があり、この場合、アクチュエータ構造体10′は、左側の制動′′ブロック′′、すなわち可動ストッパ3とバネ15とホルダ16と静止ピラー17とレバー18とから成る組立体の存在のみ除けば、
図1A及び
図1Bに表わすアクチュエータ構造体と同一であることに留意すべきである。この場合には、形状記憶合金製ワイヤ1は、形状記憶合金製ワイヤ1の第2のセグメント132を介して、可動ストッパ3を可動要素12から係合解除/変位させる役割を果たす一方、可動要素12の移動は、形状記憶合金製ワイヤ1,2の異なる作動レベルによって決定される。
【0018】
図1C及び
図Dに表わす実施例において例示するように、2つの拮抗する形状記憶合金製ワイヤは、等しい長さ及び直径を有している(すなわち、差/許容差が±5%以内である)ことが望ましいが、異なる長さを有している場合もある。説明する以下のすべての実施例において、拮抗する形状記憶合金製ワイヤは、等しい長さを有しているが、このような要件は、必須の特徴ではない。
【0019】
図1A及び
図1B並びに
図1C及び
図1Dの概略図に表わすアクチュエータでは、一般に、SMAワイヤの一部分が、1つ以上の可動ストッパに作用することによってロック解除するように特化しているが、このようなアクチュエータは、SMAワイヤの特定の専用部分に連結された動作範囲が自動ロック能力によって減少しないので、高ストロークを実現するための解決策として有益である。このことは、可動要素からアクチュエータフレームに向かうワイヤの全長が可動要素の変位に貢献することを意味する。
【0020】
図2A及び2Bは、本発明におけるアクチュエータの第2の実施例20の概略的な側面図である。
【0021】
アクチュエータ10と同様に、アクチュエータ20は、構造フレーム21と可動要素22とを備えており、可動要素22は、2つの拮抗するSMAワイヤ1,2によって駆動される。SMAワイヤ1,2は、相対する方向に交互に可動要素22を駆動するために、可動要素22の側面それぞれを構造フレーム21の対向する表面それぞれと接続させている第1のセグメント231,231′を有している。可撓性要素29,29′は、静止フレーム21の他の表面を可動要素22と接続しているので、可動要素22を支持する共に可動要素22を可動要素22の移動方向に案内しつつ、他の方向への移動を防止することができる。
【0022】
アクチュエータ20は、2つのスペーサ/静止ピラー24,24′と、2つの可動式摩擦ストッパ3,3′とをさらに備えており、可動ストッパ3,3′は、2つの形状記憶合金製ワイヤ1,2のうち一方の形状記憶合金製ワイヤのみが部分的に作動した場合であっても、可動式摩擦ストッパ3,3′を確実に同期作動させるリンク要素27の上面に配設されている。4つの横方向のバネ25,25′,25′′,25′′′は、第1の実施例のバネ15,15′及びホルダ16,16′と同様に、リンク要素27をホルダ26,26′に接続させている。
【0023】
リンク要素27の垂直方向の位置決めは、形状記憶合金製ワイヤの第2のセグメント232,232′によって制御されるレバー28,28′が2つの上側バネ25′′,25′′に作用することによって調節される。一方、他方の2つの下側バネ25,25′は、レバーによって制御されず、可動要素22の変位に対して垂直な方向にリンク要素27を案内することを補助するので、リンク要素27の回転を防止することができる。
図2Aは、リンク要素27がスペーサ24,24′に載置された状態において、′′制動′′力が可動要素22に作用していない状況を表わす。一方、
図2Bは、リンク要素27が可動ストッパ3,3′を介して可動要素22に接触するように駆動され、その結果として摩擦拘束力を可動要素22に作用させている状況を表わす。この場合には、可動要素22のロック/ロック解除は、リンク要素27と可動ストッパ3,3′、バネ25,25′,25′′,25′′′、レバー28,28′、及びホルダ26,26′との複合作用によって実現される。
【0024】
図3A及び
図3Bは、本発明における第3の実施例を概略的に表わす。この場合には、アクチュエータ30は、2つの拮抗する形状記憶合金製ワイヤ1,2に接続されている可動要素32を備えている。形状記憶合金製ワイヤそれぞれが、第1のセグメント331,331′と第2のセグメント332,332′とを有している。第1のセグメント331,331′は、可動要素32を可動要素32の上方に位置するアクチュエータフレーム31の表面と接続させている。一方、第2のセグメント332,332′は、可動要素32を可動要素32の下方に位置するレバー38,38′と接続させている。レバー38,38′は、バネ35,35′を介して、ホルダ36,36′に接続されている。
【0025】
形状記憶合金製ワイヤ1,2が作動していない場合には、(レバー38,38′の頂面に且つレバー38,38′の内縁に配置された)可動式摩擦ストッパ3,3′が、可動要素32の変位を阻止する(
図3B参照)。一方、形状記憶合金製ワイヤ1,2が作動すると、形状記憶合金製ワイヤ1,2の第2のセグメントの牽引によって、形状記憶合金製ワイヤ1,2が、レバー38,38′がそれぞれ、端部ストッパ要素34,34′と接触している間に、可動要素32から摩擦ストッパ3,3′を離隔させるようにレバー38,38′の外縁を持ち上げる(
図3A参照)。また、当該実施例では、2つの垂直な可撓性要素39,39′が、望ましくない方向への動きを防止しつつ(すなわち、回転を回避しつつ)、可動要素32を進行方向に案内する。
【0026】
図4A及び4Bは、本発明における第4の実施例を概略的に表わす。この場合には、アクチュエータ40は、2つの拮抗する形状記憶合金製ワイヤ1,2によって駆動される可動要素42を備えている。形状記憶合金製ワイヤ1,2の中心点が可動要素42に接続されている一方、形状記憶合金製ワイヤ1,2の端部それぞれが、可動ストッパ3,3,′3′′,3′′′を担持するバネ45,45′,45′′それぞれに接続されている。従って、このような特定の構成では、形状記憶合金製ワイヤ1,2のいずれの部分も、アクチュエータフレーム41に直接接続されていないが、形状記憶合金製ワイヤ1,2は、バネ45,45′,45′′,45′′′及び当該バネが取り付けられたホルダ46,46′,46′′,46′′′を介して、アクチュエータフレーム41に接続されている。
【0027】
当該実施例では、SMAワイヤ1,2それぞれは、第1のセグメント431,431′と第2のセグメント432,432′とを有しており、第1のセグメント431,431′と第2のセグメント432,432′とは両方とも、可動式摩擦ストッパ3,3′,3′′,3′′′をホルダ46,46′,46′′,46′′′と接触させることによって可動式摩擦ストッパ3,3′,3′′,3′′′を係合解除しつつ(
図4A参照)、形状記憶合金製ワイヤ1,2の異なる作動レベルに従って当該セグメントの最終位置を決定する可動要素に作用する。言うまでもなく、
図4Bに表わす係合位置は、SMAワイヤ1,2の冷却時におけるバネ45,45′,45′′,45′′の作用に起因する。
【0028】
また、本発明は、回転アクチュエータ、すなわち、本発明の同一の発明概念を利用しつつ、拮抗する形状記憶合金製ワイヤの作用下において可動(回転可能)要素を回転させるアクチュエータを包含することを意図している。言い換えれば、形状記憶合金製ワイヤの作動が可動(回転可能)要素のロック解除を決定する一方、異なる形状記憶合金の作動レベル、すなわちオーステナイト相の割合が、(温度過渡の際における)回転の方向及び程度、並びに形状記憶合金製ワイヤが自身の設定温度に調整された場合における最終位置を決定する。当該設定温度において、形状記憶合金製ワイヤがロック係合するように同時に冷却された場合に、形状記憶合金製ワイヤは当該最終位置にロックされる。
【0029】
図5A及び
図5Bは、本発明における回転可能なアクチュエータの例示的な実施例の概略的な側面図である。アクチュエータ50は、ローラ52(可動要素)を備えている。ローラ52は、分割されてない構成でローラ52の側面それぞれに接続された2つの拮抗する形状記憶合金製ワイヤ1,2に接続されている一方、ローラ52がサポート59を介して取り付けられたアクチュエータフレーム51の表面に接続されている。
【0030】
2つのレバー58,58′が、バネ55,55′を介してフレーム51の側面それぞれに取り付けられており、ローラ52に隣接する頂端部に可動式のストッパ3,3′を備えており、低端部に転動ピン500,500′を備えている。形状記憶合金製ワイヤ1,2は、レバー58,58′とローリングピン500,500′との間に挿置されているので、レバー58,58′が作動した場合には、形状記憶合金製ワイヤ1,2は、ローラ52から離隔するように且つ静止ピラー56,56′に向かってストッパ3,3′を移動させ、
図5Aに表わすロック解除位置に到達させる。SMAワイヤ1,2の冷却時には、レバー58,58′の移動は、バネ55,55′によって、
図5Bに表わすロック位置に復帰するように制御される。
【0031】
図6A及び
図6Bは、本発明におけるさらなる回転可能なアクチュエータについての第6の実施例の概略的な側面図である。この場合には、アクチュエータ60は、2つのL字状アーム68,68′を介して2つの形状記憶合金製ワイヤ1,2に接続されている揺動可能な(可動式の)T字状要素62を備えている。形状記憶合金製ワイヤ1,2は、固定されたアクチュエータフレーム61に接続されている。T字状要素62は、T字の基部に回転可能に接続されたサポート69を介して、固定されたアクチュエータフレーム61に取り付けられている。2つのL字状アーム68,68′は、一報の端部において、T字状要素62の横梁の下面から突出した2つの線形バネ65,65′に接続されており、他方の端部において、可動式摩擦ストッパ3,3′を介してSMAワイヤ1,2に接続されている。適切な静止要素67,67′が、好ましくはアーム68,68′の角部とT字状要素62との間に設けられており、アーム68,68′又はT字状要素62に取り付けられている。可動式摩擦ストッパ3,3′とアクチュエータフレーム61の隣接する曲面との係合/係合解除の制御はそれぞれ、バネ65,65′とSMAワイヤ1,2とによって実現される。
【0032】
図7A及び7Bは、本発明におけるアクチュエータの第7の実施例の概略的な側面図である。
図7A及び7Bでは、上部フランジを具備する略U字状の形態をした可動要素72が、大型の略U字状の形態をしたリンクフレーム77に結合されており、可動要素72の上部フランジが、中間バネ75,75′、75′′、75′′′を介して、リンクフレーム77に載置可能とされる。可動要素72の移動は、一組の拮抗する形状記憶合金製ワイヤ1,2によって制御される。形状記憶合金製ワイヤ1,2それぞれは、3つのセグメント、すなわち静止フレーム71の表面を可動要素72の外側頂縁部と接続するための第1のセグメント731,731′と、静止フレーム71の反対側の表面をリンクフレーム77の外側底縁部と接続させるための第2のセグメント732,732′と、第1のセグメント731,731′と第2のセグメント732,732′との間に延在している第3のセグメント733,733′とを備えている。
【0033】
アクチュエータのロック位置(
図7B参照)は、リンクフレーム77の下方に取り付けられている可動式摩擦ストッパ3,3′がフレーム71の表面と接触している場合に実現される。形状記憶合金製ワイヤの作動の際に、より具体的には形状記憶合金製ワイヤの第3セグメント733,733′によって、リンクフレーム77が上昇し、これにより可動式摩擦ストッパ3,3′が、フレーム71の当該表面と接触しなくなる(
図7A参照)。
【0034】
図1A~1Bと同様に、可撓性要素79,79′は、フレーム101の別の表面を、より具体的にはロック位置において摩擦ストッパ3,3′が接触している表面に対して反対側の表面を可動要素72と接続することによって、フレーム101を支持すると共にフレーム101を移動方向に案内しつつ、他の方向へのフレーム101の移動を防止することができる。
【0035】
図2A~
図2Bに表わす第2の実施例の場合と同様に、リンクフレーム77が可動ストッパの変位を管理しているので、可動要素72は、可動ストッパ3,3′を係合/係合解除させるために可動要素72の垂直方向の(二次的/寄生的な)変位を必要とせず、横方向のみに変位する。
【0036】
すべての図面における可動要素の描写を比較すれば理解可能なように、本発明は、特定の輪郭又は幾何学的形状の可動要素に限定される訳ではない。
【0037】
従前の図面に表わす実施例は、本発明の技術的範囲に属する典型例にすぎず、本発明は、これら図面に図解された実施例に限定される訳ではないが、直接的な変形例を含んでおり、例えば、形状記憶合金製ワイヤは、長さ、直径、組成、又は配置の点において同一である必要は無く、上述のように非対称であっても良いことに留意すべきである。
【0038】
図示の様々な実施例に示す復帰要素(15,15′,・・・,75′′,75′′′)に関しては、薄肉の可撓性要素(撓み部(flexures))の利用が望ましいが、古典的なバネ、又は例えばゴムやエラストマー緩衝材のような他のタイプの弾性要素の利用であっても良い。また、可動素子のロック位置決めのための他の受動素子としては、例えば、強磁性元素と組み合わせた永久磁石を利用することもできる。双安定機構が復帰要素に利用される場合には、可動要素を位置決めしつつ、SMAワイヤの最小張力を維持する必要は無い。上述の事項のすべてが、当業者には周知であり、適切な双安定機構は、例えば非特許文献2に開示されている。
【0039】
図示の例は、一般に、可動要素の摩擦接触ロックを利用するが、代わりに、可動要素の実現可能なロック位置の数を制限しつつ、より高い保持力を発生させる形状ロック接触面(form-locking contacting surface)を利用しても良い。また、本発明の利点(二次移動の抑制)を実現するためには、ロックを実現するための、可動ストッパを介した可動要素の静止フレームの表面との結合が、ロック係合のための復元力を付与する復帰機構に取り付けられたロック機構(例えば、第1の実施例におけるバネ15,15′及びホルダ16,16′)を介して間接的に得られることが必須である。
【0040】
可動要素のガイド手段は、可撓性要素のみならず、例えばすべり軸受やころ軸受を備えている。
【0041】
本発明は、特定の形状記憶合金材料に限定される訳ではないが、例えば特許文献5、特許文献6、及び特許文献7に記載のニチノールのようなNi-Ti系合金が望ましい。
【0042】
ニチノールは、その処理に応じて超弾性ワイヤの挙動又は形状記憶合金の挙動を代替的に示すことができる。交互に示すことがある。ニチノールの特性と当該特性を実現するための方法とは、例えば非特許文献3に開示されるように、当業者には周知である。
【0043】
ニチノール自体が利用されても良いが、転移温度に関するニチノールの特性は、例えばHf,Nb,Pt,Cuのような元素を添加することによって調整されても良い。材料合金の適切な選択と当該材料合金の特性は、非特許文献4に開示されるように、当業者には周知である。
【0044】
また、形状記憶合金製ワイヤは、“単体”で利用して良いが、熱管理すなわち作動後の形状記憶合金製ワイヤの冷却を改善するためにコーティング/被膜を施して利用しても良い。コーティング被膜は、熱伝導体である電気絶縁コーティングを用いて残留熱を管理する方法を開示している特許文献8に記載のように均一であっても良いが、特許文献9には、作動サイクルそれぞれの後に冷却を改善可能とされる周囲被膜を具備する形状記憶合金製ワイヤが開示されている。また、優位には、特許文献10に開示されるように、相変化材料が適切に分散されたコーティングも利用することができる。
【0045】
形状記憶合金製ワイヤの直径は、優位には20μm~200μmとされる。また、形状記憶合金線が実体物であれば、円状の断面でなくても良いので、“直径”との用語は、最小の囲み円の直径を意図することを強調することが重要である。
【符号の説明】
【0046】
1 形状記憶合金製ワイヤ
2 形状記憶合金製ワイヤ
3 可動ストッパ
3′ 可動ストッパ
10 アクチュエータ
11 構造フレーム
12 可動要素
15 バネ(復帰要素)
15′ バネ(復帰要素)
16 ホルダ
16′ ホルダ
17 静止ピラー
17′ 静止ピラー
18 レバー
18′ レバー
19 可撓性要素
19′ 可撓性要素
20 アクチュエータ
21 構造フレーム
22 可動要素
24 静止ピラー
24′ 静止ピラー
25 バネ
25′ バネ
26 ホルダ
26′ ホルダ
27 リンク要素
28 レバー
28′ レバー
29 可撓性要素
29′ 可撓性要素
30 アクチュエータ
34 端部ストッパ要素
34′ 端部ストッパ要素
38 レバー
38′ レバー
45 バネ
45′ バネ
46 ホルダ
46′ ホルダ
50 アクチュエータ
52 ローラ
55 バネ
55′ バネ
56 静止ピラー
56′ 静止ピラー
58 レバー
58′ レバー
61 アクチュエータフレーム
62 T字状要素
65 バネ
65′ バネ
68 アーム
68′ アーム
69 サポート
71 静止フレーム
77 リンクフレーム
131 (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
131′ (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
132 (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント
132′ (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント
331 (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
331′ (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
332 (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント
332′ (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント
431 (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
431′ (形状記憶合金製ワイヤの)第1のセグメント
432 (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント
432′ (形状記憶合金製ワイヤの)第2のセグメント