(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】睡眠収差の処置におけるタシメルテオンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/343 20060101AFI20240209BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20240209BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20240209BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240209BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240209BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20240209BHJP
【FI】
A61K31/343
A61K31/55
A61K33/00
A61P25/20
A61P25/00
C12Q1/6827
(21)【出願番号】P 2021573304
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(86)【国際出願番号】 US2020040081
(87)【国際公開番号】W WO2021003086
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-01-25
(32)【優先日】2019-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】スミースゼク、サンドラ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-013875(JP,A)
【文献】Journal of Pharmacy Practice,2015年,Vol.28, No.5,p.473-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人が睡眠時間遅延に関連しているrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にGG遺伝子型を有するかどうかを同定する方法であって、
前記個人がrs12188518SNP遺伝子座にGG遺伝子型を有することは、睡眠時間を前に繰り上げる(advance)のに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回投与することで睡眠時間遅延を処置する対象として、前記個人が適していることを示す、前記方法。
【請求項2】
前記投与が経口である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与が、前記個人の目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記用量が10mg~100mgである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記用量が20mg~50mgである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記用量が20mgである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
個人が睡眠時間遅延に関連しているrs11248864一塩基多型(SNP)遺伝子座にCC遺伝子型を有するかどうかを同定する方法であって、
前記個人がrs11248864SNP遺伝子座にCC遺伝子型を有することは、睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回投与することで睡眠時間遅延を処置する対象として、前記個人が適していることを示す、前記方法。
【請求項8】
前記投与が経口である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記投与が、前記目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記用量が10mg~100mgである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記用量が20mg~50mgである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記用量が20mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
個人が睡眠時間遅延又は睡眠相後退に関連しているrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にAA又はAG遺伝子型を有するかどうかを同定する方法であって、
前記個人がrs12188518SNP遺伝子座にAA又はAG遺伝子型を有することは、少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤の投与により睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる対象として、前記個人が適していることを示
し、
前記少なくとも1種のHCNチャネル阻害剤は、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、及びセシウムからなる群より選択される、前記方法。
【請求項14】
個人が睡眠時間遅延又は睡眠相後退に関連しているrs11248864一塩基多型(SNP)遺伝子座にTT又はTC遺伝子型を有するかどうかを同定する方法であって、
前記個人がrs11248864SNP遺伝子座にTT又はTC遺伝子型を有することは、少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤の投与により睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる対象として、前記個人が適していることを示
し、
前記少なくとも1種のHCNチャネル阻害剤は、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、ZD7299、及びセシウムからなる群より選択される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は令和1年6月29日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第62/868,881号の利益を主張するものであり、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。
本発明は、睡眠収差の処置におけるタシメルテオンの新しい用途を提供する。特に、本発明は、特定の同定された遺伝子マーカーを有する対象におけるタシメルテオンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
概日リズムは、広範囲の分子的プロセス及び挙動のプロセスを含む、ヒトの生理学の多くの側面に影響を及ぼす。概日リズムのタイミングの変化やズレは、様々な不都合な影響をもたらしうる。
【0003】
ヒトの概日ペースメーカーの本来の期間は1日24時間よりも平均的に長く、すなわち、平均的には24.18時間である。概日ペースメーカーは健常者において、個人の昼夜の睡眠周期を1日24時間に同調させ、個人の睡眠期間の開始のための通常の毎日のタイミングとするように作動するが、他の「クロノタイプ(chronotype)」は収差のある昼夜の睡眠周期を生じることがあり、「朝型」及び「夜型」の両方のクロノタイプが睡眠収差として知られている。これらのクロノタイプを示す個人については、毎日の睡眠タイミングについて、同調した概日ペースメーカーを有する個人(すなわち、自然なクロノタイプ又は自然な睡眠時間を有する個人)が通常経験するであろう睡眠タイミングと比較して、それぞれ早期化又は遅延する傾向が存在する。
【0004】
夜型のクロノタイプ(睡眠時間の開始が遅延している)は、代謝機能障害及び心血管疾患がより高い割合であることを含む、罹病率の昂進と関連している。このクロノタイプは、朝型のクロノタイプ(睡眠時間の開始が早期化している)と比較して、II型糖尿病及び肥満のより高い発生率とも関連している。夜型のクロノタイプは、うつ病の可能性の増加とも関連している。同様の関連性は、睡眠が個人の自然なクロノタイプ又は自然な睡眠タイミングに対して遅延されるシフト業務に従事する者の間でも見出されている。
【0005】
睡眠収差はまた、睡眠周期の間隔が24時間未満に短縮されていること、すなわち24時間未満の概日周期(tau)を有すること、も含む。
【0006】
遺伝的変異は、多くの概日リズム及び睡眠障害の根底にある。睡眠相後退障害(DSPD)は例えば、CRY1スプライシング変異と関連している。Patke et al.、Mutation of Human Circadian Clock Gene CRY1 in Familial Delayed Sleep Phase Disorder、Cell 169(2):203-215.e13 (2017)を参照されたい. いくつかの大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)では、多くのクロノタイプ関連遺伝子座と精神衛生障害との間に相関が認められている。Jones et al. Genome-wide association analyses of chronotype in 697,828 individuals provides insights into circadian rhythms, Nature Communications 10:343 (2019) 及びそこに引用される参考文献を参照されたい。
【0007】
睡眠収差には薬物誘発性の睡眠時間遅延も含まれうる。この場合、個人は1種以上の活性剤の効果の結果としてDSPDにおいて観察されるのと同様の睡眠時間遅延を示す。
【0008】
過分極活性化サイクリックヌクレオチド依存性(HCN)チャネルは心臓ペースメーカー細胞の律動的電気活動を媒介する内在性膜タンパク質であり、ニューロンでは静止膜電位、樹状突起統合、ニューロンペースメーキング、活動電位閾値の確立に重要な役割を果たす。心臓や脳の細胞でリズミカルな活動を起こす役割があるため、HCNチャネルはしばしばペースメーカーチャネルと呼ばれる。Bender et al.、Hyperpolarization activated cyclic-nucleotide gated(HCN)channels in developing neuronal networks, Prog. Neurobiol. 86(3):129-140 (2008) を参照されたい。
【0009】
ヒトでは4つのHCNチャネルタンパク質(HCN1、HCN2、HCN3、及びHCN4)が知られている。HCN1は、脳において高度に発現され、脳における興奮性を調節し得る。特に、HCN1タンパク質は前頭皮質と網膜で発現し、単一ニューロンの自律的活動とネットワーク振動の周期性を形作るのに重要な役割を果たす。
【0010】
タシメルテオン(登録商標HETLIOZとして市販されている)、その医薬組成物及び使用が当技術分野で記述されている。米国特許第5,856,529号及びその請求項7に具体的に記載されている化合物を参照されたい。タシメルテオンは非24時間睡眠覚醒障害(非24)の処置のための医薬としてヒト用医薬として承認されており、20mg単位の製剤形態(カプセル)で使用可能である。カプセル剤は就寝前に毎夜同時刻に使用することが適応とされている。薬理学的には、タシメルテオンは体内時計に関連する脳内領域である視交叉上核(SCN)にあるメラトニン受容体であるMT1R及びMT2Rのアゴニストである。メラトニンによるこれらの受容体の関与は、睡眠/覚醒サイクルを含む概日リズムを調節すると考えられている。その受容体結合プロファイルと一致して、タシメルテオンは急性相シフト及び慢性再同調の前臨床モデルにおいて強力な時間生物活性を実証する。
【0011】
米国特許第5,856,529号はさらに、有効量のタシメルテオンを投与することによって、患者における睡眠障害並びに概日リズム障害の処置における使用のための、タシメルテオンが一員である化合物の属(genus of compounds of which tasimelteon is a member)を請求している。前記特許はタシメルテオンをメラトニンアゴニストとして記載し、メラトニンアゴニストはメラトニン活性に影響される状態の処置におけると同様に、メラトニン受容体相互作用のさらなる研究に有用であろうと述べている。前記特許には、考えられるその他の治療用途の内で、うつ病、時差ぼけ、勤務交代症候群、睡眠障害を挙げている。他の箇所では、前記特許は、タシメルテオンが一員である化合物の属内の化合物が睡眠障害、季節性うつ病、概日周期の変化、メランコリア、ストレス、食欲調節、良性前立腺過形成及び関連状態の処置においてメラトニン剤として有用であることを開示している。
【0012】
就寝前に毎夜同時刻に1日当たり20mgを投与するという承認された投与に加えて、WO2007/137244では、睡眠障害及び概日リズム障害における意図される使用について、タシメルテオンの有効ヒト用量が10~100mg/日の範囲であり得るという発見が、正確な用量がタシメルテオンの粒子サイズ及び処置される患者の身体サイズに依存し得るというさらなる説明とともに報告されている。前記公報では、タシメルテオンの20mg経口単位剤形と、10mg、20mg、50mg、100mg/日用量のタシメルテオンを用いた治験についても記載されている。
【0013】
米国特許出願公開第2009010533A1号(WO2007/137244)では、睡眠-覚醒サイクルが5時間進んでいる、すなわち、ニューヨークからロンドンまで大西洋を横切ってジェット航空機によって移動する対象によって経験され得る睡眠-覚醒サイクル繰り上がりタイプを有する被験者において、タシメルテオンが研究された、前述の臨床試験からの結果が報告されており、該報告には、処置が、プラセボと比較して、薄光によりメラトニン開始及び睡眠をシフトさせる効力について肯定的な結果をもたらしたことが含まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特定の態様において、睡眠収差を経験する個人を処置するための方法を提供する。特に、本発明の態様は、このような個人を処置するためのタシメルテオンの使用のための方法を提供する。前記方法で扱う睡眠収差は、特定の一塩基多型(SNP)を有する個人に特に関係する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの態様は、個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にGG遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び前記個人の睡眠時間を前に繰り上げる(advance)のに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回前記個人に投与することを含む、睡眠時間遅延について前記個人を処置する方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にGG遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び前記個人の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回個人に投与することを含む、睡眠時間遅延について前記個人を処置する方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、その改善が、患者の生物学的サンプルから、rs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座、rs11248864SNP遺伝子座、又はその両方における患者の遺伝子型を同定すること又は同定したこと;及び前記患者の前記遺伝子型が前記rs12188518SNP遺伝子座においてGGである場合、前記患者の前記遺伝子型が前記rs11248864SNP遺伝子座においてCCである場合、又はその両方である場合には、前記患者の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを1日1回前記患者に投与することを含む、睡眠時間遅延について前記患者を処置する方法を提供する。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にAA又はAG遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤を前記個人に投与することを含む、前記個人において睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs11248864一塩基多型(SNP)遺伝子座にTT又はTC遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤を前記個人に投与することを含む、前記個人において睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる方法を提供する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、rs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座にAA遺伝子型を有することに基づいてtau延長が予測される遺伝子型を有すると判定された個人を処置する方法を提供し、前記方法は、前記個人の概日周期(tau)を短縮するのに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回前記個人に投与することを含む。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、個人における概日周期(tau)を改変する方法における、rs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座における前記個人の遺伝子型を同定すること;及び前記rs72762058SNP遺伝子座における前記個人の前記遺伝子型がAAである場合には、前記個人のtauを減少させるのに有効な量のタシメルテオンを前記個人に投与することを含む、改善を提供する。
【0022】
本発明の別の態様は、睡眠相後退を有しており過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤で処置されている患者を処置する方法を提供し、前記方法は、前記患者の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを1日1回患者に投与することを含む。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、概日リズム障害について個人を処置する方法におけるrs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座における前記個人の遺伝子型を同定すること;及び前記rs72762058SNP遺伝子座における前記個人の前記遺伝子型がAAである場合には、前記個人の概日周期(tau)を短縮するのに有効な量のタシメルテオンを前記個人に投与することを含む、改善を提供する。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、非24時間睡眠覚醒障害を患っている光知覚障害患者を、1日の睡眠期間である約7~9時間の後の目標覚醒時刻又はその付近で前記患者が覚醒する24時間睡眠覚醒サイクルに乗せる方法を提供し、前記患者は過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤で処置されており、その改善は、前記HCNチャネル阻害剤による前記患者の処置を中止すること;次いで、前記患者を、24時間睡眠覚醒サイクルに乗せるのに有効な処置期間の間、目標就寝時刻前に1日1回20mgのタシメルテオンで経口処置し、それによって、HCNチャネル阻害剤と組み合わせてのタシメルテオンの使用を回避することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中の方法に従って処置される個人(individuals)はヒトである。特に、処置される個人は、SNP遺伝子座であるrs12188518、rs72762058、又はrs11248864の1つ又はそれ以上に特定の遺伝子型を有する個人である。これらの「rs」SNP遺伝子座指定により同定されるこれらのSNPはヒト染色体5、すなわちchr5:46086964(GRCh38.p12)(A>G;A>T)及びchr5:45467324(GRCh38.p12)(G>A)、又は染色体16(すなわち、chr16:1303514(GRCh38.p12)(T>C;T>G)上に見出される。例えば、それぞれhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/rs12188518、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/rs72762058、及びhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/rs11248864を参照されたい。
【0026】
当業者は、本明細書中で使用される「rs」指示子が「参照SNP ID」番号を称し、NCBIによって使用される同定システムが同一の位置にマッピングされるSNPのグループ又はクラスターを称することを理解する。当業者に理解されるように、他の同定系を用いて、これらの染色体位置を参照することができる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「睡眠収差(sleep aberration)」は例えば、個人における睡眠の異常なパターンを含み得、これは、睡眠又は眠気の開始(すなわち、「睡眠時間」)が異常に遅延したパターン、睡眠時間の開始が異常に早いパターン、1日の睡眠期間が異常に長いか又は異常に短い(すなわち、個人が毎日睡眠のために取っておく持続時間において、7~9時間の正常な1日の期間より実質的に短いか又は実質的に長い)パターン、又は個人の昼夜睡眠サイクルの一部としての日中睡眠又は眠気が異常に長期の期間であるパターン、の形成を取り得る。睡眠収差のある一般的な形態は、個人がその個人の昼夜睡眠サイクルに通常適切である睡眠時間に較べて睡眠時間が遅延しているパターンを有する場合に生じる。上記のように、「睡眠収差」はまた、短縮された(すなわち、24時間未満)tau又は薬物誘発睡眠時間遅延(drug-induced delayed sleep time)も包含し得る。
【0028】
特定のSNP遺伝子座における個人のSNP状態の同定は、一塩基多型を同定するための当該分野で公知の方法によって行われる。この点に関して、個人由来の生物学的サンプルを分析するには標準的な遺伝子試験が公知の技術を使用して行われる。
【0029】
タシメルテオンを投与する、本明細書中に記載の処置レジメンは、非24による個人の処置用に当該分野で公知である処置レジメンを使用して、就寝前の投与によって開始される。これに関して、前記投与は、個人の目標就寝時刻の約2時間前まで行うことができる。最も典型的には、投与は、目標就寝時刻の約0.5~1.5時間前、例えば、目標就寝時刻の約1時間前に行われる。
【0030】
タシメルテオンの投与は経口であることが好ましい。典型的には固体経口剤形、例えば、投与されるべきタシメルテオンの1日用量を含有する単一カプセルが使用されるが、同等の効果を提供する他の投与経路及び剤形が使用されてもよい。
【0031】
タシメルテオンの量は個人の臨床応答に基づいて変化し得るが、典型的には10mg~100mgの1日用量が本明細書中の処置レジメン下で有効である。成人の処置のための好ましい用量は典型的には20mg~50mg/日であり、20mg/日が典型的な有効用量を表す。
【0032】
タシメルテオンが経口剤形を使用して投与される場合、投与のための代表的な方法のいずれが使用されてもよい。適切な剤形には、液体経口剤形及び固体経口剤形(例えば、従来の圧縮錠剤及びカプセル)が含まれる。
【実施例】
【0033】
詳細な説明
本発明は、以下の実施例によってさらに理解することができる。
実施例1:
クロノタイプ予測
最初の全ゲノム配列決定研究は、突然の概日リズムの繰り上がり(circadian advance:これは東に向かうジェット機による移動の際に経験されることもあり、その影響をタシメルテオンが軽減又は消失させることもできる)の影響についての臨床研究の一環として収集された316の試料を用いて実施される。前記研究の参加者は、健康で、概日リズム障害又は睡眠障害に罹患してはいないとみられる晴眼の個人である。
【0034】
連鎖不平衡では一塩基多型(SNP)が400個以上認められる。本研究で同定されたSNPの中で、第5染色体上のHCN1遺伝子内に位置するrs121888518は、個人の朝型-夜型質問票(MEQ)スコアと比較対照したところ、夜型のクロノタイプを予測させることが分かった。特に、rs121888518 SNP遺伝子座にGG遺伝子型を有する個人は、MEQスコアに基づいて夜型のクロノタイプを有すると分類される可能性が有意に高い。この関連性は、2値解析(ロジスティック回帰)及び別の朝型-夜型質問票を用いる場合にも続いている。発現量的形質遺伝子座(eQTL)解析は、rs121888518SNPについて有意な成績(1.6・10-9)を示す。
【0035】
これらの結果は、個人が夜型のクロノタイプを示す作用のメカニズムと一致する。
【0036】
HCN1チャネルは杆体上のフィードバックに関与し、薄暗い光又は中間光の条件下での光反応性のダイナミックレンジを調節する。薄明視条件(mesopic conditions)下における適切な錐体視覚には、HCN1チャネルを介する杆体出力の迅速な適応フィードバック調節が必要である。これらのチャネルが存在しないか、又は阻害される場合、明るい光曝露後に持続する杆体応答が網膜ネットワークを飽和させ、下流錐体シグナル伝達の損失を生じる。
【0037】
個人におけるこのフィードバックシステムの不適切な機能は、薄暗い光の中でさえも、杆体の飽和をもたらす可能性がある。これは、光条件の誤認及びその結果として、睡眠時間の遅延を含みうる睡眠収差として経験される概日遅延をもたらす可能性がある。
【0038】
したがって、夜型のクロノタイプ(例えば、rs121888518SNP遺伝子座におけるGG遺伝子型)の遺伝的素因を有する個人の概日周期をリセットすることは、このような睡眠収差の結果を排除又は改善するための手段を提供する。このような個人に、目標就寝時刻の前に一用量のタシメルテオンを投与することは、個人の睡眠時間を前に繰り上げるよう作用し、それによって睡眠収差を処置する。
【0039】
16番染色体上に位置する別のSNPであるrs11248864も同様に、クロノタイプとの有意な相関(p<10-8)を示す。具体的には、rs11248864SNP遺伝子座にCC遺伝子型を有する個人は、MEQスコア(eQTL=1.3・10-8)に基づいて夜型のクロノタイプを有すると分類される可能性が有意に高い。
【0040】
rs11248864SNPはユビキチン結合酵素E2I(UBE2I)遺伝子内に位置する。UBE2I酵素は転写リプレッサーBHLHE40と直接相互作用し、概日時計の入力と出力に直接関係している可能性がある。UBE2I領域は、続いてγ‐アミノ酪酸(GABA)作動性抑制性神経伝達を調節することによる視床下部ニューロン発火の役割を果たし、下垂体で高度に発現する可能性が高い、脳特異的血管新生阻害剤(BAIAP3)の、重要なeQTLでもある。
【0041】
上述したように、夜型のクロノタイプを有する遺伝的素因を有する個人の概日周期をリセットすることは、このような睡眠収差の結果を排除又は改善する方法を提供する。したがって、このような個人(例えば、rs11248864SNP遺伝子座にCC遺伝子型を有するもの)に目標就寝時刻の前に一用量のタシメルテオンを投与することは、個人の睡眠時間を前に繰り上げるよう作用し、それによって睡眠収差を処置する。
【0042】
この作用メカニズムはまた、個人における睡眠時間を遅延させる方法を示唆する。例えば、夜型のクロノタイプを有するとは予測されない個人(例えば、rs12188518SNP遺伝子座にAA又はAG遺伝子型を有する個人、又はrs11248864SNP遺伝子座にTT又はTC遺伝子型を有する個人)に、このような個人において薄暗い光又は中間光の条件下で杆体の飽和を誘導するのに有効な量のHCNチャネル阻害剤を投与することで、睡眠時間の遅延を生じうる。好適なHCN阻害剤としては、例えば、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、又はセシウムが挙げられる。
【0043】
実施例2:
HCN1と長期tau
2つ目の全ゲノム配列決定研究は、非24時間睡眠覚醒障害(非24)の全盲者174人を対象に実施される。非24は、主体内時計(master body clock)がわずかに短くか、より一般的には24時間よりもわずかに長く走る、概日リズム障害である。
【0044】
このグループ内では、HCN1変異体と尿中6‐スルファトキシメラトニン(aMT6s)リズムの測定から計算した概日周期長(tau)との間に関連性が認められた。aMT6sはメラトニンの主要代謝産物である。特に、45467426位におけるGからAへの突然変異を示すSNPrs72762058のマイナーアレルは、より長いtauとの有意な関連を示す。この突然変異をもつ個人は、前記マイナーアレルを有していない個人よりも12分長い、平均24.71時間のtauを有する。
【0045】
したがって、長いtauを有する遺伝的素因を有することが示された個人のtauを短縮することは、長いtauに関連する概日リズム及び睡眠収差を処置するための方法を提供する。このような個人に有効量のタシメルテオンを投与することは、個人のtauを短縮するように作用し、概日リズム又は睡眠収差の排除又は改善をもたらす。
【0046】
本開示の説明は例示及び説明の目的のために提示されるが、網羅的であることも、開示された形態の開示に限定されることも意図されていない。本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、多くの改変及び変形が当業者には明らかであろう。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にGG遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び
前記個人の睡眠時間を前に繰り上げる(advance)のに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回前記個人に投与すること
を含む、睡眠時間遅延について前記個人を処置する方法。
<2>
前記投与が経口である、<1>に記載の方法。
<3>
前記投与が、前記個人の目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<1>に記載の方法。
<4>
前記用量が約10mg~約100mgである、<1>に記載の方法。
<5>
前記用量が約20mg~約50mgである、<3>に記載の方法。
<6>
前記用量が20mgである、<4>に記載の方法。
<7>
個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs11248864一塩基多型(SNP)遺伝子座にCC遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び
前記個人の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回前記個人に投与すること
を含む、睡眠時間遅延について前記個人を処置する方法。
<8>
前記投与が経口である、<7>に記載の方法。
<9>
前記投与が、前記目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<7>に記載の方法。
<10>
前記用量が約10mg~約100mgである、<7>に記載の方法。
<11>
前記用量が約20mg~約50mgである、<10>に記載の方法。
<12>
前記用量が20mgである、<11>に記載の方法。
<13>
睡眠時間遅延について患者を処置する方法における、
前記患者の生物学的サンプルから、rs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座、rs11248864SNP遺伝子座、又はその両方における患者の遺伝子型を同定すること又は同定したこと;及び
前記患者の前記遺伝子型が前記rs12188518SNP遺伝子座においてGGである場合、前記患者の前記遺伝子型が前記rs11248864SNP遺伝子座においてCCである場合、又はその両方である場合には、前記患者の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを1日1回前記患者に投与すること
を含む改善。
<14>
前記投与が、目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<13>に記載の改善。
<15>
前記用量が約10mg~約100mgである、<14>に記載の改善。
<16>
前記用量が約20mg~約50mgである、<15>に記載の改善。
<17>
前記用量が約20mgである、<16>に記載の改善。
<18>
前記患者に投与される前記用量が、睡眠時間遅延を有する素因を示す遺伝子型を持たない個人に睡眠時間を前に繰り上げるために投与される用量よりも多い、<13>に記載の改善。
<19>
個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs12188518一塩基多型(SNP)遺伝子座にAA又はAG遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び
少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤を前記個人に投与すること
を含む、前記個人において睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる方法。
<20>
前記少なくとも1種のHCNチャネル阻害剤が、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、及びセシウムからなる群より選択される、<19>に記載の方法。
<21>
個人の生物学的サンプルから、前記個人がrs11248864一塩基多型(SNP)遺伝子座にTT又はTC遺伝子型を有することを同定すること又は同定したこと;及び
少なくとも1種の過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤を前記個人に投与すること
を含む、前記個人において睡眠時間を遅延させるか又は睡眠相を後退させる方法。
<22>
前記少なくとも1種のHCNチャネル阻害剤が、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、ZD7299、及びセシウムからなる群より選択される、<21>に記載の方法。
<23>
rs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座にAA遺伝子型を有することに基づいて概日周期(tau)延長が予測される遺伝子型を有すると判定された個人を処置する方法、ここで前記方法は、前記個人のtauを短縮するのに有効な用量のタシメルテオンを、目標就寝時刻前に1日1回前記個人に投与することを含む。
<24>
前記投与が、前記目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<23>に記載の方法。
<25>
前記用量が約10mg~約100mgである、<23>に記載の方法。
<26>
前記用量が約20mg~約50mgである、<25>に記載の方法。
<27>
前記用量が約20mgである、<26>に記載の方法。
<28>
rs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座における個人の遺伝子型を同定すること;及び
前記rs72762058SNP遺伝子座における前記個人の前記遺伝子型がAAである場合には、前記個人のtauを減少させるのに有効な量のタシメルテオンを前記個人に投与すること
を含む、前記個人における概日周期(tau)を改変する方法。
<29>
前記投与が経口である、<28>に記載の方法。
<30>
前記投与が、前記個人の目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<28>に記載の方法。
<31>
前記用量が約10mg~約100mgである、<28>に記載の方法。
<32>
前記用量が約20mg~約50mgである、<31>に記載の方法。
<33>
前記用量が20mgである、<32>に記載の方法。
<34>
睡眠相後退を有しており過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害剤で処置されている患者を処置する方法、ここで前記方法は、前記患者の睡眠時間を前に繰り上げるのに有効な用量のタシメルテオンを1日1回患者に投与することを含む。
<35>
前記HCNチャネル阻害剤が、イバブラジン、シロブラジン、ザテブラジン、ZD7299、及びセシウムからなる群より選択される、<34>に記載の方法。
<36>
前記投与が経口である、<34>に記載の方法。
<37>
前記投与が、前記個人の目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<34>に記載の方法。
<38>
前記用量が約10mg~約100mgである、<34>に記載の方法。
<39>
前記用量が約20mg~約50mgである、<38>に記載の方法。
<40>
前記用量が20mgである、<39>に記載の方法。
<41>
概日リズム障害について個人を処置する方法における、
rs72762058一塩基多型(SNP)遺伝子座における前記個人の遺伝子型を同定すること;及び
前記rs72762058SNP遺伝子座における前記個人の前記遺伝子型がAAである場合には、前記個人の概日周期(tau)を短縮するのに有効な量のタシメルテオンを前記個人に投与すること
を含む改善。
<42>
前記投与が経口である、<41>に記載の方法。
<43>
前記投与が、前記個人の目標就寝時刻の0.5時間前~2時間前の経口投与を含む、<41>に記載の方法。
<44>
前記用量が約10mg~約100mgである、<41>に記載の方法。
<45>
前記用量が約20mg~約50mgである、<44>に記載の方法。
<46>
前記用量が20mgである、<45>に記載の方法。