(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240209BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20240209BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
G05D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2022031001
(22)【出願日】2022-03-01
(62)【分割の表示】P 2018064688の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】宮本 惇平
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-176096(JP,A)
【文献】特開2017-136015(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/119266(JP,A1)
【文献】特開2000-029520(JP,A)
【文献】特開2016-021890(JP,A)
【文献】特開2000-066725(JP,A)
【文献】特開2016-074372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された走行経路に沿って自動走行可能な作業車であって、
走行装置に動力を供給するエンジンと、
衛星測位データを出力する衛星測位モジュールと、
エンジン停止を行うエンジン停止制御部と、
前記衛星測位データに基づいて、自動操舵データを出力する自動操舵制御部と、
前記エンジンを駆動させるオン操作および前記エンジンを停止させるオフ操作を受け付けるメインスイッチと
、
車体走行を操作する変速操作具とを備え、
前記衛星測位モジュールは基本給電線と迂回給電線との2系統の給電線でバッテリと接続されており、
前記エンジン停止制御部は、前記メインスイッチがオン操作され
、かつ、前記変速操作具が中立位置に保持された状態で
、異常信号が発生された際に前記エンジンが停止される前記エンジン停止を実行することができ、
前記エンジン停止が実行された場合は、前記基本給電線に対する通電が遮断されると共に、前記迂回給電線を介した通電が開始され、
前記エンジン停止において、少なくとも前記衛星測位モジュールへの給電が持続される作業車。
【請求項2】
車体の状態を検出するセンサをさらに備え、
前記異常信号は、前記センサの検出結果に応じて発生される請求項
1に記載の作業車。
【請求項3】
前記エンジン停止から所定時間経過までに前記エンジンの再始動が実行されない場合には、前記迂回給電線を介した前記衛星測位モジュールへの給電が停止される請求項1
または2に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定された走行経路に沿って自動走行可能な作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による作業車は、機体の位置を示す測位データを出力するGPSモジュールと、前記機体の姿勢方位を示す方位データを出力するジャイロセンサとを備え、測位データまたは方位データに基づいて目標走行経路に沿った自動走行が行われる。自動走行中に、測位データに関する異常が検知された場合、異常が検知された時点から所定距離または所定時間の走行後に、自動走行から手動走行に切り替えられるか、あるいは走行が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GNSS衛星からの電波を利用して出力される測位データ(自車位置データ)は、樹木や建物等の電波障害物による受信障害が発生すると、衛星測位データが異常となり、正しい自車位置を得ることができなくなる。このような受信障害は電波障害物によって衛星電波がさえぎられる領域を通り抜けると解消されるので、その状態で、所定距離または所定時間だけ走行する。それでもなお、受信障害が解消できない場合には、自動走行から手動走行に切り替えられるか、あるいは走行が停止される。自動走行から手動走行に切り替えた場合、運転者が操縦に熟練していなければ、精度の高い作業走行ができないという問題が生じる。この問題を避けるには、走行を停止し、衛星が移動して、受信障害が解消されるのを待つことが好ましいが、走行停止の間も、エンジンを駆動していると、燃料の無駄の消費、CO2の放出という新たな問題を引き起こす。
このため、測位データが異常となっても、衛星測位データが再び正常となるまで、適切に待機できる作業車が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による作業車は、設定された走行経路に沿って自動走行可能な作業車であって、走行装置に動力を供給するエンジンと、衛星測位データを出力する衛星測位モジュールと、エンジン停止を行うエンジン停止制御部と、前記衛星測位データに基づいて、自動操舵データを出力する自動操舵制御部と、前記エンジンを駆動させるオン操作および前記エンジンを停止させるオフ操作を受け付けるメインスイッチと、車体走行を操作する変速操作具とを備え、前記衛星測位モジュールは基本給電線と迂回給電線との2系統の給電線でバッテリと接続されており、前記エンジン停止制御部は、前記メインスイッチがオン操作され、かつ、前記変速操作具が中立位置に保持された状態で、異常信号が発生された際に前記エンジンが停止される前記エンジン停止を実行することができ、前記エンジン停止が実行された場合は、前記基本給電線に対する通電が遮断されると共に、前記迂回給電線を介した通電が開始され、前記エンジン停止において、少なくとも前記衛星測位モジュールへの給電が持続される作業車。
また、本発明による作業車は、設定された走行経路に沿って自動走行可能な作業車であって、走行装置に動力を供給するエンジンと、衛星測位データを出力する衛星測位モジュールと、慣性計測データを出力する慣性計測モジュールと、前記エンジンを一時的に停止させるエンジン一時停止を行うエンジン一時停止制御部と、車体走行を停止させる制動手段と、前記衛星測位データと前記慣性計測データとに基づいて、操舵データを出力する自動操舵制御部と、自動走行時に前記衛星測位データに異常が発生した場合、一定距離または一定時間の監視走行としての自動走行が続行され、前記監視走行の後に前記エンジン一時停止制御部に前記エンジン一時停止の実行を指令する自動走行管理部とを備える。
【0006】
この構成によれば、自動走行時に異常な衛星測位データが発生した後に、一定距離または一定時間の監視走行が行われても、衛星測位データが正常にならなければ、一旦エンジン一時停止が行われるので、燃料の無駄の消費やCO2の放出が抑制される。また、この監視走行は、衛星測位データに頼らずに行われる自動操舵走行となるので、作業者に不安を与える可能性がある。したがって、一定距離または一定時間で監視走行を停止することは、作業者のそのような不安を取り除く効果ももたらす。このエンジン一時停止は、いわゆるアイドリングストップとも称せられるような、一時的なエンジンストップであり、運転者の簡単な操作で解除可能であり、そのエンジンストップの間においても、運転者に対する報知機能は維持可能である。衛星測位データの異常は、捕捉可能な衛星の個数の減少、衛星電波の受信感度低下、基地局との通信不良などが原因によって生じ、衛星測位データの精度低下に結びつく。
【0007】
圃場などの作業地を走行している作業車は、エンジンを停止しても必ずしも停車するとは限らない。作業地が傾斜地であったり、水田のような滑りやすい泥地であったりすれば、意図しない車体の移動が生じる。この問題を解決するために、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記監視走行の後に実行される前記エンジン一時停止とともに前記制動手段による車体走行の停止も実行される。
【0008】
衛星測位データに異常が生じても、しばらくの間は監視走行が行われるが、この監視走行では、衛星測位データは用いられないので、運転者はその動きを注視する必要がある。また、そのような異常が解消されると、通常の自動走行が再開されるので、そのことを運転者は知る必要がある。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記衛星測位データに異常および当該異常の解消を報知する報知ユニットが備えられている。
【0009】
衛星測位データが正常になれば、エンジン一時停止が終了し、自動での作業走行が再開される。また、衛星測位データが所定時間内で正常にならなければ、エンジン一時停止が終了し、手動での作業走行に移行する。いずれにせよ、運転者が意識していないときに、エンジン一時停止が終了し、エンジン駆動が再開されると、運転者が慌ててしまう可能性がある。このため、エンジン駆動の再開は、運転者が意識しながら行われることが好ましい。本発明の好適な実施形態の1つでは、前記エンジン一時停止からの復帰は、運転者による人為操作具に対する操作を通じて行われる。
【0010】
エンジン一時停止において、衛星測位モジュールへの給電が停止されると、衛星測位データをチェックする毎に、衛星測位モジュールへの給電を何らかの方法で行わなければならない。このような煩わしい制御を避けるために、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記エンジン一時停止において、少なくとも前記衛星測位モジュールへの給電が持続される。
【0011】
なお、自動走行時に、自動操舵のための機器に関するデータが異常となった場合には、短時間で車体が目標走行経路から大きく外れてしまうので、直ちに停車する必要がある。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、自動走行時に自動操舵のための機器に関するデータに異常が発生した場合、自動走行の停止、前記エンジン一時停止、前記制動手段による車体走行の停止が実行される前記制動手段による車体走行の停止も実行される。
【0012】
さらに、車体のスリップ等による突発的な車体の姿勢変更などを検出することができる慣性計測データに異常が発生した場合でも、短時間で車体が目標走行経路から大きく外れてしまう。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、自動走行時に前記慣性計測データに異常が発生した場合、自動走行の停止、前記エンジン一時停止、前記制動手段による車体走行の停止が実行される。慣性計測データの異常は、ドリフト誤差などの累積誤差や、スリップ等の異常走行による計測不良が原因によって生じ、慣性計測データの精度低下に結びつく。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7】自動操舵制御の動作を示す田面全体での平面視の説明図である。
【
図8】慣性計測ユニットを用いた自動操舵制御を示す説明図である。
【
図9】表示デバイスの1つである液晶ディスプレイの画面図である。
【
図10】データ異常チェックルーチンを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、本発明の作業車の一例として乗用型田植機(以下、単に田植機と略称する)を例に挙げて説明する。なお、
図2に示されているように、本実施形態では、矢印Fが走行機体Cの機体前方、矢印Bが走行機体Cの機体後方、矢印Lが走行機体Cの機体左方、矢印Rが走行機体Cの機体右方で指している。
【0015】
図1から
図3に示されているように、田植機には、左右一対の操舵車輪10と、走行装置としての左右一対の後車輪11とを有する走行機体Cと、圃場に対する苗の植え付けが可能な作業装置としての苗植付装置Wとが備えられている。左右一対の操舵車輪10は、走行機体Cの機体前側に設けられて走行機体Cの向きを変更操作自在なように構成され、左右一対の後車輪11は、走行機体Cの機体後側に設けられている。苗植付装置Wは、昇降用油圧シリンダ20の伸縮作動により昇降作動するリンク機構21を介して、走行機体Cの後端に昇降自在に連結されている。
【0016】
走行機体Cの前部には、開閉式のボンネット12が備えられている。ボンネット12の先端位置には、マーカ装置33によって圃場に描かれる指標ラインに沿って走行するための目安となる棒状のセンターマスコット14が備えられている。走行機体Cには、前後方向に沿って延びる機体フレーム15が備えられ、機体フレーム15の前部には支持支柱フレーム16が立設されている。
【0017】
ボンネット12内には、エンジン13が備えられている。詳述はしないが、エンジン13の動力が、機体に備えられた不図示のHST(静油圧式無段変速装置)を介して操舵車輪10及び後車輪11に伝達され、変速後の動力が電動モータ駆動式の植付クラッチ(不図示)を介して苗植付装置Wに伝達される。
【0018】
苗植付装置Wは、苗載せ台26に載せられた植え付け用のマット状苗から取り出した苗を圃場に植え付けていく。なお、この苗植付装置Wは八条植え型式に構成されているが、四条植え型式であったり、六条植え型式であったり、七条植え型式であったり、十条植え型式であったりしても良い。
【0019】
走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、複数(例えば四つ)の通常予備苗台28と、予備苗台29とが備えられている。走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、各通常予備苗台28と予備苗台29とを支持する背高のフレーム部材としての左右一対の予備苗フレーム30が備えられ、左右の予備苗フレーム30の上部同士が連結フレーム31にて連結されている。
【0020】
走行機体Cの中央部には、各種の運転操作が行われる運転部40が備えられている。運転部40には、運転座席41と、操舵ハンドル43と、主変速レバー44と、操作レバー45とが備えられている。運転座席41は、走行機体Cの中央部に備えられ、運転者が着座可能なように構成されている。操舵ハンドル43は、人為操作によって操舵車輪10の操舵操作を可能なように構成されている。主変速レバー44は、前後進の切換え操作や走行速度の変更操作が可能なように構成されている。苗植付装置Wの昇降と、左右のマーカ装置33の切換えとが操作レバー45によって行われる。操舵ハンドル43、主変速レバー44、操作レバー45等は、運転座席41の機体前部に位置する操縦塔42の上部に備えられている。運転部40の足元部位には、搭乗ステップ46が設けられている。搭乗ステップ46はボンネット12の左右両側にも延びている。運転座席41よりも下側には、エンジン13の回転によって充電されるバッテリ17が配置されている。
【0021】
主変速レバー44を操作すると、HST(不図示)における斜板の角度が変更され、エンジン13の動力が無段階に変速される。図示しないが、HSTの斜板角度は、サーボ油圧制御機器を搭載した油圧ユニットによって制御される。サーボ油圧制御機器に、公知の油圧ポンプや油圧モータ等が用いられる。
【0022】
操作レバー45を上昇位置に操作すると、植付クラッチ(不図示)が切り操作されて苗植付装置Wに対する伝動が遮断され、昇降用油圧シリンダ20を作動して苗植付装置Wが上昇し、左右のマーカ装置33が格納姿勢に操作される。操作レバー45を下降位置に操作すると、苗植付装置Wが下降して田面に接地して停止した状態となる。この下降状態で操作レバー45を右マーカ位置に操作すると、右のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。操作レバー45を左マーカ位置に操作すると、左のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。
【0023】
運転者は、田植え作業を開始するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを下降させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を開始させて田植え作業を開始する。そして、田植え作業を停止するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを上昇させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を遮断する。
【0024】
図2に示すように、運転部40の操縦塔42の上部の操作パネル47に、報知デバイス73(
図6参照)の1つとして種々の情報を表示可能なタッチパネル式の液晶ディスプレイ48が備えられている。液晶ディスプレイ48の右側には、押し操作式の始点終点設定スイッチ91が備えられ、液晶ディスプレイ48の左側には、押し操作式の目標設定スイッチ92が備えられている。なお、液晶ディスプレイ48の左側に始点終点設定スイッチ91が備えられ、液晶ディスプレイ48の右側に目標設定スイッチ92が備えられる構成であっても良い。
【0025】
主変速レバー44の握り部には、押し操作式の自動操舵スイッチ93が備えられている。自動操舵スイッチ93は、自動復帰型であり、押し操作する毎に自動操舵制御の入り切りの切換えを指令する。自動操舵スイッチ93は、主変速レバー44の握り部を手で握った状態で、例えば、親指で押すことができる位置に配置されている。始点終点設定スイッチ91、目標設定スイッチ92、自動操舵スイッチ93の機能については後述する。
【0026】
図4に示されているように、走行機体Cには、左右の操舵車輪10を自動操舵可能な操舵機構Uが備えられている。操舵機構Uには、ステアリング操作軸64と、ピットマンアーム61と、ピットマンアーム61に連動連結される左右の連繋機構62と、操舵モータ66と、ギヤ機構63とが備えられている。ステアリング操作軸64は、クラッチ67を介して操舵ハンドル43と連動連結される。ピットマンアーム61は、ステアリング操作軸64の回動に伴って揺動するように構成されている。ギヤ機構63は、ステアリング操作軸64に操舵モータ66を連動連結している。
【0027】
ステアリング操作軸64は、ピットマンアーム61及び左右の連繋機構62を介して、左右の操舵車輪10に夫々連動連結されている。ステアリング操作軸64の下端部に、ロータリエンコーダからなる操舵角センサ65が備えられ、ステアリング操作軸64の回転量は操舵角センサ65により検出される。
【0028】
操舵機構Uの自動操舵を行う場合には、操舵モータ66を駆動して、操舵モータ66の駆動力によりステアリング操作軸64を回動操作し、操舵車輪10の操舵角度を変更するようになっている。自動操舵を行わない場合には、操舵機構Uは、操舵ハンドル43の人為操作により回動操作することができる。
【0029】
次に、自動操舵制御を行うための構成について説明する。
この田植機では、測位ユニットPSとして、衛星測位モジュール81と、慣性計測モジュール82とを備えている。衛星測位モジュール81は、衛星からの電波を受信して機体の位置を検出する衛星測位用システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の一例として、周知の技術であるGPS(Global Positioning System)を利用して、機体の位置を求める衛星測位機能を有する。本実施形態では、衛星測位として、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)が採用されているが、RTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)などの他の方式を採用することも可能である。慣性計測モジュール82は、3軸ジャイロセンサ及び3軸加速度センサを含んでいる。衛星測位モジュール81は、電源投入時に、衛星の捕捉情報や、基地局からの補正情報を設定する初期処理(ウオームアップ処理)が必要である。同様に、慣性計測モジュール82も、電源投入時に、誤差補正(ドリフト補正など)ための各種補正値を設定する初期処理が必要である。
【0030】
図1に示されているように、衛星測位アンテナを含む衛星測位モジュール81は、板状の支持プレートを介して連結フレーム31に取り付けられている。
【0031】
慣性計測モジュール82は、ジャイロセンサや加速度センサを有し、走行機体Cの旋回角度の角速度を検出可能であり、角速度を積分することで機体方位の角度変位を求めることができる。慣性計測モジュール82は、走行機体Cの旋回角度の角速度の他、走行機体Cの左右傾斜角度、走行機体Cの前後傾斜角度の角速度等も計測可能である。慣性計測モジュール82は、運転座席41の後側下方位置であって走行機体Cの横幅方向中央の低い位置に配置されている。慣性計測モジュール82を衛星測位モジュール81と同じ位置に配置してもよい。
【0032】
測位ユニットPSを構成する衛星測位モジュール81及び慣性計測モジュール82は、電源投入時に初期処理(ウオームアップ処理)が必要となるので、短時間の給電停止が生じる毎に、初期処理が行われることを回避する制御が組み込まれている。つまり、メインキー22のOFF操作、または、エンジン一時停止(アイドリングストップ)の実行時にもかかわらず、衛星測位モジュール81及び慣性計測モジュール82に一時的に給電が続けられる回路構成となっている。このための給電回路SCが
図5に模式的に示されている。
【0033】
バッテリ17と測位ユニットPSとは、基本給電線E1と迂回給電線E2との2系統の給電線でつながっている。基本給電線E1には、基本給電線E1の遮断(OFF)と接続(ON)を行う第1スイッチ23が介装されており、迂回給電線E2には、迂回給電線E2の遮断と接続を行う第2スイッチ24が介装されている。第1スイッチ23及び第2スイッチ24のON/OFFは制御装置CUからの制御信号によって行われる。第1スイッチ23のON/OFFは、メインキー22の操作によっても行われる。メインキー22は、電装品への給電を行うON位置(アクセサリー位置)、エンジンスタートを行うイグニッション位置などを有する。メインキー22のON位置で、第1スイッチ23がONとなり、基本給電線E1が通電し、基本給電線E1を通じてバッテリ17から測位ユニットPSへ給電することが可能となる。メインキー22のOFF位置で、第1スイッチ23がOFFとなり、基本給電線E1が遮断するので、基本給電線E1を通じてのバッテリ17から測位ユニットPSへ給電は不可能となる。
【0034】
この田植機は、所定条件が満たされるとエンジン13を一時的に自動停止する、エンジン一時停止機能(いわゆるアイドリングストップ機能)を有する。所定条件の例として、例えば、(1)衛星測位データに異常が発生して、一定距離または一定時間の自動走行が行われること、(2)慣性計測データに異常が発生すること、(3)あらかじめ決められている特定センサの異常、(3)エンジン一時停止用操作具に対する運転者による操作、などが挙げられる。
このエンジン一時停止が実行されると、第1スイッチ23がOFFとなり、基本給電線E1が遮断される。これにより、イグナイタ等のエンジン制御機器25への給電が停止し、エンジン13は停止する。衛星測位データの回復、あるいはエンジン一時停止解除用操作具に対する運転者の操作(例えば、ブレーキの踏み込み)によってエンジン一時停止が解除されると、第1スイッチ23がONとなり、基本給電線E1が通電状態となる。さらに、スタータ駆動信号によってスタータが駆動し、エンジン13が始動する。
【0035】
エンジン一時停止に応答して、制御装置CUからの制御信号によって第1スイッチ23がOFFとなることにより基本給電線E1が遮断する。同時に制御装置CUからの制御信号によって第2スイッチ24がONとなり、迂回給電線E2が通電し、迂回給電線E2を通じてバッテリ17から測位ユニットPSへ給電することが可能となる。これにより、測位ユニットPSは、エンジン一時停止が実行されていても、基本給電線E1による給電が停止しても、迂回給電線E2によるバックアップ給電が実現し、測位ユニットPSは障害なく稼働する。なお、測位ユニットPS以外で、エンジン一時停止時においても給電が必要な電子センサは、基本給電線E1と迂回給電線E2との両方に接続しておくことになる。
【0036】
なお、この実施形態では、メインキー22をOFF位置に操作した場合にも、迂回給電線E2を用いた、測位ユニットPSなどの特別な電子機器への迂回給電線E2を用いた給電が可能である。このメインキー22のOFFが田植機の納屋等への格納時に行われた場合などでは、長時間にわたって田植機は不使用となるので、バックアップ給電は無駄になり、バッテリ17の無駄使いの可能性が高くなる。したがって、メインキー22のOFF時には、所定時間でバックアップ給電も停止される。
【0037】
もちろん、エンジン一時停止中もバッテリ17の充電が行われないので、エンジン一時停止の時間が長い場合、迂回給電線E2による衛星測位モジュール81や慣性計測モジュール82への給電によって、バッテリ17が充電不足となる可能性があるので、所定時間でバックアップ給電は停止される。
【0038】
図6に田植機における制御系の一部が、機能ブロック図の形で示されている。制御装置CUは、入出力インタフェースとして、入出力処理部50を備えている。入出力処理部50は、走行状態検出器74、作業状態検出器75、手動操作ユニット90など、種々の機器と接続している。さらには、上述した給電回路SCも接続されている。この機能ブロック図では、上述した測位ユニットPSは、車載LANを介して制御装置CUと接続している。エンジン13を駆動するためのエンジン制御機器25は、車載LANを介して制御装置CUと接続しているエンジン制御ユニット71から制御信号を受ける。報知デバイス73は、車載LANを介して制御装置CUと接続している報知ユニット72から報知信号を受ける。
【0039】
走行状態検出器74には、車速センサ、エンジン回転数センサ、ブレーキペダル検出センサ、駐車ブレーキ検出センサ、などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業状態検出器75には、苗植付装置Wの構成する各種部材の状態を検出するセンサや、苗載せ台26における苗の量を検出するセンサが含まれている。
【0040】
スイッチ、ボタン、ボリュームなどからなる手動操作ユニット90は、運転者による手動操作によって制御指令を与えるものであり、その操作指令が制御装置CUに入力され。手動操作ユニット90には、前述した、始点終点設定スイッチ91、目標設定スイッチ92、自動操舵スイッチ93などが含まれている。
【0041】
制御装置CUには、自車位置算出部80、走行制御部51、作業制御部52、自動操舵制御部53、走行モード管理部54、エンジン一時停止制御部55、バックアップ給電制御部56、バックアップ給電管理部57、自動走行管理部59、などが備えられている。
【0042】
自車位置算出部80は、測位ユニットPSから逐次送られてくる測位データに基づいて、走行機体Cの地図座標(自車位置)及び走行機体Cの向き(方位)を算出する。その際、自車位置として、走行機体Cの特定箇所(例えば機体中心や苗植付装置Wの作業中心)の位置に変換することができる。
【0043】
走行制御部51は、操舵信号や車速信号を操舵機構Uや走行機器群に与える。この田植機は、自動走行または手動走行で田植作業を行うことができので、走行制御部51には、自動走行制御部511と手動走行制御部512とが含まれている。さらに、特定の状態が発生した場合に走行機体Cを自動的に停止させるための制動制御部513が備えられている。この特定の状態の例として、(1)自動走行時に衛星測位データに異常が発生した後に、監視走行として走行機体Cが一定距離または一定時間だけ自動走行すること、(2)自動走行時における異常な慣性計測データの発生、(3)自動操舵に関係する各種動作機器の状態を検出する特定センサにおける異常(例えば、操舵機構Uの回転方向、角度、力を検出する特定センサが出力する特定センサデータの異常)、などが挙げられる。この制動制御部513からの指令により、ブレーキの作動や走行電動機構であるHSTの中立操作が実行され、走行機体Cが停止する。制動制御部513からの指令により田植機を停車させる機能が本発明における制動手段である。
【0044】
作業制御部52は、走行機体Cの走行に伴って苗植付装置Wの昇降や苗植付装置Wの駆動を制御する。
【0045】
なお、自動運転を行うために、自動走行モードが設定され、手動運転を行うためには手動走行モードが設定される。このような走行モードは、走行モード管理部54によって管理される。自動走行モードが設定されている場合、自動走行制御部511は自動操舵制御部53から自動操舵データ(操舵量)を受け取る。
【0046】
自動操舵制御部53は、ティーチング経路算出部531、経路設定部532、ずれ量算出部533、操舵量算出部534を備えている。ティーチング経路算出部531は、ティーチング走行を通じて規定される基準経路のデータを算出する。経路設定部532は基準経路のデータに基づいて自動走行の目標となる目標走行経路を設定する。ずれ量算出部533は、目標走行経路に対する走行機体Cの位置ずれ及び方位ずれを算出する。操舵量算出部534は、位置ずれ及び方位ずれが少なくなるような操舵量を算出する。
【0047】
エンジン一時停止制御部55は、所定の条件(エンジン一時停止条件)が満たされるとエンジン13を一時的に停止させる。エンジン一時停止条件の条件要素には、変速レバーが中立位置に保持されること、ブレーキが作動していること、エンジン13がアイドリング回転であること、苗載せ台26の苗残量が所定以下になっていること、運転者が運転座席41に着座していないこと、などが含まれている。このようなエンジン一時停止条件の要素の少なくとも1つ、あるいはその組み合わせが、所定時間を超えて成立していれば、エンジン一時停止処理が実行される。このエンジン一時停止処理では、エンジン一時停止を行うために、第1スイッチ23をOFFにして、バッテリ17からエンジン制御機器25への基本給電線E1を遮断する。同時に、エンジン制御ユニット71を通じてエンジン13への燃料供給を停止する。
【0048】
自動走行管理部59は、自動走行時に衛星測位データに異常が発生した場合、一定距離または一定時間の監視走行としての自動走行を続行させ、この監視走行の後にエンジン一時停止制御部55にエンジン一時停止処理の実行を指令する。さらに、自動走行管理部59は、自動走行時に慣性計測データに異常が発生した場合、あるいは、自動走行時に自動操舵用データに異常が発生した場合、自動走行の停止、前記エンジン一時停止、前記制動手段による車体走行の停止を実行させる。
【0049】
バックアップ給電制御部56は、エンジン一時停止に応答して、迂回給電線E2を用いて衛星測位モジュール81及び慣性計測モジュール82に電力を供給するバックアップ給電を行う。
【0050】
メインキー22がOFF位置へ操作されるか、あるいは、エンジン一時停止制御部55によるエンジン一時停止処理が実行されると、第1スイッチ23がOFFとなり、基本給電線E1が遮断されるので、基本給電線E1を通じて、衛星測位モジュール81と慣性計測モジュール82への給電が停止される。しかしながら、衛星測位モジュール81と慣性計測モジュール82とは、
図5を用いて説明したように、基本給電線E1による給電が停止されても、基本給電線E1を迂回する迂回給電線E2を用いてバックアップ給電される。
【0051】
エンジン停止中は、バッテリ17が充電されないので、エンジン停止時間が長くなると、バッテリ17が充電不足になる。このためエンジン停止の時間が長い場合、バックアップ給電を中止する必要がある。このようなバックアップ充電の要否はバックアップ給電管理部57が行う。バックアップ給電管理部57は、例えば、走行状態検出器74及び作業状態検出器75の検出結果、圃場における田植機の位置、現在時刻、作業開始からの時間などの情報から、エンジン停止が長時間となる状況か、あるいはエンジン停止が短時間となる状況かを判定し、バックアップ給電時間を決定することもできる。さらに、ウオームアップ処理中にメインキー22がOFFとなった場合、エンジン一時停止からメインキー22の操作による本格的な停止とみなされるので、バックアップ給電は中止される。また、苗植付け作業の開始時のエンジン始動時に実行されるウオームアップ処理中に、エンジン一時停止が発生した場合、そのようなエンジン一時停止条件はすぐに解除されるとみなされるので、ウオームアップ処理は、最後まで続行される。
【0052】
この田植機は、
図7に示されているように、直線状の経路に沿って苗植付け作業を伴う作業走行と、畦際付近で次の苗植付け作業走行のための直線状の経路に移動するための旋回走行と、を交互に繰り返す。その際、最初の直線状の経路は、手動操舵されるティーチング経路であり、次からの直線状の経路は、経路設定部532によってティーチング経路に沿って並列するようにティーチング経路の情報に基づいて、設定される目標走行経路LM(1)~LM(6)である。
【0053】
苗植付け作業を開始するにあたって、運転者は、走行機体Cを圃場内の畦際の始点位置Tsに位置させ、始点終点設定スイッチ91を操作する。このとき、制御装置CUは手動操舵モードに設定されている。そして、運転者が手動操縦しながら、始点位置Tsから側部側の畦際の直線形状に沿って走行機体Cを走行させ、反対側の畦際近くの終点位置Tfまで移動させてから始点終点設定スイッチ91を再度操作する。これにより、ティーチング処理が実行される。つまり、衛星測位モジュール81により取得された測位データに基づく始点位置Tsの位置座標と終点位置Tfの位置座標とから、始点位置Tsと終点位置Tfとを結ぶティーチング経路が設定される。このティーチング経路に沿う方向が基準となる目標方位LAとして設定される。なお、終点位置Tfにおける位置座標は、衛星測位モジュール81による測位データのみならず、車速センサ(非図示)に基づく始点位置Tsからの距離と、慣性計測モジュール82に基づく走行機体Cの方位情報と、に基づいて算出される構成であっても良い。また、始点位置Tsと終点位置Tfとに亘る走行機体Cの走行は、田植え作業を伴う作業走行であっても良いし、非作業状態の走行であっても良い。
【0054】
ティーチング経路の設定完了後、ティーチング経路に隣接する、最初の目標走行経路LM(1)が設定される始点位置Lsに移行するために、180度の旋回走行が行われる。旋回走行は、運転者が手動で操舵ハンドル43を操作することによって行われる。
【0055】
この旋回走行が終了し、次の経路に合わせた段階で、目標設定スイッチ92が操作されると、目標走行経路LM(1)が経路設定部532によって設定される。次いで、自動操舵スイッチ93が操作されると、設定された目標走行経路LM(1)に沿った自動操舵走行が開始される。なお、目標設定スイッチ92の操作によって目標走行経路LM(1)がティーチング経路から離れすぎているかあるいは近づき過ぎており、正常な苗植えが行われない場合、報知デバイス73を通じて警告が報知される。また、自動操舵スイッチ93が操作された段階での走行機体C位置や方位などが、自動操舵に不適切な場合、自動操舵走行への移行が禁止されるとともに、報知デバイス73を通じて警告が報知される。なお、目標設定スイッチ92と自動操舵スイッチ93とを共通化して、単一のスイッチとして構成してもよい。
【0056】
自動操舵走行にとっての悪条件として、目標方位LAに対する自機方位NAの方位ずれが顕著に大きいことや、操舵車輪10の向きが左右に大きく変位していることや、走行機体Cの車速が速過ぎたり遅過ぎたりすること等が例示される。また、衛星測位モジュール81が補足可能な航法衛星の数が、予め設定された数よりも少ないことも、自動操舵制御にとっての悪条件として例示される。
【0057】
自動操舵走行が許可されると、走行モードが手動操舵モードから自動操舵モードに切換えられ、目標走行経路LM(1)に沿う自動操舵が開始される。目標走行経路LM(1)は、ティーチング経路に隣接した状態で、目標方位LAの方位に沿って設定され、ティーチング処理後に走行機体Cが最初に作業走行を行う目標走行経路LMである。
【0058】
目標走行経路LM(1)における作業走行の完了後、任意のタイミングで目標設定スイッチ92が操作されると、経路設定部532によって次の目標走行経路LM(2)が先の目標走行経路LM(1)の未作業領域側に隣接して設定される。次いで、自動操舵スイッチ93が操作されることで、新しく設定された目標走行経路LM(2)に沿って自動操舵走行が開始され、走行機体Cが自動作業走行する。
【0059】
走行機体Cが目標走行経路LM(2)の終点位置Lf(2)に到達した後、同様なプロセスで、目標走行経路LM(3),LM(4),LM(5),LM(6)の順番で、旋回走行後の目標走行経路LMの設定と、作業走行とが繰り返される。
【0060】
自動操舵制御の間、衛星測位モジュール81によって自機位置の情報が経時的に取得される。また、車速が算出されると共に、
図8に示されているように、慣性計測モジュール82による相対的な方位変化角ΔNAが経時的に計測される。ずれ量算出部533は、方位変化角ΔNAの積分によって、自動操舵が開始された地点からの自機方位NAを経時的に算出する。そして、ずれ量算出部533は、自機方位NAと目標方位LAとの方位ずれを算定する。操舵量算出部534は、自機方位NAが目標方位LAと合致するように操舵量を算出し、自動走行制御部511に与える。自動走行制御部511は、与えられた操舵量に基づいて操舵モータ66を駆動する。これにより、走行機体Cが、目標走行経路LMに沿って精度良く自動走行する。
【0061】
図9に示されているように、機体の状態が液晶ディスプレイ48の画面に表示される。この画面には、作業情報領域100、位置ずれ情報領域101、車速情報領域102等の複数の表示領域が区分け配置されている。作業情報領域100は、画面上側の左端に作業日時や作業実績などを表示する。位置ずれ情報領域101は、上側の中央に目標走行経路LMに対する走行機体Cの位置ずれ量を表示する。車速情報領域102は、上側の右端に車速を表示する。画面上側以外の大きな領域は位置情報領域104となっており、位置情報領域104は圃場における走行機体Cの位置を示す。位置情報領域104の左端の小さな領域は操舵状態情報領域103となっており、操舵状態情報領域103は制御装置CUで実行されている走行モード、つまり自動走行モード(自動操舵)又は手動走行モード(手動操舵)を表示する。位置情報領域104の右端には、タッチパネル操作式のソフトウエアボタン群120が配置されている。液晶ディスプレイ48の更に右側には、物理ボタン群121が配置されている。
【0062】
位置情報領域104には、走行機体C周辺の圃場の作業状態及び、目標走行経路LMと、自機位置を示す機体シンボルSYが表示されている。なお、目標走行経路LMのうち、作業走行中の目標走行経路LMは、分かりやすくするために太い実線で描画されている。更に、既に田植えが完了した領域は各植付苗を点描化して表示される。これにより、既作業領域と未作業領域とが視覚的に明確に区別されている。なお、この植付苗跡の表示は、点描以外に線状の植付条を示す線であっても良い。
【0063】
衛星測位データ及び前記慣性計測データの異常が発生した際の走行制御の一例を説明する。
図10のフローチャートは、自動走行モードが選択されて自動操舵での自動走行が開始された際に、実行されるデータ異常チェックルーチンを示している。
【0064】
この田植機では、手動走行モードまたは自動走行モードのいずれかが、手動操作により、あるいは自動的に設定可能であり、設定された走行モードがメモリに書き込まれる。したがって、まず、現状の走行モードが読み出され(#01)、手動走行モードまたは自動走行モードのどちらが、走行モードとして設定されているかチェックされる(#02)。走行モードの設定変更が行われておらず、まだ自動走行モードであれば(#02で自動走行分岐)、まず慣性計測データが正常であるか異常であるかチェックされる(#03)。慣性計測データが正常であれば(#03で正常分岐)、次いで、衛星測位データが正常であるか異常であるかチェックされる(#04)。衛星測位データも正常であれば(#04で正常分岐)、ステップ#01に戻る。
【0065】
ステップ#03のチェックで、慣性計測データが異常であれば(#03で異常分岐)、慣性計測データが異常であることがディスプレイ、ブザー、スピーカ音声、ランプなどの報知デバイス73を通じて報知される(#05)。この報知では、慣性計測データが異常である原因(エラーコードを含む)などが検知されている場合には、その原因なども報知される。さらに、エンジン一時停止が行われ(#06)、ブレーキの作動やHSTの中立操作などにより走行機体Cを完全に停止させる(#07)。自動操舵が不可能なので、走行モードは強制的に手動走行モードに設定され(#08)、ステップ#01に戻る。
【0066】
ステップ#04のチェックで、衛星測位データが異常であれば(#04で異常分岐)、ディスプレイ、ブザー、スピーカ音声、ランプなどの報知デバイス73を通じて、衛星測位データが異常であることが報知される(#11)。この報知でも、衛星測位データが異常である原因など(受信電波の感度不足や利用可能衛星の個数不足など)が検知されている場合には、その原因(エラーコードを含む)なども報知される。しかしながら、衛星測位データが正常に回復するかどうかの様子をみるため、監視走行として自動走行が続けられる(#12)。監視走行では、衛星測位データは用いずに、慣性計測データだけを用いて自動操舵される。監視走行は、一定距離だけ、または一定時間だけ行われる。なお、この監視走行では、車速を低速にしてもよい。監視走行の間、衛星測位データのチェックが行われる(#13)。ステップ#13のチェックで、衛星測位データが異常のままであれば(#13で異常分岐)、さらに、この監視走行が一定距離だけ、または一定時間だけ行われたかどうかチェックされる(#14)。ステップ#14のチェックで、監視走行が一定距離だけ、または一定時間だけ行われることで監視走行が終了ならば(ステップ#14でYes分岐)、衛星測位データの異常が回復しないことが報知デバイス73を通じて報知される(#15)。さらに、エンジン一時停止が行われ(#16)、ブレーキの作動やHSTの中立操作などにより走行機体Cを完全に停止させる(#17)。自動操舵が不可能なので、走行モードは強制的に手動走行モードに設定され(#18)、ステップ#01に戻る。
【0067】
ステップ#13のチェックで、衛星測位データが正常に回復している場合(#13で正常分岐)、監視走行から通常の自動走行に移行し(#21)、その旨が報知デバイス73を通じて報知され(#22)、ステップ#01に戻る。
【0068】
ステップ#02のチェックで、走行モードが手動走行モードに変更されていた場合(#02で手動走行分岐)、手動走行制御ルーチンに移行する。エンジン一時停止の解除は、運転者による特定操作(人為操作具に対する操作)などで行われてもよいし、所定条件が満たされることで自動的に行われてもよい。
【0069】
ティーチング処理において、始点位置Tsの位置座標と終点位置Tfの位置座標とから、始点位置Tsと終点位置Tfとを結ぶティーチング経路が設定される。この始点位置Tsと終点位置Tf、さらに畔際位置なども、そのデータの取得後、メモリに格納されるが、所定時間(例えば8時間)経過すると、あるいは日をまたぐと、あるいは、制御装置CUの長時間停止していると、自動消去される。これにより、前回のデータで自動操舵してしまう不都合がなくなる。
【0070】
液晶ディスプレイ48の画面に、衛星測位モジュール81における精度低下率(DOP)、特に水平精度低下率(HDOP)に基づく衛星測位レベル(GPSレベル)を表示することができるが、その際、捕捉衛星数が減少した場合にも衛星測位レベルが下げられる。これにより、運転者は、衛星測位データの異常が発生しやすくなっているかどうかを把握することができる。
【0071】
〔別実施形態〕
本発明は、上述した実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0072】
〔1〕
図10では、データ異常として、慣性計測データと衛星測位データが取り上げられているが、その他、パワステなどのモータに関係するセンサの異常信号、制御装置CUを含む制御系を構成する各ECU(コンピュータユニット)からの異常信号などの発生に対しても同様な報知処理、エンジン一時停止処理、走行機体Cの制動処理を実行させてもよい。その際、エンジン一時停止処理を飛ばして、即座に走行機体Cを制動して、停車させてもよい。
【0073】
〔2〕
図5で示された給電回路SCでは、基本給電線E1と迂回給電線E2とは、互いに完全に独立した形態であったが、これは模式的な形態であり、給電上流側は共通の給電線で構成してもよい。その他、この給電回路SCは、本発明の目的を達成するための種々な形態で実施可能である。
【0074】
〔3〕エンジン一時停止は、所定の条件が満たされることにより自動的に行われるだけでなく、運転者の操作によって、手動で行われてもよい。
【0075】
〔4〕上述した実施形態では、エンジン一時停止時にバックアップ給電を受ける電子機器として、測位ユニットPSが取り上げられたが、これ以外に、給電停止によって動作に必要なデータが消去される電子センサや、起動時に数十秒を超える初期処理が必要な電子センサの異常もエンジン一時停止処理や走行機体Cの制動処理のトリガーとして取り扱ってもよい。
【符号の説明】
【0076】
11 :後車輪(走行装置)
17 :バッテリ
22 :メインキー
23 :第1スイッチ
24 :第2スイッチ
25 :エンジン制御機器
43 :操舵ハンドル
44 :主変速レバー
45 :操作レバー
47 :操作パネル
48 :液晶ディスプレイ
53 :自動操舵制御部
54 :走行モード管理部
55 :エンジン一時停止制御部
56 :バックアップ給電制御部
57 :バックアップ給電管理部
59 :自動走行管理部
72 :報知ユニット
73 :報知デバイス
81 :衛星測位モジュール
82 :慣性計測モジュール
91 :始点終点設定スイッチ
92 :目標設定スイッチ
93 :自動操舵スイッチ
511 :自動走行制御部
512 :手動走行制御部
513 :制動制御部
534 :操舵量算出部
CU :制御装置
PS :測位ユニット