(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】改良された荷電粒子検出器
(51)【国際特許分類】
H01J 43/18 20060101AFI20240209BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
H01J43/18
H01J49/02 500
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022135958
(22)【出願日】2022-08-29
(62)【分割の表示】P 2019561270の分割
【原出願日】2018-06-01
【審査請求日】2022-08-29
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518272784
【氏名又は名称】アダプタス ソリューションズ プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シールズ,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】シュトレーザウ,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,ケヴィン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0162174(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0001043(US,A1)
【文献】米国特許第05463219(US,A)
【文献】特開昭63-016233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/18
H01J 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を検出するための装置であって、
粒子による衝突時に1つ以上の二次電子またはイオンを放出するように構成された変換ダイノードと、
前記変換ダイノードによって放出される前記1つ以上の二次電子またはイオンから増幅された電子信号出力を形成するように構成された電子増倍器と、を備えており、
前記電子増倍器が、相対的低感度区分および相対的高感度区分を有しており、
前記変換ダイノードは、
前記電子増倍器の前記相対的低感度区分
および前記相対的高感度区分とは電気的に連結解除されており、
前記変換ダイノードが、前記電子増倍器の構造と統合されているか、前記電子増倍器のすぐ隣にあるか、または前記電子増倍器の構造内にあり、前記変換ダイノードに印加される電圧バイアスが、1から5kVの間であり、
前記相対的低感度区分とは別々に電力供給され、前記変換ダイノードに印加される電圧バイアスが前記電子増倍器の前記相対的低感度区分のダイノードに印加される電圧より(正または負の方向に)大きく、前記電子増倍器の前記相対的低感度区分は、当該装置の耐用寿命を改善するよう十分な電圧ヘッドルームを与えられる、装置。
【請求項2】
前記相対的低感度区分および前記相対的高感度区分は一つまたは複数の別個のダイノードを各々有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記相対的低感度区分が、前記変換ダイノードによって放出された荷電粒子を受けるように構成された第一のダイノードを有しており、前記変換ダイノードが、前記第一のダイノードに電気的に連結されていない、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
相対的に高フラックスの粒子が当該装置に入る条件のもとで前記相対的低感度区分から出力される一部または全部の電子が前記相対的高感度区分に進むのを防ぐように構成された保護ダイノードを備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記変換ダイノードと前記電子増倍器が、二つの電気的に連結解除された電力回路によって電力を受ける、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記変換ダイノードが、高エネルギー変換ダイノードである、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記変換ダイノードが、前記電子増倍器内またはその周りに物理的に組み込まれている、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記電子増倍器は、前記相対的低感度区分が相対的に低ゲインの電子信号出力を提供し、前記相対的高感度区分が相対的に高ゲインの電子信号出力を提供するように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記相対的低感度区分が、アナログ区分であり、前記相対的高感度区分が、様々なパルス波高を出力するように構成されたデジタル区分である、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記デジタル区分
の出力が、電子計数回路の入力として使用可能であるように構成されている、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記相対的高感度区分および/または前記相対的低感度区分(複数可)が、少なくとも5から100μAの間の出力電流で動作するように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記変換ダイノードに印加される電圧が、前記電子増倍器の前記相対的低感度区分に印加される電圧から分離されている、請求項1~
11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記相対的低感度区分が、6から16個の間の別個のダイノードを含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記相対的高感度区分が、10から18個の間の別個のダイノードを含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記変換ダイノードに印加される前記電圧バイアスが、同一装置であるが、変換ダイノードがそれに対して遠位に配設されている場合に印加される前記電圧バイアスよりも低く、前記より低い電圧は、変換ダイノードを前記電子増倍器に近接させることと通常関連付けられたいかなる有害作用も減少または除去されるような電圧である、請求項
1ないし14のうちいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、科学分析機器の構成要素、および分析機器の完備品に関する。より具体的には、排他的ではないが、本発明は、質量分析用途でイオンを検出するために有用な装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの科学用途では、電子信号を増幅する必要がある。例えば、質量分析計では、分析対象物がイオン化されて、様々な荷電粒子(イオン)が形成される。結果物であるイオンは、次いで、通常、加速および電界または磁界への露出によって、質量対電荷比に従って分離される。分離された信号イオンは、イオン検出器表面に衝突して、1つ以上の二次電子を生成する。結果は、質量対電荷比の関数として、検出されたイオンの相対存在量のスペクトルとして表示される。
【0003】
他の用途では、検出される粒子は、イオンでなくてもよく、中性原子、中性分子、電子、または光子であってもよい。いずれにせよ、粒子が衝突する検出器表面が依然として提供される。
【0004】
検出器の衝突表面に対する入力粒子の衝突から結果として生じる二次電子は、通常、電子増倍器によって増幅される。電子増倍器は、概して、二次電子放出によって動作し、それによって、増倍器衝突表面に対する単一または複数の粒子の衝突が、衝突表面の原子に関連付けられた単一または(好ましくは)複数の電子を放出させる。
【0005】
いくつかの用途では、他の種の中でも単一イオンの検出を可能にするために、非常に高い感度レベルを有する粒子検出器が必要とされる。例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は、分析中の原子をイオンに変換する(ICP源で)。そのように形成されたイオンは、次いで、分離され、質量分析計によって検出される。ICP-MSは、通常、出力の非常に広いダイナミックレンジを処理するために、専用の電子増倍器の使用を必要とする。先行技術では、単一イオンの衝突から生じる非常に低い信号を依然として検出することができる一方で、複数のイオンから結果として生じる非常に高いレベルの信号に対処し得る様々な増倍器が公知である。
【0006】
感度レベルに関係なく、ダイナミックレンジのさらなる改善が、それでもなお当技術分野で望まれている。出願人の知る限り、1990年代に導入されて以来、これらの器具のダイナミックレンジに実質的な改善はなかった。
【0007】
検出効率、応答の線形性、ゲインの安定性、差動ドリフトおよび耐用年数の領域の改善もまた、概して、当技術分野で望まれている。
【0008】
さらに、当技術分野では、質量分析計器具の構造を単純化し、任意の変換表面および/または電子放出表面の保守および交換を容易にすることも望まれている。
【0009】
文書、作用、材料、デバイス、物品などの議論は、本発明の文脈を提供する目的のためだけに本明細書に含まれる。これらの事項のいずれかまたは全てが、先行技術の基礎の一部を形成したこと、または本出願の各請求項の優先日以前に存在したものとして、本発明に関連する分野において共通の一般知識であったことは、示唆または表明されていない。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様では、必ずしも本発明の広範な態様ではないが、荷電粒子を検出するための装置が提供され、装置は、粒子による衝突の際に1つ以上の二次電子またはイオンを放出するように構成された変換ダイノードと、変換ダイノードによって放出された1つ以上の二次電子またはイオンから増幅された電子信号出力を形成するように構成された電子増倍器と、を備える。
【0011】
第1の態様の一実施形態では、電子増倍器が、相対的低感度区分および相対的高感度区分を有する。
【0012】
第1の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器とは別々に電力供給される。
【0013】
第1の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、高エネルギー変換ダイノードである。
【0014】
第1の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器内またはその周りに物理的に組み込まれている。
【0015】
第2の態様では、本発明は、荷電粒子を検出するための装置を提供し、装置は、粒子による衝突の際に1つ以上の二次電子またはイオンを放出するように構成された変換ダイノードと、変換ダイノードによって放出された1つ以上の二次電子またはイオンから増幅された電子信号出力を形成するように構成された電子増倍器と、を備え、変換ダイノードが、電子増倍器内またはその周りに物理的に組み込まれている。
【0016】
第2の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器とは別々に電力供給されていて、および/または電子増倍器のダイノードに電気的に連結されていない。
【0017】
第2の態様の一実施形態では、電子増倍器が、相対的低感度区分および相対的高感度区分を有する。
【0018】
第2の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器とは別々に電力供給されていて、および/または電子増倍器のダイノードに電気的に連結されていない。
【0019】
第2の態様の一実施形態では、変換ダイノードは、高エネルギー変換ダイノードである。
【0020】
第3の態様では、本発明は、荷電粒子を検出するための装置を提供し、装置は、粒子による衝突の際に1つ以上の二次電子またはイオンを放出するように構成された変換ダイノードと、変換ダイノードによって放出された1つ以上の二次電子またはイオンから増幅された電子信号出力を形成するように構成された電子増倍器と、を備え、変換ダイノードが、電子増倍器とは別々に電力供給されていて、および/または電子増倍器のダイノードに電気的に連結されていない。
【0021】
第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、高エネルギー変換ダイノードである。
【0022】
第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器内またはその周りに物理的に組み込まれている。
【0023】
第3の態様の一実施形態では、電子増倍器が、相対的低感度区分および相対的高感度区分を有する。
【0024】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的高感度区分の電子信号出力が、相対的低感度区分の電子信号出力と比較して、相対的に高ゲインの電子信号出力である。
【0025】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的低感度区分が、アナログ区分であり、相対的高感度区分が、様々なパルス高を出力するように構成されたデジタル区分である。
【0026】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、デジタル区分出力が、電子計数回路の入力として使用可能であるように構成される。
【0027】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的高感度区分および相対的低感度区分が、1つ以上の別個のダイノードを各々備え、電子増倍器は、相対的低感度区分が、相対的に低ゲインの電子信号出力を提供し、相対的高感度区分が、相対的に高ゲインの電子信号出力を提供するように、構成されている。
【0028】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的高感度区分および/または相対的低感度区分(複数可)が、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75または100μAの出力電流で動作するように構成されている。
【0029】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、約+1、+2、+3、+4、+5、+6、+7、+8、+9、+10kV、+15kVもしくは+20kVを超えるか、または約-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-15もしくは-20kV未満の印加電圧を有する。
【0030】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードに印加される電圧が、電子増倍器の相対的低感度区分に印加される電圧から分離される。
【0031】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的低感度区分が、少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16個の別個のダイノードを含む。
【0032】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、相対的高感度区分が、少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、または18個の別個のダイノードを含む。
【0033】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードが、電子増倍器の構造と統合されているか、電子増倍器のすぐ隣にあるか、または電子増倍器構造内にある。
【0034】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードに印加される電圧バイアスが、同一装置であるが、変換ダイノードがそれに対して遠位に配設されている場合に印加される電圧バイアスよりも低く、より低い電圧は、変換ダイノードを電子増倍器に近接させることと通常関連付けられるいかなる有害作用も減少または除去されるような電圧である。
【0035】
第1の態様または第2の態様または第3の態様の一実施形態では、変換ダイノードに印加される電圧バイアスは、約5、4、3、2または1kV未満である。
【0036】
第4の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態の装置を備える質量分析器具を提供する。
【0037】
第4の態様の一実施形態では、質量分析器具が、約1010分の1、1011分の1、1012分の1、1013分の1、1014分の1、または1015分の1未満の濃度で存在する標的粒子を検出するように構成されている。
【0038】
第4の態様の一実施形態では、質量分析器具が、誘導結合プラズマ質量分析を実施するように構成されている。
【0039】
第5の態様では、本発明は、試料の質量分析を実施する方法を提供し、方法は、第1の態様の任意の実施形態の質量分析器具内に分析用の試料を導入するステップと、1つ以上の電子信号出力(複数可)を提供するように器具を動作させるステップと、を含む。
【0040】
第5の態様の一実施形態では、質量分析が、約1010分の1、1011分の1、1012分の1、1013分の1、1014分の1、または1015分の1未満の濃度で存在する標的粒子を検出することができる。
【0041】
第5の態様の一実施形態では、質量分析が、誘導結合プラズマ質量分析である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1A】質量分析装置の検出器に関して有用である、本発明の好ましい装置を図式的に示す。
【
図1B】変換ダイノードが電子増倍器の構造内に含有される、好ましい装置を図式的に示す。
【
図1C】変換ダイノードが電子増倍器の構造内に含有される、好ましい装置を図式的に示す。本装置は、本発明の他の実施形態に存在する高ゲインおよび低ゲイン区分を欠いており、代わりに単一のゲイン区分のみを含む。本実施形態は、アナログまたはパルス計数検出電子機器とともに使用され得る。
【
図2A】
図1の装置を図式的に示すが、荷電粒子の経路である、高エネルギー変換ダイノードに対する衝突点までの陽イオン、および変換ダイノードから電子増倍器のダイノードまでの電子を示している。
【
図2B】陰イオンを検出するように構成された
図2Aの装置を図式的に示す。陰イオンは、入力開口部を介して変換ダイノードに進み、そこから陽イオンが放出される。陽イオンは、電子増倍器の第1のダイノードに進む。
【
図2C】陽イオンを検出するように構成され、電子増倍器の構造内に含有された変換ダイノードを有する、
図1Bの装置を図式的に示す。
【
図2D】陰イオンを検出するように構成され、電子増倍器の構造内に含有された変換ダイノードを有する、
図1Bの装置を図式的に示す。
【
図3】外側から示されたときの主要な物理的特徴を示す、本発明の好ましい装置のプロトタイプの写真である。
【
図4】
図3のプロトタイプ装置のモデル動作パラメータを示す。文字「m」から「v」は、曲線を識別するためだけに使用される。
【
図5A】イオン質量およびエネルギーの関数として、イオン衝撃による二次電子収率を示すグラフである。質量による二次電子収率の変動が、スペクトルに「質量バイアス」効果をもたらす。文字「m」から「v」は、曲線を識別するためだけに使用される。
【
図5B】平均=0.8、2.0および4.0のポアソン確率分布関数を示すグラフである。最大可能検出効率は、ポアソン統計によって制限される。
【
図6A】
図3のプロトタイプ検出器の低ゲイン(アナログ)区分から生成されたゲイン曲線である。
【
図6B】
図3のプロトタイプ検出器の高ゲイン(パルス出力)区分から生成されたゲイン曲線である。
【
図7】-5kVおよび-10kVでバイアスされた高エネルギー変換ダイノードを有する
図3のプロトタイプ検出器から生成されたプラトー曲線を示す。文字「m」および「n」は、曲線を識別するためだけに使用される。
【
図8A】75%の開口比(OAR)を有する分割ダイノードと比較した、30%の開口比を有する分割ダイノードを有する電子増倍器のアナログゲイン曲線である。
【
図8B】75%の開口比を有する分割ダイノードと比較した、30%の開口比を有する分割ダイノードを有する電子増倍器のパルスゲイン曲線である。両方の電子増倍器について、高エネルギー変換ダイノードは、-10kVでバイアスされた。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本説明の検討後、本発明が様々な代替的実施形態および代替的用途にどのように実装されるかが、当業者に明らかとなるであろう。しかしながら、本発明の様々な実施形態が本明細書で説明されることになるが、これらの実施形態は、限定ではなく、単に例として提示されることが理解される。したがって、様々な代替的実施形態の本説明は、本発明の範囲または幅を限定するように解釈されるべきではない。さらに、利点または他の態様の記述は、特定の例示的な実施形態に適用され、必ずしも特許請求の範囲に包含される全ての実施形態に適用されるわけではない。
【0044】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、「備える(comprise)」という単語、ならびに「備えている(comprising)」および「備える(comprises)」などの単語の変形は、他の付加物、構成要素、整数またはステップを除外することを意図するものではない。
【0045】
本明細書全体を通して「一実施形態」または「ある実施形態」に対する参照は、その実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所での「一実施形態では」または「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を参照しているわけではないが、そうであってもよい。
【0046】
本明細書に説明される本発明の全ての実施形態が、本明細書に開示される利点の全てを有するわけではないことが理解されるであろう。いくつかの実施形態は、単一の利点を有し得るが、他の実施形態は、全く利点を有しておらず、単に先行技術の有用な代替物である場合がある。
【0047】
本発明は、少なくとも部分的に出願人の発見に基づいており、この発見は、高感度および低感度区分を有する電子増倍器、または別々に電源供給される変換ダイノード(およびいくつかの実施形態では高エネルギー変換ダイノード)との電子増倍器の組み合わせ、または電子増倍器内もしくはその周りに物理的に組み込まれている変換ダイノードの組み合わせが、先行技術の検出器装置に対して特定の改善を有する検出器装置を提供するというものである。
【0048】
本明細書で使用される際、「変換ダイノード」という用語は、荷電または非荷電原子、荷電または非荷電分子、中性子、陽子、電子、もしくは光子などの荷電または非荷電亜原子粒子などの、粒子の衝突時に二次電子(またはイオン)を放出することができる任意の仕組みを含むことを意図する。本発明によると、変換ダイノードは、増幅専用のダイノードと比較して相対的に高電位を有するように動作され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、ダイノードは「高エネルギー変換ダイノード」である。電位は、必要に応じて、接地または装置の別の構成要素に対して測定され得る。高エネルギー変換ダイノードの定義には、ある程度の相対性が存在し得るが、多くの場合、高エネルギー変換ダイノードおよび電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードは、一般的に接地され、高エネルギー変換ダイノードは、電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードよりもゼロからさらに離れた電圧でバイアスされている。
【0050】
当業者によって理解されるように、イオンから電子(およびイオンからイオン)への変換効率は、概して、イオンが変換ダイノードの表面に衝突する速度とともに向上する。したがって、変換ダイノードは、通常、実行可能な限り変換効率を最適化するために、入射イオンの速度を上げるように設計される。
【0051】
検出器装置における別々に電源供給される別個の変換ダイノードの組み込みは、そのダイノードが、別々に、かつ電子増倍器のダイノード(特に、低ゲイン区分の第1のダイノード)と比較して、より高電圧にバイアスされることを可能にする。本配置の利点は、電子増倍器区分のバイアス電圧を、電子増幅が発生するために必要な電圧よりも高くする必要性を回避することである。ICP-MSに使用される先行技術の検出器では、電子増倍器の初期電圧は、イオンから電子への適切な変換効率を確保するために、約-1600Vまで上げられる。しかしながら、本発明では、変換ダイノードの電圧バイアスは、(所望される変換効率を確保するために)上げられるが、電子増倍器(特に、低ゲイン区分)は、より低電圧でバイアスされ得る。その結果、(より低電圧で動作されている)低ゲイン電子増倍器区分には、より大きな電圧「ヘッドルーム」が提供され、その結果、より長い耐用年数を提供する。
【0052】
検出器の耐用年数を延ばすことは、ゲイン変化の速度を遅くする、および/または経時的な差動ドリフトの速度を遅くする、追加の利点を提供し得る。
【0053】
高エネルギー変換ダイノードは、通常、装置の電子増倍器区分の電源とは実質的に分離された専用の電源を有する。別々の電源の使用は、高エネルギー変換ダイノードに印加される電圧および/または電流のより良好な独立制御を可能にし得る。別個の電源の使用はまた、電子増倍器区分に印加される電圧および/または電流のより良好な制御を可能にし得る。
【0054】
装置と関連して使用される電源は、固定電圧タイプであってもよく、または調整可能電圧タイプであってもよい。任意の電源が高エネルギー変換ダイノード、または電子増倍器区分のダイノードチェーン内の任意のダイノードに関連して接続される位置は、装置の線形性またはゲインの要件、または実際には任意の他の要件に従って選択され得る。いくつかの実施形態では、電源は、単一のダイノードのみに、またはダイノードのグループに電圧を印加するように構成され得る。
【0055】
当業者には理解されるように、分圧器チェーンが、電源から一式のダイノードに電圧を分配するために使用され得る。分圧器チェーンは、ダイノード間に配設された一連の抵抗器を含み得る。分圧器チェーンは、抵抗素子のみからなる純粋に受動的なものであってもよく、またはダイオードもしくはトランジスタなどの電圧調整でアクティブな構成要素を含有してもよい。最終ダイノードが関与する場合、抵抗器は、通常、最終ダイノードと接地または基準電圧との間に配設される。代替として、ツェナーダイオードがこの位置で使用されてもよい。
【0056】
質量分析計の観点から、質量分離器を通過したイオンは、高電圧が印加される変換ダイノード上で加速される。入射イオンによって変換ダイノードから放出された電子(またはイオン)は、次いで、電子増倍器の第1のダイノードに入り、そこで二次電子が二次放出表面から放出される。
【0057】
当業者は、この文脈における放出表面の材料、物理的および機能的構成に完全に精通しており、例示的なタイプは、ダイノードによって提供されるものである。
【0058】
電子増倍器では従来どおり、入力粒子を受け取り、かつ入力粒子の衝突に応答して1つまたは複数の電子を放出するように構成されている(一連のダイノードの第1のダイノードの)第1の電子放出表面が提供される。複数の電子が放出される場合(通常そうである)、入力信号の増幅が結果として生じる。これも従来どおり、一連の第2および後続の電子放出表面が提供される。これらの放出表面の機能は、第1の放出表面から放出される電子(複数可)を増幅することである。理解されるように、増幅は、通常、一連の放出表面の各後続の放出表面で起こる。通常、最後の放出表面によって放出された二次電子は、アノード表面上に配向され、アノードで形成された電流が、信号増幅器に供給され、続いて、出力デバイスに供給される。
【0059】
本発明では、電子増倍器は、相対的に高濃度で存在するイオンを検出するように構成されている低感度区分と、相対的に低濃度で存在するイオンを検出するように構成されている高感度区分とを有し得る。
【0060】
感度差は、例えば、高感度区分の信号出力が増幅されるが、低感度区分の信号出力が増幅されない、信号増幅器の使用を含む、当業者が適切と考える任意の手段によって提供され得る。代替的に、増倍器が別個のダイノードからなる場合、ダイノードの二次電子放出率のレベルは、低感度区分と比較して高感度区分でより高くなり得る。例えば、高感度区分のダイノードは、低感度区分のダイノードと比較して、より高い放出率であるか、または大きい衝突面積を有する材料から製造され得る。
【0061】
しかしながら、より典型的には、電子増倍器区分の感度差は、高感度区分および低感度区分のゲインの乗算から結果として生じる。高感度区分のより高いゲインは、前の低感度区分のゲインによって乗算されるため、達成される。
【0062】
装置の電子増倍器では、低感度区分は、アナログ区分(低ゲイン区分と見なされ得る)であり得、高感度区分は、パルス計数することができるデジタル区分(高ゲイン区分と見なされ得る)であり得る。デジタル区分からの実効ゲインは、ほぼアナログ区分およびデジタル区分のゲインの積である。したがって、分離して、2つの区分は、同じゲインを有し得るが、デジタル区分は、そのゲインが前のアナログ区分のゲインによって乗算されるため、より高い出力ゲインを有することが理解されるであろう。言い換えると、デジタル区分は、それによって提供される信号が、2つの(アナログおよびデジタル)区分のゲインの積であることにより、アナログ区分によって提供された信号よりも高いゲインであるため、高ゲイン区分と称され得る。デジタル区分によって提供されるゲイン信号は、総ゲインであり、つまり2つの(アナログおよびデジタル)区分のゲインの積である。
【0063】
いずれにせよ、高感度(デジタル)区分は、少ない数で発生するイオンを検出するように適合される。デジタル区分の出力は、単一イオンから結果として生じるパルスを含み、全てがパルス計数検出電子機器によって検出されるために十分なゲインが提供されている。電子タイマまたはカウンタが、通常、出力パルスを処理するために用いられる。一例として、所定の時間窓と関連付けられたカウンタは、信号がその時間窓内で生成される度に増分され得る。
【0064】
動作中、パルス計数区分は、非常に高いイオンフラックスが飽和を引き起こすと考えると、限定された範囲を有し、この場合、増倍器のアナログ区分は、有用な出力信号を提供する。本装置では、2つの区分は、中間の「分割」ダイノード、接地ダイノード、および保護(ゲート)ダイノードを有する、直列の2つのダイノードセット配置によって同時に動作可能であり得る。アナログ区分の出力信号は、「分割」ダイノードを介してアナログコレクタ上に抽出される。分割ダイノードの孔を通過する信号の部分がアナログ出力である。孔を通過しない信号の部分は、さらなるゲイン増幅のために電子増倍器のデジタル(パルス)区分に送られる。
【0065】
電子増倍器のアナログ区分およびパルス区分は、「分割比」を参照して説明され得る。例えば、第1の電子増倍器は、30%の開口比(すなわち、ダイノード内の全ての孔の総面積)の分割ダイノードを有し得る。分割ダイノードは、この場合、アナログ区分の信号の公称30%の抽出、およびパルス区分への70%の送信を提供する。第2の電子増倍器は、75%の開口比の分割ダイノードを有し得る。分割ダイノードは、この場合、アナログ区分の信号の公称75%の抽出、およびパルス区分への25%の送信を提供することになる。第1および第2の電子増倍器の分割比の差は、
図8に示されるように、ゲインの差を結果としてもたらす。
【0066】
第1のダイノードステージに衝突するイオンは、電子信号を生成し、その一部分は、アナログコレクタで収集されて、アナログ信号出力を結果としてもたらす。保護ダイノードの電圧は、残りの電子が第2のステージを通過して、デジタル(パルス計数)出力信号を生成するようなレベルに、設定される。パルス信号が所定のレベル(相対的に高いイオンフラックスに応答して発生するレベル)まで上昇した場合、上昇したパルス信号は、保護ダイノードに適切な電圧を印加させ、電子が第2のステージに入って検出器を損傷させることを防止する。
【0067】
低感度区分および高感度区分を有する電子増倍器の使用は、いくつかの実施形態では、検出器のダイナミックレンジの大幅な向上を提供する。出願人は、特に、検出器装置の内部抵抗(電子増倍器の高ゲイン区分および低ゲイン区分の両方を含む)を低下させることが、イオン検出のダイナミックレンジの全体的な向上を提供することを発見した。他の利点が、特定の好ましい実施形態に関連して以下でさらに論じられる際に提供される。
【0068】
装置のいくつかの実施形態では、変換ダイノードは、電子増倍器内またはその周りに物理的に配設される。変換ダイノードは、電子増倍器の硬質表面によって画定された境界ボリューム内に(完全に、または部分的に)配設される電子増倍器内で考慮され得る。代替的に、変換ダイノードは、電子増倍器の任意の外部に面する表面の近位にあり得、「近位」という用語は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100mm未満の任意の距離を含む。
【0069】
この文脈内の「~内またはその周り」という用語は、電子増倍器の第1の電子放出表面と変換ダイノードとの間の距離を参照して画定され得る。この距離は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100mm未満であり得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、変換ダイノードは、電子増倍器の第1のダイノードのすぐ隣にある。
【0071】
以下でさらに説明されるように、変換ダイノードが電子増倍器内またはその周りに配設されることを可能にするように、変換ダイノードが電子増倍器から別々に電力供給されるか、または電気的に連結解除されている場合に利点が得られる。
【0072】
ここで、
図1Aおよび
図1Bを参照すると、本発明の例示的な装置が非常に図式的な形態で示されている。この実施形態では、陽イオンは、装置の入力開口部を通過するように、四重極によって加速および集束される。イオンは、次いで、二次電子(またはイオン)を放出する高エネルギー変換ダイノードに進む。変換ダイノードの湾曲した放出表面は、二次電子(またはイオン)を電子増倍器内、最初に左端のダイノード(電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードと見なされる)に集束させ、次いで、隣接するダイノードに偏向されたさらなる二次電子を放出し、次いで、(右の)隣接するダイノードに偏向されたさらなる二次電子を放出し、以下同様である。
【0073】
引き続き
図1Aおよび
図1Bの実施形態によると、陽イオン検出のために、高エネルギー変換ダイノードは、高電圧バイアス-HV(B)を有する第1のダイノードの高電圧バイアスと比較して、より高い(または大幅により大きい大きさ、またはゼロからさらに離れた)高電圧バイアス-HV(A)を有することになる。陰イオンの検出のための電圧バイアスは、
図2Bおよび
図2Dに示されている。
【0074】
【0075】
図2Aおよび
図2Bの実施形態では、(左の低ゲイン区分の第1のダイノードから数えて)最初の5個のダイノードは、電子増倍器の低ゲイン部分を構成する。最初の3個のダイノードによって放出および増幅された電子から結果として生じる出力信号は、アナログである。
【0076】
第6および後続のダイノードは、電子増倍器の高ゲイン部分を構成する。第6および後続のダイノードによって放出および増幅された電子から結果として生じる出力信号は、(図示されないさらなる電子によって)計数出力を提供するために使用され得るパルス出力(デジタル)信号である。以下で論じられるように、装置の好ましい形態は、低ゲイン区分で12個のダイノード、高ゲイン区分で17個のダイノードなど、より多くのダイノード数を有する。
【0077】
図1Aおよび
図1Bの好ましい実施形態では、変換ダイノードが、非常に大きい負電圧(-10kVなど)でバイアスされ、これが、入射イオンが正に帯電されている場合に必要とされることが留意されるであろう。当業者には理解されるように、入射イオンが負に帯電している場合、変換ダイノードは、非常に大きい正電圧(+10kVなど)でバイアスされる。高エネルギー変換ダイノードによって放出される粒子が負である場合(すなわち、電子)、電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードは、負(-2kVなど)である。入射イオンが負である場合、高エネルギー変換ダイノードは、衝突に対して陽イオンを放出し、第1のダイノードも負である(-2kVなど)。
【0078】
本発明によると、高エネルギー変換ダイノードが負電圧でバイアスされる場合、電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードは、より低い負電圧(すなわち、ゼロにより近い)でバイアスされる。高エネルギー変換ダイノードが正電圧でバイアスされる場合、電子増倍器の低ゲイン区分の第1のダイノードは、通常、負電圧でバイアスされる。
【0079】
図1B、
図2Cおよび
図2Dから理解されるように、
図1A、
図2A、および
図2Bに示される高エネルギー変換ダイノードの機能は、電子増倍器内またはその周りに物理的に位置付けられている変換ダイノードによって置き換えられ得る。これは、構築の容易さ、空間の節約という利点を提供し、さらに、組み合わせられた変換器/増倍器が使用され得、それによって部品交換のいかなる困難さも最小限に抑えることを提供する。電子増倍器内またはその周りに物理的に位置付けられた変換ダイノードを有する実施形態に関して、変換ダイノードには、相対的に中程度の電圧バイアス(約5、4、3、2、または1kV未満など)が印加されてもよい。一般に、約3kV未満の変換ダイノード電圧バイアスは、増倍器機能にいかなる実質的な悪影響も与えずに、変換ダイノードを電子増倍器に物理的に近接させることを可能にする。
【0080】
図1Cから理解されるように、装置のいくつかの実施形態の電子増倍器区分は、単一のゲイン増倍器である。そのような状況では、電子増倍器の全てのダイノードは、本明細書に開示された他の実施形態の高ゲイン区分および低ゲイン区分とは異なる、単一のゲイン区分を形成する。
図1Cの実施形態では、利点は、(i)電子増倍器内に物理的に配設され、かつ(ii)電子増倍器から別個に電力供給されるか、または電気的に連結解除されている、変換ダイノードによって得られる。
【0081】
一態様では、本発明は、変換ダイノードおよび増倍器ダイノードのチェーンの両方を備える粒子検出装置(質量分析計など)での使用のための交換部品または交換可能部品をさらに提供し、交換部品または交換可能部品は、変換ダイノードが増倍器ダイノードのチェーンとは別々に電力供給されることを可能にするように構成される。
【0082】
電子増倍器の電気抵抗(すなわち、高感度区分および低感度区分の組み合わせ)は、先行技術の電子検出器で知られている電気抵抗より低いレベル、かつ電子増倍器のダイナミックレンジが向上されるように、設定される。
【0083】
内部抵抗の低下に追加的もしくは代替的に、または内部抵抗の低下の自然な結果として、装置は、電子増倍器の高感度区分および低感度区分が少なくとも約50、75または100μAの線形出力電流で動作可能であるように構成される。電子増倍器の高感度区分および低感度区分の両方に関して、これは、先行技術の装置で利用される電流に対して約10倍の増加を表す。
【0084】
様々なダイノードを流れる差動電流が必要とされる場合、選択したダイノードに異なる大きさのバイアス電圧を印加するように構成された別々の電源の使用が、差動電流を達成する1つの手段であることに留意されたい。
【0085】
理論によって限定されることを決して望むものではないが、検出器のダイナミックレンジが、低ゲイン区分および高ゲイン区分のダイナミックレンジの積であるため、検出器のダイナミックレンジの全体的な増加は、いくつかの実施形態では、典型的な市販の検出器よりも少なくとも1桁または2桁大きい場合がある。
【0086】
ここで、
図1Aのスキームに従って広範に構成された本発明のプロトタイプ装置を示す、
図3を参照する。高エネルギー変換ダイノードは、100で示され、電子増倍器は、110で示されている。電子増倍器110は、約120の低ゲイン部分および約130の高ゲイン部分を有する。
【0087】
ここで
図4を参照すると、本発明の装置の特定の動作パラメータがモデリングを介して推定されている。
【0088】
理論によって限定されることを決して望むものではないが、ダイナミックレンジが、検出器の内部抵抗を低下させることによって向上され得ることが提案される。パルス計数区分(すなわち、高感度区分)およびアナログ区分(すなわち、低感度区分)は、両方とも少なくとも50uAの線形出力電流で動作するように設計される。各区分に関して、これは、市販されている典型的な先行技術の検出器よりも、およそ1桁大きい。
【0089】
検出器のダイナミックレンジが、アナログ区分およびパルス計数区分のダイナミックレンジの積であるため、新しい検出器のダイナミックレンジの全体的な増加は、原理的には、典型的な市販の検出器よりも2桁大きい。
【0090】
装置の耐用年数、ゲイン安定性、差の比率の低下を向上させるために、ダイノード数が、各区分で増加しており、12個のダイノードがアナログ(すなわち、低感度)区分で使用され、17個のダイノードがパルス計数(すなわち、高感度)区分で使用された。
【0091】
別々に電源供給される変換ダイノードを使用する利点は、検出器の余分の耐用年数が提供されることであると期待されている。上述のように、誘導結合質量分析などの用途に使用される先行技術の検出器では、アナログ区分の開始電圧(-HV)は、通常、イオンから電子への適切な変換効率を確保するために、約-1600Vまで上げられる。高エネルギー変換ダイノードの導入によって、変換ダイノード電圧は、アナログゲインを提供するために必要とされる電圧から分離され得る。その結果、増倍器のアナログ区分は、はるかに低い初期-HV電圧で動作され得、それによってより長い耐用年数のために余分な電圧オーバーヘッドを提供する。
【0092】
入射イオンの検出効率に関しては、高速イオンが表面に入射するとき、二次電子がポアソン分布に従って放出され、イオンの質量およびエネルギー、ならびに放出表面の材料にも依存する平均を有する。二次イオン収率は、放出されたイオンの数のポアソン分布の平均に対応する。
図5Aの傾向および値は、ステンレス鋼およびマグネシウム/銀変換ダイノードから予期され得るものの典型である。
【0093】
イオン電子変換プロセスから放出された電子のポアソン分布は、電子増倍器からのパルス波高分布(PHD)の形状の決定要因であり、検出効率にも基本的な制限を課す。
【0094】
低平均値を有する二次電子放出分布に関して、イオンが変換表面に入射したときに、ゼロ電子が放出される確率が高い。
【0095】
平均=0.8の分布に関して、~0.45の確率でゼロの二次電子が放出され(
図5Bを参照)、すなわち、平均二次電子収率=0.8を有する種の最大可能な検出効率は、約55%である。収率=2を有する種に関して、ゼロの二次電子の確率は、約0.14まで低下し、最大可能な検出効率を約86%まで向上させる。
【0096】
収率が4まで増加したとき、98%の検出効率が結果として得られる場合があり、そのような効率は、特に、低濃度の標的イオンが試料中に存在する場合に非常に望ましい。4の収率は、高エネルギー変換ダイノードの組み込みによって達成可能である。これは、電子増倍器の低ゲイン領域の第1のダイノードの前に高エネルギー変換ダイノードが配設されていない比較検出器で達成可能な検出効率における利点を提供する。
【0097】
所与の衝突エネルギーに対して、質量による二次電子収率の変動は、スペクトル内の質量バイアスにつながる。
図5Aに示されるデータは、2keVの衝突エネルギーについて、二次電子収率が最大約2から最小約0.8まで変動することを示す。つまり、最大収率(5amuにおける)は、最小収率(140amuにおける)より約2.5倍高い。10keVの衝突エネルギーに関して、二次電子収率は、最大約5.1から最小約4.2まで変動する。この場合、最大収率は、最小収率より約1.2倍高いに過ぎない。
【0098】
140amuイオンの約4.2の二次電子収率を有する増倍器から同じまたは同様のレベルの信号を得るためには、140amuイオンの約0.8の収率を有する増倍器は、その検出器よりも約5.2倍(=4.2/0.8)高いゲインで動作する必要がある。より高いゲインで動作する必要性は、検出器の耐用年数を短縮させる場合があり、これは、本装置と比較したときの先行技術の検出器の欠点である。
【0099】
プロトタイプの線形性レベルが測定され得る。3e3のゲインで50uAのアナログ出力電流を得るために、約16nAを超える入力イオン電流が必要とされる。この大きさのイオン電流は、例えば、質量分析器具から取得可能である。
【0100】
ゲイン曲線は、
図3に示されるプロトタイプ検出器の低ゲイン(アナログ)区分(
図6A参照)および高ゲイン(パルス計数)区分(
図6B参照)に関して生成されている。約3e3のアナログゲインを得るために、約1100Vの開始電圧が必要とされる。これは、ICP-MS検出器のアナログ区分に通常印加される開始電圧よりも約500V低い。
【0101】
有利なことに、
図3に示されるプロトタイプ検出器は、-5kVまたは-10kVが高エネルギー変換ダイノードに印加された状態で、高品質プラトー曲線を生成することが実証されている(
図5参照)。これは、変換ダイノードからの増加した二次電子収率に起因して改善されたパルス波高分布を表している。高品質プラトー曲線は、パルス計数動作電圧の信頼性のある設定を可能にする。
【0102】
動作における任意の機能の改善とはまったく別に、別個の高エネルギー変換ダイノードの組み込みは、検出器の機械設計に柔軟性を提供する。いくつかの実施形態では、電子増倍器は、変換ダイノード上の任意の方向に回転され得、それによって四重極に対する軸方向または半径方向の配向を可能にする。高感度区分および低感度区分を有する別個のダイノード電子増倍器110と動作可能に接続されている高エネルギー変換ダイノード100を有するプロトタイプ検出器を示す、
図3を参照する。
【0103】
本装置は、非常に低含量のイオンが検出されることを必要とする用途で使用される器具を含む、質量分析器具の検出器構成要素として特に有用である。そのような用途としては、誘導結合質量分析が挙げられる。したがって、一態様では、本発明は、本明細書に説明されるように、誘導結合質量分析器具および装置の組み合わせを提供する。
【0104】
器具は、誘導結合プラズマによって試料をイオン化する手段を備え得る。
【0105】
誘導結合プラズマは、電磁コイルでガスを加熱することによって一般に生成されるプラズマであり、ガスは、それを導電性にするために十分な濃度のイオンおよび電子を含有している。プラズマは、3つの同心円管(通常は石英)からなる器具のトーチで一般に維持され、トーチの端は、誘導コイルの内側に配設されている。器具は、通常、トーチの最も外側の2つの管の間にアルゴンを導入する手段を備え、電気火花が断続的に印加されて、自由電子をガス流内に導入する。電子は、加速され、アルゴン原子と衝突して、次に加速される電子の放出を引き起こし得る。プロセスは、衝突における新しい電子の放出速度が、アルゴンイオン(電子を失った原子)との電子の再結合の速度と平衡されるまで続く。プラズマの温度は、約10,000Kである。
【0106】
本装置は、既存の市販されているICP-MS器具動作可能となるように物理的および/または構造的に構成され得る。単に例として、本装置は、モデル7800、7900、8900Triple Quadrupole、8800Triple Quadrupole、7700e、7700x、および7700sなどのAgilent(商標)、またはモデルNexION2000、N8150045、N8150044、N8150046、およびN8150047などのPerkinElmer(商標)、またはThermoFisher ScientificのモデルiCAP RQ、iCAP TQ、およびElement Seriesなど、またはShimadzuのモデルICPMS-2030などによって提供されるICP-MS器具のいずれかで電子増倍器として動作可能であるように構成され得る。
【0107】
本装置の電子増倍器構成要素は、線形の別個のダイノード増倍器によって例示されてきた。本明細書の利点を考慮すると、当業者は、本発明との適合性について他のタイプの増倍器タイプを常習的に試験することが可能である。例えば、連続(チャネル)ダイノードが、別個のダイノード電子増倍器の代わりに使用され得る。その場合、装置は、連続ダイノードと組み合わせて高エネルギー変換ダイノードを備え得る。
【0108】
さらに、本装置は、ICP-MS器具およびその構成要素に関して特に有利であるが、本出願の範囲がそのように制限されることを意図するものではない。本発明の少なくともいくつかの特徴は、非ICP-MS器具およびその構成要素に適用され得ることが企図される。例えば、電子増倍器での高ゲイン区分および低ゲイン区分のダイノードの使用は、それにもかかわらず、電子増倍器の構造内への別々に電力供給される変換ダイノードの統合と同様に、利点を提供し得る。当業者は、常習的方法を使用して、様々な既存の質量分析器具およびその構成要素に関して、さらには質量分析に関係ない用途についても、本発明の有用性を試験することができる。
【0109】
本発明の例示的な実施形態の説明では、本発明の様々な特徴は、開示を合理化し、様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解を助ける目的で、単一の実施形態、図、またはその説明にまとめられている場合があることが理解されるであろう。しかしながら、この開示方法は、特許請求の範囲の発明が各請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、単一の上述の開示された実施形態の全ての特徴であるとはいえない。
【0110】
さらに、本明細書に説明されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる特徴のいくつかを含むが、他の特徴を含まず、さらに、当業者によって理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求の範囲の実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0111】
本明細書で提供される説明では、多数の特定の詳細が示されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしで実施され得ることが理解される。他の事例では、周知の方法、構造および技術は、本説明の理解を不明瞭にしないために、詳細に示されていない。
【0112】
したがって、本発明の好ましい実施形態であると考えられるものを説明してきたが、当業者は、他のおよびさらなる修正が、本発明の主旨から逸脱せずに、それらになされ得ることを認識することになり、全てのそのような変更および修正が本発明の範囲内に収まるように主張することが意図される。機能が図に追加または削除されてもよく、動作が、機能ブロック間で交換されてもよい。ステップが、本発明の範囲内で説明される方法に追加または削除されてもよい。
【0113】
本発明が特定の例を参照して説明されたが、本発明が多くの他の形態で実施され得ることが当業者によって理解されるであろう。