(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】一液型のポリウレタン分散体、その製造及び使用
(51)【国際特許分類】
C08G 18/80 20060101AFI20240209BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240209BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240209BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240209BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240209BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240209BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C08G18/80
C08G18/00 C
C09D175/04
C09D5/02
B05D1/36 Z
B05D7/24 302T
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2022502838
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070037
(87)【国際公開番号】W WO2021009252
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-16
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シェッピング,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ツィーアンク,ジルフィア
(72)【発明者】
【氏名】ポドラスキ-ピツィク,ベアテ
(72)【発明者】
【氏名】シュペルバー,ケルシュティン
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545023(JP,A)
【文献】特開2018-044068(JP,A)
【文献】特開2017-200970(JP,A)
【文献】国際公開第2008/020492(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/113412(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/025079(WO,A1)
【文献】特表2004-515571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C08G 71/00- 71/04
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I) ヒドロキシ基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含有するポリウレタンであって、前記ポリウレタンの前記酸基が、存在する場合、酸基の合計量に基づいて0~100モル%の程度まで中和される、ポリウレタン、及び
(II) 完全にブロックされたポリイソシアネート
を含む一液型のポリウレタン分散体を製造する方法であって、
以下の工程、
a. 平均で1.8~2.8個のイソシアネート基を含み、且つウレタン基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含むプレポリマーを、完全にブロックされたポリイソシアネートの存在下で製造することにより、混合物Aを得る工程、
b. ヒドロキシ基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含有するポリウレタンを、1種以上のヒドロキシ官能性ポリマーと混合物Aとを反応させることによって製造することにより、混合物Bを得る工程、及び
c. 前記酸基を、混合物Bに含有される場合、混合物B中の酸基の合計量に基づいて0~100モル%中和する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程a.において、前記プレポリマーが、式(1)
OCN-R
1-NCO (1)
(式中、R
1は、脂肪族又は芳香族炭化水素残基である)のジイソシアネートを、式(2)
HO-R
2-OH (2)
(式中、R
2は、脂肪族又は芳香族炭化水素残基であり、且つR
2は、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含む)のジオールと、
または前記式(2)のジオール及び式(3)
HO-R
3-OH (3)
(式中、R
3は、R
2とは異なる脂肪族又は芳香族炭化水素残基であり、且つ酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含有しない)のジオールと、反応させることによって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(1)の前記ジイソシアネートにおいて、R
1が分岐状又は直鎖状の、2~16個の炭素原子を含有する非環状脂肪族炭化水素残基であり、及び/又はR
1が環状脂肪族炭化水素残基であるか、又は非環状及び環状の部位を含有し且つ3~20個の炭素原子を含有し、
及び/又は
式(2)の前記ジオールにおいて、R
2が少なくとも1つの酸基を含み
、又は式(2)の前記ジオールが、式(2a)及び(2b)
HO-[(EtO)
x(PrO)
y(BuO)
z]-H (2a)
(HOCH
2)
2CX
1CH
2O-[(EtO)
x(PrO)
y(BuO)
z]-X
2 (2b)
(式中、Et=エチレン、Pr=プロピレン及びBu=ブチレン、x、y及びzは整数であり、x+y+z=2~200、x≧2且つx≧(y+z)、X
1及びX
2は互いに独立して
、直鎖アルキル基又は3~12個の炭素原子を有するシクロアルキル基である)の1つ以上で表される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの酸基が、COOH、SO
3
H、OP(O)(OH)
2
、P(O)(OH)
2
又はその対応する塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式(2b)中の前記直鎖アルキル基が1~12個の炭素原子有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
式(3)のジオールを、式(1)の前記ジイソシアネートと式(2)の前記ジオールとの反応に使用
する、請求項2
から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
式(2)のジオールの式(3)のジオールに対するモル比が0.40:0.60~0.99:0.01である請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレポリマーの形成に使用される式(1)のジイソシアネートの、前記プレポリマーの形成に使用される式(2)及び(3)のジオールの総計に対するモル比が、(2±0.3):1の範囲にある、請求項2から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
混合物Aが式(4)
OCN-R
1-NH-C(O)O-R
2-O(O)C-NH-R
1-NCO (4)
のプレポリマーを含み、
そして式(3)の前記ジオールが前記プレポリマーの形成に使用される場合、混合物Aが式(4a)
OCN-R
1-NH-C(O)O-R
3-O(O)C-NH-R
1-NCO (4a)
の1つ以上のプレポリマーをさらに含有し、
残基R
1、R
2及びR
3が請求項
2または3で定義したものである、
請求項2から
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記完全にブロックされたポリイソシアネートが、式(5)
R
4-(NCO)
m (5)
(式中、R
4は、請求項2及び3で定義した式(1)の脂肪族又は芳香族ジイソシアネートのオリゴマー化から誘導される脂肪族又は芳香族残基であり、そしてm>2である)のポリイソシアネートを、1つ以上のブロック剤と反応させることによって得られる、請求項1から
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
方法工程a.を、式(1)の前記ジイソシアネートの前記イソシアネート基について、理論上可能な消費量の少なくとも30モル%に達するまで、且つ式(1)の前記ジイソシアネートの前記イソシアネート基について、理論上可能な消費量の100モル%に達するより前に実施し、そして式(1)の前記ジイソシアネートの前記イソシアネート基の理論上可能な消費量は、式(2)、
または式(2)及び式(3)の前記ジオール中に存在するすべてのヒドロキシ基が、式(1)の前記ジイソシアネートのイソシアネート基と反応したという仮定の計算値である、請求項2から
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ポリウレタン含有混合物Bを得るために方法工程b.で用いる前記1種以上のヒドロキシ官能性ポリマーが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリ(メタ)アクリレートポリオール又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記1種以上のヒドロキシ官能性ポリマーが、ジオール及び/又はポリオールと、ジカルボン酸及び/又はポリカルボン酸及び/又は前述の酸の無水物との混合物から調製されるポリエステルポリオールである、請求項1から
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ジカルボン酸及び/又はそれらの無水物の少なくとも1つが、式(6)のジカルボン酸及び式(6’)のジカルボン酸無水物
【化1】
(式中、R
5は、10~40個の炭素原子を含有する炭化水素残基であり、
式(6)中の2個のCOOH基又は式(6’)中の無水物基を形成する炭素原子間の最短の連結基を形成する炭素原子(n
linker)の数が2~20個であり、そして
n
linker<残基R
5中の炭素原子の合計数である)
からなる群から選択される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか1項に定義した方法によって得ることができる、一液型のポリウレタン分散体。
【請求項16】
請求項
15の、又は請求項1から
14のいずれか1項に記載の方法によって得られた一液型のポリウレタン分散体
を含む、一液型のコーティング材料。
【請求項17】
基材を、請求項
16に記載のコーティング材料でコーティングする方法であって、前記コーティング材料を基材に施与してコーティング層を形成し、そして前記コーティング層
を100℃
~200℃の範囲の温度で硬化させることを含む方法。
【請求項18】
前記コーティング層の100℃~200℃の範囲の温度での硬化を5~30分行う、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項
17または18に記載の方法によって得られた、被覆された基材。
【請求項20】
少なくとも2つのコーティング層からなり、2つのうちの少なくとも1つが、請求項
15に記載の一液型のポリウレタン分散体又は請求項
16に記載の一液型のコーティング材料から形成されている、多層コーティング。
【請求項21】
多層で被覆された基材であって、前記多層が少なくとも2つのコーティング層からなり、2つのうちの少なくとも1つが、請求項
15に記載の一液型のポリウレタン分散体又は請求項
16に記載の一液型のコーティング材料から形成されている、被覆された基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型のポリウレタン分散体、この分散体の製造方法、コーティング材料におけるこの分散体の使用、この分散体を含有するコーティング材料、及びこのコーティング材料を用いて得られた被覆された基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、いわゆる一液型のポリウレタン分散体、すなわち、周囲温度で貯蔵安定性があるが、高温では架橋しやすい分散体の製造に、特に関するものである。
【0003】
多くの一液型のポリウレタン分散体は、水系の施与において使用される。この課題を達成するために、分散体は、部分的又は完全に中和された酸基及び/又はポリオキシアルキレン基を含有する。
【0004】
典型的には、そのような一液型のポリウレタン分散体は、最初にイソシアネート基含有プレポリマーを形成し、その後これをポリマーポリオールと反応させてポリウレタンを得ることによって得られる(例えばDE4326670A1、DE19534361A1、EP0791614A1、DE4328092A1及びEP2341110B1を参照されたい)。プレポリマー、ポリマーポリオール又はその両方は、しばしば酸基、例えばカルボキシ基及び/又はポリオキシアルキレン基を含有し、そしてポリウレタンの形成後、酸基は、存在する場合、部分的に又は完全に、好ましくは1種以上のアミン又はアルカリ金属水酸化物で中和され、これによって水分散性ポリウレタンポリオールが得られる。これを一般に1種以上のブロックされたポリイソシアネートと混合して、一液型のポリウレタン分散体を得る。しかし、固形分含量が高い場合、このような分散体ではかなり高い粘度が観察され、加工性が制限されるか、又はさらなる希釈が必要となる。
【0005】
従って、改善された加工性及び低粘度を有する一液型のポリウレタン分散体を提供する継続的な必要性がある。粘度及び加工性は、大きな生産ラインにおけるバインダー分散体のポンプ性(pumpabiliy)に関して、大きな問題である。典型的には、3.000mPasを超える粘度は問題を引き起こす場合があり、従ってポンプ可能な粘度を超える分散体は、まず希釈する必要がある。別の側面は、所定の固形分含量において、より低い粘度を示す一液型のポリウレタン分散体が、コーティング組成物、特に、例えば顔料及び/又はフィラーの高い装填量による高い固形分含量を有するコーティング組成物において、有利に用いることが可能なことである。さらに、製造方法は、成分の貯蔵における労力の低減、及び方法自体の向上した簡略性と簡素化された洗浄労力を伴っているべきである。
【0006】
US2007/004856A1は、自己架橋型ポリウレタン分散体及びその調製方法に関するものである。D1の目的は、コーティング組成物が高い固形分含量を有し、得られるコーティングが良好な耐溶媒性を示す、改善された1K焼成システムを提供することであった。この文書で開示された方法では、ブロックされたポリイソシアネートが添加されるが、これはOH又はNCO官能性プレポリマーをヒドロキシル成分及び任意にポリイソシアネート成分と反応させる前、反応させる間又は反応後のいずれかの、様々な段階で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】DE4326670A1
【文献】DE19534361A1
【文献】EP0791614A1
【文献】DE4328092A1
【文献】EP2341110B1
【文献】US2007/004856A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
改善された加工性及び低粘度を有する一液型のポリウレタン分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、一液型のポリウレタン分散体の製造方法を提供することによって達成され、この分散体は、
(I) ヒドロキシ基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含有するポリウレタンであって、このポリウレタンの酸基が、存在する場合、酸基の合計量に基づいて0~100モル%の程度まで中和される、ポリウレタン、及び
(II) 完全にブロックされたポリイソシアネート
を含み、
この方法は、以下の工程、
a. 平均で1.8~2.8個のイソシアネート基を含み、且つウレタン基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含むプレポリマーを、完全にブロックされたポリイソシアネートの存在下で製造することにより、混合物Aを得る工程、
b. ヒドロキシ基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含有するポリウレタンを、1種以上のヒドロキシ官能性ポリマーと混合物Aとを反応させることによって製造することにより、混合物Bを得る工程、及び
c. 酸基を、混合物Bに含有される場合、混合物B中の酸基の合計量に基づいて0~100モル%中和する工程
を含むことを特徴とする。
【0010】
以下では、この方法を「本発明による方法」、「発明の方法」又は「本発明の方法」と呼ぶ。
【0011】
本発明の方法によって得られる一液型のポリウレタン分散体は、同じ成分を同じ量で使用するが方法工程の別の順序を適用した分散体とは、所定の固形分含量における粘度が著しく異なる。そのため、本発明の一液型のポリウレタン分散体は、従来得られるものとは異なると結論付けられる。
【0012】
このようにして得られた一成分ポリウレタン分散体を、以下、「本発明による(一液型の)ポリウレタン分散体」、「発明の(一液型の)ポリウレタン分散体」又は「本発明の(一液型の)ポリウレタン分散体」と称する。これらは、本発明のさらなる目的である。
【0013】
さらになお、本発明のさらなる目的は、本発明による一液型のポリウレタン分散体の、コーティング材料の製造における使用、及びそのようにして得られたコーティング材料それ自体、並びにその施与方法である。
【0014】
本発明の別の目的は、本発明による一液型のポリウレタン分散体で被覆された、好ましくは硬化した形態の基材である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用する「一液型のポリウレタン分散体」という用語は、「一液型のコーティング」の定義と同様に、「二液型の分散体」とは逆に架橋剤とポリウレタンとを含有する分散体であるポリウレタン分散体の群を意味し、ここでこれら成分は、互いに尚早な反応をしない(Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag、1998年、第179頁、キーワード「Einkomponenten-Lacke」(一液型のコーティング)を参照されたい)。一般的な用語「一液型のポリウレタン分散体」と、より狭義の用語「一液型のコーティング」との違いは、本発明による「一液型のポリウレタン分散体」が、典型的なコーティング成分、例えばコーティング添加剤、顔料及びフィラー等を必ずしも全て含有するわけではないことである。典型的には、本発明の「一液型のポリウレタン分散体」は、一液型のポリウレタン分散体とさらなる典型的なコーティング成分とを混合することにより、「一液型のコーティング」の一部となる。
【0016】
一般に、「一液型のコーティング」のような「一液型のポリウレタン分散体」は、周囲温度で架橋せず、特に、100℃より低い、及び好ましくは90℃より低い温度で架橋せず、そしてそれ故典型的な貯蔵条件(10~40℃)では貯蔵安定性があると見なすことができる。しかしながら、好ましくは100℃を超える、より好ましくは120℃を超える、及び最も好ましくは140℃を超える高温では、分散体の成分間で架橋が起こる。
【0017】
本発明による「ポリイソシアネート」は、1つ当たり2個を超えるNCO基を含有するオリゴマーである。このようなポリイソシアネートは、ジイソシアネートとは異なる反応によって、好ましくはオリゴマー化反応によって、ウレトジオン基、ビウレット基、アロファネート基、ウレタン基及びウレア基からなる群から選択される1つ以上の基を、好ましくはイソシアヌレート基及び/又はイミノオキサジアジンジオン基と組み合わせて含有する場合があるイソシアヌレート及び/又はイミノオキサジアジンジオン又はオリゴマーを得ることができる。
【0018】
「ブロックされたポリイソシアネート」とは、ポリイソシアネートであって、そのNCO基の1個以上がブロック剤と反応するポリイソシアネートであり、そして「完全にブロックされたポリイソシアネート」とは、ポリイソシアネートであって、実質的に全てのNCO基がブロック剤と反応するポリイソシアネートである。典型的には100℃より高い高温で、ブロック剤は分解するか、又はブロック剤としてのマロン酸エステルの場合は、ヒドロキシ基と反応した際にトランスエステル化が起こる。
【0019】
本発明による、且つ本発明により製造された一液型のポリウレタン分散体は、(I)ヒドロキシ基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含有する少なくとも1つのポリウレタン(ポリウレタンの酸基は、存在する場合、酸基の合計量に基づいて0~100モル%の程度まで中和される)、及び(II)完全にブロックされたポリイソシアネートを含む。
【0020】
このことが示すのは、平均で1.8~2.8個のイソシアネート基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含むプレポリマーの製造中に存在する完全にブロックされたポリイソシアネートが、プレポリマーの製造中に消費されない、又は少なくとも完全には消費されないので、そのために本発明の一液型のポリウレタン分散体中に完全に又は少なくとも部分的に残存するということである。
【0021】
本発明による方法
方法工程a.(混合物Aを得る)
工程a.において、平均で1.8~2.8個のイソシアネート基を含み、且つウレタン基と、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基とを含むプレポリマーを、完全にブロックされたポリイソシアネートの存在下で製造することにより、混合物Aを得る。
【0022】
工程a.において製造されたプレポリマーは、平均で1.8~2.8個、好ましくは1.9~2.5個、及びさらにより好ましくは2.0~2.4個のNCO基を含有する。
【0023】
好ましくは、プレポリマーは2個以上のウレタン基、より好ましくは2~4個のウレタン基、及び最も好ましくは2個のウレタン基を含む。
【0024】
プレポリマーは、好ましくはジイソシアネートをジオールと反応させて合成される。好ましくは、酸基及び/又はポリアルコキシレン基を、これらの基を含有するジオールを用いてプレポリマーに導入する(本明細書では、親水性導入ジオール又は親水性ジオールと称する)される。
【0025】
好ましくは、方法工程a.は、ジイソシアネートのイソシアネート基について、理論上可能な消費量の少なくとも30モル%に達するまで、より好ましくは少なくとも50モル%に達するまで、及び最も好ましくは少なくとも70モル%に達するまで、且つジイソシアネートのイソシアネート基について、理論上可能な消費量の100モル%に達するより前に、実施される。それから方法工程bを進める。イソシアネート基の理論上可能な消費量は、ジオール中に存在するすべてのヒドロキシ基がジイソシアネートのイソシアネート基と反応したという仮定の計算値である。
【0026】
ジイソシアネート
プレポリマーの製造に用いられるジイソシアネートは、好ましくは以下の式(1)
OCN-R1-NCO (1)
(式中、R1は脂肪族又は芳香族炭化水素残基、好ましくは脂肪族残基である)を有する。脂肪族残基の場合、R1は非環状又は環状であるか、又は非環状及び環状の部位を含有することができる。式(1)のジイソシアネートの混合物を用いることができる。
【0027】
R1が非環状脂肪族炭化水素残基である場合、R1は分岐状又は直鎖状、好ましくは直鎖状である。好ましくは、非環状脂肪族炭化水素残基R1は、2~16個、より好ましくは4~12個、及び最も好ましくは6~10個の炭素原子を含有し、そして好ましくは直鎖状である。特に好ましい非環状脂肪族炭化水素残基R1は、(CH2)nであり、式中、n=4~12、最も好ましくは6~10、例えば(CH2)6である。本発明で用いられる非環状脂肪族ジイソシアネート(1)の例には、ヘキサメチレンジイソシアネート及び2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが含まれる。
【0028】
R1が環状脂肪族炭化水素残基であるか、又は非環状及び環状の部位を含有する場合、残基R1は、好ましくは3~20個、より好ましくは6~16個、及び最も好ましくは10~14個の炭素原子を含有する。好ましい例は、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン及びシクロヘキサンジイソシアネートである。
【0029】
R1が芳香族炭化水素残基である場合、残基R1は、好ましくは6~16個、より好ましくは6~10個の炭素原子を含有する。例として、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート及びそれらの混合物、及びフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
【0030】
キシリレンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートも用いることができ、本明細書では脂肪族ジイソシアネートと見なす。なぜなら、NCO基が脂肪族炭素原子に結合しているからである。
【0031】
上記式(I)のジイソシアネートのうち、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートが好ましい。特に好ましいのは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、及び水添キシリレンジイソシアネートである。
【0032】
親水性導入ジオール
プレポリマーの製造に用いられる必須ジオールは、好ましくは、以下の式(2)
HO-R2-OH (2)
(式中、R2は脂肪族又は芳香族炭化水素残基であり、好ましくは脂肪族炭化水素残基である)を有する。脂肪族炭化水素残基の場合、R2は非環状又は環状であるか、又は非環状及び環状の部位を含有することができる。式(2)のジオールの混合物を用いることができる。
【0033】
R2は、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含む。これらの基は、親水性をジオールに、そして最終的にプレポリマー及びポリウレタンターゲットポリマーに、導入することになる。典型的には、酸基は、ポリウレタンターゲットポリマー中で、例えばアミン又はアルカリ金属水酸化物で少なくとも部分的に中和され、そうして一液型のポリウレタン分散体中のポリウレタンにアニオン性安定化をもたらす。
【0034】
R2が少なくとも1つの酸基を含む場合、少なくとも1つの酸基は、好ましくは、COOH、SO3H、OP(O)(OH)2、P(O)(OH)2又はその対応する塩からなる群から選択される。最も好ましい酸基は、COOH基(カルボン酸基)である。好ましくは、R2は1つの酸基、最も好ましくは1つのCOOH基を含有する。
【0035】
式(2)の各ジオール内に1つ又は2つの酸基、好ましくはカルボキシ基を有する本発明において使用する式(2)の親水性導入ジオールの例には、多価アルコールと多塩基酸及び/又はその無水物との反応によって得られるエステル、及びジヒドロキシアルカン酸、例えば2,2-ジメチロール乳酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸及び2,2-ジメチロール吉草酸が含まれる。好ましい化合物の例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸及び2,2-ジメチロールブタン酸が含まれる。
【0036】
R2が少なくとも1つのポリオキシアルキレン基を含む、又はこれからなる場合、少なくとも1つのポリオキシアルキレン基は、好ましくはエチレンオキシド単位を含有し、アルキレンオキシド単位の合計数に基づいて、より好ましくは少なくとも25モル%のエチレンオキシド単位、最も好ましくは少なくとも50モル%のエチレンオキシド単位、及びさらにより好ましくは少なくとも75モル%のエチレンオキシド単位、例えば少なくとも80モル%、又は少なくとも90モル%、及び特に好ましくは100モル%のエチレンオキシド単位を含有する。このような他のアルキレンオキシド単位は、含有される場合、好ましくは、プロピレンオキシド単位及びブチレンオキシド単位の群から選択される。
【0037】
本発明で使用されるような式(2)の親水性導入ジオールの好ましい例は、式(2a)及び(2b)
HO-[(EtO)x(PrO)y(BuO)z]-H (2a)
(HOCH2)2CX1CH2O-[(EtO)x(PrO)y(BuO)z]-X2 (2b)
(式中、Et=エチレン、Pr=プロピレン及びBu=ブチレン、x、y、zは整数、x+y+z=2~200、好ましくは3~100、及び最も好ましくは4~50、x≧2且つx≧(y+z)、好ましくはx≧2(x+y)、より好ましくはx≧3(x+y)、及び好ましくはz=0であり、X1及びX2は、互いに独立して直鎖アルキル基又はシクロアルキル基であり、直鎖アルキル基は、好ましくは1~12個、より好ましくは1~8個及び最も好ましくは1~6個、例えば1~5個の炭素原子を有し、そしてシクロアルキル基は、好ましくは3~12個、より好ましくは3~8個、及び最も好ましくは3~6個の炭素原子を有する)の1つ以上によって表すことができる。X1及びX2は、同一であっても異なっていてもよく、好ましくは異なる。
【0038】
式(2a)及び(2b)において、x個のEtO基、y個のPrO基及びz個のBuO基は、ブロック状、勾配状又はランダムに編成することができる。最も好ましくは、ブロック状又はランダムに編成されたものである。
【0039】
プレポリマーの製造において、式(2)の異なるジオールの混合物を使用することは無論可能である。そのような混合物は、酸基を有する異なるジオール、ポリアルコキシレン基を有する異なるジオール、又は酸基を有するジオールとポリアルコキシレン基を有するジオールとの混合物を含有することができる。
【0040】
さらなるジオール
プレポリマーの製造において、式(2)の親水性導入ジオールの他に、さらなるジオールを用いることができる。そのようなさらなるジオールは、式(3)
HO-R3-OH (3)
(式中、R3は脂肪族又は芳香族炭化水素残基、好ましくは脂肪族炭化水素残基であり、R3はR2とは異なり、そして式中、R3は、酸基及びポリアルコキシレン基からなる群から選択される1つ以上の基を含有しない)で表すことができる。
【0041】
脂肪族残基の場合、R3は非環状又は環状であってよく、又は非環状又は環状の部位を含有することができる。式(3)のジオールの混合物を用いることができる。
【0042】
最も好ましいR3は、分岐状又は非分岐の、飽和又は不飽和の、2~12個の炭素原子、より好ましくは3~11個の炭素原子、及び最も好ましくは4又は5~9個の炭素原子を含有する、非環状脂肪族炭化水素残基である。炭化水素残基は、-O-、-S-、C=O及びCOOからなる群から選択される1~4個の残基又は原子によって中断されていてもよい。
【0043】
式(3)のジオールの好ましい例は、グリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及びネオペンチルグリコール、ジアルキレングリコール、例えばジエチレングリコール又はジプロピレングリコールである。
【0044】
式(1)のジイソシアネートと式(2)のジオールとの反応に式(3)のジオールを用いる場合、式(2)のジオールの式(3)のジオールに対する好ましいモル比は、0.40:0.60~0.99:0.01、より好ましくは0.50:0.50~0.95:0.05、及びさらにより好ましくは0.60:0.40~0.90:0.10である。
【0045】
プレポリマー
方法工程a.で形成されるプレポリマーは、好ましくは直鎖状であり、そして好ましくは、式(1)のジイソシアネートのうちの1つ以上と、式(2)及び(3)のジオールのうちの1つ以上とを反応させることによって形成される。
【0046】
プレポリマーは、平均で1.8~2.8個、好ましくは1.9~2.5個、及びさらにより好ましくは2.0~2.4個のNCO基を含有する。
【0047】
好ましくは、反応に用いられる式(1)のジイソシアネートの、反応に用いられる式(2)及び(3)のジオールの総計に対するモル比は、(2±0.3):1、より好ましくは(2±0.2):1、及び最も好ましくは(2±0.1):1、例えば2:1の範囲にある。
【0048】
混合物A中に存在する好ましいプレポリマーは、式(4)
OCN-R1-NH-C(O)O-R2-O(O)C-NH-R1-NCO (4)
で表すことができ、残基R1及びR2は上記で定義したとおりであり、式(3)のジオールが存在する場合、混合物Aは式(4a)
OCN-R1-NH-C(O)O-R3-O(O)C-NH-R1-NCO (4a)
のプレポリマーをさらに含有し、
残基R1及びR3は、上記で定義したとおりである。
【0049】
理論に束縛されることを望むものではないが、プレポリマーのNCO基の一部は、完全にブロックされたポリイソシアネートのNH-(C=O)部位のNH基と反応し、これによってアロファネート基又はウレイド基が形成される。完全にブロックされたポリイソシアネートは、この反応によって脱ブロックされない。それでも、このように変性されたプレポリマーは、方法工程a.の反応で形成されたプレポリマーとみなされ、そして平均で1.8~2.8個、好ましくは1.9~2.5個、及びさらにより好ましくは2.0~2.4個のNCO基を含む必要がある。
【0050】
方法工程a.におけるプレポリマーの調製は、好ましくは60~100℃、より好ましくは70~90℃、及び最も好ましくは75~85℃の範囲の温度、例えば80℃で、好ましくは非プロトン性有機溶媒、例えばN-メチル-2-ピロリドン又はN-エチル-2-ピロリドン等のようなピロリドン、及びメチルエチルケトン又はメチルイソブチルケトン等のようなケトン中で、実施される。
【0051】
完全にブロックされたポリイソシアネート
一般に、本発明による方法の、方法工程a.で用いられる完全にブロックされたポリイソシアネートは、プレポリマーを形成する反応に関与しない。特に、本発明による方法の、方法工程a.で用いられる完全にブロックされたポリイソシアネートの顕著な脱ブロック反応は観察されない。しかしながら、完全にブロックされたポリイソシアネートのNH-(C=O)部位のNH基の少量が、プレポリマーの形成に用いられる式(1)のジイソシアネートの遊離NCO基と反応してアロファネート基又はウレイド基を形成することを除外することはできない。
【0052】
完全にブロックされたポリイソシアネートは、式(5)
R4-(NCO)m (5)
(式中、R4は、式(1)の脂肪族又は芳香族ジイソシアネート、好ましくは式(1)の脂肪族ジイソシアネートのオリゴマー化から誘導される脂肪族又は芳香族残基であり、そしてm>2、好ましくはm=2.5~4.5、より好ましくはm=2.8~3.8)のポリイソシアネートを、1つ以上のブロック剤と反応させることによって、得ることができる。
【0053】
好ましくは、R4は式(1)の3つ以上のジイソシアネートの反応により得られ、そしてイソシアヌレート基、イミノオキサジアジンジオン基、ウレトジオン基、ビウレット基、アロファネート基、ウレタン基及びウレア基から選択される1つ以上の基を含む。式(5)のポリイソシアネートが、イソシアヌレート基及び/又はイミノオキサジアジンジオン基を少なくとも含み、両基は式(1)のジイソシアネートの三量化により形成されることが好ましい。
【0054】
完全にブロックされたポリイソシアネートの合成では、式(5)のポリイソシアネートは、ブロック剤と反応して「ブロックされたイソシアネート」基となる、2個を超えるイソシアネート基(NCO基;m>2)を含有する。
【0055】
完全にブロックされたポリイソシアネートを調製するためのブロック剤は、例えば、以下である。
【0056】
i. フェノール、ピリジノール、チオフェノール及びメルカプトピリジン、好ましくはフェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、この酸のエステル、2,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、チオフェノール、メチルチオフェノール及びエチルチオフェノールからなる群から選択されるもの、
ii. アルコール及びメルカプタン、アルコールは、好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、t-アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、2-(ヒドロキシエトキシ)フェノール、2-(ヒドロキシプロポキシ)フェノール、グリコール酸、グリコールエステル、乳酸、乳酸エステル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-シクロヘキシルジメタノール又はアセトシアノヒドリンからなる群から選択されるもの、そしてメルカプタンは、好ましくはブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンからなる群から選択されるもの、
iii. オキシム、好ましくは、テトラメチルシクロブタンジオンのケトキシム、メチルn-アミルケトキシム、メチルイソアミルケトキシム、メチル3-エチルヘプチルケトキシム、メチル2,4-ジメチルペンチルケトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルイソプロピルケトキシム、メチルイソブチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、メチルt-ブチルケトキシム、ジイソプロピルケトキシム及び2,2,6,6-テトラメチルシクロヘキサノンのケトキシムからなる群のケトキシム、又はアルドキシム、好ましくはホルムアルドキシム、アセトアルドキシムからなる群からのもの、
iv. アミド、環状アミド及びイミド、好ましくは、ラクタム、例えばε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム又はβ-プロピオラクタムからなる群から選択されるもの、酸アミド、例えばアセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトアミド、ステアラミド又はベンズアミド、及びイミド、例えばスクシンイミド、フタルイミド又はマレイミド、
v. イミダゾール及びアミジン、
vi. ピラゾール及び1,2,4-トリアゾール、例えば3,5-ジメチルピラゾール及び1,2,4-トリアゾール、
vii. アミン及びイミン、例えばジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン及びエチレンイミン、
viii. イミダゾール、例えばイミダゾール又は2-エチルイミダゾール、
ix. 尿素、例えばチオウレア、エチレンウレア、エチレンチオウレア又は1,3-ジフェニルウレア、
x. 活性メチレン化合物、例えばジエチルマロネートのようなジアルキルマロネート、及びアセト酢酸エステル、及び
xi. その他、例えばヒドロキサム酸エステル、例えばベンジルメタクリロヒドロキサメート(BMH)又はアリルメタクリロヒドロキサメート、及びカルバメート、例えばフェニルN-フェニルカルバメート又は2-オキサゾリドン。
【0057】
上記ブロック剤のうち、オキシム(群iii.)、特にメチルエチルケトキシム、及びピラゾール(群vi.)、特に3,5-ジメチルピラゾールが最も好ましい。
【0058】
群x.のブロック剤は、高温における脱ブロック反応では反応しないが、アルコール、特にポリオールと反応させた際、存在するエステル基のトランスエステル化で反応する。
【0059】
本発明の利点の1つは、完全にブロックされたポリイソシアネートを、同じ反応容器内で方法工程a.の直前に得ることが可能なことである。
【0060】
方法工程b.(混合物Bを得る)
方法工程b.において、方法工程a.で得られた混合物Aに含有されるプレポリマーを1種以上のヒドロキシ官能性ポリマーと反応させ、ポリウレタン含有混合物Bを得る。
【0061】
好ましくは、ヒドロキシ官能性ポリマーは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリ(メタ)アクリレートポリオール又はそれらの混合物からなる群から選択される。前述のヒドロキシ官能性ポリマーのうち、ポリエステルポリオールが最も好ましい。本明細書で定義されるポリオールは、少なくとも2個のヒドロキシ基を含む。
【0062】
ポリエステルポリオールは、好ましくは、ジオール及び/又はポリオールと、ジカルボン酸及び/又はポリカルボン酸及び/又は前述の酸の無水物との混合物から調製される。
【0063】
特に好ましいのは、1つ以上の式(6)のジカルボン酸又は式(6’)のジカルボン酸無水物を使用して調製されるポリエステルポリオールであり、
【0064】
【化1】
式中、R
5は、10~40個、より好ましくは12~36個、及び最も好ましくは14~34個の炭素原子を好ましくは含有する炭化水素残基であり、
式(6)中の2つのCOOH基又は式(6’)中の無水物基を形成する炭素原子間の最短の連結基を形成する炭素原子の数(n
linker)は、2~20個、好ましくは2~18個であり、そして
n
linker<残基R
5中の炭素原子の合計数である。
【0065】
特に好ましくは、式(6’)中の無水物基を形成する炭素原子間の最短の連結基を形成する炭素原子の数(nlinker)は、2~6個、より好ましくは2~4個、及び最も好ましくは2個である。
【0066】
最も好ましいポリエステルポリオールは、直鎖状又は分岐状であり、そしてポリスチレン標準(例えば、Agilent1200シリーズ、検出器:Agilent RI G1362A+UV G1314F、溶離液:THF+1体積%酢酸)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定した数平均分子量が340~5000g/モル、より好ましくは400~4000g/モル、及び最も好ましくは500~3500g/モルである。
【0067】
好ましくは、ポリエステルポリオールは、1~20mgKOH/g、より好ましくは1~15mgKOH/g、及び最も好ましくは1~10mgKOH/gの範囲の酸価を有する。
【0068】
好ましくは、ポリエステルポリオールは、50~280mgKOH/g、より好ましくは65~250mgKOH/g、及び最も好ましくは70~230mgKOH/g、例えば120~230mgKOH/gの範囲のヒドロキシ価を有する。
【0069】
方法工程c.(中和)
方法工程b.で得られたポリウレタンが酸基を含有する場合、酸基を好ましくは中和する。中和剤は、好ましくは、酸性基の20~100モル%、及び最も好ましくは50~100モル%を中和する量で用いる。これは、DIN EN ISO2114(方法A)に準拠して分散体の酸価を決定し、ポリウレタンを所望の程度に中和するのに必要な中和剤のそれぞれの量を計算し、そしてこの量の中和剤をポリウレタンに添加することによって、達成することができる。完全な中和が所望される場合は、過剰の中和剤、例えば理論的に必要な中和剤の量の1.1~2倍量を添加することが好ましい。好ましい中和剤は、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム、及びアミン、例えばジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、N,N-ジメチルエタノールアミン及びモルフォリンである。
【0070】
本発明による一液型のポリウレタン分散体
本発明によるポリウレタン分散体は、一液型のポリウレタン分散体である。イソシアネート含有プレポリマーを介して導入されたポリウレタンに親水性部位(酸基、ポリアルコキシレン基)が存在するので、本発明による一液型のポリウレタン分散体は、水性分散体として最も好適である。非イオン性ポリアルコキシレン部位を含有するポリウレタンは、典型的にはそのままで水分散性であるが、酸基を含有するものは、典型的には方法工程cで部分的に又は完全に中和して水分散性にする必要がある。しかし、酸基の場合、まさにそのポリウレタンの中和の程度によって、親水性を制御することができる。
【0071】
従って、本発明によるポリウレタン分散体は、好ましくは水性ポリウレタン分散体であり、本発明の方法によって得ることができる。
【0072】
本発明のポリウレタン分散体は、好ましくは、40質量%~75質量%、より好ましくは40質量%~65質量%、及び最も好ましくは50~62質量%の水を含有する。
【0073】
本発明によるポリウレタン分散体は、好ましくは、ポリウレタン分散体の合計質量に基づいて、25~60質量%、より好ましくは35~60質量%、及び最も好ましくは38~50質量%の固形分含量を有する。
【0074】
ポリウレタン分散体の固形分含量は、DIN EN ISO3251に準拠して、ポリウレタン分散体を130℃の温度で60分間乾燥させることによって決定される。
【0075】
所定の固形分含量において、本発明により得られるポリウレタン分散体は著しく低い粘度を有するので、高い固形分含量において、さらに希釈せずに使用することが可能となる。
【0076】
本発明によるコーティング材料
本発明によるコーティング材料は、好ましくは水性又は水系コーティング材料であり、最も好ましくは水性又は水系の、一液型のコーティング材料である。
【0077】
本発明によるポリウレタン分散体は、任意の水性又は水系コーティング材料において好適に用いることができる。好ましくは、本発明のポリウレタン分散体は、プライマーコーティング材料、フィラーコーティング材料及び/又はベースコーティング材料に、好ましくは主要フィルム形成材料又はそのうちの1つとして、用いられる。
【0078】
さらなるフィルム形成材料
本発明によるポリウレタン分散体の他に、本発明によるコーティング材料は、好ましくは1つ以上のさらなるフィルム形成材料を含有する。そのようなフィルム形成材料の例は、例えばEP0574417、DE19948004、EP0521928、EP1171535、EP3247755及びEP3083742に記載されている。
【0079】
架橋剤
本発明によるポリウレタン分散体を含有し、そして場合によりさらなる活性水素官能性フィルム形成材料を含有する一液型のコーティング材料は、好ましくは、ポリウレタン分散体と共に導入された完全にブロックされたポリイソシアネートの他に、ヒドロキシ基と反応する少なくとも1種のさらなる架橋剤をさらに含む。
【0080】
一液型のコーティング材料に好ましい架橋剤は、活性メチロール、メチルアルコキシ又はブチルアルコキシ基を有するアミノプラスト架橋剤、及びブロックされたポリイソシアネート架橋剤であり、これはヒドロキシ基と同様に、中和されていないカルボン酸基とも反応し得る。
【0081】
アミノプラスト、又はアミノ樹脂は、Encyclopedia of Polymer Science and Technology、第1巻、第752~789頁(1985年)に記載されている。アミノプラストは、活性化窒素とより低分子量のアルデヒドとの反応によって、場合により、アルコール(好ましくは、1~4個の炭素原子を有するモノアルコール、例えばメタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等)とさらに反応させてエーテル基を形成させることによって得られる。活性化窒素の好ましい例は、活性化アミン、例えばメラミン、ベンゾグアナミン、シクロヘキシルカルボグアナミン、及びアセトグアナミン、尿素そのもの、チオウレア、エチレンウレア、ジヒドロキシエチレンウレア、及びグアニルウレアを含む尿素、グリコールウリル(glycoluril)、ジシアンジアミドなどのアミド、及び少なくとも1つの第一カルバメート基又は少なくとも2つの第二カルバメート基を有するカルバメート官能性化合物が挙げられる。活性化窒素は、より低分子量のアルデヒドと反応させる。アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド、又はアミノプラスト樹脂の製造に用いられる他のアルデヒドから選択してよいが、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド、特にホルムアルデヒドが好ましい。活性化窒素基は、アルデヒドで少なくとも部分的にアルキロール化され、そして完全にアルキロール化されてもよく、好ましくは活性化窒素基は完全にアルキロール化される。反応は、酸によって触媒されてよく、例えば米国特許第3,082,180号に教示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
活性化窒素とアルデヒドとの反応によって形成された任意のアルキロール基は、1種以上の単官能性アルコールで部分的に又は完全にエーテル化されてよい。単官能性アルコールの好適な例には、限定するものではないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコール等が含まれる。1~4個の炭素原子を有する単官能性アルコール及びそれらの混合物が好ましい。エーテル化は、例えば、US4,105,708及びUS4,293,692に開示されている工程で実施してよい。アミノプラストは、少なくとも部分的にエーテル化されてよいが、完全にエーテル化することができる。例えば、アミノプラスト化合物は、複数のメチロール及び/又はエーテル化されたメチロール、ブチロール、又はアルキロール基を有していてもよく、これらは任意の組み合わせで、及び非置換の窒素水素と共に存在してよい。好適な硬化剤化合物の例には、限定するものではないが、モノマー又はポリマーメラミン樹脂及び部分的に又は完全にアルキル化されたメラミン樹脂を含むメラミンホルムアルデヒド樹脂、及び尿素樹脂(例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂などのメチロール尿素、及びブチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂などのアルコキシ尿素)である。完全にエーテル化されたメラミン-ホルムアルデヒド樹脂の一例として、ヘキサメトキシメチルメラミンが挙げられる。
【0083】
アルキロール基は、自己反応により、オリゴマー型及びポリマー型のアミノプラスト架橋剤を形成することができる。有用な材料は、重合度によって特徴付けられる。メラミンホルムアルデヒド樹脂について、数平均分子量が約2000未満、より好ましくは1500未満、及びさらにより好ましくは1000未満の樹脂を使用することが好ましい。
【0084】
触媒
アミノプラスト架橋剤を含むコーティング材料は、硬化反応を促進するために、強酸触媒をさらに含んでよい。このような触媒は当該技術分野において周知であり、例えば、パラトルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、フェニル酸ホスフェート、モノブチルマレエート、ブチルホスフェート、及びヒドロキシホスフェートエステルが含まれる。強酸触媒はしばしばブロックされ、例えばアミンでブロックされる。
【0085】
さらに好ましい触媒は、例えば、有機スズ触媒及びビスマスベースの触媒である。有機スズ触媒のうち、ジアルキルスズジカルボキシレート、例えばジブチルスズジラウレート又はジオクチルスズジラウレートが好ましい。ビスマスベースの触媒のうち、ビスマスカルボキシレート、例えばビスマスネオデカノエート又はビスマスエチルヘキサノエートが好ましい。
【0086】
溶媒、顔料、フィラー及び添加剤
本発明のコーティング材料は、典型的には、溶媒、顔料、フィラー、及び/又は慣用の添加剤をさらに含む。
【0087】
本発明のコーティング材料は、好ましくは水系又は水性コーティング材料である一方で、これらは典型的には、1種以上の有機溶媒を少量含有する。溶媒は典型的には、本発明のポリウレタン分散体又は他の材料及び添加剤の他にフィルム形成材料を溶解するか又は分散させるために使用される。一般に、成分の溶解度特性に応じて、溶媒は水の他、任意の有機溶媒であってよい。
【0088】
溶媒は、好ましくは極性有機溶媒であるが、芳香族溶媒もある程度用いることができる。有用な溶媒の中には、ケトン、エステル、アセテート、非プロトン性アミド、非プロトン性スルホキシド、及び非プロトン性アミンが含まれる。具体的な有用溶媒の例には、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、エチルエトキシプロピオネート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、及びミネラルスピリット、エーテル、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル、アルコール、例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、及びtert-ブタノール又はアルコキシアルカノール、例えばメトキシプロパノール又はジ(プロピレングリコール)モノメチルエーテル、窒素含有化合物、例えばN-メチルピロリドン及びN-エチルピロリドン、及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0089】
コーティング材料中の有機溶媒は、コーティング材料の合計質量に基づいて、0質量%~30質量%の量、好ましくは0.5質量%~20質量%の量、又はより好ましくは1質量%~10質量%の量、及び最も好ましくは1~5質量%の量で存在してよい。
【0090】
コーティング材料がプライマーコーティング材料、フィラーコーティング材料、ベースコートコーティング材料、又はトップコートコーティング材料として配合される場合、それらは、好ましくは、特殊効果顔料を含む顔料及び/又はフィラーを含有する。
【0091】
ベースコート材料に利用してよい特殊効果顔料の例には、メタリック、真珠光沢、及び色可変効果フレーク顔料が含まれる。メタリック(真珠光沢、及び色可変を含む)トップコートカラーは、1種以上の特殊フレーク顔料を使用して製造される。メタリックカラーは、一般的にゴニオアパレント(gonioapparent)効果を有する色と定義されている。例えば、米国試験材料協会(American Society of Testing Methods)(ASTM)文書F284では、メタリックを「金属フレークを含有するゴニオアパレント材料の外観に係る」と定義している。メタリックベースコート色は、アルミニウムフレーク顔料、被覆されたアルミニウムフレーク顔料、銅フレーク顔料、亜鉛フレーク顔料、ステンレス鋼フレーク顔料、及び青銅フレーク顔料のようなメタリックフレーク顔料を使用して、及び/又は二酸化チタンで被覆したマイカ顔料及び酸化鉄で被覆したマイカ顔料のような処理マイカを含む真珠光沢フレーク顔料を用いて製造し、異なる角度で見たときにコーティングに異なる外観(反射率又は色の程度)を付与してよい。金属フレークはコーンフレーク型、レンズ型、又は耐循環型でよく、マイカは天然型、合成型、又は酸化アルミニウム型でよい。フレーク顔料は凝集せず、高せん断下で粉砕されない。なぜなら高せん断はフレーク又はその結晶形態を破壊するか又は曲げ、ゴニオアパレント効果を減少又は破壊するためである。フレーク状顔料は、低せん断下で攪拌することにより、バインダー成分中に十分に分散される。フレーク顔料又は顔料は、合計バインダー質量に基づいて、いずれの場合も約0.01質量%~約50質量%、又は約15質量%~約25質量%の量でコーティング材料に含まれてよい。
【0092】
プライマーコーティング材料、フィラーコーティング材料、ベースコートコーティング材料及びトップコートコーティング材料に利用してよい他の好適な顔料及びフィラーの例には、無機顔料、例えば二酸化チタン、硫酸バリウム、カーボンブラック、黄土、シエナ土、アンバー、ヘマタイト、リモナイト、赤色酸化鉄、透明赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、茶色酸化鉄、酸化クロムグリーン、ストロンチウムクロメート、リン酸亜鉛、シリカ、例えばヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、重晶石、フェリックアンモニウムフェロシアニド(プルシアンブルー)、及びウルトラマリン、及び有機顔料、例えば金属化及び非金属化アゾレッド、キナクリドンレッド及びバイオレット、ペリレンレッド、銅フタロシアニンブルー及びグリーン、カルバゾールバイオレット、モノアリーリド及びジアリーリドイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムに基づくナノ粒子等が含まれる。顔料(単数又は複数)は、好ましくは、樹脂又はポリマー中に、又は顔料分散剤、例えば前述の種類のバインダー樹脂を用いて、既知の方法により分散させる。一般に、顔料及び分散樹脂、ポリマー、又は分散剤は、顔料の凝集体を一次顔料粒子まで分解し、そして顔料粒子の表面を分散樹脂、ポリマー、又は分散剤で濡らすのに、十分に高いせん断下で接触させる。凝集体の分解及び一次顔料粒子の濡れは、顔料の安定性及び発色に重要である。顔料及びフィラーは、コーティング材料の合計質量に基づいて、典型的には約60質量%以下の量で利用してよい。使用される顔料の量は、顔料の性質、及び色の深度及び/又は生成しようとする効果の強度、及び顔料コーティング材料中の顔料の分散性にも依存する。顔料含有量は、それぞれの場合において顔料コーティング材料の合計質量に基づいて、好ましくは0.5質量%~50質量%、より好ましくは1質量%~30質量%、非常に好ましくは2質量%~20質量%、及びより具体的には2.5質量%~10質量%である。顔料及びフィラーは、ミルベース又はペーストの形態で用いることができる。
【0093】
さらに、慣用のコーティング添加剤、例えば、界面活性剤、安定剤、湿潤剤、分散剤、付着促進剤、UV吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、例えばHALS化合物、ベンゾトリアゾール又はオキサラニリド、フリーラジカル捕捉剤、スリップ添加剤、消泡剤、先行技術から周知である種類の反応性希釈剤、湿潤剤、例えばシロキサン、フッ素化合物、カルボン酸モノエステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸及びそのコポリマー、例えばポリブチルアクリレート、又はポリウレタン、付着促進剤、例えばトリシクロデカンジメタノール、流動制御剤、フィルム形成助剤、例えばセルロース誘導体、レオロジー制御添加剤、無機フィロシリケート、例えばアルミニウム-マグネシウムシリケート、モンモリロナイト型のナトリウム-マグネシウム及びナトリウム-マグネシウム-フッ素-リチウムフィロシリケート、Aerosil(登録商標)などのシリカ、又はイオン性及び/又は結合基含有合成ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルピロリドン、スチレン-無水マレイン酸コポリマー又はエチレン-無水マレイン酸コポリマー及びそれらの誘導体、又は疎水的に修飾されたエトキシル化ウレタン又はポリアクリレート、難燃剤等が含まれていてよい。典型的なコーティング材料は、このような添加剤の1種又は組み合わせを含む。
【0094】
基材をコーティングする方法及びそれに応じて被覆された基材
このように、本発明のさらなる目的は、本発明によるコーティング組成物で基材をコーティングするための、本発明によるコーティング組成物を基材上に施与してコーティング層を形成し、そしてコーティング層を約100℃~約200℃の範囲の温度で、好ましくは約5~約30分硬化させることを含む、方法である。本発明のさらなる目的は、本発明による方法によって得ることができる、被覆された基材である。
【0095】
本発明のコーティング材料は、当技術分野で周知である複数の技術の任意によって被覆することができる。これらには、例えば、スプレーコーティング、浸漬コーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、ナイフコーティング、散布、注入、浸漬、含浸、滴下(trickling)又はロール等が含まれる。自動車用ボディパネルには、スプレーコーティングが典型的に用いられる。スプレー塗布法、例えば圧縮空気噴霧、エアレス噴霧、高速回転、静電噴霧塗布を単独で、又は例えば熱風噴霧などのホットスプレー塗布と併用して用いることが好ましい。
【0096】
本発明のコーティング材料及びコーティング系は、特に技術的及び審美的に特に要求の厳しい自動車OEM仕上げの分野で用いられる。本発明のコーティング材料は、単一段階及び複数段階のコーティング方法の両方で使用することができる。
【0097】
施与されたコーティング材料は、或る一定の休止時間又は「フラッシュ」期間の後に硬化させることができる。休止時間は、例えば、コーティングフィルムのレベリング及び脱揮、又は溶媒などの揮発性構成成分の蒸発に役立つ。休止時間は、高温の適用又は湿度の低下によって補助又は短縮することができるが、これは例えば尚早な架橋など、コーティングフィルムの損傷又は変化を伴わないことが条件である。
【0098】
コーティング材料の熱硬化は、方法に関して特異性はないが、その代わりに典型的な既知の方法、例えば強制空気オーブンでの加熱又はIRランプを用いる照射などで行う。熱硬化は段階的に行ってもよい。別の好ましい硬化方法は、近赤外線(NIR)を照射して硬化させる方法である。
【0099】
一般に熱硬化は、被覆された物品を、主に放射熱源によって提供される高温にさらすことによって行う。施与後に、施与されたコーティング層は、例えば、100℃超~200℃、又は110℃~190℃、又は120℃~180℃の温度で、5分~30分以下、及びより好ましくは10分~25分以下の時間、熱で硬化させる。
【0100】
基材上に形成される本発明によるコーティング材料の硬化層の層厚は、以下の通りである。本発明のコーティング材料から形成される硬化したプライマー層は、適用される場合、典型的には約12μm~約25μmの厚さを有する。本発明のコーティング材料から形成された硬化したフィラー層は、適用される場合、典型的には、約10μm~約40μmの厚さを有する。本発明のコーティング材料から形成される硬化したベースコート層は、適用される場合、典型的には、約10μm~約25μmの厚さを有する。本発明のコーティング材料から形成される硬化したクリアコート層は、適用される場合、典型的には、約20~約40μmの厚さを有する。
【0101】
好ましくは、基材材料は、金属、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベースの材料及び前述の材料の任意の複合物からなる群から選択される。
【0102】
金属という用語は、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅等の金属元素、及び裸鋼、冷延鋼、亜鉛メッキ鋼等の合金を含む。ポリマーは、熱可塑性ポリマー、デュロプラスチックポリマー又はエラストマーポリマーが可能であり、デュロプラスチックポリマー及び熱可塑性ポリマーが好ましい。鉱物ベースの材料は、例えば、硬化セメント及びコンクリートなどの材料を包含する。複合材料は、例えば、繊維強化ポリマー等である。
【0103】
無論、前処理された基材を使用することも可能であり、ここで、前処理は基材の化学的性質に規則的に依存する。
【0104】
好ましくは、基材は使用前に洗浄され、例えば、典型的にコーティングの良好な付着を妨げる埃、脂肪、油又は他の物質を除去するために洗浄される。基材は、後続のコーティングの付着性を高めるために付着促進剤でさらに処理することができる。
【0105】
金属基材は、本発明によるコーティング組成物で被覆される前に、いわゆる化成被覆層及び/又は電着被覆層を含んでよい。これは特に、自動車OEM及び自動車再仕上コーティングなどの自動車コーティング分野の基材の場合である。
【0106】
電着被覆層を形成するために使用される電着組成物は、自動車車両コーティング作業で使用される任意の電着組成物でよい。電着被覆組成物の非限定的な例には、BASF社から販売されている電着コーティング材料が含まれる。電着コーティング浴は通常、水、又は水と有機共溶媒との混合物中でイオン安定化(例えば、アミン基の塩転化(salted amine group))されている主要フィルム形成エポキシ樹脂を含む水性分散液又は乳濁液を含む。主要フィルム形成樹脂による乳化は、加熱等の適切な条件下で、主要樹脂の官能基と架橋剤とが反応し、それにより塗膜が硬化することにより生ずる。架橋剤の好適な例には、限定するものではないが、ブロックされたポリイソシアネートが含まれる。電着コーティング材料には通常、1種以上の顔料、触媒、可塑剤、合体助剤(coalescing aid)、消泡剤、流動制御剤、湿潤剤、界面活性剤、UV吸収剤、HALS化合物、酸化防止剤、及び他の添加剤が含まれる。
【0107】
電着コーティング材料は、10~25μmの乾燥膜厚に施与することが好ましい。施与後に、被覆された車両本体を浴から取り出し、そして脱イオン水ですすぐ。コーティングは、適切な条件下、例えば約135℃~約190℃で、好ましくは約15分~約60分間焼成することによって硬化させてよい。
【0108】
ポリマー基材の場合、前処理には、例えば、フッ素を用いる処理、又はプラズマ、コロナ又は火炎による処理が含まれてよい。多くの場合、表面は紙やすり処理(sanded)及び/又は研磨される。洗浄も、先の研磨の有無にかかわらず、溶媒で拭くことによって手動で行うことができ、又は二酸化炭素洗浄のような一般的な自動化手順によって行うことができる。
【0109】
上記の基材の任意は、コーティング層の形成の前に、1種以上のフィラー及び/又は1種以上のベースコートで前被覆することもできる。そのようなフィラー及びベースコートは、着色顔料及び/又は効果顔料、例えばメタリック効果顔料を、例えばアルミニウム顔料として、又は真珠光沢顔料を、例えばマイカ顔料として、含有してよい。これは特に、自動車OEM及び自動車再仕上コーティングのような自動車コーティング分野の基材の場合である。
【0110】
選択された基材材料に応じて、コーティング組成物は、多種多様な異なる適用領域で施与することができる。多くの種類の基材を被覆することができる。従って本発明のコーティング組成物は、装飾及び保護コーティング系として、特に輸送手段の本体(特にオートバイ、バス、トラック又は自動車などの自動車両)又はその部品に使用するのに、際立って好適である。基材は、好ましくは、自動車コーティングで使用される多層コーティングを含む。
【0111】
本発明のコーティング組成物は、建築物、内装及び外装、家具、窓及びドア、プラスチック成形品、特にCD及び窓、小さな工業部品、コイル、容器及び包装、白物家電、シート、光学、電気及び機械の構成要素、及び中空ガラス製品及び日常使用の物品への使用にも好適である。
【0112】
よって本発明のさらなる目的は、本発明のコーティング方法により被覆された基材である。基材上のコーティングは、硬化されるか、又は硬化されなくてもよく、好ましくは硬化される。
【0113】
多層コーティング及び多層被覆された基材
本発明のさらに別の目的は、少なくとも2つのコーティング層からなり、そのうちの少なくとも1つが本発明のポリウレタン分散体から、又は本発明によるコーティング材料から形成される、硬化されるか又は硬化されなくてもよい、好ましくは硬化される、多層コーティングである。典型的には、多層コーティングは、2つを超えるコーティング層を含む。
【0114】
好ましい多層コーティングは、少なくとも1種の顔料及び/又はフィラー含有層、例えばプライマーコート層、フィラーコート層又はベースコート層、及び少なくとも1種のクリアコート層を含む。本発明のコーティング材料は、好ましくは、顔料及び/又はフィラー含有層を形成する。
【0115】
さらにより好ましいのは、少なくとも1つのベースコート層で被覆され、少なくとも1つのクリアコート層で再度被覆された少なくとも1つのフィラーコート層を含む多層コーティングである。
【0116】
特に、自動車用コーティングに限定するものではないが、多層コーティングは、好ましくは、電気被覆層(electro coat layer)と、電気被覆層の上にあり、少なくとも1つのベースコート層で被覆され、少なくとも1つのクリアコート層で再度被覆された少なくとも1つのフィラーコート層を含む。
【0117】
上記多層コーティングは、上記で名前を挙げた基材の任意、典型的には、限定するものではないが、前処理された基材に施与することができる。従って、本発明の別の目的は、上記多層コーティングの任意で被覆された多層被覆基材であり、多層コーティングは硬化されるか、又は硬化されなくてもよく、好ましくは硬化される。
【0118】
以下で、実験データによって本発明を例示する。
【実施例】
【0119】
粘度測定
以下に示す粘度は、回転式レオメーター(Anton Paar GmbH社、Graz、オーストリアのRheolabQC)を用いて、温度23℃及びせん断速度150s-1で、円柱状のcc27システムを使用して測定した。
【0120】
メチルエチルケトキシムでキャップされたHDI-トリマー(CL A)の調製
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、1037.5gのヘキサメチレンジイソシアネートオリゴマー(例えばDesmodur N3300)及び499.2gの2-ブタノンを入れた。45℃で463.3gのメチルエチルケトキシムを加え、そして滴定により決定したNCO含有量が≦0.1%になるまで温度を上昇させて70~75℃に維持した。反応混合物の固形分含量を75質量%に調整した。
【0121】
η=約625mPa*s(23℃、Rheolab、150s-1)
【0122】
メチルエチルケトキシムでキャップされたIPDI-トリマー(CL B)の調製
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、1929.7gのイソホロンジイソシアネートオリゴマー(例えばDesmodur Z4470 70% MPA/X)及び200.0gの2-ブタノンを入れた。50℃で478.3gのメチルエチルケトキシムを加え、そして滴定により決定したNCO含有量が≦0.1%になるまで温度を上昇させて70~75℃に維持した。溶媒損失を2-ブタノンで補い、そして反応混合物の固形分含量を80%に調整した。
【0123】
η=約2000mPa*s(23℃、Rheolab、150s-1)
【0124】
3,5-ジメチルピラゾールでキャップされたHDI-トリマー(CL C)の調製
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、1519.6gのヘキサメチレンジイソシアネートオリゴマー(例えばDesmodur N3300)及び509.9gの2-ブタノンを入れた。40℃で767.8gの3,5-ジメチルピラゾールを3回に分けて加え、そして滴定により決定したNCO含有量が≦0.1%になるまで、温度を慎重に上昇させて75℃で維持した。反応混合物の固形分含量を85%に調整した。
【0125】
η=約2350mPa*s(23℃、Rheolab、150s-1)
【0126】
ポリエステルPES A
攪拌器及びディーンスターク装置を備えた反応器に、633gの1,6-ヘキサンジオール、253gの無水トリメリット酸、633gのテトラプロペニル無水コハク酸及び464gのトリプロピレングリコールを入れた。温度を220℃まで上昇させ、慎重に制御してモノマー損失を低減した。反応のモニターは滴定により行った。ヒドロキシ価が約210mgKOH/g、酸価が約8mgKOH/g、及び数平均分子量が928g/モルのポリエステルポリオールを得た。固形分含量は100%であった。
【0127】
ポリエステルPES B
WO2015/007427A1の第24頁、実施例D-P1及び第26頁、実施例D-P2に従い、443gの1,6-ヘキサンジオール、241gの無水イソフタル酸及び813gのダイマー脂肪酸を用いて、直鎖状ポリエステルポリオールを合成した。ヒドロキシ価73mgKOH/g、酸価<4mgKOH/g、及び数平均分子量1379g/モルのポリエステルポリオールを得た。ブタン-2-オンによって約73質量%の固形分含量に希釈した。
【0128】
ポリウレタン分散体の調製
本発明の方法によるポリウレタン分散体の調製(実施例1~6;表1、表2)
【0129】
一般的な手順
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、成分I1としてCL A、CL B又はCL C、ジイソシアネートI2、ジメチロールプロピオン酸(I3)及びネオペンチルグリコール(I4)を室温で入れた。反応混合物を2-ブタノン(I5)で希釈した。その後、温度を80℃に上昇させ、NCO含有量の滴定によって反応過程をモニターした。ヒドロキシ末端ポリエステルI6(PES A/PES B)は、理論的NCO含量が達成される前に加えた。反応温度は、NCO含有量が≦0.1%になるまで80℃で維持した。ポリマー混合物をジメチルアミノエタノール(I7)と混合して、決定された酸価に従い95~105%の中和レベルを達成し、脱イオン水(I8)中で乳化させた。プロセス溶媒を減圧下で除去し、対応する自己架橋型ポリウレタン分散体を達成した。
【0130】
比較例ポリウレタン分散体の調製(実施例1’~6’;表1及び表2)
【0131】
一般的な手順
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、ジイソシアネートI1、ジメチロールプロピオン酸(I2)及びネオペンチルグリコール(I3)を室温で入れた。反応混合物を2-ブタノン(I4)で希釈した。その後、温度を80℃に上昇させ、NCO含有量の滴定によって反応過程をモニターした。ヒドロキシ末端ポリエステルI5(PES A/PES B)は、理論的なNCO含有量が達成された際に加えた。反応温度は、NCO含有量が≦0.1%になるまで80℃で維持した。ポリウレタンをCL A、CL B又はCL Cと混合し(I6)、そして混合物をさらに30分間撹拌した。その後、ジメチルアミノエタノール(I7)を加えて、決定された酸価に従い95~105%の中和レベルを達成し、脱イオン水(I8)中で乳化させた。プロセス溶媒を減圧下で除去し、対応する自己架橋型ポリウレタン分散体を達成した。
【0132】
【0133】
【0134】
CL A:メチルエチルケトキシムでキャップされたHDI-トリマー、ブタン-2-オン中75質量%。
CL B:メチルエチルケトキシムでキャップされたIPDI-トリマー、MPA/キシレン/ブタン-2-オン中70質量%。
CL C:3,5-ジメチルピラゾールでキャップされたHDI-トリマー、ブタン-2-オン中84質量%。
PES A:OH価約210mgKOH/g(100質量%)。
PES B:OH価約73mgKOH/g、ブタン-2-オン中73質量%。
# n.m.=測定不能(高すぎる粘度)
【0135】
上記の実施例から、本発明により得られたポリウレタン分散体(実施例1~6)は、ほぼ同じ又はさらに高い固形分含量において、同じ成分だが別の反応順序で製造したそれぞれの比較例(実施例1’~6’)と比べると、はるかに低い粘度を示すことが明らかであった。
【0136】
本発明の方法によるポリウレタン分散体のin-situ調製(実施例1に類似した実施例7)
攪拌器及び凝縮器ユニットを備えた好適な反応器に、372.6gのヘキサメチレンジイソシアネートオリゴマー(例えば、Desmodur N3300)及び180gの2-ブタノンを入れた。45℃で166.4gのメチルエチルケトキシムを加え、そして滴定により決定したNCO含有量が≦0.1%になるまで温度を上昇させて70~75℃で維持した。その後、温度を60℃に設定し、反応器に79.2gのジメチロールプロピオン酸、10.8gのネオペンチルグリコール、180gの2-ブタノン及び370.8gの4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)を入れた。80℃で、NCO含有量の滴定によって反応過程をモニターし、1074gのPES Aを加えた。反応温度は、NCO含有量が≦0.1%になるまで80℃で維持した。ポリマー混合物を73.8gのジメチルアミノエタノールと混合し、さらに30分間撹拌し、そして2100gの脱イオン水中で乳化させた。プロセス溶媒を減圧下で除去し、対応する自己架橋型ポリウレタン分散体を達成した。
【0137】
nvc=40.8%
TN=95~100%
η=556mPa*s(Rheolab、23℃、150s-1)
【0138】
この実施例が明確に示しているのは、本発明によるポリウレタン分散体の製造が、完全にブロックされたポリイソシアネートの製造から開始してたった1つの反応容器で実施することができ、完全にブロックされたポリイソシアネートを、比較例では必要であるように、反応混合物へ加える前に別途貯蔵する必要がないことである。
【0139】
コーティング組成物A(本発明の実施例)及びA’(比較例)の調製
本発明の実施例3及び比較例3’のポリウレタン分散体を含有する本発明の組成物A及び比較の組成物A’である、2つのプライマー組成物をそれぞれ製造した。組成物に用いた成分及び成分量(質量部で表す)を表3に示す。
【0140】
【0141】
電着コーティング材料(BASF Coatings GmbH社から入手可能なCathoguard800)を用いて予め被覆した基材としての亜鉛めっき鋼パネル(Gardobond26S)上に、空気圧(Koehne施与機)によりプライマー組成物A及びA’を被覆した。塗布したプライマー層の層厚は、70℃で5分間フラッシュオフした後、約30μmであった。プライマー層は155℃で17分間硬化させた。その後、硬化したプライマー層を、市販のベースコート(ColorBrite、BASF Coatings GmbH社から入手可能)を用いて乾燥層厚15~20μmで、及びクリアコート(iGloss、BASF Coatings GmbH社から入手可能)を用いて乾燥層厚35~50μmで、後被覆した。ベースコート層は、23℃で10分間及び70℃で7分間乾燥させた。クリアコート層を施与し、140℃で22分間硬化させた。
【0142】
多層コーティングを硬化させた後、コーティングの硬度を、Fischer H100装置(DIN EN ISO14577-4)でマルテンス硬度を記録することによって決定した。コーティングの光沢(60°)は、ベースコート及びクリアコートを施与せずに、BYK Micro-Tri-Gloss装置(DIN EN ISO2813)によってパネル上で決定した。その結果を表4に示す。
【0143】
【0144】
表4に示すように、本発明のコーティング組成物をプライマーとして用いて得られた多層コーティング(硬度については電気被覆、プライマー、ベースコート及びクリアコート、光沢については電気被覆及びプライマー)は、比較例の多層コーティングと比較して、60°における硬度の向上及び光沢の向上を示している。他の特性、例えば耐ストーンチップ性及びスチームジェット試験後の付着性は、両多層コーティングで同じであった。プライマー層をベースコート組成物及びクリアコート組成物で後被覆しても、多層コーティングの性能、特に硬度に関して依然として有意差が観察されるのは、驚くべきことである。