IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフトの特許一覧

特許7433416燃焼エンジンの排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量低減のための触媒
<>
  • 特許-燃焼エンジンの排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量低減のための触媒 図1
  • 特許-燃焼エンジンの排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量低減のための触媒 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】燃焼エンジンの排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量低減のための触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20240209BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240209BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240209BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
B01J35/04 301L
F01N3/08 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022511059
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019073966
(87)【国際公開番号】W WO2021032308
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】19192426.5
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ・コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ザイラー
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503635(JP,A)
【文献】特表2012-507662(JP,A)
【文献】特表2010-519038(JP,A)
【文献】特表2018-515328(JP,A)
【文献】特表2018-534126(JP,A)
【文献】特表2018-526193(JP,A)
【文献】特表2017-514683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 29/76
B01D 53/94
B01J 35/04
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量を低減するための触媒であって、
第1端面「a」と第2端面「b」の間に延びる長さLを有する担体基材と、
前記担体基材上に配置された異なる構成物質ゾーンA及びBを含み、ここで、
物質ゾーンAがパラジウムを含まない白金又はPt:Pdの重量比が≧1である白金とパラジウムを含み、かつ、
物質ゾーンBが0.4~2のCu/Alモル比を有する銅含有ゼオライトを含み、
物質ゾーンAが白金粒子の形態の白金を含み、前記白金粒子が50~200nmの平均直径を有する、触媒。
【請求項2】
物質ゾーンAが白金を含みパラジウムを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
記白金粒子が80120nmの平均直径を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
物質ゾーンAの白金又は白金とパラジウムが1つ以上の担体酸化物上に担持されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記担体酸化物が、酸化アルミニウム、ドープされた酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、ドープされた酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及びそれらの1つ以上の混合酸化物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
記白金粒子が酸化チタン上に担持されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
酸化チタンが酸化ケイ素でドープされていることを特徴とする、請求項6に記載の触媒。
【請求項8】
酸化チタンが、前記ドープされた酸化チタンの重量に基づいて、1~10重量%の酸化ケイ素でドープされていることを特徴とする、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
物質ゾーンBの前記ゼオライトが構造タイプABW、AEI、AFX、BEA、CHA、DDR、ERI、ESV、FAU、FER、KFI、LEV、LTA、MER MFI、MWW、SOD、又はSTTに属することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
物質ゾーンBの前記ゼオライトが構造タイプCHAに属することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項11】
物質ゾーンBの前記ゼオライトが2~100のSAR(シリカ対アルミナ比)値を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項12】
物質ゾーンBの前記銅含有ゼオライトが0.4~0.45のCu/Alモル比を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項13】
物質ゾーンA及びBの両方が前記担体基材の長さLの100%にわたって延びることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項14】
物質ゾーンAが前記担体基材上にコーティングされて下層を形成し、物質ゾーンBが物質ゾーンA上にコーティングされて上層を形成することを特徴とする、請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
物質ゾーンAが前記担体基材の長さLの20~60%にコーティングされ、物質ゾーンBが前記担体基材の長さLの100%にわたってコーティングされることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項16】
順に、アンモニア又はアンモニア前駆体を供給するための第1装置と、第1のSCR触媒と、その端面「a」が前記第1のSCR触媒の方向を向くように配置された請求項1~15のいずれか一項に記載の触媒と、を含む、触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼エンジン、特にディーゼルエンジンのようなリーン運転エンジンの排気ガスからのアンモニア及び窒素酸化物の排出量低減のための触媒に関し、その触媒はいくつかの物質ゾーンを有する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素CO、炭化水素HC、及び窒素酸化物NOに加えて、ディーゼルエンジンの生の排気ガスは、最大15体積%の比較的高い酸素含有量を含有する。煤残留物及びおそらくは有機凝集物から主になり、エンジンのシリンダー内での部分的に不完全な燃料の燃焼から生じる粒子排出物も含有される。
【0003】
触媒活性コーティングの有無にかかわらずディーゼル微粒子捕集フィルタが粒子の排出の除去に好適である一方、一酸化炭素と炭化水素は好適な酸化触媒上での酸化によって無害化される。酸化触媒は文献に広く記載されている。それらは、例えば、酸化アルミニウムなどの大面積の多孔質高融点酸化物上に必須の触媒活性成分として白金及びパラジウムなどの貴金属を担持するフロースルー基材である。
【0004】
窒素酸化物は、酸素の存在下でアンモニアによってSCR触媒上で窒素と水に変換される。SCR触媒は文献に広く記載されている。それらは一般に、特にバナジウム、チタン及びタングステンを含有するいわゆる混合酸化物触媒、又は金属交換された、特に細孔ゼオライトを含むいわゆるゼオライト触媒のいずれかである。SCR触媒活性材料は、フロースルー基材上又はウォールフローフィルタ上に担持されてもよい。
【0005】
還元剤として使用されるアンモニアは、熱分解及び加水分解されてアンモニアを形成するアンモニア前駆体化合物を排気ガスに供給することによって利用することができる。そのような前駆体の例は、カルバミン酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、及び好ましくは尿素である。あるいは、アンモニアは排気ガス中の触媒反応によって形成されてもよい。
【0006】
SCR触媒における窒素酸化物の転化率を改善するためには、必要量よりも約10~20%高い量、すなわち化学量論量を超える量でアンモニアを供給しなければならない。次にこれにより排気ガス中に未反応のアンモニアが生じ、それは、その毒性の影響の観点から望ましくない。アンモニアの排出は排出ガス法においてますます制限されている。
【0007】
アンモニアの排出を避けるために、いわゆるアンモニアスリップ触媒(ASC)が開発されてきた。これらの触媒は通常、可能な限り低い温度でアンモニアを酸化するための酸化触媒を含む。そのような酸化触媒は、例えば、パラジウムなどの少なくとも1つの貴金属、特に白金を含む。しかしながら、貴金属を含む酸化触媒は、窒素にだけではなく、一酸化二窒素(NO)や窒素酸化物(NO)のような有害な種にもアンモニアを酸化する。アンモニアの酸化の窒素への選択性は、酸化触媒をSCR触媒と組み合わせることによって改善することができる。そのような組み合わせは様々な方法で行うことができ、例えば、両方の成分を混合してもよく、及び/又は、それらをそれぞれ担体基材上の別々の層の中に存在させてもよい。層状に配置する場合、通常SCR層が上層であり、下層である酸化層上にコーティングされる。ASC触媒は通常、フロースルー基材又はウォールフローフィルタのようなモノリシック担体基材上にコーティングされる。
【0008】
このタイプのASC触媒は、例えば、EP0410440(A1)、WO02/100520(A1)、EP2117702(A2)及びWO2010/062730(A2)に開示されている。
【0009】
これらのシステムでは、アンモニアの酸化活性とNO及びNOに対する選択性との間にトレードオフが存在する。より高いアンモニアの酸化は、より高いNO及びNOの生成を伴う。アンモニアとNOをこれらの触媒に同時に供給した場合、NO及びNOに対する高い選択性が観察される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、NO及びNOに対する選択性の低いより高いアンモニアの転化率、並びに、NO及びNOに対する選択性の低いより高いSCR活性を実現する解決法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは驚くべきことに、この問題をCu/Al比が特定の値を超える銅含有ゼオライトをSCR触媒として含むASC触媒によって解決できることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、
・第1端面「a」と第2端面「b」の間に延びる長さLを有する担体基材と、
・担体基材上に配置された異なる構成物質ゾーンA及びBを含む触媒に関し、ここで、
物質ゾーンAはパラジウムを含まない白金又はPt:Pdの重量比が≧1である白金とパラジウムを含み、かつ、
物質ゾーンBは0.355以上のCu/Al比を有する銅含有ゼオライトを含む、触媒に関する。
【0013】
物質ゾーンAが白金とパラジウムを含有する場合、Pt:Pdの重量比は好ましくは20:1~1:1であり、特には10:1~4:1である。例として、20:1、12:1、10:1、7:1、6:1、4:1、3:1、2:1、1.5:1、及び1:1である。
【0014】
しかしながら、物質ゾーンAは、好ましくは白金のみを含み、パラジウムを含まない。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、物質ゾーンAは白金粒子の形態の白金を含み、ここで、白金粒子は50~200nm、好ましくは80~120nmの平均粒径を有する。
【0016】
本発明の文脈において、「平均粒径」という用語は、半値全幅(FWHM)のピーク幅にわたっての約39.8°における[111]主反射に基づいて、X線回析像から計算されたものを意味すると理解されるべきである。
【0017】
白金又は白金とパラジウムは、通常、物質ゾーンAの1つ以上の担体酸化物上に担持される。これらの担体酸化物は、有利には高融点であり、すなわち、それらの融点は、本発明に係る触媒の特定の通常の運転中に生じる温度よりも十分に高い。更に、担体酸化物は、有利に大きな表面積を有し、好ましくは50~200m/gのBET表面積を有する(DIN 66132に従って決定される)。
【0018】
適切な担体酸化物は、酸化アルミニウム、ドープされた酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、ドープされた酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及びそれらの酸化物の1つ以上の混合酸化物からなる群から選択される。
【0019】
ドープされた酸化アルミニウムは、例えば、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、及び/又は酸化チタンをドープされた酸化アルミニウムである。ランタン安定化酸化アルミニウムが有利に使用され、ここでランタンは、安定化酸化アルミニウムの重量に対して、それぞれLaとして計算して1~10重量%、好ましくは3~6重量%の量で使用される。ドープされた酸化チタンは、例えば酸化ケイ素ドープされた酸化チタンである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態では、物質ゾーンAは酸化チタン上に担持された白金粒子の形態の白金を含み、ここで、白金粒子は50~200nm、好ましくは80~120nmの平均粒径を有する。
【0021】
本発明の文脈において、「平均粒径」という用語は、Pt結晶子の平均直径であり、それは半値全幅(FWHM)のピーク幅にわたっての約39.8°における[111]主反射に基づいて、X線回折画像から計算される。標準的なケイ素を使用するため、2θで0.06°のFWHMを有する2θで約28.4°のピークを生成する。
【0022】
好ましくは、酸化チタンは二酸化チタンとして存在し、特にアナターゼ型及びルチル型の結晶相を含む。アナターゼ型とルチル型の相は、好ましくは、9:1を超える重量比で存在する。
【0023】
酸化チタンは、特にドープされた酸化チタンの重量に基づいて、好ましくは酸化ケイ素、1~10重量%の酸化ケイ素でドープされる。
【0024】
担体酸化物の白金担持量は、担体酸化物の重量に基づいて、特には0.5~20重量%、好ましくは3~8重量%の範囲である。
【0025】
白金が50~200nm、好ましくは80~120nmの平均直径を有する白金粒子の形態で存在する本発明の実施形態では、担体酸化物はアルミナではない。
【0026】
白金粒子が50~200nm、好ましくは80~120nmの平均直径を有して担体酸化物上に担持された白金粒子の形態の白金は、例えば、水溶性白金化合物の水溶液から担体酸化物上に白金を堆積させ、その後に乾燥させ、700~900℃で熱処理してそれを担体酸化物上に固定することによって得ることができる。
【0027】
担体酸化物上に担持された白金又はPt:Pdの重量比が≧1の白金とパラジウムの他に、物質ゾーンAは、更に、白金及び/又はパラジウムを担持しない1つ以上の金属酸化物を含んでもよい。そのような金属酸化物は、担体酸化物と同じであってもよく、又は異なっていてもよい。例えば、物質ゾーンAは、酸化チタン上に担持された白金と白金を担持していない追加の酸化チタンを含んでもよい。
【0028】
ゼオライトは2次元又は3次元構造であり、その最も小さい構造は、SiO及びAlOの四面体であると考えることができる。これらの四面体は、一緒になってより大きな構造を形成し、ここで、2つは常に共通の酸素原子を介して接続される。したがって様々なサイズの環が形成され、例えば4個、6個、又は更には9個の四面体配位したケイ素又はアルミニウム原子の環を形成することができる。このサイズによってどのゲスト分子がゼオライト構造に浸透することができ、どれが浸透できないかが決まるため、様々なゼオライトのタイプはしばしば最大の環サイズによって定義される。通常、最大環サイズが12員の大細孔ゼオライト、最大環サイズが10員の中細孔ゼオライト、及び最大環サイズが8員の小細孔ゼオライトで区別される。
【0029】
更に、ゼオライトは、国際ゼオライト学会の構造委員会によって構造タイプに分類されて、それは3文字のコードで示されており、例えば、Atlas of Zeolite Framework Types,Elsevier,5th edition,2001に見ることができる。
【0030】
物質ゾーンBのゼオライトは、大細孔、中細孔又は小細孔ゼオライトであってもよい。好適なゼオライトの例としては、構造タイプABW、AEI、AFX、BEA、CHA、DDR、ERI、ESV、FAU、FER、KFI、LEV、LTA、MER MFI、MWW、SOD、又はSTTに属することが挙げられる。
【0031】
好ましくは、物質ゾーンBのゼオライトは小細孔ゼオライトであり、特に構造タイプAEI、AFX、CHA、又はLEVに属する。
【0032】
より好ましくは、物質ゾーンBのゼオライトは構造タイプCHAに属する。
【0033】
物質ゾーンBのゼオライトは、好ましくは2~100、より好ましくは5~50、最も好ましくは10~40のSAR(シリカ対アルミナ比)値を有する。
【0034】
本発明の文脈において、「ゼオライト」という用語はまた、モレキュラーシーブも含み、それらはまた、時には「ゼオライト様」化合物とも呼ばれる。モレキュラーシーブが前述の構造タイプの1つに属する場合、それらが好ましい。例としては、用語SAPOで知られるシリカアルミノホスフェートゼオライト、及び用語AIPOで知られるアルミノホスフェートゼオライトが挙げられる。
【0035】
銅含有ゼオライトのCu/Al比は、好ましくは0.355~2であり、例えば0.355~1.5、0.355~1、又は0.355~0.75である。より好ましくは、それは0.355~0.5であり、最も好ましくは0.4~0.45である。
【0036】
誤解を避けるために、三次元ゼオライト構造の一部であり、ゼオライト構造内に存在する可能性のあるアルミナのみがCu/Al比の計算に使用されることを明確に留意する。例えば、ウォッシュコートの一部として存在するアルミナバインダーのアルミナはCu/Al比の計算には加えない。
【0037】
ゼオライトのSAR(シリカ対アルミナ比)値が既知である場合、銅含有ゼオライトの重量に基づいてCuOとして計算される重量%での銅の量は、当業者は容易に計算することができる。例えば、SARが13のゼオライトの場合、0.355のCu/Al比は、銅含有ゼオライトの重量に基づいてCuOとして計算される6重量%の銅に相当する。同様に、0.5のCu/Al比は、銅含有ゼオライトの重量に基づいてCuOとして計算される、8.26重量%の銅に相当し、0.42のCu/Al比は7重量%の銅に相当する。
【0038】
銅は、好ましくはゼオライト構造中の銅カチオンとして、すなわちイオン交換された形態で存在する。しかしながら、それはまた、全てが又は部分的に、ゼオライト構造中及び/又はゼオライト構造の表面上に酸化銅として存在してもよい。
【0039】
本発明の触媒は担体基材を含む。それは、フロースルー基材又はウォールフローフィルタであってもよい。
【0040】
ウォールフローフィルタは、ウォールフローフィルタの第1端部と第2端部との間に平行に延びる長さLのチャネルを備えた支持体であり、チャネルは、第1端部又は第2端部のいずれかにおいて交互に封鎖され、多孔質壁によって分離される。フロースルー基材は、特に、長さLのチャネルがその2つの端部において開放されているという点で、ウォールフローフィルタとは異なる。
【0041】
未コーティングの状態において、ウォールフローフィルタは、例えば、30~80%、具体的には50~75%の多孔度を有する。未コーティング状態において、ウォールフローフィルタの平均細孔サイズは、例えば、5~30マイクロメートルである。
【0042】
一般に、ウォールフローフィルタの細孔は、いわゆる開細孔であり、すなわち、それらはチャネルに接続している。更に、細孔は、一般的には、互いに相互接続される。これにより、一方では、細孔の内側表面のコーティングが容易になり、他方では、ウォールフローフィルタの多孔質壁を通る排気ガスの通過が容易になる。
【0043】
フロースルー基材は、ウォールフローフィルタがそうであるように、当業者に知られており、市販されている。それらは、例えば、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム、又はコーディエライトからなる。
【0044】
本発明の一実施形態では、不活性材料の波形シートで構成された担体基材が使用される。そのような担体基材は、波形基材として当業者に知られている。好適な不活性材料は、例えば、50~250μmの平均繊維径及び2~30mmの平均繊維長を有する繊維状材料である。好ましくは、繊維状材料は耐熱性であり、二酸化ケイ素、特にガラス繊維からなる。
【0045】
このような担体基材の製造では、例えば、上記繊維材料のシートを既知の方法で波形にして、個々の波形シートを、本体を貫通するチャネルを有する円筒状のモノリシック構造体の形状にする。好ましくは、多数の波形シートを層の間で波形の向きが異なる平行な層に積層することによって、十字型の波形構造を有するモノリシック構造体を形成させる。一実施形態では、非波形、すなわち平坦なリーフ(flat leaves)を波形シートの間に配置することができる。
【0046】
波形シートで構成された基材を本発明の触媒で直接コーティングしてもよい。しかしながら、そのような基材を不活性材料、例えば、チタニアで最初にコーティングして、その後にのみ本発明の触媒でコーティングすることが好ましい。
【0047】
通常、物質ゾーンAとBは、担体基材上にコーティングの形態で存在し、言い換えると、担体基材上にウォッシュコート層又はウォッシュコートゾーンを形成する。
【0048】
一実施形態では、物質ゾーンAとBは両方は担体基材の長さLの100%にわたって延びる。この場合、物質ゾーンAは通常、担体基材上に、例えば、担体基材上に直接コーティングされて下層を形成し、物質ゾーンBは物質ゾーンA上にコーティングされて上層を形成する。
【0049】
別の実施形態では、物質ゾーンAは、担体基材の長さLの一部にのみ、例えば長さLの20~60%である長さLにわたってコーティングされ、物質ゾーンBは長さLの100%にわたってコーティングされる。
【0050】
ウォールフローフィルタの場合、物質ゾーンAとBは、入口チャネルの表面上、出口チャネルの表面上、及び/又は入口チャネルと出口チャネルとの間の多孔質壁中に配置される。
【0051】
物質ゾーンAとBが担体基材上のコーティングの形態で存在する本発明の触媒は、当業者によく知られている方法、例えば、通常のディップコーティング法、又はポンプアンドサックコーティング法とその後の熱後処理(焼成)によって製造することができる。当業者は、ウォールフローフィルタの場合、平均細孔サイズとコーティングされる材料の平均粒径が、それらがウォールフローフィルタのチャネルを形成する多孔質壁上にあるように(オンウォールコーティング)、互いに適合させることができることを知っている。しかしながら、コーティングされる材料の平均粒径は、その材料が、ウォールフローフィルタのチャネルを形成する多孔質壁中に配置されて、細孔の内側表面がコーティングされるように(インウォールコーティング)、選択されてもよい。この場合、コーティングされる材料の平均粒径は、ウォールフローフィルタの細孔内に入り込むために十分に小さくなければならない。
【0052】
本発明の触媒は、特にアンモニアスリップ触媒として好適であり、すなわち、現在の規制基準を満たすように、アンモニアの排出を回避又は少なくとも最小化することができる。
【0053】
それらは好ましくは、SCR触媒を通過した排気ガスが端面「a」で本発明の触媒に入り、端面「b」で再びそれを出るように排気ガス浄化システムに組み込まれる。
【0054】
したがって、本発明は、順に、アンモニア又はアンモニア前駆体を供給するための第1の装置と、第1のSCR触媒と、本発明に係る触媒と、を含む、触媒装置にも関し、ここで本発明に係る触媒は、その端面「a」が第1のSCR触媒の方向を向くように配置されている。
【0055】
アンモニア又はアンモニア前駆体の供給装置は、好ましくは、尿素水溶液を供給する装置である。そのようなデバイスは当業者に公知であり、市場で入手することができる。
【0056】
SCR活性材料でコーティングされたフロースルー基材又はウォールフローフィルタは特に、第1のSCR触媒と考えられる。
【0057】
銅及び/又は鉄を含むゼオライトに加えて、混合酸化物触媒、例えば、VWT触媒は、SCR活性材料と考えられる。VWT触媒は、V、WO、及びTiOに基づく触媒である。
【0058】
第1のSCR触媒は、好ましくはVWT触媒、又は銅、鉄、又は銅と鉄で交換された構造タイプAEI、BEA、CHA、又はLEVのゼオライト又はモレキュラーシーブを含む。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】NH転化率及びNO形成を示す図である。
図2】NOx転化率及びNO濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
実施例1
a)希硝酸を添加して、白金を、テトラエチルアンモニウムヘキサヒドロキソプラチネート(EP 3 210 989(B1))の水溶液から、5重量%のシリカで安定化された酸化チタン粉末上に沈殿させて、酸化チタン粉末に基づいて3重量%の濃度のPtを有する材料を得る。続いて、このようにして調製した粉末を濾別し、乾燥させて、空気雰囲気中、800℃で2時間固定する。
b)次いで、a)に従って得られた粉末を水中でスラリー化し、白金を含有しない酸化チタンを加えて、所望の0.14重量%のPt(総酸化チタン粉末に基づく)担持量に調整する。このようにして得られたウォッシュコートを使用して、400cpsiのセル密度及び110μmの壁厚を有する市販のセラミック製フロースルー基材をその全長にわたって従来の方法でコーティングする。次いで、コーティングした基材を110℃で乾燥させ、600℃で6時間焼成する。触媒のウォッシュコート担持量は25g/Lであり、触媒の白金担持量は0.0353g/Lである。
c)構造タイプCHA(SAR=13)のゼオライトに、銅含有ゼオライトの重量に基づいてCuOとして計算される7重量%の量で銅を担持させる。Cu/Al比は0.42である。このようにして得られたゼオライトをバインダー材料を含有する水中に分散させてウォッシュコートを得る。
d)c)に従って得られたウォッシュコートを、b)に従って得られたコーティングされた基材上にその全長にわたって上層としてコーティングする。ウォッシュコートの担持量は100g/Lである。次いで、コーティングされた基材を110℃で乾燥させ、600℃で6時間焼成する。
【0061】
この得られた触媒をK1と呼ぶ。
【0062】
比較例1
ステップc)に従って得られたゼオライトに5.5重量%の量の銅を担持させること以外は実施例1を繰り返す。Cu/Al比は0.325である。
【0063】
この得られた触媒をVK1と呼ぶ。
【0064】
比較試験
a)触媒K1及びVK1を、10%のHO及び10%のOを含む雰囲気中、750℃で16時間エージングした。
b)供給ガス中にNH、O及びHを含むライトダウン-ライトアップ実験においてライトアップ期を検討し、ここで、温度は5K/分で100℃から600℃まで上昇させる。触媒VK1と比較して、本発明の触媒K1は改善されたNH転化率を示し、20%少ない平均NO形成、30%少ない最大NO濃度及び5%小さいNO選択性を示した。また結果を図1に示し、灰色のグラフは触媒K1に、及び黒色のグラフは触媒VK1に対応する。
c)供給ガス中にNH、NO、O及びHOを含むマッピング試験において、反応器出口におけるNHの濃度が20ppmとなるときに得られるNOx転化率及びNO形成を測定した。
【0065】
結果を図2に示す。見られるように、VK1(黒色のグラフ)と比較して、本発明の触媒K1(灰色のグラフ)は、250℃を超える温度での改善されたNOx転化率を示し、500℃までNO形成が有意に低いことを示している。図2において、連続線は、NOx転化率(左のy軸)に対応し、点線はNO濃度(右のy軸)に対応する。
図1
図2