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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】試料成分の分離装置および分離方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/34 20060101AFI20240209BHJP
   B01L 3/00 20060101ALI20240209BHJP
   B01D 15/10 20060101ALI20240209BHJP
   B01D 17/022 20060101ALI20240209BHJP
   B01D 17/038 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240209BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
G01N1/34
B01L3/00
B01D15/10
B01D17/022
B01D17/038
G01N1/10 F
G01N1/10 H
C12M1/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022546465
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 CZ2021050011
(87)【国際公開番号】W WO2021151405
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】PUV2020-37201
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(31)【優先権主張番号】PV2020-47
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】522302253
【氏名又は名称】ウスタフ ヘマトロジー ア クレヴニ トランスヒューズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ビオラル,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】クライト,マティス
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07276158(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0020446(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0019905(US,A1)
【文献】特開2014-057936(JP,A)
【文献】特表平06-506150(JP,A)
【文献】特開2015-079007(JP,A)
【文献】米国特許第06537502(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
B01L 1/00-99/00
B01D15/00-15/42
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の成分を分離するための装置であって、U字形またはV字形の底部を有する少なくとも1つの第1のチャンバ(11、21b、41、51b、61)を含み、該第1のチャンバには、1~100μmの範囲内の直径を有する少なくとも1つのアパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)が設けられ、少なくとも各該アパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)の表面が親水化または疎水化されており、前記装置は、前記第1のチャンバの前記底部の外側を囲む第2のチャンバ(12、22、42、52、62)をさらに含み、
前記装置の第1および/または第2のチャンバ内には、少なくとも1つの換気開口部(14、24、34a、34b、34c、34d、64)が配設されており、
前記換気開口部(14、24、34a、34b、34c、34d、64)は、前記チャンバの底部から最も遠いエッジ部と、該チャンバの底部と該エッジ部との間の距離の半分との間に配置されており、該チャンバは、前記換気開口部が配設された、前記装置の第1および/または第2のチャンバである、試料の成分を分離するための装置。
【請求項2】
試料の成分を分離するための装置であって、U字形またはV字形の底部を有する少なくとも1つの第1のチャンバ(11、21b、41、51b、61)を含み、該第1のチャンバには、1~40μmの範囲内の直径を有する少なくとも1つのアパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)が設けられ、少なくとも各該アパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)の表面が親水化または疎水化されており、前記装置は、前記第1のチャンバの前記底部の外側を囲む第2のチャンバ(12、22、42、52、62)をさらに含み、
前記装置の第1および/または第2のチャンバ内には、少なくとも1つの換気開口部(14、24、34a、34b、34c、34d、64)が配設されており、
前記換気開口部(14、24、34a、34b、34c、34d、64)は、前記チャンバの底部から最も遠いエッジ部と、該チャンバの底部と該エッジ部との間の距離の半分との間に配置されており、該チャンバは、前記換気開口部が配設された、前記装置の第1および/または第2のチャンバである、試料の成分を分離するための装置。
【請求項3】
前記第1のチャンバは、蓋、膜または箔によって、閉鎖可能である、請求項1又は2に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項4】
前記アパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)の表面とともに前記第1のチャンバ(11、21b、41、51b、61)の前記底部の表面が親水化または疎水化されており、前記底部は前記少なくとも1つのアパーチャが位置する前記第1のチャンバの少なくとも内側表面領域にあるか、あるいは、前記アパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)の表面とともに前記第1のチャンバ(11、21b、41、51b、61)の内側表面が親水化または疎水化されている、請求項1からの何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項5】
前記第1および/または第2のチャンバの材料はプラスチックであり、ポリカーボネート;ポリオレフィン;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;および、フッ化ポリマー;から選択される、請求項1からの何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、およびポリプロピレンから選択され、前記フッ化ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンから選択される、請求項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項7】
前記装置が複数の第1のチャンバ(41、51a、51b)および複数の第2のチャンバ(42、52)を含み、該複数の第1のチャンバ(41、51a、51b)が第1のホルダ内に配置されて第1のチャンバシステムを形成し、第2のホルダ内に該複数の第2のチャンバ(42、52)が配置されて第2のチャンバシステムを形成し、前記第1のチャンバシステムが前記第2のチャンバシステム内に挿入される、請求項1からの何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項8】
前記装置は、複数の第1のチャンバ(21a、21b、51a、51b)を含み、該第1のチャンバ同士を挿入できることによって、N個の第1のチャンバにおいて、(N-1)番目の第1のチャンバまでの各々のチャンバは、前記装置を通る液体の流れの方向に、一つ前の第1のチャンバの底部の外側を囲むように構成されており、N番目の第1のチャンバの底部の外側は、第2のチャンバ(22、52)によって囲まれる、請求項1からの何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項9】
複数の前記第1のチャンバのうちの少なくとも1つは、親水化または疎水化された表面を有するアパーチャ(23b、53b)を少なくとも有する前記第1のチャンバ(21b、51b)であり、他の前記第1のチャンバ(21a、51a)は、1~100μmの直径を有する少なくとも1つのアパーチャを含むV字形またはU字形の底部を有するチャンバであり、前記他の第1のチャンバ(21a、51a)は、表面調整を有さないか、または、前記内側表面の少なくとも一部が、前記装置が試料の少なくとも1つの成分と結合するように分離手段によって修飾されている、請求項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項10】
複数の前記第1のチャンバのうちの少なくとも1つは、親水化または疎水化された表面を有するアパーチャ(23b、53b)を少なくとも有する前記第1のチャンバ(21b、51b)であり、他の前記第1のチャンバ(21a、51a)は、1~40μmの直径を有する少なくとも1つのアパーチャを含むV字形またはU字形の底部を有するチャンバであり、前記他の第1のチャンバ(21a、51a)は、表面調整を有さないか、または、前記内側表面の少なくとも一部が、前記装置が試料の少なくとも1つの成分と結合するように分離手段によって修飾されている、請求項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項11】
前記他の第1のチャンバ(21a、51a)は、少なくとも前記アパーチャ(23a、53a)の表面が、前記装置が試料の少なくとも1つの成分と結合するように分離手段によって修飾されている、請求項9又は10に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項12】
前記分離手段が、抗体、親和性剤、疎水性剤、親水性剤、イオン性剤、キレート剤、磁性成分、インプリントポリマーに基づく成分、およびこれらの組合せから選択される、請求項9から11の何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項13】
前記第1のチャンバを有する前記第1のホルダおよび前記第2のチャンバを有する前記第2のホルダは、ウェルの底部にアパーチャを備えるマルチウェルプレートであり、前記第1のチャンバを表す前記ウェルの底部にはアパーチャがあり、前記第2のチャンバを表す前記ウェルは前記第1のチャンバを表す前記ウェルの底部の外側を取り囲むように配置される、請求項に記載の、試料の成分を分離するための装置。
【請求項14】
請求項1から13の何れか1項に記載の、試料の成分を分離するための装置を用いた液-液システムにおける試料の分離方法であって、以下の工程;
- 少なくとも表面が親水化または疎水化されているアパーチャを含む第1のチャンバ、または親水化または疎水化された表面を少なくともアパーチャ部に有している第1のチャンバを少なくとも1つ有する複数の第1のチャンバの配置構成に、不混和性液体を含むシステムを導入する工程、
- 不混和性液体を含むシステムを導入する工程とともに、または該工程に続いて、あるいは該工程の前に、流体試料を第1のチャンバに導入する工程、および
- アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質のそれぞれと同じ化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を、該アパーチャを通じて次のチャンバに提供するために第1のチャンバ内の前記システムに対して圧力による力を付与し、該アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質とは反対の化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を停留させる工程
を含む分離方法。
【請求項15】
試料の成分を分離するための装置であって、U字形またはV字形の底部を有する少なくとも1つの第1のチャンバ(11、21b、41、51b、61)を含み、該第1のチャンバには、1~100μmの範囲内の直径を有する少なくとも1つのアパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)が設けられ、少なくとも各該アパーチャ(13a、13b、23b、43、53b、63)の表面が親水化または疎水化されており、前記装置は、前記第1のチャンバの前記底部の外側を囲む第2のチャンバ(12、22、42、52、62)をさらに含み、
前記装置の第1および/または第2のチャンバ内には、少なくとも1つの換気開口部(14、24、34a、34b、34c、34d、64)が配設されている、試料の成分を分離するための装置を用いた液-液システムにおける試料の分離方法であって、
以下の工程;
- 少なくとも表面が親水化または疎水化されているアパーチャを含む第1のチャンバ、または親水化または疎水化された表面を少なくともアパーチャ部に有している第1のチャンバを少なくとも1つ有する複数の第1のチャンバの配置構成に、不混和性液体を含むシステムを導入する工程、
- 不混和性液体を含むシステムを導入する工程とともに、または該工程に続いて、あるいは該工程の前に、流体試料を第1のチャンバに導入する工程、
- アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質のそれぞれと同じ化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を、該アパーチャを通じて次のチャンバに提供するために第1のチャンバ内の前記システムに対して圧力による力を付与し、該アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質とは反対の化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を停留させる工程、および
前記流体試料を第1のチャンバに導入する工程後、前記システムに対して圧力による力を付与する前に、乳化とその後の相安定化とを行う工程
を含む分離方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、特に低容量試料に適した試料の成分を分離するための装置および方法を提供する。
【0002】
〔背景技術〕
一般的に、クロマトグラフィー分離および液-液分離は、分析前の予備分離および予備分析処理において使用される手法である。化学ライブラリーのスクリーニング中の微小合成のためであったり、非常に小さな試料の分析のためであったり、または複雑な試料からの分析対象物の抽出のために、可能な限り小さい体積で試料を処理することが望ましい。
【0003】
クロマトグラフィーカラムは、吸着剤で充填され、該吸着剤は、フリット、フィルターまたは膜などの多孔性または選択的透過性バリアによってカラム内に保持される。該バリアは、カラムから吸着剤が溶出液と共に流出することを防止する。同様のバリアは、固相が在る任意の分離方法に利用される。
【0004】
フリット、フィルター、または膜などの多孔質性のバリアは、従前より、大きな収着表面および相当なデッドボリュームを表しており、処理または分析された試料の重要な部分に影響を及ぼし且つ不可逆的な結合または収着を生じる。これは、試料の収率の大幅な減少または分析の偏りの観点から、特に少量の試料に対して大きな問題を提起する。
【0005】
クロマトグラフ液体分離を実施するために、過力、真空(負圧)または遠心力の適用を含む圧力による力を加えることが必要である。遠心力は一般に、スピンマイクロカラムによるクロマトグラフィー分離において加えられる。
【0006】
バリア(フリット/フィルタ/膜)の悪影響は、非常にまれな低量の試料において顕著に現れ、この場合、デッドボリュームは試料の量を上回ることさえあり得、大きな収着表面は吸着によって試料のかなりの部分を結合し得る。サプライヤーは、共通して、直径40μmの収着剤上で分離される10μl以上の量に適した装置を提供する。現在、サブミクロリッターの試料の量に適した装置はない。
【0007】
液相マイクロ抽出(LPME)、分散液-液マイクロ抽出(DLLME)、中空繊維または膜液-液マイクロ抽出、単一滴マイクロ抽出(SDME)、浮遊有機液滴の凝固(SFOD)、超音波-、渦-、マイクロバウエ-および空気-アシストDLLMEのような液-液システムにおける予備分離および分離において、少量の試料の量および並列試料処理もまた、複雑さを呈する。現在の液-液システムにおける不混和性相の分離は、本質的に、多くの低量の試料の並列処理ができない手動および直列の手法である。
【0008】
WO01/07138には、低量の試料の液相を固相から分離するための有孔底容器を含む装置が記載されており、固相はクロマトグラフィー収着剤であってもよい。しかしながら、少量の液-液システムを取り扱うための装置は発明されていない。
【0009】
〔発明の開示〕
本発明は試料の成分を分離するための装置および方法を提供し、特に、不混和性または部分的に混和性を有する液体システム(すなわち、限定的な混和性を有する液体システム)の加圧分離に適しており、場合により他の分離方法と組み合わされている。該装置は1~100マイクロメートル(μm)、好ましくは1~40μmの範囲内の直径を有する少なくとも1つのアパーチャによって穿孔された、V字形またはU字形の底部を有する少なくとも1つの第1のチャンバを含み、各アパーチャの少なくとも表面は、親水化または疎水化される。該装置はさらに、第1の(上限)チャンバの底部の外側(すなわち、外面)を囲む第2の(下部または最下部)チャンバを含む。
【0010】
第1の(上限)チャンバ内の前記アパーチャは、VまたはU字型底部における先または最下点に位置する。この場合、上述の装置は、スイングローター遠心分離での使用、または試料の流れを刺激するための圧力としての過圧または真空(負圧)を適用するのに適している。該装置の他の実施態様では、上側チャンバのアパーチャがV字形またはU字形の底部における先または最下点とは異なる位置に配置される。本装置のこの実施形態では角回転体遠心分離での使用に適しており、アパーチャは、角回転体遠心分離中に圧力の力が最も高い第1の(上限)チャンバの表面上の点に位置する。両方の実施形態を組み合わせて、さらに説明するように、可変の適用性を有するデバイスを提供することができる。
【0011】
前記アパーチャは、第1のチャンバの壁を通る通路を表す。該アパーチャは、毛管アパーチャとして説明することができる。該アパーチャの表面は、第1のチャンバの壁を通る通路の表面である。好ましい実施形態では、第1のチャンバが1~20個、好ましくは1~10個のアパーチャを含む。
【0012】
第1のチャンバの底部におけるアパーチャの物理的寸法は、毛管特性をもたらす。これにより、表面張力または立体拘束は力(1~10,000gの実施例)が加えられたときに、システムからの液体のうちの1つのみの浸透(またはクロマトグラフィー吸着剤溶出の際の溶出液体の浸透)を可能にする。アパーチャは、均一な直径(毛管アパーチャの全長に沿って同じ直径)を有してもよく、または均一な直径(したがって、アパーチャの長さの異なる部における直径変化)を有しなくてもよい。例えば、アパーチャの直径は、第1のチャンバの最下点にVまたはU字型の排出口を有する円錐形であってもよい。不均一なアパーチャ径の場合、アパーチャの直径サイズの開示される範囲は、最小のアパーチャ径に対応する。第1のチャンバの底部はアパーチャの排出口が第2のチャンバに導かれるように、第2のチャンバによって囲まれる。
【0013】
第1のチャンバの底部のアパーチャは、物理的、化学的、または機械的な穿孔によって製造することができ、これには限定されないが、鋭利な物体(例えばニードル)による貫通、熱衝撃(例えば液体窒素での冷却または急速加熱によって誘発される)、エッチング、化学エッチングとの組合せでの放射、集束イオン化ビーム(例えば電子ビームリソグラフィ技術)などの手段が含まれる。アパーチャは、第1のチャンバを成形する材料を鋳造または射出する型枠に心棒を挿入することによって、あるいは、付加製造法(例えば3Dプリンティング)によって、第1のチャンバの製造中に製造されてもよい。
【0014】
第1のチャンバの容量は、好ましくは10mlまで、より好ましくは5mlまで、または2mlまで、さらにより好ましくは0.1~1000μlの範囲であってもよい。
【0015】
第1のチャンバは、例えばリッド、膜、またはフォイルによって閉鎖可能である。
【0016】
少なくとも第1のチャンバ内のアパーチャの表面は、親水化または疎水化されなければならない。好ましい実施形態では第1のチャンバの底部の内面も親水化または疎水化され、底部の内面は、前記少なくとも1つのアパーチャを含むチャンバの内面の少なくとも一領域のことである。別の実施形態では、第1のチャンバの内壁も親水化または疎水化される。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書の親水化または疎水化の方法は、親水化または疎水化される表面の表面処理を意味する。いくつかの実施形態では、親水化または疎水化がそれぞれ、親水性または疎水性を増加させるために、表面またはチャンバを形成する材料への補助材料の組み込みを含む。第1のチャンバ内のアパーチャの表面特性は、液-液分離モードで使用される装置の分離特性に不可欠である。アパーチャの疎水性表面は分離される溶液の親水性画分を第1のチャンバ内に保持するか、またはその逆であるが、アパーチャの親水性表面は分離される溶液の疎水性画分を第1のチャンバ内に保持する。
【0018】
材料の疎水性または親水性をそれぞれ増加させることは、疎水性または親水性(それぞれ)被覆を施すこと;または材料の化学的または物理的な処理(例えばレーザーまたはプラズマ);または疎水性または親水性特性を有する繊維をアパーチャの表面上および/または底部の表面上および/または第1のチャンバの内側表面上に施すことを含み得る。それぞれ、疎水性または親水性のコーティング、ならびにそのようなコーティングを形成するのに適した材料は公知であり、当業者に市販されている。考えられる変形例としては:
- 1,1,1-トリクロロエタンまたはオクタデシルアミン中のポリテトラフルオロエチレングリコール(PTFE)、ジメチルジクロロシランを用いた疎水化;または
-ナノ粒子(例:シリカ、ヒュームドシリカ、カーボンブラック、TiO)およびスチレン-b-(エチレングリコール-コ-ブチレン)-b-スチレンコーティングの形態の、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)コーティング、あるいは、二層コーティングであって、単層コーティングと同様の第1の層と、第2の層としての充填膜、ナノ粒子または化合物(脂肪酸、ポリマー、炭化水素、フルオロカーボン)が追加で調整された該二層コーティングなどの超疎水性を有する材料を用いた疎水化;
- ポリドーパミン、O-(2-アミノエチル)-O’-[2-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル]ヘキサエチレングリコール、ドーパミンおよびポリエチレンイミンを用いた親水化、アミノ基、ヒドロキシ基、又は硫酸基等の親水性基の化学結合、親水性物質による又は親水性基(例えばアルブミン)を有する界面活性剤による表面コーティング;
- Ti-、V-、Cr-、Mo-およびW-酸化物を含むシリカ薄膜、ポリドーパミン/スルホベタインメタクリレート重合コーティング、紫外線照射、TiO-ポリジメチルシロキサンまたはカチオン変性シリカナノ粒子の多層化、あるいは親水性ポリマーとの共重合、紫外線照射(すなわち、紫外線誘起光グラフト)による表面処理、プラズマ放電又は電離放射線(例えば中性子による)に曝されたTiOナノ粒子を用いた親水化;。
【0019】
疎水性および親水性の表面特性の切り替えを必要とする分離方法は、多用途の材料(例えば、TiO、ZnO、TiO/ポリ(メチルメタクリレート)、TiO-SiO/ポリジメチルシロキサン、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、金膜に結合したデンドロンチオール2-(11-メルカプトアンダンアミド)安息香酸、銀膜に結合した(16-メルカプト)ヘキサデカン酸(2-クロロフェニル)ジフェニルメチルエステル)の利用によって行うことができる。そのような材料および化合物の親水性および疎水性特性は、電位、温度、pHまたはUV照射によって変化させることができる。
【0020】
必要に応じて、表面改質は、事前の表面活性化または調整を必要とし得る。表面活性化は、化学修飾(強酸化化合物、加水分解、アミノリシス)、電気化学修飾または物理法(例えば、piezobrush(登録商標)PZ2、plasmabrush(登録商標)PB3)によって行うことができる。表面調整は、化合物、層またはフィルム(例えば、金、銀、ZnO、TiO、ドーパミンなど)を、疎水性または親水性を改質するために、または化合物、層またはフィルムの付加によるさらなる改質に適した表面を提供するために、組み込むことを含み得る。
【0021】
必要に応じて、微細構造または階層構造を表面に設けることができる。表面のミクロまたはナノ粗さは、例えば高出力酸素によって実現することができる。複数レベルの階層構造には、例えば、ナノバンプ構造で覆われた微細構造、スパイク、またはピラー状微細構造が含まれる。微細構造および階層構造は、材料の疎水性および/または親水性特性に決定的に影響を及ぼす。
【0022】
チャンバの材料は、好ましくはプラスチック、特には、ポリカーボネート;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリスチレン(PS);ポリ塩化ビニル(PVC);テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン-PTFE)などのフッ素化ポリマーである。
【0023】
チャンバ材料は、好ましくは0.01~8.5GPa(ヤング弾性率)の範囲の弾性を有する。
【0024】
第1および第2のチャンバは、本発明の装置を形成するために特別に製造されてもよい。あるいは、装置は、第1および第2のチャンバとして機能することができる市販の構成要素から組み立てることができ、親水化または疎水化された少なくとも1つのアパーチャが第1のチャンバを構成要素内に設けていればよい。そのような市販の構成要素としては、例えばエッペンドルフ型チューブがある。
【0025】
第2のチャンバは、第1のチャンバの底部を外側から取り囲む。第1のチャンバは、低容量試料の場合には非常に望ましくない環境からの試料の汚染または分離中の試料間の交差汚染、ならびに試料蒸発を防止するために再密封可能である。
【0026】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの換気開口部が第1および/または第2のチャンバ内の装置に設けられ得る。これらの換気開口部は、分離中の望ましくない真空および/または過圧の形成を防止する。第1のチャンバでは、換気開口部が側壁又はクロージャ内に設けることができる。第2のチャンバにおいて、換気開口部は、チャンバの側壁に設けてもよい。
【0027】
本発明の装置では、第1のチャンバの少なくとも底部が第2のチャンバによって外側が取り囲まれるようにチャンバ同士が接続されている。その結果、第1のチャンバの底部のアパーチャから流出する液体は、第2のチャンバに流入する。また、例えばアパーチャを通って流れる液体の体積を規定することができるような過圧状態を作り出すために、チャンバ同士が気密に接続することもできる。
【0028】
好ましい実施形態では、装置が、複数の第1のチャンバおよび複数の第2のチャンバを含むことができ、複数の分離を並行しておよび/または同時に行うことができる。この配置を、以下では「並列配置」と呼ぶ。第1のチャンバは第1のチャンバシステムを形成するために1つのホルダ内に配置され、第2のチャンバシステムを形成するために、別のホルダ内に第2のチャンバが形成し、第1のチャンバシステムは、第2のチャンバシステム内に挿入される。また、互いの上に配置されたマルチウェルプレートを使用することができ、第1のプレートのウェルの底部にアパーチャが形成されて第1のチャンバが形成され、次いで、第2のプレートのウェルが第1のプレートのウェルを外側から取り囲むようにプレートが互いの上に配置される。
【0029】
例えば、マルチウェルプレートは6、12、24、48、96、384、1536、3456個のウェルを含むことができるが、第1および対応する第2のチャンバの数も任意でよい。市販のマルチウェルプレートのウェルの寸法および配置は標準化されており、従って、現存の自動化されたハンドリングシステム(例えばラボロボット用)およびソフトウェアによる自動ハンドリングに適している。並列分離のためには、第1のチャンバを形成する全てのウェルの底部のアパーチャが実質的に同一であることを確実にすることが有利である。
【0030】
いくつかの実施形態では、装置はまた、複数の第1のチャンバを含み、該第1のチャンバ同士を挿入できることによって、N個の第1のチャンバにおいて、(N-1)番目の第1のチャンバまでの各々のチャンバは、前記装置を通る液体の流れの方向に、一つ前の第1のチャンバの底部の外側を囲むように構成されており、N番目の第1のチャンバの底部の外側は、第2のチャンバによって囲まれる。これは試料が1つの第1のチャンバに適用されることを可能にし、圧力が適用されると、試料は他の全ての第1のチャンバを連続的に通過する。液体の流れの方向における最後の第1のチャンバは第2のチャンバに挿入され、すなわち、少なくともその底部は、第2のチャンバによって囲まれる。これは、試料の段階的な分離、または試料の様々な成分の段階的な収着、および様々な第1のチャンバ内の液-液システムの様々な成分の分離をもたらす。この構成を、以下では「直列配置」と呼ぶ。
【0031】
直列配置における第1のチャンバのうちの少なくとも1つは、上述のような少なくとも1つのアパーチャに親水化または疎水化された表面を含む第1のチャンバである。他の第1のチャンバは、V字形またはU字形の底部を有するチャンバで、0.1~100μm、好ましくは1~40μmの範囲の直径を有する少なくとも1つのアパーチャがその内面の少なくとも一部が表面処理されているか否かに関わらず該V字形の先または該U字形の最下位置にあるチャンバであってもよい。
【0032】
上述した内面の少なくとも一部における処理としては、少なくともアパーチャの表面上の分離手段の存在を含み、これらの分離手段としては例えば抗体;親和性、疎水性、親水性、イオン性の薬剤またはキレート剤;磁性を有する成分;またはインプリントポリマーに基づく成分であってもよく;任意に、前述の手段および特性の組合せが提供されてもよい。分離手段は、装置の使用にあたって試料の少なくとも1つの成分に特異的に結合する。
【0033】
上述の分離手段は、少なくとも1つの毛管アパーチャの上か、第1のチャンバの底部の内面の上か、または第1のチャンバの内面全体の上かに存在してよい。
【0034】
チャンバが分離手段を含まない場合、通常、固相抽出(SPE)に適した吸着剤などの粒子状吸着剤でチャンバを充填することが意図される。
【0035】
上述の粒子状吸着剤は、試料分離に適した任意の吸着剤であってよい。粒子状収着剤の例としては、ゲルろ過、イオン交換、疎水性、アフィニティー、またはメタルキレートアフィニティークロマトグラフィーに用いられるほか、分子インプリントポリマーの技術に使用される収着剤が挙げられ、収着剤のより具体的な例を表1に列挙する。
【0036】
【表1】
【0037】
いくつかの実施形態では、装置が複数の第1のチャンバおよび複数の第2のチャンバを含んでもよく、これらのチャンバは複数の直列配置が並列配置に配列され、各直列配置は複数の第1のチャンバおよび1つの第2のチャンバを含む。したがって、これら実施形態では、第2のチャンバのマトリクスを含み、それぞれの第2のチャンバが、第1のチャンバ同士を挿入してなる列を保持する。
【0038】
そのような実施形態では、複数の試料の並列分離を可能にし、各試料は、同じ分離条件に供され、同時に装置を通過する。各直列配置における第1のチャンバの少なくとも1つは、上述のように親水化または疎水化されたアパーチャを含む。他の第1のチャンバは、装置の直列配置について本明細書で上述したようなものであってもよい。
【0039】
本発明はさらに、本明細書に記載の装置において実施される液-液システムにおける試料の成分の分離法を提供するものであり、以下の工程を含む:
- 少なくとも表面が親水化または疎水化されているアパーチャを含む第1のチャンバ、または親水化または疎水化された表面を少なくともアパーチャ部に有している第1のチャンバを少なくとも1つ有する複数の第1のチャンバの配置構成に、不混和性液体を含むシステムを導入する工程、
- 不混和性液体を含むシステムを導入する工程とともに、または該工程に続いて、あるいは該工程の前に、流体試料(すなわち、液体試料または気体試料)を第1のチャンバに導入する工程、
- 乳化(例えば超音波処理浴による乳化)とその後の相安定化とを行う(とりわけ、不混和性液体を含むシステムから流体試料が分かれて(前後して)導入される場合に行う)任意の工程、および
- アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質のそれぞれと同じ化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を、該アパーチャを通じて次のチャンバに提供するために第1のチャンバ内の前記システムに対して圧力による力を付与し、該アパーチャの表面が有する親水性または疎水性の性質とは反対の化学的親水性または疎水性の性質を有する液体画分を停留させる工程。
【0040】
ここで、圧力には、過圧、真空(負圧)、遠心力、重力が含まれる。圧力による力は、第1のチャンバ内のシステムに対して、アパーチャに向かう方向に作用する。圧力は、例えば、第1のチャンバ内の過圧、次のチャンバ(第1または第2のチャンバ)内の減圧(負圧)、または装置全体に作用する遠心力もしくは重力によって生じる。
【0041】
圧力は、第1のチャンバの底部または壁に向かって作用して試料が第1のチャンバの底部または壁に向かって押され、試料のそれぞれの画分(アパーチャの性質および任意選択的にその周囲の領域と同じ親水性/疎水性を有するもの)は、このアパーチャを通って第2のチャンバに入る。圧力による力は、上からの過圧として、例えばピストンによって、次または第2のチャンバ内の真空(低圧)を使用する真空(負圧)として、または装置を遠心分離するときの重力もしくは遠心力として適用することができ、遠心力は、第1のチャンバの底部のアパーチャに向かって作用する。従来の実験室の遠心分離機または微量遠心分離機は、上述の遠心分離の工程において使用することができる。
【0042】
分析対象物は、液体、固体、または気体のものであり得る。試料は、液体物質、液体物質の混合物、固体物質の液体溶液、固体物質の混合物の液体溶液、液体物質の液体溶液、液体物質の液体溶液、液体物質の混合物の液体溶液、または固体と液体物質の混合物の液体溶液を含有する可能性がある。さらに、分析対象物は、気相から液体試料へ吸収され得るか、または第1のチャンバ内に気体試料が直接導入され得る。任意で、流体の試料(すなわち、液体または気体試料)は、吸着剤から分析対象物を抽出する溶離剤、または前の分離の工程からの気体または液体成分であってもよい。
【0043】
チャンバが直列配置した装置が使用される場合には、試料および不混和性液体のシステムが、最上側の第1のチャンバに導入され、圧力による力がかけられて試料が全ての第1のチャンバを順次通過して第2のチャンバに入り、試料の最後の画分が保持されるようにする。親水性/疎水性修飾のない第1のチャンバ群は、概して、固相吸着剤で充填されるか、または少なくともアパーチャの表面上および/または底部の表面上および/または第1のチャンバの内面に提供される分離手段を有する(分離手段は例えば抗体、アフィニティー、疎水性、親水性、イオン性もしくはキレート剤、磁性を有する成分、もしくはインプリントポリマーに基づく成分、またはそれらの組合せを含む)。試料の個々の画分(または個々の)は、様々な分離手段または固相吸着剤の適用によって第1のチャンバ内で次第に分離される一方、少なくとも1つの第1のチャンバは親水化または疎水化されたアパーチャ面に基づく不混和性液体のシステムの分離を生じさせる。
【0044】
上述の分離はチャンバが並列配置している場合、またはチャンバの複数の直列配置が並列配置している場合、すべての試料について同時に行われる。
【0045】
本発明の装置は、フリット、フィルターまたは膜を必要としないものの、(特に)疎水性および親水性特性に基づいて試料の成分(または画分)を選択的に分離する構成となっている。本発明の装置は、試料を流して、試料が装置を通って生じる液体システムの流れを可能にし、試料の画分は、最後の試料画分が第2のチャンバに流れるまで、第1のチャンバ内に保持される。そのような装置は同様の利用可能な装置と比較して、デッドボリュームの存在などの複雑さを排除し、分離プロセスの中断を防止し、分離の収率を増加させる。市販の装置と比較した装置のさらなる利点には、フリット、フィルター、または膜がないことによる製造の単純化、複数の試料の並列分離を可能にする装置の単純な生産が含まれる(直列配置でも同様)。フリット、フィルターまたは膜が無いことにより、試料画分の不可逆的な結合がさらに回避され、公知の装置において一般的である分離プロセスの妨害が回避される。したがって、本発明の装置は、数十~数千の試料の並列処理を含む、ナノリットルのオーダーの体積を有する試料の処理を可能にする。
【0046】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、1つの第1のチャンバおよび1つの第2のチャンバを有する装置の基本的な実施形態を概略的に示す。
【0047】
図2は、複数の第1のチャンバおよび1つの第2のチャンバを有する装置の直列配置の実施例を概略的に示す。
【0048】
図3に換気開口部の位置の実施例を模式的に示す。
【0049】
図4は、同数の第1および第2のチャンバを有する装置の並列配置の一実施例を概略的に示す。
【0050】
図5は、チャンバの複数の直列配置が並列配置している一例を概略的に示す。
【0051】
図6は、図1に示される装置における3つの不混和性液体の混合物の分離を概略的に示す。
【0052】
〔発明を実施するための形態〕
図1~6に、本発明に係る様々な実施形態の例を示す。
【0053】
図1は、U字形の第1のチャンバ11を有する装置の基本的な実施形態を示す。第1のチャンバの底部は、第2のチャンバ12によって囲まれている。第1のチャンバ11は、U形状の最下位置に、スイングローターを用いた遠心用のアパーチャ13aを有する。および/または、第1のチャンバ11は、アンギュラーローターを用いた遠心用のアパーチャ13bを、遠心分離中に圧力による力が最高となる上側のチャンバの表面内に有する。アパーチャのサイズは、典型的には直径が1~100μmの範囲である。また、少なくともアパーチャの表面は、親水化または疎水化されている。親水化または疎水化とは、元々の材質が有する疎水性または親水性を高めるために、表面修飾することか、もしくは、材料、不織布および/または化合物を混和することを意味する。分離が必要となっている間に、試料画分がチャンバに流れることによって引き起こされる圧力変化の補償が必要とされる場合には、少なくとも1つの換気開口部14が第2のチャンバ12内に存在してもよい。この実施形態では、第1のチャンバ11は密閉されておらず、したがって、第1のチャンバの開放された上端部により圧力が均一化されるため、換気開口部は必要ない。
【0054】
図2は、アパーチャ23aおよび23bが設けられた第1のチャンバ21a、21bを有する、直列配置をとった装置の例を示す。上側の第1のチャンバ21aは下側の第1のチャンバ21bに挿入され、下側の第1のチャンバ21bは第2のチャンバ22に挿入される。第2のチャンバ22には、換気開口部24が設けられている。上側の第1のチャンバ21aは固体吸着剤25である一方で、下側の第1のチャンバ21bは、少なくともアパーチャ23bの表面が親水化または疎水化されている。
【0055】
図3に換気開口部の位置についての例を示す。実施形態Aでは、蓋によって閉じられている第1のチャンバの側壁に換気開口部34aが位置し、別のアパーチャ部34bが第2のチャンバに設けられている。実施形態Bでは、上側のチャンバが蓋で閉じられ、換気開口部34cがその蓋に設けられており、別の換気開口部34dが第2チャンバの側壁に設けられている。
【0056】
図4は、アパーチャ43を有する第1のチャンバ41と、第2のチャンバ42とを有する、並列配置をとった装置の例を図式的に示す。これらチャンバは、例えば、図1のように構成されていてもよい。
【0057】
図5は、チャンバの複数の直列配置が並列配置している例を概略的に示す。アパーチャ部53aを有する上側の第1チャンバ51aが並列に配置され、アパーチャ部53bを有する下側の第1チャンバ51bも対応する数ほど並列に配置され、第2チャンバ52も並列に配置される。上側の第1のチャンバ51には固体吸着剤の粒子(上述した他の分離方法を表す)が設けられ、下側の第1のチャンバ51bは少なくとも、親水化または疎水化されたアパーチャの表面を有する。
【0058】
図6は、図1による装置上の3つの不混和性液体の混合物の分離を概略的に示す。不混和性液体66、67、68は、少なくとも親水化または疎水化されたアパーチャ63の表面を有する第1のチャンバ61内に配置される。したがって、同じ化学的性質の液体のみが、圧力の作用下でアパーチャ63を通過することができる(すなわち、親水性液体が親水化されたアパーチャを通過し、疎水性液体が疎水化されたアパーチャを通過する)。第1のチャンバのアパーチャ63を通過した液体は第2チャンバ62に流入し、そこで捕捉され保持される。換気開口部64は、(必要な場合には)第2チャンバ62内の圧力を周囲環境の圧力と等しくする。換気開口部64がない場合、第2のチャンバ内の圧力は、第1のチャンバ61から流入する液体の体積により増加する。
【0059】
〔実施例〕
実施例1
図1に示す装置において、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C(200μl、Axygen)によって形成された第1のチャンバ11の底部には、20x2μmの外形寸法を有するアパーチャが穿孔されている。次に、このようにして設けられた毛管アパーチャ13aを、シラン処理(1,1,1-トリクロロエタン中のジメチルジクロロシランの100μl溶液による毛管アパーチャの圧力潅流)によって疎水化した。乾燥(24時間、室温)後、第1のチャンバ11の底部をパラフィルム箔で覆い、10μlの、クロロホルム中の脂溶性スーダンB色素(Sigma、0.1mg/ml)を含有する溶液および170μlのPBS(生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、140mM NaCl、10mM HEPES、pH7.4)を添加した。蓋で閉じた第1のチャンバ(図3による)を1分間ボルテックスした。続いて、装置の第1のチャンバ11からパラフィルム箔を除去し、次いで、第1のチャンバを、均圧のための換気アパーチャ34bを備えた第2のチャンバ12に挿入した(図3による)。図1の装置の実施形態を、スイングローターにおいて100×gの遠心力で室温中3分間遠心分離した。検査の結果、クロロホルム中の5μlのスーダンB溶液が第2のチャンバ12に入り、無色の水相が第1のチャンバ11中に定量的に残っていることが明らかになった。Nanodropによる600nmの分光光度測定において、第2のチャンバ中のクロロホルム相が98%のスーダンBを含有していることを確認した。
【0060】
実施例2
図1に記載の装置において、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C(200μl、Axygen)によって形成された第1のチャンバ11の底部には、20x2μmの外形寸法を有するアパーチャが穿孔されている。次いで、このように形成された毛管アパーチャ13aを、シラン処理(1,1,1-トリクロロエタン中のジメチルジクロロシランの100μl溶液による毛管アパーチャの圧力潅流)によって疎水化した。乾燥(24時間、室温)後、水溶液からの1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN、Sigma)との錯体中のコバルトイオンの抽出のために、図1の装置を利用した。30μg/lのCoClを含有する0.25M硝酸ナトリウム水溶液170μlを、0.5μlの0.001Mコバルトキレート剤-PAN水溶液に添加した。数分後、溶液は、コバルト-PAN錯体の形成により緑色に変わった。次いで、エタノール(7μl)およびクロロホルム(5μl)を添加した。その後、試料を1分間ボルテックスし、その後、相分離するまで放置した。遠心分離(10g、3分、RT)後、577nmでのNanodropによる分光光度測定を行い、92%のコバルト/PAN錯体を含有する2μlのクロロホルムが第2のチャンバ12に通過したことを確認した。
【0061】
実施例3
親油性色素ナイルレッド(Sigma、200μg/ml)を補充したフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(25:24:1v/v/v; Merck)1mlに、マウス肝臓断片(10mg)を添加した。次いで、試料を、Pelletpestle(登録商標)ガラスホモジナイザー(glasspestle microhomogenizer Pelletpestle(登録商標)、Kontes)によって0℃で1分間ホモジナイズした。溶解物を、図2に従って構築された装置に移した。円錐形ポリプロピレン1.5mlエッペンドルフチューブ(第1のチャンバ21a)の底部に、それぞれ100μmの直径を有する6つのアパーチャ部23aを穿孔し、第2の第1のチャンバ21bの底部に、実施例2に記載されるように設けた1つの疎水化されたアパーチャ部23bを設けた。第1のチャンバ21aは、第1のチャンバ21bに挿入された。これら2つの第1のチャンバ21aおよび21bは、換気開口部24を有する第2のチャンバ22の上方に配置された。装置を100gおよび0℃で5分間遠心分離した。
【0062】
遠心分離後、第2のチャンバ22が強い赤色のクロロホルム相を含有することが検査によって明らかになった(脂質および非分解RNAはナイルレッドとの干渉のために測定されなかった)。疎水化されたアパーチャ23bを備えた第1のチャンバ21bは、水相を含んでいた(分光光度的に測定されたこの相中のDNAの総量は1μgであった)。第1のチャンバ21aの底部およびアパーチャにおいて、タンパク質沈殿物が分析された(合計95μg、PierceのBCAキットによってドデシル硫酸ナトリウムを含有する緩衝液に沈殿物を溶解した後に測定された)。
【0063】
実施例4
健常ボランティアから血液サンプルをVacutainer 4ml Li-Hepチューブに採取し、20mlのPBSで2回洗浄した(2000g、10分、室温)。次いで、100mMの亜硫酸水素ナトリウムおよび100mMの亜ジチオン酸塩を含有する等量のPBSを、血液細胞カラムに添加した。図2による装置では、200μlのポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C(Axygen)の第1のチャンバ21の底部に、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ23aが穿孔された。次いで、形成された毛管アパーチャを、ドーパミンおよびポリエチレンイミンの層で親水化した(PEI、J.Mater.Chem.A、2 (2014) 10225-10230)。塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich 製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に、両方とも2mg/mlの濃度で溶解した。アパーチャ21aの表面の親水化は、キャピラリーアパーチャの圧力潅流によって調製された溶液1mlを用いて行った。乾燥(24時間、室温)後、第1のチャンバ21aの底部をパラフィルムで覆い、50μlの赤血球懸濁液を第1のチャンバ21aに添加した。次に、試料をCOgenシステム(Sigma-Aldrich 製品No.744077)を用いて室温で60分間ほど一酸化炭素雰囲気に曝した。次いで、細胞を、PBSにTriton X100界面活性剤の20%(w/w)溶液を5μl添加することによって溶解した。420および432nmでのNanodrop分光光度計(Clin.Chem.30/6 (1984) 871-874)における5μlアリコートの血液細胞の測定は、一酸化炭素ガスへの曝露が溶解物中の98%ヘモグロビンのカルボニルヘモグロビン(COHb)への変換を引き起こすことを示した。続いて、3つの挿入されたPCR管(21a、21b、および22)のカスケードを含む装置の形態において、上側の第1のチャンバ21aに赤血球の溶解物を含み(パラフィルム箔を除去した)、下側の第1のチャンバ21b(底部にアパーチャ23bが穿孔されている)に120μlカラムのDEAE吸着剤を含んでいた。Sephadex A-50(Sigma-Aldrich、製品GE17-180-02)を、0.01Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)中で、1000gで3分間、20℃で5回反復遠心分離し、各遠心分離の前に50μlの平衡化溶液を加えて平衡化した。非穿孔の第2のチャンバ22は、収集チャンバとしてのものである。このシステムを1000gで3分間、4℃で遠心分離した。この配置の前提および目的は、血液細胞溶解物中に存在するヘモグロビンが、第1のチャンバ21a(SDS-PAGEによって検証された)中に残っている試料(膜の疎水性部分、膜タンパク質)の汚染疎水性部分から除去され、溶解物のほとんどの非ヘモグロビンタンパク質が、中管21b中に存在するDEAE-Sephadex A-50収着剤に結合したままであったことであった(Analytical Biochemistry 137 (1984) 481-484)。この仮定は、第1のチャンバ21aおよび第2のチャンバ22から採取された溶液のアリコート中に存在するタンパク質の非変性電気泳動分析によって検証され、ヘモグロビンのみが第2のチャンバ22において検出されたことを明らかにした。
【0064】
実施例5
健常ボランティアからの血液サンプルをVacutainer 4ml Li-Hepチューブに採取し、20mlのPBSで2回洗浄した(2000g、10分、室温)。次いで、100mMの亜硫酸水素ナトリウムおよび100mMの亜ジチオン酸塩を含有する等量のPBSを、血液細胞カラムに添加した。
【0065】
図1の装置の実施形態では、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C、200μl、Axygenによって形成された第1のチャンバ11の底部に、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ13aを穿孔した。次に、設けた毛管アパーチャ13aをシラン処理(1,1,1-トリクロロエタン中のジメチルジクロロシランの100μl溶液による毛管アパーチャの圧力潅流)によって疎水化した。乾燥(24時間、室温)後、第1のチャンバの底部をパラフィルム箔で密封し、50μlの赤血球懸濁液を第1のチャンバにピペットで入れた。次いで、25μlの95%エタノールおよび30μlのクロロホルムを加えながら、振盪機(VortexGenie.2ミキサー)上で装置(第1のチャンバ11をパラフィルム箔で覆った状態)を室温で2分間振盪することによって、血液細胞を溶解した。赤血球溶解のこの方法は、溶解物中に存在する最も豊富なタンパク質であるヘモグロビンの選択的変性を引き起こした(Chemosphere 88 (2012) 255-259)。パラフィルム箔を除去し、装置を4℃、100gで遠心分離した後、非ヘモグロビンタンパク質のみが第1のチャンバ11(変性ヘモグロビン沈殿層の上の水性相に存在する)に保持されたことを非変性電気泳動によって検証した。本発明者らは、第2のチャンバ12において、血液細胞膜の抽出された脂質をさらに分析することが可能である約25μlのクロロホルム相を認めた。
【0066】
実施例6
本実施例6は、分散性の液-液マイクロ抽出(水よりも軽い有機溶媒を用いる)を使用するシステムにおける分離を記載する。
【0067】
図1の装置の実施形態では、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-Cによって形成された第1のチャンバ11の底部、200μl、Axygenが20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ13aで穿孔された。次に、設けた毛管アパーチャを、ドーパミンおよびポリエチレンイミン((PEI)、J.Mater.Chem.A、2 (2014) 10225-10230)。塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich 製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に、両方とも2mg/mlの濃度で溶解した。この溶液によるアパーチャ13aの表面の親水化は、容量1mlの毛管アパーチャの圧力潅流によって行った。乾燥(24時間、室温)後、第1のチャンバ11の底部をパラフィルム箔で覆い、MilliQ-純水のフェノール(10μg/ml、製品35952、Sigma-Aldrich)を含有する溶液160μlを第1のチャンバ11にピペットで入れ、次いで、1-オクタノール(製品95446、Sigma-Aldrich)によって表される抽出剤5μlを添加した。第1のチャンバを蓋で閉じ、室温で60秒間振盪した(VortexGenie.2ミキサー)。続いて、パラフィルム箔を装置から取り出し、装置をスイングローター内で室温、3分間、100gで遠心分離した。第1および第2のチャンバの内容物の分析は第2のチャンバが160μlのMilliQ純水を捕捉し、一方、5μlの1-オクタノールが第1のチャンバ内に残っていることを示した。塩化第二鉄との反応後、1-オクタノール相を、Nanodrop分光光度計を用いて540nmで分光光度測定した。鉄イオンとフェノール錯体の吸光度の濃度曲線から、1‐オクタノール相は1.6μgのフェノールを含むことが分かった。
【0068】
実施例7
凝固有機液滴マイクロ抽出(SFODME:a solidified organic drop microextraction)を用いたマイクロ抽出
図1の装置の実施形態では、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C、200μl、Axygenによって形成された第1のチャンバ11の底部に、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ13aを穿孔した。次に、設けた毛管アパーチャを、ドーパミンおよびポリエチレンイミン((PEI)、J.Mater.Chem.A、2 (2014) 10225-10230)。塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich 製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に、両方とも2mg/mlの濃度で溶解した。この溶液によるアパーチャ13aの表面の親水化は、容量1mlの毛管アパーチャの圧力潅流によって実施され、パラフィルム箔で覆われた。次いで、塩化ナトリウム水溶液(10mM、pH7)に溶解したメタバナジン酸アンモニウム溶液(1mM NHVO、製品398128、Sigma-Aldrich)160μlを加え、続いて、ウンデカン-1-オール(製品U1001 Sigma-Aldrich)中の8-ヒドロキシコノリン溶液(7mM、製品252565、Sigma-Aldrich)5μlを加えた。第1のチャンバ11を蓋で閉じ、室温で60秒間振盪した(VortexGenie.2ミキサー)。続いて、パラフィルム箔を装置から取り外して、氷上で冷却し、スイングローター内で4℃、3分間、100gで遠心分離した。検査の結果、160μlの水が第2のチャンバ12に流入し、抽出されたヒドロキシキノリン-バナジウム錯体を有するウンデカン-1-オールの凝固相5μlが第1のチャンバ11内に定量的に残存していることが明らかになった。第1のチャンバ11の内容物を室温に温め、10μlのエタノールに溶解し、Nanodrop分光光度計を用いて383nmで測定した。この試料の吸光度をバナジウム-ヒドロキシキノリン錯体の濃度曲線と比較したところ、水溶液からウンデカン-1-オールに抽出されたバナジウム約8μgが第1のチャンバ11内に存在することが確認された。
【0069】
実施例8
図2の装置を使用して、エキソソームおよび細胞外小胞の試料からの脂質成分を分析した。上側の第1のチャンバ21aは、20×2μmの孔として穿孔され、PBS溶液(pH7.4)中の1mlのセファクリルS200で充填された。下側の第1のチャンバ21bのアパーチャは、シラン処理(1,1,1-トリクロロエタン中に2%ジメチルジクロロシランを含有する溶液100μlを用いた毛管アパーチャの圧力潅流)によって疎水化された。乾燥(24時間、室温)後、チャンバ21bのアパーチャをパラフィルム箔で覆い、チャンバ21bをクロロホルム100μlで満たした。血液血漿の100μlサンプルを第1のチャンバ21aにロードし、システムを1000×g、4℃、5分間遠心分離した。続いて、上側の第1のチャンバ21aを取り外し、下側の第1のチャンバ21bを蓋で閉じた。システムを室温で60秒間振盪し(VortexGenie.2ミキサー)、パラフィルム箔を第1のチャンバから取り出した。相の安定化後、システムを100×g、5分間、4℃で遠心分離した。試料の脂質成分に富むクロロホルム画分を含有する第2のチャンバ22中の上清を、Agilent HPLC 1290シリーズ液体クロマトグラフィー(Agilent)で予備分離しながら、API4000タンデム質量分析計(AB SCIEX)で分析した。遊離コレステロール(75%)が最も高く、次いでスフィンゴミエリン(8%)、次いで遊離コレステロールエステル、セラミドモノヘキソシド、モノシアルガングリオシドおよびグロボテトラオシルセラミドであった。
【0070】
実施例9
遺伝子治療のためには、プラスミドDNAに含まれるベクトルを混入RNAから分離する必要がある。この目的のために、図1に従って装置を構成し、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-C、200μl、Axygenの底部に、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャを穿孔し、ドーパミンおよびポリエチレンイミンの層での親水化によって表面処理した。2mg/mlの濃度のドーパミン塩酸塩(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich 製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に溶解した。この溶液によるアパーチャ面の親水化は、溶液1mlの圧力潅流によって行った。乾燥(24時間、室温)後、アパーチャをパラフィルム箔で覆い、図1の装置の実施形態を構成した。大腸菌発現ベクターの細菌溶解液から、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1 v/v/v; Merck)に基づく標準的な単離法により、プラスミドDNAと残留RNAを含む核酸のプール試料を調製し、エタノール中で核酸を沈殿させた。核酸混合物10μlを、90μlの10mMトリス-HCl緩衝液pH8、およびイソオクタン中に40mMメチルトリオクチルアンモニウムクロリド、250mM塩化リチウムおよび0.5%(v/v)エチルヘキサノールを含有する混合物100μlに添加した。調製した試料を装置の第1のチャンバ11に適用し、穏やかに振盪しながら室温で30分間放置した。相分離を促進するために、システムを室温で2000g、5分間遠心分離した。パラフィルム箔を第1のチャンバ11から取り出し、装置を、スイングローターで、100gで3分間遠心分離した。続いて、第2のチャンバ12内に位置する試料の水相を分析した。Nanodrop、アガロースゲル上での分光光度分析およびRNAseアッセイを用いて、水相がプラスミドDNAのみを含有することが見出された。
【0071】
実施例10
図1の装置の実施形態では、ポリプロピレンPCRマイクロチューブPCR-02-Cによって形成された第1のチャンバ11の底部に、200μl、Axygenが20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ13aが穿孔された。次に、設けた毛管アパーチャを、ドーパミンおよびポリエチレンイミン((PEI)、J.Mater.Chem.A、2 (2014) 10225-10230)。塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich 製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に、両方とも2mg/mlの濃度で溶解した。この溶液によるアパーチャ13aの表面の親水化は、1mlの体積の溶液による毛管アパーチャの圧力潅流によって行った。乾燥(24時間、室温)後、アパーチャをパラフィルム箔で覆い、デバイスを組み立てた。29%(w/w)PEG 1000、9%(w/w)PBSおよび10% β-フィコエリトリン(Merck、P1286)を含有する溶液を、装置の第1のチャンバ11に適用した。室温で10分間撹拌した後、装置を1500gで10分間遠心分離した。次いで、パラフィルム箔を除去し、装置を、スイングローターで100g、3分間遠心分離した。続いて、装置11の第1のチャンバからのPEG相および装置12の第2のチャンバからの水性相を、545nmおよび280nmの波長で分光光度計によって分析した。吸光度比率Abs545 nm /Abs280 nmから、PEG相が77%のβ-フィコエリトリンを含むことが計算された。
【0072】
実施例11
Costar V-底部 ポリプロピレン96ウェルプレート(Costar V-bottom polypropylene 96 well plate)(Corning、NY、USA)の底部の9つのランダムウェル41に、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャを穿孔した。次いで、設けた毛管アパーチャをシラン処理(1,1,1-トリクロロエタン中のジメチルジクロロシランの100μl溶液による毛管アパーチャの圧力潅流)によって疎水化した。乾燥(24時間、室温)後、このようにして設けた第1のチャンバの底部をゴムシートにしっかり押し付け、10μlの、クロロホルム中の脂溶性色素スーダンB(Sigma、0.1mg/ml)および170μlのPBS(生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、140mM NaCl、10mM HEPES、pH7.4)を含有する溶液を加えた。第1のチャンバのウェルプレートを密封し、1分間ボルテックスした。次いで、第1のチャンバを、Costar V-底部 ポリプロピレン96ウェルプレートによって表される第2のチャンバ42に挿入した。組み立てた装置を、スイングローターで、100×g、室温、3分間遠心分離した。検査の結果、クロロホルム中の5μlのスーダンB溶液が第2のチャンバ42に入り、無色の水相が第1のチャンバ41内に定量的に残っていることが明らかになった。Nanodropによる600nmでの分光光度測定において、第2のチャンバ中のクロロホルム相が98%のスーダンBを含有することを確認した。
【0073】
実施例12
S. cerevisiaeによって産生されたグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)の精製を評価するために、図1の装置を使用し、ここで、第1のチャンバ11の底部は、20×2μmの外形寸法を有するアパーチャ13aを有する穿孔されたエッペンドルフチューブによって形成された。次に、設けた毛管アパーチャを、ドーパミンおよびポリエチレンイミン((PEI)、J.Mater.Chem.A、2 (2014) 10225-10230)。塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich H8502)およびPEI(Sigma-Aldrich、製品408719、Mw600Da)を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH=8.5、50mM)を含有する緩衝液に、両方とも2mg/mlの濃度で溶解した。この溶液によるアパーチャ13aの表面の親水化は、溶液5mlによる毛管アパーチャの圧力潅流によって行った。乾燥(24時間、室温)後、アパーチャをパラフィルム箔で覆い、装置を組み立てた。17.5%(w/w)PEG 400、15%(w/w)PBSおよびS. cerevisiae由来の1gの酵母ホモジネートを含有する溶液を、装置の第1のチャンバ11に適用した。8rpmで20分間、10℃で撹拌した後、パラフィルム箔を除去し、装置をスイングローターで10℃、10分間、2500gで遠心分離した。続いて、装置11の第1のチャンバからのPEG相および装置12の第2のチャンバからの水性相を、NADHレートに続く波長340nmでの分光光度計によって分析した。吸光度から、酵素回収率は97.7%に達したと計算された。
【0074】
実施例13
実施例1~12と同じ配置であるが、エマルジョンは、ボルテックスの代わりに、超音波処理された水浴(Branson Ultrasonics CPXシリーズ)に浸漬するか、またはIKA KS 130オービタルシェーカー(800/分)上で振盪することによって動いたままの状態を維持した。
【0075】
実施例14
実施例1、2、3、5および8と同じ配置であるが、アパーチャの疎水化はシラン化の代わりにポリテトラフルオロエチレンディスパージョン(Sigma-Aldrich、No.665800)をアパーチャ面に埋め込むことによって達成された。
【0076】
産業上の利用可能性
本発明に係る装置は、毛管アパーチャの原理を使用して、分離されたシステムの画分を通過させる。該装置は、いくつかの実施形態では多くの試料の並列処理を可能にすることができる。また、この装置は、液-液システムの予備分離および分離での使用に特に適している。この装置は例えば、マイクロリットルから数十ナノリットルといった単位の非常に少量の試料の分離を可能にする。また、チャンバの直列配置を有する装置は、分離方法の組み合わせを用いた複雑な多段階分離を可能にし、これは、抗体、親和性剤、疎水性剤、親水性剤、イオン剤もしくはキレート剤、磁性を有する成分、またはインプリントポリマーに基づく成分、またはそれらの組み合わせを利用したクロマトグラフィーまたは固相抽出(SPE)を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】1つの第1のチャンバおよび1つの第2のチャンバを有する装置の基本的な実施形態を概略的に示す。
図2】複数の第1のチャンバおよび1つの第2のチャンバを有する装置の直列配置の実施例を概略的に示す。
図3】換気口の位置の実施例を模式的に示す。
図4】同数の第1および第2のチャンバを有する装置の並列配置の一実施例を概略的に示す。
図5】チャンバの複数の直列配置が並列配置している一例を概略的に示す。
図6図1に示される装置における3つの不混和性液体の混合物の分離を概略的に示す。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6