(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】高速検査用の傾斜型光干渉断層撮影イメージング
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
G01N21/17 630
(21)【出願番号】P 2022557862
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2020025830
(87)【国際公開番号】W WO2022003867
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】ザイツ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】テイチマン ヘルムート
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/092533(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10351319(DE,A1)
【文献】特表2011-530075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0249663(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0246043(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0141956(US,A1)
【文献】L.VABRE et al.,Thermal-light full-field optical coherence tomography,Optics Letters,2002年04月01日,Vol. 27,No. 7,PP.530-532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
A61B 3/00-A61B 3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の内部及び/又は表面の画像を取得する光干渉断層撮影イメージングシステムであって、
光源と、
前記光源から放出される光を平面波に変換するレンズと、
前記平面波を第1の部分及び第2の部分に分割するビームスプリッタと、
前記平面波の前記第1の部分を前記対象に集束させるとともに、焦点面からの対象光をイメージセンサの平面に結像させる結像レンズであって、前記イメージセンサが、1次元又は2次元に配置された複数の画素を含む、結像レンズと、
コリメーションレンズと参照ミラーユニットとを含む、前記参照ミラーユニットと前記ビームスプリッタとの間のビーム光路を変調する参照光学系であって、前記平面波の前記第2の部分を、参照波として、前記ビームスプリッタを介して前記イメージセンサの前記平面に伝播させる参照光学系と、
を備え、
前記参照波及び前記対象光の干渉光が、前記イメージセンサによって検出され、
前記光干渉断層撮影イメージングシステムの光軸が、前記対象の面法線に対して角度をなして傾斜しており、前記結像レンズ及び前記イメージセンサが、前記光軸に沿って並んで
おり、
前記結像レンズが、搬送方向に沿って移動している前記対象に前記平面波の前記第1の部分を集束させ、
前記光軸が、前記面法線及び前記搬送方向を含む平面内に位置している、光干渉断層撮影イメージングシステム。
【請求項2】
前記ビーム光路の
総変調深さは、前記イメージセンサの各画素において検出される干渉信号の平均振動振幅が前記対象における屈折率の局所不連続性に関する情報に対応するように、前記光源から放出される前記光の中心波長の半分以上であるとともに、前記光源から放出される前記光のコヒーレンス長以下である、請求項1に記載の光干渉断層撮影イメージングシステム。
【請求項3】
前記結像レンズと前記対象との間に配置された補償器を更に備え、
前記補償器は、楔形状に形成されるとともに、前記対象の屈折率に実質的に等しい屈折率を有する、請求項
1又は2に記載の光干渉断層撮影イメージングシステム。
【請求項4】
対象の内部及び/又は表面の画像を取得する画像取得方法であって、
レンズにより、光源から放出される光を平面波に変換するステップと、
ビームスプリッタにより、前記平面波を第1の部分及び第2の部分に分割するステップと、
結像レンズにより、前記平面波の前記第1の部分を前記対象に集束させ、前記結像レンズにより、焦点面からの対象光をイメージセンサの平面に結像させるステップであって、前記イメージセンサが、1次元又は2次元に配置された複数の画素を含み、光軸が、前記対象の面法線に対して角度をなして傾斜しており、前記結像レンズ及び前記イメージセンサが、前記光軸に沿って並んでいる、ステップと、
コリメーションレンズ及び参照ミラーユニットを含む参照光学系により、前記参照ミラーユニットと前記ビームスプリッタとの間のビーム光路を変調し、前記参照光学系により、前記平面波の前記第2の部分を、参照波として、前記ビームスプリッタを介して前記イメージセンサの前記平面に伝播させるステップと、
前記イメージセンサにより、前記参照波及び前記対象光の干渉光を検出するステップと、
を含
み、
前記結像レンズが、搬送方向に沿って移動している前記対象に前記平面波の前記第1の部分を集束させ、
前記光軸が、前記面法線及び前記搬送方向を含む平面内に位置している、画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示の1つの態様は、奥行き(深さ)方向に変化する反射及び散乱特性を有する移動対象の3次元撮像用の、低コヒーレンス光源を用いる白色光干渉計装置を利用する光干渉断層撮影(OCT)システムに関する。
【0002】
[0002]特に、本開示の1つの態様は、完全な生成されたOCT画像の回折限界横方向分解能のための、対象におけるすべての光散乱点が対象における傾斜した焦点面において同時に焦点が合う、大型の可動光学機械要素のない、OCTシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]光干渉断層撮影測定システムは、空間的に変化する散乱及び反射特性を有する対象の内部3次元構造を撮像する目的で、低コヒーレンス光源を用いる干渉計装置を利用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004]最良の3次元OCT画像品質は、時間領域OCT原理(TD-OCT)によるOCT原理を実施することで得られる。これは、参照ミラーのみでなく結像レンズ及びそれとともに焦点面も同時に機械的に移動させて、焦点距離と参照距離とを常に同じにすることによって達成される。これらの状況下では、結果として得られるTD-OCT画像の横方向分解能は、結像レンズの回折限界によって与えられる最終的な横方向空間分解能を常に有する。不都合なことに、これには、多数の光学部品の搬送のための機械的システムが必要であり、そのため、結果として得られるシステムは、結像レンズを含む機械的搬送サブシステムの速度によって制限される走査速度を有する。したがって、既知のTD-OCTシステムは、コンベヤベルト用途における等、連続的に移動する対象の3D(3次元)イメージングには適していない。
【0005】
[0005]フーリエ領域OCT原理(FD-OCT)又は波長掃引型OCT原理(SS-OCT)等、機械的に走査する構成要素を必要としないOCT装置を用いて、OCT画像のより高速な取得が可能である。これらの方法により、単一のスペクトル分解測定において完全な3D散乱パターンを取得することができる。しかしながら、これらのOCT原理における焦点面は固定されており、このため、3次元OCT画像の非常に狭い層のみが、回折限界分解能を示す。
【0006】
[0006]その結果、既知のOCT技法では、以下のような妥協が必要である。すなわち、TD-OCT等の原理が選択され、3次元OCT画像の優れた均質な分解能が、低速で移動する機械的走査要素という代償を払って達成されるか、又は、FD-OCT若しくはSS-OCT等の原理が選択され、大部分の奥行き位置で結像レンズの回折限界を大幅に下回る不均質な横方向光学分解能を有する3次元OCT画像という代償を払って、高速3D画像取得を達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]本開示の1つの態様は、振動マイクロミラー又は光電子変調器等、単一の小型の高周波数位相シフト素子のみを必要とする、横方向に移動する対象のための高速光干渉断層撮影システムにより、上述した妥協を克服する。本開示は、例えばコンベヤベルト用途におけるように、OCTシステムの下で検査対象の横方向の動きを利用する。本開示は、低コヒーレンス光源からなり、その出力は好適なレンズで平面波に変換される。ビームスプリッタを使用して、この平面波は、同時に、検査対象の小さい体積部を照明するために採用されるとともに、好適な集光レンズを利用して、位相シフト機能を有する小型参照ミラーによって反射される。参照ビームの位相シフトは、100Hzを超える、典型的には数MHzの高周波で発生しており、光路の総変調深さは、採用する低コヒーレンス光の中心波長の少なくとも半分、及び光のコヒーレンス長未満に対応する。結像レンズ系により、イメージセンサの平面に対象の平面断面の像が形成される。ビームスプリッタを介して、参照ミラーからの平面波もまたイメージセンサ平面に入射し、そこで、参照ミラーからの平面波が対象から反射された集束光に干渉する。イメージセンサの各画素において、時間変調された光が復調され、検出された振幅が、対象における焦点面の周囲の照明された体積部からの局所OCT信号を表す。OCTシステムの光軸は、対象表面の法線に対して角度をなして傾けられており、したがって傾斜型OCT配置を形成する。対象の横方向の動きにより、対象の3次元体積部を完全に走査することができる。
【0008】
[0008]本開示の1つの態様による光干渉断層撮影イメージングシステムは、対象の内部及び/又は表面の画像を取得するものであって、光源と、光源から放出される光を平面波に変換するレンズと、平面波を第1の部分及び第2の部分に分割するビームスプリッタと、平面波の第1の部分を対象に集束させるとともに、焦点面からの対象光をイメージセンサの平面に結像させる結像レンズであって、イメージセンサが、1次元又は2次元に配置された複数の画素を含む、結像レンズと、コリメーションレンズと参照ミラーユニットとを含み、参照ミラーユニットとビームスプリッタとの間のビーム光路を変調する参照光学系であって、平面波の第2の部分を、参照波として、ビームスプリッタを介してイメージセンサの平面に伝播させる参照光学系とを含み、参照波及び対象光の干渉光は、イメージセンサによって検出され、光干渉断層撮影イメージングシステムの光軸が、対象の面法線に対して角度をなして傾斜しており、結像レンズ及びイメージセンサが、光軸に沿って並んでいる。
【0009】
[0009]ビーム光路の総変調深さは、イメージセンサの各画素において検出される干渉信号の平均振動振幅が、対象における屈折率の局所不連続性に関する情報に対応するように、光源から放出される光の中心波長の半分以上であるとともに、光源から放出される光のコヒーレンス長以下であってもよい。
【0010】
[0010]結像レンズは、搬送方向に沿って移動している対象に平面波の第1の部分を集束させてもよい。光軸は、面法線及び搬送方向を含む平面内に位置していてもよい。
【0011】
[0011]本開示の1つの態様による光干渉断層撮影イメージングシステムは、結像レンズと対象との間に配置された補償器をさらに備えていてもよい。補償器は、楔形状に形成されるとともに、対象の屈折率に実質的に等しい屈折率を有していてもよい。
【0012】
[0012]本開示の1つの態様による画像取得方法は、対象の内部及び/又は表面の画像を取得するものであって、レンズにより、光源から放出される光を平面波に変換するステップと、ビームスプリッタにより、平面波を第1の部分及び第2の部分に分割するステップと、結像レンズにより、平面波の第1の部分を対象に集束させ、結像レンズにより、焦点面からの対象光をイメージセンサの平面に結像させるステップであって、イメージセンサが、1次元又は2次元に配置された複数の画素を含み、光軸が、対象の面法線に対して角度をなして傾斜しており、結像レンズ及びイメージセンサが、光軸に沿って並んでいる、ステップと、コリメーションレンズ及び参照ミラーユニットを含む参照光学系により、参照ミラーユニットとビームスプリッタとの間のビーム光路を変調し、参照光学系により、平面波の第2の部分を、参照波として、ビームスプリッタを介してイメージセンサの平面に伝播させるステップと、イメージセンサにより、参照波及び対象光の干渉光を検出するステップとを含む。
【0013】
[0013]本開示の以下の詳細な説明を考慮すると、本開示はよりよく理解され、上述したもの以外の目的も明らかとなろう。こうした説明は添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示による傾斜型OCTシステムの断面図である。
【
図2】イメージセンサの1つの画素における典型的なTD-OCT信号を示す図であり、TD-OCT信号は、包絡線で変調された振動部分からなり、その重心は、対応する3D対象の位置での対象における反射光学構造の存在を示す。
【
図3】本開示による傾斜型OCTシステムのイメージセンサの1つの画素における典型的な信号を示す図である。平均復調振幅は、局所OCT信号に対応する。
【
図4】横方向に移動する対象の断面と、イメージセンサの画素が投影されている傾斜した焦点面とを示す図である。これらの投影された画素の各々において、位相シフト変調による振動OCT信号を示す。振幅は、屈折率が変化している対象における光学的界面で最大である。
【
図5】傾斜した焦点面を観測する2次元イメージセンサの上面図であり、各画素において、位相シフト変調による振動OCT信号を示す。この例では、対象の内部の屈折率段差の表面は、搬送方向45によって画定される軸を中心に回転する平面である。この傾きは
図4には示されていない。したがって、屈折率段差面から対象の上面までの距離は、
図5の底部のイメージセンサ画素に対応する、
図4の前部のイメージセンサ画素に対して小さく、
図5の頂部のイメージセンサ画素に対応する、
図4の後部のイメージセンサ画素に対して大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0014]本開示の目的は、検査対象の3次元OCT画像を高速で取得することができるOCTイメージングシステムを提供することである。
【0016】
[0015]本開示のさらなる目的は、対象における検査体積部全体を通して均質な回折限界分解能を有する3次元OCT画像を生成する高速OCTイメージングシステムを提供することである。
【0017】
[0016]本開示の別の目的は、検査対象における完全なサンプリング体積部においてOCTデータを取得することができる高速、高分解能OCTイメージングシステムを提供し、それにより、対象が、例えばロールツーロール(roll-to-roll)構成でOCTイメージングシステムの下で移動する長尺状材料からなる、コンベヤベルト状況において、OCTイメージングシステムを採用することができるようにすることである。
【0018】
[0017]上述した目的を考慮して、本開示は、
図1に示す傾斜型OCT装置で達成される。光源1が、低コヒーレンス光を立体角2で放射している。低コヒーレンス光は、1μm~100μmのコヒーレンス長を有していてもよい。光学レンズ3が、この光を平面波に変換し、平面波はビームスプリッタ4に入射する。ビームスプリッタ5は、平面波を反射部分(第1の部分)と透過部分(第2の部分)とに分割する。平面波の透過部分は、レンズ(コリメーションレンズ)5によって参照ミラー(参照ミラーユニット)7上の小さいスポットに集束され、光路長を変調する追加の機能を提供する。参照ミラーは、光を立体角6で反射し、光学レンズ5は平面参照波を再生成しており、この平面参照波は、ビームスプリッタ4により、1次元又は2次元のイメージセンサ15の方向に反射される。レンズ5及び参照ミラー7が参照光学系を構成し、この参照光学系が、平面波の透過部分を平面参照波として、ビームスプリッタ4を介してイメージセンサの平面に伝播させることが分かる。
【0019】
[0018]結像レンズ8が、光源1からの低コヒーレンス光の平面波の反射部分を検査対象10の小さい体積部に集束させている。結像収差は、屈折率が検査対象10のバルク11の平均屈折率に可能な限り近くなければならない、楔形の光学補償器9を採用することにより、低減させることができる。言い換えれば、光学補償器9は、検査対象10のバルク11の平均屈折率の屈折率と実質的に等しい屈折率を有する。
【0020】
[0019]結像レンズ8は、結像光路14を介して焦点面12をイメージセンサ15の平面上に結像させる第2の機能を有する。すなわち、結像レンズ8は、焦点面12からの対象光14をイメージセンサ15の平面上に結像させる。検査対象10のバルク11における焦点面12上のすべての対象点は、同時に焦点が合い、イメージセンサ平面15において同じ光学位相を示す。焦点面12からの平面参照波13及び集束した対象光14は、1次元又は2次元のイメージセンサ15の平面において干渉し、イメージセンサ15の各画素に所望のOCT干渉信号をもたらす。参照波13と対象光14との干渉光は、イメージセンサ15によって検出される。
【0021】
[0020]光学補償器9を用いずに、本開示によるOCTシステムを実施することも可能である。この場合、焦点面12は、傾き角αよりも小さい傾きとなり、結像条件が光軸に対して対称でなくなるため、結像レンズ9の結像品質が損なわれる可能性がある。
【0022】
[0021]光軸16は、OCTシステムの光軸16が面法線及び搬送方向17により形成される平面に位置するように傾斜している。すなわち、光軸16は、面法線に対して角度αだけ傾斜している。結像レンズ8及びイメージセンサ15は、光軸16に沿って並んでいる。角度αは、対象表面10の法線を基準として測定される。その結果、楔形の光学補償器素子9が同じ楔角αを有するのであれば、焦点面12もまた同じ角度αだけ傾けられる。したがって、対象における焦点面12の傾きにより、H=L×tan(α)によって関連する、長さL上のサンプリング高さHがもたらされる。一例として、適度な角度α=200及び長さL=1000μmを考慮する。これにより、高さHは364μmとなる。Hがゼロよりも大きくなるように、傾き角αはゼロよりも大きくなければならない。
【0023】
[0022]光学補償器9が採用される場合では、上記角度は、臨界角αcrit=arc sin(1/n)(nは補償器素子の屈折率である)よりも小さくなければならない。光学補償器の底面における屈折に起因して、補償器素子と空気との界面に臨界角よりも大きい角度で光が入射する場合、補償器素子から光が出ることができない。したがって、補償器素子9が採用される場合、角度αについて0<α<αcritという不等式が成立しなければならない。
【0024】
[0023]イメージセンサ面15の画素におけるOCT干渉信号が、焦点面12の散乱点から生じていることを確実にするためには、焦点面12からビームスプリッタ4の中心までの光路が、参照ミラー7からビームスプリッタ4の中心までの光路に対応することが必要である。1次元又は2次元のイメージセンサ平面15にTD-OCT干渉信号を1周期発生させるためには、参照ミラー7から反射される光の光路差を、光源1からの低コヒーレンス光の中心波長λに対応する量だけ変化させればよい。その結果、光路長を変調している参照ミラー7の表面が、λ/4の振幅Mで振動している場合、イメージセンサの平面15において、局所OCT信号振幅に関する求められる情報を含む、周期的な時間干渉信号が発生する。
【0025】
[0024]参照ミラー7の表面のより大きな振幅Mを提供して、λ/2の倍数の光路差をもたらすことも可能である。その結果、後に説明するように、各画素において数周期のTD-OCT信号が通過することになる。典型的なTD-OCT信号は、光源1によって放出される低コヒーレンス光の光コヒーレンス長OCLに関連する幅を有する包絡線を有するため、最大光路差は、この光コヒーレンス長よりも小さくなければならない。したがって、参照ミラーの偏位振幅Mについては、λ/4≦M<OCL/2という不等式が成立するはずである。
【0026】
[0025]参照ミラー7が光路長を変調すべき周波数は、検査対象11の横方向の動き17の速度によって決まる。焦点面12の1つの位置からのOCT信号の取得の間、この焦点面は、イメージセンサ平面15の画素間隔の半分に対応する距離を超えて移動すべきではない。非常に低速で移動する対象11の場合、約100Hzの変調周波数が適切であり得る。高速で移動する対象11(例えば1m/sの横速度)の場合、1MHzを超える変調周波数が必要であり得る。このため、光路長変調参照ミラー7は、こうした高周波が可能であるように、小さくてもよい。
【0027】
[0026]光路差を変調することができる光学デバイスは、鏡面反射面を備えた水晶振動子である。電子機器のための安定した時間基準として使用される水晶振動子は、数十MHzの周波数で動作することができる。イメージセンサ15の画素においてTD-OCT信号の全期間を通過させるのに必要な最小ミラー振幅Mはλ/4のみであるため、こうした高い発振周波数を実際に維持することができる。一例として、光源1からの低コヒーレンス光に対してλ=800nmの中心波長を採用した場合、振動する参照ミラー7の振動振幅Mは200nm程度に小さくすることができる。
【0028】
[0027]光路差を変調することができる第2の光学デバイスは、小型の固定ミラーの前方にある電気光学変調器である。すなわち、参照ミラーユニットは、固定ミラーと、固定ミラーの前方にある電気光学変調器とを含むことができる。数GHzの変調周波数を提供する位相変調型電気光学変調器が市販されている。
【0029】
[0028]空気抗力のために、小型の参照ミラー7の高周波機械振動が必要な振幅Mで可能でない場合、小型の参照ミラー7をコリメーションレンズ5に面する窓を備えた真空容器内に配置することができる。
【0030】
[0029]
図2及び
図3に、本開示による傾斜型OCT装置でOCT信号を取得する戦略を示す。zが位相シフトミラー7の総光路長を示す場合、イメージセンサ15の画素で観測されるTD-OCT干渉信号の振幅A(z)は、
図2に示すような形状を有する。すなわち、λが光源1からの低コヒーレンス光の中心周波数である場合、振幅A(z)は、光路差で測定されたλの周期での振動20からなる。この振動は、オフセット22を中心として包絡線21で変調されている。包絡線21の幅は、光源1からの低コヒーレンス光のコヒーレンス長に関連する。従来のTD-OCTシステムでは、zの範囲は、観測対象における対象の完全な奥行きを包含する。本開示による傾斜型OCTシステムでは、横方向移動17は、対象のバルク11における完全なOCT信号をサンプリングするために、焦点面12の非ゼロ角度と組み合わせて採用される。したがって、焦点面12の1つの位置に対して、局所振幅A(z0)を調べることで十分である。これは、少なくともλ/2の総光路長差2M、すなわちOCT発振信号20の完全な周期で小型の参照ミラー7を振動させることによって達成される。これは、位置z0において幅Δzの狭い窓23でOCT信号20をサンプリングすることに対応する。参照ミラー7が振動している場合、TD-OCT信号は繰り返し通過し、
図3に示すOCT振幅信号A(t)が得られ、ここでは、参照ミラー7の総偏位2Mが数λであり、参照ミラー7の振動が鋸歯形状であると想定する。
【0031】
[0030]イメージセンサ15の各画素では、
図3に示すような時間的OCT信号30が観測される。各画素において、OCT信号30は、オフセット値31及び平均信号振幅32が得られるように処理されなければならない。
【0032】
[0031]このパラメータ抽出を達成する第1の方法は、同期信号検出及び復調技法からなり、OCT信号30が変調される時間周波数の正確な知識を必要とし、この周波数は位相シフト参照ミラー7の変調周波数によって決定される。OCT信号の各期間において、信号サンプルの数n≧3が取得され、同じOCT信号の全期間にわたって平均化される。これらのサンプル値から、既知の計算方法に従って、位相、オフセット及び変調振幅の3つのパラメータを決定することができる。
【0033】
[0032]第2の方法は、オフセット値31の検出と、OCT信号30からオフセット値31を減算することと、結果として得られた純粋なAC信号を整流することと、平均振幅32を決定することからなる。オフセット値31の減算は、各画素の光センサ信号のAC結合により、したがって、各画素のOCT信号に対するすべてのDC寄与(すなわち、オフセット値)を除去することによっても、達成することができる。
【0034】
[0033]別の方法は、観測時間内にOCT信号の最大値及び最小値を求めるために既知の電子回路を使用することからなる。最大値と最小値との差は、求められるOCT変調振幅の測定基準となる。
【0035】
[0034]OCT信号は、1次元又は2次元のイメージセンサ15の各画素において個別に処理することができるため、本開示による方法は、固定パターンノイズ、画素応答における空間的に変化するオフセット値、又は画素応答における空間的に変化する感度によって悪影響を受ける、異なる画素からの信号の組合せを必要としない。
【0036】
[0035]検査対象11の横方向の動き17によって、対象のバルク内のすべての位置(x,y,z)でOCT信号振幅A(x,y,z)を収集することが可能になる。イメージセンサ15が焦点面12の距離Dを画像化していると想定すると、角度αが既知であることにより、サンプリング体積部の高さH=D×sin(α)の計算が可能になる。サンプリング体積部の横方向寸法は、焦点面12に投影されるイメージセンサ15の平面によって与えられる。対象11の横方向の動き17により、サンプリング高さH内のすべての高さ位置からのOCT信号の連続的なサンプリングが可能になる。
【0037】
[0036]
図4において、個々の画素からのOCT復調信号の抽出と、それら信号の対象のバルク内の屈折率の変化との関係について説明する。例示のために、対象は、2つの均質な部分的に透明な部分、すなわち、屈折率n
1を有する上方部分40と屈折率n
2を有する第2の部分42とのみから構成されていると想定し、上方部分40は第2の部分42から屈折率段差面41によって隔てられている。焦点面43は、イメージセンサ平面から焦点面43に投影された画素で表される。焦点面43の各位置において、イメージセンサ平面の対応する画素によって観測されるOCT信号は、振動信号で表される。
図4に示すように、OCT信号の振幅は、屈折率の異なる材料部分の界面で最大となる。屈折率段差面41からの距離が増大するほど振動振幅は小さくなる。屈折率段差面41からの距離が、採用される低コヒーレンス光源のコヒーレンス長より大きくなると、OCT信号の振動は画素信号のノイズの中で消滅する。
【0038】
[0037]したがって、焦点面43の各横方向位置に対して、復調された画素信号の振幅に基づいて、焦点面43における屈折率段差Δn(x,y,z)の局所分布を決定することができる。対象は搬送方向45において横方向に移動するため、
図1に示す焦点面の高さHと、イメージセンサの幅と結像レンズ8の倍率とによって決まる焦点面の幅Wとによって決まる、対象における測定体積部からのOCT信号の局所サンプリングのために、静止焦点面43が採用される。
【0039】
[0038]場合によっては、対象表面44が平面であると仮定することができないため、焦点面43が対象表面44と交差しているようにイメージングジオメトリが選択されてもよい。その結果、対象表面44における屈折率不連続性は、センサ平面において常に可視であり、対象のバルクにおける屈折率の分布は、対象表面44に関連付けることができる。
【0040】
[0039]画像取得プロセスを明確にするために、
図5はイメージセンサ面におけるOCT信号の分布例を示す。
図4に示すように焦点面が傾斜していると想定すると、イメージセンサの上方のラインは下方のラインよりも対象表面から遠い屈折率の不連続性を示すと推定することができる。明らかに、これらの不連続性段差間の距離が採用された低コヒーレンス光のコヒーレンス長より大きければ、イメージセンサの各ラインにおいて2つ以上の屈折率不連続性を検出することができる。対象の横方向搬送51により、
図4に示すように、イメージセンサは対象のさまざまな奥行きからのOCT信号を連続的に検査することができる。
【0041】
[0040]本開示の特徴は、以下のように記載され得る。
【0042】
特徴1
コンベヤベルト用途におけるように横方向に移動する対象を連続的に検査するために、いかなる大型の可動光学機械部品も備えていない、光干渉断層撮影イメージングシステムであって、
平面波を発生させるためのレンズを備える低コヒーレンス光源と、ビームスプリッタと、焦点面からの光をイメージセンサの平面に結像させる結像レンズと、参照ビーム経路であって、コリメーションレンズとビーム光路を変調する能力を有する参照ミラーとからなる参照ビーム経路とを備え、
光路の総変調深さが、採用される低コヒーレンス光の中心波長の少なくとも半分と、最大でこの光のコヒーレンス長とに対応し、イメージセンサの各画素におけるOCT光信号の平均振動振幅が、対象の検査体積部における屈折率の局所不連続性に関する情報に対応することと、
OCTシステムの光軸は、面法線及び搬送方向の平面内に位置するように、面法線に対して角度をなして傾斜していることとを特徴とする光干渉断層撮影イメージングシステム。対象の横方向の搬送により、焦点面は対象全体を通して横方向に移動し、したがって、対象の屈折率の局所的な不連続性を完全に画像化することができる。
【0043】
特徴2
いかなる大型の可動光学機械部品も備えていない光干渉断層撮影イメージングシステムは、好適なレンズを用いて平面波に変換される低コヒーレンス光源からなる。ビームスプリッタを使用して、この平面波は、検査対象の小さい体積部を照射するように使用されると同時に、また、好適な集光レンズを利用して位相シフト変調機能を有する小型の参照ミラーで反射される。参照ビームの位相シフトは100Hzを超える高周波で発生しており、光路の総変調深さは採用される光の中心波長の少なくとも半分、及び光のコヒーレンス長未満に対応する。結像レンズ系が、イメージセンサの平面内に対象の平面断面の像を形成する。ビームスプリッタを介して、参照ミラーからの平面波もイメージセンサ面に入射し、そこで、参照ミラーからの平面波は、物体から反射される集束された光に干渉する。イメージセンサの各画素では、時間変調された光が復調され、検出された振幅は、対象における焦点面周辺の照明された体積部からの局所的なOCT信号を表す。OCTシステムの光軸は、対象搬送の方向において対象表面の法線に対して角度をなして傾けられており、傾斜型OCT配置を形成する。例えば、コンベヤベルト用途における対象の横方向の動きは、対象の3次元体積部の完全な走査を可能にする。