(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】車両のクラッチ制御方法及び車両のクラッチ制御装置
(51)【国際特許分類】
F16D 48/06 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
F16D28/00 A
F16D48/06 102
(21)【出願番号】P 2022563246
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 IB2020000959
(87)【国際公開番号】W WO2022106862
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古閑 雅人
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 隆行
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149968(JP,A)
【文献】特開2006-300285(JP,A)
【文献】特開平11-280895(JP,A)
【文献】特開平10-246316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチの締結を検出する締結センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、
前記締結センサの正常時に前記噛み合いクラッチの差回転の大きさが所定値以下の場合に前記噛み合いクラッチの締結を実行
し、前記締結センサで前記噛み合いクラッチの締結を判定することと、
前記締結センサの故障時に
前記噛み合いクラッチの差回転を前記所定値
よりも大きい
値に設定した上で
、締結開始時点での前記噛み合いクラッチの差回転と、前記
噛み合いクラッチの差回転
との差分に基づき前記噛み合いクラッチの締結を判定することと、
を含む車両のクラッチ制御方法。
【請求項2】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチにばねを介さずにクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、前記噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、
前記噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させて前記シフト機構による前記噛み合いクラッチの解放を実行することと、
前記解放センサの故障時に前記噛み合いクラッチの差回転に基づき前記噛み合いクラッチの解放を判定することと、
前記噛み合いクラッチの解放を行う際に低下させる前記伝達トルクを前記解放センサの故障時には前記解放センサの正常時より絶対値で大きな値に低下させることと、
を含む車両のクラッチ制御方法。
【請求項3】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチにばねを介してクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、前記噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、
前記噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させて前記シフト機構による前記噛み合いクラッチの解放を実行することと、
前記解放センサの故障時に前記噛み合いクラッチの差回転に基づき前記噛み合いクラッチの解放を判定することと、
前記解放センサの故障時に所定時間が経過しても、前記
噛み合いクラッチの差回転が絶対値で所定値より大きく変化しない場合に、前記伝達トルクを絶対値で増加させることと、
を含む車両のクラッチ制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の車両のクラッチ制御方法であって、
前記所定値を
締結後の前記
噛み合いクラッチの差回転の変動幅より大きい値に
設定する、
車両のクラッチ制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両のクラッチ制御方法であって、
前記車両の加速中は前記噛み合いクラッチを介した動力伝達経路において前記噛み合いクラッチの上流側締結要素の回転速度が下流側締結要素の回転速度より高い場合に前記噛み合いクラッチの締結を実行し、
前記車両の減速中は前記噛み合いクラッチを介した動力伝達経路において前記上流側締結要素の回転速度が前記下流側締結要素の回転速度より低い場合に前記噛み合いクラッチの締結を実行する、
車両のクラッチ制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載の車両のクラッチ制御方法であって、
前記解放センサの故障時に所定時間が経過しても、前記
噛み合いクラッチの差回転が絶対値で所定値より大きく変化しない場合に、前記伝達トルクを絶対値で増加させる、
車両のクラッチ制御方法。
【請求項7】
請求項2に記載の車両のクラッチ制御方法であって、
前記噛み合いクラッチを介した動力伝達経路において前記噛み合いクラッチより上流側には発電機が設けられており、
前記噛み合いクラッチの解放開始時より解放後のほうが前記発電機の回転速度が高い場合は正側に、前記噛み合いクラッチの解放開始時より解放後のほうが前記発電機の回転速度が低い場合は負側に、前記伝達トルクを低下させる、
車両のクラッチ制御方法。
【請求項8】
請求項2に記載の車両のクラッチ制御方法であって、
前記車両の加速中は正側に、前記車両の減速中は負側に前記伝達トルクを低下させる、
車両のクラッチ制御方法。
【請求項9】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチの締結を検出する締結センサと、コントローラとを有する車両のクラッチ制御装置であって、
前記コントローラは、
前記締結センサの正常時に前記噛み合いクラッチの差回転の大きさが所定値以下の場合に前記噛み合いクラッチの締結を実行し、
前記締結センサで前記噛み合いクラッチの締結を判定し、
前記締結センサの故障時に
前記噛み合いクラッチの差回転を前記所定値
よりも大きい
値に設定した上で
、締結開始時点での前記噛み合いクラッチの差回転と、前記
噛み合いクラッチの差回転
との差分に基づき前記噛み合いクラッチの締結を判定する、
車両のクラッチ制御装置。
【請求項10】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチにばねを介さずにクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、前記噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサと、コントローラとを有する車両のクラッチ制御装置であって、
前記コントローラは、
前記噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させて前記シフト機構による前記噛み合いクラッチの解放を実行し、
前記解放センサの故障時に前記噛み合いクラッチの差回転に基づき前記噛み合いクラッチの解放を判定し、
前記噛み合いクラッチの解放を行う際に低下させる前記伝達トルクを前記解放センサの故障時には前記解放センサの正常時より絶対値で大きな値に低下させる、
車両のクラッチ制御装置。
【請求項11】
噛み合いクラッチと、前記噛み合いクラッチにばねを介してクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、前記噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサと、コントローラとを有する車両のクラッチ制御装置であって、
前記コントローラは、
前記噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させて前記シフト機構による前記噛み合いクラッチの解放を実行し、
前記解放センサの故障時に前記噛み合いクラッチの差回転に基づき前記噛み合いクラッチの解放を判定し、
前記解放センサの故障時に所定時間が経過しても、前記
噛み合いクラッチの差回転が絶対値で所定値より大きく変化しない場合に、前記伝達トルクを絶対値で増加させる、
車両のクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のクラッチ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2015-028359Aには、ストロークセンサを用いて噛み合いクラッチのスリーブ位置を検出する技術が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
センサにより噛み合いクラッチのスリーブ位置を認識する場合、センサが故障するとスリーブの位置を把握できなくなる。結果、噛み合いクラッチの締結、解放を判定できなくなり、噛み合いクラッチの締結制御、解放制御を完了できなくなる虞がある。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、センサ故障時であっても、噛み合いクラッチの締結又は解放を判定可能にすることを目的とする。
【0005】
本発明のある態様の車両のクラッチ制御方法は、噛み合いクラッチと、噛み合いクラッチの締結を検出する締結センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、締結センサの正常時に噛み合いクラッチの差回転の大きさが所定値以下の場合に噛み合いクラッチの締結を実行し、締結センサで噛み合いクラッチの締結を判定することと、締結センサの故障時に噛み合いクラッチの差回転を所定値よりも大きい値に設定した上で、締結開始時点での前記噛み合いクラッチの差回転と、前記噛み合いクラッチの差回転との差分に基づき噛み合いクラッチの締結を判定することとを含む。
【0006】
本発明の別の態様の車両のクラッチ制御方法は、噛み合いクラッチと、噛み合いクラッチにばねを介さずにクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させてシフト機構による噛み合いクラッチの解放を実行することと、解放センサの故障時に噛み合いクラッチの差回転に基づき噛み合いクラッチの解放を判定することと、噛み合いクラッチの解放を行う際に低下させる伝達トルクを解放センサの故障時には解放センサの正常時より絶対値で大きな値に低下させることとを含む。
【0007】
本発明のさらに別の態様の車両のクラッチ制御方法は、噛み合いクラッチと、噛み合いクラッチにばねを介してクラッチ作動力を伝えるシフト機構と、噛み合いクラッチの解放を検出する解放センサとを有する車両のクラッチ制御方法であって、噛み合いクラッチの伝達トルクを低下させてシフト機構による噛み合いクラッチの解放を実行することと、解放センサの故障時に噛み合いクラッチの差回転に基づき噛み合いクラッチの解放を判定することと、解放センサの故障時に所定時間が経過しても、差回転が絶対値で所定値より大きく変化しない場合に、伝達トルクを絶対値で増加させることとを含む。
【0008】
本発明のさらに別の態様によれば、上述の車両のクラッチ制御方法それぞれに対応する車両のクラッチ制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、シリーズハイブリッドモードにおける動力伝達状態を示す図である。
【
図3】
図3は、内燃機関直結モードにおける動力伝達状態を示す図である。
【
図7】
図7は、締結制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図8A】
図8Aは、クラッチ差回転の狙い値の説明図の第1図である。
【
図8B】
図8Bは、クラッチ差回転の狙い値の説明図の第2図である。
【
図9】
図9は、
図7に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態の第1シフト機構を示す図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態の第2シフト機構を示す図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図16】
図16は、変形例の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図17】
図17は、第4実施形態の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図19】
図19は、第1変形例の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、車両1の概略構成図である。車両1は、内燃機関3と、発電用モータ4と、バッテリ5と、走行用モータ2と、コントローラ7と、を備える。
【0012】
内燃機関3は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【0013】
発電用モータ4は、内燃機関3の動力によって駆動されることで発電する。また、発電用モータ4は、後述するバッテリ5の電力により力行することで内燃機関3をモータリングする機能も有する。
【0014】
バッテリ5には、発電用モータ4で発電された電力と、後述する走行用モータ2で回生された電力と、が充電される。
【0015】
走行用モータ2は、バッテリ5の電力により駆動されて、駆動輪6を駆動する。また、走行用モータ2は、減速時等に駆動輪6の回転に伴って連れ回されることにより減速エネルギを電力として回生する、いわゆる回生機能も有する。
【0016】
コントローラ7は、走行用モータ2、内燃機関3及び発電用モータ4の制御を行なう。
【0017】
なお、コントローラ7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ7を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0018】
また、車両1は、走行用モータ2と駆動輪6との間で動力を伝達する動力伝達経路24と、内燃機関3と駆動輪6との間で動力を伝達する動力伝達経路25と、内燃機関3と発電用モータ4との間で動力を伝達する動力伝達経路26と、を有する。
【0019】
動力伝達経路24は、走行用モータ2の回転軸2Aに設けられた第1減速ギヤ8と、第1減速ギヤ8と噛み合う第2減速ギヤ9と、デファレンシャルケース11に設けられたデファレンシャルギヤ12と、第2減速ギヤ9と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ12と噛み合う第3減速ギヤ10と、で構成される。また、動力伝達経路24には、第1減速ギヤ8が回転軸2Aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とを切り替える第1クラッチ機構19が設けられている。第1クラッチ機構19は、回転軸2Aに軸方向に摺動可能に支持された第1スリーブ20と、第1減速ギヤ8に設けられた係合部8Aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。すなわち、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8の方向に移動し、第1スリーブ20に係合部8Aの方向に突出するよう設けられた複数の凸部と、係合部8Aに第1スリーブ20の方向に突出するよう設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置される噛み合うことで締結状態となる。この状態から、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで解放状態となる。なお、第1スリーブ20の移動は、電動アクチュエータにより行なわれる。
【0020】
第1クラッチ機構19が締結状態であれば、走行用モータ2の動力は駆動輪6に伝達される。一方、第1クラッチ機構19が解放状態であれば、走行用モータ2の回転軸2Aの回転は第1減速ギヤ8に伝達されないので、走行用モータ2から駆動輪6への動力伝達は遮断される。
【0021】
動力伝達経路25は、内燃機関3の出力軸3Aに設けられた第4減速ギヤ16と、第4減速ギヤ16と噛み合う第5減速ギヤ17と、デファレンシャルケース11に設けられたデファレンシャルギヤ12と、第5減速ギヤ17と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ12と噛み合う第6減速ギヤ18と、で構成される。また、動力伝達経路25には、第4減速ギヤ16が出力軸3Aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とを切り替える第2クラッチ機構21が設けられている。第2クラッチ機構21は、出力軸3Aに軸方向に摺動可能に支持された第2スリーブ22と、第4減速ギヤ16に設けられた係合部16Aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。すなわち、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16の方向に移動し、第2スリーブ22に係合部16Aの方向に突出するよう設けられた複数の凸部と、係合部16Aに第2スリーブ22の方向に突出するよう設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置される噛み合うことで締結状態となる。この状態から、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで解放状態となる。なお、第2スリーブ22の移動は、電動アクチュエータにより行なわれる。
【0022】
第2クラッチ機構21が締結状態であれば、内燃機関3の動力は駆動輪6に伝達される。以下の説明において、この状態を内燃機関直結状態ともいう。一方、第2クラッチ機構21が解放状態であれば、内燃機関3の出力軸3Aの回転は第4減速ギヤ16に伝達されないので、内燃機関3から駆動輪6への動力伝達は遮断される。
【0023】
動力伝達経路26は、内燃機関3の出力軸3Aに設けられた第7減速ギヤ13と、第7減速ギヤ13と噛み合う第8減速ギヤ14と、発電用モータ4の回転軸4Aに設けられた第9減速ギヤ15と、で構成される。動力伝達経路26は、動力伝達を遮断する要素を備えていない。すなわち、動力伝達経路26は常に動力が伝達される状態になっている。
【0024】
第1クラッチ機構19及び第2クラッチ機構21はともに噛み合いクラッチであり、第1クラッチ機構19及び第2クラッチ機構21の締結、解放動作は、コントローラ7により制御される。コントローラ7には各種信号が入力される。各種信号は例えば、第1クラッチ機構19の第1スリーブ20、第1減速ギヤ8、第2クラッチ機構21の第2スリーブ22、第4減速ギヤ16の回転速度を可能な回転速度センサそれぞれからの信号を含む。これらの回転速度は、第1クラッチ機構19及び第2クラッチ機構21の差回転を検出するのに用いられる。
【0025】
コントローラ7にはこのほか、バッテリ5の充電量を指標するバッテリ充電状態SOC(State Of Charge)がバッテリ5から入力される。また、コントローラ7には、車両1のアクセルペダルの踏み込み量を指標するアクセル開度を検出するアクセル開度センサや、車速VSPを検出する車速センサや、後述する第1クラッチ位置センサ51、第2クラッチ位置センサ52等からの信号が入力される。
【0026】
本実施形態では、内燃機関3の回転速度N_ICEが第1スリーブ20の回転速度を構成し、走行用モータ2の回転速度N_MGが第2スリーブ22の回転速度を構成する。第1減速ギヤ8の回転速度や第4減速ギヤ16の回転速度は駆動輪6とともに回転する出力側回転速度N_OUTを構成する。出力側回転速度N_OUTは例えば車速センサからの信号に基づきギヤ比を用いて演算されてもよい。
【0027】
上述した構成の車両1は、動力伝達経路24により駆動輪6に動力を伝達して走行するシリーズハイブリッドモードと、内燃機関直結状態にして動力伝達経路25により駆動輪6に動力を伝達して走行する内燃機関直結モードと、を切り替え可能である。シリーズハイブリッドモードでは、内燃機関3の動力により駆動されて発電する発電用モータ4の電力を利用して走行用モータ2で駆動輪6を駆動する。コントローラ7は、シリーズハイブリッドモードと内燃機関直結モードとを運転状態、具体的には車速VSPと車両駆動力DPとに応じて切り替える。
【0028】
図2は、シリーズハイブリッドモードにおける動力伝達状態を示す図である。シリーズハイブリッドモードでは、動力伝達経路24により駆動輪6に動力が伝達される。すなわち、シリーズハイブリッドモードでは、第1クラッチ機構19が締結状態になることで、走行用モータ2が発生した動力が駆動輪6に伝達される。このとき、第2クラッチ機構21は解放状態となる。
【0029】
また、シリーズハイブリッドモードにおいても内燃機関3の動力は動力伝達経路26を介して発電用モータ4に伝達され、発電用モータ4は発電を行い、発電された電力はバッテリ5に充電される。ただし、発電用モータ4で発電するか否かはバッテリ5の充電量に応じて定まり、バッテリ5に充電する必要がない場合には内燃機関3は停止する。
【0030】
図3は、内燃機関直結モードにおける動力伝達状態を示す図である。内燃機関直結モードでは、動力伝達経路25により駆動輪6に動力が伝達される。すなわち、内燃機関直結モードでは、第2クラッチ機構21が締結状態になることで、内燃機関3が発生した動力が駆動輪6に伝達される。
【0031】
内燃機関直結モードでは、第1クラッチ機構19は解放状態となる。仮に、内燃機関直結モードにおいて第1クラッチ機構19を締結状態にすると、駆動輪6の回転に伴って走行用モータ2が連れ回り、誘起起電力が発生する。バッテリ5の充電容量に余裕がある場合には、発生した電力をバッテリ5に充電することでエネルギを回生することになる。しかし、バッテリ5の充電容量に余裕がない場合には、発電抵抗が駆動輪6の回転を妨げるフリクションとなり、燃費性能低下の要因となる。これに対し本実施形態では、内燃機関直結モードにおいて第1クラッチ機構19は解放状態になるので、上述した走行用モータ2の連れ回りによる燃費性能の低下を抑制できる。
【0032】
図4は、車両1の運転領域を示す図である。領域R1はシリーズハイブリッドモード領域であり、低速域で車両駆動力DPの上限値が一定に、中高速域で車速VSPが高くなるほど小さくなるように設定される。領域R2は内燃機関直結モード領域であり、車速VSPが所定車速VSP1より高く且つ車両駆動力DPが所定駆動力DP1より小さい領域とされる。所定車速VSP1は中高速域に設定され、所定駆動力DP1は領域R1の車両駆動力DPの上限値より低く設定される。このように領域R2が設定される理由は次の通りである。
【0033】
すなわち、シリーズハイブリッドモードでは燃費の良い動作点で内燃機関3を運転しながら発電用モータ4を駆動して発電することができ、これにより高い燃費性能が得られる。その一方で、高速走行時には要求駆動力が小さくなる結果、内燃機関3の動作点が燃費の良い動作点に近づく。この場合、電気変換効率を加味すると、シリーズハイブリッドモードと内燃機関直結モードとでシステム効率が逆転する。
【0034】
領域R1と領域R2との間の境界線にはヒステリシスが設けられる。従って、加速状態で運転モードがシリーズハイブリッドモードから内燃機関直結モードに移行した後、車両1が直ちに減速しても運転モードは直ちにはシリーズハイブリッドモードには切り替わらない。同様に、減速状態で運転モードが内燃機関直結モードからシリーズハイブリッドモードに移行した後、車両1が直ちに加速しても運転モードは直ちには内燃機関直結モードには切り替わらない。
【0035】
次に車両1が備えるシフト機構について説明する。
【0036】
図5は第1シフト機構30を示す図であり、
図6は第2シフト機構40を示す図である。車両1は、第1シフト機構30と第2シフト機構40とを備える。
【0037】
第1シフト機構30は第1クラッチ機構19の締結、解放を行うための機構であり、第1シフトアクチュエータ31と、第1シフトカム32と、第1ピン33と、第1ばね34と、第1シフトフォーク35とを有する。第1シフト機構30は第1シフトアクチュエータ31の動力をクラッチ作動力として第1クラッチ機構19に締結方向及び解放方向のクラッチ作動力を伝達する。
【0038】
第2シフト機構40は第2クラッチ機構21の締結、解放を行うための機構であり、第2シフトアクチュエータ41と、第2シフトカム42と、第2ピン43と、第2ばね44と、第2シフトフォーク45とを有する。第2シフト機構40は第2シフトアクチュエータ41の動力をクラッチ作動力として締結方向及び解放方向のクラッチ作動力を第2クラッチ機構21に伝達する。
【0039】
第1シフト機構30と第2シフト機構40とは互いに同様の構造を有する。このため、以下では第1シフト機構30を例に説明する。
【0040】
第1シフトアクチュエータ31は第1シフトカム32を駆動する。第1シフトアクチュエータ31は例えばモータにより構成され、第1シフトカム32を回転駆動する。第1シフトカム32は第1案内溝321を有する。第1案内溝321には第1ピン33が係合する。第1案内溝321は第1シフトカム32の回転時に第1ピン33を案内することにより、第1ピン33を第1シフトカム32の軸方向に移動させる。第1シフトカム32の軸方向は、第1スリーブ20が設けられた回転軸2Aの軸方向、つまり第1クラッチ機構19の作動方向に沿った方向とされる。
【0041】
第1ピン33は第1ばね34を介して第1シフトフォーク35と接続される。第1ばね34は第1シフトアクチュエータ31と第1シフトフォーク35とを結ぶ動力伝達経路上、第1シフトカム32と第1シフトフォーク35との間に設けられる。第1ばね34には第1シフトフォーク35を解放位置から締結位置まで移動させるのに必要な長さをストローク可能なばねが用いられる。
【0042】
第1シフトフォーク35は第1クラッチ機構19の第1スリーブ20と係合する。第1スリーブ20の外周溝は回転方向に摺動可能に第1シフトフォーク35と係合する。第1スリーブ20は、第1シフトフォーク35から伝達されるクラッチ作動力により第1クラッチ機構19の作動方向、つまり第1クラッチ機構19を締結する方向と第1クラッチ機構19を解放する方向とに移動する。
【0043】
第1シフト機構30には第1クラッチ位置センサ51が設けられ、第2シフト機構40には第2クラッチ位置センサ52が設けられる。第1クラッチ位置センサ51は第1スリーブ20の軸方向位置を検出し、第2クラッチ位置センサ52は第2スリーブ22の軸方向位置を検出する。
【0044】
第1クラッチ位置センサ51の被検出部は第1ばね34及び第1シフトフォーク35間の動力伝達部位、つまり第1スリーブ20と一体的に軸方向に移動する部位に設けられる。同様に第2クラッチ位置センサ52の被検出部は第2スリーブ22と一体的に軸方向に移動する部位に設けられる。
【0045】
第1クラッチ位置センサ51には例えばストロークセンサを用いることができる。この例では第1クラッチ位置センサ51は被検出部の軸方向位置を検出することで、第1スリーブ20の締結位置を検出するように構成される。第2クラッチ位置センサ52についても同様である。
【0046】
第1クラッチ位置センサ51は第1スリーブ20の締結位置を検出することで締結センサとして機能し、第1スリーブ20の解放位置を検出することで解放センサとして機能する。締結センサ及び解放センサとしての第1クラッチ位置センサ51はストロークセンサ以外のセンサであってもよく、複数のセンサにより構成されてもよい。第2クラッチ位置センサ52についても同様である。
【0047】
第2クラッチ機構21の締結を行うにあたり、コントローラ7は第2クラッチ位置センサ52により第2スリーブ22の位置を認識する。この場合、第2クラッチ位置センサ52が故障すると第2スリーブ22の位置を把握できなくなる。結果、第2クラッチ機構21の締結を判定できなくなり、第2クラッチ機構21の締結制御を完了できなくなることが懸念される。第1クラッチ機構19についても同様である。
【0048】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ7が次に説明するクラッチ締結制御を行う。
【0049】
図7はコントローラ7が行う締結制御の一例をフローチャートで示す図である。以下では噛み合いクラッチとして第2クラッチ機構21を例にして説明し、第1クラッチ機構19の場合については適宜補足して説明する。
【0050】
ステップS1で、コントローラ7はクラッチ締結が開始したか否かを判定する。ここで、第2クラッチ機構21はシリーズハイブリッドモードから内燃機関直結モードに運転モードが移行した場合に締結される。
【0051】
このため、ステップS1では車両1の運転動作点が領域R1から領域R2に移動した場合に締結が開始したと判定される。第1クラッチ機構19の場合は、車両1の運転動作点が領域R2から領域R1に移行した場合に締結が開始したと判定することができる。ステップS1で否定判定であれば処理は一旦終了し、ステップS1で肯定判定であれば処理はステップS2に進む。
【0052】
ステップS2で、コントローラ7は位置センサが正常か否かを判定する。第2クラッチ位置センサ52の異常は第2スリーブ22の締結位置や解放位置を適切に検出できなくなるセンサ異常であり、断線等を含む。第2クラッチ位置センサ52の異常の有無は公知技術のほか適宜の技術で判定されてよい。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS3に進む。
【0053】
ステップS3で、コントローラ7は回転同期時のクラッチ差回転の狙い値を第1所定値A1に設定する。第1所定値A1は第2クラッチ位置センサ52が正常な場合の狙い値であり、予め設定される。
【0054】
ステップS4で、コントローラ7はクラッチ回転同期を実施する。第2クラッチ機構21の回転同期は、発電用モータ4を制御して第2スリーブ22の回転を第4減速ギヤ16の回転に近づけることにより行われる。これにより、第2クラッチ機構21の差回転の大きさ(絶対値)が次第に小さくなる。第1クラッチ機構19の場合、走行用モータ2を制御して第1スリーブ20の回転を第1減速ギヤ8の回転に近づけることにより回転同期を行うことができる。
【0055】
ステップS4で、コントローラ7はさらにクラッチ締結指示を行う。ステップS4では、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが予め設定した判定時間の間、第1所定値A1以下の場合に第2クラッチ機構21のクラッチ締結指示が行われ、これにより第2クラッチ機構21の締結が開始される。
【0056】
ステップS5で、コントローラ7はクラッチスリーブが締結位置にあるか否かを判定する。ステップS5では、正常な第2クラッチ位置センサ52の出力に基づき第2クラッチ機構21のクラッチ締結判定が行われる。
【0057】
ステップS5で否定判定の場合、第2クラッチ機構21が締結していないと判定され、処理はステップS5に戻る。ステップS5で肯定判定の場合、第2クラッチ機構21が締結したと判定され、処理はステップS6に進む。
【0058】
ステップS6で、コントローラ7はクラッチ締結制御を完了させる。ステップS6では例えばクラッチが締結したか否かを示すフラグがONにされ、これにより、第2クラッチ機構21の締結制御が完了する。シリーズハイブリッドモード、内燃機関直結モード間で運転モードが変化する場合、クラッチ締結制御が完了すると、走行用モータ2と内燃機関3とでのトルクの架替えが開始される。ステップS6の後には処理は一旦終了する。
【0059】
ステップS2で否定判定であった場合、処理はステップS7に進む。ステップS7で、コントローラ7は回転同期時のクラッチ差回転の狙い値を第2所定値A2に設定する。第2所定値A2は次のように設定される。
【0060】
図8A、
図8Bはクラッチ差回転の狙い値の説明図である。
図8Aは位置センサ正常時の場合を示し、
図8Bは位置センサ異常時の場合を示す。以下では、第2クラッチ位置センサ52を例にして説明するが、第1クラッチ位置センサ51の場合も同様である。
【0061】
図8Aに示すように、第2クラッチ位置センサ52が正常な場合は回転同期時の差回転の狙い値が第1所定値A1とされる。その一方で、第2クラッチ位置センサ52からの出力に基づき検出される検出差回転は狙いの差回転を中心とした計測ばらつきαを有する。計測ばらつきαは主に回転変動に起因して発生する。このため、計測ばらつきαはクラッチ締結完了後つまり第2クラッチ機構21の噛み合い後の計測ばらつきとされる。結果、実際の差回転が第1所定値A1の場合の検出差回転は下限値A1-αを有する。
【0062】
第1所定値A1は下限値A1-αが第2クラッチ機構21締結後の差回転つまりゼロ以下にならないように設定される。従って、クラッチ締結は差回転がゼロになる前に開始される。これにより、締結開始後に第2クラッチ機構21のドグ歯同士が干渉するティースオンティースが発生しても、ドグ歯同士の回転方向の位相がずれることによりティースオンティースが解消されるので、クラッチ締結が再び進行する。
【0063】
第1所定値A1は下限値A1-αの大きさが計測ばらつきαの大きさより小さくなるように設定されている。このためこの場合は、クラッチ締結前後で検出差回転の範囲に重なり合いが生じる。結果、クラッチ締結前後で検出差回転が変わらない事態が生じ得る。
【0064】
第2クラッチ位置センサ52が正常な場合、第2クラッチ機構21の締結は第2クラッチ位置センサ52を用いて判定される。このためこの場合は、クラッチ締結前後で検出差回転が変わらなくても、第2クラッチ機構21の締結を判定できる。
【0065】
第2クラッチ位置センサ52が異常な場合、第2クラッチ機構21の締結判定に第2クラッチ位置センサ52を用いることができなくなる。また、回転同期時の差回転の狙い値が第1所定値A1の場合、クラッチ締結前後で検出差回転が変わらない事態が生じ得る。従ってこの場合、差回転に基づきクラッチ締結を判定しようとすると、実際にはクラッチが締結していないにも関わらず、クラッチが締結したと誤判定する事態が生じ得る。
【0066】
本実施形態では、第2クラッチ位置センサ52が異常な場合は、
図8Bに示すように回転同期時の差回転の狙い値を第2所定値A2に設定した上で、差回転に基づき第2クラッチ機構21が締結したか否かを判定する。
【0067】
第2所定値A2は、実際の差回転が第2所定値A2の場合の検出差回転の下限値A2-αの大きさが計測ばらつきαよりも大きくなるように設定される。第2所定値A2は第1所定値A1を大きい側にオフセットさせた値に相当し、第1所定値A1を差回転の変動幅2αより大きい値にオフセットさせた値とされる。
【0068】
この場合、クラッチ締結前後で検出差回転の範囲に重なり合いは生じない。従って、クラッチ締結前後で検出差回転が異なるので、差回転に基づき第2クラッチ機構21が締結したか否かを判定できる。
【0069】
第2所定値A2は、第2クラッチ機構21を締結な可能な差回転の範囲内で実験等に基づき予め設定される。差回転が大きすぎる場合、第2クラッチ機構21を締結できない場合があるためである。第1所定値A1、第2所定値A2の具体的な数値は第1クラッチ機構19と第2クラッチ機構21とで異なってもよい。
【0070】
図7に戻り、ステップS8Aでコントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ回転同期を実施する。第2クラッチ機構21の回転同期は、発電用モータ4を制御して第2スリーブ22の回転を第4減速ギヤ16の回転に近づけることにより行われる。ステップS8Aでコントローラ7はさらに、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが予め設定した判定時間の間、第2所定値A2以下の場合に第2クラッチ機構21のクラッチ締結指示を行う。これにより、第2クラッチ機構21の締結が開始される。
【0071】
ステップS9で、コントローラ7は差回転の大きさが所定値D1以下か否かを判定する。クラッチ締結後の差回転はゼロなので、ステップS9では換言すれば、現在の差回転とクラッチ締結後の差回転との差分の大きさが所定値D1以下であるか否かが判定される。所定値D1はクラッチが締結したか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。
【0072】
ステップS9で否定判定であれば、第2クラッチ機構21が締結していないと判定され、処理はステップS9に戻る。ステップS9で肯定判定であれば、第2クラッチ機構21が締結したと判定される。この場合、処理はステップS6に進み、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ締結制御を完了させる。
【0073】
図9は
図7に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図9では、シリーズハイブリッドモードから内燃機関直結モードへの運転モード移行制御が行われる場合について説明する。
【0074】
運転モード移行制御は、回転同期フェーズと、クラッチ締結フェーズと、トルク架替えフェーズと、クラッチ解放フェーズとを有する。回転同期フェーズでは噛み合いクラッチの回転同期が行われ、クラッチ締結フェーズでは噛み合いクラッチのクラッチ締結制御が行われる。トルク架替えフェーズでは走行用モータ2のトルクT_MGと、内燃機関3及び発電用モータ4のトルクT_SUMとの間で車両1の駆動トルクを架替えるトルクの架替えが行われる。クラッチ解放フェーズでは噛み合いクラッチのクラッチ解放制御が行われる。
【0075】
タイミングT1では車両1の運転動作点が領域R1から領域R2に移動する。このため、シリーズハイブリッドモードから内燃機関直結モードに運転モードを移行すべく、破線で示すように運転モードの移行要求が発生する。また、運転モードの移行要求に応じて第2クラッチ機構21の回転同期が開始される。
【0076】
このため、発電用モータ4のトルクT_GENの増加により内燃機関3の回転速度N_ICEが第2出力側回転速度N_OUT2に近づけられる。第2出力側回転速度N_OUT2は第4減速ギヤ16の回転速度である。従って、タイミングT1からは第2スリーブ22の回転が第4減速ギヤ16の回転に近づけられる。
【0077】
第2クラッチ機構21の伝達トルクは内燃機関3のトルクT_ICEと発電用モータ4のトルクT_GENとの和つまりトルクT_SUMであり、トルクT_GENがその後ゼロになると、トルクT_ICEがトルクT_SUMを表すことになる。この際、回転速度N_ICEを一定の回転速度に保つためにトルクT_GENで微調整する制御が行われてもよい。
【0078】
タイミングT2では、第2クラッチ機構21の差回転、つまり第2出力側回転速度N_OUT2と回転速度N_ICEとの差回転の大きさが第2所定値A2以下になる。差回転の大きさは、判定時間が経過するタイミングT3まで第2所定値A2以下のままとなる。このため、タイミングT3ではクラッチ締結が開始され、第2ピン43及び第2スリーブ22が締結側に移動し始める。
【0079】
タイミングT4では、第2クラッチ機構21でティースオンティースが発生し、第2スリーブ22の移動が妨げられる。このため、タイミングT4からは第2ピン43が移動しても第2スリーブ22は移動せず、第2ばね44が圧縮される。
【0080】
第2ピン43はタイミングT5で締結位置に移動するが、ティースオンティースはタイミングT5では解除されず、その後タイミングT6で解除される。ティースオンティースが解除されると、第2スリーブ22は第2ばね44のばね力によって締結側に移動し始め、タイミングT7で締結位置に到達する。結果、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D1以下になり、クラッチ締結が完了する。
【0081】
このように、本実施形態では第2クラッチ機構21の差回転の大きさが第2所定値A2以下の場合に第2クラッチ機構21の締結を実行する。そしてこの際の検出差回転の範囲は、
図8Bを用いて説明したようにクラッチ締結後の検出差回転の範囲と重なり合わない。このため本実施形態では、タイミングT7で第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D1以下になるまでは第2クラッチ機構21が締結したと誤判定されない。
【0082】
タイミングT7以降について説明すると次の通りである。
【0083】
タイミングT7からは、第2クラッチ機構21のクラッチ締結制御の完了に応じて第1クラッチ機構19の解放が開始され、第1ピン33が解放側に移動し始める。このとき、第1クラッチ機構19には未だ走行用モータ2のトルクT_MGが作用している。トルクT_MGは、第1スリーブ20の解放側への移動を妨げる解放抵抗力を第1クラッチ機構19で発生させる。
【0084】
このため、タイミングT7、タイミングT8間で第1ピン33が締結位置から解放位置に移動しても、第1スリーブ20は破線で示すようには移動せず、この際には第1ばね34が伸長する。
【0085】
タイミングT7からは、走行用モータ2のトルクT_MGからトルクT_SUMに車両1の駆動トルクを変更するトルクの架替えが行われる。トルクの架替えでは第1クラッチ機構19の伝達トルクの低下と第2クラッチ機構21の伝達トルクの増加とが同時進行で行われる。
【0086】
トルクT_MGは第1クラッチ機構19の伝達トルクを構成し、トルクT_SUMは前述の通り第2クラッチ機構21の伝達トルクを構成する。このため、タイミングT7からはトルクT_MGが低下し始める一方で、トルクT_SUMが上昇し始める。この際、トルクT_SUMの上昇は基本的にトルクT_ICEの上昇により行われ、発電用モータ4はトルクT_SUMの微調整を担う。この際、トルクT_SUMの上昇はトルクT_GENのみによって行われてもよい。
【0087】
タイミングT9では、トルクT_MGの低下に伴い第1ばね34のばね力が解放抵抗力を上回る。このため、タイミングT9からは第1ばね34のばね力によって第1スリーブ20が解放側に移動し始める。タイミングT8、タイミングT9間は、第1ピン33が解放位置に移動してから第1スリーブ20が移動を開始するまでの第1スリーブ20の待ち時間となる。
【0088】
トルクの架替えはタイミングT10で完了し、第1クラッチ機構19のクラッチ解放制御はタイミングT11で第1スリーブ20が解放位置に移動すると完了する。結果、運転モードの移行が完了する。タイミングT11からは内燃機関3から第1減速ギヤ8を介して第1スリーブ20に動力が伝達されなくなる。このため、第1スリーブ20とともに回転する走行用モータ2の回転速度N_MGが低下し始める。タイミングT9、タイミングT11間は第1スリーブ20が締結位置から解放位置に移動するまでの第1スリーブ20の抜け時間となる。
【0089】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0090】
本実施形態にかかる車両1のクラッチ制御方法は、噛み合いクラッチの一例である第2クラッチ機構21と、第2クラッチ機構21の締結を検出する第2クラッチ位置センサ52とを有する車両1で用いられる。車両1のクラッチ制御方法は、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが第1所定値A1以下の場合に第2クラッチ機構21の締結を実行することと、第2クラッチ位置センサ52の故障時に回転同期時の差回転の狙い値を第2所定値A2とした上で、つまり第1所定値A1を大きい側にオフセットさせた上で、差回転に基づき第2クラッチ機構21の締結を判定することとを含む。
【0091】
このような方法によれば、第2クラッチ位置センサ52が故障した場合でも、第2クラッチ機構21の締結判定が可能になるので、実現したい運転モードに移行できる。結果、車両1の燃費、動力性能の低下を防止できる。
【0092】
本実施形態では、第1所定値A1を第2クラッチ機構21の締結後の差回転の変動幅2αより大きい値にオフセットさせる。換言すれば、第2所定値A2は第2クラッチ機構21の締結後の差回転の変動幅2αより大きい値とされる。
【0093】
このような方法によれば、クラッチ締結前後で差回転を異ならせることができるので、第2クラッチ機構21の締結判定を正確に行うことができる。
【0094】
内燃機関直結モードで走行中に第1クラッチ位置センサ51の故障が判定された場合、運転モードをシリーズハイブリッドモードに移行させることにより、内燃機関3のストールを防ぎ且つ車両1が走行不能になることを回避できる。そのためには第1クラッチ位置センサ51が故障した場合に第1クラッチ機構19のクラッチ締結制御を完了させる必要がある。
【0095】
車両1のクラッチ制御方法は、噛み合いクラッチの一例である第1クラッチ機構19を締結する場合にも用いることができる。このため、内燃機関直結モードで走行中に第1クラッチ位置センサ51の故障が判定された場合でも、運転モードをシリーズハイブリッドモードに移行させるべく第1クラッチ機構19のクラッチ締結制御を完了させることができる。結果、内燃機関3のストールを防ぎ且つ車両1が走行不能になることを回避できる。
【0096】
(第2実施形態)
本実施形態では、コントローラ7がさらに以下で説明する制御を行うように構成される。以下では噛み合いクラッチとして第2クラッチ機構21を例にして説明するが、第1クラッチ機構19の場合についても同様である。
【0097】
図10は本実施形態でコントローラ7が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
図11は
図10に示すステップS8Bのサブルーチンを示す図である。
図10に示すフローチャートはステップS8Aの代わりにステップS8Bが設けられる以外、
図7に示すフローチャートと同じとなっている。本実施形態では、ステップS8Bにおけるクラッチ回転同期の実施とクラッチ締結指示とが
図11に示すサブルーチンで行われる。
【0098】
図11に示すように、ステップS81で、コントローラ7は車両1が加速状態か否かを判定する。車両1が加速状態か否かは例えば車速センサの出力に基づき判定できる。ステップS81で肯定判定の場合、処理はステップS82に進む。
【0099】
ステップS82で、コントローラ7は内燃機関3の回転速度N_ICEが第2出力側回転速度N_OUT2より高いか否かを判定する。
【0100】
ここで、第2クラッチ機構21を介した動力伝達経路25において、第2スリーブ22は動力伝達経路上、第4減速ギヤ16より内燃機関3側つまり上流側に位置する。従って、第2スリーブ22は動力伝達経路25における上流側締結要素に相当し、第4減速ギヤ16は動力伝達経路25における下流側締結要素に相当する。
【0101】
動力伝達経路25において上流側締結要素の回転速度が下流側締結要素の回転速度より高い場合、第2クラッチ機構21締結の際に下流側締結要素の回転速度が変動し得る方向は加速方向となり、車両1の加速状態と合致する。
【0102】
このため、ステップS82で肯定判定の場合は処理がステップS84に進み、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ回転同期及びクラッチ締結指示を行う。
【0103】
この場合、クラッチ回転同期では回転速度N_ICEを低下方向に制御することにより、回転速度N_ICEを第2出力側回転速度N_OUT2に近づけることができる。クラッチ締結指示は、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが判定時間の間、第2所定値A2以下の場合に行われる。ステップS84の後には処理は一旦終了する。
【0104】
上流側締結要素の回転速度が下流側締結要素の回転速度より低い場合、第2クラッチ機構21締結の際に下流側締結要素の回転速度が変動し得る方向は減速方向となり、車両1の加速状態と合致しない。結果、第2クラッチ機構21締結の際に車両1の挙動が変化しドライバに違和感を与え得る。
【0105】
このため、ステップS82で否定判定の場合は処理がステップS83に進み、コントローラ7は発電用モータ4を制御することにより回転速度N_ICEを第2出力側回転速度N_OUT2より上昇させる。これにより、第2クラッチ機構21締結の際にドライバが車両1の挙動変化を感じにくくなる。
【0106】
ステップS83で、回転速度N_ICEは予め設定した所定値分、第2出力側回転速度N_OUT2より高くすることができる。ステップS83の後には処理はステップS84に進み、ステップS82で肯定判定であった場合と同様に第2クラッチ機構21のクラッチ回転同期及びクラッチ締結指示が行われる。
【0107】
ステップS81で否定判定の場合は減速状態と判断され、処理がステップS85に進む。ステップS85で、コントローラ7は回転速度N_ICEが第2出力側回転速度N_OUT2より低いかを判定する。
【0108】
動力伝達経路25において上流側締結要素の回転速度が下流側締結要素の回転速度より低い場合、第2クラッチ機構21締結の際に下流側締結要素の回転速度が変動し得る方向は減速方向となり、車両1の減速状態と合致する。
【0109】
このため、ステップS85で否定判定の場合、処理はステップS84に進み、第2クラッチ機構21のクラッチ回転同期及びクラッチ締結指示が行われる。
【0110】
この場合、クラッチ回転同期では回転速度N_ICEを上昇方向に制御することにより、回転速度N_ICEを第2出力側回転速度N_OUT2に近づけることができる。クラッチ締結指示は、第2クラッチ機構21の差回転の大きさが判定時間の間、第2所定値A2以下の場合に行われる。
【0111】
上流側締結要素の回転速度が下流側締結要素の回転速度より高い場合、第2クラッチ機構21締結の際に下流側締結要素の回転速度が変動し得る方向は加速方向となり、車両1の減速状態と合致しない。結果、第2クラッチ機構21締結の際に車両1の挙動が変化しドライバに違和感を与え得る。
【0112】
このため、ステップS85で否定判定の場合、処理はステップS86に進み、コントローラ7は内燃機関3を制御することにより回転速度N_ICEを第2出力側回転速度N_OUT2より低下させる。これにより、第2クラッチ機構21締結の際にドライバが車両1の挙動変化を感じにくくなる。
【0113】
ステップS86で回転速度N_ICEは予め設定した所定値分、第2出力側回転速度N_OUT2より低くすることができる。ステップS86の後には処理はステップS84に進む。この場合、ステップS85で肯定判定であった場合と同様に第2クラッチ機構21のクラッチ回転同期及びクラッチ締結指示が行われる。
【0114】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0115】
本実施形態では、車両1の加速中は第2クラッチ機構21を介した動力伝達経路25において第2スリーブ22の回転速度に相当する回転速度N_ICEが第4減速ギヤ16の回転速度である第2出力側回転速度N_OUT2より大きい場合に第2クラッチ機構21の締結が実行される。また、車両1の減速中は第2クラッチ機構21を介した動力伝達経路25において回転速度N_ICEが第2出力側回転速度N_OUT2より小さい場合に第2クラッチ機構21の締結が実行される。
【0116】
このような方法によれば、加速中に第2クラッチ機構21を締結する際に車両1の加速度がマイナス値になる事態、及び減速中に第2クラッチ機構21を締結する際に車両1の加速度がプラス値になる事態を回避できる。従って、車両1の加減速中に第2クラッチ機構21を締結する際にドライバに対し車両1の挙動変化を感じにくくすることができる。
【0117】
(第3実施形態)
本実施形態は第1シフト機構30及び第2シフト機構40とコントローラ7とが以下で説明するように構成される点以外、第1実施形態と同様とされる。同様の変更は第2実施形態に適用することもできる。
【0118】
図12は本実施形態における第1シフト機構30を示す図である。
図13は本実施形態における第2シフト機構40を示す図である。本実施形態では第1シフト機構30は第1ばね34を備えず、第2シフト機構40は第2ばね44を備えない。従って、第1シフト機構30はばね(第1ばね34を含むばね)を介さずに第1クラッチ機構19にクラッチ作動力を伝える構成とされ、第2シフト機構40はばね(第2ばね44を含むばね)を介さずに第2クラッチ機構21にクラッチ作動力を伝える構成とされる。
【0119】
本実施形態では噛み合いクラッチを解放するにあたり、コントローラ7が次に説明する制御を行うように構成される。以下では噛み合いクラッチとして第2クラッチ機構21を例にして説明するが、第1クラッチ機構19の場合も同様である。
【0120】
図14は本実施形態でコントローラ7が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。ステップS11でコントローラ7はトルク架替えフェーズが開始したか否かを判定する。トルク架替えフェーズはクラッチ締結フェーズが完了すると開始される。従って、ステップS11では例えば、第2クラッチ機構21が締結したか否かを示すフラグに基づき判定を行うことができる。ステップS11で肯定判定であれば、処理はステップS12に進む。
【0121】
ステップS12で、コントローラ7は第2クラッチ位置センサ52が正常か否かを判定する。ステップS12で肯定判定であれば、処理はステップS13に進む。
【0122】
ステップS13で、コントローラ7はトルクの架替えを開始する。ここで、第2クラッチ機構21では、伝達トルクを低下させることにより第2スリーブ22の解放側への移動を妨げる解放抵抗力が小さくなり、第2クラッチ機構21の解放が可能になる。このため、第2クラッチ位置センサ52が正常な場合、トルクの架替えでは第2クラッチ機構21の伝達トルクつまりトルクT_SUMがゼロを目標値として低下される。
【0123】
ステップS14で、コントローラ7はトルクの架替えが終了した否かを判定する。トルクの架替えが終了したか否かは例えば、トルクT_SUMが目標値になったか否かで判定できる。ステップS14で否定判定であれば処理はステップS14に戻る。ステップS14で肯定判定であれば処理はステップS15に進む。
【0124】
ステップS15で、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ解放指示を行う。これにより、第2クラッチ機構21の伝達トルクを低下させた上で、第2シフトアクチュエータ41が第2クラッチ機構21の解放方向に駆動される。結果、第2シフト機構40により解放方向のクラッチ作動力が第2スリーブ22に伝えられる。
【0125】
ステップS16で、コントローラ7は第2スリーブ22が解放位置か否かを判定する。ステップS16では、正常な第2クラッチ位置センサ52の出力に基づき第2クラッチ機構21のクラッチ解放判定が行われる。ステップS16で否定判定であれば処理はステップS16に戻り、ステップS16で肯定判定であれば処理はステップS17に進む。
【0126】
ステップS17で、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御を完了させる。ステップS17では例えばクラッチが解放されたか否かを示すフラグをONにすることができる。ステップS17の後には処理は一旦終了する。
【0127】
ステップS12で否定判定であった場合、処理はステップS18Aに進み、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ解放後に回転速度N_ICEが上昇するか否かを判定する。第2クラッチ機構21の解放後には運転モードはシリーズハイブリッドモードになり、内燃機関3では発電運転が行われる。従って、ステップS18Aでは換言すれば、第2クラッチ機構21の解放後に発電運転で回転速度N_ICEが上昇するか否かが判定される。
【0128】
内燃機関3の発電運転では、バッテリ充電状態SOCや車速VSP及びアクセル開度に基づく車両駆動力DPの要求値等に応じて発電すべき電力である要求発電電力が演算される。また、要求発電電力に応じて回転速度N_ICEの目標値が設定される。このため、ステップS18Aでは要求発電電力または回転速度N_ICEの目標値に基づき判定を行うことができる。内燃機関3は発電用モータ4とともに発電機を構成する。回転速度N_ICEは発電機の回転速度に相当する。ステップS18Aで肯定判定であれば処理はステップS19に進み、ステップS18Aで否定判定であれば処理はステップS20に進む。
【0129】
ステップS19で、コントローラ7は低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値を所定値T_SUM1にして、トルクの架替えを開始する。所定値T_SUM1はゼロより大きい値であり、予め設定される。
【0130】
これにより、第2クラッチ機構21の解放後に回転速度N_ICEが高くなる場合は、第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値が正側に設定される。従って、第2クラッチ機構21の解放開始時より解放後のほうが回転速度N_ICEが高い場合は、低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクは正側に低下される。
【0131】
ステップS20で、コントローラ7は低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値を所定値T_SUM1のマイナス値にして、トルクの架替えを開始する。
【0132】
これにより、第2クラッチ機構21の解放後に回転速度N_ICEが低くなる場合は、低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値が負側に設定される。従って、第2クラッチ機構21の解放開始時より解放後のほうが回転速度N_ICEが低い場合は、低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクは負側に低下される。
【0133】
前述の通り、第2クラッチ位置センサ52の正常時には第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値はゼロとされる。このため、ステップS19、ステップS20では低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクは、第2クラッチ位置センサ52の正常時より絶対値で大きな値に低下される。換言すればこの際には、第2クラッチ機構21の伝達トルクを低下させる行先の値が正常時より絶対値で大きな値とされる。低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値は、第2クラッチ機構21の解放抵抗力が解放方向のクラッチ作動力を下回る範囲内で第2クラッチ位置センサ52の正常時より絶対値で大きくすることができる。
【0134】
ステップS19、ステップS20の後には処理はステップS21に進む。ステップS21ではトルクの架替えが終了したか否かが判定され、否定判定であれば処理はステップS21に戻り、肯定判定であれば処理はステップS22に進む。ステップS22ではステップS15と同様、第2クラッチ機構21のクラッチ解放指示が行われる。
【0135】
ステップS23で、コントローラ7は第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D2以上か否かを判定する。ステップS23では、第2クラッチ機構21の差回転に基づき第2クラッチ機構21の解放判定が行われる。クラッチ解放前の差回転はゼロなので、ステップS23では換言すれば、現在の差回転とクラッチ解放前の差回転との差分の大きさが所定値D2以上であるか否かが判定される。
【0136】
所定値D2はクラッチが解放されたか否かを判定するための判定値であり、差回転の変動幅2αより大きな値とされる。この場合、クラッチ解放前後で検出差回転の範囲に重なり合いは生じない。従って、クラッチ解放前後で検出差回転が異なるので、差回転に基づき第2クラッチ機構21が解放されたか否かを判定できる。
【0137】
ステップS23で否定判定であれば、処理はステップS23に戻る。ステップS23で肯定判定であれば、第2クラッチ機構21が解放されたと判定される。この場合、処理はステップS17に進み、第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御が完了する。
【0138】
第2クラッチ位置センサ52の故障時にもこのようにして第2クラッチ機構21の解放制御を完了させる理由は次の通りである。
【0139】
すなわち、内燃機関直結モードで走行中に第2クラッチ位置センサ52の故障が判定された場合、運転モードをシリーズハイブリッドモードに移行させることで、内燃機関3のストールを防ぎ且つ車両1が走行不能になることを回避できる。そしてそのためには、第2クラッチ位置センサ52が故障した場合に、第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御を完了させる必要があるためである。
【0140】
図15は
図14に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。タイミングT11では車両1の運転動作点が領域R2から領域R1に移動する。このため、内燃機関直結モードからシリーズハイブリッドモードに運転モードを移行すべく、破線で示すように運転モードの移行要求が発生する。
【0141】
タイミングT11では、運転モードの移行要求に応じて第1クラッチ機構19の回転同期が開始される。結果、走行用モータ2のトルクT_MGが上昇し、回転速度N_MGが第1出力側回転速度N_OUT1に近づけられる。第1出力側回転速度N_OUT1は第1減速ギヤ8の回転速度である。従って、タイミングT11からは第1スリーブ20の回転が第1減速ギヤ8の回転に近づけられる。
【0142】
タイミングT12では、第1クラッチ機構19の差回転、つまり第1出力側回転速度N_OUT1と回転速度N_MGとの差回転の大きさが第2所定値A2以下になり、判定時間が経過するタイミングT13まで第2所定値A2以下のままとなる。このため、タイミングT13では第1クラッチ機構19のクラッチ締結が開始され、第1ピン33及び第1スリーブ20が締結側に移動し始める。
【0143】
タイミングT14では、第1クラッチ機構19でティースオンティースが発生し、第1スリーブ20の移動が妨げられる。本実施形態では第1ばね34が第1シフト機構30に設けられていないので、タイミングT14では第1ピン33の移動も停止する。
【0144】
ティースオンティースはタイミングT15で解除される。結果、第1スリーブ20及び第1ピン33が締結側に再び移動し始め、タイミングT16で締結位置に到達する。これにより、第1クラッチ機構19の差回転の大きさが所定値D1以下になり、第1クラッチ機構19のクラッチ締結制御が完了する。
【0145】
このように第1クラッチ機構19の差回転の大きさが第2所定値A2以下の場合に第1クラッチ機構19の締結を実行すれば、この際の検出差回転の範囲はクラッチ締結後の検出差回転の範囲と重なり合わない。このためこの場合は、タイミングT16で第1クラッチ機構19の差回転の大きさが所定値D1以下になるまでは第1クラッチ機構19が締結したと誤判定されない。
【0146】
タイミングT16からは、クラッチ締結制御の完了に応じてトルクの架替えが行われる。トルクの架替えでは走行用モータ2のトルクT_MGの上昇とトルクT_SUMの低下とが同時進行で行われる。これにより、車両1の駆動トルクがトルクT_SUMからトルクT_MGに次第に架替えられる。トルクT_SUMの低下は基本的に内燃機関3のトルクT_ICEの低下により行われる。
【0147】
トルクの架替えは低下させるトルクT_SUMの目標値を所定値T_SUM1にして開始される。これはこの例では第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEが発電運転に応じて第2クラッチ機構21の解放開始時より上昇されるためである。結果、トルクの架替えが終了するタイミングT17では、トルクT_SUMは所定値T_SUM1になる。
【0148】
タイミングT17ではトルクの架替え終了に応じて第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御が開始される。本実施形態では第2ばね44が第2シフト機構40に設けられていないので、クラッチ解放制御はトルクの架替えが終了し第2クラッチ機構21の伝達トルクが低下してから行われる。結果、タイミングT17からは第2ピン43及び第2スリーブ22が解放方向に移動する。
【0149】
第2ピン43及び第2スリーブ22はタイミングT18で解放位置に到達する。第2クラッチ位置センサ52が正常な場合は、第2スリーブ22が解放位置の場合にクラッチ解放制御が完了する。このためこの場合は、タイミングT18でクラッチ解放制御フェーズが終了する。
【0150】
この例では、第2クラッチ位置センサ52が正常な場合の第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEは発電運転により破線で示すように緩やかに上昇する。また、第2クラッチ位置センサ52が正常な場合、トルクの架替えで低下されるトルクT_SUMの目標値はゼロとされる。
【0151】
この場合、第2クラッチ機構21の解放後に第2クラッチ機構21の差回転が十分に大きくならない。結果、仮に第2クラッチ位置センサ52の故障時だった場合は、差回転を用いて第2クラッチ機構21の解放を適切に判定できない。
【0152】
本実施形態では、第2クラッチ位置センサ52が異常な場合は、タイミングT17に示されるようにトルクの架替えで低下させたトルクT_SUMが所定値T_SUM1になっている。このため、タイミングT18で第2クラッチ機構21が解放されると、回転速度N_ICEがトルクT_SUMに応じて上昇し、第2クラッチ機構21の差回転が拡大する。結果、タイミングT19で第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D2以上になり、タイミングT18後にクラッチ解放制御を速やかに完了させることができる。
【0153】
この例では、第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEが上昇するので、トルクの架替えで低下されるトルクT_SUMの目標値が正側つまりゼロより大きい側に設定される。これにより、トルクT_SUMに基づき変化する回転速度N_ICEの変化方向が発電運転で求められる回転速度N_ICEの変化方向と同方向になる。従って、逆方向になる場合と比較し、発電運転で求められる回転速度N_ICEが速やかに達成される。
【0154】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0155】
本実施形態では、車両1のクラッチ制御方法は第2クラッチ機構21と、第2クラッチ機構21にばねを介さずにクラッチ作動力を伝える第2シフト機構40と、第2クラッチ機構21の解放を検出する第2クラッチ位置センサ52とを有する車両1で用いられる。車両1のクラッチ制御方法は、第2クラッチ機構21の伝達トルクを低下させて第2シフト機構40による第2クラッチ機構21の解放を実行することと、第2クラッチ位置センサ52の故障時に第2クラッチ機構21の差回転に基づき第2クラッチ機構21の解放を判定することと、第2クラッチ機構21の解放を行う際に低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルク、つまりトルクT_SUMを第2クラッチ機構21の故障時には所定値T_SUM1に低下させることにより、第2クラッチ位置センサ52の正常時より絶対値で大きな値に低下させることとを含む。
【0156】
このような方法によれば、第2クラッチ機構21を解放した際に回転速度N_ICEが変化して第2クラッチ機構21の差回転が拡大するので、第2クラッチ位置センサ52の故障時に第2クラッチ機構21の解放を的確に判定できる。
【0157】
本実施形態では、第2クラッチ機構21を介した動力伝達経路25において第2クラッチ機構21より上流側には発電機を構成する内燃機関3及び発電用モータ4が設けられている。第2クラッチ機構21の解放を行う際に低下させるトルクT_SUMは、第2クラッチ機構21の解放開始時より解放後のほうが回転速度N_ICEが高い場合は正側に、第2クラッチ機構21の解放開始時より解放後のほうが回転速度N_ICEが低い場合は負側に低下される。
【0158】
このような方法によれば、第2クラッチ機構21を解放した際に発電運転で求められる回転速度N_ICEの変化方向と同方向に回転速度N_ICEを変化させることができる。このため、逆方向に変化させる場合と比較し、第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEを発電運転で求められる回転速度N_ICEに速やかに移行させることができる。
【0159】
第1クラッチ位置センサ51と第2クラッチ位置センサ52とが同時に故障している場合、運転モード移行後に締結される噛み合いクラッチの締結を判定した後に、運転モード移行後に解放される噛み合いクラッチの解放を判定することができる。
【0160】
これにより、運転モード移行制御においてクラッチ締結フェーズの後にクラッチ解放フェーズが到来することに照らし、噛み合いクラッチの締結及び解放を適切に判定できる。このことは後述する第4実施形態についても同様である。
【0161】
コントローラ7は次のように構成されてもよい。
【0162】
図16は本実施形態の変形例の制御をフローチャートで示す図である。
図16に示すフローチャートはステップS18Aの代わりにステップS18Bが設けられている点以外、
図15に示すフローチャートと同じである。このため以下では、主にステップS18Bについて説明する。
【0163】
ステップS18Bで、コントローラ7は車両1が加速状態か否かを判定する。そして、加速状態の場合は低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値を所定値T_SUM1にしてトルクの架替えが開始され(ステップS19)、減速状態の場合は低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値を所定値T_SUM1のマイナス値にしてトルクの架替えが開始される(ステップS20)。
【0164】
この場合、シリーズハイブリッドモードに移行した際に加速状態では発電運転で求められる回転速度N_ICEが上昇し、減速状態では発電運転で求められる回転速度N_ICEが低下することを見越して、低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値が設定される。
【0165】
このためこのような方法でも、第2クラッチ機構21を解放した際に回転速度N_ICEを発電運転で求められる回転速度N_ICEの変化方向と同方向に変化させることができる。結果、第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEを発電運転で求められる回転速度N_ICEに速やかに移行させることができる。また、第2クラッチ機構21が未だ解放されていない場合に車両挙動変化を感じさせ難くすることができる。
【0166】
(第4実施形態)
本実施形態はコントローラ7が以下で説明するように構成される点以外、第1実施形態と同様とされる。従って、第1シフト機構30は第1ばね34を有し、第2シフト機構40は第2ばね44を有する。同様の変更は第2実施形態に適用することもできる。
【0167】
本実施形態では噛み合いクラッチを解放するにあたり、コントローラ7が次に説明する制御を行うように構成される。以下では噛み合いクラッチとして第2クラッチ機構21を例にして説明するが、第1クラッチ機構19の場合も同様である。
【0168】
図17は本実施形態でコントローラ7が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。ステップS31でコントローラ7はトルク架替えフェーズが開始したか否かを判定する。ステップS31で否定判定であれば処理は一旦終了し、ステップS31で肯定判定であれば処理はステップS32に進む。
【0169】
ステップS32で、コントローラ7は第2シフトアクチュエータ41を解放位置まで作動させるとともに、解放の際に低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクの目標値を所定値T_SUM2にしてトルクの架替えを実施する。
【0170】
つまり、本実施形態では第2シフト機構40が第2ばね44を有するので、第2クラッチ機構21を解放するにあたり第2クラッチ機構21の伝達トルクが十分低下してから第2シフトアクチュエータ41を作動させる必要がない。このため、ステップS32では、トルクの架替えを開始すると同時に第2シフトアクチュエータ41の作動が開始される。
【0171】
所定値T_SUM2はゼロに設定される。これは、第2クラッチ機構21に伝達トルクが掛かっていると解放抵抗力が発生し第2ばね44のばね力により第2クラッチ機構21を解放できない可能性があるためである。所定値T_SUM2は解放抵抗力に抗して第2ばね44のばね力により第2クラッチ機構21を解放可能な範囲内でゼロより大きく設定されてもよい。
【0172】
ステップS33で、コントローラ7は第2クラッチ位置センサ52が正常か否かを判定する。ステップS33で肯定判定であれば、処理はステップS34に進む。
【0173】
ステップS34で、コントローラ7は第2スリーブ22が解放位置か否かを判定する。ステップS34で否定判定であれば処理はステップS34に戻り、ステップS34で肯定判定であれば処理はステップS35に進む。
【0174】
ステップS35で、コントローラ7は第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御を完了させる。ステップS35の後には処理は一旦終了する。
【0175】
ステップS33で否定判定であった場合、処理はステップS36に進む。この場合、コントローラ7は第2クラッチ機構21の差回転の大きさが解放見込み時間が経過するまでの間、所定値D3以下か否かを判定する。
【0176】
解放見込み時間は解放が開始されてから解放が完了するまでの第2クラッチ機構21の解放見込み時間であり、実験等に基づき予め設定される。解放見込み時間には例えば、第2クラッチ機構21の解放に最も時間がかかる場合の解放時間以上の時間を設定することができる。解放見込み時間は所定時間に相当する。
【0177】
所定値D3は解放見込み時間内の差回転の大きさを判定するための値であり、例えば計測ばらつきαに設定される。この場合、第2クラッチ機構21が解放されていない間は差回転がゼロなので、検出差回転の大きさは計測ばらつきα以下になり、第2クラッチ機構21が解放されていないと判定することができる。
【0178】
所定値D3は計測ばらつきαより大きく設定されてもよい。所定値D3は所定値D2より小さく設定することができる。これにより、解放見込み時間経過後に差回転の大きさが所定値D3以下であれば、第2クラッチ機構21は解放されたものの、発電運転に起因して差回転が拡大し難くなっていることを判定できる。
【0179】
ステップS36で肯定判定であれば、第2クラッチ機構21の差回転が絶対値で所定値D3より大きく変化していないと判定され、処理はステップS37Aに進む。
【0180】
ステップS37Aでコントローラ7は回転速度N_ICEが上昇するか否かを判定する。ステップS37Aで肯定判定であれば処理はステップS38に進み、ステップS37Aで否定判定であれば処理はステップS39に進む。
【0181】
ステップS38で、コントローラ7は発電用モータ4のトルクT_GENを所定値T_GEN1に設定する。所定値T_GEN1はゼロより大きい値であり、予め設定される。これにより、第2クラッチ機構21解放後に回転速度N_ICEが高くなる場合は、第2クラッチ機構21の伝達トルクつまりトルクT_SUMが正側に設定される。
【0182】
ステップS39で、コントローラ7はトルクT_GENを所定値T_GEN1のマイナス値に設定する。これにより、第2クラッチ機構21解放後に回転速度N_ICEが低くなる場合は、トルクT_SUMが負側に設定される。
【0183】
ステップS38、ステップS39では、第2クラッチ機構21が解放されても第2クラッチ機構21の差回転が絶対値で所定値D3より大きく変化しない場合に、トルクT_SUMが絶対値で増加される。ステップS38、ステップS39の後には処理はステップS40に進む。ステップS36で否定判定であった場合も処理はステップS40に進む。
【0184】
ステップS40で、コントローラ7は第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D2以上であるか否かを判定する。ステップS40で否定判定であれば処理はステップS40に戻り、ステップS40で肯定判定であれば第2クラッチ機構21が解放されたと判定され、処理はステップS35に進む。結果、第2クラッチ機構21のクラッチ解放制御が完了する。
【0185】
図18は
図17に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。タイミングT21では内燃機関直結モードからシリーズハイブリッドモードに運転モードを移行すべく、破線で示すように運転モードの移行要求が発生し、また、運転モードの移行要求に応じて第1クラッチ機構19の回転同期が開始される。結果、走行用モータ2のトルクT_MGが上昇する。
【0186】
第1クラッチ機構19の差回転の大きさはタイミングT22から判定時間が経過するタイミングT23まで第2所定値A2以下となる。このため、タイミングT23では第1クラッチ機構19のクラッチ締結が開始され、第1ピン33と第1スリーブ20とが締結側に移動し始める。
【0187】
タイミングT24では、第1クラッチ機構19でティースオンティースが発生し、第1スリーブ20の移動が妨げられる。本実施形態では第1シフト機構30が第1ばね34を有するので、第1ピン33はタイミングT24から引き続き締結側に移動する。第1ピン33はタイミングT25で締結位置に到達する。
【0188】
ティースオンティースはタイミングT26で解除され、これにより第1スリーブ20が締結側に再び移動し始める。第1スリーブ20はタイミングT27で締結位置に到達する。結果、第1クラッチ機構19の差回転の大きさが所定値D1以下になり、クラッチ締結制御が完了する。
【0189】
この場合も、第1クラッチ機構19の差回転の大きさが第2所定値A2以下の場合に第1クラッチ機構19の締結を実行するので、タイミングT23、タイミングT27間で第1クラッチ機構19が締結したと誤判定されることはない。
【0190】
タイミングT27からは、第1クラッチ機構19のクラッチ締結制御の完了に応じてトルクの架替えが開始されるとともに、第2シフトアクチュエータ41の解放位置への作動が開始されて第2ピン43が解放側に移動する。第2スリーブ22はトルクT_SUMが十分低下し、第2ばね44のばね力が解放抵抗力に抗して第2スリーブ22を移動できるようになるまで移動しない。このため、第2スリーブ22はタイミングT27から破線で示すようには移動せず、締結位置のままとなる。
【0191】
タイミングT28では第2ピン43が解放位置に到達する。タイミングT29ではトルクT_SUMが十分低下し、第2ばね44が解放抵抗力に抗して第2スリーブ22を解放側に移動させ始める。結果、タイミングT29からは第2スリーブ22が解放側に移動する。トルクの架替えはタイミングT30で終了する。
【0192】
タイミングT31では第2スリーブ22が解放位置に到達する。タイミングT28、タイミングT29間は第2スリーブ22の待ち時間となり、タイミングT29、タイミングT31間は第2スリーブ22の抜け時間となる。この例では、タイミングT31で解放見込み時間が経過する。
【0193】
破線で示すトルクT_SUMは第2クラッチ位置センサ52が正常な場合を示す。この場合、タイミングT31で第2クラッチ機構21の解放が完了し、運転モードがシリーズハイブリッドモードに移行する。第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICE、つまり発電運転が行われる内燃機関3の回転速度N_ICEの変化方向は上昇方向になる。
【0194】
第2クラッチ位置センサ52が正常な場合、第2スリーブ22解放後に発電用モータ4のトルクT_GENを絶対値で増加させない。結果、この場合は回転速度N_ICEが発電運転により破線で示すように緩やかに上昇し、第2クラッチ機構21の差回転が拡大し難くなっている。このため、仮に第2クラッチ位置センサ52の故障時だったとすると、第2クラッチ機構21の差回転の大きさがすぐには所定値D2以上にならず、第2クラッチ機構21の解放判定が適切に行われない。
【0195】
本実施形態では、タイミングT31で第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D3より大きくなり、発電用モータ4のトルクT_GENが増加される結果、トルクT_SUMが上昇する。このため、回転速度N_ICEもタイミングT31から第2クラッチ位置センサ52が正常な場合より大きく上昇する。結果、タイミングT32で第2クラッチ機構21の差回転の大きさが所定値D2以上になり、第2クラッチ機構21の解放がタイミングT31から大きく遅れることなく適切に判定される。
【0196】
この例では、タイミングT31でトルクT_SUMが絶対値で増加される。また、第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEが上昇するので、絶対値で増加されるトルクT_SUMは正側つまりゼロより大きい側に設定される。
【0197】
これにより、絶対値で増加されたトルクT_SUMに応じて回転速度N_ICEが発電運転で求められる回転速度N_ICEと同じ方向に変化するので、逆方向に変化する場合と比較し、発電運転で求められる回転速度N_ICEが速やかに達成される。
【0198】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0199】
本実施形態では、車両1のクラッチ制御方法は第2クラッチ機構21と、第2クラッチ機構21に第2ばね44を介してクラッチ作動力を伝える第2シフト機構40と、第2クラッチ機構21の解放を検出する第2クラッチ位置センサ52とを有する車両1で用いられる。車両1のクラッチ制御方法は、第2クラッチ機構21の伝達トルクつまりトルクT_SUMを低下させて第2シフト機構40による第2クラッチ機構21の解放を実行することと、第2クラッチ位置センサ52の故障時に第2クラッチ機構21の差回転に基づき第2クラッチ機構21の解放を判定することと、第2クラッチ位置センサ52の故障時に第2クラッチ機構21が解放されても、第2クラッチ機構21の差回転が絶対値で所定値D2より大きく変化しない場合に、トルクT_SUMを絶対値で増加させることとを含む。
【0200】
このような方法によれば、第2クラッチ機構21解放後に第2クラッチ機構21の差回転が拡大し難い場合でも第2クラッチ機構21の差回転を拡大することができる。このため、第2クラッチ位置センサ52の故障時に第2クラッチ機構21の解放を的確に判定できる。
【0201】
コントローラ7は次のように構成されてもよい。
【0202】
図19は本実施形態の変形例の制御をフローチャートで示す図である。
図19に示すフローチャートはステップS37Aの代わりにステップS37Bが設けられている点以外、
図17に示すフローチャートと同じである。このため以下では、主にステップS37Bについて説明する。
【0203】
ステップS37Bで、コントローラ7は車両1が加速状態か否かを判定する。そして、加速状態の場合は発電用モータ4のトルクT_GENが所定値T_GEN1に設定され(ステップS38)、減速状態の場合はトルクT_GENが所定値T_GEN1のマイナス値に設定される(ステップS39)。
【0204】
この場合、シリーズハイブリッドモードに移行した際、加速状態では発電運転で求められる回転速度N_ICEが上昇し、減速状態では発電運転で求められる回転速度N_ICEが低下することを見越して、発電用モータ4のトルクT_GENが設定される。
【0205】
このためこのような方法でも、第2クラッチ機構21を解放した際にトルクT_SUMに応じて回転速度N_ICEを発電運転で求められる回転速度N_ICEと同方向に変化させることができる。結果、第2クラッチ機構21解放後の回転速度N_ICEを発電運転で求められる回転速度N_ICEに速やかに移行させることができる。また、第2クラッチ機構21が未だ解放されていない場合に車両挙動変化を感じさせ難くすることができる。
【0206】
第2クラッチ機構21が解放されても第2クラッチ機構21の差回転が絶対値で所定値D2より大きく変化しない場合にトルクT_SUMを絶対値で増加させる制御は第3実施形態に適用されてもよい。
【0207】
この場合、低下させる第2クラッチ機構21の伝達トルクを所定値T_SUM1に低下させたものの、第2クラッチ機構21が解放されても第2クラッチの差回転が十分拡大しなかった場合に、トルクT_SUMを絶対値で増加させることで差回転を拡大できる。このためこの場合は、第2クラッチ機構21の解放判定の信頼性が向上する。
【0208】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0209】
例えば、上述した実施形態ではコントローラ7を単一のコントローラで実現する場合について説明したが、コントローラ7は複数のコントローラにより構成されてもよい。