(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】リン酸肥料、陶磁器及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C05B 17/00 20060101AFI20240209BHJP
C05G 5/10 20200101ALI20240209BHJP
B09B 3/35 20220101ALI20240209BHJP
B09B 101/60 20220101ALN20240209BHJP
【FI】
C05B17/00
C05G5/10
B09B3/35 ZAB
B09B101:60
(21)【出願番号】P 2022580449
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025132
(87)【国際公開番号】W WO2023276143
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390010216
【氏名又は名称】ニッコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】小島 朗裕
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明祐
(72)【発明者】
【氏名】木谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】滝本 幹夫
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-230917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
A47G 19/00 - 19/34
B65D 85/30 - 85/48
B65D 5/86
B65D 85/90
JSTPlus/JST5874/JST7580/JSTChina (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を主原料とするリン酸肥料。
【請求項2】
前記ボーンチャイナ製陶磁器は、JIS S2401に定められたリン酸三カルシウムを30%以上含有する磁器であり、
前記破砕物は、最大径3ミリメートル以下である
請求項1のリン酸肥料。
【請求項3】
ボーンチャイナ製陶磁器を破砕する工程と、
破砕されたボーンチャイナ製陶磁器を篩にかける工程と
を有するリン酸肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸肥料、陶磁器及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、けい酸源、りん酸源、およびカルシウム源を少なくとも含む混合原料を、1200~1400℃で焼成して製造するけい酸質肥料の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、鶏ガラを準備する工程と、鶏ガラを煮込み、鶏ガラから抽出された油脂を含有する煮汁、及び油脂を抽出された鶏骨の残渣を得る工程と、鶏ガラから抽出された油脂を収集して油脂の収集物を得る工程と、収集物を43℃以上に加熱してバーナに供給して燃焼させて、600℃以上の雰囲気下で鶏骨の残渣が白色になるまで焼成させる工程と、を含み、鶏骨に由来するHAPを含んで成る組成物を得る、鶏ガラに由来する廃棄物を再資源化させる方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、高ケイ酸質低品位リン鉱石に、ナトリウム化合物、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物をP2O5:Na2O:CaO(モル比)=1:1~2:4~6かつMgO:(CaO+MgO)(モル比)=0.05~0.30:1となるように添加し、焼成することを特徴とする焼成リン酸肥料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-043896号公報
【文献】特開2019-217460号公報
【文献】特開平05-262589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、陶磁器に由来する廃棄物を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るリン酸肥料は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を主原料とする。
【0007】
好適には、前記ボーンチャイナ製陶磁器は、JIS S2401に定められたリン酸三カルシウムを30%以上含有する磁器であり、前記破砕物は、最大径3ミリメートル以下である。
【0008】
また、本発明に係る陶磁器は、肥料として再利用可能なリン酸カルシウムを含有する。
【0009】
また、本発明に係るリン酸肥料の製造方法は、ボーンチャイナ製陶磁器を破砕する工程と、破砕されたボーンチャイナ製陶磁器を篩にかける工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、陶磁器に由来する廃棄物を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例におけるリン酸肥料のク溶性評価結果を示すグラフである。
【
図2】陶磁器のリン酸三カルシウムの含有量と、ク溶性リン酸濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を過剰に添加した場合の小松菜の育成試験結果を示す図である。
【
図5】ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物の粒径を振った場合の小松菜の育成結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
破損や表面の傷等で不要となった陶磁器は、一部陶磁器原料や外壁材の骨材等で利用されているが、ほとんどは産業廃棄物として埋め立て処分されている。その結果、環境に負荷を与え続けてきた。特にリン酸カルシウムを含有する陶磁器、中でも含有率の高いボーンチャイナ製陶磁器は、その高温での熔けやすさから、陶磁器としての再利用が困難であり、埋め立て処分されてきた。
また、現在SDGsの観点から、産業廃棄物を削減し、持続可能な社会とする活動が盛んになってきてはいるものの、その利用分野は限られている。
【0013】
このような状況の中で、本願発明者は、リン酸カルシウムを含有する陶磁器並びにボーンチャイナ製陶磁器の利用において、その化学成分からリン酸に注目し、リン酸肥料としての可能性に至り、肥料としての検討の粉末リン酸肥料として効果のあることを発見した。
そこで、本発明の実施形態では、リン酸カルシウムを含有する陶磁器並びにボーンチャイナ製陶磁器のうち、従来利用価値がほとんどなく産業廃棄物として埋め立て処分されていたものを植物育成のリン酸肥料として利用する。
なお、リン酸肥料としてのリンは、ほとんどを輸入に頼っており希少な資源であるためリンを含有する新しい肥料も期待されている。
【0014】
(原料:陶磁器)
本実施形態の陶磁器は、肥料として再利用可能なリン酸カルシウムを含有する陶磁器である。より具体的には、リン酸肥料の原料となる陶磁器は、ボーンチャイナ製陶磁器である。本例のリン酸肥料の原料となる陶磁器は、JIS S2401に定められたリン酸三カルシウムを30%以上含有する磁器(食器)である。
【0015】
(リン酸肥料)
本実施形態のリン酸肥料は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を主原料とする肥料である。より具体的には、リン酸肥料は、リン酸三カルシウムを30%以上含有する磁器の破砕物であって、最大径3ミリメートル以下の破砕物を主原料とする肥料である。本例のリン酸肥料は、ボーンチャイナ製の食器を破砕した破砕物のうち、70メッシュパス品である。
【0016】
(製造方法)
次に、リン酸肥料の製造方法を説明する。
[破砕工程]
まず、原料となるボーンチャイナ製食器を破砕機で破砕し、粒状の破砕物にする。
[篩工程]
次に、粒状の破砕物を篩にかけて、最大径3ミリメートル以下の破砕物を選別する。例えば、70メッシュの篩機にかけて選別する。
[混合工程]
最後に、選別された破砕物と、他の添加成分とを混合して、リン酸肥料とする。
【0017】
(実施例)
図1は、実施例におけるリン酸肥料のク溶性評価結果を示すグラフである。
ニッコー株式会社製のボーンチャイナ製食器を破砕し、各粒径の破砕物をリン酸肥料とした。
図1は、これらを2%クエン酸溶液に溶解させたときの溶解率を示す。
図1に示す溶解率から、破砕物の最大粒径は3mmが好ましい。
なお、ク溶性リン酸測定の方法は、「肥料等試験法(2020) 4.2.3.a バナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法」に準じた測定方法であり、30℃の2%クエン酸水溶液150mLに、破砕物(試料)1gを入れて、1時間抽出し、分光光度計(420nm)で測定した。
同様に、他社製のボーンチャイナ製陶磁器を粉末にして、ク溶性リン酸を評価したところ、ニッコー製が17.2%であるのに対して、A社製で15.3%、B社製で14.3%となっており、他社製のボーンチャイナ製陶磁器であっても、リン酸肥料の原料として使用できることがわかった。
【0018】
図2は、陶磁器のリン酸三カルシウムの含有量と、ク溶性リン酸濃度との関係を示すグラフである。
図2に示すように、ク溶性リン酸濃度は、陶磁器に含まれるリン酸三カルシウムの量にほぼ比例することがわかる。
【0019】
図3は、小松菜の育成試験結果を示す。川砂を基準培地として、小松菜を28日間育成した結果である。
図3において、実施例1は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を添加せず、窒素及びカリを含む液肥を与えて育成したものであり、実施例2は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を添加せず、窒素、リン酸及びカリを含む液肥を与えて育成したものであり、実施例3は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を1.3重量%添加し、窒素及びカリを含む液肥を与えて育成したものであり、実施例4は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を3.3重量%添加し、窒素及びカリを含む液肥を与えて育成したものである。ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を添加して育成したもの(実施例3及び4)は、窒素、リン酸及びカリを含む液肥を与えて育成したもの(実施例2)と比べても遜色なく、リン酸の添加が無い実施例1と比べて、有意な差を示している。
【0020】
図4は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を過剰に添加した場合の小松菜の育成試験結果を示す。
図4において、実施例2は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を3.3重量%(基準量)添加し、窒素及びカリを含む液肥を与えて育成したものであり、実施例3~5は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を、それぞれ基準量の2倍、3倍、4倍添加し、窒素及びカリを含む液肥を与えて育成したものである。
図4からわかるように、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物をリン酸源として過剰に添加しても、その影響はほとんど見られない。これは、小松菜が破砕物を必要な分だけ溶解吸収しているためであると考えられる。
【0021】
図5は、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物の粒径を振った場合の小松菜の育成結果を示す。
図5に示すように、破砕物の粒径が細かいほど、生育速度が早くなっている。
【0022】
以上説明したように、本実施形態におけるリン酸肥料によれば、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を緩効性肥料成分として活用できる。さらに、緩効性肥料は一般的に一定時間経過後肥料成分が出る場合がほとんどであるが、本例のリン酸肥料の場合、根からの溶解吸収を考えると即効性でもありかつ持続的に効果のある肥料といえる。
また、ボーンチャイナ製陶磁器の破砕物を肥料として再利用することにより、廃棄物の量を削減できる。