(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】スピニング加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/14 20060101AFI20240209BHJP
B21D 53/84 20060101ALN20240209BHJP
B21D 41/04 20060101ALN20240209BHJP
【FI】
B21D22/14 Z
B21D53/84 B
B21D41/04 B
(21)【出願番号】P 2023522278
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013229
(87)【国際公開番号】W WO2022244449
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021084289
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 安浩
(72)【発明者】
【氏名】早川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】江口 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康貴
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-062620(JP,A)
【文献】特開2002-066665(JP,A)
【文献】特開2002-361342(JP,A)
【文献】特許第4647140(JP,B2)
【文献】特許第6748992(JP,B2)
【文献】特許第6630300(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/14
B21D 53/84
B21D 41/04
B21D 22/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管の未加工の部分からなる本体部と、前記本体部の端部に形成され且つ前記本体部の断面とは形状及び/又は大きさが異なる断面を有する直管状の部分である先端部と、前記本体部と前記先端部との間に形成され且つ前記本体部側の端部から前記先端部側の端部へと向かうに従って前記本体部の断面形状から前記先端部の断面形状へと断面形状が変化し且つ前記本体部の内部空間と前記先端部の内部空間とを連通する筒状の部分である徐変部と、を備える筒状の部材である筒状体をスピニング加工によって前記素管から一体的に形成するスピニング加工方法であって、
前記素管の端部に前記徐変部を形成する工程である第1工程及び前記徐変部の前記本体部とは反対側の端部に前記先端部を形成する工程である第2工程の何れにおいても前記スピニング加工における成形具の公転軌道は円形であり、
少なくとも前記第1工程は、前記成形具の公転軸と前記素管の軸とを偏芯させることにより前記成形具の前記公転軌道の一部のみにおいて前記成形具を前記素管の周面の一部のみに接触させて前記素管の前記周面の前記一部のみを縮径させるスピニング加工である部分スピニング加工が実行される期間である部分スピニング期間を含む、
ことを特徴とする、スピニング加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたスピニング加工方法であって、
前記本体部の断面形状は、円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状であり、
前記先端部の断面形状は、円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状である、
ことを特徴とする、スピニング加工方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたスピニング加工方法であって、
前記本体部の軸と前記先端部の軸との相対的な位置関係は、同軸、偏芯、傾斜及び空間幾何学的ねじれの位置からなる群より選ばれる何れか1つである、
ことを特徴とする、スピニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工方法に関する。具体的には、本発明は、座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題を低減しつつ高い製造効率にて多様な断面形状に対応可能なスピニング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃機関を搭載する自動車用の排気浄化装置及び/又は消音器等の装置を収容する筒状の筐体は、一般的に、相対的に大きい断面積を有する筒状の部分である本体部と、相対的に小さい断面積を有する筒状の部分である先端部と、本体部と先端部との間に介在し本体部側から先端部側へ向かうにつれて小さくなる断面を有する筒状の部分であるテーパ部と、を有する。このような装置の用途によっては、例えば筐体が設置される空間及び/又は筐体の内部における流体(例えば排気等)の流れ等に対する要請から、本体部及び先端部の少なくとも一方の断面形状を非円形(例えば楕円形及び長円形並びに矩形及び三角形等の多角形等)とすることが必要となる場合がある。このように本体部及び先端部の少なくとも一方の断面形状を非円形とする場合の具体例としては、本体部の断面形状が非円形であり先端部の断面形状が非円形又は円形である場合及び本体部の断面形状が円形であり先端部の断面形状が非円形である場合を挙げることができる。
【0003】
例えば、楕円形の断面形状を有する素管(楕円管)の端部外周に成形具を押し付けつつ素管の回転軸線を中心として相対回転させると共に成形具を素管の中央側から端縁側へ向かうに従って素管の回転軸線に接近するように移動させることにより、素管の端部に中央側から端縁側へ向かうに従って小径となる円形の断面形状を有する先細り部を成形する方法が知られている。しかしながら、このような方法によってテーパ状の先細り部を形成すると、楕円管の短軸方向における外周と先細り部の外周との交差部に短軸方向に突出する突出部が形成されて、この突出部が他の部材に干渉するという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1(特許第4647140号公報)においては、素管の軸線に対する先細り部の傾斜角度が素管の中央側から端縁側へ向かうに従って漸次小さくなるように先細り部の母線を中凹の凹曲線とする成形方法が提案されている。これによれば、上記突出部の高さを低減することができるとされている。
【0005】
しかしながら、上記方法においては素管(楕円間)の回転軸線を中心として成形具を相対回転させるので、楕円管の長径と短径との差が大きい場合に例えば座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題が生じ易く加工限界が低い。特に、肉厚が薄い素管を用いる場合、当該問題がより顕著となる。斯かる問題を回避するための方策としては、例えば、スピニング加工において、素管が有する楕円形の断面形状から先細り部の楕円形の断面形状へと連続的に変化する軌道に沿うように成形具の動きを制御することが考えられる。しかしながら、このような複雑な制御を伴うスピニング加工において加工速度を高めることは困難であり、加工時間が長くなるという問題がある。
【0006】
更に、特許文献2(特許第4698890号公報)においては、素管部の端部に縮径部を形成してなる異形管を成形した後に、更なるスピニング加工によって突出部の突出量を減少させる加工方法が提案されている。当該加工方法によれば、スピニング加工用の成形具の上記異形管に対する公転中心線を偏芯させて当該偏芯方向とは逆側に位置する突出部にのみ成形具を押圧接触させることにより当該突出部の突出量を低減することができる。しかしながら、上記のように異形管の成形後に二次加工を行うことは、例えば異形管の製造効率の低下及び製造コストの増大等の問題に繋がる虞がある。
【0007】
加えて、特許文献3(特許第6748992号公報)においては、非円形の曲線断面を有する筒状体の本体部内に緩衝部材及び触媒担体を圧入すると共に筒状体の少なくとも一端部に対しスピニング加工を行う触媒コンバータの製造方法において、筒状体の本体部がクランプ部材によって保持された状態にて緩衝部材及び触媒担体を本体部内に圧入し、クランプ部材によって保持された状態のままで筒状体の少なくとも一端部に対しスピニング加工を行ってテーパ部を形成することが提案されている。これによれば、少なくとも本体部については上述したような突出部及び/又は意図しない変形の発生を低減することができる。しかしながら、例えば製造効率の低下及び製造コストの増大等の問題を低減する観点からは、クランプ部材のような付加的な部材を用いて本体部を保持する工程を必要としない技術がより望ましいことは言うまでも無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4647140号公報
【文献】特許第4698890号公報
【文献】特許第6748992号公報
【文献】特許第6630300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、当該技術分野においては、座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題を低減しつつ高い製造効率にて多様な断面形状に対応可能なスピニング加工方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は鋭意研究の結果、スピニング加工において円形の公転軌道に沿って回転する成形具の公転軌道の一部のみにおいて成形具を素管の周面の一部のみに接触させる期間を設けることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0011】
具体的には、本発明に係るスピニング加工方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、本体部と先端部と徐変部とを備える筒状の部材である筒状体をスピニング加工によって素管から一体的に形成するスピニング加工方法である。本体部は、素管の加工されていない領域からなる部分である。先端部は、本体部の端部に形成され且つ本体部の断面とは形状及び/又は大きさが異なる断面を有する直管状の部分である。徐変部は、本体部と先端部との間に形成され且つ本体部側の端部から先端部側の端部へと向かうに従って本体部の断面形状から先端部の断面形状へと断面形状が変化し且つ本体部の内部空間と先端部の内部空間とを連通する筒状の部分である。本発明方法は、素管の端部に徐変部を形成する工程である第1工程及び徐変部の本体部とは反対側の端部に先端部を形成する工程である第2工程を含む。
【0012】
更に、第1工程及び第2工程の何れにおいてもスピニング加工における成形具の公転軌道は円形である。加えて、少なくとも第1工程は、部分スピニング加工が実行される期間である部分スピニング期間を含む。部分スピニング加工とは、成形具の公転軸と素管の軸とを偏芯させることにより成形具の公転軌道の一部のみにおいて成形具を素管の周面の一部のみに接触させて素管の周面の一部のみを縮径させるスピニング加工である。
【0013】
本体部の断面形状は、円形、楕円形、長円形、矩形及び三角形からなる群より選ばれる1つの形状とすることができる。先端部の断面形状もまた、円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状とすることができる。本体部の断面形状と先端部の断面形状とは、同じであっても異なっていてもよい。また、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係は、同軸、偏芯、傾斜及び空間幾何学的ねじれの位置からなる群より選ばれる何れか1つとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明方法においては、上述した部分スピニング加工により素管の周面の一部のみを縮径させることができる。従って、本発明方法によれば、素管の長径と短径との差が大きい場合においても、例えば座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題を低減しつつ、多種多様な断面形状を有する素管から多種多様な断面形状を有する徐変部及び先端部を容易に成形することができる。
【0015】
更に、本発明方法に含まれる第1工程及び第2工程の何れにおいても、スピニング加工における成形具の公転軌道は円形である。即ち、前述した従来技術に係るスピニング加工方法(以降、「従来方法」と称呼される場合がある。)のように素管の断面形状から先端部の断面形状へと変化する徐変部の断面形状に沿うように成形具の動きを複雑に制御する必要が無い。従って、本発明方法によれば、加工速度を高めることができ、加工時間を短縮することができる。
【0016】
加えて、本発明方法においては、前述した従来方法のように筒状体の成形後に二次加工を行ったり付加的な部材を用いて本体部を保持したりする必要が無い。従って、本発明方法によれば、製造効率の低下及び製造コストの増大等の問題を低減することができる。
【0017】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施態様に係るスピニング加工方法(第1方法)の1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図2】
図1に例示した素管から筒状体が第1方法によって成形される過程の概要を例示する模式図である。
【
図3】
図1に例示した素管から筒状体が第1方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図4】第1方法のもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図5】
図4に例示した素管から筒状体が第1方法によって成形される過程の概要を例示する模式図である。
【
図6】本発明の第2実施態様に係るスピニング加工方法(第2方法)の1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図7】第2方法のもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図8】第2方法の更にもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図9】本発明の第3実施態様に係るスピニング加工方法(第3方法)の1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図10】
図9に例示した素管から筒状体を成形する第3方法に含まれる第1工程において第2ステップのみならず第1ステップにおいても成形具の公転軸に対して本体部の軸を偏芯させることにより本体部の軸に対して先端部の軸を偏芯させる過程を示す模式図である。
【
図11】第3方法のもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図12】第3方法の更にもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図13】第3方法の更にもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図14】第3方法の更にもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。
【
図15】
図4に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図16】
図6に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図17】
図7に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図18】
図8に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図19】
図9に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図20】
図11に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図21】
図12に例示した素管から筒状体が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
【
図22】特許文献4において開示された加工方法と本発明方法との組み合わせによって成形された筒状体の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係るスピニング加工方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0020】
第1方法は、本体部と先端部と徐変部とを備える筒状の部材である筒状体をスピニング加工によって素管から一体的に形成するスピニング加工方法である。素管を形成する材料は、スピニング加工によって所望の形状に成形することが可能である限り、特に限定されない。このような材料の具体例としては、例えばステンレス鋼等の金属材料を挙げることができる。スピニング加工の詳細については、当業者に周知であるので、ここでの説明は省略する。
【0021】
本体部は、筒状体の先端部及び徐変部以外の部分であり、典型的には素管の加工されていない領域からなる部分である。先端部は、本体部の端部に形成され且つ本体部の断面とは形状及び/又は大きさが異なる断面を有する直管状の部分である。即ち、第1方法によって成形される筒状体においては、先端部の断面形状と本体部の断面形状とが異なっているか、先端部の断面積と本体部の断面積とが異なっているか、或いは先端部の断面形状と本体部の断面形状とが異なっており且つ先端部の断面積と本体部の断面積とが異なっている。第1方法によって成形される筒状体における先端部の断面と本体部の断面との様々な組み合わせの具体例については後に詳述する。
【0022】
徐変部は、本体部と先端部との間に形成され且つ本体部側の端部から先端部側の端部へと向かうに従って本体部の断面形状から先端部の断面形状へと断面形状が変化し且つ本体部の内部空間と先端部の内部空間とを連通する筒状の部分である。典型的には、徐変部は本体部側の端部から先端部側の端部へと向かうに従って断面積が徐々に小さくなるテーパ状の縮径部である。但し、徐変部の断面は必ずしも全周に亘って縮径している必要は無く、縮径していない部分及び/又は拡径している部分が含まれていてもよい。また、本体部側の端部から先端部側の端部へと向かうに従って本体部の断面形状から先端部の断面形状へと断面形状が変化する変化率は必ずしも一定又は均等である必要は無い。例えば、徐変部の軸方向に沿って上記変化率が変化していてもよく、徐変部の軸周りに沿って上記変化率が変化していてもよい。
【0023】
第1方法は、素管の端部に徐変部を形成する工程である第1工程及び徐変部の本体部とは反対側の端部に先端部を形成する工程である第2工程を含む。上述したように第1方法は、本体部と先端部と徐変部とを備える筒状の部材である筒状体をスピニング加工によって素管から一体的に形成するスピニング加工方法である。従って、第1工程においてはスピニング加工によって素管の端部に徐変部が一体的に形成され、第2工程においてはスピニング加工によって徐変部の本体部とは反対側の端部に先端部が一体的に形成される。
【0024】
更に、第1工程及び第2工程の何れにおいてもスピニング加工における成形具の公転軌道は円形である。即ち、第1方法においては、前述した従来技術に係るスピニング加工方法(従来方法)のように本体部(素管)の断面形状から先端部の断面形状へと変化する徐変部の断面形状に沿うように成形具の動きを複雑に制御する必要が無い。従って、第1方法によれば、加工速度を高めることができ、加工時間を短縮することができる。
【0025】
加えて、少なくとも第1工程は、部分スピニング加工が実行される期間である部分スピニング期間を含む。部分スピニング加工とは、例えばローラ及びへら等の成形具の公転軸と素管の軸とを偏芯させることにより成形具の公転軌道の一部のみにおいて成形具を素管の周面の一部のみに接触させて素管の周面の一部のみを縮径させるスピニング加工である。即ち、第1方法においては、部分スピニング加工により素管の周面の一部のみを縮径させることができる。従って、素管の長径と短径との差が大きい場合においても例えば座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題を低減しつつ、多種多様な断面形状を有する素管(本体部)から多種多様な断面形状を有する徐変部及び先端部を容易に成形することができる。
【0026】
更に、前述した従来方法のように筒状体の成形後に二次加工を行ったり付加的な部材を用いて本体部を保持したりする必要が無い。従って、第1方法によれば、製造効率の低下及び製造コストの増大等の問題を低減することができる。
【0027】
ここで、図面を参照しながら、第1方法の幾つかの具体例について詳しく説明する。
図1は、第1方法の1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。(a)は素管11を中心軸AXの方向から観察した場合における正面図であり、楕円形の断面における長軸AL及び短軸ASがそれぞれ二点鎖線によって示されている。(b)は素管11を短軸ASの方向から観察した場合における左側面図であり、楕円形の断面の中心を通る中心軸AXが二点鎖線によって示されている。
【0028】
一方、(c)は第1方法によって素管11から成形される筒状体21を中心軸AXの方向から観察した場合における正面図であり、(d)は筒状体21を短軸ASの方向から観察した場合における左側面図である。(c)及び(d)においても、楕円形の断面における長軸AL及び短軸AS並びに楕円形の断面の中心を通る中心軸AXが二点鎖線によってそれぞれ示されている。(c)及び(d)に例示するように、筒状体21は本体部21aと先端部21bと徐変部21cとを備える筒状の部材である。
【0029】
本体部21aは、筒状体21の先端部21b及び徐変部21c以外の部分であり、素管11の加工されていない領域からなる部分である。先端部21bは、本体部21aの端部に形成された徐変部21cの本体部21aとは反対側の端部に形成され且つ本体部21aの楕円形の断面の短径よりも小さい直径を有する円形の断面を有する直管状の部分である。徐変部21cは、本体部21aと先端部21bとの間に形成され且つ本体部21a側の端部から先端部21b側の端部へと向かうに従って本体部21aの楕円形の断面形状から先端部21bの円形の断面形状へと断面形状が変化し且つ本体部21aの内部空間と先端部21bの内部空間とを連通する筒状の部分である。即ち、この場合、楕円形の断面形状を有する素管11の端部を第1方法によって加工して、より小さい円形の断面形状を有する直管状の先端部21bを成形する必要がある。
【0030】
次に、第1方法によって素管11から筒状体21が成形される過程について説明する。尚、以下の説明においては、素管、筒状体及び素管から筒状体へと成形される過程にある中間体が「ワーク」と総称される場合がある。
図2は、
図1に例示した素管11から筒状体21が第1方法によって成形される過程の概要を例示する模式図である。(a)、(c)及び(e)はワークを軸方向から観察した場合における正面図であり、ワークの楕円形の断面における長軸及び短軸がそれぞれ二点鎖線によって示されている(但し、符号AL及びASは省略した)。(b)、(d)及び(f)はワークを上記短径方向から観察した場合における左側面図であり、楕円形の断面の中心を通る中心軸が二点鎖線によって示されている(但し、符号AXは省略した)。
【0031】
図2においては、素管11、筒状体21及び素管11から筒状体21へと成形される過程にある中間体(ワーク)の形状が太い実線によって描かれ、第1方法において実行されるスピニング加工における成形具としてのローラ41が細い実線によって描かれている。尚、
図2に示す例においては2つのローラ41が公転軸を挟んで互いに対向する位置に配設されているが、第1方法において実行されるスピニング加工における成形具の数は2つに限定されるものではなく、1つであってもよく、或いは3つ以上であってもよい。
【0032】
更に、ローラ41の中心(自転軸)の公転軌道Tc及びローラ41の最内端の公転軌道Teがそれぞれ一点鎖線及び破線によって描かれている。上述したように、第1方法においては、素管11の端部に徐変部21cを形成する工程である第1工程及び徐変部21cの本体部21aとは反対側の端部に先端部21bを形成する工程である第2工程の何れにおいてもスピニング加工における成形具(ワーク41)の公転軌道Tc及びTeは円形である。
【0033】
上述したように、第1方法においては、先ず、素管11の端部に徐変部21cを形成する工程である第1工程が実行される。
図2に示す例においては、(a)及び(b)に例示するように、先ず、円形の公転軌道に沿って回転する(図中に示す実線の曲線矢印を参照)ローラ41によって素管11の楕円形の断面の長径の両端近傍の素管11の周面(以降、「長軸側周面」と称呼される場合がある。)を押圧して縮径させる。その結果、ワークの最終的に先端部21b及び縮径部21cとなる部分の断面形状が、(c)に例示するように、素管11(及び本体部21a)の断面形状に比べて、長軸方向において押し縮められた(縮径された)形状となる。以降、このようにワークの長軸側周面を成形具によって押圧して縮径させる過程を「第1ステップ」と称呼する場合がある。
【0034】
尚、第1ステップは、ローラ41の1回のパスによって実行してもよく或いは複数回のパスによって実行してもよい。また、第1ステップを複数回繰り返し実行した後に次のステップへと進んでもよい。更に、
図2の(a)及び(b)に例示した第1ステップにおいては、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とが一致する所謂「同軸スピニング加工」により、素管11の楕円形の断面の長径の両端近傍の素管11の周面(2つの長軸側周面)の両方を同時に押圧して縮径させた。しかしながら、詳しくは後述するように、第1ステップにおいても、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とを偏芯させて、素管11の楕円形の断面の長径の両端近傍の素管11の2つの周面(2つの長軸側周面)を個別に押圧して縮径させてもよい。
【0035】
次に、(c)に例示するように、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とを偏芯(オフセット)させて(図中に示す実線の直線矢印を参照)所謂「偏芯スピニング加工」を実行することにより、素管11の楕円形の断面の短径の両端近傍のワークの周面(以降、「短軸側周面」と称呼される場合がある。)の一方を押圧して縮径させる。これにより、ワークの周面の(d)において斜線が施された部分がローラ41の公転軌道に沿った形状に成形される。更に、
図2には例示しないが、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とを反対側に偏芯(オフセット)させて上記と同様に「偏芯スピニング加工」を実行することにより、素管11の楕円形の断面の短径の両端近傍のワークの周面(短軸側周面)の他方も上記と同様にローラ41の公転軌道に沿った形状に成形される。以降、このように偏芯スピニング加工によりワークの短軸側周面を成形具によって押圧して縮径させる過程を「第2ステップ」と称呼する場合がある。
【0036】
上記「偏芯スピニング加工」の各々においては、成形具としてのローラ41の公転軸と素管11の軸とを偏芯させることによりローラ41の最内端の公転軌道Teの一部のみにおいてローラ41を素管11の周面の一部のみに接触させて素管11の周面の一部のみを縮径させている。即ち、上記「偏芯スピニング加工」は上述した「部分スピニング加工」に該当し、上記「偏芯スピニング加工」が実行される期間は上述した「部分スピニング期間」に該当する。
【0037】
但し、
図1に例示したように、
図2に例示する第1方法において楕円形の断面形状を有する素管11から成形される筒状体21が備える先端部21bは、本体部21aの端部に形成された徐変部21cの本体部21aとは反対側の端部に形成され且つ本体部21aの楕円形の断面の短径よりも小さい直径を有する円形の断面を有する直管状の部分である。従って、素管11の端部に徐変部21cを形成する工程である第1工程の途中のある時点において、第1ステップ及び第2ステップの何れにおいてもローラ41の最内端の公転軌道Teの直径が本体部21aの楕円形の断面の短径よりも小さくなる。この時点以降は、ワークの全周に亘ってローラ41が接触する通常のスピニング加工を実行することにより、徐変部21cの断面形状が先端部21bの断面の形状及び大きさに一致するまで第1工程を継続することができる。
【0038】
上記のように、第1方法においては、部分スピニング加工が実行される期間である部分スピニング期間が必ずしも第1工程の全期間を占めている必要は無い。換言すれば、第1工程が実行される期間に部分スピニング期間が含まれていればよい。
【0039】
尚、第2ステップにおける一方及び他方の短軸側周面に対する偏芯スピニング加工もまた、ローラ41の1回のパスによって実行してもよく或いは複数回のパスによって実行してもよい。また、上述したように第1工程の途中のある時点以降において通常のスピニング加工が実行される場合、当該通常のスピニング加工もまた、ローラ41の1回のパスによって実行してもよく或いは複数回のパスによって実行してもよい。更に、第1ステップを実行した後に第2ステップを複数回繰り返し実行してもよい。尚、成形しようとする断面形状によっては、第1ステップの前に第2ステップを実行してもよい。更に、このような第1ステップと第2ステップとの組を繰り返し実行することにより、素管11の端部に徐変部21cを形成してもよい。
【0040】
図3は、上記のように第1工程において第1ステップと第2ステップとの組を繰り返し実行することにより素管11の端部に徐変部21cを形成する過程の詳細を例示する模式図である。尚、
図3においては描画スペースの都合上、符号は省略されている。
図3の(a)は
図2の(a)及び(b)に該当し、
図3の(b)は
図2の(c)及び(d)に該当する。
図3に示す例においては、(a)及び(b)において1回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行された後に(c)及び(d)において2回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。そして、(e)及び(f)において3回目及び4回目の第1ステップがそれぞれ実行される。
【0041】
次に、第1方法においては、上述した第1工程の後に、徐変部21cの本体部21aとは反対側の端部に先端部21bを形成する工程である第2工程が実行される。
図1の(c)及び(d)に例示した筒状体21が備える先端部21bは本体部21aと同軸に形成された円筒状の部分である。従って、
図2に例示した第1方法においては、通常の同軸スピニング加工によって第2工程を実施することにより、徐変部21cの本体部21aとは反対側の端部に先端部21bを形成することができる。これにより、
図1の(c)及び(d)並びに
図2の(e)及び(f)に例示した筒状体21の成形が完了する。尚、第2工程において実行されるスピニング加工もまた、ローラ41の1回のパスによって実行してもよく或いは複数回のパスによって実行してもよい。
【0042】
ここで、更なる図面を参照しながら、第1方法のもう1つの具体例について詳しく説明する。
図4は、第1方法のもう1つの具体例において使用される素管及び当該素管から成形される筒状体を示す模式図である。(a)は素管11を中心軸AXの方向から観察した場合における正面図であり、楕円形の断面における長軸AL及び短軸ASがそれぞれ二点鎖線によって示されている。(b)は素管11を短軸ASの方向から観察した場合における左側面図であり、楕円形の断面の中心を通る中心軸AXが二点鎖線によって示されている。
図4に例示する素管11は、
図1に例示した素管11と同じである。
【0043】
一方、(c)は第1方法によって素管11から成形される筒状体22を中心軸AXの方向から観察した場合における正面図であり、(d)は筒状体22を短軸ASの方向から観察した場合における左側面図である。(c)及び(d)においても、楕円形の断面における長軸AL及び短軸AS並びに楕円形の断面の中心を通る中心軸AXが二点鎖線によってそれぞれ示されている。(c)及び(d)に例示するように、筒状体22は本体部22aと先端部22bと徐変部22cとを備える筒状の部材である。
【0044】
本体部22aは、筒状体22の先端部22b及び徐変部22c以外の部分であり、素管11の加工されていない領域からなる部分である。先端部22bは、本体部22aの端部に形成された徐変部22cの本体部22aとは反対側の端部に形成され且つ本体部22aの楕円形の断面の長径及び短径よりも小さい長径及び短径をそれぞれ有する楕円形の断面を有する直管状の部分である。徐変部22cは、本体部22aと先端部22bとの間に形成され且つ本体部22a側の端部から先端部22b側の端部へと向かうに従って本体部22aの楕円形の断面形状から先端部22bの楕円形の断面形状へと断面形状が縮小し(即ち、縮径し)且つ本体部22aの内部空間と先端部22bの内部空間とを連通する筒状の部分である。即ち、この場合、楕円形の断面形状を有する素管11の端部を第1方法によって加工して、より小さい楕円形の断面形状を有する直管状の先端部22bを成形する必要がある。
【0045】
次に、第1方法によって素管11から筒状体22が成形される過程について説明する。
図5は、
図4に例示した素管11から筒状体22が第1方法によって成形される過程の概要を例示する模式図である。上述した
図2と同様に、(a)、(c)及び(e)はワークを軸方向から観察した場合における正面図であり、ワークの楕円形の断面における長軸及び短軸がそれぞれ二点鎖線によって示されている(但し、符号AL及びASは省略した)。(b)、(d)及び(f)はワークを上記短径方向から観察した場合における左側面図であり、楕円形の断面の中心を通る中心軸が二点鎖線によって示されている(但し、符号AXは省略した)。
【0046】
上述した
図2と同様に、
図5においても、素管11、筒状体22及び素管11から筒状体22へと成形される過程にある中間体(ワーク)の形状が太い実線によって描かれ、第1方法において実行されるスピニング加工における成形具としてのローラ41が細い実線によって描かれている。更に、ローラ41の中心(自転軸)の公転軌道Tc及びローラ41の最内端の公転軌道Teがそれぞれ一点鎖線及び破線によって描かれている。
図5に例示する第1方法においても、第1工程及び第2工程の何れにおいてもスピニング加工における成形具(ワーク41)の公転軌道Tc及びTeは円形である。
【0047】
図5に例示する第1方法においても、先ず、素管11の端部に徐変部22cを形成する工程である第1工程が実行される。具体的には、(a)及び(b)に例示すように、先ず、円形の公転軌道に沿って回転する(図中に示す実線の曲線矢印を参照)ローラ41によって素管11の長軸側周面を押圧して縮径させる。その結果、ワークの最終的に先端部22b及び縮径部22cとなる部分の断面形状が、(c)に例示するように、素管11(及び本体部22a)の断面形状に比べて、長軸方向において押し縮められた(縮径された)形状となる。即ち、上述した第1ステップが実行される。
【0048】
次に、(c)に例示するように、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とを偏芯(オフセット)させて(図中に示す実線の直線矢印を参照)所謂「偏芯スピニング加工」を実行することにより、素管11の楕円形の断面の短径の両端近傍の素管11の周面(以降、「短軸側周面」と称呼される場合がある。)の一方を押圧して縮径させる。これにより、ワークの周面の(d)において斜線が施された部分がローラ41の公転軌道に沿った形状に成形される。更に、図示しないが、素管11の中心軸とローラ41の公転軸とを反対側に偏芯(オフセット)させて上記と同様に「偏芯スピニング加工」を実行することにより、素管11の楕円形の断面の短径の両端近傍の素管11の周面(短軸側周面)の他方も上記と同様にローラ41の公転軌道に沿った形状に成形される。即ち、上述した第2ステップが実行される。尚、上述したように、上記「偏芯スピニング加工」は上述した「部分スピニング加工」に該当し、上記「偏芯スピニング加工」が実行される期間は上述した「部分スピニング期間」に該当する。
【0049】
第1工程は、上述した第1ステップ及び第2ステップを所定の回数だけ繰り返し実行することにより徐変部22cの本体部22aとは反対側の端部における断面形状が先端部22bの断面形状に一致するまで継続される。
【0050】
次に、第1方法においては、第1工程の後に、徐変部22cの本体部22aとは反対側の端部に先端部22bを形成する工程である第2工程が実行される。
図4の(c)及び(d)に例示した筒状体22が備える先端部22bは本体部21aと同軸に形成された楕円筒状の部分である。従って、
図5に例示した第1方法に含まれる第2工程においては、断面の形状及び大きさを維持しつつ、上述した第1工程と同様に第1ステップ及び第2ステップが所定の回数だけ繰り返し実行される。
【0051】
上記のように、第1方法においては、部分スピニング加工が実行される期間である部分スピニング期間が第1工程のみならず第2工程にも含まれていてもよい。
【0052】
尚、
図4及び
図5に例示した第1方法においても、
図1及び
図2に例示した第1方法と同様に、第1ステップを複数回繰り返し実行した後に第2ステップを実行してもよく、第1ステップを実行した後に第2ステップを複数回繰り返し実行してもよい。また、第1工程及び第2工程において実行される各スピニング加工をローラ41の1回のパスによって実行してもよく或いは複数回のパスによって実行してもよい。
【0053】
尚、上述した第1方法の2つの具体例においては、素管及び筒状体の本体部の断面形状が楕円形であり且つ筒状体の先端部の断面形状が円形及び楕円形である場合について説明した。しかしながら、第1方法が適用される素管及び筒状体の本体部の断面形状と筒状体の先端部の断面形状との組み合わせは上記に限定されず、多種多様な断面形状の組み合わせが可能である(詳しくは後述する)。また、上述した第1方法の2つの具体例においては、筒状体の本体部の軸と先端部の軸とが同軸である場合について説明した。しかしながら、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係は上記に限定されず、多種多様な位置関係が可能である(詳しくは後述する)。
【0054】
更に、例えば極めて高い寸法精度が筒状体に要求される場合等においては、例えば、上述した第1工程及び第2工程の後に、所期の寸法精度に対応する成形面を有する金型によるプレス加工に筒状体を付す追加工程等を第1方法が更に含んでもよい。この場合、第1工程及び第2工程の実行によって得られる筒状体の寸法が最終的に要求される筒状体の寸法よりも僅かに大きくなるようにしてもよい。
【0055】
加えて、筒状体の先端に形成される先端部は例えば筒状体と他の部材(例えば、排気管等)との接続部位として使用されることが一般的である。従って、筒状体の用途によっては、先端部に接続される部材に合わせて先端部を加工することが必要となる場合がある。このような場合等においては、例えば、上述した第1工程及び第2工程の後に、例えば切削加工等により先端部を二次加工する追加工程を第1方法が更に含んでもよい。
【0056】
以上説明してきたように、第1方法においては、上述した部分スピニング加工により素管の周面の一部のみを縮径させることができる。従って、第1方法によれば、素管の長径と短径との差が大きい場合においても、例えば座屈及び/又は意図せぬ変形等の問題を低減しつつ、多種多様な断面形状を有する素管から多種多様な断面形状を有する徐変部及び先端部を容易に成形することができる。
【0057】
更に、第1方法に含まれる第1工程及び第2工程の何れにおいても、スピニング加工における成形具の公転軌道は円形である。即ち、第1方法においては、前述した従来方法のように素管の断面形状から先端部の断面形状へと変化する徐変部の断面形状に沿うように成形具の動きを複雑に制御する必要が無い。従って、第1方法によれば、加工速度を高めることができ、加工時間を短縮することができる。
【0058】
加えて、第1方法においては、前述した従来方法のように筒状体の成形後に二次加工を行ったり付加的な部材を用いて本体部を保持したりする必要が無い。従って、第1方法によれば、製造効率の低下及び製造コストの増大等の問題を低減することができる。
【0059】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るスピニング加工方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0060】
上述した第1方法の2つの具体例においては、素管及び筒状体の本体部の断面形状が楕円形であり且つ筒状体の先端部の断面形状が円形及び楕円形である場合について説明した。しかしながら、第1方法が適用される素管及び筒状体の本体部の断面形状と筒状体の先端部の断面形状との組み合わせは上記に限定されず、多種多様な断面形状の組み合わせが可能である。
【0061】
具体的には、本体部の断面形状は、円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状とすることができる。一方、先端部の断面形状もまた、円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状とすることができる。ここでいう多角形には、例えば三角形、四角形(例えば、矩形、平行四辺形、菱形及び台形等)、五角形、六角形、七角形及び八角形等、多種多様な形状が含まれる。また、これらの多角形は、必ずしも線対称又は回転対称な形状でなくてもよい。尚、本体部の断面形状と先端部の断面形状とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0062】
そこで、第2方法は、上述した第1方法であって、本体部の断面形状が円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状であり、先端部の断面形状が円形、楕円形、長円形及び多角形からなる群より選ばれる何れか1つの形状であることを特徴とするスピニング加工方法である。
【0063】
本明細書において使用される「円形」、「楕円形」、「長円形」及び「多角形」なる用語によって表される図形は、必ずしも厳密な定義を満たす図形に限定されるものではなく、所謂「略円形」、「略楕円形」、「略長円形」及び「略多角形」なる用語によって表される図形をも含むことができる。具体的には、円形には、真円のみならず、当業者によって円形と認められる限りにおいて、ある程度の寸法誤差を有するものも含まれる。楕円形及び長円形(「レーストラック形」とも称呼される)についても同様である。また、多角形には、当業者によって多角形と認められる限りにおいて、個々の辺は必ずしも完全な直線でなくてもよく、隣り合う2つの辺を構成する2本の直線の交わりによって角部が構成されていなくてもよい。例えば、矩形の場合、4つの辺の少なくとも1つが緩やかな曲線によって構成されていてもよく、隣り合う辺が交わる角度は必ずしも90°でなくてもよい。更に、例えば角丸長方形及び面取りされた長方形等も矩形に含まれる。三角形等の他の多角形についても同様である。
【0064】
上述した第1方法に関する説明においては、
図1の(c)及び(d)に例示したように本体部の断面形状が楕円形であり且つ先端部の断面形状が円形である場合及び
図4の(c)及び(d)に例示したように本体部の断面形状が楕円形であり且つ先端部の断面形状もまた楕円形である場合を例示した。しかしながら、
図6に例示するように、本体部23aの断面形状が円形であり且つ先端部23bの断面形状が楕円形であってもよい。また、
図7に例示するように、本体部24aの断面形状が矩形(角丸長方形)であり且つ先端部24bの断面形状が円形であってもよい。更に、
図8に例示するように、本体部25aの断面形状が矩形(角丸長方形)であり且つ先端部25bの断面形状が楕円形であってもよい。
【0065】
以上のように、第2方法によれば、上述した第1方法によって達成される効果を享受しつつ、多種多様な断面形状を有する素管から多種多様な断面形状を有する徐変部及び先端部を容易に成形することができる。
【0066】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係るスピニング加工方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0067】
上述した第1方法の2つの具体例及び第2方法の3つの具体例においては、筒状体の本体部の軸と先端部の軸とが同軸である場合について説明した。しかしながら、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係は上記に限定されず、多種多様な位置関係が可能である。具体的には、例えば、本体部の軸と先端部の軸とが平行ではあるもののずれて(偏芯して)いてもよく、本体部の軸と先端部の軸とが同一平面内において所定の角度にて交差して(傾斜して)いてもよく、或いは本体部の軸と先端部の軸とが平行ではなく且つ交差しない所謂「空間幾何学的ねじれの位置」にあってもよい。
【0068】
そこで、第3方法は、上述した第1方法又は第2方法であって、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係は、同軸、偏芯、傾斜及び空間幾何学的ねじれの位置からなる群より選ばれる何れか1つであることを特徴とするスピニング加工方法である。
【0069】
本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が同軸ではない筒状体の幾つかの例につき、以下に図面を参照しながら説明する。
【0070】
先ず、
図9は、第3方法の1つの具体例において使用される素管11及び当該素管11から成形される筒状体26を示す模式図である。
図9に例示する素管11は、
図1及び
図4に例示した素管11と同じである。一方、
図9に例示する筒状体26は、素管11と同じ楕円形の断面形状を有する本体部26aの軸に対して円形の断面形状を有する先端部26bの軸が図面に向かって左側へ偏芯している点を除き、
図1に例示した筒状体21と同様の構成を有する。このような偏芯は、素管11の端部(本体部26aの端部)に徐変部26bを形成する工程である第1工程においてワークの縮径量が図面に向かって左側よりも右側の方が大きくなるように部分スピニング加工におけるローラ41の公転軸とワークの軸との相対的な位置関係を設定することにより達成することができる。
【0071】
具体的には、第1工程において実行される第2ステップにおけるローラ41の公転軸に対するワークの本体部26aの軸の偏芯量を、本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の偏芯方向と同じ側の短軸側周面に対しては相対的に小さく設定し、本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の偏芯方向とは反対側の短軸側周面に対しては相対的に大きく設定する。加えて、
図10に例示するように、長軸側周面を押圧して縮径させる第1ステップにおいても、ローラ41の公転軸に対するワークの本体部26aの軸を(本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の)偏芯方向とは反対側へ偏芯させる(図中に示す直線矢印を参照)。これにより、所期の方向及び変位にて偏芯を達成して、徐変部26bの先端側(本体部26aとは反対側)の端部における断面の形状及び位置が先端部26bの断面の形状及び位置とそれぞれ一致させることにより達成することができる。
【0072】
次に、
図11は、第3方法のもう1つの具体例において使用される素管11及び当該素管11から成形される筒状体27を示す模式図である。
図11に例示する素管11は、
図1、
図4、
図9及び
図10に例示した素管11と同じである。一方、
図11に例示する筒状体27は、素管11と同じ楕円形の断面形状を有する本体部26aの軸に対して円形の断面形状を有する先端部26bの軸が図面に向かって左上側へ偏芯している点を除き、
図1に例示した筒状体21及び
図9に例示した筒状体26と同様の構成を有する。このような偏芯は、
図9及び
図10に例示した筒状体26の場合と同様に、素管11の端部(本体部27aの端部)に徐変部27bを形成する工程である第1工程において実行される部分スピニング加工におけるローラ41の公転軸とワークの軸との相対的な位置関係を適宜設定することにより達成することができる(詳しくは後述する)。
【0073】
次に、
図12は、第3方法の更にもう1つの具体例において使用される素管13及び当該素管13から成形される筒状体28を示す模式図である。
図12に例示する素管13は、
図7及び
図8に例示した素管13と同じである。一方、
図12に例示する筒状体28は、素管13と同じ矩形(角丸長方形)の断面形状を有する本体部28aの軸に対して円形の断面形状を有する先端部28bの軸が図面に向かって左上側へ偏芯している点を除き、
図7に例示した筒状体24と同様の構成を有する。このような偏芯は、
図11に例示した筒状体27の場合と同様に、素管13の端部(本体部28aの端部)に徐変部28bを形成する工程である第1工程において実行される部分スピニング加工におけるローラ41の公転軸とワークの軸との相対的な位置関係を適宜設定することにより達成することができる(詳しくは後述する)。
【0074】
第3方法に関する上記説明においては、筒状体の本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が偏芯である場合について例示した。しかしながら、スピニング加工において当業者が周知の手法を適用することにより、筒状体の本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が同軸、傾斜又は空間幾何学的ねじれの位置である筒状体もまた第3方法によって容易に成形することができる。
【0075】
例えば、
図13は、第3方法の更なる具体例において使用される素管13及び当該素管13から成形され且つ本体部29aの軸と先端部29bの軸とが傾斜している筒状体29を示す模式図である。このような筒状体29は、徐変部29cを成形する第1工程において素管13の短軸(即ち、本体部29aの短軸)に平行な軸の周りにワークを所定の角度だけ回転させながらスピニング加工を施すことによって成形することができる。一方、
図14は、第3方法の更なる具体例において使用される素管13及び当該素管13から成形され且つ本体部30aの軸と先端部30bの軸との相対的な位置関係が空間幾何学的ねじれの位置である筒状体30を示す模式図である。尚、
図14の(e)は、筒状体30を長軸ALの方向において上方から観察した場合における上面図(頂面図)である。
【0076】
尚、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係を同軸、傾斜及び空間幾何学的ねじれの位置からなる群より選ばれる何れか1つとすることができるスピニング加工の具体的な手順については当業者に周知であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0077】
また、筒状体の本体部の断面形状と先端部の断面形状とが同じ形状であっても或いは異なる形状であっても、当該筒状体を第3方法により成形することができる。尚、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が同軸であり且つ本体部の断面形状及び先端部の断面形状が何れも円形である場合は通常のスピニング加工によって筒状体を成形することができるが、このような筒状体を第3方法によって成形してもよい。
【0078】
以上のように、第3方法によれば、上述した第1方法及び/又は第2方法によって達成される効果を享受しつつ、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が同軸、偏芯、傾斜及び空間幾何学的ねじれの位置からなる群より選ばれる何れか1つである筒状体を容易に成形することができる。
【実施例】
【0079】
以上のように説明してきた第1方法乃至第3方法を始めとする本発明に係るスピニング加工方法(本発明方法)の様々な実施例につき、以下に図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する各種実施例は例示に過ぎない。本発明方法の具体的な構成(例えば、第1工程において実行される第1ステップ及び第2ステップの回数及び順序並びに第1ステップ及び第2ステップにおける成形具のパスの数等)は、本発明方法によって成形しようとする筒状体の形状に応じて適宜定めることができる。
【0080】
(1)楕円形から円形への同軸スピニング加工
円形の断面形状を有し且つ本体部21aと同軸に位置する先端部21bを備える筒状体21を楕円形の断面形状を有する素管11から成形する本発明方法については、
図1乃至
図3を参照しながら既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0081】
(2)楕円形から楕円形への同軸スピニング加工
楕円形の断面形状を有し且つ本体部22aと同軸に位置する先端部22bを備える筒状体22を楕円形の断面形状を有する素管11から成形する本発明方法については、
図4及び
図5を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図5は
図4に例示した素管11から筒状体22が成形される過程の概要を例示する模式図であるので、ここで改めて当該成形過程の詳細について説明する。
【0082】
図15は、
図4に例示した素管11から筒状体22が第1方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
図15及び後に参照される
図16乃至
図21においても、前述した
図3と同様に、描画スペースの都合上、符号は省略されている。また、
図15及び後に参照される
図16乃至
図21においては、図面に向かって上下方向が異形断面を有する部分の長軸方向であり、図面に向かって左右方向が異形断面を有する部分の短軸方向である。即ち、ワークの図面に向かって上下の周面が長軸側周面であり、ワークの図面に向かって左右の周面が短軸側周面である。
【0083】
図15の(a)は
図5の(a)及び(b)に該当し、
図15の(b)は
図5の(c)及び(d)に該当する。
図15に示す例においては、(a)及び(b)において1回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行された後に(c)及び(d)において2回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。そして、(e)及び(f)において3回目及び4回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。これにより、徐変部22cの先端側(本体部22aとは反対側)の端部の断面形状を、楕円形の断面形状を有する先端部22bの断面形状と同じ断面形状とすることができる。即ち、徐変部22cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0084】
次に、徐変部22cの先端側の端部に先端部22bを形成する工程である第2工程が実行される。
図4の(c)及び(d)に例示した筒状体22が備える先端部22bは本体部22aと同軸に形成された楕円筒状の部分である。従って、第2工程においては、断面の形状及び大きさを維持しつつ、上述した第1工程と同様に第1ステップ及び第2ステップが所定の回数だけ繰り返し実行され、先端部22bが成形される。これにより、
図4の(c)及び(d)並びに
図5の(e)及び(f)に例示した筒状体22の成形が完了する。
【0085】
(3)円形から楕円形への同軸スピニング加工
楕円形の断面形状を有し且つ本体部23aと同軸に位置する先端部23bを備える筒状体23を円形の断面形状を有する素管12から成形する本発明方法については、
図6を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図6に例示した素管12から筒状体23が成形される過程の詳細については説明されていないので、ここで当該成形過程の詳細について説明する。
【0086】
図16は、
図6に例示した素管12から筒状体23が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。先ず、(a)及び(b)において、第2ステップが2回連続して実行される。具体的には、(a)において、円形の断面形状を有する素管12の短軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。次いで、(b)において、ワークの短軸側周面に対して2回目の部分スピニング加工が施される。次に、(c)及び(d)において、第1ステップと第2ステップとの組が実行される。具体的には、(c)においてワークの長軸側周面に対して部分スピニング加工が施され、(d)においてワークの短軸側周面に対して部分スピニング加工が施される。
【0087】
次に、(e)及び(f)において第1ステップと第2ステップとの組がもう1回実行され、(g)及び(h)において第1ステップと第2ステップとの組が更にもう1回実行される。最後に、(i)において最後の第1ステップが実行される。これにより、徐変部23cの先端側(本体部23aとは反対側)の端部の断面形状を、楕円形の断面形状を有する先端部23bの断面形状と同じ断面形状とすることができる。即ち、徐変部23cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0088】
次に、徐変部23cの先端側の端部に先端部23bを形成する工程である第2工程が実行される。
図6の(c)及び(d)に例示した筒状体23が備える先端部23bは本体部23aと同軸に形成された楕円筒状の部分である。従って、第2工程においては、断面の形状及び大きさを維持しつつ、上述した第1工程と同様に第1ステップ及び第2ステップが所定の回数だけ繰り返し実行され、先端部23bが成形される。これにより、
図6の(c)及び(d)並びに
図16の(j)に例示した筒状体23の成形が完了する。
【0089】
(4)矩形(角丸長方形)から円形への同軸スピニング加工
円形の断面形状を有し且つ本体部24aと同軸に位置する先端部24bを備える筒状体24を矩形(角丸長方形)の断面形状を有する素管13から成形する本発明方法については、
図7を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図7に例示した素管13から筒状体24が成形される過程の詳細については説明されていないので、ここで当該成形過程の詳細について説明する。
【0090】
図17は、
図7に例示した素管13から筒状体24が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。先ず、(a)及び(b)において、1回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。具体的には、(a)において、矩形の断面形状を有する素管13の短軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。但し、この段階においては素管13の断面において中心軸から最も外側に位置する部分は矩形の断面形状の角部であるので、部分スピニング加工は角部に施されることとなる。次いで、(b)において、ワークの長軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。
【0091】
同様に、(c)及び(d)において2回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。その結果、ワークの角部のみならず短軸側周面の短径の両端近傍の領域にもローラが接触するようになっている。次いで、(e)及び(f)において3回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。その結果、素管13の端部に徐変部24cを形成する工程である第1工程の途中のこの時点において、ローラの最内端の公転軌道の直径が本体部24aの矩形の断面の短軸方向における寸法(短辺)よりも小さくなる。この時点以降は、(g)及び(h)に例示するように、ワークの全周に亘ってローラが接触する通常の同軸スピニング加工を実行することにより、徐変部24cの断面形状及び大きさが先端部24bの断面の形状及び大きさに一致するまで第1工程を継続する。これにより、徐変部24cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0092】
次に、徐変部24cの先端側の端部に先端部24bを形成する工程である第2工程が実行される。
図7の(c)及び(d)に例示した筒状体24が備える先端部24bは本体部24aと同軸に形成された円筒状の部分である。従って、第2工程においては、断面形状及び大きさを維持しつつ、通常の同軸スピニング加工が実行され、先端部24bが成形される。これにより、
図7の(c)及び(d)並びに
図17の(i)に例示した筒状体24の成形が完了する。
(5)矩形(角丸長方形)から楕円形への同軸スピニング加工
楕円形の断面形状を有し且つ本体部25aと同軸に位置する先端部25bを備える筒状体25を矩形(角丸長方形)の断面形状を有する素管13から成形する本発明方法については、
図8を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図8に例示した素管13から筒状体25が成形される過程の詳細については説明されていないので、ここで当該成形過程の詳細について説明する。
【0093】
図18は、
図8に例示した素管13から筒状体25が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。先ず、(a)及び(b)において、1回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。具体的には、(a)において、矩形の断面形状を有する素管13の短軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。この場合もまた、
図17に示した例と同様に、この段階においては素管13の断面において中心軸から最も外側に位置する部分は矩形の断面形状の角部であるので、部分スピニング加工は角部に施されることとなる。次いで、(b)において、ワークの長軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。
【0094】
同様に、(c)及び(d)において2回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。この例においては、当該2回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される時点において、ワークの角部のみならず短軸側周面の短径の両端近傍の領域にもローラが接触するようになっている。次いで、(e)及び(f)において3回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行され、(g)及び(h)において4回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。その結果、徐変部25cの断面形状が先端部25bの断面の形状及び大きさに一致する。即ち、徐変部25cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0095】
次に、徐変部25cの先端側の端部に先端部25bを形成する工程である第2工程が実行される。
図8の(c)及び(d)に例示した筒状体25が備える先端部245は本体部25aと同軸に形成された楕円筒状の部分である。従って、第2工程においては、断面の形状及び大きさを維持しつつ、上述した第1工程と同様に第1ステップ及び第2ステップが所定の回数だけ繰り返し実行され、先端部25bが成形される。これにより、
図8の(c)及び(d)に例示した筒状体25の成形が完了する。
【0096】
(6)楕円形から円形への偏芯スピニング加工
上述した(1)乃至(5)においては何れも本体部と同軸に位置する先端部を備える筒状体を成形する本発明方法について説明してきた。当該(6)以降の説明においては、本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が偏芯である筒状体を成形する本発明方法について説明する。
【0097】
円形の断面形状を有し且つ本体部26aに対して図面に向かって左側へ偏芯した先端部26bを備える筒状体26を楕円形の断面形状を有する素管11から成形する本発明方法については、
図9及び
図10を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図10は、
図9に例示した素管から筒状体を成形する本発明方法に含まれる第1工程において第2ステップのみならず第1ステップにおいても成形具の公転軸に対して本体部の軸を偏芯させることにより本体部の軸に対して先端部の軸を偏芯させる過程の概要を例示する模式図であるので、ここで改めて当該成形過程の詳細について説明する。
【0098】
図19は、
図9に例示した素管11から筒状体26が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
図19に示す例においては、(a)及び(b)において1回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行された後に、(c)及び(d)において2回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。そして、(e)及び(f)において3回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。この際、第2ステップにおけるローラの公転軸に対するワークの本体部26aの軸の偏芯量を、本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の偏芯方向(図面に向かって左側)とは反対側(図面に向かって右側)の短軸側周面に対しては相対的に大きく設定し、本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の偏芯方向と同じ側(図面に向かって左側)の短軸側周面に対しては相対的に小さく設定する(図中に示す直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左側へと偏芯される。
【0099】
次に、(g)において4回目の第1ステップが実行され、その結果、素管11の端部に徐変部26cを形成する工程である第1工程の途中のこの時点において、ワークの断面形状が(先端部26bの直径よりも大きい直径を有する)円形になる。この時点以降は、(h)に例示するように、ワークの全周に亘ってローラが接触することができるので、通常の偏芯スピニング加工を実行することにより、徐変部26cの断面形状及び大きさが先端部26bの断面の形状及び大きさに一致する(即ち、先端部26bの断面形状と同じ直径を有する円形の断面形状となる)まで第1工程を継続する。これにより、徐変部26cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0100】
尚、
図19に示した例においては上記のように3回目に実行される第2ステップにおいてローラの公転軸に対してワークの本体部26aの軸を偏芯させたが、目標とする徐変部26cの形状によっては2回目以前に実行される第2ステップにおいてローラの公転軸に対してワークの本体部26aの軸を偏芯させてもよい。また、
図10に例示したように、長軸側周面を押圧して縮径させる第1ステップにおいてローラの公転軸に対するワークの本体部26aの軸を(本体部26aの軸に対する先端部26bの軸の)偏芯方向とは反対側へ偏芯させてもよい。
【0101】
次に、徐変部26cの本体部26aとは反対側の端部に先端部26bを形成する工程である第2工程が実行される。
図10の(c)及び(d)に例示した筒状体26が備える先端部26bは本体部26aの軸に平行な軸を有する円筒状の部分である。従って、当該第2工程においては、更なる偏芯を伴わない通常のスピニング加工により、徐変部26cの本体部26aとは反対側の端部に先端部26bを形成することができる。これにより、
図9の(c)及び(d)並びに
図10の(c)に例示した筒状体26の成形が完了する。
【0102】
(7)楕円形から円形への偏芯スピニング加工
円形の断面形状を有し且つ本体部27aに対して図面に向かって左上側へ偏芯した先端部27bを備える筒状体27を楕円形の断面形状を有する素管11から成形する本発明方法については、
図11を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図11に例示した素管11から筒状体27が成形される過程の詳細については説明されていないので、ここで当該成形過程の詳細について説明する。
【0103】
前述したように、
図11に例示した素管11は、
図1、
図4、
図9及び
図10に例示した素管11と同じである。一方、
図11に例示する筒状体27は、素管11と同じ楕円形の断面形状を有する本体部26aの軸に対して円形の断面形状を有する先端部26bの軸が図面に向かって左上側へ偏芯している点を除き、
図1に例示した筒状体21及び
図9に例示した筒状体26と同様の構成を有する。
【0104】
図20は、
図11に例示した素管11から筒状体27が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。
図20に示す例においては、(a)及び(b)において1回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行された後に、(c)及び(d)において2回目の第1ステップと第2ステップとの組が実行される。この際、(c)において実行される第1ステップにおいて、ローラの公転軸に対してワークの本体部27aの軸が図面に向かって下側へと偏芯されている(図中に示す直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって上側へと偏芯される。次いで、(d)において実行される第2ステップにおいては、ローラの公転軸に対するワークの本体部27aの軸を図面に向かって下側へと偏芯させると共に、図面に向かって左右方向における偏芯量については、図面に向かって右側への偏芯量が左側への偏芯量よりも大きくなるように設定されている(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左上側へと偏芯される。
【0105】
次いで、(e)及び(f)において、3回目及び4回目の第1ステップがそれぞれ実行される。この際、(e)及び(f)の何れにおいても、ローラの公転軸に対してワークの本体部27aの軸が図面に向かって右下側へと偏芯されている(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左上側へと更に偏芯される。この時点において、ワークの断面形状が(先端部27bの直径よりも大きい直径を有する)円形になる。この時点以降は、(g)に例示するように、ワークの全周に亘ってローラが接触することができるので、通常の偏芯スピニング加工を実行することにより、徐変部27cの断面形状及び大きさが先端部27bの断面の形状及び大きさに一致する(即ち、先端部27bの断面形状と同じ直径を有する円形の断面形状となる)まで第1工程を継続する。これにより、徐変部27cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0106】
次に、徐変部27cの本体部27aとは反対側の端部に先端部27bを形成する工程である第2工程が実行される。
図11の(c)及び(d)に例示した筒状体27が備える先端部27bは本体部27aの軸に平行な軸を有する円筒状の部分である。従って、当該第2工程においては、更なる偏芯を伴わない通常のスピニング加工により、徐変部27cの本体部27aとは反対側の端部に先端部27bを形成することができる。これにより、
図11の(c)及び(d)並びに
図20の(h)に例示した筒状体27の成形が完了する。
【0107】
(8)矩形(角丸長方形)から円形への偏芯スピニング加工
円形の断面形状を有し且つ本体部28aに対して図面に向かって左上側へ偏芯した先端部28bを備える筒状体28を矩形(角丸長方形)の断面形状を有する素管13から成形する本発明方法については、
図12を参照しながら既に説明した。しかしながら、
図15に例示した素管13から筒状体28が成形される過程の詳細については説明されていないので、ここで当該成形過程の詳細について説明する。
【0108】
前述したように、
図12に例示した素管13は、
図7及び
図8に例示した素管13と同じである。一方、
図12に例示した筒状体28は、素管13と同じ矩形(角丸長方形)の断面形状を有する本体部28aの軸に対して円形の断面形状を有する先端部28bの軸が図面に向かって左上側へ偏芯している点を除き、
図7に例示した筒状体24と同様の構成を有する。
【0109】
図21は、
図12に例示した素管13から筒状体28が本発明方法によって成形される過程の詳細を例示する模式図である。先ず、(a)及び(b)において、1回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。
図17を参照しながら説明した
図7に例示した筒状体24の成形過程と同様に、(a)においては、素管13の断面において中心軸から最も外側に位置する部分は矩形の断面形状の角部であるので、短軸側周面に対する部分スピニング加工は角部に施されることとなる。次いで、(b)において、ワークの長軸側周面に対して1回目の部分スピニング加工が施される。この際、ローラの公転軸に対してワークの本体部28aの軸が図面に向かって下側及び右側へと偏芯されている(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左上側へと偏芯される。
【0110】
次いで、(c)及び(d)において2回目の第2ステップと第1ステップとの組が実行される。この際、(c)において実行される2回目の第2ステップにおいて、ローラの公転軸に対するワークの本体部28aの軸を図面に向かって下側へと偏芯させると共に、図面に向かって左右方向における偏芯量については、図面に向かって右側への偏芯量が左側への偏芯量よりも大きくなるように設定されている(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左上側へと更に偏芯される。(d)において実行される2回目の第1ステップにおいては、ローラの公転軸に対してワークの本体部28aの軸が、(b)において実行された1回目の第1ステップよりも大幅に、図面に向かって下側及び右側へと偏芯されている(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。その後(e)及び(f)において実行される3回目の第2ステップと第1ステップとの組においても、ローラの公転軸に対してワークの本体部28aの軸が図面に向かって下側及び右側へと更に大幅に偏芯される(それぞれの図中に示す2本の直線矢印を参照)。これにより、ワークの断面の中心が図面に向かって左上側へと更に偏芯される。
【0111】
この時点以降は、(g)及び(h)に例示するように、ワークの全周に亘ってローラが接触することができるので、通常の偏芯スピニング加工を実行することにより、徐変部28cの断面形状及び大きさが先端部28bの断面の形状及び大きさに一致する(即ち、先端部28bの断面形状と同じ直径を有する円形の断面形状となる)まで第1工程を継続する。これにより、徐変部28cの成形が完了し、第1工程が終了する。
【0112】
次に、徐変部28cの先端側の端部に先端部28bを形成する工程である第2工程が実行される。
図12の(c)及び(d)に例示した筒状体28が備える先端部28bは本体部28aの軸に平行な軸を有する円筒状の部分である。従って、当該第2工程においては、更なる偏芯を伴わない通常のスピニング加工により、徐変部28cの本体部28aとは反対側の端部に先端部28bを形成することができる。これにより、
図12の(c)及び(d)並びに
図21の(i)に例示した筒状体27の成形が完了する。
【0113】
(9)補足
上記説明においては、筒状体の本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が偏芯である場合について例示した。しかしながら、スピニング加工において当業者が周知の手法を適用することにより、筒状体の本体部の軸と先端部の軸との相対的な位置関係が同軸、傾斜又は空間幾何学的ねじれの位置である筒状体もまた本発明に係るスピニング加工方法(本発明方法)によって容易に成形することができる。
【0114】
また、例えば極めて高い寸法精度が筒状体に要求される場合等においては、前述したように、例えば、上述した第1工程及び第2工程の後に、所期の寸法精度に対応する成形面を有する金型によるプレス加工に筒状体を付す追加工程等を本発明方法が更に含んでもよい。この場合、第1工程及び第2工程の実行によって得られる筒状体の寸法が最終的に要求される筒状体の寸法よりも僅かに大きくなるようにしてもよい。加えて、筒状体の用途によっては、例えば、上述した第1工程及び第2工程の後に、例えば、先端部に接続される部材(例えば、排気管等)に合わせて切削加工等により先端部を二次加工する追加工程等を本発明方法が更に含んでもよい。
【0115】
更に、筒状体の用途によっては、筒状体の先端部以外の箇所において更なる加工が必要とされる場合がある。具体的には、例えば、筒状体の徐変部に精度良く座面を形成したり当該座面に穿孔を施したりすることが必要となる場合がある。このような場合等においては、例えば特許文献4(特許第6630300号公報)において開示された加工方法を本発明方法に組み合わせてもよい。具体的には、本発明方法によって成形された筒状体の両端にある開口端の少なくとも一方に開口芯金を挿入して支持・拘束し且つ徐変部の少なくとも一部は支持・拘束しない状態にて徐変部の所定の領域に座押パンチを押圧して座面を形成した後に座面の外縁内の所定の領域に孔開パンチを穿って穿孔してもよい。
【0116】
図22は、特許文献4において開示された加工方法と本発明方法との組み合わせによって成形された筒状体の一例を示す模式図である。
図22に例示する筒状体31は、上述した
図9、
図10及び
図19に例示した筒状体26と同様に本体部31aと先端部31bと徐変部31cとを備え且つ特許文献4において開示された加工方法によって徐変部31cに形成された座面31d及び貫通孔31eを備える。
図22に例示するように、上記組み合わせによれば、本発明方法によって達成される効果に加えて、筒状体の徐変部に精度良く座面を形成し且つ穿孔を施すことができるので、多種多様な断面形状を有する筒状体の徐変部に高い寸法精度にて座面及び貫通孔を形成することができる。
【0117】
尚、これまでの説明においては、ワークの長軸側周面を成形具によって押圧して縮径させる第1ステップ及びワークの短軸側周面を成形具によって押圧して縮径させる第2ステップの両方が第1工程において実行されていた。しかしながら、例えば、素管の周長(即ち本体部の周長)に等しい周長を有し且つ素管の断面形状(即ち本体部の断面形状)とは異なる断面形状を有する徐変部及び先端部を備える筒状体を成形する場合は、必ずしも第1ステップ及び第2ステップの両方を第1工程において実行する必要は無い。
【0118】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び実施例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0119】
11,12,13…素管
21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31…筒状体
21a,22a,23a,24a,25a,26a,27a,28a,29a,30a,31a…本体部
21b,22b,23b,24b,25b,26b,27b,28b,29b,30b,31b…先端部
21c,22c,23c,24c,25c,26c,27c,28c,29c,30c,31c…徐変部
41…ローラ(成形具)
AL…断面の長軸
AS…断面の短軸
AX…断面の中心を通る中心軸
Tc…ローラの中心(自転軸)の公転軌道
Te…ローラの最内端の公転軌道