IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用制振制御装置 図1
  • 特許-車両用制振制御装置 図2
  • 特許-車両用制振制御装置 図3
  • 特許-車両用制振制御装置 図4
  • 特許-車両用制振制御装置 図5
  • 特許-車両用制振制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】車両用制振制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20240213BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240213BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20240213BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20240213BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240213BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20240213BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240213BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240213BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60W20/17 ZHV
B60W20/20
B60K6/48
B60K6/54
B60L50/16
B60L15/20 J
F16D48/02 640S
F16D48/02 640Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020058939
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154944
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮分 良太
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-058453(JP,A)
【文献】特開2012-076537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60W 10/06
B60W 20/17
B60W 20/20
B60K 6/48
B60K 6/54
B60L 50/16
B60L 15/20
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び電動機の少なくとも一方から出力された動力を駆動輪に伝達することにより走行する車両の車両用制振制御装置であって、
前記内燃機関と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、
前記電動機に対してトルク指令値を出力するトルク指令部と、
前記車両の走行モードとして、前記クラッチを解放して前記電動機の動力により走行する第1の走行モードと、前記クラッチを係合して少なくとも前記内燃機関の動力により走行する第2の走行モードとを有し、前記クラッチの解放又は係合を制御する制御部と、
前記車両の走行モードが前記第1の走行モードである場合に、前記電動機のトルク指令値を補正することにより前記動力伝達経路における振動を抑制する制振制御を実行する制振制御部と、を備え、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードに切り替える条件が成立すると、前記内燃機関が完爆後であって前記クラッチの係合開始前に、前記制振制御が中止されることを特徴とする車両用制振制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制振制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、係合装置の係合状態に応じて内燃機関に選択的に駆動連結されるとともに、動力伝達機構を介して車輪に駆動連結される回転電機の制御を行うための制御装置であって、係合装置の係合状態が直結係合状態である場合には、直結用制振制御器により制振制御を実行し、係合装置の係合状態が非直結係合状態である場合には、非直結用制振制御器により制振制御を実行して、動力伝達系の捩れ振動を抑制する制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-76537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置にあっては、係合装置の係合状態が非直結係合状態から直結係合状態になるまでの間も非直結用制振制御器により制振制御が実行される。この直結係合状態になるまでの間は、内燃機関と回転電機とが係合装置を介して徐々に接続される状態である。
【0005】
このため、上述のように、係合装置の係合状態が非直結係合状態から直結係合状態になるまでの間も制振制御を行うと、動力伝達経路の共振周波数も変化し、制振制御が複雑となってしまう。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、制御を複雑化させることなく簡易かつ正確に制振制御を実行することができる車両用制振制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、内燃機関及び電動機の少なくとも一方から出力された動力を駆動輪に伝達することにより走行する車両の車両用制振制御装置であって、前記内燃機関と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記電動機に対してトルク指令値を出力するトルク指令部と、前記車両の走行モードとして、前記クラッチを解放して前記電動機の動力により走行する第1の走行モードと、前記クラッチを係合して少なくとも前記内燃機関の動力により走行する第2の走行モードとを有し、前記クラッチの解放又は係合を制御する制御部と、前記車両の走行モードが前記第1の走行モードである場合に、前記電動機のトルク指令値を補正することにより前記動力伝達経路における振動を抑制する制振制御を実行する制振制御部と、を備え、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードに切り替える条件が成立すると、前記内燃機関が完爆後であって前記クラッチの係合開始前に、前記制振制御が中止される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制御を複雑化させることなく簡易かつ正確に制振制御を実行することができる車両用制振制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置によって実行される制振制御の概要を説明する図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置を搭載した車両の内燃機関の状態に応じた捩り共振周波数と振動レベルの関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置によって実行される制振制御実行判定処理の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置によって実行される制振制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置における制振制御の実行状態切替時の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両用制振制御装置は、内燃機関及び電動機の少なくとも一方から出力された動力を駆動輪に伝達することにより走行する車両の車両用制振制御装置であって、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、電動機に対してトルク指令値を出力するトルク指令部と、車両の走行モードとして、クラッチを解放して電動機の動力により走行する第1の走行モードと、クラッチを係合して少なくとも内燃機関の動力により走行する第2の走行モードとを有し、クラッチの解放又は係合を制御する制御部と、車両の走行モードが第1の走行モードである場合に、電動機のトルク指令値を補正することにより動力伝達経路における振動を抑制する制振制御を実行する制振制御部と、を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用制振制御装置は、制御を複雑化させることなく簡易かつ正確に制振制御を実行することができる。
【実施例
【0011】
以下、本発明の一実施例に係る車両用制振制御装置について図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施例に係る車両用制振制御装置を搭載した車両100は、内燃機関1と、電動機としての駆動モータ2と、変速機3と、駆動輪4と、ハイブリッドコントローラ5とを含んで構成されている。
【0013】
車両100は、内燃機関1及び駆動モータ2の少なくとも一方から出力された動力を、変速機3を介して駆動輪4に伝達することにより走行する、いわゆるハイブリッド車である。
【0014】
内燃機関1は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うとともに、圧縮行程及び膨張行程の間に図示しない点火装置によって点火を行う4サイクルのガソリンエンジンによって構成されている。内燃機関1は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンで構成されてもよい。
【0015】
駆動モータ2は、高電圧バッテリ21から供給される電力によって機械力である駆動力を生成するとともに、変速機3側から入力される機械力によって駆動されることにより電力を生成、すなわち発電を行う。駆動モータ2で発電された電力は、高電圧バッテリ21に蓄えられる。駆動モータ2には、駆動モータ2のモータ回転数Nmを検出する回転数センサ20が設けられている。回転数センサ20は、検出したモータ回転数Nmを示す信号をインバータ22の制振制御部40に出力する。
【0016】
また、駆動モータ2には、インバータ22が接続されている。インバータ22は、高電圧バッテリ21と駆動モータ2との間における電力の授受を制御する。インバータ22は、ハイブリッドコントローラ5から入力されるトルク指令値に基づき、高電圧バッテリ21から駆動モータ2に供給する駆動電力を制御する。
【0017】
また、インバータ22は、車両100の振動又は騒音を抑制するためにハイブリッドコントローラ5から入力された、駆動モータ2に対するトルク指令値を補正する制振制御を実行する制振制御部40を有する。
【0018】
制振制御部40は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0019】
制振制御部40のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制振制御部40として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、制振制御部40において、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、制振制御部40として機能する。制振制御部40は、ハイブリッドコントローラ5に接続され、相互にデータのやりとりを行う。
【0020】
変速機3は、減速機31と、変速機構32と、クラッチ33と、動力伝達機構34とを含んで構成されている。減速機31は、動力伝達機構34に常時接続されており、駆動モータ2から出力される駆動力を駆動輪4に伝達する。減速機31は、車両100の減速時等には、駆動輪4の回転を駆動モータ2に伝達可能となっている。
【0021】
変速機構32は、クラッチ33を介して内燃機関1と接続されており、クラッチ係合時には、内燃機関1から出力された回転を所定の変速比で変速した後、動力伝達機構34を介して駆動輪4に出力する。
【0022】
クラッチ33は、内燃機関1と駆動輪4との間の動力伝達経路、より詳しくは内燃機関1と変速機構32との間の動力伝達経路に設けられている。クラッチ33は、図示しないクラッチアクチュエータにより、係合と解放とを切り替えるクラッチ操作を自動で行うよう構成されている。クラッチアクチュエータは、ハイブリッドコントローラ5によってその駆動状態が制御される。
【0023】
クラッチ33は、係合された場合には、内燃機関1の駆動力を変速機構32に伝達する。クラッチ33は、解放された場合には、内燃機関1と変速機構32との間における動力の伝達を遮断する。
【0024】
内燃機関1と駆動輪4との間の動力伝達経路上であって、クラッチ33よりも内燃機関1側には、内燃機関1を始動する始動装置11が設けられている。本実施例では、始動装置11は、内燃機関1にベルトやチェーンなどの動力伝達部材を介して連結されている。始動装置11としては、例えばスタータやISG(Integrated Starter Generator)を用いることができる。
【0025】
動力伝達機構34は、例えば遊星歯車機構等によって構成され、駆動モータ2から出力された駆動力と、内燃機関1から出力された駆動力とを合成して、駆動輪4に出力するものである。
【0026】
また、変速機3は、クラッチ33が解放又は係合のいずれの状態にあるかを検出するクラッチセンサ36と、変速機構32において成立している変速段を検出する変速段検出部37とを、さらに備えている。クラッチセンサ36は、クラッチ33が解放又は係合のいずれの状態にあるかを示す信号をクラッチ係合情報としてインバータ22の制振制御部40に出力する。
【0027】
変速段検出部37は、例えば車速やスロットル開度等に基づき変速マップを参照することにより現在の変速段を検出する構成であってもよいし、変速機構32の変速段を検出する変速段検出センサによって構成されていてもよい。変速段検出部37は、変速機構32の変速段を示す信号を変速段情報としてインバータ22の制振制御部40に出力する。
【0028】
ハイブリッドコントローラ5は、CPUと、RAMと、ROMと、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0029】
ハイブリッドコントローラ5のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをハイブリッドコントローラ5として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、ハイブリッドコントローラ5において、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、ハイブリッドコントローラ5として機能する。
【0030】
また、ハイブリッドコントローラ5は、アクセル開度やスロットル開度、車速等に基づき、車両100の要求駆動力を算出し、算出した要求駆動力を満たすように内燃機関1及び駆動モータ2を制御する。
【0031】
具体的には、ハイブリッドコントローラ5は、要求駆動力に基づき、内燃機関1又は駆動モータ2に対してトルク指令値を出力する。また、ハイブリッドコントローラ5は、例えば駆動モータ2によるアシストが必要な場合等には、内燃機関1及び駆動モータ2の双方に対してトルク指令値を出力する。このように、ハイブリッドコントローラ5は、内燃機関1及び駆動モータ2のいずれか、又は双方にトルク指令値を出力するトルク指令部50としての機能を有する。
【0032】
また、ハイブリッドコントローラ5は、車両100の走行モードとして、クラッチ33を解放して駆動モータ2の動力により走行する第1の走行モードと、クラッチ33を係合して少なくとも内燃機関1の動力により走行する第2の走行モードとを有する。第1の走行モードでは、第1の走行モード中に始動要求があった場合を除いて、内燃機関1を停止する。
【0033】
また、ハイブリッドコントローラ5は、図示しないクラッチアクチュエータを制御することによりクラッチ33の係合又は解放を制御する制御部51としての機能を有する。
【0034】
次に、図2から図4を参照して、制振制御部40によって実行される制振制御について説明する。
【0035】
図2は、制振制御の概要を説明するために主要な構成をブロック図で示したものである。図2に示すように、制振制御部40は、フィルタ41と、補正トルク算出部43とを含んで構成されている。
【0036】
フィルタ41は、駆動モータ2の振動又は騒音を示す信号を抽出するものであり、例えば特定の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタによって構成されている。具体的には、フィルタ41は、駆動モータ2の回転数センサ20から入力されるモータ回転数Nmに基づく周波数成分のうち、車両100に有害な振動又は騒音を示す周波数成分を特定の周波数成分として抽出する。
【0037】
ここで、車両100の動力伝達経路における捩り共振周波数は、クラッチ33の解放又は係合の状態に応じて変化する。ここで捩り共振周波数とは、動力伝達経路の捩り振動に基づく共振が発生する周波数を指す。動力伝達経路は内燃機関1や駆動モータ2等の駆動源からのトルクを受け、捩り振動が発生する。この動力伝達経路の捩り振動の周波数と駆動源のトルク変動の周波数とが一致すると共振が発生する。例えば、図3に示すように、クラッチ33の解放時の捩り共振周波数を「f1」とすると、クラッチ33の係合時の捩り共振周波数は「f2」へと大きく変化する。このような捩り共振周波数の変化は、クラッチ33が係合しているか、解放しているかによって動力伝達経路に対して内燃機関1が接続されるか非接続されるかにより、動力伝達経路における捩り共振周波数が変化するためと考えられる。
【0038】
また、振動レベルについても、クラッチ33の解放時と係合時とでは大きく異なり、捩り共振周波数f1のときの振動レベルに対して、捩り共振周波数f2のときの振動レベルが低い。これは、駆動源のトルク変動の周波数が低い程、その振動振幅が大きくなるためと考えられる。
【0039】
このように、クラッチ33が係合している第2の走行モードよりもクラッチ33が解放している第1の走行モードの方が、車両100の動力伝達経路における捩り共振周波数が低く、かつ振動レベルが大きい。
【0040】
そこで、本実施例では、車両100の走行モードが第1の走行モードである場合に、駆動モータ2のトルク指令値を補正することにより車両100の動力伝達経路における振動を抑制する制振制御を実行するものとした。
【0041】
図2に示すように、補正トルク算出部43は、フィルタ41で抽出された特定の周波数成分に補正ゲインを乗算することにより、車両100に有害な振動又は騒音を示す周波数成分を打ち消すための補正トルクを算出する。
【0042】
制振制御部40は、補正トルク算出部43によって算出された補正トルクをトルク指令値にフィードバックする。これにより、駆動モータ2に対するトルク指令値が補正される。このように、制振制御部40は、フィルタ41によって抽出された特定の周波数成分に基づき、ハイブリッドコントローラ5から出力されるトルク指令値を補正する。インバータ22は、補正後のトルク指令値に基づき駆動モータ2に対する駆動電力を制御する。
【0043】
次に、図4を参照して、制振制御部40によって実行される制振制御実行判定処理の流れについて説明する。この制振制御実行判定処理は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0044】
図4に示すように、制振制御部40は、ハイブリッドコントローラ5から得られる情報に基づき、内燃機関1が停止しているか否かを判定する(ステップS1)。制振制御部40は、ステップS1において内燃機関1が停止していないと判定した場合には、今回の本制振制御実行判定処理を終了する。
【0045】
制振制御部40は、ステップS1において内燃機関1が停止していると判定した場合には、ハイブリッドコントローラ5から得られる情報に基づき、クラッチ33が解放されているか否かを判定する(ステップS2)。制振制御部40は、ステップS2においてクラッチ33が解放されていないと判定した場合には、今回の本制振制御実行判定処理を終了する。
【0046】
制振制御部40は、ステップS2においてクラッチ33が解放されていると判定した場合には、制振制御を実行して(ステップS3)、今回の本制振制御実行判定処理を終了する。なお、ステップS3移行時に既に制振制御が実行されている場合には、ステップS3においては制振制御の実行が維持される。
【0047】
ここで、車両100の走行モードが第1の走行モードから第2の走行モードに移行する場合には、クラッチ33の係合開始前に、制御部51によって始動装置11を介して内燃機関1が始動される。さらに、クラッチ33は、内燃機関1の始動後、内燃機関1が完爆に至った場合に、係合が開始される。これにより、クラッチ33は、内燃機関1の完爆後に係合することとなる。なお、内燃機関1の完爆とは、始動装置11による内燃機関1の始動後であって、始動装置11の補助なく内燃機関1の自立回転が可能となった状態を指す。
【0048】
制振制御は、車両100の走行モードが第1の走行モードから第2の走行モードに移行する場合には中止される。より詳細には、車両100の走行モードが第1の走行モードから第2の走行モードに移行する場合には上述の通り内燃機関1の完爆に至った場合にクラッチ33の係合が開始されるが、制振制御は内燃機関1の完爆に至った場合であってクラッチ33の係合開始前に中止される。
【0049】
次に、図5を参照して、図4のステップS3にて実行される制振制御部40による制振制御の処理の流れについて説明する。
【0050】
図5に示すように、制振制御部40は、回転数センサ20からモータ回転数Nmを取得する(ステップS11)。その後、制振制御部40は、フィルタ41を介して、モータ回転数Nmに基づく周波数成分のうち、車両100に有害な振動又は騒音を示す周波数成分を特定の周波数成分として抽出する(ステップS12)。
【0051】
次いで、制振制御部40は、ステップS12で抽出した特定の周波数成分に対して補正ゲインを乗算することによって補正トルクを算出する(ステップS13)。その後、制振制御部40は、ステップS13で算出した補正トルクに基づき、ハイブリッドコントローラ5から出力される、駆動モータ2のトルク指令値を補正して(ステップS14)、制振制御を終了する。
【0052】
ここで、制振制御部40は、例えば車両100の要求駆動力が小さくなって車両100の走行モードを第2の走行モードから第1の走行モードに移行するような場合には、係合中のクラッチ33が解放されたら制振制御を再開する。
【0053】
次に、図6のタイミングチャートを参照して、制振制御の実行状態切替時の一例について説明する。
【0054】
図6に示すように、時刻t0においては、車両100の走行モードが第1の走行モードであり、クラッチ33が解放され、かつ内燃機関1が停止した状態である。このとき、制振制御は、ON、すなわち実行されている。
【0055】
その後、車両100の走行モードを第1の走行モードから第2の走行モードに切り替える条件が成立すると、内燃機関1が始動され、これに伴い内燃機関1の回転数が徐々に上昇する。
【0056】
次いで、時刻t1において、内燃機関1の回転数が完爆と判定する回転数まで達すると、その直後に制振制御がOFF、すなわち制振制御が中止される。
【0057】
その後、時刻t2において、クラッチ33が解放から半係合に移行し、クラッチ33の係合が開始される。このように、制振制御は内燃機関1の完爆後(図6中、時刻t1後)であってクラッチ33の係合開始前(図6中、時刻t2前)に中止される。クラッチ33の半係合とは、フライホイールに対してクラッチ板がスリップした状態で係合している状態をいう。その後、時刻t3において、クラッチ33が係合する。
【0058】
以上のように、本実施例に係る車両用制振制御装置は、車両100の走行モードが第1の走行モードである場合に、駆動モータ2のトルク指令値を補正することにより動力伝達経路における振動を抑制する制振制御を実行するので、駆動モータ2の振動に起因した動力伝達経路における共振を抑制することができる。
【0059】
このように、本実施例に係る車両用制振制御装置は、駆動モータ2の振動に起因した動力伝達経路における共振を抑制するだけでよいので、制御を複雑化させることなく簡易かつ正確に制振制御を実行することができる。
【0060】
また、本実施例に係る車両用制振制御装置は、第1の走行モードから第2の走行モードに移行する場合には、クラッチ33の係合開始前に、内燃機関1を始動させ、かつ制振制御を中止するよう構成されている。
【0061】
このため、本実施例に係る車両用制振制御装置は、クラッチ33の係合開始に伴い動力伝達経路の捩り共振周波数が変化する前に制振制御を中止できる。例えば、内燃機関1の振動が影響して動力伝達経路の捩り共振周波数が変化するような場合に制振制御を行うと、制振制御を行うことで内燃機関1の振動等の駆動モータ2以外に起因した外乱によってかえって振動が発生するおそれがある。本実施例の車両用制振制御装置によれば、上述のように動力伝達経路の捩り共振周波数が変化する前に制振制御を中止できるので、制振制御による不要な振動が発生することを抑制することができる。
【0062】
また、本実施例に係る車両用制振制御装置は、内燃機関1の完爆に至った場合にクラッチ33を係合するので、上述の通りクラッチ33の係合開始に伴い動力伝達経路の捩り共振周波数が変化する前に制振制御を中止できる。
【0063】
また、本実施例に係る車両用制振制御装置は、係合中のクラッチ33が解放されたら制振制御を実行する、すなわち再開するので、不要な制振制御の実行を抑制しつつ、制振制御が有効な場合に制振制御を実行することができる。
【0064】
なお、本実施の形態では、フィルタ41としてバンドパスフィルタを用いたが、これに限らず、フィルタ41としてハイパスフィルタを用いてもよい。
【0065】
上述の通り、本発明の実施の形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0066】
1 内燃機関
2 駆動モータ(電動機)
3 変速機
4 駆動輪
5 ハイブリッドコントローラ
11 始動装置
20 回転数センサ
33 クラッチ
36 クラッチセンサ
40 制振制御部
41 フィルタ
43 補正トルク算出部
50 トルク指令部
51 制御部
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6